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明細書 :食道癌の発症リスクを判定する方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6108571号 (P6108571)
登録日 平成29年3月17日(2017.3.17)
発行日 平成29年4月5日(2017.4.5)
発明の名称または考案の名称 食道癌の発症リスクを判定する方法及びキット
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2015-508225 (P2015-508225)
出願日 平成26年3月5日(2014.3.5)
国際出願番号 PCT/JP2014/055698
国際公開番号 WO2014/156527
国際公開日 平成26年10月2日(2014.10.2)
優先権出願番号 2013068907
優先日 平成25年3月28日(2013.3.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年3月10日(2016.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】森 隆弘
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 国際公開第2012/112846(WO,A1)
ABDEL-RAHMAN et al.,Germline BAP1 mutation predisposes to uveal melanoma, lung adenocarcinoma, meningioma, and other can,Journal of Medical Genetics,2011年,Vol.48,p.856-859
TESTA et al.,Germline BAP1 mutations predispose to malignant mesothelioma,Nature Genetics,2011年,Vol.43, No.10,p.1022-1025
PENA-LLOPIS et al.,BAP1 loss defines a new class of renal cell carcinoma,Nature Genetics,2012年,Vol.44, No.7,p.751-759
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者のBAP1遺伝子における変異を検出し、該変異が検出された被験者を食道癌の発症リスクが存在すると判定する、食道癌の発症リスクを判定する方法であって、前記変異が、BAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列tttctcctctgagccにおける7~10番目の塩基配列ctctから塩基配列ctまたはtcが欠失したものである、方法
【請求項2】
前記BAP1遺伝子の変異が、生殖細胞系列の遺伝子変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PCR法に基づく2塩基欠失検出法、直接シークエンス法による塩基配列決定、サザンブロット法及びノーザンブロット法からなる群より選択される少なくとも一種の方法によりBAP1遺伝子における変異を検出するための手段を含む、食道癌の発症リスクを判定するためのキットであって、前記変異が、BAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列tttctcctctgagccにおける7~10番目の塩基配列ctctから塩基配列ctまたはtcが欠失したものである、キット
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、食道癌の発症リスクを判定する方法及びそのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子診断は、癌、糖尿病等の疾患のリスクを判定するのに有用であり、疾患の予防、早期発見の観点から非常に重要である。
【0003】
BAP1(BRCA1 associated protein-1)は細胞周期に関与する蛋白質であり、癌抑制遺伝子として知られている。特許文献1には、BAP1遺伝子の変異によって、癌になりやすい旨が記載されている。乳癌患者、腎臓明細胞癌患者、卵巣癌患者において、BAP1遺伝子のイントロン部分に生殖細胞系列変異が見つかった旨が開示されている。また、イントロン6の変異によって、スプライシング工程でエクソン7が転写されなくなる(スキップされる)ことが開示されている。しかし、BAP1と悪性黒色腫、乳癌、腎臓明細胞癌、卵巣癌以外の癌との関連性については知られていない。
【0004】
一方、食道癌のリスクファクターとしてはアルコール等が知られており、アルコール分解酵素の活性が低いと食道癌のリスクが高くなることが知られている。
【0005】
しかし、食道癌は自覚症状があまりなく早期発見の困難な癌種であり、また現在知られている遺伝子診断法でも食道癌の十分なリスク評価はできず、例えば、複数の診断法を組合わせることにより精度の高いリスク評価が可能となるため、食道癌のリスクを評価するための新たな指標の開発が所望されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2012/112846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき課題は、遺伝子診断により被験者における食道癌の発症リスクを判定するための新規の指標を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記のような状況の下、鋭意研究を重ねた結果、多種多様な遺伝子のなかから、BAP1遺伝子上の変異が食道癌のリスク判定の指標となり得ることを見出した。本発明は当該新規の知見に基づくものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで知られていた食道癌のリスク判定で用いられてきたものとは全く異なるBAP1遺伝子上の変異を指標として用いた、食道癌のリスク判定法を提供することができる。食道がんは初期症状に乏しく、早期発見が難しいため、本発明の方法は、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において発見されたBAP1遺伝子のイントロン領域にある2塩基欠失を示す
【図2】実施例3におけるReal time PCRの結果を示す
【図3】実施例5のfunctional splicing assay法におけるプラスミド設計の概略を示す
【図4】実施例5のfunctional splicing assay法の結果を示す。(ヒト293T細胞におけるファンクショナルスプライシングアッセイの結果(3つの独立した試験))
【図5】実施例5のfunctional splicing assay法の結果を示す。図5上:ファンクショナルスプライシングアッセイ及び各々の転写産物の予想されるサイズ。図5下:TaqMan probeを用いたエクソン10の転写の定量
【図6】図6~9は、BAP1遺伝子の塩基配列を示す(配列番号1)
【図7】図6~9は、BAP1遺伝子の塩基配列を示す(配列番号1)
【図8】図6~9は、BAP1遺伝子の塩基配列を示す(配列番号1)
【図9】図6~9は、BAP1遺伝子の塩基配列を示す(配列番号1)
【発明を実施するための形態】
【0011】
食道癌の発症リスクを判定する方法
本発明は、被験者のBAP1遺伝子における変異を検出し、該変異が検出された被験者を食道癌の発症リスクが存在すると判定する、食道癌の発症リスクを判定する方法を提供する。

【0012】
本発明において、「(食道癌の)発症リスクの判定」とは、将来食道癌を発症する可能性の有無の判定することを意味する。「判定」は、「検査」と換言することもできる。

【0013】
被験者(被験対象)は、特に限定されるものではないが、ヒトを含む哺乳類が例示される。非ヒト哺乳類としては、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ等が挙げられる。本発明の判定方法の好ましい被験対象は、ヒトである。被験対象の性別、年齢、人種は特に限定されない。

【0014】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。

【0015】
また、本明細書中において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。

【0016】
本発明において、BAP1遺伝子としては、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる(図6~9)。本発明において、食道癌の発症リスクの指標となるBAP1遺伝子の変異とは、配列番号1で表される塩基配列に対し少なくとも1個(好ましくは1~3個)の塩基が欠失、置換、付加及び/又は挿入されていること、好ましくは少なくとも1個(好ましくは1~3個)の塩基が欠失していることを意味する。食道癌の発症リスクの指標となるBAP1遺伝子の変異が2個以上の塩基の場合、それらの塩基は連続していることが好ましい。BAP1遺伝子の変異としては、将来の悪性腫瘍発生のリスク診断の観点からは生殖細胞系列の遺伝子変異を指標とすることが好ましい。

【0017】
BAP1遺伝子は、17個のエクソン及び16個のイントロンを有し、本発明の好ましい実施形態において、当該BAP1遺伝子の変異としては、9番目のイントロンであるイントロン9における変異が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、当該BAP1遺伝子の変異としては、当該BAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列ctctから塩基配列ctまたはtcが欠失したものが挙げられる。また当該変異は、Human Genome variation societyが規定する表記(http://www.hgvs.org/mutnomen/examplesDNA.html#del)のうち、nucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceに従えば、c.784-26~c.784-23の塩基配列ctctから塩基配列ctまたはtcが欠失したものと換言することができる。当該欠失は、塩基配列ctctの5’の塩基配列ctが欠失したものでも、塩基配列ctctの3’の塩基配列ctが欠失したものでも、塩基配列ctctの中央の塩基配列tcが欠失したものでもよい。これらの欠失により、いずれの場合もBAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列ctctは、塩基配列ctとなる。

【0018】
本発明において、特に明記しない限り、塩基配列及び遺伝子変異の記載法についてはHuman Genome Variation Societyが2013年1月26日に改訂したDescription of sequence changes: examples DNA-levelのnucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceに従った。ここで、nucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceの表記法に従うと、エクソンに含まれる塩基配列Xは、5’UTR及びイントロンを除いたコーディング領域の塩基のうちX番目であることを意味する。ここでBAP1遺伝子のコーディング領域は、配列番号1でいう116~152番目、251~280番目、386~440番目、1388~1520番目、1917~2036番目、2534~2595番目、2678~2820番目、3087~3165番目、3618~3741番目、4082~4229番目、4700~4884番目、5408~5541番目、6100~6578番目、6696~6856番目、7123~7215番目、7320~7392番目、及び7573~7706番目の塩基配列で表される。従って、例えば、エクソン3の最初の塩基(配列番号1でいう386番目の塩基g)は、nucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceの表記法に従うと、c.68と表記される。イントロンの場合、直前のエクソンの最後の塩基よりいくつ後にあるか、または直後のエクソンの最初の塩基よりいくつ前にあるかで示される。例えば、イントロン2のうち最後から10個目の塩基(配列番号1でいう376番目の塩基c)は、c.68-10と表記される。

【0019】
また、本発明において、BAP1遺伝子中の塩基は、特に明記しない限り、nucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceを参照配列として特定した塩基を示す。従って、被験者の検体におけるBAP1遺伝子に、本発明で食道癌の発症リスク判定の指標とする変異以外にも1個又は複数の塩基の付加、欠失、置換等の変異が存在する場合も、配列番号1を参照配列として特定した遺伝子座にある塩基に対応する塩基を示す。例えば、検体のBAP1遺伝子において配列番号1でいう4059~4081番目の塩基配列の領域に1個又は複数の塩基の付加、欠失等があっても、「検体のBAP1におけるnucleotide numbering coding DNA Reference Sequenceの表記法でc.784-26~c.784-23の塩基配列」とは、配列番号1でいう4056~4059番目のctctに対応する塩基配列を意味する(図6)。

【0020】
BAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列ctctとは、BAP1遺伝子のイントロン9内の塩基配列tttctcctctgagcc(配列番号2)における7~10番目の塩基配列ctctと換言できる。

【0021】
BAP1における変異を検出する方法としては、特に限定されず、例えば、サザンブロット法、ノーザンブロット法、PCRを使用する方法等が挙げられる。PCRを使用する方法としては、変異を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる方法、PCRとシークエンスとを組合わせる方法、PCR-SSCP法、PCR後に制限酵素を利用する方法、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブ(ASO)を利用する方法等が挙げられ、real time PCR法、PCRとシークエンスとを組合わせる方法等が好ましい。

【0022】
変異を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR法を用いる場合、BAP1遺伝子中における所定の変異部位を含むオリゴヌクレオチドをプライマーの一方に用いる。そして、当該プライマーを用い、BAP1遺伝子が所定の変異部位を有する場合に、BAP1遺伝子中の当該変異部位を含む部分が増幅され、かつ、BAP1遺伝子が所定の変異部位を有さない場合に当該部分が有意に増幅されないような条件をあらかじめ設定しておく。当該設定された条件で検体をPCRにかけ、BAP1遺伝子中の当該変異部位を含む部分が増幅されるか否かで変異の有無を決定する。当該方法においてreal time PCR法を用いると、短時間で評価ができ、簡便なため、特に初期のスクリーニング等として有効である。real time PCR法を用いる場合には、例えば、RFU(相対蛍光単位)等により示される目的のヌクレオチドの濃度が閾値を超えるまでのサイクル数を指標とし、当該サイクル数があらかじめ設定したcut off値よりも小さい場合に変異を有するとし、当該サイクル数があらかじめ設定したcut off値以上の場合もしくは目的のヌクレオチドの濃度が閾値を超えなかった場合に変異を無とする。

【0023】
PCRとシークエンスとを組合わせる方法としては、所定の変異をはさむ位置にプライマーセットを設計し、当該プライマーを用いて検体をPCRにかけ、増幅したヌクレオチドの塩基配列をシークエンスにより決定する方法が挙げられる。

【0024】
本発明において、変異の検出に用いるプローブ又はプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの塩基数は、15~50塩基、好ましくは、15~40塩基、より好ましくは18~23塩基、より好ましくは19~22塩基である。

【0025】
各検出方法に用いる検体は、本発明の判定方法の被験対象に由来する。検体は被験対象に由来する血液検体を好適に使用することができ、血液検体には、例えば血液(全血)及び血液に由来する血清、血漿、白血球などが含まれる。本発明の好ましい態様の一つにおいて、検体は全血または白血球である。

【0026】
検体は、当業者に公知の方法で採取することができる。例えば、血液は、注射器などを用いた採血によって採取することができる。なお、採血は、医師、看護師などの医療従事者が行うことが望ましい。血清は、血液から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、血液から血球を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させない条件下で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。白血球は、血液から血清および血餅を除去した部分であり、例えば、全血を遠心分離し、中間層としてのbuffy coatとして得ることができる。検体はこれらのものに限られず、公知の方法により全血から抽出されたgenomic DNAも対象となり得る。検体は、被験対象の動脈由来、静脈由来、末梢血管由来のいずれであってもよい。
上記方法により、食道癌の発症リスクが存在すると判定された被験者には、上記BAP遺伝子の変異を検出する方法以外の方法で食道癌の診断を行うことが有効である。例えば、上部消化管内視鏡検査、 上部消化管透視(バリウム)検査等の診断方法を行うことが有効であり、これらの診断方法を定期的に行うことにより食道癌の早期発見が期待できる。
従って、本発明は、被験者のBAP1遺伝子における変異を検出し、該変異が検出された被験者を食道癌の発症リスクが存在すると判定する、食道癌の発症リスクを判定する工程、及び
前記工程により、食道癌の発症リスクが存在すると判定された被験者に、食道癌を発見するための診断を行う工程
を含む、食道癌の診断方法も提供する。

【0027】
食道癌の発症リスクを判定するためのキット
本発明は、BAP1遺伝子における変異を検出するための手段を含む、食道癌の発症リスクを判定するためのキットを提供する。

【0028】
BAP1遺伝子における変異を検出するための手段としては、特に限定されないが、例えば、前述したサザンブロット法、ノーザンブロット法、PCRを使用する方法等に用いる手段を挙げることができる。好ましくは、当該BAP1遺伝子における変異を検出するための手段には、プライマー又はプローブとして、変異を有するBAP1遺伝子における当該変異部位を含むオリゴヌクレオチドが含まれ得る。

【0029】
また、本発明のキットには、必要に応じて他の成分を含めることができる。他の成分は、例えば検体を採取するための道具(例えば、注射器等)、ポジティブコントロール試料及びネガティブコントロール試料などが挙げられるが、これに限定されない。上記判定方法を行うための手順を書き記した書面等を含むこともできる。
【実施例】
【0030】
実施例1
本発明者は、倫理委員会承認の元に(承認番号;2005-124、2008-31、2011-80、2011-432、2012-442)食道扁平上皮癌患者69名の切除標本(腫瘍部および正常粘膜部)からgenomic DNAを抽出し研究を行ってきた。具体的には、直接シークエンス法により、上記末梢血白血球由来または切除標本中のBAP1遺伝子中の変異を調べた。
【実施例】
【0031】
この研究の結果、これまでに報告の無い、BAP1遺伝子のイントロン領域にある2塩基欠失を発見した(図1)。これはイントロン9に存在し、イントロン9とエクソン10のexon-intron junctionの上流23塩基のCTの欠失である。尚、25塩基上流のCTまたは24塩基上流のTCの欠失でも結果として同じ塩基配列になるため、これら3種類のいずれかの欠失が生じていることが分かる。
【実施例】
【0032】
実施例2 real time PCR法によるスクリーニング法の確立
real time PCR法(Biorad社)を応用した迅速で簡便なスクリーニング法を確立した。具体的には、実施例1で示した2塩基欠失に特異的に反応するPCRプライマー(5’-GGGTCTACCCTTTCTCCTGA-3’(配列番号3)及び5’-GTCCACAAGAGGTCCCAAAC-3’(配列番号4))を作成し、この変異を有するDNA(ポジティブコントロール、No.122の検体)又はこの変異を有さない正常配列のDNA(No.170の検体)をtemplateとして、アニール温度を60℃から75℃まで変動させて、realtimePCR解析をおこなった。その結果、RFUが閾値を超えるまでのサイクル数を30回でcut offとするとアニール温度が69℃で変異ありのDNAで陽性、変異無しの正常塩基配列のDNAで陰性の結果を得た。なお、このスクリーニング方法が有用であることは直接シークエンス法によって確認することが出来た。すなわち、下記実施例3において2例のPCR陽性例ではいずれも当該2塩基欠失を確認し、PCR陰性のうち,ランダムに抽出した29例はいずれも正常の塩基配列であった。
【実施例】
【0033】
なお,このRealtimePCRの詳細は以下の通りである:
反応液:10μl
反応液組成:テンプレートDNA20ng(ナノグラム)、プライマーDNA(20microM)各々0.25μL、SsoAdvanced SYBR Green Supermix 5 microL(Bio-rad 社製)
温度設定:
1: 95.0℃ for 3:00
2: 95.0℃ for 0:01
3: 69.0℃ for 0:30
Plate Read
4: GOTO 2, 39 more times
実施例3
上記条件に従い、実施例1及び2で検査したのとは別の食道扁平上皮癌患者217例(各検体をST1~ST217とする)の末梢血白血球由来のgenomic DNAをスクリーニングした。Real time PCRの結果を図2に示す。その結果、上記ポジティブコントロールとしたNo.122の検体と、ほぼ同じサイクル数でST28とST166で陽性の結果を得た。尚、この2例についてはdirect sequence法により、2塩基欠失を持つことを確認した。食道扁平上皮癌患者217例中、ST28及びST166以外の215例については、Real time PCRの結果、陰性であった。陰性例はランダムに選択した29例で同様にシークエンスを行い、2塩基欠失を持たないことを確認した。
【実施例】
【0034】
実施例4
前述の実施例1~3に示すように、食道扁平上皮癌患者286名中、4名において、イントロン9とエクソン10のexon-intron junctionの上流23塩基のCTの欠失が見られた。
【実施例】
【0035】
一方、米国政府機関(National Center for Biotechnology Information, U.S. National Library of Medicine. 8600 Rockville Pike, Bethesda MD, 20894 USA、以下NCBI)の発行する遺伝子多型の検索サイト(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastn&BLAST_SPEC=SNP&BLAST_PROGRAMS=megaBlast&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthome)で検索したが、この変異の報告は正常人1089名ではない。この情報から統計学的解析を行うとChi二乗検定ではp<0.001、Fisherの正確法検定ではp=0.002で有意に食道扁平上皮癌患者と相関があるとの結果であった。【0036】
以上の結果から、この遺伝子変異(あるいは多型)を上記に示した迅速かつ簡便な方法で末梢血白血球由来のgenomic DNAで検出することにより、将来の食道扁平上皮癌発生のリスクを明らかにすることが出来ることが分かる。高リスクと診断されれば、内視鏡検査などにより早期発見が可能となり、その結果として、リスクが高く、また術後の愁訴も極めて多い食道切除術の回避、あるいは副作用のリスクも高く、そのための支持療法や抗がん薬や分子標的薬に代表される高額医薬品による医療費の高騰に繋がる放射線化学療法の抑制も可能となる。個人および社会にとって,極めて意義の大きい発見であると考えられる。
【実施例】
【0037】
実施例5
前述のイントロン9における変異は、Genomeにおける位置からはsplicingに影響を与える可能性が予想される。これを直接、評価するために、functional splicing assay法を使用し(図3 および参考文献;Determination of splice-site mutations in Lynch syndrome (hereditary non-polyposis colorectal cancer) patients using functional splicing assay Hiromu Naruse et al. Familial Cancer DOI 10.1007/s10689-009-9280-6 )、このイントロン内の2塩基欠失の生物学的意義を評価した。上記文献に沿って、functional splicing assayを行い、電気泳動で評価したところ、2塩基欠失を導入した場合、正常の塩基配列をもつプラスミドに比べて、エクソン10の転写効率が著しく低下することが示された(図4及び5)。
以上から病的な意義、すなわち、2塩基欠失ではエクソン10の転写効率が低下しているために食道扁平上皮癌発癌の可能性が高まっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
食道癌を含め癌の早期発見に対する要望は非常に大きいところ、本発明は、新規な食道癌リスクの判定方法を提供するものであるため、産業利用上、非常に有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0039】
配列番号3はプライマーである。
【0040】
配列番号4はプライマーである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8