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明細書 :レンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-023473 (P2017-023473A)
公開日 平成29年2月2日(2017.2.2)
発明の名称または考案の名称 レンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラム
国際特許分類 A61F   2/16        (2006.01)
A61F   9/007       (2006.01)
FI A61F 2/16
A61F 9/007 200Z
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2015-145892 (P2015-145892)
出願日 平成27年7月23日(2015.7.23)
発明者または考案者 【氏名】常廣 俊太郎
出願人 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査請求 未請求
テーマコード 4C097
Fターム 4C097AA25
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC04
4C097CC11
4C097CC18
4C097CC20
4C097SA01
4C097SA10
要約 【課題】白内障手術において挿入すべき眼内レンズの度数を、より適切に選択することができるレンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】レンズ度数演算装置1は、水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出する眼内レンズ予想位置演算部101と、計測された瞳孔径に基づいて、眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測する角膜有効領域予測部102と、予測された有効領域における角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて眼内レンズの屈折力を算出する眼内レンズ度数演算部103と、を備えている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出する眼内レンズ予想位置演算部と、
前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測する角膜有効領域予測部と、
予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出する眼内レンズ度数演算部と、
を備えるレンズ度数演算装置。
【請求項2】
前記角膜有効領域予測部は、
虹彩の位置と、前記瞳孔径と、に基づいて前記有効領域を予測する
請求項1に記載のレンズ度数演算装置。
【請求項3】
前記角膜有効領域予測部は、
前記眼内レンズが取り付けられた後に変化する前記虹彩の予想位置を特定するとともに、当該虹彩の予想位置と、前記瞳孔径と、に基づいて前記有効領域を予測する
請求項2に記載のレンズ度数演算装置。
【請求項4】
前記眼内レンズ予想位置演算部は、
前記水晶体嚢を含む眼内の断層画像に示される当該水晶体嚢の前嚢の曲率及び前記水晶体嚢の後嚢の曲率に基づいて、前記眼内レンズの取り付け予想位置を算出する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のレンズ度数演算装置。
【請求項5】
前記角膜有効領域予測部は、
前記断層画像に基づいて前記瞳孔径を計測する
請求項4に記載のレンズ度数演算装置。
【請求項6】
前記眼内レンズ予想位置演算部は、
少なくとも、別途計測された眼軸長に基づいて前記眼内レンズの取り付け予想位置を算出する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のレンズ度数演算装置。
【請求項7】
水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出するステップと、
前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測するステップと、
予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出するステップと、
を有するレンズ度数演算方法。
【請求項8】
レンズ度数演算装置のコンピュータを、
水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出する眼内レンズ予想位置演算手段、
前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測する角膜有効領域予測手段、
予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出する眼内レンズ度数演算手段、
として機能させるプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白内障手術においては、手術の対象者(患者)の眼内における混濁した水晶体を摘出するとともに、これを予め用意された眼内レンズに置換することが行われている。対象者の眼内に挿入する眼内レンズの度数は、当該対象者個々によって適するものが異なるため、度数の選択が対象者の術後視力に大きな影響を与える。
【0003】
上記白内障手術に関連する技術として、特許文献1には目に眼内レンズを挿入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2014-151205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、挿入すべき眼内レンズの度数は、対象者の角膜の一定範囲(角膜中心から一定の半径の円に含まれる範囲)を一様の曲率とみなし、当該一定範囲における角膜の“一様の曲率”に基づいて算出されていた。しかしながら、実際には、対象者の角膜を透過した光線の一部は虹彩に遮られてしまい、網膜に到達しないため、網膜に到達しない角膜の領域についての情報も、上記“一様の曲率”として眼内レンズ度数の演算に含まれていた。そうすると、網膜に到達しない角膜の領域についての情報が含まれることによって眼内レンズ度数の算出誤差が大きくなり、対象者にとってより最適なレンズ度数を選択できないという課題が生じていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、白内障手術において挿入すべき眼内レンズの度数を、より適切に選択することができるレンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出する眼内レンズ予想位置演算部と、前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測する角膜有効領域予測部と、予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出する眼内レンズ度数演算部と、を備えるレンズ度数演算装置である。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、前記角膜有効領域予測部は、虹彩の位置と、前記瞳孔径と、に基づいて前記有効領域を予測する。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、前記角膜有効領域予測部は、前記眼内レンズが取り付けられた後に変化する前記虹彩の予想位置を特定するとともに、当該虹彩の予想位置と、前記瞳孔径と、に基づいて前記有効領域を予測する。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、前記眼内レンズ予想位置演算部は、前記水晶体嚢を含む眼内の断層画像に示される当該水晶体嚢の前嚢の曲率及び前記水晶体嚢の後嚢の曲率に基づいて、前記眼内レンズの取り付け予想位置を算出する。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、前記角膜有効領域予測部は、前記断層画像に基づいて前記瞳孔径を計測する。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、前記眼内レンズ予想位置演算部は、少なくとも、別途計測された眼軸長に基づいて前記眼内レンズの取り付け予想位置を算出する。
【0013】
また、本発明の一態様は、水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出するステップと、前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測するステップと、予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出するステップと、を有するレンズ度数演算方法である。
【0014】
また、本発明の一態様は、レンズ度数演算装置のコンピュータを、水晶体嚢の内部に取り付けられる眼内レンズの取り付け予想位置を算出する眼内レンズ予想位置演算手段、前記眼内レンズが取り付けられる前に計測された瞳孔径に基づいて、前記眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線が通過する角膜の有効領域を予測する角膜有効領域予測手段、予測された前記有効領域における前記角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、前記眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて前記眼内レンズの屈折力を算出する眼内レンズ度数演算手段、として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
上述のレンズ度数演算装置、レンズ度数演算方法及びプログラムによれば、白内障手術において挿入すべき眼内レンズの度数を、より適切に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置の全体構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るCPUの処理フローを示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る眼内断層画像取得部の機能を説明する図である。
【図4】第1の実施形態に係る眼内レンズ予想位置演算部の機能を説明する第1の図である。
【図5】第1の実施形態に係る眼内レンズ予想位置演算部の機能を説明する第2の図である。
【図6】第1の実施形態に係る眼内レンズ予想位置演算部の機能を説明する第3の図である。
【図7】第1の実施形態に係る角膜有効領域予測部の機能を説明する第1の図である。
【図8】第1の実施形態に係る角膜有効領域予測部の機能を説明する第2の図である。
【図9】第1の実施形態に係る眼内レンズ度数演算部の機能を説明する第1の図である。
【図10】第1の実施形態に係る眼内レンズ度数演算部の機能を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置を、図1~図※を参照しながら説明する。

【0018】
(全体構成)
図1は、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置の全体構成を示す図である。
図1に示すレンズ度数演算装置1は、白内障手術の対象者(白内障患者)に対する白内障手術にあたり、当該対象者の眼球に挿入すべき眼内レンズの度数を算出する装置である。レンズ度数演算装置1は、手術前における対象者の眼球の断層撮影を元に、当該対象者に適したレンズ度数を算出する。

【0019】
図1に示すように、レンズ度数演算装置1は、CPU10と、表示部20と、操作部21と、を備えている。
CPU10は、レンズ度数演算装置1の動作全体を司る演算処理部である。CPU10は、メモリ領域(図示せず)に読み込まれたレンズ度数演算用のプログラムに従って動作することで、後述する各種機能部(眼内断層画像取得部100、眼内レンズ予想位置演算部101、角膜有効領域予測部102及び眼内レンズ度数演算部103)としての機能を発揮する。
表示部20は、例えば、液晶ディスプレイ等であって、レンズ度数演算装置1の使用者(術者)に対し、レンズ度数演算結果をはじめとする各種情報を提供するユーザーインターフェイスである。
操作部21は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等であって、レンズ度数演算を実行するに際して必要な使用者の操作を受け付けるユーザーインターフェイスである。

【0020】
次に、レンズ度数演算装置1のCPU10が発揮する各種機能について説明する。
上述したように、CPU10は、眼内断層画像取得部100、眼内レンズ予想位置演算部101、角膜有効領域予測部102及び眼内レンズ度数演算部103として機能する。

【0021】
眼内断層画像取得部100は、対象者の眼球の手術前の状態が示された画像情報であって、少なくとも角膜、虹彩及び水晶体嚢を含む眼内の断層面が写された画像情報(以下、単に「断層画像」と記載する)を取得する。本実施形態においては、眼内断層画像取得部100は、一般に実用化されている光干渉断層計(OCT;optical coherence tomography)を用いて撮影された対象者の眼球の断層画像を取得する。
なお、他の実施形態においては、眼内断層画像取得部100は、光干渉断層計以外の手段を用いて撮影された断層画像を取得する態様であってもよい。

【0022】
眼内レンズ予想位置演算部101は、眼内断層画像取得部100によって取得された断層画像に写された角膜、虹彩及び水晶体嚢の態様(位置関係、大きさ、曲率、厚さ等の構造的特徴)に基づいて、水晶体嚢の内部に取り付けられるべき眼内レンズの取り付け予想位置を算出する。

【0023】
角膜有効領域予測部102は、眼内レンズ予想位置演算部101によって算出された眼内レンズの取り付け予想位置と、眼内断層画像取得部100によって取得された断層画像を用いて計測された対象者の眼球の瞳孔径と、に基づいて、眼内レンズが取り付けられた際に知覚可能な光線(後述する知覚可能光P)が通過する角膜の有効領域を予測する。

【0024】
眼内レンズ度数演算部103は、角膜有効領域予測部102によって予測された角膜の有効領域における当該角膜の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、眼内レンズ予想位置演算部101によって算出された眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて眼内レンズの屈折力の度合い(度数)を算出する。

【0025】
(CPUの処理フロー)
図2は、第1の実施形態に係るCPUの処理フローを示す図である。
また、図3は、第1の実施形態に係る眼内断層画像取得部の機能を説明する図である。
また、図4~図6は、それぞれ、第1の実施形態に係る眼内レンズ予想位置演算部の機能を説明する第1の図~第3の図である。
また、図7、図8は、それぞれ、第1の実施形態に係る角膜有効領域予測部の機能を説明する第1の図、第2の図である。
また、図9、図10は、それぞれ、第1の実施形態に係る眼内レンズ度数演算部の機能を説明する第1の図、第2の図である。
以下、図2、及び、以下に示す図3~図10を参照しながら、CPU10の各処理について、順を追って詳細に説明する。

【0026】
図2に示す処理フローは、操作部21を通じて、使用者から所定の入力操作(演算開始操作)を受け付けた場合に開始される。
まず、眼内断層画像取得部100は、白内障手術前の状態における、対象者の眼内の断層画像を取得する(ステップS0)。
以下、図3を参照しながら、眼内断層画像取得部100の機能について詳細に説明する。

【0027】
眼内断層画像取得部100は、例えば、図3に示すような断層画像Gを取得する。本実施形態において、断層画像Gは、光干渉断層計(OCT)によって撮影された画像情報である。
図3に示すように、断層画像Gには、対象者の眼球の角膜g1、虹彩g2、水晶体g3をなす水晶体嚢g30(前嚢g301及び後嚢g302)の断層が撮影されている。
角膜g1は、眼球の最も表面側(図3における紙面上側)に位置し、所定の曲率で湾曲するように形成されている。虹彩g2は、水晶体g3の周囲に配されながら、瞳孔g4の大きさ(瞳孔径d)を増減させることで、入射する光線の量を調節する絞りの役割を果たす。なお、瞳孔g4は、虹彩g2に囲まれてなる孔である。水晶体g3は、瞳孔g4を通じて入射した光線を屈折させ、網膜(断層画像Gには写されていない)へと導くレンズの役割を果たす。
また、使用者は、表示部20に表示された断層画像Gに基づいて、対象者の術前における通常時の瞳孔径d(瞳孔g4の直径)を計測する。具体的には、使用者は、操作部21を操作して所定の測長処理を行い、瞳孔径dを計測する。

【0028】
次に、眼内レンズ予想位置演算部101は、ステップS0で取得された断層画像G(図3)に基づいて、水晶体嚢g30の内部に取り付けられるべき眼内レンズの取り付け予想位置を算出する(図2のステップS1)。
以下、図4、図5及び図6を参照しながら、眼内レンズ予想位置演算部101の機能について詳細に説明する。

【0029】
図4は、本実施形態における白内障手術において、対象者の眼内に挿入されるべき眼内レンズの具体的態様を示している。
図4に示すように、眼内レンズ30は、光学部31と、支持部32と、を有してなる。
光学部31は、略円板状に形成され、予め規定された屈折力の度合い(度数)に応じて、入射した光線を屈折させる光学レンズである。光学部31は、例えば、アクリル等の素材で構成される。
支持部32は、光学部31の外周近傍から突出するように設けられた、弾性力を有する2つの突起部材である。図4に示すように、2つの支持部32は、光学部31の外周近傍から円周接線方向に沿って突出するとともに、その基端から先端にかけて湾曲するように延在している。2つの支持部32は、弾性力のある素材で構成されることで、光学部31の中心(光軸)から軸線半径方向外側にかけて互いに反対方向に弾性力を有している。これにより、眼内レンズ30が水晶体嚢g30の内部に配された際に、支持部32の弾性力を通じて、光学部31が水晶体嚢g30の内部における所定位置に固定される。

【0030】
図5は、白内障手術後において、対象者の眼内に眼内レンズ30が挿入された場合の様子を模式的に示している。
白内障手術の術者は、対象者の眼内における水晶体嚢g30の前面側(角膜g1に近い側)の一部を切開して水晶体g3内部の混濁した物質を除去するとともに、当該切開面を介して、眼内レンズ30を水晶体嚢g30の内部に挿入する。
図5に示すように、眼内レンズ30の2つの支持部32の各々は、光学部31の軸線半径方向の互いに反対方向に付勢されて水晶体嚢g30の内壁に当接する。これにより、眼内レンズ30の光学部31は、当該水晶体嚢g30の軸線半径方向における中央近傍に固定される。
ここで、眼内レンズ予想位置演算部101は、白内障手術前の段階で取得された断層画像Gに基づいて、上述の眼内レンズ30が対象者の眼内に実際に挿入された場合(図5参照)に、当該眼内において眼内レンズ30が配されると予想される位置(眼内レンズ30の取り付け予想位置)を算出する。

【0031】
図6は、眼内レンズ予想位置演算部101が、断層画像Gに基づいて、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出するための具体的処理を示している。
図6に示すように、眼内レンズ予想位置演算部101は、断層画像Gに写された前嚢g301のカーブを円近似して求められる外挿円C1を特定する。外挿円C1は、前嚢g301の曲率に応じた半径(曲率半径)を有する円である。
また、眼内レンズ予想位置演算部101は、断層画像Gに写された後嚢g302のカーブを円近似して求められる外挿円C2を特定する。外挿円C2は、後嚢g302の曲率に応じた半径(曲率半径)を有する円である。
更に、眼内レンズ予想位置演算部101は、外挿した2つの円(外挿円C1、C2)の交点Qの位置を特定する。

【0032】
このようにして求められた交点Qは、水晶体嚢g30の赤道面(眼軸Oの軸線回りの円の半径が最も大きくなる面)の位置を示しているものとみなすことができる。眼内レンズ予想位置演算部101は、2つの交点Qの断層画像G上の位置を参照しながら、水晶体嚢g30の赤道面深さD(眼軸O上における角膜g1の最表面から赤道面までの距離)、水晶体嚢g30の赤道径R(赤道面の直径)等の各種パラメータを算出する。
ここで、眼内レンズ30が水晶体嚢g30の内部に挿入された場合、上述したように、水晶体嚢g30の半径方向内側から外側にかけて付勢された2つの支持部32が、当該水晶体嚢g30の内壁を互いに反対方向に押しながら当接する。その結果、各支持部32は、図5に示すように、水晶体嚢g30の赤道部に留まって安定する。
したがって、眼内レンズ予想位置演算部101は、眼内レンズ30の支持部32が、断層画像G上に特定された交点Qに位置するものとして、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出することができる。

【0033】
次に、角膜有効領域予測部102は、ステップS1で眼内レンズ予想位置演算部101が算出した眼内レンズ30の取り付け予想位置と、ステップS0で取得された断層画像Gから計測された瞳孔径dと、に基づいて、眼内レンズ30が実際に取り付けられた際に、対象者にとって知覚可能な光線が通過する角膜g1の有効領域を予測する(図2のステップS2)。
以下、図7及び図8を参照しながら、角膜有効領域予測部102の機能について詳細に説明する。

【0034】
図7は、白内障手術前後における虹彩g2の位置の変化の様子を模式的に示している。
白内障手術後においては、当該白内障手術を通じて生じる水晶体嚢g30の形状変化に応じて、虹彩g2の位置が変化することが知られている。
具体的には、図7に示すように、白内障手術後においては、水晶体g3の前嚢g301の一部を切開して除去したことにより水晶体嚢g30の眼軸O方向の厚みが減少する。そうすると、白内障手術前における虹彩g2は、水晶体嚢g30の形状変化に伴い、眼球の深さ方向(角膜g1から離れる方向)に所定の移動量αだけ移動して、図7に示す虹彩g2’の位置まで移動する。虹彩g2’の位置(即ち、虹彩g2の位置から移動量αだけ深さ方向に移動した虹彩の位置)は、対象者の眼内(水晶体嚢g30)に挿入された眼内レンズ30の位置に依存して定まる。
したがって、角膜有効領域予測部102は、ステップS1で算出された眼内レンズ30の取り付け予想位置に基づいて、白内障手術後における虹彩g2の予想位置(虹彩g2’の位置)を特定することができる。

【0035】
次に、角膜有効領域予測部102は、特定した虹彩g2の予想位置に基づいて、対象者にとって知覚可能な知覚可能光Pが通過する角膜g1の有効領域g10を予測する。
ここで、対象者にとって知覚可能な「知覚可能光P」とは、具体的には、角膜g1を通じて眼内に入射された光線のうち、瞳孔g4’(虹彩g2’に囲まれた孔)及び眼内レンズ30の光学部31を通過して網膜(図示せず)に到達する光線のことである。即ち、角膜g1を通じて眼内に入射された光線のうち、虹彩g2’に遮られて網膜に到達しない光線は、対象者には知覚されない。

【0036】
角膜有効領域予測部102は、ステップS0で測長された瞳孔径dと、上述の虹彩g2の予想位置(図7、図8に示す虹彩g2’の位置)と、に基づいて、眼内レンズ30を挿入した後の瞳孔を通過する知覚可能光Pの軌跡を算出する。ここで、角膜有効領域予測部102は、断層画像Gに写されている角膜g1の構造的特徴(曲率、厚さ)、及び、予め規定されている角膜g1の屈折率に基づいて、当該角膜g1を通過する光線の束が通過する軌跡をシミュレートする。そして、角膜有効領域予測部102は、シミュレートされた光線の束のうち、先に特定した虹彩g2の予想位置(即ち、図8に示す虹彩g2’の位置)に基づいて、当該虹彩g2によって遮蔽されない範囲(知覚可能光Pが存在する範囲)を特定する。
次いで、角膜有効領域予測部102は、角膜g1のうち、知覚可能光Pのみが通過する領域である有効領域g10を予測する(図8参照)。

【0037】
次に、眼内レンズ度数演算部103は、角膜有効領域予測部102によって予測された有効領域g10における角膜g1の表面形状を取得するとともに、当該表面形状と、眼内レンズ予想位置演算部101によって算出された眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて眼内レンズ30の屈折力の度合いを算出する(図2のステップS3)。
以下、図9及び図10を参照しながら、眼内レンズ度数演算部103の機能について詳細に説明する。

【0038】
図9は、対象者の角膜g1のうち、眼軸Oを中心とする所定範囲g1’の曲率分布を示す図である。ここで、図9は、角膜g1の曲率分布を色分布に対応させて表している。
角膜g1の曲率は、一見して角膜g1全体で一定であるように見えるものの、実際には、図9に示すように、相対的に曲率が大きい箇所と小さい箇所とが不規則に混在し、対象者毎に複雑な曲率分布を有している。

【0039】
眼内レンズ度数演算部103は、まず、角膜g1のうち角膜有効領域予測部102が予測した有効領域g10の範囲内における曲率の代表値(例えば、平均値、中央値等)を算出する。ここで、眼内レンズ度数演算部103は、例えば、ステップS0で取得された断層画像Gに写された角膜g1の構造的特徴に基づいて、当該有効領域g10の範囲内における曲率の代表値(図10に示す曲率R1、R2)を算出する。

【0040】
図10は、眼内レンズ度数演算部103が、眼内レンズ30の度数を算出する処理の例を示す図である。
図10に示すように、眼内レンズ度数演算部103は、眼内における各屈折面の屈折力P1、P2、P3、P4と、各屈折面同士の間隔を示す各距離t1、t2、t3、t4と、に基づいて、対象者にとって最適な眼内レンズ30の度数を算出する。

【0041】
ここで、図10において、屈折率n0、屈折率n1、屈折率n2、屈折率n3、及び、屈折率n4は、それぞれ、大気の屈折率、角膜g1の屈折率、角膜g1と眼内レンズ30との間の媒質の屈折率、眼内レンズ30の屈折率、及び、眼内レンズ30と網膜g6との間の媒質の屈折率である。
屈折率n0~n4は、いずれも既知の値であり、眼内レンズ度数演算部103は、各屈折率n0~n4を予め取得している。

【0042】
また、曲率R1、曲率R2、曲率R3、及び、曲率R4は、それぞれ、角膜g1表面の曲率、角膜g1裏面の曲率、眼内レンズ30表面の曲率、及び、眼内レンズ30裏面の曲率である。
曲率R1、R2は、上述したように、角膜有効領域予測部102によって予測された、角膜g1の有効領域g10における曲率の代表値である。即ち、眼内レンズ度数演算部103は、断層画像Gに写された角膜g1のうち有効領域g10に属する部分の構造的特徴を抽出して、当該有効領域g10に限定された部分の曲率の代表値を算出し、これを角膜g1の曲率R1、R2とする。
また、曲率R3、R4は、それぞれ、眼内レンズ度数演算部103が最終的に算出すべき眼内レンズ30の度数に対応付けられる値である。

【0043】
距離t1、距離t2、距離t3及び距離t4は、それぞれ、角膜g1表面から角膜g1裏面までの距離、角膜g1裏面から眼内レンズ30表面までの距離、眼内レンズ30表面から眼内レンズ30裏面までの距離、及び、眼内レンズ30裏面から網膜g6までの距離である。
距離t1は、断層画像Gに基づいて計測される。また、距離t3は、眼内レンズ30の厚さであり、予め規定された値とされる。距離t2、t4は、眼内レンズ予想位置演算部101が予測した眼内レンズ30の位置に基づいて計測される。なお、距離t4を算出するにあたっては、予め、対象者の眼球の眼軸長(眼軸Oにおける角膜g1の最表面から網膜g6までの距離)を別途計測しておくことで精度良く算出することができる。

【0044】
屈折力P1及び屈折率P2は、それぞれ、角膜g1の表面(表面側の曲面)及び裏面(眼底側の曲面)における屈折力である。また、屈折力P3及び屈折力P4は、それぞれ、眼内レンズ30の表面及び裏面における屈折力である。
眼内レンズ度数演算部103は、屈折率n0、n1及び曲率R1によって角膜g1表面の屈折力P1を算出する。また、眼内レンズ度数演算部103は、屈折率n1、n2及び曲率R2によって角膜g1裏面の屈折力P2を算出する。そして、眼内レンズ度数演算部103は、入射した光が網膜g6で収束する条件を満たす眼内レンズ30の屈折力P3、P4を算出し、対象者の眼内に挿入すべき眼内レンズ30の度数を一意に特定する。

【0045】
(作用効果)
以上の通り、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置1は、眼内レンズ30が取り付けられた際に、対象者が知覚可能な光線(知覚可能光P)が通過する角膜g1の有効領域g10を予測するとともに、当該有効領域g10における角膜g1の表面形状と、眼内レンズの取り付け予想位置と、に基づいて眼内レンズ30の屈折力(度数)を算出する態様としている。

【0046】
このようにすることで、角膜g1のうち対象者が知覚可能な光線が通過する部分のみの情報(曲率)に基づいて眼内レンズ30の度数を算出するので、対象者にとって知覚できない領域の情報(曲率)が度数演算に含まれなくなるため、対象者にとってより適切な度数を選択することができる。
即ち、角膜の曲率分布は、例えば図9に示すように、角膜g1全体に渡って不規則に分布し得るところ、角膜g1の曲率の代表値を、所定領域g1’に含まれる曲率分布全体から算出した場合と、角膜g1のうちの特定の一領域のみに限定して算出した場合とでは、曲率の代表値(曲率R1、R2)の算出結果が大きく乖離し得る。
そこで、本実施形態においては、角膜g1の曲率の代表値(曲率R1、R2)の算出を、対象者が知覚可能な光線(知覚可能光P)が通過する有効領域g10のみに限定して算出することで、対象者にとって最も適したレンズ度数を算出することができる。

【0047】
また、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置1は、有効領域g10を予測するにあたり、取り付け後の眼内レンズ30の眼内における位置を予想するとともに、当該取り付け予想位置に基づいて、眼内レンズ30取り付け後において変化する瞳孔g4の位置を精度よく予測する。
このように、眼内レンズ30取り付け後における瞳孔g4の位置を予測することで、角膜g1のうち知覚可能な光線が通過する領域を一層精度良く予測することができる。

【0048】
以上のとおり、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置1によれば、白内障手術において挿入すべき眼内レンズの度数を、より適切に選択することができる。

【0049】
以上、第1の実施形態に係るレンズ度数演算装置1について詳細に説明したが、当該レンズ度数演算装置1の具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
例えば、眼内レンズ度数演算部103は、眼内断層画像取得部100が取得した断層画像G(光干渉断層計によって撮影された画像情報)に基づいて、有効領域g10における角膜g1の表面形状(曲率R1、R2)を取得するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
例えば、眼内レンズ度数演算部103は、角膜g1の有効領域g10における表面形状を、別途の計測装置(既知の角膜解析装置等)を用いて取得する態様であってもよい。

【0050】
また、第1の実施形態においては、眼内レンズ予想位置演算部101は、水晶体嚢g30を含む眼内の断層画像Gにおける水晶体嚢g30の前嚢g301の曲率及び水晶体嚢g30の後嚢g302の曲率に基づいて、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出するものと説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。

【0051】
他の実施形態においては、眼内レンズ予想位置演算部101は、例えば、対象者の眼球の「眼軸長」及び「角膜曲率半径」に基づいて、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出するものであってもよい。
この場合、眼内レンズ予想位置演算部101は、別途計測された、白内障手術前における眼球の眼軸長と、角膜曲率半径と、を取得する。そして、眼内レンズ予想位置演算部101は、計測された眼軸長及び角膜曲率半径を、既知の演算式(例えば、Holladay式、Hoffer式、SRK/T式等)に当てはめることで、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出することができる。

【0052】
また、更に他の実施形態として、眼内レンズ予想位置演算部101は、別途計測された、白内障手術前における眼球の「眼軸長」と「前房深度」と、に基づいて眼内レンズの取り付け予想位置を算出する態様であってもよい。この場合、眼内レンズ予想位置演算部101は、計測された眼軸長及び前房深度を、既知の演算式(例えば、Haigis式等)に当てはめることで、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出することができる。

【0053】
なお、上述の各実施形態において、眼内レンズ30の取り付け予想位置を算出する方法として例示したHolladay式、Hoffer式、SRK/T式及びHaigis式については、下記の文献に詳細が記載されている。
(1)Holladay JT, Musgrove KH, Prager TC, Lewis JW, Chandler TY, Ruiz RS. A three-part system for refining intraocular lens power calculations. J Cataract Refract Surg 1988;14(1):17-24.
(2)Hoffer KJ. The Hoffer Q formula: a comparison of theoretic and regression formulas. J Cataract Refract Surg 1993;19(6):700-712. errata 1994; 20:677 and JCRS 2007; 33:2-3.
(3)Retzlaff JA, Sanders DR, Kraff MC. Development of the SRK/T intraocular lens implant power calculation formula. J Cataract Refract Surg 1990;16:528. erratum 1990;16:528.
(4)Haigis W. The Haigis formula. In: Shammas HJ, editor. Intraocular lens power calculations. Thorofare, NJ: Slack, 2004:41-57.

【0054】
なお、上述の各実施形態においては、レンズ度数演算装置1のCPU10の各種機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各種処理を行うものとしている。ここで、上述したCPU10の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、CPU10は、単一の装置で構成される態様に限定されず、CPU10が有する各種機能構成が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。

【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0056】
1 レンズ度数演算装置
10 CPU
100 眼内断層画像取得部
101 眼内レンズ予想位置演算部
102 角膜有効領域予測部
103 眼内レンズ度数演算部
20 表示部
21 操作部
30 眼内レンズ
31 光学部
32 支持部
G 断層画像
g1 角膜
g10 有効領域
g2、g2’ 虹彩
g3 水晶体
g30 水晶体嚢
g301 前嚢
g302 後嚢
g4 瞳孔
g6 網膜
O 眼軸
C1、C2 外挿円
Q 交点
R 赤道径
D 赤道面深さ
P 知覚可能光
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図10】
6
【図3】
7
【図6】
8
【図9】
9