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明細書 :LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、及び腫瘍細胞増殖抑制ペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6176800号 (P6176800)
登録日 平成29年7月21日(2017.7.21)
発行日 平成29年8月9日(2017.8.9)
発明の名称または考案の名称 LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、及び腫瘍細胞増殖抑制ペプチド
国際特許分類 C12N  15/113       (2010.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12N   5/09        (2010.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAG
C07K 14/47
C12N 5/09
A61K 31/7105
A61K 38/00
A61P 35/00
A61P 43/00 105
請求項の数または発明の数 11
全頁数 39
出願番号 特願2015-511230 (P2015-511230)
出願日 平成26年4月2日(2014.4.2)
国際出願番号 PCT/JP2014/059780
国際公開番号 WO2014/168064
国際公開日 平成26年10月16日(2014.10.16)
優先権出願番号 2013082272
2013173696
優先日 平成25年4月10日(2013.4.10)
平成25年8月23日(2013.8.23)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成27年9月17日(2015.9.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
発明者または考案者 【氏名】中村 悟己
【氏名】椙村 春彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100086379、【弁理士】、【氏名又は名称】高柴 忠夫
【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
審査官 【審査官】松岡 徹
参考文献・文献 特開2010-268690(JP,A)
特表2009-528826(JP,A)
Database Genbank [online], Accession No. AAH35727.1,2006年,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AAH35727.1
Database Genbank [online], Accession No. AES01134.1,2012年,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AES01134.1
GRIGORIADIS A et al., Molecular characterisation of cell line models for triple-negative breast cancers,Grigoriadis et al.,BMC Genomics,2012年,13:619
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/BIOTECHDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq/PDB
特許請求の範囲 【請求項1】
LIX1L遺伝子を高発現している腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の細胞を除く。)に対して、LIX1L遺伝子の発現又は機能を抑制させる、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法。
【請求項2】
RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制する、請求項1に記載のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法。
【請求項3】
RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することが、配列番号3又は4で表される塩基配列を含むshRNA若しくはsiRNA、又は前記shRNA若しくは前記siRNAを細胞内で生産するベクターを細胞内に導入すること、を含む、請求項2に記載のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法。
【請求項4】
LIX1L蛋白質のチロシンのリン酸化を、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって、136番目のチロシンを含む部分配列を含むペプチドを用いて阻害することを含む、請求項1に記載のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法。
【請求項5】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって、136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含み、前記136番目のチロシンを含む部分配列が、8個以上、35個以下のアミノ酸からなる、腫瘍細胞増殖抑制ペプチド。
【請求項6】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドと、細胞膜透過能を有する部位とが、直接又は間接的に結合している腫瘍細胞増殖抑制ペプチド。
【請求項7】
前記136番目のチロシンを含む部分配列が、8個以上、35個以下のアミノ酸からなる、請求項に記載の腫瘍細胞増殖抑制ペプチド。
【請求項8】
前記細胞膜透過能を有する部位が、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項6又は7に記載の腫瘍細胞増殖抑制ペプチド。
【請求項9】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含む腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、又は、請求項5~8のいずれか一項に記載の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを有効成分とする医薬用組成物。
【請求項10】
抗腫瘍剤である、請求項9に記載の医薬用組成物。
【請求項11】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含む腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、又は、請求項5~8のいずれか一項に記載の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを、LIX1L高発現腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の細胞を除く。)に導入すること、を含む、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、LIX1Lを高発現している腫瘍細胞(LIX1L高発現腫瘍細胞)の細胞増殖抑制作用を有するペプチド、及びこのペプチドを用いたLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法に関する。
本願は、2013年4月10日に、日本に出願された特願2013-082272号、及び2013年8月23日に、日本に出願された特願2013-173696号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、悪性腫瘍に用いる抗腫瘍剤は、代謝拮抗薬(Ara-C、メソトレキセート等)、植物アルカロイド(ビンクリスチン)、アルキル化剤(エンドキサン)、抗癌抗生物質(アドリアマイシン、イダルビシンマイトマイシン等)、白金製剤(シスプラチン)等、数多く知られている。中でも、ポリペプチド剤としては、ヒトインターフェロン-γポリペプチド(例えば、特許文献1参照。)や、ヒト腫瘍壊死因子(TNF)又はその変換体の一部からなるポリペプチド(例えば、特許文献2参照。)等が挙げられる。特に近年は、腫瘍特異性の高い分子標的治療薬(イマチニブ等)、モノクローナル抗体(リツキシマブ等)等が目覚ましい進歩を認め、治療効果も高くなってきている。しかしながら、イマチニブ等の抗腫瘍剤は、抗腫瘍効果スペクトルが狭く、腫瘍ごとに薬剤を選択しなければならないことに加えて、薬剤耐性の問題もある。このため、医療の場では常に、より有効で抗腫瘍効果スペクトルが広い薬剤が求められている。
【0003】
一方で、ヒトのLIX1L(Lix1 homolog-like、以下hLIX1Lということがある。)遺伝子は、337個のアミノ酸からなるLIX1L蛋白質をコードする構造遺伝子である。LIX1Lの分子生物学的な役割については未だ不明であるが、その発現量が細胞種によって異なることが報告されている。例えば特許文献3では、LIX1L遺伝子は、AhRアゴニストであってCYP1A1により活性化される化合物に対して感受性のある細胞と感受性のない細胞において、発現量に統計学的な有意差(P<1.0×10-5)が存在する266種の遺伝子のうちの1つであったことが報告されている。また、特許文献4では、アレルギーに応じて発現量が増大又は減少する多数の遺伝子群のうちの1つとしてLIX1L遺伝子が挙げられている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平5-320200号公報
【特許文献2】特開平5-271290号公報
【特許文献3】特開2010-268690号公報
【特許文献4】特表2009-528826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、広い抗腫瘍効果スペクトルをもつ新規ポリペプチド、及びこのポリペプチドを用いて腫瘍細胞の細胞増殖を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、LIX1L高発現腫瘍細胞において、LIX1L遺伝子の発現を抑制することによって細胞増殖が抑制されること、LIX1Lの特定のチロシン残基を含む部分ペプチドが、LIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖抑制作用を有すること、及びLIX1L蛋白質の特定のチロシン残基のリン酸化を阻害することによってLIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖抑制作用を有すること、を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
(1) 本発明の第一の態様は、LIX1L遺伝子を高発現している腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の細胞を除く。)に対して、LIX1L遺伝子の発現又は機能を抑制させる、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法である。
(2) 前記(1)のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法においては、RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することが好ましい。
(3) 前記(2)のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法においては、RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することが、配列番号3又は4で表される塩基配列を含むshRNA若しくはsiRNA、又は前記shRNA若しくは前記siRNAを細胞内で生産するベクターを細胞内に導入することであることが好ましい。
(4) 前記(1)のLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法においては、LIX1L蛋白質のチロシンのリン酸化を、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって、136番目のチロシンを含む部分配列を含むペプチドを用いて阻害することを含むことが好ましい。
(5) 本発明の第二の態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって、136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含み、前記136番目のチロシンを含む部分配列が、8個以上、35個以下のアミノ酸からなる、腫瘍細胞増殖抑制ペプチドである。
(6)本発明の第三の態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドと、細胞膜透過能を有する部位とが、直接又は間接的に結合している、腫瘍細胞増殖抑制ペプチドである
(7)前記6)の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドとしては、前記136番目のチロシンを含む部分配列が、8個以上のアミノ酸からなることが好ましい。
(8) 前記(6)又は(7)の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドとしては、前記細胞膜透過能を有する部位が、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましい。
(9) 本発明の第の態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含む腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、又は、前記(5)~(8)のいずれかの腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを有効成分とする医薬用組成物である。
(10) 前記(9)の医薬用組成物は、抗腫瘍剤であることが好ましい。
(11) 本発明の第の態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって136番目のチロシンを含む部分配列からなるポリペプチドを含む腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、又は、前記(5)~(8)のいずれかの腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを、LIX1L高発現腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の細胞を除く。)に導入すること、を含む、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LIX1L高発現腫瘍細胞のLIX1L遺伝子の発現又は機能を抑制することによって、この腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することができる。
特に、本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、LIX1L高発現腫瘍細胞に対して増殖阻害活性を示すが、LIX1L低発現腫瘍細胞やLIX1L遺伝子発現がほとんどみられない正常細胞に対しては増殖阻害活性を示さない。つまり、本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、正常細胞に対して細胞毒性を示さないにもかかわらず広い抗腫瘍効果スペクトルをもつため、抗腫瘍剤として非常に有用であり、この腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを用いることにより、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】参考例1において、胃癌臨床検体を免疫組織化学染色した結果から得られた、各種胃癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数を示した図である。
【図1B】参考例1において、各種胃癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示した図である。
【図1C】参考例1において、胃癌臨床検体を免疫組織化学染色した結果から得られた、各種胃癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数を示した図である。
【図1D】参考例1において、各種胃癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示した図である。
【図1E】参考例1における全胃癌臨床検体について、分化型腫瘍と未分化型腫瘍ごとに、LIX1L陽性検体と陰性検体の数を示した図である。
【図1F】参考例1において、分化型腫瘍と未分化型腫瘍におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示した図である。
【図2A】参考例2において、各種癌臨床検体を免疫組織化学染色した結果から得られた、各種癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数を示した図である。
【図2B】参考例2において、各癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示した図である。
【図3A】参考例3において、RT-PCR法によって増幅した2種の胃癌細胞株のLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントをエチジウムブロマイド染色した結果を示した図である。
【図3B】参考例3において、RT-PCR法により測定した2種の胃癌細胞株におけるLIX1L遺伝子のmRNAの発現量の相対値を表した図である。
【図3C】参考例3において、2種の胃癌細胞株におけるLIX1L遺伝子の発現量を、ウェスタンブロット法により測定した結果を示した図である。
【図4A】参考例4において、RT-PCR法によって増幅した3種の造血器腫瘍細胞株のLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントをエチジウムブロマイド染色した結果を示した図である。
【図4B】参考例4において、RT-PCR法により測定した3種の造血器腫瘍細胞株におけるLIX1L遺伝子のmRNAの発現量の相対値を表した図である。
【図4C】参考例4において、3種の造血器腫瘍細胞株におけるLIX1L遺伝子の発現量を、ウエスタンブロット法により測定した結果を示した図である。
【図5A】実施例1において用いたshRNA#1の塩基配列を示した図である。
【図5B】実施例1において用いたshRNA#2の塩基配列を示した図である。
【図6A】実施例1において、HL-60株のshRNA処理による生細胞数の経時変化を示した図である。
【図6B】実施例1において、HL-60株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量をRT-PCR法により測定した結果を示した図である。
【図6C】実施例1において、RT-PCR法により測定したHL-60株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子のmRNAの発現量の相対値を表した図である。
【図7A】実施例1において、K562株のshRNA処理による生細胞数の経時変化を示した図である。
【図7B】実施例1において、K562株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量をRT-PCR法により測定した結果を示した図である。
【図7C】実施例1において、RT-PCR法により測定したK562株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子のmRNAの発現量の相対値を表した図である。
【図8A】実施例1において、KATO-III株のshRNA処理による生細胞数の経時変化を示した図である。
【図8B】実施例1において、KATO-III株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量をRT-PCR法により測定した結果を示した図である。
【図8C】実施例1において、RT-PCR法により測定したKATO-III株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量の相対値を示した図である。
【図9A】実施例1において、OCUM-1株のshRNA処理による生細胞数の経時変化を示した図である。
【図9B】実施例1において、OCUM-1株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量をRT-PCR法により測定した結果を示した図である。
【図9C】実施例1において、RT-PCR法により測定したOCUM-1株のshRNA処理による72時間培養後のLIX1L遺伝子の発現量の相対値を示した図である。
【図10】実施例2において用いたペプチドのアミノ酸配列を示した図である。
【図11A】実施例2において、各ペプチドを添加して培養した後のHL-60株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図11B】実施例2において、各ペプチドを添加して培養した後のHL-60株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図11C】実施例2において、各ペプチドを添加して培養した後のRPMI8226株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図11D】実施例2において、各ペプチドを添加して培養した後のKATO-III株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図11E】実施例2において、各ペプチドを添加して培養した後のOCUM-1株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図12A】実施例3において、HL-60株に対して、各ペプチドを添加して培養した場合の生細胞数の経時変化を示した図である。
【図12B】実施例3において、K562株に対して、各ペプチドを添加して培養した場合の生細胞数の経時変化を示した図である。
【図12C】実施例3において、RPMI8226株に対して、各ペプチドを添加して培養した場合の生細胞数の経時変化を示した図である。
【図13A】LIX1L蛋白質のアミノ酸配列を示した図である。
【図13B】実施例4において用いたペプチド1~3及びコントロールペプチドのアミノ酸配列を示した図である。
【図14A】実施例4において、各ペプチドを添加して培養した後のU937株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図14B】実施例4において、各ペプチドを添加して培養した後のK562株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図14C】実施例4において、各ペプチドを添加して培養した後のRPMI8226株の細胞に対してMTTアッセイを行った場合の、培養液に添加したペプチドの濃度と570nmの吸光度の関係を示した図である。
【図15】参考例5において、HEK293株にFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた恒常発現株のライセートに対して抗FLAG抗体による免疫沈降を行い、得られた沈降物に対してウェスタンブロットを行った結果を示した図である。
【図16A】参考例6において、RT-PCR法によって増幅した各株のLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントをエチジウムブロマイド染色した結果を示した図である。
【図16B】参考例6において、RT-PCR法によって増幅した各株のLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントをエチジウムブロマイド染色した結果を示した図である。
【図16C】参考例6において、RT-PCR法によって増幅した各株のLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントをエチジウムブロマイド染色した結果を示した図である。
【図17A】実施例5において、Flp-In-293株株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図17B】実施例5において、Flp-In-293株にFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図18A】実施例5において、MKN45株の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図18B】実施例5において、NUGC-4株の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図19A】実施例5において、HL-60株の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図19B】実施例5において、K562株の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図19C】実施例5において、U937株(C)の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)を示した図である。
【図20】実施例6において、HEK293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)と、FLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)と、293FLG/LIX1Lにペプチド1を導入した細胞(293FLG/LIX1L/ペプチド1)について、形成されたコロニーの数を測定した結果を示した図である。
【図21】実施例7において、各マウスにおける、ペプチド溶液を投与した時点と腫瘍部の体積を経時的に測定した結果を示した図である。
【図22A】実施例8において、Flp-In-293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図22B】実施例8において、Flp-In-293株にFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図22C】実施例8において、K562株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図22D】実施例8において、MKN45株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図22E】実施例8において、NUGC-4株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図23A】比較例1において、Flp-In-293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図23B】比較例1において、Flp-In-293株にFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図23C】比較例1において、K562株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図23D】比較例1において、MKN45株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図23E】比較例1において、NUGC-4株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図24A】比較例2において、Flp-In-293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図24B】比較例2において、Flp-In-293株にFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図24C】比較例2において、K562株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図24D】比較例2において、MKN45株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図24E】比較例2において、NUGC-4株のMTTアッセイの結果を示した図である。
【図25A】実施例9において、HEK293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)と、FLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)と、293FLG/LIX1Lにペプチド1を導入した細胞(293FLG/LIX1L/PY136)について、それぞれ細胞質と核分画に分離し、これらのライセートに対して抗FLAG抗体による免疫沈降を行い、得られた沈降物に対してチロシンリン酸化抗体を用いてウェスタンブロットを行った結果を示した図である。
【図25B】実施例9において、HEK293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)と、FLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)と、293FLG/LIX1Lにペプチド1を導入した細胞(293FLG/LIX1L/PY136)についてコロニーフォーメーションアッセイを行った結果、及び光学顕微鏡にて撮影したコロニーの状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
LIX1L遺伝子は、ヒトの染色体1q21.1領域に存在する構造遺伝子であり、正常細胞ではほとんど発現しておらず、多くの腫瘍細胞において発現が亢進している遺伝子である。
なお、本明細書で用いる「腫瘍」という用語は、遺伝子変異によって自律的で制御されない増殖を行うようになった細胞集団のなかで周囲の組織に浸潤し、また転移を起こす腫瘍である悪性腫瘍(癌ともいう。)を意味し、各種肉腫及び癌腫を含み、固形癌及び造血器癌を含む。
ここで、固形がんは、例えば、脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、甲状腺癌、小細胞肺癌、 非小細胞肺癌、乳癌、肺癌、胃癌、胆のう・胆管癌、肝癌、肝細胞癌、滕癌、膵臓癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、卵巣癌、絨毛上皮癌、子宮体癌、子宮頸癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、睾丸癌、胎児性癌、ウィルス腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨 肉腫、ユーイング腫、軟部肉腫等が挙げられる。一方、造血器癌としては、例えば、急性白血病、慢性 リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、真性多血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ 腫、非ホジキンリンパ腫等が挙げられる。
LIX1L(hLIX1L)遺伝子がコードするhLIX1L蛋白質のアミノ酸配列を配列番号1に、LIX1L遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号2に、それぞれ示す(EMBLのアクセッション番号:NM_153713.1)。

【0012】
腫瘍細胞は、LIX1L遺伝子が高発現しているLIX1L高発現腫瘍細胞と、LIX1L遺伝子の発現が低い(発現量が検出限界値未満を含む。)LIX1L低発現腫瘍細胞とに分けられる。LIX1L高発現腫瘍細胞は、臓器や分化の程度、原発性か転移性かによらず、多くの腫瘍においてみられる。特に、いずれの臓器においても、分化腫瘍細胞よりも未分化腫瘍細胞において、LIX1L高発現腫瘍細胞の発現頻度が高い。実際に、発明者らが多くの固形腫瘍(胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌)の患者について調べたところ、約20~60%がLIX1L陽性腫瘍であった(後記参考例1及び2参照。)。

【0013】
本発明及び本願明細書において、「LIX1L高発現腫瘍細胞」とは、LIX1L遺伝子の発現量が、正常細胞と比較しその遺伝子発現が8倍以上である腫瘍細胞を意味し、「LIX1L低発現腫瘍細胞」とは、LIX1L高発現腫瘍細胞以外の腫瘍細胞を意味する。つまり、ある腫瘍細胞がLIX1L高発現腫瘍細胞かLIX1L低発現腫瘍細胞かは、この腫瘍細胞におけるLIX1L遺伝子の発現量を測定することによって判別できる。基準となる正常細胞としては、LIX1L高発現腫瘍細胞か否かを判別する対象である腫瘍細胞と同じ組織由来の正常細胞であってもよく、異なる組織由来の正常細胞であってもよい。例えば、健常人から採取・分離された末梢血単核球を正常細胞とすることができる。

【0014】
LIX1L遺伝子の発現量は、蛋白質レベルで比較してもよい。例えば、ウェスタンブロット法により、LIX1L遺伝子の発現量を定量的に検出することができる。具体的には、ウェスタンブロット法にて検出できるバンドを、デンシトメトリ—によりバンドのシグナルを数値化することにより、腫瘍細胞から検出されたシグナルが、正常細胞から検出されたシグナルの8倍以上である場合、「強いシグナル」と判断し、腫瘍細胞から検出されたシグナルが、正常細胞から検出されたシグナルの8倍未満である場合「弱いシグナル」と判断することができる。
また、腫瘍細胞の細胞ライセートを電気泳動して分離した後に膜に転写し、この膜上のLIX1L蛋白質を抗LIX1L抗体を用いて検出した場合には、LIX1L蛋白質と結合した抗LIX1L抗体から得られたシグナルをデンシトメトリーによって測定したシグナル強度が、正常細胞から同様にして測定されたシグナル強度の8倍以上である腫瘍細胞がLIX1L高発現腫瘍細胞であり、正常細胞から同様にして測定されたシグナル強度の8倍未満である腫瘍細胞がLIX1L低発現腫瘍細胞であると判断することができる。

【0015】
LIX1L遺伝子の発現量は、mRNAレベルで比較してもよい。例えば、後記参考例3等で示すように、RT-PCR法等の核酸増幅反応を利用して、LIX1L遺伝子の発現量を定量的に検出することができる。具体的には、例えば、腫瘍細胞から抽出されたRNAから逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型としてLIX1L遺伝子のcDNAの全長又は一部分を増幅するPCRを行った場合には、得られた増幅産物量が、正常細胞から同様にして得られた増幅産物量の8倍以上である腫瘍細胞がLIX1L高発現腫瘍細胞であり、それ以外の腫瘍細胞がLIX1L低発現腫瘍細胞であると判断できる。

【0016】
LIX1L高発現腫瘍細胞に対して、LIX1L遺伝子の発現を抑制させることにより、LIX1L高発現腫瘍細胞における細胞増殖を抑制することができる。このLIX1L遺伝子発現抑制による細胞増殖抑制効果は、発現抑制前の腫瘍細胞のLIX1L遺伝子の発現量が多いほど大きい傾向にある。また、LIX1L低発現腫瘍細胞に対して、LIX1L遺伝子の発現を抑制させた場合には、このような細胞増殖抑制効果は検出できない。

【0017】
LIX1L遺伝子発現抑制により細胞増殖抑制効果が得られることから、LIX1L遺伝子は細胞増殖に関与する遺伝子であり、LIX1L遺伝子が高発現している細胞では、この細胞の増殖にLIX1L蛋白質が大きな役割を果たしており、LIX1L遺伝子が癌遺伝子としての機能があることが示唆される。LIX1L低発現腫瘍細胞では、細胞増殖に対するLIX1L蛋白質の役割が小さく、他の成分によって増殖が亢進されているため、LIX1L遺伝子の発現を抑制させても細胞増殖抑制効果が観察されないのではないかと推察される。

【0018】
なお、LIX1L遺伝子の機能は従来知られておらず、細胞の腫瘍化の一因となる癌遺伝子なのか、それとも腫瘍化によって発現が亢進する遺伝子なのかについては何ら明らかにされてはいない。LIX1L遺伝子の発現抑制によりLIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖が抑制されること、つまり、LIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖にLIX1L遺伝子が寄与していることは、本発明者らが初めて見出した知見である。

【0019】
LIX1L遺伝子の発現を抑制する方法としては特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの手法を用いてもよい。本発明においては、臨床への適用が可能であることから、RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することが好ましい。RNA干渉は、LIX1L遺伝子のcDNAの部分領域(RNAi標的領域)のセンス鎖とアンチセンス鎖からなる二本鎖構造を有するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)又はmiRNA(micro RNA)を、LIX1L高発現腫瘍細胞内へ導入することにより行うことができる。
なお、細胞へ直接siRNA等を導入させてもよく、細胞内においてsiRNA等を生産させることができるRNAi誘導ベクターを細胞内へ導入させてもよい。siRNA、shRNA、RNAi誘導ベクターの作製、及び細胞への導入等は、常法により行うことができる。例えば、siRNA及びshRNAは化学合成により合成することができる。また、RNAi誘導ベクターの作製は、例えば、市販のsiRNA発現ベクターに化学合成したsiRNA又はshRNAを組み込むことにより行うことができる。
siRNA、shRNA、又はRNAi誘導ベクターの細胞への導入は、例えば、トランスフェクション試薬(例えば、リポフェクタミン(登録商標));金コロイド、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター等の各種ウイルスベクター;及び様々な元素を組み合わせて作成したナノ粒子:等による導入が挙げられる。
また、RNAi誘導ベクターは、市販の各種RNAiベクターの塩基配列に、RNAi標的領域の塩基配列を挿入することによって作製することもできる。

【0020】
例えば、LIX1L遺伝子のcDNA中のRNAi標的領域を、配列番号3又は4で表される塩基配列からなる領域とすることにより、RNA干渉によって効率よくLIX1L遺伝子の発現を抑制することができる。具体的には、配列番号3又は4で表される塩基配列を含むshRNA、siRNA、若しくはmiRNA、又はこれらを細胞内で生産するベクターをLIX1L高発現腫瘍細胞の細胞内へ導入する。配列番号3で表される塩基配列を含むshRNAとしては、例えば、塩基配列5で表される塩基配列からなる二本鎖核酸が挙げられ、配列番号4で表される塩基配列を含むshRNAとしては、例えば、塩基配列6で表される塩基配列からなる二本鎖核酸が挙げられる。
即ち、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法としては、RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することを含むLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であり、前記RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるshRNA若しくはsiRNA、又は前記shRNA若しくは前記siRNAを細胞内で生産するベクターを細胞内に導入すること、を含むLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法が挙げられる。
また、配列番号3又は4で表される塩基配列を含むshRNA、siRNA、若しくはmiRNA、又はこれらを細胞内で生産するベクターは、適宜化学修飾等を行って、本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドと同様に製剤化することもできる。

【0021】
LIX1L遺伝子の発現抑制のみならず、LIX1L遺伝子の機能を抑制することによっても、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖抑制効果が得られる。LIX1L遺伝子の機能を抑制する方法としては、LIX1L蛋白質の不活性変異体や、機能や活性に必要な部分領域を欠損している部分蛋白質やペプチドを細胞内に過剰に導入する方法が挙げられる。

【0022】
中でも、LIX1L蛋白質中のシグナル伝達に関与する部分領域と相同的なペプチド又は部分蛋白質であって、伝達されたシグナルに応答するための機能ドメインを欠損しているペプチド(以下、「本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチド」という。)を細胞内へ導入する方法が好ましい。腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、LIX1L高発現腫瘍細胞の細胞内において内在性のLIX1L蛋白質と競合するため、LIX1L蛋白質の発現を抑制した場合と同様に、LIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖を抑制し得る。

【0023】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドとしては、LIX1L蛋白質中、特定のシグナルの伝達によってリン酸化されるチロシン残基、セリン残基、又はスレオニン残基を含む部分領域と相同的なアミノ酸配列(以下、単に「リン酸化領域部分配列」ということがある。)を含むペプチドが挙げられる。多くの細胞において、細胞増殖等のシグナル伝達には、蛋白質のリン酸化が中心的な役割を果たしており、LIX1L蛋白質も、チロシン残基等のリン酸化により、細胞増殖シグナルに関与していると考えられるためである。
なお、本明細書及び請求の範囲における「腫瘍細胞増殖抑制ペプチド」は、C末端がアミド化されたペプチドを意味する。即ち、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、C末端のカルボキシル基がアミド化されて、-COONH2となっている。

【0024】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドとしては、例えば、LIX1L蛋白質のN末端から136番目のチロシン(Y136)を含むポリペプチド(以下、「Y136含有ペプチド」という。)が挙げられる。Y136含有ペプチドを細胞内へ導入することによって、LIX1L高発現腫瘍細胞の細胞増殖を抑制することができる。Y136含有ペプチドとしては、具体的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列の部分配列であって、Y136を含む部分配列(Y136含有部分配列)をリン酸化領域部分配列として含むポリペプチドである。
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、例えば、化学合成により合成することができる。

【0025】
Y136含有部分配列におけるY136の位置は、特に限定されるものではなく、Y136含有部分配列のN末端付近やC末端付近であってもよいが、Y136含有部分配列の中央付近であることが好ましい。また、Y136含有部分配列の長さ(アミノ酸数)は、このY136含有部分配列からなるポリぺプチドが、他のポリペプチドと識別可能な程度の長さがあればよく、8アミノ酸以上が好ましく、10アミノ酸以上がより好ましく、11アミノ酸以上がさらに好ましい。一方で、長すぎるポリペプチドは、一般的に細胞膜透過性が低くなる傾向にあり、また、生体内に投与された場合に抗原性を示すおそれもある。このため、Y136含有部分配列の長さは、35アミノ酸以下であることが好ましく、30アミノ酸以下であることがより好ましい。
即ち、Y136含有部分配列の長さは、8アミノ酸以上、35アミノ酸以下であることが好ましく、10アミノ酸以上、35アミノ酸以下であることがより好ましく、11アミノ酸以上、30アミノ酸以下であることがさらに好ましい。
なお、ここでいう「N末端付近」とは、N末端から5アミノ酸以内の位置を意味し、「C末端付近」とは、C末端から5アミノ酸以内の位置を意味する。「中央付近」とは、Y136含有部分配列の中央の位置から10アミノ酸以内の位置を意味する。
Y136含有部分配列としては、具体的には、N末端から130番目のプロリンから開始して136番目のチロシンを有する8アミノ酸を含む部分アミノ酸配列が好ましく、N末端から130番目のプロリンから開始して136番目のチロシンを有する11アミノ酸を含む部分アミノ酸配列がより好ましい。

【0026】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、Y136含有部分配列等のリン酸化領域部分配列のみからなるポリペプチドであってもよいが、さらに、細胞膜透過能を有する部位を有することが好ましい。本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが細胞膜透過能を有する部位を有することにより、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドをLIX1L高発現腫瘍細胞の細胞内へより効率よく導入させることができる。細胞膜透過能を有する部位としては、ポリペプチドからなる部位であってもよく、ポリペプチド以外の成分、例えば、糖や核酸、低分子化合物を含む部位であってもよい。また、この部位は、天然型のアミノ酸のみからなるポリペプチドであってもよく、修飾アミノ酸を含むポリペプチドであってもよい。ポリペプチドからなる細胞膜透過能を有する部位としては、例えば、HIV-1の TAT(Trans-Activator of Transcription Protein)蛋白質由来のTatペプチド、オリゴアルギニン、ショウジョウバエのAntennapedia蛋白質由来のPenetratin、神経ペプチドgalaninとハチ毒mastoparanのキメラペプチドであるtransportan等の膜透過性ペプチドが好ましく用いられる。

【0027】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが膜透過性ペプチド等の細胞膜透過能を有する部位を有する場合には、リン酸化領域部分配列からなるポリペプチドと細胞膜透過能を有する部位とは、直接結合していてもよく、各種リンカーを介して間接的に結合されていてもよい。
また、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、Y136含有部分配列等のリン酸化領域部分配列からなるポリペプチドがN末端側にあってもよく、細胞膜透過能を有する部位がN末端側にあってもよい。

【0028】
リンカーとしては、ポリペプチド同士又はポリペプチドと他の化合物とを連結することが可能なリンカーであれば特に限定されるものではないが、細胞膜透過性や抗原性のリスク等の点から、比較的小さい分子が好ましい。例えば、細胞膜透過能を有する部位が膜透過性ペプチドの場合、リンカーとしては、1~5個のアミノ酸(ε-アミノカプロン酸等の修飾アミノ酸を含むものであってもよい。)からなるリンカーが好ましい。リンカーとしては、ε-アミノカプロン酸の1アミノ酸がより好ましい。

【0029】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、細胞膜透過能を有する部位に加えて、又は細胞膜透過能を有する部位以外に、その他の機能性部位を有していてもよい。その他の機能性部位としては、リン酸化領域部分配列からなるポリペプチドによる増殖抑制機能を損なわない部位であれば特に限定されるものではない。その他の機能性部位としては、例えば、Hisタグ、Mycタグ、Flagタグ等の蛋白質の精製に汎用されているタグペプチド等が挙げられる。

【0030】
本発明の一実施態様である腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを細胞内へ導入するためには、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチド自体を細胞内へ導入させてもよく、細胞内において前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを生産させることができるベクターをLIX1L高発現腫瘍細胞に導入させてもよい。本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドやこれを生産するためのベクターは、常法により、LIX1L高発現腫瘍細胞に導入させることができる。例えば、LIX1L高発現腫瘍細胞に導入させる方法としては、市販のトランスフェクション試薬(例えば、リポフェクタミン(登録商標));金コロイド、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター等の各種ウイルスベクター;及び様々な元素を組み合わせて作成したナノ粒子;等が挙げられる。特に、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが細胞膜透過能を有する部位を有する場合には、このポリペプチドを単にLIX1L高発現腫瘍細胞に接触させるだけで、効率よく細胞内へ導入させることができる。
即ち、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法としては、腫瘍細胞増殖抑制ペプチド腫瘍細胞増殖抑制ペプチドをLIX1L高発現腫瘍細胞に導入することを含み、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位と、を含み、前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とは直接又は間接的に結合しているLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法が挙げられる。

【0031】
Y136含有ペプチドを細胞内へ導入することによってLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖が抑制される理由は明らかではないが、LIX1L蛋白質中のY136はリン酸化される確率が高いチロシン残基であることから、このペプチド中のLIX1L蛋白質のY136に相当するチロシンが、LIX1L蛋白質のY136と競合してリン酸化されることにより、LIX1L蛋白質中のY136のリン酸化に基づく増殖シグナルが切断される結果、LIX1L遺伝子の細胞増殖機能が抑制され、LIX1L遺伝子を発現抑制した場合と同様の効果が得られると推察される。

【0032】
本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、LIX1L高発現腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を有することから、抗腫瘍剤をはじめとする医薬用組成物として有用である。本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、巨大分子である糖蛋白質に比して小さい分子であるため、人体に投与した場合に抗体が産生し難いこと、構造が単純なため化学的に大量生産が可能であること、また製造工程における品質管理も容易であること等の利点も有している。

【0033】
特に、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、広い抗腫瘍効果スペクトルをもち、正常細胞への細胞毒性が非常に低い、優れた抗腫瘍剤となり得る。これは、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが、多くの腫瘍細胞(例えば、脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、甲状腺癌、小細胞肺癌、 非小細胞肺癌、乳癌、肺癌、胃癌、胆のう・胆管癌、肝癌、肝細胞癌、滕癌、膵臓癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、卵巣癌、絨毛上皮癌、子宮体癌、子宮頸癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、睾丸癌、胎児性癌、ウィルス腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨 肉腫、ユーイング腫、軟部肉腫、急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、真性多血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、及び非ホジキンリンパ腫;好ましくは、胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌;より好ましくは胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、卵巣癌、及び腎細胞癌)において腫瘍細胞特異的に発現しているLIX1L蛋白質を直接標的とした新規ペプチド化合物であり、かつLIX1L蛋白質が発現していない又は発現量が少ない細胞には特段の影響を及ぼさないことが期待できるためである。

【0034】
なお、本発明に係る医薬組成物又は抗腫瘍剤は、薬学的に許容できる担体又は希釈剤を含んでいてもよい。
ここで、「薬学的に許容できる担体又は希釈剤」は、賦形剤(例えば、脂肪、蜜蝋、半固体及び液体のポリオ一ル、天然若しくは硬化オイル等);水(例えば、蒸留水、特に、注射用蒸留 水等)、生理学的食塩水、アルコール(例えば、エタノール)、グリセロール、ポリオ一ル、ブドウ糖水溶液、マンニトール、植物オイル等;添加剤(例えば、増量剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、安定剤、乳化剤、分散剤、保存剤、甘味料、着色剤、調味料若しくは芳香剤、濃化剤、希釈剤、緩衝物質、溶媒若しくは可溶化剤、貯蔵効果を達成するための薬剤、浸透圧を変えるための塩、コーティング剤、又は抗酸化剤)等を意味する。
本発明の医薬組成物又は抗腫瘍剤に係る製剤は、各種の形態を選択することができ、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤若しくは液剤等の経口製剤、或いは、例えば溶液若しくは懸濁液等の殺菌した液状の非経口製剤、坐剤、軟膏剤等が挙げられる。
非経口的に筋肉内注射、静脈内注射又は皮下注射の形で投与する場合の適当な溶剤又は希釈剤としては、例えば注射用蒸留水、塩酸リドカイン水溶液(筋肉内注射用)、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、静脈内注射用液体(例えばクエン酸及びクエン酸ナトリウム等の水溶液)若しくは電解質溶液(点滴静注及び静脈内注射用)等、又はこれらの混合溶液が挙げられる。
これらの注射剤は予め溶解したものの他、粉末のまま或いは適当な担体(添加物)を加えたものを用時溶解する形態もとり得る。これらの注射液は、製剤全体の重量を基準として、例えば、10~90重量%の有効成分を含むことができる。
これら製剤は常法又は慣用技術に従って当業者が容易に製造することができる。例えば、本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを含む製剤が注射剤の場合は、本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチド適量を 0.9 %生理食塩水適量と混合し、この混合物を注射用バイアルに詰めることにより製造することができる。
本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは各種がん治療に有用な他剤と組み合わせて、又は放射線療法と組み合わせて使用することができる。

【0035】
本発明は治療的に有効量の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを、投与が必要な対象に投与することを含む腫瘍(即ち、癌)の治療法をも包含する。
なお、本発明における「投与が必要な対象」とは、LIX1Lを高発現している腫瘍細胞を有する患者を意味する。
本発明における「腫瘍(癌)の治療」という用語は、前記投与が必要な患者に対して、本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを含む製剤を投与することにより、腫瘍細胞の増殖を阻害することを意味する。好ましくは、かかる治療は、腫瘍細胞を後退、即ち、測定可能な腫瘍の大きさを減縮させることができる。さらに好ましくは、係る治療は、腫瘍細胞を完全に消失させる。
また、本発明における「治療」は、予防的投与も含む。
本発明に係る方法において、好ましい治療単位は、本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの投与形態、使用される本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの種類、使用される本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの剤型;併用される他の抗癌剤の種類、投与形態、剤型等;及び治療される腫瘍細胞(癌細胞)、患者の状態等によって変化してもよい。所定の条件において 最適な治療は、慣用の治療決定単位を基にして、及び/又は、本明細書を考慮して、当業者が決定することができる。
本発明に係る方法において、本発明の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの治療単位は、具体的に言うと、使用される腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの種類、配合された組成物の種類、適用頻度及び治療すべき特定部位、病気の軽重、患者の年令、医師の診断、腫瘍(癌)の種類等によって変えることができる。例えば、一応の目安として、1日当たりの成人1人当りの投与量は、非経口投与の場合、好ましくは静脈内投与、更に好ましくは点滴静注の塲合、例えば、 1 日当たり 10mg/kg~200mg/kgの範囲内とすることができる。ここで、点滴静注 の場合、例えば、1時間~48時間連続して投与してもよい。なお、投与回数は、投与方法及び症状に より異なるが、例えば、1日1回~5回である。また、隔日投与、隔々日投与などの間けつ投与等の投与方法でも用いることができる。非経口投与の場合の治療の休薬期間は、例えば、0週間~4週間である。

【0036】
その他にも、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、LIX1L蛋白質の細胞内における機能を特異的に阻害することができるため、細胞内シグナル伝達、特に細胞増殖シグナルにおけるLIX1L遺伝子の機能の解明のためのツールとしても有用である。

【0037】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記LIX1L高発現腫瘍細胞は、胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌細胞におけるLIX1L遺伝子の発現量が、正常細胞と比較して8倍以上である細胞であり、
前記増殖阻害方法は、RNA干渉によりLIX1L遺伝子の発現を抑制することを含み、
前記RNA干渉によるLIX1L遺伝子の発現の抑制が、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるshRNA若しくはsiRNA、又は前記shRNA若しくは前記siRNAを細胞内で生産するベクターを細胞内に導入すること、を含むLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0038】
本発明のその他の態様としては、
腫瘍細胞増殖抑制ペプチドであって、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、130番目のプロリンから開始して、136番目のチロシンを有する8アミノ酸を含む部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチド、が挙げられる。

【0039】
本発明のその他の態様としては、
腫瘍細胞増殖抑制ペプチドと、薬学的に許容できる担体又は希釈剤と、を含む医薬組成物、が挙げられる。

【0040】
本発明のその他の態様としては、
腫瘍細胞増殖抑制ペプチドと、薬学的に許容できる担体又は希釈剤と、を含む医薬組成物であり、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが
配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである医薬組成物、が挙げられる。

【0041】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害のための腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、が挙げられる。

【0042】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害のための腫瘍細胞増殖抑制ペプチドであり、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドが、
配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害のための腫瘍細胞増殖抑制ペプチド、が挙げられる。

【0043】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖を阻害するための医薬の製造のための、腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの使用、が挙げられる。

【0044】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖を阻害するための医薬の製造のための腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの使用であって、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、
配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、
前記LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖を阻害するための医薬品の製造のための、前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドの使用、が挙げられる。

【0045】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記増殖阻害方法は腫瘍細胞増殖抑制ペプチドをLIX1L高発現腫瘍細胞に導入することを含み、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0046】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記増殖阻害方法は腫瘍細胞増殖抑制ペプチドをLIX1L高発現腫瘍細胞に導入することを含み、
前記LIX1L高発現腫瘍細胞は、胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌細胞におけるLIX1L遺伝子の発現量が、正常細胞と比較して8倍以上である細胞であり、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0047】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記増殖阻害方法は腫瘍細胞増殖抑制ペプチドをLIX1L高発現腫瘍細胞に導入することを含み、
前記LIX1L高発現腫瘍細胞は、胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌細胞におけるLIX1L遺伝子の発現量が、正常細胞と比較して8倍以上である細胞であり、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、130番目のプロリンから開始して、136番目のチロシンを有する8アミノ酸を含む部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0048】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記増殖阻害方法は
治療的に有効量の腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを、投与が必要な対象に投与することを含み、
前記腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、
前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合しているペプチドである、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0049】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記方法は、LIX1L蛋白質のチロシンのリン酸化を阻害する方法であり、
前記リン酸化を阻害する方法は、治療的に有効量のチロシンキナーゼインヒビターを、投与が必要な対象に投与すること、を含むLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。

【0050】
本発明のその他の態様としては、
LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法であって、
前記方法は、LIX1L蛋白質のチロシンのリン酸化を阻害する方法であり、
前記リン酸化を阻害する方法は、治療的に有効量のチロシンキナーゼインヒビターを、投与が必要な対象に投与すること、を含み、
前記チロシンが、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるLIX1L蛋白質の136番目のチロシンであり、
前記チロシンキナーゼインヒビターが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の、136番目のチロシンを含む8アミノ酸以上、35アミノ酸以下の部分配列からなるポリペプチドと、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過能を有する部位とを含み、前記ポリペプチドと前記細胞膜透過能を有する部位とが直接又は間接的に結合している腫瘍細胞増殖抑制ペプチドである、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法、が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
[参考例1]
胃癌患者から採取された胃癌臨床検体について、免疫組織化学染色により、LIX1L遺伝子の発現量を定量的に検出し、比較した。これらの胃癌臨床検体は、予めその病理学的検査の結果から、乳頭腺癌(Pap)、管状腺癌(Tub)、低分化腺癌(Por)、印環細胞癌(Sig)、粘液癌(Muc)、及びその他に分類された。管状腺癌はさらに高分化型(Tub1)と中分化型(Tub2)に分類され、低分化腺癌は充実型(Por1)と非充実型(Por2)に分類された。このうち、乳頭腺癌及び管状腺癌が分化型腫瘍細胞であり、その他が未分化型腫瘍細胞である。
【実施例】
【0053】
通常は、1つの腫瘍組織中には、正常細胞と腫瘍細胞が混在している。そこで、各胃癌臨床検体について、LIX1L高発現腫瘍細胞が含まれている割合が高い検体がLIX1L陽性腫瘍であり、LIX1L高発現腫瘍細胞が含まれている割合が低い検体がLIX1L陰性腫瘍であると判定した。
【実施例】
【0054】
具体的には、各胃癌臨床検体中の細胞を、一次抗体として抗LIX1Lウサギポリクローナル抗体(Abnova社製)、二次抗体としてぺルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(製品名:Histofine Simple Stain MAX-PO(MULTI)、ニチレイバイオサイエンス社製)を用いて免疫組織化学染色した。
各胃癌臨床検体において無作為に選択した3か所の同一拡大視野を検鏡し、腫瘍部から検出されたシグナルと隣接した正常組織における細胞から検出されたシグナルとを比較し、隣接した正常組織における細胞から検出されたシグナルよりも強いシグナルが検出された腫瘍部の細胞をLIX1L陽性腫瘍細胞、シグナルが検出されなかった細胞をLIX1L陰性細胞として、LIX1L陽性腫瘍細胞とLIX1L陰性細胞数を計測した。
計測された全細胞のうち、腫瘍細胞におけるLIX1L陽性細胞の割合が30%以上、100%以下のものをLIX1L陽性検体(+)、10~30%をLIX1L弱陽性(+/-)、0%以上、10%以下をLIX1L陰性(-)として、各胃癌臨床検体を判定した。
【実施例】
【0055】
免疫組織化学染色の結果から得られた、各種胃癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数及びその割合を図1A~図1Fに示す。図1Aは、乳頭腺癌、管状腺癌、低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌、及びその他の癌(図中、「other」)ごとに、LIX1L陽性検体と陰性検体の数を示し、図1Bは、図1Aの結果から各種胃癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示している。図1Cは、乳頭腺癌、高分化型管状腺癌、中分化型管状腺癌、充実型低分化腺癌、非充実型低分化腺癌、及び印環細胞癌ごとに、LIX1L陽性検体と陰性検体の数を示し、図1Dは、図1Cの結果から各種胃癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示している。さらに、図1Eは、全胃癌臨床検体について、分化型腫瘍(図中、「Differen」)と未分化型腫瘍(図中、「Undiffer」)ごとに、LIX1L陽性検体と陰性検体の数を示し、図1Fは、図1Eの結果から分化型腫瘍と未分化型腫瘍におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を示している。この結果、全ての種類の胃癌において、少なくとも40%以上の頻度でLIX1L陽性腫瘍が検出された。
【実施例】
【0056】
[参考例2]
胃癌以外の固形腫瘍(肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肝細胞癌、卵巣癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、及び腎細胞癌)の患者から採取された臨床検体についても、参考例1と同様にして、免疫組織化学染色を行い、各種癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数及びその割合を求めた。
免疫組織化学染色の結果から得られた、各種癌におけるLIX1L陽性検体と陰性検体の数を図2Aに、その結果から各種癌におけるLIX1L陽性腫瘍の頻度を算出した結果を図2Bに、それぞれ示す。いずれの癌においても、約20~60%がLIX1L陽性腫瘍であった。
【実施例】
【0057】
[参考例3]
胃癌の細胞株について、ウェスタンブロット法及びRT-PCR法により、LIX1L遺伝子の発現量を蛋白質レベル及びmRNAレベルの両方から定量的に測定し比較した。
胃癌の細胞株としては、KATO-III株とOCUM-1株の2種類を用いた。両細胞株はいずれも未分化型腫瘍である。KATO-III株は、RPMI1640培地に、RPMI1640培地に対して10容量%のFCS(ウシ胎児血清)を添加した培養液中で10~14日間培養した後、各解析を行った。OCUM-1株は、D’MEM培地に、D’MEM培地に対して10容量%のFCSを添加した培養液中で10~14日間培養した後、各解析を行った各解析については、具体的には、まず、培養された細胞を回収し、一部をウェスタンブロッティングに用い、残りをRT-PCRに用いた。
【実施例】
【0058】
また、対照として、健常人から採取された血液から単離した末梢血単核球(正常末梢血単核球)についても、同様にしてLIX1L遺伝子の発現量を調べた。正常末梢血単核球は、以下のようにして単離した。まず、5mLの全血サンプルに5mLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を添加して希釈した後、全量を、予め遠沈管に分取しておいた20mLのFicoll(登録商標)(GEヘルスケア社製)の上に慎重に積層し、22℃、2200rpmで20分間遠心分離処理〔最大加速・自然減速(ブレーキなし)条件〕を行った。
遠心分離処理終了後、分離した層を乱さないように、遠沈管から末梢血単核球(以下、PBMCということがある。)層を注意深く取り出し、新しい15mL容チューブに回収した。回収したPBMC層に対して、PBSを加え、4℃、1500rpmで10分間遠心分離処理(最大加速・最大減速条件)し、上清を捨てるという洗浄操作を2回行った。洗浄後のPBMC層に適当な量のPBSを加えて懸濁したものを、正常末梢血単核球検体とした。この正常末梢血単核球検体は、ヘマトサイトメーター等で細胞数をカウントし、トリパンブルー染色により生存細胞数を検定した上で、実験に用いた。
【実施例】
【0059】
RT-PCRは、まず、回収された細胞から、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出・精製した。RNAは分光光度計を用いてtotal RNA濃度を測定した。cDNAの合成には、RT-PCR(AMV)用ファーストストランドcDNA合成キット(Roche社製)を使用し、1μgのtotal RNAとランダムプライマーを含む20μLの反応液で、25℃で10分間、次いで42℃で45分間の逆転写反応を行い、その後95℃で2分間処理して逆転写酵素を失活した。すべてのPCRには、TaqMan(登録商標)ポリメラーゼ(Life technologies社製)を用い、合成されたcDNAを鋳型として、配列番号8で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号9で表される塩基配列からなるリバースプライマーとからなるプライマーセットを用いて20μLの反応液で、DNA thermal cycler(model PTC 200、MJ Research社製)を用いてPCRを行った。なお、このプライマーセットは、218bpのLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントを増幅するように設計されたプライマーセットである。さらに、コントロールとして、このプライマーセットに代えて、253bpのGAPDH遺伝子のcDNAのフラグメントを増幅するように設計された、配列番号10で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号11で表される塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットを用いた以外は全て同様にしてPCRを行った。反応条件は、1サイクルを96℃で30秒間、56℃で30秒間、72℃で30秒間とし、これを28サイクル行った。LIX1LとGAPDHの両方を増幅させて得られた増幅産物を1.5%のアガロースゲルにアプライして電気泳動を行い、分離された核酸をエチジウムブロマイド染色した。エチジウムブロマイド染色像中のLIX1Lのバンドについては、そのシグナル強度をデンシトメトリーを用いて測定し、シグナル強度の相対値を算出した。また、すべての定量的PCR反応には、SYBR(登録商標)Green Iを用い、合成されたcDNA、LIX1Lプライマーを含む25μLの反応液でABI PRISM 7700 Sequence detector(Perkin-Elmer/Applied Biosystems社製)を用い、定量を行った。内部標準としてGAPDHの発現も確認した。反応条件は、1サイクルを95℃で5秒間、60℃で20秒とし、これを45サイクルで行った。この結果、シグナル強度の相対値は、正常末梢血単核球検体が0.1、KATO-III株が0.9±0.18、OCUM-1株が1.5±0.27であった。
【実施例】
【0060】
ウェスタンブロッティングは、回収された細胞にPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を加えて超音波破砕処理を行った。得られたスラリーを12%のアクリルアミドゲルにアプライし、SDS-PAGEを行い、蛋白質を分離した。電気泳動後のアクリルアミドゲル中の蛋白質をPVDF膜へ転写し、この転写膜に対して、非特異的反応を抑えるために、5%スキムミルク、1%BSA溶液を用いて1時間室温でブロッキングを行った。その後転写膜を、一次抗体として抗LIX1Lウサギポリクローナル抗体(Abnova社製)で室温で2時間処理し、二次抗体としてぺルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(製品名:Goat anti-Rabbit IgG-HRP、Invitrogen社製)で室温にて1時間処理を行い、ウェスタンブロッティングを行った。コントロールとして、この転写膜に対してさらに、一次抗体として抗Actinマウスモノクローナル抗体(製品名:C-4、ICN Biomedicals社製)、二次抗体としてぺルキシダーゼ標識ヒツジ抗マウスIgGモノクローナル抗体(製品名:NXA931、Amersham社製)を用いてウェスタンブロッティングを行った。バンドはECL chemiluminescent reagent(Amersham社製)にて可視化を行った。
【実施例】
【0061】
図3Aは、各細胞株におけるRT-PCRによる増幅産物について電気泳動を行い、分離した核酸をエチジウムブロマイドで染色した染色像を示す。図3Bは、各細胞株の図3Aの染色像中のLIX1Lのバンドのシグナル強度から求めたLIX1LのmRNA量の相対値(KATO-III株のLIX1LのmRNA量を1とした。)を示す。図3Cは、各細胞株について、ウェスタンブロッティングで検出されたLIX1LとActinのバンドを示す。この結果、KATO-III株とOCUM-1株では、蛋白質レベル及びmRNAレベルの両方において、LIX1L遺伝子の発現亢進が認められた。LIX1L遺伝子の発現は、OCUM-1株のほうがKATO-III株よりも高かった。
【実施例】
【0062】
[参考例4]
造血器腫瘍の細胞株について、ウェスタンブロット法及びRT-PCR法により、LIX1L遺伝子の発現量を蛋白質レベル及びmRNAレベルの両方から定量的に測定し、比較した。ウェスタンブロット法及びRT-PCR法は、胃癌の細胞株に代えて造血器腫瘍の細胞株を用いた以外は、参考例3と同様にして行った。
造血器腫瘍の細胞株としては、急性骨髄性白血病細胞株HL-60株、慢性骨髄性白血病細胞株K562株、及び多発性骨髄腫細胞株RPMI8226株を用いた。HL-60株とK562株は未分化型腫瘍であり、RPMI8226株は分化型腫瘍である。全ての細胞株は、RPMI1640培地に、RPMI1640培地に対して10容量%のFCS(ウシ胎児血清)を添加した培養液中で10日間培養した後、各解析を行った。
【実施例】
【0063】
図4Aは、各細胞株におけるRT-PCRによる増幅産物について電気泳動を行い、分離した核酸をエチジウムブロマイド染色した染色像を示す。図4Bは、各細胞株の図4Aの染色像中のLIX1Lのバンドのシグナル強度から求めたLIX1LのmRNA量の相対値を示す(GAPDHのバンドのシグナル強度を1とした。)。図4Cは、各細胞株におけるウェスタンブロッティングで検出されたLIX1LとActinのバンドを示す。
各造血器腫瘍細胞株のエチジウムブロマイド染色の染色像中のLIX1Lのバンドのシグナル強度の相対値は、GAPDHのバンドのシグナル強度を1としたとき、骨髄腫細胞株RPMI8226細胞が0.1、HL-60株が1.7±0.21、K562株が1.8±0.35、RPMI8226株が0.2±0.03であった。
つまり、蛋白質レベル及びmRNAレベルの両方において、未分化型腫瘍であるHL-60株とK562株は、分化型腫瘍であるRPMI8226株と比較して、LIX1L遺伝子の発現量は顕著に多く、LIX1L遺伝子の発現亢進が認められた。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
LIX1L蛋白質の癌細胞での分子生物学的な役割について検討するため、LIX1L遺伝子に対する2種類のshRNA(#1及び#2)を作製し、これらをHL-60株、K562株、KATO-III株及びOCUM-1株に導入し、LIX1L遺伝子の発現抑制が細胞増殖に与える効果を検討した。LIX1L shRNA#1及び#2の塩基配列を図5A及びBに示す。図5A及びB中、「Target sense sequence」はLIX1LのmRNAと相同的な領域を示し、「Target antisense sequence」は「Target sense sequence」と相補的な領域を示す。また、比較対象として、LIX1L遺伝子の発現抑制能をもたないスクランブルshRNAも用いた。
なお、LIX1L shRNA#1及び#2は、化学合成により作製することができる。
【実施例】
【0065】
具体的には、各細胞株あたり1プレート(6ウェル/プレート)ずつ、細胞密度が1×10細胞/3.5cmウェルとなるように播いた細胞を1晩前記参考例に記載の培養液と同じ組成の培養液で培養した。6ウェルのうち1ウェルについては培養を終了し、トリパンブルー染色し、生細胞の細胞数を数えた。残る5ウェルについては、培養液を、Lipofectamine(登録商標)reagent(12.5μL/ウェル)とshRNA濃度が2.5μg/ウェルとなる培養液(2mL/ウェル)の混合液に交換して培養し、1ウェルは培地交換から24時間後に、1ウェルは48時間後に、残る1ウェルは72時間後に、それぞれトリパンブルー染色し、生細胞の細胞数を数えた。コントロールとして、shRNAを添加しない培養液に培地交換した以外は同様にして培養し、生細胞数を測定した(未処理)。
【実施例】
【0066】
また、これとは別に、RT-PCRを行うために、各細胞株あたり1プレート(6ウェル/プレート)ずつ、細胞密度が1×10細胞/3.5cmウェルとなるように播いた細胞を前記参考例に記載の培養液と同じ組成の培養液で1晩培養した。その後、培養液を、Lipofectamine(登録商標)reagent(12.5μL/ウェル)とshRNA濃度が2.5μg/ウェルとなる培養液(2mL/ウェル)の混合液に交換して72時間培養して細胞を回収した。回収された細胞に対して、参考例3と同様にしてRT-PCRを行い、LIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントとGAPDH遺伝子のcDNAのフラグメントを増幅させ、得られた増幅産物をアガロースゲル電気泳動し、分離された核酸のエチジウムブロマイド染色像を得た。コントロールとしては、shRNAを添加しない培養液に培地交換した以外は同様にして培養し、RT-PCRを行い、エチジウムブロマイド染色像を得た(未処理)。
【実施例】
【0067】
図6A~図9Cに、各細胞株の測定結果を示す。図6A、図7A、図8A及び図9Aは生細胞の細胞数の測定結果を示す。図6B、図7B、図8B及び図9Bは72時間培養後のRT-PCRにより増幅されたLIX1LのフラグメントとGAPDHのフラグメントのエチジウムブロマイド染色の染色像を示す。図6C、図7C、図8C及び図9Cは各細胞株における図6B、図7B、図8B及び図9Bの染色像中のLIX1Lのバンドのシグナル強度から求めたLIX1LのmRNA量の相対値(未処理のLIX1LのmRNA量を1とした。)を示す。この結果、いずれの細胞株においても、スクランブルshRNAを導入させた細胞の生細胞数とLIX1L遺伝子の発現量は、shRNAを導入させなかった未処理の細胞と同程度であったが、LIX1L shRNA#1とLIX1L shRNA#2を導入した細胞では、24時間経過時点までは未処理細胞と比べて生細胞数にあまり差はなかったが、48時間経過後及び72時間経過後では、未処理細胞よりも明らかに生細胞数が減少していた。また、72時間後のRT-PCRの結果では、LIX1L shRNA#1とLIX1L shRNA#2を導入した細胞では、ほとんどLIX1L遺伝子の発現はみられず、LIX1L shRNA#1とLIX1L shRNA#2によりLIX1L遺伝子の発現が抑制されたことが確認された。これらの結果から、LIX1L高発現腫瘍細胞であるこれら4種の細胞株においては、LIX1L遺伝子発現抑制により、細胞増殖の抑制が認められ、LIX1L発現は細胞増殖に関与していることが推測された。また、これらの4種のうち最もLIX1L遺伝子の発現量が低かったKATO-III株では、他の細胞株よりも細胞増殖抑制効果が小さかった。
【実施例】
【0068】
[実施例2]
LIX1L蛋白質には、5つのチロシン残基(Y95、Y126、Y136、Y139、及びY263)がある。これらのチロシン残基のリン酸化の確率を予測し、Y136が最もリン酸化される確率が高いと予想された。そこで、LIX1L蛋白質のアミノ酸配列中、Y136とY139を含むアミノ酸配列と、Y136は含まないがY139を含むアミノ酸配列に対して、それぞれ同一のアミノ酸配列を有するペプチドを化学合成した。これらのペプチドは、配列番号7で表されるTat配列からなるペプチドのC末端と、チロシン残基を含むLIX1L蛋白質の部分アミノ酸配列のN末端をε-アミノカプロン酸で連結させたペプチドである(ペプチド1:配列番号12、ペプチド2:配列番号13)。また、比較対象として、Tat配列からなるペプチドのC末端にε-アミノカプロン酸を結合させたペプチドも化学合成した(コントロールペプチド:配列番号14)。これらのペプチドのアミノ酸配列を、LIX1L蛋白質の部分アミノ酸配列と共に図10に示す。
【実施例】
【0069】
HL-60株、K562株、RPMI8226株、KATO-III株及びOCUM-1株に対して、コントロールペプチド、ペプチド1、又はペプチド2を導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖の評価は、ミトコンドリアでの還元反応を利用したMTT法により行った。
具体的には、まず、96ウェルマイクロプレートに、細胞密度が5×10細胞/ウェルとなるように播いた細胞を1晩前記参考例と同じ組成の培養液で培養た。その後、培養液をペプチド濃度が0~100μMの培養液100μLに交換して72時間培養した。培養後、培養液にMTT含有PBS溶液を添加し、4時間インキュベートした後、各ウェルにイソプロパノール(34(v/v)%塩酸を含む)100μLを入れ、生成されたホルマザンを溶解させた。このマイクロプレートの各ウェルの570nmの吸光度を、マイクロプレートリーダーにて測定した。コントロールとしては、ペプチドを添加しない以外は同様にして培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した(未処理)。
【実施例】
【0070】
各細胞株の570nmの吸光度の測定結果を図11A~図11Eに示す。この結果、コントロールペプチドを導入させた場合の570nmの吸光度は、いずれの細胞株においても、ペプチドを導入させなかった未処理の場合と同様に、濃度を100μMまで増大させても特に変化はなく、コントロールペプチドを導入しても細胞増殖に影響がないことが確認された。ペプチド2を導入した場合にも、いずれの細胞株においても、コントロールペプチドと同様に濃度を100μMまで増大させても570nmの吸光度は特に変化はなかった。これに対して、ペプチド1を導入した場合には、HL-60株、K562株、及びOCUM-1株では、6.25μM以上の濃度で優位な細胞増殖抑制効果が認められ、KATO-III株では25μM以上の濃度で優位な細胞増殖抑制効果が認められた。しかしながら、RPMI8226株では、ペプチド1についてコントロールペプチドと同様に濃度を100μMまで増大させても570nmの吸光度は特に変化はなく、ペプチド1による細胞増殖抑制効果は認められなかった。これらの結果から、LIX1L蛋白質のY136を含む部分領域と同一のアミノ酸配列を有するペプチド(すなわち、Y136含有ペプチド)が、LIX1L高発現細胞に対して細胞増殖抑制効果を示すこと、及びこの効果はLIX1L低発現細胞では見られないことが示された。さらに、LIX1L高発現細胞の中でも、LIX1L遺伝子の発現量が比較的高いHL-60株、K562株、及びOCUM-1株では、KATO-III株よりもペプチド1による細胞増殖抑制効果が高かったことから、Y136含有ペプチド等の本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドは、LIX1L遺伝子の発現レベルによってその増殖抑制効果が異なることが分かり、LIX1L高発現細胞でその増殖抑制効果がより有効であることが推測された。
【実施例】
【0071】
[実施例3]
HL-60株、K562株、及びRPMI8226株に対して、コントロールペプチド、ペプチド1、又はペプチド2を導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖の評価は、実施例1と同様に生細胞数を計測することにより行った。
具体的には、shRNA濃度が2.5μg/ウェルの培養液(2mL/ウェル)に代えて、5μMのコントロールペプチド、ペプチド1、又はペプチド2を含む培養液を用いた以外は、実施例1と同様にして細胞を培養し、生細胞数を測定した。コントロールとして、ペプチド2を含まない培養液を用いて同様に培養し、生細胞数を測定した(未処理)。
図12A~図12Cに、各細胞株の生細胞数の測定結果を示す。この結果、いずれの細胞株においても、コントロールペプチドを導入した場合とペプチド2を導入した場合には、72時間経過時点においても、ペプチドを導入させなかった未処理の場合と同程度の細胞が生存していた。一方で、ペプチド1を導入した場合には、HL-60株とK562株では24時間培養後の時点で既に未処理の場合よりも生細胞数が減少しており、72時間培養後には生細胞は極わずかであった。これに対して、RPMI8226株では、ペプチド1を導入した場合にも、未処理の場合と同程度の細胞が生存していた。これらの結果からも、LIX1L高発現細胞にペプチド1をはじめとする本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチドを導入することによって、細胞増殖が抑制されることが示された。
【実施例】
【0072】
[実施例4]
実施例2及び3で用いたペプチド1は、Y136含有部分配列が11アミノ酸からなる。そこで、Y136含有部分配列が20アミノ酸からなるペプチド3(配列番号15)と、Y136含有部分配列が30アミノ酸からなるペプチド4(配列番号16)とを化学合成により作製し、細胞増殖抑制効果をペプチド1と比較した。図13Aに、LIX1L蛋白質のアミノ酸配列と、図13Bにペプチド1、3、4及びコントロールペプチドのアミノ酸配列を示す。図13Aには、ペプチド1、3、4のY136含有部分配列を示す。
【実施例】
【0073】
ペプチドを導入する細胞株としては、U937株、K562株、及びRPMI8226株を用いた。U937株は、K562株と同程度のLIX1L発現が確認されたLIX1L高発現腫瘍細胞である。
具体的には、添加するペプチドをペプチド1、3、4又はコントロールペプチドとした以外は、実施例2と同様にして、細胞を72時間培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した。
各細胞株の570nmの吸光度の測定結果を図14A~図14Cに示す。この結果、U937株及びK562株では、ペプチド1、3、又は4を導入したことにより細胞増殖が抑制された。U937株及びK562株におけるペプチド1、3、4の細胞増殖抑制効果は、いずれも同程度であった。また、RPMI8226株では、ペプチド1、3、又は4を導入しても、コントロールペプチドと同様に細胞増殖は抑制されなかった。
【実施例】
【0074】
[参考例5]
HEK293株にFLAGタグをつけたLIX1L蛋白質を強制発現させ、LIX1L蛋白質の細胞内局在、並びにセリン、スレオニン、及びチロシンのリン酸化の有無について調べた。
まず、FLAGタグがN末端に付加されたLIX1L蛋白質(FLAG/LIX1L蛋白質、配列番号17)を強制的に発現させた恒常発現株(293FLG/LIX1L)と、FLAG蛋白質のみを強制的に発現させた恒常発現株(293FLG)を作製した。恒常発現株は、Flp-in(登録)商標システム (Invitrogen社製)を用いて作製した。
【実施例】
【0075】
具体的には、まず、発現ベクターとしてプラスミドpcDNA5/FRT(V6010-20;Invitrogen社製)を用い、プラスミドpcDNA5/FRTのBamHI/XhoIサイトにFLG/LIX1L融合遺伝子を挿入して、FLG/LIX1L発現ベクター(pcDNA5/FLG/LIX1L/FRT)を作製した。pcDNA5/FLG/LIX1L/FRTとFlpリコンビナーゼ発現ベクターであるpOG44(V6005-20;Invitrogen社製)を、Flp-In-293株(ゲノム中にFRT部位が1ヶ所含まれているFlp-Inホストセル)(R750-07;Invitrogen社製)にLipofectamine 2000 kit(V6005-20;Invitrogen社製)を用いて遺伝子導入し、終濃度100mg/mLのHygromycin B(Invitrogen社製)を添加した10%FCS含有D’MEM培地により4週間培養し、目的遺伝子が染色体内に挿入された細胞(293FLG/LIX1L細胞)を選択的に増殖させた。対照として、コントロールベクター(pcDNA5/FLG/FRT)のみを遺伝子導入した細胞(293FLG細胞)を同時に培養増殖させた。
【実施例】
【0076】
次いで、293FLG/LIX1L細胞及び293FLG細胞を、それぞれ、100mg/mLのHygromycin Bを添加した10%FCS含有D’MEM培地で10~14日間培養した後、Nuclear/Cytosol Fractionation Kit(BioVision社製)を用いて、核分画と細胞質分画に分離した。得られた両分画に対して、抗FLAG抗体(Sigma-Aldorich社製)とアガロース結合プロテインA(Sigma-Aldorich社製)を用いて免疫沈降し、12%SDS-PAGEにより蛋白質分離を行い、膜に転写した。転写した膜に対して、抗FLAG抗体、抗LIX1L抗体(Abnova社製)、抗リン酸化スレオニン抗体(Abcam社製)、抗リン酸化セリン抗体(Abcam社製)、及び抗リン酸化チロシン抗体(Abcam社製)を用いてウエスタンブロットを行った。
【実施例】
【0077】
図15に、抗FLAG抗体による免疫沈降物のウェスタンブロットの結果を示す。この結果、FLAG/LIX1L蛋白質は細胞質画分と核画分の両方に存在していることがわかった。また。両画分に存在するFLAG/LIX1L蛋白質はいずれもチロシンがリン酸化されていたが、セリンやスレオニンのリン酸化は確認されなかった。
【実施例】
【0078】
[参考例6]
参考例5で作製した293FLGと293FLG/LIX1L、NUGC-4株(胃癌細胞株)、MKN45株(胃癌細胞株)、K562株(慢性骨髄性白血病細胞株)、HL-60株(急性骨髄性白血病細胞株)、及びU937株(急性骨髄性白血病細胞株)について、PCRを用いてLIX1Lの発現量を調べた。
【実施例】
【0079】
293FLGは、参考例5と同様にして、Flp-In-293株にプラスミドpcDNA5/FLG/FRTを導入してFLAG蛋白質を強制発現させた細胞を回収した。293FLG/LIX1Lも参考例5と同様にして、Flp-In-293株にFLAG/LIX1L蛋白質発現用ベクター(pcDNA5/FLG/LIX1L/FRT)を導入してFLAG/LIX1L蛋白質を強制発現させた細胞を回収した。K562株、HL-60株、NUGC-4株、MKN45株、及びU937株については、RPMI1640培地に、RPMI1640培地に対して10容量%のFCS(ウシ胎児血清)を添加した培養液中で10~14日間培養した細胞を回収した。
【実施例】
【0080】
PCRのサイクル数を24、25、又は27サイクルとした以外は参考例3と同様にして、回収した細胞から、総RNAを回収し、RT-PCRによって218bpのLIX1L遺伝子のcDNAのフラグメントとGAPDHのcDNAのフラグメントとを増幅し、得られた増幅産物を電気泳動し、分離された核酸をエチジウムブロマイド染色した。
【実施例】
【0081】
図16A、B及びCに、エチジウムブロマイド染色の染色像を示す。この結果、293FLG/LIX1Lが最もLIX1Lの発現量が多く、293FLG、K562株、HL-60株、及びU937株が同程度の発現量であり、NUGC-4株では25サイクルの時点でほとんどLIX1Lの発現は確認できなかった。MKN45株のLIX1L発現量は、K562株等よりは少ないものの、NUGC-4株よりも明らかに多かった。
【実施例】
【0082】
[実施例5]
参考例6においてLIX1Lの発現量を調べた7株について、実施例3と同様にして、コントロールペプチド又はペプチド1を導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖の評価は、実施例1と同様に生細胞数を計測する方法と、実施例2と同様にMTTアッセイを行う方法とにより行った。
【実施例】
【0083】
生細胞数を計測する方法は、25μM(HL-60株、K562株、及びU937株は10μM)のコントロールペプチド又はペプチド1を含む培養液を用いた以外は、実施例1と同様にして細胞を3日間培養し、生細胞数を測定した。対照として、ペプチドを含まない培養液を用いて同様に培養し、生細胞数を測定した(未処理)。
【実施例】
【0084】
また、MTTアッセイを行う方法は、添加するペプチドを25μM(HL-60株、K562株、及びU937株は10μM)のコントロールペプチド又はペプチド1とした以外は、実施例2と同様にして、細胞を72時間培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した。対照として、ペプチドを含まない培養液を用いて同様に培養し、MTTアッセイを行った(未処理)。
【実施例】
【0085】
図17A~図19Cに、各細胞株の生細胞数の測定結果(左)及びMTTアッセイの結果(右)(570nmの吸光度)を示す。この結果、FLAG/LIX1L蛋白質を強制発現させた293FLG/LIX1Lでは、ペプチド1の導入により細胞増殖が抑制されていたが(図17B)、FLAG蛋白質のみを強制発現させた293FLGでは、ペプチド1を導入しても細胞増殖は抑制されていなかった(図17A)。また、参考例6においてLIX1Lの発現量が多いことが確認されたMKN45株(図18A)、HL-60株(図19A)、K562株(図19B)、及びU937株(図19C)はペプチド1の導入により細胞増殖が抑制されていたが、LIX1Lの発現がほとんど観察されなかったNUGC-4株では、ペプチド1を導入しても細胞増殖は抑制されなかった(図18B)。
【実施例】
【0086】
[実施例6]
参考例5で作製した293FLG及び293FLG/LIX1L、並びに293FLG/LIX1Lにペプチド1を導入した細胞について、それぞれコロニーの形成数を比較した。
具体的には、293FLGは1プレート(6ウェル/プレート)、293FLG/LIX1Lは2プレートに、細胞密度が1×10細胞/3.5cmウェルとなるように播いた。このうち、293FLGを播いたプレートと、293FLG/LIX1Lを播いたプレートのうちの1枚については、10容量%FCS含有D’MEM培地中で14日間培養した。293FLG/LIX1Lを播いたプレートのうちの残る1枚については、25μMとなるようにペプチド1を含有させた10容量%FCS含有D’MEM培地中で14日間培養した。培養後の各ウェルを顕微鏡下で観察し、形成されたコロニーの数を測定した。
【実施例】
【0087】
測定結果を図20に示す。293FLG/LIX1Lではコロニー形成数の増加が優位に認められ、293FLG/LIX1Lにペプチド1を導入した細胞(293FLG/LIX1L/ペプチド1)ではコロニー数は抑制されることがわかった。
【実施例】
【0088】
[実施例7]
癌細胞株を移植した癌モデルマウスに、ペプチド1を投与し、影響を観察した。
10匹の雄の7週齢のヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、日本クレア株式会社から購入)の飼育を開始し、31日目に、別途培養していたMKN45細胞株を皮下に注入することによって移植した。移植当日を0日目として移植14日目に、5匹ずつ2群(ペプチド1投与群及びコントロールペプチド投与群)に分け、それぞれの群で5匹のうち4匹を選抜し、ペプチド1又はコントロールペプチドを投与した。残る1匹は予備とした。ペプチド1投与群には、30μMのペプチド1溶液(ペプチド1をPBS(-)に溶解させた後、メチルセルロース溶液を加えて調製した溶液)を100μLずつ3日おきに4回、腫瘍部(MKN45細胞株を注入した部位)に皮下注射した。コントロールペプチド投与群は、30μMのコントロールペプチド溶液(コントロールペプチドをPBS(-)に溶解させた後、メチルセルロース溶液を加えて調製した溶液)を100μLずつ、ペプチド1投与群と同日に4回、腫瘍部に皮下注射した。
【実施例】
【0089】
各マウスについて、ペプチド溶液を投与した時点(日)と腫瘍部の体積(mm)を経時的に測定した結果を図21に示す。腫瘍部の体積は、マウスの外観から判別される腫瘍部の幅と長さを測定し、下記式で算出した。
[腫瘍部の体積(mm)]=([腫瘍部の幅(mm)]×[腫瘍部の長さ(mm)])/2
なお、ここで言う「腫瘍部の幅」とは、腫瘍により皮膚が盛り上がった部分の最大幅を意味し、「腫瘍部の長さ」とは、腫瘍により皮膚が盛り上がった部分の最大の長さを意味する。
【実施例】
【0090】
この結果、コントロールペプチド投与群では経時的に腫瘍部の体積は大きくなっていたのに対して、ペプチド1投与群では、腫瘍部の大きさはほとんど変化せず、生物個体内においてもペプチド1が抗腫瘍効果を有することが観察された。また、体重については、コントロールペプチド投与群とペプチド1投与群はいずれも、何も投与しなかった予備のマウスと特に有意差はなかった。
【実施例】
【0091】
[参考例7]
ペプチド1が実際に細胞内に取り込まれているかどうかを確認するため、ペプチド1のC末端に蛍光物質FAMを結合させたFAM標識ペプチド1を腫瘍細胞株へ導入し、FAMの蛍光を指標として細胞内への取り込みの有無を観察した。
具体的には、参考例5で作製した293FLG/LIX1L、MKN45株、及びNUGC-4株の培養液にそれぞれ、20μMとなるようにFAM標識ペプチド1を添加して培養した。FAM標識ペプチド1添加から2時間経過後に、培養液にさらに核染色剤Hoechst33342(同仁化学研究所製)を添加して60分間培養した。その後、各細胞を蛍光顕微鏡で観察した。
この結果、293FLG/LIX1LとMKN45株とNUGC-4株のいずれにおいても、FAM標識ペプチド1が細胞内に取り込まれていることが確認できた。特に、293FLG/LIX1LとMKN45株では、添加から2時間経過後には90%以上の細胞にFAM標識ペプチド1が取り込まれていた。また、3株の全てにおいて、細胞内に取り込まれたFAM標識ペプチド1のほとんどは細胞質に認められた。
【実施例】
【0092】
[実施例8]
LIX1L蛋白質中の5つのチロシン残基のうち、Y95、Y136、及びY139がリン酸化されることが予想された。そこで、表1に示す4種のペプチドについて、実施例2と同様にMTTアッセイを行い、細胞増殖に対する影響を調べた。表1中、「X」はε-アミノカプロン酸を示す。また、ペプチドを導入する細胞としては、参考例5で作製した293FLGと293FLG/LIX1L、K562株、MKN45株、及びNUGC-4株を用いた。
【実施例】
【0093】
【表1】
JP0006176800B2_000002t.gif
【実施例】
【0094】
具体的には、添加するペプチドをペプチド1、2、5又は6とした以外は、実施例2と同様にして、細胞を72時間培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した。対照として、ペプチドを含まない培養液を用いて同様に培養し、MTTアッセイを行った(未処理)。
【実施例】
【0095】
図22A~図22Eに、各細胞株のMTTアッセイの結果を示す。この結果、ペプチド1とペプチド5を添加した場合には、添加するペプチドの濃度を高くすることによりいずれの細胞株においても細胞増殖が抑制される傾向が観察されたが、ペプチド2とペプチド6では、250μM添加した場合でも細胞増殖は抑制されなかった。
【実施例】
【0096】
[比較例1]
LIX1L蛋白質には、26個のセリン残基がある。これらのセリン残基のリン酸化の確率を予測し、リン酸化が高いと予想された11個(S16、S163、S179、S190、S192、S226、S255、S282、S286、S292、及びS297)について、表2に示すペプチドを合成し、実施例2と同様にMTTアッセイを行い、細胞増殖に対する影響を調べた。表2中、「X」は表1と同じである。また、ペプチドを導入する細胞としては、参考例5で作製した293FLGと293FLG/LIX1L、K562株、MKN45株、及びNUGC-4株を用いた。
【実施例】
【0097】
【表2】
JP0006176800B2_000003t.gif
【実施例】
【0098】
具体的には、添加するペプチドをペプチド7~14とした以外は、実施例2と同様にして、細胞を72時間培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した。対照として、ペプチドを含まない培養液を用いて同様に培養し、MTTアッセイを行った(未処理)。
【実施例】
【0099】
図23A~図23Eに、各細胞株のMTTアッセイの結果を示す。この結果、いずれのペプチドにおいても、全細胞株において、250μM添加した場合でも細胞増殖は抑制されなかった。
【実施例】
【0100】
[比較例2]
LIX1L蛋白質には、13個のスレオニン残基がある。これらのセリン残基のリン酸化の確率を予測し、リン酸化が高いと予想された3個(T15、T20、及びT298)について、表3に示すペプチドを合成し、実施例2と同様にMTTアッセイを行い、細胞増殖に対する影響を調べた。表3中、「X」は表1と同じである。また、ペプチドを導入する細胞としては、参考例5で作製した293FLGと293FLG/LIX1L、K562株、MKN45株、及びNUGC-4株を用いた。
【実施例】
【0101】
【表3】
JP0006176800B2_000004t.gif
【実施例】
【0102】
具体的には、添加するペプチドをペプチド15又は16とした以外は、実施例2と同様にして、細胞を72時間培養し、MTTアッセイを行い、570nmの吸光度を測定した。対照として、ペプチドを含まない培養液を用いて同様に培養し、MTTアッセイを行った(未処理)。
【実施例】
【0103】
図24A~図24Bに、各細胞株のMTTアッセイの結果を示す。この結果、いずれのペプチドにおいても、全細胞株において、250μM添加した場合でも細胞増殖は抑制されなかった。
【実施例】
【0104】
[実施例9]
HEK293株にFLAGのみを強制発現させた細胞(293FLG)と、FLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞(293FLG/LIX1L)と、293FLG/LIX1Lにペプチド1(PY136)を導入した細胞(293FLG/LIX1L/PY136)について、それぞれ細胞質と核分画に分離し、免疫沈降とウエスタンブロッティングを用いてペプチド1(配列番号12)によるLIX1Lのチロシンリン酸化の抑制効果について調べた。また、コロニーフォーメーションアッセイによりコロニー形成抑制効果について調べた。
【実施例】
【0105】
まず、参考例5と同じ方法にてFLAGのみを強制発現させた細胞株(293FLG)と、FLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞株(293FLG/LIX1L)、ペプチド添加用のFLAGタグ付きのLIX1L蛋白質を強制発現させた細胞株(293FLG/LIX1L/PY136)を作製し、培養増殖させた。
次いで、293FLG/LIX1L/PY136細胞においては、実施例3と同じ方法により、ペプチド1を含む培養液で14日間培養した。293FLG細胞と、293FLG/LIX1L細胞においては、ペプチド1を含まない培養液を用いて同様に14日間培養した。
【実施例】
【0106】
次いで、293FLG細胞、293FLG/LIX1L細胞、及び293FLG/LIX1L/PY136細胞を、それぞれ、100mg/mLのHygromycin Bを添加した10%FCS含有D’MEM培地で14日間培養した後、Nuclear/Cytosol Fractionation Kit(BioVision社製)を用いて、核分画と細胞質分画に分離した。得られた両分画に対して、抗FLAG抗体(Sigma-Aldorich社製)とアガロース結合プロテインA(Sigma-Aldorich社製)を用いて免疫沈降し、12%SDS-PAGEにより蛋白質分離を行い、膜に転写した。転写した膜に対して、抗LIX1L抗体(Abnova社製)及び抗リン酸化チロシン抗体(Abcam社製)を用いてウエスタンブロットを行った。
【実施例】
【0107】
図25Aに、抗LIX1L抗体及び抗リン酸化チロシン抗体による免疫沈降物のウェスタンブロットの結果を示す。この結果、ペプチド1で処理した293FLG/LIX1L/PY136細胞の細胞質分画では、LIX1Lの136番目のチロシンのリン酸化が有意に抑制されていることがわかった。また、核分画においてもLIX1Lの136番目のチロシンのリン酸化が軽度に抑制されていることがわかった。
【実施例】
【0108】
コロニーフォーメーションアッセイは0.6%アガロース及び10%FCS含有D’MEM培地の上に、293FLG細胞、293FLG/LIX1L細胞、及び293FLG/LIX1L/PY136細胞をそれぞれ、0.4%アガロースを添加した10%FCS含有D’MEM培地に混ぜて静かに乗せ、14日間培養した。その後それぞれのウェルにおけるコロニー数を光学顕微鏡(Zeiss社製)にて数えることによりLIX1LおよびPY136の細胞増殖に与える影響を評価した。
【実施例】
【0109】
図25Bに、293FLG細胞、293FLG/LIX1L細胞、及び293FLG/LIX1L/PY136細胞においてコロニーフォーメーションアッセイを行った結果を示す。この結果、ペプチド1で処理した293FLG/LIX1L/PY136細胞ではコロニー形成が有意に抑制されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制ペプチド及びLIX1L高発現腫瘍細胞の増殖阻害方法を用いることにより、LIX1L高発現腫瘍細胞の増殖を阻害し得ることから、この腫瘍細胞増殖抑制ペプチド等は、抗腫瘍剤の開発や製造、及び腫瘍治療の分野で利用が可能であるため、産業上極めて有効である。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図1D】
3
【図1E】
4
【図1F】
5
【図2A】
6
【図2B】
7
【図3A】
8
【図3B】
9
【図3C】
10
【図4A】
11
【図4B】
12
【図4C】
13
【図5A】
14
【図5B】
15
【図6A】
16
【図6B】
17
【図6C】
18
【図7A】
19
【図7B】
20
【図7C】
21
【図8A】
22
【図8B】
23
【図8C】
24
【図9A】
25
【図9B】
26
【図9C】
27
【図10】
28
【図11A】
29
【図11B】
30
【図11C】
31
【図11D】
32
【図11E】
33
【図12A】
34
【図12B】
35
【図12C】
36
【図13A】
37
【図13B】
38
【図14A】
39
【図14B】
40
【図14C】
41
【図15】
42
【図16A】
43
【図16B】
44
【図16C】
45
【図17A】
46
【図17B】
47
【図18A】
48
【図18B】
49
【図19A】
50
【図19B】
51
【図19C】
52
【図20】
53
【図21】
54
【図22A】
55
【図22B】
56
【図22C】
57
【図22D】
58
【図22E】
59
【図23A】
60
【図23B】
61
【図23C】
62
【図23D】
63
【図23E】
64
【図24A】
65
【図24B】
66
【図24C】
67
【図24D】
68
【図24E】
69
【図25A】
70
【図25B】
71