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明細書 :前がん病変の進行を予測する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 前がん病変の進行を予測する方法
国際特許分類 G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/573       (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/574 A
G01N 33/48 ZNAP
G01N 33/53 Y
G01N 33/574 D
G01N 33/573 A
C12Q 1/68 A
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 22
出願番号 特願2015-560997 (P2015-560997)
国際出願番号 PCT/JP2015/053041
国際公開番号 WO2015/119132
国際出願日 平成27年2月4日(2015.2.4)
国際公開日 平成27年8月13日(2015.8.13)
優先権出願番号 2014019201
優先日 平成26年2月4日(2014.2.4)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】大野 茂男
【氏名】水島 大一
【氏名】平原 史樹
【氏名】宮城 悦子
【氏名】佐藤 美紀子
【氏名】中谷 雅明
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
Fターム 2G045AA24
2G045AA26
2G045BA13
2G045BA14
2G045CB01
2G045CB02
2G045DA36
2G045FA16
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB12
2G045GB02
2G045GB03
2G045GB04
2G045GC12
2G045GC15
4B024AA11
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4B024HA08
4B024HA12
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4B063QS25
4B063QX01
要約 子宮頸がん等のがんの前がん病変が将来増悪するかどうかを予測できる新規な手段が開示されている。本発明の前がん病変の進行を予測する方法は、被検者から分離された試料におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べることを含む。aPKCλ/ιタンパク質の発現量が高い場合及び/又はaPKCλ/ιタンパク質が核に局在している場合に、前がん病変が増悪する可能性が高い又は改善する可能性が低いと予測される。aPKCλ/ιタンパク質の発現の解析は、好ましくは、抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を用いた免疫染色により行われる。
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者から分離された試料におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べることを含む、前がん病変の進行を予測する方法であって、aPKCλ/ιタンパク質の発現量が高い場合及び/又はaPKCλ/ιタンパク質が核に局在している場合に、前がん病変が増悪する可能性が高い又は改善する可能性が低いと予測される、方法。
【請求項2】
抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を用いた試料の免疫染色によりaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
aPKCλ/ιタンパク質の細胞内分布を調べることを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記試料が組織試料である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記前がん病変が子宮頸がんの前がん病変である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記前がん病変が子宮頸部上皮内腫瘍グレード1である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記前がん病変が子宮頸部上皮内腫瘍グレード2であり、aPKCλ/ιタンパク質の細胞内分布を調べることによりaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べる、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記試料におけるp16タンパク質の発現を調べることをさらに含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ヒトパピローマウイルス16型及び/又は18型に感染しているか否かの検査と組み合わせて行なわれる、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を含む、前がん病変の進行を予測するための診断剤。
【請求項11】
前記前がん病変は子宮頸がんの前がん病変である、請求項10記載の診断剤。
【請求項12】
前記前がん病変は子宮頸部上皮内腫瘍グレード1又はグレード2である、請求項11記載の診断剤。
【請求項13】
p16タンパク質に対する抗体又はその抗原結合性断片と組み合わせて用いられる、請求項10ないし12のいずれか1項に記載の診断剤。
【請求項14】
抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を含む、前がん病変の進行を予測するための診断キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、前がん病変の進行を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸部上皮内腫瘍 (Cervical Intraepithelial Neoplasia, CIN)とは、子宮頸部上皮で発生したがんの前駆病変である。CINの診断は病理組織のHE染色(ヘマトキシリンエオジン染色)で行われており、異形度が軽度で形態が正常上皮に近いCIN1、異形度が強く形態が浸潤癌に近いCIN3、その中間的な異形度のCIN2の3段階に分類されている。
【0003】
子宮頸がん及びCINはヒトパピローマウイルス(HPV)が原因である。ただし、HPV感染は発がん(CINの発生)に必要ではあるが十分ではない。HPVに感染した女性のうち、子宮頸部の浸潤癌にまで進行するのは、約1000人に1人だけである。発がん性のHPVに感染しても、多くの場合自然に排除される。一部は感染が持続し、前がん病変に進む場合があるが、CINを発症してもがんに進まずに軽快する場合もある。
【0004】
子宮がん検診などで高リスクと判断された場合に、生検による診断が行われる。生検で病変が認められない場合の多くは通常のがん検診に戻り、CIN3と診断された場合は手術の適応となる。CIN1又はCIN2と診断された場合は経過観察となり、必要に応じて数か月後に再度生検を行ない病変の進行を評価する。CIN2が長期持続している場合も手術の適応となる。手術は子宮頸部円錐切除であり、子宮は温存されるが、術後の子宮頸管狭窄・出血・早産率の上昇などの術後合併症を生じる可能性がある。
【0005】
CINのグレードは症例により増悪して浸潤癌になる場合も、軽快して正常にもどる場合もあるため、リスクを分類して各症例のリスクに合わせた診療内容を立てることが理想である。確かに、これまでの診断方法(子宮頸部組織のヘマトキシリンエオジン(HE)染色の病理学的診断)では、CINグレードを分類することができたが、同じCINグレードの症例であっても病変が将来増悪する場合も軽快する場合もあり、それはHE染色では予測できなかった。
【0006】
そこで、これまでCINのグレードの増悪や軽快を予測する診断補助法が開発されてきた。現在までに実用化されている方法は、子宮頸部上皮内病変の発生および増悪にはHPVが関連することを利用し、子宮頸部より採取した体液や組織からHPVの感染を検出する方法(ロッシュ・ダイアグノスティックス社、商品名:アンプリコアHPV; 積水メディカル社、商品名:Clinichip; キアゲン社、商品名:Hybrid Capture IIなど)や、HPV E7蛋白に反応して過剰発現するp16蛋白質を検出する方法(Roche社、商品名:CINtec p16 Histology)である。しかしながら、HPV関連の補助診断だけでは増悪を予見する精度が充分ではない。
【0007】
一方、atypical Protein Kinase C λ/ι(aPKCλ/ι)とは、細胞の極性を制御するタンパク質の一つであり、正常な組織形態の構築および維持に重要な役割を果たしている。細胞極性の異常はがんの特徴の一つであり、様々ながんでaPKCλ/ιが発現異常をきたしていることが報告されている。子宮頸がんに関しては、これまでに、浸潤がんにおいてaPKCλ/ιの局在異常と発現異常が予後不良因子であることが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
しかしながら、子宮頸がんを含め、がんの前駆状態におけるaPKCλ/ιの動態についてはこれまでに報告がなく、前がん病変におけるaPKCλ/ιの病的意義も知られていない。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】水島大一ら、「細胞極性制御因子atypical protein kinase C λ/ιの過剰発現および核局在は子宮頸癌の予後不良因子である」、日本産科婦人科学会雑誌 2013年65巻2号704項、平成25年2月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、子宮頸がん等のがんの前がん病変が将来増悪するかどうかを予測できる新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、CIN症例において前がん病変部におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現とその後の該病変部の進行との関係を鋭意に調べた結果、前がん病変部の初回生検組織においてaPKCλ/ιタンパク質の発現量が高い若しくはaPKCλ/ιタンパク質が核に局在する症例は、経過観察後にCINのグレードが有意に増悪することを見出し、従って前がん病変部のaPKCλ/ιタンパク質の発現量や細胞内分布を調べることで前がん病変の進行を予測できることを見出し、本願発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、被検者から分離された試料におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べることを含む、前がん病変の進行を予測する方法であって、aPKCλ/ιタンパク質の発現量が高い場合及び/又はaPKCλ/ιタンパク質が核に局在している場合に、前がん病変が増悪する可能性が高い又は改善する可能性が低いと予測される、方法を提供する。また、本発明は、抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を含む、前がん病変の進行を予測するための診断剤を提供する。さらに、本発明は、抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を含む、前がん病変の進行を予測するための診断キットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、前がん病変の進行を予見する補助診断の手段が新たに提供される。がん検診等でがんのリスクが高いと判定され、精密検査の対象となった患者の前がん病変部生検組織におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現量や細胞内分布を調べることで、当該患者の前がん病変が将来的に増悪する可能性が高いかどうかを予測することができる。増悪する可能性が高い、ないしは改善する可能性が低いと予測される場合、経過観察中の外来通院間隔を早め、早期に手術治療を施す等の対応をすることができる。増悪する可能性が低いないしは改善する可能性が高いと予測される場合には、経過観察中の外来通院間隔を延長したり、あるいは期間を延長して経過観察を続けることにより、自然治癒の可能性が高い症例の手術治療を回避することができる。本発明は、医療機関における前がん病変の進行予測の大きな補助となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】抗aPKCλ/ι抗体で免疫染色したCIN1生検組織の顕微鏡像である。aPKCλ/ιの細胞内分布が細胞質局在型であったもの及び核局在型であったもののそれぞれについて、aPKCλ/ιシグナル強度が1+、2+、3+であった顕微鏡像の代表例を示した。参考として、一次抗体を用いずに染色をした正常子宮頸部上皮組織で、シグナル強度が陰性である陰性コントロールの顕微鏡像も併せて示した。スケールバーは100μm。
【図2】初回生検がCIN1であった38症例について、初回生検組織の免疫染色のaPKCλ/ιシグナル強度と経過観察後の病変のグレードとの関連性をまとめたグラフである。
【図3-1】初回生検がCIN1であった38症例について、初回生検組織の免疫染色のaPKCλ/ι細胞内分布と経過観察後の病変のグレードとの関連性をまとめたグラフである。
【図3-2】aPKCλ/ιの細胞内分布とCIN1病変の進行率との関係を示すグラフである。CIN1の病変の進行は「CIN1がCIN2以上の病変へ進行すること」と定義した。
【図3-3】aPKCλ/ιの細胞内分布とCIN1病変の消退率との関係を示すグラフである。CIN1の病変の消退は「CIN1が組織学的に正常上皮にもどること」と定義した。
【図4】初回生検がCIN1であった38症例について、初回生検組織のp16染色結果と経過観察後の病変のグレードとの関連性をまとめたグラフである。
【図5】初回生検がCIN1であった38症例について、初回生検組織のaPKCλ/ι細胞内分布及びp16染色結果を組み合わせて経過観察後の病変のグレードとの関連性を評価した結果である。* p = 0.32、** p = 0.015。
【図6】CIN1症例のうちのハイリスクHPV陽性群(HPV16/18症例を除く)とハイリスクHPV陰性群のそれぞれについて、aPKCλ/ιの細胞内分布とCIN1病変の進行率との関係を示したグラフである。
【図7】CIN1症例のうちのハイリスクHPV陽性群(HPV16/18症例を除く)とハイリスクHPV陰性群のそれぞれについて、aPKCλ/ιの細胞内分布とCIN1病変の消退率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「前がん病変」とは、悪性腫瘍すなわちがんとなる恐れのある非浸潤性の病変をいう。形態学的には異形成病変、すなわち細胞の全体の大きさや形状、核や細胞質の染色性などにおいて正常と異なる形質をもつ細胞の出現を伴う増殖性の病変であり、そのほか腺腫も含まれることが知られている。本発明においても、「前がん病変」には、上記した増殖性の異形成病変及び腺腫が包含される。

【0016】
例えば、子宮頸がんの場合、本願で対象とする「前がん病変」とは、浸潤がんに進展する前の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)であり、CIN1~CIN3が包含される。特に限定されないが、本発明の診断剤及び方法はCIN1~CIN2、とりわけCIN1症例に対して好ましく実施することができる。子宮頸がん以外のがんの前がん病変についても同様であり、がんの治療・予防分野で一般に前がん状態と認識されている病変のあらゆるグレードが包含され、とりわけ初期のグレードの前がん病変に対して本発明を好ましく実施することができる。

【0017】
本発明では、被検者から分離された試料におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現を調べる。「タンパク質の発現を調べる(解析する)」との表現には、タンパク質の発現量を定量的又は半定量的に測定すること、及びタンパク質の細胞内分布を調べることの両者が包含される。前がん病変の進行予測は、aPKCλ/ιタンパク質の発現量のみに基づいて実施することもできるし、またaPKCλ/ιタンパク質の細胞内分布のみに基づいて実施することもできるので、本発明では少なくともいずれか一方の解析を行えばよいが、本発明では特にaPKCλ/ιの細胞内分布の解析を行なうことが好ましい。

【0018】
本発明で対象となる被検者は、通常、がん検診等でがんのリスクが高いと判定され、精密検査の対象となった者であり、典型的には、前がん病変を有する者である。

【0019】
本発明でaPKCλ/ιタンパク質の発現解析に供される試料は、前がん病変部に由来する細胞試料又は組織試料であり、好ましくは組織試料である。典型例として、がん検診等でがんの疑いありと判定された被検者の生検組織試料を挙げることができる。子宮頸がんの前がん病変について進行を予測する場合には、子宮頸部上皮組織試料や擦過細胞試料が用いられる。

【0020】
aPKCλ/ιタンパク質の発現の解析は、aPKCλ/ιタンパク質を特異的に認識する抗体(抗aPKCλ/ι抗体)又はその抗原結合性断片を用いた免疫学的解析、より具体的には免疫染色により実施することが好ましい。aPKCλ/ιタンパク質に対する抗体又はその抗原結合性断片を用いた試料の免疫染色によれば、シグナルの分布によってaPKCλ/ιタンパク質の細胞内分布を調べることができるほか、シグナル強度によってaPKCλ/ιタンパク質発現量を半定量的に調べることができる。本発明においては、aPKCλ/ιの発現量の測定は半定量的な測定でよい。

【0021】
もっとも、aPKCλ/ιタンパク質の発現解析、特に発現量の測定は、抗体を用いて抗aPKCλ/ιタンパク質自体を検出する手法に限定されず、aPKCλ/ι遺伝子のmRNAの発現量をaPKCλ/ιタンパク質の発現量として測定してもよい。本発明では、aPKCλ/ιタンパク質の発現量の測定には、aPKCλ/ι遺伝子のmRNAの発現量の測定も包含される。mRNAの発現量の測定方法は周知であり、リアルタイムPCR、ノーザンブロットや、組織試料の場合にはin situ RT-PCR等の手法を用いることができる。また、抗体を用いてタンパク質の発現量を調べる手法としては、免疫染色の他、前がん病変部試料からタンパク質を抽出して行なわれる固相ELISA等の手法も挙げることができる。

【0022】
抗aPKCλ/ι抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、aPKCλ/ιの発現解析の再現性等の観点からはモノクローナル抗体が好ましい。また、抗aPKCλ/ι抗体は、対応抗原であるaPKCλ/ιとの結合性を維持した抗体断片(抗原結合性断片)の形態で使用することもできる。

【0023】
PKCの他のアイソフォームと区別してaPKCλ/ιを認識できる抗体は公知であり、市販もされている(例えば、BDバイオサイエンス社のカタログ番号610176のマウス抗PKCιモノクローナル抗体)。本発明では、そのような公知の抗体を用いることができる。あるいは、抗体の作製方法は周知の常法であるので、抗aPKCλ/ι抗体を調製して用いることもできる。プロテインキナーゼCの中で最もaPKCλ/ιに構造が類似しているのはaPKCζであるが、aPKCλ/ιの第404番~第587番アミノ酸の領域を認識する抗体はaPKCζを認識しないことが知られている。上記した市販のマウス抗PKCιモノクローナル抗体は、aPKCλ/ιの第404番~第587番アミノ酸の領域を免疫原として用いて調製された、同領域を認識する抗体である。従って、ヒトaPKCιの第404番~第587番アミノ酸の領域からなる断片を免疫原として用いれば、aPKCλ/ιを特異的に認識する抗体を調製することができる。なお、「第404番~第587番アミノ酸の領域を認識する抗体」には、当該領域のうちの一部の領域をエピトープとする抗体が包含される。

【0024】
配列表の配列番号1及び2に示した配列は、NCBIのGenBankにNM_002740.5のアクセッション番号で登録されているヒトPKCιの塩基配列およびアミノ酸配列である。免疫原として用いるaPKCλ/ιタンパク質の断片は、このような配列情報に基づき、化学合成、遺伝子工学的手法等の常法により作製することができる。

【0025】
化学合成法の具体例としては、例えばFmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等を挙げることができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。化学合成の場合は、アミノ酸配列のみに基づいて所望のポリペプチドを合成できる。

【0026】
遺伝子工学的手法によるポリペプチドの作製方法も周知である。aPKCλ/ιの第404番~第587番アミノ酸の領域からなる断片は、具体的には、例えば次の通りの方法で作製することができる。まず、ヒトcDNAライブラリーからaPKCλ/ιの第404番~第587番アミノ酸の領域をコードするcDNA断片を単離、増幅する。これを適当なベクターに組み込み、適当な発現系にてポリペプチドを発現させ、このポリペプチドを回収することで、上記の領域をコードするポリペプチド断片を得ることができる。用いるベクターや各種の発現系(細菌発現系、酵母細胞発現系、哺乳動物細胞発現系、昆虫細胞発現系、無細胞発現系など)も周知であり、種々のベクターや宿主細胞、試薬類、キットが市販されているため、当業者であれば適宜選択して使用することができる。ヒト由来培養細胞も市販・分譲されており、入手は容易である。

【0027】
抗aPKCλ/ιポリクローナル抗体は、例えば、上記したようなaPKCλ/ιタンパク質の適当な断片を適宜アジュバントと共に動物(ヒトを除く)に免疫し、該動物から採取した血液から抗血清を得て、該抗血清中のポリクローナル抗体を精製することで得ることができる。免疫は、被免疫動物中での抗体価を上昇させるため、通常数週間かけて複数回行なう。抗血清中の抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、アフィニティーカラム精製等により行なうことができる。

【0028】
抗aPKCλ/ιモノクローナル抗体は、例えば、周知のハイブリドーマ法により作製することができる。具体的には、aPKCλ/ιタンパク質の適当な断片を適宜アジュバントと共に動物(ヒトを除く)に免疫し、該動物から脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製し、aPKCλ/ιタンパク質と結合する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし、これを増殖させて培養上清から抗aPKCλ/ιモノクローナル抗体を得ることができる。スクリーニング工程では、aPKCζとは結合しないことをさらに確認してもよい。

【0029】
「抗原結合性断片」は、もとの抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している限り、いかなる抗体断片であってもよい。具体例としては、Fab、F(ab')2、scFv等を挙げることができるが、これらに限定されない。FabやF(ab')2は、周知の通り、モノクローナル抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。scFv(single chain fragment of variable region、単鎖抗体)の作製方法も周知であり、例えば、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、該ベクターで大腸菌を形質転換してscFvを発現させ、これを大腸菌から回収することにより、scFvを得ることができる。

【0030】
細胞試料や組織試料の免疫染色の手法自体は周知の常法であり、抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片を一次抗体として用いて常法通り実施すればよい。免疫染色法は、一次抗体を標識して抗原の検出を行なう直接法と、非標識の一次抗体に対して標識した二次抗体を反応させ抗原の検出を行なう間接法に大別される。本発明で組織試料中のaPKCλ/ιタンパク質の免疫染色を行なう場合、直接法でも間接法でもよいが、一般に間接法の方が検出感度が高く、本発明でも間接法を好ましく採用できる。なお、本発明において、「免疫染色」との語には、発色以外のシグナルを用いる手法も包含される。

【0031】
抗体に結合させる標識物質は特に限定されず、一般的な免疫染色において使用されている標識物質と同様のものを用いることができる。具体例としては、酵素、蛍光色素、金粒子、放射性物質などが挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ(セイヨウワサビペルオキシダーゼ等)、βガラクトシダーゼ等、公知のものを用いることができる。酵素を標識物質として用いる場合、該酵素に対応した発色基質、蛍光基質又は発光基質等の基質を該酵素と反応させ、その結果発生する発色、蛍光、発光等のシグナルを検出すればよい。本発明では、シグナル検出の簡便さ等の観点から、酵素標識及び発色基質を用いることが好ましい。発色は光学顕微鏡により容易に観察できる。

【0032】
酵素標識としてペルオキシダーゼを用いる場合、発色基質としてはDAB(3,3'-ジアミノベンジジン、茶褐色に発色)、AEC(アミノ-9-エチルカルボゾール、赤色に発色)等を用いることができる。酵素標識としてアルカリホスファターゼを用いる場合、発色基質としてはNF(ニューフクシン、赤色に発色)、FR(ファーストレッド、赤色に発色)等を用いることができる。もっともこれらの具体例には限定されない。

【0033】
また、抗体をビオチン又はハプテンで標識して用いることも可能である。その場合、酵素、蛍光物質、放射性物質等を結合したストレプトアビジン又はハプテン抗体等を組織標本に反応させ、シグナルの検出を行なえばよい。

【0034】
本発明においてaPKCλ/ιタンパク質を免疫染色する場合、一般的な免疫染色法と同様に、細胞の構造を正確に認識する目的で標本の後染色が行われる。後染色にはヘマトキシリン(核を青色に染色)やメチル緑(核を青緑色に染色)等の色素を使用することができる。免疫染色の検出を発色により行なう場合には、免疫染色の発色と後染色の色の組み合わせに留意して色素を選択する。

【0035】
被検者から分離された前がん病変部試料でaPKCλ/ιタンパク質の発現量を調べた結果、発現量が高かった場合には、その前がん病変は増悪する可能性が高い、ないしは改善する可能性が低いと予測することができる。発現量が高いか否かは、例えば、前がん病変が結果的に(数か月程度以上の経過観察の結果として)増悪しなかったこと(変化なし又は軽快)が判明している症例の、当該前がん病変部におけるaPKCλ/ιタンパク質の発現量の平均的なレベルと対比して、それよりも発現量が高いか否かを判断すればよい。発現量の測定を免疫染色のシグナル強度に基づいて半定量的に行なう場合には、発現量の高低を判定する際に参考となるよう、シグナル強度を0(発現なし)、1+、2+、3+等のように少数の段階に分類した場合の各グレードの典型的な画像(図1参照)を参考画像として予め準備しておき、被検者由来の前がん病変部試料の免疫染色結果をこれらの参考画像と対比して、いずれのグレードに属するかを決定してよい。そのような参考画像は、例えば、本発明の方法を実施するための診断剤ないしはキットの添付文書等に含めて提供することができる。そのように複数の参考画像が提供される場合、免疫染色のシグナル強度がどのグレード以上であると増悪する可能性が高いかという基準も併せて提供され得る。シグナル強度を4段階に分類して評価する場合、2+以上であれば発現量が高いと判断することができる。

【0036】
また、前がん病変部において、aPKCλ/ιタンパク質の核への局在が生じている場合には、その前がん病変は増悪する可能性が高い、ないしは改善する可能性が低いと予測することができる。皮膚、食道、子宮頸部等の表皮は扁平上皮であるが、正常な扁平上皮細胞ではaPKCλ/ιタンパク質は細胞質に局在している。従って、扁平上皮がんの前がん病変組織においては、核において細胞質と同程度以上にaPKCλ/ιタンパク質が検出される場合には、核に局在していると判断してよい。胃や腸等の消化管の粘膜上皮は円柱上皮であり、正常な円柱上皮ではaPKCλ/ιタンパク質は細胞接着部位に局在するが、円柱上皮に由来する腺がんの前がん病変組織においても同様に、核においてaPKCλ/ιタンパク質が一定以上の強度で検出される場合には核に局在していると判断してよい。被検者から分離された前がん病変部試料の免疫染色結果からaPKCλ/ιの細胞内分布を判定する際に参考となるよう、例えば、細胞質に局在し核への分布は見られない免疫染色像、細胞質と核の両者に分布している免疫染色像(分布が細胞質>核、細胞質=核、細胞質<核など、さらに細かく分けてもよい)、及び核に局在し細胞質への分布は見られない免疫染色像の典型例(図1参照)を参考画像として予め準備しておき、被検者由来の前がん病変部試料の免疫染色結果をこれらの参考画像と対比してaPKCλ/ιの細胞内分布を判定してよい。腺がんの前がん病変部の場合でも同様に、細胞接着部位に局在し核への分布は見られない免疫染色像、核への分布も確認される免疫染色像などを参考画像として予め準備しておき、参考画像との対比によりaPKCλ/ιの細胞内分布を判定することができる。そのような参考画像は、例えば、本発明の方法を実施するための診断剤ないしはキットの添付文書等に含めて提供することができる。

【0037】
本発明による前がん病変の進行予測は、公知の進行予測法と組み合わせて実施してよい。子宮頸がんの前がん病変の進行予測では、p16タンパク質発現に基づく進行予測法や、HPVの型に基づく進行予測法が公知であるが、本発明により子宮頸がんの前がん病変の進行予測を行なう場合、例えばp16タンパク質の発現を調べることによる進行予測を好ましく併用することができる。p16タンパク質は、HPV E7タンパク質に反応して過剰発現するタンパク質であり、子宮頸部上皮組織においてp16タンパク質の過剰発現が見られる場合に前がん病変が増悪する可能性が高いないしは改善する可能性が低いと予測される。p16の発現を調べるための抗p16一次抗体を含む試薬が市販されており(Roche社、商品名:CINtec p16 Histology)、そのような市販品を用いてp16タンパク質による進行予測を実施することができる。当該市販の試薬では、抗p16抗体による免疫染色の結果、子宮頸部組織の基底細胞層から傍基底細胞層へと連続した染色性を示した場合にp16タンパク質過剰発現陽性とされ、細胞単体又は小さな細胞集塊としての非連続的な染色性は過剰発現陰性とされる。p16による予測をaPKCλ/ιの細胞内分布に基づく予測と組み合わせて進行予測を行なうと、aPKCλ/ι細胞質局在型の増悪低リスク症例について、さらに増悪リスクの予測を細分化することができる。具体的には、aPKCλ/ι細胞質局在型でかつp16陽性の場合には増悪する可能性が低く、aPKCλ/ι細胞質局在型でかつp16陰性の場合には増悪する可能性が極めて低いと予測することができる。

【0038】
HPV型判別と組み合わせて子宮頸がんの前がん病変の進行予測を実施する場合には、例えば、増悪リスクが特に高いとされているHPV16/18の感染の有無とaPKCλ/ιの局在パターンとを組み合わせて進行予測する方法が想定される。一般的なHPV型判定検査では主に13種類の型(16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型)がハイリスクとされ、中でも16型及び18型が特にハイリスクとされる。16型及び18型以外のハイリスクHPVについては、感染の有無による増悪予測の精度は必ずしも高くなく、本発明による進行予測を組み合わせることが特に有用であると考えられる。すなわち、HPV型のうちでも16型と18型に着目し、HPV16/18感染ありの患者については増悪する可能性が高いと予想し、HPV16/18感染なしの患者については、aPKCλ/ι核局在であれば増悪する可能性が高く、aPKCλ/ι細胞質局在であれば増悪する可能性が低い、と予測することで、HPV型判定のみに基づく増悪予測よりもさらに精度の高い予測が可能になる。

【0039】
抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片は、前がん病変が増悪する可能性を予測するための診断剤として用いることができる。該診断剤は、抗aPKCλ/ι抗体又はその抗原結合性断片の他、該抗体又はその抗原結合性断片の安定化等に有用な他の成分をさらに含み得る。また、該診断剤は、他の試薬類等(例えば、標識二次抗体、標識が酵素の場合には発色基質等の基質、など)と適宜に組み合わせて、前がん病変が増悪する可能性を予測するための診断キットとして提供することができる。また、診断剤及び診断キットには、例えば、試料の免疫染色結果を対比するための上記した参考画像を掲載した文書が添付されていてよい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
<材料及び方法>
2008年~2011年の間に横浜市大附属病院において生検により診断された子宮頸部上皮内腫瘍グレード1(cervical intraepithelial neoplasia grade 1, CIN1)症例のうち、経過観察(4~6ヶ月)の後に再生検でCIN病変のグレードが評価され、病変の進行もしくは消退が評価された38~86症例を対象とした。各症例の初回生検検体を抗aPKCλ/ι抗体で免疫染色し、得られた結果をその後の病変の進退と対比して、両者の関連性を調べた。
【実施例】
【0042】
常法によりホルマリン固定パラフィン包埋した検体を2μmに薄切した。この切片を以下の手順で処理し、標本を作製した。
(1) 脱パラフィン(Xylen, 5分間×2回)、脱水(Ethanol, 5分間×2回)
(2) 水 5分間
(3) 10mMクエン酸バッファー(pH6.0)に浸漬してオートクレーブ(121℃, 15分間)
(4) 自然冷却, 20分間
(5) PBS 5分間
(6) 0.3% 過酸化水素/脱イオン水に浸漬(室温, 30分間)
(7) PBS 5分間(PBSで5分間に2回洗浄)
(8) ニチレイヒストファイン ブロッキング(10% 正常ウサギ血清/PBS、ニチレイ社)
30分間、室温~37℃
(9) 一次抗体aPKCλ/ι mAb(BD Bioscience cat.610176 Mouse anti PKCιを250倍希釈で使用)+ウサギ血清(体積10%)+PBS
16時間以上、4℃
(10) PBS 5分間×3回
(11) ニチレイヒストファイン ビオチン化抗マウスIgG二次抗体 30分間
(12) PBS 5分間×3回
(13) ニチレイ ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン 15分間
(14) PBS 5分間、3回
(15) Diaminobenthidine(DAB)反応2分
(16) ヘマトキシリン1秒
(17) 流水で10分洗浄
(18) 脱水(Ethanol, 5分間×3回)
(19) 透徹(Xylen, 5分間×2回)
【実施例】
【0043】
上記の通りに作製した初回生検検体の標本を顕微鏡下で観察した。aPKCλ/ιのシグナル強度(茶色の濃さ)は半定量的に4分類(陰性、1+、2+、3+)した後、1+以下であった低発現型と2+以上であった高発現型に分類し、細胞内分布については細胞質局在型と核局在型に分類(核と細胞質に同程度に分布している場合は核局在型として分類)して、病変の進退との関連性を評価した。統計学的解析はマン・ホイットニー検定により行なった。すなわち、各症例の経過観察後の病変を無し(正常化)=0、CIN1=1、CIN2=2、CIN3=3とスコアリングし、マン・ホイットニー検定により2群間の比較を行ない、p<0.05を有意差ありとした。
【実施例】
【0044】
さらに、初回生検でCIN1と診断された計86症例について、aPKCλ/ι細胞内局在群と核局在群に分け、診断後の4年間における各群の累積病変進行率及び累積病変消退率をカプラン-マイヤー法により解析した。群間の差はログランク検定により評価した。
【実施例】
【0045】
<結果1>
aPKCλ/ιの細胞内分布が細胞質局在型であったもの及び核局在型であったもののそれぞれについて、aPKCλ/ιシグナル強度が1+~3+であったCIN1症例の代表的な顕微鏡像を図1に示した。細胞質局在型(中段)では、核はヘマトキシリンで青色に染色され、細胞質にあるaPKCλ/ιタンパク質がDABにより茶色に染色されている。核局在型(下段)では、シグナル強度1+では核が青色と茶色の両方で同程度に染色されているが、2+以上では茶色の染色が青色よりも濃くなり、3+では核は青色が確認できない程度に濃い茶色に染色されている。なお、対象とした38症例でaPKCλ/ιシグナル強度が陰性の症例は存在しなかった。
【実施例】
【0046】
<結果2>
初回生検標本のaPKCλ/ιシグナル強度を半定量的に分類した結果、1+(低発現型)が18例、2+~3+(高発現型)が20例であった。各症例の経過観察後の病変の転帰は下記表1の通りであった。
【実施例】
【0047】
【表1】
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【実施例】
【0048】
表1の結果をグラフ化したものを図2に示す。初回生検でCIN1と判定された症例のうち、aPKCλ/ιのシグナル強度が1+であった低発現型の18症例では、その後CIN2~CIN3に増悪した症例が3例(増悪率17%)であった。これに対し、シグナル強度が2+又は3+であった高発現型の20症例では、その後CIN2~CIN3に増悪した症例が13症例(増悪率65%)であり、低発現型と比べて有意に(p=0.0015)増悪していた。この結果は、前がん病変部におけるaPKCλ/ιの発現量が高い場合にはその後有意に病変が増悪することを示している。
【実施例】
【0049】
また、初回生検標本のaPKCλ/ιの細胞内局在を分類した結果、CP(細胞質に局在)に分類された症例が19例、N(核に局在、又は核と細胞質に同程度に分布)に分類された症例が19例であった。各症例の経過観察後の病変の転帰は下記表2の通りであった。
【実施例】
【0050】
【表2】
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【実施例】
【0051】
表2の結果をグラフ化したものを図3-1に示す。初回生検でaPKCλ/ιが細胞質に局在していた19症例では、その後CIN2~CIN3に増悪した症例が3例のみ(増悪率15%)であった。一方、核局在型の19症例ではその後に増悪した症例が13例(増悪率68%)であり、細胞質局在型症例と比べて有意に(p=0.001)増悪していた。この結果は、前がん病変部におけるaPKCλ/ιの細胞内分布が核局在型であった場合にはその後有意に病変が増悪することを示している。
【実施例】
【0052】
86症例についての累積病変進行率(増悪率)の解析結果を図3-2に示す。4年間の累積進行率は核局在群では63.1%、細胞質局在群では9.4%であり、aPKCλ/ι核局在型症例では病変が進行しやすいことが本解析においても確認された。また、4年間の積病変消退率の解析結果を図3-3に示す。CIN1病変消退率(CIN1の消退=「CIN1が組織学的に正常上皮に戻ること」と定義)として見たときも、核局在症例では病変が消退しにくく、aPKCλ/ιの核局在は病変増悪因子であることが確認された。
【実施例】
【0053】
<結果3>
市販のp16染色キット(CINtec p16 Histology、ロシュ社)をキット添付のプロトコールに従って使用し、初回生検標本のp16の発現量を調べてp16陰性又はp16陽性に分類した。その結果、p16陰性が11例、p16陽性が27例であった。各症例の経過観察後の病変の転帰は下記表3の通りであった。
【実施例】
【0054】
【表3】
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【実施例】
【0055】
表3の結果をグラフ化したものを図4に示す。初回生検でp16陰性であった症例では、その後CIN2~CIN3に増悪した症例が3例(増悪率27%)であり、一方でp16陽性であった症例ではその後増悪した症例が13例(増悪率48%)であった。増悪率に有意差は認められなかったが(p=0.61)、p16陽性であった症例はその後増悪する傾向にあるといえる。
【実施例】
【0056】
<結果4>
結果2及び3の結果から、aPKCλ/ιの細胞内分布とp16評価を組み合わせて初回生検標本を分類し、経過観察後の各症例の病変の転帰との関連を調べた。結果を表4及び図5に示す。
【実施例】
【0057】
【表4】
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【実施例】
【0058】
初回生検でCIN1であった38症例のうち、
aPKCλ/ι細胞質局在かつp16陰性の症例は増悪率0%、
aPKCλ/ι細胞質局在かつp16陽性の症例は増悪率25%、
aPKCλ/ι核局在の症例は増悪率68%、
という結果であった。aPKCλ/ιが細胞質局在型であった症例については、p16評価を併用するとさらにリスク分類を細分化することができる。
【実施例】
【0059】
<結果5>
HPV感染は子宮頸がんの発がんに必要な因子である。HPVの型により子宮頸がん発症リスクは異なる。一般的なHPV型判定検査では主に13種類の型(16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型)がハイリスクとされ、中でも16型及び18型が特にハイリスクとされる。病変進行のリスク因子(p16の発現に加えさらにHPV感染とaPKCλ/ι局在パターン)と病変の進行の関連を調べるため、aPKCλ/ι、HPV感染及びp16を説明変数としてCIN1病変の進行について多変量解析(多変量Cox回帰比例ハザード分析)を行なった。HPVのタイピングは、子宮頸部のぬぐい液から解析する場合は積水メディカル社のClinichip(登録商標)を使用して行なった。ホルマリン固定パラフィン包埋からDNAを抽出する場合は、PCRで特異的な部位を増幅し、増幅産物を制限酵素で切断し、その分解産物の大きさからHPVの型を解析する方法(Nagano H, Yoshikawa H, Kawana T, et al. Association of multiple human papillomavirus types with vulvar neoplasias. J Obstet Gynaecol Res 1996; 22: 1-8.)を用いた。HPV感染については、16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型をハイリスクHPVと定義した。HPVの分類は、ハイリスク型陰性、16/18以外のハイリスク型、16/18型、及び不明(解析するサンプルが現存しないか,HPVの検出検査のために必要な検体量が確保できない検体)の4つのサブグループに分類した。
【実施例】
【0060】
CIN1病変の増悪と各説明変数の関連をコックス回帰比例ハザード分析により評価した結果を表5に示す。aPKCλ/ιが細胞質に局在するCIN1症例の病変が進行する割合を1とすると,aPKCλ/ιが核に局在する症例で病変が進行する割合は3.59であった(p=0.02)。同様に、HPV16/18型陽性の症例はHPV陰性の症例と比較して、病変が増悪しやすかった。aPKCλ/ιの核局在とHPV16/18型は、それぞれ独立に、CIN1病変が進行するリスク因子であることが明らかとなった。
【実施例】
【0061】
【表5】
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【実施例】
【0062】
CIN1症例の中でHPV16/18型以外のハイリスクHPV陽性症例群とハイリスクHPV陰性症例群の2つのサブグループとに分けて解析をした。各サブグループ内で累積病変進行率をカプラン-マイヤー法及びログランク検定にて解析した結果を図6に示す。いずれのHPV感染サブグループ内でも、aPKCλ/ιの核局在は細胞質局在と比較して病変進行リスクが有意に高いことが明らかとなった。ハイリスクHPV陽性(16/18型以外)の症例でも、aPKCλ/ιが細胞質局在の場合は4年後も病変の増悪が認められず(図6左)、またハイリスクHPV陰性でもaPKCλ/ιが核局在だと病変の増悪が認められた(図6右)。従って本発明の方法の適用により、例えば16/18型以外のハイリスクHPV陽性症例の中でも、病変が増悪する可能性が高い症例と低い症例を精度よく予測することができる。
【実施例】
【0063】
CIN1病変の消退と各説明変数の関連をコックス回帰比例ハザード分析により評価した結果を表6に示す。aPKCλ/ιの核局在とHPV16/18型は、それぞれ独立に、CIN1病変の消退を予測する因子であることが明らかとなった。aPKCλ/ιが細胞質に局在するCIN1症例の病変が消退する割合を1とすると,aPKCλ/ιが核に局在する症例で病変が消退する割合は0.41であった(p=0.02)。同様に、HPV16/18型陽性の症例はHPV陰性の症例と比較して、病変が消退しにくいことが明らかとなった。
【実施例】
【0064】
【表6】
JP2015119132A1_000008t.gif
【実施例】
【0065】
CIN1症例をハイリスクHPV陽性症例群(HPV16/18型を除く)とハイリスクHPV陰性症例群とに分けて累積病変消退率をカプラン-マイヤー法及びログランク検定にて解析した結果を図7に示す。いずれのHPV感染サブグループでも、aPKCλ/ιの核局在は細胞質局在と比較して病変が有意に消退しにくいことが明らかとなった。
【実施例】
【0066】
<CIN2症例を対象とした解析結果>
初回生検での診断結果がCIN2であった約40症例を対象とし、初回生検組織のaPKCλ/ιの発現解析結果とその後の病変の転帰との関連を調べた。その結果、核局在型症例ではCIN1~病変なしに改善した割合が26%であるのに対し、細胞質局在型症例では改善率は60%であった。病変の転帰に有意差は認められなかったものの(p=0.46)、CIN2の核局在型症例では細胞質局在型症例よりも病変が改善し難い傾向が認められた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3-1】
2
【図3-2】
3
【図3-3】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8