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明細書 :生体染色剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年2月16日(2017.2.16)
発明の名称または考案の名称 生体染色剤
国際特許分類 G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/483       (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
FI G01N 33/48 P
G01N 33/48 M
G01N 33/483 C
G01N 33/50 Z
G01N 21/64 F
A61K 49/00 A
国際予備審査の請求
全頁数 73
出願番号 特願2015-508813 (P2015-508813)
国際出願番号 PCT/JP2014/059351
国際公開番号 WO2014/157703
国際出願日 平成26年3月28日(2014.3.28)
国際公開日 平成26年10月2日(2014.10.2)
優先権出願番号 2013074953
2013075150
2013075256
優先日 平成25年3月29日(2013.3.29)
平成25年3月29日(2013.3.29)
平成25年3月29日(2013.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】溝口 明
【氏名】藤原 武志
【氏名】田中 光司
【氏名】王 淑杰
【氏名】崔 煌植
【氏名】木村 一志
出願人 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100141977、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 勝
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G045
4C085
Fターム 2G043AA01
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043JA01
2G043KA09
2G043LA01
2G045AA24
2G045AA26
2G045AA29
2G045BA13
2G045BA14
2G045BB20
2G045BB25
2G045CB01
2G045CB02
2G045CB17
2G045DA36
2G045FA12
2G045FA16
2G045FA19
2G045FA29
2G045FB12
2G045GB01
2G045GC12
2G045GC15
2G045JA01
4C085HH11
4C085HH13
4C085KB52
4C085KB55
4C085LL18
要約 多光子レーザ顕微鏡下で観察するための生体染色剤であって、可食性の1又は複数の色素化合物を含んで成る生体染色剤。
特許請求の範囲 【請求項1】
多光子レーザ顕微鏡下で観察するための生体染色剤であって、可食性の1又は複数の色素化合物を含んで成る生体染色剤。
【請求項2】
前記色素化合物がタール系色素、イリドイド系色素、カロテノイド系色素、フラボノイド系色素、キノイド系色素及びベタライン系色素を含む蛍光色素化合物群から選択される、請求項1に記載の生体染色剤。
【請求項3】
前記タール系色素が赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号、赤色106号、緑色3号(ファストグリーンFCF)、赤色2号、赤色102号、青色2号(インジゴカルミン)、黄色4号(タートラジン)又は黄色5号(サンセットイエローFCF)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項4】
前記イリドイド系色素がハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)又はハイブルーAT(クチナシ青色素:ゲニポシド)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項5】
前記カロテノイド系色素が、ハイメロンP-2(黄色素:クロシン)、アナトール(アンナットーN2R25、紅の木の実:ビキシン、ノルビキシン)、ハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)、クロシンG150(クチナシ黄色素)、クロシンL(クチナシ黄色素)、βカロテン又はアンナットーWA-20(アナトール色素べにの木の種子:ノルビキシン)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項6】
前記フラボノイド系色素が、ハイレッドG150(ブドウ果皮色素、アントシアニン)、ハイレッドRA200(赤大根色素:ペラルゴニジンアシルグリコシド)、ハイレッドV80(紫芋色素:シアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンアシルグルコシド)、アピゲニニジン(コウリャン色素)、シアニジン、デルフィニジン(ナス色素)、フィセチニジン(モリシマアカシア色素)、マルビジン(青いスイートピー色素)、ペラルゴニジン、ロビネチニジン(ニセアカシアの木色素)、トリセチニジン(紅茶色素)、ペツニジン(レッドベリー色素)、カプサンチン(トウガラシ色素)、エピガロカテキンガレート、緑茶、サフラワーY1500(ベニバナ色素、サフロミンA+B)、クルクミン、スルフレチン、ミリセチン(ブドウ、玉ねぎ色素)又はクェルセチン(玉ねぎ、柑橘類色素)である、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
前記キノイド系色素がコチニール(コチニールレッドAL、カルミン酸)又はハイレッドS(ラック色素・ラッカイン酸)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項8】
前記ベタライン系色素がハイレッドBL(赤ビート色素:ベタニン、イソベタニン)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項9】
前記蛍光色素化合物がインドシアニングリーン又はジンゲロール(ショウガ辛み成分)である、請求項2に記載の生体染色剤。
【請求項10】
管腔の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞を染色するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の生体染色剤。
【請求項11】
前記細胞が癌細胞である、請求項10に記載の生体染色剤。
【請求項12】
前記色素化合物が700nm以上の多光子レーザで励起される、請求項1~11のいずれか1項に記載の生体染色剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の生体染色剤を用いて、被験者より得られた細胞又は培養細胞を観察する方法であって、
1)当該細胞に当該生体染色剤を適用し、
2)多光子レーザ顕微鏡下で当該細胞を観察すること、
を含んで成る、方法。
【請求項14】
3)前記細胞間の染色性の差異に基づき正常細胞と癌細胞とを識別すること、を更に含んで成る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
多光子レーザ顕微鏡下での観察により生体染色剤の細胞染色特性を評価する方法であって、
a)癌細胞と正常細胞とを混合し、
b)前記混合物をコンフルエント又は亜コンフルエントな状態になるまで培養し、
c)評価すべき染色剤を前記培養物に適用し、
d)前記染色剤が
i)癌細胞を特異的に染色するか、又は
ii)正常細胞を特異的に染色するか、又は
iii)癌細胞も正常細胞もいずれも染色するか
を判定する、
ことを含んでなる方法。
【請求項16】
前記工程b)において、前記混合物を癌細胞が優先的に増殖する条件下でコンフルエント又は亜コンフルエントな状態になるまで培養する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記癌細胞がRasV12を発現するイヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK-RasV12)であり、テトラサイクリンの添加により該癌細胞の優先的な増殖が図れる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
癌細胞が特異的に染色されるか否かを評価するため、
癌細胞をレポーター遺伝子で標識し、レポーター遺伝子の発現と、染色剤による染色とを対比させることを行うことを含む、
請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記レポーター遺伝子がGFP遺伝子である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤であって、メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、メルブロミン、ファストグリーンFCF、赤色3号(エリスロシン)及び赤色104号から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤。
【請求項21】
多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色する染色剤であって、ミトキサントロン二塩酸塩及びドキソルビシン塩酸塩から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤。
【請求項22】
多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤であって、ピルビニウムパモエート、シカゴスカイブルー6B,ローズベンガルナトリウム塩、アシッドレッド及びハイレッドV80(ムラサキイモ色素)から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤。
【請求項23】
多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤であって、メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、メルブロミン、ファストグリーンFCF、赤色3号(エリスロシン)及び赤色104号から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤と、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤であって、ピルビニウムパモエート、シカゴスカイブルー6B,ローズベンガルナトリウム塩、アシッドレッド及びハイレッドV80(ムラサキイモ色素)から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤との混合物を含んでなる、細胞染色剤。
【請求項24】
前記細胞染色剤が染色剤の総濃度において0.1μM~10μMの濃度で使用される、請求項20~23のいずれか1項記載の細胞染色剤。
【請求項25】
粘膜除去剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、香料及び/又は粘着剤の中かから選択される1または複数をさらに含有する、請求項20~24のいずれか1項記載の細胞染色剤。
【請求項26】
前記細胞が管腔の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞である、請求項20~25のいずれか1項記載の細胞染色剤。
【請求項27】
前記色素化合物が700nm以上の多光子レーザで励起される、請求項20~26のいずれか1項記載の細胞染色剤。
【請求項28】
請求項20~27のいずれか1項に記載の細胞染色剤を用いて、被験者より得られた細胞又は培養細胞における癌を検出する方法であって、
1)当該細胞に当該癌細胞染色剤を適用し、
2)多光子レーザ顕微鏡下で、染色性の差異に基づき正常細胞と癌細胞とを識別すること、を含んで成る方法。
【請求項29】
3)前記癌細胞を多光子レーザ照射により排除すること、を更に含んで成る、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記培養細胞がiPS細胞、ES細胞又はMUSE細胞から分化された細胞であることを特徴とする請求項28または29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
多光子レーザ顕微鏡下での観察により生体染色剤の多能性幹細胞由来細胞の染色特性を評価する方法であって、
評価すべき染色剤を多能性幹細胞由来の正常分化細胞と未分化細胞が混在した培養物に適用し、前記染色剤が
i)未分化細胞を特異的に染色するか、又は
ii)正常分化細胞を特異的に染色するか、又は
iii)正常分化細胞、未分化細胞のいずれも染色するか
を判定することを含んでなる方法。
【請求項32】
前記多能性幹細胞がiPS細胞、ES細胞又はMUSE細胞である、請求項31記載に記載の方法。
【請求項33】
多能性幹細胞由来の未分化細胞あるいは正常分化細胞が特異的に染色されるか否かを
評価するため、
多能性幹細胞にレポーター遺伝子を導入し、正常に分化した細胞にレポーター遺伝子
が発現するか、または未分化細胞にのみレポーター遺伝子が発現して、染色剤による染色とを対比させることを行うことを含む、請求項31又は32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記レポーター遺伝子がGFP遺伝子である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
当該未分化細胞が癌細胞であることを特徴とする請求項請求項31から33のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の生体染色剤及び当該染色剤を用いた細胞の観察方法、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の生体染色剤の選定、評価方法、該方法により選定された新規の細胞染色剤、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の腫瘍細胞染色剤及び当該染色剤を用いた腫瘍細胞の検出方法、並びに多光子吸収現象を用いて患者の組織の観察を行うと共に当該組織の一部を選択的に破壊するための多光子レーザ診断治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌診断では、様々な診断法が用いられており、近年では、内視鏡(ファイバースコープのような軟性鏡と気管支鏡のような硬性鏡の両者を含む)を用いて患部細胞を観察し、消化器系、呼吸器系、腎泌尿器系、子宮卵巣生殖器系、および脳脊髄神経系などの疾患や、特に腫瘍の癌細胞が存在するかを確認する非侵襲的な診断方法が開発されている。
【0003】
日本人の死亡原因として1981年に癌が脳卒中を抜いて以降、癌による死亡者数は増え続けている。そのため、癌死亡患者数の抑制は社会的に急務となっている。癌は発生後時間の経過とともに進行するため、その治療には早期発見が重要と考えられている。消化器癌の早期発見において、内視鏡検査は重要な役割を果たしている。
【0004】
乳癌の研究から明らかになったように、多くの癌は発生から6年後に直径5ミリ程度に達する。現行の内視鏡ではこの程度の大きさの癌を検出するのは極めて困難である。その後、7年目には直径10ミリほどの早期癌と呼ばれる状態となるが、この時点で検出できれば内科医による内視鏡を用いた粘膜切除手術により治療可能な場合が多い。しかしながら、かかる検出限界のため、内視鏡検査では7年プラスマイナス半年の時期に検診を受けられた患者の早期癌しか発見できない。
【0005】
このように、早期癌として発見可能な時期は限られている。その時期を過ぎて進行癌となった場合には内視鏡による治療は難しく、2期、3期の進行癌では外科医による癌切除開腹手術に頼らざるを得ない。更に癌が4期まで進行すると、癌は肝臓、肺、脳など消化管外の臓器に遠隔転移している可能性が高く、内科医による化学療法・放射線療法が必要になる。従って、内視鏡の癌発見性能が早期癌の発見率、延いては癌の治療可能性を決定すると言える。
【0006】
消化器官の病理組織診断において、病変を直接観察することができる内視鏡検査は重要な役割を果たしている。近年では、粘膜表層の毛細血管、粘膜微細模様を強調表示する狭帯域光観察(Narrow Band Imaging (NBI))(登録商標)内視鏡システムの開発により、微細病変の早期発見が実現されつつある。しかしながら、NBIでも個々の細胞を観察することはできず、病変の正確な診断には生検(バイオプシ)が必要とされる。
【0007】
そのため、生検組織診断は胃癌等の消化管疾患の診断において尚も重要な役割を果たしている。生検組織診断は、内視鏡検査により採取された問題部位の組織をヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)することで作成された標本を病理医師が組織診断することで行われる。しかしながら、生検は侵襲的な処置である上、費用も高額であり、診断結果を得るまでに10日程度かかるという問題がある。
【0008】
生体細胞を染色してその細胞画像から病気を診断する試みも長年提案されているが、使用する色素の安全性が問題になる。特に、新規な色素を開発するためには、候補色素が投与時に有害作用を示さないか否かを証明することが法的にも要求される。この安全性証明作業に、新規の色素化合物の場合、1化合物について最低10年の歳月と数十億円のコストが必要とされる。
【0009】
生体組織の深部を観察する方法として、特許文献1~3に記載のような多光子レーザ顕微鏡を用いた診断方法も提案されている。多光子レーザ顕微鏡では、多光子励起現象を利用して組織内部に超短パルスレーザ光を集光させ、集光位置において超短パルスレーザ光によって励起されて発せられる蛍光を観察する。多光子レーザ顕微鏡は、原理上、ピンポイント励起が可能であるので、超短パルスレーザを走査させつつ蛍光を検出し、画像処理を行うことで、高解像度の蛍光画像を取得することができる。
多光子レーザ顕微鏡による細胞内に存在するFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)の可視化は、細胞や分子の挙動を低浸襲的に解析することができることから、内視鏡技術への応用が期待されている。多光子レーザ顕微鏡によれば、730nm程度の波長で細胞内フラビンが可視化されるため、細胞を染色することなく自家蛍光画像を取得することができる(Rogart, J. N., et al., "Multiphoton imaging can be used for microscopic examination of intact human gastrointestinal mucosa ex vivo", Clin Gastroenterol Hepatol 2008 January; 6(1): 95-101)。しかしながら、多光子レーザ顕微鏡下で得られる画像は低コントラストである。また、多光子レーザの照射により生体内で紫外線が発生するため、DNA損傷の危険性からヒトへの応用は承認されていない。また、細胞の自家蛍光の強さは、臓器によって大きく異なり、自家蛍光の強い大腸などの消化管上皮細胞は、現在市販されている多光子レーザ顕微鏡を用いて細胞画像を可視化しうるが、自家蛍光が弱い卵巣上皮細胞や膀胱上皮細胞は、現在市販されている多光子レーザ顕微鏡を用いて細胞画像の可視化が困難である(Cruz, J., et al. BIOMEDICAL OPTICUS EXPRESS 1, 5, 1320-1330, 2010年)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開平10-186424号公報
【特許文献2】特開2008-286883号公報
【特許文献3】特開2010-8082号公報
【0011】

【非特許文献1】Rogart, J. N., et al., Clin Gastroenterol Hepatol 2008 January; 6(1): 95-101
【非特許文献2】Cruz, J., et al. BIOMEDICAL OPTICUS EXPRESS 2010, 1, 5, 1320-1330
【非特許文献3】Hogan, C., et al., Nat. Cell Biol., 2009, 11(4), 460-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
内視鏡(ファイバースコープのような軟性鏡と気管支鏡のような硬性鏡の両者を含む)検査による消化器系、呼吸器系、腎泌尿器系、子宮卵巣生殖器系、および脳脊髄神経系などの疾患の早期発見、延いては、社会的な急務とされる癌死亡患者数の抑制を早期に実現するために、本発明は、第一の観点において、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の生体染色剤及び当該染色剤を用いた細胞の観察方法を提供し、第二の観点において、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の生体染色剤の評価方法を提供し、第三の観点において、多光子レーザ顕微鏡下で使用される新規の腫瘍細胞染色剤及び当該染色剤を用いた腫瘍細胞の検出方法を提供する。
また、多光子レーザ顕微鏡では、高解像度の蛍光画像を取得することができ、早期癌段階の小さい癌細胞の発見が可能である。しかしながら、多光子レーザ顕微鏡で癌細胞や癌組織を発見しても、治療を行うことができず、治療には他の装置の利用や外科的処置が必要であり、早期癌のような小さい状態では、依然として治療時に癌細胞や癌組織の位置の特定に手間取る可能性が残る。
【0013】
よって、本発明のさらなる目的は、従来技術に存する問題を解消して、生体内の小さい癌組織の発見が容易であり且つ発見された癌組織の除去も可能である診断治療装置を提供することにある。
したがって、本発明は、第四の観点において、多光子吸収現象を用いて患者の組織の観察を行うと共に当該組織の一部を選択的に破壊するための多光子レーザ診断治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第一の観点において、本発明者らは、数多くの自然色素又は人工合成色素のうち、ヒトへの経口投与が認可されている食品着色用色素に注目した。多数の色素の多光子レーザ蛍光発生活性と細胞染色性を検討した結果、多光子レーザ顕微鏡下で細胞組織形態を高コントラストかつ高解像度で画像化し得るものが多数見出され、本発明が完成するに至った。
【0015】
第一の態様において、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための生体染色剤であって、可食性の1又は複数の色素化合物を含んで成る生体染色剤を提供する。色素化合物は、タール系色素(赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号、赤色106号、緑色3号(ファストグリーンFCF)、赤色2号、赤色102号、青色2号(インジゴカルミン)、黄色4号(タートラジン)、黄色5号(サンセットイエローFCF)等)、イリドイド系色素(ハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)、ハイブルーAT(クチナシ青色素:ゲニポシド)等)、カロテノイド系色素(ハイメロンP-2(黄色素:クロシン)、アナトール(アンナットーN2R25、紅の木の実:ビキシン、ノルビキシン)、ハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)、クロシンG150(クチナシ黄色素)、クロシンL(クチナシ黄色素)、βカロテン、アンナットーWA-20(アナトール色素べにの木の種子:ノルビキシン)等)、フラボノイド系色素(ハイレッドG150(ブドウ果皮色素、アントシアニン)、ハイレッドRA200(赤大根色素:ペラルゴニジンアシルグリコシド)、ハイレッドV80(紫芋色素:シアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンアシルグルコシド)、アピゲニニジン(コウリャン色素)、シアニジン、デルフィニジン(ナス色素)、フィセチニジン(モリシマアカシア色素)、マルビジン(青いスイートピー色素)、ペラルゴニジン、ロビネチニジン(ニセアカシアの木色素)、トリセチニジン(紅茶色素)、ペツニジン(レッドベリー色素)、カプサンチン(トウガラシ色素)、エピガロカテキンガレート、緑茶、サフラワーY1500(ベニバナ色素、サフロミンA+B)、クルクミン、スルフレチン、ミリセチン(ブドウ、玉ねぎ色素)又はクェルセチン(玉ねぎ、柑橘類色素))、キノイド系色素(コチニール(コチニールレッドAL、カルミン酸)、ハイレッドS(ラック色素・ラッカイン酸)等)、ベタライン系色素(ハイレッドBL(赤ビート色素:ベタニン、イソベタニン)等)、インドシアニングリーン及びジンゲロール(ショウガ辛み成分)を含む蛍光色素群から選択される。
【0016】
本発明の生体染色剤は、管腔の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞、好ましくは癌細胞を染色することができる。色素化合物は700nm以上、好ましくは800nm以上の長波長の多光子レーザで励起される。
【0017】
第二の態様において、本発明は上記生体染色剤を用いて、被験者の生体内および被験者の体外に取り出された細胞又は培養細胞を観察する方法であって、1)当該細胞に当該生体染色剤を適用し、2)多光子レーザ顕微鏡下で当該細胞を観察すること、を含んで成る、方法、を提供する。態様によっては、本発明の観察方法は、3)前記細胞間の染色性の差異に基づき正常細胞と癌細胞とを識別すること、を更に含んで成る。
第二の観点において、本発明者らは、癌細胞を優先的又は正常細胞を優先的、あるいは両者を同程度に染色する細胞染色特性を有する染色剤を効率よく評価、選定する方法の提供を課題に鋭意検討した結果、そのような染色剤の評価、選定方法を完成するに至った。そして、当該評価、選定方法を利用し、1200種類もの大量の食用染色剤の中から、上記細胞染色特性を有する染色剤を見出すに至った。
【0018】
第一の態様において、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下での観察により生体染色剤の細胞染色特性を評価する方法であって、a)癌細胞と正常細胞とが混在し、b)前記混在物をコンフルエント又は亜コンフルエントな状態になるまで培養し、c)評価すべき染色剤を前記培養物に適用し、d)前記染色剤がi)癌細胞を特異的に染色するか、又はii)正常細胞を特異的に染色するか、又はiii)癌細胞も正常細胞もいずれも染色するかを判定する、ことを含んでなる方法を提供する。好ましくは、前記工程b)において、前記混合物を癌細胞が優先的に増殖する条件下でコンフルエント又は亜コンフルエントな状態になるまで培養する。好ましくは、前記方法は、前記癌細胞がRasV12を発現するイヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK-RasV12)であり、テトラサイクリンの添加により当該癌細胞の優先的な増殖を図る。好ましくは、上記方法は、癌細胞が特異的に染色されるか否かを評価するため、癌細胞をレポーター遺伝子で標識し、レポーター遺伝子の発現と、染色剤による染色とを対比させるステップを含む。好ましくは、前記レポーター遺伝子がGFP遺伝子である。
【0019】
第二の態様において、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤であって、メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、メルブロミン、ファストグリーンFCF、赤色3号(エリスロシン)及び赤色104号から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色する染色剤であって、ミトキサントロン二塩酸塩及びドキソルビシン塩酸塩から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤を提供する。
【0021】
さらに本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤であって、ピルビニウムパモエート、シカゴスカイブルー6B,ローズベンガルナトリウム塩、アシッドレッド及びハイレッドV80(ムラサキイモ色素)から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤を提供する。
【0022】
さらに本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤であって、メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、メルブロミン、ファストグリーンFCF、赤色3号(エリスロシン)及び赤色104号から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤と、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤であって、ピルビニウムパモエート、シカゴスカイブルー6B,ローズベンガルナトリウム塩、アシッドレッド及びハイレッドV80(ムラサキイモ色素)から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤との混合物を含んでなる、細胞染色剤を提供する。
【0023】
好ましくは、前記細胞染色剤が染色剤の総濃度において0.1μM~10μMの濃度で使用される。好ましくは、上記細胞染色剤は等張化剤、pH調節剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、香料及び/又は粘着剤をさらに含有する。好ましくは、前記細胞が管腔の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞である。好ましくは、前記色素化合物が700nm以上の多光子レーザで励起される。
【0024】
第三の態様において、本発明は、上記細胞染色剤を用いて、被験者より得られた細胞又は培養細胞における癌を検出する方法であって、1)当該細胞に当該癌細胞染色剤を適用し、2)多光子レーザ顕微鏡下で、染色性の差異に基づき正常細胞と癌細胞とを識別すること、を含んで成る方法を提供する。前記方法は、好ましくは、3)前記腫瘍細胞を多光子レーザ照射により排除すること、を更に含んで成る。
【0025】
第四の態様において、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下での観察により生体染色剤の多能性幹細胞由来細胞の染色特性を評価する方法であって、a) 評価すべき染色剤を多能性幹細胞由来の正常分化細胞と未分化細胞が混在した記培養物に適用し、b)前記染色剤がi)未分化細胞を特異的に染色するか、又はii)正常分化細胞を特異的に染色するか、又はiii)正常分化細胞、未分化細胞のいずれも染色するかを判定することを含んでなる方法を提供する。正常分化細胞と未分化細胞が混在した状態の上記培養物の培養は、培養混合物がコンフルエント又は亜コンフルエントな状態になるまで培養して、前記染色剤を適用してもよい。前記多能性幹細胞はiPS細胞、ES細胞又はMUSE細胞であってよい。好ましくは、前記方法は、多能性幹細胞が特異的に染色されるか否かを評価するため、多能性幹細胞をレポーター遺伝子で標識し、レポーター遺伝子の発現と、染色剤による染色とを対比させることを行うことを含む。好ましくは、前記レポーター遺伝子はGFP遺伝子である。当該未分化細胞が癌細胞であってよい。
【0026】
第三の観点において、本発明者らは、数多くの自然色素又は人工合成色素のうち、ヒトへの経口投与が認可されている食品着色用色素等に注目した。多数の色素について多光子レーザ蛍光発生活性と細胞染色性を検討した結果、特定の色素が多光子レーザ顕微鏡下で、正常細胞と腫瘍細胞とを識別可能な程度に細胞組織形態を高コントラストかつ高解像度で画像化するとの知見が得られ、本発明が完成するに至った。
【0027】
従って、第一の態様において、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための腫瘍細胞染色剤であって、クルクミン、スルフレチン、エリスロシン、エピガロカテキンガラート及びアシッドレッドから成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る腫瘍細胞染色剤を提供する。本発明の染色剤は、管腔の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞を染色することができる。上記色素化合物は700nm以上、好ましくは800nm以上の長波長の多光子レーザで励起される。
【0028】
第二の態様において、本発明は上記腫瘍細胞染色剤を用いて、被験者の生体内および被験者の体外に取り出された細胞又は培養細胞における腫瘍を検出する方法であって、1)当該細胞に当該腫瘍細胞染色剤を適用し、2)多光子レーザ顕微鏡下で、染色性の差異に基づき正常細胞と腫瘍細胞とを識別すること、を含んで成る方法、を提供する。態様によっては、本発明の検出方法は、3)腫瘍細胞を多光子レーザ照射により排除すること、を更に含んで成る。
【0029】
多光子レーザ顕微鏡では、高解像度の蛍光画像を取得することができ、早期癌段階の小さい癌細胞の発見が可能である。しかしながら、多光子レーザ顕微鏡で癌細胞や癌組織を発見しても、治療を行うことができず、治療には他の装置の利用や外科的処置が必要であり、早期癌のような小さい状態では、依然として治療時に癌細胞や癌組織の位置の特定に手間取る可能性が残る。よって、従来技術に存する問題を解消して、生体内の小さい癌組織の発見が容易であり且つ発見された癌組織の除去も可能である診断治療装置を提供することが所望される。
従って、第四の観点において、本発明は、上記目的に鑑み、多光子吸収現象を用いて患者の組織の観察を行うと共に当該組織の一部を選択的に破壊するための多光子レーザ診断治療装置であって、周波数及び出力を調整可能なパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源からのパルスレーザ光を前記組織における集光位置に照射する光学系と、前記集光位置を変位させる集光位置変位装置と、前記パルスレーザ光の照射により前記組織から発せられた蛍光を検出する光検出器と、前記集光位置変位装置から得た前記集光位置を表すパラメータと前記光検出器によって検出された蛍光の強度とを対応付けて処理することにより前記組織の蛍光画像を生成する蛍光画像生成装置と、制御装置とを備え、ここで前記光学系の周囲は筒状のシールド部材で覆われ、該シールド部材は観察すべき組織の周辺と圧着することで該光学系を封入する空間を形成し、該シールド部材は該空間内の圧力を調節するための通気口を備え、前記制御装置が、前記パルスレーザ光の強度を設定するパルス光強度設定部と、前記蛍光画像上で前記パルスレーザ光の照射範囲を設定する照射範囲設定部と、前記パルスレーザ光の照射時間を設定する照射時間設定部とを含み、前記パルス光強度設定部によって定められた強度の前記パルスレーザ光を前記照射時間設定部によって定められた時間だけ前記照射範囲設定部によって定められた座標範囲に前記集光位置変位部によって走査させながら照射させ、前記パルスレーザ光のエネルギにより前記照射範囲設定部によって定められた照射範囲の前記組織の細胞を選択的に破壊させるようにした多光子レーザ診断治療装置を提供する。
前記シールド部材は前記空間内に液体を供給及び排液するための給液口及び排液口をさらに備えてよく、ここで当該給液口及び排液口は同一のものでも異なるものであってよく、さらに当該給液口及び排液口は前記吸気口及び排気口を兼ねていてもよい。好ましくは、前記液体が組織を染色するための染色剤を含む染色液及び該染色液を洗浄するための洗浄液である。
【0030】
上記多光子レーザ診断治療装置では、レーザ光源からのパルスレーザ光を光学系により患者の組織に照射し、多光子吸収現象によりパルスレーザ光で励起される蛍光を光検出器で検出することにより、蛍光画像生成装置によって患者の組織の蛍光画像を生成する。特に、多光子励起は原理上ピンポイントで起こるので、高解像度の蛍光画像が得られる。医師は、この高解像度の蛍光画像に基づいて、診断を行い、癌組織の部位を特定することができる。また、蛍光画像は、集光位置変位装置から得た集光位置を表すパラメータ(すなわち座標)と集光位置の組織から発せられた蛍光の強度とを関連付けて処理したものであり、蛍光画像上の各座標点と集光位置変位装置の設定とは一対一で対応させることができ、蛍光画像上の各座標点に対応する患者組織上の点にパルスレーザ光の集光位置を変位させる設定を再現することができる。したがって、生成された蛍光画像上で制御装置の照射範囲設定部により癌組織の部位をパルスレーザの照射範囲として設定し、制御装置のパルス光強度設定部及び照射時間設定部によってパルスレーザ光の強度及び照射時間を癌細胞の破壊に十分な値に設定して、パルスレーザ光の照射を設定した照射範囲に行えば、蛍光画像上で指定した照射範囲を利用して正確に癌組織を多光子吸収現象により選択的に破壊し、治療することができる。さらに、多光子励起は原理上ピンポイントで起こり、細胞単位での癌組織の破壊が可能であるので、最低限の範囲で癌組織を破壊することができる。したがって、癌細胞の破壊時に患者の負担を最小限に抑えることができる。
【0031】
前記組織は、表面に染色剤を塗布することによって染色された組織であり、前記蛍光画像生成装置は、前記染色された組織からの蛍光に基づいて蛍光画像を生成することが好ましい。
【0032】
また、前記集光位置変位装置が、前記パルスレーザ光の光軸に直交する二軸方向に前記パルスレーザ光を走査させる二次元走査部と、前記組織における前記レーザ光の集光位置の深さを調節するための集光深さ調節部とを含むことが好ましい。
【0033】
さらに、前記パルス強度設定部は、診断のためのパルスレーザ光強度を設定する診断用パルス強度設定部と、治療のためのパルスレーザ光強度を設定する治療用パルス強度設定部とを含むことが好ましい。この場合、前記診断用パルス強度設定部に設定されるパルスレーザ強度は、治療用パルス強度設定部に設定される強度の1/10以下であることがさらに好ましい。
【0034】
前記光学系は、前記パルスレーザ光を集光位置に集光するための対物レンズを含み、該対物レンズの開口数が1.0以上であることが好ましい。
【0035】
前記光学系と前記集光位置変位装置とがレーザ光照射ヘッド内に設けられており、多光子レーザ診断治療装置は、前記患者を固定するための患者固定台と、前記患者固定台と前記レーザ光照射ヘッドとを3軸方向に相対移動させる移動装置とをさらに備えてもよく、前記光学系が内視鏡内に設けられ、前記内視鏡を通して前記レーザ光源から前記組織にパルスレーザ光が照射されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0036】
多光子レーザ蛍光発生活性と細胞染色性について多数の経口摂取可能化合物を解析する過程で、各色素の正常細胞及び/又は癌細胞における染色パターンが、いくつかの染色特異性によって分類されることが見出された。従って、本発明によれば、癌と正常細胞の染色性の差異を利用して病変部を迅速に探し当て、細胞形態から粘膜病変の質(病名)を確定することができる。
【0037】
本発明の生体染色剤による染色法は、従来の自家蛍光観察法と比較して、画像診断に十分な画質の細胞画像取り込みに必要なレーザ光照射量を30分の1程度に抑制できるため(ヒ化ガリウム高感度フォトマルを使うと100分の1程度)、粘膜細胞の光障害を大幅に軽減することができ、また、レーザ励起波長を長波長側(800 nm 以上)に設定できるため、組織内における紫外線発生が抑制され、粘膜細胞のDNA損傷を軽減することができる。また、本発明の生体染色剤により可視化される画像は、蛍光色素の静脈内全身投与による共焦点レーザ顕微鏡画像や無染色自家蛍光による多光子レーザ顕微鏡画像のものと比べても十分高画質である。
【0038】
また、本発明の装置によれば、パルスレーザ光による多光子吸収現象を利用して高解像度の蛍光画像を取得して、癌診断を行うことができる。また、パルスレーザ光の強度及び照射時間を調整することにより、蛍光画像上で特定した領域の細胞を破壊し、発見された癌組織の除去を容易に且つ正確に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による多光子レーザ診断治療装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による多光子レーザ診断治療装置を示す全体構成図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による多光子レーザ診断治療装置を示す全体構成図である。
【図4】本発明の多光子レーザ診断治療装置の光学系がシールド部材で囲われた状態を示す。
【図5】光学系がシールド部材で囲われた内視鏡を示す。
【図6A】高コントラストの多光子レーザ画像を提供する色素化合物の染色パターンを示す顕微鏡写真である。
【図6B】高コントラストの多光子レーザ画像を提供する色素化合物の染色パターンを示す顕微鏡写真である。
【図6C】高コントラストの多光子レーザ画像を提供する色素化合物の染色パターンを示す顕微鏡写真である。
【図6D】高コントラストの多光子レーザ画像を提供する色素化合物の染色パターンを示す顕微鏡写真である。
【図7A】クルクミンが上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図7B】スルフレチンが上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図8A】アナトールが結合組織・毛細血管系を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図8B】アナトール及びケルセチンが結合組織・毛細血管系を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図9A】赤色106号が上皮細胞・腺細胞系と結合組織・毛細血管系の両方を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図9B】緑色3号が上皮細胞・腺細胞系と結合組織・毛細血管系の両方を優先的に染色したことを示す顕微鏡写真である。
【図10】メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩が癌細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12陽性細胞は優先的に染色された。GFP-RasV12陽性細胞は、最小1個から数個の細胞集団まで染色された。
【図11】メタサイクリン塩酸塩が癌細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12陽性細胞は優先的に染色された。GFP-RasV12陽性細胞は、最小1個から数個の細胞集団まで染色された。
【図12】メルブロミンが癌細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12陽性細胞は優先的に染色された。GFP-RasV12陽性細胞は、最小1個から数個の細胞集団まで染色された。
【図13】ミトキサントロン二塩酸塩が癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12 細胞は特異的に染まらずに、正常の細胞が染まった。
【図14】ドキソルビシン塩酸塩が癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12 細胞は特異的に染まらずに、正常の細胞が染まった。
【図15】ピルビニウムパモエートが正常細胞と癌細胞を同等に染色することを示す。
【図16】シカゴスカイブルー6Bが正常細胞と癌細胞を同等に染色することを示す。白矢印:GFP-RasV12陽性細胞の細胞接着部位はChicago sky blue 6Bによって染色された。GFP-RasV12陽性細胞の一部は、細胞質が染色された。
【図17】ファストグリーンFCFが癌細胞を特異的に染色することを示す。
【図18】赤色3号(エリスロシン)が癌細胞を特異的に染色することを示す。GFP-RasV12陽性細胞は優先的に染色された。GFP-RasV12陽性細胞は、最小1個から数個の細胞集団まで染色された。少数の正常細胞も赤色104号染によって染色された。
【図19】赤色104号(プロキシン)が癌細胞を特異的に染色することを示す。白太矢印:すべてのGFP-RasV12陽性細胞は赤色104号によって染色されている。 GFP-RasV12陽性細胞は、最小1個から数個の細胞集団まで赤色104号によって染色された。癌細胞染色強度は、正常細胞染色強度の6.7倍である。白細矢印:少数の正常細胞も赤色104号染によって染色された。
【図20】ローズベンガルナトリウム塩が正常細胞と癌細胞を同等に染色することを示す。
【図21】アシッドレッドが正常細胞と癌細胞を同等に染色することを示す。
【図22A】ハイレッドV80(ムラサキイモ色素)が正常細胞と癌細胞を同等に染色することを示す。
【図22B】ハイレッドV80の構成成分シアニジンシアルグリコシドを示す。
【図22C】ハイレッドV80の構成成分ペオニジンシアルグリコシドを示す。
【図23】クルクミンで染色された正常大腸粘膜(a)と大腸癌腫瘍部(b)の多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図24】1%プロナーゼによる処理後にクルクミンで染色された正常大腸粘膜(a)と大腸癌腫瘍部(b)の多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図25】クルクミン染色された大腸癌の構造異型性(a)及び細胞異型性(b)を示す多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図26】クルクミン染色及びスルフレチン染色による高コントラストの多光子レーザ顕微鏡画像である。
【図27A】クルクミンにより優先的に染色された上皮細胞・腺細胞系の多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図27B】スルフレチンにより優先的に染色された上皮細胞・腺細胞系の多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図28A】2個の癌細胞だけをレーザ照射(パワー:45%;照射時間:2秒間)して排除した過程を示す多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図28B】10個の癌細胞だけをレーザ照射(パワー:45%;照射時間:10秒間)して排除した過程を示す多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図29】直径0.5ミリの癌をレーザ照射(パワー:100%;照射時間:20秒間)して排除した過程を示す多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図30】マウス膀胱上皮細胞の多光子レーザ顕微鏡写真であって、(a)がクルクミン染色していない細胞を82%のレーザパワーのもと撮影した写真であり(自家蛍光)、(b)がクルクミン染色した細胞を3%のレーザパワーのもと撮影した写真である。
【図31】マウス気管上皮細胞の多光子レーザ顕微鏡写真であって、(a)がクルクミン染色していない細胞を82%のレーザパワーのもと撮影した写真であり(自家蛍光)、(b)がクルクミン染色した細胞を3%のレーザパワーのもと撮影した写真である。
【図32】外科手術的に切除された新鮮な胃粘膜における正常胃粘膜部位(a)又は胃癌部位(b)を、クルクミン染色して、レーザパワーを1%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真である。
【図33】色素化合物の染色性評価ステップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<新規の生体染色剤>
本発明の生体染色剤は、食品添加物等として認可されている、可食性の天然(動物性又は植物性)又は合成の色素化合物を含む。本明細書で使用する場合、「可食性」とは、対象化合物の用途が本来食用であることを意図するものではなく、食品等に添加できるほどの安全性が担保されており、ヒトなどの管腔臓器を有する動物に適用可能であることを意味する。本発明における可食性の色素化合物は、例えば、タール系色素、特に食用タール系色素、イリドイド系色素、カロテノイド系色素、フラボノイド系色素(例えばカテキン類;アントシアニン類、特にアントシアニジン類;カルコン類;クルクミノイド類)、キノイド系色素、ベタライン系色素を含む蛍光色素化合物群から選択される。本発明における色素化合物は構造により以下のとおり分類することができる。

【0041】
1.タール系色素
タール系色素の例として、以下の化合物が挙げられる:
赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号、赤色106号(アシッドレッド)、緑色3号(ファストグリーンFCF)、赤色2号、赤色102号、青色2号(インジゴカルミン)、黄色4号(タートラジン)、黄色5号(サンセットイエローFCF)等。

【0042】
2.イリドイド系色素
イリドイド系色素の例として、以下の化合物が挙げられる:
ハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)、ハイブルーAT(クチナシ青色素:ゲニポシド)等。

【0043】
3.カロテノイド系色素
カロテノイド系色素の例として、以下の化合物が挙げられる:
ハイメロンP-2(黄色素:クロシン)、アナトール(アンナットーN2R25、紅の木の実:ビキシン、ノルビキシン)、ハイメロンP-2(クチナシ青:ゲニポシド)、クロシンG150(クチナシ黄色素)、クロシンL(クチナシ黄色素)、βカロテン、アンナットーWA-20(アナトール色素べにの木の種子:ノルビキシン)等。

【0044】
4.フラボノイド系色素
フラボノイド系色素の例として、アントシアニン類、特にアントシアニジン類、カテキン類、カルコン類、クルクミノイド類等がある。

【0045】
アントシアニン類の例として、以下の化合物が挙げられる:
ハイレッドG150(ブドウ果皮色素、アントシアニン)、ハイレッドRA200(赤大根色素:ペラルゴニジンアシルグリコシド)、ハイレッドV80(紫芋色素:シアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンアシルグルコシド)、アピゲニニジン(コウリャン色素)、シアニジン、デルフィニジン(ナス色素)、フィセチニジン(モリシマアカシア色素)、マルビジン(青いスイートピー色素)、ペラルゴニジン、ロビネチニジン(ニセアカシアの木色素)、トリセチニジン(紅茶色素)、ペツニジン(レッドベリー色素)、カプサンチン(トウガラシ色素)等。

【0046】
カテキン類の例として、エピガロカテキンガレート、緑茶等がある。

【0047】
カルコン類の例として、サフラワーY1500(ベニバナ色素、サフロミンA+B)等がある。

【0048】
クルクミノイド類の例として、クルクミン等がある。

【0049】
その他のフラボノイド系色素の例として、以下の化合物が挙げられる:
スルフレチン、ミリセチン(ブドウ、玉ねぎ色素)、クェルセチン(玉ねぎ、柑橘類色素)等。

【0050】
5.キノイド系色素
キノイド系色素の例として、以下の化合物が挙げられる:
コチニール(コチニールレッドAL、カルミン酸)、ハイレッドS(ラック色素・ラッカイン酸)等。

【0051】
6.ベタライン系色素
ベタライン系色素の例として、ハイレッドBL(赤ビート色素:ベタニン、イソベタニン)等がある。

【0052】
その他の蛍光色素化合物として、インドシアニングリーン、ジンゲロール(ショウガ辛み成分)等が挙げられる。

【0053】
本発明で使用する色素化合物はそれぞれ異なる染色性を有しているが、正常細胞に対する染色性から以下のように分類することができる。
1)多光子レーザにより強く励起され明るい生体細胞画像を提供する色素
クルクミン(ウコン等に由来)、スルフレチン、エピガロカテキンガラート、赤色3号(エリスロシン)、赤色106号、緑色3号、赤色2号、赤色102号、赤色104号(フロキシン)、青色2号、黄色4号、黄色5号、ハイメロン、アナトール、インドシアニングリーン、クチナシ黄色素、クロシン G-150、サフロミン、ハイブルー AT、フルオレッセイン、シアニジン(、デルフィニジン、フィセチニジン、ロビネチニジン、ペラルゴニジン、アピゲニニジン、マルビジン、βカロテン、赤105号、ハイレッドRA200、ハイレッドV80、ハイレッドBL、6-ギンゲオール、ケルセチン、ミリセチン、トリセニジン及びペツニジン。

【0054】
2)消化管等の管腔臓器を構成する特定の細胞構造を優先的に濃く染める色素
消化管粘膜の細胞構成は、食物が通る粘膜表面を覆う上皮細胞と上皮細胞がタコツボ状に陥入して粘液を分泌する腺細胞からなる細胞群(第一系列)と、上皮細胞や腺細胞の周囲を埋める毛細血管や結合組織細胞からなる細胞群(第二系列)に分類することができる。粘膜表面から対物レンズを近づけてゆくと、その焦点が粘膜表面に結ばれているときは上皮細胞が主に観察され、焦点が深部に結ばれると、腺細胞と結合組織・毛細血管が観察される。

【0055】
2-1)第一系列の細胞群を優先的に染色する色素
クルクミン(色素番号1番)、スルフレチン(色素番号2番)、エピガロカテキンガラート(色素番号3番)、赤色3号(エリスロシン)(色素番号4番)、赤色104号(フロキシン)(色素番号9番)、インドシアニングリーン(色素番号15番)、マルビジン(色素番号27番)、βカロテン(色素番号28番)、ハイレッドBL(色素番号32番)、6-ギンゲオール(色素番号33番)、ミリセチン(色素番号35番)、トリセニジン(色素番号36番)及びペツニジン(色素番号37番)。
これらの色素の中でも、クルクミンとスルフレチンは染色性が高く好ましい。

【0056】
2-2)第二系列の細胞群を優先的に染色する色素
アナトール(色素番号14番)、ケルセチン(色素番号34番)、青色2号(色素番号10番)、クチナシ黄色素(色素番号16番)、クロシン G-150(色素番号17番)、サフロミン(色素番号18番)、ロビネチニジン(色素番号24番)、ハイレッドV80(色素番号31番)及び色素番号34番のケルセチン(色素番号34番)。
これらの色素の中でも、アナトールとケルセチンは染色性が高く好ましい。

【0057】
2-3)第一系列及び第二系列の両方の細胞群を染色する色素
赤色106号(色素番号5番)は上皮細胞・腺細胞の細胞膜と結合組織・毛細血管系を強く染色する。また、緑色3号(色素番号6番)は一部の腺細胞と結合組織・毛細血管系を強く染色する。

【0058】
本発明の生体染色剤は、正常細胞のみならず癌細胞も染色することができる。例えば、クルクミン、スルフレチン、赤色3号(エリスロシン)などの多くの種類の色素は癌病変部の方を正常粘膜より濃く染色する。このような染色特異性を利用することで、病変部を迅速に探索することができる。尚、蛍光色素の静脈注射での投与による共焦点レーザ顕微鏡を用いた消化管粘膜細胞の画像化において、癌細胞が正常細胞より濃く染色されるという知見は本発明以前に存在していなかった。

【0059】
更に、病変部が癌細胞である場合、癌細胞は正常細胞と異なる形態特徴を有することから、形態の違いにより正常細胞と癌細胞とを区別することができる。具体的には、異型性は構造型(細胞集団が基底膜の上に整列して配列していない、腺構造を形成しない等)及び細胞異型(個々の細胞の大小が不同、核が大きくその位置が不均一、極性が不均一等)の二種類に分類される。現行の内視鏡では直径5ミリ程度の癌を検出することは困難であるが、細胞形態の画像化が可能な多光子レーザ顕微鏡下で本発明の生体染色剤を使用すれば、形態の違いに基づき、生検を行うことなく目視により早期に直径1ミリ程度の癌を検出することができる。癌が検出された場合、多光子レーザ照射により焼いて排除することもできる。

【0060】
生体染色に使用される色素化合物は上記化合物群から適宜選択される。本発明の生体染色剤は選択された色素化合物を単独又は複数種含んでもよい。異なる色素化合物を組み合わせることで、異なる染色パターンが得られる。各色素化合物の配合量は、生体染色剤中で色素化合物が沈殿せず、病理診断に必要な画像を取得できる限り特に限定されない。更に、色素化合物の濃度は被験者に及ぼす毒性を考慮して決定される。更に、色素化合物の濃度は生体染色剤中で沈殿しないように適宜調節され、例えば色素化合物は生体染色剤中に約0.01mg/ml~5mg/mlの範囲内、例えば約1mg/ml配合され得る。好ましくは、上記色素化合物は、0.1μM~10μMの濃度(モル濃度)で使用され得る。また、上記の色素化合物に加え、内視鏡検査等で従来から使用されているヨード等の公知の色素を更に含んでもよい。色素化合物は、常用の溶媒、例えばPBS、エタノール/グリセロール、DMSO等で溶解される。

【0061】
上記色素化合物は固有の蛍光発生活性を有しているが、いずれも700nm以上、好ましくは800nm以上の長波長の多光子レーザで励起される。励起光の観察は多光子レーザ顕微鏡下で行われるが、本明細書で使用する場合、「多光子レーザ顕微鏡」とは多光子励起過程を利用する蛍光顕微鏡を意味する。励起光が二光子の場合を例に説明すると、多光子励起過程とは、一光子励起と比較して波長が約2倍、すなわち、エネルギが1/2の光子を2つ、1つの蛍光分子が同時に吸収することで励起状態となる非線形光学現象である。そして、その励起状態からエネルギの低い安定した状態に戻る際、エネルギが蛍光として放出され、その蛍光強度を測定して高コントラストの画像が構築される。このような多光子励起は、光源として、パルス幅がフェムト秒オーダーで、かつピークパワーの大きなパルスレーザを用いることで強制的に行われる。本発明の生体染色剤は、二光子のみならず三光子などの多光子励起過程においても利用可能であり、使用する多光子レーザ顕微鏡は長波長のレーザを発生する機能を備えている限り特に限定されない。

【0062】
本発明の生体染色剤は、管腔、好ましくは消化器官の上皮細胞・腺細胞系及び/又は結合組織・毛細血管系の細胞を染色することができる。更に、本発明の生体染色剤は、in vitroでの細胞観察にも使用することができ、例えば、被験者から生検により得られた細胞、あるいは培養細胞(例えば、単層培養細胞)であってもよい。本明細書で使用する場合、用語「培養細胞」は、種々の幹細胞、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、MUSE細胞、組織幹細胞等の培養物を含む。本発明の観察方法によれば、これらの細胞を再生医療に応用する際に培養過程で発生する癌化細胞や未分化細胞を検出することもできる。

【0063】
生体染色剤の投与方法は特に限定されず、例えば、生体染色剤を内腔に直接適用又は粘膜下投与してもよく、あるいは経口的、経静脈的あるいは腹腔内に投与してもよい。生体染色剤の染色性が弱い場合、粘膜表面をプロナーゼで処理することにより粘液が除去され、細胞構造の視認性が向上する。管腔内壁に直接染色剤を適用(例えば塗布又は噴霧)する場合、剤形は液体であることが好ましいが、顆粒、錠剤等の形態でも使用することができる。また、剤形等に応じて適宜必要な追加成分、例えば等張化剤、pH調節剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、香料、又は粘着剤等の添加物を生体染色剤に配合することができる。例えば、本発明の生体染色剤に予めプロナーゼを配合してもよい。プロナーゼは粘膜除去剤として用いられる具体例である。前記した等張化剤の具体例としては塩化ナトリウムやグリセリン等、食品添加物として用いられるpH調節剤の具体例としてはクエン酸、グルコン酸、コハク酸、炭酸カリウム、乳酸等、安定化剤や増粘剤の具体例としてはカラギナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン等、防腐剤(保存料)の具体例としては安息香酸など、粘着剤の具体例としてはゼラチン、デンプン、カゼインなどがあるが、生体細胞に対し安全に用いることとができる物質であればこれに限定されない。

【0064】
本発明の細胞観察方法は、被験者より得られた細胞又は培養細胞に生体染色剤を適用し、多光子レーザ顕微鏡下で染色細胞を観察することを含んで成る。別の態様において、本発明の観察方法は染色された細胞間の染色性の差異に基づき癌病変を検出することを更に含んで成る。

【0065】
<新規の生体染色剤の細胞染色特性の評価方法>
本発明は、多光子レーザ顕微鏡下での観察下での生体染色剤の細胞染色特性、即ち、癌細胞を特異的に染色するか、又は正常細胞を特異的に染色するか、又は癌細胞と正常細胞のいずれも同定に染色するかを評価する方法を提供する。本発明の評価方法で使用する正常細胞と癌細胞は好ましくは同一の種に由来する哺乳動物細胞であり、例えば癌細胞は正常細胞に癌遺伝子を形質転換させたものであってもよい。哺乳動物細胞の例としては、MDCK細胞、MDBK細胞、COS-細胞、BSC-1細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、VERO細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK-細胞、TCMK-1細胞、LLC-PK細胞、PK15細胞、LLC- RK細胞、MDOK細胞、BHK-21細胞、CHO細胞、NS-1細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、BHK細胞、293細胞、RK-細胞等が挙げられるが、それに限定されるものではない。また、正常細胞として好ましくは、本発明の評価方法で使用する細胞はイヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株であるMDCK正常細胞であり、癌細胞はがん遺伝子産物RasV12を発現するMDCK-GFP-RasV12細胞(RasV12はRasの12番目のアミノ酸残基グリシンがバリンに置換したものであり、大腸癌では30-40%は認められる変異である)。がん遺伝子産物RasV12を発現する細胞はテトラサイクリンの添加により正常細胞に比べ優先的に増殖させることができるという性質をもつ。

【0066】
上記評価方法において、好ましくは癌細胞をレポーター遺伝子で標識しておくことで、レポーター遺伝子の発現と染色剤による染色と対比させることができ、癌細胞が当該染色剤で特異的に染色されるか否かを確認することができる。レポーター遺伝子としては、検出マーカーとして機能し得るレポータータンパク質をコードするものであれば、特に制限さないが、好ましくはGFP、ホタルルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ等のタンパク質をコードしている遺伝子が例示される。これらのレポーター遺伝子の中でも、GFPをコードする遺伝子は、蛍光の有無という簡便な手法で同定、検出が可能になるので、本発明において好適である。
好ましくは、上記レポーター遺伝子は上記癌遺伝子のプロモーターに作用可能式に連結され、上記癌遺伝子の発現と連動して発現される。

【0067】
本発明者らは、上記評価方法により、1200種もの生体染色剤の評価を行った結果、以下のとおりの細胞染色特性について見出した:
多光子レーザ顕微鏡観察下で、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤:
メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩
メタサイクリン塩酸塩
メルブロミン
ファストグリーンFCF
赤色3号(エリスロシン)
赤色104号(プロキシン)

【0068】
多光子レーザ顕微鏡観察下で、癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色する染色剤:
ミトキサントロン二塩酸塩
ドキソルビシン塩酸塩

【0069】
多光子レーザ顕微鏡観察下で、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤:
ピルビニウムパモエート
シカゴスカイブルー6B
ローズベンガルナトリウム塩
アシッドレッド
ハイレッドV80(ムラサキイモ色素)

【0070】
多光子レーザ顕微鏡観察下で、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤は、正常粘膜との比較で癌病変部をより濃く染色する。このような染色特異性を利用することで、病変部を迅速に探索することができる。特に、癌細胞は正常細胞と異なる形態特徴を有することから、形態の違いにより正常細胞と癌細胞とを区別することができる。具体的には、異型性は構造異型(細胞集団が基底膜の上に整列して配列していない、腺構造を形成しない等)及び細胞異型(個々の細胞の大小が不同、核が大きくその位置が不均一、極性が不均一等)の二種類に分類される。現行の内視鏡では直径5ミリ程度の癌を検出することは困難であったが、細胞形態の画像化が可能な多光子レーザ顕微鏡下で本発明の染色剤を使用することにより、生体組織検査を行うことなく目視により形態の違いに基づき早期に直径1ミリ程度の癌を検出することができる。正常細胞と癌細胞との区別は、医師のみならず細胞検査技師等によっても行うことができる。

【0071】
多光子レーザ顕微鏡観察下で、癌細胞に比べ正常細胞を特異的に染色する染色剤は、癌病変部との比較で正常粘膜をより濃く染色する。このような染色特異性を利用することで、観察部位が病変部であるか否かを確認することができる。

【0072】
多光子レーザ顕微鏡観察下で、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤は、例えば多光子レーザ顕微鏡観察下で、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤と組み合わされて使用されることにより、病変部位のさらなる確認を可能にする。癌細胞を特異的に染色する染色剤だけの使用では、染色された部位が真に癌に冒された部位であるかの判断が困難な場合がある。正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤と、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤とを併用すれば、偽陰性の判定を防ぐことができ、有利である。
従って、本発明は、多光子レーザ顕微鏡下で観察するための、正常細胞に比べ癌細胞を特異的に染色する染色剤であって、メクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、メルブロミン、ファストグリーンFCF、赤色3号(エリスロシン)及び赤色104号から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤と、正常細胞と癌細胞を同等に染色する染色剤であって、ピルビニウムパモエート、シカゴスカイブルー6B,ローズベンガルナトリウム塩、アシッドレッド及びハイレッドV80(ムラサキイモ色素)から成る群から選択される1又は複数の色素化合物を含んで成る細胞染色剤との混合物を含んでなる、細胞染色剤のカクテルも提供する。

【0073】
多光子レーザ顕微鏡下で上記染色剤を用いて癌が検出された場合、例えば以下に説明する本発明の多光子レーザ診断治療装置を用い、多光子レーザ照射により焼いて蒸散することができる。この際、検出に用いた画像の座標軸をそのまま利用して蒸散すべき癌細胞に照準を合わせ、レーザパワーを上げて高出力のレーザを照射することによって、癌細胞だけを一個単位でピンポイントで排除できる。一般に、粘膜表面塗布による多光子レーザ顕微鏡細胞画像化にはレーザパワーは3%以下(0.09 W)で十分であるが、癌細胞排除の場合には、レーザパワーは45%(1.35 W)程度に設定し、照射時間は癌細胞が数個の集団ならば約2秒間、数十個の集団ならば約10秒間で排除できる。

【0074】
癌細胞を蒸散する際、細胞全体に照射するのではなく、多光子レーザの走査範囲を限定し細胞膜の一部分にレーザ照射すると、より少量の光の量で細胞を破壊することもできる。

【0075】
本発明の染色剤により可視化された画像の質は、蛍光色素の静脈内全身投与による共焦点レーザ顕微鏡画像や無染色自家蛍光による多光子レーザ顕微鏡画像のものと比べても十分高画質である。

【0076】
本発明の色素化合物はいずれも市販のものを使用することができる。細胞染色剤中の色素化合物の配合量は特に限定されず、例えば、染色剤中に0.01mg/ml~1mg/ml配合してもよい。好ましくは、上記色素化合物は、0.1μM~10μMの濃度で使用され得る。また、上記の色素化合物に加え、内視鏡検査等で従来から使用されているヨード等の公知の色素を更に含んでもよい。

【0077】
本発明の色素化合物は固有の蛍光発生活性を有しているが、いずれも700nm以上、好ましくは800nm以上の長波長の多光子レーザで励起される。励起光の観察は多光子レーザ顕微鏡下で行われるが、多光子レーザ顕微鏡下で観察することで、リアルタイムでの組織診断が可能となる。使用する多光子レーザは長波長のレーザを発生することができるものである限り特に限定されない。

【0078】
染色剤の投与方法は特に限定されず、例えば、本発明の染色剤を内腔に直接適用又は粘膜下投与してもよく、あるいは経口的、経静脈的あるいは腹腔内に投与してもよい。染色剤の染色性が弱い場合、粘膜表面をプロナーゼで処理することにより粘液が除去され、細胞構造の視認性が向上する。管腔内壁に直接染色剤を適用(例えば塗布又は噴霧)する場合、剤形は液体であることが好ましいが、顆粒、錠剤等の形態でも使用することができる。また、剤形等に応じて適宜必要な追加成分、例えば等張化剤、pH調節剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、香料、又は粘着剤等の添加物を染色剤に配合することができる。例えば、本発明の染色剤に予めプロナーゼを配合してもよい。

【0079】
本発明はさらに、多光子レーザ顕微鏡下における生体染色剤を用いた染色特性から、多能性幹細胞の分化状態を判定できることから、再生医療用移植組織の安全性を評価する方法も提供する。iPS細胞、ES細胞、組織由来幹細胞などの多能性幹細胞は再生医療においてその応用・開発が期待されるが、例えばiPS細胞から移植を希望する組織細胞に分化させた細胞集団を作成する場合、現状では、このiPS細胞由来分化誘導組織細胞集団のなかには、希望する組織細胞にまで完全には分化していない未分化細胞、希望する組織細胞以外の細胞に分化した細胞、さらにほとんど分化していない元のiPS細胞が一部分混入している。これらの未分化細胞や元のiPS細胞は、このまま生体内に移植されると、将来癌化する可能性が指摘されている。従って、このiPS細胞由来分化誘導組織細胞集団を移植に使用する場合には、移植細胞集団内に残存する未分化細胞や元のiPS細胞を同定確認し、さらにそれらを排除しておくことが望ましい。本発明の方法によりiPS細胞をはじめとする多能性幹細胞の分化状態や癌化リスクの判定を可能とする染色剤を見出せれば、移植の際のiPS細胞由来未分化細胞の混入を防ぐことができ、移植の安全性を保証できる点で、極めて有効である。ここで多能性肝細胞も未分化細胞の染色特性を有し、例えば赤色104号では未分化細胞の染色が確認されている。

【0080】
上記方法においても、多能性幹細胞をレポーター遺伝子で標識しておくことが好ましい。レポーター遺伝子としては上記癌細胞を標識するものと同様のものが使用できる。好ましくは、上記レポーター遺伝子は多能性幹細胞の多能性マーカーの遺伝子のプロモーターに作用可能式に連結され、上記多能性マーカー遺伝子と連動して発現される。多能性幹細胞マーカーとしては、特に限定されず、例えばNanog、Oct4、TRA-1-60、SSEA-3、AFPなどがある。多能性幹細胞由来の未分化細胞あるいは正常分化細胞が特異的に染色されるか否かを評価するためには、多能性幹細胞にレポーター遺伝子を導入し、レポーター遺伝子の種類によって、正常に分化した細胞にレポーター遺伝子が発現するか、または未分化細胞にのみレポーター遺伝子が発現されて、染色剤による染色を対比させることが可能となる。ここで、正常分化細胞にレポーター遺伝子が発現する方法としては、AFP(肝臓)、Fox3(神経)、betaIII-tubulin(神経)、neurofilament(神経)、Nkx2.5(心筋)、cTnt(心筋)などの正常分化細胞のマーカー遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子としてGFPを使える。また、多能生幹細胞および未分化細胞にレポーター遺伝子が発現する方法としては、Nanog、Oct4、TRA-1-60、SSEA-3などのマーカー遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子としてGFPが使える。

【0081】
<腫瘍細胞染色剤>
本発明において色素化合物として使用されるクルクミン、スルフレチン、及びエピガロカテキンガレートはフラボノイドの一種である。エリスロシン(赤色3号)及びアシッドレッド(赤色106号)はタール系色素として知られている。いずれの色素化合物も経口投与可能なものである。これらの色素化合物はいずれも多光子レーザにより強く励起され明るい生体細胞画像を提供することができる。また、これらの色素化合物は、消化管等の管腔臓器を構成する特定の細胞構造を優先的に濃く染める性質を有する。

【0082】
ここで、消化管粘膜の細胞構成は、食物が通る粘膜表面を覆う上皮細胞と上皮細胞がタコツボ状に陥入して粘液を分泌する腺細胞からなる細胞群(第一系列)と、上皮細胞や腺細胞の周囲を埋める毛細血管や結合組織細胞からなる細胞群(第二系列)に分類することができる。クルクミン、スルフレチン、エピガロカテキンガラート及びエリスロシンは、第一系列の細胞群を優先的に染色することができる。アシッドレッドは第一系列及び第二系列の両方の細胞群を染色することができる。尚、顕微鏡下で観察される消化管粘膜の細胞配列は焦点面によって異なって見える。具体的には、粘膜表面から対物レンズを近づけてゆくと、その焦点が粘膜表面に結ばれているときは上皮細胞が主に観察され、焦点が深部に結ばれると、腺細胞と結合組織・毛細血管が観察される。

【0083】
更に、上記色素化合物は正常粘膜との比較で癌病変部をより濃く染色する。このような染色特異性を利用することで、病変部を迅速に探索することができる。特に、癌細胞は正常細胞と異なる形態特徴を有することから、形態の違いにより正常細胞と癌細胞とを区別することができる。具体的には、異型性は構造異型(細胞集団が基底膜の上に整列して配列していない、腺構造を形成しない等)及び細胞異型(個々の細胞の大小が不同、核が大きくその位置が不均一、極性が不均一等)の二種類に分類される。現行の内視鏡では直径5ミリ程度の癌を検出することは困難であったが、細胞形態の画像化が可能な多光子レーザ顕微鏡下で本発明の染色剤を使用することにより、生検を行うことなく目視により形態の違いに基づき早期に直径1ミリ程度の癌を検出することができる。正常細胞と癌細胞との区別は、医師のみならず細胞検査技師等によっても行うことができる。

【0084】
多光子レーザ顕微鏡下で本発明の染色剤を用いて癌が検出された場合、多光子レーザ照射により焼いて排除することができる。この際、検出に用いた画像の座標軸をそのまま利用して排除すべき癌細胞に照準を合わせ、レーザパワーを上げて高出力のレーザを照射することによって、癌細胞だけを一個単位でピンポイントで排除できる。一般に、粘膜表面塗布による多光子レーザ顕微鏡細胞画像化にはレーザパワーは3%以下(0.09 W)で十分であるが、癌細胞排除の場合には、レーザパワーは45%(1.35 W)程度に設定し、照射時間は癌細胞が数個の集団ならば約2秒間、数十個の集団ならば約10秒間で排除できる。

【0085】
癌細胞を排除する際、細胞全体に照射するのではなく、細胞膜の一部分にレーザ照射すると、より少量の光の量で細胞を破壊することもできる。

【0086】
本発明の染色剤により可視化された画像の質は、蛍光色素の静脈内全身投与による共焦点レーザ顕微鏡画像や無染色自家蛍光による多光子レーザ顕微鏡画像のものと比べても十分高画質である。

【0087】
本発明の色素化合物はいずれも市販のものを使用することができる。例えば、化学的に合成された純粋なクルクミンや、クルクミンを含有しているウコン抽出物を使用してもよい。あるいは、公知の方法に基づきウコン等から抽出してもよい。クルクミンとスルフレチンはそれぞれ単独で使用してもよいが、異なる染色パターンを得るために組み合わせて使用することもできる。配合量は特に限定されず、例えば、染色剤中に0.01mg/ml~1mg/ml配合してもよい。好ましくは、上記色素化合物は、0.1μM~10μMの濃度で使用され得る。また、上記の色素化合物に加え、内視鏡検査等で従来から使用されているヨード等の公知の色素を更に含んでもよい。

【0088】
本発明の色素化合物は固有の蛍光発生活性を有しているが、いずれも700nm以上、好ましくは800nm以上の長波長の多光子レーザで励起される。励起光の観察は多光子レーザ顕微鏡下で行われるが、多光子レーザ顕微鏡下で観察することで、リアルタイムでの組織診断が可能となる。使用する多光子レーザは長波長のレーザを発生することができるものである限り特に限定されない。

【0089】
本発明の染色剤は、in vitroでの細胞観察にも使用することができ、例えば、被験者から生検により得られた細胞、あるいは培養細胞(例えば、単層培養細胞)であってもよい。本明細書で使用する場合、用語「培養細胞」は、種々の幹細胞、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、MUSE細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、組織幹細胞等の培養物を含む。本発明の検出方法は、細胞やES細胞を分化誘導し、組織移植細胞を作成する際に発生する可能性のある、未分化細胞や癌化細胞の検出と排除にも応用できる。

【0090】
染色剤の投与方法は特に限定されず、例えば、本発明の染色剤を内腔に直接適用又は粘膜下投与してもよく、あるいは経口的、経静脈的あるいは腹腔内に投与してもよい。染色剤の染色性が弱い場合、粘膜表面をプロナーゼで処理することにより粘液が除去され、細胞構造の視認性が向上する。管腔内壁に直接染色剤を適用(例えば塗布又は噴霧)する場合、剤形は液体であることが好ましいが、顆粒、錠剤等の形態でも使用することができる。また、剤形等に応じて適宜必要な追加成分、例えば等張化剤、pH調節剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、香料、又は粘着剤等の添加物を染色剤に配合することができる。例えば、本発明の染色剤に予めプロナーゼを配合してもよい。

【0091】
<多光子レーザ診断治療装置>
次に、図面を参照して、本発明による多光子レーザ診断治療装置の実施の形態を説明する。
最初に、図1を参照して、本発明による多光子レーザ診断治療装置の全体構成を説明する。多光子レーザ診断治療装置11は、レーザ発振器13と、ビーム径調節器15と、二次元走査器17と、ダイクロイックミラー19と、対物レンズ21と、集光深さ調節器23と、光検出器25と、蛍光画像生成装置27と、モニタ29と、制御装置31とを備える。

【0092】
レーザ発振器13は、超短パルスレーザ光(以下、単にパルスレーザ光と記載する。)を射出し、パルスレーザ光の強度を調整することが可能となっている。レーザ発振器13としては、パルス幅が数十~数百フェムト秒、パルスの繰り返し周波数が数十~数百MHzの範囲でパルスレーザ光の出力を調節できるものが用いられる。また、レーザ発振器13は、例えば波長800nmで3.2Wのパルスレーザ光を出力できるものであればよい。さらに、パルスレーザ光は例えば波長680~1100nmの範囲を出力できるようになっていることが好ましい。なお、多光子吸収現象では、入射した光子の波長の半分の波長を有した光子が生じ、人体に有害な紫外線域(波長400nm未満)の光子が生じることを防ぐためには800nm以上の波長のパルスレーザ光を用いることが好ましい。

【0093】
ビーム径調節器15は、制御装置31からのビーム径調節信号に応じて、パルスレーザ光のビーム径を変化させるように構成されている。ビーム径調節器15としては、例えばビームエクスパンダを使用することができる。

【0094】
二次元走査器17は、制御装置31からの駆動信号に従って、患者の対象部位に対する超短パルスレーザ光の集光位置を光軸に対して垂直な2軸方向に変化させる。二次元走査器15は、例えば2枚のガルバノミラーにより構成され、駆動信号に応じて互いに直行する2本の光軸周りに搖動することにより、二次元走査を行う。

【0095】
ダイクロイックミラー19は、パルスレーザ光の照射により患者の組織において発生する蛍光を分離するために設けられている。ここでは、患者の組織に照射されるパルスレーザ光の波長と同一の光については反射し、その他の波長の光を透過させる特性を有するものを用いている。したがって、二次元走査器17から送られるパルスレーザ光はダイクロイックミラー19によって対物レンズ21へ向かって反射される一方、組織において発生する蛍光についてはダイクロイックミラー19を透過する。このようにして、組織において発生する蛍光がダイクロイックミラー19によって分離される。

【0096】
対物レンズ21は、二次元走査器17から導かれダイクロイックミラー19で反射されたパルスレーザ光を患者の組織の集光位置に集光させる一方、多光子吸収現象により患者の組織において発生した蛍光を集光してダイクロイックミラー19の方向へ導く。なお、対物レンズ21は、制御信号に基づいて集光深さ調節器23によって光軸方向へ移動可能となっており、集光位置を調節することができる。ダイクロイックミラー19及び対物レンズ21は、その間の光路も含めて光学系を構成している。また、二次元走査器17及び集光深さ調節器23は集光位置変位装置を構成している。

【0097】
組織において多光子吸収を起こさせるためには、多数の光子が同時に対象物に衝突するほどに光子密度を高くする必要がある。したがって、低い強度のパルスレーザ光でも高い光子密度の状態を作り出しやすいことから、対物レンズ21には、開口数の大きいものを使用することが好ましい。また、多光子吸収現象を引き起こすほどに光子密度の高い状態は集光位置のみで生じるので、多光子吸収現象は集光位置のみで起こり、その他の領域では発生しない。開口数が大きい対物レンズ21を用いれば多光子吸収現象が起こる範囲を極めて小さくできるので、細胞単位で選択的に破壊することも可能になる。対物レンズ21の開口数は、0.6以上とすることが好ましく、細胞単位の破壊を可能とさせるために1.0以上とすることがさらに好ましい。

【0098】
光検出器25は、組織において発生した蛍光を検出し、蛍光強度に応じた電気信号に変換する。光検出器25としては、光電子増倍管(PMT)などを用いることができる。

【0099】
二次元走査器17の走査状態及び集光深さ調節器23の調節位置(深さ方向の位置)は、集光位置の座標を表すパラメータとなり、蛍光画像生成装置27は、これら座標を表すパラメータと光検出器25から送られた電気信号(すなわち蛍光強度)とを対応付けて記憶し、これらのデータを処理して、蛍光画像を生成する。生成された蛍光画像は、モニタ29上に表示される。

【0100】
制御装置31は、動作制御部33と、診断用パルス強度設定部35と、治療用パルス強度設定部37と、照射範囲設定部39と、照射時間設定部41とを含む。動作制御部33は、レーザ発振器13、ビーム径調節器15、二次元走査器17、集光深さ調節器23の動作を制御する。診断用パルス強度設定部35は、診断を行うために患者の組織の蛍光画像を取得するのに適した強度のパルスレーザ光をレーザ発振器13が出力するようにパルスレーザ光強度を設定し、治療用パルス強度設定部37は、治療を行うために患者の組織を破壊するに十分な強度(診断用パルスレーザ光強度よりも大きい)のパルスレーザ光をレーザ発振器13が出力するようにパルスレーザ光強度を設定する。診断用パルス強度設定部35及び治療用パルス強度設定部37に設定されるパルスレーザ光強度は、予め設定されている値が使用されるようにしてもよく、図示しない入力手段(例えばキーボードなど)を用いて使用者によって適宜に設定されるようにしてもよい。照射範囲設定部39は、患者の組織において治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を照射する範囲の設定を行い、動作制御部33を通じて二次元走査器17や集光深さ調節器23の動作を制御することによって、設定された照射範囲及び深さに治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を照射、集光させる。照射範囲設定部39に設定される照射範囲は、診断用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を患者の組織に照射することによって取得されモニタ29に表示されている蛍光画像上で、使用者が図示されない入力手段(マウスなど)を用いて範囲を指定することによって設定することができる。蛍光照射時間設定部41は、治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を患者の組織における照射範囲に照射する時間の設定を行い、動作制御部33を通じてレーザ発振器13の出力を制御することによって、設定された時間だけ、照射範囲設定部39によって設定された照射範囲に治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を照射させる。照射時間設定部41に設定される照射時間として、予め設定されている値が使用されるようにしてもよく、図示されない入力手段(キーボードなど)を用いて使用者によって適宜に設定されるようにしてもよい。

【0101】
本発明の多光子レーザ診断治療装置11は、様々な形態で実現することができる。例えば、図2に示されているように、レーザ光照射ヘッド43内に、ビーム径調節器15、二次元走査器17、ダイクロイックミラー19と対物レンズ21とその間の光路から構成される光学系、集光深さ調節器23とを設けると共に、患者を載せるための患者固定台45と移動装置47とをさらに設け、移動装置47によってレーザ光照射ヘッド43と患者固定台45とを相対移動させることができるようにしてもよい。このように、レーザ光照射ヘッド43と患者固定台45とを独立な3軸方向に相対移動させることができるようにすれば、患者の患部付近へのレーザ光の照射が容易になる。また、図3に示されているように、ダイクロイックミラー19と対物レンズ21との間の光路の一部を内視鏡49によって置換すると共に、内視鏡49の先端に対物レンズ21及び集光深さ調節器23とを配置するようにしてもよい。このような構成にすれば、低侵襲の内視鏡手術で体内部位の癌診断及び治療が可能になり、患者の身体的負担を軽減することが可能になる。
図4は上記図1における対物レンズ21を含む光学系の詳細を示すものである。図4において対物レンズ50の周囲は筒状のシールド部材51で覆われ、該シールド部材は観察すべき組織52の周辺と圧着することで該光学系を封入する空間53を形成することを示す。さらに、該シールド部材は該空間内の圧力を調節するための通気口54,55を備える。通気口54,55は例えば真空ポンプなどの吸引手段に接続され、上記空間内を陰圧にすることで、該シールド部材と組織との密着性を高め、その結果、患者の微妙な動きによっても対物レンズと観察組織の相対的位置関係が保たれ、画像のブレなどを防ぐことができる。画像撮影や施術の完了後、通気口54,55を解放することで前記空間内の陰圧状態は常圧に戻り、光学系50を組織から脱離させることができる。通気口54,55は1又は複数個あってよく、複数ある場合、一方を恒久的に吸引手段に接続したままとし、他方の通気口を開閉することで空間内の空気圧の調節が容易となる。
好ましくは、該シールド部材は前記空間内に組織を染色するための染色剤を含む染色液及び該染色液を洗浄するための洗浄液を供給及び排液するための給液口56及び排液口57をさらに備える。当該給液口56及び排液口57は同一のものでも異なるものであってよく、さらに当該給液口56及び排液口57は前記通気口54,55を兼ねていてもよい。好適な態様では、染色液は給液口56を介して前記空間に導入して組織を染色し、その後排液口57を介して該染色液を排液し、必要であれば洗浄液を前述と同一または異なる給液口56を介して前記空間に導入し、前述と同一または異なる排液口57から排液することで組織を洗浄する。

【0102】
シール部材の材質は特に限定されないが、合成ゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレータト樹脂、ポリアミドイミド樹脂などであってよい。好ましくは、シールド部材と組織との密着性が高まるよう、合成ゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、といった弾性エラストマーである。図4において対物レンズ50はシールド部材51の上面に、固定して示しているが、調整を電磁的に行なえるようにすることも可能である。調整を電磁的に行なうには、シールド部材の対物レンズ固定部と対物レンズの間をゴムやバネなどの弾性部材による支持とし、磁石とコイルを用いたアクチュエータをX軸(光軸と直交する水平1方向)、Y軸(光軸、水平1と直交する水平2方向)、Z軸(光軸方向)の3軸方向の設置をすることで実現できる。このようにアクチュエータを追加することで外部からの電流により制御することができ、より高精度で広範囲に検査、分析、蒸散の操作を行なうことができる。図3における二次元走査器17は対物レンズの位置変更用、上記したアクチュエータはシールド部材内の走査調整用として用いることができる。上記アクチュエータは3軸でなくともよく、少なくとも1軸に有すれば有効なものである。
図5は光学系の周囲が筒状のシールド部材51で覆われた状態で存在する内視鏡61を示す。図5において63は挿入部であり消化器を円滑に通過させるため柔軟な構造をしている。64は鉗子口、65は鉗子、66は左右上下のアングルノブ操作部を簡略化して示す。67は視度調節などを行なう接眼部、68は接眼レンズ部、69は送気、送水操作部、70吸引操作部、71は検査器本体(図示せず)との接続部、71はライトガイドであり、この近くには、送気口、染色剤挿入口、染色剤吸引口などが検査器本体と接続可能に構成されている。ここで内視鏡の先端部62の光学系50における対物レンズの周囲が筒状のシールド部材51で覆われることで、図4との関係で説明のとおり該シールド部材は観察すべき組織の周辺と圧着して該光学系を封入する空間(図4の53)を形成し、さらに、当該該内視鏡61のシールド部材がやはり図4との関係で説明のとおり、該空間内の圧力を調節することができる内視鏡が備える吸引手段に接続された通気口54,55を備えることで、上記空間内を陰圧にし、該シールド部材と組織との密着性を高め、その結果、患者の微妙な動きによっても対物レンズと観察組織の相対的位置関係が保たれ、内視鏡による検査又は施術中での画像のブレなどを防ぐことができる。画像撮影や施術の完了後、通気口54,55を解放することで前記空間内の陰圧状態は常圧に戻り、光学系50を組織から脱離させることができる。上記の操作は69に送気、送水操作部、70吸引操作部に操作ボタンが集められても良いし、染色作業は準備過程でもあるので、患部撮影、蒸散や削除手術操作とは異なり、検査器本体側に設けられた操作ボタン類で行なってもよい。このような内視鏡を用いることにより、従来の内視鏡手術より精度の良い癌等の病理組織の発見、並びに削除手術が可能となる。

【0103】
次に、図1に示されている多光子レーザ診断治療装置11の動作について説明する。
まず、診断時には、制御装置31の診断用パルス強度設定部35に設定されているパルスレーザ光強度でレーザ発振器13からパルスレーザ光を出力し、制御装置31の動作制御部33からの動作指令に従ってビーム径調節器15によって所定のビーム径に調節する。所定のビーム径に調節されたパルスレーザ光は、制御装置31の動作制御部33からの動作指令に基づいて二次元走査器17によって所定範囲を二次元的に走査するように制御されつつ、ダイクロイックミラー19に導かれて対物レンズ21へ向かって反射される。対物レンズ21によって集光されたパルスレーザ光は、集光位置が患者の組織内の所定深さの2次元平面上を走査するようになる。なお、パルスレーザ光の集光位置は、制御装置31の動作制御部33からの指令に従って患者の組織において予め定められた深さに調節される。

【0104】
患者の組織では、集光位置で多光子吸収現象が起き、蛍光が励起される。患者の細胞に含まれるフラビンを励起させて蛍光を発しさせるようにすることも可能であるが、得られる蛍光の強度が弱く蛍光画像のコントラストが低くなってしまう。したがって、得られる蛍光画像のコントラストを高くするために、染色剤で組織の表面を予め染色し、染色した色素を励起させて蛍光を発しさせるようにすることが好ましい。また、患者の患部組織の表面に染色剤を塗布して染色した後に多光子吸収現象を利用して蛍光画像を得る場合、多光子吸収現象により染色剤の色素分子から発せられる蛍光の強度が、多光子吸収現象により細胞内のフラビンから発せられる蛍光の強度よりも高くなるので、小さい強度のパルスレーザ光を用いて、より鮮明な画像が得られる。したがって、診断用パルスレーザ光強度を低く設定することができる。具体的には、組織の表面に染色剤を塗布してから蛍光画像を得る場合は、染色剤を塗布せずに蛍光画像を得た場合のパルスレーザ光強度の1/10以のパルスレーザ光強度で同レベルの蛍光画像を得ることができるようになる。これにより、パルスレーザ光が患者の組織に与える悪影響も最小限に抑えることが可能となる。

【0105】
染色剤としては、フルオレッセイン、インドシアニングリーン(ICG)、インジゴカルミンなどの認可済みの蛍光剤を使用することもができるが、人体への安全性の高い食用色素などを使用することが好ましい。特に、鮮明な画像が得られることが発明者によって見いだされたものとして、例えば、エリスロシン、クルクミン、エピガロカテキンガラート、スルフレチン、アシッドレッドなどが挙げられる。

【0106】
ダイクロイックミラー19は、患者の組織に照射されるパルスレーザ光の波長と同一の光については反射し、その他の波長の光を透過させる特性を有していることから、入射する光のうちパルスレーザ光の反射光については反射する一方、組織から発せられた蛍光を透過させ、蛍光を分離する。分離された蛍光は、光検出器25に入射して検出され、強度に応じた大きさの電気信号に変換される。蛍光画像生成装置27は、変換された電気信号と二次元走査器17及び集光深さ調節器23の動作状態に基づく集光位置情報とを対応付けることによって蛍光画像を生成し、モニタ29上に表示する。

【0107】
一方、治療時においては、制御装置31の治療用パルス強度設定部37に設定されているパルスレーザ光強度でレーザ発振器13からパルスレーザ光が出力され、制御装置31の動作制御部33からの動作指令に従ってビーム径調節器15によって所定のビーム径に調節される。なお、治療用パルスレーザ光強度は、パルスレーザ光の集光位置の組織において多光子吸収現象による破壊が起きるに十分な高さであり、診断用パルスレーザ光強度よりも高く設定されている。所定のビーム径に調節されたパルスレーザ光は、制御装置31の照射範囲設定部39に設定された照射範囲を走査するように、制御装置31の動作制御部33からの動作指令に基づいて二次元走査器17によって制御されつつ、ダイクロイックミラー19に導かれて対物レンズ21へ向かって反射される。対物レンズ21によって集光されたパルスレーザ光は、集光位置が患者の組織内の所定の深さの二次元平面上で照射範囲設定部39に設定された照射範囲を走査するようになる。集光位置は、制御装置31の動作制御部33によって制御される集光深さ調節器23によって制御することができる。このように所望される照射範囲にパルスレーザ光を照射することにより、照射範囲の組織の細胞が破壊され、癌細胞が排除される。

【0108】
ここで、多光子吸収現象により組織又は細胞を破壊されるのは、多光子吸収現象により細胞内の分子がイオン化してプラズマが発生することによって、細胞の細胞膜が破壊されるからである。

【0109】
なお、治療時には、集光位置の組織又は細胞で多光子吸収現象を生じさせることにより組織又は細胞を破壊する。したがって、破壊が起きるに十分なエネルギを組織又は細胞に付与する必要がある。このため、照射するパルスレーザ光の強度に応じて、制御装置31の照射時間設定部41に照射時間が設定され、設定された時間だけ照射範囲を照射するように、制御装置31の動作制御部33によって制御する。照射時間は、照射時間設定部41に予め定められた値の中から選択されてもよく、使用者が照射時間設定部41に入力することにより適宜の値に設定されてもよい。

【0110】
開口数の大きい対物レンズを用いることによって、細胞単位で多光子吸収現象の発生を制御できるので、診断時に患者の患部組織の高解像度の蛍光画像を得ることが可能になり、小さい癌細胞又は癌組織でも正常組織との区別をつけやすくな。これにより、癌細胞又は癌組織の発見が容易になる。また、診断時に蛍光画像を得る際の二次元走査器17及び集光深さ調節器23の動作状態と検出される蛍光強度とを対応付けており、蛍光画像上で発見された癌病変部位を照射範囲に設定して治療用パルスレーザ光強度でパルスレーザ光を照射すれば、指定した照射範囲内の癌病変部位を正確に破壊することが可能になる。さらに、開口数の大きい対物レンズを使用しれていれば、パルスレーザ光の照射を単位細胞以下のサイズの範囲で行うことが可能となるので、細胞単位の破壊が可能になる。

【0111】
次に、波長800nmにおけるピーク出力3.2Wのレーザ発振器13と、開口数1.05の対物レンズ21を用いた多光子レーザ診断治療装置11を用いて癌の診断及び治療を行う手順を説明する。
患者の診断対象の組織の表面に染色剤を予め塗布しておくことが好ましい。組織の表面に染色剤を塗布することにより、癌病変した組織が正常組織よりも色素に濃く染まって、正常組織と癌病変組織との蛍光の差が大きくなり、癌病変部位を発見しやすくなる。これは、正常組織では、細胞接着が強く細胞間の間隙がほとんどないのに対して、癌病変部では、細胞同士の接着が弱く細胞間に隙間が多く、その間隙に染色剤が貯留されやすいためと考えられる。染色剤としては、人体への安全性の高い食用色素などを使用することが好ましく、特に、正常組織と癌病変組織との蛍光の差を大きくする染色剤として、例えば、エリスロシン、クルクミン、エピガロカテキンガラート、スルフレチン、アシッドレッドなどを用いることが好ましい。

【0112】
次に、制御装置31の診断用パルス強度設定部35に設定されているパルスレーザ光強度でレーザ発振器13から出力したパルスレーザ光を対物レンズ21によって患者の患部の組織内の集光位置に集光させ、二次元走査器17によって集光位置を光軸と垂直な二次元平面上で走査させる。組織内における集光位置は、制御装置31の動作制御部33により集光深さ調節器23の動作を制御することによって様々な深さに調節することができる。このように患者の組織にパルスレーザ光を照射し多光子吸収現象を起こさせることにより得られた蛍光を光検出器25で検出し、検出された蛍光の強度と二次元走査器17及び集光位置深さ調節器23の状態から得られる集光位置を表すパラメータ(すなわち座標)と対応付けて処理することによって蛍光画像を得ることができ、得られた蛍光画像がモニタ29上に表示される。

【0113】
医師は、癌細胞と正常な細胞との蛍光画像の形態の差に基づいて、モニタ29上の蛍光画像から癌細胞又は組織か否かを判断し、診断を行うことができる。本発明者は、組織の表面に染色剤を塗布して組織を染色した上で、蛍光画像を得る場合、癌病変した組織が正常組織よりも濃く染まり、より強い蛍光が得られることを見出した。これは、正常組織では、細胞接着が強く細胞間の間隙がほとんどないのに対して、癌病変部では、細胞同士の接着が弱く細胞間に隙間が多く、その間隙に染色剤が貯留されやすいためと考えられる。このことを利用すれば、癌病変組織が正常組織よりも強い蛍光を発するようになり、蛍光強度の対比から、正常組織と癌病変組織との相違を発見しやすくなり、診断が容易になる。また、染色剤の色素分子は、細胞内フラビンと比較して、多光子吸収現象により、より高い強度の蛍光を発するので、染色剤を用いれば、染色剤を用いない場合と比較して、低い強度のパルスレーザ光を用いて、鮮明な蛍光画像を得ることができる。したがって、診断用のパルスレーザ光強度を低く設定することができる。

【0114】
具体的には、組織の表面に染色剤を塗布してから蛍光画像を得る場合は、染色剤を塗布せずに蛍光画像を得た場合のパルスレーザ光強度の1/10以下のパルスレーザ光強度で同レベルの蛍光画像を得ることができるようになる。例えば、出力3.2Wのレーザ発振器13と開口数1.05の対物レンズ21を用いて蛍光画像診断及び治療を行うとすると、治療用パルスレーザ光強度の設定値は染色剤による色素染色を行わない場合も染色剤による色素染色を行う場合も最高出力の50%であるが、診断用パルスレーザ光強度の設定値は、同程度の蛍光画像を得るのに、色素染色を行わない場合は20%であるのに対し、色素染色を行う場合は3%以下(1%程度)で十分である。

【0115】
さらに、細胞内フラビンからの蛍光を検出しようとする場合、照射するパルスレーザ光の波長は735nm前後とする必要があるので、発生する蛍光の波長は約370nmとなって紫外線が発生することになり、細胞のDNA損傷を招く恐れがある。これに対して、染色剤で染色すれば、800nm以上の波長のパルスレーザ光で蛍光を発生させることができ、紫外線の発生を抑制することができる利点も生じる。

【0116】
医師により癌病変部位が特定されると、多光子吸収現象を利用して、特定された癌病変部位の癌細胞を破壊する。詳細には、モニタ29に表示された蛍光画像上で所望する治療範囲を指定することによって照射範囲設定部39に照射範囲を設定し、蛍光画像を取得したときの集光深さと同じ深さとなるように集光深さ調節器23で調節して、制御装置31の治療用パルス強度設定部37に設定されているパルスレーザ光強度でレーザ発振器13から出力されたパルスレーザ光を患者の組織における集光位置に集光させ、制御装置31の照射時間設定部41に設定された時間だけ、設定された照射範囲を照射するように、二次元走査器17によって走査させる。治療用パルスレーザ光強度を最高出力の50%に設定した場合、数個程度の細胞であれば約2秒の照射、数十個の細胞の集団であれば約10秒の照射で破壊することができる。

【0117】
診断用パルスレーザ光強度よりも高い治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光が対物レンズ21によって集光位置に集光されることにより、集光位置の組織では、多光子吸収現象により組織又は細胞が破壊される。また、診断時に用いた蛍光画像上で指定された範囲に治療用パルスレーザ光強度のパルスレーザ光を照射することにより当該範囲の組織又は細胞が破壊されるので、指定した範囲内の癌病変部位を正確に破壊することができる。さらに、開口数の大きい対物レンズ21を使用していれば、パルスレーザ光の照射を単位細胞以下のサイズの範囲で行うことが可能となるので、細胞単位の破壊ができる。

【0118】
治療後には、再度、治療部位の組織の表面に染色剤を塗布した後に診断用パルス強度設定部35に設定されたパルスレーザ光強度でパルスレーザ光を治療部位の組織に照射して、発生した蛍光を検出することによって、蛍光画像を生成し、生成した蛍光画像によって癌病変部位が破壊され排除されていることを確認することが好ましい。

【0119】
染色剤により組織の染色を行っていない場合、診断用パルスレーザ光強度はパルスレーザ光の最高出力の20%以上とする必要があり、治療用パルスレーザ光強度(最高出力の50%程度)との差が小さく、診断時と確認時の2回にわたってパルスレーザ光の照射を行うと、癌病変部位の周囲の正常な細胞に対してもパルスレーザ光の照射量が多くなり、正常な細胞も光障害を引き起こす可能性が高くなる。これに対して、染色剤による組織の染色を行えば、診断用パルスレーザ光強度をパルスレーザ光の最高出力の3%以下とすることができるので、正常な細胞の光障害の発生の可能性を大幅に低減させることができる。

【0120】
以上、図示されている実施形態を参照して、本発明の多光子レーザ診断治療装置11を説明したが、本発明は図示される実施形態に限定されるものではない。例えば、制御装置31に診断時のパルスレーザ光の照射時間を使用者が設定できるようにしてもよい。

【0121】
本発明の多光子レーザ診断治療装置11が提供する組織中の数個の癌細胞を破壊できる機能は、iPS細胞、ES細胞、組織幹細胞の再生医療応用に向けての培養過程で、癌化細胞や未分化細胞の検出及び排除を通じた移植細胞の品質管理に利用することが可能である。

【0122】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0123】
1.色素化合物の染色性評価
8週齢のC57B6マウス(オス、約20 g)に2% (w/v) デキストラン硫酸ナトリウム (DSS)を含む飲水を7日間与えた。5%抱水クロラール0.2 mlを腹腔内注射して麻酔した後、マウスの腹壁を約1cm縦に切開し、消化管を約1cm腹壁上に持ち上げた。ここで、消化管への血流は腸間膜付着部に流入する血管によって保たれる。消化管を、腸間膜付着部の反体側で筋層と粘膜を含めて約1cm縦に切開した。腸間膜付着部の反対側を切開するのは、血管の切断・損傷を防ぎ、出血を最小限にするためである。消化管の切開部位を上下に開くと内部に、食物の通路である消化管粘膜面が見えた。ここに食物消化物がある場合にはティッシュペーパーでふき取った。
【実施例1】
【0124】
消化管粘膜面をさらにクリアに観察するために、粘膜面に1%プロナーゼ溶液を滴下し、15分間、静かに置いた。このプロナーゼ処理により、粘膜表面の粘液が除去され、細胞構造が見やすくなった。続いて、粘膜表面からプロナーゼを除去し、生理的食塩水(PBS)で洗浄した。
【実施例1】
【0125】
金属リング(外形16ミリ、内径6ミリ)を実験台に置き、片側の面に全周性に瞬間接着剤(アロンアルファ)を塗った。ピンセットを用いて瞬間接着剤を塗った金属リングを接着剤塗布面が下になるように保持し、プロナーゼ処理した粘膜面の上に静置した。約5分間、金属リングを瞬間接着剤で粘膜に固定し、色素化合を適用する領域をPBSで洗浄した。
【実施例1】
【0126】
粘膜表面が乾燥しないように、プロナーゼ処理した粘膜面の上に、クルクミンストック溶液またはスルフレチンストック溶液を生理的食塩水(PBS)で希釈した溶液(希釈倍率は表1~3を参照)を一滴滴下し、1分間、静置し、PBSで3回洗浄し、金属リング上にカバーガラスを乗せ、多光子レーザ顕微鏡(オリンパス社製FV1000MPE)の対物レンズをカバーガラスの上から近づけ、画像を観察した。
【実施例1】
【0127】
色素化合物を評価するのに使用した条件等及び評価結果について以下の表に示す。
【表1】
JP2014157703A1_000003t.gif
【実施例1】
【0128】
【表2】
JP2014157703A1_000004t.gif
【実施例1】
【0129】
【表3】
JP2014157703A1_000005t.gif
◎:画像診断に理想的な明るさとコントラストを持つ画像;○:画像診断に十分な明るさとコントラストを持つ画像;×:画像診断に不十分な明るさとコントラストを持つ画像;△は○と×の中間の状態
【実施例1】
【0130】
驚くべきことに、粘膜表面のプロナーゼ処理有り無しにかかわらず、クルクミン、スルフレチン、赤色3号(エリスロシン)などの多くの種類の色素が正常粘膜より癌病変部を顕著により濃く染色した。理論に拘束されることを意図するものではないが、癌病変部を濃く染色する理由としては、細胞接着が強く細胞間の間隙がほとんどない正常粘膜に対して、癌病変部では細胞同士の接着が弱く細胞間に隙間が多いため、その間隙に色素が残留しやすいことが挙げられる。第二の可能性としては、細胞分裂の早い癌細胞の方が、細胞外の親油性物質(多くの色素は、油に良く溶ける性質を持つ)の取り込み活性が、正常細胞よりも高まっているためとも考えられる。
【実施例1】
【0131】
2.強く励起され明るい生体細胞画像を提供する色素
上記色素化合物のうち、特定の化合物がマウス大腸の粘膜表面に塗布された場合に多光子レーザで強く励起され、明るい画像を提供した。特に明るい画像が得られた色素化合物について、蛍光画像リストを図6に示す。色素化合物の投与から観察までの手順は上述の染色性評価の項目に記載したとおりに行った(以下同様)。また、粘膜表面への色素の投与濃度は、色素番号1番のクルクミンの場合のみ5 mg/mlで、その他の色素は、すべて1 mg/mlとした。
【実施例1】
【0132】
3.上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色する色素
上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色する様々な色素が確認されたが、代表例として色素番号1番のクルクミンや色素番号2番のスルフレチンの染色パターンを図7に示す。これらの色素は上皮細胞・腺細胞系を濃く、そして結合組織・毛細血管系を淡く染色した。その他、色素番号3番のエピガロカテキンガラート、色素番号4番の赤色3号(エリスロシン)、色素番号9番の赤色104号(フロキシン)、色素番号15番のインドシアニングリーン、色素番号27番のマルビジン、色素番号28番のβカロテン、色素番号32番のハイレッドBL、色素番号33番の6-ギンゲオール、色素番号35番のミリセチン、色素番号36番のトリセニジン、色素番号37番のペツニジンも、上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色した(結果は示さず)。
【実施例1】
【0133】
4.結合組織・毛細血管系を優先的に染色する色素
結合組織・毛細血管系を優先的に染色する様々な色素が確認されたが、代表例として色素番号14番のアナトールと色素番号34番のケルセチンの染色パターンを図8に示す。これらの色素は結合組織・毛細血管系を濃く、そして上皮細胞・腺細胞系を淡く染色した。その他、色素番号10番の青色2号、色素番号16番のクチナシ黄色素、色素番号17番のクロシン G-150、色素番号18番のサフロミン、色素番号24番のロビネチニジン、色素番号31番のハイレッドV80、色素番号34番のケルセチンも、結合組織・毛細血管系を優先的に染色した。
【実施例1】
【0134】
5.上皮細胞・腺細胞系と結合組織・毛細血管系の両方を染色する色素
上皮細胞・腺細胞系と結合組織・毛細血管系の両方を染色する色素も確認されたが、代表例として色素番号5番の赤色106号や色素番号6番の緑色3号の染色パターンを図9に示す。色素番号5番の赤色106号の場合には、上皮細胞・腺細胞の細胞膜と結合組織・毛細血管系が強く染色された。色素番号6番の緑色3号の場合には、一部の腺細胞と結合組織・毛細血管系が強く染色された。
【実施例2】
【0135】
超早期癌モデルであるMDCK-RasV12癌化細胞小集団in vitroアッセイ系
(材料)
・イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株であるMDCK正常細胞。
・緑色蛍光タンパク質であるGFPを恒常的に活性化しているがん遺伝子産物RasV12と融合させたGFP-RasV12を発現するMDCK-GFP-RasV12細胞(RasV12はRasの12番目のアミノ酸残基グリシンがバリンに置換したものであり、大腸癌では30-40%は認められる変異である)。
・DMEM(high glucose)with Phenol Red(和光純薬)
・DMEM(high glucose)without Phenol Red(和光純薬)
・Tetracycline System Approved Fetal bovine serum(Clontech)
・Penicilin/Streptomycin(x100) (ナカライテスク)
・GlutaMax(x100)(Invitrogen)
・Trypsin(0.25%)(no phenol red、Invitrogen)+EDTA(3mM)(ナカライテスク)
・Zeocin(100mg/ml、InvivoGen)
・Blasticidin(10mg/ml、InvivoGen)
・Tetracycline(SIGMA)/100% ethanol(100 mg/ml)
・10 cm dish(BD Falcon)
・6 cm dish(BD Falcon)
・96-well dish(lumox(登録商標)multi well 96、SARSTEDT)
・DMSO(ナカライテスク)
・米国FDA(Food and Drug Administration)認可済の化合物Prestwick Chemical Library(1200種)
・日本の厚生労働省認可済の食品添加物(30種)
・多光子レーザ顕微鏡(FV1000MPE、Olympus)
【実施例2】
【0136】
(方法)
10 cm dishでMDCK正常細胞を、そして6cm dishでMDCK-GFP-RasV12細胞を培養した。培養液は、MDCK正常細胞はDMEM(Phenol Red入り)+10 %FBS + Penicilin/Streptomycin、
MDCK-GFP-RasV12細胞はDMEM(Phenol Red入り)+10 %FBS + Penicilin/Streptomycin + Zeocin(400 μg/ml) + Blasticidin(5 μg/ml)を用いた。ともに約90 %コンフルエント(密集度)になった時にTrypsin(0.25 %)+EDTA(3 mM)でそれぞれの細胞をdishから剥がし、MDCK正常細胞とMDCK-GFP-RasV12細胞の比率が50~100:1になるように96-well dishに播種した。この時、1 wellあたり1.0~3.0 x 104個の細胞になるようにDMEM + 10 %FBS + Penicilin/Streptomycinの培養液を用いて播種した。1.0 x 104個播種した場合は4日後、3.0 x 104個播種した場合は1日後に2 μg/mlの濃度のTetracyclineを培養液中に加えてGFP-RasV12を発現させてMDCK正常細胞の中に癌化細胞小集団を形成させた(非特許文献4)。18~36時間後に各wellの細胞を200 μlのPBSで3回洗浄し、100 μlの容量のPBSで1 μMに希釈したそれぞれのPrestwick Chemical Libraryの化合物および厚生労働省認可済の食品添加物を各wellに加えて5分間室温にて細胞に取り込ませた。その後200 μlのPBSで3回洗浄し、場合によってはさらに100 μlのDMEM without Phenol Redで1回洗浄してから多光子レーザ顕微鏡で観察を行った。パルスレーザ光子がステップワイズの750、800、850、そして900 nm領域の励起によりGFP-RasV12陽性の癌化細胞小集団に正常細胞に比べて濃くラベルする化合物、あるいはMDCK正常細胞に癌化細胞小集団に比べて濃くラベルする化合物を、赤色可視光領域でChemical Libraryに含まれる1200種類の化合物および厚生労働省認可済の食品添加物の中から探索・同定した。
【実施例2】
【0137】
(結果)
1200種類のPrestwick Chemical Libraryの中からは、750、800、850、そして900 nmの全ての領域の光子励起により赤色可視光でGFP-RasV12陽性の癌化細胞小集団に正常細胞に比べて濃くラベルされる、すなわち強い蛍光を示す化合物としてメクロサイクリンスルフォサルチル酸塩、メタサイクリン塩酸塩、そしてメルブロミンの3種を同定した(図10,11、12)。図10から図12の蛍光状態を説明する。図10はメクロサイクリンスルフォサルチル酸塩の評価結果であり、上部にその構造式を示す。同図は850nmのレーザを用いて評価したものであり、左端に示す「GFP」の図は、MDCK-GFP-RasV12細胞によって緑色の蛍光が鮮明に観察されたものである。図10「Meclocycline sulfosalicylate」で示す中央の図はメクロサイクリンスルフォサルチル酸塩によって染色され赤い蛍光が鮮明に観測されたものである。ここで赤色の蛍光は、多光子レーザによって幅のある波長で発光されるため、赤色のフィルターで赤い蛍光を中心に抽出したものである。図10中右端の「Merged」で示すものは、上記「GFP」と「Meclocycline sulfosalicylate」を重ね合わせたものである。ここで特許明細書における白黒表示ではこの精度の把握は難しいかもしれないが、「GFP」で示すMDCK-GFP-RasV12細胞とメクロサイクリンスルフォサルチル酸塩の染色による蛍光が、非常に精度良く重なっていることが分かるものである。このことでメクロサイクリンスルフォサルチル酸塩による染色が癌細胞を正確に蛍光で示していることがわかるものである。図11はメタサイクリン塩酸塩、図12はメルブロミンを染色剤として用い同様の評価をしたものであり、両図とも左端「GFP」は緑色、中央の染色剤による図は赤色の蛍光を観測でき、図10同様に右端の「Merge」では図10同様精度良く重なり赤みがかった緑色(黄色に近い発光色)に表示されている。メタサイクリン塩酸塩、そしてメルブロミンよる染色も癌細胞を正確に蛍光で示していることがわかるものである。また、750、800、850、そして900 nmの全ての領域の光子励起によりMDCK正常細胞に癌化細胞小集団に比べて濃くラベルされる化合物としてMitoxantrone dihydrochlorideそしてDoxorubicin hydrochloride、の2種(図13、14)であり、図13から図14の蛍光状態は、図10から図12と異なり、正常細胞だけが染色により蛍光を示すものであり、両図中央の写真は正常細胞が赤い蛍光を示していることから、蛍光を示さない部位が癌細胞であることが分かるものである。癌化細胞小集団と正常細胞の両方がラベルされる化合物としてPyrvinium pamoateそしてChicago sky blue 6Bの2種(図15、16)を同定した。図15から図16の蛍光状態は、左「GFP」が癌細胞を緑色蛍光を発し、中央「Pyrvinium pamoat」、「Chicago sky blue」は、正常細胞、癌細胞共に赤い蛍光を発していることが分かる。厚生労働省認可済の食品添加物からは、750、800、850、そして900 nmの全ての領域の光子励起により赤色可視光でGFP-RasV12陽性の癌化細胞小集団に正常細胞に比べて濃くラベルされる化合物としてFast Green FCF、Erythrosine、そしてPhloxineの3種(図17、18、19)を同定した。図17から図19においては、各中央の図では癌細胞が強い蛍光を発して観察されていることが分かる。また癌化細胞小集団と正常細胞の両方がラベルされる化合物としてRose Bengal sodium salt、Acid red、そしてハイレッドV80(ムラサキイモ色素)の3種(図20、21、22)を同定した。図20から図22の各中央の図では正常細胞、癌細胞ともに赤い蛍光を発していることが分かる。
【実施例2】
【0138】
つまり、GFP-RasV12陽性の癌化細胞小集団に正常細胞に比べて濃くラベルされる化合物としてMeclocycline sulfosalicylate、Methacycline hydrochloride、Merbromin、Fast Green FCF、Erythrosine、そしてPhloxineの6種、MDCK正常細胞に癌化細胞小集団に比べて濃くラベルされる化合物としてMitoxantrone dihydrochlorideそしてDoxorubicin hydrochlorideの2種、癌化細胞小集団と正常細胞の両方がラベルされる化合物として、Pyrvinium pamoate、Chicago sky blue 6B、Rose Bengal sodium salt、Acid red、そしてハイレッドV80(ムラサキイモ色素)の5種を同定した。
FDA認可済の化合物1200種類のPrestwick Chemical Libraryの中から同定した化合物は、すべて1 μMの濃度の染色剤で細胞が染まる。また、厚生労働省認可済の食品添加物の中から同定した食品添加物はすべて1 mg/mlの濃度で細胞が染まった。上記したように癌細胞、正常細胞のどちらかが特異的に染色され蛍光を発する物質と、両方が染色される物質を混合して用いることで検出精度を上げる、両組織の境界付近を見極めることが容易になる。このようにして境界付近の正常細胞も削除するなどにより偽陰性の判定を防ぎ、再発防止策に有効に使用できるものである。ここで使用したレポーター遺伝子「GFP」は、癌細胞を濃くラベルものとして利用したが、正常細胞を濃くラベルするレポータ遺伝子を用いても、同様の評価ができる。
【実施例3】
【0139】
1.色素化合物の染色性評価
8週齢のC57B6マウス(オス、約20 g)に2% (w/v) デキストラン硫酸ナトリウム (DSS)を含む飲水を7日間与えた。5%抱水クロラール0.2 mlを腹腔内注射して麻酔した後、マウスの腹壁を約1cm縦に切開し、消化管を約1cm腹壁上に持ち上げた。ここで、消化管への血流は腸間膜付着部に流入する血管によって保たれる。消化管を、腸間膜付着部の反体側で筋層と粘膜を含めて約1cm縦に切開した。腸間膜付着部の反対側を切開するのは、血管の切断・損傷を防ぎ、出血を最小限にするためである。消化管の切開部位を上下に開くと内部に、食物の通路である消化管粘膜面が見えた。ここに食物消化物がある場合にはティッシュペーパーでふき取った。
【実施例3】
【0140】
消化管粘膜面をさらにクリアに観察するために、粘膜面に1%プロナーゼ溶液を滴下し、15分間、静かに置いた。このプロナーゼ処理により、粘膜表面の粘液が除去され、細胞構造が見やすくなった。続いて、粘膜表面からプロナーゼを除去し、生理的食塩水(PBS)で洗浄した。
【実施例3】
【0141】
金属リング(外形16ミリ、内径6ミリ)を実験台に置き、片側の面に全周性に瞬間接着剤(アロンアルファ)を塗った。ピンセットを用いて瞬間接着剤を塗った金属リングを接着剤塗布面が下になるように保持し、プロナーゼ処理した粘膜面の上に静置した。約5分間、金属リングを瞬間接着剤で粘膜に固定し、色素化合を適用する領域をPBSで洗浄した。
【実施例3】
【0142】
粘膜表面が乾燥しないように、プロナーゼ処理した粘膜面の上に、クルクミンストック溶液またはスルフレチンストック溶液を生理的食塩水(PBS)で希釈した溶液(希釈倍率は表1を参照)を一滴滴下し、1分間、静置し、PBSで3回洗浄し、金属リング上にカバーガラスを乗せ、多光子レーザ顕微鏡(オリンパス社製FV1000MPE)の対物レンズをカバーガラスの上から近づけ、画像を観察した。上記色素化合物の染色性評価ステップの説明に対応する図として図33を示す。
【実施例3】
【0143】
色素化合物を評価するのに使用した条件等及び評価結果について以下の表に示す。
【表4】
JP2014157703A1_000006t.gif
◎:画像診断に理想的な明るさとコントラストを持つ画像;○:画像診断に十分な明るさとコントラストを持つ画像;×:画像診断に不十分な明るさとコントラストを持つ画像;△は○と×の中間の状態
【実施例3】
【0144】
多光子レーザ顕微鏡による観察において、クルクミン、スルフレチンで粘膜表面塗布した場合の蛍光画像取得に必要な光子量は、それぞれ無染色の場合の3%、4%で十分であった(結果は示さず)。
【実施例3】
【0145】
2.正常部と癌腫瘍部の染色パターンの比較
続いて、大腸粘膜面に直径2~4ミリのキノコ状隆起(癌)が確認されたマウスの大腸を染色したところ(プロナーゼ処理無し)、クルクミンとスルフレチンはいずれも正常粘膜より癌病変部を顕著により濃く染色した。クルクミンで染色した結果を図23に示す(対物10倍;Zスタック画像)。
【実施例3】
【0146】
更に、1%プロナーゼMSで15分処理した場合のクルクミンの染色パターンを図24に示す(強拡大、対物25倍)。驚くべきことに、粘膜表面のプロナーゼ処理有り無しにかかわらず、クルクミンはいずれも正常粘膜より癌病変部を顕著により濃く染色することが明らかになった。スルフレチンについても同様である(結果は示さず)。尚、いずれの染色写真も正常部及び癌腫瘍部は同一条件で撮影した。
【実施例3】
【0147】
理論に拘束されることを意図するものではないが、癌病変部を濃く染色する理由としては、細胞接着が強く細胞間の間隙がほとんどない正常粘膜に対して、癌病変部では細胞同士の接着が弱く細胞間に隙間が多いため、その間隙に色素が残留しやすいことが挙げられる。第二の可能性としては、細胞分裂の早い癌細胞の方が、細胞外の親油性物質(多くの色素は、油に良く溶ける性質を持つ)の取り込み活性が、正常細胞よりも高まっているためとも考えられる。尚、結果は示さないが、色素の粘膜上皮表面塗布で癌細胞が正常細胞より濃く染まる性質は、単層培養細胞でも確認できた。
【実施例3】
【0148】
更に、マウス大腸癌の多光子レーザ顕微鏡画像を取得し、当該癌の形態的特徴である異型性を確認した。クルクミンを用いた結果を図25に示す。この結果から、癌の検出に必要な構造異型性と細胞異型性を確認できた。図25(a)では、細胞集団が基底膜の上に整列して配列しておらず、また、腺構造を形成していないことから、構造異型が確認された。一方、図3(b)では、細胞異型、例えば個々の細胞の大小不同、大きな核、不均一な位置、極性不均一、及び細胞接着の解離が確認された。
【実施例3】
【0149】
3.その他の染色性の検討
更に、クルクミンとスルフレチンはマウス大腸の粘膜表面に塗布された場合に多光子レーザで強く励起され、明るい画像を提供した。結果を図26に示す。色素化合物の投与から観察までの手順は上述の染色性評価の項目で記載したとおりに行った(以下同様)。また、粘膜表面への色素の投与濃度はクルクミンが5 mg/mlで、スルフレチンは1 mg/mlとした。
【実施例3】
【0150】
更に、クルクミンとスルフレチンの上皮細胞・腺細胞系を優先的に染色する特性について確認した。結果を図27A及びBに示す。これらの色素は上皮細胞・腺細胞系を濃く、そして結合組織・毛細血管系を淡く染色した。
【実施例3】
【0151】
4.レーザ照射による癌細胞の排除
上記手順により染色された細胞のうち、癌細胞を多光子レーザ照射によりピンポイントで排除した。ここで、排除すべき癌細胞は、検出に用いた画像の座標軸をそのまま利用して照準を合わせた。照射条件はレーザパワーを45%程度、照射時間を2~10秒間とした。結果を図28A及びBに示す。
【実施例3】
【0152】
更に、レーザパワーを100%、照射時間を20秒に変更し、消化管粘膜表面で検出された直径0.5ミリの癌細胞を完全に排除することに成功した(図29)。また、結果は示さないが、より少量の光の量で細胞膜の一部分にレーザ照射した場合でも細胞膜を破壊して癌細胞を排除することができた。
【実施例3】
【0153】
マウス膀胱上皮細胞をクルクミン染色なしで、細胞の自家蛍光で、レーザパワーを82%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真(図30A)では、画像が暗く、コントラストも低く、診断には不十分な細胞画像であったが、マウス膀胱上皮細胞をクルクミン染色して、レーザパワーを3%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真(図30B)では、診断に十分な明るさとコントラストの画像が得られた。
【実施例3】
【0154】
マウス気管上皮細胞をクルクミン染色なしで、細胞の自家蛍光で、レーザパワーを82%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真(図31(a))では、画像が暗く、コントラストも低く、診断には不十分な細胞画像であったが、マウス気管上皮細胞をクルクミン染色して、レーザパワーを3%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真(図31(b))では、診断に十分な明るさとコントラストの画像が得られた。
【実施例3】
【0155】
外科手術的に切除されたヒトの新鮮な胃粘膜についても同様に染色した。ヒト正常胃粘膜部位をクルクミン染色して、レーザパワーを1%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真を図32(a)に示す。同図では、円形に配列した正常上皮細胞が染色され、ほぼ均一な大きさの円形構造を形成している。円形構造の中心が胃底腺の出口である。このように、大きさにおいて大小不同のない上皮細胞が円形に配列するという正常組織の特徴が確認できた。一方、同様に得られた新鮮なヒト胃粘膜における胃癌部位をクルクミン染色して、レーザパワーを1%にして撮影した多光子レーザ顕微鏡写真を図32(b)に示す。同図では、癌細胞が染色され、細胞の大きさの大小不同が顕著で、細胞の配列も不規則である。各細胞で黒く抜けている楕円形の場所は核である。このように、大きさにおいて大小不同が著しい細胞が不規則に配列するという癌組織の特徴が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の生体染色剤によれば、従来の多光子レーザ顕微鏡下での自家蛍光観察と比較して細胞に対する紫外線による遺伝子障害や、熱による障害などの光障害等を顕著に抑制することができ、また、細胞組織形態を高コントラストで画像化することができる。よって、本発明の生体染色剤は消化器官を含み、上皮細胞・腺細胞系、結合組織・毛細血管系の細胞等、広くその他の病理組織診断等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0157】
11 多光子レーザ診断治療装置
13 レーザ発振器
17 二次元走査器
19 ダイクロイックミラー
21 対物レンズ
23 集光深さ調節器
25 光検出器
27 蛍光画像生成装置
29 モニタ
31 制御装置
33 動作制御部
35 診断用パルス強度設定部
37 治療用パルス強度設定部
39 照射範囲設定部
41 照射時間設定部
43 レーザ照射ヘッド
45 患者固定台
47 移動装置
49 内視鏡
50 光学系
51 シールド部材
52 組織
53 空間
54 通気口
55 通気口
56 給液口
57 排液口
61 シールド部材付内視鏡
62 先端部
63 挿入部
64 鉗子口
65 鉗子
66 アングルノブ操作部
67 接眼部
68 接眼レンズ
69 送気、送水操作部
70 吸引操作部
71 接続部
72 ライトガイド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図22B】
5
【図22C】
6
【図33】
7
【図6A】
8
【図6B】
9
【図6C】
10
【図6D】
11
【図7A】
12
【図7B】
13
【図8A】
14
【図8B】
15
【図9A】
16
【図9B】
17
【図10】
18
【図11】
19
【図12】
20
【図13】
21
【図14】
22
【図15】
23
【図16】
24
【図17】
25
【図18】
26
【図19】
27
【図20】
28
【図21】
29
【図22A】
30
【図23】
31
【図24】
32
【図25】
33
【図26】
34
【図27A】
35
【図27B】
36
【図28A】
37
【図28B】
38
【図29】
39
【図30】
40
【図31】
41
【図32】
42