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明細書 :細胞の培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-055727 (P2017-055727A)
公開日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 細胞の培養方法
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12N 5/07 ZNA
C12M 1/00 A
C12P 21/00 A
C12Q 1/02
C12P 21/00 C
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-184755 (P2015-184755)
出願日 平成27年9月18日(2015.9.18)
発明者または考案者 【氏名】立花 亮
【氏名】田辺 利住
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
4B064
4B065
Fターム 4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029GA01
4B029GA02
4B029GA08
4B029GB09
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4B063QR32
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4B063QS39
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4B064AG01
4B064CA10
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4B064DA01
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4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA24
4B065BA30
4B065BC46
4B065CA44
要約 【課題】細胞を3次元培養するための、新規な細胞培養方法を提供することを課題とする。
【解決手段】キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法、又は、キチンにおけるアミノ基のアセチル化率が90 mol%以上100 mol%未満であるキチンを主成分とするキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法による。また当該細胞の培養方法に用いるための細胞培養用デバイスによる。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法。
【請求項2】
キチンゲルが、キトサンとアセチル化剤を1:1~6:1の容量比で混合することにより作製されたものである、請求項1に記載の細胞の培養方法。
【請求項3】
キトサンが無修飾のキトサンであり、アセチル化剤が無水酢酸である、請求項1又は2に記載の細胞の培養方法。
【請求項4】
キチンにおけるアミノ基のアセチル化率が90 mol%以上100 mol%未満であるキチンを主成分とするキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の細胞の培養方法を用いてスフェロイドを形成する方法であって、キチンゲル上に細胞を播種する工程を含む、スフェロイド形成方法。
【請求項6】
キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として含有する、スフェロイドを形成するための細胞培養用デバイス。
【請求項7】
キチンにおけるアミノ基のアセチル化率が90 mol%以上100 mol%未満であるキチンを主成分とするキチンゲルを培養基材として含有する、スフェロイドを形成するための細胞培養用デバイス。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1に記載の細胞の培養方法により形成したスフェロイドの細胞内でタンパク質を発現させる工程、及び、当該発現したタンパク質を回収する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1に記載の細胞の培養方法により形成した肝細胞のスフェロイドに被験物質を接触させる工程、及び、肝細胞の生存率を検出する工程を含む、被験物質の毒性を検出する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、キチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法に関する。より具体的には、キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを用いる細胞の培養方法であり、当該細胞の培養方法により、スフェロイドを形成する方法、および形成されたスフェロイドの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生組織を構築する研究が盛んに行われており、そのために細胞を3次元培養する技術に注目が集められている。平面培養した場合と3次元培養した場合とでは、細胞機能に差があることが報告されている。3次元培養した細胞は、生体により近い細胞環境にあり、生体内の細胞機能を発揮できると考えられ、再生組織の構築や創薬等の医療分野での応用が見込まれることから、3次元培養方法の開発が望まれている。
【0003】
従来の3次元培養には、ハンギングドロップ法や、細胞が接着しないような培養基材に微細な接着領域を作製した細胞培養プレートなどが用いられている。ハンギングドロップ法は、シャーレなどのデバイスの天井から液滴をぶら下げ、その中で細胞を培養する方法である。本方法は培養を行う個人の技量が大きく影響するため、多数のサンプルをスクリーニングするなどの目的には不向きである。また微細な接着領域のある細胞培養プレートは、細胞の接着表面を微細加工する技術が必要であることから、一般的に高価である。3次元培養が可能な細胞培養プレートのための、安全かつ安価な材料の開発が求められている。
【0004】
キチンはエビやカニ等の生物に含まれている天然の素材として知られており、豊富な生物資源である。N-アセチル-D-グルコサミンが数百から数千つながったアミノ多糖である。キチンをアルカリ処理することによりアセチル基が除去され、主としてD-グルコサミン単位からなるキトサンを得ることができる。キチンやキトサンには、近年重要な性質が相次いで見いだされつつあり、食品添加物としての使用や、ドラッグデリバリーシステム等の様々な分野での応用が期待されている(非特許文献3)。
【0005】
キチンやキトサンを細胞培養基材として応用する試みがいくつか報告されている。例えば非特許文献3には、アルギニン酸アニオンとスクシニル化キトサンにより作製したスポンジにより、肝細胞のスフェロイド形成が観察されたことが記載されている。特許文献1には、キトサンをオリゴ糖酸化物で架橋したゲルを細胞培養や再生組織に血管系を導入するためのスキャホールドとして利用することが提案されている。非特許文献4には、ヒドロキシブチルキトサンを用いてゲルを作製したこと、ゲルを用いてヒト血管内皮細胞の3次元培養を行ったことが開示されている。これらの文献に記載のゲルは、架橋剤や化学的に修飾したキチンを用いるものである。
【0006】
本発明者らは、無修飾のキトサン溶液を無水酢酸で処理することにより、特に架橋剤を用いずにキチンゲルを作製し得ることを見出し、当該キチンゲルのアミノ基をカルボキシメチル化したカルボキシメチル化キチンゲルをFGF2の徐放システムとして使用可能であることを報告した(非特許文献1及び2)。しかしながら、かかるキチンゲルが細胞培養に応用可能であることの報告はない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】国際公開WO2013/176239号公報
【0008】

【非特許文献1】科学研究費助成事業 研究成果報告書2011年度~2013年度 H26.6.11 (https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2013/seika/CFZ19_9/24402/23500543seika.pdf)
【非特許文献2】科研費 2011年度 研究実施状況報告書(基金分)(https://kaken.nii.ac.jp/d/p/23500543/2011/11/ja.ja.html)
【非特許文献3】Sashiwa,H and Aiba,S., Prog. Polym. Sci., 29 887-908 (2004)
【非特許文献4】Wei,YN. et al., J Mater Sci Mater Med., 24(7): 1781-1787 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、細胞を3次元培養するための、新規な細胞培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、キトサン溶液を無水酢酸で処理することにより作製したキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養することにより、スフェロイドを形成可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法。
2.キチンゲルが、キトサンとアセチル化剤を1:1~6:1の容量比で混合することにより作製されたものである、前項1に記載の細胞の培養方法。
3.キトサンが無修飾のキトサンであり、アセチル化剤が無水酢酸である、前項1又は2に記載の細胞の培養方法。
4.キチンにおけるアミノ基のアセチル化率が90 mol%以上100 mol%未満であるキチンを主成分とするキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法。
5.前項1~4のいずれかに記載の細胞の培養方法を用いてスフェロイドを形成する方法であって、キチンゲル上に細胞を播種する工程を含む、スフェロイド形成方法。
6.キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として含有する、スフェロイドを形成するための細胞培養用デバイス。
7.キチンにおけるアミノ基のアセチル化率が90 mol%以上100 mol%未満であるキチンを主成分とするキチンゲルを培養基材として含有する、スフェロイドを形成するための細胞培養用デバイス。
8.前項1~4のいずれか1に記載の細胞の培養方法により形成したスフェロイドの細胞内でタンパク質を発現させる工程、及び、当該発現したタンパク質を回収する工程を含む、タンパク質の製造方法。
9.前項1~4のいずれか1に記載の細胞の培養方法により形成した肝細胞のスフェロイドに被験物質を接触させる工程、及び、肝細胞の生存率を検出する工程を含む、被験物質の毒性を検出する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞の培養方法により種々の細胞を3次元培養することが可能であり、スフェロイドを形成させることが可能となる。培養基材であるキチンゲルは容易に作製可能であり、キチンゲルの材料も安価であることから、培養基材を大量に準備することができ、大量かつ均質なスフェロイドを作製することが可能となる。また同質のスフェロイドを大量に再現性良く作製可能であることから、作製したスフェロイドを用いて薬剤等のスクリーニングを行ったり、当該スフェロイドを用いた有用タンパク質の生産が可能となる。またキチンは生体吸収性を持つ安全な素材であることから、再生医療用材料の作製も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のキチンゲル上で細胞を培養した場合に形成されるスフェロイドを示す代表写真図である。(実施例2)
【図2】本発明のキチンゲル上で細胞を長期培養した場合のスフェロイドの成長を示す代表写真図である。(実施例2)
【図3】本発明のキチンゲル上で細胞を培養して得られたスフェロイドについてタンパク質生産能を確認した結果を示す図である。(実施例3)
【図4】本発明のキチンゲル上で肝癌細胞を培養して得られたスフェロイドについて、肝特異的遺伝子の発現を確認した結果を示す図である。(実施例4)
【図5】本発明のキチンゲル上で肝癌細胞を培養して得られたスフェロイドについて、薬剤代謝能を確認した結果を示す図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルを培養基材として用いて細胞を培養する、細胞の培養方法に関するものである。

【0015】
キチンゲルとは、一般的にキチン及び/又はキトサンを原材料として作製したハイドロゲルを意味する。本発明においては、キトサンをアセチル化剤で処理することによりゲル化させて作製したキチンゲルが用いられる。本発明の「キチンゲルを培養基材として用いて」とは、一旦キチンゲルを作製した後であれば、当該キチンゲルをそのまま乾燥させてシート状に加工したシート状キチンハイドロゲル乾燥体を培養基材として用いる場合や、凍結乾燥させてスポンジ状に加工したスポンジ状キチンハイドロゲル乾燥体を用いる場合をも含む。シート状キチンハイドロゲル乾燥体や、スポンジ状キチンハイドロゲル乾燥体を培地等の液体により膨潤させて培養基材とすることが好ましい。

【0016】
キトサンとは、直鎖型の多糖類であり、ポリ-β1→4-グルコサミンである。分子量は数千から数十万に及ぶ。工業的には主として、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチン(ポリ-β1→4-N-アセチルグルコサミン)を、濃アルカリ中で煮沸処理する等により脱アセチル化して生産されている。本発明において用いられるキトサンは、アセチル化剤によるゲル化を達成し得るものであれば特に限定されない。キトサンに存在する遊離アミノ基がアセチル化されることにより、キチン分子が水分子を抱合し、ハイドロゲルの形態をなすことから、本発明のキトサンは遊離アミノ基を有している必要がある。本発明では、糖鎖上にN-アセチルグルコサミンを含まないキトサンを用いてもよいし、糖鎖上に部分的にN-アセチルグルコサミンを含む一般的なキトサンを用いることもできる。本発明におけるキトサンは、脱アセチル化率が60~100 %DAのものであればよい。脱アセチル化率は、常法に従って、NMR分光法、赤外線吸収スペクトル法 (IR)、コロイド滴定法などで測定することができる。本発明におけるキトサンは、無修飾キトサンであることが好ましい。

【0017】
本発明においてはキトサンを水溶液に溶解してキトサン溶液とし、ハイドロゲルを作製する。キトサン溶液の濃度は、1 %(w/v)~5 %(w/v)、好ましくは1 %(w/v)~2 %(w/v)である。キトサンの濃度が1 %(w/v)以上であればゲルを良好に作製可能であり、5 %(w/v)以下であればキトサン溶液の粘度が高すぎずゲル作製における操作性が良い。キトサンを溶解する水溶液は、キトサンを溶解可能なものであれば特に限定されないが、例えば酢酸を用いることができる。

【0018】
アセチル化剤とは、キトサンをアセチル化可能な薬剤であれば特に限定されないが、好ましくは無水酢酸を用いる。キトサンと混合するためのアセチル化剤の濃度は、キトサンをアセチル化してハイドロゲルを形成可能な濃度であればよく、混合する容量によって適宜選択することができるが、50 %(v/v)以上、好ましくは80 %(v/v)以上である。アセチル化剤の濃度が50 %(v/v)以上であればゲルを良好に作製可能である。なお、アセチル化剤の濃度は、100 %(v/v)であってもよい。

【0019】
本発明において、キトサン溶液とアセチル化剤の混合比率はキトサンとアセチル化剤の濃度にも依存するが、キトサン溶液が2 %(w/v)、アセチル化剤が100 %(v/v)である場合は、1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1、より好ましくは2:1~3:1の容量比で混合する。例えば、キトサン溶液の濃度が2 %(w/v)、無水酢酸の濃度が100 %(v/v)である場合は、キトサン溶液と無水酢酸の容量比が、3:1で混合した場合に、最も安定したゲルを作製することができる。混合後は、キトサン溶液とアセチル化剤を均質に混合するために、撹拌する必要がある。撹拌は短時間で行うことが好ましく、例えば1~10分程度撹拌する。撹拌後、15分以上、室温で静置することによりゲル化を行い、キチンゲルを作製することができる。静置する時間、温度は適宜調整すればよい。なお、キチンゲルを用いて、シート状キチンハイドロゲル乾燥体や、スポンジ状キチンハイドロゲル乾燥体等の、キチンゲル乾燥体を作製することができる。

【0020】
キトサンとアセチル化剤を混合することにより、キトサンのアミノ基がアセチル化されキチンが生成する。本発明のキチンゲルにおいて、キチンにおけるアミノ基のアセチル化率は、90 mol%以上、好ましくは92 mol%以上、より好ましくは93 mol%以上であり、100 mol%未満、好ましくは98 mol%未満、より好ましくは96 mol%未満である。アミノ基がアセチル化されることにより、水分子を抱合してハイドロゲル化が可能となる。一方、キチンそのものは細胞接着性をほとんど有していない。本発明におけるキチンゲルでは、キトサン由来のアミノ基が少量残っていることにより、細胞接着性を有することとなる。細胞のスフェロイド形成は、細胞接着性表面を微細に施したデバイスを用いることにより行われるが、本発明におけるキチンゲルではキトサン由来のアミノ基が少量残ることにより、微細な細胞接着表面を自発的に作製し得るものと考えられる。

【0021】
本発明の細胞培養方法においては、培養基材であるキチンゲルの上面に細胞を播種し、培養を行うことが好ましい。キチンゲルが微細な細胞接着表面を有するものであるため、上面に播種された細胞は平面に増殖していくのではなく、立体的に増殖をすることができ、その結果スフェロイドが形成される。スフェロイドとは、細胞が多数凝集して球状塊になったものである。また本発明の細胞の培養方法においては、15000~100000 cells/cm2程度、好ましくは約30000 cells/cm2で、細胞をキチンゲル上に播種することが好ましい。培地の添加は、細胞を播種する前と後のいずれであってもよいが、好ましくは細胞を播種した後である。用いる培地の種類は、細胞の種類によって適宜選択できるが、液状の培養液が好ましい。

【0022】
本発明の細胞培養方法における培養時間、培養温度等の培養条件は細胞によって適宜選択することができるが、一般的には37℃で1日以上培養を行うことにより、スフェロイドを形成することができる。スフェロイドが形成した後は、キチンゲル上で長期の培養を行うことも可能であり、少なくとも7日間以上、好ましくは14日間以上、培養が可能である。

【0023】
本発明の細胞培養方法において用いられる細胞の種類は特に限定されないが、細胞接着性を有する細胞が好ましい。細胞接着性を有する細胞としては、肝細胞、神経細胞、甲状腺由来細胞、胸腺由来細胞、腎臓細胞、消化管由来細胞、幹細胞(ES細胞、iPS細胞等)、抗体産生細胞(ハイブリドーマ等)、間葉細胞、間質細胞、脂肪組織由来の前駆細胞、インシュリン産生細胞、B細胞、ホルモン産生細胞、肥満細胞、免疫系細胞、遺伝子組み換え細胞が挙げられる。好ましくは、肝細胞、腎臓細胞、幹細胞、抗体産生細胞等である。細胞の由来は特に限定されず、哺乳動物由来の細胞、好ましくはヒト由来の細胞である。

【0024】
本発明は、本発明のキチンゲルを培養基材として含有する、スフェロイドを形成するための細胞培養用デバイスにも及ぶ。細胞培養用デバイスの形態は、培養基材を含む培養室を1又は複数備えたものであればいかなるものであってもよい。具体的には、培養質としてのウェルを複数有するプレート、シャーレ、フラスコ等が挙げられる。プレートとしては96穴プレート、24穴プレート等、シャーレとしては35 mmシャーレ等、フラスコとしては25 cm2フラスコ、多層フラスコ等が挙げられる。本発明の細胞培養用デバイスは、好ましくはプレートの形態である。また、本発明の細胞培養用デバイスはいかなる方法によって作製してもよいが、例えばキトサン溶液とアルキル化剤を培養室に添加して混合してキチンゲルを形成させることにより、作製することができる。培養室におけるキチンゲルの容量は、キチンゲルが培養基材として機能し得るものであれば特に限定されないが、培養室の全容量に対して1/20~1/2程度の容量のキチンゲルが含まれていればよい。また、細胞培養を好適に行うために、キチンゲルの厚みは0.5 mm~5 mmが好ましく、約1 mmがより好ましい。

【0025】
本発明の細胞培養方法はスフェロイドを形成することができるものである。本発明は、本発明の細胞の培養方法を用いてスフェロイドを形成する方法にも及ぶ。スフェロイドは、従来の平面培養(単層培養)に比べて、細胞の機能を長時間保持でき、より生体に近いものと考えられている。またスフェロイドでは平面培養の細胞に比較して細胞内のタンパク質生産能が増強されている。従って、本発明の細胞培養方法、および本発明の細胞培養方法により形成されたスフェロイドは、種々のタンパク質の製造方法、薬剤代謝研究、薬剤スクリーニング、薬剤毒性スクリーニング、幹細胞の培養・維持、再生医療用材料の作製に利用することが可能である。再生医療用材料の作製においては、本発明の細胞培養方法により複数種の細胞のスフェロイドを各々形成させ、形成したスフェロイドを併せて培養することにより、再生医療用材料を構築することができる。

【0026】
本発明は、本発明の細胞の培養方法により形成したスフェロイドの細胞内でタンパク質を発現させる工程、及び、当該発現したタンパク質を回収する工程を含む、タンパク質の製造方法にも及ぶ。本発明のタンパク質の製造方法により製造されるタンパク質は、各種細胞内で発現し得るタンパク質であればいかなるものであってもよく、例えば抗体等が挙げられる。分泌性のタンパク質であれば、培養上清を回収することによりタンパク質を回収できる。
また本発明は、本発明の細胞の培養方法により形成した肝細胞のスフェロイドに被験物質を接触させる工程、及び、肝細胞の生存率を検出する工程を含む、被験物質の毒性を検出する方法にも及ぶ。被験物質は、医薬の有効成分となり得る物質を用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の内容を実施例に示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1-1) キチンゲルの作製1
キトサン10(Wako)(Wakoのデータ:粘度7.0 mPa・s,脱アセチル化率 84.6 mol%)を酢酸に溶かして、2 %(w/v) キトサン in 0.1 M 酢酸の2 %(w/v)キトサン溶液を作製した。
2 %(w/v)キトサン溶液と、無水酢酸(Wako、特級、純度97 %以上)の原液(100 %(v/v))を、キトサン溶液:無水酢酸=2:1、3:1、又は4:1(容量比)で、3~5分間激しく混合した。混合した溶液を、96穴プレートのウェル(1ウェルの容量は300μL)に40μL/ wellで注入し、15分間以上、室温で静置し、ゲル化させてキチンゲルを作製した。
【実施例】
【0029】
作製したキチンゲルについて、アセチル化率を確認した。キチンゲルを磨砕した試料、及び、キトサン10(TM)について、アセチル化率を確認した。アセチル化率は、アミノ基を定量することにより算出した。アミノ基の定量は、アミノ基がTNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸)と反応し呈色することを利用し、常法により420 nmの吸収を測定することにより行った。アセチル化率の検量線をキトサン10(TM)の測定値に基づき作成した。その結果、キチンゲル(キトサン溶液:無水酢酸=2:1)は、94.8 mol%のアセチル化率であることがわかった。
【実施例】
【0030】
(実施例1-2) キチンゲルの作製2
キトサン溶液(0.1 %(w/v)、0.5 %(w/v)、2 %(w/v)、5 %(w/v))と無水酢酸(100 %(v/v)、50 %(v/v)、20 %(v/v)、10 %(v/v))を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、キトサン溶液:無水酢酸=3:1(容量比)で混合し、キチンゲルを作製した。なお無水酢酸は、蒸留水で希釈を行い各濃度の水溶液を調製した。
【実施例】
【0031】
作製したゲルを目視で確認した結果を以下の表1に示す。
【表1】
JP2017055727A_000003t.gif
なお、10 %(w/v)キトサン溶液は粘度が高く、ゲルの作製ができなかった。
以上の結果から、キトサン溶液の濃度は1 %(w/v)~5 %(w/v)であればゲルの作製が可能であり、2 %(w/v)がゲルの作製に適していることが分かった。また無水酢酸の濃度は、10 %(v/v)、20 %(v/v)の水溶液ではゲルの作製が難しく、50 %(v/v)以上でゲルの作製が可能であることがわかった。なお、無水酢酸50 %(v/v)水溶液によるゲルは、100 %(v/v)のものに比べて、柔らかいものであった。
【実施例】
【0032】
(実施例2) キチンゲルを用いた細胞の培養1
実施例1-1により、96穴プレートのウェル内に作製したキチンゲル(キトサン溶液:無水酢酸=2:1)を用いて、GFP恒常発現HEK293T細胞またはHepG2細胞を培養し、スフェロイドを形成させた。
(1)まず、96穴プレートのウェル内のキチンゲルを蒸留水で洗浄した後、70 %エタノールで滅菌し、滅菌PBS(-)で2回洗浄し、培地で洗浄した。用いた培地は、D-MEM(Wako)である。その後、GFP恒常発現HEK293T細胞またはHepG2細胞を10000 cells/wellで播種し、37℃で7日間または9日間培養を行った。その後、GFP恒常発現HEK293T細胞のスフェロイドおよびHepG2細胞のスフェロイドを、それぞれ蛍光顕微鏡および位相差顕微鏡を用いて観察した。
【実施例】
【0033】
キチンゲル上に形成されたスフェロイドの代表写真を図1に示す。図1の左側は、GFP恒常発現HEK293T細胞のスフェロイド(蛍光視野)の写真、右側はHepG2細胞のスフェロイド(明視野)の写真である。いずれもスケールバーは200μmである。図1中、スフェロイドの代表的なものを矢印で示す。本発明のキチンゲルにより、GFP恒常発現HEK293T細胞またはHepG2細胞のいずれの細胞であっても、スフェロイドが良好に形成されることがわかった。
【実施例】
【0034】
(2)上記(1)と同様の手法により、GFP恒常発現HEK293T細胞を5000 cells/wellで播種し、その4日後にスフェロイドを回収し、培地で1 mLに希釈し、100μLずつ新しいウェル(キチンゲル上)に移した。その後、スフェロイドを長期培養し、同じスフェロイドを定点観察した。
【実施例】
【0035】
同じスフェロイドを定点観察した結果を表す代表写真を図2に示す。左から培養7日目、14日目、21日目のスフェロイドの蛍光視野の写真である。スケールバーは200μmを示す。長期培養により、スフェロイドは順調に成長し、21日目には直径400μmを超える大きさにまで成長した。このとき、スフェロイドの内部でもGFP発現が確認されることから、スフェロイド内部の細胞も生存していることがわかった。
【実施例】
【0036】
(実施例3) スフェロイドによるタンパク質の製造
本発明のキチンゲルを用いて形成したスフェロイドについて、タンパク質の生産能を確認した。
【実施例】
【0037】
実施例2(1)と同様の手法により、HEK293T Cypridina-luciferase恒常発現株をキチンゲル上で培養した。Cypridina-luciferaseは、物質生産のモデルとして用いたものであり、分泌性ルシフェラーゼである。
まず、HEK293T Cypridina-luciferase恒常発現株を15000 cells/wellで播種し、キチンゲル上で培養を行った。コントロールとして、キチンゲルを含まない96穴プレートに培地を注入し、通常の平面培養を行った。播種後、37℃で3日間培養を行ったあと、キチンゲルまたはコントロールの培養上清20μLを採取した。培養上清中のルシフェラーゼについて、PierceTM Cypridina Luciferase Glow Assay Kit(https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/16170)を用いて、ルシフェラーゼ活性測定を行った。
【実施例】
【0038】
ルシフェラーゼ活性測定を行った結果を図3に示す。キチンゲル上で培養したスフェロイドの方が、平面培養に比較して、ルシフェラーゼ産生量が多いことが確認された。本発明のキチンゲルを用いて得られたスフェロイドでは、タンパク質生産能が優れていることがわかった。
【実施例】
【0039】
(実施例4) キチンゲルを用いた細胞の培養2
実施例1-1と同様にして、24穴プレートのウェル内に作製したキチンゲル(キトサン溶液:無水酢酸=2:1)を用いて、ヒト肝癌由来細胞株のHepG2細胞を培養し、スフェロイドを形成させた。
(1)キチンゲルを作製した24穴プレートに、HepG2細胞を50000 cells/wellで播種した。コントロールとしてキチンゲルを含まない24穴プレートに培地を注入し、平面培養を行った。キチンゲルおよびコントロールともに、培養は3週間行った。
【実施例】
【0040】
(2)形成したスフェロイドについて、HepG2細胞の肝特異的遺伝子の発現を比較した。培養後の細胞について、CYP3A4遺伝子、ALB遺伝子、ApoE遺伝子の発現量を確認した。CYP3A4は肝臓における薬剤代謝酵素の代表例、ALBは肝臓の生産する血清アルブミン、ApoEは肝臓の生産するアポリポタンパク質である。まず培養後の細胞より、TRIzol(R)を用いて製品のプロトコルに従って、Total RNAを回収した。その後、PrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser(Takara)を用いて、逆転写を行い、SYBR(R) Premix Ex Taq(TM) II (Tli RNaseH Plus)(Takara)を用いて、リアルタイムPCRを行った。機器はMx3000P QPCR System(Agilent)を用いた。用いたプライマーは以下の通りである。なお、GAPDH遺伝子の発現量を内部標準として確認した。
〔hGAPDH遺伝子〕
hGAPDHsense:tcccatcaccatcttcca(配列番号1)
hGAPDHanti:catcacgccacagtttcc(配列番号2)
〔hCYP3A4遺伝子〕
hCYP3A4Left:AGTCAAGGGATGGCACCGTA(配列番号3)
hCYP3A4Right:TCTGGTGTTCTCAGGCACAG(配列番号4)
〔hALB遺伝子〕
hALBLeft:TTGCCGAAGTGGAAAATGATGAG(配列番号5)
hALBRight:CAGCAGCAGCACGACAGAGT(配列番号6)
〔hApoE遺伝子〕
hApoELeft:GGGTCGCTTTTGGGATTAC(配列番号7)
hApoERight:CAACTCCTTCATGGTCTCG(配列番号8)
【実施例】
【0041】
hCYP3A4遺伝子、hALB遺伝子、hApoE遺伝子の発現量を確認した結果を図4に示す。各遺伝子の発現量をGAPDH遺伝子の発現量によって補正し、平面培養の細胞における各遺伝子の発現量を1としたときの相対的発現量を示した。平面培養の細胞と比較して、本発明のキチンゲルを用いて得られたスフェロイドでは、いずれの肝特異的遺伝子も高い発現量を示していた。本発明のキチンゲルを用いて得られたスフェロイドは、より肝細胞に近い機能を有していることがわかった。
【実施例】
【0042】
(実施例5) スフェロイドにおける薬剤代謝能の確認
HepG2細胞を培養したスフェロイドにおける各薬剤の細胞毒性を確認した。
実施例4と同様にして、24穴プレートにHepG2細胞を10000 cells/wellで播種し、キチンゲル上で、又は平面培養を行った。細胞播種2日後、各薬剤(Amiodarone、Ketoconazole、Benzbromarone、Sulfaphenazole)を、12.5μM、25μM、50μMの濃度となるように添加した。なお、細胞播種後2日目には、スフェロイドが形成されていた。化合物を添加した1日後に、WST8アッセイ(Dojindo)を行い、450 nmの吸収を測定し、細胞の生存率を確認した。各薬剤は薬剤代謝酵素であるシトクロムP450により肝細胞で代謝され、毒性を示すことが知られている。従って各薬剤添加により、細胞の生存率が低下した場合は、肝細胞に近い機能を有していると判断することができる。
【実施例】
【0043】
平面培養の細胞についての結果を図5Aに、キチンゲル上で培養したスフェロイドについての結果を図5Bに示す。図5A、図5Bともに、薬剤無添加の細胞における生存率を100 %とし、相対的細胞生存率の値を示した。平面培養の細胞では、いずれの薬剤もほとんど毒性を示さなかったが、スフェロイドでは毒性を示すようになった。特にBenzbromarone、Sulfaphenazoleは強い毒性を示すようになった。よって、本発明のキチンゲルを用いて得られたスフェロイドは、より肝細胞に近い機能を有しており、薬剤耐性の確認等の試験に用いることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の細胞の培養方法により種々の細胞から、簡便かつ大量にスフェロイドを形成させることが可能となる。培養基材であるキチンゲルは容易に作製可能でありキチンゲルの材料自体も安価である。また同質のスフェロイドを大量に再現性良く作製可能であることから、肝細胞のスフェロイドを作製し薬剤耐性等の試験を行うことができる。さらにスフェロイドを用いた有用タンパク質の生産が可能となる。本発明の培養方法によれば、細胞の高密度培養、長期培養が可能となる。またキチンは生体吸収性を持つ安全な素材であることから、再生医療用材料を作製において用いることが可能である。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図5】
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