TOP > 国内特許検索 > 口腔前癌病変の検出方法 > 明細書

明細書 :口腔前癌病変の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-046628 (P2017-046628A)
公開日 平成29年3月9日(2017.3.9)
発明の名称または考案の名称 口腔前癌病変の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
G01N 33/50 ZNAG
G01N 33/53 M
G01N 33/574
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2015-172327 (P2015-172327)
出願日 平成27年9月1日(2015.9.1)
発明者または考案者 【氏名】▲濱▼田 倫史
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100171505、【弁理士】、【氏名又は名称】内藤 由美
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
Fターム 2G045AA26
2G045CB07
2G045DA13
2G045FB02
4B024AA12
4B024CA01
4B024CA09
4B024DA03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ49
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
要約 【課題】口腔癌を発症する可能性のある前癌病変を大規模なスクリーニングで早期発見することを可能とする非侵襲的な方法を提供する。
【解決手段】被験者から採取したうがい液中のDNAのメチル化を検出することによって被験者における口腔前癌病変の診断のためのデータを取得する方法であって、DNAが以下の群の遺伝子:RASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、HIC1、CASP8、RARβ、CDKN2B、CHFR、ATM、CDKN1B、BRCA1、及びCADM1から選択される1種以上のDNAのプロモーター領域のDNAであることを特徴とする、上記方法を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者から採取したうがい液中のDNAのメチル化を検出することによって被験者における口腔前癌病変の診断のためのデータを取得する方法であって、DNAが以下の群の遺伝子:
RASSF1(Ras関連ドメインファミリーメンバー1:Ras association domain family member 1、NM_170714.1)、
DAPK1(細胞死関連タンパク質キナーゼ1:death-associated protein kinase 1、NM_004938.2)、
CD44(NM_001001391.1)、
BRCA2(乳癌感受性遺伝子2:breast cancer susceptibility gene 2、NM_000059.3)、
FHIT(脆弱ヒスチジン三連残基遺伝子:fragile histidine triad gene、NM_002012.2)、
CDKN2A(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2A:cyclin-dependent kinase inhibitor 2A、NM_058195.3)、
HIC1(hypermethylated in cancer 1、NM_006497.3)、
CASP8(カスパーゼ8:caspase 8、NM_001080125)、
RARβ(レチノイン酸受容体β:retinoic acid receptor beta、NM_000965.3)、
CDKN2B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2B:cyclin-dependent kinase inhibitor 2B、NM_078487.2)、
CHFR(有糸分裂チェックポイント遺伝子:checkpoint with forkhead and ring finger domains, E3 ubiquitin protein ligase、NM_001161344.1)、
ATM(毛細血管拡張性運動失調症関連遺伝子変異型:ataxia telangiectasia mutated、NM_000051.3)、
CDKN1B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1B:cyclin-dependent kinase inhibitor 1B、NM_004064.3)、
BRCA1(乳癌感受性遺伝子1:breast cancer susceptibility gene 1、NM_007294.3)、及び
CADM1(細胞接着分子1:cell adhesion molecule 1、NM_001098517.1)
から選択される1種以上の遺伝子のプロモーター領域のDNAであることを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
検出されたDNAのメチル化を、対照サンプルにおけるDNAのメチル化と比較することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、及びHIC1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、及びBRCA2遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
DNAがRASSF1、CD44、BRCA2、DAPK1、及びFHIT遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
DNAのメチル化が、配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有するプローブを用いて検出可能なものである、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
口腔前癌病変が白板症である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
RASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、HIC1、CASP8、RARβ、CDKN2B、CHFR、ATM、CDKN1B、BRCA1、及びCADM1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択されるDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含む、口腔前癌病変の検出のためのキット。
【請求項9】
配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有する1以上のプローブを含む、請求項8記載のキット。
【請求項10】
口腔前癌病変が白板症である、請求項8又は9記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔前癌病変の検出方法に関し、より具体的には、含嗽液(うがい液)中に含まれるDNAの解析によって口腔前癌病変を非侵襲的に検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔は、人間の生存及び生活に欠かせない咀嚼・嚥下・構音といった重要な機能を有する器官であるにもかかわらず、一般には口腔癌に対する認識は低く、初期では自覚症状が乏しいこと、また類似した臨床症状を呈する粘膜疾患も多いこと等から、口腔癌の早期発見は満足できる状況ではない。口腔癌の5年生存率は65%程度である。
【0003】
口腔癌では、大腸癌のための便潜血検査や胃癌のためのX線検査、乳癌のためのマンモグラフィー検査等のような、非侵襲的な検診方法は確立されていない。口腔前癌病変の発見も含む口腔癌検診のためには専門医による診察が必要であり、現時点において、大規模の検診は事実上不可能である。また、トルイジンブルー等の色素を用いた染色によるスクリーニング検査も知られているが、診断精度は必ずしも満足できるものではない。
【0004】
一方、白板症は、頬粘膜、舌、歯肉等に見られる白い角化性の比較的頻度の高い口腔癌の前癌病変である。白板症の発症原因としては、喫煙やアルコールによる刺激、義歯等による機械的刺激、ビタミン不足等が知られているが、原因不明の症例も多い。また、病変部が隆起する場合や痛みを伴う場合もあるが、隆起せず、痛みもない場合には発症しても気づかないことが多い。しかしながら、特に舌にできた場合には悪性化する可能性が高く、前癌病変の代表的なものとされている。白板症の治療としては、切除が最も確実なものであるが、病変が広範囲である場合には切除によって機能障害が生じる等の理由から、病変を早期に発見し、経過を観察しながら治療法を決定することが適切と考えられている。
【0005】
口腔癌の検出のための方法として、唾液中の口腔疾患代謝産物あるいはトランスクリプトームパターンを検出する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【0006】
また、DNAのメチル化、具体的には例えばシトシンのピリミジン環の5位炭素原子へのメチル基の付加反応がエピジェネティクスに関与しており、発癌にも関わっていることが報告されてきている。本発明者等は先に、口腔癌に特異的な異常メチル化を示す遺伝子群を見出し、報告している(非特許文献1及び2)。非特許文献1及び2に記載の方法は、被験者のうがい液中に含まれる特定の腫瘍関連遺伝子の異常メチル化を検出することで、口腔扁平上皮癌の非侵襲的な検出が可能であることを報告したものである。
しかしながら、これまでに前癌病変の検出方法についての報告はなされていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2011-229532号公報
【特許文献2】特表2013-505428号公報
【0008】

【非特許文献1】J. Oral. Maxillofac Surg., Vol.70, Issue 6, p.1486-1494, August 6, 2011
【非特許文献2】Cancer, September 1, 2012, DOI: 10.1002/cncr.27417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、口腔は重要な機能を有する器官であり、異変があった場合には早急に対応することが必要である。また、口腔癌患者の生存率を劇的に向上させる治療法が見出されていない現状では、早期発見及び早期治療が最も確実かつ現実的な対処法である。より良好な予後及び機能の温存の観点から、口腔前癌病変を早期に発見することが非常に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明者等は、口腔癌を発症する可能性のある白板症等の前癌病変を大規模なスクリーニングで早期発見することを可能とする非侵襲的な方法が実現できないかと検討した。
【0011】
その結果、うがい液を試料として特異的なメチル化異常を示す癌抑制遺伝子を同定し、それらを用いた高精度の口腔前癌病変の検出システムを確立することができた。
【0012】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1.被験者から採取したうがい液中のDNAのメチル化を検出することによって被験者における口腔前癌病変の診断のためのデータを取得する方法であって、DNAが以下の群の遺伝子:
RASSF1(Ras関連ドメインファミリーメンバー1:Ras association domain family member 1、NM_170714.1)、
DAPK1(細胞死関連タンパク質キナーゼ1:death-associated protein kinase 1、NM_004938.2)、
CD44(NM_001001391.1)、
BRCA2(乳癌感受性遺伝子2:breast cancer susceptibility gene 2、NM_000059.3)、
FHIT(脆弱ヒスチジン三連残基遺伝子:fragile histidine triad gene、NM_002012.2)、
CDKN2A(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2A:cyclin-dependent kinase inhibitor 2A、NM_058195.3)、
HIC1(hypermethylated in cancer 1、NM_006497.3)、
CASP8(カスパーゼ8:caspase 8、NM_001080125)、
RARβ(レチノイン酸受容体β:retinoic acid receptor beta、NM_000965.3)、
CDKN2B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2B:cyclin-dependent kinase inhibitor 2B、NM_078487.2)、
CHFR(有糸分裂チェックポイント遺伝子:checkpoint with forkhead and ring finger domains, E3 ubiquitin protein ligase、NM_001161344.1)、
ATM(毛細血管拡張性運動失調症関連遺伝子変異型:ataxia telangiectasia mutated、NM_000051.3)、
CDKN1B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1B:cyclin-dependent kinase inhibitor 1B、NM_004064.3)、
BRCA1(乳癌感受性遺伝子1:breast cancer susceptibility gene 1、NM_007294.3)、及び
CADM1(細胞接着分子1:cell adhesion molecule 1、NM_001098517.1)
から選択される1種以上の遺伝子のプロモーター領域のDNAであることを特徴とする、上記方法。
2.検出されたDNAのメチル化を、対照サンプルにおけるDNAのメチル化と比較することを含む、上記1記載の方法。
3.DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、及びHIC1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、上記1又は2記載の方法。
4.DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、及びBRCA2遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、上記1又は2記載の方法。
5.DNAがRASSF1、CD44、BRCA2、DAPK1、及びFHIT遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである、上記1又は2記載の方法。
6.DNAのメチル化が、配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有するプローブを用いて検出可能なものである、上記1~5のいずれか記載の方法。
7.口腔前癌病変が白板症である、上記1~6のいずれか記載の方法。
8.RASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、HIC1、CASP8、RARβ、CDKN2B、CHFR、ATM、CDKN1B、BRCA1、及びCADM1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択されるDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含む、口腔前癌病変の検出のためのキット。
9.配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有する1以上のプローブを含む、上記8記載のキット。
10.口腔前癌病変が白板症である、上記8又は9記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、白板症等の口腔前癌病変を、うがい液を用い、非侵襲的かつ簡便に検出することができる。DNAはタンパク質及びRNAと比較して安定であることから保存や輸送に優れ、また、DNAメチル化の異常は病変の早期や発症前から見られることから、本発明者等が見出したDNAの異常メチル化は、口腔癌の早期検出及び発癌リスクの評価のためのマーカーとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】15種の遺伝子のプロモーター領域におけるDNA異常メチル化の分布を健常群と白板症群とで比較して示す。縦軸は各遺伝子プロモーター領域における各群のメチル化の平均パーセンテージを示す。記載の全ての遺伝子において、白板症群に統計学的に有意な高メチル化がみられた。
【図2】表2に示す遺伝子群のうちAUC値が特に高かった7種の遺伝子のプロモーター領域のDNAのメチル化について、白板症検出の精度をROC曲線にて示す。全てAUC>0.85であり、良好な検出率を示した。
【図3】7種の遺伝子のプロモーター領域のそれぞれについての異常メチル化の分布状況を白板症群及び健常群で示す。それぞれの区画が白板症群又は健常群での一被験者を示し、白い区画は異常メチル化の不存在を、黒い区画は異常メチル化の存在を示す。白板症群と健常者群の間には明らかな差異が存在することが示された。
【図4】A:RASSF1、FHIT、DAPK1、CD44、BRCA2遺伝子のプロモーター領域のメチル化についてのロジスティック分析の結果を示す。B:RASSF1、FHIT、DAPK1、CD44、BRCA2遺伝子での結果に基づくROC曲線を示す。いずれの結果も良好な検出精度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、被験者から採取したうがい液中の特定遺伝子のDNAのメチル化を検出することによって、被験者における口腔前癌病変の診断のためのデータを取得する方法を提供する。「うがい液」は、口腔全体の粘膜の剥離細胞が含まれること、採取の容易さ、検出のための処理の簡便さ等から、非侵襲的な診断のために特に好適である。本発明において、被験者は、ヒト被験者であり、口腔内に異常を有する可能性のある患者、及び健康診断等の広範なスクリーニングの対象となり得る被験者を含む。

【0016】
本明細書において、「うがい液」とは、被験者が適量の水又は水性溶液による含嗽(うがい)をしたのちの液体サンプルをいう。水性溶液としては、特に限定するものではないが、例えば生理食塩水、蒸留水、あるいは一般的な水道水等が挙げられる。

【0017】
含嗽の方法は、特に限定するものではないが、DNAの確実な採取、及び被験者の負担等を考慮すれば、例えば10~50mL、好ましくは20~30mL程度の生理食塩水等を口に含み、20~90秒間、好ましくは30~60秒間のうがいとするのが良い。

【0018】
本明細書において、「口腔前癌病変」としては、限定するものではないが、白板症、紅板症、扁平苔癬等が挙げられる。

【0019】
本発明の方法において、口腔前癌病変の検出のために好適であるメチル化検出対象のDNAは、以下の群の遺伝子:
RASSF1(Ras関連ドメインファミリーメンバー1:Ras association domain family member 1)、
DAPK1(細胞死関連タンパク質キナーゼ1:death-associated protein kinase 1)、
CD44、
BRCA2(乳癌感受性遺伝子2:breast cancer susceptibility gene 2)、
FHIT(脆弱ヒスチジン三連残基遺伝子:fragile histidine triad gene)、
CDKN2A(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2A:cyclin-dependent kinase inhibitor 2A)、
HIC1(hypermethylated in cancer 1)、
CASP8(カスパーゼ8:caspase 8)、
RARβ(レチノイン酸受容体β:retinoic acid receptor beta)、
CDKN2B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2B:cyclin-dependent kinase inhibitor 2B)、
CHFR(有糸分裂チェックポイント遺伝子:checkpoint with forkhead and ring finger domains, E3 ubiquitin protein ligase)、
ATM(毛細血管拡張性運動失調症関連遺伝子変異型:ataxia telangiectasia mutated)、
CDKN1B(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1B:cyclin-dependent kinase inhibitor 1B)、
BRCA1(乳癌感受性遺伝子1:breast cancer susceptibility gene 1)、及び
CADM1(細胞接着分子1:cell adhesion molecule 1)
のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAである。

【0020】
表1に、上記の遺伝子のそれぞれについて、遺伝子名及びシンボル、染色体上の位置、及びNCBI登録番号を示す。

【0021】
【表1】
JP2017046628A_000002t.gif

【0022】
本発明は、被験者由来の上記の表1に記載された遺伝子から選択される1種以上の遺伝子のプロモーター領域のDNAのメチル化の有無を検出し、それによって、被験者における口腔前癌病変の診断のためのデータを取得するものである。上記DNAがメチル化されている場合、その被験者は口腔前癌病変を有している可能性が高く、メチル化されていない場合にはその可能性は低いと判定することができる。診断のために利用されるデータは、上記の遺伝子の2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、10種以上、あるいは全部の遺伝子のデータであって良い。

【0023】
本発明の一実施形態は、DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、及びHIC1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAにおけるメチル化を検出することを含む、上記の方法である。

【0024】
本発明の別の実施形態は、DNAがRASSF1、DAPK1、CD44、及びBRCA2遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAにおけるメチル化を検出することを含む、上記の方法である。

【0025】
本発明の更に別の実施形態は、DNAがRASSF1、CD44、BRCA2、DAPK1、及びFHIT遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAにおけるメチル化を検出することを含む、上記の方法である。

【0026】
ヒトゲノムに含まれる遺伝子等のDNA配列は、現在では種々のデータベースの構築により、遺伝子名又はデータベースにおける登録番号(参照番号)等によって検索することで、容易に入手できるようになっている。本発明は、目的のDNA配列中におけるメチル化の検出を目的とするものであり、メチル化した塩基を有する配列とメチル化していない配列とを識別できる方法によってメチル化を検出する。

【0027】
例えば、サンプルを予めバイサルファイトで処理することで、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、メチル化されているシトシンを含む配列と異なる配列を生じる。これを利用して、メチル化シトシンを含む配列と非メチル化シトシンを含む配列とをそれぞれ増幅可能な2セットのプライマーを設計し、PCR反応を行うことで増幅の有無又は増幅されるDNAの配列を決定することができる。この方法に使用できる市販のキットとして、例えばEpiScope MSP Kit(タカラバイオ株式会社製)が挙げられる。プライマーの長さは、特に限定するものではないが、例えば20~45個の長さのものを使用して、メチル化する可能性のある塩基部位を含む80~500個の塩基長の増幅産物を得るようにすれば良い。

【0028】
あるいはまた、標的の領域にハイブリダイズ可能なプローブを設定し、プローブがハイブリダイズした場合にのみPCR産物が得られるMS-MLPA(Methylation Specific-Multiplex Ligation Probe Amplification)法を用いることもできる。プローブは、標的の塩基配列に対応して設計することができる。例えば、市販されているMS-MLPAキット(MRC-Holland社)には、26種の癌抑制遺伝子のプロモーター領域における異常メチル化を検出することが可能なプローブが含まれている。このキットでは、5'側プローブと3'側プローブを使用して標的の配列にハイブリダイズさせた後でライゲーションを行い、その後、プローブの両側に結合させたユニバーサルプライマーを用いてPCR反応を行って増幅することができる。標的配列中にはDNAのメチル化が生じている可能性があるため、上記のライゲーションと同時にメチル化感受性制限酵素を用いて、例えばメチル化していないハイブリダイゼーション産物を切断することができる。これにより、メチル化が生じた場合にのみ増幅産物が得られることとなる。メチル化感受性制限酵素としては種々の酵素が知られており、例えばAccII、HhaI、HapII、HaeIII等を挙げることができる。これらの酵素は、例えばタカラバイオ株式会社等から入手することができる。

【0029】
プローブの長さは、特に限定するものではないが、例えばメチル化する可能性のある塩基部位を含む領域にハイブリダイズし得る80~500個の長さのものを使用するようにすれば良い。

【0030】
本発明の方法において好適に使用することができるプローブとして、限定するものではないが、例えば配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有するプローブを挙げることができる。従って、一実施形態において、本発明の方法は、DNAのメチル化を、配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有するプローブを用いて検出することを含む。

【0031】
PCR反応の後、例えばキャピラリー電気泳動を行って、各増幅産物の有無を検出することができる。

【0032】
従って、特に限定するものではないが、本発明の方法は、上記の特定のDNAのメチル化を、メチル化感受性制限酵素、例えばHhaIによる該DNAの切断の有無を指標として決定することを含む。HhaIは、ヘモフィラス・ヘモリティカス(Haemophilus haemolyticus)(ATCC 10014)由来の制限酵素であり、HhaIによって切断された場合にはそのDNAにおいてメチル化が生じておらず、HhaIによって切断されない場合にはそのDNAにおいてメチル化が生じているものと判定することができる。尚、上記の表1に記載した遺伝子のプロモーター領域にはいずれもHhaIの切断部位であるGCGC配列が含まれており、プローブはその配列を含むように作製することができる。

【0033】
尚、DNAのメチル化の検出は、上記の方法に限定されるものではなく、当分野で用いられているいずれの手段を用いて行っても良い。

【0034】
本発明の方法は、上記の特定の遺伝子のプロモーター領域のDNAにおけるメチル化の異常を検出し、それによって口腔前癌病変を有するか否かを診断するためのデータを提供するものである。本明細書において、「メチル化の異常」又は「異常メチル化」とは、健常者由来の正常サンプル(対照サンプル)では検出されないメチル化を意味するものとする。

【0035】
癌抑制遺伝子の場合、正常な状態では遺伝子が発現していなければならず、一方メチル化によって癌抑制遺伝子の発現に抑制がかかると、結果として発癌してしまうことから、健常者の癌抑制遺伝子のプロモーター部位はメチル化していないと考えられる。しかしながら、正常な状態でメチル化が生じている場合があり得、更に健常者であっても疾患とは関連しない潜在的なメチル化が生じている場合があり得る。その場合、その部位のメチル化は「異常」とは判定されない。従って、検出されたDNAのメチル化は、対照サンプルにおけるDNAのメチル化と比較することが好ましい。

【0036】
従って、本発明の方法は、被験者から採取したうがい液中の上記遺伝子のプロモーター領域のDNAのメチル化を検出するステップと、検出されたメチル化を、対照サンプルにおける同じ領域のDNAのメチル化(の有無)と比較するステップを含み得る。対照サンプルと異なるメチル化が存在する場合に、口腔前癌病変が存在する可能性が示される。しかしながら、正常サンプル(対照サンプル)におけるメチル化のデータは予め取得することが可能であるため、ある被験者における口腔前癌病変の診断のために、対照サンプルにおけるメチル化の情報を同時に取得する必要はないことは理解されるであろう。

【0037】
本発明者等が口腔前癌病変において有意にメチル化されていることを見出したDNAは、代表的な口腔前癌病変である白板症患者及び健常者から取得したうがい液を用いて特定された。健常者と比較した有意なメチル化の上昇は、当分野で通常行われる統計的な手法を使用することで確認することができる。そのような手法としては、限定するものではないが、例えばt検定、Mann-Whitney U検定、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)の作成、ロジスティック回帰分析等が挙げられる。

【0038】
被験者から採取したうがい液中の上記で特定したDNAのメチル化が、対照サンプルにおけるメチル化と比較して有意に上昇している場合に、被験者が口腔前癌病変に罹患しているか、または罹患するリスクが高いことが示唆される。ここで、「有意に」上昇しているとは、各統計手法において帰無仮説を棄却する有意水準が5%以下、好ましくは1%以下のものを言う。

【0039】
本発明はまた、RASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、HIC1、CASP8、RARβ、CDKN2B、CHFR、ATM、CDKN1B、BRCA1、及びCADM1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択されるDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含む、口腔前癌病変の検出のためのキットを提供する。検出対象のDNAに応じて、キット中の特定のプライマー又はプローブのみを使用することができ、また、そうした特定のプライマー又はプローブのみを含むキットを提供することもできる。

【0040】
例えば、RASSF1、DAPK1、CD44、及びBRCA2遺伝子のプライマー領域のDNAのメチル化の検出のためには、配列番号3~8、19及び20に示すヌクレオチド配列をそれぞれ有するプローブをキットに含めることができる。

【0041】
キットは、口腔前癌病変の診断のために特に適したプライマー又はプローブを含めることが好ましい。従って、本発明のキットは、例えばRASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、及びHIC1遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含むものであれば良い。また、本発明のキットは、RASSF1、CD44、及びBRCA2遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含むものであれば良い。更に、本発明のキットは、RASSF1、CD44、BRCA2、DAPK1、及びFHIT遺伝子のプロモーター領域のDNAから選択される1種以上のDNAの異常メチル化を検出するためのプライマー又はプローブを含むものであれば良い。

【0042】
本発明のキットに含めることができるプローブとしては、例えば配列番号1~30に示されるヌクレオチド配列を有する1以上のプローブが挙げられる。

【0043】
キットにはまた、うがい液に含めるための水性溶液、例えば生理食塩水、DNAの抽出操作、ハイブリダイゼーション及びライゲーション、PCR反応等のための各種試薬、制限酵素等を適宜含めることができる。
【実施例】
【0044】
臨床的に白板症が疑われ、組織学的な確定診断が得られた白板症症例患者(n=19)及び対照群として口腔内診査で異常のみられなかった健常者55名を被験者とした。
【実施例】
【0045】
被験者に生理食塩水20mlで30秒間含嗽させ、うがい液を全量採取した。得られたサンプル5mlを2,000rpmで5分間遠心分離し(KUBOTA6800(久保田商事株式会社製))、生理食塩水で洗浄した後、再度2,000rpmで5分間遠心分離する操作を2回繰り返してペレットとし、使用まで-80℃に保存した。
【実施例】
【0046】
DNeasy Blood and Tissue Kits(Qiagen, Valencia, CA)でDNAを抽出後、MS-MLPAキット(MRC-Holland社)を用いて常法によりMS-PLPAを行った。プローブセットとしては、キットに含まれるME001-C1 Tumor suppressor-1のうち、HhaI切断部位を有する26種の遺伝子に対応するプローブを用いた。1種の遺伝子に対してそれぞれ2種のプローブを用い、これらのプローブはそのいずれかあるいは双方にHhaIの切断部位を1個又は2個有している。ハイブリダイゼーション及びライゲーションと共にHhaI(Promega社製)による切断を行った後にPCRを行い、3130 Genetic Analyser(ABI社)を用いてフラグメント解析し、Gene Mapper(v4.1、ABI社)を用いてピーク面積を算出後、統計処理を行った。
【実施例】
【0047】
[DNA異常メチル化の分布及び白板症群と健常群との比較]
MS-MLPAキットに含まれる26種の癌抑制遺伝子のメチル化状態を検討した。定量化された各遺伝子のメチル化レベルをt検定又はMann-Whitney U検定で比較検討した。
【実施例】
【0048】
表2に、健常群と比較して白板症群でプロモーター領域の異常メチル化が上昇していることが見出された15種の遺伝子のシンボル及び検出に用いたプローブの配列番号を示す。また、これらの遺伝子のプロモーター領域におけるDNA異常メチル化の分布を健常群と白板症群とで比較して箱ひげ図として図1に示す。
【実施例】
【0049】
【表2】
JP2017046628A_000003t.gif
【実施例】
【0050】
[ROC解析]
表1及び図1に示す15種の遺伝子についての結果に基づいて、P≧0.01の結果となった遺伝子は対象から除外し、P<0.01の結果となった各遺伝子のプロモーター領域のメチル化について、白板症の検出をエンドポイントとしてROC曲線を作成し、曲線下面積(Area Under the Curve、AUC)値(%)を求めた。また、ROC曲線により得られた感度及び特異度から、診断法として用いる際のカットオフ値を設定した。表3は、15種の遺伝子について、これらの数値をAUC値の高い順に示したものである。
【実施例】
【0051】
【表3】
JP2017046628A_000004t.gif
【実施例】
【0052】
表3に示した遺伝子の中でAUC値>0.8の結果が得られた7種の遺伝子(RASSF1、DAPK1、CD44、BRCA2、FHIT、CDKN2A、及びHIC1)のプロモーター領域のDNAのメチル化についてのROC曲線を図2に示す。図2から明らかなように、これらの遺伝子のプロモーター領域が白板症の検出のためにより有用なマーカー候補であることが判明した。
【実施例】
【0053】
[白板症検出精度の検討]
ROC解析で良好なAUC値を示した7種の遺伝子のプロモーター領域の異常メチル化の結果に基づいて、白板症検出の正準判別解析を行った。結果を図3に示す。この結果から明らかな通り、7種の遺伝子のプロモーター領域のDNAはいずれも白板症群と健常群とで異常メチル化の傾向が明確に異なっていた。
【実施例】
【0054】
また、白板症の検出に対する指標としてのこれらのDNAの有用性をフィッシャー検定、感度及び特異度を用いて検討した。各遺伝子についてのプロモーター領域のメチル化の有無を表4にまとめる。
【実施例】
【0055】
【表4】
JP2017046628A_000005t.gif
【実施例】
【0056】
表4の結果から明らかな通り、いずれの遺伝子のプロモーター領域のDNAも、健常群と白板症群とを単独で有意に識別し得ることが確認された。その中でも、感度及び特異度を考慮すると、いずれも80%以上であるRASSF1、CD44及びBRCA2の3種の遺伝子が特に有用であることが明らかとなった。
【実施例】
【0057】
[複数の遺伝子の組み合わせに基づく診断法の検討]
単独で良好な検出感度及び検出特異度を示したRASSF1、CD44及びBRCA2の3種の遺伝子の結果を用い、それらの遺伝子のプロモーター領域におけるメチル化の検出を組み合わせた診断法の確立が可能か否かを検討した。表5に示す通り、健常群では異常メチル化がほとんど検出されないのに対して、白板症群では複数の遺伝子で異常メチル化が生じている場合が多いことが明らかとなった。
【実施例】
【0058】
【表5】
JP2017046628A_000006t.gif
【実施例】
【0059】
一方、表5の結果に示す通り、単独で80%以上の感度及び特異度を示すRASSF1、CD44及びBRCA2は、いずれの2種の組み合わせにおいても、特異度は上昇するものの、感度は同程度か又は低下する傾向が見られた。これは3種の遺伝子の組み合わせにおいても同様であり、上記で設定したカットオフ値を用いて解析した場合、遺伝子の組み合わせによる判定を行うことで偽陰性となる場合があり、必ずしも精度の向上にはつながらないことが明らかとなった。
【実施例】
【0060】
[5種の遺伝子による組合せに基づく診断法の確立]
RASSF1、CD44及びBRCA2に加えて単独での検出精度が高かったDAPK1及びFHITを用い、これら5種の遺伝子のプロモーター領域のメチル化を指標として用いる白板症検出の正準判別解析を行った。
【実施例】
【0061】
RASSF1、FHIT、DAPK1、CD44、BRCA2を用いたロジスティック分析を行い、下記の式:
fm=0.6615648xRASSF1+0.2922162xFHIT+0.1885340xDAPK1+0.5206504xCD44+0.5737340xBRCA2
を得ることができた。これを用いて判別すると、5種の遺伝子のプロモーター領域のメチル化を統合した評価(Fm):
Fm = -0.02176+0.20975x(0.6615648xRASSF1+0.2922162xFHIT+0.1885340xDAPK1+0.5206504xCD44+0.5737340xBRCA2)
は、白板症群と健常群で大きく異なっていた。
【実施例】
【0062】
図4に結果を示す。より詳細には、白板症群及び健常群でそれぞれ不一致は1例のみであり、感度は98.2%、特異度は94.7%と非常に高い検出精度を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
うがい液は非侵襲的で安価かつ簡便に採取できることから、検査のための理想的な試料であり、一般的な健康診断の評価項目に含めることもできる。また、DNAメチル化の異常は病変の早期や発症前から見られることから、口腔癌の早期検出及び発癌リスクの評価が可能となり、被験者自身が発癌リスクを認識することで、生活習慣の改善や予防医療に貢献することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3