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明細書 :細胞の識別方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明の名称または考案の名称 細胞の識別方法
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
FI C12Q 1/04
C12M 1/34 B
国際予備審査の請求
全頁数 21
出願番号 特願2015-549178 (P2015-549178)
国際出願番号 PCT/JP2014/080683
国際公開番号 WO2015/076311
国際出願日 平成26年11月19日(2014.11.19)
国際公開日 平成27年5月28日(2015.5.28)
優先権出願番号 2013242197
優先日 平成25年11月22日(2013.11.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】▲たか▼木 睦
【氏名】徳永 直親
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
Fターム 4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA04
4B029GB06
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS07
4B063QS39
4B063QX01
要約 被験細胞に対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについて測定した一直線上のレーザー光の位相差をX-Y座標平面上にプロットした各点で形成される形状の違いを指標として被験細胞が正常細胞かガン化細胞を判定するか、あるいは正常細胞とガン化細胞のX-Y座標平面上のそれぞれの判定基準値を事前に設定し、被験細胞で測定したX-Y座標平面上の位相差値と判定基準値との差異を指標として被験細胞が正常細胞かガン化細胞を判定する。
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞内を透過するレーザー光の位相差を定量する顕微鏡を用いて、接着培養細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する方法であって、
(1)被験細胞に対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定する工程、
(2)細胞の一端から他端を一直線で結ぶ線をX軸に、X線上の各位相差をY軸にプロットする工程、
を含み、
X-Y座標平面上にプロットした各点によって形成される形状が、中央付近が略水平な台形状の場合は被験細胞が正常細胞であり、中央付近を頂点とする三角形状の場合は被験細胞がガン化細胞であると判定することを特徴とする細胞識別方法。
【請求項2】
細胞内を透過するレーザー光の位相差を定量する顕微鏡を用いて、接着培養細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する方法であって、
(1)標準正常細胞と標準ガン化細胞のそれぞれに対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定する工程、
(2)標準正常細胞と標準ガン化細胞のそれぞれについて、各細胞の一端から他端を一直線に結ぶX軸の長さが全て同一となるように補正し、X軸上の各位相差のそれぞれの平均値を正常細胞の平均的位相差とガン化細胞の平均的位相差としてそれぞれ算出する工程、(3)被験細胞に対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定し、細胞の一端から他端を一直線で結ぶX軸の長さを前記工程(2)と同一に補正して、このX軸上の各位相差を算出する工程、および
(4)標準正常細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値αと、標準ガン化細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値βをそれぞれ算出する工程、を含み、
差異の絶対値αが差異の絶対値βよりも小さい場合には被験細胞が正常細胞であり、差異の絶対値βが差異の絶対値αよりも小さい場合には被験細胞がガン化細胞であると判定することを特徴とする細胞識別方法。
【請求項3】
同一長に補正したX軸の中央付近の任意の領域の位相差測定値から標準正常細胞および標準ガン化細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差を算出する請求項2の方法。
【請求項4】
標準正常細胞の平均的位相差が請求項1記載の方法で正常細胞と識別された細胞の各位相差から算出された値であり、標準ガン化細胞の平均的位相差が請求項1記載の方法でガン化細胞と識別された細胞の各位相差から算出された値である請求項2または3の方法。
【請求項5】
被験細胞が、培養条件下で増殖または分化・増殖する過程でガン化する可能性のある細胞である請求項1から4のいずれかの方法。
【請求項6】
被験細胞が、培養条件下でガン化する細胞である請求項1または4の方法。
【請求項7】
被験細胞が、混合培養された正常細胞とガン化細胞である請求項1から4のいずれかの方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを、非侵襲的に短時間で、しかも確実に識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞または組織を体外で培養して得られた細胞や組織を体内あるいは体表面の欠陥、欠損あるいは不全部位の修復にあてるという再生医療の可能性が種々の基礎的発見により高まり、期待されている。現在の研究では、皮膚、軟骨、骨、血管、肝臓、膵臓等多くの組織にその可能性があることが報告されている。それらの細胞あるいは組織の起源としては、皮膚、軟骨などの分化した組織あるいはその組織中の細胞、骨髄液中などに存在すると言われている造血幹細胞、間葉系幹細胞あるいは肝臓中にあるといわれている肝幹細胞などの体性幹細胞、さらには受精卵の内部細胞塊に由来し体内のほとんどすべての組織の細胞に分化する能力があるとされている胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などがある。
【0003】
いずれの起源の細胞も生体から得られる細胞数には限りがあるため、それを再生医療に用いるためには一般に体外で培養して増殖させる必要がある。また、皮膚、軟骨などの組織に由来する表皮細胞、軟骨細胞などはそれらの分化状態を維持したままで増殖させる必要があるが、体性幹細胞、胚性幹細胞や人工多能性幹細胞を用いる場合は、一般に幹細胞を増殖させて細胞数を増やした後に治療部位に応じた細胞へと、例えば間葉系幹細胞を用いて軟骨再生治療を行なう場合には間葉系幹細胞から軟骨細胞へと、分化させる必要がある。いずれにしても、培養により、生体から分離された細胞を体外で培養して増殖させたり、分化させる必要がある。
【0004】
このような細胞は、造血細胞やガン細胞の例外を除くと、細胞の生存、維持や増殖のために「接着」を必要とする。たとえば、細胞をディッシュなどの培養器中で培養する場合、造血細胞やガン細胞は培養器中の培養液に浮遊していても生存、維持、増殖可能だが、その他の細胞が生存、維持、増殖するためには、ディッシュ底面上に接着する必要がある。造血細胞やガン細胞の培養の様な培養形態を浮遊培養と言い、その他の細胞の培養形態を接着培養と言う。すなわち、再生医療等でヒトへの移植を目的に培養される細胞の大部分は接着培養される。
【0005】
このような細胞の培養には長時間を要する。たとえば、骨髄液10 ml に含まれる間葉系幹細胞を増殖させた後に軟骨細胞へ分化させ、軟骨の再生治療に用いようとすると、少なくとも細胞数を数百倍に増やす必要がある。一般に哺乳類など動物の細胞の体外における増殖速度は遅く、細胞数が2倍になるには一般に2~3日を要する。すなわち軟骨再生のための体外増殖培養の期間は最短でも2~3週間に及ぶ。しかも、細菌などの雑菌の増殖速度はその倍化時間が20分~1時間と早いため、2~3週間の培養期間中は1個の細菌の混入も防ぐ必要があり、高度な無菌培養が要求される。
【0006】
このような培養工程の品質管理のためには、培養経過の測定が不可欠である。その測定項目としては、培養中の細胞の分化度、本来の治療のために意図して培養している細胞種以外に混入したり培養中の意図せざる分化により出現した細胞種の割合なども挙げる必要がある。しかし、長期間の培養中には細胞がガン化する危険性があるため、最も重要な測定項目のひとつは、培養中の細胞のガン化の有無である。すなわち、ガン化した細胞を含む細胞を患者に移植した場合ガンを発症する可能性が高いため、培養中の細胞にガン化した細胞が含まれていると測定されれば、培養を途中で中止して培養中の細胞を廃棄する必要が生じる。ここで、ガン化していない細胞を正常細胞と呼びガン化したガン化細胞と区別すると、培養中の細胞のガン化の有無を測定するということは、「培養中の細胞ひとつひとつについての正常細胞であるかガン化細胞であるかの識別」ということになる。
【0007】
ところで、生体細胞や組織の由来には、患者自身の細胞や組織を用いる場合(自家細胞)と、患者以外のヒト個体由来の細胞や組織を用いる場合(他家細胞または同種細胞)がある。前者の場合、再生治療の際の拒絶反応の可能性が低いと言う利点があるが、患者ごとに材料となる細胞や組織を準備する必要がある。後者の場合、同じひとつの個体由来の細胞や組織を用いて多くの患者の再生治療を行なえる可能性がある。
【0008】
自家細胞を培養する場合は「小スケール、多ロット並行培養」であるため、品質管理のためにぬき取り検査(破壊検査)を適用しようとすると、より多量の細胞や骨髄液などを患者から採取する必要が生じるなど、また同ロットの培養をより多数行う必要が生じ培養コストを増大させるなど、破壊的な検査では患者により大きな負担を与えたり生産効率が大幅に低下するため適しない。さらに、患者の身体に移植するなどのため、医薬品生産以上の品質管理が要求されるので、測定用の器具、装置などが培養中の細胞や細胞の周囲の培養液に直接に接触することは極力避けるべきである。したがって、再生医療などを目的とした自家細胞培養の品質管理には、非侵襲的な、培養中の細胞の測定手段が不可欠である。
【0009】
一方、同種細胞(他家細胞)を用いる場合、培養終了後の移植直前の段階での検査であれば抜き取り検査で破壊的方法を採用することも可能である。しかし、従来のガン化の測定方法では、NOGマウスへの移植による判定等、6週間以上を要する(非特許文献1)。すなわち、培養終了後に少なくとも6週間の間、培養終了した細胞を移植せずに保存する必要がある。この間、移植治療が行えないことのほか、測定のための保存期間中に細胞がガン化しないことを確認できない等、問題が多い。このため、短時間で行えるガン化の測定方法が必要である。さらに、培養終了時のみならず長い培養期間の途中においても適宜ガン化の有無を測定できることが工程管理の観点から望ましく、このため非侵襲的なガン化の測定方法が必要である。
【0010】
すなわち、再生医療等のヒトへの移植のための培養工程の品質管理のためには、ガン化の測定、すなわち、非侵襲的で、短時間かつ正確な正常細胞とガン化細胞との識別技術が不可欠である。
【0011】
ガン化細胞と正常細胞との非侵襲的な識別方法としては、ラマン分光法の報告がある。たとえば、波長633nmのレーザーを細胞の核部分に照射して得られるラマンスペクトルのうち600~1700cm-1部分の主成分分析により末梢血正常リンパ球と白血病リンパ球とを識別できたことが報告されている(非特許文献2)。しかし、リンパ球は浮遊細胞であり、接着細胞にこの技術が適用できるとの報告は存在しない。
【0012】
また、波長785nmのレーザーを用いて得られたラマンスペクトルの2次微分の主成分分析によりヒト正常骨芽細胞と骨肉腫細胞とを識別できることが報告されている(非特許文献3)。しかし、ラマン分光法では、1回の分析でひとつずつの細胞の内部の1箇所しか分析できず、培養中の多くの細胞のすべてを測定するには非常に長時間を要するという欠点がある。たとえば、ラマン分光1回に1秒とし、100 mmφディッシュ底面(55 cm2)にプレコンフルエント(1 x 104 cells/cm2)に接着したすべての細胞を測定すると、6日間を要する。
【0013】
なお、上記のリンパ球の様に浮遊している細胞の場合、随時培養液中で移動するため、ラマン分光分析が終了した細胞とこれから分光分析する細胞との区別が困難との問題もある。
【0014】
以上のように、培養中の多くの接着細胞をガン化細胞と正常細胞とに非侵襲的に短時間に識別できる方法はほとんど報告がなかった。
【0015】
近年、細胞を透過する光の位相差の分析が提案されている。すなわち、細胞の種類が異なれば、細胞の内容物の種類と濃度が異なるために屈折率が異なり、また接着細胞の厚さ(高さ)が異なる可能性がある。その場合、たとえばディッシュ底面に接着した細胞の下から上へ透過する光が透過により生じる光の位相差は、細胞の種類により異なるであろうというものである。
【0016】
光が細胞を透過することにより生じる光の位相差の値の求め方の例として、細胞内を透過するレーザー光の位相差を定量する顕微鏡(以下、「位相差定量顕微鏡」と記載することがある)を用いた方法が知られている。このような顕微鏡としては、例えば、試料(細胞)を透過したレーザー光と試料を置いていない参照面を透過したレーザー光により生じる干渉縞を8枚程度取得し、これらの光の間の位相差を定量する位相シフトレーザー顕微鏡(Phase-shifting laser microscope:PLM)(非特許文献4)や、試料から反射した光と参照光をある角度を持たせて干渉させ、試料のホログラムを作成し、位相差を求めるデジタルホログラフィック顕微鏡(Digital holographic microscope:DHM)(非特許文献5)が挙げられる。
【0017】
例えばPLMの場合には、ディッシュ培養器底面に接着した細胞のうち視野内にある細胞のすべての部分の位相差のすべてを非侵襲的に、短時間(約10秒以内)で定量できる(非特許文献6)。たとえば、PLMの1視野を1 mm四方(0.01 cm2)とすると、100 mmφディッシュ1枚の底面(55 cm2)に接着した全ての細胞の位相差の測定に要する時間は約15時間である。
【0018】
PLMの構造を図1に示す。試料を光軸の片側に設置し、光源からレーザー光を照射すると対物レンズによって試料の像が一度拡大され、さらに拡大レンズによって像が拡大される。拡大された試料の像はバイプリズムと呼ばれる特殊な形状のプリズムを通過する。このバイプリズムはレーザー光を中央に引き寄せるという働きを持っており、試料を透過したレーザー光と、光軸に対して反対側の試料のない部分(参照面)を透過してきたレーザー光が互いに中央に引き寄せられ、CCDカメラの画面上で重なる。このときCCDカメラの画面上には、試料を透過したレーザー光と透過していないレーザー光により干渉縞が形成される。この干渉縞はコンピュータに内蔵された画像取り込み装置によって画像化され、記録される。
【0019】
PLMは、電圧を加えることで体積を変化させる性質を持つピエゾ素子を内蔵させたステージにバイプリズムを搭載し、バイプリズムを光軸と直行する方向にコンピュータによって少しずつ定量的に動かし、複数の干渉縞画像を得る。それら複数の干渉縞画像を組み合わせ、コンピュータによって視野内の各座標における位相差を算出し、位相差の二次元分布を画像化することができる。
【0020】
干渉縞の形成原理を更に詳しく述べる。図2ではレーザー光の進み具合を模式的に表すため、レーザー光が描くサインカーブを頂上でつないで上から見てできた面、「波面」を用いている。また、図2では光軸の左側に試料を置いている。試料を透過したレーザー光は試料の屈折率の分だけ位相が遅れ、光軸の右側を通った参照光とCCDカメラの画面上で干渉を起こす。このようにして干渉縞が形成され、細胞の形態を干渉縞で観察することができる。PLMによって得られた位相差は以下の式で表される。ここでΛφは位相差値、λは透過したレーザー光の波長(=532 nm)、ncおよびnmはそれぞれ細胞、培養液の屈折率で、hcは細胞の厚さ(高さ)である。
【0021】
Λφ=2π/λ x(nc - nm)x hc
ところで、ガン化細胞は正常細胞に比べて細胞骨格が少ないことが知られている。たとえば、ヒト膀胱上皮ガン細胞株(Hu456、T24、BC3726)は、正常ヒト膀胱上皮細胞株(Hu609、HCV29)よりも細胞骨格が少ないために10倍ほど変形しやすい(非特許文献7)。また、ヒト乳ガン上皮(MCF-10)細胞は、正常ヒト乳腺上皮(MCF-7)細胞よりも細胞骨格であるF-アクチンが30%ほど少なく変形しやすい(非特許文献8)。他にも同様の報告がある(非特許文献9)。また、接着細胞において細胞質よりも細胞核の屈折率が大きく、核のある細胞中心部分の高さが最も高い傾向にあるため、細胞透過光の位相差は細胞中心部部分で最大値を示す傾向があると考えられている。さらに、ガン化細胞の細胞骨格を薬剤を用いてさらに減少させると、細胞の中心部分を透過した光の位相差が減少するとの報告もある(非特許文献10)。
【0022】
以上のことから、本発明者らは、ディッシュ底面に接着した細胞を、接着面に対して垂直に(上下方向に)透過する光の位相差の内、ガン化細胞の位相差は正常細胞の位相差より小さいと予測し、PLMを用いて実験した。その結果、肝臓細胞および前立腺上皮細胞について、ディッシュ底面に接着した各ガン化細胞の位相差は各正常細胞の位相差に比較して有意に小さいことを明らかにした(非特許文献11)。また、ガン化細胞の位相差が正常細胞の位相差に比べて小さい原因は、ガン化細胞のアクチン密度が正常細胞のアクチン密度より小さいことであることも示した(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【0023】

【非特許文献1】土屋利江ら、「腫瘍細胞の高感度検出法開発:NOGマウスにおける各種条件下での1及び10個腫瘍細胞増殖能」講演番号O-02-7、日本再生医療学会誌(増刊号) (第9回日本再生医療学会総会プログラム・抄録)、Vol.9, Suppl, p. 156 (2010).
【非特許文献2】Chan JW., Taylor DS., Lane SM., Zwerdling T., Tuscano J. and Huser T.: Nondestructive identification of individual leukemia cells by laser trapping Raman spectroscopy. Analytical Chemistry, 80, 2180-2187 (2008).
【非特許文献3】Notingher I., Jell G., Lohbauer U., Salih V. and Hench LL.: In situ non-invasive spectral discrimination between bone cell phenotypes used in tissue engineering. Journal of Cellular Biochemistry, 92, 1180-1192 (2004).
【非特許文献4】Endo J., Chen J., Kobayashi D., Wada Y. and Fujita H.: Transmission laser microscope using the phase-shifting technique and its application to measurement of optical waveguides. Appl. Opt., 41, 1308-1314 (2002).
【非特許文献5】Maquet P., Rappaz B., Magistretti P. J., Cuche E., Emery Y., Colomb T. and Depeursinge C.: Digital holographic microscopy: a noninvasive contrast imaging technique allowing quantitative visualization of living cells with subwavelength axial accuracy. Opt. Lett., 30, 468-470 (2005).
【非特許文献6】Takagi M., Kitabayashi T., Ito S., Fujiwara M. and Tokuda A.: Noninvasive measurement of three-dimensional morphology of adhered animal cells employing phase-shifting laser microscope. J Biomed Opt, 12(5), 54010-1-5 (2007).
【非特許文献7】Lekka M., Laidler P., Gil D., Lekki J., Stachura Z. and Hrynkiewicz AZ.: Elasticity of normal and cancerous human bladder cells studied by scanning force microscopy. Eur. Biophys. J., 28, 312-316 (1999).
【非特許文献8】Guck J., Schinkinger S., Lincoln B., Wottawah F., Ebert S., Romeyke M., Lenz D., Erickson HM., Ananthakrishnan R., Mitchell D., Kas J., Ulvick S. and Bilby C.: Optical deformability as an inherent cell marker for testing malignant transformation and metastatic competence. Biophys. J., 88, 3689-3698 (2005).
【非特許文献9】Cross SE., Jin YS., Rao J. and Gimzewski JK.: Nanomechanical analysis of cells from cancer patients. Nat. Nanotechnol., 12, 780-783 (2007).
【非特許文献10】Kemper B., Carl D., Schnekenburger J., Bredebusch I., Schafer M., Domschke W. and von Bally G.: Investigation of living pancreas tumor cells by digital holographic microscopy. J. Biomed. Opt., 11, 34005 (2006).
【非特許文献11】Tokumitsu A., Wakitani S. and Takagi M.: Noninvasive discrimination of human normal cells and malignant tumor cells by phase-shifting laser microscopy. J. Biosci. Bioeng., 109(5) May, 499-503 (2010).
【非特許文献12】Takagi M. and Tokunaga N.: Correlation between actin content and laser phase shift of adhesive normal and malignant prostate epithelial cells. J. Biosci. Bioeng., 115(3) January, 310-313 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
位相差定量顕微鏡を用いた細胞中心部分の透過光の位相差測定によって、ディッシュ底面に接着したガン化細胞と正常細胞とを非侵襲的に、かつ短時間で識別することが可能である。しかしながら、この従来方法の場合には識別の精度に問題があった。下記の参考例に示したように、従来方法の測定値に基づき横軸を位相差値範囲とし縦軸を細胞数としてガン化細胞および正常細胞それぞれについてヒストグラムを作成すると、ガン化細胞のヒストグラムの位相差が大きい部分と正常細胞のヒストグラムの位相差が小さい部分とが互いに重なる。すなわち、従来方法の場合には『ある位相差値を閾値とし、この閾値位相差値より小さい位相差の細胞はすべてガン化細胞で、この閾値位相差値より大きい位相差の細胞はすべて正常細胞である』というような位相差値が存在しなかったのである。
【0025】
再生医療等の移植目的で培養中の個々の細胞についてガン化細胞であるか正常細胞であるかを識別する実際の場面を考えると、1個でも細胞がガン化細胞と識別されると、基本的には安全性確保の観点から、同時に培養中の全細胞を廃棄する必要性に迫られる。正常細胞が誤ってガン化細胞と識別されると廃棄する必要のない培養物を廃棄することとなり、経済的に大きな損失となる。もちろん、ガン化細胞を誤って正常細胞と識別した場合には医療行為の安全性が大きく損なわれることになる。
【0026】
従って、培養中の細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する場合には、全てのガン化細胞はガン化細胞と識別し(感度100%)、全ての正常細胞は正常細胞として識別(特異度100%)できる確実性(感度100%かつ特異度100%)が必須である。
【0027】
本発明は、位相差定量顕微鏡を用いた正常細胞とガン化細胞の識別における「非侵襲性」および「迅速性」という利点に加え、判定の確実性(感度100%かつ特異度100%)をも実現する手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この出願は、前記の課題を解決する発明として以下を提供する。
【0029】
すなわち第1の発明は、細胞内を透過するレーザー光の位相差を定量する顕微鏡を用いて、接着培養細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する方法であって、
(1)被験細胞に対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定する工程、
(2)細胞の一端から他端を一直線で結ぶ線をX軸に、X線上の各位相差をY軸にプロットする工程、
を含み、
X-Y座標平面上にプロットした各点によって形成される形状が、中央付近が略水平な台形状の場合は被験細胞が正常細胞であり、中央付近を頂点とする三角形状の場合は被験細胞がガン化細胞であると判定することを特徴とする細胞識別方法である。
【0030】
第2の発明は、細胞内を透過するレーザー光の位相差を定量する顕微鏡を用いて、接着培養細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する方法であって、
(1)標準正常細胞と標準ガン化細胞のそれぞれに対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定する工程、
(2)標準正常細胞と標準ガン化細胞のそれぞれについて、各細胞の一端から他端を一直線に結ぶX軸の長さが全て同一となるように補正し、X軸上の各位相差のそれぞれの平均値を標準正常細胞の平均的位相差と標準ガン化細胞の平均的位相差としてそれぞれ算出する工程、
(3)被験細胞に対してレーザー光を照射して、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定し、細胞の一端から他端を一直線で結ぶX軸の長さを前記工程(2)と同一に補正して、このX軸上の各位相差を算出する工程、および
(4)標準正常細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値αと、標準ガン化細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値βをそれぞれ算出する工程、を含み、
差異の絶対値αが差異の絶対値βよりも小さい場合には被験細胞が正常細胞であり、差異の絶対値βが差異の絶対値αよりも小さい場合には被験細胞がガン化細胞であると判定することを特徴とする細胞識別方法である。
【0031】
前記第2の発明においては、同一長に補正したX軸の中央付近の任意の領域の位相差測定値から標準正常細胞および標準ガン化細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差を算出することを好ましい態様としている。また、標準正常細胞の平均的位相差が発明(1)の方法で正常細胞と識別された細胞の各位相差から算出された値であり、標準ガン化細胞の平均的位相差が発明(1)の方法でガン化細胞と識別された細胞の各位相差から算出された値とすることもできる。
【0032】
さらに、前記の各発明においては、被験細胞が、培養条件下で増殖または分化・増殖する過程でガン化する可能性のある細胞、培養条件下でガン化する細胞、または混合培養された正常細胞とガン化細胞であることをそれぞれ好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、接着培養された細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを、非侵襲的(生細胞のままの状態)かつ短時間(例えば、1つの視野は約10秒以内、100 mmφ培養ディッシュの全ての細胞は約15時間)で、しかも極めて確実(感度100%かつ特異度100%)に識別することが可能となる。
【0034】
被験細胞が、再生医療等に使用する細胞であり、その増殖や分化のための培養中にガン化する危険性のある場合には、ガン化細胞の出現を高精度で検出することができる。誤判定によって移植細胞にガン化細胞が混入する危険性や、正常細胞の不必要な破棄を防ぐことができる。
【0035】
被験細胞が、培養条件下でガン化する細胞である場合は、細胞がガン化する過程を極めて短い時間間隔で追跡することができる。
【0036】
また被験細胞が、混合培養された正常細胞とガン化細胞の場合は、ガン細胞に特異的に作用する薬剤等のスクリーニングに応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】位相シフトレーザー顕微鏡(PLM)の構造概略図である。
【図2】干渉縞を利用した位相差定量の概念図である。
【図3】参考例に示したPRECおよびPC-3各細胞内の位相差最大値(各細胞20個ずつ)をプロットしたグラフである。
【図4】実施例1で作成した細胞内の位相差分布を示す位相差鳥瞰図である。
【図5】図4の位相差鳥瞰図の任意の断面における位相差を線形化したグラフである。(A)(B)はPREC細胞(正常細胞)、(C)(D)はPC-3細胞(ガン化細胞)である。
【図6】実施例2で作成した細胞接着線上の平均的位相差分布グラフである。
【図7】実施例2で比較した各細胞の位相差測定値と平均的位相差との差異をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、PLMやDHMなどのような位相差定量顕微鏡を用いて接着培養細胞が正常細胞であるかガン化細胞であるかを識別する方法である。位相差定量顕微鏡は、図1にその原理を示したPLMのように、透明な培養ディッシュ底面に接着した細胞の接着面に略直交(例えば、細胞接着面に対して87度から93度の範囲の角度での直交)する方向に照射したレーザー光と参照光とによる干渉縞から位相差を測定する装置である。PLMを用いた非特許文献11の方法の場合には、顕微鏡視野内の細胞の全ピクセルについてレーザー光の位相差を測定し、細胞中心部における位相差最大値のみを指標として細胞識別を行うのに対して、本発明の場合には、細胞の一端から他端を一直線で結ぶ線上の各位相差を指標として細胞識別を行うことを特徴とする。

【0039】
第1発明の方法では、細胞の一端から他端を一直線で結ぶ線をX軸に、X線上の各位相差をY軸にプロットし、X-Y座標平面上の各点によって形成された形状が、中央付近が略水平な「台形状」であれば正常細胞であると判定し、中央付近を頂点とする「三角形状」の場合はガン化細胞であると判定する。後記の実施例に示したように、正常細胞とガン化細胞におけるこのような形状の違いは完全に区別可能であり(例えば、図5)、全てのガン化細胞はガン化細胞とて識別することができ(感度100%)、全ての正常細胞は正常細胞として識別することができる(特異度100%)。

【0040】
第2発明の方法では、正常細胞かガン化細胞かの判定基準値を予め設定し、被験細胞から得られた位相差値との比較によって細胞識別を行う。すなわち、先ず既存の標準正常細胞と既存の標準ガン化細胞のそれぞれについて、第1発明と同様の方法で位相差を測定する。そして、これらの位相差のそれぞれの平均値から標準正常細胞の平均的位相差と標準ガン化細胞の平均的位相差をそれぞれ算出する。一方、被験細胞に対しても同じく位相差を測定する。そして、
標準正常細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値α
標準ガン化細胞の平均的位相差と被験細胞の位相差との差異の絶対値β
とをそれぞれ算出し、αがβよりも小さい場合には被験細胞が正常細胞であり、βがαよりも小さい場合には被験細胞がガン化細胞であると判定する。後記の実施例に示したように(例えば、図7)、この方法の場合にも全てのガン化細胞はガン化細胞とて識別することができ(感度100%)、全ての正常細胞は正常細胞として識別することができる(特異度100%)。

【0041】
この第2の発明方法では、標準正常細胞と標準ガン化細胞は、被験細胞と同種の正常細胞とそのガン化細胞であってもよいし、別種の細胞でもよい。例えば、標準正常細胞は被験細胞と同一の組織または別組織から単離した初代正常細胞であり、標準ガン化細胞は被検細胞と同一組織または別組織から単離したガン細胞株である。また標準ガン化細胞は、正常細胞を人為的にガン化した細胞であってもよい。例えば、発癌性物質との接触や癌遺伝子による形質転換によってガン化した細胞、あるいは癌幹細胞をガン細胞へと分化した細胞などである。標準正常細胞および標準ガン化細胞はそれぞれ1個でもよいが、好ましくは複数個(10個、好ましくは20個、さらに好ましくは30個以上)の細胞について位相差を測定し、判定基準値である平均的位相差を得ることが好ましい。

【0042】
またこの第2発明の方法においては、同一長に補正したX軸の中央付近の任意の領域の位相差測定値を対象とすることもできる。後記実施例の図5および図6に示したように、正常細胞およびガン化細胞のそれぞれの位相差をX-Y座標平面上にプロットした場合には中央付近の形状が最も異なる。従って、前記の「任意の領域」とは、正常細胞とガン化細胞とでX-Y座標平面の形状が最も異なる領域であり、例えば、各細胞の一端から他端を一直線に結ぶX軸の長さを全て1と補正した場合に、中央付近を含むX座標が0.1から0.9の領域、好ましくは0.2から0.8の領域、特に好ましくは0.3から0.7の領域である。もちろんこの任意領域は上記の範囲に限定されるものではなく、被験細胞の種類等によって適宜に設定することができる。例えば、標準正常細胞と標準ガン化細胞のそれぞれについて図6に示すような平均的位相差分布グラフを作成し、両者が最も異なる領域を細胞毎に設定してもよい。このような任意領域を対象として判定基準値(平均的位相差)と被験細胞の位相差とを比較することによって、細胞識別の精度をさらに向上させることができる。

【0043】
さらにまた、この第2発明の方法における判定基準値は、第1発明で正常細胞(台形状)およびガン化細胞(三角形状)と判定されたそれぞれの細胞の位相差値から算出することもできる。例えば、第1発明の方法によって、必要な標準正常細胞データおよび標準ガン化細胞データが得られた段階で、これらのデータから算出した判定基準に基づき、第1発明の方法(目視による形状判定)から第2発明の方法(計算機による数値判定)へと切り替えることもできる。この場合、標準正常細胞、標準ガン化細胞および被験細胞は全て同一起源の細胞となる。

【0044】
本発明において識別対象となる細胞は、例えば、再生医療等に使用するヒトまたはドナー動物(ブタ等)の皮膚細胞、軟骨細胞、骨細胞、血管細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、神経細胞などである。これらの細胞は、例えば、ヒトまたは動物の所定組織から単離し、培養した細胞、あるいはES細胞やiPS細胞から分化させた細胞である。

【0045】
識別対象となる細胞はまた、培養条件下でガン化する細胞、例えば、発癌性物質の存在下で培養された細胞、癌遺伝子を形質導入された細胞、あるいは癌幹細胞等である。本発明方法は、細胞が正常細胞の状態であるかガン化した状態であるかを極めて短時間で、かつ連続的に判定することが可能なため、正常細胞がガン化する過程を経時的に観察することができる。このようなガン化過程の観察は、例えば、抗ガン剤やガン予防剤のスクリーニング系として利用できる。

【0046】
識別細胞は、混合培養された正常細胞とガン化細胞であってもよい。例えば、同一組織の正常細胞とガン化細胞の混合培養の場合、ガン化細胞に対して特異的な細胞傷害作用を有し、正常細胞への傷害性が少ない物質のスクリーニング系として利用できる。このようなスクリーニングは、例えば、正常細胞とガン化細胞を混合してコンフルエントに培養し、被験物質を添加して所定時間後の正常細胞とガン化細胞の割合を比較することで行うことができる。被験物質がガン化細胞に特異的に作用する場合には、死滅したガン化細胞の領域に正常細胞が増殖して、両者の割合が変化する。

【0047】
以下、実施例を示して本発明はさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
[参考例]

【0048】
正常ヒト前立腺上皮細胞(PREC)およびヒト前立腺ガン細胞(PC-3)をそれぞれ10% FCS含有DMEM/F12培地、10% NBS含有Ham's F12培地を用いて、播種密度1.5 x 103 cells/cm2で35 mmφディッシュに播種し、37℃、5% CO2雰囲気下で48時間静置接着培養した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PLM(測定波長 532 nm、エフケー光学研究所)で20細胞ずつについて細胞内の全ピクセルについて位相差を測定し、個々の細胞内での最大位相差を求めた。

【0049】
その結果、PRECとPC-3における最大位相差の平均値はそれぞれ6.03と4.49 radとなり、ガン化細胞の位相差は対応する正常細胞よりも低い値だった。しかし、PREC細胞、PC-3細胞の各20細胞の位相差最大値をプロットした図3に示すように、PRECの位相差とPC-3の位相差との境界は得られなかった。
【実施例1】
【0050】
正常ヒト前立腺上皮細胞(PREC)およびヒト前立腺ガン細胞(PC-3)をそれぞれ10% FCS含有DMEM/F12培地、10% NBS含有Ham's F12培地を用いて、播種密度1.5 x 103 cells/cm2で35 mmφディッシュに播種し、37℃、5% CO2雰囲気下で48時間静置接着培養した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PLM(測定波長 532 nm、エフケー光学研究所)で細胞内の全ピクセルについて位相差を測定し、細胞内の位相差分布を示す位相差鳥瞰(図4)を作成した。
【実施例1】
【0051】
図4は、細胞接着面を含む平面(X-Z座標)の各点における位相差の値を上方向にプロットしたものであり、位相差が低いものから高いものへの順番に従い紺色、水色、緑色、黄色、赤色と色分けしてある。細胞接着面を含む平面の2つの座標軸のうち、右手前に伸びているのがX軸、右奥へ伸びているのがZ軸とする。
【実施例1】
【0052】
図4から明らかなように、PREC細胞では位相差が高い部分が細胞内に広く分布している台地状であるのに対して、PC-3細胞では位相差が高い部分が細胞中心部に近い一部分だけである尖った山状であることが確認された。
【実施例1】
【0053】
図4は位相差の分布を3次元的に示しているが、細胞接着面を含む平面の2つの座標軸X軸およびZ軸のいずれか一方に平行な直線について各位相差の線形状を見ると、正常細胞は中央付近が略水平な台形状であり、ガン化細胞は中央付近を頂点とする三角形状であることが確認された(図5)。
【実施例2】
【0054】
正常ヒト前立腺上皮細胞(PREC)およびヒト前立腺ガン細胞(PC-3)について実施例1で得たデータに基づき、各細胞の接着面上で図4のX軸に平行な直線のうちで、内各細胞内の位相差が最大となった接着面上の点を通る線を「細胞接着線」とした。細胞接着線の長さは個々の細胞により異なるため、すべての細胞について細胞接着線の長さを1と正規化した。すなわち、細胞接着線の左端のX座標を0とし、細胞接着線の右端のX座標を1とした。
【実施例2】
【0055】
位相差を測定した10個のPREC細胞および10個のPC-3細胞について、正規化後のX座標(0~1)に対する位相差測定値の平均値を算出し、この平均値と最小二乗法を用いてそれぞれの細胞の平均的位相差を算出し、これらの値から「細胞接着線上の平均的位相差分布グラフ」を作成した(図6)。その結果、PREC細胞およびPC-3細胞について、左右対称に近い「細胞接着線上の平均的位相差分布グラフ」が得られた。この図6のグラフは、図5に示した個々のPREC細胞およびPC-3細胞の位相差に基づく線形状と同様に、正常細胞(PREC細胞)は中央付近が略水平な台形状であり、ガン化細胞(PC-3)は中央付近を頂点とする三角形状である。
【実施例2】
【0056】
次に、同じく正常ヒト前立腺上皮細胞(PREC)およびヒト前立腺ガン細胞(PC-3)のそれぞれ20細胞について細胞内の全ピクセルの位相差を測定し、細胞接着線上のX座標を正規化した。次式に基づき、0~1のX座標上の位相差測定値と、上記の平均的位相差(「細胞接着線上の平均的位相差分布グラフ」の位相差値)との差異を算出した。
JP2015076311A1_000003t.gif
【実施例2】
【0057】
PREC細胞およびPC-3細胞の各20個について、PREC細胞の平均的位相差との差異とPC-3細胞の平均的位相差との差異の両方をプロットした図7を示した。すべてのPREC細胞ではPREC細胞の平均的位相差との差異の方がPC-3細胞の平均的位相差との差異よりも小さく、すべてのPC-3細胞ではPC-3細胞の平均的位相差との差異の方がPREC細胞の平均的位相差との差異よりも小さかった。
【実施例2】
【0058】
すなわち、PREC細胞(正常細胞)の平均的位相差との差異の方がPC-3細胞(ガン化細胞)の平均的位相差との差異よりも小さい細胞はPREC細胞(正常細胞)であり、PC-3細胞(ガン化細胞)の平均的位相差との差異の方がPREC細胞(正常細胞)の平均的位相差との差異よりも小さい細胞はPC-3細胞(ガン化細胞)であると100%の確度で判定することが可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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