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明細書 :形質転換体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-018061 (P2017-018061A)
公開日 平成29年1月26日(2017.1.26)
発明の名称または考案の名称 形質転換体の製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/21
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2015-140526 (P2015-140526)
出願日 平成27年7月14日(2015.7.14)
発明者または考案者 【氏名】三宅 英雄
【氏名】岡田 昌子
出願人 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000774、【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
Fターム 4B024AA17
4B024CA04
4B024DA05
4B024EA04
4B024GA11
4B065AA23X
4B065AA23Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA55
要約 【課題】クロストリジウムセルロボランスの形質転換体の製造方法、及び該製造方法により製造されたクロストリジウムセルロボランスの形質転換体の提供。
【解決手段】クロストリジウムセルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質を選択し、該抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミドを作製する。該プラスミドをクロストリジウムセルロボランスに導入する工程を経ることにより、クロストリジウムセルロボランスの形質転換体を製造する方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミドをクロストリジウム セルロボランスに導入する工程を含む、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法。
【請求項2】
クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質が、クロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコールから選ばれるいずれか一種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子がクロストリジウム属由来である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子が配列表配列番号1に示されるクロラムフェニコール耐性遺伝子である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法によって製造されるクロストリジウム セルロボランスの形質転換体。
【請求項6】
クロストリジウム セルロボランスの形質転換用であるクロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はクロストリジウム セルロボランス(Clostridium cellulovorans)の形質転換体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム属(Clostridium属)にはクロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)やクロストリジウム ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)のように、ブタノール、アセトン、エタノール等のソルベントを生産するブタノール生産性クロストリジウム属が存在する。また、クロストリジウム セルロボランスやクロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)のように、セルロソームと呼ばれる超タンパク質複合体を形成し、リグノセルロースを分解することのできるセルロソーム生産性クロストリジウム属も存在する。
【0003】
クロストリジウム セルロボランスは稲わらなどのソフトバイオマスを直接分解することができる微生物であり、近年、ゲノム解析やバイオマス分解に関与する糖質分解酵素の諸性質の解析が行われてきた(特許文献1、非特許文献1、2、参照)。
クロストリジウム セルロボランスの主な代謝産物はギ酸、酢酸、酪酸、乳酸等の有機酸であり、既存の技術において、乳酸からポリ乳酸等の石油系プラスチックに近い特性を持つ化成品の原料を作製することが可能である。
また、クロストリジウム セルロボランスは再生可能なセルロース系バイオマスから直接乳酸を生産できるが、生産量が少なく遺伝子改変による生産量増大が期待されている。
【0004】
近年、次世代型の遺伝子改変方法として脚光を浴びているゲノム編集は、細胞種や生物種を問わず、ゲノム情報を自在に書き換えることのできる技術として急速に広がっている。中でも、RNA誘導型ヌクレアーゼを用いた第3世代のゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR-associated protein 9)の開発により、ゲノム編集の敷居は格段に低くなった(非特許文献3、参照)。
CRISPR/Cas9は元来真正細菌や古細菌が有する外来DNAの排除機構であるCRISPR/Casシステムの一部をゲノム編集に応用したものである。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子編集の研究はHuman細胞やマウス細胞にはじまり、コオロギや小型魚類に至るまで、幅広く報告されている(非特許文献4、5、参照)。元来排除機構として持っている細菌類についても、近年いくつかの細菌についてはCRISPR/Cas9システムの利用が報告されている。
【0005】
目的遺伝子の遺伝子改変を行うためには宿主となる菌に遺伝子を導入する手法、すなわち形質転換法が必要である。クロストリジウム属で初めに形質転換方法を確立したのはブタノール生産菌であるクロストリジウム アセトブチリカムであり、Oultramらによってクロストリジウム アセトブチリカムのホスト-ベクター系である大腸菌-クロストリジウム アセトブチリカム(E.coli-C.acetobutylicum)のシャトルベクターが作製された(非特許文献6、参照)。
その後クロストリジウム アセトブチリカムにセルロース分解能力を付与させるために、クロストリジウム セルロボランス由来のエンドβ-1,4-D-グルカナーゼの発現をさせることがKimらによって行われた(非特許文献7、参照)。また、Mintonらのグループは、ClosTronというベクターを開発し、クロストリジウム アセトブチリカムをはじめ、いくつかのクロストリジウム属の微生物において、形質転換が可能となった(非特許文献8、参照)。
【0006】
同じブタノール生産菌であるクロストリジウム ベイジェリンキではLopez-Contrerasらによってクロストリジウム アセトブチリカムと同種のシャトルベクターを用いて、クロストリジウム ベイジェリンキにカビ由来のセルラーゼを形質転換させることに成功している(非特許文献9、参照)。さらにBlaschekのグループでは、クロストリジウム ベイジェリンキにおいて、CRISPR/Casシステムによるゲノム編集を成功させている(非特許文献10、参照)。
【0007】
一方で、セルロソーム生産性クロストリジウム属では、クロストリジウム サーモセラムにおいてLyndらによってホスト-ベクター系の作製が行われ、形質転換方法が確立されている(非特許文献11、参照)。その後、その形質転換方法を応用しTripathiらによってクロストリジウム サーモセラムの標的遺伝子の破壊が報告された(非特許文献12、参照)。これらの経緯から、セルロソーム生産性クロストリジウム属においても形質転換方法の確立によって遺伝改変を行うことが期待できる。
【0008】
なお、特許文献2においても、クロストリジウム アセトブチリカム等のブタノール生産性クロストリジウム属や、クロストリジウム サーモセラム等のセルロソーム生産性クロストリジウム属のいずれをも対象として、DNA配列を置換する方法として、クロストリジウム菌で複製可能な複製起点と標的DNA配列のまわりの選択された領域と相同な2つの配列に挟まれた第1のマーカー遺伝子を含んでなる置換カセット、および第2のマーカー遺伝子を含むベクターで形質転換する方法等も開示されている。
【0009】
しかし、これらの従来の技術においてはクロストリジウム セルロボランスを形質転換することについて報告されておらず、クロストリジウム セルロボランスの形質転換を目的とするホスト-ベクター系も確立していない。そこで、本願発明者らは、クロストリジウム セルロボランスのホスト-ベクター系の構築と形質転換方法の確立を試みた。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】国際公開第2010/53363号パンフレット
【特許文献2】特許第523375号
【0011】

【非特許文献1】Tamaru,Y.,Miyake,H.,Kuroda,K.,Nakanishi,A.,Kawade,Y.,Yamamoto,K.,Uemura,M.,Fujita,Y.,Doi,R.H.,Ueda,M. “Genome sequence of the cellulosome-producing mesophilic organism Clostridium cellulovorans 743B.” J.Bacteriol.,192(3),901-902.(2010)
【非特許文献2】Tamaru,Y.,Miyake,H.,Kuroda,K.,Ueda,M.,Doi,R.H. “Comparative genomics of the mesophilic cellulosome-producing Clostridium cellulovorans and its application to biofuel production via consolidated bioprocessing.” Environ.Technol.,31(8-9),889-903.(2010)
【非特許文献3】Le,C.,F.Ann,R.,David,C.,Shuailiang,L., and Feng,Z. “Multiplex Genome Engineering Using CRISPR/Cas Systems.” Science 339,819-823.(2013)
【非特許文献4】Fujihara,Y., and Ikawa,M. “CRISPR/Cas9-Based Genome Editing in Mice by Single Plasmid Injection.” Methods in Enzymology 546,319-336.(2014)
【非特許文献5】Ansai,S., and Kinoshita,M. “Targeted mutagenesis using CRISPR/Cas system in medaka.” Biologists 3,362-371.(2014)
【非特許文献6】Oultram,J.,Loughlin,M.,Swinfield,T-J.,Brehm,J.K.,Thompson,D.E.,Minton,N.P. “Introduction of plasmids into whole cells of Clostridium acetobutylicum by electroporation.” FEMS Microbiol. Letters 56,83-88.(1998)
【非特許文献7】Kim,A.Y.,Attwood,G.T.,Holt,S.M.,White,B.A.,Blaschek,H.P. “Heterologous expression of endo-β-1,4-D-glucanase from Clostridium cellulovorans in Clostridium acetobutylicum ATCC 824 following transformation of the engB gene.” Appl Environ Microbiol 60,337-340.(1993)
【非特許文献8】Heap,J.T.,Pennington,O.J.,Cartman,S.T., and Minton,N.P. “A modular system for Clostridium shuttle plasmids.” J Microbiol Methods.78(1) 79-85.(2009)
【非特許文献9】Lopez-Contreras,A.M.,Smidt,H.,van der Oost,J.,Claassen,P.A.,Mooibroek,H., and de Vos,W. M. “Clostridium beijerinckii cells expressing Neocallimastix patriciarum glycoside hydrolases show enhanced lichenan utilization and solvent production.” Appl Environ Microbiol 67,5127-5133.(2001)
【非特許文献10】Wang,Y.,Zhang Z.T.,Seo,S.O.,Choi,K.,Lu,T.,Jin,Y.S., and Blaschek,H.P. “Markerless chromosomal gene deletion in Clostridium beijerinckii using CRISPR/Cas9 system.” J Biotechnol. 200 1-5.(2015)
【非特許文献11】Tyurin,M.V.,Desai,S.G.,Lynd,L.R. “Electrotransformation of Clostridium thermocellum.” Appl Environ Microbiol 70,883-890.(2004)
【非特許文献12】Tripathi,S.A.,Olson,D.G.,Argyros,D.A.,Miller,B.B.,Barrett,T.F.,Murphy,D.M.,McCool,J.D.,Warner,A.K.,Raigarhia,V.B.,Lynd,L.R.,Hogsett,D.A.,Caiazza,N.C. “Development of pyrF-based genetic system for targeted gene deletion in Clostridium thermocellum and creation of a pta mutant.” Appl Environ Microbiol 76,6591-6599.(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体の製造方法、および該製造方法により製造されたクロストリジウム セルロボランスの形質転換体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意検討を行い、様々な抗生物質の中からクロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質を選択し、該抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミドを作製した。そして、該プラスミドをクロストリジウム セルロボランスに導入する工程を経ることにより、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、次の(1)~(6)に示される、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法等に関する。
(1)クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミドをクロストリジウム セルロボランスに導入する工程を含む、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法。
(2)クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質が、クロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコールから選ばれるいずれか一種以上である上記(1)に記載の方法。
(3)クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子がクロストリジウム属由来である上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子が配列表配列番号1に示されるクロラムフェニコール耐性遺伝子である上記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法によって製造されるクロストリジウム セルロボランスの形質転換体。
(6)クロストリジウム セルロボランスの形質転換用であるクロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミド。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造することが可能となった。クロストリジウム セルロボランスは、セルロース系バイオマスを直接糖化できることから、本発明により、クロストリジウム セルロボランスに目的とする遺伝子を導入することによって代謝関連酵素の改変等を行うことが可能となる。これによって、バイオ燃料や化成品の原料として有用なブタノールやコハク酸などの化合物をセルロース系バイオマスから直接製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】クロラムフェニコール添加培地におけるクロストリジウム セルロボランスの増殖の状態を示した図である(実施例1)。
【図2】クロストリジウム セルロボランス用プラスミドpMTL500Cの概要を示した図である(実施例1)。
【図3】クロラムフェニコール添加培地におけるクロストリジウム セルロボランスの形質転換体のコロニーの検出を確認した図である(実施例1)。
【図4】クロストリジム セルロボランスの形質転換体における、クロラムフェニコール耐性遺伝子の検出を確認した図である(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の「クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法」とは、クロストリジウム セルロボランスに外来遺伝子等を導入することにより、クロストリジウム セルロボランスの形質転換を行い、その形質転換体を得る方法のことをいう。
この方法は、クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミドをクロストリジウム セルロボランスに導入する工程を含むことを必須とする。本発明の「クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法」は、この工程とともに、例えば、目的とする遺伝子を該プラスミドに導入し、その上でこのプラスミドをクロストリジウム セルロボランスに導入する工程等、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体の製造にあたり有用な他の方法を含むものであっても良い。

【0018】
ここで、「クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質」とは、これらの抗生物質が存在しない成育環境と比較して、これらの抗生物質が存在する成育環境におけるクロストリジウム セルロボランスの増殖が抑制される作用を示す抗生物質のことをいう。
このような抗生物質として、クロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコール等が挙げられる。これらのいずれか一種以上、または2つ以上を組み合わせて、本発明の抗生物質としても良い。

【0019】
これらの抗生物質の耐性遺伝子は、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体の選択マーカーとして使用し得るものであれば、従来知られているいずれの塩基配列からなる耐性遺伝子であっても良いが、クロストリジウム属由来の耐性遺伝子であることが好ましい。
例えば、クロラムフェニコールの耐性遺伝子であれば、クロストリジウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子であって、配列表配列番号1に示されるもの等を用いることが好ましい。

【0020】
本発明の「クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミド」は、上述のような抗生物質の耐性遺伝子が、クロストリジウム セルロボランスの形質転換に有用な発現ベクターに組み込まれたプラスミドのことをいう。このような発現ベクターには、従来知られているいずれの発現ベクターを用いることもできるが、例えば、Escherichia coli-Clostridium acetobutylicum用のシャトルベクターであるpMTL500E(非特許文献6、参照)等を用いることもできる。

【0021】
本発明の「クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を含むプラスミド」は、例えば、pMTL500Eからクロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制しない抗生物質の耐性遺伝子を除き、そこにクロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制し得る抗生物質の耐性遺伝子を組み込むことによって作製することができる。
このようなプラスミドとして、pMTL500Eからエリスロマイシン耐性遺伝子を除き、そこに配列表配列番号1で示されるクロラムフェニコール耐性遺伝子を組み込んだpMTL500C等を挙げることができる。

【0022】
本発明の「クロストリジウム セルロボランスの形質転換体」とは、本願発明のクロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造する方法によって製造されるクロストリジウム セルロボランスの形質転換体のことをいう。

【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
1.クロストリジウム セルロボランスの抗生物質耐性の検討
複数の抗生物質耐性遺伝子から、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体の製造に当たり遺伝子組換えのスクリーニングの目印として最適な選択マーカーを検討した。
【実施例】
【0025】
1)試料
(1)宿主細胞
クロストリジウム セルロボランス 743B(ATCC 35296)を宿主細胞とした。
この宿主細胞の培養にあたり、Sleatらの方法(参考文献1)を参考として、炭素源に3g/Lのセロビオース、4g/Lの酵母エキス、12g/LのNaCl、種々の微量元素をリン酸緩衝液に溶解し培地を作製した。
作製した培地を嫌気培養用の16×125mmの試験管に10mL入れ、嫌気培養装置 (三紳工業株式会社)を用いて二酸化炭素を約3分間吹き込み、試験管内を二酸化炭素で置換した。その後、ブチルゴム栓とスクリューキャップを施し、121℃、40分間オートクレーブし滅菌した。
クロストリジウム セルロボランスの植菌も嫌気培養装置を用いて行った。二酸化炭素発射口から1mL容の注射器内を二酸化炭素に置換し、0.2mLの二酸化炭素を満たした状態で種菌の入った試験管に注射針を刺し、二酸化炭素を試験管内に出した。その後0.2mLの種菌を取り出し、作製した試験管培地に迅速に植菌し、37℃で培養した。
参考文献1:Sleat,R.,Mah,R.A., and Robinson,R. “Isolation and Characterization of an Anaerobic, Cellulolytic Bacterium, Clostridium cellulovorans sp. Nov.” Apple Environ Microbiol 48,88-93.(1984)
【実施例】
【0026】
(2)抗生物質
クロラムフェニコール、エリスロマイシン、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコール(全て、和光純薬工業株式会社)を抗生物質として使用した。このうち、クロラムフェニコールとエリスロマイシンは99.5%エタノールに溶解させ、使用時まで冷凍保存した。また、スペクチノマイシンとチアンフェニコールは蒸留水に溶解させ、使用時まで冷凍保存した。
【実施例】
【0027】
2)クロストリジウム セルロボランスの培養
上記1)(2)にて調製した各抗生物質のストック溶液を使用時に解凍し、表1に示された濃度となるように嫌気チャンバー内で10mLの液体培地に加えた。その後、上記(1)にて培養したクロストリジウム セルロボランスの培養液0.2mLを植菌し、37℃で培養を行った。
また、クロラムフェニコールについては培地中の最終濃度が1μg/mL、10μg/mL、15μg/mL、20μg/mL、30μg/mL、40μg/mLまたは50μg/mLとなるようにそれぞれ液体培地に加え、培養を行った。
【実施例】
【0028】
【表1】
JP2017018061A_000002t.gif
【実施例】
【0029】
3)結果
抗生物質耐性下で培養を行った結果、クロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコールを加えた液体培地では、クロストリジウム セルロボランスは増殖できなかった。従って、これらの結果より、クロストリジウム セルロボランスはクロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコールの抗生物質耐性を保持していないことが推測された。
このうち特に、クロラムフェニコールを添加した液体培地では、図1に示したように、10μg/mL、15μg/mLという低い濃度であってもクロストリジウム セルロボランスは増殖できなかった(図1、クロラムフェニコールの添加量、A:1μg/mL、B:10μg/mL、C:15μg/mL)。
【実施例】
【0030】
2.クロストリジウム セルロボランス用プラスミドの構築
上記1.の結果より、クロストリジウム セルロボランスの増殖を抑制する抗生物質であるクロラムフェニコール、スペクチノマイシンまたはチアンフェニコールの中から、クロラムフェニコールを選択し、これをクロストリジウム セルロボランスの形質転換体のスクリーニングのために用いることとした。
【実施例】
【0031】
1)試料
(1)pMTL500E
アンピシリン耐性遺伝子とエリスロマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとして含むEscherichia coli-Clostridium acetobutylicum用のシャトルベクターであるpMTL500Eをクロストリジウム セルロボランス用プラスミドのベースとして使用した。pMTL500Eの増幅には大腸菌を用い、アンピシリンによるセレクションを行った。
【実施例】
【0032】
(2)クロラムフェニコール耐性遺伝子
クロラムフェニコール耐性遺伝子は、クロストリジウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)のクロラムフェニコール耐性遺伝子が含まれるpJIR418(参考文献2、参照)からクローニングした。
クロラムフェニコール耐性遺伝子の塩基配列を配列表配列番号1に示した。
参考文献2:Sloan,J.,Warner,T.A.,ScottP.T.,Bannam,T.L.,Berryman,D., and Rood JI. “Construction of a sequenced Clostridium perfringens-Escherichia coli shuttle plasmid.” Plasmid.27,207-219.(1992)
【実施例】
【0033】
2)クロストリジウム セルロボランス用プラスミドの構築
pMTL500Eに含まれるエリスロマイシン耐性遺伝子をクロラムフェニコール耐性遺伝子に置き換え、クロストリジウム セルロボランス用プラスミドを構築した。
即ち、pMTL500Eのエリスロマイシン耐性遺伝子以外の領域を含む線状化ベクターをPCRによって作製した。この時、5’末端、3’末端にPmeIとFseIの制限酵素サイトが付加するようにプライマーを設計し線状化ベクターを作製した。
また、pJIR418(参考文献2、参照)からPmeIおよびFseIの制限酵素サイトが付加するようにプライマーを設計し、上流のプロモーター領域を含めクロラムフェニコール耐性遺伝子を増幅した。
これらのpMTL500E線状化ベクターと、クロラムフェニコール耐性遺伝子をPmeIおよびFseIで制限処理し、それぞれの遺伝子をアガロースゲルで分画し、精製した。
精製したDNA断片と線状化ベクターについて、Ligation high(TOYOBO)を用いて16℃で一晩ライゲーション反応を行った。その後、ライゲーション産物を大腸菌DH5α株へ形質転換させ、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に植菌し、37℃で一晩静置培養した。
【実施例】
【0034】
LB寒天培地に生じたコロニーに選択マーカーであるクロラムフェニコール耐性遺伝子が挿入されているかを確認するためにコロニーPCRを行い、アガロース電気泳動を用いてPCR産物を確認することでクロラムフェニコール耐性遺伝子が挿入されているコロニーを選択した。そのコロニーをLB液体培地で培養し、その後、プラスミドDNAを抽出し、このクロストリジウム セルロボランス用プラスミドをpMTL500Cとした(図2)。図2のApはアンピシリン耐性遺伝子を示し、Cmはクロストリジウム パーフリンゲンス由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子を示している。
【実施例】
【0035】
3.形質転換体の製造方法
上記1、2の工程を経て作製したpMTL500Cを、エレクトロポレーション法によりクロストリジウム セルロボランス 743B(ATCC 35296)に形質転換した。
即ち、10mLのクロストリジウム セルロボランス 743B(ATCC 35296)の培養液を5mL容のチューブに入れ、5分間遠心分離を行った。その後、上清を取り除き、沈殿させた菌体に対して冷えたエレクトロポレーション緩衝液(270mM スクロース,10mM MgCl,0.6mM NaHPO,4.4mM NaHPO,pH6.0)を1mL加えて菌体を懸濁し、再び5分間遠心分離を行った。再び上清を取り除き、10mM MgClの含まれていない冷えたエレクトロポレーション緩衝液を0.2mL加えて懸濁させ、氷上で10分間静置した。
【実施例】
【0036】
滅菌済みの1.5mL容エッペンチューブに20μLの菌体懸濁液と440ngのpMTL500Cを加え、氷上で10分間静置した。その後、この混合液20μLを氷上で冷やした0.1cm滅菌済みエレクトロポレーションキュベット(BIO-RAD)に移し、混合液をキュベット底に流し入れ、キュベット外側の水滴を拭き取った。
キュベットをGene Pulser Xcell(登録商標)エレクトロポレーションシステム(BIO-RAD)に設置し、600V,200Ω,25μFの条件で形質転換を行った。形質転換後、キュベットごと氷上で10分間静置した。その後、培地170μLを加え、混合し、2mL容のクライオチューブに移し、37℃で2時間静置培養を行った。この培養液を転倒混和させ菌体を懸濁させた後、試験管に培養液が入った状態で濁度測定し、OD590=0.5に到達した時に培養した試験管を嫌気チャンバーに入れた。
【実施例】
【0037】
嫌気チャンバーから培養液の入ったクライオチューブを取り出し、7mLの培地に1.5%Agarを含んだ培地を一度溶解させた。嫌気培養装置から出た二酸化炭素を培地に吹き込みながら終濃度が15μg/mLとなるようにクロラムフェニコールを培地に加え、その後、クライオチューブに入っている培養液を、二酸化炭素を吹き込みながら素早く植菌した。ブチル栓を施し、ロールチューブ作成器(三紳工業株式会社)でロールチューブを作製した。作製したロールチューブを37℃で静置培養した。その結果、培養開始から4日後にコロニーを検出することができた(図3、右、丸で囲った箇所)。
【実施例】
【0038】
このロールチューブに生じたコロニーに目的遺伝子が挿入されているか確認するために、コロニーダイレクトPCRを行った。プライマーはクロラムフェニコールを含む領域で設計し、コロニーを鋳型としてPCRを行った。その結果、図4に示されるように、クロラムフェニコール耐性遺伝子を検出することができた。
図4のLaneMは100bp DNA Ladder(Bio Labs)を示し、Lane1は野生株クロストリジウム セルロボランス(ネガティブコントロール)を示し、Lane2はpMTL500C形質転換体クロストリジウム セルロボランスを示し、また、Lane3はpMTL500C(ポジティブコントロール)を示す。
【実施例】
【0039】
従って、この結果より、クロストリジウム セルロボランスの形質転換用であるクロラムフェニコール耐性遺伝子の塩基配列を含むプラスミドを用いることにより、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、クロストリジウム セルロボランスの形質転換体を製造することが可能となった。本発明により、クロストリジウム セルロボランスに目的とする遺伝子導入をすることにより、代謝関連酵素の改変等を行うことが可能となる。これによって、バイオ燃料や化成品の原料として有用なブタノールやコハク酸などの化合物をセルロース系バイオマスから直接製造することも可能となる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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