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明細書 :麻酔深度測定法、麻酔深度測定装置及び使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年2月23日(2017.2.23)
発明の名称または考案の名称 麻酔深度測定法、麻酔深度測定装置及び使用
国際特許分類 A61B   5/0476      (2006.01)
FI A61B 5/04 322
A61B 5/04 320B
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 26
出願番号 特願2015-523969 (P2015-523969)
国際出願番号 PCT/JP2014/065545
国際公開番号 WO2014/208343
国際出願日 平成26年6月12日(2014.6.12)
国際公開日 平成26年12月31日(2014.12.31)
優先権出願番号 2013133871
2013199987
優先日 平成25年6月26日(2013.6.26)
平成25年9月26日(2013.9.26)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】林 和子
【氏名】佐和 貞治
出願人 【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C027
Fターム 4C027AA03
4C027FF01
4C027GG11
4C027GG13
要約 本発明は、ポワンカレプロット分布の長軸方向への先鋭度を定量化する工程、前記先鋭度に基づき脳波に含まれる乱雑性を評価して麻酔深度を判定する工程を含む、麻酔深度測定法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
ポワンカレプロット分布の長軸方向への先鋭度を定量化する工程、前記先鋭度に基づき脳波に含まれる乱雑性を評価して麻酔深度を判定する工程を含む、麻酔深度測定法。
【請求項2】
以下の工程を含む、麻酔深度測定法
(1)脳波計により全身麻酔患者の脳波を測定する工程
(2)前記脳波をフィルタリング処理とアナログ/デジタル変換して、脳波時系列信号を出力する工程(但し、アナログ/デジタル変換及びフィルタリング処理の順序は問わない)
(3)前記脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットする工程、
(4)前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位L1、変位L2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めるちらばり度算出工程、
(5)前記ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比に基づき、麻酔深度を判定する工程。
【請求項3】
前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)とである、請求項2に記載の麻酔深度測定法。
【請求項4】
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、前記ちらばり度算出工程は、前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出するL1・L2算出工程を含み、L1とL2の比(L1/L2もしくはL2/L1)に基づいて麻酔深度を判定する、請求項2又は3に記載の麻酔深度測定法
【数1】
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【請求項5】
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、前記ちらばり度算出工程は、前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出するL1・L2算出工程と
【数2】
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前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求めるSD1・SD2算出工程とを含み、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2であり、
SD1/SD2またはSD2/SD1に基づいて、麻酔深度を判定する、請求項2又は3に記載の麻酔深度測定法。
【請求項6】
前記SD1/SD2または前記SD2/SD1と他の麻酔深度の解析手段を組み合わせて前記麻酔深度を判定する、請求項5に記載の麻酔深度測定法。
【請求項7】
前記他の麻酔深度の解析手段が、前記脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段、又はこれらの解析手段の2種以上の組み合わせである、請求項6に記載の麻酔深度測定法。
【請求項8】
全身麻酔患者の脳波を測定する脳波計と、
前記脳波のアナログ/デジタル(A/D)変換手段と、
A/D変換後、またはA/D変換前の脳波をフィルタリング処理するフィルタリング手段と、
前記脳波をフィルタリング処理して得られる脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットし、
前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、
前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位V1、変位V2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めてちらばり度を算出する演算手段と、
前記ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比に基づき、麻酔深度を判定する麻酔深度判定手段と、
前記判定結果を表示する表示手段と、
を備えた麻酔深度測定装置。
【請求項9】
前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)とであって、
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、
前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出し、
【数3】
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前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求め、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2であり、
SD1/SD2またはSD2/SD1に基づいて、麻酔深度を判定する麻酔深度判定手段と、
を備えた請求項8に記載の麻酔深度測定装置。
【請求項10】
前記麻酔深度判定手段が、前記SD1/SD2または前記SD2/SD1と他の麻酔深度の解析手段を組み合わせて前記麻酔深度を判定する手段である、請求項9に記載の麻酔深度測定装置。
【請求項11】
前記他の麻酔深度の解析手段が、前記脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段、又はこれらの解析手段の2種以上の組み合わせである、請求項10に記載の麻酔深度測定装置。
【請求項12】
ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比の麻酔深度判定のための使用であって、脳波計により全身麻酔患者の脳波を測定し、
前記脳波をアナログ/デジタル変換後フィルタリング処理して脳波時系列信号を出力し、
前記脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットし、
前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、
前記2つの直交する軸に対応する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位L1、変位L2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めてちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比を算出することを含む、使用。
【請求項13】
前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸とであって、
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、
前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出し、
【数4】
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前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求め、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2である、
SD1/SD2またはSD2/SD1の麻酔深度判定のための請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記SD1/SD2または前記SD2/SD1を、脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段からなる群から選ばれる少なくとも1種と組み合わせて麻酔深度の判定を行う、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記SD1/SD2または前記SD2/SD1を麻酔深度の測定のためのアルゴリズムと組み合わせて麻酔深度の判定を行う、請求項13に記載の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、麻酔深度測定法、麻酔深度測定装置及び麻酔深度判定のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
麻酔法の進歩に伴い術中覚醒が社会的問題となり、BISモニター、Cerebral State Index、AEPモニターなどの脳波由来の麻酔鎮静モニターがガイドライン等で推奨され世界で使用されている。また、的確な麻酔深度を維持することは、術後の認知機能低下を防ぐ上でも有用であり、麻酔深度モニタリングはこのような術後の高次認知機能障害を予防する立場からも推奨される(非特許文献1,2)。
【0003】
一方で、これらのモニターは術中覚醒を防ぐには十分でなく、また有用性に懐疑的な報告が多くある(非特許文献3~8)。いずれのモニターも麻酔深度推定に長時間の脳波信号を要し解析に時間がかかるため遅延が生じ、リアルタイムに麻酔深度を感知できないことが主要な原因の一つである(非特許文献9~10)。例えばBISモニターは最短でも60秒以上の遅延が生じる。
【0004】
臨床では、麻酔薬濃度が一定に維持されているにもかかわらず、術操作に伴う侵害刺激が加わることで、突如、麻酔深度が相対的に浅くなる状況に多々遭遇する。このような術侵襲に伴う急激な麻酔深度の変化には、現存の麻酔モニターでは直ちに追随できず、これが術中覚醒の主要な原因の一つである。一方で術中覚醒がおきても30秒以上持続しなければ記憶に残らない(非特許文献4)ことが知られる。従って麻酔深度変化を遅延なく感知できれば、このような術中覚醒の問題の多くは回避できるはずである。今後の麻酔深度モニターは、深度変化に俊敏に遅延なく反応できる性能が求められる。
【0005】
Poincare plot(ポアンカレプロット)は、低次元の2次元状態空間での簡易な非線形解析法であり、従来心電図のRR間隔を用いた心拍変動解析、自律神経機能解析での研究には用いられている(特許文献1)
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4416249 号
【0007】

【非特許文献1】J Clin Monit Comput, 2009; 23; 369-90
【非特許文献2】PLoS One.2012;7(6):e37410)
【非特許文献3】Br J Anaesth 2009; 103: 394-9
【非特許文献4】Anesthesiology 2006; 104: 488-94
【非特許文献5】Anesthesiology 2013; 118: 1113-22
【非特許文献6】N Engl J Med 2008;358:1097-108
【非特許文献7】N Engl J Med 2011: 365: 591-600
【非特許文献8】Anesth Analg 2008; 107: 117-24
【非特許文献9】Br J Anaesth 2009;103:394-9
【非特許文献10】Anesth Analg. 2012; 115: 315-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のバイスペクトラル、スペクトラル解析や、聴覚誘発電位の解析とは異なる新しい方法で、非定常な状態や、短時間脳波信号からでも俊敏に算定できる麻酔深度測定法及び麻酔深度測定装置を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の麻酔深度測定法、麻酔深度測定装置及び麻酔深度判定のための使用を提供するものである。
項1. ポワンカレプロット分布の長軸方向への先鋭度を定量化する工程、前記先鋭度に基づき脳波に含まれる乱雑性を評価して麻酔深度を判定する工程を含む、麻酔深度測定法。
項2. 以下の工程を含む、麻酔深度測定法
(1)脳波計により全身麻酔患者の脳波を測定する工程
(2)前記脳波をフィルタリング処理とアナログ/デジタル変換して、脳波時系列信号を出力する工程(但し、アナログ/デジタル変換及びフィルタリング処理の順序は問わない)
(3)前記脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットする工程、
(4)前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位L1、変位L2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めるちらばり度算出工程、
(5)前記ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比に基づき、麻酔深度を判定する工程。
項3. 前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)とである、項2に記載の麻酔深度測定法。
項4. 前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、前記ちらばり度算出工程は、前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出するL1・L2算出工程を含み、L1とL2の比(L1/L2もしくはL2/L1)に基づいて麻酔深度を判定する、項2又は3に記載の麻酔深度測定法
【0010】
【数1】
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【0011】
項5. 前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、前記ちらばり度算出工程は、前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出するL1・L2算出工程と
【0012】
【数2】
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【0013】
前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求めるSD1・SD2算出工程とを含み、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2であり、
SD1/SD2またはSD2/SD1に基づいて、麻酔深度を判定する、項2又は3に記載の麻酔深度測定法。
項6. 前記SD1/SD2または前記SD2/SD1と他の麻酔深度の解析手段を組み合わせて前記麻酔深度を判定する、項5に記載の麻酔深度測定法。
項7. 前記他の麻酔深度の解析手段が、前記脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段、又はこれらの解析手段の2種以上の組み合わせである、項6に記載の麻酔深度測定法。
項8. 全身麻酔患者の脳波を測定する脳波計と、
前記脳波のアナログ/デジタル(A/D)変換手段と、
A/D変換後、またはA/D変換前の脳波をフィルタリング処理するフィルタリング手段と、
前記脳波をフィルタリング処理して得られる脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットし、
前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、
前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位V1、変位V2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めてちらばり度を算出する演算手段と、
前記ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比に基づき、麻酔深度を判定する麻酔深度判定手段と、
前記判定結果を表示する表示手段と、
を備えた麻酔深度測定装置。
項9. 前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)とであって、
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、
前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出し、
【0014】
【数3】
JP2014208343A1_000005t.gif

【0015】
前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求め、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2であり、
SD1/SD2またはSD2/SD1に基づいて、麻酔深度を判定する麻酔深度判定手段と、
を備えた項8に記載の麻酔深度測定装置。
項10. 前記麻酔深度判定手段が、前記SD1/SD2または前記SD2/SD1と他の麻酔深度の解析手段を組み合わせて前記麻酔深度を判定する手段である、項9に記載の麻酔深度測定装置。
項11. 前記他の麻酔深度の解析手段が、前記脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段、又はこれらの解析手段の2種以上の組み合わせである、項10に記載の麻酔深度測定装置。
項12. ちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比の麻酔深度判定のための使用であって、脳波計により全身麻酔患者の脳波を測定し、
前記脳波をアナログ/デジタル変換後、またはアナログ/デジタル変換前に、フィルタリング処理して脳波時系列信号を出力し、
前記脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットし、
前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、
前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位L1、変位L2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めてちらばり度V1と前記ちらばり度V2との比を算出することを含む、使用。
項13. 前記直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸とであって、
前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、
前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出し、
【0016】
【数4】
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【0017】
前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求め、
前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2である、
SD1/SD2またはSD2/SD1の麻酔深度判定のための項12に記載の使用。
項14. 前記SD1/SD2または前記SD2/SD1を、脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段からなる群から選ばれる少なくとも1種と組み合わせて麻酔深度の判定を行う、項13に記載の使用。
項15. 前記SD1/SD2または前記SD2/SD1を麻酔深度の測定のためのアルゴリズムと組み合わせて麻酔深度の判定を行う、項13に記載の使用。
【発明の効果】
【0018】
脳波信号(4 sec. 及び10 sec.)のポワンカレプロットの描出パターンをちらばり度V1とちらばり度V2の比で定量化したところ、いずれも吸入麻酔薬濃度に応じた変化を示すことがわかった。更に、ちらばり度V1とちらばり度V2の比は、脳波のパワースペクトル解析におけるδ帯域低周波成分とβ帯域高周波成分の比率(δ/β)とも高い相関をもつことも明らかになった。麻酔深度が深まると、脳波上δ帯域低周波成分が増大しβ帯域高周波成分が減少することが知られている。これらより、前頭誘導脳波のポワンカレプロット定量化指標(V1とV2の比)が麻酔深度測定に有用であることがわかる。本法は、秒単位の短時間の時系列信号から容易に実現できる方法であり、リアルタイム麻酔深度モニタリングとしての臨床応用が期待できる。
【0019】
本発明は、新しい非線形法を脳波深度解析に用いることで、脳活動の急な変化にも対応でき、また解析に必要な脳波信号も短く秒単位である。従って、迅速に反応する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ランダム信号とランダム信号に線形関係成分を含有した信号のポアンカレプロットのシミュレーション。
【図2】脳波のポワンカレプロットとその定量化
【図3】脳波収集の概要図
【図4】ポアンカレプロット定量化のための説明図
【図5】実施例1のポアンカレプロットを示す。
【図6】実施例2のSD1/SD2の結果を示す。
【図7】脳波ポワンカレ定量化指標(SD1/SD2)とパワースペクトルの関係を示す。
【図8】遅延時間がポワンカレプロット(SD1/SD2指標)に及ぼす影響を示す。
【図9】(A)深麻酔時(セボフルラン吸入麻酔濃度3%)の脳波解析例、(B)浅麻酔時(セボフルラン吸入麻酔濃度3%から0.5%に変更約6分後)の脳波解析例
【図10】ポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)と麻酔深度指標(BIS, SEF95)との比較
【図11】SD1/SD2と30秒後のSEF95、BISとの関係(Point=158)
【図12】吸入セボフルラン濃度を0.5%から3%に上げて、再度0.5%に戻した時のポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)と麻酔深度指標(BIS, SEF95)との比較
【図13】麻酔をプロポフォール静脈麻酔薬で維持した時の麻酔覚醒前60分間の推移
【図14】本発明の麻酔深度測定法のフローチャート
【図15】10秒毎に同時採取したpoincare plotのSD1/SD2値とSEF95値 (51 cases, 32351 points) 青丸:プロポフォール(13 cases, 9059 points), 緑:デスフルラン(22 cases, 14805 points), オレンジ:セボフルラン(16cases, 8487 oiunts), 黒線: 全データへの回帰直線、赤線: 混合モデルの回帰直線
【図16】全データ(51 cases, 32,351 points)のSD1/SD2とSEF95の関係図とそのBland-Altman plot
【図17】propofol(A), desflurane(B) sevoflurane (C)それぞれの麻酔におけるSD1/SD2とSEF95の回帰分析とBland-Altman plot.
【図18】35歳女性のセボフルラン麻酔中の経過例
【図19】56歳男性のセボフルラン麻酔中の経過例
【発明を実施するための形態】
【0021】
現在、さまざまな手法を取り入れた麻酔深度計が開発され臨床使用されているが、術中覚醒を予防し適度な麻酔深度を維持する上で充分ではない。脳は複雑系、非線形システムであるので、その挙動をモニターする麻酔深度測定には、ダイナミックな信号を解析する非線形的多面的アプローチが有用である。ポワンカレプロットは、前提やモデルを必要とせずに、現時間信号と遅延時間信号とを対でプロットすることで、ダイナミックな信号を過去の履歴の枠組みの中で分析する非線形手法である。

【0022】
図1に示すように、ホワイトノイズなどのランダムな複雑な信号のポワンカレプロットは一般に卵丸状の分布を示すが、信号の乱雑度が低下するにつれて、細長い分布になる。脳波は覚醒時には無秩序でランダムであるが、麻酔を深めるに従って同期化して規則性を増す。このような麻酔深度を増すにつれて観察される脳波の乱雑度の低下は、脳波ポワンカレプロットパターンの先鋭度の増加として現れる。

【0023】
本発明の好ましい実施形態においては、ポワンカレプロット分布の長軸(y=x軸)方向への先鋭度を定量化することで脳波に含まれる乱雑性を評価し、麻酔深度を測定する。好ましい実施形態において、定量化は、ポワンカレプロット分布の長軸(y=x軸)方向のちらばり度をv2、短軸方向のちらばり度をv1、並びにその比(V1/V2)を用いる。ちらばり度は、長軸、短軸方向の標準偏差(SD2,SD1)、並びにその比(SD1/SD2)を用いるのが典型的であるが、ポワンカレプロット分布の中心から長軸、短軸方向への変位距離(L2, L1)、並びにその比(L1/L2)を用いることもできる。また、パターン分析の軸は、長軸、短軸方向に限らず、長軸、短軸方向のベクトル成分を含有するものなら定量化が可能である。例えば、X軸方向、Y軸方向のベクトルを用いて、(短軸, X軸方向), (長軸, X軸方向), (短軸, Y軸方向), (長軸, Y軸方向), ( X軸方向, Y軸方向) 等の変位の組み合わせ、並びにそれらの標準偏差の組み合わせ等を用いることもできる。

【0024】
このようにして、脳波ポワンカレプロット分布の長軸(y=x軸)方向への先鋭度をちらばり度として定量化することで、脳波信号の乱雑度の低下と線形度を計測し、麻酔深度を測定する。

【0025】
本発明において、脳波計は特に限定されず、通常使用されている脳波計を広く使用することができる。

【0026】
アナログ/デジタル変換(A/D変換)手段は特に限定されず、通常使用されているA/D変換を広く使用することができる。

【0027】
脳波のフィルタリングは、低周波と高周波の両方を遮断するのが好ましい。

【0028】
脳波のフィルタリング手段としては、高周波数通過フィルター、低周波数通過フィルターを使用することができる。

【0029】
A/D変換及びフィルタリング後の一定の周波数範囲の脳波電圧の信号は、パーソナルコンピュータ等の演算手段に出力される。演算手段は、2次元状態空間における脳波時系列信号と前記脳波時系列信号の遅延時系列信号を、ある時間での脳波電圧Axと前記ある時間から所定時間の遅延後の脳波電圧Ayのペア(Ax, Ay)でxy平面上にプロットし(ポアンカレプロット)、前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)を2つの直交する軸からの変位で定量化し、前記2つの直交する軸に対する前記ペア(Ax, Ay)のそれぞれの変位V1、変位V2に基づいて、前記ペア(Ax, Ay)の前記2つの直交する軸に対する距離に関係づけられた量であるちらばり度V1、ちらばり度V2をそれぞれ求めてちらばり度を算出する。ちらばり度V1、V2は、例えば以下のSD1、SD2として求めることができる。すなわち、前記xy平面上にプロットされた前記脳波電圧Ayの前記ペア(Ax, Ay)の2つの直交する軸は、前記xy平面上のそれぞれ長軸(式y=xで表される軸)と短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)とであって、前記変位L1を前記短軸方向の変位とし、前記変位L2を前記長軸方向の変位とし、前記変位L1と前記変位L2を以下の式に従い算出し、

【0030】
【数5】
JP2014208343A1_000007t.gif

【0031】
前記変位L1の標準偏差SD1と前記変位L2の標準偏差SD2とを求め、前記ちらばり度V1、前記ちらばり度V2は、それぞれ前記SD1または前記SD2である。

【0032】
さらに前記演算手段は、L1の標準偏差SD1とL2の標準偏差SD2、並びに、SD1/SD2比またはSD2/SD1比を算出する。SD1とSD2の比は、SD1/SD2とSD2/SD1のいずれを使用してもよいが、SD1/SD2を用いるとその対数がpower spectrumのβ/δ比と高い相関関係をもつので、解釈が便利である。演算手段としては、CPUが挙げられるが、これに限定されず任意の演算手段を用いることができる。

【0033】
V1とV2の比、例えばSD1とSD2の比の信号は麻酔深度判定手段に送られて、麻酔の深度を判定する。麻酔の深度は覚醒(例えば0)から最も深い麻酔(例えば100)までを連続的な数値で表してもよく、覚醒(1)、浅い麻酔2(覚醒の可能性有り)、適切な麻酔3、深い麻酔4(麻酔による副作用もしくは事故の可能性有り)などのように段階的に判定してもよい。判定結果の信号は表示手段に出力されて適切に麻酔深度を表示する。

【0034】
表示手段は麻酔の深度を視覚的(文字、色、光など)、聴覚的(音声、警告音など)に表示する。視覚的表示手段としてはディスプレイが挙げられ、聴覚的表示手段としてはスピーカー、音源チップ(例えばCPUなどの音源)などが挙げられる。

【0035】
本発明の演算手段は、Poincare plot(ポアンカレプロット)の分布分散パターンを2方向で定量化する。ポアンカレプロットは、低次元の2次元状態空間での簡易な非線形解析法であり、従来心電図のRR間隔を用いた心拍変動解析、自律神経機能解析での研究には用いられているが、これを脳波の時系列信号そのものに応用しその分布変動を定量化解析することで麻酔深度を測定する発想は現在にいたるまでない。

【0036】
本発明で麻酔深度が判定可能な麻酔薬は特に限定されず、全ての麻酔薬が適用対象である。例えば現在使用されている麻酔薬としては、セボフルラン、デスフルラン、イソフルラン、プロポフォール、ミダゾラム、ジアゼパム、デクスメデトミジンなどが挙げられる。これらの他に、今後開発される麻酔薬は全て本発明の麻酔深度の測定対象となる。

【0037】
本発明は、V1とV2の比、好ましくはSD1とSD2の比により麻酔深度を判定する。V1とV2の比、特にSD1とSD2の比は麻酔薬にかかわらず麻酔深度と相関するが、麻酔薬ごとに判定基準を決定しておくこともできる。

【0038】
全身麻酔中の脳内電気的活動は、状態空間内で周期性・準周期性の軌道をとることが予想され、より低次元空間での解析が有用と本発明者は考えた。そこで、ポワンカレプロットを用いて2次元状態空間で脳波時系列信号を解析し、麻酔深度測定を行う。即ち、脳波時系列信号をその遅延時系列信号とで、2次元状態空間にポワンカレプロットとして描出して、その分布形態を定量化することで、麻酔深度を測定する。

【0039】
図14は、本発明の麻酔深度測定法のフローチャートを示す図である。
以下、ちらばり度V1、ちらばり度V2としてSD1とSD2を使用して本発明をより詳細に説明する。

【0040】
ポワンカレプロット分布パターンは、プロット集団の短軸、長軸の2次元2方向のちらばりの比率を用いて定量的に解析する。即ち、短軸方向の変位L1の標準偏差(SD1:Standard Deviation)と長軸方向の変位L2の標準偏差SD2の比率を、SD1/SD2指標として定量化する(図2)。

【0041】
以下に、前頭部の脳波を測定して麻酔深度を予測する本発明の1つの好ましい実施形態について説明するが、本発明は後頭部、頭頂部、左右の側頭部など、任意の脳波を測定して実施することもできる。

【0042】
前頭部に脳波電極を装着して前頭誘導脳波を測定し、アナログ/デジタル変換、及びフィルタリング処置する。その脳波時系列信号をポアンカレプロットして、分布のSD1/SD2を算出することで定量化する。詳細を以下に記載する。

【0043】
1.脳波時系列信号の計測
前頭導出脳波を用いる場合の解析例を以下に述べる。脳波測定の電極配置の基準である国際10-20法に基づき、前頭誘導脳波を導出する。ここで、(Fp1:frontal montage), Cz:reference)とし、更に neutral electrode をFpzに装着する。脳波計により導出した前頭誘導脳波は、256Hzサンプリングしてアナログデジタル変換(A/D変換)後、0.5Hz以下の低周波成分と30Hz以上の高周波成分を高周波数通過フィルター、及び低周波数通過フィルターをもちいて除去し、0.5Hz-30Hz成分を抽出する。この脳波時系列信号を、ポワンカレ定量化解析に用いる(図3)。

【0044】
2.脳波出力信号のポワンカレ定量化解析
出力された脳波時系列信号を、その遅延時系列信号とで、2次元平面にポアンカレプロットする。即ち、
ある時系列信号: ( a, b, c, d, e, f, g, h, i, j……….. ) と、
その遅延時系列信号: ( a, b, c, d, e, f, g, h, i, j…….) との対で、
( a, b )、( b, c )、( c, d )、( d, e )、( e, f )、( f, g )….を順次、x-y平面上にプロットする。
遅延に用いる時間は、サンプリング間隔の1倍から数倍を選択する。2段階遅延させて解析する場合には、
( a, b, c, d, e, f, g, h, i, j……….. ) の時系列信号に対して
( a, b, c, d, e, f, g, h, i, j……….. )
の遅延時系列信号が得られ、この場合は ( a, c )、( b, d )、( c, e )、( d, f )、( e, g )、( f, h )….のペアを順次x-y平面上にプロットすることになる。

【0045】
このようにして、得られたポワンカレプロット分布パターンを定量的に解析するため、2方向でポワンカレ分布のちらばりを定量化する。定量化は、x軸とy軸との双方に45°の角度の直線(y=x)方向のちらばり(SD2)とそれに直角に交わる方向(SD1)の2方向で計測する。

【0046】
ポアンカレプロットは時間遅れをサンプリング間隔として設定した場合、ある時間での脳波電圧がAxであるなら、そのサンプリングの1点先(遅延後)の脳波電圧Ay とのペアで(Ax, Ay)でxy平面上にプロットされることになる。このようにして得た集団のx軸の平均(すなわち平均脳波電圧)をMxとすれば、ある点A(Ax, Ay)の集団内のちらばり具合は、長軸(式y=xで表される軸)、及び点M (Mx, Mx)を通り短軸(式y=xで表される軸に直交する軸)の2方向の変位として、距離L2及びL1で表される。

【0047】
L2、L1は、図4に表したように、正方形とその対角線の図形的性質から、以下の算出式で導かれる。

【0048】
【数6】
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【0049】
ポワンカレプロット分布パターンは、このちらばりの短軸方向の変位L1の標準偏差(SD1:Standard Deviation)と長軸方向の変位L2の標準偏差(SD2)の比率として、SD1/SD2で定量化できる。

【0050】
【数7】
JP2014208343A1_000009t.gif

【0051】
本発明は、SD1とSD2の比のみを用いて麻酔深度判定を行ってもよく、脳波の周波数解析、バイスペクトラル解析、スペクトラル解析、エントロピー解析、聴覚誘発電位による解析手段、これらの解析手段の2種以上をSD1/SD2比とさらに組み合わせて麻酔深度の判定を行ってもよい。例えばBISモニターは現在最も普及しているモニターであり、BISモニターとSD1/SD2比に基づく本発明の解析手段を組み合わせることで、または、BIS等のアルゴリズムに組み込むことで、より正確に麻酔深度を測定又は判定することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を図面を用いてより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
実施例1:脳波ポアンカレプロット定量化による麻酔深度評価の代表例
全身麻酔中の37歳女性の異なる4段階の麻酔深度(セボフルラン吸入麻酔0.5%, 1%, 2%, 3%)における前頭誘導脳波(10 sec.) とそのポワンカレプロット例を表示する。麻酔深度を増すにつれて、プロットは卵円型から長く伸びる形状に変化し、SD1/SD2は、0.133 (0.5%)、 0.110(1%)、0.077(2%)、0.048(3%)と、段階的に減少した。結果を図5に示す。
【実施例】
【0054】
実施例2:脳波ポワンカレ定量化指標(SD1/SD2)とセボフルラン吸入麻酔深度の関係
20名において、セボフルラン吸入麻酔濃度(0.5%, 1%, 2%, 3%)変化による4段階の麻酔深度を設定し、そのポワンカレプロットをSD1/SD2指標により定量化した。
【実施例】
【0055】
Repeated measures analysis of variance (ANOVA) , 及び Tukey multiple-comparison testにより、各麻酔深度変化に追従したSD1/SD2指標の有意な変化が認められている(図6、表1)。
【実施例】
【0056】
【表1】
JP2014208343A1_000010t.gif
【実施例】
【0057】
実施例3:脳波ポワンカレ定量化指標(SD1/SD2)とパワースペクトルの関係
20名の4段階麻酔深度(セボフルラン0.5%, 1%, 2%, 3%)において、SD1/SD2とパワースペクトルを同時に解析し、そのβ領域(13-3Hz)の周波数成分とδ領域(0.5-4Hz)の周波数成分のパワー比率を算出し、SD1/SD2値との関係を調べたところ、r=0.92の高い相関が認められ、SD1/SD2の麻酔深度測定法としての有用性が支持された(図7)。
【実施例】
【0058】
実施例4:遅延時間がポワンカレプロット(SD1/SD2指標)に及ぼす影響について
各麻酔レベルにおいて、ポワンカレプロットにおける時間遅れ座標の遅延時間をサンプリング時間の1~5倍まで変化させると、SD1が上昇し卵円状になる。しかし、遅延時間を5段階に変化させた時、どの麻酔レベルにおいてもSD1/SD2はほぼ比例的に変化した。従って、遅延時間が麻酔深度に依存するSD1/SD2の変化率に及ぼす影響が小さいことがわかる。このことから、時間遅れの設定はサンプリング時間の1-5倍の範囲ではポワンカレプロットの定量的評価にほとんど影響しないことが示唆された。図8は遅延がSD1/SD2値に及ぼす影響を示す。
(実施例1~4をまとめた論文: Kazuko Hayashi, Nobuhiro Mukai, Teiji Sawa. Poincare analysis of the electroencephalogram during sevoflurane anesthesia. Clinical NeuroPhysiology, 2014, in press、DOI information: 10.1016/j.clinph.2014.04.019.)
【実施例】
【0059】
実施例5
本実施例では、BIS専用の脳波電極を前額に装着してBISモニタリングを行うと同時に、導出される脳波を128Hzで収集後、ポアンカレプロット定量解析を施行し、BISモニターから得られる脳波指標(BIS, SEF95)との比較検討を施行した。
【実施例】
【0060】
BIS値は、脳波の周波数解析、バイスペクトル解析等を基に算出した値を、意識レベルに相関する臨床値として0-100までの数値に経験的統計的アルゴリズムにより人為的に当てはめた指標である。覚醒時には100に、深麻酔時には0に近づき、適度な深度の麻酔状態では、40-60とされる。しかし、BIS値は使用する麻酔薬の種類により鎮静度との解離がみられ(Br J Anaesth 2005; 94: 336-40)、また麻酔薬以外のさまざまな因子にも影響を受けることが知られる。
【実施例】
【0061】
SEF95は、全体のPower Spectrumの内、95% がその周波数以下に存在する周波数を指す。一般に麻酔が深くなると、SEF95値は小さくなり、麻酔深度を反映する生理的パラメータとして重用される。(Anesth Analg 2004; 98: 1336-40)
比較検討の結果、解析例より下記の点が示唆された。
1. ポアンカレプロット定量値(SD1/SD2)は、麻酔薬の種別に依らず、spectral edge frequency 95% (SEF95) と強い相関をもつ。
2. ポアンカレプロット定量値(SD1/SD2)は、麻酔深度変化に際して、BIS値やSEF95値より、数十秒、より早く反応する。
3. ポアンカレプロット定量値(SD1/SD2)は、BIS値が真の麻酔深度を反映していないと思える状況においても、安定して推移した。
以下に詳細を記述する。
【実施例】
【0062】
(方法)
現在汎用される麻酔深度計(BISモニター)を用いて全身麻酔中にBISモニタリングと同時に脳波を収集しポワンカレプロット解析を行い、ポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)とBIS値等の脳波深度指標との関係を調べた。
【実施例】
【0063】
BISモニターより導出した前頭誘導脳波を128Hzサンプリングでアナログデジタル変換(A/D変換)後、Artifactのチェックとbase line driftに対する補正を行い、この前処理脳波時系列信号を、ポワンカレ定量化解析に用いた。これらのポワンカレ定量化解析は、科学技術計算ソフトであるMATLAB ( The Language of Technical Computing, ver. 7.8.0.347 (R2009a) , The MathWorks TM, USA )を用い、収集脳波から自動的に施行した。
【実施例】
【0064】
実施例5のポワンカレプロット定量解析値SD1/SD2は、ポワンカレプロットの設定遅延時間と、導出脳波の構成が実施例1~4と異なるため、同じ麻酔深度でも実施例1~4のSD1/SD2計測値と異なる値を示す。今回はBISモニター用の脳波電極を用いており、脳波導出の基準電極の位置が異なるため、導出脳波自身の性状が異なる。また、今回BISモニターより収集した脳波のサンプリング周波数は128Hzであり、ポワンカレプロット解析における最少遅延時間は1/128秒となり、実施例1~4の設定遅延時間の1/256秒の2倍である。このため、ポワンカレプロットパターンは全体的により膨らんだ卵型に近い性状に近づき、同じ麻酔深度でもSD1/SD2計測値より大きい値となっている。
【実施例】
【0065】
1.自動解析の提示
以下にポワンカレプロットの自動解析例を示す。
提示例は、セボフルラン吸入麻酔濃度を3%から0.5%へ低下させた時の脳波変化のコンピュータ上の自動解析画面である。図9(A)は、セボフルラン吸入麻酔濃度が3%時の、図9(B)はセボフルラン吸入麻酔濃度の設定を3%から0.5%に低下後、約360秒(6分) 後の脳波解析を示した。それぞれ、上段に4秒の脳波信号が、左下にその4秒間の脳波信号のポワンカレプロットパターンと4秒間の脳波信号のポワンカレプロット定量値:SD1/SD2が描出されている。右下には、そのポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)の現在値までの推移が示される。深麻酔時(3%、図9(A))には、脳波信号はゆるやかな波を示し、そのポワンカレプロットは、細長い線状パターンとなる。浅麻酔時(0.5%、図9(B))には、脳波は細かな波で形成され、そのポワンカレプロットは、より膨らんだ楕円状のパターンに変化している。ポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)は、深麻酔時(3%)の0.12前後から浅麻酔時(0.5% )には0.3近くまで上昇する。その経過が、パソコンの画面上に秒単位で観察される。
【実施例】
【0066】
2. ポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)と麻酔深度指標(BIS, SEF95)との比較
<Sevoflurane吸入麻酔> セボフルラン全身麻酔時のBIS値とspectral edge frequency 95% (SEF95) の経時間的推移をポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)の推移と共に2症例において提示する。SD1/SD2値は5秒毎の計測値の2点の平均として過去10秒の脳波から10秒毎に算出し、BISモニターにおいて10秒間隔で更新されるBIS及びSEF95値と同じタイミングで比較した。
【実施例】
【0067】
(CASE1)吸入セボフルラン濃度を3%(深麻酔)から0.5%(浅麻酔)に低下させ、再度3%に戻した時の約27分間の推移を示す。時間軸の一目盛は2分間、計測値はともに5点の移動平均として示した。SD1/SD2は、BISやSSEF95よりも30-40秒程度早く推移し、麻酔深度変化に対して迅速に反応する傾向が明らかである(図10)。
【実施例】
【0068】
同症例におけるSD1/SD2値と30秒後のSEF95値、BIS値との関係を、この27分間の10秒毎のデータで示す(図11)。ポワンカレプロット定量値(SD1/SD2)は、BIS及びSEF95値と良好な相関が認められる。特にSD1/SD2は、30秒先のSEF95と強い相関を示し、SEF95の推移を先行することが示唆される。
【実施例】
【0069】
(CASE2)吸入セボフルラン濃度を0.5%から3%に上げて、再度0.5%に戻した時の約20分間の推移を図12に示す。ここでもSD1/SD2がBISやSEF95よりも数十秒早く反応している。
【実施例】
【0070】
<Propofol静脈麻酔>
(Case3) 麻酔をプロポフォール静脈麻酔薬で維持した時の麻酔覚醒前60分間の推移を図13に示す。覚醒の約50分前と約20分前にBIS値が一過性に上昇する期間が認められるが、SD1/SD2値は安定して推移した。一方、SD1/SD2はSEF95とは強い相関関係を認め、またより早期に反応する傾向を認めた(図13)。本症例は、SD1/SD2がBISよりも真の麻酔深度を反映する上で有用であることを証明するものではないが、脳波由来の生理的パラメータであるSEF95とは連動して推移しており、BISの欠陥を補うものとしての有用性も期待できる。
【実施例】
【0071】
実施例6:本発明の方法を用いたセボフルラン、デスフルラン、プロポフォール麻酔深度解析所見
本発明が特定の麻酔薬に限らず、吸入麻酔薬、静脈麻酔薬を含む複数の麻酔薬において適応できることを確認するため、3種の麻酔薬(計51症例、32351ポイント、吸入麻酔薬:セボフルラン:n=16、デスフルラン:n=22、及び静脈麻酔薬:プロポフォール:n=13)に関して、麻酔中のSD1/SD2と麻酔深度指標の一つであるSEF95(BISモニター由来のSEF95)との関係を回帰分析した。その結果、手術麻酔レベルでは浅麻酔から深麻酔に渡る広い範囲でR2=0.904の強い相関を認めた(図15)。(線形回帰式:eSEF95=61.9*SD1/SD2+1.3, R2=0.904, RMSE=0.899, p<0.0001)得られた線形回帰式を用いてSD1/SD2から推定した推定SEF95値(eSEF95)とSEF95のBland-Altman plot は、バイアスのない均一なパターンで、系統誤差を認めなかった(図16)。また各麻酔薬におけるSD1/SD2とSEF95の関係は、セボフルラン:R=0.916, デスフルラン:R2=0.903, プロポフォール:R2=0.899といずれも高い相関を示した(図17、表2)。これらから、本法が特定の麻酔薬に限らず複数の麻酔薬において、手術麻酔深度に応じた脳波の周波数変化を反映することが明らかとなった。より汎用性を有する麻酔深度モニタリングが可能であることを示唆する所見である。
【実施例】
【0072】
【表2】
JP2014208343A1_000011t.gif
【実施例】
【0073】
実施例7:本法解析値の安定性と変動に関しての検討
本発明の方法を用いて、5秒間の脳波から麻酔深度を測定する際の測定値の変動を、2症例に関して変動係数から検討した。
【実施例】
【0074】
麻酔中、5秒毎に5秒脳波から連続的にSD1/SD2(青色)とSEF95(茶色)を算出し、それらの30秒間の変動係数(CV:標準偏差/平均)を比較した。脳波は、0.5Hz未満、30Hz以上をフィルタリング除去して前処理したものを両者の検討に用いた。SEF95は、Hammingウインドウを適用したWelch 法によるクロスパワースペクトル密度から求めた(図18,図19)。
【実施例】
【0075】
各図の上段は、5秒毎のSD1/SD2(薄青色)、SEF95(薄茶色)である。10点(1分)の移動平均をそれぞれ濃青色(SD1/SD2)、濃茶色(SEF95)で示した。下段に、SD1/SD2(青色)とSEF95(薄茶)の6点(30秒)の変動係数を示した。全体的にSD1/SD2の変動係数はSEF95の変動係数より小さく、SD1/SD2の算出がスペクトラム解析に基づくSEF95の算出にくらべて安定しており、短時間脳波からでも可能であることを示唆する所見である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
18