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明細書 :シスプラチン耐性がんの治療のためのHMG-CoA還元酵素阻害薬の使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年1月26日(2017.1.26)
発明の名称または考案の名称 シスプラチン耐性がんの治療のためのHMG-CoA還元酵素阻害薬の使用
国際特許分類 A61K  31/366       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/366
A61P 35/00
A61P 43/00 105
国際予備審査の請求
全頁数 18
出願番号 特願2014-559692 (P2014-559692)
国際出願番号 PCT/JP2014/051833
国際公開番号 WO2014/119568
国際出願日 平成26年1月28日(2014.1.28)
国際公開日 平成26年8月7日(2014.8.7)
優先権出願番号 2013014459
優先日 平成25年1月29日(2013.1.29)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】河野 公俊
【氏名】和泉 弘人
出願人 【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査請求 未請求
テーマコード 4C086
Fターム 4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
要約 本発明は、シスプラチン耐性がんの治療のための手段を提供する。具体的には、本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞傷害剤などを提供する。本発明によれば、シスプラチン耐性がん細胞を効果的に傷害することができるため、シスプラチン耐性がんを治療することが可能となる。
特許請求の範囲 【請求項1】
HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞傷害剤。
【請求項2】
有効成分がHMG-CoA還元酵素阻害剤から成る、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
HMG-CoA還元酵素阻害剤が、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及びセリバスタチン、並びにその医薬上許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
HMG-CoA還元酵素阻害剤が、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びプラバスタチン、並びにその医薬上許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
がんが、前立腺がん又は子宮頸がんである、請求項1~4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん治療剤。
【請求項7】
有効成分がHMG-CoA還元酵素阻害剤から成る、請求項6に記載の剤。
【請求項8】
被験者に有効量のHMG-CoA還元酵素阻害剤を投与することを含む、シスプラチン耐性がん細胞の傷害方法。
【請求項9】
被験者に有効量のHMG-CoA還元酵素阻害剤を投与することを含む、シスプラチン耐性がんの治療方法。
【請求項10】
HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞の傷害において使用するための剤。
【請求項11】
HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がんの治療において使用するための剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シスプラチン耐性がん細胞傷害剤及びシスプラチン耐性がん治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって血液中のコレステロール値を低下させる医薬(スタチン系阻害剤又はスタチンとも呼ばれる)には、プラバスタチン(商品名:メバロチン)やシンバスタチン(商品名:リポバス)など多くの製品がある。スタチンの抗がん作用については多数の大規模臨床試験が行われているが、スタチンの服用量が多いほど、また服用期間が長いほど、大腸がんの発生率が低いこと(非特許文献1)、スタチンを服用しているグループでは、特に血液腫瘍の発生率が低いこと(非特許文献2)が報告されている一方で、スタチンの服用にはがんの発生リスクを低下させる効果は無いこと(非特許文献3)も報告されており、スタチンのがん発生を抑制する効果について一貫した結論は出ていない。また、薬剤耐性がん細胞に対するスタチンの抗がん作用については、これまでいかなる報告もなされていない。
【0003】
シスプラチンは、多くの悪性腫瘍を治療する場合の第一選択薬であり、染色体DNAと特殊な化学反応をしてDNAに架橋を形成し、DNAの合成を阻害する抗がん剤である。しかしながらシスプラチンの継続的な投与により、がん細胞がシスプラチン耐性を獲得することが知られている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】BMC Gastroenterol 2012 Apr 24; 12:36
【非特許文献2】Prev Chronic Dis 2012 Aug 9; E137, doi: 10.5888/pcd9.120005
【非特許文献3】PLoS ONE 2012 7(1): e29849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
がんの治療において、化学療法はその原因となるがん細胞そのものを排除する根治的な治療法として重要である。しかし、ある薬剤に対してがん細胞が耐性を獲得すると、その薬剤による治療はほとんど不可能になり、代替できる薬剤が存在しない場合、重症化や、場合によっては死亡に至る危険性が高くなる。このことから薬剤耐性腫瘍に対する新たな治療法の開発は非常に重要である。
そこで本発明は、シスプラチン耐性がんの治療のための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、血液中のコレステロール値を低下させるHMG-CoA還元酵素阻害剤のシスプラチン耐性がん細胞株に対する抗腫瘍効果を検討した結果、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びプラバスタチンのいずれも、シスプラチン感受性がん細胞株よりもシスプラチン耐性がん細胞株に対して、高い細胞傷害性を示すことを見出した。更にシスプラチンと同じ白金製剤であるオキサリプラチン耐性がん細胞株についてもHMG-CoA還元酵素阻害剤の抗腫瘍効果を検討した結果、オキサリプラチン耐性がん細胞株に対しては、シスプラチン耐性がん細胞株ほどの高い細胞傷害性は示さなかったことから、HMG-CoA還元酵素阻害剤の作用はシスプラチン耐性がん細胞に対して特異的なものであることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1] HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞傷害剤。
[2] 有効成分がHMG-CoA還元酵素阻害剤から成る、[1]に記載の剤。
[3] HMG-CoA還元酵素阻害剤が、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及びセリバスタチン、並びにその医薬上許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の剤。
[4] HMG-CoA還元酵素阻害剤が、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びプラバスタチン、並びにその医薬上許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種である、[3]に記載の剤。
[5] がんが、前立腺がん又は子宮頸がんである、[1]~[4]のいずれかに記載の剤。
[6] HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん治療剤。
[7] 有効成分がHMG-CoA還元酵素阻害剤から成る、[6]に記載の剤。
[8] 被験者に有効量のHMG-CoA還元酵素阻害剤を投与することを含む、シスプラチン耐性がん細胞の傷害方法。
[9] 被験者に有効量のHMG-CoA還元酵素阻害剤を投与することを含む、シスプラチン耐性がんの治療方法。
[10] HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞の傷害において使用するための剤。
[11] HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がんの治療において使用するための剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シスプラチン耐性がん細胞を効果的に傷害することができるため、シスプラチン耐性がんを治療することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するシンバスタチンの細胞傷害性を示す。
【図2】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するロバスタチンの細胞傷害性を示す。
【図3】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するコンパクチンの細胞傷害性を示す。
【図4】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するフルバスタチンナトリウムの細胞傷害性を示す。
【図5】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するアトルバスタチンカルシウムの細胞傷害性を示す。
【図6】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するピタバスタチンカルシウムの細胞傷害性を示す。
【図7】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するプラバスタチンナトリウムの細胞傷害性を示す。
【図8】シスプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するケルセチンの細胞傷害性を示す。
【図9】オキサリプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するシンバスタチンの細胞傷害性を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸はシンバスタチンの濃度(μM)を示す。
【図10】オキサリプラチン感受性及び耐性がん細胞株に対するシンバスタチンの細胞傷害性を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸はシンバスタチンの濃度(μM)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有してなる、シスプラチン耐性がん細胞傷害剤(以下、本発明の剤とも称する)を提供する。

【0011】
HMG-CoA還元酵素阻害剤は、上述のように、一部のがんの発生率を低下させる効果が示唆されていたものの、否定的な報告も存在し、そのがん発生抑制効果は現在のところ証明されていない。そのようなHMG-CoA還元酵素阻害剤が特定の薬剤耐性がん細胞株に対して顕著な細胞傷害性を示すことは全く予測不能であった。
本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害剤が、意外にも、シスプラチン感受性がん細胞株よりもシスプラチン耐性がん細胞株に対して強い細胞傷害性を示すことを初めて見出したことに基づくものである。

【0012】
本明細書中、HMG-CoA還元酵素阻害剤は、コレステロール生合成の律速酵素であるβ-ヒドロキシ-β-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)還元酵素を阻害する活性を有する物質をいう。ここで、HMG-CoA還元酵素を阻害する活性は、特開平5-25190号公報などの記載に基づいて測定される活性であり、具体的には、以下の方法により測定される。まず、30μM [14C]HMG-CoA(0.05μCi)、HMG-CoA還元酵素の粗酵素5μl(7.5μg protein)、20 mM NADPH、被験物質に、100 mMリン酸バッファー(pH7.2)、10 mMイミダゾール、5 mMジチオスレイトール、10 mM EDTAを加え、試験溶液100μlとする。HMG-CoA還元酵素の粗酵素としては、ウィスターラット肝ミクロソームを用いる。次に、試験溶液を37℃で15分間インキュベートして、[14C]メバロン酸を合成する。続いて、1 Mの塩酸を25μl添加した後に37℃で60分間インキュベートして、[14C]メバノラクトンを合成する。続いて、内部標準物質として[4-14C]テストステロン(0.08 nCi)を10μl加えてから、酢酸エチル130μlで分配抽出する。この上清100μlをTLC板にスポットしてアセトン-ベンゼン(1:1)で展開し、イメージングプレートに15時間露出させ、イメージングアナライザーを用いて内部標準物質及び生成物の放射活性を測定する。ポジティブコントロールとして、公知のHMG-CoA還元酵素阻害剤であるロバスタチンを最終濃度100 nMとなるように添加し、阻害活性の指標とすることもできる。生成物の放射活性を内部標準物質の放射活性で補正した値が、被験物質を添加しないネガティブコントロールと比較して有意に低い場合、被験物質がHMG-CoA還元酵素を阻害する活性を有すると評価することができる。本発明は、後述のように、現在までに知られているHMG-CoA還元酵素阻害剤に共通するシスプラチン耐性がん細胞特異的な細胞傷害性を見出したことに基づくものであり、HMG-CoA還元酵素を阻害する活性を有する化合物であれば同様の細胞傷害性を有することが期待される。

【0013】
現在までに知られているHMG-CoA還元酵素阻害剤は、いずれも一般名の語尾がスタチンであることから、総称としてスタチン又はスタチン系阻害剤などとも呼ばれる。本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤としては、微生物由来の天然物質、それから誘導される半合成物質、及び全合成化合物のすべてが含まれ、例えば、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン(メバスタチン)、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、セリバスタチンなどが挙げられる。本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤は、好ましくは、シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及び/又はプラバスタチンである。

【0014】
HMG-CoA還元酵素阻害剤は、医薬上許容される塩の形態であってもよい。かかる医薬上許容される塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、及びN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、及びプロカインなどのアミンを挙げることができる。好ましくはアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩である。例えば、フルバスタチン及びプラバスタチンは、ナトリウム塩として使用することが好ましい。また例えば、アトルバスタチン及びピタバスタチンは、カルシウム塩として使用することが好ましい。

【0015】
HMG-CoA還元酵素阻害剤は、非溶媒和形態であってもよく、また水和物形態を含む溶媒和形態であってもよい。

【0016】
本発明において用いられるHMG-CoA還元酵素阻害剤は、2種以上を適宜の割合で組み合わせて用いてもよい。

【0017】
本発明において用いられるHMG-CoA還元酵素阻害剤は、自体公知の方法に従って製造することができる。また市販のHMG-CoA還元酵素阻害剤を用いてもよく、例えば、シンバスタチン(SIGMA S6196)、ロバスタチン(WAKO 125-04581)、コンパクチン(WAKO 033-17301)、フルバスタチンナトリウム(WAKO 069-05571)、アトルバスタチンカルシウム(WAKO 012-23901)、ピタバスタチンカルシウム(WAKO 012-23901)、プラバスタチンナトリウム(WAKO 163-24861)などを用いることができる。

【0018】
本発明において、「シスプラチン耐性がん(細胞)」は、シスプラチンに対する獲得耐性のがん(細胞)である。獲得耐性のがん(細胞)とは、当初はシスプラチンに感受性であったがシスプラチン治療を継続した結果、感受性が低下したがん(細胞)のことをいう。感受性低下の程度は特に限定されない。一態様において、シスプラチンを用いた化学療法による治療が有効でない(例えば、腫瘍組織量の低下や、成長阻害がみられない)がんをシスプラチン耐性がんとして分類することができる。そのような獲得耐性のがん細胞としては、例えば、前立腺がん細胞株PC3細胞から誘導されたシスプラチン耐性がん細胞株PCDP5細胞、子宮頸がん細胞株HeLa細胞から誘導されたシスプラチン耐性がん細胞株HCP4細胞などが挙げられるがこれらに限定されない。

【0019】
本発明において、がんは任意の種類のがんであってよく、固形がん[例えば、消化器がん(例えば、胃がん、食道がん、小腸がん、結腸がん、直腸がん、肛門がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん等)、泌尿器または生殖器のがん(例えば、腎がん、腎細胞がん、膀胱がん、前立腺がん、腎盂および尿管がん、胆嚢がん、胆管がん、精巣がん、陰茎がん、子宮がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、卵巣がん、卵管がん等)、脳・神経系のがん(例えば、脳腫瘍(グリオブラストーマ等)、脊髄腫瘍等)、頭頸部がん(例えば、喉頭がん、口腔がん、唾液腺がん、副鼻腔がん、甲状腺がん等)、呼吸器系のがん(例えば、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、転移性肺がんを含む)、気管支がん等)、乳がん、皮膚がん(例えば、悪性黒色腫等)、骨のがん(例えば、骨肉腫等)、筋肉のがん(例えば、横紋筋肉腫等)等]、血液がん[例えば、骨髄腫、白血病、リンパ腫等]等を挙げることができるが、好ましくは、前立腺がん又は子宮頸がんである。

【0020】
シスプラチン耐性がん細胞は、哺乳動物由来の細胞であれば特に限定されない。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類及びウサギなどの実験動物、イヌ及びネコなどのペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ及びヒツジなどの家畜、サル、オランウータン及びチンパンジーなどの霊長類並びにヒトなどが挙げられ、特にヒトが好ましい。

【0021】
本発明の剤は、シスプラチン耐性がん細胞に対する細胞傷害性を有する。本明細書中、「細胞傷害性」とは、標的細胞の生存率を低下させる作用を意味する。生存率は、自体公知の方法により測定でき、例えば、後述の実施例に示すような、単離された細胞株を対象として、細胞内にあるミトコンドリアの脱水素酵素によって還元されて水溶性フォルマザン色素に変換されるWST-8を用いるアッセイにより測定することができる。

【0022】
好ましい態様において、本発明の剤が有する細胞傷害性はシスプラチン耐性がん細胞特異的である。「シスプラチン耐性がん細胞特異的な細胞傷害性」とは、シスプラチン耐性がん細胞に対する細胞傷害性が、当該シスプラチン耐性がん細胞の親株であって、シスプラチン治療によりシスプラチン耐性を獲得する前の段階のシスプラチン感受性がん細胞に対する細胞傷害性よりも強いことをいう。

【0023】
本発明の剤は、シスプラチン耐性がん細胞に対して強い細胞傷害性を有するため、シスプラチン耐性がんの治療に使用することができる。即ち、本発明の剤を、シスプラチン耐性がん治療剤とすることができる。

【0024】
本発明の剤を個体に投与する場合、その投与対象は、シスプラチン耐性がんを有する哺乳動物である。がんとしては、上述のがんが挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは実験動物(例えば、マウス)又は霊長類(例えば、ヒト)であり、より好ましくはヒトである。

【0025】
本発明の剤の投与量は、その有効成分であるHMG-CoA還元酵素阻害剤の種類、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。

【0026】
本発明の剤は、HMG-CoA還元酵素阻害剤に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。

【0027】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム-グリコール-スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。

【0028】
本発明の剤の投与形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤などが例示される。

【0029】
本発明の剤は、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、外用剤の場合には、皮膚ないしは粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合には静脈内、筋肉内、皮内、皮下、関節腔内、腹腔内もしくは腫瘍組織内に投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。

【0030】
医薬組成物中のHMG-CoA還元酵素阻害剤の含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%である。

【0031】
本発明の剤は、他の抗癌剤と併用してもよい。抗癌剤としては、例えば、白金製剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等)、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN-オキシド、クロラムブシル等のナイトロジェンマスタード系アルキル化剤;カルボコン、チオテパ等のエチレンイミン誘導体;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン等のスルホン酸エステル類;塩酸ニムスチン等のニトロソウレア誘導体等)、抗癌性抗生物質(例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ピラルビシン、THP-アドリアマイシン、4’-エピドキソルビシン、エピルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤;クロモマイシンA、アクチノマイシンD等)、代謝拮抗剤(例えば、5-フルオロウラシル(5FU)、テガフール、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビン、ヒドロキシフリジン、ヒドロキシカルバミド、メトトレキサート、リン酸フルダラビン等のピリミジン代謝拮抗剤;6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、チオイノシン、塩酸ゲムシタビン等のプリン代謝拮抗剤等)、植物アルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン等のビンアルカロイド類;エトポシド、テニポシド等のエピポドフィロトキシン類;パクリタキセル、ドタキセル等のタキサン系アルカロイド等)、分子標的治療剤(例えば、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、バンデタニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ベバシツマブ等)等が挙げられる。本発明の剤は、これらの抗癌剤とは作用機序が異なる可能性が高いため、併用により、シスプラチン耐性がんに対してより高い治療効果が期待できる。

【0032】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
[方法及び材料]
使用細胞株
シスプラチン耐性がん細胞株及びその対照株として、前立腺がん細胞株PC3細胞とそのシスプラチン耐性株PCDP5細胞(鹿児島大学の中川昌之教授から譲り受けた(J Urol. 1993 Dec;150(6):1970-3.参照。))、並びに子宮頸がん細胞株HeLa細胞とそのシスプラチン耐性株HCP4細胞(鹿児島大学の秋山伸一教授から譲り受けた(Jpn J Cancer Res. 1994 Apr;85(4):426-33.参照。尚、前記文献中、HeLa細胞及びHCP4細胞は、それぞれKB細胞及びKCP4細胞と表記されている。))を使用した。
尚、PC3細胞、PCDP5細胞、HeLa細胞及びHCP4細胞の生存率に関するシスプラチンの50%阻害濃度は(IC50)は以下の通りである。
PC3: 1.92 μM
PCDP5: 16.8 μM(8.8倍耐性)
HeLa: 0.46 μM
HCP4: 22.5 μM(49倍耐性)
【実施例】
【0034】
オキサリプラチン耐性がん細胞株及びその対照株として、結腸がん細胞株DLD1細胞とそのオキサリプラチン耐性株DLD1 OX1細胞、DLD1 OX2細胞、DLD1 OX3細胞及びDLD1 OX4細胞、並びに結腸がん細胞株Caco2細胞とそのオキサリプラチン耐性株Caco2 OX1細胞、Caco2 OX2細胞、Caco2 OX3細胞及びCaco2 OX4細胞を使用した。DLD1細胞及びCaco2細胞は、九州大学の桑野信彦教授(現在は九州大学薬学部の特任教授)から譲り受けた。オキサリプラチン耐性株は、Cancer Sci. 2011 Feb;102(2):382-6に記載の方法により作製した。
【実施例】
【0035】
細胞の準備
PC3細胞とHeLa細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり1,000細胞まき、PCDP5細胞とHCP4細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり2,000細胞まいた。培地としては、Minimum Essential Medium(MEM)を使用した。播種後、96ウェルプレートを5%CO濃度、37℃の湿潤雰囲気中でインキュベートした。
DLD1細胞とそのオキサリプラチン耐性株並びにCaco2細胞とそのオキサリプラチン耐性株は、培地としてRPMIを使用したこと以外は、上記と同様にして培養した。
【実施例】
【0036】
薬剤による処理
インキュベーション終了後、培養培地を、下記各薬剤を下記最大濃度となるように添加した培地、これを1~9回3倍希釈することにより調製した培地、又は薬剤を含まない培地(各100μL)に交換し、更に72時間インキュベートした。
1)シンバスタチン(SIGMA S6196)、ロバスタチン(WAKO 125-04581)、コンパクチン(WAKO 033-17301)、フルバスタチンナトリウム(WAKO 069-05571)、アトルバスタチンカルシウム(WAKO 012-23901)及びピタバスタチンカルシウム(WAKO 012-23901):最大濃度100μM。
2)プラバスタチンナトリウム(WAKO 163-24861)及びケルセチン(SIGMA Q4951)(コントロール):最大濃度500μM。
【実施例】
【0037】
細胞生存率の測定
72時間インキュベーションした後、以下の手順でWST-8アッセイを行った。
各ウェルの培地を吸引して除去した後、培地で10倍に希釈したTetraColor ONE(コード番号;800560、生化学バイオビジネス株式会社)を100μLずつ加えた。2~4時間後にマイクロプレートリーダー(Bio-Radモデル550)で吸光度(450 nm)を測定した。細胞のないウェルにTetraColor ONEを加えたときの吸光度をバックグランドとした。
【実施例】
【0038】
グラフの作成
薬剤を含まない培地中でインキュベートしたウェルの吸光度を1として、各ウェルの吸光度から細胞の生存率を算出した。各濃度におけるデータは、4ウェルの平均値±SDを示す。
【実施例】
【0039】
[結果]
各種スタチン系阻害剤のシスプラチン耐性がん細胞株への細胞傷害性
シンバスタチン、ロバスタチン、コンパクチン、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタチンナトリウム及びケルセチンの結果を、それぞれ図1~8に示す。
シンバスタチンの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約7分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約15分の1の濃度に低下した。
ロバスタチンの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約530分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約29分の1の濃度に低下した。
コンパクチンの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約9分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約43分の1の濃度に低下した。
フルバスタチンナトリウムの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約11分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約13分の1の濃度に低下した。
アトルバスタチンカルシウムの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約3分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約9分の1の濃度に低下した。
ピタバスタチンカルシウムの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約2分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約23分の1の濃度に低下した。
プラバスタチンナトリウムの50%阻害濃度は、前立腺がん細胞株については、シスプラチン耐性のPCDP5細胞においてシスプラチン感受性の親株PC3細胞に比較して約3分の1の濃度に低下し、また子宮頸がん細胞株については、シスプラチン耐性のHCP4細胞においてシスプラチン感受性の親株HeLa細胞に比較して約5分の1の濃度に低下した。
一方、スタチン系阻害剤ではないケルセチンでは、シスプラチン耐性細胞株特異的な細胞傷害性は認められなかった。
以上の結果から、スタチンがシスプラチン感受性がん細胞株よりもシスプラチン耐性がん細胞株に対して高い抗がん作用(細胞傷害性)を有することが示された。
【実施例】
【0040】
シンバスタチンのオキサリプラチン耐性がん細胞株への細胞傷害性
シスプラチンと同じ白金製剤であるオキサリプラチンに対する耐性がん細胞株について、上記と同様にHMG-CoA還元酵素阻害剤の抗腫瘍効果を検討した。
シンバスタチンの結果を図9及び10に示す。
DLD1細胞を親株とするオキサリプラチン耐性がん細胞株は、シンバスタチンに対する感受性を示さなかった(図9)。
またCaco2細胞を親株とするオキサリプラチン耐性がん細胞株については、Caco2 OX4細胞では50%阻害濃度が親株の2.2分の1の濃度に低下したものの、他の耐性株のシンバスタチン感受性はそれ程高くなく、また株毎にばらつきが見られた(図10)。
以上の結果から、スタチンの抗がん作用(細胞傷害性)は、オキサリプラチン耐性がん細胞株に対しては、シスプラチン耐性がん細胞株ほどには高くないことが示された。即ち、スタチンがシスプラチン耐性がん細胞に対して特異的に細胞傷害性を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、シスプラチン耐性がんに対する新たな治療手段を提供することが可能となる。
【0042】
本出願は、2013年1月29日出願の日本国特許出願、特願2013-014459を基礎としており、その内容は全て本明細書に包含される。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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