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明細書 :光ファイバ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-020946 (P2017-020946A)
公開日 平成29年1月26日(2017.1.26)
発明の名称または考案の名称 光ファイバ装置
国際特許分類 G01N  21/41        (2006.01)
G01N  21/552       (2014.01)
FI G01N 21/41
G01N 21/552
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-139875 (P2015-139875)
出願日 平成27年7月13日(2015.7.13)
発明者または考案者 【氏名】深野 秀樹
【氏名】田上 周路
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108578、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 詔男
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
Fターム 2G059AA01
2G059BB01
2G059CC02
2G059CC09
2G059CC12
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059GG01
2G059HH01
2G059JJ01
2G059JJ17
要約 【課題】被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能な、光ファイバ装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ装置は、導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部12と、前記センサ部の一端および他端と光学的に各々接続され、該センサ部の一端側および他端側に配された、コアとクラッドから構成される光ファイバA11および光ファイバB13と、を含む。前記センサ部を構成する導波体が、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBのコアと同材質からなり、前記センサ部の径方向の寸法が、前記光ファイバAのコアの寸法および前記光ファイバBのコアの寸法よりも大きく、前記センサ部は、少なくとも外側面が、その全域に亘って吸着材14により被覆されている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部と、前記センサ部の一端および他端と光学的に各々接続され、該センサ部の一端側および他端側に配された、コアとクラッドから構成される光ファイバAおよび光ファイバBと、を含む光ファイバ装置であって、
前記センサ部を構成する導波体が、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBのコアと同材質からなり、
前記センサ部の径方向の寸法が、前記光ファイバAのコアの寸法および前記光ファイバBのコアの寸法よりも大きく、
前記センサ部は、少なくとも外側面が、その全域に亘って吸着材により被覆されている、ことを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項2】
前記吸着材が、毛細管凝縮を促す多孔質体であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ装置。
【請求項3】
前記吸着材が、シリカゲルから形成された被膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ装置。
【請求項4】
前記吸着材が、特定の波長の光に対して、光吸収作用を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光ファイバ装置。
【請求項5】
前記吸着材が、前記センサ部とともに、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBの外側面も被覆していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光ファイバ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光ファイバ装置であって、
前記センサ部の一端に向けてレーザ光を導入するために前記光ファイバAにレーザ光を入射させる発光手段と、
前記センサ部の他端から前記光ファイバBを通して導出されたレーザ光を検知する受光手段と、
前記受光手段から出力された信号を解析する評価手段と、
を更に備えたことを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光ファイバ装置であって、
前記評価手段が、前記センサ部の周囲が外部物質に曝された場合、前記受光手段から出力された信号である透過スペクトルの特定波長において、長波長側へのスペクトルシフト現象を瞬間的に観測するとともに、前記センサ部の周囲から外部物質が減少するにつれて、スペクトルの回復現象を観測することにより、外部物質の検知を行うことを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ファイバ装置であって、
前記センサ部が、前記光ファイバA側から前記光ファイバB側に向けて、径方向の寸法を漸次拡大または漸次縮小させたテーパ状をなすように構成されていることを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ファイバ装置であって、
前記センサ部が、前記光ファイバA側の端部の外周形状を前記光ファイバAの端部の外周形状と一致させるとともに、前記光ファイバB側の端部の外周形状を前記光ファイバBの端部の外周形状と一致させるように構成されていることを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ファイバ装置であって、
前記センサ部が、前記光ファイバA側の端部における径方向の寸法を、前記光ファイバAの径寸法よりも大きくまたは小さく構成されていることを特徴とする光ファイバ装置。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ファイバ装置であって、
前記センサ部が、前記光ファイバB側の端部における径方向の寸法を、前記光ファイバBの径寸法よりも大きくまたは小さく構成されていることを特徴とする光ファイバ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能な光ファイバ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバをガスセンサとして利用した各種の光ファイバ装置が提案されている。以下では、提案されている2つの事例について説明する。
特許文献1の光ファイバガスセンサは、光ファイバのクラッドを除去してコアを露出させて形成したセンサ部を、発泡体で被覆した構造を有しており、この構造により機械的な強度を向上させている。
このような構造の光ファイバガスセンサで被測定対象物(ガス)を検知する際には、ガスは発泡体の連続気泡を通じてコアの周囲まで浸透してエバネッセント波部分の全反射条件を変化させ、光ファイバの導波光路を伝搬する光の一部は外部に漏れて光の強度が減衰するため光ファイバの透過率が変化し、この光ファイバの透過率の変化を計測してガスの検知が行われる。
しかしながら、センサ部を作製するためには、クラッドを除去してコアを露出させる加工が必須であり、発泡体で被覆する前に、コアの露出部は容易に破損する虞があった。ゆえに、特許文献1の光ファイバガスセンサを安定して作製することは困難であった。
【0003】
特許文献2の光ファイバガスセンサは、ファイバコア並びにファイバコアの回りに配置された相異なる振幅変調プロファイルを有する第1及び第2の屈折率周期変調格子構造を含んでおり、第1及び第2の屈折率周期変調格子構造の回りにはファイバクラッディングが配置されている。さらに、ファイバクラッディングの回りにはPd基合金からなる感知材料を含む感知層が設けられている。
このような構造により、特許文献2の光ファイバガスセンサは、感知材料中の水素化物がα相からβ相又はこれらの混合中間相への強い構造相転移を生じることにより、被覆感知材料の屈折率が変化し、基本モードとクラッディングモードとの間の光結合が変化する現象を利用することにより、被測定対象物(ガス)のセンシングを可能としている。
【0004】
つまり、特許文献2の光ファイバガスセンサは、感知材料中の水素化によって構造層転移が起こり、そのことによる屈折率変化が最終的には,透過光または反射光量の変化に反映されることを動作原理としているため、被測定対象物は、水素を含有するようなものに限定され、感知材自体の構造相転移が必須である。また、特許文献2の光ファイバガスセンサは、極めて複雑な層構成(感知材自体の構造相転移が必須)を備えて、初めて被測定対象物のセンシングを可能とすることから、製造コストが嵩み、低コスト化という面においても課題を抱えていた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平4-258744号公報
【特許文献2】特開2009-244262号公報
【0006】

【非特許文献1】Hideki Fukano et al, "Sensitivity improvement of optical-fiber temperature sensor with solid cladding material based on multimode interference", JJAP 54, 032502 (2015).
【非特許文献2】Hideki Fukano et al, "High-sensitivity fiber-optic refractive index sensor based on multimode interference using small-core single-mode fiber for biosensing", JJAP 53, 04EL08 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能な光ファイバ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の光ファイバ装置は、導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部と、前記センサ部の一端および他端と光学的に各々接続され、該センサ部の一端側および他端側に配された、コアとクラッドから構成される光ファイバAおよび光ファイバBと、を含む光ファイバ装置であって、前記センサ部を構成する導波体が、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBのコアと同材質からなり、前記センサ部の径方向の寸法が、前記光ファイバAのコアの寸法および前記光ファイバBのコアの寸法よりも大きく、前記センサ部は、少なくとも外側面が、その全域に亘って吸着材により被覆されている、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載の光ファイバ装置は、請求項1において、前記吸着材が、毛細管凝縮を促す多孔質体であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光ファイバ装置は、請求項1又は2において、前記吸着材が、シリカゲルから形成された被膜であることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記吸着材が、特定の波長の光に対して、光吸収作用を有することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至4のいずれか一項において、前記吸着材が、前記センサ部とともに、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBの外側面も被覆していることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至5のいずれか一項において、前記センサ部の一端に向けてレーザ光を導入するために前記光ファイバAにレーザ光を入射させる発光手段と、前記センサ部の他端から前記光ファイバBを通して導出されたレーザ光を検知する受光手段と、前記受光手段から出力された信号を解析する評価手段と、を更に備えたことを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の光ファイバ装置は、請求項6において、前記評価手段が、前記センサ部の周囲が外部物質に曝された場合、前記受光手段から出力された信号である透過スペクトルの特定波長において、長波長側へのスペクトルシフト現象を瞬間的に観測するとともに、前記センサ部の周囲から外部物質が減少するにつれて、スペクトルの回復現象を観測することにより、外部物質の検知を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項8に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至7のいずれか一項において、前記センサ部が、前記光ファイバA側から前記光ファイバB側に向けて、径方向の寸法を漸次拡大または漸次縮小させたテーパ状をなすように構成されていることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至7のいずれか一項において、前記センサ部が、前記光ファイバA側の端部の外周形状を前記光ファイバAの端部の外周形状と一致させるとともに、前記光ファイバB側の端部の外周形状を前記光ファイバBの端部の外周形状と一致させるように構成されていることを特徴とする。
本発明の請求項10に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至7のいずれか一項において、前記センサ部が、前記光ファイバA側の端部における径方向の寸法を、前記光ファイバAの径寸法よりも大きくまたは小さく構成されていることを特徴とする。
本発明の請求項11に記載の光ファイバ装置は、請求項1乃至7のいずれか一項において、前記センサ部が、前記光ファイバB側の端部における径方向の寸法を、前記光ファイバBの径寸法よりも大きくまたは小さく構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバ装置では、導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部が、その一端および他端において、コアとクラッドから構成される光ファイバAおよび光ファイバBと光学的に各々接続されており、前記センサ部を構成する導波体が、前記光ファイバAおよび前記光ファイバBのコアと同材質からなる。ゆえに、導波体とその両端に接続された各光ファイバのコアとの間で、屈折率差がないため、すべての光は、2つの界面(光ファイバAのコアとセンサ部との界面、センサ部と光ファイバBのコアとの界面)においてリークすることなく、コア内に閉じ込められる(第一の作用)。
【0013】
これに加えて、前記センサ部の径方向の寸法が前記光ファイバAのコアの寸法よりも大きくなるように構成されているので、光ファイバAからセンサ部に入射した光は強い回折が生じる。また、前記センサ部の径方向の寸法が前記光ファイバBのコアの寸法よりも大きくなるように構成されているので、センサ部に生じた回折光が、出射側の光ファイバBのコア領域で干渉により集光され、センサ部から光ファイバBへ高効率で光伝搬される(第二の作用)。
【0014】
さらに、本発明の光ファイバ装置では、前記センサ部は、少なくとも外側面が、その全域に亘って吸着材により被覆されている。これにより、吸着材は外部物質を吸着し、吸着材からなる部位の屈折率が変化する構成となっている。
上述した回折光は、いくつかのモードで伝搬する。ただし、全反射時に、グースヘンシェンシフトと呼ばれる光の位相の変化が起こる。センサ部をなす導波体の中央部を進む光は、全反射の影響を受けないが、回折による回り込みの大きなモードの光(外部物質を吸着した吸着材の影響を受けた光)は、全反射を繰り返し,中央部を進む光に対し,全反射を繰り返した分だけ,位相が変化して,出力側ファイバ部に到達する。出力側ファイバのコア位置で、各モードの光の位相が丁度揃う波長の光を入射側ファイバAより入射すれば、ほぼ損失なく、光が出力側ファイバBより取り出される。このとき、外部物質を吸着した吸着材の屈折率変化によって、このシフト量が変化する(第三の作用)。
【0015】
このような3つの作用を備えることにより、本発明に係る光ファイバ装置は、位相が丁度揃う光の波長が異なってくるため、この波長の違いを検出することにより、外部物質の量を高感度に測定できるという効果を奏する。
したがって、本発明は、被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能な光ファイバ装置の提供に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光ファイバ装置の一構成例を示す模式図。
【図2】光ファイバ装置への入射光波長に対する透過光量の関係を示すグラフ。
【図3】水蒸気によるスペクトルの波長変化と時間の関係を示すグラフ。
【図4】ガソリン蒸気によるスペクトルの波長変化と時間の関係を示すグラフ。
【図5】本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図。
【図6】本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図。
【図7】本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図。
【図8】本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図。
【図9】本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明に係る光ファイバ装置の一実施形態について図面に基づいて説明する。

【0018】
図1は、本発明に係る光ファイバ装置の一構成例を示す模式図である。
図1(a)に示すように、光ファイバ装置10は、光ファイバA11と、導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部12と、光ファイバB13とを含み、コア11aとクラッド11bから構成される光ファイバA11は、前記センサ部12の一端(第一端部)と光学的に接続されており、コア13aとクラッド13bから構成される光ファイバB13は、前記センサ部12の他端(第二端部)と光学的に接続されている。ここで、「光学的に接続」とは、光ファイバA11のコア11a、センサ部12、及び、光ファイバB13のコア13aにおける中心軸が、1本の光軸をなすように配置されることを意味する。「光学的に接続」は、具体的には、光ファイバ融着接続機を用いて、融着する(熱処理などを行い接続する)ことにより実現される。

【0019】
上記構成の光ファイバ装置10においては、センサ部12を構成する導波体が、光ファイバA11および光ファイバB13のコアと同材質からなる。これにより、導波体からなるセンサ部12と、その両端(第一端部、第二端部)に接続された各光ファイバ(光ファイバA、B)のコアとの間で、屈折率差が無くなる。ゆえに、すべての光は、2つの界面[光ファイバA11のコア11aとセンサ部12との界面(位置α2)、センサ部12と光ファイバB13のコア13aとの界面(位置β1)]においてリークすることなく、センサ部12を構成する導波体内に閉じ込められる。図1(a)において、符号α1は、光ファイバA11へ光が入射される端部の位置を、符号β2は、光ファイバB13から光が出射される端部の位置を、それぞれ表わしている。

【0020】
図1(a)に示すように、センサ部12の径方向の寸法が、光ファイバA11のコア11aの寸法および光ファイバB13のコア13aの寸法よりも大きく構成されている。この構成により、センサ部12に生じた回折光Lが、出射側の光ファイバB13のコア13aの領域で干渉により集光され、センサ部12から光ファイバB13へ高効率で光伝搬される。

【0021】
本発明の光ファイバ装置10においては、センサ部12は、少なくとも外側面12sが、その全域MLに亘って、厚さDの吸着材14により被覆されている。その際、吸着材14の両端は一部、センサ部12の外側面12から光ファイバA11のクラッド11bや光ファイバB13のクラッド13bの外側面に、はみ出した部分を有してもよい。このはみ出した部分も含めた領域が、符号FL1である。これにより、吸着材14は外部物質(不図示)を吸着し、吸着材14からなる部位の屈折率が変化する構成となっている。吸着材14を設ける領域は、センサ部12の外側面12sを覆う全域MLに限定されるものではなく、光ファイバA11のクラッド11bや光ファイバB13のクラッド13bの外側面まで覆う構成(符号FL2にて示す領域まで覆う構成)としてもよい。これにより、光ファイバA11とセンサ部12と光ファイバB13の外側面が、吸着材14により一体として保護された構造が得られ、長期安定性の面から、より好ましい。

【0022】
上述したセンサ部12に生じた回折光Lは、いくつかのモードで伝搬する。ただし、全反射時に、グースヘンシェンシフトと呼ばれる光の位相の変化が起こる。
図1(b)は、図1(a)において、符号Eで示す領域(二点鎖線で囲む領域)の拡大模式図である。
グースヘンシェンシフトとは、図1(b)に示すように、屈折率n1の物質A中の光Lが、屈折率n1の物質Aと屈折率n2の物質Bとの境界面P1(12sに相当)で全反射する場合に位相遅れが生じて、境界面よりも屈折率n2の物質B側の仮想反射面P2で反射しているかのように、少し遅れてから反射する状態となることである(非特許文献1参照)。ここで、屈折率n2の物質B側に染み出しているのは、光Lの伝搬にともなう電磁界であって、この電磁界によってエバネッセント波が生じている。図1(b)における物質Bは、上述した吸着材14に相当する。図1(b)において、符号Dは吸着材14の厚さであり、符号dは境界面P1と仮想反射面P2の差分を表わしている。

【0023】
図1(a)に戻り、回折光Lについて説明する。回折光Lのうち、センサ部12をなす導波体の中央部を進む光(細い実線)は、全反射の影響を受けない。一方、回折による回り込みの大きなモードの光(太い実線or点線:外部物質を吸着した吸着材の影響を受けた光)は、全反射を繰り返す。そのため、回折による回り込みの大きなモードの光は、中央部を進む光に対して、全反射を繰り返した分だけ、位相が変化して、出力側の光ファイバB13に到達する。出力側の光ファイバB13のコア13aの位置で、各モードの光の位相が丁度揃う波長の光を入射側のファイバA11より入射すれば、ほぼ損失なく、光が出力側の光ファイバB13より取り出される。このとき、外部物質を吸着した吸着材14の屈折率変化によって、このシフト量が変化する現象を、本発明の光ファイバ装置10は利用する。

【0024】
ゆえに、外部物質の屈折率によって、位相が丁度揃う波長が異なってくるため、この波長の違いを検出することにより、光ファイバ装置10は外部物質の量を高感度に測定できる。よって、本発明に係る光ファイバ装置は、被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能となる。

【0025】
本発明の光ファイバ装置10は、外部物質を吸着した吸着材14の屈折率変化が大きいほど、感度が向上する。このためには、吸着材14は、毛細管凝縮を可能とするような被膜によって構成することが好ましい。毛細管凝縮では、極めて狭い領域に外部物質が閉じ込められ、密度の凝縮が生じるために、本発明の光ファイバ装置10においても、密度に比例する屈折率の変化が大きくなる。

【0026】
また、本発明の光ファイバ装置10では、外部物質の検出を繰り返し行うことを可能とするために、吸着材14自体が、特定の波長の光に光吸収作用を有する部材からなる構成が好ましい。この特定の波長を含む光を入射光として用いることにより、光吸収により発熱を誘導し、外部物質を脱離させることができる。このような特定の波長の光に対して、吸着材に光吸収作用を持たせるためには、吸着材自体の分子構造を特定の波長で吸収作用を有するものとする手法や、特定の波長に吸収を作り出す不純物などを吸着材に含有させる手法が好適に用いられる。

【0027】
図2は、本発明に係る光ファイバ装置への入射光波長に対する透過光量の関係を示すグラフである。吸着材14として、シリカゲル薄膜を用い、光ファイバ装置10を空気中に置いて、入射光波長に対する透過光量を測定した結果である(図2の実線)。その際、入出力部分の光ファイバA11と光ファイバB13は、共通のサイズ(コア径:8.2μm、クラッド径:125μ)であり、センサ部12をなす導波体のサイズは、外径125μm、長さ:57.7mmとした。ゆえに、センサ部12をなす導波体の外側面に配置される、吸着材14が均一に覆う長さMLは、57.7mm以上とした。

【0028】
図2(a)のグラフから、ある特定の波長(λ1、λ2)において、上述した位相条件が満足され、透過スペクトルに、透過光量が大きな状態(凸部:λ1)や、逆位相において透過光量が減少している状態(凹部:λ2)が観測された。
これに対して、この光ファイバ装置をガラス管内に配置し、その中に約5秒間、水蒸気を投入すると、全反射光の位相状態が変化し、透過スペクトルがシフトすることが分かった。図2(b)は、図2(a)におけるλ2付近の透過スペクトルを拡大して示すグラフである。図2(b)において、実線が水蒸気を投入する前、点線が水蒸気を投入した後、を各々表わしている。図2(b)から、水蒸気を投入することにより、特定の凹部を示す波長λ2が、λ21(1523.8nm付近)からλ22(1524.1nm付近)に、シフトすることが分かる。

【0029】
<実験例1>
図3は、水蒸気によるスペクトルの波長変化と時間の関係を示すグラフである。図3において、縦軸は上記透過スペクトルがシフトした際の凹部を示した波長λ2であり、横軸は時間である。水蒸気の投入(太い矢印が投入時を表す)により、シリカゲルが水蒸気を吸着し、毛細管凝縮を起こし、吸着材の屈折率が大きくなり、波長λ2が瞬時に長波長側へのスペクトルシフト(波長[nm]が「1523.7付近→1524.05~1524.10付近」に変化する現象)することが、図3から分かった。約5秒間の水蒸気投入が終了すると、波長λ2は直ちに逆方向へスペクトルシフトを開始し、最終的には元のベースラインである、波長[nm]1523.7付近に戻ることも分かった。さらに、水蒸気の投入を繰り返した場合、上述したスペクトルシフトの可逆が再現されることも判明した。

【0030】
以上の実験結果より、本発明に係る光ファイバ装置10は、高感度なセンサとして有効であることが確認された。なお、図3の測定において、光ファイバA11へ入射させる光の発光手段(投光器)Xとしては、波長1520nm~1620nmの範囲で強い光強度を有するASE光源を用いた。また、光ファイバB13から出射された光の受光手段(受光器)Yと、受光手段Yから出力された信号を解析する評価手段(解析器)Zとの機能を兼ね備えた、光スペクトルアナライザを用い、波長分解して、各波長における強度変化を解析した。

【0031】
本実施形態において、吸着材14として機能するシリカゲルからなる被膜は、ゾルゲル法を用いて、約1μmの厚さとなるように、センサ部12を構成する導波体の外側面上に形成された。シリカゲルは、OH基に起因する光吸収機能を備えている。このOH基に起因する光吸収は、1500nm付近前後において広い範囲で吸収があるため、ASE光源の一部を光吸収することにより、熱が発生し、この熱成分によって、毛細管凝縮から逆過程が生じて、水蒸気の離脱が起きたと、発明者らは考えている。その結果、図3にて確認されるように、水分のない状態までスペクトルの回復が起き、凹部の波長λ2が、元の位置に戻っている。

【0032】
通常、シリカゲルは水蒸気を吸着するが、吸着した水分は容易に離脱しない性質があるため、乾燥剤として利用されている。これに対して、本発明の光ファイバ装置10において、シリカゲルからなる被膜(吸着材14)に吸着された水分は、光による局所的、選択的な離脱が可能となっている。これにより、本発明の構造を備えた光ファイバ装置10は、繰り返しの水蒸気測定が可能である。

【0033】
本実施形態では、発光手段(投光器)Xとして、波長1520nm~1620nmの範囲で強い光強度を有するASE光源のみを用いているが、計測に用いる光源とは別に、吸着材が備える光吸収特性において強い吸収を示す波長の光をさらに入射して、脱離を促進したり、時間的な制御を行ってもよい。
なお、図3はλ2の波長変化を示した図であるが、特定の波長、たとえば1522nmのレーザ光を入射し、その強度変化を測定すれば、吸着から脱離に伴い、図3と同様に光強度が一旦増加し、また元に戻る特性が得られる。たとえば、1526nmのレーザ光を入射すれば、吸着から離脱に伴い逆に光強度は一旦減少し、また元に戻る特性が得られる。これらは、繰り返し特性として、同様に利用できる。

【0034】
本実施形態では、吸着材14としてシリカゲルを用いた構成について説明したが、吸着材14は、微細な孔を有する多孔質物質であれば良く、シリカゲルに限定されるものではない。吸着材14としては、シリカゲルの他に、たとえば、活性炭、活性化アルミナ、モレキュラーシーブ炭素、モレキュラーシーブゼオライト、シリカライト、多孔性ポリマー、アルミナおよびそれらの混合物、等が挙げられる。このような吸着材を用いる場合は、各材料に応じて適宜、光による局所的、選択的脱離を可能とする分子構造や不純物、あるいは、最適な光波長を設計して用いることにより、同様に利用できる。

【0035】
なお、センサ部12の長さを変えることにより出力側ファイバのコア位置での光の位相が変化するので、各モードの光の位相が丁度揃う波長も合わせて変化する(非特許文献2参照)。このため、センサ部の長さを変えることにより、センシング波長として任意の波長の光を設定することが可能である。その際、入射側の光ファイバA11のコア径と出射側の光ファイバB13のコア径も、センサ部12をなす導波体のサイズ(外径)より、十分小さいことが干渉の幅を狭めるために重要である。

【0036】
本実施形態では、入射側の光ファイバA11と出射側の光ファイバB13が、同じサイズのクラッドを有する構成例にて説明したが、クラッドサイズが同じではなく、異なるサイズのものであっても、同様の特性が得られる。
図5~図9は、本発明に係る光ファイバ装置の他の構成例を示す模式図であり、何れの構成例も、クラッドサイズが異なる場合を示している。

【0037】
図5と図6は、センサ部を構成する導波体の外周形状が、入射側の光ファイバAの外周形状および出射側の光ファイバBの外周形状と一致する構成例である。図5は、導波体の外周形状が入射側から出射側に向けて次第に太くなる場合であり、図6は逆に、導波体の外周形状が入射側から出射側に向けて次第に細くなる場合である。
図5と図6において、50、60は光ファイバ装置、51、61は入射側の光ファイバ、52、62はセンサ部、53、63は出射側の光ファイバB、を表わしている。51a、61aはコアを、51b、61bはクラッドである。
このように、導波体の外周形状を、前後に配置される2つの光ファイバの外周形状と一致させて連続的にすることにより、融着接続機による接続作業を確実に行うことができる。また、この連続的な接続は、センサ部12を構成する導波体の外側面に、吸着材14の被膜を形成する際に、被膜の均一な厚さを実現することにも効果がある。

【0038】
図7と図8は、センサ部を構成する導波体の外周形状が、入射側の光ファイバAの外周形状および出射側の光ファイバBの外周形状と異なる構成例である。図7は、導波体の外周形状が入射側および出射側の各光ファイバより太く場合であり、図8は逆に、導波体の外周形状が入射側および出射側の各光ファイバより細い場合である。
図9は、センサ部を構成する導波体の外周形状が、入射側の光ファイバAの外周形状および出射側の光ファイバBの外周形状と異なる構成例の変形体であり、導波体の外周形状が入射側から出射側に向けて次第に細くなる場合である。
図7、図8、図9において、70、80、90は光ファイバ装置、71、81、91は入射側の光ファイバ、72、82、92はセンサ部、73、83、93は出射側の光ファイバB、を表わしている。71a、81a、91aはコアであり、71b、81b、91bはクラッドである。
このように、導波体の外周形状を、前後に配置される2つの光ファイバの外周形状より太くしても、また逆に細くしても、上述した本発明の作用・効果は得られる。

【0039】
本実施形態では、センサ部を構成する導波体の断面形状が、円形を相当して説明したが、センサ部の断面形状は、円形に限定するものでない。たとえば、センサ部の断面形状を楕円形状とした場合には、出力側の光ファイバBのコア位置で、各モードの光の位相が丁度揃う光の条件が、楕円の長軸方向と短軸方向で、異なってくる。そのため、干渉幅が狭まることになり、波長のピーク検出が容易になる特徴を備えることができる。同様に,センサ部の断面が、四角形や六角形など、円形以外の対称性の良い形状であれば、上述した楕円形状と同様の効果が得られる。

【0040】
<実験例2>
図4は、ガソリン蒸気によるスペクトルの波長変化と時間の関係を示すグラフである。図4において、縦軸は上記透過スペクトルがシフトした際の凹部を示した波長λ2であり、横軸は時間である。ガソリン蒸気の投入(太い矢印が投入時を表す)により、シリカゲルがガソリン蒸気を吸着し、毛細管凝縮を起こし、吸着材の屈折率が大きくなり、波長λ2が瞬時に長波長側へのスペクトルシフト(波長[nm]が「1523.9付近→1524.25付近」に変化する現象)することが、図4から分かった。約5秒間のガソリン蒸気投入が終了すると、波長λ2は直ちに逆方向へスペクトルシフトを開始し、最終的には元のベースラインである、波長[nm]1523.9付近に戻ることも分かった。さらに、ガソリン蒸気の投入を繰り返した場合、上述したスペクトルシフトの可逆が再現されることも判明した。

【0041】
図4の結果から、ガソリン蒸気の場合も、図3に示した水蒸気と同様に、ガソリン蒸気のない状態(ベース状態)まで、スペクトルの回復が起きている。ゆえに、シリカゲルはガソリン蒸気を吸着しているが、本発明の構成では,光による局所的,選択的脱離が可能となっている。ただし、ガソリン蒸気の場合(図4)は,水蒸気の場合(図3)に比べて、初期状態(ベース状態)まで回復するのに、より多くの時間を必要としている。図4の回復状況から、ガソリン蒸気は、水蒸気に比べて、脱離に時間を要する被測定対象物であることが確認された。

【0042】
ガソリン自体の光吸光特性が不明なため、ガソリン自体の吸光による温度上昇の有無は不明である。しかしながら、本発明によれば、ガソリン蒸気の場合でも、光による局所的,選択的脱離が可能である。この結果より,本発明の光ファイバ装置では、繰り返しのガソリン蒸気についても、測定が可能であることが明らかとなった。

【0043】
本実験例では、被測定対象物としてガソリン蒸気を用いた場合について説明したが、ガソリン以外の軽油や、エタノールなどの各種アルコール類など、揮発性のあるガスにおいても、本発明の光ファイバ装置は同様にセンシングが可能である。ゆえに、本発明の光ファイバ装置は、内燃機関の排ガスなどの検出にも応用することができる。

【0044】
以上、本発明の光ファイバ装置について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、被測定対象物が、水素を含有する気体に限定されず、多用な気体をセンシングすることが可能な光ファイバ装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
X 発光手段(投光器)、Y 受光手段(受光器)、Z 評価手段(解析器)、10 光ファイバ装置、11 入射側の光ファイバA、12 センサ部、13 出射側の光ファイバB、14 吸着材。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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