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明細書 :発現カセット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 発現カセット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/00 C
C12Q 1/04
国際予備審査の請求
全頁数 35
出願番号 特願2015-560046 (P2015-560046)
国際出願番号 PCT/JP2015/052727
国際公開番号 WO2015/115610
国際出願日 平成27年1月30日(2015.1.30)
国際公開日 平成27年8月6日(2015.8.6)
優先権出願番号 2014016814
2014016816
優先日 平成26年1月31日(2014.1.31)
平成26年1月31日(2014.1.31)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】間世田 英明
【氏名】上手 麻希
出願人 【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B064
Fターム 4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QX02
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
要約 本発明は、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列を含む新規発現カセット、並びにこれを用いた発現誘導システム、及び薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列を含む発現カセット。
【請求項2】
前記式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数)であり、前記式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)である、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に開始コドン及び/又はプロモーターが配置されている、請求項1又は2に記載の発現カセット。
【請求項4】
5’側から順に、プロモーター、開始コドン、前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列が配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の発現カセット。
【請求項5】
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列を含むプロモーターを含む、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記プロモーターが刺激応答性プロモーターである、請求項3~5のいずれかに記載の発現カセット。
【請求項7】
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列の3’側にORFが配置されている、請求項1~6のいずれかに記載の発現カセット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の発現カセットを含む、発現ベクター。
【請求項9】
5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体を培養する工程を含むタンパク質発現方法。
【請求項10】
前記発現カセットが5’側から順にプロモーター、開始コドン、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットであって、
式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1(ただし、nは整数)であるか、或いは
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+2(ただし、nは整数)であり、
式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+2(ただし、pは整数)であるか、或いは
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1(ただし、pは整数)である、
請求項9に記載のタンパク質発現方法。
【請求項11】
前記発現カセットが、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーター、ORFが配置されている発現カセットであって、
該プロモーターが、前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列が欠失することにより、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入されることにより、転写活性が変化するプロモーターである、
請求項9に記載のタンパク質発現方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれかに記載の方法で発現させたタンパク質を回収する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項13】
(工程a)5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体と、被検物質とを接触させる工程、
(工程b)被検物質と接触させた形質転換体(被検形質転換体)、及び被検物質を接触させない形質転換体(対照形質転換体)における、前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の欠失率、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入される率(挿入率)を測定する工程、及び
(工程c)被検形質転換体における欠失率又は挿入率が、対照形質転換体における欠失率又は挿入率よりも低い場合に、前記被検物質を薬剤耐性化抑制剤候補物質として選択する工程、
を含む薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記発現カセットが、5’側から順にプロモーター、開始コドン、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットであって、前記式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数)であり、前記式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)である、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記発現カセットが、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーター、ORFが配置されている発現カセットである、請求項13に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規発現誘導システムを可能にする発現カセット、並びにこれを利用したタンパク質の発現方法、及び薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多様な分野において組換えタンパク質の発現技術が利用されている。例えば、医薬分野においては、インスリン等のタンパク質製剤を、大腸菌や酵母に導入した遺伝子から発現させることによって生産している。また、抗体作製、タンパク質の機能解析、タンパク質の立体構造解析等に用いられるタンパク質の調製にも、組換えタンパク質の発現技術が利用されている。
【0003】
ただ、目的タンパク質を例えば大腸菌等の細菌内で発現させる場合、該タンパク質の機能により細胞の増殖が阻害され、結果として効率的に目的タンパク質を得られないことがある。したがって、通常、ある程度細菌が増殖した段階で目的タンパク質の発現が誘導されるようなシステムを利用する(非特許文献1)。
【0004】
例えば、細菌の対数増殖期にIPTGを添加することにより、IPTG応答性のプロモーター(lacプロモーター等)を活性化させ、タンパク質の発現を誘導するというシステムが知られている。また、別の例としては、2種類の炭素源を含む培地で培養することによって、細菌の増殖に伴う利用炭素源の切替えによってタンパク質の発現が誘導されるというシステムが知られている。
【0005】
上記各種発現誘導システムそれぞれは、その原理が異なるが故に、発現の誘導時期、誘導される細菌の割合、発現誘導が細菌の増殖に与える影響等が異なる。例えば、IPTGによる発現誘導システムは、IPTG添加により培養中の細菌全てにおいて一斉にタンパク質の発現が誘導されるので、誘導が比較的急激に起こる。また、利用炭素源の切り替えによる発現誘導システムは、利用炭素源の切り替えが起こった細菌から順次タンパク質の発現が誘導されるので、誘導が比較的緩やかに起こる。このような各発現誘導システムの特徴は、目的タンパク質の最終的な収率や、変性しない状態で回収できるか等に影響を与えると考えられる。
【0006】
一方、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、自然環境中に存在する常在菌であり、日和見感染症の原因菌である。消毒剤や抗生物質等の薬剤に対する抵抗性が元来高いことが知られており、このため、緑膿菌に対して抗菌効果を発揮する薬剤の種類は、他の細菌に比べて少ない。具体的には、ペニシリンやセフェム系などのβラクタム系抗菌薬は、緑膿菌に対しては抗菌効果を発揮しないことが知られている。
【0007】
緑膿菌は、薬剤への曝露により容易に高度に耐性化することが知られている。例えば、野生株には抗菌効果を発揮するニューキノロン系抗菌薬、クロラムフェニコール、イミペネム等に対して耐性を示す変異株の存在、さらにはこれらの3種の抗菌薬全てに対して耐性を示す多剤耐性株(NfxC型変異株)の出現が問題となっている。このような薬剤の開発とそれに対する耐性菌の出現といういわゆる“イタチごっこ”の問題は、元来有効な薬剤が少ない緑膿菌においては極めて深刻な問題である。
【0008】
NfxC型変異株は、欧米人の2500人に1人が有する遺伝病である嚢胞性線維症(CF:Cystic Fibrosis)の患者からしばしば分離される耐性菌の1つである。NfxC型変異株は、RND型薬剤排出ポンプ(MexEF-OprN)を発現しており、その結果薬剤耐性能を獲得することが知られている。該変異株においては、mexT遺伝子のORFが8 bp欠失してフレームシフトしており、その結果発現する活性型MexTタンパク質(転写因子)が、RND型薬剤排出ポンプの発現を活性化している(非特許文献2)。
【0009】
しかしながら、該8 bpの欠失がランダムに起こる欠失によるものなのか否かについては全く知られていなかった。さらに、何らかの配列が関与しているとしても、該8 bpの欠失にどのような配列が寄与しているのか、該欠失が他の生物でも起こる現象なのか、さらには該欠失に寄与する配列を有してさえいれば欠失が起こるのか等の、薬剤耐性化機構の詳細については全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】東端啓貴、「大腸菌を宿主とした異種タンパク質高発現のイロハ」、生物工学 第91巻2号 第96~100頁
【非特許文献2】FEMS Microbiology Letters, Vol.192, Issue.1, 2000, pp107-112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、新規発現誘導システムを提供することを目的とする。さらには、該システムを利用したタンパク質の発現方法を提供することも目的とする。
【0012】
また、本発明は、薬剤の開発とそれに対する耐性菌の出現といういわゆる“イタチごっこ”の問題を解消するために、薬剤耐性化抑制剤候補物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。さらには、該スクリーニングをより簡便且つ効率的に行う方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、細菌の薬剤耐性化機構について解析していたところ、驚くべきことに、細菌一般においては、X-Y-Xという配列とX-Y-Xという配列がXにおいて重なり合った配列(X-Y-X-Y-X;以下、このような配列を「重なり合ったダイレクトリピート」と示すこともある)中の重なっていない配列(X-Y)が欠失するという法則が存在することを見出した。また、X-Y-Xという配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入され、重なり合ったダイレクトリピートが創出されるという法則が存在することをも見出した。さらに、重なり合ったダイレクトリピート又はX-Y-Xという配列を含む発現カセットを用いることにより、例えば上記欠失又は挿入により引き起こされるフレームシフトを利用して、又は上記欠失又は挿入により引き起こされるプロモーターの転写活性の変化、又は上記欠失又は挿入により引き起こされるアミノ酸の欠失又は挿入を利用して、目的タンパク質の発現誘導が可能であることを見出した。
【0014】
さらに、上記欠失又は挿入は薬剤耐性化の原因であったことから、上記欠失又は挿入を阻害することを指標として、薬剤耐性化抑制剤の候補物質をスクリーニングできることが明らかとなった。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0015】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0016】
項1.
式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列を含む発現カセット。
項2.
前記式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数)であり、前記式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)である、項1に記載の発現カセット。
項3.
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に開始コドンが配置されている、項1又は2に記載の発現カセット。
項4.
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側にプロモーターが配置されている、項1~3のいずれかに記載の発現カセット。
項5.
5’側から順に、プロモーター、開始コドン、前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列が配置されている、項1~4のいずれかに記載の発現カセット。
項6.
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列を含むプロモーターを含む、項1に記載の発現カセット。
項7.
前記プロモーターが刺激応答性プロモーターである、項4~6のいずれかに記載の発現カセット。
項8.
前記式(1)又は前記式(2)で示される塩基配列の3’側にORFが配置されている、項1~7のいずれかに記載の発現カセット。
項9.
項1~8のいずれかに記載の発現カセットを含む、発現ベクター。
項10.
5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体を培養する工程を含むタンパク質発現方法。
項11.
前記発現カセットが5’側から順にプロモーター、開始コドン、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットであって、
式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1(ただし、nは整数)であるか、或いは
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+2(ただし、nは整数)であり、
式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+2(ただし、pは整数)であるか、或いは
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1(ただし、pは整数)である、
項10に記載のタンパク質発現方法。
項12.
前記発現カセットが、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーター、ORFが配置されている発現カセットであって、
該プロモーターが、前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列が欠失することにより、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入されることにより、転写活性が変化するプロモーターである、
項10に記載のタンパク質発現方法。
項13.
項10~12のいずれかに記載の方法で発現させたタンパク質を回収する工程を含む、タンパク質の製造方法。
項14.
(工程a)5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体と、被検物質とを接触させる工程、
(工程b)被検物質と接触させた形質転換体(被検形質転換体)、及び被検物質を接触させない形質転換体(対照形質転換体)における、前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の欠失率、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入される率(挿入率)を測定する工程、及び
(工程c)被検形質転換体における欠失率又は挿入率が、対照形質転換体における欠失率又は挿入率よりも低い場合に、前記被検物質を薬剤耐性化抑制剤候補物質として選択する工程、
を含む薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法。
項15.
前記発現カセットが、5’側から順にプロモーター、開始コドン、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットであって、前記式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数)であり、前記式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)である、項14に記載のスクリーニング方法。
項16.
前記発現カセットが、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーター、ORFが配置されている発現カセットである、項14に記載のスクリーニング方法。
項17.
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m(但し、mは3以上の整数)である、項15に記載のスクリーニング方法。
項18.
前記発現カセットにおいて、式(1)で示される塩基配列が配置されており、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1である、項15に記載のスクリーニング方法。
項19.
前記発現カセットにおいて、式(1)で示される塩基配列が配置されており、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+2である、項15に記載のスクリーニング方法。
項20.
前記発現カセットにおいて、式(2)で示される塩基配列が配置されており、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+2である、項15に記載のスクリーニング方法。
項21.
前記発現カセットにおいて、式(2)で示される塩基配列が配置されており、
前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1である、項15に記載のスクリーニング方法。
項22.
前記プロモーターが、式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列が欠失することにより、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入されることにより、転写活性が変化するプロモーターである、項16に記載のスクリーニング方法。
項23.
前記ORFがレポータータンパク質をコードするORFである、項17~22のいずれかに記載のスクリーニング方法。
項24.
前記工程bにおける欠失率又は挿入率の測定が、レポーターシグナルを発する形質転換体の割合を測定することにより行われる、項23に記載のスクリーニング方法。
項25.
前記ORFが薬剤耐性タンパク質をコードするORFである、項17~22のいずれかに記載のスクリーニング方法。
項26.
前記工程bにおける欠失率又は挿入率の測定が、薬剤耐性を示す形質転換体の割合を測定することにより行われる、項25に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規発現誘導システムを可能にする発現カセット、及びこれを利用したタンパク質の発現方法を提供することができる。この発現誘導システムは、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失現象、又はX-Y-Xという配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入される現象が起こった細菌から順次目的タンパク質の発現が起こるという従来にない原理に基づいたシステムである。したがって、本発明の発現カセットを用いることにより、従来の発現誘導システムでは効率的に発現させることができなかったタンパク質を、より効率的に発現させることが可能となる。また、上記欠失又は挿入は、本発明の発現カセットを含む細菌を培養することにより自然と起こるものであるため、余分な操作を要さずに簡便且つ効率的に発現誘導を行うことが可能である。
【0018】
また、本発明によれば、重なり合ったダイレクトリピート又はX-Y-Xという配列を有する発現カセットを含む形質転換体において、重なっていない配列の欠失率又はX-Yで示される塩基配列の挿入率を指標として、薬剤耐性化抑制剤の候補物質をスクリーニングすることができる。さらに、発現カセットからのタンパク質の発現量や活性が該欠失又は該挿入により変化するように発現カセットを設計することによって、薬剤耐性化抑制剤をより簡便且つ効率的にスクリーニングすることができる。また、上記欠失は細菌一般で起こるため、取り扱いの容易さ等の観点から好適な細菌を用いてスクリーニングを行うことができる。
【0019】
本発明のスクリーニング方法により選別された薬剤耐性化候補物質は、薬剤耐性株の出現を抑えることができるため、薬剤の開発とそれに対する耐性菌の出現といういわゆる“イタチごっこ”の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】mexT遺伝子中の重なり合ったダイレクトリピート(X-Y-X-Y-X)を示す。
【図2】pMMB67EH中のtacプロモーター配列(上部)と、該tacプロモーターのスペーサー領域(16 bp)をより長い配列(24 bp)に置換したpSdmexTCM-24bp中の改変プロモーター配列(下部)を示す。
【図3】実施例2のアッセイプラスミドの構築スキームを示す。
【図4】転写効率が欠失効率に与える影響の解析結果を示す(実施例5)。
【図5】重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失による、蛍光タンパク質の発現を示す(実施例6)。
【図6】重なり合ったダイレクトリピートの創出現象を示す(実施例7)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、「発現カセット」とは、細胞に導入して該細胞(形質転換体)内で目的mRNAを発現させる目的に用いられるDNA領域、又は該DNA領域を含むDNAを細胞内に導入することによって形成される、mRNA発現可能なDNA領域を意味する。以下、便宜上、前者を「細胞外発現カセット(或いは「単離された発現カセット」)」、後者を「細胞内発現カセット」と示す。

【0022】
細胞外発現カセットは、上記目的に用いられる限りにおいて、プロモーター、ORF等のエレメントを含んでいなくとも良い。該エレメントを含んでいない場合は、該エレメントを挿入してから細胞に導入することが好ましい。この観点から、細胞外発現カセットは、プロモーターやORF等の上記エレメントが容易に挿入可能なように、マルチクローニングサイト(MCS)を有することが好ましい。細胞外発現カセットとしては、例えば各種市販されている発現ベクターにおける、プロモーター、タンパク質タグをコードする領域、及びORF挿入用のMCSで構成されるDNA領域が挙げられる。このDNA領域にはORFが含まれないが、細胞に導入する前に、MCSにORFを挿入して用いられる。このように、細胞外発現カセットには、そのままではタンパク質を発現させることができなくとも、最終的に細胞に導入して目的タンパク質をコードするmRNAを発現させる目的で用いられるものであれば包含される。

【0023】
細胞内発現カセットは、上記定義に当てはまる限りにおいて特に限定されない。例えば、mRNAを発現させることができる状態の細胞外発現カセットを細胞に導入した場合、細胞外発現カセットがそのまま細胞内発現カセットを意味する。別の例としては、プロモーターを含まない細胞外発現カセットを細胞に導入し、該細胞外発現カセットが細胞のゲノムDNA中のプロモーター下流に組み込まれて存在する場合、該プロモーター及び細胞外発現カセットを併せたDNA領域が細胞内発現カセットを意味する。

【0024】
(1)発現カセット(細胞外発現カセット)
本発明は、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列を含む発現カセットに関する。なお、この発現カセットは、細胞に導入して該細胞(形質転換体)内で目的mRNAを発現させる目的に用いられるDNA(細胞外発現カセット)である。以下、この発現カセットを「本発明の細胞外発現カセット」と示すこともある。後述するように、本発明の細胞外発現カセットを用いることにより、例えば上記欠失により引き起こされるフレームシフトを利用して、又は上記欠失により引き起こされるプロモーターの転写活性の変化を利用して目的タンパク質の発現誘導が可能となる。

【0025】
式(1)及び式(2)中、X及びYは塩基数が1以上の任意の塩基配列であって、互いに異なる塩基配列である。Xの塩基数は、例えば2~15、好ましくは2~12、より好ましくは2~10、より好ましくは3~9、より好ましくは4~8、さらに好ましくは5~7、特に好ましくは6であることができる。Yの塩基数は、例えば2~15、好ましくは2~12、より好ましくは2~10、より好ましくは2~5、より好ましくは2~4、さらに好ましくは2~3、特に好ましくは2であることができる。Xの塩基数とYの塩基数の組み合わせ(好ましくは式(1)におけるXの塩基数とYの塩基数の組み合わせ)は、好ましくはXの塩基数が3~9であり且つYの塩基数が2~5である組み合わせ、より好ましくはXの塩基数が4~8であり且つYの塩基数が2~4である組み合わせ、さらに好ましくはXの塩基数が5~7であり且つYの塩基数が2~3である組み合わせ、特に好ましくはXの塩基数が6であり且つYの塩基数が2である組み合わせであることができる。

【0026】
式(1)で示される塩基配列として、具体的には、配列番号1、12、13、14、及び15が挙げられる。式(2)で示される塩基配列として、具体的には、配列番号22及び23が挙げられる。

【0027】
本発明の細胞外発現カセットは、細胞に導入して該細胞(形質転換体)内で目的mRNAを発現させる目的に用いられる限りにおいて、式(1)又は式(2)で示される塩基配列以外の他のエレメントを含んでいても良い。他のエレメントとしては、プロモーター、開始コドン、ORF、MCS、オペレーター領域、SD配列等が挙げられる。

【0028】
プロモーターとしては、転写開始に必要な配列である限り特に限定されず、公知のプロモーターを採用することができる。例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、tetプロモーター、araプロモーター等の刺激応答性プロモーター等が挙げられる。重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない塩基配列の欠失効率は、転写活性の高さに比例するため、より転写活性の高いプロモーターを用いることにより、効率的に上記欠失を起こすことが可能となる。また、刺激応答性プロモーターを用いれば、該プロモーターを応答させる物質を添加することによって、上記欠失を誘導することができる。このように上記欠失を誘導することにより、タンパク質の発現効率を調節することが可能である。

【0029】
ORFは、発現させる目的タンパク質をコードするORFである限り、より詳細にはORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠が目的タンパク質をコードする限り特に限定されない。なお、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンは、開始コドンに限定されない。該コドンが開始コドンでない場合は、発現カセット中の転写開始点の3’側であって且つORFの5’側に開始コドンが配置されていればよい。

【0030】
ORFにコードされるタンパク質は、特に限定されず、所望のタンパク質を採用することができる。例えば、酵素タンパク質、構造タンパク質、輸送タンパク質、貯蔵タンパク質、収縮タンパク質、防御タンパク質、調節タンパク質等、これらタンパク質の改変タンパク質が挙げられる。改変タンパク質の例としては、一部の領域を欠失させた欠失タンパク質や、アミノ酸が一部置換されたタンパク質等が挙げられる。

【0031】
本発明の細胞外発現カセットの好ましい一態様(態様1)としては、例えば式(1)におけるX-Yで示される塩基配列の欠失、又は式(2)の5’側におけるX-Yで示される塩基配列の挿入によりフレームシフトが起こる発現カセットが挙げられる。より具体的には、例えば、式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数、例えば1~6の整数)であり、又は式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)であり、且つ式(1)で示される塩基配列の5’側に開始コドンが配置されている発現カセットが挙げられる。態様1において、目的タンパク質をコードする(ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠が目的タンパク質をコードする)ORFは、式(1)で示される塩基配列の3’側に挿入(或いは配置)される。態様1においては、好ましくは、式(1)で示される塩基配列の5’側にプロモーターが挿入(或いは配置)され、より好ましくは5’側から順に、プロモーター、開始コドン、式(1)で示される塩基配列が配置されている。

【0032】
態様1においては、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない部分が欠失するという法則に基づいて欠失する塩基配列(X-Yで示される塩基配列)、及び式(2)の5’側に挿入される塩基配列(X-Yで示される塩基配列)の塩基数が3の倍数ではないので、開始コドンの3’側の該配列が欠失する、又は開始コドンの3’側に該配列が挿入されると開始コドンから始まる読み枠が途中でずれる(フレームシフトする)。これを利用して、態様1においては、例えば下記設計1~2のように発現カセットを設計することにより、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の発現を、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって誘導することができる。

【0033】
設計1は、式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、開始コドンとORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1であるという設計であり、式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+2(ただし、pは整数)であるという設計である。なお、mは、ORFが翻訳される限り特に限定されない。mは、例えば3~100の整数、好ましくは3~50の整数、より好ましくは3~25の整数、さらに好ましくは3~15の整数であることができる。開始コドンとORFの間の塩基数が3m+1であるので、X-Yで示される配列が欠失しない状態、又はX-Yで示される配列が挿入されない状態ではORFのフレームシフトが起こる。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの5’末端から3番目の塩基から3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。一方、開始コドンとORFの間に配置されているX-Y(塩基数は3n+1)で示される配列が欠失した状態、又はX-Y(塩基数は3p+2)で示される配列が挿入された状態ではORFのフレームシフトが解消される。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。このように、設計1においては、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現するようになる。なお、本発明の細胞外発現カセットがORFを含まない場合は、ORFを挿入した時に上記設計になるように、MCS等のORF挿入予定位置を設計することが好ましい。

【0034】
設計2は、式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、開始コドンとORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+2であるという設計であり、式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1(ただし、pは整数)であるという設計である。開始コドンとORFの間の塩基数が3m+2であるので、X-Yで示される配列が欠失しない状態、又はX-Yで示される配列が挿入されない状態ではORFのフレームシフトが起こる。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの5’末端から2番目の塩基から3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。一方、開始コドンとORFの間に配置されているX-Y(塩基数は3n+2)で示される配列が欠失した状態、又はX-Y(塩基数は3p+1)で示される配列が挿入された状態ではORFのフレームシフトが解消される。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。このように、設計2においては、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現するようになる。なお、本発明の細胞外発現カセットがORFを含まない場合は、ORFを挿入した時に上記設計になるように、MCS等のORF挿入予定位置を設計することが好ましい。

【0035】
本発明の細胞外発現カセットの別の好ましい一態様(態様2)としては、例えば、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーターを含む発現カセットが挙げられる。この発現カセットにおいては、プロモーター内に欠失する塩基配列(X-Yで示される塩基配列)が存在する、或いはプロモーター内にX-Yで示される塩基配列の挿入を引き起こす配列(式(2))が存在するので、この配列の欠失又は挿入によりプロモーター構造が変化して、転写活性が変化する。例えば、X-Yで示される塩基配列の欠失(及びそれによる塩基配列の変化)によって、転写活性に重要なプロモーターエレメント(-35ボックス、-10ボックス、その他の転写活性化エレメント)の塩基配列が現れるように設計されたプロモーターであれば、X-Yで示される塩基配列が欠失することによって転写活性を高めることができる。別の例としては、-35ボックス及び-10ボックスは、約16~19bp程度のスペーサー配列を介して連結されることによって、転写を効率的に進めることが知られているので、これを利用して設計することが例示される。具体的には、-35ボックスと-10ボックスとが、転写が起こらない程度に長く(例えば20bp以上、好ましくは24bp以上)且つ式(1)で示される塩基配列を含むスペーサー配列を介して連結されていて、X-Yで示される塩基配列の欠失により該スペーサー配列の長さが16~19bp程度になるように設計されたプロモーターであれば、X-Yで示される塩基配列が欠失することによって転写活性を高めることができる。このような転写活性の変化を利用して、X-Yで示される塩基配列の欠失によって、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質を発現させることができる。なお、本発明の細胞外発現カセットがORFを含まない場合は、ORFを挿入した時に上記設計になるように、MCS等のORF挿入予定位置を設計することが好ましい。

【0036】
本発明の細胞外発現カセットは、公知の分子生物学的手法に従って容易に得ることができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。

【0037】
本発明の細胞外発現カセットは、必要に応じてプロモーター、開始コドン、目的タンパク質をコードするORF等が挿入され、さらに発現ベクター内に組み込まれ、目的タンパク質を発現させるための細胞に導入して使用される。このようにして用いることにより、例えばX-Yで示される塩基配列の欠失により引き起こされるフレームシフトを利用して、又はX-Yで示される塩基配列の欠失により引き起こされるプロモーターの転写活性の変化を利用して目的タンパク質の発現誘導が可能となる。

【0038】
(2)タンパク質発現方法
本発明は、5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体を培養する工程を含むタンパク質発現方法に関する。なお、該方法の発現カセットは、形質転換体に含まれる細胞内発現カセットを意味する。以下、該方法の発現カセットを「本発明の細胞内発現カセット」を示すこともある。

【0039】
「発現カセットを含む形質転換体」は、本発明の細胞内発現カセットをゲノム上又はゲノム外(例えばプラスミド上)に有する形質転換体であれば特に限定されない。

【0040】
「発現カセットを含む形質転換体」は、本発明の細胞外発現カセットを、必要に応じてプロモーター、開始コドン、目的タンパク質をコードするORF等を挿入し、さらに発現ベクター内に組み込み、目的タンパク質を発現させるための細胞に導入することによって得ることができる。

【0041】
重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失という法則は、細菌一般において保存されているため、形質転換体の由来生物としては、例えばグラム陰性菌(緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌、ブルセラ菌、淋菌、バークホルデリア、赤痢菌、サルモネラ菌、アシネトバクター、コレラ菌、肺炎桿菌、レジオネラ菌、ピロリ菌、カンピロバクター等)、グラム陽性菌(結核菌、マイコプラズマ菌、黄色ブドウ球菌、放線菌、枯草菌、炭疽菌等)等、種類を問わず広く採用することができる。これらの中でも、好ましくはグラム陰性菌等が挙げられ、より好ましくは緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌等が挙げられ、さらに好ましくは緑膿菌、大腸菌等が挙げられ、よりさらに好ましくは大腸菌が挙げられる。

【0042】
培養は、本発明の細胞内発現カセット中でX-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入が起こる限りにおいて、その条件は特に限定されない。例えば、形質転換体の由来生物の種類に応じた公知の方法に従って行うことができる。一例として、大腸菌であれば、LB液体培地中、約30~40℃で振盪培養する方法が挙げられる。培養時間も、上記欠失が起こる限りにおいて特に限定されない。培養時間としては、例えば6~36時間、好ましくは10~24時間程度であればよい。

【0043】
斯かる培養により、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入が起こり、それによりORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の発現を誘導することができる。細胞内発現カセットとして、例えば、上記「(1)発現カセット(細胞外発現カセット)」で説明した態様1(例えば設計1~2など)や態様2の発現カセットを用いることにより、効率的に上記タンパク質の発現を誘導することができる。

【0044】
さらに、上記方法によって発現させた目的タンパク質(ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質)を回収することにより、該タンパク質を製造することができる。

【0045】
回収は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、目的タンパク質を発現している形質転換体を集め、適当な溶解液で溶解することにより目的タンパク質を含む溶液を得ることができる。その後、各種クロマトグラフィー等の精製を経て、より高純度の目的タンパク質を得ることができる。

【0046】
上記タンパク質発現方法によれば、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失が起こった細菌、又はX-Y-Xという配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入された細菌から順次目的タンパク質の発現が起こるという従来にない発現誘導システムによりタンパク質を発現させることができる。したがって、該方法により、従来の発現誘導システムでは効率的に発現させることができなかったタンパク質を、より効率的に発現させることが可能となる。

【0047】
(3)薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法
本発明は、工程a、工程b、及び工程cを含む薬剤耐性化抑制剤の候補物質のスクリーニング方法に関する。

【0048】
工程a
工程aは、5’側から順に、式(1):X-Y-X-Y-X (1)[式中、X及びYは塩基数が1以上の異なる塩基配列を示す。]、又は式(2):X-Y-X (2)[式中、X及びYは前記に同じ。]で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットを含む形質転換体と、被検物質とを接触させる工程である。

【0049】
工程aの発現カセットは、形質転換体に含まれる細胞内発現カセットである。

【0050】
工程aの発現カセットには、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている。両者は、直接連結されていても良いし、任意の塩基配列を介して連結されていてもよい。

【0051】
ORFは、タンパク質をコードするORFである限り、より詳細にはORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠がタンパク質をコードする限り特に限定されない。なお、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンは、開始コドンに限定されない。該コドンが開始コドンでない場合は、発現カセット中の転写開始点の3’側であって且つORFの5’側に開始コドンが配置されていればよい。

【0052】
ORFにコードされるタンパク質は、特に限定されず、例えば、蛍光タンパク質、酵素タンパク質、構造タンパク質、輸送タンパク質、貯蔵タンパク質、収縮タンパク質、防御タンパク質、調節タンパク質等、これらタンパク質の改変タンパク質が挙げられる。改変タンパク質の例としては、そのタンパク質の機能に影響を与えないN末端側の領域を欠失させた欠失タンパク質や、そのアミノ酸が一部置換されることにより機能が向上(改変)されたタンパク質等が挙げられる。ORFにコードされるタンパク質としては、後述の工程bにおける欠失率の測定をより簡便且つ効率的にできるという観点から、好ましくはレポータータンパク質、及び薬剤耐性タンパク質が挙げられる。

【0053】
レポータータンパク質は、特定の基質と反応して発光(発色)するタンパク質、或いは励起光によって蛍光を発するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、例えば、GFP等の蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられる。これらの中でも、後述の工程bにおける欠失率の測定をより簡便且つ効率的にできるという観点から、好ましくは蛍光タンパク質が挙げられる。

【0054】
薬剤耐性タンパク質は、それを発現する細胞に抗菌薬などの薬剤に対する耐性を付与できる限り特に限定されない。具体的には、例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子にコードされるタンパク質(クロラムフェニコール耐性タンパク質)、テトラサイクリン耐性遺伝子にコードされるタンパク質(テトラサイクリン耐性タンパク質)、ネオマイシン耐性遺伝子にコードされるタンパク質(ネオマイシン耐性タンパク質)、エリスロマイシン耐性遺伝子にコードされるタンパク質(エリスロマイシン耐性タンパク質)、スペクチノマイシン耐性遺伝子にコードされるタンパク質(スペクチノマイシン耐性タンパク質)、カナマイシン耐性遺伝子にコードされるタンパク質(カナマイシン耐性タンパク質)等が挙げられる。

【0055】
工程aの発現カセットは、発現カセットからmRNAを発現させるために必要に応じて、式(1)又は式(2)で示される塩基配列及びORF以外の他のエレメントを含んでいてもよい。他のエレメントとしては、例えばプロモーター、開始コドン、MCS、オペレーター領域、SD配列等が挙げられる。これらの中でも、プロモーターを含んでいることが好ましい。プロモーターとしては、転写開始に必要な配列である限り特に限定されず、公知のプロモーターを採用することができる。例えば、tacプロモーター、tetプロモーター、araプロモーター等が挙げられる。また、ORFに開始コドンが含まれない場合は、他のエレメントとして、ORFの5’側に開始コドンを含むことが好ましい。

【0056】
工程aの発現カセットの好ましい一態様としては、例えばORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の発現量或いは活性(蛍光活性等)が、式(1)におけるX-Yで示される塩基配列の欠失、又は式(2)の5’側におけるX-Yで示される塩基配列の挿入により変化する発現カセットが挙げられる。このような発現カセットを用いることにより、X-Yで示される塩基配列の欠失率又は挿入率を、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の発現量或いは活性(蛍光活性等)を指標にして評価することができる。特に、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、蛍光タンパク質や薬剤耐性タンパク質である場合には、蛍光量や薬剤耐性株の出現率を測定することによって、より簡便にX-Yで示される塩基配列の欠失率又は挿入率を測定することができる。このような発現カセットの態様としては、例えば、X-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されることにより、ORFのフレームシフトが起こり、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が発現するようになる(或いは発現しないようになる)態様(態様3)が挙げられる。別の例としては、X-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されることにより、発現カセットからの転写量が変化する態様(態様4)が挙げられる。また別の例としては、X-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されることにより、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の活性が変化する態様(態様5)が挙げられる。以下、態様3~5について詳述する。

【0057】
工程aの発現カセットの態様3は、5’側から順にプロモーター、開始コドン、式(1)又は式(2)で示される塩基配列、ORFが配置されている発現カセットであって、式(1)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1又は3n+2(ただし、nは整数、例えば1~6の整数)である、又は式(2)中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1又は3p+2(ただし、pは整数)である発現カセットである。この発現カセットにおいては、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない部分が欠失するという法則に基づいて欠失する塩基配列(X-Yで示される塩基配列)、及び式(2)の5’側に挿入される塩基配列(X-Yで示される塩基配列)の塩基数が3の倍数ではないので、この配列の欠失又は挿入により、ORFの読み枠がずれる(すなわちフレームシフトが起こる)。このため、該配列の欠失又は挿入の有無で、発現カセットから発現するタンパク質が変化する。これを利用して、態様3においては、例えば下記設計3~5のように発現カセットを設計することにより、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質を、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現させる(或いは発現させないようにする)ことができる。

【0058】
設計3は、開始コドンとORFの間の塩基配列の塩基数が3m(但し、mは3以上の整数である)であるという設計である。なお、mは、ORFが翻訳される限り特に限定されない。mは、例えば3~100の整数、好ましくは3~50の整数、より好ましくは3~25の整数、さらに好ましくは3~15の整数であることができる。開始コドンとORFの間の塩基数が3mであるので、X-Yで示される配列が欠失しない状態、又はX-Yで示される配列が挿入されない状態ではORFのフレームシフトは起こらない。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。一方、開始コドンとORFの間に配置されているX-Y(塩基数は3n+1又は3n+2)で示される配列が欠失した状態、又はX-Y(塩基数は3p+1又は3p+2)が挿入された状態ではORFのフレームシフトが起こる。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの5’末端から2又は3番目の塩基から3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。このように、設計3においては、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現しなくなる。

【0059】
設計4は、式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、開始コドンとORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+1であるという設計であり、式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+1(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+2(ただし、pは整数)であるという設計である。開始コドンとORFの間の塩基数が3m+1であるので、X-Yで示される配列が欠失しない状態、又はX-Yで示される配列が挿入されない状態ではORFのフレームシフトが起こる。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの5’末端から3番目の塩基から3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。一方、開始コドンとORFの間に配置されているX-Y(塩基数は3n+1)で示される配列が欠失した状態、又はX-Y(塩基数は3p+2)で示される配列が挿入された状態ではORFのフレームシフトが解消する。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。このように、設計4においては、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現するようになる。

【0060】
設計5は、式(1)で示される塩基配列が配置されている場合は、開始コドンとORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3n+2であるという設計であり、式(2)で示される塩基配列が配置されている場合は、前記開始コドンと前記ORFの間の塩基配列の塩基数が3m+2(但し、mは3以上の整数)であり、且つ前記式(2)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の塩基数が3p+1(ただし、pは整数)であるという設計である。開始コドンとORFの間の塩基数が3m+2であるので、X-Yで示される配列が欠失しない状態、又はX-Yで示される配列が挿入されない状態ではORFのフレームシフトが起こる。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの5’末端から2番目の塩基から3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。一方、開始コドンとORFの間に配置されているX-Y(塩基数は3n+2)で示される配列が欠失した状態、又はX-Y(塩基数は3p+1)で示される配列が挿入された状態ではORFのフレームシフトが解消する。したがって、この状態のORFの読み枠は、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠である。このように、設計5においては、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入によって発現するようになる。

【0061】
工程aの発現カセットの態様4は、5’側から順に、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むプロモーター、ORFが配置されている発現カセットが挙げられる。この発現カセットにおいては、プロモーター内に欠失する塩基配列(X-Yで示される塩基配列)が存在する、或いはプロモーター内にX-Yで示される塩基配列の挿入を引き起こす配列(式(2))が存在するので、この配列の欠失又は挿入によりプロモーター構造が変化して、転写活性が変化する。例えば、X-Yで示される塩基配列が転写活性に重要なプロモーターエレメント(-35ボックス、-10ボックス、その他の転写活性化エレメント)の全部又は一部を構成するように設計されたプロモーターであれば、X-Yで示される塩基配列が欠失することによって転写活性を低下させることができる。別の例としては、-35ボックス及び-10ボックスは、約16~19bp程度のスペーサー配列を介して連結されることによって、転写を効率的に進めることが知られているので、これを利用して設計することが例示される。具体的には、-35ボックスと-10ボックスとが、転写が起こらない程度に長く(例えば20bp以上、好ましくは24bp以上)且つ式(1)で示される塩基配列を含むスペーサー配列を介して連結されていて、X-Yで示される塩基配列の欠失により該スペーサー配列の長さが16~19bp程度になるように設計されたプロモーターであれば、X-Yで示される塩基配列が欠失することによって転写活性を高めることができる。このような転写活性の変化を利用して、X-Yで示される塩基配列の欠失によって、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質を発現させる(或いは発現させないようにする)ことができる。

【0062】
工程aの発現カセットの態様5は、5’側から順に、プロモーター、式(1)又は式(2)で示される塩基配列を含むORFが配置されている発現カセットが挙げられる。この発現カセットにおいては、ORF内に欠失する塩基配列(X-Yで示される塩基配列)が存在する、或いはORF内にX-Yで示される塩基配列の挿入を引き起こす配列(式(2))が存在するので、この配列の欠失又は挿入によりORFにコードされるタンパク質の活性が変化する。この活性の変化は、フレームシフトが無くとも起こる場合がある。例えば、EGFP等の蛍光タンパク質中の特定部位にアミノ酸が挿入されることにより、蛍光活性が消失することが知られている。

【0063】
工程aの「発現カセットを含む形質転換体」は、上記発現カセットをゲノム上又はゲノム外(例えばプラスミド上)に有する形質転換体であれば特に限定されない。

【0064】
重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失という法則は、細菌一般において保存されているため、形質転換体の由来生物としては、例えばグラム陰性菌(緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌、ブルセラ菌、淋菌、バークホルデリア、赤痢菌、サルモネラ菌、アシネトバクター、コレラ菌、肺炎桿菌、レジオネラ菌、ピロリ菌、カンピロバクター等)、グラム陽性菌(結核菌、マイコプラズマ菌、黄色ブドウ球菌、放線菌、枯草菌、炭疽菌等)等、種類を問わず広く採用することができる。これらの中でも、好ましくはグラム陰性菌等が挙げられ、より好ましくは緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌等が挙げられ、さらに好ましくは緑膿菌、大腸菌等が挙げられる。

【0065】
発現カセットを含む形質転換体は、公知の分子生物学的手法に従って容易に得ることができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作成した細胞外発現カセットを、公知の方法に従って細菌に導入することにより得ることができる。

【0066】
被検物質は、特に制限されない。例えば、低分子化合物、高分子化合物(ペプチド、タンパク質、糖鎖等の生体高分子化合物を含む)等の化合物であり得る。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。

【0067】
発現カセットを含む形質転換体と被検物質とを接触させる方法は、両者が接触する限り、いかなる方法でもよい。典型的には、発現カセットを含む形質転換体を含む溶液(培養液等)と被検物質とを混合する方法が挙げられる。

【0068】
斯かる接触後、発現カセットを含む形質転換体をさらに培養することが好ましい。発現カセットを含む形質転換体を培養することにより、該発現カセット中のX-Yで示される塩基配列の欠失率が高まる。したがって、被検物質による欠失率の低下が検出し易くなる。培養は、形質転換体の由来生物の種類に応じた公知の方法に従って行うことができる。例えば、大腸菌であれば、LB液体培地中、約30~40℃で振盪培養する方法が挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、例えば6~36時間、好ましくは10~24時間程度であればよい。

【0069】
工程b
工程bは、被検物質と接触させた形質転換体(被検形質転換体)、及び被検物質を接触させない形質転換体(対照形質転換体)における、前記式(1)で示される塩基配列中のX-Yで示される塩基配列の欠失率、又は前記式(2)で示される塩基配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入される率(挿入率)を測定する工程である。

【0070】
被検形質転換体は、上記工程aにおいて被検物質と接触させた前記発現カセットを含む形質転換体である。対照形質転換体は、被検物質を接触させていない前記発現カセットを含む形質転換体である。対照形質転換体は、被検物質と接触させていない以外は、被検形質転換体と同様の処理を施されたものが好ましい。

【0071】
X-Yで示される塩基配列の欠失率又は挿入率の測定方法は、被検物質の接触による欠失率又は挿入率の変化を評価できる方法である限り特に限定されない。例えば次の方法が挙げられる。まず、被検形質転換体の集団及び対照形質転換体の集団それぞれ(X-Yで示される塩基配列が欠失している又は挿入されている形質転換体、及び該配列が欠失していない又は挿入されている形質転換体が混在する)から発現カセットを含むDNAを抽出し、該DNAを適当な制限酵素で消化する。次に、この消化断片を電気泳動によりゲル上に展開する。最後に、ゲル上の、X-Yで示される塩基配列の欠失又は挿入により表れるバンド(X-Yで示される塩基配列の塩基数の分だけ短くなった又は長くなった消化断片のバンド)の濃さを測定することにより、形質転換体の集団内においてX-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されている形質転換体の割合、すなわち欠失率又は挿入率を測定することができる。

【0072】
好ましい一態様としては、工程aの発現カセットとして、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質の発現量が、X-Yで示される塩基配列の欠失により変化する発現カセット(態様3~5等)を用いることにより、該発現量を指標にしてより簡便に欠失率を測定することができる。例えば次の方法が挙げられる。まず、被検形質転換体の集団及び対照形質転換体の集団それぞれから、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質を含む画分を抽出する。次に、この画分を電気泳動でゲル上に展開後、該タンパク質を特異的に検出できる抗体でウェスタンブロットを行う。最後に、ウェスタンブロットで検出されたバンドの濃さを測定することにより、形質転換体の集団内においてX-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されている形質転換体の割合、すなわち欠失率又は挿入率を測定することができる。

【0073】
上記好ましい態様において、ORFの最も5’側の3塩基で構成されるコドンを含む読み枠で翻訳されるタンパク質が、蛍光タンパク質や薬剤耐性タンパク質である場合には、蛍光量や薬剤耐性株の出現率を測定することによって、より簡便にX-Yで示される塩基配列の欠失率又は挿入率を測定することができる。例えば薬剤耐性タンパク質を採用する場合は次のように測定することができる。まず、被検形質転換体の集団及び対照形質転換体の集団のそれぞれを、薬剤を含む固形培地(寒天培地等)にプレーティングする。次に、該培地上に出現するコロニー(薬剤耐性株)数を測定することにより、形質転換体の集団内においてX-Yで示される塩基配列が欠失又は挿入されている形質転換体の割合、すなわち欠失率又は挿入率を測定することができる。

【0074】
上記欠失率又は挿入率の測定方法に用いる手法(DNA抽出、制限酵素消化、電気泳動、タンパク質抽出、ウェスタンブロット、薬剤耐性株の取得及びその数の測定等)は公知の方法に従って行うことができる。

【0075】
工程c
工程cは、被検形質転換体における欠失率又は挿入率が、対照形質転換体における欠失率又は挿入率よりも低い場合に、前記被検物質を薬剤耐性化抑制剤候補物質として選択する工程である。

【0076】
「低い」か否かの判断は、一定の基準、例えば統計学的基準に基づき判断すればよい。具体的には、複数回測定してp値を求め、p値が一定値以下、例えば0.05以下である場合に有意に相違すると判断する方法等が挙げられる。判断の結果、有意に相違している場合は、その被検物質を選択する。

【0077】
工程cで選択された被検物質は、薬剤耐性化の原因である「重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列(X-Yで示される塩基配列)の欠失」という現象、又はX-Y-Xという配列の5’側に隣接してX-Yで示される塩基配列が挿入され、重なり合ったダイレクトリピートが創出されるという法則を阻害することを指標として選択される物質であるので、薬剤耐性化抑制剤候補物質として、特に緑膿菌の薬剤耐性化抑制剤候補物質として有用である。得られた薬剤耐性化抑制剤候補物質は、さらに薬剤耐性化抑制剤のスクリーニングに供してもよい。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、下記に示す発現ベクターの調製は、公知の遺伝子工学的手法に従って行った。
【実施例】
【0079】
実施例1.薬剤耐性化機構の解析
薬剤耐性菌であるNfxC型変異株は、RND型薬剤排出ポンプ(MexEF-OprN)を発現しており、その結果薬剤耐性能を獲得することが知られている。該変異株においては、mexT遺伝子のORFが8 bp欠失してフレームシフトしており、その結果発現する活性型MexTタンパク質(転写因子)が、RND型薬剤排出ポンプの発現を活性化している(非特許文献2)。しかしながら、該8 bpの欠失が必ず起こるものなのか、或いは6 bpや7 bpの欠失も起こりうるのかについては全く知られていなかった。そこで、該欠失のメカニズムを調べた。
【実施例】
【0080】
1-1.重なり合ったダイレクトリピートの発見
野生株mexT遺伝子配列中の、NfxC型変異株において欠失が起こる配列の周辺を解析したところ、図1に示すような、X-Y-Xという配列と、X-Y-Xという配列が、Xにおいて重なり合った配列(配列番号1、重なり合ったダイレクトリピート)が見出された。そして、NfxC型変異株においては、この重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列(X-Y)が欠失していることが見出された(図1)。
【実施例】
【0081】
これらの発見から、重なり合ったダイレクトリピートがあれば、その重なっていない配列が欠失するという法則の存在が推測された。
【実施例】
【0082】
1-2.重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列が欠失することの実証試験
上記推測の実証試験を行った。概要としては、重なっていない部分の欠失により初めてプロモーターが機能し、その結果薬剤耐性遺伝子が発現する大腸菌を作製し、該大腸菌の薬剤耐性を測定することによって欠失の有無を調べた。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0083】
まず、pMMB67EHベクターを、該ベクターのMCSにクロラムフェニコール耐性遺伝子が挿入され、且つ該遺伝子のプロモーター領域にPsi Iサイトが導入されるように、改変した(改変後のプラスミド名は「pSCm」)。次に、pSCmベクターをPsi Iサイトで切断し、In-fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて該切断サイトに合成核酸を挿入することによって、クロラムフェニコール耐性遺伝子上流のtacプロモーターの-35ボックスと-10ボックスの間のスペーサー領域が、mexT遺伝子の重なり合ったダイレクトリピート22 bpに2 bp(CT)付加した24 bpの配列(配列1:表1)となるように改変した(図2、改変後のプラスミド名は「pSdmexTCM-24bp」)。また、これとは別に、該スペーサー領域が、配列1において重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列(CGGCCAGC)が欠失した配列(配列2(16 bp):表1)、配列2において5’末端に1 bp(G)付加された配列(配列3(17 bp):表1)、又は配列2において5’末端に2 bp(GA)付加された配列(配列4(18 bp):表1)となるように改変したプラスミドも、pSdmexTCM-24bpと同様の方法で作製した(表1)。
【実施例】
【0084】
【表1】
JP2015115610A1_000003t.gif
【実施例】
【0085】
pSdmexTCM-24bpは、-35ボックスと-10ボックスの間の配列が長すぎるため、転写が起こらず、結果として該プロモーター下流のクロラムフェニコール耐性遺伝子が発現しないことが予想される一方、pSdmexTCM-16bp, 17bp, 18bpは、-35ボックスと-10ボックスの間の配列の長さが正常範囲であるため、クロラムフェニコール耐性遺伝子が発現することが予想される。このことを確かめるために、これら4種類のプラスミドを大腸菌DH5αに定法に従って導入し、次いで、これらの大腸菌に対するクロラムフェニコールの最小発育阻止濃度(MIC)を定法に従って測定した。結果を表2に示す。表2に示されるように、予想通り、pSdmexTCM-24bpを導入した大腸菌はクロラムフェニコールに対する耐性が極めて低い一方、pSdmexTCM-16bp, 17bp, 18bpを導入した大腸菌は耐性を獲得していた。
【実施例】
【0086】
【表2】
JP2015115610A1_000004t.gif
【実施例】
【0087】
次に、pSdmexTCM-24bpを導入した大腸菌を液体培地(1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0, 0.5 mM IPTG)5 mLに植菌し、37℃で16時間培養した。該培養液を1/100に希釈し、該希釈液100 μLを、10 cmディッシュ上のクロラムフェニコール含有寒天培地(10 μg/mL クロラムフェニコール, 1.5% agar, 1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0, 0.5 mM IPTG)及びコントロール寒天培地(クロラムフェニコール含有寒天培地からクロラムフェニコールを除いた組成、又はクロラムフェニコールに替えて50 μg/mL CARを含有する組成を有する)にプレーティングし、37℃で22時間培養した。培養後、クロラムフェニコール含有寒天培地及びコントロール寒天培地それぞれで出現したコロニー数から、クロラムフェニコール耐性株の出現頻度を算出した。さらに、ランダムに100個のコロニーをピックアップし、コロニーから定法に従って抽出したDNAのシークエンシングをFASMAC社に依頼し、-35ボックスと-10ボックスの間の配列を決定した。
【実施例】
【0088】
その結果、1.28×10-3%の頻度でクロラムフェニコール耐性株が出現した。また、-35ボックスと-10ボックスの間の配列は100個のコロニー全てにおいて配列2、すなわち元の配列(配列1)において重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列(CGGCCAGC)が欠失した配列であった。以上より、重なり合ったダイレクトリピートがあれば、その重なっていない配列が欠失するという法則の存在が示された。また、表2のpSdmexTCM-24bpが導入されたDH5α(液体培養を経ていない)は、クロラムフェニコールに対する耐性を示さないことから、上記欠失は、pSdmexTCM-24bpを導入した大腸菌を液体培養している際に自然に生じたものであることが示唆された。
【実施例】
【0089】
実施例2.重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列が欠失するという法則の、細菌一般における保存性
上記実施例1で示された法則が細菌一般で起こるものかどうかを調べた。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0090】
まず、図3に示すスキームに従ってアッセイプラスミドを構築した。5’側から、GAATTC(EcoR Iサイト)、19 bpの配列(CCTGGAAACGAGGAACGCC)、及び緑膿菌野生株のゲノムDNA由来のmexT遺伝子の開始コドンから該遺伝子のsal Iサイトまでの配列(配列番号6、重なり合ったダイレクトリピートを含む)が連結した配列(断片1)と、5’側から、GTCGAC(Sal Iサイト)、クロラムフェニコール耐性遺伝子のORFの開始コドンの次のコドンから終始コドンの一つ前のコドンまでの配列、6×His tagをコードする配列、TAA(終始コドン)、及びAAGCTT(Hind IIIサイト)が連結した配列(断片2)とを、pMMB67EHベクターのMCSのEcoR IサイトとHind IIIサイト、及び断片1の3’末端のSal Iサイトと断片2の5’末端のSal Iサイトを利用して、該ベクターのMCS中に連結した状態で導入した(大腸菌又はセラチア菌アッセイ用ベクター)。断片1の開始コドンと断片2のクロラムフェニコール耐性遺伝子のORFとの間の塩基数は635 bp(3m+2)であるため、クロラムフェニコール耐性遺伝子のORFは正常な読み枠で翻訳されないが、断片1中の重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列(8 bp(3n+2))が欠失することによりフレームシフトが起これば、クロラムフェニコール耐性遺伝子のORFが正常な読み枠で翻訳されることになる。さらに、上記で得られた大腸菌又はセラチア菌アッセイ用ベクターをEcoR I及びHind IIIで処理して、断片1及び断片2の連結配列を切り出し、該連結配列をpVLT33のMCSに導入した(スフィンゴモナス菌用アッセイベクター)。
【実施例】
【0091】
次に、大腸菌又はセラチア菌アッセイ用ベクターを大腸菌に定法に従って導入した。該細菌を液体培地(1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0, 1 mM IPTG)5 mLに植菌し、37℃で16時間培養した。該培養液を1/1000に希釈し、該希釈液100 μLを10 cmディッシュ上のクロラムフェニコール含有寒天培地(5 μg/mL クロラムフェニコール, 1.5% agar, 1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0, 1 mM IPTG)及びコントロール寒天培地(クロラムフェニコール含有寒天培地からクロラムフェニコールを除いた組成、又はクロラムフェニコールに替えて50 μg/mL CARを含有する組成を有する)にプレーティングし、37℃で22時間培養した。
【実施例】
【0092】
上記と同様の方法で、セラチア菌(Serratia marcescens)及びスフィンゴモナス菌(Sphingomonas paucimobilis)についても実験を行った。
【実施例】
【0093】
各細菌において上記実施例1で示された法則が保存されていれば、該細菌の培養中に8 bpの欠失が起こり、クロラムフェニコール耐性株が出現するはずである。
【実施例】
【0094】
培養の結果、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌全てについて、コロニー(クロラムフェニコール耐性株)が出現した。さらに、各コロニーから定法に従って抽出したDNAのシークエンシングを行った結果、各コロニーにおいて、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列(8 bp)が確かに欠失していることを確認した。以上より、上記実施例1で示された法則は細菌一般で保存されていることが示された。
【実施例】
【0095】
実施例3.各種生物における重なり合ったダイレクトリピートの探索
各種生物のゲノム中の、重なり合ったダイレクトリピートを検索した。この検索においては、「重なり合ったダイレクトリピート」は、任意の配列α(8塩基以上)(例えばABCDEFGH)が2回続いた後、αの3’側の塩基が欠失した配列α’(6塩基以上)(例えばABCDEF)が続く、ααα’からなる配列と定義される。検索結果を表3に示す。
【実施例】
【0096】
【表3】
JP2015115610A1_000005t.gif
【実施例】
【0097】
表3に示されるように、グラム陰性菌及びグラム陽性菌等の細菌のみならず、真核生物においても重なり合ったダイレクトリピートが存在することが明らかとなった。
【実施例】
【0098】
実施例4.各種生物由来の重なり合ったダイレクトリピートの解析
実施例3で見出された重なり合ったダイレクトリピートからも、重なっていない配列の欠失が起こるか調べた。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0099】
まずアッセイプラスミドを構築した。実施例2で得られた「大腸菌又はセラチア菌アッセイ用ベクター」を基に、5’側から、GAATTC(EcoR Iサイト)、19 bpの配列(CCTGGAAACGAGGAACGCC)、開始コドン、CTGCAG(PstIサイト)、GCGGCCGC(Not Iサイト)、GTCGAC(Sal Iサイト)、クロラムフェニコール耐性遺伝子のORFの開始コドンの次のコドンから終始コドンの一つ前のコドンまでの配列、6×His tagをコードする配列、TAA(終始コドン)、及びAAGCTT(Hind IIIサイト)が連結した配列を得た。この配列を、制限酵素サイトを利用して、pMMB67EHベクターのMCSのEcoR IサイトとHind IIIサイトの間に挿入した。得られたベクター(pLCM)をPst I及びSal Iで切断し、そこへ、5’側から、CTGCAG(Pst Iサイト)、下記表4の配列5~9のいずれか、及びGTCGAC(Sal Iサイト)が連結された配列をPst I及びSal Iで切断して得られた断片を挿入して、アッセイプラスミドを得た。配列5~9の塩基数はいずれも「3の倍数+2」であるため、該発現カセットのクロラムフェニコール耐性遺伝子のORFは正常な読み枠で翻訳されないが、配列5~9中の重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列(8 bp)が欠失することによりフレームシフトが起これば、クロラムフェニコール耐性遺伝子のORFが正常な読み枠で翻訳されることになる。
【実施例】
【0100】
次に、アッセイプラスミドを定法に従って大腸菌に導入した。該大腸菌を、実施例1と同様にクロラムフェニコール含有寒天培地にプレーティングして、培養した。培養後、出現したコロニー(クロラムフェニコール耐性株のコロニー)数から、クロラムフェニコール耐性株の出現頻度を算出した。さらに、ランダムに10個のコロニーをピックアップし、コロニーから定法に従って抽出したDNAをシークエンシングし、欠失した配列を同定した。
【実施例】
【0101】
【表4】
JP2015115610A1_000006t.gif
【実施例】
【0102】
【表5】
JP2015115610A1_000007t.gif
【実施例】
【0103】
耐性株の出現頻度は表5に示すとおりである。また、シークエンシングの結果、全てのコロニーで、重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列(表4の「配列」の下線で示される配列)が欠失していることが確認できた。以上より、各種生物由来の重なり合ったダイレクトリピートについても、mexT遺伝子由来の該リピートと同様に、重なっていない配列の欠失が起こることが示された。
【実施例】
【0104】
実施例5.転写活性が欠失効率に与える影響の解析
転写活性が欠失効率に与える影響を解析した。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0105】
緑膿菌野生株のゲノムDNAから、制限酵素サイトを付加したプライマーセット(mexT1-Bam(配列番号16)、及びmexT2-Hin(配列番号17))を用いたPCRにより、mexT遺伝子(重なり合ったダイレクトリピートを含む)を含むDNA断片を増幅した。該断片のプライマー由来の制限酵素サイトを切断し、得られた断片をpMMB67EHのtacプロモーターの下流にライゲーションし、アッセイプラスミドを得た。アッセイプラスミドを、緑膿菌(PAO1S-Lac)に導入した。
【実施例】
【0106】
該緑膿菌のアッセイプラスミドのmexT遺伝子内には重なり合ったダイレクトリピートが存在するため、該遺伝子からは、正常な読み枠で翻訳される活性型MexTタンパク質が発現しない。ただ、該ダイレクトリピート中の重なっていない配列(8 bp)が欠失することによりフレームシフトが起これば、正常な読み枠で翻訳される活性型MexTタンパク質が発現し、これによりRND型薬剤排出ポンプが発現する(すなわち薬剤耐性が獲得される)。一方、mexT遺伝子の上流のtacプロモーターはIPTGによって正に調節されるため、IPTG添加の有無により転写活性を調節することができる。したがって、IPTG無添加の場合(転写活性低い)とIPTG添加の場合(転写活性高い)とで、薬剤耐性株の出現率を比較することにより、転写活性が欠失効率に与える影響を調べることができる。
【実施例】
【0107】
アッセイプラスミドを導入した緑膿菌を2 mM IPTGを含む液体培地(1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0)、又はIPTGを含まない液体培地5 mLに植菌し、37℃で14時間培養した。該培養液を1/10に希釈し、該希釈液100 μLを10 cmディッシュ上のクロラムフェニコール含有寒天培地(500 μg/mL クロラムフェニコール, 1.5% agar, 1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0, 0 or 2 mM IPTG)及びコントロール寒天培地(クロラムフェニコール含有寒天培地からクロラムフェニコールを除いた組成、又はクロラムフェニコールに替えて150 μg/mL CARを含有する組成を有する)にプレーティングし、37℃で24時間培養した。得られたコロニー数から、薬剤耐性株(NfxC変異株)の出現率を求めた。一方で、液体培養液100 μLからRNAを抽出し、mexT遺伝子の転写量をリアルタイムPCR法によって測定した。
【実施例】
【0108】
結果を図4に示す。図4に示されるように、IPTG添加によって転写量(転写活性)が高まると、欠失効率も高まることが明らかとなった。
【実施例】
【0109】
実施例6.重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失による、蛍光タンパク質の発現
まず、EGFP発現ベクターにおいて、EGFPのORF内に重なり合ったダイレクトリピート創り出し、このORFを緑膿菌アッセイ用ベクターに挿入して、アッセイプラスミドを得た。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0110】
inverse PCRでpEGFP-C3(クロンテック社製)のMCS(配列番号18)を除去し、MCSを除去した位置に、Not Iサイトを含む9 bpの配列(agcggccgc)を挿入した。EGFP ORF内の14 bpの配列(配列番号19)の上流に隣接して5’側からtgaccacccからなる配列を挿入して、該14 bpの配列を合わせて重なり合ったダイレクトリピート(配列番号20)を創り出した。このように改変したEGFP ORFを、pMMB67EHにEcoR I-Hind IIIサイトにクローニングした。この際、EGFP ORFの開始コドンの上流に隣接して、pET21(a)のribosome binding site+8 bp(T7 tagの上流域)の配列(配列番号21)を挿入した。得られたアッセイプラスミドを緑膿菌に導入した。
【実施例】
【0111】
上記アッセイプラスミドのEGFPのORF内には9 bpの配列(tgaccaccc)が挿入されており、これにより該ORFから発現するEGFPは活性中心の立体構造が崩れてしまっているので、蛍光を示さない。ただ、上記9 bpの配列の挿入により創り出された重なり合ったダイレクトリピート(配列番号20)中の重なっていない配列(9 bp)が欠失すれば、正常なEGFPタンパク質が発現する。
【実施例】
【0112】
アッセイプラスミドを導入した緑膿菌を液体培地(1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, 2mM IPTG, pH 7.0)5 mLに植菌し、37℃で14時間培養した。該培養液を1/100000に希釈し、該希釈液100 μLを10 cmディッシュ上の寒天培地(1.5% agar, 1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, 2mM IPTG, pH 7.0)にプレーティングし、37℃で24時間培養した。培養後、ディッシュを青色LEDトランスイルミネーター(オプトコード社製、LEDB-SBOXH)で観察した(励起波長:470 nm、付属のオレンジフィルターを使用)。
【実施例】
【0113】
結果を図5に示す。図5に示されるように、重なり合ったダイレクトリピートの重なっていない配列の欠失による、蛍光タンパク質の発現(図5の下方に光る1つのコロニー)が観察できた。また、シークエンシングの結果、重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列(tgaccaccc)が欠失していることが確認できた。
【実施例】
【0114】
実施例7.重なり合ったダイレクトリピートの創出現象の発見
緑膿菌の臨床分離株の一部では、mexT遺伝子において、重なり合ったダイレクトリピート中の重なっていない配列が欠失し、活性型MexTタンパク質を発現しているにも関わらず、NfxC型のフェノタイプを示さない株が存在する。このような株では、活性型MexTタンパク質をMexSタンパク質が抑制することにより、野生型のフェノタイプを示すことが明らかになっている。
【実施例】
【0115】
そこで、上記のような臨床分離株から、さらなる変異によりNfxC型変異株が出現するかどうか調べた。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0116】
上記臨床分離株(8380株:Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Vol.39, No.3, p645-649, 1995.)を液体培地(1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, pH 7.0)5 mLに植菌し、37℃で15時間培養した。該培養液100 μLを10 cmディッシュ上の寒天培地(1.5% agar, 1% Tryptone, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, 800 μg/mL クロラムフェニコール, pH 7.0)にプレーティングし、37℃で20時間培養した。NfxC型変異株はクロラムフェニコールに対して高度に耐性を示すので、この培養により得られたコロニーは、上記臨床分離株から出現したNfxC型変異株であると考えられる。
【実施例】
【0117】
その結果、2.1×10-5%の割合でNfxC型変異株が出現することが明らかとなった。また、シークエンシングの結果、全てNfxC型変異株でmexS遺伝子に変異が認められた。このことから、MexSが変異し、機能型のMexTを抑制できなくなった為にMexEF-OprN薬剤排出ポンプが発現し、NfxC型のフェノタイプを示していることが明らかとなった。
【実施例】
【0118】
また面白いことに、出現したNfxC型変異株の中には、mexS遺伝子内部の特定の配列(配列番号22及び23)の上流に隣接して塩基配列(配列番号24及び25)が挿入されており、これにより重なり合ったダイレクトリピート配列(配列番号26及び27)が創られることにより、MexSが機能を失っていることが明らかとなった(図6)。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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