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明細書 :脈拍検出装置及び脈拍検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6164699号 (P6164699)
登録日 平成29年6月30日(2017.6.30)
発行日 平成29年7月19日(2017.7.19)
発明の名称または考案の名称 脈拍検出装置及び脈拍検出方法
国際特許分類 A61B   5/055       (2006.01)
G01N  24/10        (2006.01)
A61B   5/0245      (2006.01)
A61B   5/05        (2006.01)
FI A61B 5/05 400
G01N 24/10 510Z
A61B 5/02 710Z
A61B 5/05 ZDMA
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2014-548581 (P2014-548581)
出願日 平成25年11月19日(2013.11.19)
国際出願番号 PCT/JP2013/081163
国際公開番号 WO2014/080905
国際公開日 平成26年5月30日(2014.5.30)
優先権出願番号 2012253838
優先日 平成24年11月20日(2012.11.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年9月9日(2016.9.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 寧
個別代理人の代理人 【識別番号】110000925、【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
審査官 【審査官】伊藤 幸仙
参考文献・文献 特開2002-065677(JP,A)
国際公開第2011/99600(WO,A1)
特表2009-528081(JP,A)
米国特許出願公開第2015/346306(US,A1)
調査した分野 A61B 5/055
A61B 5/0245
A61B 5/05
特許請求の範囲 【請求項1】
人体の近傍に配置されて前記人体に所定の磁場を印加する磁場印加部と、
前記人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数として想定される範囲内の周波数である所定の発振周波数を発振する周波数可変発振器と、
前記周波数可変発振器で発振された信号を電波として送信し、前記電波が前記人体で反射して戻った電波を受信し、前記人体の近傍に配置されるアンテナと、
前記アンテナから送信させる送信信号と、前記アンテナで受信した受信信号とを分離する信号分離部と、
前記送信信号の位相と前記受信信号の位相とを比較して位相差信号を出力する位相比較部と、
前記受信信号の振幅を検出して振幅信号を出力する振幅検出部と、
前記位相差信号と前記振幅信号とに基づいて、前記周波数可変発振器の発振周波数を制御する発振周波数制御部と、
前記振幅信号の振幅方向の変化分を、脈拍信号として検出する脈拍検出部とを備えた
脈拍検出装置。
【請求項2】
前記脈拍検出部は、前記脈拍の周期に相当する周波数以上の周波数を通過させるハイパスフィルタで構成される
請求項1に記載の脈拍検出装置。
【請求項3】
前記発振周波数制御部は、前記振幅検出部で所定のレベル以上の振幅が検出され、かつ前記位相差信号の値がゼロである場合に、PLL制御を機能させて前記位相差信号の値をゼロに維持するよう前記発振周波数を制御する
請求項1に記載の脈拍検出装置。
【請求項4】
前記脈拍検出部を通過した信号のうち、脈拍の周波数と同じ周波数である脈波周波数を有する信号のみを通過させる適応フィルタをさらに備える
請求項3に記載の脈拍検出装置。
【請求項5】
人体の近傍に配置されて前記人体に所定の磁場を印加する磁場印加部と、
前記人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数として想定される範囲内の周波数である所定の発振周波数を発振する周波数可変発振器と、
前記周波数可変発振器で発振された信号を電波として送信し、前記電波が前記人体で反射して戻った電波を受信し、前記人体の近傍に配置されるアンテナと、
前記アンテナから送信させる送信信号と、前記アンテナで受信した受信信号とを分離する信号分離部と、
前記送信信号の位相と前記受信信号の位相とを比較して位相差信号を出力する位相比較部と、
前記送信信号の振幅を検出して第1の振幅信号を出力する第1の振幅検出部と、
前記受信信号の振幅を検出して第2の振幅信号を出力する第2の振幅検出部と、
前記第1の振幅信号と前記第2の振幅信号とを用いて、前記アンテナの伝達関数を算出する伝達関数算出部と、
前記位相差信号と前記振幅信号とに基づいて、前記周波数可変発振器の発振周波数を制御する発振周波数制御部と、
前記伝達関数算出部で算出された伝達関数の振幅方向の変化分を、脈拍信号として検出する脈拍検出部とを備えた
脈拍検出装置。
【請求項6】
前記伝達関数とは、前記信号分離部に入力する前記送信信号又は前記受信信号と、前記信号分離部から出力された信号又は前記信号分離部を通過した信号とを用いて算出されるSパラメータである
請求項5に記載の脈拍検出装置。
【請求項7】
人体に所定の磁場を印加することと、
前記人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数として想定される範囲内の周波数である所定の周波数を、周波数可変発振器に発振させることと、
前記周波数可変発振器で発振された信号を、前記人体の近傍に配置されたアンテナから電波として送信し、前記電波が前記人体で反射して戻った電波をアンテナで受信することと、
前記アンテナから送信させる送信信号と、前記アンテナで受信した受信信号とを分離することと、
前記送信信号の位相と前記受信信号の位相とを比較して位相差信号を出力することと、
前記受信信号の振幅を検出して振幅信号を出力することと、
前記位相差信号と前記振幅信号とに基づいて、前記周波数可変発振器で発振される発振周波数を制御することと、
前記振幅信号の振幅方向の変化分を、脈拍信号として検出することとを含む
脈拍検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療機器や車載用生体センサ等に適用して好適な脈拍検出装置及び脈拍検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脈拍を測定する手法として、波動による血管の容積変化を検出する方法や、血管内の圧力変化を検出する方法等が知られている。波動による血管の容積変化の検出には一般的に光学的方式が用いられ、血管内の圧力変化の検出には一般的に圧電方式が用いられる。光学的方式では、血中のヘモグロビンの波長帯の光を生体に照射し、その透過光又は反射光の強度を電気信号に変えることで脈拍を検出する。圧電方式では、動脈上に圧電センサを押し付け、圧電センサで得られた電圧を脈拍として検出する。
【0003】
しかし、光学的方式と圧電方式のいずれの方式においても、センサを生体に装着する必要があるため、装着された被験者の体の動きがある程度制約されてしまう。特に圧電方式では、正確な測定のために、圧電センサを動脈直上部に正しく押圧する押圧手段が必要となるため、人体の動きだけでなく、測定が行われる環境もかなり限定される。
【0004】
これに対して、人体にセンサを直接接触させずに非接触で脈拍を検出できる手法も考案されている。非接触による脈拍の検出には、ドプラー方式が用いられることが多い。ドプラー方式では、生体にマイクロ波を照射し、生体からの反射波を受信して、発振周波数と受信周波数の差を音響信号に変換して血流を検知する。例えば特許文献1には、ドプラー方式を使用した超音波診断画像処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【0005】
特許文献1:特開平11-47131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ドプラー方式は、観測の対象となる心臓と、それをセンシングするセンサとの相対運動が原因となって生じる周波数のずれを検出する。このため、心臓が動いたときだけでなく、例えば心臓の動きを検出するセンサ自体が動いたときにも、発振周波数と受信周波数との間での周波数のずれが生じる。つまり、本来必要とされる心臓の動き以外の動きが発生した場合にも、それが脈拍信号として誤検出される現象が発生しうる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を鑑みなされたものであり、被験者の動きに対する制約が少なく、被験者の体の動き等に起因する雑音にも強い脈拍検出装置及び脈拍検出方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の脈拍検出装置は、磁場印加部と、アンテナと、信号分離部と、位相比較部と、振幅検出部と、発振周波数制御部と、脈拍検出部とを備える構成とし、各部の構成及び機能を次のようにする。磁場印加部は、人体の近傍に配置されて人体に所定の磁場を印加する。周波数可変発振器は、人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数として想定される範囲内の周波数である所定の発振周波数を発振する。アンテナは、人体の近傍に配置され、周波数可変発振器で発振された信号を電波として送信し、電波が人体で反射して戻った電波を受信する。信号分離部は、アンテナから送信させる送信信号と、アンテナで受信した受信信号とを分離する。位相比較部は、送信信号の位相と受信信号の位相とを比較して位相差信号を出力する。振幅検出部は、受信信号の振幅を検出して振幅信号を出力する。発振周波数制御部は、位相差信号と振幅信号とに基づいて、発振周波数を制御する。脈拍検出部は、振幅信号の振幅方向における変化分を、脈拍信号として検出する。
【0009】
また、本発明の脈拍検出方法は、まず、人体に所定の磁場を印加する。続いて、人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数として想定される範囲内の周波数である所定の周波数を、周波数可変発振器に発振させる。続いて、周波数可変発振器で発振された信号を、人体の近傍に配置されたアンテナから電波として送信し、電波が人体で反射して戻った電波をアンテナで受信する。続いて、アンテナから送信させる送信信号と、アンテナで受信した受信信号とを分離する。続いて、送信信号の位相と受信信号の位相とを比較して位相差信号を出力する。続いて、受信信号の振幅を検出して振幅信号を出力する。続いて、位相差信号と振幅信号とに基づいて、発振周波数を制御する。続いて、振幅信号の振幅方向の変化分を、脈拍信号として検出する。
【0010】
以上のように脈拍検出装置を構成し、脈拍検出処理を行うことで、人体を流れる血液を構成する所定の成分の分子の共振周波数を検出することができ、検出した共振周波数における振幅方向の変化分が、脈拍信号として検出される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験者の動きに対する制約が少なく、被験者の体の動き等に起因する雑音にも強い脈拍検出装置及び脈拍信号検出方法脈拍検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態例に係る脈拍検出装置の利用例を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態例に係る脈拍検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態例に係る、振幅検出部の出力の大きさ(振幅)と位相比較器の出力(2信号の位相差)とを、横軸周波数として対比した説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態例に係る、振幅検出部の出力と、適応フィルタを通過した信号の時間軸波形を示す波形図である。
【図5】ドプラー方式で検出された振幅信号と、本発明の一実施の形態例に係る振幅検出部で検出された振幅信号の時間軸波形を示す波形図である。
【図6】本発明の変形例1に係る脈拍検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明の変形例1に係る伝達関数算出部の構成例を示すブロック図である。
【図8】本発明の変形例1に係る、方向性結合器と伝達関数算出部の接続例を示すブロック図である。
【図9】本発明の変形例1に係る脈拍検出装置のセンサ部分の他の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る脈拍検出装置の一例を、図面を参照しながら下記の順で説明する。ただし、本発明は下記の例に限定されない。
1.脈拍検出装置の構成例
2.各種変形例

【0014】
[1.脈拍検出装置の構成例]
図1は、本発明の一実施形態に係る脈拍検出装置1の利用例を示す図であり、本発明の脈拍検出装置を、自動車に搭載されて運転手の居眠りや疲労の度合いを検知する装置に適用したときの座席周りの状況を示している。図1に示すように、脈拍検出装置1は、自動車内の座席Stの下に配置されたループアンテナ15と、その下に配置された磁場印加部としての磁石11とを備える。ループアンテナ15は、座席Stに座っている被験者Sbの体に電波を照射するとともに、被験者Sbから反射して戻ってきた電波を受信する。磁石11は、座席Stに座っている被験者Sbの体に、所定の磁場を印加する。なお、図1では、ループアンテナ15に供給する発振周波数の信号を生成するVCO(Voltage Controlled Oscillator)等、脈拍検出装置1を構成するその他の構成については図示していない。これらの詳細については、図2を参照して後述する。

【0015】
本発明の一実施形態に係る脈拍検出装置1は、ESR(Electron Spin Resonance:電子スピン共鳴)の技術を用いて、動脈の血管壁に生じる振動(脈波)の変化を検出し、脈波の変化が示される脈拍信号を出力する。ESRは、物質中の不対電子の電子スピンの遷移に伴って生じる共鳴現象を観測するものである。

【0016】
物質内の不対電子は、磁場中におかれると、そのスピン量(磁気モーメント)の値に対応して電子スピンの向きが磁場の向きに平行、あるいは反平行に揃う。このとき、その電子スピンがもつエネルギー準位はスピン量によって2つに分割される(ゼーマン分裂)。この2つのエネルギー準位の差に相当するエネルギーを外部から加えることで、低いエネルギーを持つ電子スピンがそのエネルギーを吸収し、高いエネルギーを持つスピンへと遷移する。このときの、電子スピンによるエネルギーの吸収量を検知することでESRスペクトルを得ることができ、得られたESRスペクトルを解析することで、フリーラジカルと呼ばれる不対電子を持つ物質の同定・定量することが可能となる。

【0017】
このESRの技術はMRI(Magnetic Resonance Imaging)でも用いられており、MRIでは、一定の周波数のマイクロ波を人体に照射した状態で磁場を掃引することにより、観察したい所望の部位の水素原子核を磁気共鳴させている。これに対して、本実施の形態例では、磁場を掃引するのではなく、マイクロ波(電波)を掃引することにより、血液を構成する水分子あるいはヘモグロビン分子に磁気共鳴を起こさせる。そして、人体に当たって磁気共鳴を起こし、跳ね返ってきた電波の振幅の変動分を、脈拍信号として検出する。

【0018】
続いて、図2のブロック図を参照して、脈拍検出装置1の内部構成例を説明する。脈拍検出装置1は、磁石11と、周波数可変発振器としてのVCO12と、パワーアンプ13と、信号分離部としての方向性結合器14とを備える。また、脈拍検出装置1は、電波送信用のループアンテナ15Tと、電波受信用のループアンテナ15Rと、振幅検出部16と、位相比較部17と、発振周波数制御部18とを備える。脈拍検出装置1は、さらに、脈拍検出部19と、適応フィルタ20と、遅延回路21と、加算器22とを備える。

【0019】
磁石11は、上述したように、座席St(図1参照)に座っている被験者Sbの体に一定の磁場を印加するためのものであり、磁場の磁気強度は例えば0.14テスラ程度とされる。図1に示した例では、磁石11の大きさを、およそ人の手の面積と同程度の面積を持つものとしてあるが、この大きさに限定されるものではない。少なくとも1cm以上の大きさであれば、どのような大きさであってもよい。また、本実施の形態例では座席Stの下に磁石11を配置して、被験者Sbの臀部に近接させる例を挙げているが、これに限定されるものではない。例えば、不図示のシートベルトに装着させて、磁石11が被験者Sbの胸部や腹部の近辺に配置されるようにしてもよい。また、本実施形態例では磁場印加部として磁石11を用いる例を挙げたが、これに限定されるものではなく、電磁石を用いてもよい。

【0020】
VCO12は、後述する発振周波数制御部18から印加される制御電圧に応じた発振周波数の発振信号(Sin波)を生成し、生成した発振信号をパワーアンプ13に供給する。VCO12の動作開始時の発振周波数は、血液中の水分子に照準を合わせる場合には2.4GHz程度に設定し、ヘモグロビン分子に照準を合わせる場合には64MHz程度に設定する。VCO12は、その後は、発振周波数制御部18から印加される制御電圧に応じた発振周波数の発振信号を生成する。パワーアンプ13は、VCO12から供給された発振信号を増幅して、方向性結合器14と位相比較部17とに供給する。

【0021】
方向性結合器14は、ループアンテナ15Tとループアンテナ15Rとに接続されている。そして、VCO12から出力された信号のうち、空気中を伝播して受信用のループアンテナ15Rによって飛び込んだ信号、又は、ループアンテナ15Tから放射された信号のうち、ループアンテナ15Rが直接拾ってしまった信号をキャンセルする。つまり、パワーアンプ13から入力されてループアンテナ15Tから送信される送信信号と、ループアンテナ15Tから送信された後に被験者Sbに反射して戻り、ループアンテナ15Rによって受信された電波(受信信号)のみを伝送する。送信信号はループアンテナ15Tに送信され、受信信号は振幅検出部16と位相比較部17とに供給される。

【0022】
なお、本実施の形態例では、信号分離部として方向性結合器14を用いた例を挙げたが、これに限定されるものではなく、サーキュレータ等の他の回路で構成してもよい。また、図2に示した例では、ループアンテナ15として、送信用のループアンテナ15Tと受信用のループアンテナ15Rの二つを用意した例を挙げているが、送信と受信との両方を行える1つのアンテナを用いてもよい。

【0023】
振幅検出部16は、方向性結合器14を経由して入力されたループアンテナ15Rによる受信信号の振幅の変化分を検出するものであり、例えばピークディテクタで構成される。被験者Sbの血液内の水分子あるいはヘモグロビン分子が磁気共鳴を起こしているときには、受信信号の振幅も大きくなる。したがって、共振時には、ピークディテクタとして構成された振幅検出部16から出力される振幅信号の最大値も大きくなる。

【0024】
位相比較部17は、ループアンテナ15Tの送信信号の位相と、ループアンテナ15Rの受信信号の位相とを比較する位相比較器であり、送信信号と受信信号の位相差に相当する位相差信号を発振周波数制御部18に供給する。なお、位相比較器の代わりに同期検波器を用いてもよい。

【0025】
発振周波数制御部18は、位相比較部17から出力された位相差信号と、振幅検出部16から出力された振幅信号とに基づいて、VCO12に印加する制御電圧の大きさを調整する。より詳しくは、始めにVCO12で発振させる発振周波数を掃引し、振幅検出部16の出力が所定のレベル以上となり、かつ位相比較部17の出力である位相差信号がゼロとなった時点で掃引を止め、位相比較部17とVCO12とを含んで構成されるPLL回路を機能させ、位相比較部17の出力(位相差信号)の値がゼロとなるようにフィードバック制御する。

【0026】
図3は、横軸をVCO12の発振周波数とし、振幅検出部16の出力と、位相比較部17の出力とを対比させたグラフである。図3Aは振幅検出部16の出力であり、ループアンテナ15Rの受信信号の振幅値を示す。図3Bは位相比較部17の出力であり、ループアンテナ15Tから送信される送信信号とループアンテナ15Rが受信した受信信号との位相差を示す。被験者Sbの血液中の水分子又はヘモグロビン分子が磁気共鳴を起こしている場合には、図3Aに示すように、振幅検出部16から出力される信号の振幅が共振周波数fにおいて最大となる。かつ、図3Bに示すように、位相比較部17から出力される位相差信号は、共振周波数fにおいてゼロとなる。すなわち、送信信号と受信信号との位相差がゼロとなる。

【0027】
振幅検出部16を通過した受信信号、すなわち振幅信号の大きさが所定のレベル以上となり、かつ位相差信号の値がゼロとなった時点でPLL回路を機能させることにより、その後も位相差信号がゼロになるように制御される。したがって、VCO12の発振周波数を、被験者Sbによって異なる水分子又はヘモグロビン分子の共振周波数fに正確に追従させることができる。

【0028】
図2に戻って説明を続けると、脈拍検出部19は、例えばHPF(High Pass Filter)等で構成され、振幅検出部16の出力から所定の高周波成分のみを抽出して、適応フィルタ20及び遅延回路21に出力する。脈拍検出部19のカットオフ周波数としては、例えば、健常な状態の人の脈拍として想定される最低の脈拍数である“30”に相当する0.5Hz以上の値が設定される。これにより、血流の変化により生じる受信信号の振幅の変動分のみを抽出することが可能となる。つまり、脈拍信号を検出することができる。

【0029】
適応フィルタ20は、例えばLMS(Least Mean Square)フィルタで構成され、入力された信号のうち所定の周期性を有する信号のみを通過させて加算器22に出力する。脈拍と同じ周波数(以下、「脈波周波数」とも称する)の信号のみを通過させる係数を設定した適応フィルタ20を通すことにより、脈拍により変動した振幅の部分が強調された信号を得ることができる。

【0030】
遅延回路21は、脈拍検出部19の出力に、適応フィルタ20における処理時間に相当する時間分だけ遅延を加えて加算器22に出力する。

【0031】
図4は、適応フィルタ20に入力される信号と適応フィルタ20から出力された信号とを示す波形図である。図4Aは適応フィルタ20に入力される信号の波形を示し、図4Bは適応フィルタ20から出力される信号の波形を示す。図4A及び図4Bの縦軸は振幅を示し、横軸は時間を示す。図4Aに示す、適応フィルタ20に入力される信号、すなわち振幅検出部16(図2参照)から出力された信号は、全体的に振幅の変化が少ないのに対して、適応フィルタ20の適用後でその振幅が増幅されてもいる図4Bに示した信号は、雑音が除去されたものであるため、その振幅が強調されたものとなる。

【0032】
加算器22から出力された信号の振幅のピークを検出してその出現の周期を求めれば、脈拍を測定することができる。

【0033】
上述した本実施の形態例によれば、被験者Sbの近傍に磁石11とループアンテナ15T及びループアンテナ15Rとを配置することで、ESRの技術を用いて被験者Sbの脈拍信号を検出することができる。脈拍信号を検出する際には、被験者Sbに印加する磁場でなく、被験者Sbに照射する電波の周波数の方を可変させるため、例えばMRI等の磁場を掃引する装置と比較して、装置の製造コストを低く抑えることができる。

【0034】
また、ドプラー方式を用いた場合と比較しても、装置の製造コストを低く抑えることができる。ドプラー方式において使用されるドプラーセンサは、20GHz等の高い周波数を使用するものであるため、一般的に導波管の技術が適用される。このため、製造コストを低く抑えることが難しい。これに対して、本発明の脈拍検出装置1で扱う周波数は60MHz程度と低く、この周波数帯はFMラジオ放送でも使用されている周波数帯でもある。したがって、本発明の脈拍検出装置1は、FMラジオ放送の受信機の製造にかかるコストと同等程度の低いコストで製造することができる。

【0035】
また、上述した本実施の形態例によれば、ドプラー方式を用いないため、歩行時や自動車の運転時等、被験者Sbの体が静止していない状態においても、比較的正確に脈拍を検出することができる。

【0036】
図5Aは、ドプラーセンサを用いた脈拍検出装置で検出された振幅信号を示す波形図であり、図5Bは、本実施の形態例による脈拍検出装置1の振幅検出部16が検出した振幅信号を示す波形図である。

【0037】
図5A及び図5Bにおいて、縦軸は振幅を示し、横軸は時間を示す。横軸として示した時間は、区間I1、区間I2及び区間I3よりなる。区間I1は被験者Sbが椅子に座って静止している区間であり、区間I2は被験者Sbが椅子から立ち上がった区間であり、区間I3は、立っている状態で被験者Sbがその場で足踏みをしている区間である。

【0038】
ドプラー方式による脈拍の検出は、被験者Sbから約30cm離れた位置にドプラーセンサを配置した状態で行った。本実施の形態例の脈拍検出装置1による脈拍の検出は、磁石11、ループアンテナ15T及びループアンテナ15Rを、被験者Sbの背中部分の衣服の上に貼り付けた状態で行った。

【0039】
図5Aに示したドプラー方式で得られた振幅信号は、区間I3において振幅の増減が非常に激しくなっており、振幅の時間方向の変化も殆ど観測することができない(周期性を確認できない)。これは、ドプラー方式のセンサが、被験者Sbの身体細胞とセンサとの間の相対的な運動を計測するものであるため、心臓の動きだけでなく体の動きも検出してしまうからである。

【0040】
これに対して、図5Bに示す本実施の形態例による脈拍検出装置1で得られた振幅信号においては、区間I3でも、その振幅の時間方向の変化を観測することができる。よって、振幅信号から雑音を除去することで、脈拍を検出することが可能となる。すなわち、本実施の形態例による脈拍検出装置1によれば、被験者Sbが静止していない状態(区間I3)においても、脈拍を検出することができる。

【0041】
また、本実施の形態例では、ドプラー方式を用いていないため、被験者Sbの体が動くことにより生じるノイズの影響を考慮する必要がない。このため、センサ部分を構成する磁石11と、ループアンテナ15T及びループアンテナ15Rの配置位置も、被験者Sbの心臓の付近でなくてもよく、また、配置位置を固定する必要もない。したがって、センサ部分を運動中の被験者Sbの体に装着させたり、自動車の座席の下に配置したり、ベッドの下に配置したりすることも可能となる。

【0042】
例えば、図1に示したように自動車内の座席部分にセンサ部分を配置することで、運転中の被験者Sbが居眠りをしたり疲労した場合に生じる脈拍の変化も、迅速に検知することができる。このため、本発明の脈拍検出装置1を用いて、居眠りや疲労蓄積の検知時に、検知した内容を被験者Sbにフィードバックするシステム等も構築することができる。

【0043】
また、センサ部分をベッドの部分等に配置すれば、ベッドの上の被験者Sbの脈拍信号を検出することができる。これにより、病院に入院中の患者や、一人で生活している老人等、容態の急変や健康状態の管理が必要な被験者Sbの脈拍信号も、被験者Sbの体に負担をかけることなく、容易にかつ恒常的に検出することが可能となる。

【0044】
[2.各種変形例]
なお、上述した本実施の形態例では、適応フィルタ20を用いて脈拍周期を強調した信号を生成するようにしているが、この処理は必ずしも必須の処理ではなく、適応フィルタ20を用いない構成としてもよい。

【0045】
(変形例1)
また、上述した実施の形態例では、振幅検出部16で検出された振幅に基づいて脈拍信号を検出する例を挙げたが、これに限定されるものではない。ループアンテナ15T及びループアンテナ15Rの伝達特性を計測し、得られた伝達特性の特性変化分を検出することにより、脈拍信号を検出してもよい。伝達特性としては、例えばSパラメータを用いることができる。Sパラメータは、入射信号と反射信号の振幅と位相の変化を示すパラメータであり、方向性結合器14(図2参照)に入出力される電力の値に基づいて算出することができる。

【0046】
図6は、Sパラメータの1つである入力反射係数(S11)を算出し、算出されたS11の時間方向における変化分を脈拍信号として検出する構成を示したブロック図である。図6において、図2と対応する箇所には同一の符号を付してあり、重複する説明は省略する。また、図6に示す脈拍検出装置1Aでは、図2に示した適応フィルタ20と遅延回路21、加算器22の図示は省略している。

【0047】
方向性結合器14が有する4つのポートのうち、VCO12で生成されてパワーアンプ13で増幅された信号が入力されるポートをポートP1とし、振幅検出部16及び位相比較部17に伝送される信号が出力されるポートをポートP2とする。また、ループアンテナ15Rで受信された信号が入力されるポートをポートP3とし、ループアンテナ15Tに供給される信号が出力されるポートをポートP4とする。

【0048】
入力反射係数であるS11は、ポートP1に入力される入射信号aに対する、ポートP2から出力される反射信号bの割合として示される。入射信号aに対する反射信号bの割合は、図7に示す伝達関数算出部23によって算出することができる。伝達関数算出部23は、入力される信号のピーク値を検出する振幅検出部23a及び振幅検出部23bと、振幅検出部23aからの出力値を振幅検出部23bからの出力値で除算する除算器23cとよりなる。振幅検出部23a及び23bは、例えばピークディテクタで構成される。

【0049】
図6に示したポートP1に入力される入射信号aを、図7に示した振幅検出部23bに入力し、ポートP2から出力される反射信号bを振幅検出部23aに入力することで、伝達関数算出部23からは、反射信号b/入射信号a=S11が出力される。このようにして算出されたS11を脈拍検出部19に入力することで、脈拍検出部19からは、S11の特性変化分のみが出力される。S11の振幅方向の変化は、脈拍の変動に応じて起きる。従って、S11が脈拍検出部19を通過することにより、その変動分を脈拍信号として抽出することが可能となる。

【0050】
脈拍の周期の検出に使用するSパラメータは、入力反射係数(S11)に限定されるものではなく、順方向伝達係数(S21)、逆方向伝達係数(S12)、出力反射係数(S22)のいずれを使用してもよい。図8Aは順方向伝達係数(S21)を求める場合の構成例を示し、図8Bは逆方向伝達係数(S12)を求める場合の構成例を示し、図8Cは出力反射係数(S22)求める場合の構成例を示す。図8A~図8Cでは、方向性結合器14と伝達関数算出部23と脈拍検出部19以外の図示は省略しているが、図示していない構成は図6に示した構成と同一である。

【0051】
順方向伝達係数であるS21は、ポートP1に入力される入射信号aに対する、ポートP4から出力される反射(伝送)信号bの割合として示される。図8Aに示すように、ポートP1に入力される入射信号aと、ポートP4から出力される反射信号bを伝達関数算出部23に入力することで、伝達関数算出部23からは、伝送信号b/入射信号a=S21が出力される。

【0052】
逆方向伝達係数であるS12は、ポートP3に入力される入射信号aに対する、ポートP2から出力される反射(伝送)信号bの割合として示される。図8Bに示すように、ポートP3に入力される入射信号aと、ポートP2から出力される反射信号bを伝達関数算出部23に入力することで、伝達関数算出部23からは、反射信号b1/入射信号a=S12が出力される。

【0053】
出力反射係数であるS22は、ポートP3に入力される入射信号aに対する、ポートP4から出力される反射信号bの割合として示される。図8Cに示すように、ポートP3に入力される入射信号aと、ポートP4から出力される反射信号bを伝達関数算出部23に入力することで、伝達関数算出部23からは、反射信号b/入射信号a=S22が出力される。このように、ループアンテナ15T及びループアンテナ15Rの伝達特性を示すSパラメータを用いても、脈拍信号を検出することができる。

【0054】
(変形例2)
また、上述した実施の形態例では、脈拍検出装置1(又は脈拍検出装置1A)を自動車内に搭載する例を挙げたが、これに限定されるものではない。脈拍の検出に十分なデータが検出可能な形態であれば、どのような形態に適用してもよい。脈拍の検出に十分なデータが検出可能な形態とは、例えば、磁石11とループアンテナ15T及びループアンテナ15Rとよりなるセンサの部分を、被験者Sbの体に近い位置に配置することで実現される。

【0055】
図9に、脈拍検出装置1のセンサの部分をイヤホン型センサとして構成した例を示す。なお、図9には、脈拍検出装置1のセンサ部分のみを図示している。図9では、センサ部分を「イヤホン型センサ10」としている。イヤホン型センサ10は、被験者Sbの耳Eに挿入される筐体100の内部に、磁石11αと、ループアンテナ15Tα及びループアンテナ15Rαとが配置されている。

【0056】
具体的には、電波送信用のループアンテナ15Tαが筐体100内の上面と下面に配置され、電波受信用のループアンテナ15Rαが、筐体100内の、外耳道Eeへの挿入方向における筐体100の端部に配置されている。各ループアンテナをこのように配置することで、イヤホン型センサ10が被験者Sbの耳Eに挿入されたときに、これらの各アンテナが、耳Eの外耳道Eeの側面の皮膚と接触あるいは近接するようになる。

【0057】
また、筐体100の中心部分に磁石11αを配置し、磁石11αと、ループアンテナ15Tα及びループアンテナ15Rαとの間にプラスチック等の樹脂101を充填することで、磁石11αが各アンテナに及ぼす影響を少なくすることができる。また、磁石11αを、外耳道Eeの形成方向に長さを有する略直方体の形状とすることで、外耳道Eeの側面の皮膚と磁石11αとの、外耳道Eeの直径方向の距離を、近くすることができる。

【0058】
磁石11αと、ループアンテナ15Tα及びループアンテナ15Rαとをこのように配置することにより、脈拍の検出を行うための磁場と電波とが被験者Sbの体に届きやすくなり、かつ、被験者Sbの体から反射して戻ってきた電波も受信しやすくなる。また、脈拍検出装置1のセンサの部分をイヤホン型センサ10として構成することで、イヤホン型センサ10を被験者Sbの耳Eに挿入するだけで、被験者Sbの脈拍を容易に検出することが可能となる。

【0059】
また、本発明の脈拍検出装置1(又は1A)は、血圧測定器に適用することもできる。例えば、動脈を圧迫して閉塞するカフの、被験者Sbの腕と接触する側の側面に脈拍検出装置1(又は1A)のセンサ部を配置することで、カフを減圧する過程で血管壁に生じる脈波を脈拍信号として検出することができる。そして、オシロメトリック法による血圧測定技術を用いることで、検出した脈波に基づいて血圧を計測することができる。
【符号の説明】
【0060】
1,1A…脈拍検出装置、11…磁石、12…VCO、13…パワーアンプ、14…方向性結合器、15,15R,15T…ループアンテナ、16…振幅検出部、17…位相比較部、18…発振周波数制御部、19…HPF、20…適応フィルタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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