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明細書 :コフィン-サイリス症候群の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明の名称または考案の名称 コフィン-サイリス症候群の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNA
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 21
出願番号 特願2015-551557 (P2015-551557)
国際出願番号 PCT/JP2014/082086
国際公開番号 WO2015/083779
国際出願日 平成26年12月4日(2014.12.4)
国際公開日 平成27年6月11日(2015.6.11)
優先権出願番号 2013252720
優先日 平成25年12月6日(2013.12.6)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】松本 直通
【氏名】鶴▲崎▼ 美徳
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
Fターム 4B024AA11
4B024CA02
4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ43
要約 既報の責任遺伝子では説明がつかないコフィン-サイリス症候群(Coffin-Siris syndrome; CSS)症例の遺伝子診断を可能にする新規な手段が開示されている。本願発明者らは、CSS患者92名を対象に全エクソームシークエンシングを行ない鋭意解析した結果、血縁関係のない2名の患者から2種類のSOX11遺伝子de novo変異を発見し、これらの患者においてはSOX11の変異がCSSの病因変異であることを同定した。CSSは常染色体優性疾患であり、SOX11遺伝子の少なくとも一方のアレルに有害な変異が検出された場合にCSSが検出される。
特許請求の範囲 【請求項1】
生体から分離された試料を用いて、対象生体がSOX11遺伝子に変異を有するか否かを調べることを含む、コフィン-サイリス症候群の検出方法であって、SOX11遺伝子の少なくとも一方のアレルに少なくとも1つの有害な変異が検出された場合にコフィン-サイリス症候群が検出される、方法。
【請求項2】
ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列を調べることにより行なわれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有害な変異は、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失若しくは挿入変異、スプライシング異常を生じる変異、及びSOX11遺伝子領域の全体若しくは一部を欠失する変異から選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記有害な変異は、SOX11のHMGドメインにおける変異である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
コフィン-サイリス症候群の指標となる下記の変異の少なくとも1つが存在するか否かを調べることを含む、請求項4記載の方法。
(1) SOX11タンパク質の第60番アミノ酸がセリンからプロリンに置換する変異
(2) SOX11タンパク質の第116番アミノ酸がチロシンからシステインに置換する変異
【請求項6】
前記(1)及び(2)の変異がそれぞれ下記の変異である請求項5記載の方法。
(1) SOX11遺伝子コード領域の第178位のT(配列番号3における第233位)がCになる変異
(2) SOX11遺伝子コード領域の第347位のA(配列番号3における第402位)がGになる変異
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コフィン-サイリス症候群の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コフィン-サイリス症候群(Coffin-Siris syndrome、MIM%135900、以下「CSS」と略記することがある)は、発育不全、知的障害、小頭、特異な顔貌、手足の第5指の爪の無形成を特徴とするまれな先天的異常症候群である(非特許文献1)。症例の大半は孤発例であり、遺伝形式は常染色体優性遺伝である。日本国内では100症例程度の報告がある。
【0003】
CSSの診断は複数の症候の組み合わせによって診断されるが、症候の現れ方には患者ごとに差異があり、診断は容易ではない。出生後からなんらかの遺伝子異常が疑われても、CSSとの診断が下るまでに数年以上かかってしまうことがある。
【0004】
本願発明者らは、過去に、SWI/SNF複合体の構成サブユニットをコードする遺伝子がCSSの責任遺伝子であることを解明した(非特許文献2、特許文献1)。しかしながら、当該責任遺伝子で説明がつくCSS症例は全体の50%程度であり、依然として遺伝的原因が解明されていない症例が多く残されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2013/103094号
【0006】

【非特許文献1】G. S. Coffin, E. Siris, Am. J. Dis. Child. 119, 433-439 (1970).
【非特許文献2】Nat Genet.; 44(4): 376-8, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、報告された責任遺伝子では説明がつかないCSS症例の遺伝子診断を可能にする新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、CSS患者92名を対象に全エクソームシークエンシングを行ない鋭意解析した結果、血縁関係のない2名の患者から2種類のSOX11遺伝子de novo変異を発見し、これらの患者においてはSOX11の変異がCSSの病因変異であることを同定し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、生体から分離された試料を用いて、対象生体がSOX11遺伝子に変異を有するか否かを調べることを含む、コフィン-サイリス症候群の検出方法であって、SOX11遺伝子の少なくとも一方のアレルに少なくとも1つの有害な変異が検出された場合にコフィン-サイリス症候群が検出される、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、CSS遺伝子診断の新たな指標が提供された。CSSの責任遺伝子としては、SWI/SNF複合体のサブユニット遺伝子SMARCB1、SMARCA4、SMARCA2、SMARCE1、ARID1A及びARID1Bが本願発明者らのグループにより報告されているが、新たにSOX11が責任遺伝子として同定されたことにより、CSSの遺伝子診断の幅がより広がった。本発明は、医療機関におけるCSSの確定診断の大きな補助となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a) CSS患者におけるSOX11変異。HMGドメイン(黒のボックス)内の2つのミスセンス変異は進化的に保存されたアミノ酸で生じていた。(b) DNAに結合しているマウスSOX4 HMGドメインの結晶構造。へリックスはリボンで、ループは糸で示した。DNAは棒で示した。変異部位のアミノ酸残基は空間充填モデルで示した。中央及び右の図では、変異部位の周辺にある疎水性コアに関与するアミノ酸残基のいくつかをさらに空間充填モデルで示した。図中のアミノ酸番号はマウスSOX4における番号であり、ヒトSOX11におけるアミノ酸番号はカッコ内に示した。水素結合は黒い点線で示した。分子構造はPyMOLを用いて描画した。(c)図示した変異による自由エネルギー変化はFoldXソフトウェアを用いて算出した。(d) HeLa細胞におけるGDF5プロモーター(-448/+319)の転写活性をルシフェラーゼレポーターアッセイにより測定した結果である。下段はトランスフェクトされたHeLa細胞からの抽出物のイムノブロット解析の結果である。NCはネガティブコントロール、WTは野生型SOX11、S60Pはp.Ser60Pro変異型SOX11、Y116Cはp.Tyr116Cys変異型SOX11。
【図2】各種ヒト組織におけるSOX11遺伝子の発現を調べた結果である。ヒト成人(右)及び胎児(左)由来の組織のcDNAを用いて、TaqMan定量リアルタイムPCRアッセイによりSOX11遺伝子の発現を測定した。エラーバーは3回の独立した実験の標準偏差を示す。腎臓での発現量を基準(1x)として相対評価した。「筋肉」は骨格筋である。脳での特異的発現は胎児及び成人の両者で見られ、心臓での高発現は成人において確認された。
【図3】(a) sox11-MOを単独で、又はインビトロで転写したヒトSOX11(hSOX11)mRNA(WTは野生型; S60Pはp.Ser60Pro、Y116Cはp.Tyr116Cys)と共に胚に注入した。WT hSOX11 mRNAインジェクション試験区のみで24 hpfにおける死亡率のレスキューが確認された。データは平均値±SD。*はスチューデントのt検定でP<0.05。nsは有意差なし。(b) MO及び構築物を注入した胚を24 hpfの時点で正常、軽度及び重度に分類した。sox11a/b MOを注入した胚の表現型は、WT hSOX11 mRNAにより部分的にレスキューされた。(c) control-, sox11a-, sox11b-, 及びsox11a/b-MOを注入した胚の48 hpfにおける頭部サイズの比率 (n = 10) (control-MOの平均値を1とした)。中脳の幅を測定した。データは平均値±SD。*はスチューデントのt検定でP<0.01。(d) 30 hpfのMO注入胚における脳細胞死をアクリジンオレンジ染色で観察した結果である(側面像)。sox11モルファントではCNSにおける細胞死が増加していた。スケールバーは100μm。右のグラフはモルファントにおけるアクリジンオレンジ強度を定量化した結果をグラフ化したものである(n=8~10)。データは平均値±SD。*はスチューデントのt検定でP<0.001。(e) 48 hpf時に抗HuC/D抗体(上段)及び抗アセチル化チューブリン抗体(下段)でイムノラベリングした最大値投影像の背面図。sox11a-及びsox11a/b-MOを注入した胚では後脳の横連合が崩壊していた(図中のアスタリスク)。スケールバーは100μm。【図5】sox11を抑制したゼブラフィッシュにおける脳細胞のアポトーシスを検出した結果である。30 hpfのゼブラフィッシュ脳におけるアポトーシス細胞をTUNEL染色により検出した。図に示した写真はcontrol-MO、sox11a-MO、sox11b-MO、sox11a/b-MOを注入した胚の画像の代表例である。スケールバーは100μm。各モルファントで明らかな脳細胞アポトーシスが観察された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
SOX11(SRY (sex determining region Y)-box 11, NCBI Gene ID: 6664)は、初期胚発生に関与する転写因子である。SOX11による転写調節を受けるGDF5は、細胞の成長因子であり、関節軟骨分化や増殖、関節の形成に重要な役割を果たすことが知られている。SOX11タンパク質は441残基のタンパク質であり、遺伝子は1つのエクソンで構成される。第48番~第118番アミノ酸の領域は、配列特異的DNA結合に関与するHMGドメインであり、進化的に高度に保存されている(Jauch, R., Ng, C.K., Narasimhan, K. & Kolatkar, P.R. Biochem J 443, 39-47 (2012))。SOX11遺伝子の塩基配列及びコードされるSOX11タンパク質のアミノ酸配列は公知であり、例えばGenBankにNM_003108のアクセッション番号で登録されている。本願配列表の配列番号1及び2には、SOX11のコード領域の塩基配列及びコードされるアミノ酸配列を示す。配列番号3には、5'-UTR及び3'-UTRの一部を含むSOX11ゲノム配列を示す。配列番号3のうちの第56位~第1381位がエクソン1中のコード領域である。

【0013】
本発明では、生体から分離された試料を用いて、対象生体がSOX11遺伝子に変異を有するか否かを調べる。SOX11遺伝子の変異には、コードされるSOX11タンパク質のごく少数のアミノ酸残基の変化(置換、欠失、挿入)の他、SOX11タンパク質の少なくとも一部の領域を欠失するような変異をもたらす遺伝子配列の変化が包含され、SOX11遺伝子領域の全体又は一部を欠失する変異も包含される。例えば、エクソン又はイントロン領域内での塩基の置換、欠失、挿入、重複等によるミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失若しくは挿入変異(1個以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入をもたらす)、スプライシング異常を生じる変異、あるいはSOX11遺伝子を含む染色体領域の微細欠失等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、配列表に示されたSOX11遺伝子のゲノム配列及びコードされるSOX11タンパク質のアミノ酸配列は、正常なSOX11配列の典型例であり、SOX11遺伝子変異の有無は、配列表に示されたSOX11遺伝子の配列を基準とし、この基準配列との対比により判断され得る。

【0014】
SOX11遺伝子の少なくともいずれか一方のアレルに少なくとも1つの有害な変異がある場合に対象生体のCSSが検出される。SOX11遺伝子の有害な変異の検出は、医師によるCSSの確定診断の大きな補助となる。「有害な変異」ないしは「病原性の変異」とは、SOX11の転写活性が損なわれる変異であり、標的DNAへの結合が阻害される変異が包含される。あるSOX11遺伝子変異によりSOX11の転写活性が損なわれるかどうかは、周知のレポーターアッセイにより容易に調べることができる。具体的な方法の一例は下記実施例に記載される通りであるが、簡潔に説明すると以下の通りである。すなわち、例えば、SOX11による転写調節を受けるGDF5遺伝子のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子等のレポーター遺伝子の上流に連結し、この構築物を適当な培養細胞に導入する。任意の変異を有する変異型のSOX11タンパク質を発現する構築物を別途作製し、この構築物を前述の培養細胞に導入し、培養細胞内で変異型SOX11タンパク質を発現させる。変異型SOX11タンパク質が転写活性を保持していればレポーター遺伝子の発現が確認され、転写活性が損なわれていればレポーター遺伝子の発現が低下ないしは確認されないので、レポーター遺伝子の発現を指標として任意のSOX11変異がSOX11の転写活性を損なう変異であるか否かを調べることができる。

【0015】
SOX11タンパク質において進化的に高度に保存されたアミノ酸残基における変異、とりわけHMGドメイン(第48番~第118番アミノ酸、配列番号1に示した塩基配列中では第142位~第354位)内での変異は、CSSの指標となるSOX11の有害な変異である蓋然性が高い。HMGドメイン内の進化的保存性の高い1個以上のアミノ酸残基を欠失する変異や、そのようなアミノ酸残基が性質の異なるアミノ酸に置換する変異は、通常、有害な変異である。検出された塩基の変異が、多数の健常者集団には認められない変異であったり、NCBIのdbSNPや1000 Genomes Project等の塩基配列の多様性に関する周知のデータベースに登録されていないまれな塩基変異である場合も、CSSの指標となる有害な変異と考えて差し支えない。

【0016】
ある遺伝子中のアミノ酸置換変異が病原性変異であるか否かを調べることができる各種の予測ツールが知られている。例えば、SIFT (http://sift.jcvi.org/)、PolyPhen (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/)、PolyPhen-2 (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/)、Mutation Taster (http://www.mutationtaster.org/)、Align GVGD (http://agvgd.iarc.fr/agvgd_input.php)などが知られている。実際に検出されたSOX11変異について、このような公知の予測ツールを用いて有害な変異であるかどうかを判断することも可能である。SIFTでは、スコア0.05未満の場合、置換はintolerant(タンパク質機能変化に影響あり)と予測される。PolyPhenでは、スコア2.0を超えた場合、病原性と予測される。PolyPhen-2では、スコア0.000 (良性の可能性が最も大) ~0.999 (有害の可能性が最も大)でスコア付けされ、スコアをもとにした判定がpossiblyあるいはprobably damagingであるときに、病原性変異が強く示唆される。Mutation Tasterでは、病原性又は多型として分類される。Align GVGDでは、Class C0 (可能性小) ~Class C65 (可能性大)の範囲でクラススコア評価され、クラススコアC55以上の変異であれば病原性変異が示唆される。

【0017】
下記表1に示した変異は、実施例においてCSS患者を対象とするWES解析により新たに同定された、CSSの病因変異である。これらはいずれもSOX11のHMGドメイン内の進化的保存性の高いアミノ酸残基において生じており(図1a)、健常者集団には見出されず、上記した予測ツールを用いた評価で病原性の変異であることが強く示唆された変異である。もっとも、これら2種の変異は本発明でCSSの指標となるSOX11遺伝子変異の一例であり、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されるものではない。

【0018】
【表1】
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【0019】
SOX11遺伝子の変異は、ゲノムDNAやRNA等の核酸試料を用いて塩基配列を解析することで検出可能である。とりわけ、ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列の解析を行なうことが最も確実で望ましい。ゲノムDNA等の核酸試料は、末梢血や口腔粘膜スワブ等から常法により容易に調製することができる。また、種々の出生前遺伝子検査法が公知であり、胎児にSOX11遺伝子変異が存在するかどうかを調べることも可能である。例えば、胎児から細胞を採取して検査する方法(羊水、絨毛、臍帯血を使用)、母体血中に混在している胎児細胞を用いて胎児の遺伝子変異を検査する非侵襲の検査方法、体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断)など、種々の手法が公知である。上記非侵襲の検査方法では、胎児細胞を含有する母体血試料が「生体から分離された試料」に該当し、胎児が「対象生体」に該当する。

【0020】
タンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質をコードする領域だけではなくイントロンやUTR領域における変異によっても影響され得るが、遺伝子検査では通常、コード領域及びその近傍数十~数百塩基程度、例えば30~50塩基程度の隣接非コード領域を含めて検査するのが一般的である。本発明でも、SOX11遺伝子のエクソン中のコード領域及びその近傍の非コード領域を対象に配列解析を行えばよい。ゲノム配列の解析により変異を検出する場合には、本願配列表の配列番号1、3や公知のデータベースから入手可能なSOX11遺伝子のゲノム配列を参照して適宜プライマーを設計し、ゲノムDNA試料を用いて常法によりシークエンシングを行えばよい。対象生体ゲノムDNA上のSOX11遺伝子の塩基配列を決定し、これを野生型の基準配列と比較することにより、変異を詳細に同定できる。決定した塩基配列は、例えばSeqScape (登録商標) 等の公知のソフトウェアを用いて解析することにより、変異の検出やプロファイリングを容易に行なうことができる。

【0021】
本発明で対象となるSOX11遺伝子変異は主としてヘテロ変異である。ヘテロ二本鎖を検出する手法として、変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)を用いてヘテロ二本鎖を検出する方法や、High Resolution Melt法が知られている(Bde Juan I et al. (2009) Breast Cancer Res Treat 115:405-414、Takano et al. (2008) BMC Cancer 8:59など)。もっとも、SOX11遺伝子は単一エクソンからなる遺伝子で、ゲノム上のコード領域のサイズは約1300bpと小さく、ゲノム上のコード領域全長の塩基配列を決定することが容易である。従って、本発明においては、ゲノムDNA試料からSOX11遺伝子のコード領域の塩基配列を決定し、変異の有無を調べることが簡便で好ましい。

【0022】
遺伝子領域の欠失については、DNAマイクロアレイを用いた解析や、in situハイブリダイゼーション法及びサザンハイブリダイゼーション法等の常法により確認することができる。これらの方法により遺伝子領域の欠失を調べるのは、配列決定を行なう前でも行なった後でもよく、必要に応じて適宜に実施してよい。

【0023】
DNAマイクロアレイを用いてゲノム中の遺伝子のコピー数を調べる方法は公知であり、市販のアレイや常法により作製したアレイ及び公知のソフトウェアを用いて実施することができる。例えば、WO2009/084472には、数千個のBACクローンを搭載したアレイを用いたCGH(comparative genomic hybridization)法により染色体の微細欠失を同定する方法が記載されている。患者及び健常者からゲノムDNAを採取し、患者DNAをCy5標識し健常者DNAをCy3標識したプローブと、標識色素を入れ替えて作製したプローブとを用いて、アレイとハイブリダイズさせ、市販のスキャナ及びソフトウェア(例えば、AXON社のGenePix4000B及びGenePixPro6.0)を用いて標識からのシグナルを数値化し、常法による解析を行なうことで、微細欠失の有無とその位置を特定することができる。このほか、Affymetrix社のGeneChip Human Mapping 250K Nsp Array、及びCytoScan HD arrayを用いる方法も知られている。

【0024】
in situハイブリダイゼーション法では、対象生体の細胞を採取し、染色体標本試料を調製する。目的のSOX11遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAを標識してプローブを作製し、該プローブを上記染色体標本とハイブリダイズさせる。プローブからのシグナルの有無を調べることにより、目的遺伝子の欠失を検出することができる。DNAの標識は、特に限定されないが、通常、ラジオアイソトープ又は蛍光色素(Cy5、Cy3、FITC等)を用いて行なわれ、蛍光色素がより一般的に用いられている。蛍光標識プローブを用いる場合、この手法はFISH法と呼ばれる。目的のSOX11遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAプローブは、当業者であれば、本願配列表に示すSOX11遺伝子ゲノム配列や公知のデータベースに登録されているゲノム配列を参照して適宜プライマーを設計し、正常なゲノムDNAを鋳型としてPCRを行なうことにより調製することができる。また、目的のSOX11遺伝子領域を含むBACクローン等のクローンを標識してプローブとして用いることもできる。ヒトゲノムDNAを含むBACクローン等のクローンは市販もされており、入手は容易である。プローブに用いるDNAは、目的の遺伝子のコード領域の全領域をカバーするものであってもよいし、コード領域の一部のみをカバーするものであってもよい。

【0025】
サザンハイブリダイゼーション法では、対象生体のゲノムDNA試料を任意の制限酵素で切断後、アガロースゲル等で電気泳動し、メンブレンにDNAを転写する。このメンブレン上で、目的のSOX11遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAを標識して調製したDNAプローブをハイブリダイズさせる。検出されるバンドの有無を調べることにより、目的遺伝子の欠失を検出することができる。点変異のような変異であっても、制限酵素部位に変化を生じる変異である場合には、検出されるバンドのサイズが変化するため、該方法で検出し得る。プローブとして用いるDNAは上記と同様にして調製でき、プローブの標識は、特に限定されないが、通常、ラジオアイソトープやジゴキシゲニン等のハプテンを用いて行なわれる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
[材料及び方法]
患者及び臨床データ
患者はいずれも主治医の臨床遺伝学者にCSSと診断された患者であった。DNAサンプルは常法により末梢血白血球より単離した。実験プロトコール及び患者の顔貌の文献への掲載に関して全ての参加者からインフォームドコンセントを得た。本研究は横浜市立大学医学部の倫理委員会に承認された。
【実施例】
【0028】
患者1(女性)は正常妊娠で妊娠38週目に出生した。出生時の体重は2,340 g(-1.9 SD)、身長は45 cm(-2.2 SD)、前後径周囲(OFC)は30.5 cm(-1.8 SD)。筋緊張が低く、哺乳困難があり(特に新生児期)、発育は遅延。定頚5か月、座位11か月、独歩1歳11か月。1歳7か月で有意義語を発した。3歳時の発達指数は57。腹部の超音波検査により、左の腎臓がやや小さいことが確認された。当該患者は顔面中央部の低形成、眼裂狭小、両眼隔離症、上向きの眼瞼裂、長いまつ毛、低い鼻根、鼻孔が上向いた短い鼻、短い人中、開いた口、厚い口唇及び低位耳介を特徴とする特異な顔貌を有しており、爪の低形成(特に第5指)を伴う末節骨の形成不全も認められた。そのほかの特徴として、多毛、長いまつ毛、及び豊かな頭髪を有していた。4歳8か月時点で身長は92.1 cm(-2.9 SD)と低く、成長ホルモン欠損症が疑われたが、刺激試験で評価した結果は正常であった。10歳時の身長は119 cm(-2.8 SD)、体重は20.1 kg(-1.8 SD)、OFCは47.3 cm(-3.3 SD)。学校では特別支援学級に入っているが、約1時間半の道程を独力で通学可能であり、クラスメート達とある程度言葉でコミュニケーションが取れている。
【実施例】
【0029】
患者2(女性)は、16歳時に低身長の評価のために遺伝外来に紹介された。正常妊娠で出生したが、出生時体重は低かった(1.75 kg, -4SD)。発達のマイルストーンは正常であったが、両親は常々我が子が他の子供たちに後れを取っていると感じていた。学業成績は低く、IQは70~80。通常学級に入っていたが、毎年クラスの試験に合格するために苦労していた。低身長であったが粗な顔貌は有さず。頤が小さく、眼窩上隆起は低形成であり、眼瞼下垂は認めず。鼻が長く、小鼻は低形成で鼻柱が張り出していた。頭髪は濃く粗でまばらであり、背中まで生えていた。第4趾及び第5趾は短く、全ての指の爪が低形成で、指は先細であった。両足の第4趾、第5趾と右足の第3趾が顕著に低形成であった。右足の第3、第4、第5趾及び左足の第3、第4趾に斜趾症あり。骨格検査を行なったがX線写真では骨の異常を認めず。骨年齢は13~14歳であり、濾胞刺激ホルモンは1.57 IU / L(正常値: <5 IU / L)。初潮前の16歳時における超音波検査では、子宮の形成不全及び両方の腎臓の異常回転を認めた。17歳で初潮を迎えるまで二次性徴を認めず。現在患者2は17歳であり、依然として背は低く、身長141 cm(-5 SD)、体重31.3 kg(-3 SD)、OFC 50.5 cm(-4.5 SD)である。【0030】
【表2】
JP2015083779A1_000004t.gif
【実施例】
【0031】
全エクソームシークエンス解析
全エクソームシークエンス解析(WES)は既報(Saitsu, H. et al. Nat Genet 45, 445-9, 449e1 (2013); Tsurusaki, Y. et al. Clin Genet (2013). DOI: 10.1111/cge.12225)の通りに実施した。2家系についてtrio-based WESを行なった。すなわち、Covaris 2STMシステム(Covaris社, 米国マサチューセッツ州Woburn)を用いて3μgのゲノムDNAを剪断し、SureSelect XT Human All Exon V4又はV4+UTRs(Agilent Technology社, 米国カリフォルニア州Santa Clara)を製造者の指示書に従い使用してパーティショニングした。エクソン濃縮したDNAライブラリーは、HiSeq2000(Illumina社, 米国カリフォルニア州San Diego)を用いて、101-bpのペアエンドリードと7-bpのインデックスリードでシークエンシングを行なった。1レーン4サンプル(各2.5 pM、異なるインデックスを含む)でランを行なった。イメージ解析及びベースコーリングは、HiSeq Control Software/Real Time Analysis and CASAVA1.8.2(Illumina社)を用いて行なった。ヒトゲノムhg19へのマッピングは、Novoalign(http://www.novocraft.com/main/page.php?s=novoalign)を用いて行なった。アライメント後のリードはPicard(http://picard.sourceforge.net)で処理し、PCR duplicateを除去した。変異コールは、Genome Analysis Toolkit 1.5-21(GATK)によりBest Practice Variant Detection with the GATK v3を用いて行ない、ANNOVAR(2012Feb23)によりアノテートした。dbSNP135に登録されているコモン変異(MAF≧0.01)は除外した。
【実施例】
【0032】
変異のフィルタリング
エクソン及びスプライス部位±2bpの領域内に存在する全ての変異から、dbSNP137、1000 Genomes Project、The National Heart Lung and Blood Institute Exome Sequencing Project Exome Variant Server(NHLBI-ESP 6500)、及び研究室内の変異データベース(408名に由来するコントロールエクソームデータ)のいずれかに登録されている変異、並びにセグメント重複内に位置する変異を除外し、ヘテロ接合の非同義な変異を抽出した。サンガーシークエンシングにより変異を検証した。
【実施例】
【0033】
構造モデリング及び自由エネルギー計算
SWISS-MODEL server 5(Kiefer, F., Arnold, K., Kunzli, M., Bordoli, L. & Schwede, T. Nucleic Acids Res 37, D387-92 (2009))により、ヒトSOX11に最も近い構造として、DNAに結合するマウスSox4のHMGドメインの結晶構造(Protein Data Bank コード3U2B)を選択した。同定されたミスセンス変異について調べるため、FoldX software(version 3.0)を用いて変異による自由エネルギー変化を計算した(Guerois, R., Nielsen, J.E. & Serrano, L. J Mol Biol 320, 369-87 (2002); Schymkowitz, J. et al. Nucleic Acids Res 33, W382-8 (2005))。計算は3回反復して行ない、得られたデータは平均値及び標準偏差で表した。
【実施例】
【0034】
ヒト組織におけるSOX11発現解析
成人(Human MTC Panel I, #636742, Clontech社, 米国カリフォルニア州Mountain View)及び胎児(Human Fetal MTC Panel, #636747, Clontech社)に由来するcDNAを用いてTaqMan定量リアルタイムPCRを行なった。プレデザインされたヒトSOX11用(Hs00167060_m1, Life Technologies社, 米国カリフォルニア州Carlsbad)及びヒトβアクチン用(ACTB, 4326315E, Life Technologies社)のTaqManプローブを用いた。PCRはRotor-Gene Q(QIAGEN社, 米国カリフォルニア州Valencia)を用いて行ない、2-ΔΔCt法に従い内部標準遺伝子ACTBに対して発現レベルをノーマライズした。腎臓での発現をスタンダード(1x)として用いた。
【実施例】
【0035】
発現ベクター
SOX11のオープンリーディングフレーム(ORF)クローンはPromega社(日本国東京)より購入し、SOX11の変異体(c.178T>C; p.Ser60Pro及びc.347A>G; p.Tyr116Cys)はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(TOYOBO社, 日本国大阪)を用いた部位特異的変異誘発により作製した。野生型(WT)及び変異型SOX11 cDNAは、In-Fusion PCR Cloning Kit(Clontech Laboratories社)を用いてPCR増幅し哺乳動物発現ベクターpEF6/V5-His B(Life Technologies社)にクローニングしたほか、哺乳動物発現ベクターp3xFLAG-CMV-14(Sigma社, 米国ミズーリ州St Louis)にもクローニングした。GDF5プロモーターとして、GDF5遺伝子の5'-フランキング配列(-448/+319、配列番号7)をPCR増幅し、pGL3-basic vector(Promega社)にクローニングした。構築物の配列は全てサンガーシークエンシングにより確認した。
【実施例】
【0036】
免疫染色
マウス神経芽細胞腫2A(Neuro-2A)は、10%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies社)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)-高グルコースGlutaMAX中で培養した。トランスフェクションの24時間前にNeuro-2A細胞を24ウェルプレートに蒔いた。各発現構築物(200 ng)は、X-tremeGENE 9 DNA Transfection Reagent(Roche Diagnostics社, 米国インディアナ州Indianapolis)を用いてNeuro-2A細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を4%パラホルムアルデヒド/PBS中で室温15分間固定し、0.1% Triton X-100/PBS中で室温5分間透過処理した。C末端をV5-6xHisタグしたSOX11タンパク質の検出は、マウス抗V5一次抗体(1:200; Life Technologies社)及びAlexa Fluor 546ヤギ抗マウスIgG二次抗体(1:1,000; Life Technologies社)を用いて行なった。スメアをDAPI入りのVectashield mounting medium(Vector Lab社, 米国カリフォルニア州Burlingame)中に封入した。FLUOVIEW FV1000-D顕微鏡(オリンパス社, 日本国東京)を用いて共焦点像を取得した。
【実施例】
【0037】
ルシフェラーゼアッセイ
HeLa細胞は、ペニシリン(50ユニット/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)及び10%FBSを添加したDMEM-高グルコース中で培養した。ATDC5細胞は、上記した抗生物質及び5% FBSを添加したDMEM/Ham's F-12(1:1)中で培養した。細胞はトランスフェクションの24時間前に24ウェルプレートに蒔き、トランスフェクションはTransIT-LT1(タカラ社, 日本国大津)をpGL3レポーター(500 ng/ウェル)、エフェクター(250 ng/ウェル)及びpRL-SV40内部標準(6 ng/ウェル)ベクターと共に用いて行なった。トランスフェクションの24時間後に細胞を収穫し、ピッカジーンデュアルシーパンジー発光キット(東洋ビーネット社, 日本国東京)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。WT及び変異型のSOX11タンパク質の産生は、抗FLAG M2 HRPモノクローナル抗体(1:3,000; Sigma社)を製造者の指示書に従い用いてイムノブロット解析により評価した。
【実施例】
【0038】
モルフォリノマイクロインジェクション
アンチセンス翻訳阻害モルフォリノ(MO)sox11a-MO(5'-CGCTGTTGTCCGTTTGCTGCACCAT-3'、配列番号4), sox11b-MO(5'-CTGTGCTCCGTCTGCTGCACCATGT-3'、配列番号5)(Gadi, J. et al. J Biol Chem 288(35):25400-13 (2013))及び標準コントロール-MO(5'-CCTCTTACCTCAGTTACAATTTATA-3'、配列番号6)は、GeneTools(米国オレゴン州Philomath)より入手し、終濃度0.1 mM又は0.2 mMで1~2細胞期の胚に注入した。レスキューアッセイでは、mMessage mMachine RNA Synthesis Kit(Ambion社, 米国カリフォルニア州Carlsbad)を製造者の指示書に従い使用してpEF6/V5-His B構築物からインビトロで転写されたキャップ構造を有するヒトSOX11 mRNAを調製し、1細胞期の胚に注入した。各MOノックダウン及びレスキュー実験では、同一クラッチに由来する胚を実験体及びコントロールとして用いた。キャップ構造を有するRNAは、胚1つ当たり約1μgを注入した。
【実施例】
【0039】
細胞死の検出
生存胚中のアポトーシス細胞を検出するため、受精後30時間(30 hpf)の胚を手作業で絨毛膜除去し、アクリジンオレンジ(卵海水中2μg/ml)中で28℃、1時間インキュベートした。卵海水で10分間×6回洗浄後、胚をトリカインで麻酔し、2%メチルセルロース中に封入し、共焦点顕微鏡で観察した。アポトーシス細胞は既報(Koshimizu, E. et al. PloS One 6, e17688 (2011))の通りにTUNELアッセイで調べた。
【実施例】
【0040】
可視画像及び蛍光画像の検出及び定量化
全ての動物は、LSM510共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社, 独国Jena)を用いて同一条件下で撮影した。各動物について、Adobe Photoshopに搭載されている選択ツールを使用してアクリジンオレンジ陽性細胞を定量化した。胚の解析では、各胚について規定された頭部領域を選択した。ピクセル選択後、fuzziness settingを0とし、選択されたピクセル数をイメージヒストグラム計算により算出した。
【実施例】
【0041】
全載免疫組織化学的解析
HuC/Dの染色では、48 hpfの胚を4%パラホルムアルデヒドで4℃一晩固定し、メタノールで-20℃にて脱水した。アセチル化チューブリンの染色では、48 hpfの胚をDent's固定液(80%メタノール、20% DMSO)で4℃一晩固定した。これらの胚はプロテイナーゼKで透過処理し、次いで4%パラホルムアルデヒドで後固定し、PBSTX(0.5% Triton X-100を含むPBS)で洗浄した。4%正常ヤギ血清(NGS)のPBSTX溶液で室温2時間処理した後、4% NGS/PBSTX溶液中でマウス抗HuC/D抗体(1:500, A21271, Life Technologies Co.)又はマウス抗アセチル化チューブリン抗体(1:1000, T7451, Sigma)と共に4℃一晩インキュベートした。胚をPBSTXで10分間×5回洗浄し、2% NGS/PBSTXで希釈したヤギ抗マウスFITC二次抗体と共に室温2時間インキュベートした。10分間×5回洗浄後、胚を2%メチルセルロース中に封入し、FLUOVIEW FV1000-D共焦点顕微鏡(Olympus社)を用いて観察した。
【実施例】
【0042】
[結果]
WESによるSOX11変異の同定
CSS患者92名を対象に既報(Tsurusaki, Y. et al. Nat Genet 44, 376-8 (2012); Tsurusaki, Y. et al. Clin Genet (2013))の通りにWESを行なった結果、血縁関係のない2名の患者(92名のうちの2.2%)からc.178T>C(p.S60P)及びc.347A>G(p.Y116C)の2つのSOX11遺伝子変異が同定された。54名の患者(58.7%)は5つのSWI/SNFサブユニット遺伝子のいずれかに変異を有していた(データ示さず)。
【実施例】
【0043】
【表3】
JP2015083779A1_000005t.gif
【実施例】
【0044】
【表4】
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【実施例】
【0045】
新規に同定されたSOX11におけるアミノ酸変異は、配列特異的DNA結合に関与する高度に保存されたHMGドメイン(Jauch, R., Ng, C.K., Narasimhan, K. & Kolatkar, P.R. Biochem J 443, 39-47 (2012))内に存在しており、ゼブラフィッシュからヒトまで進化的に保存されたアミノ酸における変異であった(図1a)。発見された2つの変異はいずれもSOX11タンパク質の核への局在化には影響しなかった(データ示さず)。対象とした2家系では、SWI/SNFサブユニット遺伝子の異常は発見されなかった。
【実施例】
【0046】
2名の患者は特徴的な顔貌、小頭、発育不全、第5趾爪の低形成及び軽度の知的障害を呈していた(Kosho, T. et al. Am J Med Genet A 161, 1221-37 (2013))。学校では、患者1は特別支援学級に入っており、患者2は通常学級に入っているが、いずれも学業成績が低い(表2、上掲)。
【実施例】
【0047】
同定されたSOX11変異がヒトSOX11の構造及び機能に及ぼす影響について
(1) モデリングによる構造解析
ヒトSOX11のアナログであるマウスSox4(Jauch, R., Ng, C.K., Narasimhan, K. & Kolatkar, P.R. Biochem J 443, 39-47 (2012))の結晶構造に変異部位をマップし、FoldXソフトウェア(Guerois, R., Nielsen, J.E. & Serrano, L. J Mol Biol 320, 369-87 (2002); Schymkowitz, J. et al. Nucleic Acids Res 33, W382-8 (2005))を使用して変異による自由エネルギー変化を算出した。
【実施例】
【0048】
Ser60はHMGドメインのへリックス構造に位置しており(図1b)、従ってS60P変異はHMGドメインの全体的なフォールディングに影響してSOX11のDNA結合を障害すると考えられる。FoldXによる計算結果はこの予測を裏付けており、変異による自由エネルギー変化はタンパク質のフォールディングを不安定化させるのに十分な高さであった(>10 kcal/mol、図1c)(Khan, S. & Vihinen, M. Hum Mutat 31, 675-84 (2010))。
【実施例】
【0049】
Tyr116はDNA認識ループ構造の側鎖と共に疎水性コアを形成する(図1b)。Y116C変異は自由エネルギー変化が低く(<1 kcal/mol、図1c)、HMGドメインのフォールディングには大きく影響することはなさそうだが、DNA結合に重要なDNA認識ループ構造のコンフォメーションを変化させる可能性がある。【0050】
(2) ルシフェラーゼアッセイによる機能解析
2つの変異はいずれも、SOX11がGDF5の転写を調節するために必要とされるHMGドメイン(Kan, A. et al. BMC Dev Biol 13, 4 (2013))内に位置している。GDF5プロモーターを用いたHeLa細胞及びATDC5細胞でのルシフェラーゼアッセイによると、2種類の変異タンパク質はいずれも野生型(WT)と比較して転写活性が低下していた(図1d、ATDC5細胞のデータは省略)。
【実施例】
【0051】
ヒトcDNAパネルを用いてSOX11の転写レベルを調べたところ、SOX11はもっぱら脳組織(胎児及び成人)及び心臓組織(成人)において発現していることが確認された(図2)。このことは、SOX11の変異が担う2名の患者に見られるCSSの脳の特徴(表2、上掲)への役割を裏付けている。
【実施例】
【0052】
(3) ゼブラフィッシュにおけるsox11の機能の解析
さらに、ゼブラフィッシュでsox11の機能を検討した。ゼブラフィッシュのゲノムは、sox11a及びsox11bの2つのヒトSOX11のオルソログを含んでいる。これらのオルソログは、原腸形成まで全ての細胞で発現し、その後発達中の中枢神経系(CNS)に発現が限定される(Rimini, R. et al. Mech Dev 89, 167-71 (1999); de Martino, S. et al. Dev Dyn 217, 279-92 (2000))。我々はモルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)(sox11a-MO, sox11b-MO, sox11a/b-MO)を用いて既報(Gadi, J. et al. J Biol Chem (2013))の通りにゼブラフィッシュのsox11a及びsox11bをノックダウンした。低用量のsox11a-MO(1.6 ng)及びsox11a/b-MO(1.6 ng)を胚に注入すると、control-MO胚(~6.3%)と比較して死亡率が有意に上昇した(sox11a-MO; ~74.2%, sox11a/b-MO; ~75.4%)(図3a)。WTヒトSOX11 mRNA(hSOX11-WT mRNA)をsox11a/b-MOと共に同時注入すると、24 hpfでのモルファントの生存率は向上した(62%~34%)(図3a及び図4)。
【実施例】
【0053】
control-MO注入胚とsox11モルファントのグロスの形態を比較するため、脳細胞死の効果を重度、軽度及び正常の3つに分類した(図3b)。sox11a/bダブルモルファントのグロスの表現型は、hSOX11-WT mRNAにより部分的にレスキューされた(正常胚の割合が、sox11a/b-MO単独注入では5%に対し、hSOX11-WT mRNAの同時注入では9%、P<0.05)(図3b)。【0054】
sox11a, sox11b及びsox11a/bモルファントの48 hpfにおける頭部サイズは有意に減少していた(sox11a-MO及びsox11a/b-MOではP<0.00001、sox11b-MOではP<0.01)(図3c)。アクリジンオレンジ染色及びターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介dUTPニックエンドラベリング(TUNEL)により、もっぱら小頭症の胚においてアポトーシスが有意に増加していることが確認された(図3d及び図5)。【0055】
神経細胞についてさらに詳細に分析するため、初期有糸分裂後のニューロン及び成熟ニューロンのマーカーであるHuC/D及び軸索マーカーであるアセチル化チューブリンについて、48 hpfの時点での免疫染色も行なった (図3e)。sox11モルファントでは、特に終脳及び間脳においてHuC/D陽性ニューロンが減少していた (図3e、上段)。抗アセチル化チューブリン染色においても、control-MO注入胚と比較してsox11モルファントの前脳、中脳及び後脳で軸索数が大幅に減少していることが確認された(図3e、下段)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4