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明細書 :水素生成触媒及び水素の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6143761号 (P6143761)
登録日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
発明の名称または考案の名称 水素生成触媒及び水素の製造法
国際特許分類 B01J  23/58        (2006.01)
B01J  23/78        (2006.01)
B01J  37/10        (2006.01)
B01J  37/18        (2006.01)
C01B   3/04        (2006.01)
FI B01J 23/58 M
B01J 23/78 M
B01J 37/10
B01J 37/18
C01B 3/04 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願2014-536695 (P2014-536695)
出願日 平成25年8月20日(2013.8.20)
国際出願番号 PCT/JP2013/072182
国際公開番号 WO2014/045780
国際公開日 平成26年3月27日(2014.3.27)
優先権出願番号 2012207548
優先日 平成24年9月20日(2012.9.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年7月8日(2016.7.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】林 文隆
【氏名】横山 壽治
【氏名】戸田 喜丈
【氏名】原 亨和
【氏名】北野 政明
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査官 【審査官】佐藤 哲
参考文献・文献 国際公開第2012/077658(WO,A1)
国際公開第03/089373(WO,A1)
調査した分野 B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
1015cm-3以上の伝導電子又は水素陰イオンを内包するマイエナイト型化合物を担体
とし、その担体表面に触媒活性金属粒子が担持されていることを特徴とする水素生成触媒

【請求項2】
1015cm-3以上の伝導電子又は水素陰イオンを内包させる前の酸素イオンを内包する
マイエナイト型化合物を担体とし、その担体表面に触媒活性金属粒子が担持されているこ
とを特徴とする水素生成触媒。
【請求項3】
前記触媒活性金属が、8族、9族及び10族金属元素から選ばれる少なくとも1種であ
ることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素生成触媒。
【請求項4】
前記担体は、マイエナイト型化合物粉末又は成型体であり、かつ触媒活性金属粒子量が
0.01~30wt%、BET比表面積が1~100m2-1であることを特徴とする請
求項1~3のいずれか一項に記載の水素生成触媒。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水素生成触媒の製造方法であって、
前記担体に触媒活性金属の化合物を含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、又は蒸着
法により担持させた後、還元雰囲気中で加熱して該触媒活性金属の化合物を還元して前記
担体表面に触媒活性金属粒子を担持させるか、スパッタリングにより直接担持させる工程
からなることを特徴とする水素生成触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の含浸法は、担体に用いるマイエナイト型化合物粉末又は成型体を触媒
活性金属の化合物の溶媒溶液に分散する工程、該溶媒溶液の溶媒を蒸発させて乾固した該
触媒活性金属の化合物からなる触媒前駆体を形成する工程からなることを特徴とする水素
生成触媒の製造方法。
【請求項7】
マイエナイト型化合物粉末は、水熱法により合成されたものであることを特徴とする請
求項6に記載の水素生成触媒の製造方法。
【請求項8】
アンモニア分解による水素の製造方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の水素生成触媒を反応器に充填し、体積分率0.1~
100%のアンモニアガスを連続的に供給し、0.01MPa~1.0MPaの反応圧力
及び300~800℃の反応温度下、重量空間速度(WHSV)500/mlg-1-1
上で接触分解反応させることを特徴とする水素の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成触媒及びこの触媒によるアンモニアからの水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは臭気性を有するため、各種排ガスに含有されるアンモニアを環境中に排出する際には無害化することが必要であり、例えば、酸素とアンモニアとを接触させて酸化分解する方法、アンモニアを水素へ直接分解する方法等が提案されている。アンモニアの分解反応は工業的にはステンレス鋼、ニッケル鋼等の光輝焼鈍等に使用される窒素と水素からなる雰囲気ガスの製造に利用されている。
【0003】
また、近年、水素をクリーンエネルギー源として用いることが環境保護の観点から注目されており、例えば、有機性廃棄物から生じるアンモニアから水素を回収する方法や、水素を燃料とする燃料電池車の開発が活発に行われている。水素はクリーンエネルギーとして好ましいものの、貯蔵するために大きな体積が必要とされるため、特に自動用の燃料電池の原料として使用する場合には燃料電池への水素の供給方法が課題とされてきた。この課題を解決する方法として、液体アンモニアとして水素を貯蔵して、気化したアンモニアの接触分解により水素を製造する方法が最近注目されている。
【0004】
アンモニアの分解反応は、2NH3→3H2+N2で示される体積膨張型の吸熱反応であるから、反応圧力が低く、反応温度が高い方が反応平衡上有利である。アンモニアの熱分解は800℃以上、望ましくは1000℃以上の高温が必要であるが、触媒を使用した接触分解では300~700℃の反応温度で分解が可能となる。
アンモニア合成用触媒を、アンモニア分解反応に使用することが考えられるが、下記二つの理由より、アンモニア合成とは基本的に異なるため、アンモニア分解用触媒の開発が必要とされている。一つ目に、アンモニア合成反応は平衡の関係で、300℃~500℃、30MPaといった、低温、高圧条件が好ましいのに対し、逆反応のアンモニア分解反応は、低圧、高温反応条件が好ましい。二つ目に、アンモニア合成では、窒素分子の活性化が反応の律速過程であるが、分解反応では、アンモニア分解で生じた触媒表面上の窒素吸着種の脱離が律速段階であるとされている。
【0005】
アンモニアの接触分解の最適触媒金属は、ルテニウム(Ru)であり、例えば、コークス炉から回収したアンモニアを400~500℃の中温、大気圧下で水素と窒素に分解するのに適した触媒として、アルミナに担持したRuに塩基性化合物を添加した触媒を用いる方法(特許文献1)、α-アルミナにRuを担持させてなる比表面積が8.5~100m2/gの触媒を300~800℃の反応温度で用いる方法(特許文献2)、原料混合物を1000℃以上の高温で焼成して形成した、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物のAサイト又はBサイトの一部をRu等の触媒活性金属で置換した触媒を反応温度400~900℃で用いる方法(特許文献3)、等が提案されている。
【0006】
さらに、セリア、ジルコニア、イットリア、酸化ランタン、アルミナ、マグネシア、酸化タングステン及びチタニアよりなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物に鉄族金属の化合物を担持させた後に前記化合物を還元処理した、鉄族金属を活性金属とする触媒を180~950℃の反応温度で用いる方法(特許文献4)、セリアとアルミナ、必要に応じてジルコニアを含有する複合酸化物からなる担体に長周期型周期表の8族~10族に属する少なくとも1種の金属元素を担持させた触媒を150~650℃の反応温度で用いる方法(特許文献5)、Ni、Cu、又はZnの金属成分とカルシアとアルミナから成るアルミナセメントとを複合化した触媒を用いる方法(非特許文献1)等も提案されている。しかし、当該方法の触媒においては、Niとアルミナは反応しやすく、NiO-Al23の固溶体が生成するために、マイエナイト型構造は得られない。
【0007】
液体アンモニアを分解して生成した水素を燃料電池に供給する水素発生装置においては、できるだけ低い反応温度で高い転化率で高純度の水素を生成できる水素生成触媒の使用が望ましい。特許文献6に、反応の開始又は停止が繰り返される燃料電池自動車用のアンモニア分解反応の場合に、安定した性能を発現する水素生成触媒として、Pt、Rh、Pd、Ru等の貴金属触媒が好ましいこと、が開示されている。
【0008】
また、特許文献7においては、Niに基づく水素生成触媒は、好ましい触媒であるが、Ruに基づく触媒と同様の転換効率を達成するためにより長い接触時間を必要とし、Ruに基づく触媒は、Niに基づく触媒の十分の一の接触時間でよいこと、他の望ましいアンモニア分解触媒としては、Fe、Rh、Ir、Pd、Pt及びRe触媒又はこれらの元素を含む化合物が挙げられること、が開示されている。
【0009】
特許文献8には、La、Ni、Co、及びFeを含有する複合酸化物粒子の表面にNa金属若しくはK金属、又はNa化合物若しくはK化合物が存在するアンモニア分解触媒が高い転化率で、アンモニアから水素と窒素を効率的に製造する触媒として適すること、が開示されている。
【0010】
一方、CaO、Al23、及びSiO2を構成成分とするアルミノケイ酸カルシウム中に、鉱物名をマイエナイトと呼ぶ物質があり、その結晶と同型の結晶構造を有する化合物を「マイエナイト型化合物」という。マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al23(以下、「C12A7」と記す)なる代表組成を有し、C12A7結晶は、2分子を含む単位胞にある66個の酸素イオンの内の2個が、結晶骨格で形成されるケージ内の空間に「フリー酸素」として包接されているという、特異な結晶構造(空間群I4-3d)を持つことが報告されている(化学式で、[Ca24Al2864]4+(O2-2(以下、「C12A7:O」と記す)(非特許文献2)。
【0011】
マイエナイト型化合物は、上記の代表組成の式を構成するCaの一部又は全てがLi、Na、K、Mg、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ir、Ru、Rh、Ptからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型金属元素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。また、上記の代表組成の式を構成するAlの一部又は全てがB、Ga、C、Si、Fe、Geからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型金属元素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。さらに、上記の代表組成の式を構成するOの一部又は全てがH、F、Cl、Br、Auからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型元素又は金属元素で置換されていてもよい。
【0012】
2003年以降、このフリー酸素イオンが種々の陰イオンで置換できることが本発明者らにより明らかにされた。特に、強い還元雰囲気にC12A7を保持すると、全てのフリー酸素イオンを電子で置換することができる。フリー酸素イオンを電子で置換したC12A7は、化学式で、[Ca24Al2864]4+(e-4(以下、「C12A7:e-」と記すこともある)と記すことができる。
【0013】
このように、陰イオンに対し電子が置き換わった物質をエレクトライドと呼び、エレクトライドは良好な電子伝導特性を示す特徴を有する(非特許文献3、特許文献9)。また、前記ケージ中の電子は容易に気相中の水素と反応し、水素陰イオン(ハイドライド)としてC12A7に取り込む性質を持つ(非特許文献4)。あるいは、CaとCa(OH)2やCaH2等を還元剤として用いてC12A7を還元すれば、水素陰イオン包接C12A7は容易に合成できる(非特許文献5)。C12A7に取り込まれた水素陰イオンは光照射や加熱等により、水素を放出しエレクトライドに戻る(非特許文献4)。
【0014】
水素陰イオン(H-,H2-)を濃度1×1018cm-3以上含むマイエナイト型化合物及びその製造方法が報告されているが(特許文献10~12、非特許文献5)、水素陰イオン包接C12A7の応用例は殆ど知られていない。
【0015】
本発明者らは、導電性マイエナイト型化合物に、RuやFe等の金属を担持したアンモニア合成反応の触媒及びこの触媒を用いて室温から600℃以下の反応温度、10kPa~20MPaの反応圧力条件で、アンモニアを合成する方法に関する発明(特許文献13)及び導電性マイエナイト型化合物を用いて二酸化炭素を一酸化炭素に還元する方法に関する発明(特許文献14)について特許出願した。
【0016】
なお、C12A7は、導電性を有しないものでも触媒や触媒担体としての用途を有し、例えば、原料の錯体溶液を噴霧乾燥後1300~1400℃で2時間以上仮焼して得られた触媒を軟質オレフィン生成用の水蒸気分解反応触媒として使用することが知られている(特許文献15)。最近では、水熱法やゾルーゲル法で前駆体を合成後、焼成する方法により高比表面積のC12A7粉末を得る方法が提案されている(非特許文献6,7)。
【先行技術文献】
【0017】

【特許文献1】特開平01-119341号公報
【特許文献2】特開平08-084910号(特許第3688314号)公報
【特許文献3】特開2010-110697号公報
【特許文献4】特開2010-094668号公報
【特許文献5】特開2010-207783号公報
【特許文献6】特開2003-040602号公報
【特許文献7】特表2008-536795号(特許第4990267号)公報
【特許文献8】特開2012-161713号公報
【特許文献9】WO2005/000741
【特許文献10】WO2003/089373
【特許文献11】特開2012-101945公報
【特許文献12】WO2008/087774
【特許文献13】WO2012/077658
【特許文献14】特開2012-025636号公報
【特許文献15】米国特許第6,696,614号明細書
【0018】

【非特許文献1】V.I.Yakerso and E.Z.Golosman,"Studies in surface science and catalysis",91、879(1995)
【非特許文献2】Von Hans Bartl und Thomas Scheller,"N.Jahrbuch F.Mineralogie.Monatshefte ",35,547-552,(1970)
【非特許文献3】S.Matsuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Tanaka and H.Hosono,"Science",301,626-629,(2003)
【非特許文献4】K.Hayashi,P.V.Sushko,A.L.Shluger,M.Hirano,and H.Hosono,"Journal of Physical Chemistry B",109,23886-23842,(2005)
【非特許文献5】K.Hayashi,"Journal of Solid State Chemistry",184,1428-1432,(2011)
【非特許文献6】L.Gong,Z.Lin,S.Ning,J.Sun,J.Shen,Y.Torimoto and Q.Li,"Material Letters",64,1322-1324,(2010)
【非特許文献7】C.Li,D.Hirabayashi and K.Suzuki,"Materials Research Bulletin",46,1307-1310,(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
半導体製造装置、LCD製造装置等からの排ガスには高濃度のアンモニアが含有されている。また、屋内の便所付近等では、空気中に例えば、数~数十ppm程度の低い体積分率のアンモニアが含有されている。このように、排ガス中や環境中の高濃度から低濃度のアンモニアに適用して効率のよいアンモニア分解触媒が求められている。
【0020】
さらに、有機性廃棄物から発生するアンモニアを分解して生成する水素をエネルギー源として用いることや、液体アンモニアとして水素をボンベ等に貯蔵し、気化させたアンモニアガスを分解して発生させた水素を燃料電池に用いる方法も提案されている。このように、アンモニアの分解により生成する水素を使用する場合は生成ガス中の不純物が少ないことが求められる。特に、自動車の燃料電池の原料として液体アンモニアから水素を製造する場合、装置の耐熱性の問題やH2/N2生成物中の残留アンモニアを低減して高純度の水素を生成させるため、比較的低温でかつ、高い空間速度で効率よくアンモニアを分解して水素に転化する水素生成触媒が求められている。
【0021】
アンモニア分解触媒の担体としては、従来、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア等の融点が2000℃程度以上の耐熱セラミックスが用いられているが、800℃以上の高温環境下の分解反応では担体や担持された金属が凝集して触媒活性が低下するという問題があり、また、比較的低温での分解反応では高濃度のアンモニア原料の場合、NH3転化率が低いという問題があった。
【0022】
本発明は、アンモニアを水素と窒素に分解するための水素生成触媒として高性能でかつ安価であり、資源の観点からも有利な担持金属触媒と、この担持金属触媒を用いた効率的なアンモニアの分解による水素製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、酸素イオン、又は1015cm-3以上の伝導電子若しくは水素陰イオンを含むマイエナイト型化合物からなる基材をアンモニア分解触媒の担体とした担持金属触媒が、高いアンモニア分解効率を有し、例えばアルミナを担体とした場合に比べて2倍以上のNH3転化率が得られることを見出した。
【0024】
本発明では、アンモニアガスを接触分解して水素を生成させる水素生成触媒を用い、0.1%の低体積分率から、20%以上から100%までの高体積分率のアンモニアを、比較的低い分解反応温度であっても高い転化率でアンモニアを分解することができる。バランスガスの種類は特に限定されず、バランスガスとして、窒素やHe、Arなどの不活性ガスや分解反応に影響を及ぼさない酸素や還元性ガスを含んでも構わない。
【0025】
本発明は、アンモニアガスを接触分解して水素を生成させるための触媒に関するもので、酸素イオン、又は1015cm-3以上の伝導電子若しくは水素陰イオンを含むマイエナイト型化合物の粉末又は成型体を基材とし、基材の表面にアンモニア分解用触媒金属粒子が付着していることを特徴とするアンモニア分解による水素生成触媒、及び該触媒を用いてアンモニア分解反応により水素を製造する方法に関する。
【0026】
C12A7に代表される酸素イオン、又は、1015cm-3未満の伝導電子若しくは水素陰イオンを含むマイエナイト化合物は高い分解活性を示すが、より多量の伝導電子又は水素陰イオンを含むマイエナイト化合物ほどアンモニア分解効率が高くなる。さらに、本発明の担持金属触媒において、マイエナイト化合物は、1015cm-3以上、より好ましくは1017cm-3以上の伝導電子又は水素陰イオンを含むものであり、1018cm-3以上の伝導電子又は水素陰イオンを含むものがさらに好ましい。これらのマイエナイト型化合物は、[背景技術]に記載した公知の方法を用いて製造可能であり、本発明ではこれらの方法で得られた該化合物を適宜使用できる。
【0027】
本発明の水素生成触媒において、触媒活性金属は、長周期族周期表の8族、9族及び10族金属元素から選ばれる少なくとも1種である。従来のアンモニア分解反応では、酸化物等の担体に触媒活性金属を担持した触媒は、通常、一度、水素等で還元処理してからアンモニア分解反応に使用される。本発明の水素生成触媒も、同様に還元処理してから使用することが好ましいが、その還元処理過程でマイエナイト化合物のケージ中の電子が水素と反応し水素陰イオン(ハイドライド)として包接されたとしてもかまわない。
【0028】
遷移金属の元素は均一系・不均一系の触媒成分として各種触媒反応に使用されている。一般に、Fe、Ru、Os、Co、Mo等の6族、8族又は9族遷移金属は水素と窒素との直接反応によりアンモニアを合成する触媒として適することが知られている。また、Ru、Ni等の8族及び10族遷移金属は、アンモニア分解に対しても活性を示すことが報告されている。研究者間では、アンモニア合成の律速過程は三重結合をもつ窒素分子の解離であることが受け入れられているのに対し、分解の律速過程はN-H結合が切断する過程とN原子が再結合する過程が提案されている。このように、両反応は右向きと左向きの反応の関係にあるが、律速過程は全く異なる。したがって、マイエナイト型化合物担持触媒がアンモニアガスを接触分解して水素を生成させるための触媒において有効であるどうかは、容易に判断がつかない。
【0029】
導電性マイエナイト型化合物を基材とし、その表面に触媒活性金属粒子が付着して担持された担体粉末又は成型体は、担持工程後も当初と同程度の電子を包接しており、担体として仕事関数が小さいので触媒活性金属粒子への電子供与能が大きい。水素陰イオンでも同様のことが期待される。
【0030】
本発明の水素生成触媒が高い転化率を奏する機構は解明されてはいないが、高活性を与えた要因として、(1)ケージ中の電子又は水素陰イオンがRu等の活性金属粒子の電子状態に変化を与え、アンモニアの活性化を促進しているか、又は(2)電子又は水素陰イオンが保持されているケージが、反応中間体(例えば、NH2-やH-等)の貯蔵庫として機能しRu等の活性サイトの被毒を防いでいること等が現時点で考えられる。この電子又は水素陰イオンの供与性及び貯蔵性という二つの機能により、アンモニア分解速度が向上したと理解される。このような特異な機能をもつ基材は従来の担体の概念を超えたものであるといえる。
【0031】
この担持金属触媒は、含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、又は蒸着法等の方法を用いて製造できる。はじめに、金属成分原料として触媒活性金属の化合物を前記各方法によりマイエナイト型化合物基材に担持又は混合し、触媒前駆体を得る。次いで、得られた前駆体を還元雰囲気中で加熱し該触媒活性金属の化合物を触媒活性金属粒子に還元して基材表面に付着させることで製造される。スパッタリング法で直接触媒活性金属粒子を基材の表面に形成してもよい。
【0032】
含浸法は、基材としてマイエナイト型化合物粉末又は成型体を触媒活性金属の化合物の溶媒溶液に分散するか浸漬する工程、該溶媒溶液の溶媒を蒸発させて乾固した該触媒活性金属の化合物からなる触媒前駆体を基材の表面に形成する工程、還元雰囲気中で加熱して該触媒活性金属の化合物を還元して基材の表面に前記触媒活性金属粒子を付着させる工程からなる。
【0033】
この担持金属触媒を反応器に充填した触媒層に、体積分率0.1~100%のアンモニアガスを連続的に供給し、0.01MPa~1.0MPaの反応圧力及び300~800℃の反応温度下、重量時空間速度(WHSV)500/mlg-1-1以上で接触分解反応させることにより高いNH3転化率で水素を製造することができる。
【0034】
伝導電子を含むマイエナイト型化合物の代表組成は、式[Ca24Al28644+(O2-2-x(e-2x(0<x≦2)である。伝導電子を含むマイエナイト型化合物は、構造中に内包する酸化物イオン(O2-,O22-)を置換した電子が伝導電子となり、C12A7の場合、組成式([Ca24Al28644+(O2-2-x(e-2x)(0<x≦2)で示される。更に、酸化物イオンを電子で置換することにより、伝導電子濃度は1×1015cm-3以上になる。したがって、伝導電子を含むマイエナイト型化合物は、「導電性マイエナイト型化合物」と称することができる。C12A7:e-の伝導電子の理論的最大濃度は、2.3×1021cm-3である。水素陰イオン内包C12A7の組成は、式[Ca24Al28644+(O2-2-x(H-2x(0<x≦2)で表される。
【0035】
C12A7は、2.8eV及び0.4eVに光吸収を生じる。この光吸収係数を測定することにより電子濃度が得られる。試料が粉末体であるとき、拡散反射法を用いると簡便に電子濃度が得られる。また、ケージ中の電子はスピン活性があるので、電子スピン共鳴(ESR)を用いてケージ中の電子濃度を測定することも可能である。さらに、伝導電子を含むC12A7は、ヨウ素分子を還元可能なため、ヨードメトリーでケージ中の電子濃度を測定できる。水素陰イオン濃度は、水素核の固体核磁気共鳴分光法(1H NMR)を用いれば、定量できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の水素生成触媒を用いるアンモニア分解方法により、カルシウム、アルミニウム、酸素といったクラーク数上位の元素のみで構成された合成が容易で、安価で無毒な化合物であるマイエナイト型化合物を基材として用い、350℃、0.1MPaのような温和な条件下でも、かつ、高い重量空間速度(Weight Hourly Space Velocity; WHSV)でもアンモニアを接触分解できる。また、Ruのような高価な希少金属以外の遷移金属元素、例えば、CoやNi等を触媒活性金属に用いて高い転化率で分解して高純度の水素を生成することも可能であり、資源の有効利用の観点からも有用である。また、従来のアルミナ担持触媒のように転化率を向上させるために促進剤としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物等を添加しないでもよいため、担持金属触媒の製造工程が簡略化される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例1~8及び比較例1~2で示すNH分解を行う際に用いた反応ラインの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の水素生成触媒の構造及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニア分解による水素の製造方法について詳細に説明する。

【0039】
<マイエナイト型化合物基材の製造>
以下、マイエナイト型化合物の代表組成であるC12A7について具体的に説明するが、本発明は、C12A7に限らず、CaをSrに置換した12SrO・7Al23等のC12A7と結晶構造が同型のマイエナイト型化合物の全てに適用できる。本発明の触媒の製造方法の出発材料に用いるC12A7からなる基材は、粉末の他、多孔体、固体焼結体、薄膜、固体単結晶等の成型体でもよく、成型体の形状はいずれでもよい。また、他の物質からなる担体に担持されているC12A7を基材として用いてもよい。基材は、触媒活性金属粒子の担体として機能する。

【0040】
C12A7の原料は固相法、水熱法等で合成される。水熱反応は100℃以上、5MPa以上の高温高圧下の水が関与する反応であり、低温で短時間の反応によりセラミックス粉末を合成できる。水熱合成法を用いることで、比表面積の大きな(20~60m2-1程度)C12A7粉末が得られる。例えば、C12A7の前駆体となる水酸化物であるCa3Al2(OH)12は水と水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムを化学量論組成で混合し、例えば、150℃、6時間程度加熱することで得ることができる。この粉末を750~900℃で真空排気処理すると、吸着水、表面水酸基、ケージ内のOH-等を除去できるため、電子を注入する工程での還元剤の失活を防止できる。

【0041】
<C12A7基材に伝導電子や水素陰イオンを含ませる工程>
伝導電子を含んだC12A7の粉末を作製する場合、化学当量組成のC12A7の原料の粉末を還元雰囲気下で加熱すればよい。伝導電子を含んだC12A7の多孔体、固体焼結体は、化学当量組成のC12A7の原料粉末を成形後にCaやCaH2等と還元雰囲気下で加熱すればよい。薄膜、固体単結晶以外の基材は伝導電子を含まないC12A7基材の製造を経由することなく、原料から直接伝導電子を含んだC12A7基材を製造できる。水素陰イオンを含むC12A7基材も、同様に、水素気流下やCa等と還元雰囲気下で加熱すれば、粉末、多孔体、固体焼結体を合成できる。

【0042】
伝導電子を含んだC12A7の薄膜は、C12A7の固体焼結体をターゲットに用い、パルスレーザー堆積(PLD)法、スパッタ法、プラズマ溶射法等によりMgO、Y3Al512等の基板上に成膜したC12A7の薄膜を500℃以上で加熱しながら再度PLD法によりC12A7薄膜を堆積して一体化させれば作製できる。再度のPLD法ではプラズマ化されたC12A7が還元剤として働き該薄膜に伝導電子が含まれる。水素陰イオンを含むC12A7の薄膜も、同様に合成できる。

【0043】
また、伝導電子を含んだC12A7の固体単結晶は、C12A7の原料粉末を1600℃程度で融解した融液を引き上げること(CZ法)によりC12A7単結晶を作製し、真空にしたガラス管中に該単結晶を金属Ca粉末又はTi粉末等と共に封入し還元雰囲気下で加熱して該固体単結晶に伝導電子を含ませればよい。水素陰イオンを含むC12A7の固体単結晶も、同様に合成できる。

【0044】
固体焼結体又は固体単結晶の伝導電子又は水素陰イオンを含んだC12A7を粉末に加工することも可能である。乳鉢中での粉砕、ジェットミルによる粉砕等を用いて、粉末加工できる。粉末の大きさは特に限定されないが、これらの方法により粒子径が100nm~1mm程度の範囲に分布する粒子が得られる。これらの方法により、伝導電子又は水素陰イオンを1×1015cm-3以上含むC12A7を作製することができる。

【0045】
なお、作製法により粉末、多孔体、固体焼結体、薄膜、固体単結晶に関わらず、それらの基材の表面部から伝導電子が抜けていることがある。その場合、真空、不活性ガス中、又は還元雰囲気下において500℃以上~該化合物の融点(1250℃)未満で加熱し、基材の最表面まで1×1015cm-3以上の伝導電子を含ませることが望ましい。

【0046】
<活性金属成分の担持工程>
本発明のアンモニア分解においては、長周期族周期表の8族、9族又は10族から選ばれる遷移金属元素を触媒活性金属として使用することができるが、Fe、Ru、Osから選ばれる8族、Co、Rh、Irから選ばれる9族、Ni、Pd、Ptから選ばれる10族元素を単独又は組み合わせて使用することが特に好ましい。

【0047】
C12A7粉末や多孔体を基材として用いる場合、前記工程で得られた伝導電子を1×1015cm-3以上含むC12A7:e-粉末や多孔体を、触媒活性金属の化合物と各種方法、例えば、CVD法(化学蒸着法)や含浸法、を用い混合する。固体焼結体、薄膜、固体単結晶等を用いる場合、粉末や多孔体と同様に含浸法や、触媒活性金属の化合物をその表面にCVD法、スパッタ法等で堆積させ、該触媒活性金属の化合物を還元雰囲気において好ましくは150~800℃の温度で熱分解して触媒活性金属を析出させて基材表面に付着させる。前記の触媒活性金属の化合物を用いる場合は、例えば、それぞれの金属原料をC12A7上にCVD法等で堆積させ、熱分解した後にアンモニアガスにより窒化させる方法等も使用できる。

【0048】
前記触媒活性金属の化合物は特に限定されないが、例えば、トリルテニウムドデカカルボニル[Ru3(CO)12]、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl2(PPh3)4]、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl2(PPh3)3]、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)[Ru(acac)3]、ルテノセン[Ru(C5H5)]、塩化ルテニウム[RuCl3]、ペンタカルボニル鉄[Fe(CO)5]、テトラカルボニル鉄ヨウ化物[Fe(CO)4I2)]、塩化鉄[FeCl3]、フェロセン[Fe(C5H5)2]、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)[Fe(acac)3]、ドデカカルボニル三鉄[Fe3(CO)12]、塩化コバルト[CoCl3]、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)[Co(acac)3]、コバルト(II)アセチルアセトナト[Co(acac)2]、コバルトオクタカルボニル[Co2(CO)8]、コバルトセン[Co(C5H5)2]、トリオスミウムドデカカルボニル[Os3(CO)12]、アセチルアセトナートニッケル(II)二水和物[C10H14NiO4.xH2O]等の熱分解し易い無機金属化合物又は有機金属錯体等を例示できる。

【0049】
含浸法としては、次の工程を採用できる。例えば、担体粉末を触媒活性金属の化合物溶液(例えば、Ruカルボニル錯体のヘキサン溶液)に分散し、撹拌する。この際、触媒活性金属の化合物は、担体粉末に対して0.01~40wt%、好ましくは0.02~30wt%、より好ましくは0.05~20wt%程度である。その後、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス気流中、又は真空下、50~200℃で30分から5時間の間、加熱して溶媒を蒸発させ乾固する。次に、乾固した触媒活性金属の化合物からなる触媒前駆体を還元する。以上の工程により担体粉末の表面に数nm~数百nmの粒子径の微粒子として触媒活性金属を高分散し強固に付着した担持金属触媒が得られる。本発明の触媒は、必要に応じて促進剤を添加物として用いてもかまわない。

【0050】
この12CaO・7Al23粉末を担体とする担持金属触媒のBET比表面積は1~100m2-1程度であり、触媒活性金属の量は担体粉末に対して0.01~30wt%、好ましくは002~20wt%、より好ましくは0.05~10wt%である。0.01wt%未満では、活性点が少なすぎて、効率的ではなく、30wt%超では触媒活性の増大が乏しくコスト面で好ましくない

【0051】
また、上記の方法に代えて、同様の条件で伝導電子を1×1015cm-3以上含むC12A7粉末と触媒活性金属の化合物粉末とを物理混合法により固相混合した後、加熱還元することによっても同様の形態の担持金属触媒を得ることができる。

【0052】
また、担持金属触媒は通常の成型技術を用い成型体として使用することができる。具体的に、粒状、球状、タブレット状、リング状、マカロニ状、四葉状、サイコロ状、ハニカム状等の形状が挙げられる。支持体に担持金属触媒をコーティングしてから使用することもできる。

【0053】
<アンモニアの分解>
アンモニア分解は、前記の担持金属触媒を反応器に充填して触媒層として用い、反応温度350~800℃で原料のアンモニアガスを連続的に供給して触媒層に接触させ、水素と窒素を生成する下記の式1で示される反応である。
2NH3→3H2+N2 (式1)

【0054】
アンモニア分解反応は平衡反応であり、且つ吸熱反応であると共に体積が増加する反応であるため、高温かつ低圧条件が有利である。本発明の触媒を用いる場合、反応圧力は0.01Mpaから1.0Mpa、温度は300~800℃の範囲が好ましい。反応圧力が0.1Mpa未満の場合は分解反応が効率よく進行するが、減圧設備を必要とするためコスト面で不利になる。0.10MPa(常圧)の場合は、設備の面で好ましい。一方、反応圧力が1.0Mpa超の場合、平衡は原料側に有利になるため、十分な分解率は得られない。300℃未満の反応温度では反応速度が遅く、実用的でない。一方、800℃超では、高い分解速度が得られるが、高価な耐熱装置が必要になり、かつ触媒寿命に影響を及ぼすので好ましくない。400~750℃がより好ましく、Ru触媒の場合は、400~600℃がさらに好ましく、Ni又はCo触媒の場合は、500~750℃がさらに好ましい。C12A7の融点は1250℃であり、800℃程度ではシンタリングしない。

【0055】
本発明法では、原料としてバランスガスで希釈したアンモニア又はアンモニア単独の何れも、すなわち、体積分率0.1~100%のアンモニアガスを使用できる。アンモニア分解反応により水素を製造する場合、生成した水素と窒素を分離する必要があるので、アンモニア体積分率は高い方が好ましく、体積分率で5%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは70%以上が適する。重量空間速度(WHSV)は500mlg-1-1以上で分解反応を行い、高いNH3転化率が得られる。

【0056】
本発明のアンモニア分解方法により生成するガスは理論的に水素と窒素が3:1のモル比で得られ、例えばステンレス鋼やニッケル鋼、ニッケル、ニッケル-銅、又はニッケル-クロム合金等の光輝焼鈍仕上げ用ガスとして使用できる。更に、本発明で得られる水素は燃料電池に有害なCOやCO2を含まないので、生成した水素と窒素を分離・精製することにより、例えば燃料電池用水素として使用できる。

【0057】
アンモニア分解反応は、ステンレス鋼等の耐食性材料を用いた通常の気相-固相接触反応装置を用いて行うことができる。反応形式は、バッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式のいずれでもかまわないが、実用的な観点からは流通系反応形式が最も好ましい。本反応は吸熱反応のため、反応熱を供給しながら反応させると有利であり、工業的には収率をあげるため、反応熱を供給するための様々な工夫がなされている。例えば、アンモニア原料の一部を、空気により酸化させて燃焼熱を得ながら、アンモニア分解反応を行う方法等が提案されている。

【0058】
本発明において、従来行われている方法と同様に、触媒を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を用いて、アンモニア分解反応を行うことができる。また、複数の反応器を連結させる方法や、同一反応器内に複数の反応層を有する反応器の何れの方法も使用することができる。使用する触媒は本発明の触媒単独、又は本発明の触媒から選ばれる二種類以上の触媒の組み合わせ、若しくは本発明の触媒と公知触媒との組み合わせの何れも使用することができる。アンモニア分解反応の前に触媒を水素等の還元性のガスの雰囲気に300~700℃で、30分~2時間程度暴露して触媒金属を活性化することが転化率の向上の点で好ましい。

【0059】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。常圧固定床流通反応装置(図1)を用い、NH3の生成量をガスクロマトグラフにより定量してアンモニア分解速度を求めることにより、アンモニア分解活性を評価した。転化率a(%)は下記の式により求めた。ここで、PNH3、P'NH3はそれぞれ、反応前と反応後のアンモニア分圧を示している。
NH3転化率: a(%)=100PNH3 (PNH3-P'NH3)/(PNH3+P'NH3)


【0060】
図1に、実験で使用した装置の概要を示す。石英製反応器1(内径 6mm,長さ 24cm,内容積 6.8ml)の内部に、下記の実施例、比較例で調製した担持金属触媒を充填する。その後、ボンベ3よりH2を反応器1に流して担持金属触媒を予め還元処理する。次いで、ボンベ4よりNH3を反応器1に流す。H2を希釈する場合は、ボンベ2から所定量のHeを供給してH2に混合する。所定の重量空間速度になるように、アンモニア流量を玉流量計5で制御する。その後、反応系を所定温度に昇温し、活性試験を行う。反応器1から流出した反応生成物は、排気口6(vent)から排出し、一部を検量管7(Sampling loop)で捕集し、ガスクロマトグラフのキャリアーガス入口8(carrier in)からキャリアーガスを供給し、熱伝導検出器付きガスクロマトグラフ9(On-line TCD-GC)で分析した。
【実施例1】
【0061】
<酸素イオンを含むC12A7基材の調製>
Ca(OH)2(守随彦太郎商店、23.1g)及びAl(OH)3(株式会社高純度化学研究所、28.4g)の各粉末をCaとAlのモル比が12:14となるように混合し、水449mlを加えた後、オートクレーブ中にて150℃で5時間かけて水熱処理した。得られた粉末を、ろ過後、水500mlで洗浄した後、150℃で乾燥後、酸素気流中800℃で2時間焼成し、粉砕し、比表面積40m2-1、粒子径0.1mm~0.5mmの伝導電子及び水素陰イオンを含まない酸素イオンを含むC12A7(以下、C12A7:Oと表記)粉末を調製した。
【実施例1】
【0062】
<伝導電子を含むC12A7基材の調製>
上記方法で調製したC12A7:O粉末を、シリカガラス管内に挿入し1×10-4Paの真空中、800℃で15時間真空加熱し前処理した。得られた粉末2.5gを、シリカガラス管内に金属Ca粉末0.1gとともに挿入し、700℃で15時間加熱することにより伝導電子濃度が1.5×1021cm-3のC12A7:e-(C12A7:eと表記)の粉末を得た。調製後の粉末の比表面積は14m2-1(粒子径0.2mm~1mm)と小さくなった。
【実施例1】
【0063】
<水素陰イオンを含むC12A7基材の調製>
上記方法で調製したC12A7:O粉末を、シリカガラス管内に挿入し1×10-4Paの真空中、750℃で15時間真空加熱し前処理した。得られた粉末1.5gを、シリカガラス管内に金属Ca粉末45mgとともに挿入し、700℃で15時間加熱することにより水素陰イオン濃度が2.5×1020cm-3のC12A7:H-(C12A7:Hと表記)の粉末を得た。水素陰イオンが内包されていることは、1H NMRとヨードメトリーから確かめた。調製後の粉末の比表面積は16m2-1(粒子径0.2~1mm)と小さくなった。
【実施例1】
【0064】
<担体粉末へのRuの担持>
得られたC12A7:eの粉末1gをシリカガラス管内にRu3(CO)12 43mgとともに挿入し、400℃で2時間加熱してRu3(CO)12を還元することによりC12A7:eの粉末の表面にRu粒子を化学蒸着により付着した。これによりRu金属として2重量%を担持したエレクトライド粉末からなる担持金属触媒(2wt%Ru/C12A7:e)を得た。比表面積は全自動BET表面積測定装置で測定した。粒子径はCO分散度測定結果から判断した。水素還元後の、Ruメタルの粒子径は15nmであり、CO吸着によりもとめた分散度は8.6%であった。
【実施例1】
【0065】
<アンモニア分解反応>
上記の方法で得られたRu担持触媒60~100mgを石英製反応管に詰めて触媒層を形成し、図1に示すアンモニア分解装置を使用し、アンモニア分解反応を実施した。分解反応前に、Ru担持触媒を水素気流中、400~450℃に昇温した石英製反応管内で2時間還元処理を実施しRuを活性化した。続いて、石英製反応管内の温度を350~700℃とし、常圧で、アンモニア体積分率100%のアンモニアガスを触媒層に5~100ml・min-1で流通させた。表1に反応結果を示した。350℃、440℃、700℃におけるNH3の転化率はそれぞれ51.9%、79.8%、99.8%であり、NH3分解速度はそれぞれ、1.11、8.2、82.3(kgNH3kgcat-1h-1)であった。このとき重量空間速度はそれぞれ、3000、15000、120000mlg-1-1である。
【実施例2】
【0066】
Ru担持量を5wt%とした以外は、実施例1と同様な方法で5wt%Ru/C12A7:e粉末を調製し、アンモニア分解反応を実施した。結果を表1に示す。440℃におけるNH3の転化率は67.2%であり、NH3分解速度は、6.9(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例3】
【0067】
担体として、C12A7:Hを使用した以外は、実施例1と同様な方法で2wt%Ru/C12A7:H粉末を調製し、アンモニア分解反応を実施した。結果を表1に示す。440℃におけるNH3の転化率は76.5%であり、NH3分解速度は、7.9(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例4】
【0068】
実施例1で試験した触媒と同じものを使用し、アンモニア体積分率(VNH3)1.7%(Heバランス)、ガス総流量180ml/min(WHSV 216000mlg-1-1)で試験した。結果を表1に示す。440℃におけるNH3の転化率は100%であり、NH3分解速度は、2.1(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例5】
【0069】
C12A7:e粉末の代わりに、伝導電子を含まない酸素イオンを含むC12A7:O粉末を用いる以外は実施例1に示す方法で、2wt%Ru/C12A7:O粉末を調製し、アンモニア分解活性を調べた。結果を表1に示した。440℃におけるNH3の転化率は54.3%であり、NH3分解速度は、5.6(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例5】
【0070】
[比較例1]
C12A7:e粉末の代わりにCaO粉末(株式会社高純度化学研究所、粒子径5mm~10mm)を用いる以外は実施例1に示す方法で、2wt%Ru/CaO粉末を調製し、アンモニア分解活性を調べた。
水素還元後の、Ruメタルの粒子径は4nmであり、CO吸着によりもとめた分散度は40%であった。結果を表1に示した。440℃におけるNH3の転化率は42.1%であり、NH3分解速度は、4.3(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例5】
【0071】
[比較例2]
C12A7:e粉末の代わりにγ-Al23粉末(株式会社高純度化学研究所、粒子径0.1mm~0.5mm)を用いる以外は実施例1に示す方法で、6wt%Ru/γ-Al23粉末を調製し、アンモニア分解活性を調べた。水素還元後の、Ruメタルの粒子径は11nmであり、CO吸着により求めた分散度は13%であった。結果を表1に示した。440℃におけるNH3の転化率は31.9%であり、NH3分解速度は、3.3(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例5】
【0072】
【表1】
JP0006143761B2_000002t.gif
【実施例6】
【0073】
実施例1に示すC12A7:e粉末を使用し、Ru3(CO)12の代わりに、Co4(CO)12原料を用いて、Ruと同様に化学蒸着法で、5wt%Co/C12A7:e粉末を調製した。試験結果を表2に示す。600℃におけるNH3の転化率は54.6%であり、NH3分解速度は、5.6(kgNH3kgcat-1
h-1)であった。
【実施例7】
【0074】
C12A7:e粉末の替わりに、伝導電子を含まない酸素イオンを含むC12A7:O粉末を用いる以外は、実施例6と同じ方法で5wt%Co/C12A7:O粉末を調製し、アンモニア分解活性を調べた。結果を表2に示す。600℃におけるNH3の転化率は28.0%であり、NH3分解速度は、2.9(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例8】
【0075】
実施例1に示すC12A7:e粉末を使用し、Ru3(CO)12の代わりに、アセチルアセトナートニッケル(II)二水和物[C10H14NiO4.xH2O]を用いて、Ruと同様に化学蒸着法で、5wt%Ni/C12A7:e粉末を調製し、アンモニア分解活性を調べた。結果を表2に示す。600℃におけるNH3の転化率は86.4%であり、NH3分解速度は、8.9(kgNH3kgcat-1h-1)であった。
【実施例8】
【0076】
【表2】
JP0006143761B2_000003t.gif

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水素生成触媒を用いる接触分解法により、低い体積分率から高い体積分率のアンモニアに対して、常圧前後、350~800℃の広い反応温度範囲で、高い転化率でアンモニアを分解し水素を生成することが出来るため、エネルギー消費の削減からも好ましい方法といえる。また、従来のRu担持触媒と比べて安価な材料を用いて、著しく高効率でアンモニアを分解し水素を生成することができる。
図面
【図1】
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