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明細書 :自己組織化用細胞集合体の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月30日(2017.3.30)
発明の名称または考案の名称 自己組織化用細胞集合体の作製方法
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
FI C12N 5/07
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 33
出願番号 特願2016-505305 (P2016-505305)
国際出願番号 PCT/JP2015/055695
国際公開番号 WO2015/129822
国際出願日 平成27年2月26日(2015.2.26)
国際公開日 平成27年9月3日(2015.9.3)
優先権出願番号 2014037341
優先日 平成26年2月27日(2014.2.27)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】武部 貴則
【氏名】谷口 英樹
【氏名】吉川 洋史
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA46
要約 in vitroにおいて多数の細胞(数万~数百万個)から細胞集合体の作製に必要となる要件を発見するとともに、肝臓や腎臓などの複雑な高次構造や、他の臓器との相互作用を実現することの可能な自己組織化用細胞集合体の形成方法を提供する。
総細胞数として40万個以上の任意の種類の細胞及び/又は組織と10万~40万個の間葉系細胞との混合物を培養し、大きさが1mm以上である細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法。前記方法で作製された細胞集合体。前記方法で作製された細胞集合体を自己組織化させ、高次構造が付加された三次元組織構造を形成させることを含む、三次元組織構造の作製方法。培養する側の断面がU又はV字の形状であるゲル状培養支持体。
特許請求の範囲 【請求項1】
任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法。
【請求項2】
細胞集合体が、自己組織化により、高次構造が付加された三次元組織構造を形成できるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体の上で培養する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
培養が二次元培養である請求項3記載の方法。
【請求項5】
ゲル状支持体が平面であるか、あるいは、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状である請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
ゲル状支持体の中心部の硬さが周辺部の硬さより固い請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ゲル状支持体の周辺部の硬さが中心部の硬さより固い請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ゲル状支持体がパターン化されており、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有する請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ゲル状支持体がパターン化されており、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有する請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
任意の種類の細胞及び/又は組織が総細胞数として40万個以上であり、間葉系細胞が10万~40万個である請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
細胞集合体の大きさが1mm以上である請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
細胞集合体の形成が自律的なものである請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
足場材料を用いることなく、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養する請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
間葉系細胞と混合する細胞及び/又は組織が、肝臓、膵臓、腸、肺、腎臓、心臓、脳又は癌に由来する請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
間葉系細胞と混合する細胞が、多能性細胞である請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
間葉系細胞と混合する組織が、多能性細胞より誘導された組織である請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
多能性細胞が、生体より得られた多能性細胞、再プログラムから誘導して得られた多能性細胞、又はそれらの組み合わせである請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の方法で作製された細胞集合体。
【請求項19】
請求項1~17のいずれかに記載の方法で作製された細胞集合体を自己組織化させ、高次構造が付加された三次元組織構造を形成させることを含む、三次元組織構造の作製方法。
【請求項20】
培養する側の断面がU又はV字の形状であるゲル状培養支持体。
【請求項21】
中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体。
【請求項22】
周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体。
【請求項23】
中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体。
【請求項24】
周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体。
【請求項25】
請求項20~24のいずれかに記載のゲル状培養支持体の上で、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化用細胞集合体の作製方法に関し、より詳細には、目的とする組織・臓器への自己組織化を誘導するために必要な細胞集合体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な構造を有する組織・臓器を形成する方法として、細胞が本来有する自己組織化能(Self-Organization)を利用する方法が注目されている(非特許文献1,2)。自己組織化とは、1種類あるいは少数の種類の要素が、外部から特別の「指示」となる情報を受けることなく、自分たちの内在的な特性を発揮して複雑な高次の構造を組み上げて行くことである。例えば、雪の結晶形成などのように、パターンのない集合体の中で、自発的な秩序が生まれてパターンが形成されて行く自然現象が観察されるほか、ナノテクノロジーや光学結晶の作製などで工学的にも利用されている。
【0003】
自己組織化を誘導するための要件としては、高密度環境で均一な細胞からなる集合体(Aggregate)を形成することが必要となる。培養を行ったES・iPS細胞からAggregateを作成し、脳、眼杯、下垂体、歯などを作製することが報告されている(非特許文献3-6)。このような、Aggregateを作製するための手法としては、底面がUやV状の構造を持つ96wellなどのように底面に集まるような基材を用いることにより、少数の細胞(数千個程度)の細胞集合体から数百μmレベルの組織を形成する方法が主として用いられている。しかし、多数の細胞(数万~数百万個)からより大型(200μm以上~)の細胞集合体を形成することは達成困難であった。このために、さまざまな種類の細胞からなるAggregateを作製するためには従来の方法を適応することは困難であった。
【0004】
したがって、マウスなどの小型動物の組織・臓器と比較して、自己組織化を利用してヒトなどのように大型の複雑な組織・臓器を作製するための集合体を作製する手法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Camazine, S., Deneubourg, J. -L., Franks, N. R., Sneyd, J., Theraulaz, G. & Bonabeau, E. Self-Organization in Biological Systems (Princeton Univ. Press, 2001).
【非特許文献2】Takeichi, M. Self-organization of animal tissues: cadherin-mediated processes. Dev. Cell 21, 24-26 (2011).)
【非特許文献3】Eiraku, E. et al. Self-organizing optic-cup morphogenesis in three-dimensional culture. Nature 472, 51-56 (2011).
【非特許文献4】Eiraku, M. et al. Self-organized formation of polarized cortical tissues from ESCs and its active manipulation by extrinsic signals. Cell Stem Cell 3, 519-532 (2008).
【非特許文献5】Suga, H. et al. Self-formation of functional adenohypophysis in three-dimensional culture. Nature 480, 57-62 (2011).
【非特許文献6】Sato, T. et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、3種類の異なった細胞系譜の時空間的な相互作用を活用することにより、「臓器の再構成に基づく臓器細胞の分化誘導」を実現化した革新的な三次元培養技術を確立している。すなわち、臓器発生の初期プロセスに必須である臓器細胞と血管細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用を再現化することにより立体的な臓器の原基(臓器の種)を誘導し、血管網を有する機能的な臓器の創出を可能とする基盤技術を確立している(Nature,499 (7459), 481-484、PCT/JP2012/074840:組織及び臓器の作製方法)。
【0007】
一方、腎臓や肝臓・肺臓などの疾患に対する医薬品開発や再生医療の実現を目指すためには、血管構造のみならず、例えば、尿管構造や、胆管構造、気管構造などのように、さらなる高次構造が付加された3次元的な複雑な構造や細胞極性を再現することが必須である。さらにいえば、他の臓器との相互作用を経ることで目的臓器の誘導が達成される。
【0008】
したがって、多能性幹細胞より誘導された組織や個体より分離した組織の機能を最大化するためには、多様な高次構造や他臓器との連続性の再構築を可能とする三次元組織体の形成が必要である。しかし、従来考案されている方法においては、3種類の細胞や組織から血管構造のみを有する組織体を作製するのみであり、より複雑な高次構造(尿管構造や、胆管構造、気管構造)を作製するための手法は考案されていなかった。
【0009】
本発明では、in vitroにおいて多数の細胞(数万~数百万個)から細胞集合体の作製に必要となる要件を発見するとともに、肝臓や腎臓などの複雑な高次構造や、他の臓器との相互作用を実現することの可能な自己組織化用細胞集合体の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、下記1~4の操作により、単離された複数種類の細胞や組織から複雑な高次構造を有する三次元組織・臓器を作製することに成功し、本発明を完成させるに至った。
1.必要な細胞・組織の調製
A)複雑な構造を有する組織への自己組織化に必要な任意の種類の細胞や組織を調製する。種類や組み合わせる数は、問わない。
B)総細胞数として200万個程度の、任意の種類の細胞や組織よりなる混合液に対し、単離した間葉系細胞を10~40万個程度混合する。

2.支持体の作製
A)細胞培養用の培養皿に、適正な硬さの支持体を形成し、固層化する。この際、支持体の材料としては、ハイドロゲル(ポリアクリルアミドゲルなど)を用いることが好ましいが、その限りではない。
B)作製した支持体上に、化学的・物理的に修飾を施す。この際、支持体への修飾の付与は必須要件ではない。化学因子としては、マトリゲルやラミニンを用いることが好ましいがこの限りではない。
C)なお、目的とする集合体の形・サイズ・量に応じて、支持体の硬さは均一である必然性はなく、硬さに空間的・時間的な勾配を設定することやパターン化することによって、以後の実験に用いることが可能である。
3.細胞集合体の作製・培養
1.で作製した細胞・組織の混合液を、2.で作製した支持体上に播種し、集合体を形成する。形成された集合体は、培養期間を延長することにより、試験管内において目的とする臓器の自己組織化に用いることが可能である。
【0011】
なお、底面に細胞が集まるような培養基材と間葉系細胞を組み合わせることによっても、少数の細胞からであれば集合体を作製することが可能である。
4.細胞集合体の移植
3.で作製した集合体を長期培養や生体内へ移植することにより、血液灌流を誘導し、複雑な構造を有する高次組織への自己組織化させることにより、成体組織と同等な高度に秩序だった組織構造を有する組織・臓器を作製することが可能となる。
【0012】
このように間葉系細胞と支持体の物理・化学特性を組み合わせることにより、任意の種類の細胞からなる複雑な細胞集合体を作製する手法は過去には存在せず、新規性の極めて高い方法であると考えられる。
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法。
(2)細胞集合体が、自己組織化により、高次構造が付加された三次元組織構造を形成できるものである(1)記載の方法。
(3)任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体の上で培養する(1)又は(2)記載の方法。
(4)培養が二次元培養である(3)記載の方法。
(5)ゲル状支持体が平面であるか、あるいは、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状である(3)又は(4)記載の方法。
(6)ゲル状支持体の中心部の硬さが周辺部の硬さより固い(3)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)ゲル状支持体の周辺部の硬さが中心部の硬さより固い(3)~(5)のいずれかに記載の方法。
(8)ゲル状支持体がパターン化されており、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有する(3)~(5)のいずれかに記載の方法。
(9)ゲル状支持体がパターン化されており、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有する(3)~(5)のいずれかに記載の方法。
(10)任意の種類の細胞及び/又は組織が総細胞数として40万個以上であり、間葉系細胞が10万~40万個である(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)細胞集合体の大きさが1mm以上である(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)細胞集合体の形成が自律的なものである(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)足場材料を用いることなく、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養する(1)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)間葉系細胞と混合する細胞及び/又は組織が、肝臓、膵臓、腸、肺、腎臓、心臓、脳又は癌に由来する(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)間葉系細胞と混合する細胞が、多能性細胞である(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(16)間葉系細胞と混合する組織が、多能性細胞より誘導された組織である(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(17)多能性細胞が、生体より得られた多能性細胞、再プログラムから誘導して得られた多能性細胞、又はそれらの組み合わせである(15)又は(16)記載の方法。
(18)(1)~(17)のいずれかに記載の方法で作製された細胞集合体。
(19)(1)~(17)のいずれかに記載の方法で作製された細胞集合体を自己組織化させ、高次構造が付加された三次元組織構造を形成させることを含む、三次元組織構造の作製方法。
(20)培養する側の断面がU又はV字の形状であるゲル状培養支持体。
(21)中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体。
(22)周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体。
(23)中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体。
(24)周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体。
(25)(20)~(24)のいずれかに記載のゲル状培養支持体の上で、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、間葉系幹細胞と支持体、ないし、底面に集まるような基材を組み合わせることにより、理論上どの様な複雑な組成の集合体をも形成することが可能となる。本発明により、足場材料(スキャホールド)を用いることなく、組織・臓器の構築が可能となる。
【0015】
第一に、より複雑な組織・臓器の人為的構成系としての活用が期待される。例えば、血管網以外にも尿管構造や、胆管構造、気管構造などのように、さらなる高次構造が付加された3次元的な複雑な構造を作製できる可能性がある。さらに、肝臓などのように、その機能発現のためには、肝臓のみならず、胆管や膵管との合流、十二指腸への連結など他臓器との連関の再構成が必須となる臓器が多数存在する。本発明により、他の臓器との相互作用を再現する集合体を作製ことにより、体内に存在する複雑な臓器の自己組織化誘導系としての活用が期待される。
【0016】
第二に、安価で、比較的に容易に加工することが可能な支持体を用いているため、大量の組織創出を目指す産業応用上の有用性が高い。支持体のマルチパターン化などの手法を組み合わせることにより、低コストで、任意の形・サイズ・数の大量組織作製が可能となる。
【0017】
iPS細胞等の幹細胞から作成した細胞凝集体から自己組織化した立体的な組織体を構築することにより、これまで達成が困難であったヒト機能細胞の創出、組織・臓器移植、創薬スクリーニング、薬剤の効果発現と支持組織(血管、神経、間質など)、との関連性などを評価する新たな解析系などへの応用が可能である。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2014‐037341の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】間葉系細胞の収縮による細胞集合体の作製。(A) 細胞集合体形成過程の経時変化。(緑色)iPSC-肝内胚葉細胞、(薄赤色)ヒト血管内皮細胞、(無色)間葉系細胞。(B)自己組織化したiPSC又はiPS細胞由来肝芽の形成。(C)細胞集合体形成の時間発展ダイナミクス。(赤色)集合体投影面積の平方根。集合体外周部の位置を示す指標として用いることができる。約13h以降は指数関数(黒色点線)で良く近似できる。(青色)集合体の円形度。集合体の投影面積と外周長から計算した。(D)細胞集合体形成における間葉系細胞の必要性。(E)各種化学物質を用いた細胞集合体形成過程の阻害実験。(F)活性化型ミオシン含有率の時間変化とその阻害。
【図2】細胞集合体形成における硬さ環境の至適化。(A、B)様々な硬さ条件下における細胞集合体形成実験。(A)は培養48時間後の肉眼観察写真。(B)は共焦点レーザー顕微鏡による細胞移動の時間変化を示す。(C-G)細胞集合体中のMSCsの軌跡(C)、移動速度および運動配向性の時間依存性(D、E)と基板硬さ依存性(F、G)。
【図3】様々な組織に由来する細胞を用いた自己組織化用集合体形成実験。(A、B)膵臓β細胞を用いた細胞集合体形成(A)と自己組織化(B)(C、D)他の臓器の細胞・組織を用いた細胞集合体形成実験
【図4】様々な組織に由来する細胞集合体のin vivo 自己組織化と機能発現。(A)移植により2-3日で機能的な血管化が生じる。(B)従来法と比較して、血液灌流に要する時間の比較。(C)マウス血管とヒト血管の直接吻合。(D)胎児腎臓細胞より形成した集合体が形成した糸球体・尿細管。(E)β細胞より形成した集合体が形成した膵島様組織。(F)β細胞より形成した集合体の治療効果判定モデル。(G)β細胞より形成した集合体を移植した糖尿病モデルマウスにおける血糖値の経時変化。
【図5】各硬さ条件における細胞集合体中のMSCsの軌跡、移動速度および運動配向性の時間変化。
【図6】各種阻害物質を用いた細胞集合体形成過程の経時観察。
【図7】成体腎組織を用いた細胞集合体のin vivo自己組織化。
【図8】胎児肺組織を用いた細胞集合体のin vivo自己組織化。
【図9】β細胞を用いた細胞集合体のin vivo血管導入過程の追跡。
【図10】β細胞を用いた細胞集合体のin vivoホスト血管との接続部位の観察。
【図11】β細胞を用いた細胞集合体より形成された組織の組織学的解析。
【図12】Uボトムゲルの断面図。
【図13】(A)血管内皮細胞を含まない細胞集合体の形成。(B)ヒト又はマウス間葉系細胞を用いた細胞集合体の形成。
【図14】Uボトムゲルを用いた細胞集合体の形成。
【図15】支持体上で作製した腎臓原基移植による機能的な血管網の再構成。
【図16】移植を行った腎臓原基の成熟化。
【図17】移植後成熟した腎臓原基の構造学的解析。
【図18】移植を行った腎臓原基の原尿生成機能のライブ観察。
【図19】生化学物質コーティング前後の支持体の硬さ特性の計測。
【図20】硬さのマルチパターンを有した支持体の作製。
【図21】硬さのマルチパターンを有した支持体上での細胞集合体の作製。
【図22】複雑なマルチパターンを有した支持体上の作製。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0020】
本発明は、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法を提供する。

【0021】
間葉系細胞は、主として中胚葉に由来する結合組織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合組織細胞であるが、本明細書において、「間葉系細胞」とは、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞も含む概念である。本発明に用いる間葉系細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよいが、未分化間葉系細胞を用いることが好ましい。ある細胞が未分化間葉系細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinが発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。)。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化間葉系細胞と判断できる。当業者間で使用されている用語のうち、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは間葉系細胞に含まれる。間葉系細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の間葉系細胞を用いてもよい。

【0022】
間葉系細胞と混合する任意の種類の細胞及び/又は組織は、種類や組み合わせる数を問わず、いかなる細胞及び/又は組織であってもよい。また、細胞及び/又は組織の由来も問わず、肝臓、膵臓、腸、肺、腎臓、心臓、脳などのいかなる臓器又は組織に由来するものであってもよいし、あるいはまた、癌に由来するものであってもよい。間葉系細胞と混合する細胞は、臓器や組織を構成する機能細胞、又は機能細胞へと分化する未分化細胞や多能性細胞であるとよい。また、間葉系細胞と混合する組織は、個体より分離した組織であってもよいし、臓器や組織を構成する機能細胞、又は機能細胞へと分化する未分化細胞や多能性細胞より誘導された組織であってもよい。

【0023】
未分化細胞としては、例えば、腎臓、心臓、肺、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などの器官に分化可能な細胞などであってもよく、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉性器官に分化可能な細胞、腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉性器官に分化可能な細胞、肝臓、膵臓、腸管、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路などの内胚葉性器官に分化可能な細胞などを挙げることができる。ある細胞が外胚葉性器官、中胚葉性器官又は内胚葉性器官に分化可能な細胞であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば内胚葉性器官に分化可能な細胞であると判断できる。)。例えば、肝臓に分化可能な細胞では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵臓に分化可能な細胞では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化可能な細胞では、CDX2、SOX9などがマーカーになり、腎臓に分化可能な細胞では、SIX2、SALL1、心臓に分化可能な細胞では、NKX2-5 MYH6、ACTN2、MYL7、HPPA、血液に分化可能な細胞では、C-KIT、SCA1、TER119、HOXB4、脳や脊髄に分化可能な細胞では、HNK1、AP2、NESTINなどがマーカーになる。当業者間で使用されている用語のうち、hepatoblast、hepatic progenitor cells、pancreatoblast、hepatic precursor cells、 pancreatic progenitors、pancreatic progenitor cells、pancreatic precursor cells、endocrine precursors、intestinal progenitor cells、intestinal precursor cells、intermediate mesoderm、metanephric mesenchymal precursor cells、multipotent nephron progenitor、renal progenitor cells、cardiac mesoderm、cardiovascular progenitor cells、cardiac progenitor cells、(JR. Spence, et al. Nature.;470(7332):105-9.(2011)、Self, et al. EMBO J.; 25(21): 5214-5228.(2006)、J. Zhang, et al. Circulation Research.; 104: e30-e41(2009)、G. Lee, et al. Nature Biotechnology 25, 1468 - 1475 (2007))などは本発明における未分化細胞に含まれる。多能性細胞としては、生体より得られた多能性細胞(例えば、ES細胞、再プログラムから誘導して得られた多能性細胞(例えば、iPS細胞、STAP細胞(Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency. Nature, 2014)、MUSE細胞(Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. PNAS, 2011)、iMPC 細胞(induced multipotent progenitor cell;Mouse liver repopulation with hepatocytes generated from human fibroblasts. Nature, 2014))、それらの組み合わせなどを例示することができる。未分化細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞から公知の方法に従って作製することができる。例えば、肝臓に分化可能な細胞は、K.Si-Taiyeb, et al. Hepatology, 51 (1): 297- 305(2010)、T. Touboul, et al. Hepatology. 51(5):1754-65.(2010)に従って作製することができ、膵臓に分化可能な細胞は、D. Zhang, et al. Cell Res.;19(4):429-38.(2009)に従って作製することができ、腸管に分化可能な細胞は、J. Cai, et al. J Mol Cell Biol.;2(1):50-60(2010)、R. Spence, et al. Nature.;470(7332):105-9.(2011)に従って作製することができ、心臓に分化可能な細胞は、J. Zhang, et al. Circulation Research.; 104: e30-e41(2009) に従って作製することができ、脳や脊髄に分化可能な細胞では、G. Lee, et al. Nature Biotechnology 25, 1468 - 1475 (2007) に従って作製することができる。臓器や組織を構成する機能細胞としては、膵臓の内分泌細胞、膵臓の膵管上皮細胞、肝臓の肝細胞、腸管の上皮細胞、腎臓の尿細管上皮細胞、腎臓の糸球体上皮細胞、心臓の心筋細胞、血液のリンパ球や顆粒球、赤血球、脳の神経細胞やグリア細胞、脊髄の神経細胞やシュワン細胞などを例示できる。細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の細胞を用いてもよい。

【0024】
細胞集合体に血管系を付与したい場合には、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物に、さらに、血管細胞を添加するとよい。血管細胞は、血管組織から分離することができるが、血管組織から分離された細胞に限定されることはなく、iPS細胞やES細胞などの全能性あるいは多能性を有する細胞から分化誘導されたものであってもよい。血管細胞としては、血管内皮細胞が好ましく、本明細書において、「血管内皮細胞」とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞(例えば、血管内皮前駆細胞、血管内皮幹細胞など)をいう。ある細胞が血管内皮細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、VE-cadherin、CD31が発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管内皮細胞であると判断できる)。また、血管内皮前駆細胞のマーカーとしては、c-kit、Sca-1などが報告されており、これらのマーカーの発現により、血管内皮前駆細胞であることを確認しうる(S Fang,et al. PLOS Biology. 2012;10(10):e1001407.)。当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. Joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管内皮細胞に含まれる。血管細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)などの動物由来の血管細胞を用いてもよい。血管細胞は、臍帯血、臍帯血管、新生児組織、肝臓、大動脈、脳、骨髄、脂肪組織などから得られる。

【0025】
本明細書において、「血管系」とは、血管内皮細胞およびその支持細胞よりなる構造をいい、血管系は、組織を維持するのみならず、その成熟化過程においても重要な役割を担っている。血管構造は、移植した後に、組織が生存するために必要な酸素及び栄養素などを組織内部に送達する役割を有しているのみならず、(内部に血液が流入する以前にも、)血管を伴う三次元的な組織構造や細胞極性を再現することが細胞の分化・増殖・維持に重要であると考えられている。したがって、血管を有さない組織は、単に、移植後に定着せずに内部が壊死することのみならず、血管化に伴う組織の成熟化が達成されず、充分な機能を発揮することが困難であった。

【0026】
本明細書において、「血管系を付与する」及び「血管化」とは、血管内皮細胞および支持細胞からなる血管系が、対象とする組織と直接統合することをいい、血管系を付与された生物学的組織を生体に移植すると、血管の成熟化が観察され、ホスト血管と接続して、血管灌流が開始し、血管網を有する機能的な組織・臓器への誘導が可能となる。

【0027】
本発明において、例えば、総細胞数として40万個以上(好ましくは、40万個~440万個、より好ましくは、200万個程度)の任意の種類の細胞及び/又は組織と4万個以上(好ましくは、5万~100万個、より好ましくは、10万~40万個)の間葉系細胞との混合物を培養するとよい。本発明の方法により、細胞集合体が自律的に形成され、種々の大きさ、例えば、大きさが1mm以上(好ましくは、1~20mm、より好ましくは、1~8mm)である細胞集合体を形成させることができる。任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との比は、所望の大きさの細胞集合体が形成できる範囲であれば、特に限定されないが、好適な細胞の数比は、任意の種類の細胞及び/又は組織:間葉系細胞=10:0.5~3である。
血管細胞を添加する場合は、総細胞数として40万個以上(好ましくは、40万個~440万個、より好ましくは、200万個程度)の任意の種類の細胞及び/又は組織と4万個以上(好ましくは、5万~100万個、より好ましくは、10万~40万個)の間葉系細胞に、4000個以上(好ましくは、2万~40万個、より好ましくは、4万~28万個)の血管細胞を添加するとよい。任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞と血管細胞との比は、所望の大きさの細胞集合体が形成できる範囲であれば、特に限定されないが、好適な細胞の数比は、任意の種類の細胞及び/又は組織:間葉系細胞:血管細胞=10:1~3:0.1~7である。

【0028】
任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物は、二次元培養で、細胞集合体を形成することができる。培養の際に使用する培地は、細胞集合体が形成されるものであれば、どのような培地であってもよいが、目的の組織の自己組織化誘導を促進する組成が好ましい。例えば、生体内への移植より自己組織化を誘導する場合には、血管内皮細胞用の培地と目的とする臓器細胞の培地を1:1で混合したものを用いると良い。血管内皮細胞用の培地としては、EGM(登録商標) BulletKit(登録商標) (Lonza CC-4133)やEGM-2(登録商標) BulletKit(Lonza CC-3162)、EGM-2(登録商標) MV(Lonza CC-3156)などのいずれかを用いることが好ましいがこの限りではない。臓器細胞用培地の例としては、成体の腎臓細胞であれば、RPMI1640 (Wako)中に、20% fetal bovine serum(BWT Lot.S-1560)、100μg/ml penicillin/streptomycin(Gibco)、Insulin-Transferrin-SeleniumX(GIBCO)を加えたものを用いると良い。胎児の腎臓細胞であれば、D-MEM High-Glucose(Wako 043-30085)、10% fetal bovine serum(BWT Lot.S-1560)、100μg/ml penicillin/streptomycin(Gibco)などを用いることが好ましい
任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物は、間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体上で培養するとよい。

【0029】
間葉系細胞の収縮は、(顕微鏡、ないし肉眼で)形態学的に立体組織形成を認めることや、薬さじなどによる回収に伴い組織の形状が保たれる強度を有することを示すなど(Takebe et al. Nature 499 (7459), 481-484、2013))のようにして確認することができる。

【0030】
支持体は、適正な硬さ(例えば、ヤング率200kPa以下(マトリゲルをコートした形状が平坦なゲルの場合など)であるが、支持体の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。)を有するゲル状基材であるとよく、そのような基材としては、ハイドロゲル(例えば、アクリルアミドゲル、ゼラチン、マトリゲルなど)などを例示することができるが、それらに限定されることはない。なお、目的とする集合体の形・サイズ・量に応じて、支持体の硬さは均一である必然性はなく、硬さに空間的・時間的な勾配を設定すること(例えば、後述の実施例6)やパターン化する(例えば、後述の実施例7)ことが可能である。支持体の硬さが均一である場合には、支持体の硬さは、好ましくは、100kPa以下、より好ましくは1~50kPaである。ゲル状支持体は、平面であってもよいし、あるいは、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であるとよい。ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であることにより、支持体の培養面に細胞が集まるようになり、より少ない数の細胞及び/又は組織で細胞集合体が形成されるので有利である。また、支持体に、化学的・物理的な修飾を施してもよい。修飾物質としては、マトリゲル、ラミニン、エンタクチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどを例示することができる。
ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体(後述の実施例6、図20及び21)である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体である。
パターン化したゲル状培養支持体の一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体(後述の実施例7、図22左、ポジティブパターン)である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。パターン化したゲル状培養支持体の別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体(後述の実施例7、図22右、ネガティブパターン)である。周辺部の硬さは、200kPa以下が適正であり、中心部の硬さは、周辺部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。

【0031】
培養時の温度は特に限定されないが、30~40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。組織が大型化する際には、培養器内の酸素供給量を上げることが好ましい。酸素供給量は、4%~50%が適当であり、10%~30%が好ましく、18%~25%がより好ましい。

【0032】
培養期間は特に限定されないが、12~144時間とするのが好ましく、例えば、肝臓から分離した細胞及び/又は組織から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~48時間とするのが好ましく、膵臓から分離した細胞及び/又は組織から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~144時間とするのが好ましく、腸から分離した細胞及び/又は組織から0.4~3mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~96時間とするのが好ましく、肺から分離した細胞及び/又は組織から0.4~1mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~96時間とするのが好ましく、心臓から分離した細胞及び/又は組織から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~96時間とするのが好ましく、腎臓から分離した細胞及び/又は組織から0.4~5mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~144時間とするのが好ましく、脳から分離した細胞及び/又は組織から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~144時間とするのが好ましく、癌から分離した細胞及び/又は組織から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、12~144時間とするのが好ましい。また、iPS細胞などの多能性細胞から0.4~10mmの大きさの細胞集合体を形成させるには、48~144時間とするのが好ましい。

【0033】
本発明の方法により作製される細胞集合体は、細胞間の相互作用が緊密に行われるために、胎内で生じるような生物学的な環境が再現される。これにより臓器の前駆細胞への初期分化誘導が効率的に生じるために、その存在頻度・数が向上すると考えられる。また、本発明の方法により作製される細胞集合体は、細胞同士が強く接着しており、非破壊的に回収が可能である。
本願に記載の細胞集合体は、器官芽やオルガノイド(器官芽(WO2013/047639)、liver bud、liver diverticula、liver organoid、pancreatic (dorsal or ventral) buds、pancreatic diverticula、pancreatic organoid、intestinal bud、intestinal diverticula、intestinal organoid(K. Matsumoto, et al. Science.19;294(5542):559-63.(2001))などを包含する概念であり、細胞集合体は、構成する細胞の種類や種類の数を問わないが、器官芽は、器官発生初期に形成されるものに相等し、構成する細胞の種類は、原則、臓器や組織を構成する機能細胞(又は機能細胞へと分化する未分化細胞)、血管細胞及び間葉系細胞の三種類であり、オルガノイドは、上皮性組織を構成する細胞のみから成り立ち、基本的には小型(1mm以下)である。

【0034】
細胞集合体は、自己組織化により、高次構造が付加された三次元組織構造を形成し、これにより前駆細胞の終末分化誘導を実現することが可能である。自己組織化は、in vivo、in vitroのいずれで行われてもよい。例えば、本発明の方法で調製した細胞集合体を生体内へ移植することにより、血管網が形成されて、血液灌流が誘導され、複雑な構造を有する高次組織への自己組織化が起こって、成体組織と同等な高度に秩序だった組織構造を有する組織や臓器を作製することが可能となる。血管網以外にも、尿管構造、胆管構造、気管構造などのさらなる高次構造が付加された高次組織を形成できる可能性がある。さらに、肝臓などのように、その機能発現のためには、肝臓のみならず、胆管や膵管との合流、十二指腸への連結など他臓器との連関の再構成が必須となる臓器が多数存在する。本発明により、他の臓器との相互作用を再現する集合体を作製することにより、体内に存在する複雑な臓器の自己組織化誘導系としての活用が期待される。

【0035】
本発明は、上記の方法で作製された細胞集合体も提供するものである。

【0036】
また、本発明は、上記の方法で作製された細胞集合体を自己組織化させ、高次構造が付加された三次元組織構造を形成させることを含む、三次元組織構造の作製方法も提供する。

【0037】
さらにまた、本発明は、培養する側の断面がU又はV字の形状であるゲル状培養支持体を提供する。本発明の培養支持体は、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であることにより、支持体の培養面に細胞が集まるようになり、より少ない数の細胞及び/又は組織で細胞集合体が形成されるので有利である。培養する側の断面がU又はV字の形状であるゲル状培養支持体は上述の通りである。
本発明は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体も提供する。その一実施態様を後述の実施例6(図20及び21)に示す。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。
また、本発明は、逆に、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体も提供する。
本発明は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体も提供する。その一実施態様を後述の実施例7(図22左、ポジティブパターン)に示す。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。
本発明は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体も提供する。その一実施態様を後述の実施例7(図22右、ネガティブパターン)に示す。周辺部の硬さは、200kPa以下が適正であり、中心部の硬さは、周辺部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。
さらに、本発明は、上記のゲル状培養支持体の上で、任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物を培養し、細胞集合体を形成させることを含む、細胞集合体をin vitroで作製する方法も提供する。任意の種類の細胞及び/又は組織と間葉系細胞との混合物の培養については、上述の通りである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
【実施例】
【0039】
細胞集合塊形成は、単離された未熟な細胞が自己組織化を経て三次元で複雑な臓器を形成するのに重要な原則だと古くから考えられている。我々は、器官形成期に生じる細胞間相互作用を再現することによりin vitroにおいて、単離されたヒト肝前駆細胞からmm単位の肝原基が自立的に形成されることを見出した。しかし、この様なダイナミックな三次元組織化の背後にあるメカニズムは全く不明であった。我々はこの立体組織形成は複数種の細胞ユニットの自己集合反応から始まり、その進行には間葉系幹細胞において生じるミオシンIIの細胞骨格の収縮力の存在が必要であることを明らかにした。この動的な細胞集合反応は、基板マトッリクスの剛性(硬さ)条件によって支配されている。さらに最適化された基板の条件下では、肝臓、膵臓、腸、肺、心臓、腎臓、脳、さらには癌を含む様々な臓器から分離した細胞/組織から3次元の臓器原基を作ることに成功した。作製された3次元原基は、血管内皮細胞を組み込むことで移植の際にすぐに血管化され、さらに、治療効果を持つ自己組織化した三次元組織構造を自律的に形成した。将来の再生医療を目指す上で、この原則は、動的な細胞集合とそれに続く自己組織化を通じて、幹細胞から複数の血管化された複雑な器官系を再構築するための汎用性の高いプラットホームを設立することにつながるだろう。
【実施例】
【0040】
生理器官形成の間に、肝臓はヒトの妊娠5-8週目で肝芽と呼ばれる組織塊が集まったものから形成されることが知られている。間葉系幹細胞、未分化の血管内皮細胞と前臓側内胚葉細胞との細胞間相互作用が、前腸内の基本的な肝臓の出芽と呼ばれる(肝芽とも呼ばれる)肝再生の開始に必要である(1)。器官形成におけるこれらの基本的な理解と並行して、再生医学の最近の進歩は、この動的な三次元(3-D)の転位を、多能性幹細胞(PSC)を用いた培養において器官形成期の細胞相互作用を再現することによって模倣することができることも実証した。固化した軟質マトリックスゲル上に播種すると、単体のPSC-由来肝細胞が内皮細胞および間葉細胞との共培養で自律的に3次元の集合体を形成する(2)。一旦集合体が確立されると、数日ののち完全なin vitroの条件下で胎内に存在する臓器に似た構造を持つ肝芽組織への自己組織化が進む(3)。in vitroで成長した臓器の芽の移植は、生体内でさらに自己組織化(成熟)され結果として血管化され機能をもった肝臓になる。この方法は、血管化された器官系の人工的な再構成のための新しい道を開くものである(4)。このような以前の観察より最も魅力的なのは、平坦な2次元培養プレートの下の培養にも関わらず共培養した細胞に非常に大きな形態形成の変化がみられたことである。自己組織化の先行研究では、一般に急峻な底の96ウェルプレートでミクロンスケールの集合体を生産していたが、このシステムではミリあるいはセンチメートルスケールにまで成長することができる(5,6)。そこで、本研究の主目的は、この驚くべき度合いのダイナミックな動的な集合反応の中心となるメカニズムを分析し、現象を再現するために不可欠な要因を明らかにすることであった。そして最適化された条件の下で、我々は最終的に他の器官系を再構成することに向けたこのアプローチの拡張性を評価した。
【実施例】
【0041】
我々はまず、タイムラプスイメージング解析によりオルガノイド形成中の細胞の動きを追跡した。ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)由来の肝内胚葉細胞、臍帯由来の内皮細胞(HUVEC)および間葉系幹細胞(MSC)を個別の蛍光で標識し、前述の凝固したマトリックスゲル上で共培養した。ライブセル追跡は、血管化されたオルガノイドの形成が、内皮のようなネットワークの形成(図1)によって示されるような自己組織化を通じた空間の再構成に先立って、迅速な細胞集合反応から始まることが判明した。すなわち、初期自己集合相では、細胞がグループとして挙動する、いわば多細胞集合ユニットとして振る舞い、すぐに集合中心に収束することが明らかとなった(図1)。このような集合体形成ダイナミクスをより詳細に解析するために、画像解析により集合体外周部の位置(square root of cell area)と円形度(Circularity)の時間発展を求めた(図1b)。その結果、集合体は細胞播種後約7時間までは10 μm/h以下でゆるやかに収縮し、その後数時間で最大~500 μm/hに達するほどに加速したのち指数関数的に減少し収束した。一方、Circularityは細胞播種後からほぼ単調減少し、10~13時間後には約0.5の最小値を示した。その後は増加に転じ、20時間後にはほぼ一定値(0.85)に収束した。
【実施例】
【0042】
以上の結果は、本研究における集合体の形成が、細胞の遊走ではなく、細胞組織の収縮によるものであることを示唆している。まず集合体外周部の最大速度は、細胞播種後10~15時間で約500 μm/hにも達し、これは一般的な細胞遊走速度をはるかに凌駕している。さらに移動速度は最終的に指数関数的に減少したが、これは集合体がKelvin-Voigt modelという指数関数で示される力学モデルに沿って収縮していることを暗示している。実際これまでに、様々な細胞組織やストレスファイバー収縮がKelvin-Voigt modelで近似できることが示されている。また、このような集合体の大きな収縮の開始には約10時間要したが、これは細胞—細胞間の接着や、収縮に必要なストレスファイバーの形成が進行する時間としては妥当な範囲であると考えられる。実際circularityの結果は、初期の10時間では集合体が真円から外れ、ひずんだ形で収縮していることを示していた。これは集合体形成初期では、その収縮力が、細胞—外場(細胞ー基板間、細胞—容器壁面)間の接着力と同程度もしくは下回っていることを示唆していると考えられる。
【実施例】
【0043】
in vitroで、このような動的で指向性のある細胞集合現象を惹起するために重要な細胞の種類を同定するために、我々は共培養において3系統のすべての可能な組み合わせを検討した。その結果、間葉系幹細胞が欠如すると集合体形成が不能であることが判明した(図中の、iPSC+EC, EC, iPSC)。一方、細胞集合体形成には、MSCと組み合わせることが十分条件であって、血管内皮細胞の存在は必須でない。例えば、iPSC由来の肝内胚葉細胞とMSCとの共培養(iPSC+MSC)、血管内皮細胞とMSC(EC+MSC)、によっても、細胞集合体形成は可能であった(図1)。MSC単独でも集合体は形成されたが、MSC非存在下での培養群は、EC単独、iPSC単独、iPSC+ECのいずれにおいても、シート状の脆い組織を形成するのみで、非破壊的に回収することは不能であったことから集合体は形成されなかった。また支持体上で培養しない場合も(2-D iPSC+EC+MSC)、集合体形成は認めなかった。上述した観察によって示唆される、'収縮機構'を明らかにするために、我々はその後、それらの基体と周囲の細胞に対するMSCの収縮力の寄与を分子レベルで評価した。生理初期発生過程における胚の原腸陥入においては、ある細胞の群は収縮を受け、ミオシンII(MII)活性により駆動される細胞-細胞間結合が急激な内側への変位は、胚の原腸形成期に細胞が陥入することをもたらすことが知られる。そこで、我々は、リン酸特異的抗体(7)と細胞内フローサイトメトリーによる筋フィラメントの分解を通してMIIAを不活性化するS1943(pS1943)でのMIIAのリン酸化の時間経過依存性の変化を測定することによって、MIIの活性を評価した。MIIA活性を推定するための報告された式(8)に基づいて、我々は集合体形成中の間質細胞内でアクティブMIIAが著しくアップレギュレートされて6時間にピークを迎え、それは細胞が最大速度で移動しているタイミングに対応することを示した(1)。一方、iPSC由来肝細胞において活性化MIIAは集合体形成を通してほぼ一定であることが分かる。これはMSCによるMIIAの活性化がこの強固な3次元転位の責任を担っていることを示唆している。さらに、この活性化MIIA減少の直接的な証拠を指示するデータとして、我々は、この集合体形成が、ブレビスタチン(ミオシンII(MII)ATPアーゼ阻害剤)により完全に拮抗できることを示した(9)。同様に、共培養中のRhoキナーゼ阻害剤Y-27632の添加は、部分的に集合体形成(図1)を遅延させることが判明した。一方、最近の報告であるような、器官形成(図1)の間に自律的に生成されるケモカイン勾配による細胞集合メカニズムに関しては、AMD3100の添加によるケモカイン受容体経路の薬理学的阻害によって(10)細胞集合体の形成を妨げることができなかったために適応し難いと考えられた。アクトミオシン細胞骨格による収縮力は、細胞集合の指向性と大幅な移動のために重要な役割を果たしていることがこの結果から明らかになった。
【実施例】
【0044】
このような培養中の細胞内骨格収縮は、マトリックスアンカーへの結合度で調節されることが単一細胞レベルでは示唆されている(11)。つまり、単一細胞の牽引力を測定する最近の研究において、細胞骨格の張力は、基板の生化学的および生物物理学的パラメータによって調節されることが示されている(12)。そこで我々は、細胞集合における収縮メカニズムにおいてもこのプロセスが適応できるのであれば、基板条件の硬さ調節によって集合反応を変化させることができると仮定した。我々の先行研究においてヒドロゲル、コラーゲン、ラミニン、entactinsおよびそれらの組み合わせなど様々な生化学の条件下でテストを行い、マトリゲルなどの基底膜複合体が最も効率的なマトリックスであることを示した。さらに重要な要因を明確にするために、我々はここで、基板の生物物理学的剛性状態の影響を評価した。具体的には、外部環境が細胞応答におよぼす評価のために、生化学・力学的条件を自在に調整可能な特性を有するヒドロゲルを作製した(図2)(13)。本法によって作製した様々な硬さ条件の基板上に細胞を播種したところ、24時間程度の培養後に明らかな細胞集合挙動に違いが認められることが明らかとなった。つまり、集合体形成中のMSCsの運動をトレースし、速度(velocity)と運動配向性(order parameter)を解析したところ、両パラメータともE=17 kPaの時に極大を示すことが明らかとなった。この結果は、細胞外環境の硬さが集合体形成の重要パラメータの一つであることを明確に示している。実際、本系での集合体形成のキー細胞であるMSCsは、分化や接着をはじめ様々なプロセスでmechano-responseを示すことが知られている。一般にスフェロイドなどの集合体の形成には、細胞—細胞間の相互作用が、細胞—外場間の相互作用を上回ることが必要であるため、本系でもE = 17 kPaの外場硬さ環境がこのような条件を実現したと考えられる。MSC(図1)の必要性を考慮することで、我々はより柔らかい基板に対する間葉系細胞の収縮が共培養システムでこれらの集合反応を起こしている可能性があると結論付けた。
【実施例】
【0045】
MSC由来の収縮力がこの自己集合挙動の中心であることを考慮すると、この原理は、将来の再生医療を目的とする上での胚葉の由来に関係なく、他の臓器の自己組織化系に拡張することができるものと考えられる。中でも、膵臓は、肝臓に比較的近い発生プログラムに従うことであることが明らかになってきているので、この仮説を検証するために、我々はまず膵臓細胞を選択し共培養用に用いた。単離されたマウスの膵臓β細胞(MIN6)を、HUVECとMSCと共培養したところ、同様に細胞集合体の形成を認めた(図3)。生成されたオルガノイドの内部構造を可視化するために、共焦点顕微鏡分析は蛍光標識された細胞を用いて行った。三次元zスタック投影画像でkusabiraオレンジ(KO)標識MIN6が移植後72時間で膵島様組織を形成するために自己組織化されることを明らかにした。それに対して、緑色蛍光タンパク質(EGFP)標識したHUVECはオルガノイド内部のMIN6由来の膵島を覆うネットワーク構造を形成した。以上から、肝臓において見出した動作原理が、膵臓においても拡張できる可能性が示された。
【実施例】
【0046】
次に、我々は、このアプローチのさらなる汎用性を評価するために、胚または成体マウスからの(最大200μmの)複数の細胞又は組織断片を単離した。驚くべきことに、細胞集団の指向性のある自律的集合現象は膵臓、肝臓、腸、肺、心臓、腎臓、脳、さらには癌(図3)を含むテストしたすべての細胞/組織タイプで保たれていた。タイムラプスイメージングは、胚および成体の両方の細胞/組織がうまく移植手術を含む追加の操作に耐え、自律的に単一の3Dオルガノイドを形成したことを示した(図3)。集合体は、培養内皮細胞(HUVEC)を含むように設計されると、信頼性のある従来の組織工学的アプローチ(平均灌流時間;~192時間)と比べて、移植されてからはるかに短い時間でレシピエントの循環で血液灌流されることが明らかとなった(平均灌流時間;~72時間)。これは、血管新生のためには足場のない自己集合アプローチが優位であることを示唆している(図4)。内皮細胞の存在は集合体を生成するためには不要だが、HUVEC無しでは移植後の結果は非常に悪い。なぜなら、機能的血管形成の兆候がin vivoで観察されないからだ(図4)。
【実施例】
【0047】
興味深いことに、機能的血管新生が保たれているにもかかわらず、成体器官由来の細胞はほとんどが移植の際に元のものに似た組織を再構成しない(図7)。しかし、胚細胞由来の集合体は効率的に機能的な組織ユニットを自己組織化により再構成した。例えば、胎児腎臓由来のオルガノイドの移植は、血液濾過の兆候のある糸球体のようなミクロ組織を再構成(図4D)したが、成体の腎臓や肺に由来するオルガノイドはそのような組織(図7、8)を生成するのに失敗した。この結果は、PSCから直接分化した細胞を利用する成熟した細胞移植は臓器不全を治療するのに有効かもしれないという優勢な再生医学のパラダイムの疑問を提起する。なぜなら、最終分化した細胞はよく血管新生した条件下であっても、移植に際して機能的な組織を再構築する能力に乏しいからだ。
【実施例】
【0048】
さらに、膵臓細胞を対象として、詳細な解析を実施した。3次元膵臓オルガノイドの移植は迅速(~48時間)な再灌流とβ細胞の生着が起こり、これらは生体イメージング解析により確認された。14日目に移植片はレシピエントの循環系(図4,C)に接続した、機能的微小血管ネットワークをもつ膵島様構造(図4,E)を形成した。このような血液灌流は、血管内皮細胞を含めない集合体を移植した場合には認められなかった(図9)。再構成された膵島は、周辺部のマウス血管と直接接続し、毛細血管の密なネットワークによって高度に血管化されていた(図10)。生体における膵島毛細血管網は、外分泌組織を取り巻く血管網よりも約5倍の密度が高いことが知られるが、これと一致して、生体内の機能的血管密度の定量化で、再構成された膵島様組織において正常組織(図4、図9)の周囲に比べ毛細血管網が遥かに緻密(4.2倍)であることが示された。組織学的な解析からも成体膵島に類似した構造を有しており、自己組織化により成熟組織を再構成しているものと考えられた(図11)。さらに、治療上の有効性を評価するために、in vitro由来のβ細胞オルガノイドをI型劇症糖尿病モデルマウスの腎臓被膜下に移植した。糖尿病モデルとして、我々は、インスリンプロモーターにジフテリア毒素受容体cDNA導入遺伝子を持つ、毒素受容体を介した細胞ノックアウト(トレック)-Tgマウスを採用した。非移植群のマウスはジフテリア毒素(DT)投与を介した糖尿病誘導後6日目に死亡したのに対し、β細胞オルガノイドを移植されたマウスは血糖値を正常に保ち生き延びた(図4,G)。以上から、我々は実験的にin vivoで血管新生化および機能的三次元組織を再構成することによって、この原理が他の器官系にも適用可能であることを実証した。
【実施例】
【0049】
1960年代には、単離した胚細胞の集合体は、自己組織化を通じて、元の臓器に似た構造を有する組織を再構成することが示されている。いったん、必要となる様々な少数の細胞が密に相互作用できるように集められると、個々の細胞は、in vitroで機能的組織を自己形成することができる(14)。自己組織化についてのこの古典的な知識は、この分野の1つの本質的な挑戦であるPSCから臓器を成長させるための原則を設計する再生医学の分野において技術革新をもたらすことができる。この原則は現在では、PSC由来細胞集合体からの脳、眼杯、腎臓および肝臓を含む我々やその他の研究者の観察により強化されている(15)。この流れにおいて、我々はここで1つの有望な原則を示している。つまり、従来の様ないずれも小型の集合体しか形成できなかった方法と比較して、希望する複数の多数の細胞/組織から集合を通じて、その自己組織下したオルガノイドを設計することができる。集合体は、in vitroおよび in vivoの両方でその後の自己組織化能力を調べるために使用することができる。この研究では実験的に内皮細胞を組み込むことで、迅速な血管新生とそれに続く機能化を評価することを行ったが、より正確な組織再構築のために、神経細胞などの未開拓の支援細胞の貢献を評価することも、我々や他のグループにとって興味深いところである。標的となる組織の自己組織化のための最適な条件を決定するためにさらなる改良が必要とされるが、我々はこの培養原理が、多能性幹細胞を用いたヒト生物学および病理学を研究するための強力なツールであるだけでなく、in vitroで成長した複雑な組織構造を用いることで、現在治療不可能な患者のための次世紀の再生医療の実現を可能にすると考える。
【実施例】
【0050】
参考文献
1. K. Matsumoto, H. Yoshitomi, J. Rossant, K. S. Zaret, Liver organogenesis promoted by endothelial cells prior to vascular function. Science 294, 559 (Oct 19, 2001).
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4. T. Takebe et al., Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant. Nature 499, 481 (Jul 25, 2013).
5. M. Eiraku et al., Self-organizing optic-cup morphogenesis in three-dimensional culture. Nature 472, 51 (Apr 7, 2011).
6. T. Nakano et al., Self-formation of optic cups and storable stratified neural retina from human ESCs. Cell stem cell 10, 771 (Jun 14, 2012).
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10. E. Dona et al., Directional tissue migration through a self-generated chemokine gradient. Nature 503, 285 (Nov 14, 2013).
11. D. E. Discher, P. Janmey, Y. L. Wang, Tissue cells feel and respond to the stiffness of their substrate. Science 310, 1139 (Nov 18, 2005).
12. Z. Liu et al., Mechanical tugging force regulates the size of cell-cell junctions. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107, 9944 (Jun 1, 2010).
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14. M. Takeichi, Self-organization of animal tissues: cadherin-mediated processes. Developmental cell 21, 24 (Jul 19, 2011).
15. Y. Sasai, Cytosystems dynamics in self-organization of tissue architecture. Nature 493, 318 (Jan 17, 2013).
【実施例】
【0051】
材料と方法
・間葉系細胞(MC)の調製
MCについては、ヒト骨髄より分離した細胞、ヒト臍帯間質(ワルトン鞘)より分離した細胞、ヒト耳介より分離した細胞、マウス骨髄より分離した細胞、ヒト線維芽細胞などのいずれかを用いた。本実験で主として用いた、ヒト骨髄より分離した間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: hMSC) は、hMSC培養に調製された専用の培地(MSCGMTM BulletKit(登録商標))(Lonza PT-3001)を用いて培養した。
・各種細胞の調製
ジエチルエーテル(Wako)を用いて麻酔したC57BL/6-Tg(CAG-EGFP)マウス(日本SLC)妊娠12-17日目の腹部を70%エタノールで消毒した後、開腹し、胎児を摘出した。胎児から脳、心臓、肺、肝臓、後腎、または腸管を摘出した。また、6週齢以上のC57BL/6-BALB/c RFP hairy mouse (Anticancer Inc.より購入)の脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、または腸管を摘出した。摘出した組織より単離した細胞を用いる場合には、0.05%Trypsin-EDTA (GIBCO)200μL中に入れ、37℃で20分間インキュベートした。その後、ピペットで組織を崩し、4.8mLの培地に加えた。遠心し、培地を加え細胞数を数えた後、単一細胞まで酵素処理した細胞を共培養に用いた。また摘出した組織を小組織の状態で用いる場合には、摘出した胎児組織をハサミでミンスし、0.05%Trypsin-EDTA 10mL中に入れ、37℃で20分間振盪した。その後、培地を加え100μmのセルストレーナーを通し、遠心を行った。遠心後、培地を加え、細胞培養に用いた。また、成体マウスの脳、心臓、肺、肝臓をハサミでミンスし、100μmのセルストレーナーを用いて濾過し、フロースルーを40μmのセルストレーナーを用いて濾過し、40μmのセルストレーナーに残った細胞塊を培地で回収し細胞の共培養に用いた。また、成体マウスの小腸においては、中身を生理食塩水で洗浄した。洗浄した小腸を縦に切り、4cm間隔に切ったものを、2mM EDTA, 0.5mM DTT in PBSに入れ37℃で20分間振盪した。その後、100μmのセルストレーナーを用いて濾過し、PBSを加えた。遠心を行い、上清を吸ったあとPBSを加え洗浄した。その後、遠心を行い、培地を加え細胞培養に用いた。
【実施例】
【0052】
正常臍帯静脈内皮細胞(Normal Umbilical Vein Endothelial Cells: HUVEC) は、説明と同意を取得した妊産婦の分娩時に提供を頂いた臍帯より分離した細胞、ないし購入した細胞をEGM(登録商標) BulletKit(登録商標) (Lonza CC-4133)を用いて、5回以内の継代回数で培養した。なお、いずれの細胞も必要に応じてレトロウイルスベクターによる蛍光標識を行った。また、HepG2はDMEMに10%FBSを加えたもので培養した。それぞれの細胞は37℃、5%CO2のインキュベーター内で培養した。
・自己組織化用細胞集合体の作製
PAゲル平面基板を静置した、または、マトリゲルコーティング(マトリゲル(BD)の原液、ないしマトリゲルと培地を1:1の割合で混合した溶液を1ウェル毎に300μLずつ入れ、37℃、5%CO2のインキュベーター内に10分以上静置し固めた)を行った、24ウェルプレートの1ウェルに細胞数として2×10 cells以上相当の任意の組み合わせの種類の細胞(胎児・成体より分離した組織または、KO-HepG2、HUVECなど)と、2×10 cellsのMSCと混合し、細胞を播種した。また小型の細胞集合体を形成するためには、4×10 cells以上相当の任意の組み合わせの種類の細胞(胎児・成体より分離した組織または、KO-HepG2、HUVEC)へ、5×10 cells以上のMSCと混合し、播種した。その後、37℃のインキュベーターで1日間培養した。播種後、実体顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いた細胞共培養の経時観察を実施した。任意の組み合わせには種類の限定はなく、例えば、膵臓・肝臓・腸管・神経などの異なる組織に由来する細胞を混合したものを用いても良く、その後に目的とする臓器の自己組織化に最適な組成を用いることができた。
【実施例】
【0053】
なお、細胞の画像解析を行ったPAゲル平面基板を静置したプレートを用いた実験では、HUVECを2~4×10 cells、hMSCを2~4×10 cellsの2種類の細胞を播種することによって得られた集合体形成過程の動画をもとに評価を行った。
・PAゲル平面基板の作製(面内の硬さ均一)
ゲルの反応溶液として、アクリルアミド水溶液(40% w/v,A4058,Sigma)、ビスアクリルアミド水溶液(2% w/v, M1533, Sigma)、蒸留水を混合して作製した溶液10 mLを作製した。この時それぞれの溶液の混合比率を変えることで、ゲルのヤング率を調節した。この反応溶液を真空チャンバーを用いて突沸させた後、100 μL のAPS(5 g / DW50 mL, 01307-00, KANTO, 0.20 mm filtered)と10 μL TEMED(T9281,Sigma)を順に加えた。その後、本反応液25 μL をDimethyldichlorosilane(DCDMS,D0358,TCI)で表面疎水化されたスライドガラス(S2112,MATSUNAMI)上に滴下した後、上からAllytricholorosilane(ATCS,107778-5g,Sigma)処理した丸型カバーガラス(φ=12 ~ 25 mm,MATSUNAMI)を重ねてサンドイッチ構造とし、30分間静置した。その後蒸留水を加え、一晩静置した後、スライドガラス基板から剥離し、ゲルがコートされたカバーガラス基板を得た。その後リン酸緩衝液を加えて一日静置し、未反応のモノマーを除去した。表1に代表的な反応溶液の配合比とゲルのヤング率を示す。ゲルのヤング率は原子間力顕微鏡(Nanowizard 3, JPK Instruments, Germany)のナノインデンテーション測定により決定した。
PAゲル表面への接着分子(マトリゲルまたはラミニン)のコーティングは以下の手順で行った。まず、0.2 mg/mLのN-Sulfosuccinimidyl-6-(4'-azido-2'-nitrophenylamino) hexanoate (Sulfo-SANPAH,22589,Pierce)の20 mM HEPES(pH8.5)溶液をPAゲル基板上に滴下し、UVランプ(Z169633-1EA, Sigma)を20分間照射した。その後、4.4 mg/mLのマトリゲル溶液(原液を20mM HEPES(pH8.5)溶液で227倍に希釈, 354234, BD)、または10.0 mg/mLのラミニン溶液(原液を20mM HEPES(pH8.5)溶液で227倍に希釈, 354232, BD)を数mL滴下し、16時間37℃インキュベーターに静置した.その後 PAゲルをリン酸緩衝液でよくリンスし、未架橋のマトリゲルやラミニンを除去した.
【表1】
JP2015129822A1_000003t.gif
【実施例】
【0054】
〔実施例2〕
マトリゲルコーティング(マトリゲル(BD)の原液、ないしマトリゲルと培地を1:1の割合で混合した溶液を1ウェル毎に300μlずつ入れ、37℃、5%CO2のインキュベーター内に10分以上静置し固めた)を行った、24ウェルプレートの1ウェルに細胞数として2×10 cellsのiPS細胞由来肝内胚葉細胞、ないしヒト成体肝細胞と、5×10 cellsのヒトまたは、マウスMSCと混合し、播種した。その後、37℃のインキュベーターで1日間培養した。播種後、実体顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いた細胞共培養の経時観察を実施した。図13に示すように血管内皮細胞がなくても、間葉系細胞があれば、細胞集合体が形成されることが示される。
【実施例】
【0055】
〔実施例3〕
・UボトムPAゲルの調製
ゲルの反応溶液として,アクリルアミド溶液(40% w/v,A4058,Sigma),ビスアクリルアミド溶液(2% w/v,M1533,Sigma),蒸留水を混合して作製した溶液10 mLを作製した。この時それぞれの溶液の混合比率を変えることで、ゲルのヤング率を調節した。24-well tissue culture plate (353047, BD) に反応溶液を500 μL加えた後、0.5 μL TEMED(T9281,Sigma)と5 μL のAPS(5 g / DW50 mL, 01307-00, KANTO, 0.20 mm filtered)をこの順で加え、すぐによく混合した。その後50 ℃のホットプレートの上で15分静置した。その後リン酸緩衝液を加えて一日静置し、未反応のモノマーを除去した。Uボトムゲルの断面図を図12に示す。
本ゲル(深さ3ミクロン以降の硬さは、約30 kPaで一定であった。)を用いた細胞集合体の形成実験には、24ウェルプレートの1ウェルに細胞数として2×10 cellsのiPS細胞由来肝内胚葉細胞と、7×10 cellsのHUVEC、2×10 cellsのヒトMSCと混合し、播種した。その後、37℃のインキュベーターで1日間培養した。播種後、実体顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いた細胞共培養の経時観察を実施した結果、細胞集合体が形成されることが示された(図14)。

【実施例】
【0056】
〔実施例4〕
(方法と結果)
ジエチルエーテル(Wako)を用いて麻酔したC57BL/6-Tg(CAG-EGFP)マウス(日本SLC)妊娠12.5および13.5日目の腹部を70%エタノールで消毒した後、開腹し、胎児を摘出した。胎児から後腎を摘出したのち、0.05%Trypsin-EDTA (GIBCO)200μL中に入れ、37℃で20分間インキュベートした。その後、ピペットで組織を崩し、4.8mLの培地に加えた。遠心し、培地を加え細胞数を数えた後、単一細胞まで酵素処理した細胞を共培養に用いた。その後、ヒト骨髄より分離した間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: hMSC)および、 正常臍帯静脈内皮細胞(Normal Umbilical Vein Endothelial Cells: HUVEC)と混合し、マトリゲル(実施例2のマトリゲル(BD)の原液)と血管内皮細胞用培地(EGM BulletKit(登録商標)、Lonza CC-4133)を1:1の割合で混合した溶液を固めたウェル上に播種を行った。24ウェルプレートの1ウェル相等の場合は、総細胞数として約2×10 cellsの任意の組み合わせの種類の細胞を播種した。なお、胎児腎臓細胞、MSCとHUVECの比率は、順番に、10:2:0.1~1としたがその限りではない。その後、37℃のインキュベーターで1日間培養し、3次元組織を自律的に形成した。図16下段に記載の結果については、ペレット培養を行った組織を用いた。ペレット組織の作製法については、Christodoulos Xinaris, et al.(In Vivo Maturation of Functional Renal Organoids Formed from Embryonic Cell Suspensions. J Am Soc Nephrol. 2012 Nov; 23(11): 1857-1868.)に記載の方法に準じており、一斉回収した単離された細胞を遠心力によりチューブ底面に集合させ移植用組織を形成する手法をとった。
【実施例】
【0057】
形成した腎臓原基を免疫不全マウス胎内へ移植を行った後、肉眼観察を実施した結果、移植2-3日で血液流入が確認された(図15の上段)。図15中の白点線は、移植領域を示す。分散していた細胞が、移植8日目には、球状の糸球体組織を形成した(図15の下段)。図16左に示す蛍光観察の結果、支持体上で培養を行うことにより多数の糸球体構造が形成されたのに対し、従来法(ペレット移植群)では形成されなかった。図16右に示す網羅的遺伝子発現解析の結果、移植1ヶ月目の移植片は、生後0~8週相等の成熟度合いであることが示された。図17に示す左3列の結果より、移植4週目の組織を対象とした電子顕微鏡観察の結果、形成された組織は、足細胞、スリット膜、内皮細胞、近位尿細管、メサンギウム細胞などよりなる正常ネフロンの構造を形成した。図17右図より、免疫染色の結果、足細胞やスリット膜の存在が示された。さらに、移植3週目に低分子量蛍光デキストランを投与後蛍光ライブ観察した結果を示す(図18)。形成された組織は、まず、血管内に流入し、糸球体内部で濾過され、近位尿細管に回収されたことから腎臓の原尿生成機能を有していることが示された(図18)。以上から、本発明により人為的に作製した腎臓原基を生体内へ移植することにより、自律的な成熟を誘導し、機能的な腎組織を作成することに成功した。
【実施例】
【0058】
〔実施例5〕
(方法と結果)
異なる硬さ条件(Sample A, B, C)の支持体(PAゲル平面基板の作製)のマトリゲルコーティング前(斜線)・後(黒ベタ)におけるヤング率の変化。コーティングの有無に関わらず、硬さ条件が厳密に制御できることを示す(図19)。本ゲル基板の作製は実施例1に記載の方法を用いて行った。
【実施例】
【0059】
〔実施例6〕
(方法と結果)
一つの基板上に、異なる硬さ条件が混在する硬さのマルチパターンゲルを作製することに成功した(図20)。パターン1では中心部が固いゲルを、パターン2では中心部がやや硬いゲルを作製した(図20左図)。図20右図は、硬さ条件を長軸方向に測定した結果を示し、目的とする硬さ条件が作製されていることを示す。
硬さの空間パターンを有するゲル基板の作製方法は以下のとおりである.ゲルの反応溶液として、アクリルアミド水溶液(40% w/v,A4058,Sigma)、ビスアクリルアミド水溶液(2% w/v, M1533, Sigma)、蒸留水を混合して作製した溶液10 mLを作製した。その後、遮光しながらIrgacure2959(0.5 % w/v, DY15444, Ciba)を50 mg加えた後に37 ℃の湯浴で溶解し、真空チャンバーを用いて突沸させた。その後、本反応液10 μL をDimethyldichlorosilane(DCDMS,D0358,TCI)で表面疎水化されたスライドガラス(S2112,MATSUNAMI)上に滴下した後、上からAllytricholorosilane(ATCS,107778-5g,Sigma)処理した丸型カバーガラス(φ=12 mm,MATSUNAMI)を重ねてサンドイッチ構造とした。その上に、フォトマスクを置き、254 nmの紫外光を照射した。フォトマスクはアセチルセルロース(G254B, Agar)にレーザープリンタ(MC860, OKI)を用いて印刷したものを用いた.マスクパターンのデザインはAdobe Photoshopを利用し、外径12 mm、内径2~4mmの円形マスクを作製した。光照射には、光源を水銀ランプ(C‐HGFI, Nikon)とし、反応溶液に均一に照射するため光ファイバーと投光管を使用した。紫外線照射時間は、目的の硬さに応じて分刻みで調整した。その後蒸留水を加え、スライドガラス基板から剥離し、ゲルがコートされたカバーガラス基板を得た。その後リン酸緩衝液を加えて一日静置し、未反応のモノマーを除去した。ゲルのヤング率は原子間力顕微鏡(Nanowizard 3, JPK Instruments, Germany)のナノインデンテーション測定により決定した。PAゲル表面への接着分子(マトリゲルまたはラミニン)のコーティングは以下の手順で行った。まず、0.2 mg/mLのN-Sulfosuccinimidyl-6-(4'-azido-2'-nitrophenylamino) hexanoate (Sulfo-SANPAH,22589,Pierce)の20 mM HEPES(pH8.5)溶液をPAゲル基板上に滴下し、UVランプ(Z169633-1EA, Sigma)を20分間照射した。その後、4.4 mg/mLのマトリゲル溶液(原液を20mM HEPES(pH8.5)溶液で227倍に希釈, 354234, BD)、または10.0 mg/mLのラミニン溶液(原液を20mM HEPES(pH8.5)溶液で227倍に希釈, 354232, BD)を1mL滴下し、16時間37℃インキュベーターに静置した.その後 PAゲルをリン酸緩衝液でよくリンスし、未架橋のマトリゲルやラミニンを除去した.
次に作製したパターンゲルを用いて、iPS由来肝臓内胚葉細胞、HUVEC、MSCを、10:7:2の割合で混合し、総細胞数として約2×10 cellsを播種したい(図21)。その結果、パターン1では、細胞播種後30時間の間に中心の硬い領域に細胞が集まり、速やかに集合体を形成した。パターン2では、細胞集合体の形成を認めたが中心への集合速度はやや遅延する傾向にあった。中心部が100kPaの条件が最適と示唆された。
【実施例】
【0060】
〔実施例7〕
(方法と結果)
ポジティブパターンでは、各円形部分が固く、その周辺が柔らかくなるように設計した(図22左)。ネガティブパターンでは、各円形部分が柔らかく、その周辺が硬くなるように設計した(図22右)。このような多数の硬さパターンを有するゲル基板は,実施例6に記載の手法をベースとし、4×4の円形パターン(円の直径約2mm、円の中心間距離約2.7mm)を有するフォトマスクにより、直径25mmのゲル基板に露光して作製した。これらのパターン化支持体を用いることで任意の場所に、任意の大きさの集合体を形成できるものと考えられる。

本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、新薬の探索及び薬効の判定、再生医療、疾病、病態の診断、有用物質生産などに利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図17】
16
【図18】
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【図19】
18
【図20】
19
【図21】
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【図22】
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