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明細書 :燃料電池のためのセパレータ,セル構造体およびセル・スタック

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-016942 (P2017-016942A)
公開日 平成29年1月19日(2017.1.19)
発明の名称または考案の名称 燃料電池のためのセパレータ,セル構造体およびセル・スタック
国際特許分類 H01M   8/02        (2016.01)
H01M   8/0202      (2016.01)
H01M   8/10        (2016.01)
FI H01M 8/02 R
H01M 8/02 B
H01M 8/02 C
H01M 8/02 E
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 20
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2015-134290 (P2015-134290)
出願日 平成27年7月3日(2015.7.3)
発明者または考案者 【氏名】渡辺 政廣
【氏名】内田 誠
【氏名】飯山 明裕
出願人 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001830、【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 5H026
Fターム 5H026AA06
5H026CC10
5H026CX01
5H026EE02
5H026HH04
要約 【課題】アノード・ガス,カソード・ガス,冷却水等の流体を均一に供給,拡散させることができる多種類のセパレータを組合せて燃料電池セル・スタックを構成する。
【解決手段】燃料電池のためのセル・スタックは,カソード・ガスおよびアノード・ガス用の少なくとも2種類のセパレータ(タイプCA,C,A,CW,AW等)を含む。各セパレータは,金属板(30)の少なくとも一面に耐食層(31)が形成され,前記耐食層上に,対応するガスのための複数の流体供給拡散層ブロック(41A,41B,41C,41D,41E,42A)が導電性多孔質層により形成されているものである。各セパレータ上の複数の流体供給拡散層ブロックは,各セパレータの流体供給口(61I,62I)と流体排出口(61O,62O)との間に,それぞれ供給通路(51),排出通路(52)により並列に接続されている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
金属板の少なくとも一面に,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロックが設けられ,
各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,
各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によってそれぞれ流体供給口に連通し,
各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によってそれぞれ流体排出口に連通している,
燃料電池のためのセパレータ。
【請求項2】
前記供給通路および排出通路の一方を他方から遮断する,または前記ブロックの流入部分および流出部分以外の部分を塞ぐ仕切壁が前記金属板上に設けられている,請求項1に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項3】
前記供給通路から前記流体供給拡散層ブロックの内部に延びる供給溝と,前記流体供給拡散層ブロックの内部から前記排出通路につながる排出溝とが,前記流体供給拡散層ブロックに形成されている,請求項1または2に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項4】
前記金属板の少なくとも一面の周囲が緻密枠で囲まれ,前記緻密枠の内部に前記流体供給拡散層ブロック,前記供給通路および前記排出通路が形成されている,請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項5】
反応流体のための複数の流体供給拡散層ブロックが多孔質層により形成され,その表面に,前記流体供給拡散層ブロックの多孔質層の気孔より径の小さな気孔を有する他の多孔質層が形成されている,請求項1から4のいずれか一項に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記金属板の少なくとも一面に耐食層が形成され,前記耐食層の上に前記流体供給拡散層ブロック,前記供給通路および前記排出通路が形成されている,請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項7】
前記金属板の両面に耐食層が形成されている,請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項8】
前記流体供給拡散層ブロックが導電性多孔質層により形成されている,請求項1から7のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項9】
2種類の反応流体の一方のための前記流体供給拡散層ブロックが前記金属板の一方の面に,前記反応流体の他方のための前記流体供給拡散層ブロックが前記金属板の他方の面に,それぞれ形成されている,請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項10】
前記金属板の一面にのみ,反応流体のための前記流体供給拡散層ブロックが形成されている,請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項11】
前記金属板の一面に反応流体のための前記流体供給拡散層ブロックが,他面に冷却水のための流体供給拡散層がそれぞれ形成されている,請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項12】
前記金属板の少なくとも一面に冷却水のための流体供給拡散層が形成されている,請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項13】
前記金属板の一面に反応流体のための前記流体供給拡散層ブロックが,他面に冷却水の流路を規定するリブ構造体が形成されている,請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池のためのセパレータ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のセパレータを含む燃料電池のためのセル・スタック。
【請求項15】
カソード流体およびアノード流体用の少なくとも2種類のセパレータを含み,
各セパレータは,
金属板の少なくとも一面に,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロックが設けられ,各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によってそれぞれ流体供給口に連通し,各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によってそれぞれ流体排出口に連通しているものであり,
前記少なくとも2種類のセパレータはそれらの前記流体供給拡散層ブロックの間に,膜触媒層接合体を挟んで対向するように積層されている,
燃料電池のためのセル・スタック。
【請求項16】
金属板の少なくとも一面に耐食層が形成され,この耐食層上に多孔質材により冷却水の流路が形成されている冷却水用セパレータがさらに積層されている,請求項14または15に記載の燃料電池のためのセル・スタック。
【請求項17】
膜触媒層接合体と,その両面に一体的に設けられたカソード流体およびアノード流体用の流体供給拡散層とを含み,
各流体供給拡散層は,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロックを備え,各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によって互いに連通し,各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によって互いに連通している,
燃料電池のためのセル構造体。
【請求項18】
請求項17に記載のセル構造体が金属板により挟まれてスタックされている,燃料電池のためのセル・スタック。
【請求項19】
前記膜触媒層接合体が,電解質膜およびその両面の触媒層を含む,請求項17に記載のセル構造体。
【請求項20】
前記膜触媒層接合体が,電解質膜,その両面に設けられる触媒層,およびさらに前記触媒層の外側に設けられる多孔質層を含む,請求項17に記載のセル構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池の構成部材としてのセパレータ,セル構造体および該セパレータまたは該セル構造体を含む構成部材を組合せたセル・スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
流体供給拡散層と一体型の新しいタイプの燃料電池用セパレータおよびこのタイプのセパレータを組合せて構成される新しいタイプのセル・スタックについて,出願人は,先に提案した。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】WO2015/072584A1
【0004】
この特許文献1に開示された燃料電池セル・スタックは,アノード・ガス,カソード・ガス,冷却水等の流体を,それぞれ均一に供給,拡散させることのできる多種類の流体供給拡散層一体型セパレータを組合せかつ積層して構成されるものである。各セパレータは,金属板の少なくとも一面に耐食層が形成され,この耐食層上に,対応する流体のための流体供給拡散層が導電性多孔質層により形成されているものである。アノード・ガスおよびカソード・ガス用の2種類のセパレータは,それらの流体供給拡散層の間に,電解質膜およびその両面の触媒層を挟んで対向するように配置される。
【0005】
各セパレータにおいて,多孔質層よりなる流体供給拡散層に流体をできるだけ均一に供給,拡散させることができるように,流体供給拡散層の一部として,流体の供給側から排出側に向う方向に交叉する均等化層が,少なくとも流体の供給側に形成されている。
【発明の概要】
【0006】
この発明は,先に提案した流体供給拡散層一体型燃料電池用セパレータおよびこのタイプのセパレータを組合せて構成されるセル・スタックをさらに改良するものである。この発明はまた,新しい形態のセル構造体を提供するものである。
【0007】
すなわち,この発明はセパレータに供給される各種流体(カソード流体,アノード流体,冷却水等)を,さらに均一に供給,拡散させることができる構造を提供するものである。カソードおよび/またはアノードに供給される流体はガスまたは液体のいずれであってもよいが,以下,それぞれガスとして例示する。
【0008】
この発明はまた,セパレータの流体供給口,排出口間の圧力損失を大幅に低減できる構造を提供するものである。
【0009】
この発明はさらに,各種流体用の上記セパレータまたはセル構造体および他の構成要素を積層して形成される燃料電池セル・スタックを提供するものである。
【0010】
この発明による燃料電池のためのセパレータは,金属板の少なくとも一面に,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロック(区画)が設けられ,各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によってそれぞれ流体供給口に連通し,各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によってそれぞれ流体排出口に連通しているものである。
【0011】
要するに,セパレータを構成する一枚の金属板上の流体供給拡散層が複数のブロックに分割(区画化)され,これらの複数のブロックがセパレータの流体供給口と流体排出口との間において,流体の流れに関して,並列に接続されている。複数のブロックの並列接続は,複数のブロックに共通の供給通路と共通の排出通路によって実現されている。供給通路,排出通路が流体圧を複数のブロック間に均等化する(均等圧化通路)。供給通路,排出通路は,流体の流通を妨げるものがない通路空間である。このセパレータは,燃料電池で用いられる各種流体(カソード・ガス,アノード・ガス,冷却水等)について適用できる(流体の種類に応じて多孔質層の気孔率(流体抵抗),厚さ,ブロックの数等の設計上のパラメータは変わる)。
【0012】
このようにして,複数の流体供給拡散層ブロックにおける流体供給側,排出側の圧力をそれぞれ均等化することができる。一つのセパレータにおける流体供給拡散層は複数のブロックに区画化され,これらのブロックが流体の流れに関して並列に接続されているから,流体供給側から排出側までの流体抵抗は,ブロック化されていない場合に比べて,ほぼブロックの数で除した値程度まで低下し,セパレータ内における流体損失が大幅に低減する。これにより流体供給動力の大幅な低減が可能となる。流体供給拡散層ブロックは多孔質層により形成されているから,流体は多孔質層の全面に拡散し,流体をほぼ均一に分布させることが可能である。ガスの場合にはカソード側,アノード側に効率的に供給できるし,冷却水の場合には両方向にほぼ均一に冷却できる。複数の流体供給拡散層ブロックは,流体供給口,供給通路,流体排出口,排出通路などの最小限必要な部分の面積を除いて,セパレータのほぼ全面に設けられることが好ましい。アノード・ガス,カソード・ガスを触媒層の全面にほぼくまなく,かつ均等に供給できるので,電池の高出力化とコンパクト化を達成できる。
【0013】
一つのセパレータに複数の流体供給口,流体排出口がある場合には,流体供給拡散層ブロックをこれらの供給口,排出口ごとにグループ化してもよいし,これらの供給口,排出口をそれぞれ供給通路,排出通路で連通させてもよい。
【0014】
複数の流体供給拡散層ブロック間は,供給通路,排出通路によって空間的に隔てることができる。必要であれば,供給通路および排出通路の一方を他方から遮断する,または前記ブロックの流入部分および流出部分以外の部分を塞ぐ仕切壁を前記金属板上に設けるとよい。他の実施態様では,前記供給通路から前記流体供給拡散層ブロックの内部に延びる供給溝と,前記流体供給拡散層ブロックの内部から前記排出通路につながる排出溝とが,前記流体供給拡散層ブロックに形成される。
【0015】
この発明の好ましい実施態様では,前記金属板の少なくとも一面の周囲が緻密枠,好ましくは電気導電性の緻密枠で囲まれ,前記緻密枠の内部の流体供給口(入口),排出口(出口)の部分を除くほぼ全面に前記流体供給拡散層ブロック,前記供給通路および前記排出通路が形成されているものである。
【0016】
流体供給拡散層ブロックの周囲が緻密枠で囲まれているから流体の漏洩を防止することができる。流体供給拡散層ブロックは緻密枠内のほぼ全面(流体供給口,排出口,供給通路,排出通路等を除く)に設けられているので,カソード,アノードの反応有効領域を全面的に利用でき,発電と集電に最大限に寄与するとともに,後述するようにセパレータや他の構成部材をスタックしたときに,溝などの空間がないので機械的強度を高く保つことができる。
【0017】
この発明のさらに好ましい実施態様では,前記金属板の少なくとも一面(両面の方が一層好ましい)に耐食層が形成され,前記耐食層の上に前記流体供給拡散層ブロック,前記供給通路および前記排出通路が形成されている。これにより,金属板の耐食性が高まる。金属板に形成される流体供給孔,排出孔の内周面にも耐食層を形成しておくとよい。
【0018】
この発明の実施態様では,前記流体供給拡散層ブロックは導電性多孔質層である。さらに,金属板上の耐食層も,好ましくは上記緻密枠および仕切壁も導電性を持つ。このようにしてセパレータはその全面において集電能力(機能)を持つ。
【0019】
流体供給拡散層ブロックは一実施態様では,導電材と高分子樹脂の混合物を含む構成である。流体の種類(反応ガスの種類,冷却水)に応じて流体抵抗(一例としては気孔率)が異なる。耐食層,ならびに好ましくは上記緻密枠および仕切壁も導電材と高分子樹脂の混合物を含む構成であるが,流体の通過または透過を遮断するものである。
【0020】
この発明によると,さまざまなタイプのセパレータを提供することができる。
【0021】
一のタイプのセパレータでは,2種類の反応ガスの一方のための流体供給拡散層ブロック等が前記金属板の一方の面に,前記反応ガスの他方のための流体供給拡散層ブロック等が前記金属板の他方の面に,それぞれ形成されている。
【0022】
他のタイプのセパレータでは,前記金属板の一面にのみ,反応ガスのための流体供給拡散層ブロック等が形成されている。さらに他のタイプのセパレータでは,前記金属板の一面または両面に冷却水のための流体供給拡散層ブロック等が形成されている。
【0023】
さらに他のタイプのセパレータでは,前記金属板の一面に反応ガスのための流体供給拡散層ブロック等が,他面に冷却水のための流体供給拡散層ブロック等がそれぞれ形成されている。冷却水のための液体供給拡散層は,十分な電気導電性を確保できる限り,必ずしも多孔質層で形成しなくてもよく,たとえばリブ構造体で形成することもできる。
【0024】
一実施態様では,上述したセパレータにおいて,セパレータの流体供給拡散層ブロック表面に,さらに他の多孔質膜(層)(好ましくは,マルチポーラスレイヤ:MPL)が接合される。この多孔質層は,好ましくは流体供給拡散層に比べより微細な気孔(細孔)を有し,その上面に配置される触媒層コート電解質膜(CCM)の触媒層に反応ガスを均一に供給し,また触媒層で生成する水蒸気または液水を均一かつ速やかにガス拡散供給側に除去する機能を有する。この多孔質膜(MPL)をCCMの表面に設ける場合には,流体供給拡散層ブロック表面に多孔質層を必ずしも設けなくてもよい。
【0025】
上述したすべての態様のセパレータは,次に述べるように,燃料電池のためのセル・スタックを構成するために用いることができる。
【0026】
この発明による燃料電池のためのセル・スタックは,カソード・ガスおよびアノード・ガス用の少なくとも2種類のセパレータを含み,各セパレータは,金属板の少なくとも一面に,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロックが設けられ,各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によってそれぞれ流体供給口に連通し,各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によってそれぞれ流体排出口に連通しているものであり,前記少なくとも2種類のセパレータはそれらの前記流体供給拡散層ブロックの間に,膜触媒層接合体(少なくとも電解質膜およびその両面の触媒層を含む)を挟んで対向するように積層されているものである。
【0027】
上記の2種類のセパレータによって挟まれる膜触媒層接合体は電解質膜およびその両面に触媒層を有するものでよく(セパレータに上述した多孔質膜(好ましくはMPL)が設けられている場合),または触媒層の外側に多孔質層(好ましくはMPL)を持つものでよい(膜電極接合体)。セパレータ自体が流体供給拡散層ブロックを有しているので,従来の高価なガス拡散層は必ずしも必要はない。これにより,より安価な燃料電池が提供できうるし,セル・スタック全体の厚さも薄くすることが可能となる。
【0028】
そして,各セパレータにおいて,複数の流体供給拡散層ブロックが,セパレータの流体供給口と流体排出口との間において,流体の流れに関して並列に接続されているので,複数の流体供給拡散層ブロックにおける流体供給側,排出側の圧力をそれぞれ均等化することができるとともに,流体供給側から排出側までの流体抵抗を大幅に低下させることができ,これによってセパレータ内における流体の供給不足,排出不足に基づく発電時の過電圧損失が大幅に低減する。流体供給動力の大幅な低減が可能となる。流体供給拡散層ブロックは多孔質層により形成されているから,流体は多孔質層の全面に拡散し,流体をほぼ均一に分布させることが可能である。ガスの場合にはカソード側,アノード側に効率的に供給できるし,冷却水の場合には両方向にほぼ均一に冷却できる。アノード・ガス,カソード・ガスを触媒層の全面にほぼくまなく,かつ均等に供給できるので,電池の高出力化を達成できる。流体供給拡散層表面により緻密な細孔を有する多孔質層(MPL)を付加することで,流体の均一分布性は更に改善される。他方,このMPL付加を行わず,同じ機能を有するMPLをCCM表面に直接塗布することで代えることもできる。
【0029】
さらに他の実施態様では,金属板の少なくとも一面に耐食層が形成され,この耐食層上に多孔質材により冷却水の流路が形成されている冷却水用セパレータがさらに積層される。
【0030】
この発明はさらに新しいセル構造体を提供している。このセル構造体は,膜触媒層接合体と,その両面に一体的に設けられたカソード流体およびアノード流体用の流体供給拡散層とを含む。各流体供給拡散層は,それぞれ多孔質層により形成された複数の流体供給拡散層ブロックを備え,各流体供給拡散層ブロックは,流体が該ブロックに入る流入部分と,流体が該ブロックから出る流出部分とを有し,各流体供給拡散層ブロックの流入部分は,供給通路によって互いに連通し,各流体供給拡散層ブロックの流出部分は,排出通路によって互いに連通しているものである。
【0031】
このようなセル構造体の両側を金属板(単なる金属平板でよい)(セパレータ)で挟んで積上げることにより,そして必要に応じて冷却水層(冷却水供給拡散用セパレータ)を挿入して,セル・スタックを構成することができる。
【0032】
前記膜触媒層接合体は,電解質膜およびその両面の触媒層を含むもの(触媒層コート電解質膜,CCL),またはさらに前記触媒層の外側に設けられた多孔質層(好ましくはMPL)を含むもの(膜電極接合体)であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施例によるタイプAのセパレータの平面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】図1のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】この発明の実施例による新しいタイプの膜電極接合体を示す断面図である。
【図5】この発明の実施例によるタイプCのセパレータの平面図である。
【図6】セパレータの変形例を示すもので,セパレータ内の流体供給拡散領域の平面図である。
【図7】セパレータの他の変形例を示すもので,セパレータ内の流体供給拡散領域の平面図である。
【図8】セパレータのさらに他の変形例を示すもので,セパレータ内の流体供給拡散領域の平面図である。
【図9】セパレータのさらに他の変形例を示すもので,セパレータ内の流体供給拡散領域の平面図である。
【図10】タイプWのセパレータの他の例を示す平面図である。
【図11】この発明の実施例による新しいタイプのセル構造体を示す断面図である。
【図12】この発明の一実施例の燃料電池セル・スタックを概念的に示すもので,側面からみた図である。

【実施例】
【0034】
以下,図面を参照してこの発明の実施例について詳細に説明する。燃料電池スタックを構成する各種セパレータや膜電極接合体(N-MEA),絶縁シート,集電板などはその厚さが百μm(または数百μm)オーダーから数mm(または十mm程度の)オーダーのものであり,これらの厚さを厳密に描くことは不可能であるので,各図において厚さをやや誇張して描いてある。また,金属平板(金属板)30に断面であることを示すハッチングを施す一方,流体供給拡散層ブロックなどについてはハッチングを省略したり,薄膜,シート等は単に太い実線で描いてあるなど,図が煩雑になるのを避け,見易さ,分り易さを優先して表現している箇所もあることを,了解されたい。さらに,図12においては,各種セパレータ21,22,23,24,膜電極接合体(N-MEA)81,集電板27A,27B,絶縁シート28A,28Bおよびエンド・プレート75,76が,分りやすくするために,離間して描かれているが,これらは,図示された配列の順に,相互に密に接合されているものである。この発明では,基本的に,各セパレータの流体供給拡散層は複数のブロックに分割されているが,各セパレータの流体供給拡散層ブロックをまとめて言うときには,ブロックの文字を省略し,単に流体供給拡散層ということがある。
【0035】
燃料電池スタック
図12はこの発明における実施例の燃料電池セル・スタックを概念的に示すものである。燃料電池の単セルは,概念的には,電解質膜(高分子膜)(触媒層を含めてもよい)とこれを挟むカソード側構成要素およびアノード側構成要素とから構成される。図12に示すセル・スタックでは,2つの単セル置きに冷却水の供給拡散層(Wで示す)が設けられている。
【0036】
燃料電池スタック20は,積層された各種タイプのセパレータ21,22,23または24,およびそれらのカソード・ガス(空気,酸素)供給拡散層(Cで示す)とアノード・ガス(燃料,水素)供給拡散層(Aで示す)との間に挟まれた膜電極接合体(N-MEA)81から構成されている。
【0037】
各種タイプのセパレータには次のものがある。
【0038】
金属平板30の一面にカソード・ガス供給拡散層Cが形成され,他の面にアノード・ガス供給拡散層Aが形成されたもの。以下,これをタイプCAのセパレータ21という。
【0039】
金属平板30の一面にのみアノード・ガス供給拡散層Aが形成されたもの。以下,これをタイプAのセパレータ22という。
【0040】
金属平板30の一面にのみカソード・ガス供給拡散層Cが形成されたもの。以下,これをタイプCのセパレータ23という。
【0041】
金属平板30の一面にアノード・ガス供給拡散層Aが形成され,他の面に冷却水の供給拡散層Wが形成されたもの。以下,これをタイプAWのセパレータ24という。
【0042】
図11には図示されていないが,金属平板30の一面にカソード・ガス供給拡散層Cが形成され,他の面に冷却水の供給拡散層Wが形成されたもの。以下,これをタイプCWのセパレータという。
【0043】
さらに,金属平板の一面に冷却水の供給拡散層Wが形成されたセパレータもある。以下,これをタイプWのセパレータという。金属平板の両面に冷却水の供給拡散層Wを形成してもよい。
【0044】
これらの各種セパレータの構成の詳細については後述する。
【0045】
この実施例の膜電極接合体(N-MEA)81は,マイクロポーラスレイヤ(MPL)付きのもので,図4に示すように,中心の電解質膜(PEM)82,その両側に密着する触媒層(CL)85,そしてその両側に配置されるMPL83から構成される。これは新しいタイプの膜電極接合体である。セパレータに多孔質層(MPL)が設けられる場合には,膜電極接合体(N-MEA)81から多孔質層83を省略することができる。この明細書では,電解質膜82とその両側に設けられる触媒層85から構成されるものを触媒コート電解質膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)(または3層膜電極接合体)と呼び,さらにその両側にマイクロポーラスレイヤー(MPL)を加えたものを新しいタイプの膜電極接合体(5層膜電極接合体)(Membrane Electrode Assembly :MEA)と呼び,これらのCCMとMEAの両方を含む総称として膜触媒層接合体という用語を用いる。MPLは,後述するいずれのタイプのセパレータの流体供給拡散層を構成する多孔質膜(ブロック)よりも微細な径の気孔(細孔)を有するものである。
【0046】
燃料電池セル・スタック20において,上述した各種セパレータ21~24は,それらのカソード・ガス供給拡散層Cとアノード・ガス供給拡散層Aとが膜電極接合体(N-MEA)81を挟んで対向して単セルを構成し,これらの単セルがカソード側とアノード側が交互になるように配置され,単セル2つ置き(1つ置き,または3つ置き等でもよい)に冷却水供給拡散層Wが設けられ,そして冷却水供給拡散層Wには金属平板30(好ましくはタイプAまたはCの金属平板30)が対向するように,各種セパレータ21~24が組合されてスタックされ,それらの両端に集電板27A,27Bが配置され,さらにそれらの外側に絶縁シート28A,28Bを介在させてエンド・プレート75,76で両側から押圧されている。スタックの両端に位置し,集電板27A,27Bに接するセパレータについては,その金属平板30(耐食層)が外方を向くようにすることが好ましい
【0047】
アノード側エンド・プレート75の一端部にはアノード・ガス導入口71A,カソード・ガス導出口72Bおよび冷却水導出口73Bがそれぞれあけられている。他方,カソード側エンド・プレート76の一端部(アノード側エンド・プレートの上記一端部とは反対側)には,アノード・ガス導出口71B,カソード・ガス導入口72Aおよび冷却水導入口73A(図11ではこれらがまとめて破線で示されている)があけられている。これらの導入口,導出(排出)口にはそれぞれ対応する流体の供給管(チューブ),排出管(チューブ)が接続される。
【0048】
タイプAのセパレータ
タイプAのセパレータ22は図1,図2および図3に示されている。このセパレータ22は,基板としての方形の金属平板(金属シート)(金属板)30の一方の面にアノード側の流体(ガス)(燃料,具体的には主に水素H2 を含むガス)供給拡散層(水素供給拡散層)41が形成されているものである。
【0049】
より詳細に述べると,金属平板30の縦方向の一端部(図1の上部)には,横方向に並べて(図1において右,左,中央の順に),アノード・ガス供給(導入)孔61A(アノード・ガス供給口61Iとなっている),カソード・ガス(および生成水)排出孔62B,冷却水排出孔63Bがあけられ,他端部(図1の下部)には同じように,アノード・ガス排出孔61B(アノード・ガス排出口61Oとなっている),カソード・ガス供給(導入)孔62Aおよび冷却水供給(導入)孔63Aがあけられている。そして金属平板30の上記の各供給孔,排出口があけられた部分を除く,中央部のほぼ全体が流体供給拡散層41が形成される領域となっている。これらの各供給孔,排出孔および流体供給拡散層形成領域のそれぞれの周囲は緻密枠32によって囲まれている。緻密枠32はこれらの流体の漏洩を防ぐ。緻密枠32の外面には各供給孔,排出孔,流体供給拡散層形成領域を囲むように,枠32に沿って溝が形成され,ここにガスケット(パッキン,Oリングなどのシール材)33が設けられる。金属平板30の両面には,上記の供給孔,排出孔があけられている部分を除いて,その全面に耐食層(耐食コート)31が形成されている。好ましくは各供給(導入)孔や排出孔の内周面にも耐食層を形成する。必要であれば金属平板30の側面,端面にも耐食層を形成する。この耐食層31は緻密枠32と同じ緻密層であり,金属平板30の腐食を防ぐ。ガスケット33は接合される他のセパレータまたは膜電極接合体81もしくは集電板27A,27Bと密着して流体の漏洩を防ぐものである。
【0050】
流体(水素)供給拡散層41について説明する。流体供給拡散層41は,流体供給口61Iから流体排出口61Oに向う方向に(縦方向に),複数の(この実施例では4つの)流体供給拡散層ブロック41A(鎖線で示す)に分割され,各ブロック41Aの間には若干の間隙がある。各ブロック41Aは緻密枠32のほぼ全幅にわたって(横方向に)(供給通路51,排出通路52等の部分を除いて)設けられている。説明の便宜上,流体供給口61Iから流体排出口61Oに向って,4つの流体供給拡散層ブロック41Aを,第1段,第2段,第3段,第4段の流体供給拡散層ブロック41Aという。
【0051】
第1段から第3段の流体供給拡散層ブロック41Aの側方(図1において右側)で,緻密枠32の内側に供給通路51が形成されている。第2段から第4段の流体供給拡散層ブロック41Aの反対側の側方(図1において左側)で,緻密枠32の内側に排出通路52が形成されている。各流体供給拡散層ブロック41Aの流体供給口61I側(図1において上方)には,供給通路51から分岐した分岐供給通路(供給通路)51Aが形成されている。分岐供給通路51Aは,当然,供給通路51と連通しており,供給通路の一部を構成する。各流体供給拡散層ブロック41Aの流体排出口61O側(図1において下方)には,流体排出のための支流排出通路52Aが形成され,排出通路52に連通し,排出通路の一部を構成する。これらの通路51,51A,52,52Aは流体の流れを阻害する物質が存在しない空間である。
【0052】
第1段の流体供給拡散層ブロック41Aと第2段の流体供給拡散層ブロック41Aとの間の間隙において,第1段のブロックの支流排出通路52Aと第2段のブロックの分岐供給通路51Aとを分離(遮断)するために,仕切壁(分離壁,隔離壁)53が形成されている(仕切壁53を太い線で示す)。第2段と第3段の流体供給拡散層ブロック41A間,第3段と第4段の流体供給拡散層ブロック41A間においても,同じように仕切壁53が設けられている。さらに,第1段,第2段および第3段の流体供給拡散層ブロック41Aの供給通路51側を塞ぐために仕切壁53が形成され,第2段,第3段,第4段の流体供給拡散層ブロック41Aの排出通路52側を塞ぐために仕切壁53が設けられている。これらの仕切壁53は緻密枠32と同じ緻密層であり,流体の流れ(流入,流出,漏洩)を阻止する。
【0053】
各流体供給拡散層ブロック41Aの分岐供給通路51Aにのぞむ(面する)部分(供給溝55にのぞむ部分を含む)が流体の流入部分であり,支流排出通路52Aにのぞむ(面する)部分(排出溝56にのぞむ部分を含む)が流体の流出部分である。各流体供給拡散層ブロック41Aにおいて,流体の流入部分から流出部分に向って途中まで細い複数本の流体(ガス)供給溝55が形成され,各流体供給拡散層ブロック41A内から流出部分に向って細い複数本の流体(ガス)排出溝56が形成されている。供給溝55は分岐供給通路51Aに連通し,排出溝56は支流排出通路52Aに連通している。これらの供給溝55,排出溝56は,図3に示すように,流体供給拡散層ブロック41Aの内部に形成されていればよい(トンネル)。図3に示すものとは逆に,流体供給拡散層ブロック41Aの深さの途中まで形成してもよい。もちろん,これらの溝の深さを流体供給拡散層ブロック41Aの厚さと同じにしてもよい。
【0054】
アノード・ガス供給口61Iと流体供給拡散層41が形成されている領域との間には流入層57(供給通路の一部を示す)が,アノード・ガス排出口61Oと流体供給拡散層41の形成領域との間には流出層58(排出通路の一部を示す)が形成されている。これらの流入層57,流出層58は膜電極接合体81またはそのフレーム81Aを支持するためのものである。したがって,流体を円滑に流し,かつ膜電極接合体81をサポートできる構造であればよい。たとえば,気孔率のきわめて大きい多孔質層でもよいし,多数の支柱を配列した構造でもよい。供給通路51,排出通路52,分岐供給通路51A,支流排出通路52Aと緻密枠32との間に図示されている流体供給拡散層の一部の細長い部分も膜電極接合体81またはそのフレーム81Aを支持するためのもので,この部分を無くして,供給通路51,排出通路52,分岐供給通路51A,支流排出通路52Aを直接に緻密枠32に沿わせてもよい。
【0055】
流体供給拡散層ブロック41A,仕切壁53,流入層57,流出層58は,図2に示すように,緻密枠32と同じ高さ(厚さ)に形成されている。供給通路51,排出通路52,分岐供給通路51A,支流排出通路52Aは,好ましくは,トンネルの形(上方が開口せずに閉鎖されている)にするとよい。もちろん,トンネル以外の形状,たとえば流体供給拡散層ブロック41Aの厚さと同じ深さをもつものでもよい。
【0056】
流体供給拡散層ブロック41Aを含む流体供給拡散層の全体は導電性多孔質層であり,流体(水素ガス)はこの導電性多孔質層内を拡散する。流体供給孔61Iから導入された水素ガスは流入層57を通って,供給通路51および第1段の流体供給拡散層ブロック41Aの流入部分にのぞむ分岐供給通路51Aに流入する。供給通路51に流入した水素ガスは供給通路51につながる第2段から第4段の分岐供給通路51内に流入する。これらの各段の分岐供給通路51A内に流入した水素ガスの一部は供給溝55内に入って供給溝55から流体供給拡散層ブロック41A内に入り,他の一部は流体供給拡散層ブロック41Aの端面から直接に流体供給拡散層ブロック41A内に入って,層内を拡散していく。流体供給拡散層ブロック41A内を拡散しながら水素ガスは,流体供給拡散層ブロック41Aに接して設けられた膜電極接合体81に供給され,発電反応に寄与する。流体供給拡散層ブロック41A内を拡散して残った水素ガスは近くの排出溝56に出て支流排出通路52Aに出るか,または各ブロックの端面から直接に支流通路52Aに出る。支流排出通路52Aに流出した水素ガスは排出通路52に集まり,最終的に流出層58から流体排出口61Oを通って排出されていく。
【0057】
このように,セパレータ(タイプAでも,タイプCでも,タイプWでも同じ)を構成する一枚の金属平板30上の流体供給拡散層41が複数のブロック41Aに分割(区画化)され,これらの複数のブロック41Aがセパレータの流体供給口61Iと流体排出口61Oとの間において,流体の流れに関して,供給通路51,分岐供給通路51A,排出通路52および支流排出通路52Aによって,並列に接続されている。これらの通路51,51A,52,52Aが流体圧(水素ガス圧)を複数の流体供給拡散層ブロック41A間で均等化する(均等圧化通路)。
【0058】
こうして,複数の流体供給拡散層ブロック41Aにおける流体供給側,排出側の圧力をそれぞれ均等化することができる。一つのセパレータにおける流体供給拡散層は複数のブロックに区画化され,これらのブロックが流体の流れに関して並列に接続されているから,流体供給側から排出側までの流体抵抗は,ブロック化されていない場合に比べて,ほぼブロックの数で除した値程度まで低下し,セパレータ内における流体損失が大幅に低減する。これにより流体供給動力の大幅な低減が可能となる。流体供給拡散層ブロックは多孔質層により形成されているから,流体は多孔質層の全面に拡散し,流体をほぼ均一に分布させることが可能である。
【0059】
また,流体供給拡散層41(ブロック41A)は,セパレータ22のほぼ全面に設けられている(各種流体の供給孔,排出孔の部分を除く)ので,セパレータ22の大部分の領域が発電反応に貢献することとなり,反応有効領域として最大限に利用できることとなる。また,セパレータ22のほぼ全面に流体供給拡散層41(ブロック41A)(および仕切壁53,緻密枠32等)が形成され,凹溝,その他の空間がない(または殆どない)ので,セル・スタックのスタック方向(積層方向)に機械的強度が高いものとなっており,エンド・プレート75,76間の締付力を充分にサポートできる。
【0060】
流体供給拡散層(ブロック)は,導電材(好ましくは炭素系導電材)と高分子樹脂の混合物を含む構成である。高分子樹脂に炭素系導電材を混合することにより,高分子樹脂に高い導電性を付与することができ,また高分子樹脂の耐食性を向上させることができる。炭素系導電材の含有率を調整することにより,流体供給拡散層の流体抵抗(後述する気孔率)を調整(制御)することができる。特に炭素繊維を多く混入すると流体抵抗が減少する(気孔率が大きくなる)。逆に,高分子樹脂の含有率を増加させることにより流体抵抗を高くする(気孔率を小さくする)ことができる。好ましくは,耐食層31,枠32および仕切壁53も炭素系導電材と高分子樹脂の混合物であり,高分子樹脂の含有率を高めて,導電性を確保しつつ緻密化したものである。
【0061】
炭素系導電材としては,黒鉛,カーボンブラック,ダイヤモンド被覆カーボンブラック,炭化ケイ素,炭化チタン,カーボン繊維,カーボンナノチューブなどを用いることができる。
【0062】
高分子樹脂には熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。高分子樹脂の例には,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ゴム系樹脂,フラン樹脂,フッ化ビニリデン樹脂などがある。
【0063】
金属平板30は,インコネル,ニッケル,金,銀,白金のうち一以上からなる金属,またはオーステナイト系ステンレス鋼板への金属のめっきもしくはクラッド材であることが好ましい。これらの金属を用いることにより,耐食性を向上できる。
【0064】
一つのセパレータに複数の流体供給口61I,流体排出口61Oがある場合には,流体供給拡散層ブロックをこれらの供給口,排出口ごとにグループ化してもよいし,これらの供給口,排出口をそれぞれ供給通路,排出通路で連通させてもよい。流体供給拡散層ブロックは4段に限らず,多段に設けることができる。
【0065】
タイプCのセパレータ
Cタイプのセパレータ23が図5に示されている。カソード・ガス(酸素,空気)のためのセパレータ23にはカソード・ガス用の流体供給拡散層42(複数のブロック42Aに分割されている)が金属平板30上に形成されている。流体供給拡散層ブロック42A,供給通路51,分岐供給通路51A,排出通路52,支流排出通路52A等のパターンは図1に示すアノード・ガスのためのタイプAのセパレータと基本的に同じである。同一機能を果たすものには図1,図2,図3に示すものと同じ符号を付し,重複説明を避ける。異なる点は,流体供給拡散層42の領域は酸素供給孔62A(酸素供給口62I)および酸素排出孔62B(酸素排出口62O)とつながっていること,供給通路51は供給口62Iに連通し,排出通路52は排出口62Oに連通していること,流体供給拡散層ブロック42Aの流体抵抗は流体供給拡散層ブロック41Aの流体抵抗よりも小さいこと,そして酸素ガス供給拡散層ブロック42Aの厚さは水素ガス流体供給拡散層ブロック41Aの厚さよりも厚いこと(同程度でもよい)である。これらの違いは,通過するカソード・ガスの流量,粘性がアノード・ガスのそれに比べ大きいことに基づく。発電反応の結果,残った酸素と生成された水は酸素出口62Oに向って排出される。
【0066】
他のタイプのセパレータ
冷却水のためのタイプWのセパレータでは,冷却水を供給拡散させるために,流体供給拡散層ブロックの流体抵抗は,水素,酸素のための流体供給拡散層ブロックの流体抵抗よりもはるかに小さく設定される。流体供給拡散層ブロック,供給通路,排出通路等のパターン構成は上述したタイプA,タイプCのセパレータと同じでよい。タイプWのセパレータでは,供給通路は冷却水供給孔63Aに連なる供給口に,排出通路は冷却水排出孔63Bに連なる排出口にそれぞれ連通する。
【0067】
タイプACのセパレータは,一枚の金属平板の一面にタイプAのセパレータの金属平板を除いた構造が,他の面にタイプCのセパレータの金属平板を除いた構造が形成される。タイプAW,CWのセパレータも同様に,一枚の金属平板の一面にタイプAまたはCのセパレータの金属平板を除いた構造が,他の面にタイプWのセパレータの金属平板を除いた構造が形成される。
【0068】
セパレータの製造等
一例として,耐食層,緻密枠,仕切壁,流体供給拡散層ブロック等は等方圧加圧により形成する。たとえば熱硬化性樹脂を用いる場合(熱可塑性樹脂でもよい),炭素系導電材粉末(および,必要ならば炭素繊維),樹脂粉末および揮発性溶剤を混錬してペースト状にする。このペーストには,耐食層,緻密枠および仕切壁用のもの,流体供給拡散層ブロック用のもの等,多数種類を用意しておく。そして,金属平板上に,耐食層緻密枠,および仕切壁のパターン,流体供給拡散層ブロックのパターン等を順次プリント,スタンプ,絞り出し等により形成する。各パターンの形成ごとに溶剤を揮発させる。上記のすべてのパターンが形成された金属平板の全体を軟質の薄いゴムバックに入れ,真空に脱気した後,ゴムバックを耐圧容器に入れ,加熱流体を容器内に導入して,加熱流体で等方圧加圧して樹脂を硬化させる。緻密枠,仕切壁,流体供給拡散層ブロックの高さ(厚さ)を最終的に同じ高さ(厚さ)にするために,樹脂硬化の際の収縮の程度に応じて,これらの各枠,壁,層等の高さ(厚さ)をパターン作製時に調整しておくことが好ましい。
【0069】
一方で金属平板上に耐食層を形成しておき,他方で緻密枠,仕切壁,流体供給拡散層ブロック(一種のシート)を形成し,最後にこれらを熱圧着させることもできる。このとき緻密枠および仕切壁は金属平板上の耐食層と同時に作成してもよい。第1段階で金属平板上に耐食層と緻密枠と仕切壁とを作成し,この後第2段階で流体供給拡散層ブロックのペーストを金属平板の耐食層上に順次印刷し,乾燥させた後,ロールプレス(ホットプレス)で硬化させるようにすることもできる。
【0070】
または,次のような製造方法を用いることもできる。カーボンファイバー(CF),少量の黒煙微粒子(GCB)および結着剤となる熱可塑性もしくは熱硬化性または繊維状物を形成する樹脂を混錬してシート状に形成し,硬化する前のグリーンシート状態のときに,供給通路,排出通路,分岐通路,支流通路(および供給溝,排出溝)に対応する形状の突起を有するスタンプ型をシートに押し当てて供給通路,排出通路等を形成する。これと同時に,またはこれに続けて,前記スタンプに付属する射出孔から,またはガス拡散層を挟んでこのスタンプの受けとなる冶具の射出孔から熱可塑性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする流体を注入して仕切壁となる部分を形成し,最後にグリーンシートを熱処理し,これを耐食層が形成された金属平板に接着する。これは特に図2,図3の構造を有するセパレータの製造に好適である。
【0071】
流体供給拡散層ブロックの流体抵抗は,多孔質層の気孔率と流体の流れる方向に直交する面の面積(各層の高さ(厚さ)と幅)に依存する。気孔率が大きくなれば流体抵抗は小さくなる。流体が流れる面積が大きくなれば流体抵抗は小さくなる(単位面積当りの流体抵抗は一定である)。おおよその目安としては,流体供給拡散層ブロックの気孔率は,アノード・ガスの流体供給拡散層については30~85%程度,カソード・ガスについては50~85%程度,冷却水については70~100%(100%は後述するリブによる流路区間の場合)程度である。気孔率Pは,測定が容易な,P=(多孔質体中の気孔の体積)/(多孔質体の体積)で定められる。ここで,気孔は外部に通じていない気孔を含む真の気孔である。
【0072】
変形例
図6から図9は変形例を示している。これらの変形例は,セパレータのうち,緻密枠32内の流体供給拡散層の形成エリアのみを示しており,緻密枠32,ガス供給孔,排出孔,冷却水供給孔,排出孔等の図示が省略されている。また,タイプAのセパレータを図示するが,タイプC,Wのセパレータについても同じような変形例がある。さらに,既述のものと同一物については同一符号を付し,重複説明を避ける。
【0073】
図6において,流体供給拡散層ブロック41Bにはガス供給溝55,排出溝56に相当するものはない。各ブロック41Bには流体供給分岐通路51Aからその流入部分に直接にガスが進入し,全体に拡散しながら膜電極接合体81に供給され,残りは各ブロックの流出部分に向い,排出支流通路52Aに出て,排出通路52に合流していく。4段の流体供給拡散層ブロック41Bが図示されているが,要すればさらに多段に流体供給拡散層ブロック41Bを設けて,これらを供給通路51(分岐供給通路51A)と排出通路52(支流排出通路52A)によって流体の流れに関して並列に接続すればよい。
【0074】
図7においては,方形の流体供給拡散層形成領域内に,多数の供給分岐通路51Aと支流排出通路52Aとが斜めにかつ平行に設けられている。各流体供給拡散層ブロック41Cの形は配置された場所によって異なる。すなわち,三角形状のもの,台形状のもの,平行四辺形状のものがあるが,流体が拡散する長さ(分岐供給通路51Aから支流排出通路52Aまで)はだいたい同程度に設定されている。この変形例においても,多数の流体供給拡散層ブロック41Cが供給通路51,分岐供給通路51Aおよび排出通路52,支流排出通路52Aによって,流体の流れに関して並列に接続されている。
【0075】
図8に示す変形例では,仕切壁53に相当するものを設けなくてもよい通路構造となっている。すなわち,流体供給拡散層ブロック41Dは3段であるが,これらのブロック41Dを挟むように供給分岐通路51Aと排出支流通路52Aとが交互に設けられている。分岐供給通路51Aは供給通路51に連通し,支流排出通路52Aは排出通路52に連通している。各ブロック41Dには分岐供給通路51Aに連通する供給溝55と,支流排出通路52Aに連通する排出溝56が設けられている。このようにして,複数の流体供給拡散層ブロック41Dは並列に接続されている。ブロック41Dの段数をもっと多くしてもよいのはいうまでもない。
【0076】
図9においても仕切壁57に相当するものは設けられていない。供給通路51,分岐供給通路51A,排出通路52,支流排出通路52Aの基本的構造は図8に示すものと同じである。異なる点は,流体供給拡散層ブロック41Eが4段設けられていることと,すべての分岐供給通路51A,支流排出通路52Aが平行に形成されている点である(図8では斜めの分岐供給通路51A,支流排出通路52Aがある)。複数の流体供給拡散層ブロック41Eは,供給通路51,分岐供給通路51A,排出通路52,支流排出通路52Aによって,流体の流れに関して並列に接続されている。
【0077】
図10に示す変形例はタイプWのセパレータの他の例を示すものである。冷却水に関しては,必ずしも複数の流体供給拡散層ブロックを用いなくてもよいことを示す例である。すなわち,このセパレータ24Aでは,冷却水供給口63Iと冷却水排出口63Oにそれぞれ接して設けられる流入層57と流出層58の間の広い流体供給拡散領域(空間)に波形のリブ43Aが,冷却水の流路を形成するように,間隔をあけて設けられている。リブ43Aは,多孔質材で形成されている。リブ43Aは直線でもよいし,相互の間隔を変えてもよい。
【0078】
上記においては,いずれも流体(水素,酸素,冷却水)はセパレータの縦方向に流れるようになっているが,距離の短い横方向に流れるように,すべての,またはいくつかの各供給孔,排出孔の位置を定めてもよい。
【0079】
なお,多孔質層は最適運転条件等の情況に応じて撥水化または親水化することが好ましい。
【0080】
セル構造体
セル・スタックはセパレータのカソード・ガス用の流体供給拡散層とアノード・ガス用の流体供給拡散層との間に膜電極接合体81(または触媒コート電解質膜)を挟んでスタックすることにより,そして必要に応じて冷却水の供給拡散層を適所に挿入して構成されている。
【0081】
他の構成例として,セパレータ22(図1)や23(図5)の流体供給拡散層の表面上に多孔質層(膜)(好ましくはMPL)83を接合しておく。そして,膜触媒層接合体として触媒コート電解質膜(CCM)(電解質膜82とその両面に接合した触媒層85とからなるもの)を用意し,セパレータの,それぞれ多孔質層83が接合されたカソード・ガス用流体供給拡散層とアノード・ガス用の流体供給拡散層との間に触媒コート電解質膜を挟んで,(必要に応じて冷却水供給拡散層を挿入して)積層することにより,セル・スタックを構築することもできる。
【0082】
図11はさらに他の構成例を示すものである。図11に示されたセル構造体80は,膜電極接合体81の一方の面にアノード・ガス用の流体供給拡散層41を,他方の面にカソード・ガス用の流体供給拡散層42をそれぞれ一体的に接合したものである。流体供給拡散層41の構成は図1に示すセパレータ22の流体供給拡散層41と同じであり(緻密枠32内の流体供給拡散層形成領域内の構成),流体供給拡散層42の構成は図5に示すセパレータ23の流体供給拡散層42と同じである。もちろん,図6から図9に示す変形例のような構成としてもよい。
【0083】
このようなセル構造体80の両面に金属平板30(ガス供給孔61A,62A,ガス排出孔61B,62B,冷却水供給孔63A,同排出孔63B等が形成され,ガスケット33が設けられたもの)(さらに好ましくは耐食層31が両面に形成されたもの)が接合される。すなわち,セル・スタックは隣接するセル構造体80の間に金属平板30を挟み込んで,セル構造体80を積層し,必要に応じて冷却水の供給拡散層を挿入することにより構築される。
【0084】
このようにセル・スタックをアセンブルするための構成要素である各種流体供給拡散層,金属平板,膜電極接合体等の組合せは任意であり,組合せたもの(接合したもの)をセル構造体として,複数のセル構造体を,必要に応じて他の要素を挿入しながら,スタックしていくことにより燃料電池セル・スタックを製造することができる。
【符号の説明】
【0085】
20 燃料電池スタック
21,22,23,24,24A セパレータ
27A,27B 集電板
28A,28B 絶縁シート
30 金属平板
31 耐食層
32 緻密枠
33 ガスケット
41 流体(アノード・ガス)供給拡散層
41A,41B,41C,41D,41E 流体(アノード・ガス)供給拡散層ブロック
42 流体(カソード・ガス)供給拡散層
42A 流体(アノード・ガス)供給拡散層ブロック
43A リブ
51 供給通路
51A 分岐供給通路
52 排出通路
52A 支流排出通路
53 仕切壁
55 (ガス)供給溝
56 (ガス)排出溝
57 流入層(供給通路)
58 流出層(排出通路)
61I,62I 流体供給口
61O,62O 流体排出口
75,76 エンド・プレート
80 セル構造体
81 膜電極接合体
81A 枠(フレーム)
82 電解質膜
83 マルチポーラス(レイヤ)層
85 触媒層
図面
【図5】
0
【図10】
1
【図12】
2
【図1】
3
【図2】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図6】
7
【図7】
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【図8】
9
【図9】
10
【図11】
11