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明細書 :シンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法、及び複合成形体を製造する方法。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-043650 (P2017-043650A)
公開日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明の名称または考案の名称 シンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法、及び複合成形体を製造する方法。
国際特許分類 C08J   7/12        (2006.01)
FI C08J 7/12 A
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2015-164760 (P2015-164760)
出願日 平成27年8月24日(2015.8.24)
発明者または考案者 【氏名】板垣 秀幸
【氏名】佐野 匠
【氏名】岡部 俊彦
出願人 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100124800、【弁理士】、【氏名又は名称】諏澤 勇司
【識別番号】100140578、【弁理士】、【氏名又は名称】沖田 英樹
審査請求 未請求
テーマコード 4F073
Fターム 4F073AA32
4F073BA19
4F073BB01
4F073DA08
4F073EA16
4F073EA25
要約 【課題】高い純度でε型結晶を含むSPS成形体を容易に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を、γ型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又は前記γ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することにより、シンジオタクチックポリスチレンのγ型結晶を形成する工程と、成形体を、ε型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又はε型結晶形成用化合物の蒸気に曝露し、その後、成形体をε型結晶形成用化合物が溶解する溶剤に接触させることにより、シンジオタクチックポリスチレンのε型結晶を形成する工程と、を備える、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレン10を含む成形体1を製造する方法が開示される。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
シンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を、γ型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又は前記γ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することにより、前記シンジオタクチックポリスチレンのγ型結晶を形成する工程と、
前記γ型結晶及び前記γ型結晶形成用化合物を含む前記成形体を、ε型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又は前記ε型結晶形成用化合物の蒸気に曝露し、その後、前記成形体を前記ε型結晶形成用化合物が溶解する溶剤に接触させることにより、前記シンジオタクチックポリスチレンのε型結晶を形成する工程と、
を備える、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法。
【請求項2】
前記γ型結晶形成用化合物が、160Å以上の分子体積を有する、及び/又は、2分子以上の前記γ型結晶形成用化合物を含み160Å以上の分子体積を有する会合体を形成する、化合物であり、
前記γ型結晶形成用化合物の、フェドースの式により算出される溶解度パラメーターが、8.0~14.5(cal・cm1/2である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ε型結晶形成用化合物が、160Å未満の分子体積を有する、及び/又は、2分子以上の前記ε型結晶形成用化合物を含み160Å未満の分子体積を有する会合体を形成する、化合物であり、
前記ε型結晶形成用化合物の、フェドースの式により算出される溶解度パラメーターが、8.0~14.5(cal・cm1/2である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
γ型結晶を形成する前記工程、ε型結晶を形成する前記工程、及びこれらの工程の間の期間において、前記成形体の温度が60℃以下に維持される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体中に重合性モノマーを取り込む工程と、
前記重合性モノマーの重合体を前記成形体中に生成させる工程と、
を備える、複合成形体を製造する方法。
【請求項6】
ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンと、
前記ε型結晶内に取り込まれた重合体と、
を含む、複合成形体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法、及び、ε型結晶に取り込まれた重合体を含む複合成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンの立体規則的な重合により得られるシンジオタクチックポリスチレン(以下、「SPS」ということがある。)は、高い結晶性を有するポリマーであり、trans-zigzag構造、及び2-helix構造の2種の主鎖構造の形態をとることができる。SPSの結晶型として、α、β、γ、δ、εの5種が知られており、δ型及びε型の結晶では、SPSの主鎖が主に2-helix構造を形成する。図1及び図2が、それぞれ、δ型結晶及びε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンの形態を示す。図2のε型結晶は細長いチューブ状の自由空間5を形成しており、自由空間5内に複数のゲスト化合物20が配列され得る。
【0003】
ε型結晶を含むSPSフィルムを得る方法に関して、非特許文献1は、先ずδ型結晶を含むSPSフィルムを作製する工程、δ型結晶を含むSPSフィルムを120℃以上にアニールすることでγ型結晶を形成する工程、γ型結晶を含むSPSフィルムをクロロホルムに曝露する工程、及び、その後SPSフィルムをアセトニトリルで洗浄する工程という、主に4つの工程から構成される方法を開示している。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】O. Tarallo et al., Macromolecules, 43(3), 2010, 1455-1466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1が開示するような従来の方法によれば、ε型結晶だけでなくγ型結晶も含む混晶を含有する成形体が形成され易い。ε型結晶を利用した種々の機能を有する成形体を得るためには、より高い純度でε型結晶を含むSPS成形体が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の主な目的は、高い純度でε型結晶を含むSPS成形体を容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法に関する。この方法は、シンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を、γ型結晶形成用のγ型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又は前記γ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することにより、前記シンジオタクチックポリスチレンのγ型結晶を形成する工程と、前記γ型結晶及び前記γ型結晶形成用化合物を含む前記成形体を、ε型結晶形成用のε型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又は前記ε型結晶形成用化合物の蒸気に曝露し、その後、前記成形体を前記ε型結晶形成用化合物が溶解する溶剤に接触させることにより、前記シンジオタクチックポリスチレンのε型結晶を形成する工程とを有する。
【0008】
この方法によれば、高い純度でε型結晶を含むSPSフィルムを容易に製造することができる。
【0009】
本発明の別の側面は、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンと、前記ε型結晶内に取り込まれた重合体とを含む、複合成形体及びその製造方法に関する。当該複合成形体の製造方法は、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体中に重合性モノマーを取り込む工程と、重合性モノマーの重合体を前記成形体中に生成させる工程とを備えることができる。
【0010】
ε型結晶が形成するチューブ状の自由空間内に重合体を配置することで、導電性等の種々の機能を有する複合成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、高い純度でε型結晶を含むSPS成形体を容易に製造することができる。本発明の別の側面によれば、導電性等の種々の機能を有する複合成形体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】δ型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体の一実施形態を示す模式図である。
【図2】ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体の一実施形態を示す模式図である。
【図3】ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体を製造する従来の方法を示すフローチャートである。
【図5】複合成形体を製造する方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図6】シンジオタクチックポリスチレンフィルムの広角X線回折の測定結果である。
【図7】シンジオタクチックポリスチレンフィルムの広角X線回折の測定結果である。
【図8】シンジオタクチックポリスチレンフィルムの広角X線回折の測定結果である。
【図9】シンジオタクチックポリスチレンフィルムのFT-IRスペクトルである。
【図10】シンジオタクチックポリスチレンフィルムのFT-IRスペクトルである。
【図11】シンジオタクチックポリスチレンフィルムの広角X線回折の測定結果である。
【図12】シンジオタクチックポリスチレンフィルムのFT-IRスペクトルである。
【図13】シンジオタクチックポリスチレンフィルムのFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。

【0014】
<SPS成形体>
図2は、ε型結晶を形成しているシンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含む成形体の一実施形態を示す模式図である。図2に示す成形体(SPS成形体)1中のシンジオタクチックポリスチレン(SPS)10は、2-helix構造を形成しており、SPSの主鎖間にチューブ状の自由空間5が形成されている。自由空間5内に、複数のゲスト化合物20(例えば、後述のε型結晶形成用化合物)が包接されている。

【0015】
図3は、ε型結晶を形成しているSPSを含む成形体(ε型結晶SPS成形体)を製造する方法の一実施形態を示すフローチャートである。図3に示す方法は、非晶性のシンジオタクチックポリスチレンを含む成形体(非晶性SPS成形体)を、γ型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又はγ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することにより、SPSのγ型結晶を形成する工程S1と、γ型結晶及びγ型結晶形成用化合物を含む成形体を、ε型結晶形成用化合物を含む液体に接触させる、又はε型結晶形成用化合物の蒸気に曝露する工程S2と、その後、成形体をε型結晶形成用化合物が溶解する溶剤に接触させることにより、SPSのε型結晶を形成する工程S3とから主として構成される。ε型結晶は、工程S2及び工程S3の組み合わせにより形成されると考えられる。ただし、工程S2の段階で、ε型結晶の形成がある程度進行していることもあり得る。

【0016】
図4は、ε型結晶SPS成形体を製造する従来の方法を示すフローチャートである。図4に示す方法は、SPSのクロロホルム溶液を用いて、クロロホルムがゲスト化合物として包接されたδ型結晶を含むSPSフィルムを形成する工程S11と、δ型結晶を含むSPSフィルムを120℃以上でアニールすることでγ型結晶を形成する工程S12と、γ型結晶を含むSPSフィルムをクロロホルムに曝露する工程S13と、SPSフィルムをアセトニトリルで洗浄する工程D14とを含む。

【0017】
図3の方法は、アニールの工程を必要とせずに、図4の方法と比較してより簡易にε型結晶成形体を製造できる。本発明者らの知見によれば、アニールの工程を経ると最終的に得られる、ε型結晶を含む成形体中にγ型結晶を含む混晶が形成され易い。係る観点から、工程S1、工程S2、工程S3、及びこれら工程の間の期間(すなわち、工程S1開始から工程S4完了までの間)において、成形体の温度が60℃以下に維持された方がよい。成形体の温度の下限は特に制限されないが、成形体の温度が例えば10℃以上に維持されてもよい。

【0018】
以下、図3の方法を構成する各工程に関して説明する。

【0019】
工程S1のために用いられる非晶性SPS成形体は、例えばSPSを溶融成形することにより得られる。非晶性SPS成形体は、微小な結晶化部分を含み得るものの、全体として非晶質であればよい。あるいは、非晶性SPS成形体に代えて、延伸又はゲスト化合物の導入等の方法により形成された結晶部分を含むSPS成形体を用いてもよい。

【0020】
溶融成形後の非晶性SPS成形体は、SPSを主成分として含む。非晶性SPS成形体におけるSPSの割合は、成形体の全体質量を基準として、例えば50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。

【0021】
成形体の形状は特に制限されないが、例えばフィルムであり得る。溶融成形の方法は、ホットプレス等の通常の方法から選択できる。溶融成形のための加熱温度は、SPSの融点(270℃)以上、例えば300℃程度であってもよい。

【0022】
工程S1は、非晶性SPS成形体にγ型結晶形成用化合物を含む液体を接触させること、又は、非晶性SPS成形体をγ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することを含む。非晶性SPS成形体に接触させる液体は、液状のγ型結晶形成用化合物自体であってもよいし、γ型結晶形成用化合物を含む溶液であってもよい。具体的には、成形体を、液状のγ型結晶形成用化合物、又はγ型結晶形成用化合物を含む溶液に浸漬することで、γ型結晶の形成を進行させることができる。非晶性SPS成形体をγ型結晶形成用化合物の蒸気に曝露する場合、例えば、γ型結晶形成用化合物の蒸気を含む雰囲気下に非晶性SPSフィルムを配置することができる。浸漬又は曝露の際の温度は、特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)~60℃であってもよい。浸漬又は曝露の時間は、特に制限されないが、10分~2週間であってもよい。

【0023】
工程S1において用いられるγ型結晶形成用化合物は、例えば、分子体積、会合性及び溶解度パラメーターの観点から選択することができる。分子体積が比較的大きいこと、及びSPSに近い溶解度パラメーターを有することを、γ型結晶形成用化合物として機能し得る化合物の要件として考慮することができる。SPSに近い溶解度パラメーターを有する化合物は、SPSと相溶して、結晶が形成されるようにSPSの分子鎖のコンフォメーションの変化を生じさせることができる。SPSに近い溶解度パラメーターを有しながら比較的大きな分子体積を有する化合物及び会合体は、SPSの分子鎖の間に入り込み難いために、分子鎖が比較的密に詰まった形態を有するγ型結晶を形成させることができると考えられる。

【0024】
係る観点から、γ型結晶形成用化合物は、160Å以上の分子体積を有する化合物、又は、2分子以上のγ型結晶形成用化合物を含み160Å以上の分子体積を有する会合体を形成する化合物であってもよい。γ型結晶を容易に形成するために、γ型結晶形成用化合物又はその会合体の分子体積は、300Å以下、又は250Å以下であってもよい。

【0025】
ここで、本明細書において、分子体積は、分子モデリング法のMOPACによる計算値を意味する。MOPACのための計算プログラムとして、WINMOSTAR、又はhttp://www.chemicalize.org/を利用することができる。

【0026】
γ型結晶形成用化合物の、フェドースの式により算出される溶解度パラメーター(SP値)は、SPSのSP値10.4に近い範囲、具体的には8.0~14.5(cal・cm1/2であってもよい。γ型結晶を容易に形成するために、γ型結晶形成用化合物のSP値は、8.3(cal・cm1/2以上、8.5(cal・cm1/2以上、又は9.0(cal・cm1/2以上であってもよく、14.1(cal・cm1/2以下、12.4(cal・cm1/2以下、12.0(cal・cm1/2以下、又は11.5(cal・cm1/2以下であってもよい。

【0027】
160Å以上の分子体積を有するγ型結晶形成用化合物の例としては、n-アルキルベンゼン等のアルキル置換芳香族炭化水素化合物が挙げられる。n-アルキルベンゼンの炭素数は5~10であってもよい。n-アルキルベンゼンの具体例としては、1-フェニルペンタン(分子体積(単体):168.1Å、SP値:10.5(cal・cm1/2)、1-フェニルノナン(分子体積(単体):235.5Å、SP値:8.8(cal・cm1/2)、アントラセン(分子体積(単体):170.8Å、SP値:11.1(cal・cm1/2)、及びシスジャスモン(分子体積(単体):177.5Å、SP値:9.4(cal・cm1/2))が挙げられる。

【0028】
160Å以上の分子体積を有する会合体を形成するγ型結晶形成用化合物の例としては、含窒素複素環化合物が挙げられる。含窒素複素環化合物の具体例としては、1-メチルイミダゾール(分子体積(2量体):161.6Å、SP値:10.5(cal・cm1/2)、トリアジン(分子体積(3量体):216.0Å、SP値:14.1(cal・cm1/2)、及びピラゾール(分子体積(3量体):192.9Å、SP値:12.0(cal・cm1/2)が挙げられる。

【0029】
これら化合物は、1種単独で、又は2種以上組み合わせてγ型結晶形成用化合物として用いられ得る。

【0030】
工程S2は、γ型結晶及びγ型結晶形成用化合物を含む成形体にε型結晶形成用化合物を含む液体を接触させること、又は、該成形体をε型結晶形成用化合物の蒸気に曝露することを含む。具体的には、成形体を、液状のε型結晶形成用化合物、又はε型結晶形成用化合物を含む溶液に浸漬してもよいし、ε型結晶形成用化合物の蒸気を含む雰囲気下に成形体を配置してもよい。浸漬又は曝露の際の温度は、特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)~60℃であってもよい。浸漬又は曝露の時間は、特に制限されないが、10分~2週間であってもよい。

【0031】
工程S2において用いられるε型結晶形成用化合物は、例えば、分子体積、会合性及び溶解度パラメーターの観点から選択することができる。分子体積が比較的小さいこと、及びSPSに近い溶解度パラメーターを有することを、ε型結晶形成用化合物として機能し得る化合物の要件として考慮することができる。SPSに近い溶解度パラメーターを有する化合物は、SPSと相溶して、結晶が形成されるようにSPSの分子鎖のコンフォメーションの変化を生じさせることができる。SPSに近い溶解度パラメーターを有しながら比較的小さな分子体積を有する化合物及び会合体は、SPSの分子鎖の間に入り込み易いために、分子鎖の間に大きな自由空間を有するε型結晶の形成に寄与できると考えられる。

【0032】
係る観点から、ε型結晶形成用化合物は、160Å未満の分子体積を有する化合物であってもよい。この化合物は、会合体を実質的に形成しない化合物であってもよい。ε型結晶形成用化合物は、2分子以上のε型結晶形成用化合物を含み160Å未満の分子体積を有する会合体を形成する化合物であってもよい。ε型結晶を容易に形成するために、ε型結晶形成用化合物又はその会合体の分子体積は、150Å以下、又は105Å以下であってもよく、50Å以上、60Å以上又は、70Å以上又は80Å以上であってもよい。

【0033】
ε型結晶形成用化合物の、フェドースの式により算出される溶解度パラメーター(SP値)は、SPSのSP値10.4(cal・cm1/2に近い範囲、具体的には8.0~14.5(cal・cm1/2であってもよい。ε型結晶を容易に形成するために、ε型結晶形成用化合物のSP値は、8.3(cal・cm1/2以上、8.5(cal・cm1/2以上、又は9.0(cal・cm1/2以上であってもよく、14.1(cal・cm1/2以下、12.4(cal・cm1/2以下、12.0(cal・cm1/2以下、又は11.5(cal・cm1/2以下であってもよい。

【0034】
160Å未満の分子体積を有し、会合体を実質的に形成しないε型結晶形成用化合物の例としては、非置換のハロゲン化炭化水素化合物、非置換のエーテル化合物、及びアルキル置換芳香族炭化水素化合物が挙げられる。非置換のハロゲン化炭化水素化合物の具体例としては、クロロホルム(分子体積(単体):70.2Å、SP値:8.8(cal・cm1/2)、沸点:61.0℃)、トリクロロエチレン(分子体積(単体):80.4Å、SP値:10.7(cal・cm1/2)、沸点:87.2℃)、ジクロロメタン(分子体積(単体):56.6Å、SP値:9.4(cal・cm1/2、沸点:39.6℃)が挙げられる。非置換のエーテル化合物の具体例としては、テトラヒドロフラン(分子体積(単体):77.9Å、SP値:8.3(cal・cm1/2)、沸点:66.0℃)が挙げられる。アルキル置換芳香族炭化水素化合物としては、p-ジエチルベンゼン(分子体積(単体):150Å、SP値:9.0(cal・cm1/2)、及びn-プロピルベンゼン(分子体積(単体):134Å、SP値:9.0(cal・cm1/2)が挙げられる。後述の重合性モノマーと同様の化合物も、ε型結晶形成用化合物として用いられ得る。例えば、2-メチル-2-シクロペンテン-1-オン(分子体積(単体):99.3Å、SP値:10.3(cal・cm1/2)のような環状ケトン化合物、及びベンズアルデヒド(分子体積(単体):103Å、SP値:11.7(cal・cm1/2)のような芳香族アルデヒド化合物が、ε型結晶形成用化合物として用いられ得る。

【0035】
工程S3は、工程S2の後の成形体を、ε型結晶形成用化合物が溶解する所定の溶剤に接触させることを含む。通常、成形体が溶剤に所定の時間、浸漬される。浸漬の際の温度は、特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)~60℃であってもよい。浸漬の時間は、特に制限されないが、10分~2週間であってもよい。

【0036】
工程S3に用いられる溶剤は、ε型結晶形成用化合物が溶解すればよいが、例えばアセトニトリル、アセトンであってもよい。

【0037】
<複合成形体>
ε型結晶を含むSPS成形体中で重合体を形成することで、種々の機能が付与された複合成形体を得ることができる。図5は、複合成形体を製造する方法の一実施形態を示すフローチャートである。図5に示す方法は、ε型結晶SPS成形体中に重合性モノマーを取り込む工程S4と、成形体中に取り込まれた重合性モノマーを重合させる工程S5と、成形体を溶剤で洗浄する工程S6とを有する。この方法により得られる複合成形体は、ε型結晶を形成しているSPSと、ε型結晶内に取り込まれた重合性モノマーの重合体とを含み得る。

【0038】
工程S4は、例えば、ε型結晶SPS成形体に重合性モノマーを含む液体を接触させること、又は、該成形体を重合性モノマーの蒸気に曝露することを含む。具体的には、成形体を、液状の重合性モノマー、又は重合性モノマーを含む溶液に浸漬してもよいし、重合性モノマーの蒸気を含む雰囲気下に成形体を配置してもよい。浸漬又は曝露の際の温度は、特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)~60℃であってもよい。浸漬又は曝露の時間は、特に制限されないが、10分~2週間であってもよい。

【0039】
重合性モノマーは、ε型結晶に包接され得る、酸化重合、ラジカル重合等により重合する化合物であれば特に制限されない。重合性モノマーは、ε型結晶形成用化合物と同様に、160Å未満の分子体積、又は、2分子以上の重合性モノマーを含み160Å未満の分子体積を有する会合体を形成する化合物であってもよい。重合性化合物のフェドースの式により算出される溶解度パラメーター(SP値)が、8.0~14.5であってもよい。

【0040】
重合性モノマーは、例えば、ヘテロ原子を有する単環式有機化合物、ヘテロ原子を有する縮合二環式有機化合物、及び、橋かけ環又はスピロ環を有する橋かけ又はスピロ二環式有機化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。

【0041】
重合性モノマーとしての単環式有機化合物は、単環式芳香族有機化合物であってもよい。単環式有機化合物は、置換されていてもよい5員環又は置換されていてもよい6員環を有していてもよい。5員環及び6員環は、ヘテロ原子を含んでいてもよいし、アミノ基、アルデヒド基、カルボン酸基、ケトン基、アミド基、イミド基、ハロゲン化アシル基、-OR(Rは置換されていてもよい炭化水素基を示す。)で表される基及びヒドロキシ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基で置換されていてもよい。

【0042】
重合性モノマーに含まれるヘテロ原子は、炭素原子及び水素原子以外の原子、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びセレン原子から選ばれる少なくとも1種の原子である。ヘテロ原子及び置換基の具体例は、後述の縮合環に関しても同様である。

【0043】
アミノ基を有する置換基としては、例えば、1級アミノ基(-NH)、アルキルアミノ基(-NHR、-N(R)R(R、Rはアルキル基を示す。))が挙げられる。アルデヒド基を有する基としては、例えば、-RCHO(Rは直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示す。)で表される基が挙げられる。カルボン酸基(-COOH)を有する置換基としては、例えば、-RCOOH(Rは直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示す。)で表される基が挙げられる。ケトン基を有する置換としては、例えば-RCOR(Rは直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、Rはアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。)で表される基が挙げられる。アミド基を有する置換基としては、例えば1級アミド基(-CONH)、-RCON(R)R又は-R10N(R11)COR12(R、R10は直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、R、R11は水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、R、R12はアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。)で表される基が挙げられる。イミド基を有する基としては、例えば-R13CONR14COR15(R13は直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、R14、R15は水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。)で表される基が挙げられる。ハロゲン化アシル基を有する置換基としては、例えば-R16COX(R16は直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。))で表される基が挙げられる。-OR(Rは置換されていてもよい炭化水素基を示す。)で表される基としては、例えば-R17OR18(R17は直接結合、アルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、R18はアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。)で表される基が挙げられる。ヒドロキシ基を有する置換基としては、例えば、ヒドロキシ基(-OH)、-R19(OH)R20(R19はアルキレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、R20は水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。)で表される基が挙げられる。置換基の具体例は、後述の縮合環に関しても同様である。

【0044】
ヘテロ原子を含む5員環としては、例えば、ピロール、1,2,4-トリアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピロリジン、チアゾール、チオフェン、セレノフェン、イソキサゾール、テトラフドロフランが挙げられる。ヘテロ原子を含む6員環としては、例えば、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、トリアジンが挙げられる。

【0045】
ヘテロ原子を含む5員環又は6員環を有する単環式有機化合物の具体例としては、1-メチルイミダゾール、ピロリジン、ピラゾール、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、チアゾールが挙げられる。

【0046】
アミノ基を含む置換基で置換された5員環又は6員環を有する単環式有機化合物の具体例としては、アニリン、シクロへキシルアミンが挙げられる。アルデヒド基を含む置換基で置換された5員環又は6員環を有する単環式有機化合物の具体例としては、ベンズアルデヒドが挙げられる。ヒドロキシ基を含む置換基で置換された5員環又は6員環を有する単環式有機化合物の具体例としては、フェノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールが挙げられる。-ORで表される基を含む置換基で置換された5員環又は6員環を有する単環式有機化合物の具体例としては、4-メチルアニソールが挙げられる。

【0047】
重合性モノマーは、置換されていてもよい2個の6員環から構成される縮合環を有する縮合二環式有機化合物であってもよい。縮合環は、ヘテロ原子を含んでいてもよいし、アミノ基、アルデヒド基、カルボン酸基、ケトン基、アミド基、イミド基、ハロゲン化アシル基、-OR(Rは置換されていてもよい炭化水素基を示す。)で表される基及びヒドロキシ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基で置換されていてもよい。

【0048】
ヘテロ原子を含み2個の6員環から構成される縮合環としては、キノキサリン、キノリン、イソキノリンが挙げられる。

【0049】
アミノ基を含む置換基で置換された縮合環を有する縮合二環式有機化合物の具体例としては、7-キノリンアミンが挙げられる。アルデヒド基を含む置換基で置換された縮合環を有する縮合二環式有機化合物の具体例としては、2-ナフトアルデヒドが挙げられる。ヒドロキシ基を含む置換基で置換された縮合環を有する縮合二環式有機化合物の具体例としては、8-ヒドロキシキノリンが挙げられる。

【0050】
重合性モノマーは、4員環、5員環及び6員環から選ばれる置換されていてもよい2個の環から構成される橋かけ環又はスピロ環を有する橋かけ又はスピロ二環式有機化合物であってもよい。

【0051】
ヘテロ原子を含む橋かけ環としては、例えば、キヌクリジンが挙げられる。ヘテロ原子を含むスピロ環としては、例えば、1個の炭素原子がヘテロ原子に置き換わっているスピロペンタンが挙げられる。

【0052】
アミノ基を含む置換基で置換された橋かけ環又はスピロ環を有する二環式有機化合物の具体例としては、アミノノルボルナジエン、ルミノールが挙げられる。アルデヒド基を含む置換基で置換された橋かけ環又はスピロ環を有する二環式有機化合物の具体例としては、ホルミルスピロペンタン、ホルミルスピロデカンが挙げられる。ヒドロキシ基を含む置換基で置換された橋かけ環又はスピロ環を有する二環式有機化合物の具体例としては、キヌクリジン-3-オール、インダノールが挙げられる。

【0053】
以上例示したなかでも、重合性モノマーは、ヘテロ原子を含み置換されていてもよい5員環又は置換されていてもよい6員環を有する単環式芳香族有機化合物(単環式複素芳香族化合物)、並びに、アミノ基、アルデヒド基、カルボン酸基、ケトン基、アミド基、イミド基、ハロゲン化アシル基、-OR(Rは置換されていてもよい炭化水素基を示す。)で表される基及びヒドロキシ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基で置換された単環式又は縮合二環式芳香族炭化水素化合物から選択される少なくとも1種の化合物であってもよい。

【0054】
より具体的には、重合性モノマーは、芳香族アミン、チオフェン、ブロモチオフェン、ピロール、又は4-ビニルピリジンであってもよく、これらが置換基で置換された誘導体であってもよい。芳香族アミンとしては、アニリン、アミノナフタレン、及びカルバゾールが挙げられる。芳香族アミン及びその誘導体は、例えば過硫酸アンモニウム及び無機酸を含む反応液中で酸化重合し得る。チオフェン及びその誘導体は、例えば塩化鉄(III)、塩化銅(I)・ピリジン錯体を含む反応液中で酸化重合し得る。ピロール及びその誘導体は、例えば鉄塩等の酸化剤を含む反応液中で酸化重合し得る。ビニルピリジン及びその誘導体は、過硫酸アンモニウム等のラジカル発生剤を含む反応液中でラジカル重合し得る。

【0055】
工程S5により、重合性モノマーが重合して、成形体中に重合体が生成する。本明細書において、重合体は、2量体、3量体等のオリゴマーも含む。工程S5は、例えば、重合性モノマーが取り込まれた成形体を、重合触媒を含む反応液に浸漬することを含む。例えばアニリンの酸化重合によって重合性モノマーを重合させる場合、反応液は過硫酸アンモニウム及び塩酸を含む水溶液であってもよい。重合反応の温度及び時間は、重合が十分進行するように適宜調整される。

【0056】
工程S6は、例えば、工程S5の重合の後の成形体を、重合性モノマーが溶解する所定の溶剤に接触させることを含む。通常、成形体が溶剤に所定の時間、浸漬される。浸漬の際の温度は、特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)~60℃であってもよい。浸漬の時間は、特に制限されないが、10分~2週間であってもよい。工程S6により、残存する重合性モノマー、及び/又は、成形体中の結晶に包接されていない重合体を洗い流すことができる。工程S5に用いられる溶剤は、例えば、アセトニトリル、アセトンであってもよい。

【0057】
複合成形体における重合体の含有量は、特に制限されないが、複合成形体の質量を基準として、例えば1~50質量%であってもよい。

【0058】
複合成形体を構成する重合体を選択することにより、導電性、帯電防止、吸湿性、防食性、耐熱性、吸着性等の各種の機能又は特性を成形体に付与することができる。ε型結晶のチューブ状の自由空間内に重合体が包接されることで、重合体の分子鎖が特定の方向に配向した状態で配置され得る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
1.評価方法
1-1.広角X線回折(WAXD)
<装置>
広角X線回折装置
イメージングプレートX線検出器:R-AXIS IV++
<測定条件>
DETECTOR DISTANCE: 150mm
EXPOSURE TIME: 120sec.
X線2次元データ処理ソフト:FIT2D
1-2.フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
<装置>
Perkin Elmer FT-IR Spectrometer SPECTRUM1000
<条件>
測定範囲:4000~400cm-1
スキャン回数:32回
解像度:1.0cm-1
間隔:0.5cm-1
【実施例】
【0061】
2.ε型結晶SPSフィルム
2-1.非晶性シンジオタクチックポリスチレン(SPS)フィルム
シンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、融点:270℃、Mw:1.94×10、Mw/Mn=3.37(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)のペレット約0.8gを、枠状の金型(約7cm×7cm、厚さ0.25mm)の開口内に置かれた2枚のアルミホイルの間に配置し、金型及びアルミホイルを下部の銅板と上部の鉄板ではさんだ。この状態で、金型及びアルミホイルを、対向するホットプレートを有するホットプレス装置にセットした。ホットプレートの温度を300℃に設定し、上部の鉄板が上部のホットプレートに接するように調節し、無加圧で4分間の加熱によりシンジオタクチックポリスチレンを溶融させた。次いで、徐々に20MPaまで圧力をかけてから、4分間保持した。その後圧力を解放し、フィルムを氷水中で急冷してから、形成されたSPSフィルムをアルミホイルから丁寧に剥がした。その後、フィルムを40℃で24時間、真空乾燥により乾燥させた。得られたフィルムの厚さは約300μmであった。得られたフィルムの広角X線回折測定を行ったところ、非晶散乱しか観測されなかった。
【実施例】
【0062】
2-2.γ型結晶形成用化合物への浸漬
得られた非晶性SPSフィルムを、γ型結晶形成用化合物としての1-メチルイミダゾール、1-フェニルペンタン、又は1-フェニルノナンに、60℃で2時間浸漬させた。浸漬後、フィルムを蒸留水ですすいだ。
【実施例】
【0063】
2-3.ε型結晶形成用化合物(クロロホルム)への曝露
γ型結晶形成用化合物への浸漬後のフィルムを、アニールすることなく、ε型結晶形成用化合物としてのクロロホルムを入れたサンプル管の内部に、クロロホルムに触れないように吊るした。そのままサンプル管を蓋で密閉し、室温で約1日、フィルムをクロロホルムの蒸気に曝露した。その後、フィルムを蒸留水ですすいだ。
【実施例】
【0064】
2-4.アセトニトリルへの浸漬
クロロホルムへの曝露後のフィルムを、アセトニトリルに室温で2時間浸漬した。浸漬後、フィルムを蒸留水ですすいだ。
【実施例】
【0065】
2-5.評価
γ型結晶形成用化合物浸漬後、クロロホルム曝露後、及びアセトニトリル浸漬後のフィルムに関して、広角X線回折(WAXD)を測定した。図6が1-メチルイミダゾール、図7が1-フェニルペンタン、図8が1-フェニルノナンをそれぞれ用いたときのWAXD測定結果である。いずれの場合も、アセトニトリル浸漬後のフィルムが、6.9°、及び8.1°付近にε型結晶に由来する明確なピークを示した。γ型結晶に由来する9.4°及び10.4°のピークは観測されなかったことから、γ型結晶を実質的に含まない高純度のε型結晶が形成されたことが確認された。
【実施例】
【0066】
図9及び図10は、1-メチルイミダゾールを用いて得たフィルムに関して、アセトニトリルへの浸漬前後のFT-IRスペクトルである。図9が1200cm-1付近、図10が2250cm-1付近のスペクトルの拡大図である。図9から、環状C=Nに由来する1200cm-1付近の吸収ピークがアセトニトリル浸漬によって消失したことがわかる。これは、アセトニトリルによって1-メチルイミダゾールが洗い流されたことを示唆する。図10に示すように、アセトニトリル浸漬後に2250cm-1付近に吸収ピークが現れた。これは、少量のアセトニトリルがフィルムに入り込んでいることを示唆する。
【実施例】
【0067】
3.複合成形体(ポリアニリン/SPSε型結晶)
非晶性SPSフィルムを、「2.ε型結晶SPSフィルム」と同様の手順で、1-メチルイミダゾールへの浸漬、クロロホルムへの曝露、及びアセトニトリルへの浸漬の順で処理して、ε型結晶を含むSPSフィルムを得た。このSPSフィルムをアニリンの蒸気に室温で3日間曝露した。その後、フィルムを、過硫酸アンモニウム及び塩酸を含む反応液に25℃で0.5時間、浸漬した。反応液は、0.01gの過硫酸アンモニウムを0.1mol/L塩酸10mLに加えて調整した。初めは白かったSPSフィルムが部分的に緑色に染まったことから、ポリアニリンが生成したことが示唆された。次いで、フィルムをアセトニトリルに室温で2時間浸漬した。
【実施例】
【0068】
図11は、アニリン曝露前からアセトニトリル浸漬後までのフィルムのWAXD測定結果を示す。(C-1)はε型結晶SPSフィルム(アニリン曝露前)、(C-2)はアニリン曝露後、(C-3)は重合反応後のSPSフィルムの白い部分、(C-4)及び(C-5)は重合反応後のSPSフィルムの緑色に染まった部分、(C-6)がアセトニトリル浸漬後の測定結果である。重合反応後の(C-4)及び(C-5)には、δ型結晶のピーク(8.0°、10.3°)、及びε型結晶のピーク(6.9°、8.1°)の両方が観測された。アセトニトリル浸漬後の(C-6)では、δ型結晶のピークは消え、ε型結晶の鋭いピークが観測された。図12及び図13は、(C-2)、(C-3)、(C-4)及び(C-6)のFT-IRスペクトルである。アセトニトリル浸漬後の(C-6)に関して、アニリンに由来するピークが消失している。すなわち、アセトニトリル浸漬により、余分なアニリンが洗い流されたと考えられる。これらの結果は、ε型結晶と共結晶を形成した状態でポリアニリンが生成したことを強く示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
導電性、帯電防止、吸湿性、防食性、耐熱性、吸着性等のような、ポリスチレンに付与することが困難であった各種の機能又は特性を有するSPS成形体を得ることができる。したがって、ポリスチレン成形体の従来よりも広範な分野への応用が期待される。
【符号の説明】
【0070】
1…成形体、5…自由空間、10…シンジオタクチックポリスチレン、20…ゲスト化合物(ε型結晶形成用化合物)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12