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明細書 :細胞担持パターン化ナノ薄膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年2月23日(2017.2.23)
発明の名称または考案の名称 細胞担持パターン化ナノ薄膜
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
A61P  27/02        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
C12M   3/04        (2006.01)
C12N   5/077       (2010.01)
FI A61L 27/00 D
A61P 27/02
A61P 9/10
C12M 3/04
C12N 5/077
国際予備審査の請求
全頁数 19
出願番号 特願2015-524158 (P2015-524158)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 公開1 刊行物名 電気化学会創立80周年記念大会講演要旨集 発行日 平成25年3月29日 発行所 公益社団法人電気化学会 該当頁 P462(PS47) 公開2 研究集会名 電気化学会創立80周年記念大会 開催日 平成25年3月29日~31日 開催場所 東北大学川内キャンパス 公開3 掲載アドレス http://www.knt.co.jp/ec/2013/29dds/pdf/program.pdf アドレス掲載日 平成25年4月25日 公開4 刊行物名 化学とマイクロ・ナノシステム学会第27回研究会 講演要旨集 発行日 平成25年5月23日 発行所 一般社団法人化学とマイクロ・ナノシステム学会 該当頁 P64 公開5 研究集会名 化学とマイクロ・ナノシステム学会第27回研究会 開催日 平成25年5月23日~24日 開催場所 東北大学片平キャンパスさくらホール
国際出願番号 PCT/JP2014/067852
国際公開番号 WO2014/208778
国際出願日 平成26年6月27日(2014.6.27)
国際公開日 平成26年12月31日(2014.12.31)
優先権出願番号 2013137253
優先日 平成25年6月28日(2013.6.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】梶 弘和
【氏名】藤枝 俊宣
【氏名】森 好弘
【氏名】西澤 松彦
【氏名】阿部 俊明
【氏名】永井 展裕
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100144794、【弁理士】、【氏名又は名称】大木 信人
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
4C081
Fターム 4B029AA21
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC11
4B029GB10
4B065AA90X
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA44
4C081AB21
4C081BA13
4C081CA171
4C081CD34
4C081DA02
4C081DC05
要約 本発明は、眼球内のような生体内の狭小な空間に、簡便に、かつ効率的に、また低侵襲に細胞移植(送達)することができる新たな手段を提供することを目的とする。
マイクロパターンを有するナノ薄膜を基材とし、当該ナノ薄膜上に細胞を担持することを特徴とする、細胞担持パターン化ナノ薄膜。
特許請求の範囲 【請求項1】
厚さ500nm未満であり、かつ直径又は最も長い対角線の長さが10μm~20mmであるパターン化ナノ薄膜を基材とし、該パターン化ナノ薄膜上に細胞を担持することを特徴とする、細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項2】
パターン化ナノ薄膜が、生体適合性高分子からなる、請求項1に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項3】
パターン化ナノ薄膜が細胞外基質でコーティングされている、請求項1又は2に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項4】
パターン化ナノ薄膜が金属、半導体、セラミック、又は磁性体からなるナノ粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項5】
パターン化ナノ薄膜が機能性物質を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項6】
細胞が網膜色素上皮細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項7】
細管より組織中に放出され、該組織に細胞を送達するための、請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞担持パターン化ナノ薄膜を細管より生体組織中に放出することを含む、生体組織への細胞移植方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の狭小な空間に、簡便に、かつ効率的に、また低侵襲に細胞移植(送達)することを可能とする細胞送達法に関する。
より詳細には、本発明は、マイクロパターンを有するナノ薄膜を基材とし、当該ナノ薄膜上に細胞を担持することを特徴とする、細胞担持パターン化ナノ薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の分野で難治性疾患に対する細胞移植療法の開発が広く進められている。例えば、眼科領域における難治性疾患の1つに加齢黄斑変性があるが、これは網膜組織中心の黄斑部が障害されることにより発症する失明リスクの極めて高い疾患である。今日までに、治療法として網膜色素上皮(以下、「RPE」と記載する。)細胞の移植が試みられている。例えば、RPE細胞の懸濁液を網膜下に直接注入することによって細胞移植を行う方法が検討されているが(非特許文献1)、注入された細胞の生着率が低いことが問題となっている。また、RPE細胞のみから成るシートを移植する方法も検討されているが、RPE細胞のシートは脆弱であるため扱いが非常に難しい。近年では、iPS細胞より誘導したRPE細胞をシート化し患部に移植する試みも検討されているが、網膜下へのRPE細胞の効率的な送達法は依然として確立されておらず、当該分野においては新たな細胞送達法が切望されている。
一方、生体分解性ポリマーからなるナノメートルオーダーの膜厚を有する薄膜(いわゆる「ナノ薄膜」)が開発され、当該ナノ薄膜に機能性物質を担持させ皮膚や生体組織に貼付して使用する複合体が報告されている(特許文献1-2)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第5028422号公報
【特許文献2】特開2010-63411号公報
【0004】

【非特許文献1】Cell Transplant,14,799-808(2005)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、眼球内のような生体内の狭小な空間に、簡便に、かつ効率的に、また低侵襲に細胞移植(送達)することができる新たな手段を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、マイクロパターンを有するナノ薄膜上で細胞を培養して得られる細胞担持パターン化ナノ薄膜が、注射針等の細管で吸引し、放出することが可能であり、かつそのように吸引・放出しても、当該細胞担持パターン化ナノ薄膜は元の形状を維持することが可能であり、また膜表面に接着した細胞を生存したまま、剥離することなく安定的に保持できることを見出した。そしてかかる特徴により、当該細胞担持パターン化ナノ薄膜は注射針等の細管を用いて低侵襲に生体内に導入し細胞移植(送達)できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づくものであり、以下の特徴を有する。
[1] 厚さ500nm未満であり、かつ直径又は最も長い対角線の長さが10μm~20mmであるパターン化ナノ薄膜を基材とし、該パターン化ナノ薄膜上に細胞を担持することを特徴とする、細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[2] パターン化ナノ薄膜が、生体適合性高分子からなる、[1]の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[3] パターン化ナノ薄膜が細胞外基質でコーティングされている、[1]又は[2]の細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[4] パターン化ナノ薄膜が金属、半導体、セラミック、又は磁性体からなるナノ粒子を含む、[1]~[3]のいずれかの細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[5] パターン化ナノ薄膜が機能性物質を含む、[1]~[4]のいずれかの細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[6] 細胞が網膜色素上皮細胞である、[1]~[5]のいずれかの細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[7] 細管より組織中に放出され、該組織に細胞を送達するための、[1]~[6]のいずれかの細胞担持パターン化ナノ薄膜。
[8] [1]~[7]のいずれかの細胞担持パターン化ナノ薄膜を細管より生体組織中に放出することを含む、生体組織への細胞移植方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-137253号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、パターン化ナノ薄膜の作製方法の簡略図を示す。
図2は、パターン化ナノ薄膜の写真図を示す。支持基板上に転写されたポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)と磁性ナノ粒子(MNPs)から成るナノ薄膜(a)及びその顕微鏡写真(b)。24G(内径470μm)カテーテル内に吸引されたパターン化ナノ薄膜(直径1mm)(c)。
図3(a)-(d)は、異なるサイズのパターン化ナノ薄膜の顕微鏡写真図を示す。(a)直径1000μm。(b)直径500μm。(c)直径400μm。(d)直径300μm。
図4は、パターン化ナノ薄膜の表面プロファイルを示す。(a)MNPsを混合させずPLGAのみから成るパターン化ナノ薄膜。(b)MNPsを混合したPLGAを用いて作製したパターン化ナノ薄膜。挿入図はナノ薄膜の光学イメージであり、破線はスキャン部を示す。
図5-1は、パターン化ナノ薄膜上で培養したRPE細胞の形態評価を示す。(a)培養1日後のRPE細胞の位相差顕微鏡写真。(b)培養1日後のRPE細胞の蛍光顕微鏡写真(緑:生細胞、赤:死細胞)。(c)培養1日後のRPE細胞をカルセインAM(緑)にて、パターン化ナノ薄膜をローダミンB(赤)にて染色した結果を示す共焦点顕微鏡写真。(d)パターン化ナノ薄膜表面の原子間力顕微鏡(AFM)写真。(e)MNPs混合の有無による、パターン化ナノ薄膜上の細胞増殖活性への影響を示す特性図。
図5-2は、パターン化ナノ薄膜上で培養したRPE細胞の形態評価を示す。(f)MNPsを含むPLGAナノ薄膜上および(g)MNPsを含まないPLGAナノ薄膜上で2日間培養したRPE細胞の免疫染色写真(左上:位相差顕微鏡写真。右上:(赤)ZO-1タイトジャンクション、(青)核。左下:(緑)F-アクチン、(青)核。右下:重ね合わせ)。
図6は、細胞担持パターン化ナノ薄膜に対するシリンジ操作に伴う力学的ストレス負荷後の細胞生存率評価示す。(a)RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜(400μm径)を25G(内径320μm)注射針で吸引・放出した前後の、パターン化ナノ薄膜上の細胞を示す位相差顕微鏡写真と蛍光顕微鏡写真(緑:生細胞、赤:死細胞)。(b)異なる直径を有する細胞担持パターン化ナノ薄膜の力学的ストレス負荷前後の細胞生存率(注射針:S.N.,静脈留置カテーテル:I.C.)。(c)細胞を担持したナノ薄膜(厚さ170nm)およびマイクロメートル厚の薄膜(5.5μm)における力学的ストレス負荷前後の、各薄膜上のRPE細胞の位相差顕微鏡写真と蛍光顕微鏡写真(緑:生細胞、赤:死細胞)。(d)シリンジによる吸引・放出前後の各薄膜上の細胞接着面積。
図7は、(a)黄班変性症を患う網膜への、細胞担持パターン化ナノ薄膜の導入方法の簡略図を示す。(b)摘出したブタ眼球の黄斑部網膜下へのRPE細胞担持パターン化ナノ薄の導入結果を示す。黄斑部網膜下に導入されたパターン化ナノ薄膜(ローダミンBで染色)の顕微鏡写真。
図8は、ラットの眼球網膜下へのRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜の導入結果を示す。(a-1)眼球網膜下にRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜が導入されて一週間後のラットの眼底光干渉断層像(OCT)を示す写真図である。矢印は導入したRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を示す。(a-2)RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜が導入されていないコントロールラットの眼底OCTを示す写真図である。(b)摘出された、RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜が導入されたラット眼球の後眼部を示す写真図である。矢印は導入したRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を示す。(c)眼球網膜下にRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜が導入されて一週間後のラットより摘出した眼球より作製された網膜組織切片を、ヘマトキシリン・エオジン(HB)染色した結果を示す写真図である。矢印はRPE細胞担持ナノ薄膜によって導入された細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.細胞担持パターン化ナノ薄膜
本発明における「細胞担持パターン化ナノ薄膜」は、基材であるパターン化ナノ薄膜上に細胞を担持してなることを特徴とする。
本発明において「ナノ薄膜」とは、500nm未満、好ましくはおよそ400nm以下、より好ましくはおよそ300nm以下、さらに好ましくはおよそ200nm以下の厚みを有する生体適合性高分子からなるシートを意味する。「ナノ薄膜」の厚みの下限は特に限定されないが、およそ20nm以上、好ましくはおよそ40nm以上、より好ましくはおよそ60nm以上、さらに好ましくはおよそ80nm以上、よりさらに好ましくはおよそ100nm以上とすることができる。例えば、本発明において「ナノ薄膜」は、およそ20nm~300nm、好ましくはおよそ100nm~200nm程度の厚みを有する生体適合性高分子からなるシートとすることができる。
本発明において利用可能な「生体適合性高分子」としては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリジオキサノン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ファイブロネクチン、エラスチン)、多糖類(キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、セルロース)、核酸(DNA,RNA)及びそれらの共重合体等が挙げられる。好ましくは、生体適合性高分子は生体分解性ポリマーであり、特に好ましくはポリ乳酸グリコール酸共重合体(以下、「PLGA」と記載する。)である。
本発明において「パターン化ナノ薄膜」とは、微細な形状及び大きさ(マイクロパターン)を有するナノ薄膜を意味する。ナノ薄膜の形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形(例えば四角形、星形等)とすることができるが、その直径又は最も長い対角線の長さがおよそ10μm~20mm、好ましくはおよそ50μm~15mm、より好ましくはおよそ100μm~10mm、さらに好ましくはおよそ150μm~5mm、よりさらに好ましくはおよそ200μm~3mm、とりわけ好ましくはおよそ300μm~1mm程度である。ただし、パターン化ナノ薄膜の厚み並びに直径又は最も長い対角線の長さは上記範囲に限定されず、細胞を担持させたパターン化ナノ薄膜を細管により吸引・放出することが可能であり、かつ当該吸引・放出による力学的ストレスが負荷されたとしても担持された細胞の多く(例えば、当該力学的ストレスが負荷される前の担持細胞数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上またはそれ以上の細胞)がパターン化ナノ薄膜上に接着・生存している限り、適宜変更することができる。
本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜は以下の[1]~[5]の工程を含む手法により得ることができる。本発明におけるパターン化ナノ薄膜は公知の手法(特許第5028422号公報)に基づいて作製することができ、以下及び図1に、マイクロスタンプ法とスピンコーティング法を組み合わせた作製方法の概略を示すが、パターン化ナノ薄膜の作製方法は当該手法に限定されない。
[1] 基板(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、金属、シリコン、ガラス等)に特定のマイクロパターンが凸状に刻みこまれたマイクロパターン基板(すなわち“スタンプ”)を作製する。マイクロパターン基板は常法に従い、フォトリソグラフィー技術を利用して作製することができる。例えば、基板表面をオクタデシルトリメトキシシラン(ODMS)、オクタデシルジメチルクロロシラン、トリアルコキシヘキサデシルシラン等の長鎖状疎水性分子でコーティングした後、その上にポジ型フォトレジストを塗布する。次に、前記レジストにフォトマスクを透過させて露光(電子照射、紫外線照射、X線照射等)する。続いて、基体上のレジストを現像し、感光した領域のレジストを除去する。そして、Oプラズマ処理、COプラズマ処理又はハロゲンガスを用いた反応性イオンエッチング処理により、レジストで保護されていない領域の長鎖状疎水性分子を除去する。最後にアセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン等を用いてレジストを除去することで、マイクロパターン基板を得ることができる(図1中、(a)として示す)。
[2] 得られたマイクロパターン基板の表面(マイクロパターンが刻みこまれたスタンプ面)に生体適合性高分子層を形成する。生体適合性高分子又は生体適合性高分子の構成要素(例えば、生体分解性ポリマーの構成要素であるところのモノマー等)(以下、「生体適合性高分子等」と記載する。)を適当な溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル等)中に1mg/mL~100mg/mL、好ましくは5mg/mL~40mg/mLの濃度で溶解し、この生体適合性高分子等の溶液をスピンコーティング法にてマイクロパターン基板表面に塗布する。スピンコーターの回転速度、回転時間を調節することにより、マイクロパターン基板表面上に塗布される生体適合性高分子等の厚みを調節することができ、最終生成物であるパターン化ナノ薄膜の厚みを調節することができる。次いで、塗布された生体適合性高分子等を重合及び/又は架橋することによって、マイクロパターン基板表面上に生体適合性高分子からなる層を形成することができる(図1中、(b)として示す)。ここで「重合」としては、重縮合、重付加、付加縮合、開環重合、付加重合(ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合)、熱による固相重合、光重合、放射線重合、プラズマ重合等を挙げることができる。また「架橋」は、公知の架橋剤(例えば、アルキルジミデート類、アシルジアジド類、ジイソシアネート類、ビスマレイミド類、トリアジニル類、ジアゾ化合物、グルタルアルデヒド等)を用いて行うことができる。
生体適合性高分子等の溶液には、金属、半導体、セラミック、磁性体等からなるナノ粒子、好ましくは磁性体ナノ粒子を含めることができる。当該ナノ粒子は1nm~500nm、好ましくは1nm~50nm程度の粒子径を有する。当該ナノ粒子を生体適合性高分子等の溶液中に含め、生体適合性高分子等と共にマイクロパターン基板表面上に塗布することによって、最終生成物であるパターン化ナノ薄膜の表面に当該ナノ粒子に起因する凹凸を形成することができる。パターン化ナノ薄膜の表面に凹凸を形成することによって、細胞が接着できる表面積を増すことができると共に、細胞の増殖活性を増大させることができる。また、パターン化ナノ薄膜に磁性体ナノ粒子含めた場合には、磁力を用いてパターン化ナノ薄膜を移動/集合させることができ操作性を高めることができる。ナノ粒子は生体適合性高分子等の溶液中に0.1mg/mL~10mg/mL、好ましくは1mg/mL~5mg/mLの濃度で含めることができる。
[3] 水溶性犠牲層を備える支持基板を作製する。支持基板(例えば、シリコン、ガラス等)(図1中、(c)として示す)の一表面を、ポリビニルアルコール(PVA)若しくはその誘導体、ポリイソプロピルアクリルアミド若しくはその誘導体、ポリエーテル若しくはその誘導体、多糖類、高分子電解質又はその塩等の水溶性高分子を用いてコーティングする。コーティングはキャスト法、スピンコーティング法等により水溶性高分子を支持基板上に塗布し、乾燥させることにより行うことができる。これにより、水性溶媒に可溶な水溶性犠牲層を備える支持基板を得ることができる(図1中、(d)として示す)。
[4] マイクロパターン基板上の生体適合性高分子層を、支持基板の水溶性犠牲層上にスタンプ・ベイクする(図1中、(e)として示す)。生体適合性高分子の水溶性犠牲層上へのベイクは熱処理により行うことができる。これにより、生体適合性高分子がマイクロパターンを維持したまま水溶性犠牲層上に転写され、生体適合性高分子を担持する支持基板(生体適合性高分子担持支持基板)を得ることができる(図1中、(f)として示す)。
次いで、得られた生体適合性高分子担持支持基板の生体適合性高分子を備える面を、細胞の接着及び増殖を促進する細胞外基質によりコーティングする。本発明において利用可能な「細胞外基質」としては、例えば、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジン(PDL)、ラミニン、ポリ-L-オルニチン/ラミニン(PLO/LM)等が挙げられる。細胞外基質のコーティングは、適当な溶媒中に溶解した(例えば0.01μg/mL~5μg/mLにて)細胞外基質溶液をスピンコーティング法等により支持基板上に塗布し、その後乾燥させることにより行うことができる。これにより、細胞外基質によりコーティングされた生体適合性高分子担持支持基板を得ることができる。
[5] 細胞外基質によりコーティングされた生体適合性高分子担持支持基板に細胞懸濁液を滴下して、およそ1時間~5時間ほどインキュベートして細胞を支持基板上に沈着させる。次いで、当該支持基板を培地中に入れさらに1日~3日間ほど培養する。当該培養の間に、支持基板上の水溶性犠牲層は溶解するため、所定のマイクロパターンを有するパターン化ナノ薄膜が支持基板より遊離する(図1中、(g)として示す)。水溶性犠牲層の溶解に伴い、その上に直接コーティングされた細胞外基質層も溶解するため、細胞はパターン化ナノ薄膜上でのみで増殖する。パターン化ナノ薄膜上で細胞がコンフルエントになるまで培養することによって、目的の細胞担持パターン化ナノ薄膜を得ることができる。細胞の培養条件及び培地の組成は、用いる細胞に適した一般的なものを使用することができる。
本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜において、パターン化ナノ薄膜中又はその表面には、機能性物質を担持させることができる。「機能性物質」とは、細胞の増殖、分化、生理活性等を制御する機能を有する物質(例えば、タンパク質、ポリペプチド、化合物等)やナノ薄膜の可視化を可能にする物質を意味する。このような機能性物質としては、成長/増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、骨形成タンパク質(BMP)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)等)、眼圧降下剤、神経保護剤、抗生物質、抗がん剤、可視化プローブ(造影剤、ナノ粒子、蛍光色素等)が挙げられる。機能性物質はパターン化ナノ薄膜に対して化学的又は物理的手法を用いて結合させることができる。化学的手法としては、官能基を介した化学的結合が挙げられ、例えば生体適合性高分子等を予め適当な官能基(例えばアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基等)で修飾しておき、得られたパターン化ナノ薄膜に対して当該導入した官能基を介して機能性物質を結合させることができる。物理的手法としては、パターン化ナノ薄膜と機能性物質との間の静電的相互作用、疎水性相互作用、水素結合、分子間力などによる結合が挙げられる。機能性物質のパターン化ナノ薄膜への結合は、上記細胞担持パターン化ナノ薄膜の製造工程において、細胞外基質によるコーティングの前、又は当該コーティングの後、又は当該コーティングと同時に行うことができる。
2.細胞
本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜において、パターン化ナノ薄膜に担持させ得る細胞としては、細胞移植療法にて患者に移植され得る細胞(ただし、体液中に浮遊する細胞は除く)が挙げられ、例えば網膜色素上皮(RPE)細胞、視細胞、肝細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、腎細胞、膵島細胞、神経細胞等が挙げられる。これらの細胞は、本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜が導入される患者より単離されたものであっても良いし、あるいは、ES細胞、幹細胞又はiPS細胞から誘導されたものであっても良い。
3.細胞担持パターン化ナノ薄膜を用いた細胞送達
本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜は優れた柔軟性と自己支持性を有し、その直径又は最も長い対角線の長さよりも小さな内径を有する細管で吸引することができ、また当該細管より放出することができる。また、本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜は細胞を安定に保持することができ、細管による吸引及び放出といった力学的ストレスが負荷されても、細胞の多く(例えば、当該力学的ストレスが負荷される前の担持細胞数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上またはそれ以上の細胞)をパターン化ナノ薄膜上に保持することができる。
「細管」としては例えば、注射針やカテーテル等が挙げられる。「細管」のサイズ(ゲージ)や長さは、細胞担持パターン化ナノ薄膜の大きさや、細胞担持パターン化ナノ薄膜を導入する部位等の要因に応じて適宜選択することができる。
本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜の生体内への導入は、生理食塩水と共に細胞担持パターン化ナノ薄膜を注射針又はカテーテル先端より吸引し、注射シリンジ又はカテーテル内に保持し、注射針又はカテーテル先端を疾患部位又はその近傍に挿入し、細胞担持パターン化ナノ薄膜を注射針又はカテーテル先端より放出して留置することにより行うことができる。細胞担持パターン化ナノ薄膜の生体内への導入により、前記疾患部位又はその近傍に担持する細胞を送達することができる。生体内には一又はそれ以上の細胞担持パターン化ナノ薄膜を導入することができる。例えば、本発明によれば、黄班変性症の治療を目的とする、黄班部網膜への網膜色素上皮(RPE)細胞移植において、患者及び眼組織に大きな負担をかけることなく細胞移植(送達)を行うことができる。図7(a)に黄班変性症を患う網膜への、本発明の細胞担持パターン化ナノ薄膜を用いた細胞送達の概略を示す。例えば、18~25ゲージの微細な注射針又はカテーテルを強膜より眼球内部に挿入し、疾患部位又はその近傍の網膜側より網膜下まで刺しいれ少量の生理食塩水を注入し、細胞担持パターン化ナノ薄膜を導入するスペースを確保する。次いで、当該スペースに注射針又はカテーテルよりRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を放出し、注入した生理食塩水を吸引・除去することによって、細胞担持パターン化ナノ薄膜を網膜下に留置することができる。導入されたRPE細胞は疾患部(例えば、黄班変性部位)にて増殖又は疾患部における細胞と置換され、疾患を完治又はその症状を軽減することができる。また、導入されたパターン化ナノ薄膜は生体内で分解吸収され得る。
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
パターン化ナノ薄膜の作製
パターン化ナノ薄膜の作製方法の概略を図1に示す。パターン化ナノ薄膜はスピンコーティングとマイクロスタンプ法を組み合わせて作製した。まず、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製のマイクロパターン基板(図1(a))の表面に、磁性ナノ粒子(MNPs:粒径10nm)(2.5mg/mL)を混合させた、又は混合させない、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)溶液(5mg/mL)をスピンコートした(4000rpm,40s)。次いで、このマイクロパターン基板(図1(b))を、水溶性犠牲層であるポリビニルアルコール(PVA)をコートしておいたガラス製の支持基板(22mmx22mm)(図1(d))に押し付けベイクし(120℃にて5分間)、PLGA層をマイクロパターン基板から支持基板側に転写した(図1(f))。細胞培養に利用するパターン化ナノ薄膜の製造においては、支持基板にさらにI型コラーゲン溶液(0.5mg/mL)をスピンコートした。その後、水溶性犠牲層であるPVAを水性溶媒中で溶解させることで、支持基板より遊離した、自己支持性を有するパターン化ナノ薄膜を得た(図1(g))。
得られたパターン化ナノ薄膜を図2に示す。図2(a)は支持基板上に転写されたPLGAとMNPsから成るパターン化ナノ薄膜を示し、図2(b)はその拡大図である。また、支持基板より遊離したパターン化ナノ薄膜は優れた柔軟性と自己支持性を有し、ナノ薄膜自体の直径より小さい内径のカテーテル(24G(内径470μm)カテーテル)で吸引することができた(写真図のパターン化ナノ薄膜はローダミンにより着色されている)(図2(c))。
パターン化ナノ薄膜は、作製に用いるマイクロパターン基板のパターン形状を変えることで、様々な形状/サイズのパターン化ナノ薄膜を作製することができた(図3(a)-(d))。
得られたパターン化ナノ薄膜の表面形状を触針式表面形状測定器(DekTak)にて測定したところ、MNPsの混合の有無にかかわらず、パターン化ナノ薄膜の平均膜厚はおよそ170nmであった(図4(a)-(b))。
【実施例2】
【0009】
パターン化ナノ薄膜上での網膜色素上皮(RPE)細胞の培養
上記実施例1において、PLGA層がマイクロパターン基板から転写されI型コラーゲン溶液をスピンコートした支持基板に、RPE細胞の懸濁液(1.5×10細胞/mL)を0.4mLずつ滴下し、37℃にて1時間程度インキュベートし細胞を支持基板上に沈着させた。次いで、細胞が沈着した支持基板を培地(DMEM,4%(v/v)FBS,1%ペニシリンストレプトマイシン)中に入れ、常法に従い培養した。
得られた培養物について、生死判定キット(Cellstain-Double Staining Kit,同仁化学研究所)を用いて、生細胞及び死細胞を染色した。
結果を図5-1(a)-(b)に示す。培地中で水溶性犠牲層であるPVAが溶解されるため、RPE細胞はパターン化ナノ薄膜上にのみ接着して増殖・成長していることが確認された。パターン化ナノ薄膜上にて死細胞は検出されなかった。
また、得られた培養物について、RPE細胞をカルセインAMで、パターン化ナノ薄膜をローダミンBで染色した。
結果を図5-1(c)に示す。写真図より明らかなとおり、RPE細胞がパターン化ナノ薄膜上でモノレイヤー組織を形成し存在していることが確認できた。
また、MNPsを混合したPLGAを用いて作製したパターン化ナノ薄膜(以下、「MNPs(+)パターン化ナノ薄膜」と記載する。)及びMNPsを混合させずPLGAのみから成るパターン化ナノ薄膜(以下、「MNPs(-)パターン化ナノ薄膜」と記載する。)について、その表面構造を原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した。
結果を図5-1(d)に示す。MNPs(+)パターン化ナノ薄膜(左)(自乗平均面粗さ(RMS):2.86nm)の方が、MNPs(-)パターン化ナノ薄膜(右)(RMS:0.489nm)と比べて表面が粗い構造を有することが確認できた。
次いで、MNPs混合の有無による、パターン化ナノ薄膜上の細胞増殖活性への影響を調べた。MNPs(+)パターン化ナノ薄膜、又はMNPs(-)パターン化ナノ薄膜上にて培養したRPE細胞について、セルカウンティングキット(Cell Counting Kit-8(CCK-8):同仁化学研究所)を用いて、経時的にパターン化ナノ薄膜上の細胞数を計測し、各パターン化ナノ薄膜の細胞増殖活性への影響を評価した。
結果を図5-1(e)に示す。MNPs(+)パターン化ナノ薄膜上の細胞の方が、MNPs(-)パターン化ナノ薄膜上の細胞に比べ培養1日後の増殖活性が高いことが確認できた。
さらに、MNPs(+)パターン化ナノ薄膜上又はMNPs(-)パターン化ナノ薄膜上にてそれぞれ2日間培養した細胞について、抗ZO-1抗体及び抗F-Actin抗体を一次抗体として用いて免疫染色を行った。
結果を図5-2(f)-(g)に示す。MNPs(+)パターン化ナノ薄膜上の細胞(図5-2(f))の方が、MNPs(-)パターン化ナノ薄膜上の細胞(図5-2(g))に比べ、ZO-1(タイトジャンクション)及びF-Actinの形成が促進されており、また、細胞の形態は網膜色素上皮に特徴的なヘキサゴナルな形態を示しているのが確認できた。
【実施例3】
【0010】
RPE細胞担持ナノ薄膜の注射針による吸引・放出試験
上記実施例2に記載の手法にしたがって、MNPs(+)パターン化ナノ薄膜上でRPE細胞を培養して得られた培養物(以下、「RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜」と呼ぶ。)について、25G(内径320μm)注射針での吸引・放出に伴う力学的ストレスによる、組織形態の変化及び細胞の生存について評価した。具体的には、RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜(300μm、400μm、500μm、1000μmの直径を有する)を25G(内径320μm)注射針で1回ずつ吸引・放出し、当該力学的ストレス負荷前後のパターン化ナノ薄膜上のRPE細胞について、組織形態の変化を位相差顕微鏡にて、また細胞の生存を生死判定キット(Cellstain-Double Staining Kit,同仁化学研究所)を用いて確認した。
結果を図6に示す。図6(a)の写真図より明らかなとおり、RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜に対して力学的ストレスを負荷したとしても、パターン化ナノ薄膜上のRPE細胞において、組織形態及び細胞の生存に大きな変化は生じないことが確認できた。
図6(b)は、パターン化ナノ薄膜のサイズによる、上記力学的ストレス負荷前後の細胞生存率への影響を示す。結果より明らかなとおり、パターン化ナノ薄膜の直径やシリンジ針の種類(注射針:S.N.,静脈留置カテーテル:I.C.)による影響はみられず、いずれの場合においても力学的ストレス負荷後に80%以上の細胞生存率が得られた。
また、ナノ薄膜(厚さ170nm)を用いて作製されたRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜、及び厚さのみ異なるマイクロ厚薄膜(厚さ5.5μm)を用いて作製されたRPE細胞担持パターン化マイクロ厚薄膜に対して、上記力学的ストレスを負荷し、各薄膜上の組織形態の変化及び細胞の生存について上記と同様に調べた。
力学的ストレス負荷前後における、各薄膜の各顕微鏡における観察結果を図6(c)に、各薄膜に対する細胞接着面積の変化を図6(d)に示す。なお、図6(d)において細胞接着面積の値は力学的ストレス負荷前における細胞接着面積を100%とする相対値にて示す。
ナノ薄膜を用いて作製されたRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜では、8割以上の細胞が薄膜表面に接着維持され、かつほとんどの細胞が生存しており、パターン化ナノ薄膜上に形成されたモノレイヤー構造を安定に維持していることが確認できた。一方、マイクロ厚薄膜を用いて作製されたRPE細胞担持パターン化マイクロ厚薄膜では、力学的ストレスの負荷により大部分の細胞が膜から剥離してしまった。パターン化マイクロ厚薄膜は、パターン化ナノ薄膜に比べて柔軟性に乏しく、そのため力学的ストレスによる細胞への負荷が大きくなり大部分の細胞が膜から剥離してしまったと考えられる。
【実施例4】
【0011】
ブタ眼球網膜下への細胞担持ナノ薄膜の導入
ブタ眼球網膜下へのRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜の導入試験を行った。25G(内径320μm)注射針を、摘出したブタ眼球の強膜より眼球内に挿入し、黄斑部の網膜側より網膜下まで刺しいれ少量の生理食塩水を注入し、RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を導入するための空間を形成した。次いで、上記実施例2に記載の手法にしたがって作製したRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を25G注射針を用いてシリンジ内に吸引し、それを前記と同様に挿入した注射針より網膜下に形成した前記空間内に放出した。最後に、注入した生理食塩水を吸引・除去することによってRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を網膜下に留置した。
図7(b)に、ブタ眼球黄斑部網膜下に導入したRPE細胞担持ナノ薄膜の顕微鏡写真を示す。注入されたRPE細胞担持ナノ薄膜は網膜下で伸展し、元の円形状を維持していることが確認できた。
【実施例5】
【0012】
ラット眼球網膜下への細胞担持ナノ薄膜の導入
Sprague-Dawley(SD)ラットの眼球網膜下へのRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜の導入試験を行った。30G(内径140μm)注射針を、麻酔したラットの眼球の強膜より眼球内に挿入し、黄斑部の網膜側より網膜下まで刺しいれ少量の生理食塩水を注入し、RPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を導入するための空間を形成した。次いで、上記実施例2に記載の手法にしたがって作製したRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を30G注射針を用いてシリンジ内に吸引し、それを前記と同様に挿入した注射針より網膜下に形成した前記空間内に放出した。最後に、注入した生理食塩水を吸引・除去することによってRPE細胞担持パターン化ナノ薄膜を網膜下に留置した。コントロールのラットには、生理食塩水のみを注入、吸引・除去する操作を同様に行った。
処置後のラットは通常の方法に従い、飼育した。
処置後、1週間後の各ラットの眼底光干渉断層像(OCT)を調べたところ、注入されたRPE細胞担持ナノ薄膜が、網膜下で伸展し、シート状の構造で保持されていることが確認できた(図8(a-1))。次いで、ラットの眼球を摘出し、後眼部を観察したところ、導入したナノ薄膜が確認できた(図8(b))。さらに、摘出し眼球の網膜組織の切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HB)染色したところ、RPE細胞担持ナノ薄膜によって導入された細胞が確認できた。
これらの結果より、細胞担持パターン化ナノ薄膜を用いて生体の組織中に、低侵襲に細胞移植(送達)できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明によれば、注射針等の細管を用いて吸引・放出することが可能な、細胞を担持する生体適合性高分子からなるナノ薄膜を提供することができる。かかる特徴を有する細胞担持ナノ薄膜は、生体内の狭小な空間にも注射針等の細管を用いて低侵襲に導入し細胞移植(送達)することができ、患者や組織の負担を低減することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5-1】
4
【図5-2】
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【図6】
6
【図7】
7
【図8】
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