TOP > 国内特許検索 > 融合遺伝子、ベクター、トランスジェニック植物、植物油脂の製造方法、トランスジェニック植物の作出方法、およびトランスジェニック植物の作出用キット > 明細書

明細書 :融合遺伝子、ベクター、トランスジェニック植物、植物油脂の製造方法、トランスジェニック植物の作出方法、およびトランスジェニック植物の作出用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明の名称または考案の名称 融合遺伝子、ベクター、トランスジェニック植物、植物油脂の製造方法、トランスジェニック植物の作出方法、およびトランスジェニック植物の作出用キット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
A01H 1/00 A
C12P 7/64
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 32
出願番号 特願2015-534232 (P2015-534232)
国際出願番号 PCT/JP2014/072296
国際公開番号 WO2015/029997
国際出願日 平成26年8月26日(2014.8.26)
国際公開日 平成27年3月5日(2015.3.5)
優先権出願番号 2013177774
優先日 平成25年8月29日(2013.8.29)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG
発明者または考案者 【氏名】太田 啓之
【氏名】下嶋 美恵
【氏名】円 由香
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100140774、【弁理士】、【氏名又は名称】大浪 一徳
【識別番号】100146879、【弁理士】、【氏名又は名称】三國 修
【識別番号】100152146、【弁理士】、【氏名又は名称】伏見 俊介
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B024
4B064
Fターム 2B030AA02
2B030AB04
2B030AD08
2B030CA17
2B030CB02
4B024AA08
4B024BA10
4B024CA04
4B024CA20
4B024DA01
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA14
4B064AD85
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC24
4B064CC30
4B064CE08
4B064DA16
要約 1)中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列と、を含むことを特徴とする融合遺伝子。2)前記融合遺伝子を含有することを特徴とするトランスジェニック植物。3)前記トランスジェニック植物を栽培する栽培工程を含むことを特徴とする植物油脂の製造方法。4)前記栽培工程は、前記トランスジェニック植物を、リンが欠乏した状態で栽培する工程である植物油脂の製造方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列と、を含むことを特徴とする融合遺伝子。
【請求項2】
前記核酸配列が、中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする核酸配列である請求項1に記載の融合遺伝子。
【請求項3】
前記中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質が、DGAT又はPDATである請求項2に記載の融合遺伝子。
【請求項4】
前記制御配列がモノガラクトシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、ホスホリパーゼC遺伝子、ホスホリパーゼD遺伝子、ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ遺伝子、スルホキノボシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、UDP-スルホキノボースシンターゼ遺伝子、SQDGシンターゼ遺伝子、及びUDP-グルコースピロホスホリラーゼ遺伝子からなる群より選ばれる遺伝子のプロモーターの配列である請求項1に記載の融合遺伝子。
【請求項5】
前記中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質が、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である請求項2に記載の融合遺伝子。
(a)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、25%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つMBOAT (膜結合型O‐アシルトランスフェラーゼ)ファミリーに属し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項6】
請求項1に記載の融合遺伝子を含むことを特徴とするベクター。
【請求項7】
請求項1に記載の融合遺伝子を含有することを特徴とするトランスジェニック植物。
【請求項8】
請求項6に記載のベクターが宿主に導入されてなることを特徴とするトランスジェニック植物。
【請求項9】
糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体である請求項7に記載のトランスジェニック植物。
【請求項10】
請求項7に記載のトランスジェニック植物と、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体との交配により得られるトランスジェニック植物。
【請求項11】
請求項7に記載のトランスジェニック植物を栽培する栽培工程を含むことを特徴とする植物油脂の製造方法。
【請求項12】
前記栽培工程は、
前記トランスジェニック植物を、リンが欠乏した状態で栽培する工程である請求項11に記載の植物油脂の製造方法。
【請求項13】
前記リンが欠乏した状態での栽培が、組織が十分に生育した植物体を、リンが欠乏した媒体に移植する又は媒体をリンが欠乏した媒体に置換して栽培する、或いは栽培過程の媒体において生じるリンの欠乏状態を維持しながら栽培するものである請求項12に記載の植物油脂の製造方法。
【請求項14】
前記栽培工程は、
前記トランスジェニック植物を、リンが欠乏状態となった植物体として栽培する工程である請求項11に記載の植物油脂の製造方法。
【請求項15】
前記リンが欠乏状態となった植物体が、リン酸輸送機能が低下または抑制された植物体である請求項14に記載の植物油脂の製造方法。
【請求項16】
請求項6に記載のベクターを植物に導入する工程を含むことを特徴とするトランスジェニック植物の作出方法。
【請求項17】
請求項6に記載のベクターを備えたことを特徴とする、トランスジェニック植物の作出用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、融合遺伝子、ベクター、トランスジェニック植物、植物油脂の製造方法、トランスジェニック植物の作出方法、およびトランスジェニック植物の作出用キットに関する。
本願は、2013年8月29日に、日本に出願された特願2013-177774号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
植物油脂は、マーガリン、ショートニング、ドレッシング、食用硬化油等の食用、燃料用、潤滑油や界面活性剤原料などの工業用として世界で毎年1億トン以上が用いられており、世界的な人口増加などによりその需要は更に高まりつつある。一方、その生産量もパーム油及び大豆油を中心に、2001年から2008年までの間に約1.5倍に伸長してきているが、これらは例えばマレーシア及びインドネシアなどの主産地での植林量増加や品種改良などによるものや、特にヨーロッパにおけるバイオディーゼル用途の増加による補助金も含めた政策による影響も大きいと考えられる。
しかしながら、例えばパーム油やヤシ油は栽培可能地域が東南アジアなどの一部に限られていること、また生物多様性確保の問題から森林伐採による植林地の拡大化は望めず、単位植物体あたりの油脂生産量の増大などが望まれていた。
【0003】
こうした状況を受け、これまでに本発明者らは、リン欠乏状態で栽培された植物体又はリンが欠乏状態となった植物体を用いた植物油脂製造方法を開発してきた(特許文献1)。また、デンプンの生合成が抑制された変異植物の植物体を栽培し、植物油脂を製造する方法も開発してきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-7146号公報
【特許文献2】特開2012-153833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2の植物油脂の製造方法において用いられた植物体では、通常条件または野生型植物と比較して、ある程度多量の植物油脂を蓄積させることができた。しかしながら、植物体を用いた植物油脂の生産技術については未だ検討の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、植物体の光合成を継続させながら、植物油脂を効率的に製造可能なトランスジェニック植物、融合遺伝子、該トランスジェニック植物の作出を可能とするベクター、該ベクターを備えたキット、該トランスジェニック植物の作出方法、および該トランスジェニック植物の栽培による植物油脂の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、リン欠乏応答性の転写制御配列を用いて中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列の発現を制御することで、良好に植物体を生育させつつ、植物体に蓄積される油脂量を著しく増加させること等が可能となることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1)中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列と、を含むことを特徴とする融合遺伝子。
(2)前記核酸配列が、中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする核酸配列である前記(1)に記載の融合遺伝子。
(3)前記中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質が、DGAT又はPDATである前記(2)に記載の融合遺伝子。
(4)前記制御配列がモノガラクトシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、ホスホリパーゼC遺伝子、ホスホリパーゼD遺伝子、ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ遺伝子、スルホキノボシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、UDP-スルホキノボースシンターゼ遺伝子、SQDGシンターゼ遺伝子、及びUDP-グルコースピロホスホリラーゼ遺伝子からなる群より選ばれる遺伝子のプロモーターの配列である前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の融合遺伝子。
(5)前記中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質が、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である前記(2)~(4)のいずれか一つに記載の融合遺伝子。
(a)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、25%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つMBOAT(膜結合型O-アシルトランスフェラーゼ)ファミリーに属し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(6)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の融合遺伝子を含むことを特徴とするベクター。
(7)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の融合遺伝子を含有することを特徴とするトランスジェニック植物。
(8)前記(6)に記載のベクターが宿主に導入されてなることを特徴とするトランスジェニック植物。
(9)糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体である前記(7)又は(8)に記載のトランスジェニック植物。
(10)前記(7)又は(8)に記載のトランスジェニック植物と、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体との交配により得られるトランスジェニック植物。
(11)前記(7)~(10)のいずれか一つに記載のトランスジェニック植物を栽培する栽培工程を含むことを特徴とする植物油脂の製造方法。
(12)前記栽培工程は、
前記トランスジェニック植物を、リンが欠乏した状態で栽培する工程である前記(11)に記載の植物油脂の製造方法。
(13)前記リンが欠乏した状態での栽培が、組織が十分に生育した植物体を、リンが欠乏した媒体に移植する又は媒体をリンが欠乏した媒体に置換して栽培する、或いは栽培過程の媒体において生じるリンの欠乏状態を維持しながら栽培するものである前記(12)に記載の植物油脂の製造方法。
(14)前記栽培工程は、
前記トランスジェニック植物を、リンが欠乏状態となった植物体として栽培する工程である前記(11)に記載の植物油脂の製造方法。
(15)前記リンが欠乏状態となった植物体が、リン酸輸送機能が低下または抑制された植物体である前記(14)に記載の植物油脂の製造方法。
(16)前記(6)に記載のベクターを植物に導入する工程を含むことを特徴とするトランスジェニック植物の作出方法。
(17)前記(6)に記載のベクターを備えたことを特徴とする、トランスジェニック植物の作出用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来知られていたリン欠乏状態で栽培された植物体又はリンが欠乏状態となった植物体よりも、さらに効率的に植物油脂の製造が可能なトランスジェニック植物、およびさらに効率的な油脂製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培における、シロイヌナズナ野生株およびpgm-1変異株でのDGAT1遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図1B】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培における、シロイヌナズナ野生株およびpgm-1変異株でのDGAT2遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図1C】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培における、シロイヌナズナ野生株およびpgm-1変異株でのPDAT1遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図2A】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培条件下での、比較例3~6及び実施例4~7における各植物での、DGAT1遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図2B】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培条件下での、比較例3~6及び実施例8~11における各植物での、DGAT2遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図2C】可溶性リン酸を含まない培地、及び1mM可溶性リン酸を含む培地を用いた栽培条件下での、比較例3~6及び実施例12~15における各植物での、PDAT1遺伝子の発現量(相対値)を示すグラフである。
【図3】実施例4~15及び比較例1~6における、各植物体1個体あたりの新鮮重量を示すグラフである。
【図4】実施例4~15及び比較例1~6における、植物体の乾燥重量あたりのTAGの蓄積割合を示すグラフである。
【図5】実施例4~15及び比較例1~6における、植物体の新鮮重量あたりのTAGの蓄積量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《融合遺伝子》
本発明の融合遺伝子は、中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列と、を含む。
「中性脂質の生合成又は蓄積に影響する」とは、中性脂質量の生合成量を増加させる、中性脂質の蓄積量を増加させる又は中性脂質の組成を改変させることを意味する。中性脂質としては、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれでもよい。
「中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列」とは、例えばRNA干渉(RNAi)のように核酸として影響するもの、及び該核酸配列にコードされるタンパク質として影響するものを含む。すなわち、本発明の融合遺伝子が含む中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列は、中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする核酸配列であってもよい。核酸配列としては、DNA配列が好ましい。
「中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列」又は「中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質」とは、その核酸配列又はタンパク質の植物体での発現を制御することにより、植物体全体において若しくは植物体の任意の部分において合成される又は蓄積される中性脂質量を、宿主本来の中性脂質量よりも増加させ得る核酸配列又はタンパク質、並びに、本来の中性脂質組成と異なる中性脂質組成に中性脂質組成を改変し得る核酸配列又はタンパク質を指す。
なお、本発明の融合遺伝子が含む発現制御配列と、本発明の融合遺伝子が含む構造遺伝子配列とは、夫々異なる遺伝子の由来であることが好ましい。

【0012】
中性脂質の生合成経路の一例として、グリセロール-3-リン酸(G3P)と脂肪酸とが反応してリゾホスファチジン酸(LPA)が合成され、LPAと脂肪酸とが反応してホスファチジン酸(PA)が合成され、PAがホスファチジン酸ホスファターゼによって脱リン酸化されてジアシルグリセロール(DAG)が合成され、DAGがジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)又はホスホリピド:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(PDAT)によってトリアシルグリセロールが合成される。したがって、中性脂質量を増加させることが可能なタンパク質としては、上記の経路に関与するDGAT又はPDATを好ましいものとして挙げることができる。

【0013】
すなわち、合成される中性脂質量を増加させ、中性脂質の生合成に影響するタンパク質は、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質であることが好ましい。
(a)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、25%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つMBOAT(膜結合型O-アシルトランスフェラーゼ)ファミリーに属し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質

【0014】
また、合成される中性脂質量を増加させ、中性脂質の生合成に影響するタンパク質は、以下の(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列からなり、且つMBOAT(膜結合型O-アシルトランスフェラーゼ)ファミリーに属し、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が好ましい。
(a)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているアミノ酸配列
(c)配列番号1~5のいずれか一つで表されるアミノ酸配列に対して、25%以上の同一性を有するアミノ酸配列
シロイヌナズナのDGAT1遺伝子(AGIコード:At2g19450)は、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしており、シロイヌナズナのDGAT2遺伝子(AGIコード:At3g51520)は、前記配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしており、シロイヌナズナのDGAT3遺伝子(AGIコード:At1g48300)は、前記配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしており、シロイヌナズナのDGAT4遺伝子(AGIコード:At3g26840)は、前記配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしており、シロイヌナズナのPDAT遺伝子(AGIコード:At5g13640)は、前記配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている
DGAT遺伝子及びPDAT遺伝子はアシルトランスフェラーゼ活性に関与すると推定されるPLN02401領域、LPLAT_MGAT_Like領域、PLN02517領域、又はMBOAT superfamilyモチーフを含んでいる。
前記(b)としては、例えば上記領域以外の部位に変異(欠失、挿入、置換、又は付加)を有するタンパク質、又は上記領域における変異であって、アシルトランスフェラーゼ活性を保持している変異を有するタンパク質が挙げられる。

【0015】
ここで、欠失、挿入、置換、又は付加されてもよいアミノ酸の数としては、1~30個が好ましく、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個がさらに好ましい。

【0016】
前記(c)又は(d)としては、配列番号1~3で表されるアミノ酸配列に対して、好ましくは25%以上、好ましくは40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。

【0017】
好ましい同一性の理由を挙げると、配列番号21で表されるコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)のCrDGAT1は、シロイヌナズナのAtDGAT1のオーソログであり、両アミノ酸配列間の同一性は60%であることが例示できる。
また、配列番号22で表されるコナミドリムシのCrDGTT1はシロイヌナズナのAtDGAT2のオーソログで、アシルトランスフェラーゼ活性を保持していることが示されており(Hung et al. 2013 FEBS let、Sanjaya et al.2013 Plant Cell)、シロイヌナズナのAtDGAT2の間でのアミノ酸配列の同一性は29%であることが例示できる。
さらには、アシルトランスフェラーゼ活性を保持しているオーソログとして、以下の遺伝子間の同一性が例示できる。
配列番号23で表されるコナミドリムシのCrDGTT2と、シロイヌナズナのAtDGAT2の間でのアミノ酸配列の同一性は31%であり、
配列番号24で表されるコナミドリムシのCrDGTT3と、シロイヌナズナのAtDGAT2の間でのアミノ酸配列の同一性は35%であり、
配列番号25で表されるコナミドリムシのCrDGTT4と、シロイヌナズナのAtDGAT2の間でのアミノ酸配列の同一性は35%であり、
配列番号26で表されるコナミドリムシのCrPDATと、シロイヌナズナのAtPDATの間でのアミノ酸配列の同一性は31%である。

【0018】
また同様に、上記の中性脂質量を増加させ得るタンパク質をコードする遺伝子として、下記のいずれか一つのDNAからなり、且つアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
なお、下記の配列番号6~10の塩基配列は、それぞれ前記シロイヌナズナのDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子およびPDAT遺伝子の塩基配列である。
(d)配列番号6~10のいずれか一つで表される塩基配列からなるDNA、
(e)配列番号6~10のいずれか一つで表される塩基配列に対して、好ましくは25%以上、好ましくは40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA、
(f)配列番号6~10のいずれか一つで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列からなるDNA

【0019】
その他の、中性脂質量を増加させ得るタンパク質としては、膜脂質分解酵素であるホスホリパーゼD(PLDα1については、Liu et al 2014 BMC Plant Biolで報告あり。)、脂肪酸合成を正に制御する転写因子であるWRI1(wrinkled 1) 、MYB-type 転写因子(GmMYB73の報告あり。Liu et al 2014 BMC Plant Biol.)、LEAFY COTYLEDON2 (LEC2)(Kim et al 2013 FEBS Open Bio)などを挙げることができる。脂肪酸合成を負に制御するTAG分解酵素SDP1、PLDα1の発現量を負に制御する転写因子であるGLABRA2(GL2)も、該タンパク質の発現が負に制御されることで、中性脂質量を増加させ得る。

【0020】
前記中性脂質組成を改変し得るタンパク質としては、脂肪酸鎖長延長酵素、脂肪酸不飽和化酵素等が挙げられ、具体的には、アシル‐ACPチオエステラーゼ遺伝子(FATA,FATB)、オレイン酸デサチュラーゼ遺伝子(FAD2,FAD3)を挙げることができる。

【0021】
中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列としては、TAG分解酵素、上記GL2、脂肪酸鎖長延長酵素、脂肪酸不飽和化酵素からなる群から選ばれるいずれか1つ以上の因子に対するRNA干渉(RNAi)誘導性核酸、アンチセンス核酸、リボザイムの配列が挙げられる。

【0022】
本発明の融合遺伝子が含む「該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列」とは、該制御配列によって発現制御され得る該核酸配列に対して、リン欠乏状況に応答して発現を変動させることができる配列であれば特に制限されず、エンハンサー領域、プロモーター配列等を含むものであり、好ましくはプロモーター配列である。「該核酸配列と作動可能に連結された」とは、リン欠乏応答性発現制御配列が、該核酸配列の発現を制御するように配置されることを云う。「発現を制御する」とは、発現を増加させることのみならず、発現を低下させる、発現時期を移行させること等の影響を及ぼす作用も含む。ここで「該核酸配列の発現を制御する」とは、該核酸配列由来のmRNA、miRNA、アンチセンスRNA、siRNA等の核酸の発現、および該核酸配列が翻訳されるタンパク質の発現が含まれる。

【0023】
リン欠乏応答性のプロモーター配列は、レポーター遺伝子を用いた公知のレポーターアッセイ等により検討することが可能である。このようなレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるGUS、GFP等を挙げることができる。
プロモーター配列がリン欠乏応答性であるかは、例えば、該プロモーター配列の下流にレポーター遺伝子配列を発現制御可能なように結合させた塩基配列を有する形質転換植物を作出し、この形質転換植物を様々な濃度のリンを含有する媒体において栽培し、植物体におけるレポーター遺伝子の発現を検出する方法が挙げられる。このとき、比較に用いる媒体の通常のリン濃度としては0.1~1mMの範囲が挙げられ、検討方法としては、例えば、通常のリン濃度の範囲で栽培された植物体におけるレポーター遺伝子の発現レベルと通常のリン濃度よりも低いリン濃度で栽培された植物体におけるレポーター遺伝子の発現レベルとを比較し、低いリン濃度で栽培された植物体における発現レベルの方が高いプロモーター配列を選択することが挙げられる。

【0024】
具体的なリン欠乏応答性のプロモーター配列としては、モノガラクトシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、ホスホリパーゼC遺伝子、ホスホリパーゼD遺伝子、ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ遺伝子、スルホキノボシルジアシルグリセロールシンターゼ遺伝子、UDP‐スルホキノボースシンターゼ遺伝子、SQDGシンターゼ遺伝子、及びUDP‐グルコースピロホスホリラーゼ遺伝子のプロモーターの配列を挙げることができる。

【0025】
リン欠乏応答性のプロモーター配列として、より具体的には、シロイヌナズナ由来の以下の遺伝子のプロモーター配列;モノガラクトシルジアシルグリセロールシンターゼ2(MGD2)遺伝子(AGIコード:At5g20410)のプロモーター配列(配列番号:11)、MGD3遺伝子(AGIコード:At2g11810)のプロモーター配列(配列番号12)、ホスホリパーゼC5(NPC5)遺伝子(AGIコード:At3g03540)のプロモーター配列(配列番号:13)、ホスホリパーゼD ζ2(zeta 2)(PLD ζ2)遺伝子(AGIコード:At3g05630)のプロモーター配列(配列番号:14)、ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ1(PAH1)遺伝子(AGIコード:At3g09560)のプロモーター配列(配列番号:15)、UDP‐スルホキノボースシンターゼ(SQD1)遺伝子(AGIコード:At4g33030)のプロモーター配列(配列番号:16)、SQDGシンターゼ(SQD2)遺伝子(AGIコード:At5g01220)のプロモーター配列(配列番号:17)、UDP‐グルコースピロホスホリラーゼ3(UGP3)遺伝子のプロモーター配列(配列番号:18)を挙げることができ、
更には、上記の配列番号11~18のいずれかに記載された塩基配列又は、配列番号11~18のいずれかに記載された塩基配列の部分配列であって、リン欠乏応答性を有し且つ中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列の発現を制御可能である当該部分配列に対して、例えば50%以上、好ましくは60%以上、好ましくは70%以上、好ましくは80%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなるプロモーター配列、及び、配列番号11~18のいずれかに記載された塩基配列からなるDNA又は、配列番号11~18のいずれかに記載された塩基配列の部分配列からなるDNAであって、リン欠乏応答性を有し且つ中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列の発現を制御可能である当該部分配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列からなるプロモーター配列、を挙げることができる。

【0026】
本発明の融合遺伝子が含む、中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列との好ましい具体的な組み合わせをとして、例えば以下の融合遺伝子を例示できる。
DGAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
DGAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
PDAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
PDAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。

【0027】
より具体的には、それぞれシロイヌナズナ由来のDNA配列及びリン欠乏応答性発現制御配列での組み合わせとして、
シロイヌナズナのDGAT1遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT2遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT3遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT4遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのPDAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD2遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT1遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT2遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT3遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのDGAT4遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。
シロイヌナズナのPDAT遺伝子をコードするDNA配列と、該DNA配列と作動可能に連結され該DNA配列の発現を制御するMGD3遺伝子のプロモーターの配列と、を含む融合遺伝子。

【0028】
なかでも、上記のMGD2およびMGD3遺伝子のプロモーター配列に係る配列は、リン欠乏状態時に非常に強く誘導されるとの観点から好ましい配列であり、尚且つリン欠乏状態となってから遅い時期に応答する制御配列であるので、宿主植物の成長過程により影響を与えにくいことからも、好ましい配列である。

【0029】
本発明及び本願明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1重量% N-ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%フォルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55~70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。

【0030】
尚、塩基配列の同一性は、例えば、リップマン-パーソン法(Lipman-Pearson法;Science,227,1435(1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search Homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。アミノ酸配列の同一性は、NCBI(National Center of Biotechnology Information)から提供されているBLASTPのプログラムを用いて算出することが挙げられる。

【0031】
《ベクター》
本発明のベクターは、本発明の融合遺伝子を含むものであれば特に制限されず、例えば、形質転換植物細胞や形質転換植物の作出のために通常用いられる任意の発現ベクターを利用し、周知の遺伝子組み換え技術を用いて当該遺伝子が組み込まれた発現ベクターとして作製されたものであってもよい。前記発現ベクターとしては、例えば、pBI121、pBI101、pCAMBIA、GATEWAY等のバイナリ—ベクター等がある。

【0032】
本発明のベクターは、さらに任意の選抜マーカー遺伝子の配列を有してもよい。選抜マーカー遺伝子を利用することによって本発明のベクターが形質転換された植物と形質転換されていない植物との選抜を用意に行うことができる。このような選抜マーカー遺伝子としては、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等が挙げられる。

【0033】
本発明のベクターによれば、従来知られていたリン欠乏状態で栽培された植物体又はリンが欠乏状態となった植物体よりもさらに効率的に植物油脂を製造可能なトランスジェニック植物を提供できる。また同時に、製造する植物油脂の成分を宿主本来のものから改良して製造することも可能である。

【0034】
≪トランスジェニック植物の作出用キット》
本発明のトランスジェニック植物の作出用キットは、本発明のベクターを備えたものである。本発明のキットは、本発明のベクターの他、溶媒、分散媒、試薬、それらを使用するための指示書などを備えていてもよい。ここで、溶媒等を「備えた」とは、キットを構成する個々の容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)のいずれかの中に内包されている状態を意味する。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。また、本発明のキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液、その他の試薬を内包した容器を備え得ていてもよい。

【0035】
《トランスジェニック植物およびトランスジェニック植物の作出方法》
本発明のトランスジェニック植物は、本発明の融合遺伝子を含有する。
本発明のトランスジェニック植物の作出にあたっては、トランクジェニック植物が作出される前に融合遺伝子を作製し、作製した融合遺伝子を宿主に導入して含有させてもよい。また、本発明のトランスジェニック植物の作出あたっては、例えば、宿主のゲノム中の「リン欠乏応答性発現制御配列」の近傍に、該核酸配列の発現を制御するよう「中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする核酸配列」のみを宿主に導入して融合遺伝子を作製することで、本発明の融合遺伝子を含有させてもよい。若しくは、本発明のトランスジェニック植物の作出あたっては、宿主のゲノム中の「中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする核酸配列」の近傍に、該核酸配列の発現を制御するよう「リン欠乏応答性発現制御配列」のみを宿主に導入して融合遺伝子を作製することで、本発明の融合遺伝子を含有させてもよい。上記の配列導入手法としては遺伝子ターゲッティングが挙げられる。

【0036】
本発明の融合遺伝子は、リン欠乏応答性の発現制御配列を有しているので、本発明の融合遺伝子を含有することで、リン欠乏応答性の発現制御配列により中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列が発現した本発明のトランスジェニック植物は、良好に生育することができる。そのような理由の一つとしては、発芽直後の植物体は僅かなリンを利用して生育でき、その後ある程度生育してからリン欠乏状態が生じ易い傾向にある。そのため、リン欠乏応答は植物体がある程度生育して組織が十分に生育してから誘導される傾向にある。したがって、リン欠乏応答性の発現制御配列による中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質の発現の誘導は、宿主植物の成長過程に影響を与えにくいことが挙げられる。植物体を良好に生育させることができれば、より効率的に植物油脂を製造することが可能となる。これは、油脂の製造場所となる植物組織の形成が良好に整えられ、その後、油脂の製造が開始されることで、油脂の製造機能が申し分なく発揮されることによると考えられる。
さらに、リン欠乏応答性の発現制御配列によれば、種子以外の組織において多量に中性脂質を蓄積させることも可能である。従来、特殊な脂肪酸組成を持つ中性脂質の生合成に影響するタンパク質を種子で強制発現させて、種子において多量に特殊な脂肪酸組成を持つ中性脂質を合成させることが試みられていた。しかし、種子に過剰に特殊な脂肪酸組成を持つ中性脂質を蓄積させると、脂肪酸の種類によっては稔性が低下する場合があり、植物体の利用上好ましくなかった。対して、リン欠乏応答性の発現制御配列を利用し、さらに葉において多量に中性脂質を製造させることは、種子における宿主植物の発生過程にも影響を与えにくく、より一層効率的に植物油脂を製造することが可能となる。

【0037】
又は、本発明のトランスジェニック植物は、本発明のベクターを宿主に導入してなるものである。
「本発明のベクターを宿主に導入」するとは、本発明の融合遺伝子が宿主に導入されるのであれば、当該ベクター全体が導入されることであっても当該ベクターの一部の核酸配列が導入されることであっても構わない。
本発明における植物体及び宿主として用いられる植物体としては、光合成を行う生物であれば特にその種類は限定されない。本法は藻類にも適用可能であり、藍藻、紅藻、珪藻、緑藻などのあらゆる藻類に適用可能である。
本発明における植物体及び宿主として用いられる植物体としては、陸上植物であることが好ましい。好適には生育速度や得られる植物体量(バイオマス量)などから種子植物を用いることが効率的生産に有利である。種子植物のうち被子植物としては、例えばヤシ科やイネ科等の単子葉植物、あるいはマメ科、アブラナ科、キク科、トウダイグサ科、ゴマ科、モクセイ科、ミソハギ科、シソ科、セリ科、アカザ科、アオイ科等の双子葉植物、また裸子植物としては、例えばマツ科、イチョウ科等が挙げられる。

【0038】
より具体的な植物種の例としては、ヤシ科のココヤシ(Cocos nucifera)、パームヤシ(Elaeis guineensi, Elaeis oleifera)等、イネ科のイネ(Oryza sativa, Oryza glaberrima)、トウモロコシ(Zea mays)、ミスカンザス(Miscanthus giganteus)、イヌビエ(Echinochloa crus-galli)等、マメ科のダイズ(Glycine max)等、アブラナ科のナタネ(Brassica rapa, Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ナガミノアマナズナ(Camelina sativa)、ハクサイ(Brassica rapa var. glabra)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、ミズナ(Brassica rapa var. nipposinica)、クレソン(Nasturtium officinale)等、キク科のヒマワリ(Helianthus annuus)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、レタス(Lactuca sativa)等、トウダイグサ科のヒマ(Ricinus communis)、ヤトロファ(Jatropha curcas)、ゴマ科のゴマ(Sesamum indicum)等、モクセイ科のオリーブ(Olea europea)等、ミソハギ科のクフェア(Cuphea hyssopifolia)等、シソ科のアオジソ(Perilla frutescens var. crispa)、アカジソ(Perilla frutescen var. crispa)、バジル(Ocimum basilicum L.)等、セリ科のミツバ(Cryptotaenia japonica)、コリアンダー(Coriandrum sativum L.)、パセリ(Petroselium crispum)等、アカザ科のホウレンソウ(Spinacia oleracea)等、ナス科のタバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Solanum lycopersicum L.)等が挙げられる。このうち、被子植物が好ましく、より好適には双子葉植物、更に好適にはアブラナ科植物が挙げられ、このうちシロイヌナズナ、トマト、ナタネ、イヌビエ又はタバコがより好ましく、シロイヌナズナがさらに好ましい。

【0039】
本発明のベクター又は本発明の融合遺伝子に含まれる当該配列の植物体への導入方法としては、公知のアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG(ポリエチレングリコール)法等を用いることができる。

【0040】
本発明のベクター又は本発明の融合遺伝子に含まれる当該配列の導入対象とする植物材料としては、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物器官や植物組織を用いてもよく、植物培養細胞を用いてもよい。形質転換材料として植物組織等を用いる場合は、例えば、これらを周知のカルス形成用培地中で脱分化したカルスを形成させ、その後再分化誘導用の培地に移しかえて得られる不定胚、不定芽等から形質転換された植物体を得る方法が採用できる。

【0041】
本発明のトランスジェニック植物には、本発明のベクター又は本発明の融合遺伝子に含まれる当該配列が発現可能に導入された植物細胞、植物体、若しくは、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。

【0042】
本発明のベクター又は本発明の融合遺伝子に含まれる当該配列が植物体へ導入されたか否かを確かめる方法としては、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行ってもよく、前述の選抜マーカー遺伝子を用いて行ってもよい。選抜マーカー遺伝子としてレポーター遺伝子を用いた場合は植物体におけるレポーター遺伝子の発現を指標とすることができ、また、選抜マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を用いた場合は当該薬剤への耐性を指標としてトランスジェニック植物の選抜を行うことができる。

【0043】
また、本発明のトランスジェニック植物は、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体であってもよい。
また前記宿主が、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体であってもよい。
デンプン生合成の機能が低下又は抑制された植物体とは、デンプンの生合成が抑制され、例えば葉におけるデンプン蓄積が本来(野生型)よりも低下している植物、例えば、葉におけるデンプン蓄積量が、好ましくは野生型の0~50%程度、より好ましくは0~20%程度まで低下している植物体が挙げられる。

【0044】
デンプンの生合成が抑制された植物体を得る方法としては、例えば、デンプンの生合成のキーステップ、すなわちグルコース-6-リン酸からグルコース-1-リン酸の生成、グルコース-1-リン酸からADPグルコースの生成、及びADPグルコースからデンプンの生成に関与する酵素の構造遺伝子に対する、欠失或いは挿入変異による機能の不活性化の他、当該遺伝子の発現に関わる領域に対する、欠失或いは挿入変異による遺伝子発現の抑制(不活性化等)が挙げられる。

【0045】
デンプンの生合成に関わる酵素としては、グルコース-6-リン酸からグルコース-1-リン酸の生成に関与するホスホグルコムターゼ(Phosphoglucomutase(PGM))、グルコース-1-リン酸からADPグルコースの生成に関与するADPグルコースピロホスホリラーゼ(ADP-glucose pyrophosphorylase(AGPase)、及びADPグルコースからデンプンを合成するスターチシンターゼ(Starch synthase(SS))が挙げられ、その構造遺伝子としては、PGM遺伝子、APL遺伝子、ADG遺伝子及びsoluble glycogen synthase-related遺伝子が挙げられる(特開2012-153833号公報参照)。具体的な植物体としては、ADG遺伝子の機能がそれぞれ不活性化及び抑制されたシロイヌナズナadg1-1変異体、aps1変異体が例示できる。

【0046】
ここで「膜脂質代謝の機能」が低下又は抑制された植物体とは、膜脂質代謝のうち中性脂質生合成の前駆体物質量を減少させることに係わる機能が低下又は抑制されたもの指す。
リン欠乏状態となった植物体では、植物体内のリン脂質由来のリンを利用し、リン脂質の代替として糖脂質を合成しようとする代謝経路が働き、それに伴いTAGの前駆体物質であるフォスファチジルコリン(PC)がジアシルグリセロール(DAG)を経て糖脂質(ジガラクトシルジアシルグリセロール、DGDG)へと転換される。したがって、前記膜脂質代謝の機能が低下又は抑制された植物体を得る方法として、例えば、PCからDAGを経たDGDGへの転換に関与する酵素であるPLD等の酵素の構造遺伝子に対する欠失或いは挿入変異による機能の不活性化の他、当該遺伝子の発現に関わる領域に対する、欠失或いは挿入変異による遺伝子発現の抑制(不活性化等)が挙げられる。

【0047】
尚、当該遺伝子、当該発現制御配列等の領域の塩基配列への欠失変異を行う方法としては、メタンスルホン酸エチルやニトロソグアニジン等の突然変異誘起剤を用いる方法やγ線等を照射する方法が挙げられる。これらの欠失方法により生じたランダムな変異体の集団から、目的とする機能が低下又は抑制された変異体を選抜すれば良い。

【0048】
また、当該遺伝子、当該発現制御配列等の領域の塩基配列への挿入変異を行う方法としては、アグロバクテリウム形質転換法によるTiプラスミド上のT-DNA領域の挿入や、トランスポゾンを用いた方法等が挙げられる。これらの挿入方法により生じたランダムな変異体の集団から、目的とする機能が低下又は抑制された変異体を選抜すれば良い。

【0049】
また、本発明のトランスジェニック植物は、本発明の融合遺伝子を含有するトランスジェニック植物又は本発明のベクターが導入された宿主となるトランスジェニック植物と、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された植物体との交配により得られたものであってもよい。
例えば、宿主として野生型の植物体を用いて本発明のベクターを野生型の植物に導入してトランスジェニック植物を得た後、該トランスジェニック植物に糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能が低下または抑制された任意の植物体とを交配させ、本発明のベクターを有し且つ当該機能が低下または抑制されたトランスジェニック植物を得ても良い。

【0050】
このように、本発明のトランスジェニック植物において、さらに、糖代謝、デンプン生合成及び膜脂質代謝からなる群から選ばれる少なくとも一つの機能を低下または抑制させることにより、植物体に蓄積される油脂量を著しく増大させることができ、植物油脂を効率的に製造可能となる。

【0051】
《植物油脂の製造方法》
本発明の植物油脂の製造方法は、本発明のトランスジェニック植物を栽培する栽培工程を含む。
本発明の植物油脂の製造方法によって製造された油脂の回収にあたっては、当該油脂は組織が十分に生育した本発明のトランスジェニック植物により回収されることが好ましい。

【0052】
ここで、「組織が十分に生育したトランスジェニック植物」とは、通常の条件で、根、茎、及び葉等の植物組織が十分に生育した植物体を意味し、即ち、種子から発芽させた場合は発根及び2枚以上の本葉が観察される程度に生育した植物体を意味し、好適には、リンを適量含む媒体で栽培され、根、茎、及び葉等の植物組織が生育し、十分な植物体量(バイオマス量)を有する植物体、即ち植物体重量が種子重量の10倍以上に生育した植物体が挙げられる。

【0053】
また、本発明の植物油脂の製造方法によって製造された油脂の回収は、バイオマス量が多いとの観点から、種子以外の組織に蓄積した中性脂質を回収することが好ましく、生産され得るバイオマス量が非常に多いとの観点から、種子以外の組織が葉であることがより好ましい。

【0054】
また、本発明の植物油脂の製造方法は、本発明のトランスジェニック植物を、リンが欠乏した状態で栽培する工程を含むことが好ましい。

【0055】
ここで、「リンが欠乏した状態で栽培する」とは、例えば、1)組織が十分に生育した植物体をリンが欠乏した媒体に移植して栽培すること、2)媒体をリンが欠乏した媒体に置換して当該植物体を栽培すること、3)栽培過程の媒体において生じるリンの欠乏状態を維持しながら栽培すること等が挙げられる。
ここで、栽培に用いる媒体は、植物体の生育段階、及び油脂蓄積段階のいずれにおいても限定されず、土壌、水耕液(培養液)、或いは固体培地等を用いることができる。また屋外での日照、及び屋内における人工照明等のいずれも利用可能であり、光量や照射時間も特に制限されないが、植物体に固有な最適条件を用いることが望ましい。

【0056】
「リンが欠乏した状態」とは、媒体中にリンを含まないか又は媒体中のリン濃度が極めて低い状態を意味する。具体的には、中性脂質の蓄積促進の点から、媒体中のリン濃度がゼロに近いことが望ましいが、好ましくはゼロでなくても通常の栽培で用いるリン酸濃度の1/30未満、より好ましくは1/100以下、さらに好ましくは1/300以下、特に好ましくは1/1000以下である。
例えば、表1に示した培地を用いて水耕栽培や寒天培地での栽培を行う場合、極めて低い濃度のリンを含む媒体のリン濃度は、好ましくは33μM未満であり、より好ましくは10μM以下、更に好ましくは3.3μM以下であり、特に好ましくは1μM以下、最も好ましくは0.33μM以下とすることができる。

【0057】
また、本発明の植物油脂の製造方法は、本発明のトランスジェニック植物を、リンが欠乏状態となった植物体として栽培する工程を含むことが好ましい。

【0058】
「リンが欠乏状態となった変異植物体」とは、例えばリン酸輸送に支障が生じる等して、植物体中のリン濃度が低値となった変異植物体を意味する。ここで、リン酸輸送に支障を生じるとは、例えばリン酸輸送に関わる遺伝子に支障が生じることが挙げられ、斯かる変異体として、例えばシロイヌナズナではpho1及びpho2が挙げられる(参考文献:Journal of Plant Physiology (1991) 97巻, 1087頁)。このような変異植物体は、リンが欠乏した状態で栽培しなくても、すなわちリンを含む媒体においても中性脂質の蓄積促進が行われる。

【0059】
リンが欠乏した状態での栽培は、通常の温度、湿度、pH、光照射条件で栽培を行えばよい。このリンが欠乏した状態における栽培期間は特に限定されないが、中性脂質蓄積の点から、好適には数日~数週間、特には3日間~3週間、最適には1~2週間である。
例えば、植物体としてシロイヌナズナを用いる場合、18~25℃、光強度30~70μE/cm2、照射時間6~24時間/日の範囲であれば良い。

【0060】
リンが欠乏した状態での栽培において、媒体の調製方法は特に限定されないが、一般にリン欠乏土壌と言われる土壌、例えば可溶性リン酸が100mg/100g以下、更には50mg/100g以下の土壌、或いはこの様な土壌にNK化成肥料等のリンを含まない肥料の施肥を行うか、或いはこの様な土壌にNK化成肥料等のリンを含まない肥料に少量のリン酸等のリン肥料を加えた肥料の施肥を行うことにより調製することができる。また水耕液や固体培地を用いる場合は、リン以外の必要栄養素を適当に配合した培養液、或いは培地を用いることができる。リン以外の必要栄養素は特に限定されないが、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム。塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、ホウ酸、硫酸銅、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン、ヨウ化カリウム、塩化コバルト、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、ミオイノシトール、チアミン塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩、ニコチン酸、葉酸、ビオチン、グリシン等を含むことができる。また固体培地のゲル化剤としては、特に限定されないが、寒天、ゼラチン、ゲルライト(和光純薬社製)等を用いることができる。

【0061】
「リンが欠乏した状態」での栽培の一態様としては、例えば、MS培地(PhysiologiaPlantarum (1962) 15巻, 473頁)で、組織が十分に生育した植物体を表1に示した組成をもつ培地に移すか又はMS培地を表1に示したうちのリン非含有培地に置換して栽培すること、リンを含まないか又はリン濃度が極めて低い状態、例えば、好ましくは33μM未満、より好ましくは10μM以下、更に好ましくは3.3μM以下、特に好ましくは1μM以下、最も好ましくは0.33μM以下で更に数日間~数週間の栽培をすることが挙げられる。

【0062】
【表1】
JP2015029997A1_000002t.gif

【0063】
また別の一態様として、栽培過程において生じるリンの欠乏状態を維持しながら栽培することが挙げられ、この場合には、植物体を適当な期間栽培してリン濃度が極めて低くなってから、更に数日~数週間の栽培を継続すればよい。この場合に用いる媒体中のリン濃度は、植物体が十分に生育した後に媒体中のリン濃度が上記に示した極めて低い濃度またはゼロとなる様に、初期濃度を調整することにより行えばよい。

【0064】
かくして植物体の根、葉、或いは茎等に蓄積した中性脂質を植物体から回収する方法は、特に限定されず、例えば、植物体の根、葉、或いは茎等を粉砕、圧搾すること、或いは適当な溶剤により抽出する方法等で植物油脂を得ることができる。より具体的には例えば、植物体の根、葉、或いは茎等を粉砕後、ノルマルヘキサンにより抽出する方法、或いはBligh and Dyer法(Can. J. Biochem. Physiol. (1959) 37巻, 911頁)などの方法を用いることで効率的に植物油脂を抽出することができ、植物油脂に含まれる形で中性脂質を回収することが可能である。斯かる植物油脂は、そのまま中性脂質として用いることもできるが、一般的な脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の精製の後に用いることもでき、その方法は特に限定されない。更に植物油脂から中性脂質を分離・回収することもでき、その方法についても特に限定されない。より具体的に例えば、薄層クロマトグラフィーによる分離およびシリカゲルプレートからの回収、高速液体クロマトグラフィーを用いた分離・回収などが挙げられる。

【0065】
本発明のトランスジェニック植物をリンが欠乏した状態で栽培又はリンが欠乏状態となった植物体として栽培することで、植物体に蓄積される油脂量をさらに増加させることができる。また、本発明のトランスジェニック植物は、「中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列と、該核酸配列と作動可能に連結され該核酸配列の発現を制御するリン欠乏応答性発現制御配列と、を含有する」ベクターが導入されているため、当該状態で又は当該植物体として栽培することにより、リン欠乏条件を利用して、非常に効率よく油脂を製造することができる。
【実施例】
【0066】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<中性脂質の生合成に影響するタンパク質の選定>
本発明の融合遺伝子に含まれる「中性脂質の生合成又は蓄積に影響する核酸配列」が中性脂質の生合成又は蓄積に影響するタンパク質をコードする場合のタンパク質としては、種々ものを選択することができるが、TAG合成の最終段階に関与することから、中性脂質の生合成の影響するものとしては、DGAT又はPDAT1の影響が大きいと考えられた。さらに、油脂の製造量をさらに増加させるという観点から、上記のDGAT又はPDAT1がTAG合成量に影響を与える余地がある条件を検討した。
リンが欠乏した状態でTAGの蓄積量が特に増加することが知られている植物体として、シロイヌナズナpgm-1変異株がある。pgm-1変異株はAGIコード:At5g51820の遺伝子が変異により機能損傷しており、糖代謝及びデンプン生合成に支障を生じた変異株である。このpgm-1変異株と野生株とにおけるDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子およびPDAT1遺伝子のmRNAの発現量の測定を以下に示すように行った。
【実施例】
【0067】
(発現解析)
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のCol-0株(野生株)の種子40個体とpgm-1変異株の種子40個体とをMS寒天培地(Physiologia Plantarum (1962) 15巻, 473頁)に播種し、22℃、光強度40~70μE/cm2、照射時間24時間/日の条件で10日間栽培した。生育した植物体をMS寒天培地から注意深く引き抜き、可溶性リン酸(KH2PO4)の濃度が0mMである表1の培地にそれぞれ20個体を移植した。また対称として20個体を、1mM可溶性リン酸を含む表1の培地に移植し、これらを上記と同条件で更に10日間栽培した。栽培後の植物体を寒天培地から引き抜き、地上部を切り分けて地上部の重量測定を行った後、この地上部を液体窒素下すり鉢で粉砕し、SV Total RNA Isolation System(Promega社製)を用いて抽出を行った。この後、PrimeScript RT reagent kit(TaKaRa Bio社製)を用いて逆転写反応を行い全mRNAのcDNAを得た。得られたcDNAを用いてThermal Cycler Dice Real Time System(TP800、TaKaRa Bio社製)によりリアルタイムPCRを行った。この際、試薬としてSYBR PreMix Ex Taq(TaKaRa Bio社製)を用いた。標的とする転写産物の量をユビキチン10遺伝子のmRNAの発現量を基準にして補正し、DGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子及びPDAT1遺伝子のmRNAの発現量をそれぞれ相対化した。図1A~図1Cに、野生株およびpgm-1変異株における、通常のリン濃度条件下(1mM)(+Pで表す)又はリン欠乏条件下(0mM)(-Pで表す)でのDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子及びPDAT1遺伝子のmRNAの発現量の相対値を示す。図1AはDGAT1遺伝子、図1BはDGAT2遺伝子、図1CはPDAT1遺伝子の発現量の各測定結果である。図1A~図1Cに示した結果から、リン欠乏条件下でTAGの蓄積量が特に増加することが知られているpgm-1変異株において、通常のリン濃度条件下又はリン欠乏条件下のいずれの条件下においても、DGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子及びPDAT1遺伝子のそれぞれの発現量は、野生株のものと同等であることがわかる。
【実施例】
【0068】
<ベクターの作製>
本発明者らは、上記の通り、リンが欠乏した状態で栽培された植物体において、植物体あたりのトリアシルグリセロール(TAG)量が増加しているにも関わらず、TAG生合成の最終段階であるジアシルグリセロール(DAG)骨格へのアシル基転移反応を行うアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現量が野生型植物体での発現量と同様であることをつきとめた。このことより着想を得て、リン欠乏状態で栽培された植物体又はリンが欠乏状態となった植物体においてTAG合成経路に係る遺伝子の発現を制御することで、さらに多くのTAGを植物組織に蓄積させることが可能であると考え、以下に示すベクターを作製した。
【実施例】
【0069】
[実施例1-1]
まず、シロイヌナズナ野生株の葉から抽出した総RNAからRT-PCRによりcDNAを得て、プライマー1-1F:5’‐ CGCCCGGGTATGGCGATTTTGGATTCTGCTGGC ‐3’(配列番号:19)とプライマー2-1:5’‐ GCGAGCTCTCATGACATCGATCCTTTTCGGTTC ‐3’(配列番号:20)を用いて配列を増幅し、DGAT1遺伝子をコードする塩基配列を得た後、pMD20 cloning bector (TaKaRa Bio)にクローニングし、Quikchange lightning reaction (Qiagen)を用いて、配列内部のSacI切断部位を改変し、DGAT1遺伝子をコードする塩基配列を含む改変後の配列を得た。
配列番号12で表されるMGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列を含むatMGD3::GUS/pBI101ベクターをKobayashi et al. 2004 Plant Phys.に記載の方法で得た。前記DGAT1遺伝子をコードする塩基配列を含む改変後の配列を、前記バイナリーベクターatMGD3::GUS/pBI101上のSmaI/SacIの位置にDNA Ligation Kit (Mighty Mix)(TaKaRa Bio社製)を用いてライゲーション反応により連結し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT1遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例1-1のベクターを得た。
この実施例1-1のベクターをアグロバクテリウムGV3101株に導入した。
【実施例】
【0070】
[実施例1-2]
シロイヌナズナ野生株の葉から抽出した総RNAからRT-PCRによりcDNAを得て、プライマー1-2:5’‐ GCCCCGGGTATGGGTGGTTCCAGAGAGTTCCGAG‐3’(配列番号:27)とプライマー2-2:5’‐ GCGAGCTCTCAAAGAATTTTCAGCTCAAGATC‐3’(配列番号:28)を用いて配列を増幅し、DGAT2遺伝子をコードする塩基配列を得た。その後、上記実施例1-1と同様にして、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT2遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例1-2のベクターを得た。
この実施例1-2のベクターをアグロバクテリウムGV3101株に導入した。
【実施例】
【0071】
[実施例1-3]
シロイヌナズナ野生株の葉から抽出した総RNAからRT-PCRによりcDNAを得て、プライマー1-3:5’‐ CGCCCGGGTATGCCCCTTATCATCGGAAAAAG ‐3’(配列番号:29)とプライマー2-3:5’‐ GCGAGCTCTCACAGCTTCAGGTCAATACGCTC‐3’(配列番号:30)を用いて配列を増幅し、PDAT1遺伝子をコードする塩基配列を得た。その後、上記実施例1-1と同様にして、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびPDAT1遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例1-3のベクターを得た。
この実施例1-3のベクターをアグロバクテリウムGV3101株に導入した。
【実施例】
【0072】
<トランスジェニック植物の作製>
[実施例2-1]
シロイヌナズナ野生株を栽培し、上記の実施例1-1のベクターを保持するアグロバクテリウムにFloral dip法(文献Clough et al., Plant Journal (1998) 16:735-743参照)により、実施例1-1のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT1遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例2-1のトランスジェニック植物を得た。
[実施例2-2]
シロイヌナズナ野生株を栽培し、実施例2-1と同様にして実施例1-2のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT2遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例2-2のトランスジェニック植物を得た。
[実施例2-3]
シロイヌナズナ野生株を栽培し、実施例2-1と同様にして実施例1-3のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびPDAT1遺伝子をコードする塩基配列を有する実施例2-3のトランスジェニック植物を得た。
【実施例】
【0073】
[実施例3-1]
pgm-1変異株を栽培し、実施例2-1と同様にして実施例1-1のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT1遺伝子をコードする塩基配列を有し、且つPGM遺伝子の機能が損傷した実施例3-1のトランスジェニック植物を得た。
[実施例3-2]
pgm-1変異株を栽培し、実施例2-1と同様にして実施例1-2のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびDGAT2遺伝子をコードする塩基配列を有し、且つPGM遺伝子の機能が損傷した実施例3-2のトランスジェニック植物を得た。
[実施例3-3]
pgm-1変異株を栽培し、実施例2-1と同様にして実施例1-3のベクターを導入し、MGD3遺伝子のプロモーターの塩基配列およびPDAT1遺伝子をコードする塩基配列を有し、且つPGM遺伝子の機能が損傷した実施例3-3のトランスジェニック植物を得た。
【実施例】
【0074】
(トランスジェニック植物におけるDGAT1遺伝子発現の確認)
上記のDGAT1遺伝子の発現解析と同様にして、実施例2-1及び実施例3-1のトランスジェニック植物におけるDGAT1遺伝子発現量を求め、実施例2-2及び実施例3—2のトランスジェニック植物におけるDGAT2遺伝子発現量を求め、実施例2-3及び実施例3—3のトランスジェニック植物におけるPDAT1遺伝子発現量を求めた。結果を図2A~Cに示す。この結果から、実施例2-1~実施例2-3および実施例3-1~実施例3-3のトランスジェニック植物では、リン欠乏に応答してDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子及びDAT1遺伝子の各遺伝子の発現が制御され、DGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子及びDAT1遺伝子の各遺伝子の発現が上昇したことが確認できた。
【実施例】
【0075】
<油脂の製造>
[実施例4]
実施例2-1のトランスジェニック植物の種子20個体分をMS寒天培地に播種し、22℃、光強度40~70μE/cm2、照射時間24時間/日の条件で10日間栽培した。生育した植物体をMS寒天培地から注意深く引き抜き、可溶性リン酸(KHPO)の濃度が1mMである表1の培地にそれぞれ20個体を移植した。これらを上記と同条件で更に10日間栽培した。
[実施例5]
実施例2-1のトランスジェニック植物の種子20個体分をMS寒天培地に播種し、22℃、光強度40~70μE/cm2、照射時間24時間/日の条件で10日間栽培した。その後、20個体を、可溶性リン酸の濃度が0mMである表1の培地に移植した。これらを上記と同条件で更に10日間栽培した。
[実施例6]
実施例3-1のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例4と同様の条件で栽培した。
[実施例7]
実施例3-1のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例5と同様の条件で栽培した。
[実施例8]
実施例2-2のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例4と同様の条件で栽培した。
[実施例9]
実施例2-2のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例5と同様の条件で栽培した。
[実施例10]
実施例3-2のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例4と同様の条件で栽培した。
[実施例11]
実施例3-2のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例5と同様の条件で栽培した。
[実施例12]
実施例2-3のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例4と同様の条件で栽培した。
[実施例13]
実施例2-3のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例5と同様の条件で栽培した。
[実施例14]
実施例3-3のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例4と同様の条件で栽培した。
[実施例15]
実施例3-3のトランスジェニック植物の種子20個体分を用いて、実施例5と同様の条件で栽培した。
【実施例】
【0076】
[比較例1]
野生株の種子20個体分をMS寒天培地に播種し、22℃、光強度40~70μE/cm2、照射時間24時間/日の条件で10日間栽培した。生育した植物体をMS寒天培地から注意深く引き抜き、窒素(N)の濃度が(通常)4.5mMである表2の培地に20個体を移植した。これらを上記と同条件で更に10日間栽培した。
[比較例2]
野生株の種子20個体分をMS寒天培地に播種し、22℃、光強度40~70μE/cm2、照射時間24時間/日の条件で10日間栽培した。生育した植物体をMS寒天培地から注意深く引き抜き、窒素(N)の濃度が0mMである表2の培地に20個体を移植した。これらを上記と同条件で更に10日間栽培した。
[比較例3]
野生株の種子20個体分を、実施例4と同様の条件および方法で栽培した。
[比較例4]
野生株の種子20個体分を、実施例5と同様のリン欠乏条件および方法で栽培した。
[比較例5]
実施例1-1~実施例1-3のいずれのベクターも導入されていないpgm-1変異株由来の種子20個体分を、実施例4と同様の条件および方法で栽培した。
[比較例6]
実施例1-1~実施例1-3のいずれのベクターも導入されていないpgm-1変異株由来の種子20個体分を、実施例5と同様のリン欠乏条件および方法で栽培した。
【実施例】
【0077】
【表2】
JP2015029997A1_000003t.gif
【実施例】
【0078】
油脂の製造に用いた各実施例の植物体について表3に示す。
【実施例】
【0079】
【表3】
JP2015029997A1_000004t.gif
【実施例】
【0080】
(植物体の新鮮重の測定)
比較例1~6の油脂の製造において栽培した各植物体、及び実施例4~15の油脂の製造で栽培した各トランスジェニック植物について、栽培後の各植物を寒天培地から引き抜き、地上部(葉、茎)および根に切り分け、地上部の重量測定を行った(各20個体)。この結果を図3に示す。
比較例1~2と比較例3~4との比較によれば、窒素欠乏条件下での栽培と比べて、リン欠乏条件での栽培は植物の成長が良好であることがわかる。また、実施例4~15と比較例3~6との比較によれば、実施例1-1~実施例1-3のいずれかのベクターが導入された実施例4~15のトランスジェニック植物は、実施例1-1~実施例1-3のいずれのベクターも導入されていない野生型及びpgm-1変異株と同等の良好な成長が認められた。
【実施例】
【0081】
(植物体の油脂蓄積量の測定)
植物組織中の油脂成分の分析は、下記に記載の方法により行った。
(1)抽出及び前処理
総脂質の抽出は、Bligh and Dyer法(Can. J. Biochem. Physiol. (1959) 37巻, 911頁)に基づき行った。総脂質からTAGの分離は、薄層クロマトグラフィー(TLC Silica gel60, 20x20 cm, メルク, 製品コード1.05721.0009、展開溶媒組成は、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=160:40:4(vol/vol))により行い、プレートからTAGのスポットをかきとって含量の測定を行った。
【実施例】
【0082】
(2)中性脂質量の測定
15:0脂肪酸を内部標準試料として、TAGをメタノリシス処理した。具体的には、ネジ栓付きガラス試験管内で、TAGを含むシリカゲル粉末に100 μlの1 mM 15:0ヘキサン溶液 (pentadecanoic acid, シグマアルドリッチ, P-6125)および350μlの5% 塩化水素メタノール溶液(和光純薬, 089-03971)を添加して85℃で1時間処理した。メタノリシス処理後、ヘキサンで脂肪酸メチルエステルを回収し、窒素ガスで乾固後、60μlのヘキサンで回収し、そのうち3μlをガスクロマトグラフィーで解析した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所、GC-2014, カラム、信和化工ULBON HR-SS-10 (25 m, 0.25 mm ID)、カラム温度180℃、気化室および検出器250℃、入口圧(kPa) 68.2、カラム流量(ml/min) 0.53、スプリット比68.8、計測時間15分)を用いて分離・定量を行った。
【実施例】
【0083】
(3)植物組織乾燥重量の測定
凍結乾燥処理を20時間行った後、重量を測定し、乾燥重量とした。
【実施例】
【0084】
比較例1~6の油脂の製造において栽培した各植物体、及び実施例4~15の油脂の製造で栽培した各トランスジェニック植物について、栽培後の各植物を寒天培地から引き抜き、地上部(葉、茎)および根に切り分け、この地上部を液体窒素下すり鉢で粉砕し、上記のBligh and Dyer法で脂肪抽出を行った(各20個体)。その後、薄層クロマトグラフィーによりTAGを分離・精製後、塩酸メタノールでメタノリシス処理をしてガスクロマトグラフィーを用いて脂質分析を行った。植物個体(乾燥重量)あたりのTAG量の割合(重量%)を図4に示す。また、植物個体(新鮮重量)あたりのTAG量を図5に示す。
【実施例】
【0085】
図4および図5に示されるように、窒素欠乏条件での栽培と比べ、リン欠乏条件での栽培では、植物の成長が良好に保たれたまま油脂蓄積を向上させることが可能であることがわかる。
【実施例】
【0086】
図4で示されるように、実施例4におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株と比較した場合に約4倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例8におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株と比較した場合に約2倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例12におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株と比較した場合に約2倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例5におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株と比較した場合に約2.5倍、比較例3での野生株と比較した場合には約20倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例9におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株と比較した場合に約1.3倍、比較例3での野生株と比較した場合には約7倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例13におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株と比較した場合に約2倍、比較例3での野生株と比較した場合には約10倍のTAG蓄積向上効果があった。
【実施例】
【0087】
以上のことから、リン欠乏応答性のプロモーター配列によってDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子、PDAT1遺伝子の各遺伝子を発現させたトランスジェニック植物では、植物体のTAG蓄積を向上させることができ、該トランスジェニック植物をリンが欠乏した状態で栽培することで、格段にTAG蓄積を向上可能であることが明らかである。
【実施例】
【0088】
また、図4で示されるように、実施例6におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合に、それぞれ約10倍及び約7倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例10におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合に、それぞれ約6.5倍及び約3.5倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例14におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合に、それぞれ約8倍及び約4.5倍のTAG蓄積向上効果があった。
【実施例】
【0089】
実施例7におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株及び比較例6におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約4倍及び約2.5倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例11におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株及び比較例6におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約2倍及び約1.1倍のTAG蓄積向上効果があった。
実施例15におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例4における野生株及び比較例6におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約3.5倍及び約2倍のTAG蓄積向上効果があった。
【実施例】
【0090】
また、実施例7におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約30倍及び約17倍のTAG蓄積向上効果があった。
また、実施例11におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約12倍及び約7倍のTAG蓄積向上効果があった。
また、実施例15におけるトランスジェニック植物の葉及び茎には、比較例3における野生株及び比較例5におけるpgm-1変異株と比較した場合、それぞれ約19倍及び約11倍のTAG蓄積向上効果があった。
【実施例】
【0091】
以上のことから、リン欠乏応答性のプロモーター配列によってDGAT1遺伝子、DGAT2遺伝子、PDAT1遺伝子のいずれの遺伝子を発現させたトランスジェニック植物においても、糖代謝およびデンプン生合成の機能を低下させることにより、植物体のTAG蓄積をさらに向上させることができ、該トランスジェニック植物をリンが欠乏した状態で栽培することで、TAG蓄積を著しく向上させることが可能であることが判明した。
【実施例】
【0092】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、植物体の光合成を継続させながら、植物油脂を効率的に製造可能なトランスジェニック植物を取得することができる。本発明のトランスジェニック植物は、特にリン酸欠乏土壌での栽培のようなリン欠乏条件下での栽培時に植物油脂が特に効率的に製造され、有用性が発揮される。したがって、アジアをはじめとした世界各地に広がり、穀物等の育成には不向きであるために農業的な活用において問題となっているリン欠乏土壌の有効な活用に貢献するとともに、これまで油脂生産に通常用いられることのなかった植物の葉を用いて、大量に油脂を製造できる新たな方法を提供できる。
さらに、生成される油脂の性質は自由に改変可能であり、市場価値の高い燃料用途向けの脂肪酸組成の油脂を製造すること等により、さらに産業上の利用の可能性を広げることができる。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図2A】
3
【図2B】
4
【図2C】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図5】
8