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明細書 :糸状菌の高密度培養株を用いた有用物質生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6132847号 (P6132847)
登録日 平成29年4月28日(2017.4.28)
発行日 平成29年5月24日(2017.5.24)
発明の名称または考案の名称 糸状菌の高密度培養株を用いた有用物質生産方法
国際特許分類 C12P   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
FI C12P 1/02 ZNAZ
C12P 1/02 A
C12N 15/00 A
C12N 1/14 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 24
出願番号 特願2014-545784 (P2014-545784)
出願日 平成25年11月8日(2013.11.8)
国際出願番号 PCT/JP2013/080352
国際公開番号 WO2014/073674
国際公開日 平成26年5月15日(2014.5.15)
優先権出願番号 2012247276
優先日 平成24年11月9日(2012.11.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年3月24日(2016.3.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】阿部 敬悦
【氏名】五味 勝也
【氏名】吉見 啓
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】藤井 美穂
参考文献・文献 Journal of Bacteriology,1977年,vol.132, no.2,p.650-656
Eukaryotic Cell,2012年,vol.11, no.1,p.26-29
日本農芸化学会大会講演要旨集,2011年,vol.2011,p.95
日本農芸化学会大会講演要旨集,2013年 3月 5日,vol.2013,p.1626,講演番号:3B13p15
調査した分野 C12P 1/00 - 41/00
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を培養して、当該糸状菌に物質を生成させる工程、及び
得られた物質を回収する工程
を含む、物質生産方法であって、
前記α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を培養して、当該糸状菌に物質を生成させる工程を液体培地で行い、かつ前記物質がα-1,3-グルカン、β-1,3-グルカン、ポリガラクトース、グルコース、ガラクトース、グルコサミン、アミノ酸、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン及びキチン以外の物質である、方法
【請求項2】
前記変異型糸状菌がα-1,3-グルカン合成酵素agsの少なくとも2つを欠損しており、かつ少なくともagsBが欠損している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糸状菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ属、セファロスポリウム属、又はアクレモニウム属に属する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
糸状菌が、アスペルギルス ニドランス、アスペルギルス オリゼ、アスペルギルス ニガー、又はアスペルギルス フミガタスである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
糸状菌がアスペルギルス オリゼである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記物質がペニシリン、スタチン類、セファロスポリン、麹酸、クエン酸及びリンゴ酸からなる群より選択される少なくとも一種の低分子化合物;アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ペプチターゼ、エステラーゼ及び酸化酵素からなる群より選択される少なくとも一種の高分子化合物;有機酸、色素、農薬原体からなる群より選択される少なくとも一種の化成品;ならびに医薬品として用いられる物質からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2012年11月9日に出願された、日本国特許出願第2012-247276号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
本発明は、糸状菌を用いた有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸状菌とは、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されているものの総称であり、有機酸、色素、農薬原体等の化成品、ペニシリン、スタチン類等の医薬品等の低分子化合物;アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの産業用酵素等の発酵生産に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、グルコース含有溶液に好熱性菌由来β-グルコシダーゼを添加し、縮合反応により2糖類含有溶液を製造する工程、および2糖類含有溶液を含む培地を使用して糸状菌培養によりセルラーゼを製造する工程を含む、セルラーゼの製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、真菌ペプチドをプロセシングしてC-末端からペプチドおよび/またはN-末端からペプチドを切除して、ホスホリパーゼ活性をもつ特定のアミノ酸配列からなるコアペプチドを生成せしめる工程を含むホスホリパーゼの製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3~7には、糸状菌による物質生産の効率化を目的に、糸状菌を宿主として機能するように構築された発現ベクター、また該発現ベクターに同種または異種タンパク質をコードする遺伝子が機能的に連結されてなるプラスミドを糸状菌へ導入し形質転換体を作成する方法、さらに該形質転換体の利用がアミラーゼ、セルラーゼ等の酵素や、ペニシリン等の低分子化合物の増産に資すること、が記載されている。
【0006】
上記のように、糸状菌は、多種多様な有用物質を生産できるという利点を有する。しかし、糸状菌は、その液体培養工程において、菌糸が絡まり塊状に集塊し、高密度培養ができないという問題、有用物質の生産量が低下するという問題、有用物質の生産工程の煩雑化という問題を発生し、様々な視点から解決が試みられている(例えば、特許文献8~9)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-227032
【特許文献2】特開2010-172343
【特許文献3】特開2001-46078
【特許文献4】特開2005-52116
【特許文献5】特開2009-118783
【特許文献6】特表平11-506025
【特許文献7】特表2007-508022
【特許文献8】特開2002-218970
【特許文献9】特開2010-227031
【特許文献10】特再公表2010-107126
【特許文献11】特開2010-220590
【0008】

【非特許文献1】Hogan, L. H., et al (1994) Altered expression of surface α-1,3-glucan in genetically related strains of Blastomyces dermatitidis that differ in virulence. Infect. Immun. 62:3543-3546.
【非特許文献2】Rappleye, C.A., et al (2004) RNA interference in Histoplasma capsulatumdemonstrates a role for a-(1,3)-glucan in virulence. Mol. Microbiol. 53: 153-165.
【非特許文献3】Beauvais, A., et al (2005) Two α(1-3) Glucan Synthases with Different Functions in Aspergillus fumigates. Appl. Environ. Microbiol. 71: 1531-1538.
【非特許文献4】Maubon, D., et al (2006) AGS3, an α(1-3)glucan synthase gene family member of Aspergillusfumigatus, modulates mycelium growth in the lung of experimentally infected mice. Fungal Genet. Biol. 43:366-375.
【非特許文献5】Henry C., et al (2011) α1,3 glucansare dispensable in Aspergillus fumigatus. Eukariot. Cell 11: 26-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、糸状菌を高密度培養し、それにより有用物質を大量生産することを可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の状況の下、鋭意研究した結果、α-1,3-グルカンを発現しない糸状菌の変異株を用いた場合、培養の際の菌体の凝集が有意に抑制されて培地中に菌体が均一に分散し、高密度培養が可能となることを見出した。さらに、かかる変異株を用いた場合、有用物質の単位体積当たりの生産量を向上できることを見出した。本発明は、かかる新規の知見に基づく。
【0011】
α-1,3-グルカンは、糸状菌の細胞壁の主要な構成要素の1つであるほか、病原性の発現への関与も知られている。細胞壁中α-1,3-グルカンの変動と病原性発現との関係から病原性発現機序を調べる研究では、グルカン合成酵素遺伝子破壊株の作成、またはグルカン合成酵素遺伝子発現を抑制すること、によって細胞壁中α-1,3-グルカン量を変化させ、その変動と病原性発現の関係から、病原性発現機序の解明が試みられてきた(例えば、非特許文献1~4)。またα-1,3-グルカンを標的分子とする薬剤に関する技術提案(特許文献10)や、α-1,3-グルカンを標的とする創薬シーズをスクリーニングする方法においてグルカン合成酵素遺伝子の発現量変動を指標に用いるという技術提案(特許文献11)、などがなされてきたが、α-1,3-グルカンを発現しない菌を物質の増産に利用するという着想ならびに技術開発は行われてこなかった。
【0012】
従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を培養して、当該糸状菌に物質を生成させる工程、及び
得られた物質を回収する工程
を含む、物質生産方法。
【0013】
項2.前記変異型糸状菌がα-1,3-グルカン合成酵素agsの少なくとも一つを欠損している、項1に記載の方法。
【0014】
項3.糸状菌が、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ属、セファロスポリウム属、又はアクレモニウム属に属する、項1又は2に記載の方法。
【0015】
項4.糸状菌が、アスペルギルス ニドランス、アスペルギルス オリゼ、アスペルギルス ニガー、又はアスペルギルス フミガタスである、項3に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、糸状菌の液体培養において、菌糸の絡まり及び菌体の凝集が抑制されるため、高密度培養が可能になる。従って、有用物質の単位体積当たりの生産量を飛躍的に上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、製造例3における定量RT-PCRでのagsA遺伝子及びagsB遺伝子の発現を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1における培養後の乾燥菌体重量のグラフを示す。
【図3】図3は、実施例1及び比較例1における培養後のフラスコ写真を示す。
【図4】図4は、実施例1及び比較例1での各グルコース濃度、各菌株における培養液中の菌体量、グルコース残量及びpHの推移を示す。
【図5】図5は、実施例2及び比較例2における培養後の乾燥菌体重量のグラフを示す。
【図6】図6は、実施例3及び比較例3における培養後の乾燥菌体重量及びペニシリン濃度のグラフを示す。
【図7】図7は、実施例4及び比較例4における乾燥菌体重及びアミラーゼ活性の推移を示す。
【図8】図8は、異種タンパク質を高発現するΔagsB株の設計の概略を示す。
【図9】アスペルギルス ニドランスのagsAの推定アミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【図10】アスペルギルス ニドランスのagsAをコードする核酸分子の塩基配列(イントロン含む)(配列番号2)を示す。
【図11】アスペルギルス ニドランスのagsAをコードする核酸分子の塩基配列(イントロン含む)(配列番号2)を示す。
【図12】アスペルギルス ニドランスのagsAをコードする核酸分子の塩基配列(イントロン含む)(配列番号2)を示す。
【図13】アスペルギルス ニドランスのagsBの推定アミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【図14】アスペルギルス ニドランスのagsBをコードする核酸分子の塩基配列(イントロン含む)(配列番号4)を示す。
【図15】アスペルギルス ニドランスのagsBをコードする核酸分子の塩基配列(イントロン含む)(配列番号4)を示す。
【図16】実施例7におけるags破壊株作製の概略を示す。
【図17】実施例7におけるags破壊用ベクター導入の概略を示す。
【図18】実施例7における二重破壊株、三重破壊株作製の概略を示す。
【図19】実施例7、比較例7における麹菌の野生株およびAGS三重破壊株(asgA△agsB△agsC△ 株)の培養性状を示す。
【図20】アスペルギルス オリゼのagsAの推定アミノ酸配列(配列番号27)を示す。
【図21】アスペルギルス オリゼのagsAの塩基配列(配列番号28)を示す。
【図22】アスペルギルス オリゼのagsAの塩基配列(配列番号28)を示す。
【図23】アスペルギルス オリゼのagsBの推定アミノ酸配列(配列番号29)を示す。
【図24】アスペルギルス オリゼのagsBの塩基配列(配列番号30)を示す。
【図25】アスペルギルス オリゼのagsBの塩基配列(配列番号30)を示す。
【図26】アスペルギルス オリゼのagsCの推定アミノ酸配列(配列番号31)を示す。
【図27】アスペルギルス オリゼのagsCの塩基配列(配列番号32)を示す。
【図28】アスペルギルス オリゼのagsCの塩基配列(配列番号32)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、
α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を培養して、当該糸状菌に物質を生成させる工程、及び
得られた物質を回収する工程
を含む、物質生産方法
を提供する。

【0019】
糸状菌変異株
本発明において、「α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌」とは、糸状菌の変異株であって、α-1,3-グルカンを全く発現しないものだけでなく、α-1,3-グルカンを実質的に発現しないものも包含する。より具体的には、α-1,3-グルカンを実質的に発現しない変異株とは、ごくわずかにα-1,3-グルカンを発現するにとどまり、本発明の効果である菌体の凝集が有意に抑制されている変異株を示し、例えば、α-1,3-グルカンの発現量が野生株の30%以下、より好ましくは野生株の10%以下である株等が挙げられる。

【0020】
糸状菌としては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、アクレモニウム(Acremonium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属等が挙げられる。これらのうち、アスペルギルス属がより好ましい。本発明において用いるアスペルギルス属の糸状菌としては、例えば、アスペルギルス ニドランス(Aspergillus nidulans))、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)等が挙げられ、アスペルギルス ニドランス、アスペルギルス オリゼ、またはアスペルギルス ニガーが好ましい。

【0021】
本発明の方法は、糸状菌の変異株であって、α-1,3-グルカンを発現しないものを用いることを特徴とする。かかる変異型糸状菌としては、α-1,3-グルカン合成酵素agsの少なくとも一つを欠損しているものが挙げられる。α-1,3-グルカン合成酵素agsとしては、アスペルギルス ニドランスのagsA(Genbank accession No. XM_658397)、agsB(Genbank accession No. XM_655819)、アスペルギルス オリゼのagsA、agsB、agsC、アスペルギルス フミガタスのags1(Genbank accession No. XM_743319)、アスペルギルス ニガーのagsE(Genbank accession No.AY530790)、ペニシリウム クリソゲナムのagsB(Genbank accession No.AY530792)、などが挙げられる。ここで、アスペルギルス オリゼのagsA、agsB、agsCは、アスペルギルスデータベースAspGD(http://www.aspergillusgenome.org)に、遺伝子番号agsA(AO090026000523)、agsB(AO090003001500)、agsC(AO090010000106)で登録されている。アスペルギルス ニドランスのagsAのアミノ酸配列(配列番号1)を図9に、アスペルギルス ニドランスのagsAをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号2)を図10~12に示す。また、アスペルギルス ニドランスのagsBのアミノ酸配列(配列番号3)を図13に、アスペルギルス ニドランスのagsBをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号4)を図14~15に示す。アスペルギルス オリゼのagsAのアミノ酸配列(配列番号27)を図20に、アスペルギルス オリゼのagsAをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号28)を図21~22に示す。アスペルギルス オリゼのagsBのアミノ酸配列(配列番号29)を図23に、アスペルギルス オリゼのagsBをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号30)を図24~25に示す。アスペルギルス オリゼのagsCのアミノ酸配列(配列番号31)を図26に、アスペルギルス オリゼのagsCをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号32)を図27~28に示す。変異型糸状菌としては、これらのα-1,3-グルカン合成酵素の1つ又は2つ以上を欠損しているものが挙げられる。本発明において、糸状菌としてアスペルギルス ニドランスを用いる場合、少なくともagsBを欠損している株が好ましい。

【0022】
本発明において、α-1,3-グルカン合成酵素agsの欠損とは、ゲノム中のα-1,3-グルカン合成酵素のコード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。また、α-1,3-グルカン合成酵素agsの欠損には、上記コード領域への所定の核酸分子の付加、欠失及び置換だけでなく、α-1,3-グルカンが一定の条件下でのみ発現されるように設計された、コンディショナルな遺伝子欠損も含まれる。従って、本発明の方法には、上記コンディショナルな遺伝子欠損のされた変異株を、α-1,3-グルカンが発現しない条件下で培養する工程を含む方法も含まれる。

【0023】
本発明の方法を糸状菌が本来産生能を有するアミラーゼ、セルラーゼ等の酵素、ペニシリン等の低分子化合物等の有用物質の生産に用いてもよいが、本発明の方法においては、糸状菌が本来産生能を有する有用物質の発現を増強する、又は糸状菌が本来産生能を有さない物質を発現するように形質転換を行ってもよい。かかる形質転換方法としては、糸状菌を宿主とできるように構築された発現ベクターと、該発現ベクターに同種または異種タンパク質をコードする遺伝子を機能的に連結して構築されるプラスミドを利用する、自体公知の方法(例えば特開2001-46078号公報、特開2005-52116号公報、特開2009-118783号公報、特表平11-506025号公報、特表2007-508022号公報に記載の方法)を用いることが可能である。

【0024】
かかる変異株の作製方法としては、自体公知の方法(例えば、非特許文献2~5に記載の方法)を適宜用いて、例えば、α-1,3-グルカン遺伝子の破壊カセットの構築及びゲノム遺伝子への当該カセットの導入等により行うことができる。

【0025】
本発明により製造することができる有用物質としては、特に限定されず、例えば、ペニシリン、スタチン類、セファロスポリン、麹酸、クエン酸、リンゴ酸等の低分子化合物;アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ペプチターゼ、エステラーゼ、酸化酵素等の高分子化合物等が挙げられる。また有用物質としては、上記以外にも、有機酸、色素、農薬原体等の化成品、医薬品として用いられる各種物質が挙げられる。また、本発明の方法は、バイオマスの分解によるバイオエタノールの生産(セルラーゼ等を高生産するよう遺伝子組換えをしたカビを使用するもの等)等にも応用が可能である。

【0026】
培養工程
本発明の方法は、α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を培養して、当該糸状菌に物質を生成させる工程を含む。当該工程で用いる培地としては、特に限定されず、糸状菌の培養に用いることができるものを広く使用することができる。例えば、CD最小培地、YPD培地、TSB培地、モルト培地、PDA培地等が挙げられる。上記培地には、炭素源として、グルコース、でんぷん、可溶性でんぷん等を添加してもよい。かかる炭素源の添加量としては特に限定されないが、例えば、0.5~10%、より好ましくは1~4%の範囲で適宜設定できる。培養温度は特に限定されず、20~45℃、より好ましくは25~37℃の範囲で適宜設定できる。培養時間も特に限定されないが、例えば、12~72時間、より好ましくは24~48時間の範囲で適宜設定できる。

【0027】
培養培地からの有用物質の回収方法としては、特に限定されず、自体公知の方法(遠心分離、再結晶、蒸留法、溶媒抽出法、クロマトグラフィー等)を適宜用いることができる。
【実施例】
【0028】
製造例1 agsA遺伝子の破壊カセットの構築
agsA遺伝子の破壊カセットを構築するために、第1ラウンドのPCRで、5’非コード領域(アンプリコン1)及びコード領域(アンプリコン2)を含む遺伝子断片をA.nidulans ABPU1ゲノムDNAテンプレートから増幅し、pyrG遺伝子(アンプリコン3)をA.oryzaeゲノムDNAテンプレートから増幅した。アンプリコン1は、プライマーagsA-LU(5’-AGTGGAGGAGTTAGGGAGTGAT-3’(配列番号5))及びagsA-LL(5’-CACAGGGTACGTCTGTTGTGAAAGAGTAAGGTAGAAGCCCC-3’(配列番号6))を用いて増幅し、アンプリコン2は、agsA-RU(5’-TTCTTCTGAGGTGCAGTTCAGCAGATTATTACGCACCGGA-3’(配列番号7))及びagsA-RL(5’-AACCGTGGTTTTGGTGGCAAAG-3’(配列番号8))を用いて増幅し、アンプリコン3は、agsA-PU(5’-TACCTTACTCTTTCACAACAGACGTACCCTGTGATGTTC-3’(配列番号9))及びagsA-PL(5’-GTAATAATCTGCTGAACTGCACCTCAGAAGAAAAGGATG-3’(配列番号10))を用いて増幅した。プライマーagsA-LU、agsA-RU、agsA-PU及びagsA-PLは、それぞれPCRフュージョンの逆相補的配列を含む、キメラオリゴヌクレオチドである。得られた3つのPCR産物をゲル精製し、agsA-LU及びagsA-RLを用いる第2ラウンドのPCRの基質として使用した。当該第2ラウンドのPCRにより、第1ラウンドで得られた3つのフラグメントを融合して、破壊カセットを作製した。全てのPCR反応は、Gene Amp PCR System 9700(Appied Biosystems、CA、USA)及びPrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。得られたPCR産物をゲル精製し、ABPU1株の形質転換に用いた。
【実施例】
【0029】
製造例2 agsB遺伝子の破壊カセットの構築
第1ラウンドのPCRで、プライマーagsB-LU(5’-GCAATGAGAGCTGGAATCAGTG-3’ (配列番号11))及びagsB-LL(5’-TGAGTCGGCCACAGCGGATGGAATTCGTCGTCTGGCTGTGAGTGTAAC-3’ (配列番号12))(アプリコン1用)、agsB-RU(5’-TCTTCCAGTTACTCCGTCGGTACCCAGCAACATGCTGGCCATACGAC-3’ (配列番号13))及びagsB-RL(5’-AAAGTCCTGGGTCTCTTCGTTC-3’ (配列番号14))(アプリコン2用)、及びagrB-F(5’-GAATTCCATCCGCTGTGGCCGACTCA-3’ (配列番号15))及びagrB-R(5’-GGTACCGACGGAGTAACTGGAAAGATACGA-3’ (配列番号16))(アプリコン3用)を用い、第2ラウンドのPCRで、プライマーagsB-LU及びagsB-RLを用いる以外、上記製造例1と同様にして、agsB遺伝子の破壊カセットを構築した。
【実施例】
【0030】
製造例3 変異株の作製及びα-1,3-グルカン発現量の測定
agsAおよびagsB遺伝子欠失破壊のための形質転換はプロトプラスト-PEG法を改良した方法を用い、形質転換するDNA断片は、上記で作製したagsAおよびagsB遺伝子欠失破壊用DNA断片を用いた。アスペルギルス ニドランスABPU1 ΔligD::ptrA(ビオチン(biA1)、アルギニン(argB2)、ウリジン(pyrG89)、ピリドキシン(pyroA4)要求性株(東北大学大学院農学研究科・藤岡智則博士より供与))の分生子懸濁液をYPD培地に植菌し、37℃、20時間振盪培養した。17G1滅菌済ガラスフィルターを用いて集菌後、菌体を50 ml容の遠心チューブに移し、滅菌水で洗浄した。その後、菌体を30 mlのプロトプラスト化溶液(0.8M NaCl、10mM NaH2PO4、10mg/ml Lysingenzyme (Sigma Chemical社製)、5mg/ml Cellulase Onozuka R-10 (Yakult Pharmaceutical Ind.社製)、2.5mg/ml Yatalase (タカラバイオ社製)を加え懸濁し、30℃、90rpm、3時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌したMIRACLOTH(CALBIOCHEM社製)にて濾過し、濾液中のプロトプラストを3,000×g、4℃、5分間遠心分離して沈澱として得た。0.8M NaClにて1回プロトプラストを洗浄し、3,000×g、4℃、5分間遠心分離して沈澱させた。このプロトプラストをSolution 1(0.8M NaCl、10mM CaCl2、10mM Tris-HCl、pH8.0)で懸濁した。プロトプラスト懸濁液を200μlずつ15ml容の遠心チューブに移し、それぞれにSolution 2(40%(w/v) PEG♯4000、 50mM CaCl2、50mM Tris-HCl、pH8.0)40μlと前述の形質転換用DNA溶液各5μl(DNA量として5μg)を加えよく混合し、氷中で30分間放置した。1 mlのSol.2を加え混合し、室温で20分間放置した。5mlのSol.1で2回洗浄し、Sol.2をなるべく取り除いた。agsA破壊株の選抜の場合は、50℃に温めておいた終濃度0.02μg/mlのビオチン、0.2mg/mlのアルギニン、0.5μg/mlのピリドキシンを添加したCzapek-Dox(CD)軟寒天培地にプロトプラスト縣濁液を加え混合し、終濃度0.02μg/mlのビオチン、0.2mg/mlのアルギニン、0.5μg/mlのピリドキシンを添加したCD寒天培地に重層した。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。形質転換体からのagsA破壊株の選択は以下のプライマー(5’- GTACGGTGTAAGCTGCTCGCTGGAC-3’(配列番号17)、5’- TCCTGGATCTTGTAAACTGAGTCTC-3’(配列番号18))を用いて形質転換体のゲノムDNAに対してPCRを行い、約6,200bpの増幅断片のみがみられたものをagsA破壊候補株とし、最終的に定量RT-PCRによりagsA遺伝子が発現していないことを確認した(図1)。agsB破壊株の選抜の場合は、50℃に温めておいた終濃度0.02μg/mlのビオチン、5mMのウリジン、10mMのウラシル、0.5μg/mlのピリドキシンを添加したCzapek-Dox(CD)軟寒天培地にプロトプラスト縣濁液を加え混合し、終濃度0.02μg/mlのビオチン、5mMのウリジン、10mMのウラシル、0.5μg/mlのピリドキシンを添加したCD寒天培地に重層した。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。形質転換体からのagsB破壊株の選択は以下のプライマー(5’-AGGAAAGACTGTTGGATGAG-3’(配列番号19)、5’-GACTTATTCGTGTTGACGTTGTA-3’(配列番号20))を用いて形質転換体のゲノムDNAに対してPCRを行い、約5,150bpの増幅断片のみがみられたものをagsB破壊候補株とし、最終的に定量RT-PCRによりagsB遺伝子が発現していないことを確認した(図1)。
【実施例】
【0031】
実施例1、比較例1
上記製造例で得られたΔagsB株を下記培養条件で培養し、培養後12時間毎に、培養液中の菌体量、グルコース残量及びpHを測定し、培養後の乾燥菌体重量を測定した(実施例1)。ΔagsB株の代わりに野生株を用いる以外、同様にして、培養後の乾燥菌体重を測定した(比較例1):
培養条件
・培地: CD最小培地 200ml ( 500 ml バッフル付フラスコ )
・培養温度: 37.0 ℃
・培養時間: 72hr
・回転数: 160 rpm
・分生子数: 108 個/L
・炭素源:グルコース濃度 2% または 4%
・試行回数: 5 回。
結果を図2~図4に示す。
【実施例】
【0032】
図2は、培養後の乾燥菌体重量を示す。図2に示されるように、液体培養において、野生株よりΔagsB 株の菌体量は増加する。また、ΔagsB株では、グルコース濃度4%のほうが2%時に比べて菌体量が増加している。図3は、グルコース濃度2%での上記試験後のフラスコの写真を示す。図3に示されるように、ΔagsB株は、液体培地中に均一に増殖しているが、野生株は凝集してしまっている。図4は、各グルコース濃度、各菌株における培養液中の菌体量、グルコース残量及びpHの推移を示す。野生株は、グルコース2%、4%のいずれにおいても、培養液中の菌体量は、4%程度で増加が止まってしまっている。これに対し、ΔagsB株では、グルコース2%では60時間付近でグルコースが枯渇しているが、グルコース4%ではグルコースが枯渇せず、菌体重も増加し続けている。
【実施例】
【0033】
図2~4から、野生株では凝集により、菌体量が一定以上増加できなくなっていること、一方、ΔagsB株では培養液中に均一に増殖し、野生株よりも大幅に菌体量を増殖させることができることが分かる。
【実施例】
【0034】
実施例2、比較例2
上記製造例で得られたΔagsB株(実施例2)及び野生株(比較例2)をそれぞれ、ジャー型培養装置により下記培養条件で培養し、培養後の乾燥菌体重量を測定した:
培養条件
・培地: CD培地 3 L
・培養温度: 37.0 ℃
・培養時間:48hr
・回転数 : 300 rpm
・分生子数: 108 個/L
・炭素源:グルコース濃度 2%
・加圧量: 0.3 MPa
・試行回数: 各5 回
結果を図5に示す。図5に示されるように、ジャー型培養装置においても、野生株よりΔagsB 株の菌体量は大幅に増加する。
【実施例】
【0035】
実施例3、比較例3
低分子化合物の生産能の評価として、ペニシリン生産量を測定した。
【実施例】
【0036】
具体的には、まず、上記製造例で得られたΔagsB株(実施例3)及び野生株(比較例3)を下記培養条件で培養した:
培養条件
・培地: YPD培地 100mL(200mL フラスコ)
・培養温度: 37 ℃
・培養時間:48hr
・回転数 : 160 rpm
・分生子数: 107 個/100mL
・炭素源:グルコース濃度 2%
培養液を遠心分離し、培養上清をペーパーディスクに塗布し、ペニシリンアッセイ用標準菌体に対する阻止円の直径を測定することにより、ペニシリン生産量を測定した。具体的には、ペニシリンアッセイ用標準菌株であるBacillus stearothermophilusvar. calidolactis(NBRC 100862:独立行政法人 製品評価技術基盤機構より分譲を受けた)を最終濁度O.D.=0.1となるように3%の Tryptic soy broth(Becton, Dickinson and Company社製)寒天培地に混ぜ込み、シャーレ中央に置いた滅菌済ペーパーディスクに100μlの培養上清をしみ込ませた。シャーレを55℃で16時間培養し、ペニシリンアッセイ用標準菌株が生育できない阻止円の直径を計測した。ペニシリンの定量は、市販のペニシリンG(SIGMA社製)を0.01、0.025、0.05、0.1μg/mlに調整し、同様にペーパーディスクに塗布して得られた阻止円の直径から算出した。ペニシリン生産量は、野生株で15.9ng/mlであったのに対し、ΔagsB株で58.6ng/mlと大幅にペニシリンの生産量が増加した(図6)。
【実施例】
【0037】
また、遠心分離により得られた沈殿物を用いて乾燥菌体重量測定を行った。乾燥菌体重は、野生株で175.7mgに対し、ΔagsB株で227.6mgと約1.3倍に菌体量も増加していた(図6)。
【実施例】
【0038】
実施例4、比較例4
高分子化合物の生産能の評価として、アミラーゼ生産量を測定した。
【実施例】
【0039】
具体的には、上記製造例で得られたΔagsB株(実施例4)及び野生株(比較例4)を下記培養条件で培養した:
培養条件
・培地: CD最小培地 200mL(500mL フラスコ)
・培養温度: 37 ℃
・培養時間:48hr or 36hr
・回転数 : 160 rpm
・分生子数: 107 個/100mL
・炭素源:でんぷん2% or 可溶性でんぷん2%
培養液から菌体を濾過し、培養上清のアミラーゼ活性を測定した。具体的には、培養開始24時間、36時間、48時間(でんぷん添加条件のみ)経過時の菌体をMIRACLOTH(CALBIOCHEM社製)にて濾過し、培養濾液のアミラーゼ活性をα-アミラーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)にて測定した。測定法は付属の取扱説明書に従い、培養上清中のアミラーゼ活性を1U = N3-G5-β-CNP から 1 分間に1 μ molのCNPが遊離する力価として評価した。また、濾過した菌体を凍結乾燥し、乾燥菌体重量測定を行った。結果を図7に示す。
【実施例】
【0040】
図7から明らかなように、ΔagsB株は、でんぷん添加条件及び可溶性でんぷん添加条件のいずれにおいても、野生株と比較して約2倍もの高いアミラーゼ活性を示すことが分かる。
【実施例】
【0041】
実施例5、比較例5
麹菌アミラーゼ高発現ベクターの作製法(図8)
麹菌ゲノムDNAより、PCR反応によりアミラーゼ遺伝子を増幅し、アスペルギルス ニドランスのagdA遺伝子のターミネーターと接続し、このDNA断片をAoamyB-agdAtとした。アミラーゼ遺伝子の増幅には、PCRプライマーとしてAoamyB-Not I-F(配列:5’- TGAATTCGCGGCCGCTATTTATGATGGTCGCGTGGTG-3’(配列番号21))およびAoamyB-R+(配列: 5’-CTTCTTGAGTGAGCTCACGAGCTACTACAGATCT-3’(配列番号22))を用い、agdA遺伝子のターミネーターの増幅には、PCRプライマーとしてTagdA-Xx-F(配列: 5’-TGTAGTAGCTCGTGAGCTCACTCAAGAAGCGTAACAGGATAGCCT-3’ (配列番号23))およびTagdA-XbaI-R(配列: 5’-GCTATCTAGAGGCCTGCAGGAGATC-3’ (配列番号24))を使用した。AoamyB-Not I-Fには制限酵素のNot Iの認識配列が付加されている(下線部)。また、TagdA-Xx-FにはAoamyB遺伝子の配列の一部とオーバーラップする配列が付加されており(下線部)、TagdA-XbaI-Rには制限酵素のXba Iの認識配列が付加されている(下線部)。AoamyB-Not I-FおよびAoamyB-R+を用いて増幅した遺伝子断片(AoamyB断片)とTagdA-Xx-FおよびTagdA-XbaI-Rを用いて増幅した遺伝子断片(agdAt断片)の接続にはヒュージョンPCR法を用いた。これはAoamyB断片およびagdAt断片の混合物をテンプレートとし、AoamyB-Not I-FおよびTagdA-XbaI-Rを用いてPCR反応を行う方法で、両遺伝子断片を接続することができる方法である。接続したDNA断片AoamyB-agdAtは、制限酵素のNot IおよびXba Iで消化し、pNA(N)EGFP(Furukawa et al. Biosci. Biothechnol. Biochem.,71(7), 1724-1730, 2007)のNot I、Xba Iサイトに導入した。pNA(N)EGFPは、アスペルギルス ニドランス内での選択マーカーとしてオーレオバシジン耐性遺伝子(auAr)を持つベクターであり、これをNot IおよびXba Iで消化したものを遺伝子導入に用いた。DNA断片AoamyB-agdAtを導入したプラスミドpNA(N)AoamyBは制限酵素のNot Iで消化した後、Bacterial alkaline phosphatase(BAP)(Takara社製)処理を行い、アスペルギルス ニドランスで強発現するプロモーターAnenoApを導入した。AnenoApはアスペルギルス ニドランスのゲノムDNAから、PCRプライマーPenoA-F(配列:5’-TGGTAAGAGTCGTCATATCGAG-3’ (配列番号25))およびPenoA-Not I-R(配列:5’-TAGCGGCCGCGAATTCGATGAACTAGAAGGATAGAG-3’ (配列番号26))を用いて増幅した。PenoA-Not I-Rには制限酵素のNot Iの認識配列が付加されており(下線部)、AnenoApの断片を一旦、プラスミドpZErOTM-2(Invitrogen社製)のEcoRVサイトに導入し、Not Iで切り出すことにより断片の両端にNot Iサイトが付加されたAnenoApの断片を得た。このAnenoApの断片をpNA(N)AoamyBのNot Iサイトに導入し、麹菌のアミラーゼを高発現するベクターpNAenoA::AoamyBとした。このベクターをアスペルギルス ニドランスのΔagsB株に導入することにより、異種タンパク質を高発現するΔagsB株を作製することができる。
【実施例】
【0042】
実施例6、比較例6
アミラーゼ高発現株においてアミラーゼ活性を測定した。具体的には、実施例5、比較例5に記載の方法で作製した麹菌のアミラーゼを高発現するベクターpNAenoA::AoamyBをAspergillus nidulans の野生株およびα-1,3-グルカンが欠損株した株(AG欠損株)に導入し、異種タンパク質を高発現する野生株およびAG欠損株を作製した。これらの株について、培養上清に分泌されるアミラーゼの量を測定した。
具体的には、AG欠損株及び野生株、アミラーゼ高発現AG欠損株及びアミラーゼ高発現野生株を下記培養条件で培養した:
培養条件
・培地: CD最小培地 50mL(200mL フラスコ)
・培養温度: 37 ℃
・培養時間:24 hr
・回転数 : 160 rpm
・分生子数: 107 個/100mL
・炭素源:2% マルトース培養液から菌体を濾過し、培養上清のアミラーゼ活性を測定した。具体的には、培養開始24時間経過時の菌体をMIRACLOTH(CALBIOCHEM社製)にて濾過し、培養濾液のアミラーゼ活性をα-アミラーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)にて測定した。測定法は付属の取扱説明書に従い、培養上清中のアミラーゼ活性を1U = N3-G5-β-CNP から1 分間に1 μ molのCNPが遊離する力価として評価した。結果を下記表1に示す。
【実施例】
【0043】
【表1】
JP0006132847B2_000002t.gif
【実施例】
【0044】
表1から明らかなように、アミラーゼ高発現AG欠損株は、アミラーゼ高発現野生株と比較して約6倍もの高いアミラーゼ活性を示すことが分かる。
【実施例】
【0045】
実施例7、比較例7
麹菌アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)においてα-1,3-グルカン合成酵素(AGS)遺伝子の三重破壊株を造成し、培養性状を比較した。
【実施例】
【0046】
麹菌のAGS遺伝子はゲノム中に3種類存在し、それぞれ、agsA(AO090026000523)、agsB(AO090003001500)、agsC(AO090010000106)と命名されている(遺伝子番号は、アスペルギルスデータベースAspGD(http://www.aspergillusgenome.org)に登録されている)。これら3種のAGS遺伝子について、Cre-loxPシステムを用いた多重遺伝子破壊法(Applied and Environmental Microbiology, Volume 78 Number 12 June 2012 p. 4126-4133参照)をもちいて3重遺伝子破壊株を造成した。上記3つの遺伝子が全て破壊されていることは、下記の方法により確認した。三重破壊株の作製試験の概略を図16~18に示す。具体的には、まず、各 ags 遺伝子の 5’上流領域と ags 遺伝子中の領域をPCR増幅した(図16(1))。ここで、5’上流領域のリバースプライマーと ags 遺伝子中のフォワードプライマーには、loxP 配列の相同領域が含まれている。また、破壊用プライマーの配列を表2に示す。
【実施例】
【0047】
【表2】
JP0006132847B2_000003t.gif
【実施例】
【0048】
次に、酵母の相同組換えシステムを利用し、麹菌内選択マーカー(adeA)を含む Cre 発現カセットと ags 遺伝子の 5’上流領域および ags 遺伝子中の領域を連結し、ags gene破壊用ベクターを構築した(図16(2))。次に、得られたags gene 破壊ベクターを麹菌の野生株(adeA△株)に導入した(図17(3))。キシロース(1%)入り培地に移し、Cre の発現を誘導した(図17(4))。この操作によりCre の働きにより、loxP 配列で組換えが起こる。それぞれの ags 遺伝子特異的なプライマーにより破壊を確認した(図17(5))。プライマー配列は表3に示す。
【実施例】
【0049】
【表3】
JP0006132847B2_000004t.gif
【実施例】
【0050】
次に、一重破壊株を宿主として、同様の方法で二重破壊株を作製した(図18(6))。具体的には、△agsA 株を宿主株とし、agsB とagsC をそれぞれ破壊した(△agsA△agsB、△agsA△agsC)。また、同様にして、△agsC 株を宿主株とし、agsB を破壊した(△agsC△agsB)。さらに、二重破壊株を宿主として、同様の方法で三重破壊株を作製した(図18(7))。具体的には、△agsA△agsB 株を宿主株とし、agsC を破壊した。
【実施例】
【0051】
次に、上記操作で作製したこの麹菌AGS三重破壊株について、液体培養時の培養性状を観察した。
具体的には、麹菌AGS三重破壊株及び野生株を下記培養条件で培養した:
培養条件
・培地: CD最小培地 50mL(200mL フラスコ)
・培養温度: 30 ℃
・培養時間:48 hr
・回転数 : 160 rpm
・分生子数: 107 個/100mL
・炭素源:2% グルコース または 2% マルトース
結果を図19及び表4に示す。
【実施例】
【0052】
【表4】
JP0006132847B2_000005t.gif
【実施例】
【0053】
図19に示すように、麹菌の野生株においても菌糸は凝集し粒状に生育するのに対し、麹菌AGS三重破壊株では菌糸の凝集性はあまり無く、比較的分散して生育する。また、炭素源をグルコースあるいはマルトースにした培地においても同様な結果が得られた。48時間培養後の菌体重を比較したところ、麹菌AGS三重破壊株は野生株と比較して菌体重量が増加していた(表4)。麹菌AGS三重破壊株の菌体重は野生株比130%に達しており、A. nidulansの場合と同じくAGS遺伝子の欠損により、高密度に培養できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、糸状菌を用いた物質生産方法において、有用物質の生産量を飛躍的に上昇させることができる。また、本発明の方法により生産することができる有用物質は、特に限定されず、多岐にわたるため、産業上、非常に有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0055】
配列番号5はプライマーである。
【0056】
配列番号6はプライマーである。
【0057】
配列番号7はプライマーである。
【0058】
配列番号8はプライマーである。
【0059】
配列番号9はプライマーである。
【0060】
配列番号10はプライマーである。
【0061】
配列番号11はプライマーである。
【0062】
配列番号12はプライマーである。
【0063】
配列番号13はプライマーである。
【0064】
配列番号14はプライマーである。
【0065】
配列番号15はプライマーである。
【0066】
配列番号16はプライマーである。
【0067】
配列番号17はプライマーである。
【0068】
配列番号18はプライマーである。
【0069】
配列番号19はプライマーである。
【0070】
配列番号20はプライマーである。
【0071】
配列番号21はプライマーである。
【0072】
配列番号22はプライマーである。
【0073】
配列番号23はプライマーである。
【0074】
配列番号24はプライマーである。
【0075】
配列番号25はプライマーである。
【0076】
配列番号26はプライマーである。
【0077】
配列番号33はプライマーである。
【0078】
配列番号34はプライマーである。
【0079】
配列番号35はプライマーである。
【0080】
配列番号36はプライマーである。
【0081】
配列番号37はプライマーである。
【0082】
配列番号38はプライマーである。
【0083】
配列番号39はプライマーである。
【0084】
配列番号40はプライマーである。
【0085】
配列番号41はプライマーである。
【0086】
配列番号42はプライマーである。
【0087】
配列番号43はプライマーである。
【0088】
配列番号44はプライマーである。
【0089】
配列番号45はプライマーである。
【0090】
配列番号46はプライマーである。
【0091】
配列番号47はプライマーである。
【0092】
配列番号48はプライマーである。
【0093】
配列番号49はプライマーである。
【0094】
配列番号50はプライマーである。
【0095】
配列番号33はプライマーである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27