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明細書 :多能性幹細胞からの腎臓誘導法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月9日(2017.3.9)
発明の名称または考案の名称 多能性幹細胞からの腎臓誘導法
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
FI C12N 5/071
C12N 5/10
C12N 5/0735
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 37
出願番号 特願2015-542663 (P2015-542663)
国際出願番号 PCT/JP2014/077601
国際公開番号 WO2015/056756
国際出願日 平成26年10月16日(2014.10.16)
国際公開日 平成27年4月23日(2015.4.23)
優先権出願番号 2013217029
優先日 平成25年10月18日(2013.10.18)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】西中村 隆一
【氏名】太口 敦博
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB40
4B065CA44
4B065CA60
要約 本発明は、多能性幹細胞、例えば、ES細胞やiPS細胞から、腎臓の3次元構造物を誘導する場合に用いることができる工程または方法を提供することを目的とする。
多能性幹細胞を、以下の3つの工程、(a)多能性幹細胞から誘導された胚様体を、Bmp4および高濃度(濃度A)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、(b)前記胚様体を、アクチビン、Bmp4、レチノイン酸、および中濃度(濃度B)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、および(c)前記胚様体を、Fgf9および低濃度(濃度C)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、(ここで、Wntアゴニストの濃度は、濃度A>濃度B>濃度Cである)で、この順に培養することを特徴とする分化誘導方法が提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物由来の多能性幹細胞から後腎ネフロン前駆細胞を分化誘導する方法であって、該方法が、以下の3つの工程を、
(a)多能性幹細胞から誘導された胚様体を、Bmpおよび高濃度(濃度A)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、
(b)前記胚様体を、Bmpおよび中濃度(濃度B)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、および
(c)前記胚様体を、Fgfおよび低濃度(濃度C)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、
をその順で含むことを特徴とする分化誘導方法
(ここで、Wntアゴニストの濃度は、濃度A>濃度B>濃度Cであって、濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍である。)。
【請求項2】
前記工程(a)、(b)および(c)におけるWntアゴニストの濃度は、濃度Aは濃度Bの少なくとも3倍であり、かつ濃度Bは濃度Cの少なくとも3倍である、請求項1に記載の分化誘導方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、培地がさらにアクチビンを含む、請求項1または2に記載の分化誘導方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、培地がさらにレチノイン酸を含む、請求項3に記載の分化誘導方法。
【請求項5】
前記WntアゴニストがGSK-3阻害剤である(ただし、各工程のWntアゴニストは同じであっても異なってもよい)、請求項1~4のいずれかひとつに記載の分化誘導方法。
【請求項6】
前記Wntアゴニストが、CHIR99021、BIO、およびSB415286からなる群より選ばれる(ただし、各工程のWntアゴニストは同じであっても異なってもよい)、請求項5に記載の分化誘導方法。
【請求項7】
前記Bmpが、Bmp2、Bmp4およびBmp7からなる群より選ばれる、かつ、前記Fgfが、Fgf2、Fgf9およびFgf20からなる群より選ばれる、請求項1~6のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項8】
前記BmpがBmp4であり、かつ前記FgfがFgf9である、請求項1~7のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【請求項9】
前記工程(a)、(b)および(c)におけるWntアゴニストが、CHIR99021であり、かつ、前記濃度Aが7.5μM~15μM、前記濃度Cが0.5μM~2.0μMである、請求項1~8のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【請求項10】
前記工程(a)および(b)におけるBmpがBmp4であり、工程(a)における濃度が0.1ng/ml~3ng/mlであり、工程(b)における濃度が1ng/ml~10ng/mlである、請求項9に記載の分化誘導方法。
【請求項11】
前記工程(b)において、アクチビンを2.5~40ng/mLの濃度で含む請求項10に記載の分化誘導方法。
【請求項12】
前記工程(a)、(b)および(c)が、連続した工程である請求項1~11のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【請求項13】
前記工程(c)において、培地が、Bmp、アクチビンまたはレチノイン酸のいずれも含まない培地である、請求項1~12のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【請求項14】
前記多能性幹細胞がマウスES細胞またはiPS細胞、またはヒトES細胞またはiPS細胞である、請求項1~13のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【請求項15】
前記多能性幹細胞がヒトiPS細胞である、請求項14に記載の分化誘導方法。
【請求項16】
前記多能性幹細胞がマウスES細胞またはiPS細胞であり、かつ工程(a)が、少なくとも1日以上4日以内培養する工程である請求項14に記載の分化誘導方法。
【請求項17】
前記多能性幹細胞がヒトES細胞またはiPS細胞であり、かつ工程(a)が、少なくとも3日以上11日以内培養する工程である請求項14に記載の分化誘導方法。
【請求項18】
転写因子である、Osr1、Wt1、Pax2、Six2、Hoxa10、Hoxa11の全てを発現する細胞集団であることを特徴とする哺乳動物由来の多能性幹細胞から分化誘導されたネフロン前駆細胞。
【請求項19】
前記多能性幹細胞が、マウスES細胞またはiPS細胞、またはヒトES細胞またはiPS細胞である、請求項18に記載のネフロン前駆細胞。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか一つに記載の分化誘導方法により誘導されたネフロン前駆細胞。
【請求項21】
請求項18~20のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞を用いて、糸球体および尿細管を有する三次元腎臓構造を作成する方法。
【請求項22】
前記方法が、ネフロン前駆細胞を気液界面にて胚脊髄またはWnt4発現細胞と共培養ことを含む、請求項21に記載の三次元腎臓を作成する方法。
【請求項23】
請求項21または22に記載の方法により形成された、糸球体および尿管を有する三次元腎臓構造。
【請求項24】
請求項18~20のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導されたCadherin6、Megalin、およびLTLを発現する細胞集団であることを特徴とする近位尿細管細胞。
【請求項25】
前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、請求項24に記載の近位尿細管細胞。
【請求項26】
請求項18~20のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導された、E-cadherin、Brn1、およびNCCを発現する細胞集団であることを特徴とする遠位尿細管細胞。
【請求項27】
前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、請求項26に記載の遠位尿細管細胞。
【請求項28】
請求項18~20のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導された、Wt1、Nephrin、およびPodocinを発現する細胞集団であることを特徴とする糸球体上皮細胞。
【請求項29】
前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、請求項28に記載の糸球体上皮細胞。
【請求項30】
多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導するための分化誘導培地キットであって、該キットは、(i)分化誘導培地、および(ii)Wntアゴニストを含み、使用時において、前記Wntアゴニストを段階的濃度で含む少なくとも3つの分化誘導培地が調整される、ここで、前記段階的濃度は、少なくとも濃度A、BおよびCからなり、濃度A>濃度B>濃度Cであって、濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍である、
ことを特徴とする培地キット、培地キット。
【請求項31】
前記Wntアゴニストの段階的濃度は、濃度Aは濃度Bの少なくとも3倍であり、かつ濃度Bは濃度Cの少なくとも3倍であるように分化誘導培地が調整される、請求項30に記載の培地キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞からの腎臓の誘導方法に関する。より詳細には、本発明は、多能性幹細胞、例えば、ES細胞やiPS細胞から、糸球体と尿細管の両方を含む腎臓の3次元構造物を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は尿を産生することで老廃物を排出すると同時に体内の電解質、水分の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。腎機能が失われると水分と様々な毒性成分が蓄積し、意識混濁、肺水腫による呼吸困難、高カリウム血症で死に至るため、人工透析を行う必要がある。日本で人工透析を受ける患者数は約30万人に達しており、現在も増加の一途をたどっている。人工透析導入原因の第1位は糖尿病であり導入患者数の約45%を占めている。加えて腎臓は内分泌器官としても重要な働きをしており、レニンを産生することで血圧の調節を行い、ビタミンDの活性化やエリスロポエチンの産生によって骨代謝と赤血球の維持に関与している。そのため,腎不全においては血圧と骨の異常および重度の貧血が見られる。腎不全にともなう貧血に対して、現在では週に数回のエリスロポエチンの投与による治療が行われているが、一生にわたり投与を行う必要があり医療費の高騰を招いている。
【0003】
糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症などといった腎疾患により末期腎不全に陥った場合、死体および生体からの腎移植、血液または腹膜を介しての人工透析、の二つの治療法が行われている。腎移植は損なわれた腎機能を完全に補うことができる根本的な治療であるが、慢性的なドナー不足によって一般的な治療法にはなり得ていない。一方、人工透析は患者に厳しい食事制限や定期的な通院を強いる一方、腎臓の濾過機能の代償にしかすぎないため長期合併症を引き起こす。これらに代わる新しい治療として再生療法が注目されている。
【0004】
多能性幹細胞から様々なタイプの組織をインビトロで構築することが成功しているにもかかわらず、インビトロでの腎臓の作成は依然成功例はなく、その方法論の確立が待ち望まれている。これは主に、インビボでの腎臓分化過程の発生学的複雑さにより、そのメカニズムの詳細が解明されていないことに起因する。すなわち、腎臓は他の主要臓器とは異なり、その発生過程において、前方に位置する2つの一時的な原基(前腎、中腎)、さらには後方に位置し、成体腎へと分化する後腎の3つの原基形成を伴う、複雑なプロセスを経て形成される。さらに、人工的に再構成された腎臓が機能するためには、その機能単位である「ネフロン」を構成する、「糸球体」と「尿細管」の両方を含む三次元構造の構築が必須であることが、さらにその技術的難易度を高めている。
【0005】
腎臓は、胎児体幹の最も後方で発達する後腎から発生する。後腎は、2つの前駆組織、すなわち、後腎間葉と尿管芽の間での相互作用によって形成される。これまでに、細胞系譜解析により、後腎間葉と尿管芽が共に、胎生(E)8.5日目頃あらわれる転写因子、Osr1を発現する中間中胚葉から発生することが示されている(非特許文献1:Mugfordら、Dev Biol 324, 88-98, 2008)。しかし、初期の中胚葉がどのような成長因子シグナルによって中間中胚葉に分化するかについての基礎となるメカニズムは明らかにされていない。また、中間中胚葉から後腎へと発生する過程においては、中間中胚葉後方における後方Hox遺伝子群の重要性が報告されている(非特許文献2:Mugfordら、Dev Biol 319, 396-405, 2008; 非特許文献3:Wellikら、Genes Dev 16, 1423-1432, 2002)。しかし、どのようにして中間中胚葉の中で前後軸が形成され後方Hox遺伝子が発現し、後腎間葉が形成されるのか(後方化)はまだ解明されていない。
【0006】
腎臓は、中胚葉由来である後腎間葉と尿管芽という2つの組織の相互作用によって形成されるが、その機能単位であるネフロンに含まれる「糸球体」や「尿細管」等の主な構造は前者(後腎間葉)に由来する。発明者らは以前に、マウス胎児期の後腎間葉にネフロンのもととなる前駆細胞(後腎ネフロン前駆細胞)が存在することを報告し、その検出法も開発した(非特許文献4:長船、西中村ら、Development 133, 151-161, 2006)。また、iPS細胞をアクチビンAおよびWnt存在下で培養し、次いで、BMPおよびWnt存在下で培養することによる、iPS細胞からの中間中胚葉を誘導する方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、多能性幹細胞から、糸球体と尿細管の両方を再構築しうる「後腎ネフロン前駆細胞」の誘導に成功したという報告はない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】WO2012/011610公報
【0008】

【非特許文献1】Mugfordら、Dev Biol 324, 88-98, 2008
【非特許文献2】Mugfordら、Dev Biol 319, 396-405, 2008
【非特許文献3】Wellikら、Genes Dev 16, 1423-1432, 2002
【非特許文献4】長船、西中村ら、Development 133, 151-161, 2006
【非特許文献5】Takemotoら、Nature 470, 394-398, 2011
【非特許文献6】Tzouanacouら、Dev Cell 17, 365-376, 2009
【非特許文献7】Wilsonら、Development 136, 1591-1604, 2009
【非特許文献8】Kispertら、Development 125, 4225-4234, 1998
【非特許文献9】西中村ら、Development 128, 3105-3115, 2001
【非特許文献10】Jamesら、Development 133, 2995-3004, 2006
【非特許文献11】Barakら、Dev Cell 22, 1191-1207., 2012
【非特許文献12】Poladiaら、Dev Biol 291, 325-339, 2006
【非特許文献13】Atsutaら、Dev Growth Differ 55, 579-590, 2013
【非特許文献14】Attiaら、Development 139, 4143-4151, 2012
【非特許文献15】Obara-Ishiharaら、Development 126, 1103-1108, 1999
【非特許文献16】Saxen, Cell 131, 861-872, 1987
【非特許文献17】Herrmannら、Nature 343, 617-622, 1990
【非特許文献18】Burridge、Cell Stem Cell 10, 16-28, 2012
【非特許文献19】Bernardら、Cell Stem Cell 9, 144-155, 2011
【非特許文献20】Kattmanら、Cell stem cell 8, 228-240, 2011
【非特許文献21】Yuら、Cell Stem Cell 8, 326-334, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、多能性幹細胞、例えば、ES細胞やiPS細胞から、腎臓の三次元構造物を誘導する場合に用いることができる工程または方法を提供することを目的とする。本発明は特に、ES細胞やiPS細胞(例えば、マウス胚性幹細胞やヒト人工多能性幹(iPS)細胞)から、まず中間中胚葉細胞を誘導し、さらに、中間中胚葉細胞から後腎間葉細胞(後腎ネフロン前駆細胞)を誘導する方法、ならびにそのような方法を用いた腎臓分化系統の新たなモデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、マウスおよびヒト多能性幹細胞から腎臓の三次元構造すなわち、尿細管及び糸球体を再構成することが可能な後腎ネフロン前駆細胞(後腎間葉)を誘導することに成功し、本発明を完成した。腎臓を構成する大部分の上皮系細胞は、体幹の後方端に位置する後腎に含まれる後腎間葉細胞から派生する。しかし、インビボにおいては後腎の発生に先立ち、前腎、中腎の形成を含む複雑な発生過程を経るため、インビトロでの腎再生の試みを困難なものとしてきた。本発明者らは、後腎間葉細胞の前駆体が、インビボで原腸形成終了時期まで、転写因子Brachyury(=T)を発現する未分化中胚葉の状態に維持され、後方化されていることを確認した。そして、マウス胚からの分取したT陽性細胞は、高濃度のWntアゴニストを用いた後方化と、それに続く段階的なWntアゴニストの減量、ならびに各時期特異的な成長因子の添加によって、インビトロで後腎間葉に分化することを見いだした。マウスおよびヒトの多能性幹細胞を同様に処理すると、後腎間葉細胞が得られ、それは、糸球体上皮細胞をもつ糸球体とはっきりとした管腔をもつ尿細管、を含む腎臓の三次元構造を再構築できることを見出し、本発明を完成した。本発明により、インビトロでの腎臓の再構築が可能となった。
【0011】
本発明は以下を含むものである。
(1) 哺乳動物由来の多能性幹細胞から(後腎)ネフロン前駆細胞である後腎間葉を分化誘導する方法であって、該方法が、以下の3つの工程を、
(a)多能性幹細胞から誘導された胚様体を、Bmpおよび高濃度(濃度A)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、
(b)前記胚様体を、Bmpおよび中濃度(濃度B)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、および
(c)前記胚様体を、Fgfおよび低濃度(濃度C)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程、
をその順で含むことを特徴とする分化誘導方法
(ここで、Wntアゴニストの濃度は、濃度A>濃度B>濃度Cであって、濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍である。)。
(2)前記工程(a)、(b)および(c)におけるWntアゴニストの濃度は、濃度Aは濃度Bの少なくとも2倍(好ましくは少なくとも3倍)であり、かつ濃度Bは濃度Cの少なくとも2倍(好ましくは少なくとも3倍)である、前記(1)に記載の分化誘導方法。
(3) 前記工程(b)において、培地がさらにアクチビンを含む、前記(1)または(2)に記載の分化誘導方法。
(4) 前記工程(b)において、培地がさらにレチノイン酸を含む、前記(3)に記載の分化誘導方法。
【0012】
(5) 前期WntアゴニストがGSK-3阻害剤である(ただし、各工程のWntアゴニストは同じであっても異なってもよい)、前記(1)~(4)のいずれかひとつに記載の分化誘導方法。
(6) 前記Wntアゴニストが、CHIR99021、BIO、およびSB415286からなる群より選ばれる(ただし、各工程のWntアゴニストは同じであっても異なってもよい)、前記(5)のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
(7) 前記Bmpが、Bmpファミリーからなる群、好ましくはBmp2、Bmp4およびBmp7からなる群より選ばれる、かつ、前記Fgfが、Fgfファミリーからなる群、好ましくはFgf2、Fgf9およびFgf20からなる群より選ばれる、前記(1)~(6)のいずれかに記載の分化誘導方法。
(8) 前記BmpがBmp4であり、かつ前記FgfがFgf9である、前記(1)~(7)のいずれかひとつに記載の分化誘導方法。
(9) 前記工程(a)、(b)および(c)におけるWntアゴニストが、CHIR99021であり、かつ、前記濃度Aが7.5μM~15μM、前記濃度Cが0.5μM~2.0μMである、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の分化誘導方法
(10) 前記工程(a)および(b)におけるBmpがBmp4であり、工程(a)における濃度が0.1ng/ml~3ng/mlであり、工程(b)における濃度が1ng/ml~10ng/mlである、前記(9)に記載の分化誘導方法。
(11) 前記工程(b)において、アクチビンを2.5~40ng/mLの濃度で含む前記(10)に記載の分化誘導方法。
(12) 前記工程(a)、(b)および(c)が、連続した工程である前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
(13) 前記工程(c)において、培地が、Bmp、レチノイン酸またはアクチビンのいずれも含まない培地である、前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
【0013】
(14) 前記多能性幹細胞がマウスES細胞またはiPS細胞、またはヒトES細胞またはiPS細胞である、前記(1)~(13)のいずれか一つに記載の分化誘導方法。
(15) 前記多能性幹細胞がヒトiPS細胞である、前記(14)に記載の分化誘導方法。
(16) 前記多能性幹細胞がマウスES細胞またはiPS細胞であり、かつ工程(a)が、少なくとも1日以上4日以内培養する工程(ここで、好ましくは、少なくとも1回新鮮な培地に交換を行う)である前記(14)に記載の分化誘導方法。
(17) 前記多能性幹細胞がヒトES細胞またはiPS細胞であり、かつ工程(a)が、少なくとも3日以上11日以内培養する工程(ここで、好ましくは、少なくとも2回新鮮な培地に交換を行う)である前記(14)に記載の分化誘導方法。
(18) 転写因子である、Osr1、Wt1、Pax2、Six2、Hoxa10、Hoxa11の全てを発現する細胞集団であることを特徴とする哺乳動物由来の多能性幹細胞から分化誘導されたネフロン前駆細胞。
(19) 前記多能性幹細胞が、マウスES細胞またはiPS細胞、またはヒトES細胞またはiPS細胞である、前記(18)に記載のネフロン前駆細胞。
(20) 前記(1)~(17)のいずれか一つに記載の分化誘導方法により誘導されたネフロン前駆細胞。
(21) 前記(18)~(20)のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞を用いて、糸球体および尿細管を有する三次元腎臓構造を作成する方法。
(22) 前記方法が、ネフロン前駆細胞を気液界面にて胚脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することを含む、前記(21)に記載の三次元腎臓を作成する方法。
(23) 前記(21)または(22)に記載の方法により形成された、糸球体および尿管を有する三次元腎臓構造。
(24) 前記(18)~(20)のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導されたCadherin6、Megalin、およびLTLを発現する細胞集団であることを特徴とする近位尿細管細胞。
(25) 前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、前記(24)に記載の近位尿細管細胞。
(26) 前記(18)~(20)のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導された、E-cadherin、Brn1、およびNCCを発現する細胞集団であることを特徴とする遠位尿細管細胞。
(27) 前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、前記(26)に記載の遠位尿細管細胞。
(28) 前記(18)~(20)のいずれか一つに記載のネフロン前駆細胞から分化誘導された、Wt1、Nephrin、およびPodocinを発現する細胞集団であることを特徴とする糸球体上皮細胞。
(29) 前記分化誘導が、ネフロン前駆細胞を胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行われる、前記(28)に記載の糸球体上皮細胞。
(30) 多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導するための分化誘導培地キットであって、該キットは、(i)分化誘導培地、および(ii)Wntアゴニストを含み、使用時において、前記Wntアゴニストを段階的濃度で含む少なくとも3つの分化誘導培地が調整される、ここで、前記段階的濃度は、少なくとも濃度A、BおよびCからなり、濃度A>濃度B>濃度Cであって、濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍である、
ことを特徴とする培地キット、培地キット。
(31) 前記Wntアゴニストの段階的濃度は、濃度Aは濃度Bの少なくとも3倍であり、かつ濃度Bは濃度Cの少なくとも3倍であるように分化誘導培地が調整される、前記(30)に記載の培地キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、幹細胞(例えば、ES細胞やiPS細胞)から後腎ネフロン前駆細胞を効率よく誘導することができ、さらには、糸球体および尿細管の両方を含む腎臓の三次元構造の再構築が可能となった。このことにより、種々の疾患の患者から樹立されたiPS細胞を用いて、疾患特異的な尿細管や糸球体上皮細胞を作成し、その病態解明や新規創薬に応用できる可能性が開かれた。さらには、この後腎ネフロン前駆細胞は免疫不全マウスに移植することにより血管浸潤を伴った糸球体を形成したことから、今後、尿産生能を有する機能的な腎臓の再生にもつながることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マウスES細胞からの後腎ネフロン前駆細胞(後腎間葉)の誘導の工程の概要を示している。Aはアクチビン、BはBmp4、CはCHIR99021、Rはレチノイン酸、FはFgf9を示す。C10、C3、及びC1は、それぞれ、10μM、3μM、及び1μMのCHIR99021を表す。
【図2】ヒトiPS細胞からの後腎ネフロン前駆細胞(後腎間葉)の誘導の工程の概要を示している。Aはアクチビン、BはBmp4、CはCHIR99021、Rはレチノイン酸、FはFgf9を示す。
【図3】Osr1-GFPノックインマウス作成の標的ストラテジーを示している。EGFPは、Osr1遺伝子座に挿入して、EGFPにOsr1のN末端アミノ酸が結合するようにした。BはBamHIを表す。
【図4】Osr1-GFPノックインマウスのE8.5(A)、E9.5(B)およびE15.5(C)でのEGFP発現を示している。スケールバーは500μmである。
【図5】Osr1-GFP陽性集団により形成されたコロニーの、明視野像(左)、Pax2発現(中央)、およびLTL発現(右)を示している。スケールバーは、100μmである。
【図6】Osr1-GFP陽性集団により形成されたコロニーの腎臓関連遺伝子の発現を、β-アクチンに対する相対発現で示している。それぞれの最初のレーンは、コロニーを含まないWnt4フィーダー細胞のみを示している。マーカーはそれぞれ、腎臓系統マーカー:Pax2とSall1;近位尿細管マーカー:Slc5a1;ヘンレループのマーカー:ClcnkaとClcnkb;遠位尿細管マーカー:Pou3f3;接続細管マーカー:s100gである。
【図7】Osr1-GFPノックインマウスのE8.5、E9.5、E11.5、およびE15.5での、Itga8およびPdgfraの発現を、胚切片の免疫染色により示したものである。矢頭は、E15.5およびE11.5でのキャッピング間葉、E9.5での凝集中間中胚葉、E8.5での中間中胚葉を示す。スケールバーは、100μmである。
【図8】各発生段階における胚の、Osr1-GFP(左)およびItga8/Pdgfra(右)のFACS分析の結果を示している。
【図9】Osr1-GFPノックインマウスのE11.5後腎における、Sall1-GFPが高い集団(左)およびSix2-GFP陽性の集団(右)と、Itga8/Pdgfra発現のFACS分析の結果を示している。
【図10】胚の前部(体節レベル7~22)および後部(体節レベル23から後方)を用手的に単離し、Osr1+細胞の20,000細胞数をWntシグナルフィーダー細胞上に播種した。各部分のコロニー形成率は、平均±標準誤差として右側に示した(n=3)。
【図11】E9.5の中間中胚葉におけるネフロン前駆細胞の各種マーカーを、免疫染色により確認した。中間中胚葉は破線で輪郭を描いた。スケールバーは50μmである。
【図12】Six2-GFPCreERマウスとtdTomatoレポーター遺伝子を持つマウスと交配し、そしてE8.75でタモキシフェンを注射してE9.5前後でCreを一時的に活性化した。胚はE11.5で採取し、E-カドヘリン(緑)またはPax2(緑)で免疫染色した。tdTomato陽性の赤い細胞は中腎で検出されたが、後腎では検出されなかった。スケールバーは100μmである。
【図13】E9.5およびE10.5の中間中胚葉における各転写産物の発現を示している。E9.5前方およびE10.5前方:中腎前駆細胞、E10.5後方:後腎前駆細胞、E9.5後方:後方中間中胚葉である。β-アクチン発現に対する各転写産物の相対的な発現は、平均±標準誤差で示した(n=3)。
【図14】選別した早期腎前駆細胞におけるネフロン前駆細胞マーカー遺伝子発現を比較した結果である。プローブ毎に標準化された中央値に対する相対的な発現レベルはlog2比(log2 fold change)倍数変化として示している。E8.5:胚体幹からの選別されたOsr1-GFP陽性または陰性細胞。E9.5:胚体幹からの選別されたOsr1-GFP陽性または陰性細胞。GFP+集団は、Itga8+/Pdgfra-集団とその他に分けた。E11.5MM:用手的に単離した後腎間葉由来のOsr1-GFP陽性または陰性細胞。GFP+集団は、Itga8+/Pdgfra-集団とその他に分けた。後腎ネフロン前駆細胞マーカー遺伝子、例えば、Osr1、Wt1、Pax2、Six2、GdnfとCrymは、E9.5とE11.5のOsr1+/Itga8+/Pdgfra-集団の両方で発現していた。一方Hoxa10、a11、c10、d10、d11とd12のような尾部Hox遺伝子は、E11.5後腎間葉で濃縮されていた。
【図15】マウスの腎臓発生の模式図である。E8.5のT+/Cdx2+/Tbx6+後部未分化中胚葉は、後部中間中胚葉を経て後腎間葉を生じさせる。Pax2とSix2を発現しHox11sを発現しないE9.5の前方に位置する中間中胚葉は、中腎を生じさせWnt4フィーダー細胞上のいくつかのコロニーを形成する。Pax2とSix2を発現しないまたはコロニーを形成しないE9.5の後方に位置する中間中胚葉は、尾部Hox遺伝子を発現している。E10.5の後方に位置する後腎間葉は、尾部Hox遺伝子、Pax2およびSix2を発現し、Wnt4フィーダー細胞上で多くのコロニーを形成する。
【図16】E9.5胚の後方部分から選別したOsr1-GFP+細胞をY27632の存在下で培養した際の、培養細胞凝集体のGFP蛍光および免疫染色の結果(左図)および培養開始時に対する各転写産物の相対的発現の結果(平均±標準誤差、n=3、右図)である。
【図17】上記培養細胞凝集体のOsr1-GFP発現(左図)およびItga8/Pdgfra発現(右図)のFACS分析の結果である。
【図18】上記培養細胞凝集体のコロニー形成率を示した結果である(n=3)。Y:Y27632(Rock阻害剤);SU:SU5402(Fgfr1阻害剤);C1:1μM CHIR99021(カノニカル Wntアゴニスト);C3:3μM CHIR99021,C10:10μM CHIR99021;RA:レチノイン酸。
【図19】選別した早期腎前駆細胞における、Fgf、Bmp、およびWnt関連遺伝子の発現を、マイクロアレイ分析により比較した結果である。各プローブの標準化した平均値に対する相対発現を、log2比(log2 fold change)で示している。
【図20】Fgf9および低容量のWntアゴニストの添加によるコロニー形成への影響を示している。Y:Y27632(Rock阻害剤);F:Fgf9;C1:1μM CHIR99021。
【図21】中胚葉からの尿管芽と後腎間葉の系統分離モデルを示している。
【図22】E8.5のT陽性後部中胚葉からの後腎ネフロン前駆の誘導の結果である。Aは、E8.5胚におけるT-GFP発現を示しており、左パネルが明視野であり、右パネルが蛍光である(スケールバー:500μm)。なお、体節形成前の未分化中胚葉領域を破線の輪郭で示している。Bは、T-GFP陽性細胞集団のソーティングのためのゲートを示す。CおよびDは、培養条件を示した。B:Bmp4;C:CHIR99021;A:アクチビン;R:レチノイン酸;F:Fgf9である。EおよびFは、β-アクチンの発現に対する各転写産物の相対発現を平均±標準誤差で表示した(n=4)。E10.5MMはE10.5後腎間葉を、T-GFP+は誘導開始時点の試料を示す。Gは、培養した細胞凝集体のコロニー形成率を、平均±標準誤差で示した(n=4)。
【図23】E8.5後部未分化中胚葉からネフロン前駆細胞の誘導の結果である。Aは、後方化期における増殖因子またはそれらの阻害剤の効果を、コロニー形成アッセイにより分析した結果である。各条件でのコロニー形成の比率は平均±標準誤差として示した(n=3)。最終的な採択条件は、左から2つ目のカラムである。Bは、腎カクテル期の成長因子またはそれらの阻害剤の効果を、コロニー形成アッセイにより分析した結果である。各条件でのコロニー形成の比率は平均±標準誤差として示した(n=3)。最終採択条件は、左から2つ目のカラムである。すべての条件で、Y27632(ROCK阻害剤)が含まれている。CHIR:CHIR99021(カノニカル Wntアゴニスト);A10:10ng/mlのアクチビン;SB:SB431542(Smad2/3阻害剤);LDN:LDN93189(Smad1/5/8アンタゴニスト);XAV:XAV939(Wntシグナルアンタゴニスト)、R:0.1μMレチノイン酸;BMS:BMS493(pan-RAR拮抗薬)、F:5ng/mlのFgf9;SU:SU5402(Fgfr1阻害剤)。
【図24】E8.5のT陽性後部中胚葉からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導におけるマーカー遺伝子の発現を確認した結果である。Aは、マーカー遺伝子の時間的発現の動態を確認した結果である。E10.5の胚後腎間葉の発現レベルを菱形印で表示した。β-アクチン発現に対する各転写物の相対的な発現は、平均±標準誤差で表示した(n=4)。Bは、誘導細胞凝集体の免疫染色の結果である。高倍率画像は右の2つのパネルに示した。スケールバーは、200μm(左6パネル)、20ミクロン(右端2パネル)である。Cは、誘導4日目(day4)でのItga8/Pdgfra発現のFACS解析の結果である。
【図25】マウスES細胞からのネフロン前駆細胞の誘導の各段階における遺伝子発現の動態を示している。E10.5胚後腎間葉における発現レベルを菱形印で示した。遺伝子発現は、β-アクチン発現に対する各転写産物の相対的な発現(平均±標準誤差)で表示した(n=4)。
【図26】マウスES細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導におけるday8.5での誘導胚様体におけるOsr1-GFP/Wt1/Pax2とOsr1-GFP/Sall1/Six2陽性細胞の局在を示している。スケールバーは、200μm(左6パネル)である。
【図27】マウスES細胞からのネフロン前駆細胞の誘導におけるday8.5での胚様体におけるOsr1-GFPおよびItga8/Pdgfra発現のFACS分析の結果を示している。
【図28】マウスES細胞からの3次元構造の腎臓の誘導の結果を示す。A~Dは、ヘマトキシリンおよびエオシン染色の結果である(BおよびD:高倍率)。AおよびBは、胚後腎間葉、CおよびDは、脊髄と共培養した誘導した胚様体である。腎臓の尿細管は、破線で輪郭を示した。SP:脊髄、G:糸球体。スケールバーは、200μmおよび20μmである。E~Pは、誘導した胚様体を、尿細管マーカー(E~H、L~P)(近位尿細管マーカー:LTL、遠位尿細管マーカー:E-cadherin、Brn1およびNCC)と糸球体マーカー(I~K)で免疫染色した結果である。スケールバーは、100μm(E、I)および20μm(F~H、J~L)である。
【図29】マウスES細胞からの3次元構造の腎臓の誘導の結果を示す。QおよびRは、誘導した胚様体をヌードマウスの腎臓被膜下に移植し、1週間後に摘出したマウスの腎臓を示している。移植片を破線で輪郭を描いている。Qの黒矢印は、移植片の血管新生を示す。Rは、移植片の蛍光画像である。Rの白矢印は、移植片中のネフロン様構造を示している。スケールバーは、500μmである。S~Uは、移植した腎臓切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色の結果である。Sは低倍率画像である(g:移植片;k:ホストの腎臓、スケールバー:100μm)。Tは中倍率画像である(腎臓の尿細管は、破線で輪郭を描いている、G:糸球体。スケールバー:20μm)。Uは移植片における糸球体の高倍率画像である(矢印は、糸球体に侵入する脈管構造中の赤血球を示している、スケールバー:20μm)。VおよびWは、血管マーカーである、Pecam1による免疫染色の結果である(V:低倍率画像、W:移植片中における糸球体の高倍率画像、g:移植片、k:ホストの腎臓、スケールバー:20μm)。XおよびYは、糸球体上皮細胞における血管誘導因子(X:Vegfa、Y:Efnb2)の発現を示している。
【図30】ヒトiPS細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導における、分化したiPS細胞の遺伝子発現解析の結果である。未熟なiPS細胞(各左列)に対する各転写産物の相対的な発現を、平均±標準誤差で表示した(n=6)。
【図31】ヒトiPS細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導における、day14(14日目)での誘導した胚様体中のWt1/Pax2およびSall1/Six2陽性細胞の局在を示す。スケールバーは、75μmである。
【図32】DおよびEは、脊髄とともに共培養した誘導した胚様体のヘマトキシリンおよびエオシン染色の結果である(Eは高倍率のイメージである)。尿細管を破線で輪郭を描いた。SP:脊髄、G:糸球体、スケールバー:200μm(D)および20μm(E)。F~Kは、誘導された胚様体の隣接切片の免疫染色の結果である。Kは、糸球体マーカー、HおよびIは、尿細管マーカーであり、スケールバーは50μmである。
【図33】多能性細胞から後腎間葉への分化誘導モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。

【0017】
発明者らは、マウスおよびヒト多能性幹細胞から尿細管及び糸球体を含む三次元腎臓を再構成することが可能な後腎ネフロン前駆細胞を誘導することに成功した。尿細管及び糸球体は、腎機能のための重要な2つの主要なコンポーネントであるので、本発明の方法ならびにそれを用いて得られる知見は、ヒト腎臓疾患の根底にある分子機構を明らかにするために有用であるとともに、再生医療に利用することができる。本明細書に示されたデータはまた、腎臓の発達過程がヒトとマウスの間でよく保存されていることを実証しており、生理学的プロセスを忠実に再現する本発明の方法の堅牢性を示している。

【0018】
従来の研究は、推定される「系統誘導因子」を用いて腎臓前駆細胞の誘導に挑戦してきたが、それらは、後腎つまり成人の腎臓の原基が、予定腎臓領域すなわち中間中胚葉の中でどのように後方化されるかという観点を欠いていた。これまでに、後腎を構成する二大要素の一つである尿管芽は、前方中間中胚葉から発生し後方へと伸長することが知られていた。今回我々は、もう一つの構成要素である後腎間葉の前駆体は、前方中間中胚葉からではなく、原腸形成終了期まで転写因子Brachyury(=T)陽性の状態に維持され後方化(posteriorized)された後方未分化中胚葉に由来することを新たに明らかにした。原腸形成開始段階で発現し始める転写因子Tはこれまで、幹細胞からの分化誘導研究において”一時的な”未分化中胚葉マーカーとして認識されてきた。しかし最近、T陽性状態を維持した未分化な前駆細胞集団が、体幹の伸展が完了するまで胚の後端に存在し、そして体幹尾部のもととなる細胞すなわち「体軸幹細胞」として機能することが示されている(非特許文献5:Takemotoら、Nature 470, 394-398, 2011;非特許文献6:Tzouanacouら、Dev Cell 17, 365-376, 2009;非特許文献7:Wilsonら、Development 136, 1591-1604, 2009)。本明細書に示したデータは、この最近同定された後部未分化中胚葉(体軸幹細胞)が、後腎間葉、すなわちネフロン前駆細胞の起源であろうということを示唆しており、腎臓全体が前方中間中胚葉に由来するという従来の考えに対抗するものである。体軸幹細胞の誘導モデルの導入は、さらに他の尾側に位置する臓器の分化誘導に適用することができるかもしれない。

【0019】
以下に記載の実施例で示すように、本発明者らは、通常マウスES細胞の未分化状態の維持等に使用される濃度を上回る濃度のWntアゴニストを利用することにより、細胞をT陽性の未分化状態で維持したまま後方化することに成功した。その後、Wntアゴニストの濃度を段階的に漸次減少し、さらに分化段階特異的に成長因子を組み合わせて添加することによって、腎臓系統へと分化誘導させ、最終的に後腎ネフロン前駆細胞の形成を可能にした。誘導の初期段階における高濃度のWntアゴニストの必要性は、インビボにおいて尾部体幹の伸長および体軸幹駆細胞の維持にWntシグナルが重要であることを反映している。後方中間中胚葉に向けた次のステップでは、体幹の筋骨格を形成する沿軸中胚葉の分化過程と同様に、Wntアゴニスト濃度の減少とレチノイン酸の添加が効果的であった。またこのステップにおいては腎臓の遺伝子誘導に対するアクチビンの相乗効果も確認された。続いて、後方中間中胚葉から後腎間葉へと分化させる工程においては、Fgf9の添加とWntシグナルのさらなる低減が有効で、この際、Bmp4、レチノイン酸およびアクチビンの添加は阻害的であり、この最終工程から除かれるべきである。このことは、各成長因子が段階特異的に添加されるべきであるということを示している。

【0020】
これらの観察結果は、以前、E8.5でのOsr1+前方中間中胚葉細胞からの後腎前駆細胞の誘導に何故失敗したかを部分的に説明することができるかもしれない。それは、E8.5で既に存在しているOsr1+前方中間中胚葉細胞は後腎に貢献せず、T+/Osr1-集団が後腎に分化する能力がある真正のT-/Osr1+後方中間中胚葉細胞を生じさせる、ということが予想される。

【0021】
本発明で用いる「多能性幹細胞」とは、自己複製能を有しインビトロにおいて培養することが可能で、かつ、個体を構成する細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)等をあげることができるが、本発明で特に好ましく用いられるのはiPS細胞又はES細胞であり、特に好ましくは、マウスiPS細胞及びES細胞、ヒトiPS細胞及びES細胞である。

【0022】
本発明で用いるES細胞は、哺乳類動物由来のES細胞であればよく、その種類や取得方法などは特に限定されない。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル又はヒト等をあげることができ、好ましくは、マウス又はヒトである。
ES細胞は、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と一緒に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に細胞株として樹立することができる。

【0023】
また、iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、分化多能性を獲得した細胞のことで、体細胞(例えば、線維芽細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(分化多能性因子)遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞のことである。「分化多能性因子」としては、多くの因子が報告されており、特に限定しないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15及びSox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、Mycファミリー(例えば、c-Myc、N-Myc、L-Mycなど)、Nanog、LIN28などを挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの報告が既になされており、それらを参考にすることができる。

【0024】
哺乳動物由来のES細胞の培養方法は常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用い、白血病阻害因子(LIF)、KSR(ノックアウト血清代替物)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM培地を用いて維持することができる。
iPS細胞の培養も定法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス繊維芽細胞を用いて、bFGF、KSR(ノックアウト血清代替物)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地やPrimate ES培地(リプロセル)を用いて維持することができる。

【0025】
本発明における多能性幹細胞、例えばES細胞又はiPS細胞からネフロン前駆細胞の分化誘導は、フィーダー細胞を含む培養系、フィーダーフリーの培養系のいずれも含む。分化誘導に用いる培地は、一般に用いられている培地を用いることができ、本発明の目的を達成できる限り特に制限がなく、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGjB培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、改良MEM培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagles MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、ダルベッコ培地、改良ダルベッコ培地、およびこれらの混合培地等をあげることができる。例えば、好ましくは、ES細胞の分化誘導においては、イスコフ改良ダルベッコ培地とハムF12の混合培地を用いることができ、iPS細胞の分化誘導においては、DMEM/F12培地を用いることができるが、これに制限されない。

【0026】
本発明の培養方法で用いられる培地は、血清含有培地、無血清培地であり得るが、異種成分の排除による細胞移植の安全性の確保という観点からは、無血清培地が好ましい。ここで、無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)または、血清代替物が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。かかる無血清培地としては、例えば、市販のKSRを適量(例えば、1-20%)添加した無血清培地、インスリンおよびトランスフェリンを添加した無血清培地、細胞由来の因子を添加した培地等をあげることができるが、これらに限定されない。

【0027】
多能性幹細胞からのネフロン前駆細胞の分化誘導は、後に詳細に記載するように、本発明に従って、各工程において、上記の培地に各成分や因子を添加した培地を用いて行うことができる。培地に添加する成分や因子としては、これに限定されないが、例えば、B27、N2、Insulin-transferrin-serenium、β-メルカプトエタノール、アスコルビン酸、Non-essential amino acidなどをあげることができる。

【0028】
本発明で言う多能性幹細胞の「分化」又は「分化誘導」とは、多能性幹細胞が、中間中胚葉さらには後腎ネフロン前駆細胞まで分化誘導されることを含む意味で用いられ、更にはまた、それらが、尿細管及び糸球体を含む三次元腎臓へと分化誘導されることを含む意味でも用いられる。

【0029】
本発明の一つの態様は、哺乳動物由来の多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を分化誘導する方法である。本発明を用いて、ES細胞からネフロン前駆細胞を誘導する工程全体の概要を図1に、iPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導する工程全体の概要を図2に示す。
本発明を用いて哺乳動物由来の多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を分化誘導する場合、以下の3つの工程(a)~(c)を、その順で含むことが必要である:工程(a)多能性幹細胞から誘導された胚様体を、Bmpおよび高濃度(濃度A)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程;工程(b)前記胚様体を、Bmpおよび中濃度(濃度B)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程;および工程(c)前記胚様体を、Fgfおよび低濃度(濃度C)のWntアゴニストを含有する培地で培養する工程。
工程(a)および(b)で用いられるBmpは、Bmp1、Bmp2、Bmp4、Bmp6、Bmp7、Bmp8a、Bmp8bおよびBmp10等のBmpファミリーからなる群より選ばれ、好ましくは、Bmp2、Bmp4またはBmp7から選ばれ、さらに好ましくはBmp4である。
工程(c)で用いられるFgfは、Fgf2,9,20等のFgfファミリーから選ばれ、好ましくはFgf2、Fgf9またはFgf20から選ばれ、より好ましくはFgf9である。
工程(a)~(c)で用いられるWntアゴニストの濃度は、濃度A>濃度B>濃度Cであって、濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍である。
本発明の方法は、これらの工程を、(a)、(b)、(c)の順で含み、必要に応じて各工程の間に別の工程を含むこともできるが、好ましくは、(a)、(b)および(c)を連続で含む。これらの工程が連続することにより、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を効率よく分化誘導できる。

【0030】
本発明の分化誘導方法においては、好ましくは、上記行程(b)において、培地が、さらにアクチビンを含み、より好ましくは、アクチビンおよびレチノイン酸を含む。
本発明の分化誘導方法においては、特に好ましくは、上記工程(c)において、培地がBmp、アクチビンまたはレチノイン酸のいずれも含まない培地である。
上記工程(a)により、後方中胚葉が誘導され、工程(b)により後方中間中胚葉が誘導され、そして工程(c)により後腎ネフロン前駆細胞(後腎間葉)が誘導される。

【0031】
工程(a)に用いる胚様体は、多能性幹細胞(例えば、ES細胞やiPS細胞)を、任意の培地、好ましくは無血清培地で培養することにより調整できる。例えば、マウス多能性幹細胞を用いる場合は、これに限定されないが、好ましくはマウスES細胞を用いて胚様体が調整され、さらに好ましくは、工程(a)の処理をする前にアクチビンで処理してFgf5の発現を一過性に誘導した胚様体が用いられる。培地中のアクチビンの濃度は、例えば、0.1~3ng/mL、好ましくは0.5~1ng/mLをあげることができる。アクチビンでの処理は、例えば、1~2日、好ましくは1日行うことができる。この際、細胞株によってはBmp4を0.1ng/ml~0.3ng/ml程度で合せて用いると分化誘導効率が上がることがある。
一方、ヒト多能性幹細胞を用いる場合は、これに限定されないが、好ましくはヒトiPS細胞を、Bmp4およびRock阻害剤(Y27632)で(必要に応じてさらにFgfを加えて)処理した細胞を用いて胚様体が調整され、さらに好ましくは、次いで、アクチビンおよびFgfで処理された胚様体が用いられる。培地中のBmp4の濃度は、例えば、0.3~5ng/mL、好ましくは0.5~2ng/mLをあげることができ、培地中のRock阻害剤(Y27632)の濃度は、例えば、1~100ng/mL、好ましくは5~20ng/mLをあげることができ、培地中のFgfの濃度は、例えば、0~20ng/mL、をあげることができ、培地中のアクチビンの濃度は、例えば、0.1~5ng/mL、好ましくは0.5~1ng/mLをあげることができる。Bmp4およびRock阻害剤(Y27632)、Fgfでの処理は、例えば、1~2日、好ましくは1日行い、アクチビンおよびFgfの処理は、例えば、1~4日、好ましくは2日行うことができる。

【0032】
本発明の分化誘導方法においては、上記工程(a)、(b)および(c)において、それぞれの工程において用いられる培地が含有するWntアゴニストの濃度A、BおよびCが、特定の関係にあることが重要である。各工程で用いる培地のWntアゴニストの濃度は、濃度A>濃度B>濃度Cでありかつ濃度Aは濃度Cの少なくとも5倍であるが、好ましくは、濃度Aは濃度Bの少なくとも2倍でありかつ濃度Bは濃度Cの少なくとも2倍であり、さらに好ましくは、濃度Aは濃度Bの少なくとも3倍であり、かつ濃度Bは濃度Cの少なくとも3倍である。工程(c)におけるWntアゴニストの濃度Cは、本発明の方法において、分化誘導が起こる限り特に制限がなく、また、用いるWntアゴニストによよって適宜選択されるが、例えばCHIR99021を用いた場合、0.1~3.0μM、好ましくは、0.5~2.0μMをあげることができる。
例えばCHIR99021を用いた場合、これに限定されないが、工程(a)および(c)におけるWntアゴニストの濃度AおよびCの組み合わせとして、濃度Aは、6~20μM、好ましくは7~15μM、より好ましくは10μMから選ばれ、濃度Cは、0.5~2μM、好ましくは0.7~1.5μM、より好ましくは1μMから選ばれる組合せをあげることができる。また、例えばCHIR99021を用いた場合、これに限定されないが、工程(a)、(b)および(c)におけるWntアゴニストの濃度A、BおよびCの組み合わせとして、濃度Aは、6~20μM、好ましくは7~15μM、より好ましくは10μMから選ばれ、濃度Bは、2~6μM、好ましくは2~4.5μM、より好ましくは3μMから選ばれ、濃度Cは、0.5~2μM、好ましくは0.7~1.5μM、より好ましくは1μMから選ばれる組合せをあげることができる。

【0033】
本発明で用いることができるWntアゴニストは、Wntアゴニスト活性を有する限り特に制限されない。Wntアゴニストは、細胞中でTCF/LEF介在性の転写を活性化する薬剤として定義される。従ってWntアゴニストは、Wntファミリータンパク質のありとあらゆるものを含むFrizzled受容体ファミリーメンバーに結合し、活性化する真のWntアゴニスト、細胞内β-カテニン分解の阻害剤およびTCF/LEFの活性化物質から選択される。本発明でいう、Wntアゴニストは、この分子の非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも70%、よりさらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%、細胞においてWnt活性を刺激するものを言う。当業者にとって公知のように、Wnt活性は、例えばpTOPFLASHおよびpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(Korinekら, Science 275:1784-1787, 1997)。

【0034】
本発明で用いることができるWntアゴニストは、Wnt-1/Int-1;Wnt-2/Irp(Int-1関連タンパク質);Wnt-2b/13、Wnt-3/Int-4;Wnt-3a;Wnt-4;Wnt-5a;Wnt-5b;Wnt-6;Wnt-7a;Wnt-7b、Wnt-8a/8d;Wnt-8b;Wnt-9a/14;Wnt-9b/14b/15;Wnt-10a;Wnt-10b/12;Wnt-11およびWnt-16を含む分泌糖タンパク質を含む。さらに、Wntアゴニストは、分泌タンパク質のR-スポンジンファミリーおよび、高親和性でFrizzled-4受容体に結合し、Wntシグナル伝達経路の活性化を誘導するという点でWntタンパク質のように機能する分泌性制御タンパク質であるノリン(Norrin)を含む。Wntシグナル伝達経路の小分子アゴニスト、アミノピリミジン誘導体もまたWntアゴニストとして明確に含まれる。

【0035】
上記定義に含まれるWntアゴニストはまた、Wntシグナル伝達経路阻害物質、GSK-3阻害剤、Dkk1アンタゴニスト等も含む。GSK-3阻害剤とは、GSK-αまたはβ阻害剤を含み、GSK-3αまたはβ蛋白質のキナーゼ活性、例えばβカテニンに対するリン酸化能、を阻害する物質として定義され、多くの物質が知られている。その具体例としては、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]ニコチノニトリル)、リチウムや、バルプロ酸、ベンズアゼピノン(benzazepinone)ファミリーのケンパウロン(Kenpaullone;9-ブロモ-7,12-ジヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアセピン-6(5H)-オン)やアルスターパウロン(Alsterpaullone;9-ニトロ-7,12-ジヒドロインドロ[3,2-d][1]ベンズアセピン-6(5H)-オン)、インジルビン誘導体である5-クロロ-インジルビン、インジルビン-3’-モノオキシムやBIO(別名、GSK-3βインヒビターIX;6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)やSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、チアジアゾリジノン(TDZD:thiadiazolidinone)類似体であるTDZD-8(別名、GSK-3βインヒビターI;4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)やOTDZT(別名、GSK-3βインヒビターIII;2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3βインヒビターVII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチドインヒビター;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)などが挙げられる。

【0036】
本発明で用いることができるWntアゴニストはさらに、Wntシグナル伝達経路阻害物質を含み、Wntシグナル伝達経路阻害物質として公知のまたは販売されている物質を用いることができる。
本発明で用いることができるWntアゴニストは、上記の定義に含まれる限り、天然物または合成物のいずれも含まれ、また、タンパク質、高分子、低分子のいずれであってもよい。本発明において用いることができるWntアゴニストの例としては、これに限定されないが、例えば、好ましくは、GSK-3阻害剤、より好ましくは、CHIR99021、BIO、またはSB415286をあげることができ、特に好ましくは、CHIR99021をあげることができる。各Wntアゴニストの使用濃度は使用目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、CHIR99021を用いた場合に得られる効果と同様の効果を発揮できる濃度を選択することができる。

【0037】
工程(a)において用いられるBmpは、上記したBmpのいずれを用いることもでき、各Bmp化合物の使用濃度は使用目的に合わせて適宜選択できる。例えばBmp4を用いる場合は、いずれの起源のBmp4を用いることができるが好ましくはヒトBmp4であり、培地中の濃度は、分化誘導の効果が得られる限り特に制限がないが、例えば、0.1~3ng/mL、好ましくは0.3~1.5ng/mLをあげることができる。また、他のBmp化合物を用いる場合は、Bmp4を用いた場合に得られる効果を同様の効果を発揮できる濃度を適宜選択することができる。

【0038】
工程(b)において用いられるBmpは、上記したBmpのいずれを用いることもでき、各Bmp化合物の使用濃度は使用目的に合わせて適宜選択できる。例えばBmp4を用いる場合は、いずれの起源のBmp4を用いることができるが好ましくはヒトBmp4であり、培地中の濃度は、分化誘導の効果が得られる限り特に制限がないが、例えば、0.1~30ng/mL、好ましくは1~10ng/mLをあげることができる。また、他のBmp化合物を用いる場合は、Bmp4を用いた場合に得られる効果を同様の効果を発揮できる濃度を適宜選択することができる
好ましい態様において、工程(b)において用いられるアクチビンは、いずれの起源のアクチビンを用いることができるが好ましくはヒトアクチビンAである。また、培地中の濃度は、分化誘導の効果が得られる限り特に制限がないが、例えば、2.5~40ng/mL、好ましくは7.5~15ng/mLをあげることができる。
また、別の好ましい態様において、工程(b)において用いられるレチノイン酸の培地中の濃度は、分化誘導の効果が得られる限り特に制限がないが、例えば、0.001~1μM、好ましくは0.01~0.3μMをあげることができる。

【0039】
工程(c)において用いられるFgfは、上記したFgfのいずれを用いることもでき、各Fgf化合物の使用濃度は使用目的に合わせて適宜選択できる。例えばFgf9を用いる場合は、いずれの起源のFgf9を用いることができるが好ましくはヒトFgf9である。培地中の濃度は、分化誘導の効果が得られる限り特に制限がないが、例えば、1~25ng/mL、好ましくは2.5~10ng/mLをあげることができる。また、他のFgf化合物を用いる場合は、Fgf9を用いた場合に得られる効果を同様の効果を発揮できる濃度を適宜選択することができる。

【0040】
工程(a)、(b)および(c)で処理する日数は、ネフロン前駆細胞が誘導できる限り特に制限はないが、マウスおよびヒトにおいてそれぞれに以下のような好ましい日数がある。
マウスの多能性幹細胞を用いてネフロン前駆細胞を誘導する場合は、培養は、工程(a)は、例えば、1~4日、好ましくは2日~3日、特に好ましくは2.5日行い、工程(b)は、好ましくは0.5日~2日、特に好ましくは1日行い、工程(c)は、例えば、0.5~3日、好ましくは1日~2.5日、特に好ましくは2日行うことができる。
一方、ヒトの多能性幹細胞を用いてネフロン前駆細胞を誘導する場合は、培養は、工程(a)は、例えば、3~11日、好ましくは4日~10日、特に好ましくは6日行い、工程(b)は、好ましくは1日~3日、特に好ましくは2日行い、工程(c)は、例えば、1~5日、好ましくは2日~4日、特に好ましくは3日行う。

【0041】
本発明の他の態様は、本発明の分化誘導方法により誘導された後腎ネフロン前駆細胞である。本発明の方法により誘導されたネフロン前駆細胞は、後腎間葉を規定する転写因子、Osr1、Wt1、Pax2、Six2、Hoxa10、Hoxa11全てを発現する細胞集団であることを特徴とし、それらの遺伝子が単一細胞レベルで高い確率で共発現している。本発明のネフロン前駆細胞は、尿細管だけではなく糸球体を含む三次元腎臓を再構成することが可能な後腎ネフロン前駆細胞である。

【0042】
本発明の他の一つの態様は、本発明の後腎ネフロン前駆細胞から更に分化誘導された近位尿細管細胞、遠位尿細管細胞、および糸球体上皮細胞である。近位尿細管細胞の特徴は、Cadherin6、Megalin、およびLTLを発現する細胞の細胞集団である。遠位尿細管細胞の特徴は、E-cadherin、Brn1、およびNCCを発現する細胞の細胞集団である。糸球体細胞の特徴は、Wt1、Nephrin、およびPodocinを発現する細胞の細胞集団である。近位尿細管細胞、遠位尿細管細胞、または糸球体上皮細胞は、ネフロン前駆細胞を、これに限定されないが、例えば、胎児脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより得ることができる。
また、共培養後の各構成細胞の分取は、これに限定されないが、例えば、トリプシン等を用いた細胞解離処理後に各細胞特異的な膜たんぱく質(例えば、糸球体上皮細胞であればpodocalyxin、近位尿細管であればCadherin6、遠位尿細管であればEcadherin)を抗体染色し、FACS(フローサイトメーター)を用いて分取することが可能である。

【0043】
本発明の別の態様は、本発明の方法により得られたネフロン前駆細胞を用いて尿細管及び糸球体が再構成された三次元腎臓を作成する方法である。本発明の方法により得られたネフロン前駆細胞を用いて三次元腎臓を作成する方法は、例えば、ネフロン前駆細胞を、気液界面にて胚脊髄またはWnt4発現細胞と共培養することにより行うことができる。共培養の条件は、例えば、Kispertら、Development 125, 4225-4234, 1998(非特許文献8)に記載の方法を参考にして行うことができるが、それに限定されず、他の公知の知見をもとに、当業者が適宜変更または改良を加えたものも含まれる。このようにして作成した腎臓は、尿細管や糸球体を含む三次元腎臓の構造を形成している。

【0044】
本発明の他の別の態様は、本発明の方法により得られたネフロン前駆細胞を用いて作成された尿細管及び糸球体が再構成された三次元腎臓である。三次元腎臓の作成方法は、上述の通りである。

【0045】
本発明の別の一つの態様は、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導するための培地および培地のキットである。本発明の培地の一つの特徴は、濃度を段階的に変更したWntアゴニストを含む培地の組合せであり、本発明はまたそのような培地の組合せを作成するための培地のキットである。例えば、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞または腎臓を誘導するための誘導培地とWntアゴニストからなる培地キットをあげることができ、用時に、Wntアゴニストを段階的濃度となるように培地に加えて使用される。本発明の培地のキットは、さらに、Bmp4、アクチビン、レチノイン酸のいずれか1つ以上を含むこともできる。

【0046】
上記のように、本発明により、多能性幹細胞より後腎ネフロン前駆細胞を誘導することが可能となった。本発明の方法により作成された後腎ネフロン前駆細胞は、さらに成熟したネフロンコンポーネントの構築に貢献でき、そして、それらを尿管芽由来の構造と結合して腎臓の生理的機能を付与することが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
(A)材料と方法
(1)変異マウスの作成
GFPはエクソン2のAgeI部位に挿入し、Osr1のN末端12アミノ酸がGFPにインフレームで結合するようにした。5’Hpa1-AgeI Osr1ゲノム断片(2.8kb)をEGFPに結合し、そしてTakasatoら(Mech Dev 121, 547-557, 2004)の方法に従い、3’BamHI-BamHI断片(5.5kb)を、loxP部位に隣接したNeoおよびタンデムなDTAを含むベクターに挿入した。標的ベクターをE14.1ES細胞にエレクトロポレーションし、次いで、3つの480G418耐性クローンを、BamHIで消化した後、5’プローブを用いたサザンブロット分析により、標的として決定した。正しく標的とされたESクローンを、C57BL/6J雌マウスと交配する生殖系列キメラを作成するために使用した。Neoを、Osr1-GFP変異マウスと遍在的にCreを発現するマウスとを交配させることにより取り除くと、表現型およびEGFP発現パターンは、元の変異マウスのものと同一であった。子孫の遺伝子型分析は、フォワードプライマー、5’-TATGTTGAGGGGGCAGTAGGTTC-3’、2つのリバースプライマー、5’-GTTGGGCAGGTGGTCCGAGGGCA-3’および5’-TAGGTCAGGGTGGTCACGAGGGT-3’を用いたPCRによって行い、野性型アレルのための320塩基対の産物および変異アレルのための420bpの産物を製造した。TnEGFP-CreERT2/+(Acc. No. CDB0604K: http:// www.cdb.riken.jp/arg/mutant%20mice%20list.html)、Wt1tm1(EGFP/cre)Wtpマウス、Six2tm3(EGFP/cre/ERT2)Amcマウス、およびGt(ROSA)26Sortm9(CAG-tdTomato)Hzeマウスは、Jackson Laboratory(米国)から購入した。全ての動物実験は、施設のガイドラインおよび倫理委員会に従って行った。
【実施例】
【0049】
(2)インビトロコロニー形成アッセイ
インビトロコロニー形成アッセイは、Osafuneら(非特許文献4:Development 133, 151-161, 2006)の記載に従って行った。要約すれば、前駆細胞は、FACS Aria II(Becton Dickinson)を用いて選別し、Wnt4を安定に発現するNIH3T3細胞上に低密度(1,250-10,000細胞/ウェル、6ウェルプレート)で播種した。次いで、細胞を、5% ノックアウト血清代替物(Invitrogen)、10μg/mL インスリン、6.7μg/L 亜セレン酸ナトリウム、5.5μg/mL トランスフェリン、1×10-7mol/L デキサメタゾン、10mmol/L ニコチンアミド、2mmol/L L-グルタミン、50μM/L 2-メルカプトエタノール、5mmol/L HEPESおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM/F12で培養した。
【実施例】
【0050】
(3)免疫染色
検体は、10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋して6μmの切片にカットした。免疫染色は、BlueMapまたはDABmapキットおよび自動Discovery System(Roche)を用いて自動的に行うか、または手動で免疫蛍光染色を行った。蛍光免疫組織化学のために、パラフィンで固定した切片を脱パラフィンした。クエン酸緩衝液(pH6.0)中で、5分間、121℃でオートクレーブして脱パラフィンした。室温で1時間、ブロッキング溶液中でインキュベートした後、切片を4℃で一次抗体と共に一晩インキュベートした。次いで、Alexa Fluor 488、561、594、633または647と結合させた二次抗体とインキュベートした。核はDAPI(Roche)でカウンター染色した。凍結切片については、サンプルを4%パラホルムアルデヒドで固定し、最適切削温度(OCT)化合物(Tissue Tek)に包埋し、10μm厚の凍結切片とした。免疫染色のために、OCT化合物をPBSで3回洗浄することにより除去した後、切片をブロッキング溶液中でインキュベートした。以降の手順は、パラフィン切片を染色する場合と同じとした。
【実施例】
【0051】
(4)選別した胚細胞の培養
E8.5における胚組織培養物については、6-10体節期胚の前体節領域を採取し、T-GFP+細胞をFACSで選別した。選別した細胞を96ウェルの低細胞接着プレートに、凝集体あたり7,000細胞で凝集させて、無血清既知組成培地で培養した。E9.5での胚組織培養では、22から26体節期胚の23体節領域からの尾部領域を回収し、Osr1-GFP+またはWt1-GFP+細胞をFACSで選別した。選別された細胞を、96ウェルの低細胞接着プレート内に凝集体当たり10,000細胞で凝集させて、無血清既知組成培地で培養した
【実施例】
【0052】
(5)マウスES細胞およびヒトiPS細胞培養
マウスES細胞(Osr1-GFP)を、15%ウシ胎児血清、0.1mMの2-メルカプトエタノール(ナカライテスク)および1,000U/mLの白血病抑制因子(ESGRO)を補充したDMEM(Invitrogen)中にてマウス胚性線維芽細胞上で維持した。EB3-DsRedの細胞は、丹羽仁史博士(理化学研究所CDB)から供与を受けた。EB3-DsRedの細胞は、Usuiら(Am J Pathol 180, 2417-2426, 2012)らの報告に従って維持した。分化を開始する前に、ES細胞を、15%ウシ胎児血清、0.1mM 2-メルカプトエタノール、1,000U/mL 白血病抑制因子、3μM CHIR99021(和光)および1μM PD0325901(和光)を補充したDMEM(Invitrogen)中にて、フィーダー細胞を含まないゼラチンコートディッシュ上で1代継代した。ES細胞の分化は、以下のようにして無血清培地中で行った。ES細胞は、Accutase(ESGRO)で解離し、75%のイスコフ改良ダルベッコ培地(Invitrogen)および25%のハムF12培地(Invitrogen)に、0.5×N2と0.5×B27(レチノイン酸なし)サプリメント(Invitrogen)、0.5×ペニシリン/ストレプトマイシン、0.05%ウシ血清アルブミン、2mM グルタミン(Invitrogen社)、0.5mM アスコルビン酸(シグマ)および4.5×10-4M 1-チオグリセロールを補充した無血清分化培地中で培養した。集めた細胞は、96ウェルの低細胞結合プレートで、凝集体あたり1,000細胞で凝集させ、胚様体(EBs)を形成した。48時間後(day2)、EBsをAccutaseで解離し、0.5ng/mL ヒトアクチビンA(R&D Systems)を加えた無血清分化培地で再凝集させた。24時間後(day3)、培地を、1ng/mL ヒトBmp4(R&D Systems)および10μM CHIR99021を含むBC10培地に切り替えた。36時間後(day4.5)、培地を新しい培地(BC10)に変えた。Day5.5で、培地を10ng/mL アクチビン、3ng/mL Bmp4、3μM CHIR99021および0.1μM レチノイン酸を含むABC3R培地に変更した。day6.5に、培地を、1μM CHIR99021および5ng/mL ヒトFgf9(R&D Systems)を含むC1F培地に変更した。
【実施例】
【0053】
ヒトiPS細胞(201B7)は、5ng/mL 組換えヒト塩基性Fgf(和光)を補充したPrimate ES培地(リプロセル)中で、マウス胚性線維芽細胞上で維持した。培養3日目に、1mg/mlのType4 collagenase (invitrogen社) 中でiPS細胞のコロニーを剥離させ回収した。さらにマウス胚繊維芽細胞を除くために、回収した細胞浮遊液を10分間静置し、iPS細胞のコロニーのみを回収した。iPS細胞の分化は、以下のように無血清培地中で行った。iPS細胞は、Accutase(ESGRO)で解離し、2%(v/v)B27(レチノイン酸なし)、2mM L-グルタミン、1%(v/v)ITS、1%(v/v)非必須アミノ酸(レチノイン酸なし)、90μM β-メルカプトエタノールおよび0.5×ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM/F12(Invitrogen社)からなる無血清分化培地で培養した。集めた細胞を、10μM Y27632(和光)、および0.5ng/mL ヒトBmp4(R&D Systems)の存在下で、96ウェルの低細胞接着プレート内で、凝集体当たり10,000細胞で凝集させて、胚様体(EBs)を形成させた。24時間後(day1)、培地を1ng/mL ヒトアクチビンおよび20ng/mL ヒト塩基性Fgf(R&D Systems)を含む中胚葉誘導培地に変更した。48時間後(day3)、培地を、1ng/mL ヒトBmp4(R&D Systems)および10μM CHIR99021を含むBC10培地に切り替えた。その後、一日おきに、培地量の半分を新しい培地(BC10)に交換した。Day9に、培地を、10ng/mL アクチビン、3ng/mL Bmp4、3μM CHIR99021および0.1μM レチノイン酸を含むABC3R培地に変更した。Day11に、培地を、1μM CHIR99021および5ng/mL ヒトFgf9(R&D Systems)を含むC1F培地に変更した。特に断らない限り、示された全てのデータは、少なくとも3つの独立した実験の代表的な例である。
【実施例】
【0054】
(6)後腎間葉または誘導した後腎前駆細胞の器官培養
Kispertら(非特許文献8:Development 125, 4225-4234, 1998)とOsafuneら(非特許文献4:Development 133, 151-161, 2006)の報告に従い、マウス胚後腎間葉細胞または誘導したES細胞凝集体を、10%ウシ胎児血清を含むDMEMを用いて、ポリカーボネートフィルター(0.8μm、ワットマン)の上で、空気-液体界面で、E11.5またはE12.5胚から取った胚脊髄とともに、または3T3Wnt4細胞上で培養した。
【実施例】
【0055】
(7)免疫染色によるフローサイトメトリー分析
胚組織またはES細胞から誘導された細胞凝集体を、5分間、0.25%トリプシンと共にインキュベーションすることによって分離した。正常マウス血清(Thermo Scientific)でブロッキングした後、細胞表面マーカー染色を1%ウシ血清アルブミン、1×HBSSおよび0.035% NaHCO3を含む緩衝液中で行った。データは、ソフトウェアFlowJo(Treestar)で分析した。
【実施例】
【0056】
(8)抗体
用いた抗体は以下のものである:ウサギ抗Pax2(Covance;1:800);フルオレセイン抗LTL(FL-1321;Vector Laboratories;1:100);ニワトリ抗GFP(Abcam;1:1000);ウサギ抗GFP(Invitrogen;1:400);ウサギ抗Itga8(Sigma;1:200);ウサギ抗Pdgfra(Cell Signaling Technology;1:500);マウス抗Pdgfra(Takakuraら、J Histochem Cytochem 45, 883-893, 1997)(1:500);ウサギ抗Wt1(Santa Cruz Biotechnology;1:200);マウス抗Wt1(Dako;1:100);ウサギ抗Six2(Proteintech;1:500);マウス抗Sall1(PPMX Perseus Proteomics;1:200);マウス抗E-cadherin(BD Biosciences;1:800);ウサギ抗Cdh6(Dr. Dressler(Choら、Development 125, 803-812, 1998)から供与;1:400);マウス抗Aqp1(Abcam;1:100);ウサギ抗Podocin(淺沼博士より供与(Lydiaら、 Am J Nephrol 35, 58-68., 2012);1:400);モルモット抗Nephrin(Progen;1:200);ウサギ抗CD31(Abcam;1:25);ラット抗CD34(Abcam;1:100);ウサギ抗DsRed(Clontech;1:100)。
【実施例】
【0057】
(9)定量的RT-PCR
RNAをRNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を用いて単離し、次にランダムプライマーおよびSuperscript III(Invitrogen)を用いて逆転写した。定量的PCRは、Real-Time PCR System(Applied Biosystems)およびThunderbird SYBR qPCR Mix(Toyobo)を用いて行った。すべてのサンプルは、相対標準曲線法を用いてβ-アクチンの発現により標準化した。
【実施例】
【0058】
(10)マイクロアレイ分析
標本は、以下の7種類を比較した:E8.5胚のOsr1-GFP陽性および陰性細胞;E9.5胚の尾体幹のOsr1-GFP+/Itga8+/Pdgfra-集団、Osr1-GFP+(但しItga8+/Pdgfra-を除く)集団、およびOsr1-GFP陰性集団;E11.5にて手動操作で分離した後腎間葉のOsr1-GFP+/Itga8+/Pdgfra-集団およびOsr1-GFP+(Itga8+/Pdgfra-を除く)集団。マイクロアレイ分析は、Agilent SurePrint G3マウス遺伝子発現(8×60K)マイクロアレイを用いて行った。データは、GeneSpring GXソフトウェア(アジレント)によって標準化した。マイクロアレイデータは、Biotechnology Information Gene Expression Omnibus(GSE)のためにナショナルセンターに寄託した。
【実施例】
【0059】
B.実施例
実施例1:コロニー形成前駆細胞を表すOsr1+/Integrina8+/Pdgfra-集団
後腎間葉は、転写因子Six2を発現する間葉を標識する工程を含む細胞運命分析によって示されるように、糸球体の上皮(足細胞を含む)とネフロンの主要部分を構成する細管を生じさせる。発明者らは以前、新規のコロニー形成アッセイを確立することによってネフロン前駆細胞の存在を証明した。Sall1を強発現する分離した後腎間葉系細胞を、Wnt4を安定に発現するフィーダー細胞上に播いた場合、コロニーを形成した単一の細胞群は、糸球体及び腎臓の尿細管マーカーを発現した(非特許文献9:Nishinakamuraら、Development 128, 3105-3115, 2001;非特許文献4:Osafuneら、Development 133, 151-161, 2006)。したがって、Sall1が高くSix2陽性の後腎間葉は、胚腎臓でネフロン前駆体集団を表す。
Osr1は、別の後腎間葉マーカーであり、また、中間中胚葉の最も早いマーカーの1つである。したがって、Osr1は、腎臓発生を通じて腎前駆体集団で連続的に発現される(非特許文献10:Jamesら、Development 133, 2995-3004, 2006;非特許文献1:Mugfordら、Dev Biol 324, 88-98, 2008)。そこで、Osr1-GFPノックインマウスを作成し(図3)、緑色蛍光タンパク質(GFP)が、E8.5-E9.5の中間中胚葉で、そして、E11.5-E15.5の後腎間葉で発現することを確認した(図4A~C)。
【実施例】
【0060】
次いで、OSR1-GFP陽性集団が、コロニー形成ネフロン前駆細胞を含んでいるかを、以下のようにして確認した。E8.5胚(心臓レベルから尾部)とE9.5胚(前肢レベルから尾部)の尾の部分を採取した。E11.5およびE15.5については、胚の後腎を手動操作で解剖した。それぞれの採取した細胞を分離した後、OSR1+細胞をFACSによってソートし、Wnt4フィーダー細胞上に播種した。8日目において、コロニー数を計数した。結果を以下の表1に示す。下記のように、発明者らの以前の報告と同様、E11.5およびE15.5胚腎臓から選別されたOSR1-GFP陽性集団は、コロニー形成ネフロン前駆細胞を含んでいた。
【実施例】
【0061】
【表1】
JP2015056756A1_000003t.gif
【実施例】
【0062】
コロニーが、腎臓転写因子ならびに分化した尿細管マーカーを発現しているかを確認した(図5および図6)。結果、コロニーは、腎臓転写因子、例えばPax2やSall1、ならびに分化した尿細管マーカーを発現した。したがって、OSR1+後腎間葉は、コロニー形成ネフロン前駆細胞を含んでいるとわかった。
【実施例】
【0063】
次に、ネフロン前駆細胞を濃縮することができる細胞表面マーカーを検索した。E15.5およびE11.5において、Integrina8(Itga8)は、尿管芽の先端の周りのキャッピング間葉で強く発現していたが、一方、Pdgfraは、集団から除かれていた(図7)。FACS分析により、E15.5およびE11.5胚腎臓のOsr1-GFP+集団におけるItga8+/Pdgfra-分画の存在を確認した(図8)。また、Osr1-GFP+/Inta8+/Pdgfra-細胞集団が、コロニー形成ネフロン前駆細胞を多く含んでいるかを以下のようにして確認した。E9.5またはE11.5の切片を採取した。E10.5では、中腎領域(前方前肢端から前方後肢端)または後腎領域(前方後肢端から後方後肢端)を手動操作で解剖した。採取した組織を分離し、抗Itga8抗体と抗Pdgfra抗体で免疫染色した。OSR1+/Itga8+/Pdgfra-細胞をFACSによってソートし、Wnt4フィーダー細胞上に播種した。8日目において、コロニー数を計数した。結果を以下の表2に示す。下記のように、コロニー形成ネフロン前駆細胞は、Osr1+/Itga8+/Pdgfra-分画で濃縮されていた。
【実施例】
【0064】
【表2】
JP2015056756A1_000004t.gif
【実施例】
【0065】
次いで、GFPノックインマウスを用いて、Sall1およびSix2について、これらの細胞表面マーカーの信頼性を確認した。結果を、図9に示す。Sall1-GFP高またはSix2-GFP+細胞のほとんどは、Itga8+/Pdgfra-だった。したがって、Itga8+/Pdgfra-分画は、コロニー形成ネフロン前駆細胞を表すことがわかった。
【実施例】
【0066】
実施例2:E9.5での前方中間中胚葉は中腎に寄与するコロニー形成前駆細胞を含む
次に、ネフロン前駆細胞マーカーの発現、および初期段階のOsr1-GFP陽性細胞のコロニー形成能力を検討した。図5および表1に示すように、E8.5では、Itga8とGFPの重複は検出されず、GFP+集団によるコロニー形成もなかったが、E9.5では、GFP+集団によるコロニー形成が検出された(0.037±0.013%)。
また、Itga8+/Pdafra-であるGFP+領域を見つけ(図5)、そして、Osr1+/Itga8+/Pdgfra-集団を選別することにより、コロニー形成細胞を濃縮した(1.10±0.26%、図6、表2)。しかし濃縮後でさえ、コロニー形成頻度は、E10.5およびE11.5の後腎領域からのOsr1+/Itga8/Pdgfra-集団のそれより有意に低かった(それぞれ、30.9±1.5%及び50.9±5.2%、表2)。これとは対照的に、E10.5の中腎領域からのOsr1+/Itga8+/Pdgfra-集団のコロニー形成頻度(1.47±0.20%、表2)は、E9.5のそれと同じくらい低かった。後腎の前方に位置している中腎は、後腎より早く発展し、はるかに少ないネフロンを形成するので、E9.5でのコロニー形成細胞は、中腎ネフロン前駆細胞を表すかもしれないという仮説を立てた。
【実施例】
【0067】
コロニー形成前駆細胞は、図10に示すように、E9.5胚におけるGFP+細胞の前部の中でのみ検出された。Wt1(別のネフロン前駆細胞マーカー)が、前部と尾部の両方の部分で発現されている一方、図11に示すように、ネフロン前駆細胞のマーカーであるPax2とSix2は、主に、中間中胚葉の前部で発現した。これらのデータは、E9.5での前部と尾部の中間中胚葉の間の分子の違いを示唆している。さらに、tdTomatoレポーター対立遺伝子をもつマウスとSix2-GFPCreERマウスを交差させ、E9.5にて一時的に活性化したCreにタモキシフェンを注入した。E11.5で分析すると、図12に示すように、標識された細胞は、中腎で検出されたが、後腎では検出されなかった。したがって、中間中胚葉前部に存在する中腎ネフロン前駆細胞は、後方に配置されている後腎ネフロン前駆細胞を生じないことがわかった。
【実施例】
【0068】
実施例3:E9.5の尾部中間中胚葉からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導
Osr1+/Itga8+/Pdgfra-であるコロニー形成が推定されるE9.5の中腎前駆細胞と、E10.5~11.5の後腎ネフロン前駆細胞を用いて、マイクロアレイと定量PCR解析を行った。結果を図13と図14に示す。両方のタイプの前駆細胞が、例えば、Osr1、Wt1、Pax2およびSix2のような共通の転写因子、ならびにGdnf(腎臓発生に必須のサイトカイン)を発現している一方、後腎前駆細胞はHoxa10、Hoxa11およびHoxd12を含む尾部Hox遺伝子をより多く発現していた。E9.0前後で胚の後端で発現され始めるHox11ファミリー遺伝子は、中間中胚葉の前後軸に沿った後腎領域を決定づけることによって後腎の発達に不可欠であると報告されている。さらに、細胞運命マッピング研究により、E9.5のOsr1+中間中胚葉が後腎間葉に寄与していることが示されている。それゆえ、E9.5で後方に位置していた非コロニー形成Osr1+/尾部Hox+である中間中胚葉は、後腎ネフロン前駆細胞の前駆体集団となり得るという仮説を立てた(図15、図11および図13)。特に、E9.5の尾部中間中胚葉におけるPax2、Six2およびGdnfの発現レベルは、依然としてE10.5での尾部後腎前駆細胞に比べてはるかに低く、このことは、それらが異なっていることを示している(図13)。
【実施例】
【0069】
仮説をテストするために、E9.5胚の尾の部分からOsr1-GFP+細胞を選別し、細胞の生存をサポートするRhoキナーゼ阻害剤Y27632の存在下で、低細胞接着プレートにそれらの細胞を播いた。結果を図16に示す。細胞は、自発的に再凝集し、24時間以内に球体を形成した。48時間の培養時点で、凝集体は、強いGFP信号を持ち、培養開始時点に比べて10倍以上高いPax2、Six2およびGdnf発現を示した。また、FACS分析(図17)に示すように、Osr1+/Itga8+/Pdgfra-集団の出現を示した(全細胞の10.0±0.01%)。これらの凝集体を分離し、Wnt4で刺激した場合には、図18に示すように、コロニー形成が観察された。このことは、尾部中間中胚葉から後腎ネフロン前駆細胞のインビトロでの誘導を示唆している。
【実施例】
【0070】
このプロセスでの成長因子の影響に注目した。マイクロアレイと定量PCR解析によると、E9.5およびE11.5の両者で、コロニー形成集団において、Fgfリガンド(特にFgf9およびFgf20)、受容体およびそれらの下流の標的遺伝子の蓄積された発現を示したが、一方、BmpおよびWnt標的はダウンレギュレートされていた(図19)。図18に示されるように、Fgfシグナリングの阻害、Bmp4または高濃度のWntシグナル伝達アゴニスト(3または10μM CHIR99021;CHIR)の外部からの添加、ならびにレチノイン酸またはアクチビンの添加は、コロニー形成前駆細胞および腎臓遺伝子発現を阻害し、一方、FGF9または低濃度のWntアゴニスト(1μMのCHIR)の添加は、コロニー形成を僅かに改善した。Osr1-GFPは、側板中胚葉を含むかなり広い集団で発現されているので、Wt1-GFPノックインマウスを用いてこれらの因子の効果を確認した。Wt1-GFPノックインマウスは、中間中胚葉の領域でのより制限された発現を示した(図11)。図20に示すように、Fgf9および低容量のWntアゴニストの添加は、凝集体成長を相乗的に促進し、そして凝集体によるコロニー形成を増加させた。
したがって、1μM CHIRおよびFgf9の組み合わせ(C1F)は、尾部中間中胚葉から後腎ネフロン前駆細胞への誘導に最適であった。これらの観察結果は、後腎間葉の形成と維持のためのFfg受容体とFgf9/Fgf20がそれぞれ要求されることを示している先行文献と一致する(非特許文献11:Barakら、Dev Cell 22, 1191-1207., 2012、および非特許文献12:Poladiaら、Dev Biol 291, 325-339, 2006)。
【実施例】
【0071】
実施例4:後腎間葉前駆体は、E8.5ポスト原腸形成期までT陽性尾集団で維持される
次に、E9.5尾部中間中胚葉の方法で、早い段階の中胚葉を後腎間葉に分化させるインビトロでの方法で調べた。一つの報告では、中間中胚葉由来の後腎間葉と尿管芽の両方が、胎生(E)8.5前後で現れ、転写因子Osr1を発現することが示されている(非特許文献1:Mugfordら、Dev Biol 324, 88-98, 2008)。他のいくつかの報告では、尿管芽は、前方中間中胚葉に由来し、そしてその原基であるウォルフ管は、前方から後方に向けて伸長することが、ニワトリ胚を直接標識することにより示されている(非特許文献13:Atsutaら、Dev Growth Differ 55, 579-590, 2013、非特許文献14:Attiaら、Development 139, 4143-4151, 2012、非特許文献15:Obara-Ishiharaら、Development 126, 1103-1108, 1999、非特許文献16:Saxen, Cell 131, 861-872, 1987)。マウス胚では、E8.5のPax2/8-陽性前中間中胚葉(前腎原基と呼ばれる)は、同等の集団と推定され、Osr1-陽性領域に含まれる。従って、最初に、選別されたE8.5のOsr1-GFP+細胞を用いて増殖因子の多くの組み合わせの効果を検討した。しかし、コロニー形成前駆細胞を誘導することができなかった。
【実施例】
【0072】
したがって、別のアプローチを試した。原始線条と尾部未分化中胚葉の代表的マーカーであるT(Brachyury)の欠損は、後腎領域を含む尾の短縮化を引き起こす(非特許文献17:Herrmannら、Nature 343, 617-622, 1990)。まず、tdTomatoレポーターアレルを持つマウスとTnEGFP-CreERT2/+マウスを交差させ、初期胚葉形成が起こるとき、原腸形成期(E6.5およびE7.5)にタモキシフェンを注入した。E11.5で分析すると、心臓、手足や腎臓を含む中胚葉組織のほとんどが標識された。次に、E8.5でタモキシフェン注入したところ、標識された細胞が、後肢レベルに位置する後腎間葉を含むE11.5胚の下部体幹にのみ検出されたことがわかった。一方、前方に位置する中胚葉組織である心臓や前肢は、もはや標識されていなかった。重要なことは、後腎レベルの切片を作成したとき、尿管芽ではなく、後腎間葉のみが標識されたことである。これらの知見は、尿管芽の起源はE8.5で既に分離されているということを示しており、尿管芽が、E8.5では、前方中間中胚葉から由来し、尾側へと伸張するという考えと一致する。しかし、E9.5でタモキシフェンを注入した場合は、尾領域のみが標識され、後腎間葉の領域では標識された細胞は観察されなかった。
以上をまとめると、図21に示されるように、後腎間葉の前駆体は、E8.5後の原腸形成の段階まで、T陽性状態に維持され後方化される。おそらくこれは、部分的には、尾体幹の供給源として最近認識された”体軸幹細胞(axial progenitor)”に対応すると考えられる。これらのデータはまた、後方に位置する後腎間葉組織および前方に位置する中胚葉組織、例えば心臓、の間の発生過程の違いを明らかにする。なお、これらの前方に位置する中胚葉組織は、分化初期における短期間のT陽性状態を経て多能性幹細胞からの誘導に成功している(非特許文献18:Burridge、Cell Stem Cell 10, 16-28, 2012)。
【実施例】
【0073】
実施例5:E8.5でのT陽性尾部中胚葉から後腎間葉誘導
系統トレース実験に基づき、原料として選別したE8.5のT+尾部中胚葉を用いて、後腎ネフロン前駆細胞を誘導した。結果を図18に示す。選別した細胞は、再凝集させて凝集体を形成させて種々の成長因子で処理し、次いで上記のようにC1Fで処理した(図22C、工程3)。後方中間中胚葉は、Osr1、Wt1および尾部Hox遺伝子の発現によって識別されるので、まずこれらの遺伝子の発現に影響を与える可能性がある成長因子に注目した。BmpおよびWntシグナル伝達の相乗効果は、マウス胚性幹(ES)細胞分化における尾部Hox遺伝子の発現で報告されており、レチノイン酸シグナル伝達は、ゼブラフィッシュ発達におけるWt1同族の発現に重要であると報告されている。レチノイン酸、BmpおよびWntアゴニストの同時導入は、胚後腎間葉で観察されたレベルまで尾部Hox遺伝子を増加させなかった(図22DとE)ので、”後方化期”を追加した。すなわち、カノニカルなWntシグナルが体幹の伸長に重要であると報告されているので、Bmp4と組み合わせて、Wntアゴニストを高濃度(10μM CHIR)で添加した。この処理(BC10、ステップ1)は劇的に尾部Hox遺伝子の発現を増加させ、そして、腎臓遺伝子の発現レベルは胚後腎間葉に比べてまだ低かったが、誘導された細胞からのコロニー形成を検出することができた(図22DとG)。次に、様々な条件を試み、アクチビンとレチノイン酸の組み合わせを、Bmp4および3μM CHIRと一緒に用いること(ABC3R、ステップ2)が、腎臓遺伝子の発現を実質的に増加させることを見いだした(図22F)。この最適化された3段階の条件(BC10とそれに続くABC3RおよびC1F)で、細胞は、アクチビンまたはレチノイン酸のいずれかの単独での添加に比べて、多数のコロニー(22.7±3.66%、n=4)を形成した(図22G)。最初の後方化工程において、標準的なWntアゴニストの濃度は極めて重要であり、レチノイン酸の添加は完全にコロニー形成前駆細胞誘導を阻害した(図23A)。第二工程において、アクチビン、レチノイン酸、Bmp、WntまたはFgfシグナリングのいずれかの阻害は、コロニー形成を減少させ(図23B)、このことは、これらのシグナルのすべてが必須であることを示唆している。
【実施例】
【0074】
さらに、誘導プロセスの各ステップでの遺伝子発現の時間的動態を検討した。結果を図24に示す。図24Aに示されるように、最初の工程では、T、Cdx2およびTbx6(これらは全て後部中胚葉マーカーである)が発現されて維持され、一方、尾部Hox遺伝子は増加し始めた。第二工程では、腎臓遺伝子が発現し始め、そして最終工程では、Pax2、Six2、Gdnfおよび尾部Hox遺伝子の発現が、胚後腎間葉のレベルに増加した。さらに、複数の転写因子、例えば、Wt1/Pax2およびSall1/Six2の単一細胞での共在化(図24B)と、誘導された球体でのItga8+/Pdgfra-集団の存在(30.8±2.4%、n=4)(図24C)を確認した。つまり、尾部新生中胚葉から後腎ネフロン前駆細胞を誘導するプロトコルが確立できた。
【実施例】
【0075】
実施例6:マウスES細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導
ES細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導を行った。ES細胞からの後腎間充織の誘導の全体の工程の概要を図1に示し、各段階におけるシグネチャー遺伝子の発現を図25に示す。中間中胚葉と後腎ネフロン前駆細胞の誘導を監視するために、上記したOsr1-GFPマウスから作成したOsr1-GFP ES細胞株を用いて、2日間、因子なしの無血清培地で培養して胚様体(EBs)を作成した。EBsを用いて、後腎ネフロン前駆細胞の作成を行った。次の24時間、低濃度のアクチビンを添加して、胚性外胚葉マーカーFgf5の一過性の発現を誘導した。EBsはその後、Bmp4と高濃度のCHIRで処理した(工程2)。4.5日では、尾部新生前駆体を表すT、ならびにCdx2およびTbx6の発現がアップレギュレートされた。その後、上記の胚後部中胚葉のためのプロトコルを完全に再現できた(図22C、および図1の工程3~5)。day8.5に収穫した誘導されたEBsは、胚後腎間葉に匹敵するレベルで、後腎ネフロン前駆細胞に対する複数のシグネチャー遺伝子を発現していた(図25)。免疫染色の結果は、多くの細胞が、Osr1、Wt1、Pax2、Sall1およびSix2を含む典型的な腎性転写因子を共発現していることを示した(図26)。さらに、FACS分析の結果は、細胞の約90%近くがOsr1-GFP陽性であり、Osr1+細胞の中でItga8+/Pdgfra-前駆細胞は約65%を構成することを示した(図27)。これらの誘導された前駆細胞は、堅牢なコロニー形成を(21.3±1.69%、n=8)を示した。このことは、ES細胞から後腎ネフロン前駆細胞を生成することに成功したことを示している。
【実施例】
【0076】
実施例7:ES細胞を用いた三次元腎臓構造の形成
E11.5胚からの後腎間葉は、気液界面にて胚脊髄またはWnt4発現細胞と共培養したとき、間葉上皮転換し、糸球体および尿細管を形成することが十分に確立されている(非特許文献8:Kispertら、Development 125, 4225-4234, 1998)。E11.5胚を用いて作成した糸球体および尿細管を図28Aに示す。そこで、実施例6で誘導したEBsを同様の方法で培養したところ、しっかりとした尿細管形成が確認された。結果を図28CおよびDに示す。特に、day6で収穫したEBsの組織学的検査では、いずれの条件でも多くの管形成が認められ(図28CとD)、これはE-カドヘリン染色によって確認された(図28E)。管のほとんどは、Pax2とSall1陽性であり、腎尿細管であることを示している(図28E~H、L~P)。いくつかの尿細管は、近位尿細管のマーカーである、例えば、LTLまたはカドヘリン6、アクアポリン1、Jagged1、Megalinなどを発現していた(図28F、G、L~N)。他の尿細管は、遠位尿細管の形成を示すE-カドヘリン、Brn1,NCCを発現していた(図28H、O、P)。さらに素晴らしいことに、多数の糸球体様構造が観察された(図28Cおよび28I~28K)。これらの構造は、核に典型的な糸球体上皮細胞マーカーであるWt1を発現する細胞のクラスターで、ネフリンやポドシンなどの足突起タンパク質も発現していた。これらの構造は、胚後腎間葉のものと区別できなかった(図28BおよびD、n=6)。
【実施例】
【0077】
さらに、DsRedを恒常的に発現する別のES細胞株を使用し、免疫不全マウスの腎臓被膜下に、誘導したEBsを胎児脊髄とともに移植した(図29QおよびR)。1週間後に採取したところ、基本的には、インビトロ培養と似た多数の尿細管形成を確認した(図29SおよびT)。さらには、多くの血管が、移植組織中へと、最も顕著にはES細胞由来の糸球体へと侵入していた(図29Q、29U~29W)。これらの糸球体は実際に血管誘導因子である、VegfaやEfnb2を発現していることも確認された(図29XおよびY)。それらはDsRed陰性であるので一体化した血管は宿主動物から由来し、このことは、移植した糸球体が、濾過装置としての糸球体機能に必須の要件である宿主の血液循環に連結されていることを示している。
【実施例】
【0078】
実施例8:ヒトiPS細胞からの後腎ネフロン前駆細胞の誘導
上記のマウスES細胞に用いたプロトコルをヒトiPS細胞に適用し、インビトロで、iPS細胞を後腎ネフロン前駆細胞に向かって分化させた。iPS細胞からの後腎間葉の誘導の全体の工程の概要を図2に示した。以前の報告では、ヒト多能性幹細胞において、中胚葉系譜の細胞の初期誘導のためには、Bmp、Fgfおよびアクチビンのシグナルが重要であることが示されている(非特許文献19:Bernardら、Cell Stem Cell 9, 144-155, 2011; 非特許文献20:Kattmanら、Cell stem cell 8, 228-240, 2011; 非特許文献21:Yuら、Cell Stem Cell 8, 326-334, 2011)。したがって、ヒトiPS細胞凝集体を、最初の24時間Bmpで処理し、次いで、2日間アクチビンおよびFgfで処理した。誘導された中胚葉細胞をさらに、マウスES細胞の誘導と同様に、高濃度のWntアゴニスト(CHIR 10μM)およびBmpの存在下で、後方化しつつ未熟な中胚葉状態に維持した。ヒト胚における体幹伸長のための生理的期間を考え、これらの培養条件下で6日間EBsを培養した。その後、単に培養期間を調整することにより、マウスES細胞の分化のためのプロトコルを完全に再現した。14日目に採取した誘導EBsは、後腎ネフロン前駆細胞の複数のシグネチャー遺伝子を発現していた(図30)。免疫染色の結果、多くの細胞が、Wt1、Pax2、Sall1およびSix2を含む代表的な腎性転写因子を共発現していることが明らかなった(図31)。これらの誘導前駆細胞は、マウス胚脊髄と共培養すると、堅牢な尿細管形成および糸球体上皮細胞の形成を示した(図32DとE、n=6)。10日目での免疫組織化学的検査の結果は、十分に特定されたネフロン成分の形成を明らかにした。これらの構造は、Wt1/ネフリン(Nephrin)陽性糸球体(図32K、32J)、カドヘリン6(cdh6)陽性近位尿細管(図32H)およびE-カドヘリン陽性遠位尿細管(図32I)で構成され、それらの全てがその順で連結されており、それによってヒト胎児腎臓形成を再現していた。
以上のように、インビボでの発生過程を反復することにより、インビトロで、マウスおよびヒト多能性幹細胞の両方から真正な後腎ネフロン前駆体および三次元腎臓構造の誘導に成功した(図33)。
【実施例】
【0079】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞を後腎ネフロン前駆細胞に分化誘導できる。また、本発明を、多能性幹細胞よりの三次元腎臓構造の形成においてその一部の工程として用いることができる。従って、本発明は、多能性幹細胞から腎臓への分化誘導を利用する、研究および再生医療において有用なものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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