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明細書 :二酸化炭素の吸着還元剤及び還元方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5530288号 (P5530288)
公開番号 特開2012-025636 (P2012-025636A)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月25日(2014.6.25)
公開日 平成24年2月9日(2012.2.9)
発明の名称または考案の名称 二酸化炭素の吸着還元剤及び還元方法
国際特許分類 C01B  31/18        (2006.01)
C01B  31/20        (2006.01)
B01J  20/16        (2006.01)
FI C01B 31/18 A
C01B 31/20 Z
B01J 20/16
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2010-167366 (P2010-167366)
出願日 平成22年7月26日(2010.7.26)
審査請求日 平成25年4月15日(2013.4.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】戸田 喜丈
【氏名】平山 博之
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】小野 久子
参考文献・文献 国際公開第2006/129675(WO,A1)
国際公開第2005/077859(WO,A1)
戸田喜丈他,エレクトライドC12A7:e-表面への気体分子の吸着、脱離特性,応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,2009年 9月 8日,Vol.70th,No.2,P.593
調査した分野 C01B 31/00-31/36
B01J 20/16
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
1×1019/cm3以上の伝導電子を有する導電性マイエナイト型化合物からなることを
特徴とする二酸化炭素の吸着還元剤。
【請求項2】
前記導電性マイエナイト型化合物の形状が、粉末、固体焼結体、薄膜、又は固体単結晶で
あることを特徴とする請求項1記載の吸着還元剤。
【請求項3】
1×1019/cm3以上の伝導電子を有する導電性マイエナイト型化合物を室温に保持す
るか、200℃以下に加熱し、乾燥空気中、乾燥酸素中、又は不活性ガス雰囲気中で、二
酸化炭素含有ガス、又は二酸化炭素を該化合物に接触させて二酸化炭素を吸着させ、次い
で、二酸化炭素を吸着した状態の該化合物を200℃以上、該化合物の融点未満に加熱す
ることによって、二酸化炭素を一酸化炭素に還元して該化合物から脱離させることを特徴
とする二酸化炭素の還元方法。
【請求項4】
1×1019/cm3以上の伝導電子を有する導電性マイエナイト型化合物を200℃以上
、該化合物の融点未満に加熱し、乾燥空気中、乾燥酸素中、又は不活性ガス雰囲気中で、
二酸化炭素含有ガス、又は二酸化炭素を該化合物に接触させることによって、吸着と同時
に二酸化炭素を一酸化炭素に還元して該化合物から脱離させることを特徴とする二酸化炭
素の還元方法。
【請求項5】
前記の吸着及び/又は還元を大気圧下で行うことを特徴とする請求項3又は4記載の二酸
化炭素の還元方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物からなる二酸化炭素の吸着還元剤及び該吸着還元剤を加熱する
だけで二酸化炭素を一酸化炭素に還元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を一酸化炭素に還元する技術は、C1化学の原料として有用な一酸化炭素を製
造する方法として、また、環境問題において非常に重要である。人間の社会的活動により
大気中に放出される二酸化炭素は地球温暖化の原因の一つであることが知られており、近
年、大気中の二酸化炭素量を削減することが大きな課題となっている。
【0003】
大気中の二酸化炭素量の削減方法としては、単に排出源からの排出量を減らす方法だけで
なく、排出された二酸化炭素の処理方法として、液化した二酸化炭素の海洋貯留に代表さ
れる物理的方法、植物の光合成を利用する生物的方法、及び吸着剤による吸着や、還元剤
による分解を利用する化学的方法が考案されている。
【0004】
液化又は固化した二酸化炭素を海洋や地中に貯留する方法に関しては、長期的な隔離の安
定性や周辺環境への影響が未知であり、貯留には大きなエネルギーが必要になる。また、
光合成を利用する生物的方法も植林に広大な土地が必要であり、樹木の成長も待たなけれ
ばならないために短期的な二酸化炭素の削減効果は望みにくい。近年では生物的方法とし
てプランクトンを利用する方法も研究されているが、広大な面積の水面が必要になる。
【0005】
一方で、化学的方法は物理的、生物的方法と比較して、エネルギーの低減や短期的な効果
が望める他、広大な土地が必要になることもない。さらに、化学的方法の内、排出源にお
いて還元剤を用いて二酸化炭素を分解する方法では、二酸化炭素の削減効果の他に、生成
物として一酸化炭素や蟻酸等が得られるので、二酸化炭素を資源として有効に転用できる
という利点もある。
【0006】
このような化学的方法として、硫化タングステン上に二酸化炭素と水素を導入し、加熱又
は太陽光の照射により二酸化炭素を一酸化炭素に転化する方法(特許文献1)、酸化鉄を
含む複合金属酸化物を触媒とし、二酸化炭素と水素を触媒に接触させて一酸化炭素を製造
する方法(特許文献2)、Fe及びCrを活性成分とする逆COシフト触媒又は活性アル
ミナを活性成分とする逆COシフト触媒の存在下にH2で還元する方法(特許文献3)、
ポルフィリン等の環状配位子化合物を活性成分として含有する還元触媒を用いる方法(特
許文献4)、酸化第一鉄を用いて二酸化炭素を炭素に還元する方法(特許文献5)、酸化
ニッケルを用いて二酸化炭素を一酸化炭素に還元する方法(特許文献6)等に関して特許
出願されている。また、高炉や発電所等からの燃焼排ガス中の二酸化炭素をゼオライトを
用いて物理吸着し分離する方法もある(特許文献7,8、9)。しかし、化学的方法は、
熱や電気といった二酸化炭素の分離や還元に要するエネルギーや、水素や触媒物質のコス
トに課題が残されている。
【0007】
CaO、Al23、SiOを構成成分とするアルミノケイ酸カルシウムは、鉱物名をマイ
エナイトと言い、その結晶と同型の結晶構造を有する化合物を「マイエナイト型化合物」
という。マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al23(以下、「C12A7」と記
す)なる代表組成を有し、C12A7結晶は、2分子を含む単位胞にある66個の酸素イ
オンの内の2個が、結晶骨格で形成されるケージ内の空間に「フリー酸素」として包接さ
れているという、特異な結晶構造を持つことが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
2003年以降、このフリー酸素イオンが種々の陰イオンで置換できることが明らかにさ
れた。特に、強い還元雰囲気にC12A7を保持すると、全てのフリー酸素を電子で置換
することができる。これは、化学式で、[Ca24Al2864]4+(e-4(以下、「C12
A7:e-」と記す)と記述され、良好な電子伝導特性を示す(非特許文献2)。
【0009】
本発明者らは、導電性マイエナイト型化合物であるC12A7:e-及びC12A7と同
型化合物である12SrO・7Al23やC12A7と12SrO・7Al23との混晶
化合物とその製造法に関する発明を特許出願した(特許文献10)。また、C12A7単
結晶を(イ)アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気中で高温でアニールする方法、(ロ
)不活性イオンをイオン打ち込みする方法、又は、(ハ)還元雰囲気で融液から直接固化
する方法で、1×1019/cm3以上の伝導電子を有するC12A7:e-及びC12A
7と同型化合物が得られることを見出し、これらに関する発明を特許出願した(特許文献
11)。
【0010】
さらに、C12A7単結晶をチタン金属(Ti)蒸気中でアニールし、金属電気伝導性を
示すC12A7:e-を得ることに成功し、その製法及び電子放出材料としてのその用途
に関する発明を特許出願した(特許文献12)。金属電気伝導性を示すC12A7:e-
に関しては、CaCO3及びAl23を11:7で混合して、1300℃で加熱した生成
物を金属Ca蒸気雰囲気中で加熱することで粉末を直接合成することもできる(非特許文
献3)。
【0011】
C12A7:e-に包接される電子は、陽イオンである結晶骨格のケージ内に緩く結合し
ているために、電場印加又は化学的な手段により外部に取り出すことができる。本発明者
らは、外部に取り出された電子を還元反応に用いることができると考え、C12A7:e
-に包接される電子でケトン化合物を還元し、2級アルコール及びジケトン化合物を製造
する方法を発明し、これを特許出願した(特許文献13)。しかしながら、この製法では
C12A7:e-を水中で用いるため、C12A7:e-は分解してしまい、一工程につ
き一度しか使用できなかった。
【0012】
さらに、Alの一部をGa又はInで置換したマイエナイト型化合物に係わる発明の出願
がなされており(特許文献14)、これは、PDP保護膜材料や、有機ELデバイスにお
ける電荷注入材料など、高温加熱処理が必要とされる電極材料として適する。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開平05-043215号公報
【特許文献2】特開平08-245211号公報
【特許文献3】特開2000-233917号公報
【特許文献4】特開2003-260364号公報
【特許文献5】特開2005-144282号公報
【特許文献6】特開2006-021989号公報
【特許文献7】特開平07-039752号公報
【特許文献8】特開2002-018226号公報
【特許文献8】特開2008-0273821号公報
【特許文献10】再表WO2005/000741号公報
【特許文献11】特開2005-314196号公報
【特許文献12】再表WO2007/060890号公報
【特許文献13】特開2008-214302公報
【特許文献14】特開2009-203126号公報
【0014】

【非特許文献1】H.B.Bartl,T,Scheller and N.Jarhrb Mineral Monatsh 1970,547
【非特許文献2】S.Matsuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Tanaka and H.Hosono,Science 301 626-629(2003)
【非特許文献3】S.Matsuishi,T.Nomura,M.Hirano,K.Kodama,S.Shamoto and H.Hosono,Chemistry of Materials 21 2589-2591(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、二酸化炭素から化学原料として有用な一酸化炭素を製造する方法や、大
気中へ排出される二酸化炭素量を化学的方法で処理して削減する方法において、高価な触
媒や還元剤等を使用しないで、かつ、熱や電気などの少ないエネルギー消費をもって二酸
化炭素を還元し、一酸化炭素を回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、導電性マイエナイト型化合
物を用いると、比較的低温で二酸化炭素を吸着できると共に、吸着した二酸化炭素を該化
合物を加熱するだけで高効率で一酸化炭素に還元処理できることを見出した。すなわち、
導電性マイエナイト型化合物は室温でも二酸化炭素を選択的に吸着することができ、該化
合物を加熱すると、吸着した二酸化炭素のCOへの還元が200℃以下でも開始されるこ
とを見出した。すなわち、本発明者は、この導電性マイエナイト型化合物は、ゼオライト
のような物理吸着ではなく、化学吸着により二酸化炭素と強く結合し、一つの化合物で吸
着と還元の両機能を有することを見出した。
【0017】
本発明は、1×1019/cm3以上の伝導電子を有する導電性マイエナイト型化合物から
なることを特徴とする二酸化炭素の吸着還元剤、である。
【0018】
導電性マイエナイト型化合物は、構造中に内包する酸化物イオン(O2-,O22-)を置換し
た電子が伝導電子となり、C12A7の場合、組成式([Ca24Al28644+(O2-
2-x(e-2x)(0<x≦2)で示される。電子で置換させることにより、伝導電子を1
×1015cm-3以上含ませることができる。伝導電子の理論的最大濃度はC12A7の場
合2.3×1021cm-3である。伝導電子濃度が大きいほど還元能が大きいが、1×10
18/cm3程度が二酸化炭素の還元作用を検出できる限界であり、伝導電子濃度は1×1
19/cm3以上であることが好ましい。伝導電子濃度の最大値としては、単結晶では2
.3×1021/cm3程度が可能である。
【0019】
この吸着還元剤の形状は、粉末、固体焼結体、薄膜、又は固体単結晶などのいずれでもよ
い。二酸化炭素は、吸着還元剤の表面に吸着される。
【0020】
この吸着還元剤を室温に保持するか、200℃以下に加熱し、乾燥空気中、乾燥酸素中、
又は不活性ガス雰囲気中で、二酸化炭素含有ガス、又は二酸化炭素を接触させて二酸化炭
素を吸着させる。次いで、二酸化炭素を吸着した状態の該化合物を200℃以上、該化合
物の融点未満に加熱することによって、二酸化炭素を一酸化炭素に還元して該化合物から
脱離させる。この吸着処理は、導電性マイエナイト型化合物を加熱しないで室温で行うこ
とが好ましく、加温下で行う場合は200℃以下が好ましい。200℃を超えても吸着は
可能であるが、エネルギー効率上好ましくない。
【0021】
また、この吸着還元剤を200℃以上、該化合物の融点未満に加熱し、乾燥空気中、乾燥
酸素中、又は不活性ガス雰囲気中で、二酸化炭素含有ガス、又は二酸化炭素を該化合物に
接触させることによって、吸着と同時に二酸化炭素を一酸化炭素に還元して該化合物から
脱離させる方法でもよい。前記の吸着及び/又は還元は加圧下、減圧下のいずれでも実施
できるが、大気圧下で行うことがエネルギー消費が少なくて済み好ましい。
【0022】
吸着プロセスと還元プロセスを分離して行う方法の場合は、混合ガス中の二酸化炭素を分
離、還元して生成物である一酸化炭素を回収するのに特に有効である。吸着プロセスと還
元プロセスが分かれているので、吸着プロセスで二酸化炭素のみを吸着させ、残りのガス
を排気した後に一酸化炭素を脱離させれば効率よく一酸化炭素を回収できる。同時に二酸
化炭素も脱離するが、脱離したガスを昇圧又は冷却することで二酸化炭素はドライアイス
になるので一酸化炭素と二酸化炭素の分離は容易である。ただし、吸着還元剤の昇温、冷
却を繰り返す必要があるので、吸着還元剤を高温に保持して、吸着プロセスと還元プロセ
スを同時に行う場合より余分なエネルギーを消費する。吸着プロセスと還元プロセスを同
時に行う場合は、高純度の二酸化炭素を還元して生成物である一酸化炭素を回収するのに
特に有効である。この方法は、反応系に二酸化炭素を循環させていればいずれ全て一酸化
炭素になる。また、この方法は、高純度の二酸化炭素や二酸化炭素混合ガスを処理して生
成した一酸化炭素を回収する必要がない場合にも有効である。
【0023】
上記の加熱により一酸化炭素が主生成物として生成し、該化合物から脱離する。加熱によ
り一酸化炭素が生成するのは、二酸化炭素が導電性マイエナイト型化合物に化学吸着し、
該化合物に包接された伝導電子により二酸化炭素が活性化されるためと考えられる。ゼオ
ライトを用いた物理吸着はゼオライトの細孔に二酸化炭素を取り込む吸着であるが、導電
性マイエナイト型化合物は細孔の構造を持つものの、細孔の大きさは、ゼオライトの細孔
と比べて1/10以下の大きさなので、ゼオライトのように内部に二酸化炭素は取り込め
ない。そこで、該化合物への二酸化炭素の吸着は、該化合物の最表面での解離吸着であろ
うと考えられる。
【0024】
二酸化炭素は、熱した炭素、亜鉛、鉄などの上を通すと一酸化炭素に還元されることが知
られているが、二酸化炭素は非常に安定な化合物で、2000℃で2%ぐらい一酸化炭素
と酸素に解離するにすぎない、と言われる。本発明の方法では加熱温度にも依るがほぼ2
0%~80%程度が還元される。二酸化炭素の還元に繰り返し使用しても導電性マイエナ
イト型化合物の劣化(伝導電子の減少)はほとんどないが、繰り返し使用して該化合物の
導電性が低下した場合は、再度アニール等の方法で導電性を回復させることにより再使用
できる。
【0025】
[導電性マイエナイト型化合物の定義]
本発明において、「マイエナイト型化合物」とは、鉱物のマイエナイトそれ自体、マイエ
ナイト型岩石、及び鉱物のマイエナイト結晶と同型の結晶構造を有する複合酸化物をいう
。導電性マイエナイト型化合物の代表組成は、式[Ca24Al28644+(O2-2-x
-2x(0<x≦2)で示される。導電性マイエナイト型化合物は、例えば、焼結法で
製造したC12A7を、例えば、Ca又はTiの金属蒸気中で、1100℃付近でアニー
ルすることで得ることができる。導電性マイエナイト型化合物の製造方法自体は種々の方
法が公知であり、本発明では、これらの方法で得られた該化合物を適宜使用できる。
【0026】
マイエナイト型化合物の結晶は内径0.4nm程の籠状の構造(ケージ)がその壁面を共
有し、三次元的に繋がることで構成されている。通常、マイエナイト型化合物のケージの
内部にはO2-などの負イオンが含まれているが、上記のアニールによってそれらを伝導電
子に置換することが可能である。アニール時間を長くすることにより、導電性マイエナイ
ト型化合物中の伝導電子濃度は多くなる。
【0027】
Ti金属蒸気中でアニールする場合は、24時間程度アニールすれば、3mm厚の単結晶
マイエナイト型化合物でも、理論的最大の伝導電子濃度(C12A7の場合2.3×102
1cm-3)を有する導電性マイエナイト型化合物を得ることができる。また、化学量論組成
のマイエナイト型化合物の融液を還元雰囲気中で固化しても良い。還元雰囲気中の固化で
得られた導電性マイエナイト型化合物の伝導電子濃度は、1021cm-3未満である。
【0028】
また、Ar+イオンを高濃度にイオン打ち込みすることによっても作製できる。得られた
導電性マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は、光吸収帯の強度から求めることができ
る(12CaO・7Al23の場合2.8eV)。伝導電子濃度が小さいときは、電子ス
ピン共鳴吸収帯の強度からも伝導電子濃度を求めることができる。
【0029】
導電性マイエナイト型化合物は、上記の代表組成の式を構成するCaの一部又は全てがL
i、Na、K、Mg、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、C
u、Ir、Ru、Rh、Ptからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型金属元
素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。また、この式を構成するAlの一部又は
全てがB、Ga、C、Si、Fe、Geからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の
典型金属元素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。さらに、上記の式を構成する
Oの一部又は全てがH、F、Cl、Br、Auからなる群から選ばれる少なくとも一種類
以上の典型元素又は金属元素で置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の方法により、カルシウム、アルミニウム、酸素といったクラーク数上位の元素の
みで構成された安価で無毒性の化合物を用い、還元剤として高価な金属化合物や水素を用
いることなく、かつ、少ないエネルギー消費をもって、二酸化炭素を還元処理できる。ま
た、還元処理する二酸化炭素のガス圧を高圧にして該化合物に接触させなくても選択的に
化学吸着するので、二酸化炭素を高効率で分解することができる。また、100容積%の
高濃度の二酸化炭素はもとより、排出ガス、天然ガス、大気中等に含有される高濃度乃至
低濃度の二酸化炭素も選択的に化学吸着し高効率で還元処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1におけるC182、C182及びOの脱離量の温度依存性を示すグラフ。
【図2】実施例3におけるC18Oの脱離量の温度依存性を示すグラフ。
【図3】各実施例、比較例において使用した試料ホルダーの概略とその使用形態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の二酸化炭素の還元処理方法(以下、「本発明の方法」という)について詳
細に説明する。本発明の方法は、導電性マイエナイト型化合物を用い、二酸化炭素を一酸
化炭素に還元する方法である。

【0033】
本発明の方法に用いる導電性マイエナイト型化合物は、粉末、固体焼結体、薄膜、固体単
結晶など、その形状はいずれでもよい。また、担体に担持されていてもよい。薄膜、固体
単結晶以外はマイエナイト型化合物を経由することなく、原料から直接導電性マイエナイ
ト型化合物を製造できる。また、原料として、マイエナイト型鉱物、マイエナイトを含有
するスラグや焼却灰等も使用できる。

【0034】
粉末の作製は、化学当量組成の導電性マイエナイト型化合物の原料の粉末を還元雰囲気下
で加熱すればよい。また、固体焼結体の作製は、化学当量組成のマイエナイト型化合物の
原料粉末を還元雰囲気下で1300℃程度で加熱焼結し固化すれば良い。

【0035】
薄膜の作製は、マイエナイト型化合物の固体焼結体をターゲットに用い、パルスレーザー
堆積法(PLD)、スパッター法、プラズマ溶射法などによりMgO、Y3Al512など
の基板上に成膜したマイエナイト型化合物の薄膜を500℃以上で加熱しながら再度PL
Dによりマイエナイト型化合物薄膜を堆積して一体化させる。再度のPLDではプラズマ
化されたマイエナイト型化合物が還元剤として働き該薄膜を導電体化させる。

【0036】
また、固体単結晶は、マイエナイト型化合物の原料粉末を1600℃程度で融解した融液
を引き上げること(CZ法)によりマイエナイト型化合物単結晶を作製し、該単結晶を真
空にしたガラス管中に金属Ca粉末又はTi粉末などと共に封入し還元雰囲気下で加熱す
ればよい。

【0037】
固体焼結体又は固体単結晶の導電性マイエナイト型化合物を粉末に加工することも可能で
ある。粉末加工は、乳鉢中での粉砕、ジェットミルによる粉砕などを用いることができる
。これらの方法により、伝導電子を1×1019cm-3以上含むマイエナイト型化合物を作
製する。

【0038】
なお、作製法により粉末、固体焼結体、薄膜、固体単結晶に関わらずそれらの表面から伝
導電子が抜けて本来の導電性が失われていることがある。その場合は、真空、不活性ガス
中、又は還元雰囲気下において900℃以上~該化合物の融点(1250℃)未満で加熱
し、最表面まで本来の導電性を回復させることが望ましい。

【0039】
二酸化炭素は、反応器内や排出ガス流路中に設置した導電性マイエナイト化合物の粉末、
固体焼結体、薄膜、固体単結晶等に接触するように、乾燥空気中、乾燥酸素中、又は不活
性ガス中で供給する。供給する二酸化炭素を含有するガスを供給前に脱水処理してもよい


【0040】
マイエナイト型化合物は大気中では、水の吸着が優先されてしまい、また、過剰な水分下
では化合物自体が分解してしまうので、二酸化炭素の化学吸着処理はできるだけ水分を含
有しない雰囲気、すなわち、水蒸気分圧10-3気圧程度以下の雰囲気である乾燥空気中、
乾燥酸素中、又は不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。導電性マイエナイト型化合物
の表面に付着している不純物を除去したり、導電性を十分に回復させたりするために該化
合物を真空、不活性ガス中、又は還元性ガス雰囲気において900℃以上~該化合物の融
点(1250℃)未満で加熱し、冷却した後に該化合物に二酸化炭素を化学吸着させるこ
とが好ましい。

【0041】
次に、二酸化炭素を化学吸着した状態の該化合物を加熱することによって、二酸化炭素を
還元し、一酸化炭素を該化合物から脱離させる。加熱温度は200℃以上~該化合物の融
点(1250℃)未満とする。COの脱離ピークが最大値になる温度は700℃程度なの
で、加熱温度は200℃~800℃がより好ましい。加熱雰囲気は、乾燥空気中、乾燥酸
素中、又は不活性ガス雰囲気中でよい。500℃未満であれば水分を含有していない乾燥
雰囲気が好ましい。500℃以上では乾燥酸素雰囲気では伝導電子が酸素で置換されるた
め、不活性ガス雰囲気中が好ましい。

【0042】
加熱の際の該化合物の昇温の方法は特に限定されず、ヒーター、赤外ランプ、通電加熱等
、処理装置に適した方法を選択すればよい。昇温速度が遅いほど二酸化炭素の還元効率は
上昇する。例えば、下記の実施例の結果では、昇温速度が5K/秒のときと比較して0.
5K/秒では二酸化炭素の分解効率は30%から80%に上昇する。

【0043】
もちろん、二酸化炭素を流しながら該化合物をある温度で保持すれはその温度での該化合
物への化学吸着と一酸化炭素への還元による脱離が同時に起こる。したがって、該化合物
を200℃以上、該化合物の融点未満に加熱し、乾燥空気中、乾燥酸素中、又は不活性ガ
ス雰囲気中で、二酸化炭素含有ガス、又は二酸化炭素を該化合物に接触させることによっ
て、二酸化炭素を一酸化炭素に還元させる方法も用いられる。ある温度に保持するという
ことは昇温速度を究極に遅くする(0K/sec)ということになる。COの脱離ピークが最大値
になる温度は700℃程度なので、二酸化炭素の分解開始温度の200℃以上、800℃
以下の範囲で保持するのが最も好ましい。したがって、この場合、200℃~1000℃
程度の高温排ガスを還元処理するのに適している。

【0044】
導電性マイエナイト化合物へ供給する二酸化炭素のガスの温度は実用上は室温が望ましい
が該化合物の融点(1250℃)未満であればよい。-78.5℃以下だと導電性マイエ
ナイト化合物への二酸化炭素の吸着層が多層化してしまい、該化合物と新たに吸着すべき
二酸化炭素が接触しにくくなる。一方、二酸化炭素のガスの温度が700℃~1250℃
の高温では二酸化炭素の吸着量が低下する。したがって、好ましくは室温~700℃、よ
り好ましくは室温で大気圧の二酸化炭素を吸着させる。吸着させる二酸化炭素のガスの圧
力は、通常、高圧になる程、吸着の効率はよくなるが該化合物の場合は標準の大気圧(1
00kPa)又は大気圧未満でも十分な吸着能を有している。

【0045】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。なお、実施例では、不確定な
要素を可能な限り排除するため、及び分解による生成物の同定に四重極質量分析装置を使
用しているので真空チャンバーを反応容器として使用した。
【実施例1】
【0046】
<導電性マイエナイト型化合物の準備>
伝導電子濃度が約2×1021cm-3の導電性マイエナイト型化合物C12A7:e-の板
を準備した。このC12A7:e-の板は以下の方法で製造した。チョコラルスキー法で
作成したC12A7単結晶インゴットから、13mm×3mm×0.5mmの板を切り出
し、5gのTi金属粉末と共に、石英管中に真空封入した。該石英管を電気炉に入れ、1
100℃に24時間保持した後、空冷した。得られたC12A7:e-の板の伝導電子濃
度は、該C12A7:e-の板の表面の光反射スペクトルを光吸収スペクトルに変換し、
2.8eVの吸収バンドの強度から求めた。
【実施例1】
【0047】
得られたC12A7:e-の板を80%のリン酸水溶液で10秒間化学エッチングした後
、蒸留水で5秒間洗浄しリン酸水溶液を取り除いた。その後、無水メタノール及び無水ア
セトンでそれぞれ5分間超音波洗浄した。
【実施例1】
【0048】
次に、図3に示すように、試料(C12A7:e-の板)1を通電加熱が行える試料ホル
ダーに取り付け、反応容器(図示せず)中に導入した。ここで、通電加熱が行える試料ホ
ルダーとは上記試料1の両端を機械的に固定するものである。その固定は2枚の金属片2
で試料1を挟み、ネジ3で締め付ける構造になっており、この金属片2は試料1に電源4
から通電する際の電極としての役割も持っている。
【実施例1】
【0049】
その後、真空ポンプを用いて反応容器の真空度を1×10-5Pa以下にして、C12A7
:e-の板に電流を流し緩やかに1K/秒で昇温することで、C12A7:e-の板及び
試料ホルダーに大気中で吸着した不純物を取り除いた。最終的に10Aの電流をC12A
7:e-の板に流し1000℃で10分間加熱保持し、その後-5K/秒となるように電
流を調節し、室温まで冷却した。この加熱保持により板の最表面までC12A7:e-本
来の導電性を回復させた。
【実施例1】
【0050】
<導電性マイエナイト型化合物による二酸化炭素の吸着>
次に、室温にて上記のC12A7:e-の板が設置してある反応容器にリーク弁を介して
二酸化炭素を導入し、C12A7:e-の板に二酸化炭素を吸着させた後、再び真空ポン
プを用いて反応容器内に残留した二酸化炭素を除去して二酸化炭素の吸着量を見積もった
。2L(Langmuir:1×10-6torrのガス雰囲気に1秒間暴露することを1
Lとする単位)以上の二酸化炭素の導入で最小見積もりで試料の全表面原子数の1/30
吸着した。
【実施例1】
【0051】
<導電性マイエナイト型化合物からの二酸化炭素と一酸化炭素の脱離>
反応容器内に残留した二酸化炭素を除去した後、C12A7:e-の板を通電加熱し、0
.5K/秒で1000℃まで昇温して、脱離してくるガス種及び相対量を四重極質量分析
計で測定し、また、反応容器内の真空度の変化から脱離してくるガスの絶対量を測定し、
それぞれ、C12A7:e-の板の加熱温度との関係を調べた。
【実施例1】
【0052】
C12A7:e-の板の温度が90℃付近から二酸化炭素(CO2)、130℃付近から
一酸化炭素(CO)及び原子状酸素(O)の脱離を確認した。CO及びOは1000℃ま
での昇温で脱離が完了しなかったが1000℃までの脱離量の相対比はCO2:CO:O
=1:8:2であり、脱離ガスの絶対量は脱離ガス分子の総数で約3×1012個(約1×
1013個/cm2)であった。
【実施例1】
【0053】
なお、反応容器は超高真空(~1×10-6Pa以下)にしても排気が追いつかないCO2
とCOが残留してしまうので、単にそれらが吸着しただけではないことを確認するために
、上記と同様の操作を二酸化炭素を構成する酸素を安定同位体である18Oで置換したC18
2で行ったところ、脱離ガスの成分がC182、C18O、18Oに変化した。図1は、0.
5K/秒で1000℃まで昇温した際のC182、C18O、18Oの脱離量の温度依存性で
ある。
【実施例2】
【0054】
反応容器に導入する二酸化炭素を低濃度のものに変更した以外は実施例1と同じ条件で
実施した。反応容器にリーク弁を介して二酸化炭素を1容積%含む乾燥酸素、又は二酸化
炭素を1容積%含む乾燥窒素を導入し、C12A7:e-の板に二酸化炭素を吸着させた
後、真空ポンプを用いて反応容器に残留する該乾燥酸素又は該乾燥窒素を除去した。
【実施例2】
【0055】
二酸化炭素を1容積%含む乾燥酸素、又は二酸化炭素を1容積%含む乾燥窒素のいずれの
気体を導入した場合においても、C12A7:e-の温度が90℃付近から二酸化炭素(
CO2)、130℃付近から一酸化炭素(CO)及び原子状酸素(O)の脱離を確認した

【実施例3】
【0056】
実施例1において、加熱温度の上限を1000℃から500℃に変更してCO2吸着-昇
温脱離(5K/秒)の操作を10回繰り返したところ、500℃までの二酸化炭素と一酸
化炭素の脱離量の相対比、及び脱離ガスの絶対量に際立った変化は見られなかった(図2
参照)。図2に、1回目と10回目のスペクトルのグラフを示す。ここで、10回目は9
00℃まで上昇させており、スペクトルはその一部を示している。
【実施例4】
【0057】
実施例1の導電性C12A7:e-の板に代えて粉末を用いた。
<導電性マイエナイト型化合物の準備>
CaCO3及びAl23の各粉末をCaとAlの割合が11:7となるように混合し、ア
ルミナ坩堝中にて1300℃で6時間加熱した。得られた粉末をシリカガラス管内に挿入
し1×10-4Paの真空中で1100℃で15時間加熱した。これにより得た粉末3gを
、シリカガラス管内に金属Ca粉末0.18gとともに挿入し、700℃で15時間加熱
することにより内部を金属Ca蒸気雰囲気として、伝導電子濃度が約2×1021cm-3
C12A7:e-の粉末を得た。得られたC12A7:e-粉末の伝導電子濃度は、拡散
反射スペクトルを光吸収スペクトルに変換し、2.8eVの吸収バンドの強度から求めた

【実施例4】
【0058】
次に、C12A7:e-粉末をTaで作製した坩堝に入れ、真空中に設置したプレート型
アルミナセラミックスヒーター(坂口電熱(株)製MS-2)上に設置した。その後、ヒ
ーターに通電し、真空度が1×10-5Pa以上にならないように350℃で24時間加熱
することで、C12A7:e-粉末、坩堝及びヒーターに大気中で付着したガスを脱離さ
せた。
【実施例4】
【0059】
<導電性マイエナイト型化合物による二酸化炭素の吸着>
次に、室温にて上記の反応容器にリーク弁を介して二酸化炭素を導入し、C12A7:e
-の粉末に二酸化炭素を吸着させた後、真空ポンプを用いて反応容器内に残留した二酸化
炭素を除去した。
【実施例4】
【0060】
<導電性マイエナイト型化合物からの二酸化炭素と一酸化炭素の脱離>
その後、再びヒーターに通電しC12A7:e-の粉末を加熱し、300℃まで昇温して
、脱離してくるガス種を四重極質量分析計で測定したところ、一酸化炭素の脱離を確認し
た。
【実施例4】
【0061】
[比較例1]
実施例1のC12A7:e-の板の代わりに、電子を含まない化学当量組成のC12A7
単結晶の板を試料として用いて実施例1と同様の条件で操作を行った。実施例1と同様に
二酸化炭素の吸着が観察された。二酸化炭素を吸着した試料を加熱する際は、電子を含ま
ないC12A7単結晶は通電加熱が出来ないのでシリコン単結晶とC12A7単結晶を接
合してヒーターとして通電した。C12A7:e-と同等のCO2(C182)の脱離が観
測されたがCO(C18O)の脱離は観測されなかった。
【実施例4】
【0062】
[比較例2]
比較例1のC12A7単結晶の板の代わりに、電気伝導度が小さい1×1018cm-3の電
子を含む化学当量組成のC12A7薄膜試料を用いて比較例1と同様の条件で操作を行っ
た。実施例1と同様に二酸化炭素の吸着が観察された。二酸化炭素を吸着した試料を加熱
すると実施例1と同等のCO2(C182)の脱離が観測されたがCO(C18O)の脱離は
観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法は、カルシウム、アルミニウム、酸素といったクラーク数上位の元素のみか
らなる安価な無毒性の化合物を繰り返し使用し、金属化合物や水素等の還元剤を使用する
ことなく、二酸化炭素を還元し、高効率で一酸化炭素を生成することを可能とする。さら
に、本発明の方法は、二酸化炭素が排気ガスや大気などに混入している場合でも選択的に
二酸化炭素を化学吸着して、還元できることから二酸化炭素を含有する様々なガスに適用
できる。また、一酸化炭素は、燃料やC1化学の重要な原料化合物であるので、本発明の
方法は、二酸化炭素排出量の削減以外にも二酸化炭素の資源化に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2