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明細書 :人工膝関節

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月20日(2017.4.20)
発明の名称または考案の名称 人工膝関節
国際特許分類 A61F   2/38        (2006.01)
FI A61F 2/38
国際予備審査の請求
全頁数 35
出願番号 特願2016-529635 (P2016-529635)
国際出願番号 PCT/JP2015/068237
国際公開番号 WO2015/199143
国際出願日 平成27年6月24日(2015.6.24)
国際公開日 平成27年12月30日(2015.12.30)
優先権出願番号 2014128832
優先日 平成26年6月24日(2014.6.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】三浦 裕正
【氏名】日野 和典
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100134979、【弁理士】、【氏名又は名称】中井 博
【識別番号】100167427、【弁理士】、【氏名又は名称】岡本 茂樹
審査請求 未請求
テーマコード 4C097
Fターム 4C097AA07
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC16
4C097SC08
4C097SC09
要約 人工膝関節にしても前十字靭帯を元の機能に近い状態で再建することが可能である人工膝関節を提供する。
人工膝関節全置換技術に使用される人工膝関節(1)であって、大腿骨部材(10)と、脛骨部材(20)と、を備え、脛骨部材(20)には、脛骨部材(20)を貫通する靭帯挿通孔(20h)が、人工膝関節(1)に置換する前の膝において、前十字靭帯(ACL)が存在していた位置に、形成されている。
これにより、靭帯挿通孔(20h)に靭帯を通すことで、大腿骨(F)の遠位端(DT)と脛骨(T)の近位端(PE)とを連結するように靭帯を設けることができ、それによって、人工膝関節(1)に置換する前の膝とほぼ同じ状態となるように前十字靭帯(ACL)を再建することが可能となる。
特許請求の範囲 【請求項1】
人工膝関節全置換技術において使用される、大腿骨と脛骨とを再建靭帯によって連結し得る人工膝関節であって、
大腿骨遠位端に取り付けられる大腿骨部材と、脛骨近位端に取り付けられる脛骨部材と、を備えており、
前記脛骨部材には、
該脛骨部材を貫通する靭帯挿通孔が形成されており、
該靭帯挿通孔は、
人工膝関節に置換する前の膝において、前十字靭帯が存在していた位置に形成されていることを特徴とする人工膝関節。
【請求項2】
前記靭帯挿通孔が、複数設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の人工膝関節。
【請求項3】
前記靭帯挿通孔は、
前記脛骨部材20の前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置に開口の中心が配置されるように形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の人工膝関節。
【請求項4】
前記脛骨部材には、
内側顆と外側顆の間に顆間隆起を備えており、
該顆間隆起の高さが、人工膝関節に置換する前の膝における顆間隆起と同等程度の高さに形成されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の人工膝関節。
【請求項5】
前記脛骨部材において、
内側顆は凹んだ曲面に形成されており、
外側顆は平坦面に形成されている
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の人工膝関節。
【請求項6】
前記脛骨部材の内側顆が、
外側顆に比べて後傾するように形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の人工膝関節。
【請求項7】
前記脛骨部材は、
内側顆および外側顆の表面が内傾している
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の人工膝関節。
【請求項8】
前記脛骨部材は、
内側顆および/または外側顆の周辺部が曲面状に形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の人工膝関節。
【請求項9】
前記脛骨部材は、
その側面および/または後面と外側顆との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されている
ことを特徴とする請求項8記載の人工膝関節。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節に関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨によって形成されている関節である。膝関節では、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端の間に、膝軟骨や半月板があり、これらがクッションの役目を果たすことによって、膝関節はスムースに稼働することができる。
【0003】
しかし、肥満や加齢などによって膝軟骨や半月板がすり減る等すれば、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端との間のクッション性が失われるだけでなく、膝関節の変形が生じる可能性がある。また、関節リウマチになったり膝にけがをしたりした場合にも、膝関節が変形するということが生じる。かかる膝関節の変形(変形性膝関節症)となった場合には、膝関節はスムースに稼働することができなくなり、患者は歩行などの際にひどい苦痛を感じ、また、歩行が困難になる場合もある。
【0004】
このような変形性膝関節症の治療法として、人工膝関節全置換技術が採用されている。この人工膝関節全置換技術では、大腿骨の遠位端および脛骨の近位端を切除して、切除した部分を人工膝関節に置換する技術である。現状でも多数の患者が人工膝関節全置換技術を受けており、痛みを除去でき、また、通常の歩行が可能になるなどの効果があり、患者の満足度は高いものとなっている。そして、人工膝関節全置換技術に使用する人工膝関節も多数開発されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
ところで、膝関節では、膝関節の稼働や姿勢を安定させるために、大腿骨と脛骨とが靭帯によって連結されている。しかし、上述した人工膝関節全置換技術を行う場合には、大腿骨の遠位端や脛骨の近位端を切除するため、その部位に連結されている靭帯、つまり、前十字靭帯や後十字靭帯が切除される場合がある。現状では、両十字靭帯を切除して、人工膝関節に靭帯機能を代用させる方法(特許文献1参照)と、前十字靭帯は切除するが後十字靭帯は温存する方法(特許文献2参照)があり、関節の損傷状況や靭帯の損傷状況に合わせて採用する方法が選択されている。
【0006】
しかるに、いずれの方法でも前十字靭帯は除去されることになる。人工膝関節に前十字靭帯の機能を代用させることはできるものの、本来の前十字靭帯の機能には程遠い。このため、人工膝関節とした患者は、通常の歩行にはそれほど不自由は感じないものの、階段昇降などの運動には不自由を感じている。
【0007】
また、スポーツによるけがなどで人工膝関節となった患者の場合、人工膝関節となってからでもスポーツをしたいという要求は強い。しかし、上述したような方法では、かかる要求には到底答えることができない。
【0008】
かかる要求に応えるために、前十字靭帯を温存する形態を有する人工膝関節も開発されている(特許文献3)。しかし、変形性膝関節症では前十字靭帯が損傷している場合が多く、また関節変形に伴い靭帯長が変化している場合もあり、特許文献3の技術では、前十字靭帯を温存しても、前十字靭帯として十分な機能を発揮させることが難しい。また、前十字靭帯の損傷に起因して生じる変形性関節症において、前十字靭帯を温存してもその機能を発揮させることは期待できない。
【0009】
特許文献4には、脛骨部材とインサートにモバイル機構(脛骨部材上を自由度をもってインサートが動く機構)を有する人工膝関節において、インサートの脱転を防ぐ機構として大腿骨部材と脛骨部材を人工靭帯によって連結する技術が開発されている。この特許文献4の技術では、人工靭帯の脛骨側部材の端部を、バネ等の弾性部材を介して脛骨側部材に対して連結しており、かかる構造とすることによって、人工靭帯の硬さを自然な硬さに近づけることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2013-172992号公報
【特許文献2】特開2013-517911号公報
【特許文献3】特表2013-517911号公報
【特許文献4】特表2011-502608号公報
【特許文献5】特開2013-215456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかるに、特許文献4の技術では、大腿骨部材と脛骨部材の間に人工靭帯を設けているので、大腿骨部材と脛骨部材とをつなぐという機能はある。また、人工膝関節部材どうしの連結であり大腿骨と脛骨は直接連結されていない。したがって、大腿骨部材と脛骨部材との間に牽引力が生じた場合に靭帯の破損や人工関節のルーズニングを来すリスクが考えられ、元の膝関節における前十字靭帯の機能を十分に発揮させることは難しい。
【0012】
人工膝関節を設けて元の膝関節に近い状態に戻す上では、前十字靭帯を再建することが求められる。しかし、特許文献4の技術は、あくまでも人工膝関節の構成の一部として人工靭帯を設けているだけであり、前十字靭帯を再建することまでは考慮されていない。
【0013】
一方、特許文献5には、脛骨部材にU字状カットを加えることにより前十字靭帯付着部を温存する旨が記載されている。さらに追加項として脛骨部材にその表裏を貫通する孔を形成し、その孔に再建前十字靭帯を挿通させることで、再建前十字靭帯を大腿骨と脛骨に固定する技術が開示されている。つまり、特許文献5では、前十字靭帯を再建して大腿骨と脛骨を連結できるようにした人工膝関節が開示されていると考えられる。
【0014】
しかし、特許文献5の技術における孔の形成は、脛骨コンポーネントの製作を容易にし、強度を増すためである旨が記載されている。つまり、特許文献5の技術では、 再建した前十字靭帯によって大腿骨と脛骨を直接連結できればよいという思想に基づいて孔を形成することが記載されているものの、孔の位置に関して具体的な記載はなく、孔のレイアウトと再建した前十字靭帯の機能との関係については考慮されていない。つまり、特許文献5の技術は、再建した前十字靭帯にその機能を発揮させる上で重要となる具体的な孔のレイアウトについては全く示唆されていない。
【0015】
上記のごとく、種々の人工膝関節が開発されているものの、元の膝関節における前十字靭帯の機能を十分に発揮させることができるものは開発されておらず、かかる人工膝関節の開発が望まれている。
【0016】
本発明は上記事情に鑑み、人工膝関節にしても前十字靭帯を元の機能に近い状態で再建することが可能である人工膝関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明の人工膝関節は、人工膝関節全置換技術に使用される、大腿骨と脛骨とを再建靭帯によって連結し得る人工膝関節であって、大腿骨遠位端に取り付けられる大腿骨部材と、脛骨近位端に取り付けられる脛骨部材と、を備えており、前記脛骨部材には、該脛骨部材を貫通する靭帯挿通孔が形成されており、該靭帯挿通孔は、人工膝関節に置換する前の膝において、前十字靭帯が存在していた位置に形成されていることを特徴とする。
第2発明の人工膝関節は、第1発明において、前記靭帯挿通孔が、複数設けられていることを特徴とする。
第3発明の人工膝関節は、第1または第2発明において、前記靭帯挿通孔は、前記脛骨部材20の前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置に開口の中心が配置されるように形成されていることを特徴とする。
第4発明の人工膝関節は、第1、第2または第3発明において、前記脛骨部材には、内側顆と外側顆の間に顆間隆起を備えており、該顆間隆起の高さが、人工膝関節に置換する前の膝における顆間隆起と同等程度の高さに形成されていることを特徴とする。
第5発明の人工膝関節は、第1、第2、第3または第4発明において、前記脛骨部材において、内側顆は凹んだ曲面に形成されており、外側顆は平坦面に形成されていることを特徴とする。
第6発明の人工膝関節は、第1乃至第5発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材の内側顆が、外側顆に比べて後傾するように形成されていることを特徴とする。
第7発明の人工膝関節は、第1乃至第6発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材は、内側顆および外側顆の表面が内傾していることを特徴とする。
第8発明の人工膝関節は、第1乃至第7発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材は、内側顆および/または外側顆の周辺部が曲面状に形成されていることを特徴とする。
第9発明の人工膝関節は、第8発明において、前記脛骨部材は、その側面および/または後面と外側顆との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明によれば、脛骨部材には、人工膝関節に置換する前の膝において、前十字靭帯が存在していた位置に靭帯挿通孔が形成されているので、靭帯挿通孔に人工靭帯や生体靭帯(以下単に再建靭帯という)を通せば、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端とを連結するように再建靭帯を設けることができる。すると、人工膝関節に置換する前の膝とほぼ同じ状態となるように前十字靭帯を再建することが可能となる。
第2発明によれば、再建された前十字靭帯を構成する各靭帯を、より元の前十字靭帯の状態に近づけることができる。
第3発明によれば、膝を屈伸させた際に、再建された前十字靭帯に発生する張力や緊張弛緩の状態を人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯と同様の動きをさせることができる。
第4発明によれば、顆間隆起を設けることによって、膝を屈伸した際に、再建された前十字靭帯と顆間隆起が干渉する状態にすることができる。すると、再建された前十字靭帯に、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯と同様の緊張弛緩状態を発生させることができる。しかも、顆間隆起によって大腿骨と脛骨の横滑りを防ぐことができる。したがって、人工膝関節に置換した膝の動きを、人工膝関節に置換する前の膝により近い状態とすることができる。
第5発明によれば、前十字靭帯が再建された状態で、内側顆および外側顆が生体の脛骨の形状に近い状態となっているので、人工膝関節の動きをより自然な動きに近づけることができる。
第6、第7発明によれば、脛骨部材の形状が、脛骨近位端の形状に近い状態となっているので、人工膝関節の動きをより自然な動きに近づけることができる。
第8発明によれば、大腿骨部材および脛骨部材の内側顆同士および/または大腿骨および脛骨部材の外側顆同士が相対的に移動した場合でも、脛骨部材の内側顆および/または外側顆の周辺部に、大きな負荷が加わることを防止できる。つまり、エッジローディングを軽減することができるので、大腿骨部材や脛骨部材の損傷を防ぐことができる。
第9発明によれば、エッジローディングを軽減することができるので、大腿骨部材や脛骨部材の損傷を防ぐことができる。しかも、人工膝関節に置換した後における膝の可動域を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の人工膝関節1の概略説明斜視図である。
【図2】本実施形態の人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図3】本実施形態の人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図4】本実施形態の人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図5】本実施形態の人工膝関節1を膝に取り付けた状態の概略説明斜視図である。
【図6】本実施形態の人工膝関節1を膝に取り付けた状態の概略説明図であって、膝を少し曲げた状態の説明図である。
【図7】本実施形態の人工膝関節1の概略説明図であって、膝を大きく屈曲させた状態の説明図である。
【図8】本実施形態の人工膝関節1の大腿骨部材10の概略説明斜視図である。
【図9】本実施形態の人工膝関節1の大腿骨部材10の概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図10】(A)は本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明斜視図であり、(B)は図11のXB-XB線断面矢視図である。
【図11】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図12】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図13】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図14】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面である。
【図15】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図16】本実施形態の人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図17】実施例のシミュレーションにおいて、前十字靭帯と脛骨の連結位置(靭帯挿通孔)の関係を示した図である。
【図18】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と脛骨の連結位置の関係を示した図である。
【図19】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と大腿骨の連結位置の関係を示した図である。
【図20】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と大腿骨の連結位置の関係を示した図である。
【図21】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図22】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図23】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図24】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図25】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図26】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図27】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図28】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図29】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図30】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図31】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図32】比較例のシミュレーションにおいて、前十字靭帯と脛骨の連結位置(靭帯挿通孔)の関係を示した図である。
【図33】比較例のシミュレーションにおいて、前十字靭帯と脛骨の連結位置(靭帯挿通孔)の関係を示した図である。
【図34】比較例において、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図35】前十字靭帯と顆間隆起の干渉状態をシミュレーションした図であり、(A)は膝を112度曲げた状態の結果を示した図であり、(B)は膝を121度曲げた状態の結果を示した図である。
【図36】比較例において、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図37】靭帯挿通孔20hを2個所設けた接触部20cの概略平面図である。
【図38】靭帯挿通孔20hを3個所設けた接触部20dの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の人工膝関節は、変形性膝関節症や関節リウマチなどの治療において、人工膝関節全置換技術に使用される人工膝関節であり、前十字靭帯を再建し得る構造としたことに特徴を有している。

【0021】
本発明において、前十字靭帯を再建するとは、前十字靭帯となる靭帯を、人工膝関節ではなく、大腿骨と脛骨に直接繋ぐように連結することを意味している。つまり、前十字靭帯となる靭帯の一端を大腿骨に直接連結し、その他端を脛骨に直接連結することを意味している。
なお、本明細書において、前十字靭帯の再建に使用される靭帯は、ポリエステルなどを素材として人工的に形成された人工靭帯と、生体の他の部位から採取された生体腱(生体靭帯)の両方を含む概念である。以下では、両方を含めて、再建靭帯という。

【0022】
(本実施形態の人工膝関節1)
図1~図7に示すように、本実施形態の人工膝関節1は、大腿骨部材10と、脛骨部材20と、を備えている。
なお、図1~図7では、右膝用の人工膝関節1の場合を代表として説明している。また、図1~図7では、構造を分かりやすくするために後十字靭帯PCLは省略しており、図1~図4では、大腿骨Fおよび脛骨Tも省略している。
また、脛骨部材20は、ベース部20aと接触部20bとを組み合わせて形成されている。しかし、以下の説明では、ベース部20aの上面に接触部20bを載せて連結し、ベース部20aと接触部20bとが組み合わされた状態を前提に説明する。つまり、一つの部材で脛骨部材20が形成されているかのように説明する。

【0023】
(大腿骨部材10)
図5~図7に示すように、大腿骨部材10は、大腿骨Fの遠位端DTに取り付けられるものである。この大腿骨部材10は、大腿骨Fの内側顆MCに取り付けられる部分(以下単に内側顆11という)と、大腿骨Fの外側顆LCに取り付けられる部分(以下単に外側顆12という)とを有している。具体的には、内側顆11および外側顆12は、それぞれ側面視で略J字状、つまり、弧状に形成されている。そして、大腿骨部材10では、内側顆11と外側顆12の間に隙間10hができるように形成されている。つまり、大腿骨部材10は、脛骨部材20と接触する内側顆11および外側顆12の表面が、人体の正常な大腿骨Fの遠位端DTとほぼ同等の形状となるように形成されている(図8、図9参照)。

【0024】
(脛骨部材20)
図5~図7に示すように、脛骨部材20は、脛骨Tの近位端PEに取り付けられるものである。この脛骨部材20は、その上部に脛骨Tの内側顆MCに相当する部分(以下単に内側顆21という)と、大腿骨Fの外側顆LCに相当する部分(以下単に外側顆22という)とを有している(図10~図13参照)。

【0025】
そして、脛骨部材20には、その後方部の内側顆21と外側顆22の間に、切欠き20sが形成されている。具体的には、元の後十字靭帯PCLが通っていた位置に後十字靭帯PCLが配置できるように、切欠き20sは形成されている(図10、図11、図14、図15参照)。

【0026】
しかも、脛骨部材20には、その前方部の内側顆21と外側顆22の間に、脛骨部材20を貫通する靭帯挿通孔20hが形成されている。具体的には、脛骨部材20を脛骨Tに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLが通っていた位置に前十字靭帯ACLが配置できるように、靭帯挿通孔20hは形成されている。より詳しくいえば、脛骨部材20の上面から斜め下方(内方)に向かって貫通するように、靭帯挿通孔20hは形成されている(図14、図16参照)。

【0027】
そして、脛骨部材20では、内側顆21と外側顆22の間であって、靭帯挿通孔20hと切欠き20sとの間には、顆間隆起23が形成されている(図10~図13参照)。

【0028】
つまり、脛骨部材20は、その上部の形状が、人体の正常な脛骨Tの近位端PEとほぼ近似した形状に形成されている。

【0029】
(本実施形態の人工膝関節1の取付例)
以上のごとき構成を有しているので、本実施形態の人工膝関節1は以下のように取り付けられる。

【0030】
まず、人工膝関節1を取り付ける膝について、大腿骨Fの遠位端DTを部分的に切除し、大腿骨部材10を取り付けることができる形状に加工する。具体的には、大腿骨Fの内側顆MCと外側顆LCを、大腿骨部材10の内側顆11および外側顆12の内面に密着する形状に加工する。

【0031】
また、脛骨Tの近位端PEも部分的に切除し、脛骨部材20を取り付けることができる形状に加工する。具体的には、脛骨Tの近位端PEの端面が平坦面となるように、脛骨Tの近位端PEが切除される。また、脛骨部材20はステム25を有しているので、脛骨Tの近位端PEの端面にはステム25が挿入される孔も形成される。

【0032】
このとき、大腿骨Fの遠位端DTと脛骨Tの近位端PEとをつなぐ靭帯のうち、前十字靭帯ACLと後十字靭帯PCLは切除される。
なお、後十字靭帯PCLを温存する場合には、前十字靭帯ACLだけが切除される。

【0033】
ついで、大腿骨Fの遠位端DTに被せるように大腿骨部材10を取り付ける。すると、大腿骨Fの遠位端DTでは、大腿骨Fの内側顆MCおよび外側顆LCが、大腿骨部材10の内側顆11および外側顆12によって覆われた状態となる(図5~図7参照)。

【0034】
また、脛骨部材20を脛骨Tの近位端PEに取り付ける。このとき、脛骨Tの近位端PEの端面に形成した孔にステム25を挿入し、かつ、脛骨部材20の底面20aが脛骨Tの近位端PEの端面と面接触するように、脛骨部材20を脛骨Tの近位端PEに取り付ける。すると、脛骨Tの近位端PEでは、脛骨Tの内側顆MCおよび外側顆LCが、脛骨部材20の内側顆21および外側顆22に置換された状態となる。また、脛骨Tの顆間隆起Eが、脛骨部材20の顆間隆起23に置換された状態となる(図5~図7参照)。

【0035】
(後十字靭帯PCLの再建)
ここで、大腿骨部材10では、内側顆11と外側顆12の間に隙間10hを有しており、脛骨部材20には、その後方部の内側顆21と外側顆22の間に、切欠き20sが形成されている。すると、切欠き20sと隙間10hを通して、脛骨Tの近位端PEと大腿骨Fの遠位端DTとの間を連通する空間が形成される。つまり、大腿骨Fの遠位端DTおよび脛骨Tの近位端PEに大腿骨部材10と脛骨部材20を取り付けても、後十字靭帯PCLが通っていた部分に空間が形成された状態となる。

【0036】
このため、切欠き20sと隙間10hを通るように、再建靭帯を配置すれば、後十字靭帯PCLを再建することができる。具体的には、大腿骨Fの遠位端DTにおいて元の後十字靭帯PCLの一端が接続されていた位置に再建靭帯の一端を連結し、脛骨Tの近位端PEにおいて元の後十字靭帯PCLの他端が接続されていた位置に再建靭帯の他端を連結する。すると、元の後十字靭帯PCLがあった位置に再建靭帯が配置できるので、再建靭帯によって後十字靭帯PCLを再建することができる。
なお、後十字靭帯PCLを温存した場合には、切欠き20sと隙間10hに後十字靭帯PCLを配置することができる。つまり、元の位置に後十字靭帯PCLを配置することができるのである。

【0037】
(前十字靭帯ACLの再建)
また、本実施形態の人工膝関節1では、脛骨部材20が、脛骨部材20を貫通する靭帯挿通孔20hを有している。この靭帯挿通孔20hは、上述したように、脛骨部材20を脛骨Tに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLが通っていた位置に前十字靭帯ACLが配置できるように形成されている。
しかも、大腿骨部材10は内側顆11と外側顆12の間に隙間10hを有している。このため、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10と脛骨部材20を取り付けても、前十字靭帯ACLが通っていた部分には空間が形成された状態となる。

【0038】
このため、靭帯挿通孔20hと隙間10hを通るように、再建靭帯ACLを配置すれば、前十字靭帯ACLを再建することができる。

【0039】
具体的には、大腿骨Fの遠位端DTにおいて元の前十字靭帯ACLの一端が接続されていた位置に再建靭帯ACLの一端を連結する。そして、再建靭帯ACLの他端部を靭帯挿通孔20hに通し、その他端を脛骨Tの近位端PEに連結する。
なお、脛骨Tの近位端PEには、靭帯挿通孔20hと連続する孔が形成されており、この穴に再建靭帯ACLの他端部を通して、再建靭帯ACLの他端部が脛骨Tの近位端PEに固定できるようになっている。

【0040】
ここで、靭帯挿通孔20hは、元の前十字靭帯ACLが通っていた位置に前十字靭帯ACLが配置できるように形成されている。具体的には、脛骨部材20の上面における靭帯挿通孔20hの開口の位置が、脛骨Tの近位端PEにおいて元の前十字靭帯ACLの他端が接続されていた位置となるように、靭帯挿通孔20hは形成されている。したがって、靭帯挿通孔20hに再建前十字靭帯ACLを挿通すれば、脛骨Tの近位端PEにおいて元の前十字靭帯ACLの他端が接続されていた位置に、再建靭帯ACLの他端部が配置されることになる。

【0041】
したがって、靭帯挿通孔20hを通して再建靭帯ACLの他端を脛骨Tの近位端PEに配置すれば、元の前十字靭帯ACLがあった位置(やその近傍)に再建靭帯ACLが配置できるので、再建靭帯ACLによって前十字靭帯ACLを再建することができるのである。

【0042】
以上のごとく、本実施形態の人工膝関節1では、後十字靭帯PCLだけでなく、前十字靭帯ACLも再建できる。つまり、脛骨部材20に靭帯挿通孔20hを形成しているので、靭帯挿通孔20hに再建靭帯ACLを通せば、大腿骨Fの遠位端DTと脛骨Tの近位端PEとを連結するように再建靭帯ACLを設けることができる。しかも、設置した再建靭帯ACLは、人工膝関節1に置換する前の膝において前十字靭帯ACLがあった位置に配置することができる。したがって、本実施形態の人工膝関節1では、後十字靭帯PCLだけでなく、人工膝関節1に置換する前の膝とほぼ同じ状態となるように前十字靭帯ACLを再建することが可能となるのである。

【0043】
なお、上述したように、靭帯挿通孔20hは人工膝関節1に置換する前の膝において前十字靭帯ACLがあった位置に形成するが、かかる位置やその角度(脛骨Tの軸方向に対する角度)などを決める方法はとくに限定されない。例えば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置を事前に検査しておき、その検査に基づいて、靭帯挿通孔20hを形成する位置を決定するようにしてもよい。

【0044】
また、複数の人の前十字靭帯ACLの位置やその角度を測定し、統計的に靭帯挿通孔20hを形成する位置を決定するようにしてもよい。具体的には、脛骨部材20の上面において前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置に開口の中心が配置されるように、直径5~12mmの靭帯挿通孔20hが形成された脛骨部材20を使用する。すると、この脛骨部材20の靭帯挿通孔20hに再建靭帯ACLの他端部を配置すれば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置に再建靭帯ACLを配置することができる。具体的には、再建靭帯ACLを一本の紐とみなした場合に、その中心軸が開口の中心(大腿骨部材10側の面(脛骨部材20の上面)における中心)を通過するように配置すれば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置に再建靭帯ACLを配置することができる。すると、前十字靭帯ACLの動きを、人の前十字靭帯と同等の動きをさせることができる(実施例参照)。

【0045】
発明者らの研究の結果では、膝を屈伸をした際に、人の前十字靭帯ACLは屈曲角度によって、張力が加わって伸びた状態と、張力が弱くなって若干弛緩した状態との間で変化することが確認された。しかも、その変化は前十字靭帯ACLの中心軸からの距離や位置によって若干異なることも把握された。しかし、上述したような位置に形成された靭帯挿通孔20hに再建した前十字靭帯ACLを配置すれば、再建した前十字靭帯ACLも、前十字靭帯ACLの中心軸からの距離や位置によって異なる緊張状態を再現することが可能となる。しかも、前十字靭帯ACLの機能を人の前十字靭帯と同等にすることができる。

【0046】
そして、このような再建した前十字靭帯ACLの配置に加えて、後述するような脛骨部材20の内側顆21および外側顆22の形状、顆間隆起23を有していれば、より人工膝関節1を取り付ける人の元の前十字靭帯ACLの動きに近づけることができる。

【0047】
上述した脛骨部材20の靭帯挿通孔20hの開口の位置は、上述した範囲内でも、性別や人種等によって若干差があるので、各患者が該当するカテゴリーに合わせて変化させればよい。例えば、脛骨部材20の上面において前方から33~46%、左右方向の中央から左右に0~5%の位置に開口の中心が配置されるように、直径6~9mmの靭帯挿通孔20hが形成された脛骨部材20を使用する。すると、この脛骨部材20の靭帯挿通孔20hに再建靭帯ACLの他端部を配置すれば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置に再建靭帯ACLを配置することができる。

【0048】
(靭帯挿通孔20hを複数設ける場合)
なお、上述したように、発明者らの研究の結果によって、前十字靭帯ACLは、その中心軸からの距離によって、膝を屈伸した際の張力の発生状況が異なることが把握された。そして、正常な前十字靭帯ACLでは、複数本の靭帯の束によって前十字靭帯ACLが形成されており、各束によって、膝を屈伸した際の張力の発生状況が異なることも確認された。したがって、再建する前十字靭帯ACLを、複数本の再建靭帯の束で形成した場合、本実施形態の人工膝関節1を使用して再建された前十字靭帯を、元の前十字靭帯ACLの機能により近づけることができる。この場合、複数本の再建靭帯の束で形成された再建前十字靭帯ACLを脛骨部材20に形成された一つの靭帯挿通孔20hに全て挿通してもよいし、脛骨部材20に複数の靭帯挿通孔20hを設けて、各靭帯挿通孔20hに各束を一つずつ(または複数束)を挿通するようにしてもよい。この場合、各束に発生する張力を、再建する前十字靭帯ACLにおいて同じ位置に配置されている靭帯の束に発生する張力により近づけることができるので、元の前十字靭帯ACLにより近い機能を発揮させることができる。この場合、複数の靭帯挿通孔20hを設ける位置は、上述した靭帯挿通孔20hを形成する範囲(つまり、脛骨部材20の上面において前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置)に全ての靭帯挿通孔20h(または大部分の靭帯挿通孔20h)が配置されるように形成する。例えば、2本の再建靭帯の束で形成された再建前十字靭帯ACLを設ける場合には、図37に示すような位置に靭帯挿通孔20hを2つ設ける。すると、上記範囲に靭帯挿通孔20hの全体(または中心)が配置されるので、再建靭帯の束にも上記範囲に全体(または中心)が配置される。すると、各靭帯挿通孔20hに配置された再建靭帯の束に発生する張力を、再建する前十字靭帯ACLにおいて同じ位置に配置されていた靭帯の束に発生する張力により近づけることができる。また、3本の再建靭帯の束で形成された再建前十字靭帯ACLを設ける場合には、図38に示すような位置に靭帯挿通孔20hを3つ設ける。すると、上記範囲に靭帯挿通孔20hの全体(または中心)を配置することができる。また、形成する靭帯挿通孔20hは、大きすぎると隣接する靭帯挿通孔20hとつながったり干渉したりするし、小さすぎると靭帯の束と干渉して靭帯の束が損傷する可能性がある。したがって、複数の靭帯挿通孔20hを設ける場合には、各靭帯挿通孔20hの大きさ(直径)は、形成する孔の個数にもよるが、1~6mm程度が好ましい。例えば、図37のような位置に靭帯挿通孔20hを2つ設けた場合には、靭帯挿通孔20hの孔径は4~6mm程度が好ましい。同様に、図38のような位置に靭帯挿通孔20hを3つ設けた場合には、靭帯挿通孔20hの孔径は3~6mm程度が好ましい。

【0049】
(顆間隆起23)
また、脛骨部材20では、内側顆21と外側顆22の間であって、靭帯挿通孔20hと切欠き20sとの間には、顆間隆起23が形成されている。この顆間隆起23は、その高さや形状を、人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さに形成することが好ましい。前十字靭帯ACLを再建すると、大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の内側顆21側に引き付ける力が発生している。すると、外側顆22が平坦面に形成されていれば、大腿骨部材10の外側顆12は内方に移動しやすくなる。しかし、顆間隆起23の高さが上記のような高さに形成されていれば、大腿骨部材10の外側顆12の移動を制限することができるので、人工膝関節1に置換した膝を安定した状態とすることができる。

【0050】
しかも、健全な膝では、顆間隆起23は、前十字靭帯ACLや後十字靭帯PCLとの接触等により相互作用を生じ、その相互作用によって前十字靭帯ACLや後十字靭帯PCLに適切な張力を発生させている。したがって、再建した前十字靭帯ACLを適切な位置に配置し(つまり脛骨部材20の靭帯挿通孔20hを適切な位置に形成し)、顆間隆起23を形成すれば、前十字靭帯ACLの動きや発生する張力を、より人の前十字靭帯と同等のものとすることができる。

【0051】
なお、上述した顆間隆起23の高さとは、脛骨部材20の外側顆22の上面からの高さを意味しているが、その高さは、必ずしも人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さにしなくてもよい。例えば、人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さに対して、70~120%程度でもよい。

【0052】
また、顆間隆起23の先端には、生体の脛骨Tと同様に若干の凹みが設けられている。かかる凹みを設けることで、顆間隆起23と干渉した前十字靭帯ACLに適切な張力を発生させることができる。とくに、複数の再建靭帯の束から前十字靭帯ACLが形成されている場合には、若干の凹みを設けていれば、複数の再建靭帯の束が顆間隆起23の先端と干渉した際に、各再建靭帯の束ごとに干渉状態が変化する。つまり、各再建靭帯の束に発生する張力がそれぞれ適切な状態をなるように調整されるので、前十字靭帯ACLの動きや発生する張力を、さらに人の前十字靭帯と同等のものとすることができる。

【0053】
(脛骨部材20の内側顆21および外側顆22)
脛骨部材20の内側顆21および外側顆22の形状は限定されないが、生体の脛骨Tの形状に近い形状とすることが望ましい。具体的には、平面視で、内側顆21が外側顆22よりも大きくなっており、内側顆21は凹んだ曲面であるが、外側顆22は平坦面に形成されていることが望ましい(図10~図13参照)。

【0054】
かかる形状となっている場合、後十字靭帯PCLがあっても前十字靭帯ACLがなければ、外側顆22は平坦面に形成されているので、膝が不安定になる。つまり、大腿骨部材10の外側顆12が、脛骨部材20の外側顆22に対して前後や左右に滑ってしまい、膝を安定して動かすことができなくなる。しかし、本実施形態の人工膝関節1の場合、前十字靭帯ACLが再建されているので、再建された前十字靭帯ACLによって大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の外側顆22に向けて引き付けておくことができる。したがって、外側顆22が平坦面に形成されていても、大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の外側顆22に接触した状態で移動させることができる。しかも、大腿骨部材10の外側顆12には、内方、つまり、大腿骨部材10の内側顆11側に引き付ける力も加わることとなる。すると、膝を曲げた際などにおいて、大腿骨部材10の外側顆12の動きを、自然の膝と同等の動き(円弧状の運動)を実現させることができる

【0055】
しかも、脛骨部材20の内側顆21が外側顆22に比べて後傾し、かつ、内側顆21および外側顆22の表面が内傾するように形成されていることがより望ましい。かかる形状も、後十字靭帯PCLがあっても前十字靭帯ACLがない場合には、膝の動きを不安定にする要因となる。しかし、本実施形態の人工膝関節1であれば、後十字靭帯PCLおよび前十字靭帯ACLが再建されているので、脛骨部材20の内側顆21および外側顆22がかかる形状となっていることによって、人工膝関節1により自然の膝に近い安定した動きを実現させることができる。

【0056】
例えば、外側顆22の上面に対して、内側顆21の上面が3~7°程度後傾していることが望ましい。また、脛骨部材20を脛骨Tに取り付けたときに、脛骨Tの軸方向に対して3~7°程度(いいかえれば、ステム25の軸方向に対して3~7°程度)内傾していることが望ましい。なお、上記後傾角度を判断する上での内側顆21の上面とは、内側顆21を側面から見た時に、その前端と後端をつなぐ面を意味している。上記内傾角度を判断する上での内側顆21の上面とは、内側顆21を背面から見た時に、その右端と左端をつなぐ面を意味している。

【0057】
また、脛骨部材20は、内側顆21および/または外側顆22の周辺部が曲面状に形成されていることが望ましい。つまり、内側顆21の表面は、その周囲の部分と曲面によって連続していることが望ましい。また、外側顆22の表面も、その周囲の部分と曲面によって連続していることが望ましい。

【0058】
例えば、図10および図11に示すように、顆間隆起23と内側顆21および/または外側顆22とが連続する部分やその他の領域と連続する部分(図10および図11では21a,22aの部分)は、下方に凹むような曲面で形成することが望ましい。つまり、脛骨部材20において、その側面や後面、前面と内側顆21および/または外側顆22とが連続する部分以外は、下方に凹むような曲面で形成することが望ましい。

【0059】
また、図10~図14に示すように、脛骨部材20の側面および/または後面と外側顆22との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されていることが望ましい。つまり、脛骨部材20の外側顆22の側方および/または後方では、側面および/または後面と外側顆22が滑らかに連続する曲面(言い換えれば断面が弧状)となるように形成されていることが望ましい。

【0060】
内側顆21および/または外側顆22の周辺部を上記のごとき形状とすれば、以下の理由により、エッジローディングを軽減することができるという利点が得られる。

【0061】
脛骨部材20の内側顆21は、大腿骨部材10の内側顆11の表面と接触しており、膝を曲げた際に、その相対的な位置が変化する。このとき、大腿骨部材10の内側顆11が脛骨部材20の内側顆21のエッジ(周辺部)や顆間隆起23等に向かって移動する。脛骨部材20の内側顆21の周辺部が、上記のような形状となっていれば、大腿骨部材10の内側顆11と脛骨部材20の内側顆21とが強く接触する部分が発生しない。具体的には、両者の接触面積が小さくなり面圧が極端に強くなる状態が発生しない。つまり、エッジローディングを軽減できるので、大腿骨部材10の内側顆11や脛骨部材20の内側顆21の損傷を防ぐことができ、人工膝関節1の耐久性を向上させることができる。

【0062】
同様に、脛骨部材20の外側顆22の周辺部も、上記のような形状とすれば、脛骨部材20の外側顆22と大腿骨部材10の外側顆12との間でも、エッジローディングを軽減することができる。すると、大腿骨部材10の外側顆12や脛骨部材20の外側顆22の損傷を防ぐこともできるので、人工膝関節1の耐久性を向上させることができる。

【0063】
とくに、脛骨部材20の外側顆22の周辺部を上記のような形状とすれば、エッジローディングを軽減できるとともに、術後可動域を改善できるという利点も得られる。つまり、本実施形態の人工膝関節1に置換した場合でも、膝関節を動かしたとき(つまり屈伸やひねり等を加えたとき)の可動域を、従来の人工膝関節に比べて、健康な膝関節に近づけることができる。

【0064】
なお、内側顆21および/または外側顆22と周囲の部分との境界部分における曲面の形状は、内側顆21および/または外側顆22が周囲の部分と滑らかに連続する曲面となっていればよく、その曲率半径などはとくに限定されない。
また、境界部分の曲面の曲率半径は、位置によって異なるようにしてもよい。
さらに、側面および/または後面と内側顆21および/または外側顆22との境界部分を弧状ではなく、平面で形成してもよい。つまり、側面および/または後面と内側顆21および/または外側顆22とが形成する角を面取りしてもよい。しかし、上記境界部分を曲面とすれば、面取りする場合に比べて、エッジローディングを軽減でき、術後の可動域を改善できるという点で好ましい。
さらに、上記例では、脛骨部材20の側面および/または後面と外側顆22が滑らかに連続する曲面となるように形成されている場合を説明したが、もちろん、脛骨部材20の前面と外側顆22との境界部分も滑らかに連続する曲面となるように形成されていてもよい。

【0065】
(脛骨部材20について)
また、脛骨部材20は、ステム25から内側顆21、外側顆22まで一体で形成してもよい。しかし、脛骨部材20の脛骨Tに固定されるベース部20a(図14~図16)と、ベース部20aに取り付けられる接触部20b(図10~図13)とを別体で形成し、両者を組み合わせて脛骨部材20を形成するようになっていることが望ましい。例えば、内側顆21や外側顆22、顆間隆起23を備えた接触部21bを、ベース部20aに対して着脱可能となるように形成してもよい。この場合、強度が必要であるベース部20aは、生体適合性が高くかつ剛性の高い素材(例えば、チタン、コバルトクロムなど)を使用し、接触部20bには、滑り性および耐摩耗性の高い素材(例えば、超高分子ポリエチレンなど)を使用することができる。つまり、各部位を、求められる機能に適した素材で形成することができるので、人工膝関節1の円滑な作動を確保しつつ、耐久性を高めることができる。

【0066】
なお、ベース部20aと接触部20bに形成される靭帯挿通孔20hは、両者を組み合わせた状態において、その内面が滑らかに連続するように形成されている。つまり両者を組み合わせた状態において、ベース部20aの上面の開口と接触部20bの底面の開口とが一致し、かつ、両者の軸方向が一致するように形成されている。このため、脛骨部材20の靭帯挿通孔20hは、ベース部20aと接触部20bとを組み合わせた状態で、接触部20bの上面からベース部20aの側面まで連続した貫通孔となるのである。なお、靭帯挿通孔20hが複数設けられる場合には、各靭帯挿通孔20hが上記のような構成となる。

【0067】
また、ベース部20aと接触部20bとを連結する方法はとくに限定されない。従来の人工膝関節において、ベース部20aに相当する部分と接触部20bに相当する部分とを連結する公知の方法を採用することができる。例えば、図14に示すように、ベース部20aの上面に凹みを設け、その凹みの内壁に係合溝を形成する。一方、図13に示すように、接触部20bの下面に、ベース部20a上面の凹みと嵌合する嵌合部を設け、その嵌合部の側面に係合溝と係合するフランジ状の部分を設けておく。すると、接触部20bの嵌合部をベース部20a上面の凹みに入れてフランジ状の部分を係合溝と係合させれば、ベース部20aと接触部20bとをしっかりと固定できる。つまり、大腿骨部材10と脛骨部材20とが相対的に動いた場合でも、ベース部20aと接触部20bがずれたり動いたりすることを防ぐことができる。
【実施例】
【0068】
正常な前十字靭帯の機能を評価し、本発明の人工膝関節を使用した場合において、再建する前十字靭帯が正常膝の靭帯機能を発揮するために必要な孔のレイアウトを検証するために、発明者らが独自に開発したイメージマッチング法(Ishimaru M, Hino K, Miura H etc, J Orthop Res. 2014 May; 32(5) :619-26. doi: 10.1002/jor.22596.参照)を用いてシミュレーションを実施し、生体膝の荷重、動的条件下における膝屈曲角度と靭帯長(前十字靭帯が大腿骨に連結されている一端と前十字靭帯が脛骨に連結されている一端との距離:以下単に靭帯の長さという)の関係を求めた。
【実施例】
【0069】
実施例では、複数の前十字靭帯の束(1~20)の一端が靭帯挿通孔の位置に配置され(図17、図19参照)、複数の前十字靭帯の束(1~20)の他端が図20に示すような位置に配置された場合について、膝の屈曲角度と各前十字靭帯の束(1~20)の長さとの関係をシミュレーションした。つまり、シミュレーションでは、図17に示すような座標において、脛骨部材20の前後方向(Posterior/Anterior)において前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置内に、複数の前十字靭帯の束(1~20)の一端が配置した。また、図18に示すような座標において、大腿骨の正側面方向におけるShallow/Deep方向において前方から12~40%、High/Low方向において10~60%の位置内に、複数の前十字靭帯の束(1~20)の他端が配置した。
【実施例】
【0070】
なお、図18、図20において、各数字の位置が各束を連結した位置であり、同じ番号の位置が互いに連結されている。また、数字1~10が前十字靭帯における前側の群(AM群)であり、数字11~20が前十字靭帯における後側に位置する束(PL群)になる。
【実施例】
【0071】
結果を図21~31に示す。
まず、図21に示すように、実施例では、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さの変化の傾向が、正常膝の前十字靭帯(DEFORT)とほぼ同じような傾向を示すことが確認された、つまり、実施例のように脛骨部材に靭帯挿通孔を形成した場合には、再建した前十字靭帯を、人の前十字靭帯と同等の機能を発揮させることができることが確認された。
【実施例】
【0072】
また、図22~31に示すように、どの束でも、膝の屈曲角度に応じて、束の長さが変化することが確認できる。そして、束によって、緊張状態と弛緩状態が生じる角度が異なっていることが確認できる。例えば、束1、2、4、5、11では、屈曲が深くなるまで束の長さが変化しない状態(緊張状態)が維持される一方、束17、18、19、20のように、屈曲が浅い位置から弛緩状態が発生し、屈曲が深くなるほど弛緩が進む状態が確認される。つまり、前十字靭帯を一本の束と見た場合に、その半径方向の位置や中心軸まわりの角度によって、束の緊張状態や弛緩状態が様々な変化を示すことが確認できる。このことから、前十字靭帯を、脛骨部材や大腿骨にある程度の面で接続した状態とすることによって、前十字靭帯の種々の機能を分散させることができるようになることが確認された。
【実施例】
【0073】
一方、比較例としては、脛骨部材において、特許文献5に開示されている位置(図32、33)に靭帯挿通孔を形成した場合をシミュレーションした。図34に示すように、比較例では、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さの変化の傾向が、膝の曲げ角度を大きくすることによって、人の前十字靭帯(DEFORT)とは異なった傾向を示すことが確認された。特許文献5に開示されている孔の位置が本来の解剖学的な位置と異なるため、前十字靭帯が極端な緊張パターンをとっていることが確認された。このことから、特許文献5に開示されているように孔を形成しても、本来の正常膝がもつ緊張パターンを生み出すことは困難であることが明らかとなった。つまり、単に前十字靭帯を通す孔を形成しただけでは、再建した前十字靭帯に、十分な機能を発揮させることができないことが確認された。
【実施例】
【0074】
(前十字靭帯と顆間隆起との干渉状態について)
上述した実施例において、前十字靭帯を構成する各再建靭帯の束が、膝を屈曲した際にどのように顆間隆起と干渉するかをシミュレーションによって確認した。シミュレーションでは、112度、121度、131度の各角度に膝を曲げた場合について、それぞれ再建靭帯の束を顆間隆起との干渉状態を確認した。
なお、各再建靭帯の束は、脛骨部材および大腿骨に図17~20に示した位置に接続した。
【実施例】
【0075】
図35、36に示すように、膝を屈曲することによって、前十字靭帯を構成する複数の再建靭帯の束のうち、後側に位置する束(PL群)は顆間隆起と強く干渉するが、前側に位置する束(AM群)は顆間隆起との干渉が弱いことが確認された。そして、膝の曲げが深くなるほど、その干渉がつまり、前十字靭帯を再建する場合、一本の再建靭帯で形成するよりも複数の再建靭帯の束で形成すれば、より生体の前十字靭帯に近い張力を発生させることができる可能性が高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の人工膝関節は、変形性膝関節症や関節リウマチなどの治療における人工膝関節全置換技術に使用される人工膝関節として適している。
【符号の説明】
【0077】
1 人工膝関節
10 大腿骨部材
11 内側顆
12 外側顆
20 脛骨部材
20h 靭帯挿通孔
21 内側顆
22 外側顆
23 顆間隆起
F 大腿骨
DT 遠位端
T 脛骨
PE 近位端
ACL 前十字靭帯
PCL 後十字靭帯
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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