TOP > 国内特許検索 > 貴金属の回収方法 > 明細書

明細書 :貴金属の回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6230033号 (P6230033)
登録日 平成29年10月27日(2017.10.27)
発行日 平成29年11月15日(2017.11.15)
発明の名称または考案の名称 貴金属の回収方法
国際特許分類 C22B   3/18        (2006.01)
C22B  11/00        (2006.01)
C12N   1/16        (2006.01)
FI C22B 3/18
C22B 11/00 101
C12N 1/16 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2015-555080 (P2015-555080)
出願日 平成26年12月28日(2014.12.28)
国際出願番号 PCT/JP2014/084726
国際公開番号 WO2015/099189
国際公開日 平成27年7月2日(2015.7.2)
優先権出願番号 2013273690
優先日 平成25年12月28日(2013.12.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年7月25日(2016.7.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】小西 康裕
【氏名】斎藤 範三
【氏名】岸田 正夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査官 【審査官】國方 康伸
参考文献・文献 特表2009-541593(JP,A)
Hyun-ah Lim、他2名,Effect of pH on the Extra Cellular synthesis of Gold and Silver Nanoparticles by Saccharomyces cerevisae,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2011年 1月,Vol.11, No.1,Page 518-522,ISSN:1533-4880
小西 康裕,金属イオン還元細菌を用いるバイオミネラリゼーションによる貴金属ナノ粒子触媒の創製,触媒,2013年 8月10日,Vol.55, No.4,Page 232-238
二井手 哲平、他4名,有価金属回収のためのバイオマテリアルの開発,化学工学会年会研究発表講演要旨集,2010年 2月18日,75th, B121,Page 55
高橋 克矢、他3名,パン酵母の色素及び金属イオン吸着特性,化学系学協会等北大会プログラムおよび講演予稿集,2006年 9月22日,Vol.2006,Page 149
調査した分野 C22B 1/00-61/00
C12N 1/16
CiNii
Google Scholar
JSTPlus/
JMEDPlus/
JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
貴金属イオンを含む液体中で酵母と前記貴金属イオンを接触させて、酵母の菌体内に還元体である貴金属を蓄積させる工程を有する貴金属回収方法。
【請求項2】
前記貴金属イオンを含む液体は、電子供与体の無添加溶液である請求項1に記載の貴金属回収方法。
【請求項3】
前記貴金属イオンを含む液体は、電子供与体の添加溶液である請求項1に記載の貴金属回収方法。
【請求項4】
前記貴金属イオンは、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上のイオンである請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項5】
サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属の酵母の何れか1種又は2種以上の酵母と接触させる請求項1~4の何れか1項に記載の貴金属回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低品位鉱物や工場排水、植物などから微生物を用いて金属を回収する方法が知られている。例えば、特許文献1(特開2011-52315号公報)には、特定の金属イオンを吸着する酵母にこの特定金属を吸着させた後にキレート剤を用いて回収する方法が開示されている。特許文献2(特開平11-77008号公報)には、水産廃棄物を乳酸菌と酵母と炭化水素を含む水溶液中に浸漬して発酵処理した後に回収する方法が開示されている。特許文献3(特開2004-33837号公報)には、重金属を含む植物を乳酸菌と酵母と糖を含む培養液に浸漬することで重金属を解離した後にキレート剤を用いて回収する方法が開示されている。また、特許文献4(特開2003-284556号公報)や特許文献5(特表2009-538127号公報)には、金属を捕捉又は吸着するタンパク質をコードする遺伝子を形質転換した酵母などの形質転換体を用いて、金属を回収する方法が開示されている。特許文献4に示された当該タンパク質はヒスチジンポリプチドであって、特許文献4には金属イオンとして回収されることが示されている。特許文献5に示された当該タンパク質はフィトケラチン合成酵素又はメタロチオネインであって、金属とタンパク質の複合体として回収されることが示されている。
【0003】
しかしながら、これらの方法は金属を金属イオンとして回収する方法であり、これらの方法では、金属として回収するためには回収した金属イオンを還元させる操作やさらにはタンパクとの複合体から金属イオンを分離する操作が必要となる。
【0004】
一方、特許文献6(特開2007-113116号公報)には、鉄還元細菌を作用させて、金属酸化物や金属水酸化物から金属を回収する方法が記載されている。この方法では、鉄還元細菌の菌体内に金属(還元体)として回収できる。
【0005】
しかしながら、この方法は鉄還元細菌の鉄還元作用を利用する方法であるので、培地には電子供与体が必要となる。また、鉄還元細菌の菌体は小さいので溶液からの細菌の回収が困難であるという問題もあった。
【0006】
また、鉄還元細菌以外には、非特許文献1に、自然界から単離されたDelftia acidovoransが細胞外に分泌する代謝物が、培養液中の3価のAuイオンをAuナノ粒子に還元・析出させることが記載されているが、これまでのところ、酵母が貴金属イオンを還元して金属として菌体内に蓄積することは知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2011-52315号公報
【特許文献2】特開平11-77008号公報
【特許文献3】特開2004-33837号公報
【特許文献4】特開2003-284556号公報
【特許文献5】特表2009-538127号公報
【特許文献6】特開2007-113116号公報
【0008】

【非特許文献1】ネイチャー ケミカルバイオロジー、9、241、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、酵母の還元力を利用して貴金属イオンをその還元体である貴金属として回収する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る方法は、貴金属イオンを含む液体中で酵母と前記貴金属イオンを接触させて、酵母の菌体内に還元体である貴金属を蓄積させる工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、酵母を用いて貴金属イオンを還元して還元体である貴金属として回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はサッカロマイセス・セレビシエ及びデバリオマイセス・ハンセンイーによる金の還元結果を示すグラフである。B株はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae BY4741株)、D株はデバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii NITE BP-01780)である。
【図2】図2はギ酸塩の存在下で金イオンと24時間接触させた後の酵母(B株)のTEM画像である。
【図3】図3はサッカロマイセス・セレビシエ及びデバリオマイセス・ハンセンイーによるパラジウムの還元結果を示すグラフである。B株はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae BY4741株)、D株はデバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii NITE BP-01780)である。
【図4】図4はギ酸塩の存在下でパラジウムイオンと24時間接触させた後の酵母(B株)のTEM画像である。
【図5】図5はパン酵母(出芽酵母 Saccahromyces cerevisiae NBRC 2044株)による金の還元結果を示すグラフである。
【図6】図6は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe FY15985株)による金の還元結果を示すグラフである。
【図7】図7は味噌酵母(Zygosaccharomyces rouxii NBRC 1130株)による金の還元結果を示すグラフである。
【図8】図8はギ酸塩の存在下で金イオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)を乾燥(50℃、48時間)させて測定した粉末X線回析の結果を示す回析図である。
【図9】図9はギ酸塩の存在下で金イオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)のTEM画像と、その酵母の一部を拡大した画像である。
【図10】図10はギ酸塩の存在下で金イオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)のEDX分析結果を示す画像であって、(a)はHAADFによる画像を、(b)は金元素のマッピング後の画像である。同図(a)の白い部分は金粒子を示し、同図(b)において当該白い部分がマッピングされている。
【図11】図11はパン酵母(出芽酵母 Saccahromyces cerevisiae NBRC 2044株)によるパラジウムの還元結果を示すグラフである。
【図12】図12は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe FY15985株)によるパラジウムの還元結果を示すグラフである。
【図13】図13は味噌酵母(Zygosaccharomyces rouxii NBRC 1130株)によるパラジウムの還元結果を示すグラフである。
【図14】図14はギ酸塩の存在下でパラジウムイオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)を乾燥(50℃、48時間)させて測定した粉末X線回析の結果を示す回析図である。
【図15】図15はギ酸塩の存在下でパラジウムイオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)のTEM画像と、その酵母の一部を拡大した画像である。
【図16】図16はギ酸塩の存在下でパラジウムイオンと24時間接触させた後のパン酵母(出芽酵母 S. cerevisiae)のEDX分析結果を示す画像であって、(a)はHAADFによる画像を、(b)はパラジウム元素のマッピング後の画像である。同図(a)の白い部分はパラジウム粒子を示し、同図(b)において当該白い部分がマッピングされている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る方法は、貴金属イオンを含む液体中で酵母と前記貴金属イオンを接触させて、酵母の菌体内に還元体である貴金属を蓄積させる工程を有する方法である。つまり、本発明は、酵母が有する還元力を利用して貴金属イオンを貴金属として回収することに特徴がある。

【0014】
従って、本発明で使用し得る酵母は菌体内で貴金属イオンを還元できる酵母であればいずれの酵母でもよい。本発明において酵母はサッカロマイセス属に限られず、その他の酵母を含む広義の意味で用いられる。本発明で使用できる酵母は、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)やカンジダ属(Candida)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の酵母であり、この中でも特にサッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属やデバリオマイセス属に属する酵母が好ましい。サッカロマイセス属の酵母は出芽酵母の代表的な酵母であって、例えば、S. bayanusであり、S. boulardiiであり、S. bulderiであり、S. cariocanusであり、S. cariocusであり、S. cerevisiaeであり、S. chevalieriであり、S. dairenensisであり、S. ellipsoideusであり、S. florentinusであり、S. kluyveriであり、S. martiniaeであり、S. monacensisであり、S. norbensisであり、S. paradoxusであり、S. pastorianusであり、S. spencerorumであり、S. turicensisであり、S. unisporusであり、S. uvarumであり、S. zonatusであり得る。ジゴサッカロマイセス属は耐塩性の酵母であって、味噌や醤油などから分離される酵母であり、例えばZ. rouxiiであり得る。シゾサッカロマイセス属の酵母は分裂酵母であり、例えばS. cryophilusであり、S. japonicusであり、S. octosporusであり、S. pombeであり得る。また、好ましい酵母として受託番号NITE BP-01780(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター)で寄託されたデバリオマイセス属の酵母(Debaryomyces hansenii)も例示される。

【0015】
本発明に係る方法で回収可能な金属は、貴金属である。具体的には、金及び白金族金属であり、より具体的には金であり、銀であり、白金であり、パラジウムであり、ロジウムであり、イリジウムであり、ルテニウムであり、オスミウムであり得る。

【0016】
これら貴金属の貴金属イオンと酵母との接触は液体中で行われる。酵母は生菌でもよく、また還元機能が発揮される限り死菌であってもよい。液体は酵母の機能が発揮される環境であればよい。例えば、水のみであってもよく、水にリン酸水素カリウムなどのpH調整剤及び/又は塩化ナトリウム(酵母の懸濁に用いる生理食塩水に由来する塩化ナトリウムや等張にするための塩化ナトリウム)のみを加えた液体であり得る。また、当該液体は、電子供与体を人為的に加えた溶液(添加溶液)であり、電子供与体を人為的に加えない溶液(無添加溶液)でもあり得る。電子供与体は、例えば、低分子の有機酸及び/又はその塩やアルコール類、水素ガスであり得る。有機酸は、例えば、ギ酸や酢酸、乳酸などの炭素数1~7の脂肪族カルボン酸、安息香酸などの炭素数1~7のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸、ピルビン酸、オキソカルボン酸であり得る。アルコール類は、例えば、メタノールやエタノールなどの炭素数1~7の脂肪族アルコールであり得る。これらの電子供与体の添加は貴金属イオンの還元に貢献し、貴金属イオンの還元量(還元力)を増加し得る。なお、本発明では、電子供与体から供給される電子の最終受容体は金属イオンであると考えられることより、電子受容体の添加は必須ではない。

【0017】
また、当該液体は、酵母の生育に必要な栄養素を必須とはしないが、酵母の生育に最低限必要な栄養素(窒素源や炭素源)を含む液体でもあり得る。このような栄養素は酵母の培養に用いられる栄養素であり、例えば、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、酵母エキス、肉エキス、ブイヨン、ポリペプトンやペプトンであり得る。栄養素を含む場合、酵母と接触させる液体は、貴金属イオンを含む液体中にこれらの栄養素が添加され、あるいはこれらの栄養素を含む溶液中に回収する貴金属イオンを含む液体を添加することで調製される。栄養素を含む液体は、例えば、酵母用に特化されたYPD培地であり、汎用培地であるブイヨン培地で有り得る。

【0018】
貴金属イオンを含む液体は回収対象物から公知の方法で調製され得る。その調製法は、例えば、土壌であれば水に懸濁して必要に応じて酸処理を行う方法であり、鉱物や合金であれば酸処理を行い必要に応じてろ過や中和処理を行う方法である。回収対象物は、貴金属イオンとして取り出せる対象物であればよく、塩であるか合金のような金属であるかを問わず、又液体であるか固体であるかを問わず、前記の貴金属又は貴金属イオンを含むものであれば特に限定されない。貴金属イオンを含む液体は、前記貴金属以外の非貴金属や非貴金属イオンを含むものであっても差し支えない。

【0019】
酵母と接触させる液体のpHや温度は当業者が適宜設定できる事項である。液体のpHは好ましくは7前後の中性からpH5程度の弱酸性であり、温度は好ましくは25~35℃である。接触時間は、酵母の菌体密度や貴金属イオンの濃度によっても異なるが、概ね1時間から48時間であり、この程度の時間、酵母と接触させることで貴金属イオンは酵母の菌体内で還元され、貴金属(粒)として酵母の菌体内に蓄積される。また、酵母との接触中は液体を振とうすることが好ましい。液体中の貴金属イオンが酵母表面に拡散する移動速度が高まるからである。

【0020】
酵母と接触させる液体の貴金属イオン濃度も当業者が適宜設定できる事項である。貴金属イオン濃度は、酵母の菌体濃度によっても異なるが、概ね0.01~100mmol/lであり、好ましくは0.1~10mmol/lである。電子供与体の添加量も適宜設定され得る。電子供与体の添加量は金属種や菌体数によっても異なるが、上記の貴金属イオン濃度であれば、酵母と接触させる液体中の濃度は、概ね0.01~1000mmol/lであって、貴金属イオン濃度と同程度かそれ以上、好ましくは10倍程度である。

【0021】
貴金属イオンと接触した後の酵母の菌体を破壊することで還元された貴金属は貴金属粒(貴金属結晶)として回収される。回収された金属粒の密度は高いので菌体を破壊した溶液中に沈殿し、その沈殿物は公知の方法で簡単に回収される。また、酵母の菌体を回収した後に菌体から貴金属を回収してもよい。例えば、回収した酵母を燃やして貴金属粒又は貴金属塊として回収する方法が例示される。

【0022】
このように本発明の方法は、酵母の還元力を利用して酵母の菌体中に貴金属イオンを金属(粒)として回収する方法なので、酵母からの回収が容易である。また、酵母菌体は鉄還元細菌の菌体よりも大きいので(鉄還元菌体は1ミクロン程度であるのに対して、酵母菌体は5ミクロン程度である)、菌体の固液分離が鉄還元細菌の菌体よりも容易である。

【0023】
以下、本発明について下記実施例に基づいてさらに説明するが、本発明は下記実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0024】
酵母の代表菌であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae、BY4741株:B株)と、カドミウム耐性酵母であるデバリオマイセス・ハンセンイー(Debaryomyces hansenii:D株)を使用した。このデバリオマイス・ハンセンイーは次のようにして単離され、受託番号NITE BP-01780で、国際寄託当局である日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2013年12月6日付で寄託された。
【実施例1】
【0025】
〔Debaryomyces hansenii(D株)の単離〕
種々の酒粕・味噌等の発酵塩性食品から酵母をスクリーニングした。単離源試料を滅菌水に懸濁し、験濁液を13%のNaClを含むYPD(2%グルコース、0.5%酵母エキス、0.5%ペプトン)平板培地に塗布し、30℃、48時間培養後、生育してきたコロニーを単離した。単離した菌株を検鏡により酵母を選別した。得られた耐塩性酵母菌株を200μMの塩化カドミウムを含むYPD液体培地に接種後、30℃で静置培養した。72時間目までに生育した菌株の菌体カドミウム含量を計測し、前記のSaccharomyces cerevisiae B株よりも多い量のカドミウムを含有する株を単離した。
【実施例1】
【0026】
(金の回収)
上記2株の酵母をそれぞれYPD培地に接種した後、30℃、48時間静置培養した。培養した菌体を回収した後、1.0mmol/m3の金イオン(Au3+)を含む塩化金の水溶液に、B株の菌体濃度が0.8×10cells/ml、D株の菌体濃度が1.0×10cells/mlとなるようにそれぞれ酵母を加えた。酵母を加えた後、30℃で静置し、溶液の金濃度の変化及び溶液の色調変化を調べた。また、電子供与体としてギ酸ナトリウムを50mmol/m3となるように加えた場合、同じく水素ガスを溶液中に供給した場合についても同様の実験を行った。その結果を図1に示した。また、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)を用いて、ギ酸ナトリウムの存在下24時間接触後の酵母を撮影した。その結果を図2に示した。
【実施例1】
【0027】
図1から分かるように、電子供与体の有無を問わず、全ての株においてpHは6.5~6.6に保たれた一方で、溶液のAu濃度は低下した。また、24時間接触後の溶液の色は全ての系において、実験開始前の黄色からレモン色であったのが淡い紫色からピンク色に変化していた。金属の超微粒子が特定の波長の光を吸収する現象(プラズモン吸収)はよく知られた現象であり、この現象によって金属微粒子が存在すると色変化が観察され、色の変化は金属微粒子の大きさや種類によって異なる。プラズモン吸収を生じると、金ナノ粒子は「紫色からピンク色(粒子径で色が変化)」を示すことが一般に知られている。この結果、溶液中に金属微粒子が生成されたと判断された。また、図2に示すように、TEM画像からも、酵母の菌体外ではなく酵母の菌体内にAuの金属微粒子が確認された。これらのことから、電子供与体の存在の有無に拘わらず、これらの酵母はAuイオンを還元し、菌体内にAuを蓄積すると判断される。
【実施例1】
【0028】
(パラジウムの回収)
濃度1.0mmol/lの塩化パラジウムの水溶液に、上記と同濃度の酵母を加え、電子供与体としてギ酸ナトリウム、乳酸ナトリウムを用いて金の場合と同様の実験を行った。その結果を図3に示す。また、ギ酸ナトリウムの存在下で24時間接触した後の酵母のTEM画像を図4に示す。溶液の色も全ての系において、黄色からレモン色であったのが、D株ではギ酸ナトリウムの存在下では約2.5時間後に、また、乳酸ナトリウムの存在下では約4時間後に黒色に変化していた。また、B株でも24時間後には黒色に変化していた。パラジウムのナノ粒子はプラズモン吸収により黒色を示すことが知られている。これらのことから、電子供与体の存在下で、酵母はPdイオンを還元して菌体内にPdを蓄積することが確認された。
【実施例2】
【0029】
次に、B株、D株とは異なる3株の酵母を用いて同様の実験を行った。パン酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae NBRC 2044株)、分裂酵母としてシゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe FY15985株)、味噌酵母としてジゴサッカロマイセス・ルキシ(Zygosaccharomyces rouxii NBRC 1130株)を用いた。
【実施例2】
【0030】
(金の回収)
1.27mmol/m3の金イオン(Au3+)を含む塩化金の水溶液に、菌体濃度が1.5×1015cells/mlとなるように酵母を加えた。酵母を加えた後、30℃で静置し、溶液の金濃度の変化及び溶液の色調変化を調べた。また、電子供与体としてギ酸ナトリウムを50mmol/m3となるように加えた場合についても同様の実験を行った。その結果を図5~7に示した。図中のパーセンテージは、24時間後の濃度の低下割合を示す。この間、溶液のpHは6.5~6.7に保たれていたが、溶液の金イオン濃度は低下した。また、溶液の色はギ酸ナトリウムの存在下でピンク色から紫色に変色しており、金イオンの還元が認められた。なお、対照であるギ酸ナトリウムのみを加えた場合には、酵母によるバイオ還元が顕著に起こる酵母添加直後の時間内では、金イオン濃度の顕著な低下が見られず、この間には化学還元が起こっていないことが確認された(図示せず)。その一方、ギ酸ナトリウムを加えない場合にも金イオン濃度の低下が認められており、これらの酵母において、電子供与体の非存在下では還元だけでなくイオンの吸着及び吸収が生じていると考えられる。また、ギ酸ナトリウムの存在下で金イオンと接触させた後のパン酵母について粉末X線回析を行った結果、金イオンが還元されて金(金属)が生産されることが確認された(図8参照)。そして、酵母菌体内に金粒子が蓄積されることは、当該酵母のTME画像やEDXマッピングからも確認された(図9、図10参照)。
【実施例2】
【0031】
(パラジウムの回収)
1.2mmol/m3のパラジウムイオン(Pd2+)を含む塩化パラジウムの水溶液に、菌体濃度が1.5×1014cells/ml(但し、パン酵母は1.5×1015cells/ml)となるように酵母を加えた。酵母を加えた後、30℃で静置し、溶液のパラジウム濃度の変化及び溶液の色調変化を調べた。また、電子供与体としてギ酸ナトリウムを50mmol/m3となるように加えた場合についても同様の実験を行った。その結果を図11~13に示した。図中のパーセンテージは、24時間後の濃度の低下割合を示す。この間、溶液のpHは6.5~6.7に保たれていた一方、溶液のパラジウムイオン濃度は低下した。また、溶液の色はギ酸ナトリウムの存在下で黒色に変色しており、パラジウムイオンの還元が認められた。なお、対照であるギ酸ナトリウムのみを加えた場合には、酵母によるバイオ還元が顕著に起こる酵母添加直後の時間内では、パラジウムイオン濃度の顕著な低下が見られず、この間には化学還元が起こっていないことが確認された(図示せず)その一方、ギ酸ナトリウムを加えない場合にもパラジウムイオン濃度の低下が認められており、これらの酵母において電子供与体の非存在下では還元よりもイオンの吸着及び吸収が生じていると考えられる。また、ギ酸ナトリウムの存在下でパラジウムイオンと接触させた後のパン酵母について粉末X線回析を行った結果、パラジウムイオンが還元されてパラジウム(金属)が生産されることが確認された(図14参照)。そして、酵母菌体内にパラジウム粒子が蓄積されることは、当該酵母のTME画像やEDXマッピングからも確認された(図15、図16参照)。
【実施例2】
【0032】
これらの結果から、電子供与体の非存在下における酵母B株、D株及び分裂酵母に限定されず、電子供与体の存在下ではパンや味噌など発酵に広く利用されている酵母を代表とする各種の酵母は貴金属の還元に利用できると言える。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、酵母を用いて溶液中の貴金属イオンを貴金属として回収する方法を提供する。
【0034】
JP0006230033B2_000002t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15