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明細書 :固形物体を運動させる方法及び装置、及び、送液ポンプ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 固形物体を運動させる方法及び装置、及び、送液ポンプ
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
B01J  19/08        (2006.01)
B81B   5/00        (2006.01)
F04D  33/00        (2006.01)
F04D  35/00        (2006.01)
FI B01J 19/00 321
B01J 19/08 J
B81B 5/00
F04D 33/00
F04D 35/00
国際予備審査の請求
全頁数 26
出願番号 特願2016-514922 (P2016-514922)
国際出願番号 PCT/JP2015/061985
国際公開番号 WO2015/163283
国際出願日 平成27年4月20日(2015.4.20)
国際公開日 平成27年10月29日(2015.10.29)
優先権出願番号 2014089195
優先日 平成26年4月23日(2014.4.23)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】山本 大吾
【氏名】塩井 章久
【氏名】吉川 研一
【氏名】山本 亮太
【氏名】田中 政輝
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3C081
3H130
4G075
Fターム 3C081AA13
3C081BA25
3C081BA51
3C081BA53
3C081DA27
3C081DA30
3C081DA31
3C081EA32
3H130AA02
3H130AB30
3H130AB41
3H130AB57
3H130AC18
3H130BA97G
3H130BA97H
3H130DD00X
3H130DF01X
4G075AA27
4G075AA39
4G075AA61
4G075BB10
4G075BD01
4G075CA14
4G075DA02
4G075EB50
4G075EC21
4G075EE04
4G075FB02
4G075FB06
要約 複数の電極により電場を発生させて固形物体を運動させるにあたり、固形物体の運動モードを多様にする。本発明は、複数の棒状の電極を、該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、複数の電極によって固形物体を含む絶縁性流体中に電場を発生させて該固形物体を運動させる方法である。本発明に係る方法は、電場により発生する固形物体の運動モードを、少なくとも固形物体の形状によって制御する工程を含む。
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の棒状の電極を、該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、
前記複数の電極によって固形物体を含む絶縁性流体中に電場を発生させて、前記固形物体を運動させる方法であって、
前記電場により発生する前記固形物体の運動モードを、少なくとも前記固形物体の形状によって制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電場により発生する前記固形物体の運動モードを、前記固形物体の形状及び前記複数の電極への印加電圧によって制御することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電場により前記固形物体を自転運動させるにあたり、
自転運動の回転方向を、前記固形物体の形状によって決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁性流体に界面活性剤を加える工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記絶縁性流体はオイルであり、
前記絶縁性流体に水をさらに加えて、前記絶縁性流体中にW/Oエマルションを形成する工程を含み、
前記電場の発生時に前記絶縁性流体中に対流が生じるようにすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
電場を発生させて絶縁性流体中で固形物体を運動させる方法であって、
前記固形物体の形状を予め選定しておき、複数の棒状の電極を、該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、前記複数の電極によって前記固形物体を含む前記絶縁性流体中に電場を発生させて、前記固形物体を自転運動させることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記固形物体の自転運動の自転速度を前記複数の電極への印加電圧に基づいて制御することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固形物体の自転運動によって前記絶縁性流体の流動を生じさせることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記固形物体は、複数の固形物体が凝集したものからなることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記固形物体は、3つの球形状の固形物体が凝集したものからなり、全体として略三角形状であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固形物体は、長軸及び該長軸より短い短軸が規定され、かつ対称性を有する形状であることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記固形物体は、中心部と、該中心部の周囲から突出する少なくとも1つの羽根部とを有することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
絶縁性流体中で回転運動する固形物体を有する装置であって、
互いの軸が同一直線上にならないように配置された複数の棒状の電極と、
前記複数の電極に電圧を印加する電源と、
前記複数の電極への印加電圧を制御して、前記絶縁性流体中での前記固形物体の運動を、運動停止または公転運動の少なくともいずれか一方と、自転運動との間で切り替える運動制御ユニットと、を備えることを特徴とする装置。
【請求項14】
前記運動制御ユニットは、第1電圧より低い電圧を印加するまたは電圧を印加しないことにより前記固形物体を運動停止させ、前記第1電圧以上で第2電圧以下の電圧を印加することで前記固形物体を自転運動させ、前記第2電圧より高い電圧を印加することにより前記固形物体を公転運動させることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記運動制御ユニットは、前記印加電圧を前記第1電圧から前記第2電圧の範囲内で制御して自転運動の運動速度を制御することを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記固形物体は、複数の固形物体が凝集したものからなることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記固形物体は、3つの球形状の固形物体が凝集したものからなり、全体として略三角形状であることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記固形物体は、長軸及び該長軸より短い短軸が規定され、かつ対称性を有する形状であることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記固形物体は、中心部と、該中心部の周囲から突出する少なくとも1つの羽根部とを有することを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
請求項13から請求項19のいずれか1項に記載の装置を備え、液体を輸送する送液ポンプであって、
液体からなる前記絶縁性流体が流れるための流体流路をさらに備え、
前記各電極の少なくとも先端は前記流体流路内に配置され、
前記固形物体は、前記流体流路内に配置され、前記電源及び前記複数の電極により発生する電場によって自転運動し、該自転運動によって前記絶縁性流体の流動を生じさせて前記絶縁性流体を所定の方向へ輸送する、
ことを特徴とする送液ポンプ。
【請求項21】
前記運動制御ユニットは、前記印加電圧に基づいて自転速度を制御することで前記流体の輸送量を制御することを特徴とする請求項20に記載の送液ポンプ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電場によってマイクロサイズの固形物体を運動させるにあたり、少なくとも固形物体の形状よって運動モードを制御する方法及び装置に関する。また、本発明は、マイクロサイズの固形物体を自転運動させる方法及び装置に関する。また、本発明は、電場によるマイクロサイズの固形物体の自転運動を利用して液体を輸送する送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロサイズの機械やロボットを開発するにあたり、その動力源となるモーターの小型化が要求されている。ミクロな環境は、慣性力と粘性力との比で定義されるレイノルズ数が低く、低レイノルズ数領域と呼ばれており、物体の運動は慣性でなく粘性に支配される。そのため、従来のモーターをそのままスケールダウンしただけでは、パーツ間の粘性摩擦によってエネルギーが散逸してしまい、力学的仕事を効率的に取り出すことができない。
【0003】
この問題に対して、本発明の共同発明者の吉川研一らは、低レイノルズ数領域において、マイクロサイズの誘電体を電場によって運動させることで力学的仕事を取り出すという新規な方法を発明している(特許文献1)。当該方法は、具体的には、一対の電極を該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、水滴(誘電体)を油(絶縁性流体)中に浮遊させるとともに一対の電極間に配置し、そして、一対の電極によって電場を発生させることで実施される。それによって、水滴が油中で2次元の周期的な運動をし、当該運動から力学的仕事が取り出される。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開WO2010/095724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水滴は油中では球形状に維持されてしまうので、それ以外の形状を選択する余地がなかった。そのため、水滴の運動モードは電場のみに依存して決定し、公転型の周期運動だけしかなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、固形物体の形状及び電場の制御によって多様な運動モードを実現することを課題とする。また、本発明は、固形物体を自転運動させることを課題とする。また、本発明は、固形物体の自転運動によって液体を輸送する送液ポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは検討を進めた結果、運動させる対象として、形状を制御可能な固形物体を用い、固形物体の形状を全体として非球形状にしても、周期的な運動が発生することを見出た。発明者らは、固形物体の形状によって発生する運動モードが変化することを見出した。発明者らは、固形物体の形状を予め選定しておくことで、従来実現できなかった、モーターやポンプへの応用に適した自転運動が発生することを見出し、しかもその自転運動によって液体を輸送できることを見出した。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る方法は、(1)複数の棒状の電極を、該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、前記複数の電極により固形物体を含む絶縁性流体中に電場を発生させて、前記固形物体を運動させる方法であって、
前記電場により発生する前記固形物体の運動モードを、少なくとも前記固形物体の形状によって制御する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
上記(1)の方法において、(2)前記電場により発生する前記固形物体の運動モードを、前記固形物体の形状及び前記複数の電極への印加電圧によって制御する。
上記(1)の方法において、(3)前記電場により前記固形物体を自転運動させるにあたり、自転運動の回転方向を、前記固形物体の形状によって決定する。
上記(1)の方法において、(4)前記絶縁性流体に界面活性剤を加える工程を含む。
上記(4)の方法において、(5)前記絶縁性流体はオイルであり、前記絶縁性流体に水をさらに加えて、前記絶縁性流体中にW/Oエマルションを形成する工程を含み、前記電場の発生時に前記絶縁性流体中に対流が生じるようにする。
【0010】
さらに、本発明に係る方法は、(6)電場を発生させて絶縁性流体中で固形物体を運動させる方法であって、
前記固形物体の形状を予め選定しておき、複数の棒状の電極を、該電極の軸が互いに同一直線上に位置しないように配置し、前記複数の電極により前記固形物体を含む前記絶縁性流体中に電場を発生させて、前記固形物体を自転運動させることを特徴とする。
【0011】
上記(6)の方法において、(7)前記固形物体の自転運動の自転速度を前記複数の電極への印加電圧に基づいて制御する。
上記(6)の方法において、(8)前記固形物体の自転運動によって前記絶縁性流体の流動を生じさせる。
【0012】
上記(6)から(8)のいずれかの方法において、(9)前記固形物体は、複数の固形物体が凝集したものからなる。
上記(9)の方法において、(10)前記固形物体は、3つの球形状の固形物体が凝集したものからなり、全体として略三角形状である。
上記(6)から(8)のいずれかの方法において、(11)前記固形物体は、長軸及び該長軸より短い短軸が規定され、かつ対称性を有する形状である。
上記(6)から(8)のいずれかの方法において、(12)前記固形物体は、中心部と、該中心部の周囲から突出する少なくとも1つの羽根部を有する。
【0013】
さらに、本発明に係る装置は、(13)絶縁性流体中で回転運動する固形物体を有する装置であって、
互いの軸が同一直線上にならないように配置された複数の棒状の電極と、
前記複数の電極に電圧を印加する電源と、
前記複数の電極への印加電圧を制御して、前記絶縁性流体中での前記固形物体の運動を、運動停止または公転運動の少なくともいずれか一方と、自転運動との間で切り替える運動制御ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0014】
上記(13)の装置において、(14)前記運動制御ユニットは、第1電圧より低い電圧を印加するまたは電圧を印加しないことにより前記固形物体を運動停止させ、前記第1電圧以上で第2電圧以下の電圧を印加することで前記固形物体を自転運動させ、前記第2電圧より高い電圧を印加することにより前記固形物体を公転運動させる。
上記(14)の装置において、(15)前記運動制御ユニットは、前記印加電圧を前記第1電圧から前記第2電圧の範囲内で制御して自転運動の運動速度を制御する。
【0015】
上記(13)から(15)のいずれかの装置において、(16)前記固形物体は、複数の固形物体が凝集したものからなる。
上記(16)の装置において、(17)前記固形物体は、3つの球形状の固形物体が凝集したものからなり、全体として略三角形状である。
上記(13)から(15)のいずれかの装置において、(18)前記固形物体は、長軸及び該長軸より短い短軸が規定され、かつ対称性を有する形状である。
上記(13)から(15)のいずれかの装置において、(19)前記固形物体は、中心部と、該中心部の周囲から突出する少なくとも1つの羽根部を有する。
【0016】
さらに、本発明に係る送液ポンプは、(20)上記(13)から(19)のいずれか1項に記載の装置を備え、液体を輸送する送液ポンプであって、
液体からなる前記絶縁性流体が流れるための流体流路をさらに備え、
前記各電極の少なくとも先端は前記流体流路内に配置され、
前記固形物体は、前記流体流路内に配置され、前記電源及び前記複数の電極により発生する電場によって自転運動し、該自転運動によって前記絶縁性流体の流動を生じさせて前記絶縁性流体を所定の方向へ輸送することを特徴とする。
【0017】
上記(20)の送液ポンプにおいて、(21)前記運動制御ユニットは、前記印加電圧に基づいて自転速度を制御することで前記流体の輸送量を制御する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、運動対象が固形物体であり、油中水滴とは違い幾何学的形状を予め選定することができるので、従来よりも多様な運動モードを実現可能である。また、本発明によれば、従来実現できなかった自転運動が可能である。さらに、本発明によれば、その自転運動を利用して液体を輸送する送液ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】マイクロサイズの固形物体を運動させる装置の概念図である。
【図2】図2A~図2Cは、運動モードの印加電圧依存性を説明するための図である。
【図3】図3A~図3Cは、運動モードの形状依存性を説明するための図である。
【図4】図4A~図4Eは、固形物体の自転運動を説明するための図である。
【図5】図5A~図5Cは、固形物体の自転運動を説明するための図である。
【図6】図6A、図6Bは、固形物体の自転運動を説明するための図である。
【図7】図7Aは、実験装置の側面図、図7Bは、該実験装置の平面図である。
【図8】図8Aは、PS凝集体(PSB2個)が公転運動している様子を示す画像であり、図8Bは、PS凝集体(PSB3個)が自転運動している様子を示す画像であり、図8Cは、PS凝集体(PSB3個)がバウンド運動している様子を示す画像である。
【図9】図9Aは、PS凝集体(PSB7個)が自転運動している様子を示す画像であり、図9Bは、棒形状のPSBが公転運動している様子を示す画像である。
【図10】固形物体の自転運動によってシリコンオイルの流動が生じている様子を示す画像である。
【図11】図11A、図11Bは、運動モードの電圧依存性を示す画像である。
【図12】PS凝集体(PSB2個)における印加電圧と運動モードとの相関図である。
【図13】図13Aは、PS凝集体(PSB2個)における自転速度の印加電圧依存性を示す。図13Bは、自転速度の算出方法を説明する図である。
【図14】図14A、図14Bは、運動モードの形状依存性を示す画像である。
【図15】微分干渉ユニットで観察した絶縁性流体中の対流の様子を示す図である。
【図16】W/Oマイクロエマルションを含むシリコンオイル中でPS凝集体(PSB2個)が公転運動している様子を説明するための図である。
【図17】図17Aは、凝集体(粒子2個)の電荷のスイッチングを示し、図17Bは、凝集体(粒子2個)の周期運動のシミュレーション結果を示す。
【図18】送液ポンプの構成を概略的に示す図である。
【図19】マイクロサイズの固形物体を運動させる構成の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[固形物体を運動させる構成について]
まず、図1を参照して、マイクロサイズの固形物体を運動させる装置及び方法の一実施形態について説明する。
以下のようにして、固形物体を運動させる装置を準備する。
図1の通り、電場を発生させるために一対の電極10、11が準備される。各電極10、11は、棒状に形成されている。さらに、各電極10、11の先端は、円錐形、角錐形など鋭利な形状を有する。一対の棒状の電極10、11は、それらの先端が空間をあけて対向するように、かつそれらの軸(即ち電極10、11の基端と先端とを結ぶ軸)が互いに同一直線上に位置しないように配置される。なお、2つの電極10、11の軸は互いに平行になっているが、非平行でもよい。電極10、11に電圧を印加する直流の電源12が設けられ電極10、11に接続されている。なお、直流の電源12に代えて、交流の電源及び交流電流を直流電流に変換する電流変換ユニットが設けられてもよい。さらに、電極10、11への印加電圧を制御する運動制御ユニット(不図示)が設けられている。

【0021】
絶縁性流体13が、保持部材(不図示)に保持されて、電極10、11間の空間及び電極10、11の先端を少なくとも満たす。マイクロサイズの固形物体14が、電極10、11間に配置されて絶縁性流体13中に浮遊している。なお、絶縁性流体13には界面活性剤が加えられている。一対の電極10、11に電圧を印加すると絶縁性流体13中に電場を発生させることができる。そして、運動制御ユニットによって印加電圧を制御することで、絶縁性流体13中に発生する電場を可変とすることができる。従って、絶縁性流体13中に発生する電場を、定電場や、経時的に変化する電場とすることができる。

【0022】
上記装置において、一対の電極10、11及び電源12によって一定以上の大きさの電場を発生させると、固形物体14は絶縁性流体13中で周期運動する。また、運動制御ユニットによって印加電圧を変化させると、固形物体の周期運動は切り替わる、または固形物体14の運動速度は変化する。
この周期運動の駆動力は、固形物体14が誘電体である場合には、静電力と電場の非一様性から生じる誘電泳動力との組合せであると考えられている(特許文献1参照)。

【0023】
そして、固形物体14の運動によって、該固形物体14を輸送する、又は力学的仕事を取り出すことができる。固形物体14の輸送の応用例として、例えば、DNAなどのポリマーの両端に固形物体14を結合させ、ポリマーと固形物体14を一体的に輸送したり、又はポリマーの運動を制御したりすることなどが挙げられる。力学的仕事を取り出す方法として、例えば、回転軸及び該回転軸周りに回転可能な羽根部を有する1μm~数100μmの大きさのマイクロタービンを固形物体14が運動しうる空間に配置し、上記固形物体14の運動によってマイクロタービンを動かし、マイクロタービンから仕事を取り出す方法などが挙げられる。なお、これらは、特許文献1の記載と同様であるためその詳細な説明は省略している。

【0024】
[固形物体の運動モードの制御について]
本発明の特徴の一つは、運動対象として、全体形状を球形状だけでなく非球形状になるよう予め選定可能な固形物体14を用い、少なくとも固形物体14の形状によって運動モードを制御することにある。

【0025】
なお、発生する固形物体14の運動モードは、公転運動及び自転運動といった回転運動、バウンド運動、さらに、公転運動、自転運動、及びバウンド運動のうち2つを組み合わせた運動などの周期的な運動である。バウンド運動とは、固形物体14が電極10、11への衝突及び反発を繰り返す運動である。バウンド運動は、固形物体14が2つの電極10、11のいずれか一方だけに衝突及び反発を繰り返す運動、及び、固形物体14が電極10、11間を往復して2つの電極10、11に交互に衝突する運動を含む。

【0026】
電場の状態(即ち、電極間距離及び印加電圧)は、固形物体14の運動を決定するパラメータである。これに関しては特許文献1と同様である。特許文献1では、印加電圧を変えることによって、液滴の運動モードが、公転運動とバウンド運動とに切り替わることが見出されている。本発明のように固形物体14を用いた場合も同様であり、印加電圧を変えることで運動モードは変化する。但し、本発明によれば、特許文献1では実現できなかった自転運動が発生することが見出されており、印加電圧を制御して、自転運動と、他の運動モードまたは運動停止との切替えが可能な点で特許文献1と異なる。この印加電圧に基づく運動モードの切替えは、例えば運動制御ユニットによって行うことができる。
例えば、図2に示す通り、固形物体14が同一形状でも、電圧Vを印加すると自転運動し(図2A)、電圧Vと異なる電圧Vを印加すると公転運動し(図2B)、電圧V及び電圧Vと異なる電圧Vを印加するとバウンド運動する(図2C)といったことが可能である。

【0027】
特許文献1では、印加電圧の増加に伴い、液滴の運動速度が増加することが見出されている。本発明のように固形物体14を用いた場合も同様である。運動モードが切り替わらない範囲で印加電圧を増加させると、固形物体14の運動速度(公転速度、自転速度(角速度)、バウンド速度など)は増加する。但し、本発明によれば、自転速度の印加電圧依存性が見出されており、印加電圧を制御して自転速度を制御することができる。この印加電圧に基づく自転速度の制御は、例えば運動制御ユニットによって行うことができる。

【0028】
運動対象に固形物体14を用いた場合、その形状を、運動モードを決定するパラメータとすることができる。即ち、固形物体14の形状によって、発生可能な運動モードを決定でき、同じ電場の状態でも運動モードを変化させることができる。
例えば、図3の通り、電極間距離が同じであり、かつ印加電圧(V)が同じであっても、ある形状の固形物体14には公転運動をさせ(図3A)、別の形状の固形物体14には自転運動をさせ(図3B)、さらに別の形状の固形物体14にはバウンド運動をさせる(図3C)といったことが可能である。

【0029】
絶縁性流体13に加える界面活性剤は、固形物体14の運動に影響を与える。界面活性剤は、絶縁性流体13中での固形物体14の浮遊を補助して、固形物体14の周期運動を発生しやすくする。界面活性剤の濃度を高くすると、固形物体14の周期運動がより発生しやすく、さらに周期運動の持続性も向上する。界面活性剤の濃度が低すぎると、固形物体14の周期運動が発生しにくい。従って、界面活性剤を絶縁性流体13に加える工程を含むことが好ましい。さらに、固形物体14や絶縁性流体13の物性に応じて、界面活性剤の種類や濃度を選択することが好ましい。

【0030】
絶縁性流体13にシリコンオイル等のオイルを用い、絶縁性流体13に界面活性剤及び水を加えて、絶縁性流体13中に大量のW/Oエマルションを形成してもよい。W/Oエマルションの半径は、例えば1nm~100nmである。そして、一対の電極10、11及び電源12によって絶縁性流体13中に電場を発生させると、絶縁性流体13中に対流が生じる。この対流によって固形物体14を周期的に運動させることができる。即ち、対流を固形物体14の周期運動の駆動力とすることができる。

【0031】
このように、運動対象を固形物体14にすれば、その運動モードは電場の状態だけでなく固形物体14の形状にも依存するので、電極間距離、印加電圧、及び、固形物体14の形状の組み合せによって、運動モードを制御することが可能である。さらに、分散媒(即ち、絶縁性流体13、界面活性剤、水)の調整をさらに組み合わせて、運動モードを制御することも可能である。

【0032】
さらに、本発明の特徴の一つは、上記のように固形物体14を運動させるにあたり従来実現できなかった自転運動を可能にし、その自転運動から力学的仕事を取り出せることにある。固形物体14の形状を、図4~図6に例示されるように形成すれば、自転運動を発生させやすく、かつ固形物体14が絶縁性流体中でその場に留まった状態で自転運動し、結果的にその自転運動から効率的に力学的仕事を取り出せることが分かっている。なお、図4~図6は例示であって、自転運動を発生させるための固形物体14の形状は例示のものに限定されない。

【0033】
固形物体14は、例えば図4に示されるように、球形状の複数のビーズ(固形物体)が凝集した凝集体からなる。
図4Aの固形物体14は、同じ大きさの2個のビーズが凝集したものである。図4Bの固形物体14は、同じ大きさの3個のビーズが一直線上に凝集したものである。図4Cの固形物体14は、大きな1個のビーズの両側に小さな2個のビーズが位置するように凝集したものである。図4Dの固形物体14は、同じ大きさの3個のビーズが互いに接触するように凝集した平面視で略三角形状であって、各ビーズが羽根部を構成する略プロペラ形状である。図4Eの固形物体14は、1個のビーズの周囲に同じ大きさの複数のビーズが凝集して、周囲のビーズが羽根部を構成する略プロペラ形状である。
図4A~図4Eの固形物体14は、一対の電極10、11により発生する電場によって、絶縁性流体13中で、その中心を通りかつ電極10、11が配置された平面に対して垂直にのびる軸線周りに自転運動する。

【0034】
固形物体14は、例えば図5に示されるように、長軸及短軸を規定できかつ対称性のある形状を有する。
図5Aの固形物体14は棒形状であり、図5Bの固形物体14は平面視で略楕円形状であり、図5Cの固形物体14は平面視で略菱形形状である。図5A~図5Cの固形物体14は、一対の電極10、11により発生する電場によって、絶縁性流体13中で、その対称中心を通りかつ電極10、11が配置された平面に対して垂直にのびる軸線周りに自転運動する。

【0035】
固形物体14は、例えば図6に示されるように、中心部と、中心部の周囲から突出する少なくとも一つの羽根部とを有する形状である。
図6Aの固形物体14は、中心部と、該中心部の周囲から突出し等角度間隔に形成された複数の羽根部とを有しており、図6Bの固形物体14は、図6Aの固形物体14と鏡面対称の形状を有する。図6A、図6Bの固形物体14は、一対の電極10、11により発生する電場によって、絶縁性流体13中で、その中心を通りかつ電極10、11が配置された平面に対し垂直にのびる軸線周りに自転運動する。
なお、図4のようなマイクロサイズのビーズの凝集体は、例えばビーズが分散している懸濁液中から得ることができる。図5、図6のようなマイクロサイズの固形物体14は、光造形法による加工などを初めとする周知の加工技術によって形成可能である。

【0036】
図4、図5の固形物体14では、自転運動の回転方向がどちらであっても、即ち時計回りか反時計回りのどちらの方向に自転しても、受ける抵抗が同じである。このような、固形物体14の自転方向は、最初に固形物体14を一対の電極10、11に対してどの位置に配置するか等の初期条件によって決まる。一方、図6Aのような形状では、自転運動の回転方向によって受ける抵抗が異なる。このような固形物体14は、初期条件に関わらず受ける抵抗が小さい回転方向に自転する傾向がある。従って、図6Bのように図6Aの固形物体14と鏡面対称の形状を選択すれば、固形物体14は図6Aの回転方向と反対方向に自転する。即ち、固形物体14の形状によって自転運動の回転方向を決定することができる。

【0037】
なお、自転運動が発生するために必要な電場の条件は固形物体14の形状により異なるので、選定した固形物体14の形状に応じて、印加電圧及び電極間距離を適切に調整する必要がある。

【0038】
本発明に係る方法によれば、電場によって、しかも固形物体14を回転軸体に接続することなく自転運動させることができる。この方法を利用すれば、粘性支配下である微小空間で効率よく動力を取り出せるマイクロデバイスを作製することができる。例えば、スイッチング素子や回転軸体がなくても直流電圧下で駆動するモーター等を作製することができる。

【0039】
[実験例]
以下の実験装置を用いて、マイクロサイズの固形物体14を運動させる実験を行った。
図7A、図7Bは、固形物体14を運動させるための実験装置を示す。X—Y平面に配置されたスライドガラス15上に、界面活性剤及び固形物体14を含む絶縁性流体13が滴下されて保持される。一対の棒状の電極10、11が、それらの軸が互いに同一直線上に位置しないように、かつ、それらの先端がX軸方向に距離Lの間隔が、Y軸方向に距離Dの間隔をあけて対向するようにX-Y平面に配置される。さらに、電極10、11の先端が絶縁性流体中13に挿入されるように、かつ電極10、11間に固形物体14が位置するように位置設定がなされる。電極10、11に電圧を印加する直流の電源12が設けられ、電極10、11に接続されている。さらに、顕微鏡の対物レンズ16が、絶縁性流体13からZ軸方向下方に間隔をあけて配置され、絶縁性流体13中の固形物体14の運動を下方から観測できるようにした。

【0040】
以下の実験では、電極10、11に円錐形状のタングステン電極を、絶縁性流体13にシリコンオイルを、固形物体14に誘電体であるポリスチレンを、界面活性剤に、アニオン性界面活性剤であるビス(2-エチルヘキシル)リン酸(DEHPA)を用いた。
具体的な溶液調整方法は以下の通りである。100μLのシリコンオイルに、2~5μLの市販の2.5%ポリスチレン粒子サスペンションと、水分を除去するための吸着材としてモレキュラーシーブを2~3個を加えて、24時間以上静置した。その溶液から、モレキュラーシーブを取り除き、DEHPAをシリコンオイル中の濃度が0.4~0.5Mになるように加えた。ボルテックスミキサーにより1分間攪拌して、ポリスチレン粒子を分散させた。

【0041】
・固形物体の運動の確認
図8Aの通り、直径45μmの2個の球形状のポリスチレンビーズ(以下、PSB)からなる凝集体を固形物体として用い、100Vの電圧を印加すると、凝集体は、電極間で公転運動し続けることが確認された。
図8Bの通り、直径75μmの3個のPSBが凝集して全体として略三角形状でありかつ略プロペラ形状である凝集体を固形物体として用い、180Vの電圧を印加すると、凝集体は、その場に留まった状態で(重心の位置がほとんどぶれずに)、Z軸に平行な軸線周りに自転運動し続けることが確認された。自転速度は約100rpmであった。
図8Cの通り、直径45μmの3個のPSBが直線状に凝集した凝集体を固形物体として用い、150Vの電圧を印加すると、凝集体がプラス電極にバウンド運動し続けることが確認された。
図9Aの通り、直径45μmの7個のPSBが凝集した凝集体を用い、180Vの電圧を印加すると、凝集体が、その場に留まった状態で、自転運動し続けることが確認された。凝集体は、その中心に存在するPSBを中心にZ軸に平行な軸線周りに自転運動し続けた。自転速度は、約26rmpであった。なお、図9Aの画像では、7個目のPSBは凝集体の背後に存在している。
図9Bの通り、球形状のPSBに代えて棒形状のPSBを用い、120Vの電圧を印加すると、このPSBが公転運動し続けることが確認された。
このように、運動対象を固形物体とし、全体形状を非球形状とした場合でも、固形物体14が絶縁性流体中で周期的に運動することが確認された。さらに、図8Bの通り、従来実現できなかった自転運動が確認された。

【0042】
・自転運動による絶縁性流体の流動
また、図8Bの略三角形状で略プロペラ形状の凝集体が自転運動する際に、図10の通りシリコンオイル中に含まれている微粒子が特定の方向に移動していることから、この自転運動によって絶縁性流体であるシリコンオイルの流動が発生することが確認された。

【0043】
・運動モードの印加電圧依存性
電極間距離をL=200μm、D=200μmと一定にし、2個のPSB(直径45μm)からなる凝集体の運動を、一対の電極への印加電圧を100V、110V、120V、130V、140V、160V、170V、175V、180V、185Vと変化させて確認した。
凝集体は、100V以下のとき周期運動しなかった。
凝集体は、110V~170Vの範囲では、図11Aで示すように自転運動することが確認された。また、印加電圧が大きくなるにつれて自転速度が大きくなることが確認された。なお、図11Aは、印加電圧が170Vのときの自転運動を示す。
凝集体は、175V~185Vの範囲では、図11Bで示すような軌跡で公転運動することが確認された。また、印加電圧が大きくなるにつれて公転速度が大きくなることが確認された。なお、図11Bは、印加電圧が180Vのときの公転運動を示す。

【0044】
図12は、凝集体(PSB2個)の印加電圧と運動モードとの相関を示す。図12の通り、自転運動の発生には印加電圧の閾値が100V~110Vの間に存在し、また自転運動の発生と公転運動の発生にも印加電圧の閾値が170V~175Vの間に存在することが分かった。
これは、電極への印加電圧を制御することにより、固形物体の運動を、運動停止、自転運動及び公転運動間で自由に切り替えることができるということである。具体的には、電圧を印加しないまたは第1電圧より低い電圧を印加することで固形物体を運動停止させ、第1電圧以上で第2電圧以下の電圧を印加することで固形物体を自転運動させ、第2電圧より大きい電圧を印加することで固形物体を公転運動させることができる。

【0045】
図13Aは、110V~175Vの範囲での自転速度(角速度)の印加電圧依存性を示す。図13Bの通り、凝集体全体の重心ベクトルをX=(x、y)、及び、一方の粒子の重心ベクトルX=(x、y)を求め、これらのベクトルX、Xに基づいて方位角θを求めて、自転速度を算出した。

【0046】
公転速度が印加電圧の増加に伴って増加することは特許文献1に記載の通りであるが、自転運動についても同様である。図13Aの通り、自転速度は、110Vから170Vの範囲内での印加電圧の増加に伴って増加することが確認された。これは、第1電圧から第2電圧までの範囲内で印加電圧を制御することにより、自転速度を制御できるということである。

【0047】
このように、電極への印加電圧を変化させることにより、固形物体の運動モード及び運動速度が変化することが確認された。これは、印加電圧の制御により、固形物体の運動モード及び運動速度を制御できるということである。このような印加電圧に基づく固形物体モード及び運動速度の制御は、運動制御ユニットによって行うことができる。

【0048】
・運動モードの形状依存性
電極間距離をL=200μm、D=200μmと一定にし、印加電圧を150Vと一定にして、2個のPSBからなる凝集体の運動と、3個のPSBからなる略プロペラ形状の凝集体の運動とを確認した。
図14Aの通り、PSB2個の場合、凝集体が公転運動を繰り返すことが確認された。
図14Bの通り、PSB3個の場合、凝集体がプラス電極付近から電極間を一周した後プラス電極に衝突してプラス電極付近でゆらぐという運動を一つの周期とする(公転+ゆらぎ)運動を、繰り返すことが確認された。
このように、同一電場において、固形物体の形状よって異なる運動モードが発生することが確認された。これは、固形物体の形状によって運動モードを制御できるということである。

【0049】
・固形物体、絶縁性流体及び界面活性剤の関係について
上記の実験例では固形物体がPSであった。固形物体をPSBに代えてポリエチレンビーズ(以下、PEB)を用いても同様の実験を行った。PEBでも、PSBと同様に、公転運動、自転運動といった運動モードは発生し、印加電圧の上昇に伴う運動モードの変化、印加電圧の上昇に伴う運動速度の上昇が観察された。しかしながら、PEBを用いた場合、周期運動の発生に必要な印加電圧の閾値は60Vであった。これは、PSBの周期運動の発生に必要な印加電圧の閾値110Vに比べて非常に低い。
この閾値の違いは、両ビーズの比重の違いが大きな要因になっていると考えられる。以下の表1に、シリコンオイル、PE、PSの物性値を示す。

【0050】
【表1】
JP2015163283A1_000003t.gif

【0051】
比誘電率はPSとPEともに大きな違いがないのに対して、比重は0.1以上違う。シリコンオイルの比重が0.995であることから、PSBはスライドガラスへ沈んでいく傾向があるのに対して、PEBはPSBよりも浮遊する傾向にあるために運動しやすいと考えられる。実際、PEBはPSBに比べて周期運動の再現性が高いことも確認されている。従って、固形物体と絶縁性流体と比重の関係が、より正確には、固形物体と、絶縁性流体及び界面活性剤からなる分散媒との比重の関係が、周期運動の発生の重要な要因であると考えられる。

【0052】
界面活性剤の濃度に関して、DEHPAの濃度が0.4M未満のときには、固形物体の周期運動が殆ど発生しないことも確認された。また、DEHPAの濃度が高いと、周期運動が発生しやすく、周期運動の持続性が向上することも確認された。

【0053】
以上から、固形物体と絶縁性流体及び界面活性剤からなる分散媒との比重の関係や、界面活性剤の濃度が、周期運動の発生の重要な要因であって、これらの適切な組み合わせにより、周期運動をより低い印加電圧で発生させることができ、また再現性よく発生させることができることがわかった。

【0054】
・W/Oエマルションによる対流の発生
上記の実験例では、界面活性剤としてDEHPAが用いられていた。これに代え、アニオン性界面活性剤であるスルホコハク酸ビス(2-エチルヘキシル)ナトリウム(AOT)を用い、W/Oエマルションをシリコンオイル中に形成した。
100μLのシリコンオイル中に、4.54×10?3g(1M)のAOT及び1.84μL(1M)の超純水を加えることにより、シリコンオイル中に大量のW/Oエマルションを作製した。W/Oエマルションの半径Rは約2.8nmである。このシリコンオイル中に固形物体を含ませずに電圧を印加して、その様子を観察した。対流をより見やすくするために、光学顕微鏡での透過光観察に加え、微分干渉ユニットを用いて観察した。

【0055】
図15Aは、印加電圧150Vのときの様子を示す。図15Aの通り、対流が発生していることが確認された。図15Bは、印加電圧を図15Aの150Vから-150Vにまで数秒かけて変化させたときの様子を示す。図15A及び図15Bの通り、印加電圧のプラスマイナスを入れ替えても対流の向きは殆ど変化してない。AOTを用いて形成されるW/Oエマルションを含むシリコンオイル中では、対流が極性に依存しないと考えられる。さらに、印加電圧の絶対値を変化させても対流の形状は大きく変化しないが、高電圧では対流が強く、低電圧では対流が弱いことが確認された。即ち、対流の強さは印加電圧の絶対値に依存することがわかった。

【0056】
図16は、W/Oエマルションを含むシリコンオイル中でのPS凝集体(PSB2個)の動きを示す。印加電圧は180Vである。凝集体が、図16に示される軌跡で公転運動することが確認された。前述のDEHPAのみを含むシリコンオイル中では、凝集体はもっぱら電極先端間でだけ運動することが確認されている。これに対して、W/Oエマルション及びAOTを含むシリコンオイル中では、凝集体が電極先端間だけでなく電極先端間外で対流が発生している場所でも運動していることが確認された。
AOTを含みW/Oエマルションを含まないシリコンオイル中では、電場を発生させても対流が確認できず、PSBはわずかに運動したものの、周期運動の発生には至らなかった。

【0057】
以上から、W/Oエマルションを含む絶縁性流体中では、電場により発生する対流を固形物体の周期運動の駆動力にできることが分かった。

【0058】
[2個の誘電体粒子からなる凝集体の周期運動のメカニズム及びモデル化]
上記の実験結果より、2個の誘電体粒子からなる凝集体の運動に着目し、運動メカニズムのシミュレーションを行った。
図17Aは、メカニズムの説明のための図である。2つの粒子は、誘電体であるために誘電分極が起こり、それぞれ反符号で等量の電荷を持つと考えられる。凝集体が電極に接近することで、電極に近い粒子が当該電極と同符号に、もう一方の粒子が電極と逆符号に帯電する電荷のスイッチングが起こる。電荷のスイッチングが起こると、電極との静電反発により、粒子は他方の電極へと動くこととなる。そして、他方の電極でも同様に電荷のスイッチングが生じる。この電荷のスイッチングが繰り返されることで凝集体は周期的に運動すると考えられる。

【0059】
粒子の運動は粘性支配下にあるため、駆動力・トルクと粘性抵抗が常に釣り合うので、凝集体の駆動力は、各粒子の持つ電荷による静電力及び誘電分極による誘電泳動力であると考えられる。これらを考慮すると、以下の数1に示される凝集体の重心の運動方程式と、数2に示される凝集体の重心まわりの回転運動方程式とが成立する。数1、数2において、q、xはそれぞれ一方の粒子の電荷と位置ベクトルであり、q、xはそれぞれ他方の粒子の電荷と位置ベクトルである。Xは粒子凝集体の重心であり、θは凝集体の方位角である(図13B参照)。Eは電場である。粒子の初期位置や粒子が持つ電荷等の初期条件を適切に設定し、実験例と相似な電極配置を設定し、ラプラス方程式を解くことによって電位分布を計算し、その電位から電場Eを計算した。運動する粒子がポテンシャル場に与える影響は無視している。それから、それぞれの電極付近で2粒子の電荷のスイッチングが生じる領域を設定し、粒子の位置座標の経時変化を計算した。

【0060】
【数1】
JP2015163283A1_000004t.gif

【0061】
【数2】
JP2015163283A1_000005t.gif

【0062】
図17Bは、上記に基づく凝集体のシミュレーション結果を示す。詳細について省略するが、図17Bに示される通り、簡単なモデルを用いて、2個の誘電体粒子からなる凝集体の自転運動を再現することができた。

【0063】
[送液ポンプについて]
実験例から明らかな通り、固形物体14に対する電極10、11の配置、印加電圧、固形物体の形状を適切に選択することによって、固形物体14を所望の位置に留まらせた状態で自転運動させることが可能である。さらに、固形物体14の自転運動によって絶縁性流体13の流動が発生していることが確認された。図18は、図1の装置を用いて製造される送液ポンプの概略的な構成を示す。

【0064】
送液ポンプは、液体である絶縁性流体13が流れるための流体流路18が形成された流路形成部材17を備えている。流体流路18は、互いに平行にのびる第1流体流路19及び第2流体流路20とからなる。第1流体流路19及び第2流体流路20は、仕切り21によって区画されている。仕切り21は切欠かれており、第1流路流路19及び第2流体流路20が互いに連通する連通部22が形成されている。

【0065】
マイクロサイズの固形物体14は、流体流路18の連通部22に配置されている。固形物体14の形状は、前述のように自転運動が可能でありかつ該自転運動によって絶縁性流体13の流動を生じさせることができる形状に予め選定されている。固形物体14は、例えば図18の通り、同じ大きさの3つの球形状のビーズが互いに接触するように凝集し全体として平面視で略三角形状であり、かつ各ビーズが羽根部を構成する略プロペラ形状である。絶縁性流体13は界面活性剤を含んでいる。

【0066】
円錐形状の一対の電極10、11が固形物体14に対して設けられている。一対の電極10、11は、それらの先端が空間をあけて対向するように、かつそれぞれの軸が互いに同一直線上に位置しないように配置される。各電極10、11は、流路形成部材17に差し込まれており、少なくともその先端が流体流路18内に位置している。固形物体14は、この電極10、11間に配置されている。図示されていないが、電極10、11へ電圧を印加する電源が設けられ、さらに、印加電圧を制御して固形物体14の運動を制御する運動制御ユニットも設けられている。

【0067】
電源及び一対の電極10、11によって電場を発生させて、固形物体14がその場に留まった状態で自転運動すると、その自転運動によって絶縁性流体13の流動が生じる。それによって、絶縁性流体13は、第1流体流路19内を第1方向に流れ、第2流体流路20内を第1方向と反対の第2方向に流れる。送液ポンプは、このように、固形物体14の自転運動を利用して絶縁性流体13(液体)を輸送する。

【0068】
固形物体14の自転速度は、一対の電極10、11への印加電圧に基づいて制御できるので、液体の輸送量を制御することができる。即ち、運動制御ユニットは、一対の電極10、11への印加電圧に基づき固形物体14の自転速度を制御し、それによって液体の輸送量を制御することができる。

【0069】
上記実施形態では、固形物体14が1つだけ設けられている。しかしながら、流体流路18内に、流体流路18の延設方向に適宜の間隔をあけて連通部22を複数形成し、各連通部22に固形物体14を配置し、各固形物体14に対して一対の電極10、11を設けてもよい。そして、各一対の電極10、11及び電源によって電場を発生させて、各固形物体14を同じ方向に自転運動させ、それによって液体を輸送してもよい。

【0070】
[その他]
上記の実施例及び実験例では、2つの電極が用いられていたが3つ以上の電極を用いてもよく、これによって、固形物体の周期運動の場所を自在に制御できる。
一例として、図19では、一対の棒状の電極10、11に加えて、さらに一対の棒状の電極10’、11’が設けられ、それらの軸が互いに同一直線上に位置しないように配置されている。そして、固形物体14は、電極10、11、10’、11’間に配置されている。一対の電極10’、11’も図示されない直流の電源に接続されている。その他の構成は、図1と同様である。この構成によれば、固形物体14を一対の電極10、11だけでなく、一対の電極10’、11’によっても制御でき、従って、これらの制御の組合せによって固形物体14の周期運動の場所をより正確に制御できる。

【0071】
固形物体を運動させるために必要な印加電圧は、例えば約1~1000Vの範囲、1V~200Vの範囲、または100V~200Vの範囲である。しかしながら、用いる固形物体、電極配置、絶縁性流体、界面活性剤によって適切な印加電圧の範囲は異なるので、この範囲に限定されるものではない。例えば、電極間距離を小さくすることにより、固形物体を運動させるために必要な印加電圧を小さくできることが分かっており、これを適用することで印加電圧が10mV~1000mVの範囲でも固形物体を運動させることは可能である。

【0072】
本発明における「マイクロサイズ」とは、例えば、縦、横、高さが、例えば、数nm~1000μmの範囲、1μm~100μmの範囲、または10μm~100μmの範囲のサイズであるが、当然ながらこの範囲に限定されるものではない。本発明の原理が適用される限り、どのサイズであってもよい。

【0073】
棒状の電極は、円錐形状、角錐形状の他に、例えば、円柱形状、角柱形状などでもよく、先端が鋭利に形成されてなくてもよい。電極は、タングステンの他に、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの導電性材料でもよい。
絶縁性流体は、電気抵抗値が高く、電極に定電圧を印加したときに、電流が流れない又はほとんど流れない流体をいう。絶縁性流体は、シリコンオイルの他に、例えば、ミネラルオイル、流動パラフィン、アルカンなどでもよい。絶縁性流体は、不揮発性であることが好ましい。

【0074】
固形物体は、静電力及び誘電泳動力を周期運動の駆動力とするならば、電極によって電場を加えたときに、少なくとも一部分において電気分極が生じるよう誘電性を有していればどのようなものでもよい。例えば、固形物体が、図4のような複数の物体が凝集した凝集体や、複数の物体が結合した結合体である場合には、少なくともの一つ物体が誘電性を有していればよい。但し、固形物体は、その全体が誘電性を有する材料からなることが好ましい。固形物体の材料として、例えば、実験例で示したポリスチレン、ポリエチレンの他に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリマー材料や、ガラス材料などの誘電体が挙げられる。なお、W/Oエマルションにより発生する対流を周期運動の駆動力とするならば固形物体の材料は任意である。

【0075】
界面活性剤は、DEHPA、AOTの他に、ジオレオイル・ホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、eggPC、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB)、ソディウムドデシルサルフェイト(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタエチレングリコールドデシルエーテルなどがある。しかしながら、界面活性剤は、絶縁性流体に溶解する必要があるため、用いる絶縁性流体に合わせて適切に選択される。

【0076】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の範囲は当然ながら上記実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、微小空間で駆動するモーター等のマイクロアクチュエータ、微小物体を輸送するマクロキャリア、微小流路内で試薬を取り扱うマイクロ流体デバイス等のマイクロデバイスに利用可能である。
例えば、DNAチップを用いるDNA解析システムは、試薬(塩基)及び洗浄液を交互に流すためのポンプをDNAチップに外付けし制御する必要がある。しかしながら、これはシステムの小型化や操作の簡素化を阻害する原因である。本発明は、このポンプを小型化した上でDNAチップに一体化することに利用でき、それによって、簡素かつ迅速に解析を行うDNA解析システムを提供することが可能になる。
その他、本発明は、DNA等のポリマーの力学的操作、薬剤の調合、薬剤の患部への直接的な輸送(DDS)、バイオ試料の非接触輸送などに利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10、11、10’、11’ 電極
12 直流の電源
13 絶縁性流体
14 固形物体
15 スライドガラス
16 顕微鏡の対物レンズ
17 流路形成部材
18 流体流路
19 第1流体流路
20 第2流体流路
21 仕切り
22 連通部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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