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明細書 :コロイド分散系及び電気浸透流の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-032504 (P2017-032504A)
公開日 平成29年2月9日(2017.2.9)
発明の名称または考案の名称 コロイド分散系及び電気浸透流の測定方法
国際特許分類 G01N  27/447       (2006.01)
G01N  27/26        (2006.01)
FI G01N 27/26 331B
G01N 27/26 P
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2015-155405 (P2015-155405)
出願日 平成27年8月5日(2015.8.5)
発明者または考案者 【氏名】足立 泰久
【氏名】フェン リリ
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査請求 未請求
要約 【課題】電気浸透流を可視化することができ、精密なゼータ電位の測定を可能とするコロイド粒子複合体及び電気浸透流の測定方法を提供する。
【解決手段】電気浸透流を測定する測定装置100は、測定対象を挿入するキャピラリ30と、キャピラリ30の一端側に設けられた正極40と、キャピラリ30の他端側に設けられた負極50と、正極40及び負極50に電圧を印加する電源設備60を有する。キャピラリ30内には、電気的に中和されたコロイド粒子複合体10と、電荷を有する第2のコロイド粒子20が供給される。コロイド分散系は、コロイド溶液中20に分散したコロイド粒子20と、コロイド粒子表面に吸着し、コロイド粒子と反対電荷を有する高分子電解質とを有し、高分子電解質の電荷密度が、高分子電解質を構成するセグメントの10%以下である。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
コロイド溶液中に分散したコロイド粒子と、
前記コロイド粒子表面に吸着し、前記コロイド粒子と反対電荷を有する高分子電解質とを有し、
前記高分子電解質の電荷密度が、前記高分子電解質を構成するセグメントの10%以下であるコロイド分散系
【請求項2】
前記コロイド粒子が、略球状であることを特徴とする請求項1に記載のコロイド分散系。
【請求項3】
前記コロイド粒子が、ポリスチレンラテックスであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のコロイド分散系。
【請求項4】
前記コロイド溶液中に体積モル濃度が100mM以下の塩をさらに加えた請求項1~3のいずれか一項に記載のコロイド分散系。
【請求項5】
前記塩が、1価の塩であることを特徴とする請求項4に記載のコロイド分散系。
【請求項6】
電荷を有する第2のコロイド粒子を有する第1の系に、請求項1~5のいずれか一項に記載のコロイド分散系における前記コロイド粒子に前記高分子電解質が吸着したコロイド粒子複合体を加える工程と、
前記コロイド粒子複合体を加えた前記第1の系に電界を印加する工程と、
電気泳動する第2のコロイド粒子によって生じる電気浸透流に沿って動く前記コロイド粒子複合体を測定する工程と、を有する電気浸透流の測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド分散系及び電気浸透流の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる物質が接する境界には、界面が生じる。界面では、特異的な界面電気現象が確認され、その解明に注目が集まっている。特に、液相と固相のように異なる相の界面における界面電気現象は、その動的過程の解明が進められている所であり、様々な研究が行われている。
【0003】
液相と固相の相界面としては、コロイド溶液中におけるコロイド粒子と溶液界面が知られている。コロイド粒子の凝集や分散は、広域的水環境問題、活性汚泥や微生物の発酵プロセス、製紙工程、食品製造などの様々な生物化学工業上の操作とも関連し、高い注目を集めている。
【0004】
コロイド粒子は、溶液中で解離基やイオンの吸着により帯電している。この帯電により形成される電位をゼータ(ζ)電位と言い、コロイド粒子の分散・凝集性、相互作用、表面改質を評価する上での重要な指標となる。そのため、コロイド粒子のゼータ電位等の種々の性質を正確に測定する技術が求められている。
【0005】
しかしながら、コロイド粒子のゼータ電位を正確に測定するためには、電気浸透流の影響を考慮する必要がある。電気浸透とは、液体と固体が接している所に電圧をかけた場合に、接線方向に液体が移動する現象を意味する。
【0006】
ゼータ電位を正確に測定するためには、この電気浸透流の影響を除去する必要がある。そのため、例えば特許文献1では、電気浸透の影響が見かけ上無い位置(静止面)にレーザ光を照射して、ドップラー効果により電気泳動速度を算出している。そして、その電気泳動移動度の結果からゼータ電位を求めている。
例えば、特許文献2では、キャピラリの壁面に中性ポリマーをコーティングすることで、電気浸透流の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2013-238625号公報
【特許文献2】特開2008-107259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法は、あくまで電気浸透流の影響を最小限にすることを目的としており、電気浸透流自体を可視化し定量化することはできない。
また例えば、特許文献1に記載されているように、静止面にレーザを照射するためには、静止面の位置の特定及びレーザ光の光軸調整等に多大な労力を要する。特許文献2に記載れた方法では、pH勾配を形成し、ゼータ電位を測定している。しかしながら、pHによる等電点の制御は、細かいpH制御が必要であり難しい。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、電気浸透流を可視化することによって、電気浸透流を定量的に評価し、精密なゼータ電位の測定を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、コロイド粒子の表面に、所定の高分子電解質を吸着させたコロイド粒子複合体を用いることで、界面動電現象的に実質的な荷電を持たない粒子を簡易的作成し、その粒子の動きをトレースすることによって電気浸透流を可視化することができ、電気浸透流を評価した場での電気泳動の測定を行うことによって精密なゼータ電位の測定が可能となることを見出し、発明を完成させた。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明に係るコロイド分散系は、コロイド溶液中に分散したコロイド粒子と、前記コロイド粒子に吸着し、前記コロイド粒子と反対電荷を有する高分子電解質とを有し、前記高分子電解質の電荷密度は、高分子電解質鎖を構成するセグメントの10%以下である。
【0012】
(2)上記(1)に記載のコロイド分散系において、前記コロイド粒子が、略球状であってもよい。
【0013】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載のコロイド分散系において、前記コロイド粒子が、ポリスチレンラテックスであってもよい。
【0014】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載のコロイド分散系は、前記コロイド溶液中に体積モル濃度が100mM以下の塩をさらに加えてもよい。
【0015】
(5)上記(4)に記載のコロイド分散系において、前記塩が、1価の塩であってもよい。
【0016】
(6)本発明に係る電気浸透流の測定方法において、電荷を有する第2のコロイド粒子を有する第1の系に、上記(1)~(5)のいずれかに記載のコロイド分散系における前記コロイド粒子に前記高分子電解質が吸着したコロイド粒子複合体を加える工程と、前記コロイド粒子複合体を加えた前記第1の系に電界を印加する工程と、電気泳動する第2のコロイド粒子によって生じる電気浸透流に沿って動く前記コロイド粒子複合体を測定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係るコロイド分散系(コロイド粒子複合体を含むコロイド溶液)及び電気浸透流の測定方法を用いることで、電気浸透流を可視化することができ、精密なゼータ電位の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一態様に係るコロイド粒子複合体の断面模式図である。
【図2】本発明の一態様に係るコロイド溶液中のコロイド粒子複合体の表面を拡大した断面模式図である。
【図3】高分子電解質が吸着したコロイド粒子表面を拡大した模式図であり、(a)は低電荷密度の高分子電解質が吸着した場合であり、(b)は高電荷密度の高分子電解質が吸着した場合を示す。
【図4】電気浸透流を測定するための測定装置の概略模式図である。
【図5】高分子電解質の添加量に対する電気泳動移動度を各塩化カリウム添加量で計測した結果を示す。
【図6】コロイド溶液と溶液Aまたは溶液Bとを混合した際の撹拌時間に対するコロイド粒子の電気泳動移動度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用したコロイド分散系及び電気浸透流の測定方法について詳細に説明する。
以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。

【0020】
図1は、本発明の一態様に係るコロイド粒子複合体の断面模式図である。図2は、本発明の一態様に係るコロイド溶液中のコロイド粒子複合体の表面を拡大した断面模式図である。
コロイド粒子複合体10は、コロイド粒子1と、コロイド粒子表面に吸着した高分子電解質2とを有する。コロイド粒子1に対して、高分子電解質2は反対電荷を有する。コロイド粒子1と高分子電解質2が反対電荷を有することで、静電気力により高分子電解質2がコロイド粒子1上に吸着する。コロイド粒子1と高分子電解質2はそれぞれ反対電荷を有していればいずれの電荷を有していてもよい。以下、コロイド粒子1がマイナス電荷、高分子電解質2がプラス電荷を有する場合を例に説明する。

【0021】
コロイド粒子1は、直径が10nm~1μm程度であり、原子と比べて大きな分散粒子である。コロイド粒子1としては、溶液中に分散できるものであれば、一般に公知の物を用いることができる。一方で、測定された電気浸透流の解析を容易にするという観点から、コロイド粒子1は、略球状であることが好ましい。略球状とは、完全に真球に限られないことを意味する。解析の観点からは完全に真球であることが好ましいが、誤差と判断できる程度の真球からのずれは容認できる。コロイド粒子1が真球に近いことで、理論的な結果との対比も取りやすくなる。

【0022】
球状のコロイド粒子1としては、例えば球状シリカ、金コロイド、ポリスチレンラテックス等を用いることができる。水との比重差が小さいことから、中でもポリスチレンラテックスが好ましい。スチレンを界面活性剤の存在下で乳化重合すると、真球状に制御されたポリスチレンラテックスを得ることができる。

【0023】
高分子電解質2は、荷電密度が極めて低い低電荷密度の高分子電解質である。低電荷密度とは、高分子電解質2を構成する単位(以下、「セグメント」という)中における電荷を有する部分(以下、「吸着セグメント」という)が全体の10%以下であることを意味する。また吸着セグメントは、4%以下であることが好ましい。
この高分子電解質2は、電荷密度が小さい(すなわち、吸着セグメントの割合が小さい)ため、図2に示すようにその部分がコロイド粒子1の表面に吸着し、その他の部分はその周囲で絡まり合って存在する。

【0024】
この高分子電解質2として、架橋凝集する際に用いられる高分子電解質を好適に用いることができる。ここで、架橋凝集とは、高分子電解質が複数の粒子間に接続し、粒子間に高分子の橋が形成され、その引力効果で粒子が凝集するプロセスをいう。架橋凝集する高分子電解質は、異なる粒子間に高分子の橋を形成する。この高分子の橋は、一つの粒子に吸着した吸着セグメント以外の部分がその表面から離れた位置に広がり、その離れた位置にその離れた位置に広がった部分がその他の粒子と繋がることで形成される。すなわち、架橋凝集する際に用いられる高分子電解質は、吸着セグメント以外の部分が、コロイド粒子の表面から離れた位置まで広がりやすいと言い換えることができ、本発明の高分子電解質2として好適に用いることができる。

【0025】
高分子電解質2としては、低電荷密度であれば公知の物を用いることができる。例えば、以下の化学式(1)で示されるアクリルアミド-2-ジメチルアミドエチル-メタアクリレートメチルクロライド(以下、ADEMという)等を用いることができる。

【0026】
【化1】
JP2017032504A_000003t.gif

【0027】
化学式(1)において、n,mは任意の整数である。溶液中では、Clイオンは、分離して存在する。また化学式(1)中のNイオンが、高分子電解質2中の吸着セグメントを構成する電荷に対応する。すなわち、図2における高分子電解質2に繋がるプラスイオンに対応する。このときnとmの比率を変化させることで、高分子電解質の電荷密度を自由に制御することができる。例えば、4%の電荷密度を有するADEMを設計する場合は、24個のセグメントに対して1個のセグメントのみが電荷を有するように、n及びmの値を決定すればよい。

【0028】
次いで、本発明のコロイド粒子複合体10が、電気浸透流を測定できる作用について説明する。電気浸透流を可視化するためには、電気浸透流が生じている際に加わる電場の影響をコロイド粒子複合体10が受けない必要がある。すなわち、コロイド粒子複合体10のゼータ電位がゼロであり、電気泳動移動度がゼロである必要がある。

【0029】
高分子電解質を有さないコロイド粒子は溶液中で、その表面に非常に強くイオンが吸着した固定層と、コロイド粒子表面から離れるに従い電荷が段階的にぼやけていく拡散層を有する。表面電荷がイオンに影響を及ぼす限界の部分(イオンを引き連れて共に移動できる境界面)をすべり面といい、このすべり面は、固定層と拡散層の間に形成される。このすべり面における電位がゼータ電位である。
このすべり面の位置は、コロイド粒子の周囲の環境(例えば、液温、pH、添加剤の有無、界面活性剤の有無)等によって大きく変化する。換言すると、すべり面の位置は、周囲の環境によって大きく影響を受けるため、ゼータ電位をゼロとするためには、各種パラメータの厳密な制御が必要となる。

【0030】
ここまで、コロイド粒子複合体10が高分子電解質2を有することで、ゼータ電位が一定に保たれることについて説明した。次いで、このゼータ電位がゼロの状態となることについて説明する。

【0031】
ゼータ電位は、すべり面における電位である。すなわち、すべり面の位置がゼータ電位を決定する重要な要素の一つである。
高分子電解質2を有さない一般のコロイド粒子複合体は、よどみ流領域の存在に伴い、コロイド粒子複合体10のすべり面は、高分子電解質2が存在しないコロイド粒子と比較して、コロイド粒子1の表面から離れた位置(以下、「沖合」という)に形成されることになる。
例えば図2に示すように、コロイド粒子1の近傍に形成されたよどみ流領域には、コロイド粒子1のマイナス電荷に引き寄せられて、高分子電解質2のプラス電荷が存在する。またこの他にも、溶液中に存在するプラスの単イオンも存在する。このプラスの単イオンは、高分子電解質2によって、自由な動きが制限されている。そのため、コロイド粒子1のマイナス電荷が、よどみ流領域内に存在する高分子電解質2のプラス電荷と、その周囲に存在するプラスの単イオンによって、擬似的に打ち消し合う。すなわち、コロイド粒子1のマイナス電荷と、高分子電解質2及び単イオンのプラス電荷とが、互い打ち消し合い中和することによって、このよどみ流領域まで含めて考えたコロイド粒子複合体10全体の荷電はゼロとなる。
つまり、コロイド粒子複合体10が高分子電解質2を有することで、すべり面がコロイド粒子1の沖合に移動し、そのすべり面の内側に存在する高分子電解質2及び高分子電解質2により動きが制限された単イオンにより、コロイド粒子1の電荷が打ち消され、すべり面における電位(すなわち、ゼータ電位)がゼロとなる。

【0032】
高分子電解質2がコロイド粒子1に吸着することでゼータ電位をゼロとなるためには、高分子電解質2が低電荷密度であることが非常に重要な要素の一つである。
図3は、高分子電解質が吸着したコロイド粒子表面を拡大した模式図であり、(a)は低電荷密度の高分子電解質が吸着した場合であり、(b)は高電荷密度の高分子電解質が吸着した場合を示す。

【0033】
図3(a)に示すように、低電荷密度の高分子電解質2は、コロイド粒子1に対して吸着する部分(吸着セグメント)2aと、その他の部分2bとを有する。低電荷密度の高分子電解質2における吸着セグメント2aは、静電気力によりコロイド粒子1に吸着している。これに対し、その他の部分2bは電荷を有さないため、吸着セグメント2aによって動きを制限されながらもコロイド粒子1の表面から溶液中に広がってる。この広がったその他の部分2bによってよどみ流領域(図示点線)が形成されている。このよどみ流領域に、表面と反対符号のイオンが拡散2重層を形成している場合は、コロイド粒子複合体の界面電気現象的にみた荷電はゼロとなる。

【0034】
これに対し、高電荷密度の高分子電解質3は、高分子電解質3内における吸着セグメント3aの割合が、高分子電解質2内における吸着セグメントの割合よりも高い。したがって、高電荷密度の高分子電解質3は、コロイド粒子1の表面に強く吸着することになる。このため、電荷の影響を受けないその他の部分3bは、吸着セグメント3aにより、より動きをより制限される。そのため、その他の部分3bは、コロイド粒子1の表面から溶液側に広がることができない。その結果、よどみ流領域(図示点線)が、低電荷密度の高分子電化質2をコロイド粒子1の表面に吸着させた場合と比較して、コロイド粒子表面近傍に形成される。つまり、高電荷密度の高分子電解質ではよどみ流領域が小さくなり、すべり面をコロイド粒子1の沖合に移動させるという効果を十分に発揮することができない。その結果、表面と反対符号のイオンが拡散2重層を形成することができず、コロイド粒子複合体の界面電気現象的にみた荷電をゼロとすることができない。

【0035】
また高分子電解質3は、コロイド粒子1と反対電荷を有する。そのため、高電荷密度の高分子電解質3は、コロイド粒子1に対して強く吸着すると、コロイド粒子複合体全体としては電荷が反転した状態となってしまう。したがって、ゼータ電位をゼロとすることができない。

【0036】
つまり、コロイド粒子1に吸着させる高分子電解質2は、低電荷密度であることが非常に重要である。低電荷密度の高分子電解質2をコロイド粒子1の表面に吸着させることで、コロイド粒子1の電荷を打ち消すことができるよどみ流領域を広げることができる。これにより、コロイド粒子複合体10のゼータ電位をゼロとすることができる。

【0037】
コロイド粒子複合体10を有するコロイド溶液には、微量の塩を添加することが好ましい。ここで、微量の塩とは、体積モル濃度で100mM以下の塩を意味する。塩とは、化学における塩であり、酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンがイオン結合した化合物のことである。

【0038】
高分子電解質2は、溶液中ではランダムに配向している(ランダムコイル状態)。一方で、高分子電解質2がコロイド粒子1に付着している際は、図2に示すように、吸着セグメントがコロイド粒子1に吸着し、その他の部分がコロイド粒子1の表面に対して鉛直方向に広がった波状(尺取虫状)の形状となっている。すなわち、コロイド粒子1上に吸着する際には、高分子電解質2は、その配向状態を配列し直している(以下、「再配列」と言う)。微量な塩は、高分子電解質の分子鎖を柔らかくし、再配列をし易くする。したがって、微量な塩をコロイド溶液中に添加することで、効率よく高分子電解質2をコロイド粒子1の表面に吸着することができる。

【0039】
塩は、1価のイオンや、2価のイオンでもよい。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、塩化カルシウム等を用いることができる。
添加する塩は、特に1価のイオンが好ましい。例えばカルシウム結合タンパク質のように、カルシウム等を特異的に結合するタンパク質(粒子複合体に対応する)等も存在する。このような場合、2価以上のイオンを用いると、コロイド粒子1と高分子電解質2以外の反応が生じる場合があり、それらを考慮する必要がでてくるため、1価のイオンが好ましい。

【0040】
次いで、このコロイド粒子複合体を用いた電気浸透流の測定方法について説明する。
本発明の一態様に係る電気浸透流の測定方法は、電荷を有する第2のコロイド粒子を有する第1の系に、上述のコロイド粒子複合体を加える工程と、コロイド粒子複合体を加えた第1の系に電界を印加する工程と、電気泳動する第2のコロイド粒子によって生じる電気浸透流に沿って動くコロイド粒子複合体を測定する工程と、を有する。

【0041】
図4は、電気浸透流を測定するための測定装置の概略模式図である。電気浸透流を測定する測定装置100は、測定対象を挿入するキャピラリ30と、キャピラリ30の一端側に設けられた正極40と、キャピラリ30の他端側に設けられた負極50と、正極40及び負極50に電圧を印加する電源設備60を有する。キャピラリ30内には、上述の電気的に中和された本発明のコロイド粒子複合体10と、電荷を有する第2のコロイド粒子20が供給されている。

【0042】
この測定装置100を用いて、電気浸透流を可視化すると共に、ゼータ電位を測定する方法について説明する。
まず電気浸透流及びゼータ電位を測定したい第1の系を準備する。第1の系は、測定対象である第2のコロイド粒子20が分散したコロイド溶液である。第1の系は、一般に公知の方法で、第2のコロイド粒子20を溶液中に分散させることで、得ることができる。

【0043】
次いで、上述のコロイド粒子複合体10を準備する。上述のコロイド粒子複合体は、コロイド粒子を低電荷密度の高分子電解質の存在する環境下に晒すことでえることができる。例えば、コロイド粒子1としてポリスチレンラテックス、高分子電解質として化学式(1)で表記したADEMを用いる場合は、これらを溶液中で撹拌しながら混ぜることで得ることができる。この反応は、数秒~数十秒程度で進行する。またこのとき、塩化カリウム等の塩を溶液中に加えてもよい。

【0044】
そして得られたコロイド粒子複合体10を、第1の系に添加する。コロイド粒子複合体が添加された第1の系をキャピラリ30内に充填しつつ、正極40及び負極50が設けられた領域に供給する。例えば、図4に示すようにキャピラリ30の壁面がマイナスに帯電している場合は、第1の系内のキャピラリ30の壁面付近にはプラスに帯電したイオンが多くなる。上述のようにすることで、測定装置内に測定系が形成された。

【0045】
次いで、電源設備60により正極40及び負極50に電圧を印加する。第1の系内の第2のコロイド粒子20は、電圧印加によって生じた電場に従い移動する。また壁面付近のイオンはプラスに帯電している。そのため、コロイド粒子20の移動方向と反対方向に移動する。すなわち、コロイド粒子20と、壁面付近に帯電していたイオンにより、キャピラリ30内に電気浸透流が発生する(図4点線矢印)。電気浸透流は、図4に示すように、キャピラリ30の中央付近と、壁面付近では逆方向の流れが発生する。

【0046】
ここで、コロイド粒子複合体10は、ゼータ電位がゼロである。すなわち、電場の影響を受けない。したがって、コロイド粒子複合体10は、電気浸透流の影響のみを受けて、キャピラリ30内を移動する。キャピラリ30内のコロイド粒子複合体10の動きは、光学顕微鏡等を用いて確認することができる。すなわち、測定したい第1の系内にコロイド粒子複合体10を追加することで、電気浸透流を可視化することができる。

【0047】
また第2のコロイド粒子20は、正極40及び負極50間に印加された電場の影響による電気泳動と、電気浸透流の影響を受けてキャピラリ30内を動く。上述のように、コロイド粒子複合体10により電気浸透流は可視化することができるため、第2のコロイド粒子20の動きから、電気浸透流の影響を差し引くことができる。これにより、第2のコロイド粒子20に加わる電気浸透流の影響を除くことができ、第2のコロイド粒子20の電気泳動移動度を精密に測定することができる。そして、電気泳動移動度の結果から、ゼータ電位をより精密に測定することができる。

【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
まず、コロイド粒子として、ポリスチレンラテックス(以下、PSLという)を準備した。PSLからなるコロイド粒子は、界面活性剤中でスチレンを乳化重合することで得た。このコロイド粒子の直径は、1.356μmであった。コロイド粒子の表面電位は、電気泳動により測定され、50mC/mであって。初期の粒子数は、5.0×10個/cmであった。
【実施例】
【0051】
これに対し、高分子電解質として、化学式(1)で表されるADEM(Kaya Floc Co.Ltd)を準備した。この高分子電解質は、分子量が5.2×10(g/mol)で、全体の内の4%が電荷を有する吸着セグメントであった。以下、この高分子電解質をADEM004と呼ぶ。
【実施例】
【0052】
このADEM004を、塩化カリウム溶液中に100g/Lの加え、1週間撹拌した。そして、1週間経過後の溶液を0.2μmのミルポアフィルターに通して濾過した。このとき塩化カリウム溶液としては、塩化カリウムの添加量が、0M、1mM、10mM、100mMの4種類を作製した。
【実施例】
【0053】
さらに、コロイド粒子をこの溶液中に添加してから5分後のコロイド溶液の電気泳動度をレーザードップラー効果により測定した。測定は、マルバーン社のZetasizer Nano-ZSを用いて行った。
【実施例】
【0054】
図5は、ADEM004の添加量に対する電気泳動移動度を各塩化カリウム添加量で計測した結果を示す。図5に示すように、いずれの添加量においても電気泳動移動度がゼロ(すなわち、ゼータ電位がゼロ)となる等電点を有し、広い範囲で電気泳動移動度がゼロに近い値を示している。また100mMのKClを添加した場合は、特に電気泳動移動度がゼロに近い値を示している。また図5に示すように、塩化カリウムの添加量を増やす(すなわち、溶液中のイオン強度を増加させる)に従い、電気泳動移動度がゼロとなる等電点が低下していることがわかる。
【実施例】
【0055】
(実施例2)
PSLが分散したコロイド溶液に、上記の塩化カリウム添加量が0MでADEM004が分散された溶液(溶液A)と塩化カリウム添加量が100mMでADEM0004が分散された溶液(溶液B)をそれぞれ別々に添加した。
図6は、コロイド溶液と溶液Aまたは溶液Bとを混合した際の撹拌時間に対するPSLの電気泳動移動度を示す。
【実施例】
【0056】
図6に示すように、イオン強度の異なるいずれの場合においても、電気泳動度は最終的にゼロに近づいている。一方で、撹拌直後の挙動が溶液Aと溶液Bで異なる。塩として塩化カリウムを100mM添加した溶液Bは、添加してから5秒後には、その電気泳動移動度がゼロになっている。これに対し、塩化カリウムを加えていない溶液Aは、40秒程経過後に電気泳動移動度がゼロになっている。これは、少量の塩を加えることで、高分子電化質の高分子鎖を弱めたためと考えられる。高分子電解質が塩により柔らかくなることで、ランダムコイル状態で溶液中に漂っていた高分子電解質が、コロイド粒子であるPSL表面で再配列しやすくなったためと考えられる。また少量の塩に含まれる単イオンが、よどみ流領域に供給されることにより、コロイド粒子の表面電位の中和がより進んだためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のコロイド粒子複合体は、電気浸透流を可視化することができる。すなわち、電気浸透流を測定することによって、より精密なゼータ電位を測定することができる。ゼータ電位や電気浸透流をより精密に測定することで、異なる相の界面における界面現象を解き明かすために用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…コロイド粒子、2…高分子電化質、10…コロイド粒子複合体、20…第2のコロイド粒子、30…キャピラリ、40…正極、50…負極、60…電源設備、100…測定装置
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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