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明細書 :遺伝子ノックアウトブタ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 遺伝子ノックアウトブタ
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01K 67/027 ZNA
C12N 5/10
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 26
出願番号 特願2016-512568 (P2016-512568)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り (1)公開者/科学技術振興機構(JST)、学校法人明治大学、学校法人自治医科大学 刊行物名/科学技術振興機構(JST)プレスリリース、「効率的な方法で、短期間に免疫のないブタを作ることに成功」 発行日/平成25(2013)年10月8日 (2)公開者/渡邊將人(Masahito Watanabe)、中野和明(Kazuaki Nakano)、松成ひとみ(Hitomi Matsunari)、松田泰輔(Taisuke Matsuda)、前原美樹(Miki Maehara)、金井貴博(Takahiro Kanai)、小林美里奈(Mirina Kobayashi)、松村幸奈(Yukina Matsumura)、坂井理恵子(Rieko Sakai)、倉本桃子(Momoko Kuramoto)、林田豪太(Gota Hayashida)、浅野吉則(Yoshinori Asano)、高柳就子(Shuko Takayanagi)、新井良和(Yoshikazu Arai)、梅山一大(Kazuhiro Umeyama)、長屋昌樹(Masaki Nagaya)、花園豊(Yutaka Hanazono)、長嶋比呂志(Hiroshi Nagashima) 掲載年月日/平成25 (2013)年10月9日 掲載アドレス/http://www.plosone.org/ http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0076478 http://www.plosone.org/article/fetchObject.action?uri=info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0076478&representation=PDF (3)公開者:科学技術振興機構(JST)、学校法人明治大学、学校法人自治医科大学 掲載年月日/平成25(2013)年10月10日 掲載アドレス/ http://www.jst.go.jp/ http://www.jst.go.jp/press.html http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131010/index.html
国際出願番号 PCT/JP2014/076768
国際公開番号 WO2015/155904
国際出願日 平成26年10月7日(2014.10.7)
国際公開日 平成27年10月15日(2015.10.15)
優先権出願番号 2014078986
優先日 平成26年4月7日(2014.4.7)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】花園 豊
【氏名】渡邊 將人
【氏名】長嶋 比呂志
出願人 【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100107386、【弁理士】、【氏名又は名称】泉谷 玲子
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA04
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
要約 発明者らは、ブタにおいて、従来技術の欠点を解消し効率的に遺伝子改変を行う方法を開発すること、また、繁殖年齢に達する前に致死となる遺伝子ノックアウトブタの繁殖を可能にすることを課題とした。
本発明は、目的遺伝子に対して特異的なZincフィンガーヌクレアーゼをコードするmRNAを使用して、目的遺伝子を切断することにより、遺伝子ノックアウトブタ細胞を作製し、その細胞核を取り出し、除核未受精卵に移植の上、代理母子宮に移し、遺伝子ノックアウトブタ個体を作出した。このようにして作出した遺伝子ノックアウトブタは、実施例のXSCIDブタのように繁殖年齢に達し得ない致死的なものがあるが、正常胚を用いる胚盤胞補完技術により繁殖可能な遺伝子ノックアウトブタを作出できることも示した。
特許請求の範囲 【請求項1】
目的遺伝子の配列を標的とするZincフィンガードメインおよびヌクレアーゼとを含むZincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)タンパク質をコードするmRNAを細胞内に導入する工程;
細胞内において目的遺伝子を標的とするZFNタンパク質を作製する工程;
ZFNタンパク質の作用により、ゲノム中の目的遺伝子のDNA配列を切断し、除去する工程;
細胞内のDNA損傷修復機構により、切断されたゲノム部分をつなぎ直す工程;
を含む、目的遺伝子がノックアウトされた細胞の製造方法。
【請求項2】
細胞が、ブタの細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ZFNタンパク質が、複数のZincフィンガードメインを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ZFNタンパク質に含まれるヌクレアーゼが、FokI、またはSts Iである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
目的遺伝子が、インターロイキン-2受容体γ遺伝子(IL2RG遺伝子)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの方法により目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植する工程;
体細胞核移植により作製した初期胚を、代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程;
を含む、遺伝子ノックアウト動物の作出方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかの方法により目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ホスト胚を作製する工程;
健常ブタの細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ドナー胚を作製する工程;
ドナー胚の桑実胚期までの細胞を、桑実胚期までのホスト胚に注入する工程;
ドナー胚由来の細胞を注入したホスト胚の初期胚を、代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程;そして
目的遺伝子がノックアウトされた精子を形成することができるキメラオス個体を選抜する工程;
を含む、繁殖可能な遺伝子ノックアウトオス動物の作出方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかの方法により目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ホスト胚を作製する工程;
健常ブタの細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ドナー胚を作製する工程;
ホスト胚およびドナー胚の桑実胚期までの細胞を分散させ、ドナー胚由来の細胞、ホスト胚由来の細胞を混合して、凝集胚を作製する工程;
凝集胚から胚盤胞を形成させた後、胚盤胞を代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程;そして
目的遺伝子がノックアウトされた精子を形成することができるキメラオス個体を選抜する工程;
を含む、繁殖可能な遺伝子ノックアウトオス動物の作出方法。
【請求項9】
目的遺伝子が、IL2RG遺伝子で
ある、請求項6~8のいずれか1項に記載の遺伝子ノックアウト動物の作出方法。
【請求項10】
IL2RG遺伝子のコード領域の一部または全部が欠損し、IL2RG遺伝子の機能が喪失された、遺伝子ノックアウト動物。
【請求項11】
X染色体連鎖性重症複合型免疫不全症(XSCID)を生じる、請求項8に記載の遺伝子ノックアウト動物。
【請求項12】
動物が、ブタ、サル、ラット、マウス、ウシ、ヒツジから選択される、請求項10または11に記載の遺伝子ノックアウト動物。
【請求項13】
動物がブタである、請求項12記載の遺伝子ノックアウト動物。
【請求項14】
IL2RG遺伝子以外の遺伝子に、外来遺伝子がゲノム中に導入されていない、請求項10~13のいずれか1項に記載の遺伝子ノックアウト動物。
【請求項15】
請求項6~9のいずれかの方法により作出される、請求項10~14のいずれか1項に記載の遺伝子ノックアウト動物。
【請求項16】
胸腺を復活させた繁殖可能なオスブタである、請求項10~15のいずれか1項に記載の遺伝子ノックアウト動物。
発明の詳細な説明 【背景技術】
【0001】
ブタは、遺伝学的に見た場合に、ヒトとの遺伝学的距離がマウスとヒトとのあいだの遺伝学的距離よりも大きいにもかかわらず、解剖学的特徴、生理学的特徴そして血液学的特徴はマウスよりもヒトに類似している。そのため、ヒトに対して高度に価値のある、外挿可能な情報を提供することができる大型実験動物として興味を集めている。
【0002】
今日まで、様々なヒト疾患(例えば、嚢胞性線維症、糖尿病、アルツハイマー病、および網膜色素変性)についてのブタモデルが、作出されてきた。さらに、ヒトに異種移植するための器官/組織のドナーとして、遺伝子修飾されたブタを使用することに付いての研究が、進められている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
内在性遺伝子のノックアウト(KO)は、遺伝子機能の解析やヒト疾患を模倣する動物モデルの作出のための有用なツールである。これまでに、相同組換えにより遺伝子的に修飾された胚性幹細胞(ES細胞)を使用して、様々な遺伝子ノックアウトマウスが作出されてきた。ブタの場合には、信頼性のあるES細胞が樹立されておらず、ES細胞を利用できないことから、体細胞を使用した相同組換え技術を用いて遺伝子ノックアウト細胞を取得し、これを核ドナー細胞として体細胞核移植(SCNT)技術と組み合わせて使用して、遺伝子ノックアウトブタを作出してきた。しかしながら、哺乳動物の培養細胞に付いては相同組換えの効率性が低い(頻度、10-6~10-8)ため、実際に個体を得るまでには多くの時間を要し、この非効率性と煩雑さのためにノックアウトブタの作出が妨げられており(非特許文献4~非特許文献6)、そして相同組換え技術を介したノックアウトブタの作出は、依然として限定的である。
【0004】
新たな技術の一つとして、Zincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用して、内在性遺伝子をノックアウトする方法があり、そしてこの方法は、哺乳動物における相同組換えの非効率性や複雑性を解消することを期待されている(非特許文献7)。遺伝子操作されたZFNは、ZincフィンガーDNA-結合ドメインおよびDNA切断ドメインを含む人工の制限酵素である(非特許文献8)。本発明者らは、以前に、in vitroでのブタの初代胎仔線維芽細胞における遺伝子ノックアウトが、ZFNを使用して可能であること(非特許文献9)、そしてZFNにより遺伝子的に修飾された体細胞が体細胞核移植(SCNT)の後に遺伝子ノックアウトブタを作出することができること(非特許文献10~非特許文献13)を、それぞれ初めて示した。これらの研究においては、ZFNをコードするプラスミドDNAを、体細胞または体細胞核移植(SCNT)のための核ドナー細胞中に導入した。
【0005】
しかしながら、プラスミドDNAは、細胞のゲノム中に無作為に組み込まれる可能性もあり、それが内在性遺伝子の破壊およびZFNの構成的発現を引き起こす可能性がある。従来のZincフィンガーヌクレアーゼを用いたノックアウトブタの作出では、Zincフィンガーヌクレアーゼの発現にプラスミドDNAが利用されている。プラスミドDNAを用いた方法は、動物個体のゲノムに外来遺伝子が挿入される懸念があり、このことは動物が持つ本来の遺伝子を破壊してしまうリスクを含んでいることを意味する。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Dai Y, et al. (2002) Nat Biotechnol 20: 251-255.
【非特許文献2】Lai L, et al. (2002) Science 295: 1089-1092.
【非特許文献3】Elliott RB, et al. (2007) Xenotransplantation 14: 157-161.
【非特許文献4】Porter AC, and Itzhaki JE (1993) Eur J Biochem 218: 273-281.
【非特許文献5】Brown JP, et al. (1997) Science 277: 831- 834.
【非特許文献6】van Nierop GP, et al. (2009) Nucleic Acids Res 37: 5725-5736.
【非特許文献7】Geurts AM, et al. (2009) Science 325: 433.
【非特許文献8】Kim YG, et al. (1996) Proc Natl Acad Sci U S A 93: 1156- 1160.
【非特許文献9】Watanabe M, et al. (2010) Biochem Biophys Res Commun 402: 14-18.
【非特許文献10】Whyte JJ, et al. (2011) Mol Reprod Dev 78: 2.
【非特許文献11】Hauschild J, et al. (2011) Proc Natl Acad Sci U S A 108: 12013-12017.
【非特許文献12】Li P, et al. (2012) J Surg Res 181: e39-45.
【非特許文献13】Yang D, et al. (2011) Cell Res 21: 979-982.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の発明者らは、プラスミドDNAを用いて遺伝子ノックアウトを行う場合の上述した様な欠点を解消し、ブタにおいて効率的に遺伝子改変が可能となる方法を開発することを課題とした。そこで、研究グループは、mRNAが通常ではゲノムへ組み込まれないことを利用し、ZincフィンガーヌクレアーゼをコードするmRNAと体細胞核移植技術と組み合わせることにより、目的以外の遺伝子機能を傷つけるリスクのない安全なノックアウトブタの作出を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ノックアウトの目的とする遺伝子を特異的に標的とするように設計されたZincフィンガードメインと、標的とするDNAを切断するためのヌクレアーゼとから構成されるZFNをコードするmRNAを使用して、目的遺伝子を切断して部分的に欠損を生じさせた後、生体が有するDNA修復機構を利用して切断後の遺伝子をつなぎ合わせることにより、遺伝子ノックアウトブタ細胞を作製し、その細胞を使用して遺伝子ノックアウトブタ個体を作出した。
【0009】
本発明の具体的な例として、ブタインターロイキン-2受容体γ遺伝子(IL2RG遺伝子、重症複合型免疫不全症の原因遺伝子)におけるエクソン1の配列を標的とするように設計された、12塩基を認識する4箇所のZincフィンガードメインを有するZFNを構築し、このZFNを用いてブタIL2RG遺伝子ノックアウト細胞を作製し、これを用いてブタIL2RG遺伝子ノックアウトブタを作出した。このようにして作出したIL2RG遺伝子ノックアウトブタは、その免疫不全の故、感染症により早死してそのままでは繁殖年齢まで成長することができないが、胚盤胞補完技術により胸腺を復活させた生存可能(すなわち、繁殖可能)なIL2RGノックアウトブタ(オス)を作出することができることも示した。
【発明の効果】
【0010】
遺伝子ノックアウトの方法として知られていた相同組換え法やZFNプラスミドDNA法の場合には、ゲノム中の意図しない部位にターゲティングベクターが組み込まれる危険性が存在していたが、本発明の方法により、ZFNをコードするmRNAを使用することにより、ゲノム中に外来性のDNAを挿入することなく、遺伝子ノックアウト細胞を作製することができ、安全性の高い遺伝子ノックアウト法を開発することに成功した。また、本発明の方法では、遺伝子ノックアウト細胞を比較的短期間に作製することができることから、遺伝子ノックアウト動物を作出するまでの時間を大幅に短縮することができた。
【0011】
また、具体的な態様として作出したX染色体連鎖性重症複合型免疫不全症(XSCID)ブタは、T細胞に加えて、腫瘍細胞や移植細胞に対する免疫機能に重要な働きを持つナチュラルキラー(NK)細胞を欠損しているが、B細胞は存在する。ブタXSCIDにおいてB細胞が存在するのはヒトXSCIDと同じであるが、マウスX-SCIDにはB細胞がない。したがって、X-SCIDにおいてはヒトをよりよく反映する動物モデルはマウスではなくブタである。しかも、XSCIDブタは、身体のサイズがヒトと類似しており、生理学的にもヒトと非常によく似ていることから、ヒトの様々な疾患モデルとしてがん研究、幹細胞移植研究、創薬研究などに幅広く利用されるモデル動物となるだけでなく、人工臓器製造のためのベースの動物として活用が可能になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、遺伝子ノックアウトの手法の特徴をまとめた図である。
【図2】図2は、ブタIL2RG遺伝子を標的とするZFNの設計および核ドナー細胞の作製を示す図である。
【図3】図3は、IL2RGノックアウトブタの作出と、その作出されたブタの遺伝子的、タンパク質的な解析の結果を示す図である。
【図4】図4は、IL2RGノックアウトブタの表現型を、組織学的に確認した結果を示す図である。
【図5】図5は、IL2RGノックアウトブタにおける単核細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示す図である。
【図6】図6は、胚盤法補完によるIL2RGノックアウトブタと野生型(WT)ブタとの間でのキメラ個体の作製と、生後の体重推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、第一の態様において、以下の方法を含む目的遺伝子がノックアウト(KO)された細胞の製造方法を提供する:
目的遺伝子の配列を標的とするZincフィンガードメインおよびヌクレアーゼとを含むZincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)タンパク質をコードするmRNAを細胞内に導入する工程;
細胞内において目的遺伝子を標的とするZFNタンパク質を作製する工程;
ZFNタンパク質の作用により、ゲノム中の目的遺伝子のDNA配列を切断し、除去する工程;
細胞内のDNA損傷修復機構により、切断されたゲノム部分をつなぎ直す工程。

【0014】
従来技術において、目的遺伝子がノックアウトされた細胞の製造方法として、相同組換えによる方法や、プラスミドDNAを用いたジンクフィンガーヌクレアーゼによる遺伝子ノックアウト方法などが知られていた。

【0015】
相同組換えによる遺伝子ノックアウトの方法では、目的遺伝子の遺伝子機能をなくすためにターゲティングベクターを使用して、目的遺伝子のヌクレオチド配列中に外来遺伝子を導入することが必須であるが、ゲノム中の意図しない部位にターゲティングベクターが組み込まれる危険性があった。また、相同組換えの効率自体が非常に低く、目的とする遺伝子ノックアウト細胞を得られるまでに長い時間がかかってしまうという欠点もあった。

【0016】
このような欠点を解消する方法として、目的遺伝子のヌクレオチド配列を標的としたZFNタンパク質を利用する方法が開発された。この方法では、ZFNタンパク質をコードするプラスミドDNAを細胞に組み込み、細胞内で目的遺伝子のヌクレオチド配列を標的としたZFNタンパク質を発現させて、目的遺伝子を切断し、ノックアウトする。しかしながら、この方法では、遺伝子ノックアウト効率が高まり、結果として目的とする細胞を得られるまでにかかる時間も大幅に短縮することができるものの、この方法においても、目的とするZFNタンパク質をコードするプラスミドDNAを細胞に導入する必要があり、ゲノム中の意図しない部位にプラスミドベクター由来の外来遺伝子(ZFN遺伝子など)が組み込まれる危険性があった(図1を参照)。

【0017】
本発明においては、このような従来からの遺伝子ノックアウトの技術に伴う欠点を解消することを目的として、目的遺伝子の配列を標的とするZincフィンガードメインおよびヌクレアーゼとを含むZFNタンパク質をコードするmRNAを使用することとした。具体的には、目的遺伝子の配列を標的とするZincフィンガードメインおよびヌクレアーゼとを含むZFNタンパク質をコードするmRNAを細胞内に導入し、細胞内のタンパク質翻訳系を使用して目的とするZFNタンパク質を作製し、そのZFNタンパク質の作用により、ゲノム中の目的遺伝子のDNA配列を切断・除去し、ゲノムの切断部分同士を細胞内のDNA損傷修復機構によりつなぎ直すことにより、目的遺伝子を欠失した細胞を製造することができる。

【0018】
ZFNをコードするmRNAを利用する際の利点として、ZFN発現が一過性である点を挙げることができる。このことにより、標的以外の変異が生じる可能性が大幅に減少することが挙げられる。標的以外の変異は、ZFN技術の潜在的な制限的要素であったが、ZFNをコードするmRNAを導入することで、ゲノム変異のリスクなく、細胞質内でZFNの翻訳を即時に誘導することができ、それにより核内の内在性の遺伝子に変異を生じたり破壊する可能性を低減することができた。 この方法は、mRNAを細胞に導入することから、目的遺伝子の配列を標的とするZFNタンパク質をコードするDNA(外来性のDNA)が細胞内で存在することがなく、結果的に、外来性遺伝子を含む外来性DNAがゲノム中に組み込まれる危険性がなく、従来技術の問題点を解消することができる。

【0019】
これまで、ZFNをコードするmRNAを、受精卵中に直接注入することにより、遺伝子ノックアウトを行う方法が、げっ歯類動物において報告されている(Mashimo T, et al. (2010) PLoS One 5: e8870;Carbery ID, et al. (2010) Genetics 186: 451- 459.;Cui X, et al. (2011) Nat Biotechnol 29: 64-67)。しかしながら、ブタにおいては、受精卵への遺伝子導入方法が確立されていないため、ZFNをコードするmRNAを使用したノックアウトブタの作出はまだ報告されていない。したがって、本発明は、好ましい一態様において、ブタの細胞において目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する。

【0020】
本発明において使用するZFNタンパク質は、そのタンパク質内にZincフィンガードメインを含むことを特徴とする。Zincフィンガーは、DNA結合性を有するタンパク質であり、1つのZincフィンガードメインは、3個のヌクレオチドを認識し、結合することができる。当該技術分野において、任意の3個のヌクレオチドの組み合わせそれぞれに対して、Zincフィンガータンパク質の構成がすでにわかっている。したがって、このZincフィンガータンパク質のアミノ酸配列を、標的ヌクレオチドとの関係についての既知の知見に基づいて組み合わせることにより、標的とする任意のヌクレオチド配列を認識することができるように改変することができる。ZFNタンパク質には、複数の、例えば3~10個の、好ましくは3~6個の、Zincフィンガードメインを含むことができる。前述したように、1つのZincフィンガードメインは、3個のヌクレオチドを認識し、結合することができることから、たとえば3個のZincフィンガードメインを含む場合には9ヌクレオチドを認識し、6個のZincフィンガードメインを含む場合には18ヌクレオチドを認識することができる。

【0021】
本発明において使用するZFNタンパク質は、そのタンパク質内にヌクレアーゼドメインを含むこともまた特徴とする。このようなヌクレアーゼとしては、II型制限酵素FokI由来の配列非依存的DNA切断ドメインとして一般的に利用されているが、これ以外のヌクレアーゼであっても例えばSts Iなどのヌクレアーゼを使用することができる。

【0022】
このような構造のZFNタンパク質をコードするmRNAを細胞内に導入し、細胞内のタンパク質翻訳系を使用して、目的とするZFNタンパク質を作製する。細胞内において、このZFNタンパク質は、Zincフィンガードメインにより目的遺伝子の標的DNA配列に対して特異的に結合し、ヌクレアーゼドメインにより目的遺伝子の特定の部分を切断する。切断されたDNAは、細胞内に内在するDNA修復機構により、相同組換えあるいは非相同末端連結により修復されるが、結果的に目的遺伝子の一部を欠損させ、その結果、目的遺伝子が機能を欠失した状態の細胞、すなわち目的遺伝子がノックアウトされた細胞、を製造することができる。

【0023】
ZFNタンパク質のZincフィンガードメインのアミノ酸配列を適宜改変することにより、標的とするヌクレオチド配列を自由に規定することができることから、標的とする目的遺伝子(標的ヌクレオチド)は全く限定されない。

【0024】
本発明においては、第二の態様において、第一の態様の製造方法により製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞を核ドナーとして、遺伝子ノックアウト動物を作出する方法を提供する。具体的には、以下の工程を含む、遺伝子ノックアウト動物の作出方法を提供する:
第一の態様の製造方法により製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植する工程;
体細胞核移植により作製した初期胚を、代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程。

【0025】
本発明の第二の態様における遺伝子ノックアウト動物の作出方法においては、第一の態様において製造された細胞を核ドナーとして、得られた核を体細胞核移植技術により、除核未受精卵細胞に移植することを特徴とする。この方法により作製した核移植された未受精卵細胞由来の初期胚を、代理母の子宮に移し、その子宮内で胚発生を行わせ、個体(クローン動物)を作出する方法である。

【0026】
体細胞核移植技術は、体細胞クローニングとも言われるが、核を除いた未受精卵へ、体細胞の核を移植(融合)することによって初期胚を作製し、作製した初期胚を代理母の子宮に移し、個体(クローン)を作出する方法である。胚は、体細胞由来の核を有するので、発生する胚は、元の体細胞の核と同一の遺伝情報を持つことを特徴とする。そして、本発明の第一の態様における目的遺伝子をノックアウトした細胞は、増殖させることができるので、同一の核を複製することができる。したがって、本発明の第二の態様の方法において、第一の態様で作製した細胞を核ドナーとして使用することにより、目的遺伝子がノックアウトされた同じ遺伝子構成を有するクローン動物を、作出することができる。

【0027】
本発明の第三の態様として、第一の態様における目的遺伝子がノックアウトされた細胞の製造方法、および第二の態様における遺伝子ノックアウト動物の作出方法を使用して、インターロイキン-2受容体γ(IL2RG)遺伝子を目的遺伝子として選択し、ブタにおいて、インターロイキン-2受容体γ遺伝子(IL2RG遺伝子)のノックアウト動物を作出することを試みた。

【0028】
この態様において目的遺伝子として選択したIL2RG遺伝子は、オス細胞のX-染色体上にあり、共通γ鎖(γc)をコードする遺伝子である。IL2受容体γc鎖が機能しない場合にはインターロイキンの作用が伝達されない。しかも、IL2受容体γc鎖を受容体は、インターロイキン-2(IL-2)、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21の6種類のインターロイキンにより幅広く使用されていることから、これらすべてのインターロイキンのシグナルが細胞内に伝わらなくなり、結果として重い免疫不全状態となることが知られている。ヒトおよびマウスにおいて、この遺伝子の変異により、細胞性免疫および体液性免疫の深刻な欠損により特徴づけられる、X染色体連鎖性重症複合型免疫不全症(XSCID)が引き起こされることが知られている(Noguchi M, et al. (1993) Cell 73: 147-157;Buckley RH (2004) Annu Rev Immunol 22: 625-655)。

【0029】
マウスにおいて作出されたIL2RG遺伝子の変異に基づく免疫不全症を生じるノックアウト動物の場合には、病態としてはヒトのXSCIDと類似する病態を示すものの、マウス自体の寿命が短命であることから、ヒトの疾患のモデルマウスを作出するためには適していないという欠点があった。そのため、当該技術分野においては、生存期間が長く、ヒトの疾患のモデルとなりうる動物の開発が求められていた。

【0030】
本発明においては、ブタを材料として、IL2RG遺伝子を標的とするZFNをコードするmRNAを使用して、本発明の第一の態様にしたがってIL2RG遺伝子ノックアウトブタ細胞を製造し、ついで本発明の第二の態様にしたがって、IL2RG遺伝子ノックアウトブタ細胞の核を核ドナーとして、ブタの除核未受精卵に体細胞核移植して、IL2RG遺伝子のノックアウトブタを作出した。

【0031】
このノックアウトブタのリンパ球表現型を確認したところ、オスブタにおいて、T細胞、およびNK細胞がほぼ消失していることが示され、その表現型から、作出したノックアウトブタが、XSCID表現型を発症させることができることを示した。従来の知見によれば、ヒトXSCID患者においては、T細胞およびNK細胞の数が顕著に減少しているが、B細胞の数は依然として正常であり、たまに増加していることもあるが、XSCIDマウスおよびXSCIDラットにおいては、T細胞およびB細胞の数の大幅な減少が報告されている。このことから、げっ歯類動物のXSCIDモデルの表現型は、ヒトXSCIDの症状を必ずしも模倣しているわけではないことが知られていた。これに対して、本発明において作出されたIL2RGノックアウトブタは、T細胞とNK細胞とを欠損しており、B細胞数については正常であることが示された。この様な表現型は、ヒトXSCIDを正確に模倣しているモデルであると考えられる。

【0032】
この方法でノックアウト動物を作出する場合、ZFNをコードするmRNAにより、抗生物質選択を行うことなく、遺伝子ノックアウト細胞を作製することができる。実際、体細胞核移植(SCNT)のために十分な数の核ドナー細胞が、非常に短期間(およそ3週間)で得られた。さらに、本件発明においてZFNをコードするmRNAにより作製されたIL2RG-ノックアウト細胞は、核ドナー細胞の若返り活性化(rejuvenation)をすることなく、そして続けて再クローニングを行うこともなく、満期産でクローン化胎仔を作出することが可能になった。これまでの相同組換え法では、ノックアウト動物が得られるまでに平均して12~18ヶ月の期間を必要としていたが、本発明の方法においては、結果的に、ノックアウト細胞の確立のために要した期間も含めて、ブタの妊娠期間約114日(4ヶ月弱)を考慮しても、満期産でクローン化胎仔を6ヶ月以内と、約1/2~1/3程度の期間で作出することができた。この時間的な大幅な短縮は、ノックアウトブタの作出に際して非常に有用である。

【0033】
また、本発明の第二の態様においては、体細胞移植によりノックアウト胚の作製を行うことから、生まれてくるブタの全ての細胞に、目的遺伝子のノックアウトが入っており、必然的に遺伝子ノックアウトが、生殖系列の細胞(卵細胞または精原細胞などの生殖細胞)にも伝達される。本発明で一例として作出したIL2RG遺伝子の遺伝子ノックアウトブタは、XSCIDの性質を有し、オスでのみ症状を発生する。

【0034】
XSCID動物は、上述したようにオスでのみ症状を発症することから、IL2RG遺伝子の遺伝子ノックアウトをヘテロで保持するメスでは症状を発症しない。したがって、いったん遺伝子ノックアウト動物が作出された場合、ノックアウトの維持管理はヘテロのメス動物で行い、その交配により、理論的には生まれてくるオスの半分がXSCIDとなることにより、XSCID動物を生産することができる。

【0035】
しかし、より簡単な方法は、XSCIDを呈するオスの個体であっても、胚盤胞補完技術(Matsunari et al., PNAS, 4557-4562, 2013;Nakano et al. PLoS One, e61900, 2013)により、IL2RG遺伝子がノックアウトされていても生存が可能(すなわち、繁殖可能)なオス個体を作出することである。

【0036】
注入法による胚盤法補完技術(Matsunari et al., PNAS, 4557-4562, 2013)による遺伝子ノックアウトオス動物は、
本願明細書において記載したいずれかの方法などの方法により、目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ホスト胚を作製する工程;
健常動物の細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ドナー胚を作製する工程;
ドナー胚の桑実胚期までの細胞を、桑実胚期までのホスト胚に注入する工程;
ドナー胚由来の細胞を注入したホスト胚の初期胚を、代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程;そして
目的遺伝子がノックアウトされた精子を形成することができるキメラオス個体を選抜する工程;
を含む、繁殖可能な遺伝子ノックアウトオス動物の作出方法により作出することができる。

【0037】
一方、凝集法による胚盤法補完技術(Nakano et al. PLoS One, e61900, 2013)による遺伝子ノックアウトオス動物は、
本願明細書において記載したいずれかの方法などの方法により、目的遺伝子がノックアウトされた細胞を製造する工程;
その後、製造された目的遺伝子がノックアウトされた細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ホスト胚を作製する工程;
健常動物の細胞から核を取り出し、除核未受精卵細胞中に体細胞核移植して、ドナー胚を作製する工程;
ホスト胚およびドナー胚の桑実胚期までの細胞を分散させ、ドナー胚由来の細胞、ホスト胚由来の細胞を混合して、凝集胚を作製する工程;
凝集胚から胚盤胞を形成させた後、胚盤胞を代理母の子宮内に胚移植し、胚発生を行う工程;そして
目的遺伝子がノックアウトされた精子を形成することができるキメラオス個体を選抜する工程;
を含む、繁殖可能な遺伝子ノックアウト動物の作出方法により作出することができる。

【0038】
いずれの方法によっても、作出された繁殖可能な遺伝子ノックアウト動物は、
・目的遺伝子がノックアウトされたホスト胚由来の細胞と、健常動物のホスト胚由来の細胞とのキメラであり;
・生殖系列の細胞はホスト胚由来である;
・目的遺伝子がノックアウトされたことにより生じる機能欠損は、健常動物由来の細胞により補完される;
と言う特徴を有する。

【0039】
本願発明においては、この様な方法により、様々な動物における遺伝子ノックアウトオス動物を作出することができる。様々な動物としては、ブタ、サル、ラット、マウス、ウシ、ヒツジなどを挙げることができる。

【0040】
繁殖可能なオス個体(X*YとXYのキメラ)を作出すれば、健常メス個体(XX)との交配により、IL2RG遺伝子のヘテロ欠損のメス個体(XX*)を作出することができる(表1(A))。IL2RG遺伝子ヘテロ欠損のメス個体(XX*)を繁殖可能なIL2RG遺伝子欠損オス個体(X*YとXYのキメラ)と交配することにより、IL2RG遺伝子ホモ欠損のメス個体(X*X*、XSCIDを呈する)およびIL2RG遺伝子ヘテロ欠損のオスの個体(X*Y、XSCIDを呈する)を得ることができる(表1(B))。繁殖可能なオス個体の精子を保存することにより健常メス個体を利用したXSCIDブタの繁殖をより効率的に行うことができる。

【0041】
【表1】
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【0042】
また、表1で示される遺伝子型の個体の体細胞を用いることにより、体細胞核移植(SCNT)後に生きた子孫動物を発生させることもできる。本発明において、本発明者らは、ブタの初代培養細胞における内在性遺伝子を、Zincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)をコードするmRNAを使用してノックアウトすることができることを見出した。それにより体細胞クローニングにより、遺伝子ノックアウトブタの効率的な作出が可能になる。
【実施例】
【0043】
本件発明に関連するすべての動物実験は、明治大学のInstitutional Animal Care and Use Committeeにより承認を受けた(IACUC10-0004)。すべての化学物質は、それ以外の明示をしない限り、Sigma-Aldrich Chemical Co.(MO, USA)から購入した。
【実施例】
【0044】
実施例1:Zincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の設計
本実施例においては、ブタの細胞において遺伝子のノックアウト(KO)に使用することができるZincフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の設計を行った。
【実施例】
【0045】
ブタIL2RG遺伝子用の特注のZFNプラスミドを、Toolgen Inc.から取得した。これらのZFNの設計および有効性は、Toolgen Inc.(Seoul, South Korea)により行われた。ヒト、マウス、およびラットのIL2RGと同様に、ブタのIL2RGは、X染色体上で見出され、そして8つのエクソンから構成される。この研究において、本発明者らは、ブタのIL2RGのエクソン1を標的とするZFNを構築した。構築されたそれぞれのZFNは、12塩基を認識する4箇所のZincフィンガードメインを有した(図2A)。図2Aにおいて、コード領域および非翻訳領域は、それぞれ灰色および白の箱囲みで示される。ZFNは、ヌクレアーゼドメイン(Fok I)およびDNA結合ドメイン(Zincフィンガータンパク質)からなり、そしてZincフィンガータンパク質の認識配列に下線を引いた。そして、このZFNのペア(右および左)は、それぞれ4つのZincフィンガータンパク質を含み、そして右側のZFNおよび左側のZFNの両方であわせて24 bpの標的配列を認識する(図2A)。
【実施例】
【0046】
ZFNをコードするmRNAの作製のために、ZFNプラスミドのぞれぞれを、制限酵素Xho Iを用いて消化した。直鎖化したプラスミドを、次に、フェノール/クロロホルムを用いて精製し、in vitro転写のための高品質のDNA鋳型を生成した。キャップ化したZFN mRNAを、MessageMAX T7 ARCA-キャップ化メッセージ転写キット(Cambio, Cambridge, UK)を使用して、in vitro転写を介して、線状DNAテンプレートから作製した。次に、ポリ(A)ポリメラーゼテイリングキット(Cambio)を使用するポリアデニル化により、それぞれのmRNAに対してポリ(A)テールを付加した。ポリ(A)-テール付加されたZFNをコードするmRNAを、次いで、MEGAclearキット(Life Technologies, CA, USA)を用いるスピンカラムを使用し、そして最終的に400 ng/μlのRNase-不含水に再懸濁することにより、精製した。
【実施例】
【0047】
実施例2:IL2RG遺伝子ノックアウト細胞の作製
本実施例においては、実施例1で作製したZFNのmRNAを使用して、図2Bに示されるフローチャートにしたがって、ブタのIL2RGノックアウト細胞を作製した。
【実施例】
【0048】
IL2RG遺伝子ノックアウト細胞を作製するための前駆株として、ブタの胎仔線維芽細胞(オス系)の初代培養を使用した。線維芽細胞およびその誘導体(ノックアウト細胞)を、I型コラーゲン-コートされたディッシュまたはプレート(Asahi Glass, Tokyo, Japan)上に播き、そして15%FBS(Nichirei Bioscience, Tokyo, Japan)および1×抗生物質溶液(Life Technologies)を添加したMEMα(Life Technologies)中、5%CO2を含む湿潤雰囲気中、37℃にて培養した。
【実施例】
【0049】
胎仔線維芽細胞を、70~90%コンフルエントにまで培養し、D-PBS(-)(Life Technologies)を使用して2回洗浄し、そして0.05%トリプシン-EDTA(Life Technologies)を用いて処置し、細胞を単離・回収した。その後、細胞(4×105)を再懸濁し、40μlのRバッファー(Neon Transfection System, Life Technologiesの一部として供給される)、そして2μlのZFNをコードするmRNA溶液(400 ng/μl)を添加した。その後、細胞を、以下の条件:パルス電圧、1,100 V;パルス幅、30 ms;およびパルス数、1(プログラム#6);でエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの後、細胞を、抗生物質を含まない上述した培養液中24時間、その後抗生物質を含む培養液中で、32℃にて3日間培養した(一過性冷ショック)。
【実施例】
【0050】
mRNAの導入後、そして一過性の冷却ショック処理の後、目に見えるような形態学的異常は、胎仔線維芽細胞において検出されなかった。一過性冷ショック処理の後、回復のために、細胞を、コンフルエントに達するまで37℃で培養し、その後限界希釈を行い、5枚の96-ウェルプレート中で192個の単一細胞由来クローンを得た。限界希釈後12日目に、それぞれのウェル中で相対的に高いコンフルエント(>50%)の細胞を選択し、そしていくつかに分取してさらなる培養および変異解析のために使用した。一方、限界希釈の後、低コンフルエントでの(約50%)細胞は、さらなる実験のためには使用しなかった。
【実施例】
【0051】
得られた192個の単一細胞由来細胞株のうち、ZFN誘導性変異を有する細胞株が1つ確立され(1/192、0.5%)、そしてこの細胞株(#98、図2B)を体細胞核移植(SCNT)用の核ドナーとして使用した。野生型IL2RGの開始コドン領域(SEQ ID NO: 1)との比較に基づくDNA配列解析から、これらの細胞が3-bpの置換およびブタのIL2RGの主要な転写開始点および開始コドン(ATG)にまたがる86-bpの欠失を有することが示され(図2C、SEQ ID NO: 2)、この変異がIL2RG機能を破壊することが示された。図2Cにおいて、上側配列および下側配列は、それぞれ、IL2RGのWT配列およびクローン#98の配列を示す。クローン#98における欠失変異およびヌクレオチド置換は、それぞれ、ハイフンおよび黒四角で示している。IL2RGの開始コドンは、点線箱囲みで示される。ZFN結合部位およびZFN切断部位は、それぞれ、二重下線および箱囲みで示される。主要な転写開始部位は、○で示される。3週間培養することにより、十分な数のノックアウト細胞を、体細胞核移植(SCNT)用に調製した。
【実施例】
【0052】
実施例3:IL2RGノックアウトクローンブタの作出
本実施例においては、実施例2において作製したブタのIL2RGノックアウト細胞を核ドナー細胞として用いて、ブタノックアウトクローン化胎仔を作製し、そのブタノックアウトクローン化胎仔におけるZFN-誘導性の変異の解析を行った。
【実施例】
【0053】
体細胞核移植(SCNT)は、以下の様に行った。第一極体を含有するin vitroで成熟させた卵母細胞を、0.1μg/mlデメコルシン、5μg/mlサイトカラシンB(CB)、および10%FBSの存在下で10 mM HEPES、0.3%(w/v)ポリビニルピロリドン(PVP)を含有するTyrodeラクトース培地中で、先端面取りをしたピペットを使用して、極体およびそのそばの細胞質を、穏やかに吸引することにより脱核させた。
【実施例】
【0054】
2日間の血清飢餓による細胞周期同期の後、線維芽細胞(クローン#98)を核ドナーとして使用した。単一ドナー細胞を、脱核卵母細胞の囲卵腔中に挿入した。ドナー細胞-卵母細胞複合体を、0.15 mM MgSO4、0.01%(w/v)PVA、および0.5 mM HEPESを含有する280 mMマンニトール(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)(pH 7.2)溶液中に配置し、そして2本の電極ニードルの間に保持した。単一の直流電流(DC)パルス(273 V/mm, 20 μs)および4 Vのパルス前-およびパルス後-交流電流(AC)場を1 MHzにて5秒間、印加することにより、体細胞ハイブリダイザー(LF201; NEPA GENE, Chiba, Japan)を用いて膜融合を誘導した。
【実施例】
【0055】
IL2RGノックアウト細胞により再構成させた体細胞核移植(SCNT)胚の発生能を、in vitroで調べた。2回複製で行った実験で作出された403個の体細胞核移植(SCNT)胚のうち、237個(58.8%)が胚盤胞に発生した(表2)。この胚盤胞形成率は、本発明者等の以前の研究(Matsunari H, et al. . (2012) In: Miyagawa S, editor, Xenotransplantation. Rijeka, Croatia: InTech. pp. 37-54)において報告された胚盤胞形成率と同等であった。
【実施例】
【0056】
次に、再構成した胚を、4 mg/ml BSAを添加したPZM5培地中で1~1.5時間培養し、その後電気的に活性化した。電気的活性化の誘導では、再構成した胚を、280 mMマンニトール、0.05 mM CaCl2、0.1 mM MgSO4、および0.01%(w/v)PVAから成る活性化溶液で満たした融合チャンバスライドの2本のワイヤ電極(1.0 mmの距離)の間に配置した。単一の150 V/mmのDCパルスを、パルスジェネレータ装置(Multiporator; Eppendorf, Hamburg, Germany)を使用して、100μsのあいだ印加した。
【実施例】
【0057】
活性化の後、再構成した胚を、5μg/mlのCBおよび500 nM Scriptaidを添加したPZM5中に3時間移した。胚を500 nM Scriptaidを添加したPZM5中に移し、さらに12~14時間のあいだ培養した。インキュベーションの後、胚をPZM5中でさらに培養し、そしてディッシュを5%CO2および90%N2の湿潤雰囲気下、38.5℃にて維持した。桑実胚期を越えて、10%FBSを添加したPZM5中で、胚を培養した。
【実施例】
【0058】
【表2】
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【実施例】
【0059】
次に、体細胞核移植(SCNT)により得られた199個の胚盤胞(図3A)を、交雑種の未成熟メスブタ(Large White/Landrace×Duroc)、体重100~105 kg、を、体細胞核移植(SCNT)胚のレシピエントとして使用して、妊娠させた。2頭のレシピエントメスブタに対しては、1,000 IUのeCG(ASKA Pharmaceutical Co., Ltd., Tokyo, Japan)の単回筋肉内注射により、発情期を誘導した。eCGの注射後66時間後に、1,500 IUのhCG(Kyoritsu Seiyaku Corporation, Tokyo, Japan)の筋肉内注射を行うことにより、排卵を誘導し、発情期を同期させた(P177およびP178;表2)。5~6日間培養した体細胞核移植(SCNT)胚を、hCG注射のおよそ146時間後に、レシピエントの卵管に外科的に移植した。
【実施例】
【0060】
妊娠は、両方のメスブタとも、妊娠39日目に確認した。XSCID動物の誕生後の日和見感染は、コンベンショナルな飼育環境下では避けられないことである。したがって、満期産の4頭のオスのIL2RGノックアウトクローンブタ胎仔を、妊娠113日目に、1頭のレシピエントメスブタ(P177)から帝王切開により得た(図3B)。4頭の子ブタの体重および体長は、それぞれ、0.56~1.16 kgの範囲、および22~28 cmの範囲であった。もう一頭のレシピエントメスブタ(P178)は、妊娠46日目に流産した。
【実施例】
【0061】
実施例4:IL2RGノックアウトクローンブタの解析
本実施例においては、実施例3において作出したIL2RGノックアウトクローンブタのマクロ的またはミクロ的な性質に関して解析した結果を示す。
【実施例】
【0062】
(4-1)遺伝子解析
まず、IL2RGノックアウトクローンブタが遺伝子的に目的としたものとして作出されているかをPCR遺伝子型決定およびDNA配列解析により調べた。IL2RG-ZFNの標的領域を、MightyAmp DNAポリメラーゼ(Takara Bio, Shiga, Japan)および対応するプライマー(5'-ATAGTGGTGT CAGTGTGATT GAGC(SEQ ID NO: 3)および5'-TACGAACTGA CTTATGACTT ACC(SEQ ID NO: 4))を使用して、細胞クローンからの直接PCRにより増幅した。
【実施例】
【0063】
次いで、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(Takara Bio)および適切なプライマー(5'-ATACCCAGCT TTCGTCTCTG C(SEQ ID NO: 5)および5'-TTCCAGAATT CTATACGACC(SEQ ID NO: 6))を使用して、ネスト化PCRを行った。次に、ZFN標的領域を含むPCRフラグメントを、配列決定プライマー5'-AGCCTGTGTC ATAGCATAC(SEQ ID NO: 7)、BigDye Terminator Cycle シークエンシングキット、およびABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Life Technologies)を使用して、調べた。クローン化胎仔における変異の解析を行うため、DNeasy Tissue and Blood Kit(QIAGEN, Hilden, Germany)を使用して、胎仔の尾バイオプシーからゲノムDNAを抽出し、次いでPCR遺伝子型決定およびDNAシークエンシングを上述したように行った。全ての新たな配列データは、DDBJ/EMBL/GenBankに登録済みである(AB846644-AB846648)。
【実施例】
【0064】
得られた4匹のクローンブタについてのPCR遺伝子型決定の結果(図3C;M:DNAマーカー)およびクローンブタにおけるIL2RGのDNA配列解析の結果(図3D)をそれぞれ示した。4頭のクローンブタのPCR遺伝子型決定およびDNA配列解析により、4頭全てのブタが核ドナー細胞と同一の変異(3-bpの置換およびおよび86-bpの欠失;図3Cおよび図3D)を有することが示された。図3Dにおいて、矢印および箱囲みは、核ドナー細胞(クローン#98)の変異と同一の変異を示す。
【実施例】
【0065】
(4-2)タンパク質解析
次に、IL2RGノックアウトクローンブタが遺伝子発現上の観点から目的としたものとして作出されているかをウェスタンブロット解析により調べた。IL2RGノックアウトブタおよび年齢を合わせたWTブタを犠死させた後、切り出した脾臓を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)を含むRIPAバッファー(Thermo Scientific, MA, USA)中でホモジナイズし、そして遠心分離にかけ、そして上清を回収した。ローリー法に基づくDCタンパク質アッセイ(Bio-Rad, CA, USA)を使用して、サンプルのタンパク質濃度を定量した。脾臓抽出物由来のおよそ40μgのタンパク質を、10%SDS-PAGEにかけ、そして電気ブロッティングによりHybond-P PVDFメンブレン(GE Healthcare Bio-Sciences, NJ, USA)に転写した。
【実施例】
【0066】
メンブレンを室温にて30分間、Blocking One(Nacalai Tesque)を用いてブロッキングした。ブロッキングした後、抗-IL2RG抗体(1:200希釈;Santa Cruz Biotechnology, CA, USA)により室温にて1時間、インキュベーションし、そしてHRP-複合化抗-ウサギIgG抗体(1:5,000希釈;Santa Cruz Biotechnology)により室温にて1時間、メンブレンをインキュベーションした。ブロットを、ECL Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare Bio-Sciences)を使用して発色させた。シグナルは、ImageQuant LAS-4000システム(GE Healthcare Bio-Sciences)を用いて検出し、そして画像化した。泳動対照として、β-アクチンを使用した。
【実施例】
【0067】
IL2RGノックアウトブタの脾臓におけるIL2RGタンパク質のウェスタンブロットの結果を示す(図3E;M:タンパク質標準マーカー)。このウェスタンブロット解析により、4頭全てのブタがIL2RGタンパク質を欠失していることがさらに示された(図3E)。
【実施例】
【0068】
(4-3)組織学的解析
IL2RGノックアウトブタおよび齢を合わせたWTブタを犠死させた後、全体的な解剖学的解析に供した。その肉眼的解析からから、4頭全てのIL2RGノックアウトブタとも、胸腺を完全に欠損していることが示された(図4A、図4B)。図4Aにおいて、白い矢頭はWTブタにおける正常胸腺を示す。
【実施例】
【0069】
次に、犠死させた動物から取り出した脾臓を、10%中性緩衝ホルマリン溶液(Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)中で固定し、パラフィン中に包埋し、切片を作製し、そして標準的な方法でヘマトキシリン-エオジンで染色した。
【実施例】
【0070】
脾臓の組織学的解析の顕微鏡像を図4Cおよび図4Dに示す。これらの図において、WTブタおよびIL2RGノックアウトブタの脾臓の組織学的解析を行った。脾臓の白髄が、点線の白丸により示される(Bar=100μm)。野生型(WT)ブタにおいては、末梢リンパ鞘組織(PALS)の白髄におけるリンパ球の存在が明確に示された(図4C)、一方IL2RGノックアウトブタでは、PALS中に非常に僅かかまたは全くリンパ球が存在しないことが示された(図4D)。赤脾髄における胚血液生成は、WTブタおよびIL2RGノックアウトブタの両方共において強力であった(データは示さず)。WTブタおよびIL2RGノックアウトブタの末梢血(PB)中のリンパ球集団のカウントは、4頭のブタについての平均±SD値として、それぞれWTブタにおいて15.7±2.2×102/μlおよびIL2RGノックアウトブタにおいて6.5±3.0×102/μlであり、このことから、IL2RGノックアウトブタにおいてリンパ球数が顕著に減少したことが示され、WTブタについての値とIL2RGノックアウトブタについての値(n=4)との間で、統計的に有意差があることを示す(*P<0.01;図4E)。【0071】
(4-4)細胞学的解析
さらに、フローサイトメトリー解析を使用して、末梢血単核細胞の細胞組成を解析した。
【実施例】
【0072】
末梢血単核細胞を、赤血球溶解溶液PharmLyse(Becton Dickinson, 以下BDと略す, NJ, USA)を使用してIL2RGノックアウトブタの全血および脾臓から採取し、そして1×106個の細胞を、マウス抗-ブタCD3e(Abcam, Cambridge, UK)、CD4a抗体(BD)、CD8a抗体(BD)、CD16抗体(AbDSerotec, NC, USA)、CD45RA抗体(AbDSerotec)、および単球および顆粒球抗体(M/G, Abcam)と共に30分間室温でインキュベーションした。
【実施例】
【0073】
インキュベーションの後、細胞懸濁液を洗浄し、そして1%FBS(w/v)を添加したPBS(-)により再懸濁した。IL2RG-ノックアウトブタの末梢血および脾臓から単離された細胞集団を、488-nmアルゴンレーザーを備えたFACSCaliburフローサイトメーター(BD)を使用して評価した。細胞のデブリおよび凝集物を、二変数前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)パラメータを使用して、除去した。
【実施例】
【0074】
全ての解析において、事実上のリンパ球集団を取り出し、そしてサンプル当たりゲートを通過した1×104個の事象を取得し、そしてCELLQuest Proソフトウェア(BD)を使用して解析した。
【実施例】
【0075】
IL2RGノックアウトブタの末梢血におけるT細胞、B細胞、およびNK細胞のフローサイトメトリー解析を図5Aに示す。この結果から、IL2RGノックアウトブタにおけるCD3+ T細胞の数(0.3%±0.1%)が、WTブタ(74.0%±10.2%)と比較して大幅に低いことが示された(P<0.0001)(図5A)。
【実施例】
【0076】
さらに、IL2RGノックアウトブタは、CD3+CD4+ T細胞およびCD3+CD8+ T細胞を欠損していることも明らかになった。IL2RGノックアウトブタにおけるB細胞集団(CD3-およびCD45RA+)は、WTブタにおけるB細胞集団と同様であったことが観察されたが、NK細胞の数(単球/顆粒球-、CD3-、およびCD16+)は、WTブタと比較して、IL2RGノックアウトブタにおいて顕著に低下した(IL2RGノックアウト、0.9%±0.2% vs. WT、8.1±4.5%;P=0.004)。
【実施例】
【0077】
末梢血中で見られるように、脾臓T細胞の数(IL2RGノックアウト、0.2%±0.1% vs. WT、28.1%±10.9%;P<0.0001)およびNK細胞の数(IL2RGノックアウト、0.8%±0.3% vs. WT、3.9%±0.8%;P=0.0001)は、IL2RGノックアウトブタにおいて顕著に減少した(図5B)。このように、IL2RGノックアウトブタにおいては、T細胞およびNK細胞のほとんど完全な欠損が見られ、この減少は、ヒトXSCID患者の場合と同様であった。
【実施例】
【0078】
ドットプロットは、T細胞亜集団の境界線についてCD3細胞、CD4細胞、およびCD8細胞を、そして末梢血中のT細胞、B細胞、およびNK細胞亜集団の分化についてCD3細胞、CD45RA細胞、およびCD16細胞(非-骨髄性画分中、すなわち、単球/顆粒球(M/G)-陰性)を、それぞれ示す。(図5B)IL2RGノックアウトブタの脾臓における単核細胞の中のT細胞(CD3+)およびNK細胞(M/G-、CD3-、CD16+)の集団。データは、4頭の得られたブタの平均±SD値を示す。
【実施例】
【0079】
実施例5: 繁殖可能なIL2RGノックアウトブタ(オス)の作出へ向けた胚盤胞補完(1)
本実施例においては、実施例3において作製したノックアウトブタの繁殖可能性に付いて検討を行った。
【実施例】
【0080】
実施例3にて作出したIL2RGノックアウトブタ(オス)は、実施例4で示すとおり免疫不全の表現型を示す。従って、娩出後は日和見感染等の要因により死亡し、通常環境の飼育では繁殖に利用することはできない。そこで、すでにブタにおいて原理が証明されている胚盤胞補完法を用いて(Matsunari et al., PNAS, 4557-4562, 2013;Nakano et al. PLoS One, e61900, 2013)、IL2RGノックアウトブタの表現型を補完し、繁殖可能なIL2RGノックアウトブタの作出を試みた。
【実施例】
【0081】
IL2RGノックアウト細胞由来のクローン胚(これをホスト胚とする)に対し、健常ブタの細胞で作成したクローン胚(これをドナー胚とする)を用いて、胚盤胞補完処理を施した。胚盤胞補完のためにキメラ胚の作製は基本的には松成ら(Matsunari et al., PNAS, 4557-4562, 2013)による注入法、中野らによる凝集法(Nakano et al. PLoS One, e61900, 2013)を基に作出した。いずれの場合においても、ドナー胚の細胞中で、ヒト化Kusabira-Orange(huKO)蛍光タンパク質を発現させた。
【実施例】
【0082】
注入法において、ドナー胚(huKO標識されたもの)は、健常メスブタの細胞から取り出した核を除核未受精卵に体細胞核移植技術により導入することにより作出し、この核移植胚(ドナー胚、day 4、桑実胚期)を0.1 mM EDTA-2Na(Ca2+/Mg2+不含PBS、0.01%ポリビニルアルコール添加)にて細胞を分散させ、0.25%プロナーゼ溶液で透明体を消化した。ドナー胚由来の割球は、ガラスキャピラリーを用い穏やかにピペッティングにより胚から得た。ホスト胚は、実施例3にて作出したIL2RGノックアウトブタ(オス)の細胞を核供給源として使用して、その核を除核未受精卵に体細胞核移植技術により導入することにより作出した。約10個のドナー(割球)をマイクロマニピュレーションによりホスト胚の中心へインジェクションした。ホスト細胞とドナー細胞とが混在するキメラ胚盤胞を得るために、インジェクトした胚を48時間in vitroで培養した。
【実施例】
【0083】
一方、凝集法においては、ドナー胚、ホスト胚ともにDay 4(桑実胚期)の核移植胚として作製し、これらをそれぞれEDTA-2Naで分散させ、プロナーゼ処理により、透明帯を消化した。ガラスキャピラリーを用いて穏やかにピペッティングすることで割球を分離した。ドナー胚由来の細胞、ホスト胚由来の細胞ともに、胚1つ分の割球をマイクロウェルに投入しすることにより凝集胚を作製した。その後、凝集胚は24時間培養し、胚盤胞に発生させた。
【実施例】
【0084】
胚盤胞期に発達したキメラ胚盤胞124個を2頭のレシピエント雌の子宮内に移植した結果、2頭が妊娠し、分娩に至った。合計6頭の産仔が得られ、そのうちPCR法を用いた遺伝子解析、蛍光観察により1頭の死産仔がキメラ個体であった。このキメラ個体の剖検の結果、胸腺が正常に形成されていることが確認された。この結果は、IL2RGノックアウトブタでは形成不全となっている胸腺が、胚盤胞補完処理によって復活したことを示す。また、臓器や生殖器官の異常も観察されなかった。以上のことから、今回得られた個体は死産であったが、生存し得た場合には、正常な繁殖能力を有する雄に成長し得ると考えられる。本実施例は死産のデータではあるものの、原理的には胸腺の復活(胚盤胞補完)を証明しており、繁殖可能なIL2RGノックアウトブタ(オス)の作出の可能性を示している。
【実施例】
【0085】
実施例6:繁殖可能なIL2RGノックアウトブタ(オス)の作出へ向けた胚盤胞補完(2)
本実施例においては、実施例5において示したヒト化Kusabira-Orange(huKO)蛍光タンパク質を発現させたブタのキメラ胚を用いた胚盤胞補完に引き続き、実施例3において作製したノックアウトブタの繁殖可能性について更なる検討を行った。
【実施例】
【0086】
具体的には、IL2RGノックアウト細胞由来のクローン胚(ホスト、オス)に対して、毛色が黒色の野生型ブタの細胞で作製したクローン胚(ドナー、メス)を用いた点以外は、実施例5において説明をした胚盤胞補完処理の注入法にしたがって行った。
【実施例】
【0087】
キメラの判定は、実施例5における蛍光タンパク質によるキメラ判定とは異なり、毛色が黒色のドナーを用いることにより、出生後に性別と毛色によりキメラの判定が可能になる様に、実験を設計した。
【実施例】
【0088】
2頭のレシピエントメスブタ(M107個体およびM108個体)の子宮内に、胚盤胞期に発達したキメラ胚盤胞各62個(計124個)を移植した。この結果、1頭のメスブタ(M107個体)が妊娠をし、分娩に至った。このメスブタからは、合計6頭の産仔(全頭がオス個体)が得られ、そのうち、性別と毛色(野生型ブタの黒色の毛色と、ノックアウトブタの茶色の毛色のキメラである場合、茶色の毛と黒色の毛)が混ざったような毛色になることによる判定およびPCR法を用いた遺伝子解析により、6頭中2頭の産仔がキメラ個体(M107-1個体、M107-3個体)であることが明らかになった。これらの動物は、生殖器官に付いてはオス(すなわち、IL2RGノックアウト細胞由来のホスト胚由来)であり、順調に生育することから胸腺などの免疫器官は正常(すなわち、健常ブタ由来)であることが推測される。このことから、これらのキメラ産仔個体が、繁殖可能なSCIDブタであることが明らかになった。これらの2頭のキメラ産仔は、離乳期を超えても1.5ヶ月の段階まで体重を増加しつつ順調に生育しており、2.5ヶ月経過後も生存している。
【実施例】
【0089】
これに対して、6頭のうちの非キメラであった4頭(SCIDブタ)は、いずれも生後0~12日で死亡した。
【実施例】
【0090】
【表3】
JP2015155904A1_000004t.gif
【実施例】
【0091】
この実施例において示されるように、通常の飼育環境下においては、SCIDブタは生後間もなく死亡してしまうことが示された。一方、キメラ産仔の場合には、順調に体重が増加し(図6を参照)、出生から2.5ヶ月を経過しても生存している。
【実施例】
【0092】
このようなキメラ胚由来の産仔個体は、依然として生存中、生育中であることから、剖検の対象とすることができないため、胸腺が存在しているかどうかを実際に確認することはできない。しかしながら、これらの個体から血液を採取して、末梢血中の免疫系細胞の構成を確認することはできる。その結果、IL2RGノックアウトブタ (SCID)ではT細胞とNK細胞がほとんど存在しないのに対し、SCIDキメラ胚由来産仔ではT細胞とNK細胞が存在することが示された(表4を参照)。
【実施例】
【0093】
【表4】
JP2015155904A1_000005t.gif
【実施例】
【0094】
これらの結果から、これらの個体が順調に成長し、胚盤胞補完が成功していることが示されており、繁殖可能なIL2RGノックアウトブタ(オス)個体の作出が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
遺伝子ノックアウトの方法として知られていた相同組換え法やZFNプラスミドDNA法の場合には、ゲノム中の意図しない部位にターゲティングベクターが組み込まれる危険性が存在していたが、本発明の方法により、ZFNをコードするmRNAを使用することにより、ゲノム中に外来性のDNAを挿入することなく、遺伝子ノックアウト細胞を作製することができ、安全性の高い遺伝子ノックアウト法を開発することに成功した。また、本発明の方法では、遺伝子ノックアウト細胞を比較的短期間に作製することができることから、遺伝子ノックアウト動物を作出するまでの時間を大幅に短縮することができた。
【0096】
また、具体的な態様として作出したXSCIDブタは、T細胞、B細胞に加えて、腫瘍細胞や移植細胞に対する免疫機能に重要な働きを持つナチュラルキラー(NK)細胞を欠損しているが、XSCIDブタは、身体のサイズがヒトと類似しており、生理学的にもヒトと非常によく似ていることから、ヒトの様々な疾患モデルとしてがん研究、幹細胞移植研究、創薬研究などに幅広く利用されるモデル動物となるだけでなく、人工臓器製造のためのベースの動物として活用が可能になると考えられる。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5