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明細書 :細胞のアンチエイジングに関連する生体分子群

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明の名称または考案の名称 細胞のアンチエイジングに関連する生体分子群
国際特許分類 C12N   5/16        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
A61K  35/12        (2015.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI C12N 5/16
C12N 15/00 ZNAG
C12N 15/00 A
A61L 27/00 U
A61K 35/12
A61P 43/00 107
A61K 45/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 29
出願番号 特願2015-534314 (P2015-534314)
国際出願番号 PCT/JP2014/072661
国際公開番号 WO2015/030149
国際出願日 平成26年8月28日(2014.8.28)
国際公開日 平成27年3月5日(2015.3.5)
優先権出願番号 2013177763
優先日 平成25年8月29日(2013.8.29)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG
発明者または考案者 【氏名】三浦 典正
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
4C081
4C084
4C087
Fターム 4B024AA01
4B024BA80
4B024CA11
4B024DA02
4B024GA11
4B024HA17
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB12
4B065BB13
4B065BB14
4B065BD32
4B065BD34
4B065BD35
4B065CA44
4C081BA12
4C081CD34
4C081EA01
4C084AA17
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZB212
4C084ZB262
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
要約 新規のMuse細胞様細胞の生産方法、又は細胞集団の寿命を延長する方法を明らかにする。
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞の生産方法を用いる。このとき、siRNA又はshRNAによってELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害してもよい。
特許請求の範囲 【請求項1】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞の生産方法。
【請求項2】
前記阻害は、siRNA又はshRNAによる阻害である、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現を阻害するRNA鎖を細胞集団に導入する工程と、
前記RNA鎖が導入された細胞集団から、Muse細胞様細胞を回収する工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項4】
前記Muse細胞様細胞は、CD105陽性である、請求項1~3いずれかに記載の生産方法。
【請求項5】
前記Muse細胞様細胞は、直径が5μm以上である、請求項1~4いずれかに記載の生産方法。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の生産方法を経て得られる、Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団。
【請求項7】
hTERT陽性である、請求項6に記載のMuse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団。
【請求項8】
請求項1~5いずれかに記載の生産方法を経て得られるMuse細胞様細胞を培養して得られる、再生医療用材料。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のMuse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を含む、治療薬。
【請求項10】
請求項6又は7に記載のMuse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を含む、化粧料。
【請求項11】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、Muse細胞様細胞誘導剤。
【請求項12】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、治療薬。
【請求項13】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、化粧料。
【請求項14】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞又は細胞集団の寿命を延長する方法。
【請求項15】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、細胞又は細胞集団の寿命延長剤。
【請求項16】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、寿命が延長された細胞又は細胞集団の生産方法。
【請求項17】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、CD105 mRNA高発現細胞の生産方法。
【請求項18】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、線維芽細胞産生細胞の生産方法。
【請求項19】
ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞を活性化する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Muse細胞様細胞の生産方法、又は細胞集団の寿命を延長する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
2012年のノーベル生理学・医学賞は、iPS細胞を初めて作成した山中伸弥教授と、その作成技術の基となる研究を行ったジョン・ガードン博士に贈られた。このiPS細胞は、これまでになかった全く新しい治療戦略を医療業界にもたらすことが期待されている。
【0003】
このiPS細胞に関する技術としては、例えば、特許文献1に、4つの遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Myc)を細胞に導入した結果、細胞が多能性幹細胞化したことが記載されている。その他、多能性幹細胞に関する技術としては、例えば、特許文献2に、3つの遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2)と、1つのmiRNA(hsa-miR-372等)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。また、非特許文献1には、上記の4つまたは3つの遺伝子を導入する場合に多能性幹細胞化させる細胞のp53遺伝子を欠損させておくと、多能性幹細胞の作製効率が上昇したことが記載されている。また、特許文献3及び4には、特定のRNA鎖(miR-520d-5p等)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。
【0004】
一方で、iPS細胞を実際の医療に応用するためには、癌化制御や、分化制御の点で改善の余地がある。そのような中、多能性幹細胞に関する新しいアプローチとして、特許文献5において、Muse細胞を含む細胞画分を分離したことが報告されている。この特許文献5には、特許文献5のMuse細胞が、あらゆる組織へと分化可能なこと、iPS細胞のソースとして有用なこと(iPS細胞の作成効率が高いこと)、遺伝子の導入を経ずに分離可能なこと、が記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2007/069666号
【特許文献2】国際公開第2009/075119号
【特許文献3】国際公開第2012/008301号
【特許文献4】国際公開第2012/008302号
【特許文献5】特許第5185443号公報
【0006】

【非特許文献1】'Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53-p21 pathway.' Hong et al., Nature. 2009 Aug 27;460(7259):1132-5. Epub 2009 Aug 9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように多能性幹細胞の作製に成功した事例は存在するが、治療用途として当局から製造販売承認を得た製品は存在しない。これは、多能性幹細胞の作製手法が限られているために、この分野の研究がなかなか前進しないことに起因している。なお、数少ない手法の中から明らかな副作用(例えば、c-Mycによる培養初期の癌化等)が確認されたものを除くと、有効な手法はさらに限られてくる。
【0008】
上述の通り、Muse細胞による新しいアプローチも報告されている。しかしながら、特許文献5のMuse細胞は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞からSSEA-3の発現が陽性であることを指標に分離する必要があり、原料の調整及びMuse細胞分離のために、複雑な操作と、コストが発生していた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規のMuse細胞様細胞の生産方法、又は細胞集団の寿命を延長する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、後述する実施例に記載のように、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現を阻害すると、Muse細胞様細胞が出現することを見いだし、本発明を完成させるに至った。またこのとき、驚くべきことに細胞調製物の寿命が延長していた。
【0011】
即ち、本発明の一態様によれば、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞の生産方法が提供される。
【0012】
また本発明の一態様によれば、上記生産方法を経て得られる、Muse細胞様細胞又はそのMuse細胞様細胞集団が提供される。
【0013】
また本発明の一態様によれば、上記生産方法を経て得られるMuse細胞様細胞を培養して得られる、再生医療用材料が提供される。
【0014】
また本発明の一態様によれば、上記Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を含む、治療薬又は化粧料が提供される。
【0015】
また本発明の一態様によれば、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、Muse細胞様細胞誘導剤、治療薬、化粧料、又は細胞集団の寿命延長剤が提供される。
【0016】
また本発明の一態様によれば、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞又は細胞集団の寿命を延長する方法、寿命が延長された細胞又は細胞集団の生産方法、CD105 mRNA高発現細胞の生産方法、線維芽細胞産生細胞の生産方法、又はMuse細胞様細胞を活性化する方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規の方法でMuse細胞様細胞を生産することができる。又は、本発明によれば、細胞又は細胞集団の寿命を大幅に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、線維芽細胞を培養したときの写真である。
【図2】図2は、培養0日目の線維芽細胞の写真である。
【図3】図3は、培養1ヵ月目の線維芽細胞の写真である。
【図4】図4は、培養1ヵ月と3週間目の線維芽細胞の写真である。
【図5】図5は、培養1ヵ月目の線維芽細胞にレンチウイルスを感染導入させた後、3週間培養したときの写真である。
【図6】図6は、図5の細胞集団を、さらに1週間、ReproStem培地で培養したときの写真である。
【図7】図7は、図6のMuse細胞様細胞を、さらに4日間、ReproStem培地で培養したときの写真である。
【図8】図8は、図5の細胞集団を、さらに1週間、FBM+FGM-2培地で培養したときの写真である。
【図9】図9は、図8の細胞集団を、さらに4日間、FBM+FGM-2培地で培養したときの写真である。
【図10】図10は、siETG導入又は未導入の細胞について、CD105 mRNA発現量を測定した結果である。
【図11】図11は、CD105 mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図12】図12は、hTERT mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図13】図13は、Oct4 mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図14】図14は、SIRT1 mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図15】図15は、P53 mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図16】図16は、Nanog mRNA発現量を経時的に測定した結果である。
【図17】図17は、コラーゲン産生能を経時的に測定した結果である。
【図18】図18は、293FT細胞にhsa-miR-520d-5pを導入した結果である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0020】
本発明の一実施形態は、新規のMuse細胞様細胞を生産方法である。この生産方法は、例えば、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞の生産方法である。この生産方法によれば、簡便にMuse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を生産することができる。この生産方法は、複雑な操作を必ずしも必要とせず、効率、及びコストの面から優れている。
【0021】
この生産方法は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現を阻害するRNA鎖を細胞集団に導入する工程と、上記RNA鎖が導入された細胞集団から、Muse細胞様細胞を回収する工程と、を含んでいてもよい。上記回収は、細胞形態、又は遺伝子発現を指標にして回収してもよい。上記回収は、分離又は単離する操作を含む。
【0022】
上記Muse細胞様細胞は、内在性のhTERT及びSIRT1を高発現していてもよい。hTERT及びSIRT1は若い細胞で発現量が高い遺伝子であるため、hTERT及びSIRT1を高発現しているMuse細胞様細胞は、老化が比較的進んでいない、若々しい細胞といえる。また上記Muse細胞様細胞は、内在性のp53を高発現していてもよい。p53は悪性腫瘍抑制遺伝子に分類される遺伝子であるため、p53を高発現しているMuse細胞様細胞は悪性腫瘍化のリスクが低いといえる。
【0023】
上記Muse細胞様細胞は、CD105、SIRT1、hTERT、P53、Oct4、Nanog、SSEA-3陽性であってもよい。Muse細胞様細胞のCD105、SIRT1、hTERT、P53、Oct4、Nanog、SSEA-3(以下、「CD105等」と称することもある)の発現量は、例えば、コントロール試料(例えば、hiPSC(HPS0002 253G1)、CD105等ノックアウト細胞、正常細胞、非多能性細胞、またはそれらに由来する試料等)のCD105等発現量に対して、有意に高発現していることが好ましい。またこのCD105等の発現量は、例えば、コントロール試料のCD105等発現量に対して、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、3.0、4.0、5.0、10、20、30、40、50、100、500、又は1000倍以上であってもよい。CD105等の発現量の測定方法は、測定精度及び簡便性の面からリアルタイムPCRが好ましい。
【0024】
Muse細胞様細胞の存在は、細胞が目玉(黒目と白目)のような形態をしていることを指標にして、判断してもよい。またMuse細胞様細胞は、接着性又は浮遊性であってもよい。またMuse細胞様細胞は、目玉様の形態になった後、細長い線維芽細胞様の形態に変化してもよく、さらにその後目玉様の形態に変化してもよい。またMuse細胞様細胞は、上記特許文献5に記載のMuse細胞、又はそのMuse細胞に実質的に同等の性質の細胞を含む。Muse細胞様細胞であるかどうかは、例えば、上記特許文献5のMuse細胞との形態比較、又は遺伝子発現量比較等によって評価してもよい。但し、本実施形態の生産方法を経て得られるMuse細胞様細胞は、上記特許文献5に記載のMuse細胞に比べて、hTERTが高発現した、より若い細胞であることが好ましい。またMuse細胞様細胞であるかどうかは、例えば、コントロール細胞に対してCD105等の1つ以上が高発現していることによって評価してもよい。
【0025】
上記Muse細胞様細胞は、直径が1、5、10、20、50、75、又は100μm以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。細胞集団中からMuse細胞様細胞を効率よく分離する観点からは、直径は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0026】
なお、ELAVL2等に関する塩基配列等の詳細はHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)又はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のWEBサイトから見ることができる。HGNCに記載されているHGNC IDは、ELAVL2がHGNC:3313、TEAD1がHGNC:11714、GATAD2BがHGNC:30778である。ELAVL2 mRNAは、配列番号29の塩基配列を含んでいてもよい。TEAD1 mRNAは、配列番号30の塩基配列を含んでいてもよい。GATAD2B mRNAは、配列番号31の塩基配列を含んでいてもよい。なお、各遺伝子は別の呼び方をされることがあり、別の呼称はHGNCのWEBサイトに記載されている。そのため、各遺伝子は別の呼称で呼ばれることがあってもよい。例えば、ELAVL2は、HEL-N1又はHuBと呼ばれる遺伝子を含む。
【0027】
本発明の一実施形態は、上記Muse細胞様細胞を培養する工程を含む、再生医療用材料の生産方法である。再生医療用材料は、例えば、再生医療用臓器である。また別の実施形態は、上記Muse細胞様細胞を培養して得られる、再生医療用材料である。また別の実施形態は、上記Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を損傷部位に導入する工程を含む、損傷組織の治療方法である。また別の実施形態は、上記Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を含む、損傷組織を治療するための治療薬である。また別の実施形態は、上記Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を組織に導入する工程を含む、アンチエイジング方法である。また別の実施形態は、上記Muse細胞様細胞又はMuse細胞様細胞集団を含む、アンチエイジングのための化粧料である。
【0028】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、Muse細胞様細胞誘導剤である。この誘導剤を用いれば、細胞からMuse細胞を誘導することができる。また、このMuse細胞様細胞誘導剤を悪性腫瘍細胞に適用すれば、悪性腫瘍を治療することができる。また、悪性腫瘍の抑制等の効果を通して、畜産における動物の成育を補助するための添加剤等にも使用できる。
【0029】
本発明の一実施形態は、損傷組織の細胞におけるELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、損傷組織の治療方法である。このとき、損傷組織中の細胞がMuse細胞に形質転換し、さらに分化することによって、損傷組織が修復される。また別の実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、治療薬である。
【0030】
本発明の一実施形態は、組織の細胞におけるELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、組織のアンチエイジング方法である。このとき、組織中の細胞がMuse細胞に形質転換し、さらに分化することによって、組織が再構成される。また別の実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、アンチエイジング剤又はアンチエイジングのための化粧料である。
【0031】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞又は細胞集団の寿命を延長する方法である。この方法によれば、細胞又は細胞集団の寿命を延長できるため、研究用の細胞を長期間培養することができる。また、アンチエイジングに利用することができる。また別の実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、細胞又は細胞集団の寿命延長剤である。延長する期間は、1、2、3、4、5、10、15、20、25、又は30週以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。延長された細胞の寿命は、6、7、8、9、10、15、18、20、25、30、又は40週以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0032】
正常細胞は、分裂を繰り返すことで、組織を形成する。その一方で、分裂の回数には限界があり、通常、細胞はあるときを境に分裂を停止することが知られている。この細胞分裂が停止状態に向かうことを、一般的に、細胞老化という。細胞老化は、組織の機能低下や、ヒトの老化の原因となると考えられている。この細胞老化は、in vitro実験で実際に観察することができ、通常、正常細胞の継代培養を繰り返すと、あるときを境に細胞が増殖しなくなる。このことは、研究用細胞の利用性に限界を設けることとなり、細胞工学分野の研究の進展を阻害する一因となっている。一方で、上記実施形態に係る方法を用いれば、細胞又は細胞集団の寿命を延長することができる。
【0033】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、寿命が延長された細胞又は細胞集団の生産方法である。この生産方法によれば、簡便に寿命が延長された細胞又は細胞集団を生産できる。得られる細胞又は細胞集団は、寿命が延長されているため、例えば、研究又は再生医療等の用途において有用である。
【0034】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、CD105 mRNA高発現細胞の生産方法である。この生産方法によれば、簡便にCD105 mRNA高発現細胞を生産できる。また、得られたCD105 mRNA高発現細胞は、上述のMuse細胞様細胞と同様の用途に使用できる。
【0035】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、線維芽細胞産生細胞の生産方法である。この生産方法によれば、簡便に線維芽細胞産生細胞を生産できる。また、得られた線維芽細胞産生細胞は、上述のMuse細胞様細胞と同様の用途に使用できる。
【0036】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞を活性化する方法である。この生産方法によれば、簡便にMuse細胞様細胞を活性化できる。ここで、「活性化」は、細胞サイズが大きくなることを含む。このときの細胞サイズは、2、5、又は10倍以上に大きくなってもよい。活性化したMuse細胞様細胞は、上述のMuse細胞様細胞と同様の用途に使用できる。また別の実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、Muse細胞様細胞活性化剤である。
【0037】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を阻害する工程を含む、悪性腫瘍の治療方法である。また別の実施形態はELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を含む、悪性腫瘍の治療薬である。従来の低分子化合物からなる治療薬は、アポトーシスを誘導して悪性腫瘍を治療するものであったが、本実施形態の治療方法、治療薬、又は誘導剤は、悪性腫瘍細胞をMuse細胞様細胞へ誘導することによって治療効果を発揮することができる。
【0038】
上記の実施形態に係る各方法は、さらに(a)細胞にELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を導入する工程、又は(b)上記阻害剤が導入された細胞を培養もしくは増殖させる工程、を含んでいてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を、細胞集団に接触させる工程を含む、細胞集団中のMuse細胞様細胞の割合を増加させる方法である。また別の実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対する阻害剤を、細胞集団に接触させる工程を含む、Muse細胞様細胞の割合が増加した細胞集団の生産方法である。
【0040】
本発明の一実施形態は、上記の阻害剤を含む、研究用又は医療用キットである。このキットは、例えば、Muse細胞様細胞作成用、人工臓器作成用、細胞又は細胞集団の寿命延長用、アンチエイジング用、又は治療用のキットであってもよい。このキットは、例えば、緩衝液、有効成分情報を記載した添付文書、有効成分を収容するための容器、又はパッケージ等をさらに含んでいてもよい。
【0041】
本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能を低下させる被検物質を選抜する工程を含む、Muse細胞様細胞誘導剤、細胞又は細胞集団の寿命延長剤、Muse細胞様細胞活性化剤、アンチエイジング剤、アンチエイジングのための化粧料、又は治療薬のスクリーニング方法である。この方法によれば、Muse細胞様細胞誘導剤等を得ることができる。この方法は、細胞に被検物質を導入する工程と、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bの発現又は機能量を測定する工程と、を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の一実施形態において用いられる「細胞」は、体細胞であってもよい。この体細胞は、生殖細胞を除いた他の細胞のことで、皮膚細胞、又は線維芽細胞等が含まれる。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。また上記細胞は、皮膚、心臓、肺、胃、腸、腎臓、子宮、大動脈外膜、又は間葉系組織由来の細胞であってもよい。又は、上記細胞は、悪性腫瘍細胞であってもよい。悪性腫瘍は、例えば、正常な細胞が突然変異を起こして発生する腫瘍を含む。悪性腫瘍は全身のあらゆる臓器や組織から生じ得、悪性腫瘍細胞が増殖すると、かたまりとなって周囲の正常な組織に侵入し破壊することが知られている。この悪性腫瘍は、例えば、癌腫、肉腫、血液悪性腫瘍、肺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、小腸癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、尿管癌、腎盂癌、尿管癌、陰茎癌、精巣癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、頭頸部癌(口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、鼻腔・副鼻腔癌、唾液腺癌、甲状腺癌等)、グリオーマ、多形性膠芽腫、皮膚癌、メラノーマ、甲状腺癌、唾液腺癌、又は悪性リンパ腫等を含む。
【0043】
本発明の一実施形態において「内在性」とは、被検物質が細胞の内部のメカニズムに由来して存在していることを表している。例えば、細胞内で恒常的に発現している蛋白質は、その発現した蛋白質に限っては内在性に含まれる。
【0044】
本発明の一実施形態において「遺伝子の発現を阻害すること」は、例えば、遺伝子からmRNAへの転写機構を阻害、又はmRNAから蛋白質もしくはポリペプチドへの翻訳機構を阻害することを含む。また、例えば、遺伝子、mRNA、蛋白質の分解を誘導することで阻害することを含む。また生化学分野において、遺伝子の役目は、例えば、その遺伝子由来のmRNAを生成すること、その遺伝子由来の蛋白質を生成すること、その遺伝子由来の蛋白質に活性を発揮させることが挙げられる。そのため、本発明の一実施形態において「遺伝子の機能を阻害すること」は、遺伝子の発現を阻害した結果、mRNA又は蛋白質の生成量が低下することを含む。又は、「遺伝子の機能を阻害すること」は、その遺伝子由来のmRNA、又はその遺伝子由来の蛋白質の有する活性を低下させることを含む。
【0045】
本発明の一実施形態において「発現が阻害されている状態」は、発現量が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。上記「有意に減少」とは、例えば、発現量が0.35、0.3、0.2、0.1、0.05、0.01、又は0倍以下に減少している状態であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内まで減少している状態であってもよい。Muse細胞様細胞を安定的に誘導する観点、又は細胞もしくは細胞集団の寿命をより安定的に延長させる観点からは、0.2倍以下が好ましく、0.1倍以下がさらに好ましい。なお発現量はmRNA量、又は蛋白質量を指標としてもよい。また本発明の一実施形態において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側又は両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含んでいてもよい。又は、実質的に差異が生じている状態を含む。なお、「機能が阻害されている状態」の阻害強度についても、発現阻害の阻害強度の実施形態と同様のことがいえる。本発明の一実施形態において「阻害剤の形態」は特に限定されず、例えば、RNA鎖、DNA鎖、低分子有機化合物、抗体、又はポリペプチドであってもよい。上記RNA鎖は、例えば、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bに対するRNAi作用を有するRNA鎖(例えば、siRNA、shRNA、又はsmall RNA等)を使用できる。上記DNA鎖としては、上記RNA鎖をコードするDNA鎖を使用できる。このDNA鎖の形態は、例えば、ベクターであってもよい。上記低分子有機化合物は、コンビナトリアルケミストリーやHTS(ハイスループットスクリーニング)を活用することで、得ることができる。コンビナトリアルケミストリーには、例えば、自動合成装置L-COSシリーズ(昭光サイエンティフィック社)を使用してもよい。HTSには、例えば、Octetシステム(ForteBio社)を使用してもよい。上記抗体は、公知の抗体作製法(例えば、Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628.に記載の方法)により作製してもよいし、受託会社(例えば、EVEC, Inc.)から購入してもよい。このとき、抗体ライブラリを作製し、阻害活性の高いものを選択することが好ましい。上記ポリペプチドは、受託会社(例えば、Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)から購入することができる。また、阻害剤は、対象の発現を阻害する物質、又は機能を阻害する物質を含む。阻害剤は、細胞毒性が低い、又は実質的に細胞毒性を有さない物質であることが好ましい。この場合、阻害剤を生体内に投与したときに、副作用を抑えることができる。細胞毒性又は副作用を抑え且つMuse細胞様細胞を安定的に誘導する観点、又は細胞毒性又は副作用を抑え且つ細胞もしくは細胞集団の寿命をより安定的に延長させる観点からは、阻害剤はRNAi作用を有するRNA鎖、又はそのRNA鎖をコードするDNA配列を有するDNA鎖であることが好ましい。なお、特に指定した場合には、阻害剤の形態からhsa-miR-520d-5p、そのガイド鎖を含む核酸、それらに実質的に同等な核酸、又はそれらを発現する核酸を除いてもよい。
【0047】
本発明の一実施形態において「RNAi」は、siRNA、shRNA、miRNA、短鎖もしくは長鎖の1もしくは複数本鎖RNA、又はそれらの修飾物等の1つ以上によって、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能が抑制、又はサイレンシングされる現象を含む。一般的に、RNAiによる抑制機構は配列特異的であり、様々な生物種に存在する。siRNA又はshRNAを用いた場合の、典型的な哺乳類におけるRNAiのメカニズムは以下の通りである。まず、siRNA又はshRNAを発現可能なベクターを細胞に導入する。その後、細胞内でsiRNA又はshRNAが発現した後、siRNA又はshRNAの一本鎖化が起こり、その後RISC(RNA-induced Silencing Complex)を形成する。RISCは取り込まれた1本鎖RNAをガイド分子として、この1本鎖RNAと相補性の高い配列を持つ標的RNA鎖を認識する。標的RNA鎖は、RISC内のAGO2等の酵素によって切断される。その後、切断された標的RNA鎖は分解される。以上がメカニズムの一例である。なお、RNAi作用を有するRNA鎖、又はそのRNA鎖をコードするDNA鎖は、細胞に複数個共導入してもよく、例えば、1、2、3、4、5、6、8、10、又は20個以上導入してもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の数を導入してもよい。また、RNAi作用を有するRNA鎖は、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能をより安定的に抑制する観点からは、1本鎖又は2本鎖が好ましい。
【0048】
RNAi作用を有するRNA鎖のデザインには、Stealth RNAi designer(Invitrogen)やsiDirect 2.0(Naito et al., BMC Bioinformatics. 2009 Nov 30;10:392.)等を使用できる。また、受託会社(例えば、GeneCopoeia社、Thermo Scientific社等)に委託してもよい。RNAi作用の確認は、リアルタイムRT-PCRによるRNA鎖発現量の定量によって行なうことができる。または、ノザンブロットによるRNA鎖発現量の解析や、ウェスタンブロットによる蛋白量の解析・表現型の観察等の方法でも行うことができる。特にリアルタイムRT-PCRによる方法が効率的である。
【0049】
本発明の一実施形態において「siRNA」は、RNAiを誘導可能なRNA鎖を含む。一般的にsiRNAの2本鎖はガイド鎖とパッセンジャー鎖に分けることができ、ガイド鎖がRISCに取り込まれる。RISCに取り込まれたガイド鎖は、標的RNAを認識するために使われる。RNAi研究では主に人工的に作成したものが使用されるが、生体内において内在的に存在するものも知られている。上記ガイド鎖は15塩基以上のRNAから構成されていてもよい。15塩基以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、そのガイド鎖は40塩基以下のRNAから構成されていてもよい。40塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクがより低くなる。
【0050】
本発明の一実施形態において「shRNA」は、RNAiを誘導可能で、且つヘアピン状に折りたたまれた構造(ヘアピン様構造)を形成可能な1本鎖のRNA鎖を含む。典型的には、shRNAは細胞内でDicerによって切断され、siRNAが切り出される。このsiRNAによって標的RNAの切断が生じることが知られている。上記shRNAは35以上のヌクレオチドから構成されていてもよい。35以上であれば、shRNAに特有のへアピン様構造を精度よく形成できる可能性が高まる。また、上記shRNAは100塩基以下のRNAから構成されていてもよい。100塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。但し、一般的にshRNAと構造および機能が類似しているpre-miRNAの多くが、100ヌクレオチド程度またはそれ以上の長さを有していることから、shRNAの長さは必ずしも100塩基以下でなくても、shRNAとして機能できると考えられる。
【0051】
本発明の一実施形態において「miRNA」は、siRNAと類似の機能を有しているRNA鎖を含み、標的RNA鎖の翻訳抑制や分解をすることが知られている。miRNAとsiRNAとの違いは、一般的に生成経路と、詳細なメカニズムにある。
【0052】
本発明の一実施形態において「small RNA」とは、比較的小さいRNA鎖をいい、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、1または複数本鎖の低分子RNAなどを挙げることができるが、それらに限定されない。small RNAを用いた場合、インターフェロン応答等の不利益な現象を抑えることができる。
【0053】
上記RNA鎖は、5'末端又は3'末端に1~5塩基からなるオーバーハングを含んでいてもよい。この場合、RNAiの効率が上昇すると考えられる。この数は、例えば、5、4、3、2、または1塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。オーバーハングは、例えば、ac、c、uc、ag、aa、又はuu であってもよ。オーバーハングは、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、3'末端のac、c、ucが好ましい。また上記RNA鎖が2本鎖のとき、各RNA鎖間にミスマッチRNAが存在していてもよい。その数は、例えば、1、2、3、4、5、又は10個以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNA鎖は、ヘアピンループを含んでいてもよい、ヘアピンループの塩基数は、例えば、10、8、6、5、4、又は3塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。ヘアピンループの塩基配列は、例えば、gugcuc、又はcucuugaであってもよい。この塩基配列は、所望の効果を有する限り、1又は複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加していてもよい。なお、各塩基配列の表記は、左側が5'末端、右側が3'末端である。
【0054】
また上記RNA鎖の長さは、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、40、50、60、80、100、200、又は500塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この数が15以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、この数が100以下であれば、RNA鎖を生体内に投与した場合に、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。インターフェロン応答とは、一般的に細胞がdsRNAを感知することによって抗ウイルス状態になる現象として知られている。
【0055】
本発明の一実施形態において「RNA鎖」は、RNA又はその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。また本発明の一実施形態において「DNA鎖」は、DNA又はその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。このRNA鎖又はDNA鎖は、1本鎖又は複数本鎖(例えば、2本鎖)の形態のRNA鎖又はDNA鎖を含む。RNA鎖又はDNA鎖は、細胞取込促進物質(例えば、PEG又はその誘導体)、標識タグ(例えば、蛍光標識タグ等)、リンカー(例えば、ヌクレオチドドリンカー等)、又は化学療法剤(例えば、抗悪性腫瘍物質等)等と結合していてもよい。RNA鎖又はDNA鎖は、核酸合成装置を用いて合成可能である。その他、受託会社(例えば、インビトロジェン社等)から購入することもできる。生体内のRNA鎖又はDNA鎖は、塩又は溶媒和物を形成することがある。また、生体内のRNA鎖又はDNA鎖は、化学修飾を受けることがある。RNA鎖又はDNA鎖の用語は、例えば、塩もしくは溶媒和物を形成しているRNA鎖もしくはDNA鎖、又は化学修飾を受けているRNA鎖もしくはDNA鎖等を含む。またRNA鎖又はDNA鎖は、RNA鎖のアナログ、又はDNA鎖のアナログであってもよい。上記「塩」は、特に限定されないが、例えば任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、又は任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩又は有機塩を含み、例えば、 Berge et al., J.Pharm.Sci., 1977, 66, 1-19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。上記「溶媒和物」は、溶質及び溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J.Honig et al., The Van Nostrand Chemist's Dictionary P650 (1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、又は各種バッファーが挙げられる。上記「化学修飾」としては、例えば、PEGもしくはその誘導体による修飾、フルオレセイン修飾、又はビオチン修飾等が挙げられる。
【0056】
また、上記RNA鎖は、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、標的遺伝子由来のmRNAの塩基配列の一部に対して、相補的な塩基配列を含むことが好ましい。上記「一部」は、例えば、5、10、15、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、又は50塩基以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0057】
特定の遺伝子に対するsiRNA又はshRNAを生成するプラスミドは、例えば、受託会社(例えば、GeneCopoeia社、Thermo Scientific社等)から購入することができる。後述する実施例では、GeneCopoeia社からvalidated shRNA clone setを購入して使用した。後述する実施例1で使用したvalidated shRNA clone setには、ELAVL2 siRNAを生成可能なプラスミドが4つ、TEAD1 siRNAを生成可能なプラスミドが4つ、及びGATAD2B siRNAを生成可能なプラスミドが4つ含まれている。後述する実施例1で使用したELAVL2 siRNAを生成可能な4つのプラスミドの塩基配列は、配列番号25、26、27、又は28である。後述する実施例1で使用したTEAD1 siRNA又はGATAD2B siRNAを生成可能な8つのプラスミドは、psiLv-U6TMベクターにTEAD1 shRNA又はGATAD2B shRNAをコードするDNA配列がそれぞれ搭載されたものである。
【0058】
また後述する実施例1で使用したELAVL2 siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号5、6、7、又は8の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号1 (uuauugguguuaaagucacgg)、2 (aauacgagaaguaauaaugcg)、3 (uuuguuugucuuaaaggag)、又は4 (auuugcaucucugauagaagc)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号1、2、3、又は4の塩基配列は、ELAVL2 mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0059】
また後述する実施例1で使用したTEAD1 siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号13、14、15、又は16の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号9 (uuggcuuaucugcagaguc)、10 (gcuuguuaugaauggcag)、11 (guaagaaugguuggcaugc)、又は12 (aguuccuuuaagccaccuu)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号9、10、11、又は12の塩基配列は、TEAD1 mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0060】
また後述する実施例1で使用したGATAD2B siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号21、22、23、又は24の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号17 (caacagauucaagcgaaga)、18 (caauagaugcugcauucug)、19 (caucaacauguguggaagg)、又は20 (aggauguuguacgcugaca)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号17、18、19、又は20の塩基配列は、GATAD2B mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0061】
本発明の一実施形態において、ELAVL2 siRNAは、配列番号1、2、3、又は4の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号5の塩基配列の1-21位の塩基配列、配列番号6の塩基配列の1-21位の塩基配列、配列番号7の塩基配列の1-19位の塩基配列、又は配列番号8の塩基配列の1-21位の塩基配列)を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、TEAD1 siRNAは、配列番号9、10、11、又は12の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号13の塩基配列の1-19位の塩基配列、配列番号14の塩基配列の1-18位の塩基配列、配列番号15の塩基配列の1-19位の塩基配列、又は配列番号16の塩基配列の1-19位の塩基配列)を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、GATAD2B siRNAは、配列番号17、18、19、又は20の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号21、22、23、又は24の塩基配列の1-19位の塩基配列)を含んでいてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において、配列番号1~40で示される塩基配列は、所望の効果を有する限り、(c)いずれかの塩基配列において、1又は複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加している塩基配列、(d)いずれかの塩基配列に対して、90%以上の相同性を有する塩基配列、(e)いずれかの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードする塩基配列、からなる群から選ばれる1つ以上の塩基配列であってもよい。本発明の一実施形態において「相補的な塩基配列」とは、一つのポリヌクレオチドに対して、ハイブリダイズすることが可能な相補性の高い他のポリヌクレオチドが有している塩基配列である。ハイブリダイズとは、複数のポリヌクレオチド間において、塩基間の水素結合等によって塩基対ができる性質のことを表す。塩基対はワトソン・クリック型塩基対、フーグスティーン型塩基対、又は任意の他の配列特異的な形で生じうる。2つの1本鎖がハイブリダイズした状態は2本鎖と呼ばれる。
【0063】
上記「複数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、又は2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。Muse細胞様細胞を安定的に誘導する観点、又は細胞もしくは細胞集団の寿命をより安定的に延長させる観点からは、この数は少ないほど好ましい。なお、1又は複数個の塩基の欠失、付加、挿入、又は置換を受けたRNA鎖が、その生物学的活性を維持することは当業者に知られている。
【0064】
上記「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、又は100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。Muse細胞様細胞を安定的に誘導する観点、又は細胞もしくは細胞集団の寿命をより安定的に延長させる観点からは、この数は大きいほど好ましい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間の塩基配列において相同な塩基の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較する塩基配列群の塩基を整列させ、同一塩基の割合を最大にするために必要である場合は塩基配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、及びそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTで塩基配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastnをデフォルト設定で使用できる。
【0065】
上記「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、又は(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%又はそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、又はそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照することができる。
【0066】
上記阻害剤の細胞への導入、及びその細胞の培養方法は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。細胞への導入は、例えば、ウイルスベクターを用いた感染導入、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、又はマイクロインジェクションなどを使用できる。また薬剤耐性やセルソーター等を利用して、導入された細胞のみを選択することができる。培地は、例えば、未分化維持用培地(例えば、多能性幹細胞用培地、ReproStem、霊長類ES細胞用培地(コスモ・バイオ社))、又は通常のヒト細胞用の培地(例えば、DMEMやRPMIベースの培地)等を使用できる。例えば、ReproStemで37℃、5% CO2、10% FBSの条件で培養可能してもよい。この数値は、例えば、プラスマイナス10、20、又は30%の範囲で前後させてもよい。フィーダー細胞の非存在下で樹立、又は培養してもよい。Muse細胞様細胞を樹立するときの培養の日数は特に限定されないが、例えば、1、2、3、4、5、6、8、10、15、30、60、又は100日以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。なお、Muse細胞様細胞をより安定的に樹立できる観点、又は細胞もしくは細胞集団の寿命を安定的に延長できる観点からは、阻害剤を導入する細胞は線維芽細胞であることが好ましい。また、上記RNA鎖を細胞に導入する場合、複数のRNA鎖を細胞に併用導入してもよい。また、上記DNA鎖を細胞に導入する場合、複数のDNA鎖を細胞に導入してもよい。ここで、「複数のRNA鎖」又は「複数のDNA鎖」は、2、3、4、5、10、又は20個以上のRNA鎖又はDNA鎖であってもよい。
【0067】
本発明の一実施形態において「ベクター」は、ウイルス(例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、又はHIV等)ベクター、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110)、酵母由来プラスミド(例、pSH19)、λファージなどのバクテリオファージ、psiCHECK-2、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、pSUPER(OligoEngine社)、BLOCK-it Inducible H1 RNAi Entry Vector(インビトロジェン社)、pRNATin-H1.4/Lenti (GenScript, corp., NJ, USA)などを用いることができる。上記ベクターは、プロモーター、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、DNA鎖の発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。上記ベクターはいわゆる発現ベクターであってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態において「細胞集団」は、複数の細胞を含む集団である。この細胞集団は、例えば、実質的に均一な細胞を含む集団であってもよい。また細胞集団は、細胞調製物であってもよい。細胞調製物は、例えば、細胞と、緩衝液又は培地成分とを含んでいてもよい。Muse細胞様細胞細団は、Muse細胞様細胞を、例えば、80、90、95、96、97、98、99、又は100%以上含んでいてもよく、それらいずれか2つの値の範囲内含んでいてもよい。
【0069】
本発明の一実施形態において「治療」は、被験者の疾患、又は疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。本発明の一実施形態において「治療薬」は、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体を含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体又は液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお悪性腫瘍の治療薬は、悪性腫瘍の予防のために用いられる薬物(予防薬)、又は悪性腫瘍の良性化誘導剤もしくは正常幹細胞化誘導剤を含む。
【0070】
治療薬の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、又は経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。ポリヌクレオチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、又はステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、又はNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0071】
投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.0001mg~1000mg/kg体重であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1~10日に1回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、被験者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択することが可能である。また、他の適切な化学療法薬と併用で投与してもよい。また治療薬は、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。悪性腫瘍のマーカーが、投与後に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。
【0072】
本発明の一実施形態において「被験者」は、ヒト、又はヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、又はチンパンジー等の1種以上)を含む。
【0073】
なお、以上のELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bを阻害したときの種々の実施形態は、ELAVL2等の1種以上由来のRNA鎖又は蛋白質の活性を阻害する場合にも適用可能である(但し、遺伝子の機能に特異的な実施形態を除く)。そのような場合の実施形態も、本発明の一実施形態に含まれる。例えば、本発明の一実施形態は、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2B由来のRNA鎖又は蛋白質の活性を阻害する工程を含む、Muse細胞様細胞の生産方法、又は細胞又は細胞集団の寿命を延長する方法である。
【0074】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
<実験例1>線維芽細胞の培養
ヒト成人線維芽細胞(NHDF-Ad、TakaraBio社)を購入後、FBM+FGM-2培地(Ronza社)で37℃で4週間培養した。その結果、細胞老化が観察された(図1)。
【0078】
図1(a)は、NHDF-Adを購入後、0日目の画像である。図1(b)は、図1(a)の細胞を4週間培養した時の画像である。図1(c)は、NHDF-Adを培養開始約1か月後に一旦保存され、再度培養目的でおこされた細胞である。図1(d)は、図1(c)の細胞を4週間培養した時の画像である。
【0079】
<実施例1>
ELAVL2 siRNA、TEAD1 siRNA、又はGATAD2B siRNAを生成するプラスミドDNA(validated shRNA clone set)をそれぞれGeneCopoeia社から購入した。これらのプラスミドDNAをヒト腎メサンギウム細胞株(293FT細胞)へVirapower(導入効率を上げるため使用、Invitrogen社)とともに導入し、レンチウイルスとして培養液(上清)に産生される粒子を超遠心操作でペレットとして分離した。miR-X lenti titeration kit (TakaraBio社)を用いて力価を測定し、1細胞1コピーの導入を目標にヒト成人線維芽細胞(NHDF-Ad、TakaraBio社)へレンチウイルスを感染導入させた。その後、形質転換した細胞について、細胞の形態変化、遺伝子発現(CD105、Oct4、Sirt1、hTERT、Nanog等のMuse細胞マーカー、多能性マーカー、長寿マーカー、老化マーカー等)、コラーゲン産生能を評価した。以上の結果を、下記(1)~(3)で説明する。
【0080】
(1) 細胞の形態変化
細胞形態は、倒立電子顕微鏡を用いて観察し、導入細胞の確認としてGFPの発現を蛍光顕微鏡(キーエンス社)で観察した。図2は、培養0日目の細胞の写真である。
【0081】
図3は、培養1ヵ月目の細胞の写真である。細胞数が減少しており、細胞老化が生じていることがわかる。なお、培養1ヵ月の間に4~5回の継代培養をした。
【0082】
図4は、培養1ヵ月と3週間目の細胞の写真である。細胞数が図3よりも減少しており、細胞老化がより進んでいることがわかる。
【0083】
図5は、培養1ヵ月目の細胞(図3に相当)にレンチウイルスを感染導入させた後、3週間培養したときの写真である。写真右側に示されるように、密度の高い細胞集団が観察された。これは、細胞老化の進行が抑制され、若い細胞が生成されたことを意味している。
【0084】
図6は、図5の細胞集団を、さらに1週間、ReproStem培地 (株式会社リプロセル)で培養したときの写真である。写真中央に示されるように、丸形状のMuse細胞様細胞が観察された。
【0085】
図7は、図6のMuse細胞様細胞を、さらに4日間、ReproStem培地で培養したときの写真である。写真中央のMuse細胞様細胞から、多数の若い線維芽細胞が次々と放射線状に生成していることがわかる。またこのMuse細胞様細胞は、Muse細胞において特異的に見られる目玉(黒目と白目)のような形態をしていた。
【0086】
またこのMuse細胞様細胞は、培養18週間が経過した時点でも生存しており、継続的に線維芽細胞を作り出していた。従来市販されている線維芽細胞を単に培養すると、1ヵ月程度で細胞老化する。そのため、上記細胞が18週間生存したことは驚くべきことであった。
【0087】
図8は、図5の細胞集団を、さらに1週間、FBM+FGM-2培地(Ronza社)で培養したときの写真である。この場合、Muse細胞様細胞は見られなかった。
【0088】
図9は、図8の細胞集団を、さらに4日間、FBM+FGM-2培地で培養したときの写真である。この線維芽細胞は、輪郭がシャープであり、より若々しく元気な細胞であった。
【0089】
(2) 遺伝子発現の評価
(2-1) CD105発現の評価
経時的にトリプシン-EDTA(Gibco社)で細胞を剥離し、RNA抽出した。その後、RT-PCR(OneStep RT-PCR kit、QIAGEN社)で、CD105の発現量を測定した(CD105はmuse細胞のマーカーである)。このとき、一律RNA25ngを用いて、サーマルサイクラー(LineGene、Bioflux社)で測定したCt値をβ-actinに対して標準化し、CD105の発現量を2-ΔΔ法で算出した。
【0090】
その結果を図10に示す。siETG(ELAVL2 siRNA、TEAD1 siRNA、及びGATAD2B siRNA)未導入のNHDF-Adは、CD105 mRNAを発現していなかった(図10の2W及び5W)。一方で、siETG導入によって、CD105 mRNAが発現した(図10の7W)。さらに、Muse細胞様細胞が形成された段階では、非常に高濃度のCD105 mRNAが発現していた(図10の右端)。
【0091】
(2-2) 各遺伝子発現の評価
経時的にトリプシン-EDTAで細胞を剥離し、RNA抽出した。その後、RT-PCRで、各遺伝子の発現量を測定した。このとき、一律RNA 25ngを用いて、サーマルサイクラーで測定したCt値をβ-actinに対して標準化し、各遺伝子の発現量を2-ΔΔ法で算出した。グラフ化に当たっては、NHDF-Adを4週間培養したときの検出量を1とし、その倍数(fold)で表記した。なお、老化誘導した状態の細胞、または死滅寸前の細胞には、siETGを1細胞1コピーの目安で感染導入し、その後の変化を同様に検討した。
【0092】
その結果、本実施例のMuse細胞様細胞は、CD105、hTERT、Oct4、SIRT1、P53、及びNanog mRNAを高発現していた。測定結果を図10~16に示す。CD105はmuse細胞のマーカーである。hTERT及びSIRT1は、若い細胞で発現量が高い遺伝子である。Oct4及びNanogは、多能性マーカーである。p53は、悪性腫瘍抑制遺伝子に分類される遺伝子である。
【0093】
本実施例のmuse細胞様細胞は、CD105だけでなく、SIRT1、hTERT、P53、Oct4、Nanogが同期して高発現していた。即ち、本実施例で得られたmuse細胞様細胞は、多能性を有する若い正常細胞になっていた。また、p53 mRNAを高発現していたことから、本実施例のmuse細胞様細胞は、悪性腫瘍化のリスクが低いといえる。
【0094】
図中のサンプル名の「W」は、培養した期間(週)を意味している。図中のサンプル名の「siETG」は、siETGを導入したサンプルであることを意味している。図中のサンプル名の「-1」と「-2」は、2つのサンプルが試験されたことを意味している。図中のtransufectionは、siETGを導入したことを意味している。図中のsenescenceは、細胞の自然死がみられたことを意味している。図中の左から9列目の「10W-siETG-1」は、6列目の「10W-siETG-1」にsiETGを再導入後、3日培養し、細胞を回収して測定したときの結果を意味している。図中の左から8列目の「10W-siETG-2」は、5列目の「8W-siETG-2」をさらに2ヵ月培養時点でsiETGを再導入後、3日培養し、細胞を回収してmRNA発現量を測定したときの結果を意味している。図中の左から10列目の「Muse」は、左から8列目の「10W-siETG-2」を1週間培養後に見られたMuse細胞様細胞を含むコロニーを、1つ選択的に取り上げて、mRNA発現量を測定したときの結果を意味している。図中の「19W-siETG」は、左から12列目の「16W-siETG-2」をさらに3週間培養した後の結果である。
【0095】
なお、上記の実験とは別に行ったタイムラプス撮影によれば、導入細胞のすべてが、少なくとも一時的にはMuse細胞様細胞に変化していた。これは、CD105が測定した全ての導入細胞で陽性であったこととも一致している。また、NHDF-AdはsiRNAが導入されるとその形態とは無関係にCD105陽性になり、Muse細胞様細胞になった。特に、ストレスがかかった時(培地交換で薄まきの状態など)に目玉様になる様子がみられた。Muse細胞様細胞は、浮いているものもあれば、接着しているものもあった。接着しているMuse細胞様細胞から新しい線維芽細胞が生み出されている様子が観察された。また、そのような固定していない場所に線維芽細胞が現れることもあった。
【0096】
(3) コラーゲン産生能
形質転換した細胞について、コラーゲン産生能を測定した。この測定には、ヒトコラーゲンタイプI ELISAキット(ACEL社)を使用した。遺伝子導入後、線維芽細胞は活性化され、コラーゲンをより多く産生した(図17)。なお、この図は1例であり、6週頃老化誘導したため、遺伝子導入をし、活性化した細胞群もある。
<実施例2>
293FT細胞にhsa-miR-520d-5p(配列番号32)を導入し、細胞形態を観察した。具体的には、まずS&B社のpMIR-520d-5p/GFPを用いてプラスミドDNAを生成した。上記と同様の手順で、プラスミドDNAを293FT細胞へ導入し、ウイルス粒子を収集し、タイター測定したあとTIG-1-20細胞へ感染導入させた。その結果、Muse細胞様細胞が観察された(図18)。また、このMuse細胞を培養した結果、TIG-1-20細胞の放射線状に増殖した。但し、実施例1の場合に比べて、細胞が大きく、且つ細胞の輪郭はシャープではなかった。即ち、実施例1に比べて細胞老化が進んでいた。
【0097】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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