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明細書 :虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6108569号 (P6108569)
登録日 平成29年3月17日(2017.3.17)
発行日 平成29年4月5日(2017.4.5)
発明の名称または考案の名称 虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤及びその利用
国際特許分類 A61K  31/4709      (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
A61P   9/00        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
A61P   7/02        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61P   1/16        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI A61K 31/4709 ZNA
A61P 9/10
C12Q 1/02
C12N 5/071
A61P 9/00
A61P 13/12
A61P 7/02
A61P 43/00 111
A61P 37/02
A61P 1/16
A61K 45/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 40
出願番号 特願2015-500086 (P2015-500086)
出願日 平成25年7月5日(2013.7.5)
国際出願番号 PCT/JP2013/068545
国際公開番号 WO2014/125663
国際公開日 平成26年8月21日(2014.8.21)
優先権出願番号 2013028390
優先日 平成25年2月15日(2013.2.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年5月26日(2016.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 匠徳
【氏名】村越 幹昭
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】深草 亜子
参考文献・文献 特表2009-514787(JP,A)
Curr.Opin.Rheumatol.,2011年,Vol.23,p.562-567
Nat.Biotechmol.,2010年,Vol.28,p.249-255
Annual Review 循環器,2012年,Vol.2012,p.54-60
調査した分野 A61K 31/4709
C12Q 1/02
C12N 5/071
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を有する物質を有効成分として含有するものであり、
上記物質は、パモ酸ピルビニウムであることを特徴とする、虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤。
【請求項2】
上記虚血性疾患は、一過性脳虚血、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈バイパス術後のグラフト閉塞、経皮的冠動脈形成術後の冠動脈閉塞、血行再建術後の血管閉塞、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、本態性血小板血症、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、抗リン脂質抗体症候群、川崎病、肝炎、及び腎繊維化疾患の中から選択されるいずれかの疾患であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
虚血環境下の非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける虚血環境下の哺乳動物の細胞に対して試験物質を適用する工程と、
当該試験物質に関して、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を測定する工程と、を有することを特徴とする、虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項4】
非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける哺乳動物の細胞において、パモ酸ピルビニウムを用いて、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の閉塞や狭窄により血流が悪化し、体の一部において、血流が完全に遮断されるか、著しく減少した状態になると、酸素不足、基質供給の減少、代謝産物の蓄積が進行し、最終的には細胞死や壊死をもたらす。かかる疾患を総称して虚血性疾患という。虚血の程度は、血管閉塞の緩急、持続時間、あるいは組織の感受性、副血行路の発達の程度にも関係するが、虚血に陥った臓器ないし組織には機能障害が現れ、長く持続すれば、組織は萎縮、変性、壊死に至る。
【0003】
このような病態が進行し、臨床的に問題となる動脈として、脳、心臓、四肢が知られている。例えば、具体的な虚血性疾患としては、狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞等の虚血性脳疾患(虚血性脳血管障害)、虚血性大腸炎等の虚血性腸疾患等が存在する。特に、前二者は日本人の死亡原因の上位を占めており、増加傾向にある。
【0004】
虚血性心疾患の一つ、心筋梗塞を例に挙げてメカニズムを詳細に説明する。心筋梗塞は冠動脈の血流が途絶されることにより心筋が虚血状態になり壊死してしまう疾患である。虚血状態が持続することにより心筋が経時的に死んでいき、心機能が低下する。さらには、壊死した心筋細胞の跡を埋めるようにコラーゲンの蓄積がおこり心臓の線維化が起こる。
【0005】
この線維化は、心筋細胞死後の心臓の心破裂を防ぐ反面、心筋の硬化を招き、心臓機能を妨げる。この心機能低下が持続すると、心機能障害を補うように心臓の肥大がおこる。心筋梗塞に伴う心筋の壊死のメカニズムに関する研究は活発に行われており、最近では筋の壊死を防ぐ因子の発見、幹細胞や遺伝子等を使っての心筋再生医療などの研究が急速に進んでいる。
【0006】
例えば、特許文献1には、SFRP2、SFRP4、ミッドカイン、プレイオトロフィン及びチモシンβ10から選ばれた少なくとも一種を効果的要素として含有する瘢痕形成促進剤を投与して、線維化を伴うことなく且つ弾性を維持しつつ瘢痕形成を促進することによって心機能を改善する、虚血性心疾患の治療方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特表2009-514787号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術以外にも、新たな虚血性心疾患の治療予防技術の開発が必要とされている。特に、虚血性疾患に伴う細胞の線維化等の症状は、上述した心筋梗塞等の虚血性心疾患以外でも発生する。それゆえ、心疾患以外の虚血性疾患への適用も可能な、新たな虚血性疾患の治療及び/又は予防法の開発が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、正常環境では細胞の生存に影響を与えないが、ミトコンドリアの機能異常を引き起こし、虚血環境下における細胞の生存・増殖を抑制し得る薬剤を見出した。そして、かかる薬剤の作用機序を解析したところ、当該薬剤は細胞のエネルギー代謝、例えば、ミトコンドリアの好気呼吸の一部を阻害するものであることなどの新規事実を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0010】
(1)ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を有する物質を有効成分として含有する虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤。
【0011】
(2)上記物質は、ミトコンドリアの好気呼吸を阻害するものである(1)に記載の薬剤。
【0012】
(3)上記物質は、解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害するものである(1)又は(2)に記載の薬剤。
【0013】
(4)上記物質は、(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害するもの、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害するもの、である(1)~(3)のいずれかに記載の薬剤。
【0014】
(5)上記物質は、正常環境下における細胞の生育には影響を与えないものである(1)~(4)のいずれかに記載の薬剤。
【0015】
(6)上記細胞は、線維芽細胞である(1)~(5)のいずれかに記載の薬剤。
【0016】
(7)上記虚血性疾患は、一過性脳虚血、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈バイパス術後のグラフト閉塞、経皮的冠動脈形成術後の冠動脈閉塞、血行再建術後の血管閉塞、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、本態性血小板血症、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、抗リン脂質抗体症候群、川崎病、肝炎、及び腎繊維化疾患の中から選択されるいずれかの疾患である(1)~(6)のいずれかに記載の薬剤。
【0017】
(8)上記物質は、パモ酸ピルビニウムである(1)~(7)のいずれかに記載の薬剤。
【0018】
(9)虚血環境下の非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける虚血環境下の哺乳動物の細胞に対して試験物質を適用する工程と、当該試験物質に関して、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を測定する工程と、を有する、虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法。
【0019】
(10)非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける哺乳動物の細胞において、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤によれば、細胞が虚血環境下において生存又は増殖することにより生ずる諸症状を緩和又は改善することができ、虚血性疾患の治療又は予防のために優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】PPが、ミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害する効果等を示す図である。
【図2】PPのミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害作用の、非薬剤存在下での持続性を調べた結果等を示す図である。
【図3】グルコースによる、PP処理した心臓の線維芽細胞の生存補完性等を評価した図である。
【図4】心筋梗塞モデルマウスにおける心臓の線維化に対するPPの効果を調べた図である。
【図5】虚血環境下における心臓の線維芽細胞のメタボロミクス解析の結果を示す図である。
【図6】PPの細胞毒性を調べた結果を示す図である。
【図7】グルコースの補完による、虚血環境下における、PP処理した心臓の線維芽細胞の生存の回復に関して評価した図である。
【図8】[13C-Glu]フラックスのメタボロミクス解析の経路マップを示す図である。
【図9】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図10】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図11】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図12】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図13】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図14】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図15】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図16】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図17】PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞についてメタボロミクス解析を行った結果を示す図である。
【図18】グルコースが欠乏した培養条件において、PPにて処理した心臓の線維芽細胞の代謝の適応(変化)の回復及びミトコンドリアのエネルギー代謝の回復を評価した図である。
【図19】心筋梗塞の病理学的なプロセスの模式図である。
【図20】PPで処理した瘢痕化した心臓における血管形成の向上を評価した図である。
【図21】PPの虚血時の特異的な細胞毒性における古典的Wnt及びUPRの役割の評価した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味する。

【0023】
(1)虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤
本発明の理解の一助とすべく、本発明の基礎となった知見について概説する。本発明者らは、虚血性心疾患における心臓の細胞を詳細に解析した結果、虚血環境下における心臓の線維芽細胞の代謝プロファイルが正常環境のそれとは異なること、上記代謝変化により線維芽細胞は虚血環境下において生存又は増殖を可能としていること、虚血環境下における線維芽細胞の生存又は増殖が虚血性心疾患に伴う心臓の繊維化を引き起こすこと、を突き止めた。

【0024】
本発明者らが上記知見に基づき、鋭意検討を重ねた結果、ある薬剤がミトコンドリアに環境非依存的な異常を引き起こすこと、かかるミトコンドリアの異常は、正常環境下では細胞の生育に影響を与えないが、虚血環境下では細胞の生育を阻害することを明らかにした。そして、当該薬剤の作用機序を詳細に解析したところ、当該薬剤は、細胞のエネルギー代謝の一部を阻害すること、特に、ミトコンドリアの好気呼吸を阻害することを見出した。具体的には、上記薬剤は、解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害するものであること、より詳細には、(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害するもの、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害するもの、であることを解明した。

【0025】
さらに、驚くべきことに、上記薬剤により、虚血環境下(特に低栄養状態。例えば、低グルコース状態など)における線維芽細胞の生存・増殖を抑制し、加えて、虚血環境に起因する細胞の繊維化を抑制できること、さらには繊維化を抑制することで、虚血性疾患後の心機能の低下の緩和、ひいては心機能の回復を向上させ得ることを見出し、虚血性疾患を治療又は予防できるという本発明を完成させるに至った。

【0026】
また、本発明者らは、上記薬剤を一度投与すれば、その後薬剤の非存在下であっても薬理作用がある程度(24~72h程度)継続することも明らかにした。このことから、予め上記薬剤を投与しておくことにより、虚血性疾患の発症又は悪化を予防することも可能になる。

【0027】
このように、本発明者らが完成させた本発明は、極めて独創性が高く、学術上だけでなく産業上も非常に意義のあるものである。以下、本発明についてさらに詳説する。

【0028】
本発明に係る虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤(以下、単に「本発明に係る薬剤」と称する。)は、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を有する物質を有効成分として含有するものであればよく、その他の成分、剤型等の具体的な態様について限定されるものではない。

【0029】
また、上記物質は、正常環境下における細胞の生育には影響を与えないものであることが好ましい。

【0030】
ここで、「ミトコンドリアに異常を与え」るとは、ミトコンドリアの機能について正常でない状態(異常状態)を引き起こすことをいい、特に、ミトコンドリアの呼吸機能に異常を引き起こすことを好ましく意図する。ミトコンドリアに異常が発生しているか否かについては、例えば、細胞外フラックスアナライザー、その他の標準的な生化学的、生理学的手法により、ミトコンドリアのエネルギー代謝、生化学的・生理学的反応を計測することにより判断できる。比較として、正常状態の細胞(例えば、薬剤非投与の細胞)由来のミトコンドリアを利用できる。その他にも、虚血環境下における細胞の生育状態を調べ、生育が抑制されている場合に異常が発生していると判断できる。また、電子顕微鏡による観察によりミトコンドリアの形状が正常状態から変化していることも異常の発生の基準とし得る。その他、後述する実施例に示す各種解析方法を利用してもよい。また、上記ミトコンドリアにおける異常の発生は、環境非依存的、つまり正常環境下か虚血環境下であるかに関わらず発生するものであることが好ましい。

【0031】
有効成分としては、上記機能を有する物質であればよく、特に限定されない。また、物質とは、低分子あるいは高分子の化合物、ポリヌクレオチド(DNA,RNA,遺伝子含む)、オリゴペプチド、ポリペプチド(タンパク質含む)、抗体等を包含する。これら物質は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。

【0032】
また、上記物質は、細胞のエネルギー代謝を阻害するものであることが好ましい。上記物質は、ミトコンドリアの好気呼吸を阻害するものであることが好ましく、解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害するものであることがより好ましい。さらに、上記物質は、(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害するもの、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害するもの、であることが特に好ましい。例えば、上記「(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害するもの」としては、ピルビン酸還元酵素を阻害するものなどを例示できる。

【0033】
上述した各種の阻害状態の判定方法については、後述する実施例に示す各種解析方法を好適に利用できる。例えば、薬剤の非投与群を対照(コントロール)として、当該対照と比べて、対象薬剤を投与した場合に上記各反応が有意に低下している場合を阻害しているものとみなすことで簡便に判定することができる。なお、後述する実施例に示す少なくとも1つの解析方法にて、上記阻害が認定されれば、本発明の技術的範囲に属するものとする。

【0034】
上記物質の一例として、パモ酸ピルビニウム(pyrivinium pamoate。以下、単に「PP」と称する場合もある。)を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、今後研究開発が進み、新たに見出された又は創成された新規物質をも含み得る。当業者であれば、本明細書の開示内容に基づけば、本願出願当時の技術などを好適に利用して、将来にわたり、上記物質と同様の機能を有する種々物質を見出し得る。

【0035】
本明細書でいう「有意」とは、実施例で記載するt検定における統計的分析に基づくものをいう。有意差レベルとしては、p<0.05、p<0.01、p<0.001のいずれも含む。

【0036】
本明細書における「虚血環境」とは、酸素濃度が低レベル、及び/又は、基質濃度が低レベルの環境をいう。虚血環境が引き起こされる原因については特に限定されないが、例えば、血管の閉塞や狭窄により血流が悪化し、酸素不足、基質供給の減少、代謝産物の蓄積、別々又は同時に進行する場合を例示できる。基質としては、糖類、アミノ酸、核酸、ビタミン等の細胞の生存に必要な従来公知の栄養素を挙げることができ、特に限定されないが、糖類、アミノ酸から選択される少なくとも一種が欠乏した状態であることが好ましい。例えば、糖類としてはグルコース、フルクトース等が好ましい例示として挙げることができるが、特にグルコースが好ましく例示できる。また、アミノ酸としては必須アミノ酸が好ましく、より好ましくはグルタミンが例示できる。つまり、本発明でいう虚血環境には、酸素濃度が正常であっても、グルコース及び/又はグルタミンが欠乏しれた状態をも含み得る。

【0037】
一方、本明細書中、「正常環境」とは、上記虚血環境と対をなすものであり、酸素濃度、基質供給量等について虚血状態ではない通常のレベル、いわゆる健常状態をいう。例えば、酸素濃度が正常環境にあるとは、哺乳動物又は哺乳動物の細胞が生存するのに必要な酸素濃度をいい、例えば、20~21%を挙げることができる。この範囲より低い場合を低酸素状態といい、例えば、3%程度を挙げることができる。

【0038】
同様に、糖類の濃度が正常環境にあるとは、哺乳動物又は哺乳動物の細胞が生存するのに必要な糖類濃度をいい、例えば、グルコースであれば25mMを挙げることができる。これより低い場合を低グルコース状態といい、例えば、300μM程度を挙げることができる。アミノ酸濃度が正常環境にあるとは、哺乳動物又は哺乳動物の細胞が生存するのに必要なアミノ酸濃度をいい、例えば、グルタミンであれば4mMを挙げることができる。これより低い場合を低グルタミン状態といい、例えば、100μM以下を挙げることができる。なお、上記例示に限定されるものではなく、酸素や基質等が正常環境にある状態としては、酸素及び基質が十分に供給されている環境であればよく、哺乳動物又は細胞がTCAサイクルによりエネルギー代謝を行い得る環境と換言することもできる。当業者であれば、かかる説明と本願出願当時の技術水準に鑑みれば十分に理解可能である。

【0039】
本発明に係る薬剤は、上述の通り、細胞のエネルギー代謝を阻害するものであるが、正常環境にある細胞には影響を及ぼさない一方、虚血環境下における細胞の生育を抑制するものであることが好ましい。「細胞の生育を抑制する」とは、細胞の生存及び/又は増殖を抑制することを意図する。当該抑制の有無については、薬剤の非投与群を対照として、有意に細胞の生存及び/又は増殖が低下している場合に抑制されていると判定することができる。

【0040】
上記細胞としては、特に限定されるものではないが、線維芽細胞であることが好ましい。上述の通り、線維芽細胞は、虚血環境下にて生存・増殖するが、虚血環境下にて増殖した線維芽細胞は、コラーゲンを大量に細胞外へ産出し、繊維化を引き起こす場合がある。このため、本発明に係る薬剤により、虚血環境下における線維芽細胞の生育を抑制することにより、繊維化をも抑制し得る。また、本発明に係る薬剤によれば、例えば、虚血性疾患が心筋梗塞等の虚血性心疾患である場合、上記の効果に加えて、虚血性心疾患後の心臓の機能低下を抑制することができる。さらには、心臓の機能回復をも向上させ得る。

【0041】
また、本発明に係る薬剤は一度投与すれば、その後薬剤の非存在下であっても、薬理作用がある程度継続するものであることが好ましい。例えば、24h~72hなどを例示できる。かかる薬剤を予め投与しておくことにより、虚血性疾患の発症又は悪化を予防することができる。

【0042】
本発明に係る薬剤が対象とする疾患は、血管の閉塞や狭窄により血流が悪化し、酸素不足、基質供給の減少等により引き起こされる虚血性疾患であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、虚血性心疾患、虚血性脳疾患(虚血性脳血管障害)、又は虚血性大腸炎等が挙げられる。より具体的には、例えば、一過性脳虚血、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈バイパス術後のグラフト閉塞、経皮的冠動脈形成術後の冠動脈閉塞、血行再建術後の血管閉塞、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、本態性血小板血症、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、抗リン脂質抗体症候群、及び川崎病、肝炎(肝臓の繊維化疾患一般)、腎繊維化疾患一般等が挙げられる。

【0043】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、適宜の薬剤学的に許容される製剤形態、投与方法とし得る。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、もしくはシロップ剤等の製剤として経口的に、又は、注射剤、坐剤、もしくは貼付剤等の製剤として非経口的に投与されることができる。「非経口的に投与する」方法としては、腹腔内投与、筋肉内投与、経皮投与、呼吸投与、点眼投与、経鼻投与又は皮下投与等の方法が挙げられる。

【0044】
本発明に係る薬剤は、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤、油脂性基剤、水溶性基剤等の添加剤を用いて、周知の方法で製造される。

【0045】
賦形剤としては、例えば、有機系賦形剤又は無機系賦形剤が挙げられる。有機系賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプンのようなデンプン誘導体;結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;又は、プルラン等が挙げられる。無機系賦形剤としては、例えば、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウムのような珪酸塩誘導体;リン酸カルシウムのようなリン酸塩;又は、硫酸カルシウムのような硫酸塩が挙げられる。

【0046】
結合剤としては、例えば、上記の賦形剤;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;又は、ポリエチレングリコールが挙げられる。

【0047】
崩壊剤としては、例えば、上記の賦形剤;クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムのような化学修飾された、デンプンもしくはセルロース誘導体;又は、架橋ポリビニルピロリドンが挙げられる。

【0048】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイロウのようなワックス類;硼酸;グリコール;D,L-ロイシン;フマル酸、アジピン酸のようなカルボン酸類;安息香酸ナトリウムのようなカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;又は、上記の賦形剤におけるデンプン誘導体が挙げられる。

【0049】
乳化剤としては、例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤が挙げられる。

【0050】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;又は、ソルビン酸が挙げられる。

【0051】
矯味矯臭剤としては、例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、又は、香料が挙げられる。

【0052】
希釈剤としては、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、又は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられる。

【0053】
注射剤用溶剤としては、例えば、水、エタノール、又は、グリセリンが挙げられる。

【0054】
油脂性基剤としては、例えば、カカオ脂、ラウリン脂、ヤシ油、パーム核油、ツバキ油、流動パラフィン、白色ワセリン、精製ラノリン、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール、又は、セタノールが挙げられる。

【0055】
水溶性基剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、エタノール又は精製水が挙げられる。

【0056】
本発明に係る薬剤の投与量は、当該薬剤の製剤形態、投与方法及び当該薬剤の投与対象の年齢、性別、体重、症状等によって適宜設定され得る。

【0057】
以上のように、本発明に係る薬剤によれば、虚血性疾患を治療又は予防することができる。また、虚血性疾患に起因する繊維化を抑制することができ、疾患後の組織又は臓器の機能の低下を抑制することができ、及び/又は、疾患により低下した組織等の機能回復を早めることも可能となる。

【0058】
(2)虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法
本発明に係る虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法(以下、単に「本発明に係るスクリーニング方法」と称する。)は、(i)虚血環境下の非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける虚血環境下の哺乳動物の細胞に対して試験物質を適用する工程と(ii)当該試験物質に関して、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を測定する工程と、を有しておればよく、その他の工程、条件等は特に限定されるものではない。なお、上記(1)欄で説明した内容は、本スクリーニング方法においても適宜援用される。

【0059】
まず、上記(i)工程について述べる。「虚血環境下の非ヒト哺乳動物」とは、例えば、人為的に血管の閉塞や狭窄を引き起こし、血流を悪化させ、酸素不足、基質供給の減少等により虚血状態を人工的に引き起こした、いわゆる虚血性疾患のモデル動物を挙げることができる。非ヒト哺乳動物とは、ヒト以外の哺乳動物であればよいが、特に実験動物として好適なマウス、ラット、モルモット、イヌ、ウサギ、サル、チンパンジー等が好ましい。

【0060】
また、現在、研究開発の流れとして動物愛護の観点より、実験動物を控える傾向があることから、上記モデル動物に替えて、細胞を用いた実験系を利用することも可能である。特に細胞を用いる場合、ヒト細胞を使用することもできるため、好ましい。具体的には、in vitro又はex vivoにおける虚血環境下の哺乳動物の細胞を利用すればよい。かかる細胞については、例えば、細胞の培養条件において、酸素濃度及び/又は基質濃度を低下させることにより、人工的に虚血環境を作りだすことで容易に調製可能である。哺乳動物の細胞は、虚血環境において生育する細胞であればよく、特に限定されないが、虚血性疾患に関与する細胞であることが好ましい。例えば、哺乳動物から採取した心臓、消化器系(胃、小腸、大腸)、脳組織(視床下部、下垂体等含む)、副腎、腎臓、肝臓、四肢、又は血管を細断した組織片でもよく、あるいはこれら臓器・器官内の細胞に由来する細胞株等でもよい。特に好ましい例示として、線維芽細胞を挙げることができる。

【0061】
虚血環境下の非ヒト哺乳動物又は細胞が調製できたか否かの確認は、従来公知のものを利用でき、特に限定されるものではないが、例えば、後述する実施例に示す方法により、細胞のエネルギー代謝に異常が発生しているか、特にミトコンドリアの好気呼吸の一部に異常が生じているかを解析する等方法を挙げることができる。

【0062】
上記非ヒト哺乳動物又は細胞の調製が済んだ後、試験物質を上記非ヒト哺乳動物又は細胞に対して適用させることで上記(i)工程を実施できる。試験物質の上記非ヒト哺乳動物又は細胞への適用方法については特に限定されず、従来公知のスクリーニング方法で実施される手法を好適に利用できる。例えば、非ヒト哺乳動物に対しては、非ヒト哺乳動物に試験物質を投与すればよい。投与する方法は、経口投与、腹腔内投与、筋肉内投与、経皮投与、呼吸投与、点眼投与、経鼻投与又は皮下投与等の方法が挙げられる。また、細胞に対して試験物質を適用する方法としては、上記細胞に対して試験物質を接触させればよく、培地中に添加する等の公知の手法を利用できる。

【0063】
上記試験物質とは、上述した本発明に係る薬剤となり得るか否か、すなわち、(a)ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を有するか否か、(b)ミトコンドリアの好気呼吸を阻害するか否か、(c)解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害するか否か、あるいは(d)(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害するか否か、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害するか否か等を確かめるための任意の物質であればよく、化合物、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体等を挙げることができる。必要に応じて、薬理学的に許容される塩として細胞等へ適用してもよい。

【0064】
次に、上記(ii)工程について述べる。本(ii)工程は、当該試験物質に関して、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する活性を測定する工程であればよい。かかる工程の一例として、例えば、虚血環境下における細胞の生育が阻害されるか否かを単純に測定する方法が挙げられる。また、電子顕微鏡でミトコンドリアの形状を観察し、異常が発生しているか否かを確認する方法もある。

【0065】
また、その他の方法として、(a)ミトコンドリアの好気呼吸を阻害する、(b)解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害する、あるいは(c)(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害する、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害するなどを判定する方法が挙げられる。この場合、上記各種方法については、上述した薬剤の欄に記載したものと同じであるため、説明を省略する。上記各種阻害の有無の判定方法についても、公地の手法を利用でき特に限定されないが、例えば、非ヒト哺乳動物については、試験物質の非投与群と投与群とを比較し、人為的に引き起こした虚血性疾患の症状が緩和又は改善しているか否かを評価又は測定する方法を挙げることができる。また、細胞であれば、試験物質の存在下の場合と、非存在下の場合とを比較し、虚血環境下での細胞毒性を評価又は測定する方法を挙げることができる。

【0066】
また、上記ミトコンドリアの好気呼吸の阻害は、ピルビン酸還元酵素の阻害及び/又は電子伝達系の阻害と関連している。このため、上記方法の一例として、上記ピルビン酸還元酵素又は電子伝達系に関与する因子の活性を測定する方法も利用できる。なお、かかる酵素等の活性測定については従来公知の手法を利用でき、特に限定されるものではない。

【0067】
また、試験物質の投与/非投与を比較する方法に替えて、基準となる物質(例えば、PP等)を適用した場合を基準値として設定しておき、試験物質の効果を評価又は測定する方法も含まれる。あるいは、より単純に試験物質の効果を定量化して測定してもよい。

【0068】
このように、本発明に係るスクリーニング方法によれば、簡便かつ正確に、虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤となり得る候補物質をスクリーニングすることができる。かかる物質は、上述した本発明に係る薬剤と同様に、虚血性疾患の治療・予防薬の候補物質として医薬の開発に有用である。

【0069】
(3)本発明に係る虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法
本発明に係る虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法(以下、単に「本発明に係る方法」と称する。)は、非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける哺乳動物の細胞において、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法であればよく、その他の具体的な工程等については特に限定されない。なお、上記(1),(2)欄で説明した内容は、本方法においても適宜援用される。

【0070】
また、本発明に係る方法は、ミトコンドリアに環境非依存的な異常を引き起こし、正常環境下では生育に影響を与えないが、虚血環境下でのみ細胞の生育を阻害する方法であることが好ましい。

【0071】
かかる方法の一例として、例えば、非ヒト哺乳動物、あるいはin vitro又はex vivoにおける哺乳動物の細胞において、(a)ミトコンドリアの好気呼吸を阻害する、(b)解糖系からクエン酸回路への代謝の流れを阻害する、あるいは(c)(i)ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を阻害する、及び/又は、(ii)電子伝達系を阻害する等の方法を挙げることができる。

【0072】
上記方法における具体的な工程については、例えば、上述した本発明に係る薬剤や本発明に係るスクリーニング方法により得られた候補物質を用いて実施し得る。その他、遺伝子工学的手法により、上記ミトコンドリアに異常を与えて虚血環境下における細胞の生育を阻害する方法も本発明に係る方法に含まれ得る。

【0073】
本発明に係る方法は、虚血性疾患のメカニズムを解明し、新たな治療法や治療薬剤の開発のために有用である。

【0074】
また、本発明には上述した発明のみならず、以下の発明も包含される。
本発明に係る薬剤を用いて、虚血性疾患を処置又は予防する方法。
本発明に係る薬剤を製造するための、ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下における細胞の生育を阻害する物質を有効成分として使用する方法。
ミトコンドリアに異常を与え、虚血環境下におけるエネルギー代謝をターゲットとした心筋梗塞など虚血性心疾患治療及び予防法。
虚血環境下における心臓の線維芽細胞内のミトコンドリアの機能異常を引き起こす薬剤としての、パモ酸ピリビニウムの利用。
心筋梗塞などの虚血性心疾患治療薬及び予防薬としてのパモ酸ピリビニウムの利用。

【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
以下の実施例では、「図1A」は図1のパネルA、「図1B」は図1のパネルB、「図2A」は図2のパネルAといったように示す。他の図面についても同様である。
【実施例】
【0077】
<1.実験結果概要>
心臓発作として一般的に周知の心筋梗塞は、心臓への酸素及び栄養素の運搬が不足(すなわち、虚血)する結果生じ、心臓では心筋細胞が死に、そして心臓の線維芽細胞が増殖し、心臓の線維芽細胞の増殖により瘢痕の形成が引き起こされる。梗塞した心臓で、そのような瘢痕の形成(すなわち、線維化)は、心臓の破裂を防止するための自然に生じる創傷治癒プロセスである。しかし、瘢痕の形成は、心臓の回復を妨げ、そして心臓の収縮性を弱める(文献1,2)。このため、心臓発作及び他の心疾患により損傷した心臓を十分に回復させるために、上述した心臓の破裂を引き起こさずに、心臓の線維化を効果的に治療する処置が、非常に必要とされている。
【実施例】
【0078】
心臓の線維化を阻害するための、従来の治療のアプローチとして、心臓の線維芽細胞の増殖、及び/又は、遊走を抑制することが行われている(文献1,2)。ごく最近では、心臓の線維芽細胞を心臓の筋細胞に再び調整する新たな遺伝子のアプローチであって、線維芽細胞の集合体を減少させ、これによって線維化を制限し、そして同時に一部の心臓の筋細胞を回復させることが示された(文献3,4)。しかし、心臓の線維化のための最も効果的な処置を確立するために、さらなる研究が必要とされている。
【実施例】
【0079】
このため、線維化を妨げ、心臓の回復を促進させるための、新たな戦略を本発明者らは提案する。本発明者らは、心臓の線維芽細胞が、虚血を切り抜けて生き延びるため、そして線維化を促進させるために利用し得る、細胞内の代謝の独特な特徴を着目した(図1A)。酸素及び/又は栄養素を利用すること、並びに、増殖性の状態及び分化の状態によって、変化した細胞内の代謝は、細胞の生存、成長、分化及び恒常性において、極めて重要な役割を担う(文献5-9)。特に、癌細胞が、細胞内代謝を再び調整するための能力を利用し、栄養素の不足に適応し、そのような代謝のストレスを切り抜けて生き延び、そして腫瘍を形成することは確立されており、癌細胞の代謝の特性が、治療に適用するために広く研究されている(文献8,10-12)。
【実施例】
【0080】
しかし、虚血性心疾患と関連のある、微環境を変化させる心臓の線維芽細胞における代謝の変化に関しては知られておらず、治療に役立つ処置のための目標にもされていない。本発明者らは、心臓の線維芽細胞における、このような代謝の変化に着目し、心筋梗塞を含む虚血性心疾患における心臓の線維化を和らげるための、新しく、かつ効果的な方法を開発することにした(図1のパネルA)。
【実施例】
【0081】
以下、後述する<3.実験詳細>にて詳細に述べるように、培養した心臓の線維芽細胞の代謝分析及び可能性のあるターゲットに対する薬物のスクリーニングを通して、本発明者らは、虚血性環境下(特に、グルコース及び/又はグルタミンが欠乏した条件下)で、心臓の線維芽細胞の生存を阻害するが、正常環境下(例えば、グルコース及び/又はグルタミンが豊富な条件下)では細胞の生存を阻害しない薬物(パモ酸ピルビニウム(以下、「PP」とも称する。))を見出した(図5~図7及び<2.実験>の2A)。PPは、寄生虫のミトコンドリア中のNADHフマル酸還元酵素(NADH-FR)の活性を抑制する駆虫薬物であるが、哺乳類の細胞中においても同じターゲットを抑制するか否かは不可解なままである(文献13)。実際、グルコース及びグルタミンは欠乏しているが、Oが欠乏していない条件下において、心臓の線維芽細胞に対してPPが誘発する細胞毒性を本発明者らは実証した(図7及び<3.実験詳細>の2A)。NADH-FR活性が低酸素に特有であるため、この新規知見は、PPが心臓の線維芽細胞中の非NADH-FRのターゲットに作用することを示唆する(文献13)。それゆえ、本発明者らは、推定上の非NADH-FRのターゲットを調べ、そして特にグルコース及びグルタミンが欠乏した条件下において、PPが心臓の線維芽細胞の生存を減衰させることによるメカニズムについて詳細に検討した。
【実施例】
【0082】
その結果より、本発明者らは、2つの可能性のあるメカニズムを突き止めた。図7に示す結果より推測されるが、可能性の1つめは、PPが、グルコースが豊富な正常環境下の細胞中に存在するターゲットに作用する一方、グルコース及び/又はグルタミンが欠乏しれた条件下でのみ細胞毒性を発揮することである。可能性の2つめは、PPが、グルコース及び/又はグルタミンが欠乏した条件下の細胞中にのみ存在し、グルコース及び/又はグルタミンが豊富にある正常環境下の細胞中に存在しないターゲットに作用することである。
【実施例】
【0083】
この問題を解決するために、本発明者らは、PPを用いて心臓の線維芽細胞を一時的に処理し、PP非存在下の、グルコース及びグルタミンが欠乏した培地における心臓の線維芽細胞の生存を調べた(図1B)。その結果、心臓の線維芽細胞は、正常の培養条件下にて心臓の線維芽細胞を一時的にPPで処理した後、グルコース及びグルタミンが欠乏した(Glclow/Glnlow)条件下にて培養した場合に、細胞の生存が十分に抑制されることがわかった(図1B)。PPで処理することが、正常培養培地の細胞に対して何ら効果を示さなかったため、このPP処理による細胞の生存阻害効果は、Glclow/Glnlow条件に対して特有であると考えられる(図1B)。この一時的な効果におけるPPのIC50は、61.8nMであった(図1C)。これらの結果は、1)グルコース及び/又はグルタミンが豊富な正常条件下の心臓の線維芽細胞に存在する、これまでに確認されていない非NADH-FRターゲットに作用すること、そして2)上記薬物の効果が、薬物が除去した後でさえも存続し、そして特にグルコース及び/又はグルタミンが欠乏した条件下にて、心臓の線維芽細胞の生存を阻害することを示すものである。
【実施例】
【0084】
PPで処理した細胞が、グルコース及び/又はグルタミンが欠乏した条件下で生存を阻害される一方、グルコース及び/又はグルタミンが豊富な条件下では生存するという新規知見に基づくと、グルコースの利用が、エネルギー生産のための主な源であることから、本発明者らは、PPの推測上のターゲットとして考えられる1つの候補として、細胞内のエネルギー代謝に関係があると考えた。そこで、本発明者らは、XF96Flux分析器(XF96 Flux analyzer)を用いて、ミトコンドリアのエネルギー代謝を測定することにより、この可能性を検証した(図1D)。この検証によって、ミトコンドリアの呼吸をリアルタイムに表示する、酸素消費速度(以下「OCR」とも称する。)が、正常培地中の細胞をPPで処理した後、10分以内に劇的に減少することを見出した(図1D)。超微細構造の明らかな異常は、ミトコンドリア中に見出されなかった(図1E)。これにより、PPが誘発したOCRの減少が、ミトコンドリアの明らかな構造変化によるものでないということを示唆する。この結果は、PPが、ミトコンドリアの明らかな構造変化を引き起こすことなく、ミトコンドリアのエネルギー代謝を抑制することを示すと本発明者らは考えた。
【実施例】
【0085】
13Cでラベル化したグルコース(13C-Glu)をトレーサーとして用いて、正常条件下にて培養した心臓の線維芽細胞のターゲットメタボロミクス解析によって、上述した可能性をさらに検討した(図1F,図1G及び図8)。この実験において、培地はラベル化された(13C)グルコース及びラベル化されていない(12C)グルコースを同じ量で含んでいるため、13Cの取り込みは、飽和(すなわち、安定状態)で、合計量の50%に達すると推測される(<3.実験詳細>の1H参照)。ビヒクル(DMSO)で処理した心臓の線維芽細胞及びPPで処理した心臓の線維芽細胞の両方において、13Cが、糖分解の全ての中間代謝物中に効果的に取り込まれ、そして20分以内に30%~60%の取り込みを達成した。これにより、この経路における迅速なフラックス及びこれらの細胞中の活発な解糖が示唆された(図1F)。また、解糖の最終生成物(乳酸)への13Cの迅速かつ重要な取り込みが観察され、本発明者らの推測が支持された(図1F)。
【実施例】
【0086】
糖分解の中間代謝物への13Cの効果的な取り込みとは対照的に、TCAサイクルの中間代謝物への13Cの取り込みは見出されなかった(図1G)。ビヒクルで処理した細胞にて、ラベル化してからの20分間で、クエン酸への13Cの取り込みがわずか12%であり、さらに700分後において非常に穏やかなフラックス(12%→15%→26%)であることも分かった(図1G)。このことから、本発明者らは、ラベル化して20分間、120分間及び720分間で、それぞれ11%、12%及び15%の取込みが検出されたリンゴ酸を除いて、TCAサイクルの他の全ての中間代謝物において取込みが低いレベル(<10%)であることを見出した(図1G)。一方、ビヒクルで処理した細胞では、TCAサイクルにおける全ての中間代謝物の合計のレベルは、それぞれ一定状態を維持した(図1G)。これらの結果は、グルコースが豊富な条件下における細胞のTCAサイクルが、代謝の穏やかなフラックスであることをそれぞれ示す。
【実施例】
【0087】
PPで処理した細胞にて、ラベル化してから20分間、120分間及び720分間で、それぞれ11%、13%及び11%の取込みが検出されたリンゴ酸を除いて、TCAサイクルの全ての中間代謝物に13Cの取込みがないか、又は低いレベルであることを見出した(図1G)。ビヒクルで処理した細胞のTCAサイクルの中間代謝物と比較して、PPで処理した細胞のTCAサイクルの中間代謝物の主な違いは、クエン酸、cis-アコニット酸及びイソクエン酸の合計量において見出された。PPで処理した後20分以内に、それらはほぼ完全に消費され、そしてそれらのレベルはさらに700分間の培養中に全く回復されなかった(図1G)。これらの代謝物の迅速な消費を説明できる1つの可能性として、PPによる処理が、クエン酸を脂肪酸に劇的に変化させるカタプレロティック反応を生み出すということがある。フマル酸及びリンゴ酸の合計のレベルは、PPで処理することによる影響がないようであった。コハク酸の量は、PPで処理した後20分以内にわずかに減少しており、その後も一定値を維持した(図1G)。2-オキソグルタル酸のレベルは、PPで処理した後20分以内に、消費されなかったが著しく減少した。これはおそらく、正常培地中に存在するグルタミンのフラックスによるものである。2-オキソグルタル酸のレベルは、さらに700分間で徐々に増加した(図1G)。これは、PPで処理した細胞中における、コハク酸の合成のための2-オキソグルタル酸の利用によるものであり得る。
【実施例】
【0088】
グルコースに由来する13Cのフラックス解析は、グルコース及び/又はグルタミンが豊富な正常培地中の心臓の線維芽細胞における活発で効果的な解糖を示す(図1F)。しかし、720分間の正常培地における培養中において、クエン酸からcis-アコニット酸及び他のTCAサイクルの中間代謝物への13Cのフラックスがほとんどないことが示されているように、TCAサイクルのフラックスはほとんど検出されなかった(図1G)。糖分解の中間代謝物(おそらくピルビン酸)からTCAサイクルの中間代謝物への一部の13Cのフラックスを示すと推測される、検出可能であるが低いレベルの13Cの取込みを、正常培地での720分間の培養中のクエン酸及びリンゴ酸として確認した(図1G)。しかし、PPで処理した細胞中では、そのようなフラックスが減少されており(図1G)、PPが、解糖系からTCAサイクルへの代謝フラックスを妨げることを示している(図1G)。この仮説はまた、長期間にわたってPPで処理した細胞中の乳酸のレベルが徐々に増加することを示す知見と一致しており(図1F)、これは、ピルビン酸が、TCAサイクルの中間代謝物、アセチル-CoA、ひいてはクエン酸へ代謝されるより、むしろ乳酸の合成のために用いられることを示唆している。
【実施例】
【0089】
PPによる解糖系からTCAサイクルへの代謝フラックスの考えられる阻害機構は、別の知見によっても示される。すなわち、グルコース-1-リン酸(G1P)及びグリセロール 3-リン酸の2つの代謝物の全体のレベルの著しい増加によって示されているように(図8)、PPで処理した細胞中で、多量のグルコース由来の13Cが、グルコース-1-リン酸(G1P)及びグリセロール 3-リン酸に迅速に流動することを、本発明者らは見出した。これは、ラベル化して20分以内に、グルコース-6-リン酸(G6P)の全体のレベルの劇的な現象を伴う(図1F)。このような結果は、PPで処理した細胞中、グルコースが、解糖に用いられこととは別に、G1P及びグリセロール 3-リン酸に転換されたことを示す(図1F及び図8)。この現象について考えられる仮説としては、PPにて処理した細胞中において、糖分解の中間代謝物(ピルビン酸)からTCAサイクルへの代謝のフラックスの障害が、解糖系に非効率的なフラックスを引き起こし、その結果、糖分系の中間代謝物の重要な回路が、標準的な解糖系のフラックスから離れて、代わりにG1P及びグリセロール 3-リン酸になるというものである。
【実施例】
【0090】
次に、本発明者らは、PPが誘発する、ミトコンドリアのエネルギー代謝に対する阻害作用が、どのような方法によって、心臓の線維芽細胞がグルコース及び/又はグルタミンが欠乏した培地中では生存できないが、グルコース及び/又はグルタミンが豊富な培地中では生存できるようにするのかを検討した。
【実施例】
【0091】
本発明者らは、正常(すなわち、グルコース及びグルタミンが豊富な)培地で、PPで処理し、その後、PPなしでグルコース及びグルタミンが低濃度(Glclow/Glnlow)の培地で培養した心臓の線維芽細胞のメタボロミクス解析を行った(図2及び図9~図17)。Glclow/Glnlowの培地での培養中に、ビヒクルで処理した細胞及びPPで処理した細胞の両方の細胞において、糖分解の全ての中間代謝物がほぼ完全に消費されるか、又は著しく減少したことが確認された(図2A)。これは、培地中のグルコースが欠乏したことにより、解糖系によるエネルギーの産出が消尽したことを示している。この推測は、Glclow/Glnlowの培地で12時間にわたって培養された細胞中において、乳酸の発生量が低下したことを示す知見と一致している(図2A)。PPで処理した細胞中のグルコースから蓄えられたG1Pは、おそらく解糖系によって完全に消費されたものと考えられる(図9)。
【実施例】
【0092】
Glclow/Glnlowの培地にて、ビヒクルで処理した心臓の線維芽細胞及びPPで処理した心臓の線維芽細胞の両方は、TCAサイクル及び/又はカタプレロティック反応の両方又はどちらか一方のフラックスによって、多量のTCAサイクルの中間代謝物を消費し、グルコースが欠乏した環境中(すなわち、解糖系が存在していない環境中)にエネルギーを産出したと推測される(図2B)。PPで処理した心臓の線維芽細胞では、クエン酸、cis-アコニット酸及びイソクエン酸は、PP処理した後の12時間後までに、Glclow/Glnlowの培地での培養にて、かろうじて検出できるか又は完全に消費されることがわかる(図2B)。エネルギーを産出するコハク酸を除く、他の中間代謝物は消費され、そのレベルは、PP処理した後の12時間後までの、Glclow/Glnlowの培地での培養で、著しく減少した(図2B)。まとめると、これらの結果は、ビヒクルで処理した心臓の線維芽細胞と比較して、PPで処理した心臓の線維芽細胞において、ミトコンドリア中のエネルギーを産出する担体として機能する、TCAサイクルの中間代謝物の量が、はるかに制限されることを示す。
【実施例】
【0093】
また、本発明者らは、PPが誘発するOCR中の減少が、PPが存在しなくても持続されるか否かを検証した(図2C)。正常培地中で1時間にわたって、心臓の線維芽細胞をPPで処理し、十分に洗浄し、過剰のPPを除去した後に、OCR及び細胞外壁の酸性化率(ECAR)の両方(後者は、解糖系をリアルタイムに表示するものである。)を正常培地又はGlclow/Glnlowの培地のどちらか一方にて測定した(図2C)。PPで処理した細胞は、正常培地又はGlclow/Glnlowの培地のどちらか一方において、PPが存在しなくても、OCRは低下したままであった(図2C)。これは、PPが、グルコースが利用可能か否か(グルコースのアベイラビリティー)と関係なく、ミトコンドリアにおけるエネルギーの産出機構を阻害することを示しており、またPPが存在しなくてもかかる機構が継続することを示す。PPで処理した細胞は、正常培地で培養した場合に、ECARがわずかに増加することがわかった(図2C)。これは、より多くの乳酸が生成したことを示す。これはまた、メタボロミクス解析によって示された、PPで処理した細胞又はPPで処理した細胞中の乳酸が多量に増加したこととも一致する(図1F、図2A)。ビヒクルで処理した細胞及びPPで処理した細胞の両方が、Glclow/Glnlowの培地で培養した場合、ECARの著しい減少を示した(図2C)。これは、多量の乳酸が減少したことを示すメタボロミクスの結果と一致する(図2A)。これにより、培地中のグルコースが欠乏したことによる、解糖系が抑制された状態を確認できた。
【実施例】
【0094】
Glclow/Glnlow培地において、PPで処理した細胞中のエネルギーの産出が著しく減少することによって、上述した仮説を構築した。かかる仮説を確認するために、本発明者らは、ビヒクル(DMSO)又はPPのどちらか一方で1時間にわたって処理し、続けてPPなしでGlclow/Glnlowの培地中にて12時間にわたって培養した、心臓の線維芽細胞において、AMPレベル、ADPレベル及びATPレベル、並びに、算出したエネルギー充足を測定した(図2D)。AMPレベルは、ビヒクルで処理した細胞と比較して、PPで処理した細胞中で著しく増加した(287±23[PPで処理]対44±8[ビヒクルで処理])(図2D)。対照的に、ADPレベルは、わずかに減少し(230±23[PPで処理]対286±13[ビヒクルで処理])、ATPレベルは、劇的に減少した(97±51[PPで処理]対1973±77[ビヒクルで処理])(図2D)。エネルギー充足の算出(図の凡例を参照)では、PPで処理した細胞にて50%を超える減少を示した(0.34±0.06[PPで処理]対0.92±0.01[ビヒクルで処理])(図2D)。TCAサイクル中でエネルギーを産出するための担体のアベイラビリティー(図1G及び図2B)と、培地中のグルコースが欠乏したことによるエネルギーを産出する解糖系が存在しない、OCRの減少によって示されているように(図1D)、電子伝達系(ETC)の永続的な抑制との組合せが、PPで処理した細胞中のエネルギーの産出及びエネルギー充足の著しい減少を引き起こす(図2D)ことを、これらの結果が示す。
【実施例】
【0095】
これら全ての結果は、PPで処理した心臓の線維芽細胞が、エネルギーが不足するために、Glclow/Glnlowの条件で生存できないことを示す。この可能性を検証するために、本発明者らは、エネルギーの再充足によって、Glclow/Glnlowの培地中にてPPで処理した細胞の生存を回復し得るか否かを調べた(図3A)。(解糖系を再活性するための)グルコース、(ETCを介してミトコンドリアのエネルギーを産出するための担体であるコハク酸を供給するための)グルタミン、又は(TCAサイクルにてアセチル-CoAを介してクエン酸を合成するための担体を供給するための)ピルビン酸を供給することによって、エネルギーの再充足を試みた。
【実施例】
【0096】
その結果、グルコースにてGlclow/Glnlowの培養培地を補完することは、PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存を完全に回復させるためには十分であった(図3A)。グルコースの補完による回復効果は、OCRでなく、ECARを増加させることによって達成された(図3B)。その上、グルコースの補完に関して、ビヒクルで処理した細胞よりもPPで処理した心臓の線維芽細胞において、ECARの増加が大きかった(図3B)。これらの結果は、PPで処理した心臓の線維芽細胞の、欠陥のあるミトコンドリアのエネルギー代謝(すなわち、低いOCR)が、解糖系が増強されたこと(すなわち、より高いECAR)によって補われたことを示す。対照的に、ピルビン酸の補完は回復効果を有さず(図3A)、またECARもOCRも回復しなかった(図3B)。グルタミンの添加は、回復効果をほとんど有さず(図3A)、またECAR及びOCRに対する効果も有さなかった(図3B)。これらの結果は、グルコースの補完によって、生産力のある解糖系が回復し、Glclow/Glnlowの培養培地中の、PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存を回復することを示す。一方、ピルビン酸の補完によって、生存細胞またはOCRに対する改善不足より、PPで処理することによって誘発された、ピルビン酸からTCAサイクルへの妨げられたフラックスが、薬物を除去した後でさえ持続することが示された。グルタミンによる最小限の回復効果は、グルタミンからのコハク酸の合成により、ミトコンドリアのエネルギー生産のための担体を供給し得ることを示す。しかし、減少したOCRの改善不足が示すように、非常に小さくてもエネルギー増幅率があれば、それはETCの欠陥が持続していることによるものである(図3B)。
【実施例】
【0097】
これらの結果をまとめると、本発明者らは、グルコースが欠乏した環境において、心臓の線維芽細胞の代謝が適応(変化)することを要約するモデルを提供し、そしてPPがこの適応を阻害する方法を提供する(図3C)。グルコースが豊富な正常環境下で、心臓の線維芽細胞は、ミトコンドリアのエネルギー代謝を利用せずに、活性化した解糖系を利用し、生存するために十分なエネルギーを産出する。グルコースのアベイラビリティーが制限された場合、心臓の線維芽細胞は、解糖系を介するエネルギーの産出が劇的に減少したことにより、主にミトコンドリアのエネルギー代謝に依存する。OCRが劇的に減少したことが示すように、心臓の線維芽細胞をPPで一時的に処理することは、解糖系からTCAサイクルへの代謝フラックスの阻害、TCAサイクルの中間代謝物(すなわち、クエン酸、cis-アコニット酸、イソクエン酸)の一部の増強、及びETCの抑制を引き起こす。一時的にPPで処理することによって、ミトコンドリアのエネルギー代謝の状態は、PPを除去した後でさえ持続する。このため、ミトコンドリアのエネルギー代謝のこの「鎮静」状態は、細胞中に「代謝メモリー」として継続する。そのようなミトコンドリアのメモリーの存在及びグルコースが欠乏した環境下の解糖の不足によって、PPで処理した心臓の線維芽細胞は、その薬物が存在しなくても、エネルギーの産出に関するレベルを正常に維持できず、結果的に、代謝ストレスのために生存できない。
【実施例】
【0098】
このミトコンドリアの代謝メモリーは、永続的なものでなく、消え得る。そのため、長期間のメモリーというよりむしろ「短期間のメモリー」のようである。PPで処理した心臓の線維芽細胞を、グルコース及び/又はグルタミンが豊富な正常培地中で長期間にわたって培養した場合、上記線維芽細胞は、制限されたグルコースのアベイラビリティーにもはや敏感に反応しない(図18)。72時間にわたって正常培地中で培養した、PPで処理した心臓の線維芽細胞は、グルコースが欠乏した条件で生存した(図18A)。さらに、上記線維芽細胞のOCRは、コントロールの細胞のOCRと区別がつかなかった。これは、上記線維芽細胞のミトコンドリアの正常なエネルギー代謝が、次の正常培養培地中での「回復期間」で回復されたことを示す(図18B)。どちらの細胞のECAR(解糖の指標)もまた、互いに区別がつかなかった(図18B)。これらの結果はまた、本発明者らが提案した、PPによって引き起こされたミトコンドリアのエネルギー代謝欠乏が、PPで処理した細胞が、グルコース欠乏環境下で生存し得ない決定的な要因であるという、PPの機能のメカニズム(図3C)と一致する(<3.実験詳細>の2B参照)。
【実施例】
【0099】
本発明者らは、心筋梗塞マウスモデルにおいて、in vivoにおける心臓の線維芽細胞に対してPPの効果を調べた。心筋梗塞モデルマウスでは、左冠状動脈は、外科的結紮によって持続的に閉塞されている。閉塞後24時間以内に、左心室において、虚血のために心筋細胞のほとんどが死に、そして、結紮から3~4日後、心臓の線維芽細胞が増殖及び遊走し始め、結紮から7日後に心臓の線維芽細胞の数が最も高くなる(図19)。これら活性化された心臓の線維芽細胞によるコラーゲン線維の分泌及び析出が、線維化を招く(図19)。結紮から1日後(すなわち、虚血のために心筋細胞のほとんどが死んだ後)に、PPの経口投与を開始し、毎日続けた(図19)。結紮から4日後、虚血領域(すなわち、梗塞域)において、増殖している細胞の数を、抗Ki67抗体を用いた染色によって定量化した(図4A,図4B)。その結果は、PPを用いて処理した心臓の閉塞域において、Ki67細胞の大幅な減少を示した(図4A,図4B)。Ki67は、その発現が細胞の増殖と関連する核タンパク質である。従って、この結果は、PPが、線維化の開始段階において、虚血領域における細胞増殖を抑制することを示す。
【実施例】
【0100】
線維化に活発に関与する心臓の筋線維芽細胞の数を、境界及び閉塞域の両方において、上記細胞を抗-α-平滑筋アクチン(αSMA)を用いて染色することによって、具体的に確認し、そして定量化した(図4C,図4D)。上記結果は、心臓の線維化が継続的である境界及び閉塞域の両方において、結紮から7日後、αSMAの心臓の筋線維芽細胞が大幅に減少することを実証した(図4C,図4D)。本発明者らは。結紮から14日後までに、PPを用いて処理した心臓における線維化の程度が減少することを見出した(図4E,図4F)。ビヒクル又はPPを用いて処理した心臓の間に梗塞の大きさに差が見られないことから、この減少した線維化は、閉塞域が減少したことによるもの(心筋細胞の死/壊死が減少したことによるもの)ではない(図4E,図4F)。
【実施例】
【0101】
PP処理により減少した閉塞性の心臓における線維化を、当該心臓におけるヒドロキシプロリン(成長したコラーゲン分子の数値目標)の含有量の減少レベルによって、さらに確認した(図4G)。これらの結果は、PPが、in vivoにおいて、心筋梗塞により引き起こされた虚血状態の心臓組織において増殖する心臓の線維芽細胞の数を減少させ、その結果、線維化を減少させることを示している。その上、結紮から14日後、PPにより処理した梗塞された心臓は、ビヒクルのみにより処理した心臓と比較して、増加された駆出率に示されるように、左心室の機能が改善を示した(図4H)。この結果は、PPによる線維化の減少を引き起こし、閉塞された心臓の機能低下を妨げることができることを示唆する。
【実施例】
【0102】
PPが誘発する線維化の減少に対する、不利(すなわち、心臓破裂)でなく、この有益な(すなわち、心臓の機能を改善する)効果を説明する1つの可能性は、瘢痕形成が減少することが、残った心筋細胞の収縮機能のための好ましい条件である、より効果的な血管形成のために、任意の組織環境を供給するということである。この可能性を支持して、本発明者らは、PPで処理した梗塞した心臓中の血管の濃度が、統計学的に有効に増加することを確認した(図20)。心筋梗塞のマウスモデルにおいて、PPが心臓の再構築に対してほとんど効果を示さず、線維化を減少しない又は心臓機能を向上しないことは既に報告されている(文献14)。文献14にて開示された結果と本発明者らの結果との矛盾は、マウスに対するPPの処理のプロトコールが異なることによる可能性がある(<3.実験詳細>の2C参照)。
【実施例】
【0103】
PPはまた、グルコースが欠乏した種々の癌細胞を効果的に死なせるが、その作用様式は意見が分かれている(文献15-19)。本明細書中にて示されるPPによる、ミトコンドリアの代謝メモリーの形態が、グルコースが欠乏した癌細胞の生存を抑制することに影響を与えるか否かの検証に注目した。そのような研究はまた、グルコースが欠乏しても生存する特有の能力を有する、心臓の線維芽細胞と癌細胞の両方の細胞によって共有される、推定上の代謝特性に対する重要な見識を提供する。
【実施例】
【0104】
近年、PPが、3つの非NADH-FR経路(古典的Wnt経路、小胞体ストレス応答(UPR)経路及びアンドロゲン受容体シグナル経路)を抑制することが示された(文献19-23)。アンドロゲン受容体が突出したマウスが、線維化の増加を抑制することは既に報告されている(文献24)。これは、本明細書中にて示すPPの効果が、アンドロゲン受容体シグナルを阻害することと関係のないことを示唆する。さらに、図21に示される薬理学的な研究及び遺伝学研究によって実証されているように、特にGlclow/Glnlow培地中で、PPにて処理した心臓の線維芽細胞が生存できないことは、WntまたはUPRシグナル経路を阻害することとは関係ない(<3.実験詳細>の2D参照)。
【実施例】
【0105】
結論として、本発明者らは、心臓の線維芽細胞が、グルコースが欠乏した環境に適応する、代謝のメカニズムを明らかにした(図3C)。さらに、本発明者らは、心臓の線維芽細胞を駆虫薬物(PP)に一時的にさらすことが、永続的なミトコンドリアのエネルギー代謝の鎮静作用を誘発することを発見した(図3C)。薬物が存在している期間を過ぎても持続する、ミトコンドリアのエネルギー代謝の鎮静状態の「メモリー」を、たった1つの薬物が誘発する、薬物作用のこの様式は前例がない。心臓の線維芽細胞における、PPが誘発するミトコンドリアの代謝メモリーは、グルコースが欠乏した環境に対する代謝の適応を阻害し、そして上記薬物が存在しなくとも代謝ストレスの下で、本質的に生存できないようにする(図3C)。さらに、本発明者らは、上記線維芽細胞が、グルコースが欠乏した環境に対する代謝の適応をリセットし得ることによって、「回復する」条件を有する、上記薬物で処理した心臓の線維芽細胞により、このメモリーが消され得ることを示した(図18)。
【実施例】
【0106】
本発明者らはまた、心筋梗塞のマウスモデルにおいて、この薬物が、線維化を和らげ、そして心臓の破裂を引き起こすことなしに、心臓機能を改良することを実証した(図4)。PPはFDAに認証されている駆虫薬物であるため、その治療的応用が問題を引き起こすことはほとんどないと推測される。さらに、本発明者らの結果は、線維芽細胞の代謝の適応が、新たな治療のターゲットとして機能し、線維化を妨げ、そして心臓及び他の臓器又は組織を回復し得ることを示唆する。
【実施例】
【0107】
<2.図面に関する説明>
[図1.PPが、ミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害する効果、及び、この効果が、特に薬が排出された後のグルコース及び/又はグルタミンが欠乏した微環境において、心臓の線維芽細胞の生存を阻害することを示す図である。]
A:仮説の概略的な図である。
【実施例】
【0108】
B:正常培地中で、心臓の線維芽細胞を一時的にPPで処理することによって、薬物を除去した後でも、Glclow/Glnlowの培地中の心臓の線維芽細胞の生存を十分抑制する。上記細胞を正常培地にて、1時間にわたってPPで処理し、その後48時間にわたって、正常培地又はGlclow/Glnlowの培地にて、PP非存在下にて培養した。ビヒクル(DMSO)で処理し、その後、正常培地で培養した細胞(黒色の実線)またはGlclow/Glnlowの培地で培養した細胞(灰色の実線)、及び、PPで処理し、その後PP非存在下の正常培地で培養した細胞(黒色の破線)又はPP非存在下のGlclow/Glnlowの培地で培養した細胞(灰色の破線)の、細胞の生存率(%)をそれぞれ示す。PPでの前処理を開始した時点での細胞数を100%とした。データ:平均±標準偏差。**P<0.01。N.S.:有意でない。n=3。
【実施例】
【0109】
C:PPで処理し、その後PP非存在環境の正常培地の下で培養した心臓の線維芽細胞(黒線)又はGlclow/Glnlowの培地で培養した心臓の線維芽細胞(灰色の線)の生存に関する投薬量に対する依存性を調べた。IC50=61.8nM。データ:平均±標準偏差。n=3。
【実施例】
【0110】
D:ビヒクル(DMSO)で処理した細胞のOCR(黒色)またはPP(87nM)で処理した細胞のOCR(灰色)。OCRの値をpmol/分で示す。ビヒクル(DNSO)またはPPを培地に加えたときの時間分は、斜線部分によって表示する。データ:平均±標準偏差。n=3。
【実施例】
【0111】
E:ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(-PP)、または、PPで処理した細胞(+PP)を、正常培地において1時間にわたって培養した細胞の内、ミトコンドリア(矢印)の正常の構造である。スケールバー:400nm。
【実施例】
【0112】
F:13Cの取込みは、解糖代謝物の中の[13C‐Glc]に由来する。[13C-Glc]/DMSO(-PP)又は[13C-Glc]/PP(+PP)を正常培地に加えた後、0分、20分、120分、720分後の結果を示す。13Cを取り込んだ代謝物の絶対量(黒色)又は13Cを取り込んでいない(例えば12C)代謝物の絶対量(白色)を示す。データ:平均±標準偏差。n=3。
【実施例】
【0113】
G:13Cの取込みは、TCAサイクル代謝物の中の[13C‐Glc]に由来する。[13C-Glc]/DMSO(-PP)又は[13C-Glc]/PP(+PP)を正常培地に加えた後、0分、20分、120分、720分後の結果を示す。13Cを取り込んだ代謝物の絶対量(黒色)又は13Cを取り込んでいない(例えば12C)代謝物の絶対量(白色)を示す。データ:平均±標準偏差。N.D.;検出不能。n=3。
【実施例】
【0114】
[図2.PPのミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害作用は、薬剤が排出された後でも持続し、グルコースが欠乏した環境下にて生産的に解糖系を維持できないことによりエネルギーが充足しなくなることを示す図]
A:正常培地(+Glc/Gln)にて、ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(白色)又はPPで処理した細胞(黒色)を1時間にわたって培養した細胞、及び、その後上記細胞を栄養素が欠乏した培地(-Glc/Gln)にて、PP非存在環境下で12時間にわたって培養した細胞から得られた解糖代謝物の絶対値。データ:平均±標準偏差。N.D.;検出不能。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。n=3。
【実施例】
【0115】
B:正常培地(+Glc/Gln)にて、ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(白色)又はPPで処理した細胞(黒色)を1時間にわたって培養した細胞、及び、その後上記細胞を栄養素が欠乏した培地(-Glc/Gln)にて、PP非存在環境下で12時間にわたって培養した細胞から得られたTCAサイクル代謝物の絶対値。データ:平均±標準偏差。N.D.;検出不能。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。n=3。
【実施例】
【0116】
C:薬物を除去した後でも、PPの存在によって、ミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害が引き起こされる。ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(黒色)又はPPで処理した細胞(灰色)を1時間にわたって培養し、広範囲に洗浄することで培地から残ったPPを除去した後、培地をグルコースが豊富な正常培地(通常)又はGlclow/Glnlowの培地(低栄養素)に入れ替え、それから各々の培地の細胞におけるECAR(mpH/分)及びOCR(pmol/分)を測定した。データ:平均±標準偏差。n=3。
【実施例】
【0117】
D:PPで処理した心臓の線維芽細胞におけるエネルギー充足を示す。ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(白色)又はPPで処理した細胞(黒色)を正常培地(+Glc/Gln)にて、1時間にわたって培養した細胞、及び、ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(白色)又はPPで処理した細胞(黒色)を正常培地において1時間培養した細胞を、その後、上記の各々の細胞を栄養素が欠乏した培地(-Glc/Gln)にて、PP非存在環境下で12時間にわたって培養した細胞のAMP、ADP,ATP,及び「エネルギー充足」の絶対値を示す。エネルギー充足は、([ATP]+1/2[ADP])/([ATP]+[ADP]+[AMP])で算出され、[ATP]、[ADP]、[AMP]の単位は全てpmol/10細胞数である。データ:平均±標準偏差。N.D.;検出不能。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。n=3。
【実施例】
【0118】
[図3.ピルビン酸又はグルタミンではなく、グルコースが、PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存を補助すること、及び、グルコースが欠乏した環境下に適応した心臓の線維芽細胞中の代謝におけるPPの作用の要約を示す図]
A:PPで処理した心臓の線維芽細胞は、ピルビン酸ではなくグルコースによって生存する。ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(白色)又はPPで処理した細胞(黒色)を1時間にわたって培養した後、正常培地(Glc+,Gln+,Pyr-)、Glclow/Glnlowの培地(Glc-,Gln-,Pyr-)、ピルビン酸(1mM)によって補完されたGlclow/Glnlowの培地(Glc-,Gln-,Pyr+)、グルタミン(4mM)によって補完されたGlclow/Glnlowの培地(Glc-,Gln+,Pyr-)又はグルコース(25mM)によって補完されたGlclow/Glnlowの培地(Glc+,Gln-,Pyr-)において、PP非存在環境下で24時間にわたって培養した。上記細胞の生存を、WST-8検定法(<3.実験詳細>参照)によって定量し、そしてO.D.450によって示した。データ:平均±標準偏差。*p<0.05、***p<0.001。n=3。
【実施例】
【0119】
B:解糖系及びミトコンドリアのエネルギー代謝におけるグルコースの効果を示す。ビヒクル(DMSO)で処理した細胞(黒色)及びPPで処理した細胞(灰色)の解糖及びミトコンドリアのエネルギー代謝は、リアルタイムで測定され、特に、ECAR(mpH/分)及びOCR(pmol/分)を用いて示す。低栄養素:Glclow/Glnlowの培地、Glc:グルコース、Gln:グルタミン、Pyr:ピルビン酸。各々の補完分(Glc,Gln,又はPyr)を加えた時の時間を、各々のグラフの斜線部分によって示す。データ:平均±標準偏差。n=3。
【実施例】
【0120】
C:心臓の線維芽細胞におけるPPの効果の様態を示す模式図。PPが誘発した、TCAサイクル代謝へのピルビン酸(解糖代謝物)エントリーのインピーダンスは、模式図中の解糖系を示す矢印とTCAサイクルを示す輪との間の「広い空間」に表される。PPが誘発したETCの阻害効果は、模式図中の「X」によって表す。なお、ETCとは、電子伝達系を意図する。
【実施例】
【0121】
[図4:心筋梗塞モデルマウスにおける心臓の線維化に対するPPの効果]
A:梗塞した心臓中の細胞増殖に対するPPの影響を調べた図である。Ki67+(カラーで表示される場合は緑色)及びDAPI(カラーで表示される場合は紺青色)の細胞を免疫蛍光検査により同定した。ビヒクル(DMSO(-PP))又はPP(+PP)で処理したマウスの梗塞域(infarcted zone)及び境界(border zone)における、増殖性のKi67DAPI(カラーで表示される場合は淡青色)の細胞を示す(矢印)。スケールバー:50μmである。
【実施例】
【0122】
B:上記AのKi67増殖性の細胞を定量化した結果を示す。Ki67増殖性の細胞の数を3匹のマウス(-PP:n=3;+PP:n=4)の部分からカウントし、%(Ki67DAPI/DAPI)として示した。
【実施例】
【0123】
C:梗塞した心臓におけるαSMA筋線維芽細胞に対するPPの効果を示す図である。冠動脈の結紮から4日後及び7日後の心臓におけるαSMA筋線維芽細胞(カラーで表示される場合は赤色)及びDAPI細胞(カラーで表示される場合は紺青色)である。ビヒクル(DMSO(-PP))又はPP(+PP)にて処理したマウスの心臓から代表的なイメージを示す。スケールバー:1mmである。
【実施例】
【0124】
D:上記CにおけるαSMA筋線維芽細胞を定量化した結果を示す。ビヒクル(-PP)にて処理したマウス(4日後のマウスn=3、7日後のマウスn=5)及びPP(+PP)にて処理したマウス(4日後及び7日後のマウスn=4)の梗塞域及び境界におけるαSMA筋線維芽細胞の数をカウントし、%(αSMA/DAPI)として示した。αSMAの面積もまた測定し、%(αSMAの面積/全部位の面積)として示した。
【実施例】
【0125】
E:結紮から4日後及び14日後の心臓部分のマッソントリクローム染色の結果を示す。スケールバー:1mmである。
【実施例】
【0126】
F:梗塞の大きさ及び線維化面積を定量化した図である。結紮から4日後にビヒクル(-PP)にて処理したマウス(マウスn=3)及びPP(+PP)にて処理したマウス(マウスn=4)から調製した心臓部分の壊死した面積(Necrotic area)を定量することによって、梗塞の大きさを測定し、%(壊死している面積/心臓全体の面積)として示した(左)。結紮から14日後にビヒクル(-PP)にて処理したマウス(マウスn=3)及びPP(+PP)にて処理したマウス(マウスn=4)から調製した心臓の部分を用いて、マッソントリクローム染色の方法によって、線維化の大きさを測定し、%(青色に染色された線維化の面積(Fibrosis area)/心臓全体の面積)として示した。
【実施例】
【0127】
G:左心室組織におけるヒドロキシプロリン(HP)の含有量を定量化した図である。対照のための手術(Sham)、又は結紮してから14日後のマウス(それぞれ、Shamマウス、MIマウス)から、ビヒクル(-PP)(Shamマウスn=4、MIマウスn=9)、又はPP(+PP)(Shamマウスn=3、MIマウスn=10)にて処理したマウスの左心室を収集し、ヒドロキシプロリン(HP)の量を測定し、HP(μg)/(乾燥した組織重量)mgとして示した。
【実施例】
【0128】
H:心筋梗塞後の心臓機能に対するPPの効果を示す図である。心筋梗塞後の心臓機能を心エコー検査によって測定し、駆出率(EF:%)として示した。対照のための手術(Sham)、又は結紮してから7日後及び14日後に、ビヒクル(-PP)又はPP(+PP)を用いて処理したマウスに心エコー検査を行った。試験したマウスの数は、以下の通りである:7日後:(Sham-PP:n=4;Sham+PP:n=3;MI-PP:n=3;MI+PP:n=20)、14日後:(Sham-PP:n=4;Sham+PP:n=3;MI-PP:n=11;MI+PP:n=14)。データ:平均±標準偏差。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。
【実施例】
【0129】
[図5.虚血環境下における心臓の線維芽細胞のメタボロミクス解析]
A:Olow/Glclow/Glnlow条件(虚血環境)下にて培養された心臓の線維芽細胞における、細胞内代謝物の全体の定量的変化を表すヒートマップである。CE-TOFMSを用いて細胞内代謝物を定量的に分析した。各代謝物の量を表すスケールバーは、左側に示す(カラーで表示した場合は、緑色から赤色へ変化として表示される。なお、緑色→赤色の変化は、低いレベル→高いレベルと一致する。)。階層的クラスタ分析(HCA)の結果は、左側のクラスタツリー(cluster tree)として示す。正常の培養条件(図中、「Normal」で示す。以下、単に「正常」と称する場合もある。)は、20~21%のO、DMEM(すなわち、25mMのGlc、4mMのGln)、10%のFBSである。虚血環境(Olow/Glclow/Glnlow)の培養条件(以下、単に「虚血」と称する場合もある。)は、3%のO、DMDE(Glc、Gln)、10%のFBS(すなわち、300μMのGlc、<100μMのGln)である。心臓の線維芽細胞は、各条件下にて72時間培養し収集し、CE-TOFMS分析のために処理した。各条件において3つの独立した培養皿(1、2、3として示す)をCE-TOFMS分析のために処理した。
【実施例】
【0130】
B:TCAサイクルにおける中間代謝物の発生量を示す。各グラフにおいて、正常(黒線)条件及び虚血(灰色の線)条件下で72時間にわたって培養した心臓の線維芽細胞中の代謝物のレベルを示す。3回の実験の平均値(n=3)を示す。N.D.;検出不能。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。
【実施例】
【0131】
[図6.PPの細胞毒性の評価]
正常(黒線)条件及び虚血(灰色の線)条件下において、心臓の線維芽細胞に対するPPの細胞毒性を調べた。Olow/Glclow/Glnlow培養条件(虚血)下の心臓の線維芽細胞における、PPのIC50は、9.5nM(PP)である。細胞(n=3)は、正常(黒線)条件又はOlow/Glclow/Glnlow(虚血)(灰色の線)条件下にて72時間、種々の濃度にて各薬物を用いて処理した。データは、薬物の処理を行っていない各培養条件の細胞数の%として示す。
【実施例】
【0132】
[図7.グルコースの補完による、虚血環境下にて、PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存の回復に関する評価]
A:虚血環境下(Olow/Glclow/Glnlow)における、PPの特異的な細胞毒性に対する酸素(+O)及びグルタミン(+Glu)の補完の影響を調べた図である。
【実施例】
【0133】
B:虚血環境下(Olow/Glclow/Glnlow)における、PPの特異的な細胞毒性に対する酸素(+O)及びグルコース(+Glc)の補完の影響を調べた図である。
【実施例】
【0134】
C:虚血環境下(Olow/Glclow/Glnlow)における、PPの特異的な細胞毒性に対するグルコース(+Glc)及びグルタミン(+Glu)の補完の影響を調べた図である。
【実施例】
【0135】
PP(87nM)の存在下又は非存在下にて、24時間の各培養条件における細胞による結果は、それぞれ白の棒グラフ又は黒の棒グラフにて示す。0時間の各培養条件下の生存能力のある細胞の数を100%として示した。データ:平均±標準偏差。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。n=3である。
【実施例】
【0136】
[図8.[13C-Glu]フラックスのメタボロミクス解析の経路マップ]
正常条件及び/又は虚血環境下で培養した心臓の線維芽細胞にて検出された各代謝物を、細胞内代謝経路中に配置した。各グラフにて、0分、20分、120分、720分の時点での心臓の線維芽細胞の各代謝物のレベルを示す。PPで処理していない細胞(カラーで表示した場合は青色)又はPPで処理した細胞(カラーで表示した場合は桃色)から検出された各代謝物の合計のレベル(すなわち、13Cでラベル化したものとラベル化していないものの組合せ)を各グラフに示す。PPで処理していない細胞(カラーで表示した場合は淡青色)又はPPで処理した細胞(カラーで表示した場合は淡桃色)から検出された、ラベル化していない各代謝物のレベルを各グラフに示す。3回の実験の平均値(n=3)を示す。N.D.;検出不能。
【実施例】
【0137】
[図9~図17.PPで処理した後、PP非存在下の正常条件又は栄養素が欠乏した条件にて培養した心臓の線維芽細胞のメタボロミクス解析]
各代謝物のレベルを示す。A:0時間。B:処理なし、1時間。C:ビヒクル(DMSO)にて処理後1時間。D:PPにて処理後1時間。E:PP処理無しの1時間後、正常培養条件下にて12時間にわたって培養。F:ビヒクル(DMSO)にて1時間処理し、正常培養条件下にて12時間にわたって培養。G:PPにて1時間処理し、正常培養条件下にて12時間にわたって培養。H:PP処理無しの1時間後、栄養素欠乏(Glclow/Glnlow)培養条件下にて12時間にわたって培養。I:ビヒクル(DMSO)にて1時間処理し、栄養素欠乏(Glclow/Glnlow)培養条件下にて12時間にわたって培養。J:PPにて1時間処理し、栄養素欠乏(Glclow/Glnlow)培養条件下にて12時間にわたって培養。各条件(A-J)において、異なる3つのサンプルを測定した結果を棒グラフで示す。
【実施例】
【0138】
[図18.グルコースが欠乏した培養条件において、PPにて処理した心臓の線維芽細胞の代謝の適応(変化)の回復及びミトコンドリアのエネルギー代謝の回復]
(正常培地中にて1時間にわたって)ビヒクル(DMSO)で処理した心臓の線維芽細胞又は(正常培地中にて1時間にわたって)PPで処理した心臓の線維芽細胞を、正常培養培地にて72時間にわたって培養した(上記細胞に新鮮な正常培地を毎日供給した。)。この「回復」期間の後に、上記細胞をGlclow/Glnlow培地中にて72時間にわたって培養し、上記細胞の生存率を測定した結果をパネルAに示す。100%は、Glclow/Glnlow培地にて培養を開始する時点での細胞数である。この「回復」期間の後に、上記細胞のOCR及びECARを測定し、その結果をパネルBに示す。ビヒクル(DMSO)で処理した、OCR及びECAR(黒色)、並びにPPで処理した、OCR及びECAR(灰色)を示す。データ:平均±標準偏差。N.S.:有意でない。n=3.
[図19.心筋梗塞の病理学的なプロセスの模式図]
左冠状動脈を結紮(又は閉鎖)してから24時間以内に、心筋細胞(CM)のほとんどは死に、続けて炎症及び線維化が発生した。線維化は、結紮(閉鎖)から約3日後に始まるものであり、心臓の線維芽細胞(Fb)の増殖及び遊走によって引き起こされた。これらの心臓の線維芽細胞は、コラーゲン線維を生成し組織中にコラーゲンを分泌し、瘢痕を形成する。コラーゲンの産出は、結紮(閉鎖)から7~14日後に最高点に達する。PPは、左冠状動脈の結紮から1日後(すなわち、ほとんどの心筋細胞が死んだ後)のマウスに毎日投与した。
【実施例】
【0139】
[図20.PPで処理した瘢痕化した心臓における血管形成の向上]
A:瘢痕化した心臓の梗塞域及びその境界のCD31毛細血管を示す。ビヒクル(DMSO)(-PP)又はPP(+PP)を投与したマウスから調製した心臓部分において、抗CD31抗体を用いて毛細血管を同定した。スケールバー:50μm。
【実施例】
【0140】
B:CD31毛細血管の密度を定量化した図である。ビヒクル(DMSO)(-PP)(n=3のマウス)又はPP(+PP)(n=4のマウス)を投与したマウスからデータを取得した。CD31毛細血管の密度を毛細血管数/mmとして表す。データ:平均±標準偏差。*p<0.05。N.S.:有意でない。
【実施例】
【0141】
[図21.PPの虚血時の特異的な細胞毒性における古典的Wnt及びUPRの役割の評価]
A:PP(87μM)の存在下、又は非存在下にて、正常条件及びOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下にて12時間培養した心臓の線維芽細胞における古典的Wntシグナルの2つの下流の遺伝子(Axin2及びc-Myc)の発現を調べた図である。発現レベルを、fold-inductionとして示す(PP非存在下かつ正常条件下にて培養された細胞における各遺伝子の発現を、1-fold-inductionとして示す。)。二重分析又は三重分析を行い、4つの独立した実験にてqRT-PCRによって、上記発現レベルを定量化した。
【実施例】
【0142】
B:心臓の線維芽細胞に対する古典的Wntシグナルの阻害剤(XAV939)の効果を調べた図である。正常条件下(黒線)又はOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下(灰色の線)の細胞は、ビヒクル(DMSO)(実線)又はXAV939(3μM)(破線)にて処理した後、生存した細胞数を、各時点において定量した結果を示す。各培養条件下での0時間における生存細胞の数を100%として示した。
【実施例】
【0143】
C:PP(87μM)存在下又は非存在下、正常条件及びOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下にて12時間培養した心臓の線維芽細胞におけるUPRシグナルにおける遺伝子(Grp78/BiP、Grp94、Xbp1(合計)、Xbp1s(スプライス))の発現レベルを調べた図である。発現レベルを、fold-inductionとして示す(PP非存在下かつ正常条件下にて培養された細胞における各遺伝子の発現を、1-fold-inductionとして示す。)。二重分析を行い、3つの独立した実験(n=3)におけるqRT-PCRによって、上記発現レベルを定量化した。
【実施例】
【0144】
D:ATF6活性化(AEBSF)及びATF6α-欠損(ATF6α-/-)の阻害剤の効果を調べた図である。心臓の線維芽細胞は、ビヒクル(-AEBSF)又はAEBSF(300μM)(+AEBSF)を用いた、正常条件下又はOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下にて24時間培養し、各条件における生存細胞の数をカウントした。野生型又はATF6α-/-の心臓の線維芽細胞を、ビヒクル(-PP)又はPP(87μM)(+PP)を用いた、正常条件下又はOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下にて24時間培養し、各条件における生存細胞数をカウントした。各培養条件下での0時間における生存細胞の数を100%として示した。n=3である。
【実施例】
【0145】
E:IRE1(Irestatin 9389)阻害剤及びPERK(GSK PERK阻害剤)阻害剤の効果を調べた図である。心臓の線維芽細胞を、ビヒクル(DMSO)(-Irestatin 9389、-GSK PERK阻害剤)又はIRE1阻害剤(10μM)(+Irestatin 9389)、あるいは、PERK阻害剤(2μM)(+GSK PERK阻害剤)を添加し、正常条件下又はOlow/Glclow/Glnlow(虚血)条件下にて24時間培養した後、各条件における生存細胞数をカウントした。ビヒクル(CMSO)添加の正常条件下にて培養された生存細胞数を100%とする。n=3である。データ:平均±標準偏差。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N.S.:有意でない。
【実施例】
【0146】
<3.実験詳細>
[1A.心臓の線維芽細胞の分離]
心臓の線維芽細胞をすでに開示されているものとして調製した(文献25)。心臓組織を細かく刻み、冷却したD-PBS(Ca2+、Mg2+がないもの(free))により洗浄し、そして1%のコラゲナーゼ(Worthington CLS-2)/DPBS(Ca2+、Mg2+を含むもの)の5ml中に懸濁させた。コラゲナーゼの処理を37℃で30分間行った。コラゲナーゼを取り込んだ各サンプルを、0.25%のトリプシン(Invitrogen)4mlを用いて37℃で5分間処理した。コラゲナーゼ/トリプシンで処理したサンプルをさらにピペットで50回取り上げることによって分離した。組織の各懸濁液を、10%のFBS、1%のペニシリン(penicillin)、1%のストレプトマイシンを加えたDMEM(Nacalai)を20ml含んでいる50mlのチューブに移した。分離した細胞を、4℃で5分間100×gの遠心分離機にかけ、20%のFBS、1%のペニシリン(penicillin)、1%のストレプトマイシンを加えたDMEMに懸濁させ、同じ培地中にて保管するまで約1週間培養した。
【実施例】
【0147】
[1B.細胞培養実験]
心臓の線維芽細胞をコラーゲンでコーティングされた皿(IWAKI)に蒔いた。培養培地(高グルコースのDMEM、10%のFBS、1%のペニシリン、1%のストレプトマイシン)中にて24時間培養した後に、その細胞を、各図に記載されているように、相当する酸素及び栄養素の条件にて培養した。低グルコース及びグルタミンの条件を、グルコース及びグルタミンを含まないDMEMを用いることによって実施した。10%のFBSを含んでいる培養培地として、微量のグルコース及びグルタミンが存在した。その最終的な濃度を測定したところ、300μMのグルコース、<100μMのグルタミンであった。低酸素条件を、ヒポキシア容器(Hypoxia chamber)(Veritas)及び混合させるガス容器(3%のO、10%のCO、87%のN)を用いることによって実施した。生存能力のある細胞をトリパンブルー色素(GIBCO)の排除によって同定し、数を数えた。
【実施例】
【0148】
[1C.WST-8細胞の細胞毒性アッセイ]
Cell Count Reagent SF (Nacalai社製)を用いて心臓の線維芽細胞の生存度を評価した。上記アッセイは、生存能力のある細胞の数を定量的に測定した。上記アッセイは、細胞膜腰の電子移動及び電子伝達系を介してミトコンドリア中に産出されたNADHによる、WST-8[2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、モノナトリウム塩]の細胞外の減少に準ずる。Multiskan FC microplate readerを用いて450nmでの波長を測定することによって、ホルマザンの量を測定し、生存能力のある細胞数を定量化した。
【実施例】
【0149】
[1D.薬品]
PP:6-(ジメチルアミノ)-2-[2-(2,5-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-3-イル)エテニル]-1-メチル-キノリニウムパモエート塩(Sigma)、13C-Glc(Sigma)、XAV939(Sigma)、AEBSF(Sigma)、フルトラニル(Wako)、Atpenin A5(Santa Cruz Biotechnology)、Irestatin 9389(Axon)、GSK PERK阻害剤(Toronto Research Chemicals Inc.)を用いた。
【実施例】
【0150】
[1E.代謝物の抽出]
5%のマンニトール溶液を用いて細胞を2回洗浄し、酵素の不活性化のために、4つの内部標準(3-アミノピロリジン、L-メチオニンスルホン、トリメシン酸(trimesate)及び2-モルホリノエタンスルホン酸)をそれぞれ25μM含むメタノール(1ml)にて充填した。メタノールと細胞の混合物を回収し、2:1:2の比にてミリQ水及びCHClと混合した。培地と細胞サンプル溶液の両方を15分間の遠心分離(20,000×g)によって分離し、5kDaカットオフフィルターを用いた2時間の遠心濾過(9,000×g)によって水層を回収した。遠心濃縮器(Tomy)を用いて抽出した代謝物を濃縮し、分析するまで-80℃にて保管した。適切量のミリQ水を加え、CE-TOFMSへのサンプル注入の直前に、濃縮した代謝物を溶解した。
【実施例】
【0151】
[1F.CE-TOFMSのための測定器]
CE-TOFMSの実験において、Agilent CE capillary electrophoresis system(Agilent Technologies, Waldbronn, Germany)、Agilent G3250AA LC/MSD TOF system(Agilent Technologies, Palo Alto, CA)、Agilent 1100 series binary HPLC pump、G1603A Agilent CE-MS adapter及びステンレス鋼とAgilent G7100-60041 Platinum electrospray ionization spray needleを置き換えたG1607A Agilent CE-ESI-MS sprayer kitを用いた。CEのためにG2201AA Agilent ChemStation software及びAgilent TOFMS softwareのためにAnalyst QSを用いてデータ収集を行った。
【実施例】
【0152】
[1G.メタボロミクス解析]
文献26~28によって構築された方法を用いて、全ての加えた化合物の濃度をCE-TOFMSにより測定した。カチオンの分析(文献26,29)のために、電解液として1Mのギ酸で満たした、溶解したシリカのキャピラリー(50μm i.d.×100cm)中にて代謝物を分離した。各サンプルを3秒間に50mbar(3nL)で注入し、30kVの電圧を用いた。キャピラリーの温度及びサンプルの受皿をそれぞれ、20℃及び5℃より低い温度にて設定した。0.1Mのヘキサキス(2,2-ジフルオロトキシ(difluorothoxy))ホスファゼンを含むメタノール-水(50%のv/v)を、保護液として10μl/分にて送液した。ESI-TOFMSを陽イオンモードに設定し、キャピラリーの電圧を4kVに設定した。加熱乾燥させた(加熱温度は300℃)窒素ガスの流速を10psigに維持した。TOFMSにおいて、フラグメンター電圧、スキマー電圧及びOct RFVの電圧をそれぞれ、75V、50V及び125Vに設定した。得られたそれぞれの範囲の自動再校正に参照標準の参照質量(([プロトン化したメタノール二量体の13Cの同位体イオン(2MeOH+H)]、m/z 66.0632))及び([ヘキサキス(2,2-ジフルオロトキシ)ホスファゼン+H]、m/z 622.0290))を用いた。50~1,000m/zの範囲を超えて、1.5spectra/sの速度にて精密質量データを得た。
【実施例】
【0153】
陰イオンの分析(文献27)において、分離キャピラリーとして、カチオン性ポリマーを用いて化学的にコーティングされている、市販のCOSMO(+)キャピラリー(50μm i.d.×110cm)(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)を用いた。50mMの酢酸アンモニウム溶液(pH8.5)をCE分離のための電解液とした。最初の使用の前に、使用する電解液(50mMの酢酸(pH3.4))、次いで再びその電解液を用いて新しいキャピラリーを連続的にそれぞれ20分間洗浄した。それぞれの注入の前に、50mMの酢酸(pH3.4)を用いて洗浄することによって2分間、次いで使用する電解液(文献27)を用いて洗浄することによって5分間、そのキャピラリーを均衡化した。
【実施例】
【0154】
-30kVの電圧を用いて、サンプル溶液(30nL)を30秒間に50mbarで注入した。サーモスタットを用いてキャピラリーの温度を20℃まで調温し、サンプルの受皿を5℃より低い温度まで冷却した。1:100のスプリッタを備えたAgilent 1100 series pumpを用いて、0.1Mのヘキサキスを含んでいる50%(v/v)メタノール-水に溶解させた5mMの酢酸アンモニウムを10μL/分でCEインターフェイス(CE interface)に送液した。それは、CEキャピラリーの外側のシース液として用いられ、キャピラリーの先端と接地したエレクトロスプレーの針との間の安定した電気の接続を提供する。
【実施例】
【0155】
ESI-TOFMSをネガティブイオン化(キャピラリー電圧を3,500Vに設定した)にて実施した。TOFMSにおいて、フラグメンター電圧、スキマー電圧及びOct
RFVの電圧をそれぞれ、100V、50V及び200Vに設定した。乾燥窒素ガス(加熱温度300℃)の流速を7L/分にて維持した。得られたそれぞれの範囲の自動再校正は、参照標準の参照質量(([脱プロトン化された酢酸の二量体の13Cの同位体イオン(2CHCOOH-H)]、m/z 120.03841))及び([ヘキサキス+脱プロトン化した酢酸の二量体(CHCOOH-H)]、m/z 680.03554))を用いて行った。50~1,000m/zの範囲を超えて、1.5spectra/sの速度にて正確な質量データを得た。
【実施例】
【0156】
[1H.13Cフラックス解析]
グルコース又はグルタミン(Sigma)を含まないDMEMに、4mMのグルタミン及びグルコース(13C‐Glc又はラベル化していないGlc)を適切な形態にて最終濃度が25mMとなるように加えることにより、培地を用意した。13C‐Glcは、Sigmaから購入した。心臓の線維芽細胞を、新鮮な培地に変えられたすべての培地にて、24時間にわたって培養した。さらに1時間培養した後、上記培地の半分を、[13C‐Glc]、及び87mMのPP又はコントロールとしてのビヒクル(DMSO)を含んでいる同体積の培地と交換した。その後、最終的なアッセイの培地中に、[13C‐Glc]及びラベル化していないGlcを、最終濃度25mMで、1:1の割合で混合した。この手順によって、累積された代謝の廃棄物質の除去に起因する同位体が入れ替わる場合の代謝の摂動を最小化した。各々の時間(0分、20分、120分、720分)において、細胞を収集し、上述したCE‐MS解析のために調製した。
【実施例】
【0157】
[1I.メタボロミクスデータ解析]
CE-TOFMSによって得られた未処理のデータをMasterHand(文献30)を用いて処理した。アイソトポマー(付加イオン)及び公知の代謝物から生成したその他のイオンと一致している1つのピークを除外し、本物の化合物と潜在的に一致している全てのピークを抽出し、次いで遊走時間(MT)を内部標準のピークを用いて標準化した。その後、ピークの整合をm/z値及び標準化したMT値に従って行った。最後に、内部標準(カチオン及びアニオンにおけるMetSul及びCSA)に対するピーク面積を標準化した。結果として生じた相対的面積値をさらにサンプル量によって標準化した。注釈の表は、標準化合物のCE-ESI-TOFMS測定により実施し、類似のm/z値及び標準化したMT値に従ってデータセットを用いて整列させた。パブリック・ドメイン・ソフトウェア(Visualization and Analysis of Networks containing Experimental Data)を用いて代謝経路マップを構築した(VANTED, http://vanted.ipk-gatersleben.de/index.php?file=doc0.html)(文献31)。主な成分の分析(PCA)及びヒートマップ分析のために、それぞれJMPバージョン 9.0.2(SAS Institute, Cary, NC)及びMev TM4 ソフトウェア(version 4.7.4. Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)を用いた(文献32)。
【実施例】
【0158】
[1J.細胞呼吸の解析]
XF96細胞外フラックス分析器(Seahorse Biosciences)を、PPで刺激した心臓の線維芽細胞の生体エネルギー論的なプロファイルを測定するために用いた。心臓の線維芽細胞を、XF96プレートの1ウエルあたり80,000の細胞(図1D及び図3B)又は40,000の細胞(図18B)で一晩静置した。酸素消費率(OCR)及び細胞外壁の酸性化率(ECAR)を、グルコース含有培地(Seahorse Biosciences)にて評価した。
【実施例】
【0159】
[1K.電子顕微鏡]
細胞を、37℃で、pH7.4の0.1Mリン酸緩衝液(PB)にて、2%パラホルムアルデヒド(PFA)、2%グルタルアルデヒド(GA)を用いて固定化し、30分間、冷蔵庫(4℃)中にて静置し、サンプルを冷却した。次いで、上記サンプルを、4℃の0.1MのPBの中にて2%GAを用いて一晩にわたって固定化した。固定化した後に、上記サンプルを、それぞれ30分間、0.1MのPBを用いて3回洗浄し、その後、4℃で、60分間、0.1MのPBの4酸化オスミニウム(OsO)を用いて固定化した。上記サンプルを、1連の段階的なエタノール(50%、70%、90%、100%)を介して脱水した(50%及び70%の場合は、各々4℃において5分間、90%の場合は、室温において5分間、及び100%の場合は、室温において各々10分間ずつ3回に分けて行った。)。脱水した後、上記サンプルを、樹脂(Quetol-812;Nisshin EM Co.,Tokyo,Japan)中に包埋し、その後、60℃で、48時間にわたって重合した。最も薄い部分(厚さ70nm)を、超ミクロトーム(ULTRACUT UCT; Leica)を利用したダイヤモンドナイフを用いて調製し、上記部分を、銅格子上に配置した。上記部分を、室温にて、15分間、酢酸ウラニルを用いて着色し、次いで、室温にて、3分間、鉛着色溶液(Sigma-Aldrich Co.,)を用いて2次着色し、続けて、蒸留水を用いて洗浄した。上記銅格子を、加速電圧80kVの透過型電子顕微鏡(JEM-1200EX; JEOL Ltd.,)を用いて観察した。デジタル画像(2048×2048ピクセル)を、CCDカメラ(VELETA; Olympus Soft Imaging Solutions GmbH)を用いて撮影した。
【実施例】
【0160】
[1L.動物]
全ての動物実験は、奈良先端科学技術大学院大学の動物実験委員会にて承認された(許可番号:1123、1223及び1312)。全ての実験は、生後8週から12週のオスのICRマウス(CLEA Japan, Inc., Tokyo, Japan)を用いて行われた。ATF6α-欠損マウス(ATF6α-/-)は、文献33に既に開示されている。
【実施例】
【0161】
[1M.心筋梗塞]
既に従来文献に開示の手法にて、ICRのオスのマウス(生後8~12週)に冠動脈の結紮を行い、心筋梗塞を発生させた(文献25)。気化した2~2.5%のイソフルレン(Abbott Japan)を吸入させることによってマウスに麻酔し、20ゲージの点滴容器を挿管した。呼吸数を1分間当たり110サイクルとし、1サイクル当たり200μlで体積を制御した人工呼吸器(Harvard Apparatus)を用いて動物に人工呼吸させた。開胸術後、左心耳の先端の下1~2mmのところを8~0のナイロンの縫合糸を用いて、左冠状動脈を結紮した。左心室の前壁の色(蒼白)の変化によって、閉塞を確かめた。5~0の絹の縫合糸を用いて胸腔及び皮膚を閉じた。動物から管状器官を除去し、1時間の暖かいプレート上で外科手術から回復させることができた。縫合糸で結ばないが、冠動脈の下に通すことによる同じ手順を、見せかけの手術のマウスに実施した。最終的な濃度が生理食塩水に溶解させた4%のDMSO中に400μg/mlとなるように、PPを懸濁させ、胃内に0.5mlの懸濁液又はビヒクル(生理食塩水に溶解させた4%のDMSO)が入るよう、マウスに無理矢理食べさせた。経口投与は、結紮してから1日後に開始し、結紮から14日後まで毎日続けた。
【実施例】
【0162】
[1N.心エコー検査]
Toshiba Diagnostic Ultrasound System machine(Aplio MX SSA-780A)を用いて、梗塞してから及び見せかけの手術をしてから1日後、7日後及び14日後のマウスに心エコー検査を行った。それぞれの実施において、2~2.5%のイソフルレンを用いてマウスに麻酔し、胸骨左縁単軸2Dモード像(parasternal short-axis 2D-mode views)及びMモード像(M-mode views)を記録した。最後の心拡張での前後方向の内径、前壁の厚さ及び後壁の厚さ、ならびに平均した乳頭のレベルで最後の収縮期を測定するために単軸像を用いた。駆出率:%EF=[(EDv-ESv)/EDv]×100によって、左心室の心臓収縮機能を評価した。全ての測定及び評価を調節器の研究にて行った。
【実施例】
【0163】
[1O.ヒドロキシプロリンアッセイ]
文献25に開示の手法にて心臓組織のヒドロキシプロリンの含有量を測定した(文献8)。
【実施例】
【0164】
[1P.組織学及び免疫組織化学]
全心臓を摘出し、O.C.T化合物(SAKURA)中に埋包した。凍結切片(5μmの厚さ)を調製し、すでに開示されているものとしてマッソントリクローム染色のために処理した(文献34)。Image J(NIH)及びBZ-9000 BZ II software(Keyence Japan, Inc.)をそれぞれ用いて、壊死の大きさ及び線維化の大きさを定量化した。抗Ki67(1:100)(Abcam)、抗CD31(1:50)(BD Pharmingen)、及びCy3が結合した抗αSMA(1:400)(Sigma)抗体を用いて、凍結切片を染色した。二次抗体(Invitrogen)を結合したAlexa 488及びAlexa 647それぞれによって、Ki67シグナル及びCD31シグナルを検出した。DAPIを含むProLong(登録商標) Gold antifade試薬(Invitrogen)を用いて、DAPIで細胞核を対比染色した。Image J(NIH)を用いて、Ki67細胞及び毛細血管の濃度を算出した。BZ-9000 BZII software(Keyence Japan, Inc.)を用いて、αSMAが陽性の細胞及びαSMA面積を算出した。
【実施例】
【0165】
[1Q.RNAの分離、cDNAの合成及び定量的なRT-PCR(qRT-PCR)]
TRIZOL試薬(Invitrogen)を用いて全てのRNAを分離し、SuperScript III first-strand synthesis system(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。下記に記載のプライマーを用いて、製造者の手順に従って、QuantiTect SYBER Green PCR kit(Qiagen)を用いて、実時間のqRT-PCRを行った。全てのqRT-PCRの結果を、B2m(β-2-マイクログロブリン)転写物のレベルに対して標準化した。
【実施例】
【0166】
以下に、使用したプライマーを示す。
【実施例】
【0167】
B2m:(F: 5´- GCTCGGTGACCCTGGTCTTT -3´(配列番号1)、R: 5´- AATGTGAGGCGGGTGGAACT -3´(配列番号2))
Axin2:(F: 5´- GAGAGTGAGCGGCAGAGC -3´(配列番号3)、R: 5´- CGGCTGACTCGTTCTCCT-3´(配列番号4))
c-Myc:(F: 5´- CCTAGTGCTGCATGAGGAGA -3´(配列番号5)、R: 5´- TCCACAGACACCACATCAATTT -3´(配列番号6))
Grp78/BiP:(F: 5´- CTGAGGCGTATTTGGGAAAG -3´(配列番号7)、R: 5´- TCATGACATTCAGTCCAGCAA -3´(配列番号8))
Grp94:(F: 5´- AGGGTCCTGTGGGTGTTG -3´(配列番号9)、R: 5´- CATCATCAGCTCTGACGAACC -3´(配列番号10))
Xbp1[total] (unspliced and spliced Xbp1 transcripts):(F: 5´- AAGAACACGCTTGGGAATGG -3´(配列番号11)、R: 5´- ACTCCCCTTGGCCTCCAC -3´(配列番号12))
Xbp1s (spliced Xbp1 transcripts):(F: 5´- GAGTCCGCAGCAGGTG -3´(配列番号13)、R: 5´- GTGTCAGAGTCCATGGGA -3´(配列番号14))
[1R.統計的分析]
t検定を用いたエクセルにより統計的分析を行った。有意差レベルは、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001として示す。
【実施例】
【0168】
[2A.心臓の線維芽細胞中における豊富な細胞の代謝物の包括的な測定、及びグルコースが欠乏した培養条件下での生存を阻害するが、グルコースが豊富な培養条件下では阻害しない薬物としてのPPの検証(図5~図7)]
まず、本発明者らは、制限された酸素、グルコース及びグルタミンの条件(3%酸素、300μMのグルコース、<100μMのグルタミン)(本明細書中において便宜上、Olow/Glclow/Glnlow又は虚血環境という)下、及び正常条件(20~21%酸素、25mMグルコース、4mMグルタミン)(本明細書中において便宜上、正常環境という)下にて72時間培養した、心臓の線維芽細胞における細胞内代謝を調べた(図5)。Olow/Glclow/Glnlow条件下にて培養された心臓の線維芽細胞の代謝プロファイルと、正常条件(20~21%酸素、25mMのグルコース、4mMのグルタミン)下にて培養された心臓の線維芽細胞の代謝プロファイルとを比較することによって、Olow/Glclow/Glnlow微環境下の細胞中の定量的変化を示す、細胞内代謝物質のいくつかの分類を確認した(図5A)。
【実施例】
【0169】
最も顕著な特徴の1つは、TCAサイクル中に見出された(図5B)。TCAサイクルにて、コハク酸レベルがわずかに上昇すると共に、フマル酸及びリンゴ酸が特有に減少した(図5B)。TCAサイクルの変化は、虚血培養条件下の心臓の線維芽細胞において、NADH-FR(フマル酸還元酵素)系が増強していることを示唆する(文献13,18)。この可能性を確認するために、本発明者らは、心臓の線維芽細胞に対するNADH-FR活性の阻害剤(PP(文献13,17,18,20))の効果を調べた。PPは、虚血培養条件下の心臓の線維芽細胞に対して明確な毒性(IC50=9.5nM)を示した(図6)。この結果は、PPがNADH-FR活性を阻害することによって虚血環境下の心臓の線維芽細胞の生存を阻害することを示唆するが、本発明者らは、この可能性を否定する証拠を見出した。
【実施例】
【0170】
本発明者らは、正常レベルのOによって、PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存を回復しないことを見出した(図7)。PPで処理した心臓の線維芽細胞の生存は、正常レベルのO(20~21%)及びグルタミン(4mM)では回復され得ない(図7A)。対照的に、心臓の線維芽細胞の生存は、O(20~21%)/グルコース(25mM)(図7B)又はグルコース(25mM)/グルタミン(4mM)(図7C)を補完することによって、一部又は完全に回復した。これらの結果は、PPで処理した心臓の線維芽細胞が、Oが制限されたアベイラビリティーでなく、制限されたグルコースのアベイラビリティーによる虚血環境下で生存しないことを示唆する。よって、これらの結果は、PPが、低酸素状態において心臓の線維芽細胞中の非NADH-FRのターゲットに作用することを示唆する(文献13)。
【実施例】
【0171】
[2B.PPによる影響を受けたミトコンドリアにおける正常のエネルギー代謝の再生(図S6)]
ミトコンドリアの特性のコントロールは、ミトファジー(mitophagy)/自食作用及びミトコンドリアの分裂によって行われる。しかし、栄養素が欠乏することで、ミトコンドリアは自食性の分解から保護される(文献35~38)。よって、PPによって欠陥の発生したミトコンドリアは、栄養素が欠乏している培地にて、機能不全のまま存在することが可能であるが、上記機能不全のミトコンドリアが、機能性のミトコンドリアに置き換わることが可能である、グルコースが豊富な培地では、ミトコンドリアが機能不全のまま存在すること不可能である。本発明者らは、PPで処理した心臓の線維芽細胞が、グルコースが欠乏した培地において生存するために自己の能力で回復すること、及び、正常のグルコースが豊富な培地において、長期間(72時間)上記細胞が培養した後、正常のミトコンドリアのエネルギー代謝もまた回復することを見出した(図18)。この結果の説明を可能とする解釈は、PPによって活動の静止したミトコンドリアが、自食作用を媒介する(あるいは、関連する)メカニズムの影響を受けていない新鮮なミトコンドリアと置換されることである。PPが、特に、グルコース飢餓の環境下において、癌細胞の自食作用を抑制することを示唆する(文献15)。それゆえに、PPは、上記自食作用の抑制により、機能不全のミトコンドリアが正常のミトコンドリアと置換することを、阻害することが可能である。このPPの自食作用の抑制活性の程度がどのくらいであるのか推測するために、本明細書中にて開示する事象が役に立ち、上記PPの自食作用の抑制活性の程度がどのくらいであるのか推測することは、将来の研究課題である。
【実施例】
【0172】
[2C.心筋梗塞モデルマウスに対するPPの作用(図4、図19)]
PPが心臓の再構築に対してほとんど効果を示さず、線維化を減少しない又は心臓機能を向上しないことは既に報告されている(文献14)。文献14に開示された結果と本発明者らの結果との矛盾は、マウスに対するPPの処理のプロトコールが異なることによる可能性がある。冠動脈を結紮すると同時に、PPを心臓に直接的に注入しており、心臓の線維芽細胞の増殖及び線維化の開始までに数日間ある(文献14)。本発明者らの手順は、筋細胞のほとんどがすでに死んでいる結紮から1日後に、PPの経口投与を開始し、そして心臓の線維芽細胞の増殖及び線維化の期間を通して毎日PPの投与を続けた(図19)。冠動脈の結紮と同時でないが、筋細胞の死から1日又は2日後に、PPの投与を開始することと、毎日投与することとの組合せによって、心筋梗塞後の線維化を阻害し、そして心臓機能を改善することに対して、PPが有利な効果を検証する。冠動脈を結紮してから1日又は2日後に、梗塞した心臓をPPで処理し、虚血領域における筋細胞に対する不利な効果を最小限にすることが重要である。本発明者らは、心臓の筋細胞が死にかけているときに、PPを投与することによって心臓の筋細胞を死滅させることを望んでいない。このため、本発明者らは、結紮した翌日(すなわち、結紮から1日後)にPPの投与を開始した(図19)。
【実施例】
【0173】
本発明者らの細胞培養の結果は、正常の培養条件にて、PPが、ミトコンドリアのエネルギー代謝を誘発し得ることを示す(図3C)。しかし、心筋梗塞マウスモデルでは、心筋機能が傷付けられていないようであった(図4)。PPが作用したミトコンドリアが、自食作用の分解及び/又はミトコンドリアの分裂によって、新しいものと置き換えられる可能性がある(図18)。
【実施例】
【0174】
本明細書中において、心臓の線維芽細胞(培養細胞)に対するPPの効果の結果(図1B,図1C)から予測した通りに、本発明者らは、梗塞した心臓において、増殖の減少及び線維芽細胞の細胞数の減少によって、生じ得る繊維化を、PPが効果的に阻害し得ることを示した(図8A-G)。しかし、培養された線維芽細胞に示されるように、繊維化を減少させる、PPのこの有利な効果が、PPがミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害することによるものであるかを、本発明者らは現在のところ、確認中である。しかし、培養細胞及びin vivoの表現型を備えた、本発明者らの研究、並びに、本明細書中(例えば、後述する2Dなど)にて開示した結果を開示している文献に基づくと、梗塞した心臓に対するPPの有利な効果は、PPの既に周知の他の機能(例えば、NADH-FR活性の阻害剤、古典的Wnt経路、UPR、又はアンドロゲン受容体シグナル)によるものでないと推測される(文献19~22,24,25)。PPの他の機能が主な原因でないが、PPの他の機能は、本明細書中に開示される新たな発見を有する、梗塞した心臓中の表現型に貢献し得る。この可能性は、将来、さらなる研究を必要とする。
[2D.心臓の繊維芽細胞でのPPの虚血特有の細胞毒性効果に、WntまたはUPRシグナルは関与しない]
近年、PPが2つの非NADH-FR経路(古典的Wnt経路及び小胞体ストレス応答(UPR)経路)を阻害することが報告されている(文献19~21)。それゆえ、本発明者らは、これらのシグナルが虚血によって活性化されるか、このようなシグナルの阻害が心臓の繊維芽細胞のPP誘導性の虚血特有の細胞毒性を媒介するかを調べた(図21)。古典的Wntシグナルの活性化は、β-カテニン(例えば、Axin2及びc-Myc)の直接的な転写の対象である遺伝子の発現上昇によって典型的に観察される(http://www.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/wnt/)。それゆえ、本発明者らは、虚血条件下にて培養された心臓の線維芽細胞において、これら遺伝子の発現を調べた(図21A)。正常条件下にて培養された細胞と比較すると、虚血条件下の細胞において、Axin2の発現は、わずかに発現抑制されていた(図21A)。虚血条件下における心臓の線維芽細胞中のAxin2の発現抑制は、PPによってさらに抑制された(図21A)。対象的に、虚血条件下における心臓の線維芽細胞では、c-Mycの発現は上昇した(図21A)。しかし、c-Mycの発現上昇は、PPによる影響を受けなかった(図21A)。さらに、古典的Wntシグナル(XAV939)(文献39)の阻害剤による心臓の線維芽細胞の処理は、正常条件下又は虚血条件下いずれにおいても心臓の線維芽細胞に影響しなかった(図21B)。これらの結果より、古典的なWntシグナルが虚血を引き起こし、その阻害が心臓の繊維芽細胞のPP誘導性の虚血特有の細胞毒性を媒介する可能性は否定された。
【実施例】
【0175】
UPRシグナルの阻害がPPの虚血特有の細胞毒性効果を媒介する可能性を評価した(図21C)。UPRシグナルの基礎となる3つの明確な経路(ATF6、IRE1及びPERK)がある(文献40)。まず、本発明者らは、UPRシグナルの下流のシャペロン(Grp78/BiP,Grp94)の発現とATF6及びIRE1シグナルのメディエーター(Xbp1)を調べ、虚血条件下にて培養された心臓の線維芽細胞において、Grp94及び合計のXbp1(すなわち、非スプライスXbp1、及びスプライスXbp1)の発現ではなく、Grp78/BiP及びXbp1(すなわち、スプライスXbp1)の発現の上昇を検出した。虚血条件下でGrp78/BiP及びGrp94の発現は、PPによって抑制された(図21C)。対照的に、虚血条件下でのXbp1sの発現上昇は、PPによってむしろさらに増加した(図21C)。これらの結果は、UPRシグナル経路(特にATF6経路(文献33))が、虚血条件下の心臓の線維芽細胞において活性されることを示唆するが、この結果は、Grp78/BiP及びXbp1sの発現に対するPPの相反する効果によって示唆されるように、PPがこの経路を阻害する可能性と矛盾する(図21C)。次に、本発明者らは、心臓の線維芽細胞において、ATF6の活性化の阻害剤(4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオライド(AEBSF))の効果を調べたが、心臓の線維芽細胞において、AEBSFの虚血特有の細胞毒性は、何も見いだされなかった(図21C)。さらに、PPは、ATF6αが欠乏した(ATF6α-/-)心臓の線維芽細胞に虚血特有の細胞毒性を課することができた(図21D)。これらの結果は、PPの虚血特有の細胞毒性が、ATF6経路を回避できることを示す。Irestation9389、GSK PERK阻害剤のいずれも、他のUPR経路の阻害剤は、虚血特有の細胞毒性を課すことができなかった(図21E)。これらのすべての結果をまとめると、UPRシグナル経路が、PPの虚血特有の細胞毒性を与える主要な役割を果たすのではなさそうである。
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【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、虚血性疾患の治療又は予防に利用することができる。また、新たな虚血性疾患の治療又は予防のための薬剤の開発に有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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