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明細書 :アルコール製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月30日(2017.3.30)
発明の名称または考案の名称 アルコール製造方法
国際特許分類 C12P   7/04        (2006.01)
C12P   7/10        (2006.01)
C12P   7/16        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12P 7/04
C12P 7/10
C12P 7/16
C12M 1/00 H
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 28
出願番号 特願2015-562894 (P2015-562894)
国際出願番号 PCT/JP2015/054324
国際公開番号 WO2015/122538
国際出願日 平成27年2月17日(2015.2.17)
国際公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
優先権出願番号 2014027308
優先日 平成26年2月17日(2014.2.17)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】田丸 浩
出願人 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B064
Fターム 4B029AA02
4B029BB06
4B029CC01
4B029DA05
4B029DB01
4B029DD00
4B029DF01
4B064AC02
4B064AC03
4B064AC04
4B064CA05
4B064CB12
4B064CC06
4B064CC22
4B064DA16
要約 セルロース含有原料から効率的にアルコールを製造するための、新規な方法を提供することを課題とする。セルロース含有原料を基質として、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同一容器内で培養してアルコールを製造する。
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース含有原料を基質として、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同一容器内で培養すること、を特徴とするアルコール製造方法。
【請求項2】
ヘミセルロースを含まない基質の場合はセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌とを同時に投入し、セルロース及びヘミセルロースを含有する基質の場合はセルロソーム生産菌を投入した後にアルコール発酵菌を投入すること、を特徴とする請求項1に記載のアルコール製造方法。
【請求項3】
前記セルロース含有原料はセルロースとヘミセルロースを含有し、セルロースとヘミセルロースの含有比に応じて、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の投入時期を決定すること、を特徴とする請求項1に記載のアルコール製造方法。
【請求項4】
前記セルロソーム生産菌によるセルロース又はヘミセルロースの分解と前記アルコール発酵菌によるアルコール発酵が並行する期間を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項5】
前記セルロソーム生産菌がクロストリジウムセルロボランスであり、前記アルコール発酵菌がクロストリジウムアセトブチリカム又はクロストリジウムベイジェリンキーである、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項6】
培養温度が25℃~40℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項7】
前記培養中において、生成したアルコールが連続的又は間欠的に回収される、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項8】
前記セルロース含有原料が、柑橘類由来原料、イネ科由来原料及びマメ科由来原料からなる群より選択される1以上の原料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項9】
前記柑橘類由来原料が柑橘類搾汁粕であり、
前記イネ科由来原料が糠であり、
前記マメ科由来原料が豆粕である、請求項8に記載のアルコール製造方法。
【請求項10】
前記アルコールが、エタノール、ブタノール又はイソプロパノール、或いはこれらの二つ以上の組合せである、請求項1~9のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
【請求項11】
前記セルロース含有原料が、セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスから該糖を回収した後の残渣であり、
前記培養とは別に、前記バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養し、該培養で得られたアルコールを、前記培養で得られたアルコールとともに回収する、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスを原料としたアルコールの製造に使用される製造システムであって、
前記バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養するための第1培養槽と、
糖を回収した後の残渣を基質としてセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養するための第2培養槽と、
前記第1培養槽及び前記第2培養槽から回収したアルコールを収容するためのアルコール貯留槽と、を備える製造システム。
【請求項13】
前記第1培養槽の温度を調節するための第1温度調節手段と、前記第2培養槽の温度を調節するための第2温度調節手段を更に備える、請求項12に記載の製造システム。
【請求項14】
前記第1培養槽と前記アルコール貯留槽の間、及び前記第2培養槽と前記アルコール貯留槽の間に、ガスストリッピング用冷却設備が備えられる、請求項12又は13に記載の製造システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース含有原料からアルコールを製造する方法に関する。さらに詳しくは、セルロソーム生産菌及びアルコール発酵菌を利用したアルコール製造方法及びそれに使用するシステムに関する。本出願は、2014年2月17日に出願された日本国特許出願第2014-027308号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
近年、稲わら、バッカス、植物残渣等のバイオマスからエタノール、ブタノール等のアルコールを製造する様々な技術が開発されている。バイオマスからクロストリジウム属の微生物によりアルコールを製造する技術として、例えば特許文献1では、クロストリジウムフィトフェルメンタスやクロストリジウムセルロボランス等のクロストリジウム株を第1の微生物として、リグノセルロース系バイオマスを発酵させ、さらにサッカロミセス・セレビシエ等の第2の微生物によりヘキソースまたはペントースサッカリドの発酵をさせることで、エタノール等の発酵最終生成物を得る方法が開示されている。また、特許文献2では、サトウキビ、テンサイ、カエデ等の植物物質を再生可能な出発物質の一つとして挙げており、これをクロストリジウムアセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)またはこれらの変異体の存在下で発酵させることにより、ブタノールを含む混合物を製造させ、これからtert-ブチルヒドロペルオキシドを製造し、単離する技術が開示されている。さらに柑橘類由来原料をバイオマスとする技術として、特許文献3では、柑橘類の果実、絞り粕等に由来する多糖類をクロストリジウム属等の微生物によりエタノール、ブタノール等のコモディケミカルに変換する方法が開示されている。また、特許文献4では、柑橘類の廃棄物等のリグノセルロース性の原料をAspergilus、Clostridium等の属に属している微生物で分解し、エタノール等のリグノセルロース性の原料の分解物を含む組成物を得ることが開示されている。
【0003】
特許文献5にもセルロース分解菌とアルコール発酵菌を利用したアルコールの製造方法が提案されているが、高温での反応が必要であり、製造に伴う消費エネルギー及び製造コストの面で改善が望まれる。また、セルロース分解菌がセロビオースまでしか分解できず、アルコール発酵菌の炭素源であるグルコースを得るため、遺伝子組換えによってセルロース分解菌にグリコシダーゼ(セロビオース分解酵素)を発現させている。一方、特許文献6に開示されたアルコール等の製造方法ではセルロースの分解及びアルコール発酵を順次行っており、効率的な製造方法とはいえない。
【0004】
既報の技術により、様々なバイオマスからアルコール(エタノール、ブタノールなど)を製造可能な状況にある。しかしながら、効率化及び製造コストの低減に対する要望は依然として高く、一層効率的なアルコールの製造方法の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2012-523852号公報
【特許文献2】特表2012-504117号公報
【特許文献3】特表2010-539988号公報
【特許文献4】特表2012-520682号公報
【特許文献5】国際公開第2013/070949A1号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2014/0329285号明細書
【0006】

【非特許文献1】日本農芸化学会2012年度大会、要旨集、講演番号4SY01-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、セルロース含有原料から効率的にアルコールを製造するための、新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題の解決を目的として鋭意検討した結果、セルロース含有原料を基質として、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同一容器内で培養すること(換言すれば、並行複発酵)によれば、セルロース含有原料から効率的にアルコールの製造が可能になることを見出した。また、セルロース含有原料を有効に活用できる製造システムの構築にも成功した。以下の発明は、主としてこれらの成果に基づく。なお、本発明の一態様で使用するセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の有用性について過去に報告したが(例えば非特許文献1)、本発明での各菌の利用形態は特徴的であり、これまでの報告と一線を画する。
[1]セルロース含有原料を基質として、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同一容器内で培養すること、を特徴とするアルコール製造方法。
[2]ヘミセルロースを含まない基質の場合はセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌とを同時に投入し、セルロース及びヘミセルロースを含有する基質の場合はセルロソーム生産菌を投入した後にアルコール発酵菌を投入すること、を特徴とする[1]に記載のアルコール製造方法。
[3]前記セルロース含有原料はセルロースとヘミセルロースを含有し、セルロースとヘミセルロースの含有比に応じて、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の投入時期を決定すること、を特徴とする[1]に記載のアルコール製造方法。
[4]前記セルロソーム生産菌によるセルロース又はヘミセルロースの分解と前記アルコール発酵菌によるアルコール発酵が並行する期間を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[5]前記セルロソーム生産菌がクロストリジウムセルロボランスであり、前記アルコール発酵菌がクロストリジウムアセトブチリカム又はクロストリジウムベイジェリンキーである、[1]~[4]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[6]培養温度が25℃~40℃である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[7]前記培養中において、生成したアルコールが連続的又は間欠的に回収される、[1]~[6]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[8]前記セルロース含有原料が、柑橘類由来原料、イネ科由来原料及びマメ科由来原料からなる群より選択される1以上の原料である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[9]前記柑橘類由来原料が柑橘類搾汁粕であり、
前記イネ科由来原料が糠であり、
前記マメ科由来原料が豆粕である、[8]に記載のアルコール製造方法。
[10]前記アルコールが、エタノール、ブタノール又はイソプロパノール、或いはこれらの二つ以上の組合せである、[1]~[9]のいずれか一項に記載のアルコール製造方法。
[11]前記セルロース含有原料が、セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスから該糖を回収した後の残渣であり、
前記培養とは別に、前記バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養し、該培養で得られたアルコールを、前記培養で得られたアルコールとともに回収する、[1]~[10]のいずれか一項に記載の製造方法。
[12]セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスを原料としたアルコールの製造に使用される製造システムであって、
前記バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養するための第1培養槽と、
糖を回収した後の残渣を基質としてセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養するための第2培養槽と、
前記第1培養槽及び前記第2培養槽から回収したアルコールを収容するためのアルコール貯留槽と、を備える製造システム。
[13]前記第1培養槽の温度を調節するための第1温度調節手段と、前記第2培養槽の温度を調節するための第2温度調節手段を更に備える、[12]に記載の製造システム。
[14]前記第1培養槽と前記アルコール貯留槽の間、及び前記第2培養槽と前記アルコール貯留槽の間に、ガスストリッピング用冷却設備が備えられる、[12]又は[13]に記載の製造システム。
【0009】
本願は以下の発明も開示する。
(1)柑橘類由来原料をクロストリジウムセルロボランス(Clostridium cellulovorans)により糖化するとともに、酵母および/またはクロストリジウムアセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)により発酵させることでアルコールを製造する方法。
(2)柑橘類由来原料を基質濃度5.0%[w/v]未満として用いる(1)に記載の方法。
(3)柑橘類由来原料が柑橘類の果皮または搾汁粕である(1)または(2)に記載の方法。
(4)アルコールがエタノールおよび/またはブタノールである(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】サンプルAまたはサンプルBを用いて基質濃度0.5%[w/v]に調製した培養液におけるクロストリジウムセルロボランスの培養試験の結果を示した図である(実施例1)。
【図2】サンプルAまたはサンプルBを用いて基質濃度2.5%[w/v]に調製した培養液におけるクロストリジウムセルロボランスの培養試験の結果を示した図である(実施例1)。
【図3】サンプルAまたはサンプルBを用いて基質濃度5.0%[w/v]に調製した培養液におけるクロストリジウムセルロボランスの培養試験の結果を示した図である(実施例1)。
【図4】クロストリジムセルロボランスの培養液(糖化液)中の還元糖量を示した図である(実施例2)。
【図5】酵母の培養液(発酵液)中のエタノール濃度(酵素法により測定)およびエタノール濃度(GCにより測定)を示した図である(実施例2)。
【図6】クロストリジウムアセトブチリカムの培養液(発酵液)中のブタノール濃度(GCにより測定)を示した図である(実施例3)。
【図7】クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)とクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)の共培養による、あずき粕からのn-ブタノール生産を示した図である(実施例4)。
【図8】クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)とクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)の共培養による、みかん搾汁粕からのn-ブタノール生産を示した図である(実施例5)。
【図9】クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)とクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)の共培養による、脱脂米糠からのn-ブタノール生産を示した図である(実施例6)。
【図10】クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)による可溶糖抽出済みのみかん搾汁残渣(乾燥重量あたり1%[w/v])の分解を示した図である。
【図11】還元糖濃度のモニタリングに基づくアルコール発酵菌の植菌および生産したアルコール濃度を示した図である(実施例7、みかん搾汁残渣)。
【図12】還元糖濃度のモニタリングに基づくアルコール発酵菌の植菌および生産したアルコール濃度を示した図である(実施例8、シュレッダー古紙)。
【図13】セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスを用いた製造システムの一例を示した図である(実施例9)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はアルコール製造方法に関する。本発明の製造方法の特徴の一つは、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同一容器内で培養する点である。換言すれば、本発明の製造方法では、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を並行複発酵することにより、アルコールを製造する。このような特徴を備える本発明の製造方法では、製造過程の少なくとも一部において、セルロソーム生産菌によるセルロースの分解とアルコール発酵菌によるアルコール発酵が同時に進行することになる。本発明の製造方法の特徴のもう一つは、セルロースとヘミセルロースの含有比に応じて、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の投入時期を決定する点である。すなわち、セルロースとヘミセルロースとを含む基質の場合は、好ましくは、セルロソーム生産菌を植菌してセルロースの分解を開始させた後にアルコール発酵菌を植菌してアルコール発酵を進行させる。これにより、発酵効率が向上する。アルコール発酵菌を植菌するタイミングは、使用する基質、使用する菌株、その他の条件等によって変動し得るが、還元糖濃度を、サンプリング・クロマトグラフィー等を用いてモニタリングすること、紫外・可視・赤外等の領域における糖の吸収帯を用いて計測しモニタリングすること、等によって決定することが好ましい。一方で、実質的にヘミセルロースを含まない基質の場合は、好ましくは、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同時に植菌してアルコール発酵を進行させることにより発酵効率が向上する。

【0012】
本発明ではセルロース含有原料を培養の基質とする。セルロース含有原料とは、セルロース及び/又はヘミセルロースを含有する材料であり、木本植物、草本植物、それらの加工品等が該当する。典型的には、セルロース系バイオマス又はリグノセルロース系バイオマスをセルロース含有原料として用いる。セルロース含有原料の具体例は、柑橘類(例えばバレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジ等のオレンジ類、グレープフルーツ、オランジェロ等のグレープフルーツ類、ユズ、カボス等の香酸柑橘類、ナツミカン、ハッサク等の雑柑類、イヨカン、タンカン等のタンゴール類、セミノール、サマーフレッシュ等のタンゼロル類、ブンタン、バンペイユ等の文旦類、マンダリンオレンジ、温州ミカン、キシュウミカン等のミカン類等、ミカン属(カンキツ属)の属する柑橘類)、イネ科植物(例えば米、小麦、大麦、エン麦、ライ麦、はと麦、サトウキビ、トウモロコシ、スイッチグラス、ネピアグラス)、マメ科植物(例えば大豆、あずき、エンドウ、そら豆)、木材、樹皮、間伐材、建築廃材、古紙、バガスである。好ましくは、柑橘類由来原料、イネ科由来原料、又はマメ科植物由来原料をセルロース含有原料として用いる。2種類以上のセルロース含有原料を併用してもよい。

【0013】
柑橘類由来原料は、柑橘類の実まるごとや、果肉、果汁、種子、果皮等に分けられたものであっても良い。これらを絞ったジュースや絞った後の搾汁粕等の残渣であっても良く、これらが2つ以上混ざったものであっても良い。果皮は最表面層の外果皮、最内層の内果皮、これらの中間に位置する中果皮に分けることができ、分けたものそれぞれを「柑橘類由来原料」としても、これらを2つ以上含むものを「柑橘類由来原料」としてもよい。さらに、これらを有機溶媒等で抽出し、柑橘類に含まれる発酵阻害物質である、例えばリモネン等の脂溶性物質を除去したものであっても良い。有機溶媒等による抽出は、従来知られているいずれの方法で行っても良い。

【0014】
イネ科由来原料の具体例として米糠、麦糠、ふすま糠などの糠、稲わら、麦わら、を挙げることができる。同様にマメ科植物由来原料の具体例として、大豆粕、あずき粕、おから等の豆粕を挙げることができる。

【0015】
セルロソーム生産菌とは、セルラーゼ複合体であるセルロソームを生産する菌であり、高いセルロース分解能力を発揮する。セルロソームの生産能を示す限り特に限定されないが、好ましくは、クロストリジウム属細菌(Clostridium cellulovorans、Clostridium thermocellum、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum)を用いる。中でも、中温性嫌気性セルロース分解細菌であるクロストリジウムセルロボランス(Clostridium cellulovorans)を用いることが特に好ましい。セルロソーム生産菌は、従来知られている株や新たに単離した株、これらをフリーズストック等したものであってもよい。なお、クロストリジウムセルロボランスは例えばATCC(American Type Culture Collection)等の保存機関から容易に入手することができる。

【0016】
アルコール発酵菌とは、セルロース含有原料の分解によって生じた糖を資化し、アルコールを生成する菌である。本発明では各種アルコール発酵菌を利用可能である。アルコール発酵菌を例示すると、酵母、アスペルギルズ属菌、トリコデルマ属菌、クロストリジウム属細菌である。好ましくは、酵母又はクロストリジウム属細菌を採用する。更に好ましくはクロストリジウム属細菌を用いる。クロストリジウム属細菌は、5炭糖に加え、大腸菌(野生株)や酵母(野生株)が通常は利用できない6炭糖をも資化することができる。従って、クロストリジウム属細菌を用いれば、セルロースの分解によって生じた糖の利用効率が高まり、ひいてはアルコール生産効率が向上する。クロストリジウム属細菌の具体例はクロストリジウムアセトブチリカム、クロストリジウムベイジェリンキーである。アルコール発酵菌は、従来知られている株や新たに単離した株、これらをフリーズストック等したものであってもよい。なお、クロストリジウムアセトブチリカム及びクロストリジウムベイジェリンキーは例えばATCC(American Type Culture Collection)等の保存機関から容易に入手することができる。

【0017】
嫌気性のセルロソーム生産菌と、同じく嫌気性のアルコール発酵菌を併用して本発明の製造方法を構成するとよい。当該態様によれば、嫌気性条件下で一連の製造工程を実施することができ、操作の簡便化、設備の簡略化などが図られる。例えば、セルロソーム生産菌としてクロストリジウムセルロボランスを、アルコール発酵菌としてクロストリジウムアセトブチリカム又はクロストリジウムベイジェリンキーを用いれば当該態様を実現できる。後述の実施例に示す通り、クロストリジウムセルロボランスと、クロストリジウムアセトブチリカム又はクロストリジウムベイジェリンキーの組合せは、いずれの菌株も野生株であるにもかかわらず、効率的なアルコールの製造を可能にする。野生株を用いて実用的なアルコール製造方法を実現できることは、遺伝子組換えを必要とせず、安全性はもとより、製造コストの点でも有利である。また、当該組合せは、セルロース分解菌の分解能が高い一方で、アルコール発酵菌の発酵能も非常に高く、極めてバランスがよい。特に柑橘類由来原料に対して最適な組合せであり、顕著な効果をもたらす。

【0018】
培養に際しては、使用するセルロソーム生産菌及びアルコール発酵菌の培養に適した培養条件を採用する。嫌気性のセルロソーム生産菌を用いるのであれば、嫌気性培地を用意し、これに基質及びセルロソーム生産菌を添加し、培養を開始すればよい。基質とセルロソーム生産菌の添加順序は特に限定されないが、反応開始点をコントロールするため等の理由から、通常は、基質と培地の混合物を用意しておき、これへセルロソーム生産菌を植菌する。アルコール発酵菌は上記の通り、セルロソーム生産菌と同時又はセルロソーム生産菌を植菌後、所定時間経過した時点で植菌すればよい。培養温度は例えば25℃~40℃、好ましくは30℃~38℃、更に好ましくは約37℃とする。クロストリジウムセルロボランスは比較的低温(中温)においても高いセルロース分解活性を示す。その一方で、40℃を超える温度条件下ではその生育及び活性が大幅に低下する。クロストリジウムセルロボランスをセルロソーム生産菌として用いた場合には、上記温度範囲(25℃~40℃)の培養によって、効率的なセルロースの分解が達成されるとともに、必要エネルギー及び製造コストの低減が可能となる。

【0019】
培養の途中で基質を追加してもよい。また、菌体(セルロソーム生産菌及び/又はアルコール発酵菌)を追加することにしてもよい。基質/菌体の追加により、十分な基質/菌体が存在する状態が維持され、生産効率の維持ないし向上が図られる。

【0020】
基質として柑橘類由来原料を採用した場合には、柑橘類由来原料を基質濃度5.0%[w/v]未満として用い、クロストリジウムセルロボランス(Clostridiumcellulovorans)により糖化させることが好ましい。基質濃度5.0%[w/v]未満であればよく、特に2.5%[w/v]以下であることが好ましく、0.5%[w/v]以下であっても良い。ここで、「基質濃度」とは、各柑橘類由来原料に含まれる固形分の割合(重量%)のことをいう。この固形分の割合(重量%)は、サンプルの重量を100%(重量%)とした場合に、これから下記実施例にて示した方法によって算出されるサンプルの含水率(重量%)を引くことによって求めることができる。

【0021】
本発明の製造方法では同一容器内でセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養する。この条件を満たす限り、使用する容器は特に限定されない。即ち、従来知られているいずれの培養容器を用いて実施することがきる。例えば、クロストリジウムセルロボランスによる糖化と酵母の発酵によるアルコールの製造を組み合わせて行う場合は、酵母によるエタノールの変換率が高くなるように基質濃度を調製してジャーファーメンター等の一つの培養容器内で培養を行うこともできる。ジャーファーメンターを用いることにより、生産されたエタノールを除去・回収しながら連続的に発酵を行うことが可能である。クロストリジウムセルロボランスによる糖化とクロストリジウムアセトブチリカム又はクロストリジウムベイジェリンキーの発酵によるアルコールの製造を組み合わせて行う場合も同様に、ジャーファーメンターを使用して生産されたブタノールを除去・回収しながら連続的にブタノール発酵を行う「Gas Stripping法」を行うことにより、クロストリジウムアセトブチリカムが有するブタノール生産のポテンシャルを最大級に高めることが可能である。また、細胞毒性のあるブタノールの濃度を低減することで、菌体の活性を高い状態に維持することが可能となる。生産物(エタノールやブタノールなど)の回収は連続的又は間欠的に行うことができる。

【0022】
本発明の製造方法により製造されるアルコールは従来知られているいずれのアルコールであっても良く、例えばエタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。

【0023】
本発明の一態様では、セルロース含有原料として、セルロースに加え、アルコール発酵菌が資化できる糖も含むバイオマスを用いる。この場合には、当該バイオマスから糖を回収した後の残渣(セルロースを含有する)を、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の培養に用いる基質とする。その一方で、回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養し、その結果得られたアルコールを、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の共培養によって得られたアルコールとともに回収する。この態様の製造方法によれば、アルコールに変換可能な物質(即ち、セルロース/ヘミセルロースと糖)を無駄なく利用することができる。ここでのバイオマスに該当するものとして、例えば、柑橘類の搾汁粕、糠(米糠、小麦糠、ふすま糠など)、粕(大豆粕、あずき粕、おからなど)を用いることができる。回収した糖を基質とした培養に使用するアルコール発酵菌は、セルロソーム生産菌との共培養に使用するアルコール発酵菌と同一の又は異なる菌種である。前者の場合、使用する菌種の数が少なくなり、製造方法が簡素化する。後者の場合には、菌種の選択の自由度が高くなることから、各培養に最適な菌種を選ぶことによる、生産効率の更なる向上が図られる。

【0024】
上記態様の実施には、例えば、以下の製造システム、即ち、バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養するための第1培養槽と、糖を回収した後の残渣を基質としてセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養するための第2培養槽と、第1培養槽及び第2培養槽から回収したアルコールを収容するためのアルコール貯留槽と、を備える製造システム(図13を参照)を利用することができる。適した培養温度を維持するために、第1培養槽に温度調節手段(例えばヒーター)を設けるとよい(第1温度調節手段)。第2培養槽についても同様である(第2温度調節手段)。この態様においても、培養の途中で連続的又は間欠的に生産物(アルコール)を回収することが好ましく、例えば、第1培養槽とアルコール貯留槽の間、及び第2培養槽とアルコール貯留槽の間に、ガスストリッピング用冷却設備が備えられる。

【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0026】
A.クロストリジウムセルロボランスと酵母又はクロストリジウムアセトブチリカムによるアルコールの製造
<サンプルの調製>
温州ミカン(以下、実施例において単にミカンと示す)の果皮または搾汁粕を試料とした。これらの糖化にあたり、各サンプルの基質濃度を調製するために、以下の方法により試料の含水率を算出した。
【実施例】
【0027】
<サンプルの含水率の算出>
50ml容ビーカーを105℃に加熱した乾熱滅菌器に入れて十分に乾燥させた後、デシケーター内で常温に戻し、ビーカーの重量を測定した。このビーカーにサンプルを加えて重量を測定した後、ビーカーの重量を引いたものをサンプル湿潤重量とした。その後、サンプルを加えたビーカーを乾熱滅菌器へ入れて十分に乾燥させ、これをデシケーター内で常温に戻し、重量を測定した。この重量からビーカーの重量を引いたものをサンプル乾燥重量とした。測定したサンプル湿潤重量およびサンプル乾燥重量より、サンプルの含水率(重量%)を次の式により算出した。また、算出された各サンプルの含水率から基質濃度(固形分(重量%))を求めた。得られた含水率および固形分の割合を表1に示した。これらのサンプルの含水率は平均して81%であった。
【実施例】
【0028】
[式]
サンプルの含水率(重量%)=(サンプル湿潤重量-サンプル乾燥重量)/サンプル湿潤重量×100
【実施例】
【0029】
【表1】
JP2015122538A1_000003t.gif
【実施例】
【0030】
[実施例1]
上記において調製した各サンプルを炭素源として、クロストリジウムセルロボランスによる培養試験を行い、各サンプルを添加した培養液の経時変化を基質濃度及び培養期間ごとに調べた。
<方法>
100ml容バイアル瓶に、上記において調製したサンプルを用い、基質濃度がそれぞれ0.5%[w/v]、2.5%[w/v]、5.0%[w/v]となるように含ませた嫌気性培地50mlを加え、これにクロストリジウムセルロボランス(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を100μl植菌した。37℃のインキュベーター内で、静置培養で行い、培養開始から0時間、24時間、48時間、72時間、120時間、144時間、192時間及び384時間経過後の培養液をサンプリングした。サンプリングした各培養液について遠心沈殿で不溶性物を除いた後、DNS法により還元糖濃度を測定した。また、比較としてクロストリジウムセルロボランスを植菌していないサンプルについても同様に37℃のインキュベーター内に静置し、ここからサンプリングした未植菌の溶液について還元糖濃度を測定した。
【実施例】
【0031】
<結果>
各クロストリジウムセルロボランスの培養液および未植菌の溶液における培養開始からの経過時間ごとの還元糖濃度(mg/ml)と基質の経時的な変化を図1(基質濃度0.5%[w/v])、図2(基質濃度2.5%[w/v])、図3(基質濃度5.0%[w/v])にそれぞれ示した(図1~図3、サンプル:クロストリジウムセルロボランス植菌区、ネガティブ:未植菌)。この還元糖濃度(mg/ml)はグルコース換算によるものである。また、各サンプルにおいて、培養384時間目におけるクロストリジウムセルロボランス植菌区と未植菌区のバイアル瓶の写真を示した。その結果、図1に示されるように、基質濃度0.5%[w/v]に調製した培養液では、サンプルAまたはBのいずれを添加した場合でも、不溶性の固形分がほぼ完全に可溶化したことが観察された。還元糖濃度はサンプルBでは培養開始から24時間目で最も低くなり、サンプルAでは48時間目以降で最も低くなったが、その後わずかに上昇した。これは、クロストリジウムセルロボランスが植菌された直後から分解と増殖を繰り返した後、酵素による分解によって遊離した還元糖量が菌体の資化量を上回ったためと考えられた。さらに、クロストリジウムセルロボランスが分泌したセルロソームを含む酵素が各サンプルの分解に対して最適化されたと考えられたため、還元糖濃度が最も低くなった24時間目または48時間目にて基質を追加(連続糖化)することにより、還元糖濃度の上昇が見込めることが予測できた。
【実施例】
【0032】
また、図2に示されるように、基質濃度2.5%[w/v]に調整した培養液では、還元糖濃度と菌体の増殖がほぼ釣り合った状態であった。このことから、連続糖化を行う場合、培養液における最適な基質濃度は2.5%[w/v]未満であると考えられた。さらに、図3に示されるように、基質濃度5.0%[w/v]に調整した培養液では、ミカン果皮(サンプルA)を炭素源とした場合、黙視によるサンプルの変化がほとんど見られなかった。また、ミカン搾汁粕サンプル(サンプルB)を炭素源とする植菌区においては、コロイド状になった不溶性分子の凝集が見られたものの、分解が進んでいる様子は観察されず、還元糖濃度の変化も確認できなかった。従って、これらの結果より、クロストリジウムセルロボランスによる糖化においては、基質濃度5.0%[w/v]未満のものを使用することが好ましいことが示唆された。
【実施例】
【0033】
[実施例2]
エタノールの生産
クロストリジウムセルロボランスにより糖化された培養液(以下、糖化液と示す場合がある)から酵母によるエタノールの生産を試みた。
<試料の調製>
1.糖化液
実施例1と同様の方法により、各サンプルを用い、基質濃度が2.5%[w/v]となるように含ませた嫌気性培地によってクロストリジムセルロボランスを1ヶ月培養した培養液(糖化液)を得た。
【実施例】
【0034】
2.酵母用発酵培地
次の組成からなる酵母用発酵培地を調製した。上記1.で得た糖化液をcarbon source(s)(炭素源)として用い、DNS法により測定した還元糖量を基にしてグルコース換算で0.5%[w/v]となるように加えた。培地は調製後に二酸化炭素を吹き込み、微好気状態にして使用した。以下、この酵母用発酵培地を酵母用発酵培地(ポジティブ)と示す。
【実施例】
【0035】
また、比較として各サンプルを用い、基質濃度が2.5%[w/v]となるように含ませた嫌気性培地にクロストリジウムセルロボランスを植菌せず、そのまま1ヶ月インキュベートしたものをcarbon source(s)(炭素源)として用い、DNS法により測定した還元糖量を基にしてグルコース換算で0.5%[w/v]となるように加えて微好気状態にしたものを使用した。以下、この培地を酵母用発酵培地(ネガティブ)と示す。さらに比較として、グルコースをcarbon source(s)(炭素源)として用い、0.5%[w/v]となるように加えて同様に微好気状態にしたものを使用した。以下、この培地を酵母用発酵培地(グルコース)と示す。
【実施例】
【0036】
[酵母用発酵培地組成]
0.67% yeast nitrogen base withoutaminoacids
0.5% carbon source(s)
2.0% casamino acids
buffered with 50mM MES buffer (pH7.0)
【実施例】
【0037】
図4に基質濃度2.5%[w/v]でクロストリジムセルロボランスを1ヶ月培養した培養液(糖化液)中の還元糖量およびクロストリジウムセルロボランスを植菌せず、そのまま1ヶ月インキュベートしたものの還元糖量を示した(図4、サンプル:クロストリジウムセルロボランス植菌区、ネガティブ:未植菌区)。図4に示される各記号はそれぞれ、クロストリジムセルロボランスの培養において使用した培養液ごとに次のものを示す。
A:サンプルAを柑橘類由来原料とするクロストリジムセルロボランスの培養液使用
B:サンプルBを柑橘類由来原料とするクロストリジムセルロボランスの培養液使用
【実施例】
【0038】
その結果、図4に示されるように、柑橘類由来原料としてミカン果皮(サンプルA)を加えた培養液にクロストリジウムセルロボランスを植菌した場合に、培養液中の還元糖量が最も高かった。また、ミカン搾汁粕(サンプルB)は未植菌区の還元糖量が植菌区を上回ったことが確認された。クロストリジウムセルロボランスを植菌していないものにおいても、多少の還元糖の存在が確認できたが、これは柑橘類由来原料そのものに含まれる還元糖であると考えられる。
【実施例】
【0039】
<エタノールの生産>
YPD培地で酵母野生株を48時間培養し(OD600=1.9)、4℃、3,000×gで10分間遠心分離して集菌した後、10倍に濃縮した酵母菌液を上記にて調製した酵母用発酵培地(ポジティブ)に全体の1/10量植菌した。30℃で60時間静置培養を行い、培養終了後に遠心分離して回収した上清を濾過し、生産されたエタノールの濃度をガスクロマトグラフィー(GC)((株)島津社製)および酵素法による2通りの方法で測定した。また、比較として酵母用発酵培地(ネガティブ)または酵母用発酵培地(グルコース)にそれぞれ酵母を植菌して静置培養を行い、上清を回収して、同様に生産されたエタノールの濃度を測定した。なお、酵素法は以下の原理を用いた。すなわち、alcohol dehydrogenase(ADH)およびNAD+存在下において、発酵液中に含まれるアルコールをアルデヒドに酸化することでNADHを生成する。ここにphenazinemethosulfate(PMS)を加えると、NADHによって還元され、還元型PMSが生じ、それを発色試薬NTBによって酸化することで青紫色に発色することを利用した。
【実施例】
【0040】
<結果>
図5に酵母を加えて静置培養したことにより得られた培養液(発酵液)中のエタノール濃度(酵素法により測定したもの、及びGCにより測定したもの)を示した。さらに、GCによる測定により得られた発酵液中のエタノール濃度と発酵率(エタノール変換率)を表2に示した。図5および表2に示される各記号はそれぞれ、酵母の培養において使用した酵母発酵用培地ごとに次のものを示す。
AN:サンプルAを柑橘類由来原料とする酵母用発酵培地(ネガティブ)使用
A:サンプルAを柑橘類由来原料とする酵母用発酵培地(ポジティブ)使用
BN:サンプルBを柑橘類由来原料とする酵母用発酵培地(ネガティブ)使用
B:サンプルBを柑橘類由来原料とする酵母用発酵培地(ポジティブ)使用
P:グルコースを炭素源とする酵母用発酵培地(グルコース)使用
【実施例】
【0041】
図5に示されるように、酵母用発酵培地の炭素源として、ミカン果皮(サンプルA)またはミカン搾汁粕(サンプルB)を柑橘類由来原料としたクロストリジウムセルロボランス植菌区の糖化液を用いた場合はいずれもエタノールが生産できることが確認できた。特にミカン搾汁粕(サンプルB)を柑橘類由来原料としたクロストリジウムセルロボランス植菌区の糖化液を用いた場合にエタノール濃度が高くなったことから、ミカン搾汁粕(サンプルB)を柑橘類由来原料として直接糖化・発酵した場合に、高い濃度で効率的にエタノールを生産できることが示された。
【実施例】
【0042】
図4に示されるように、クロストリジウムセルロボランスの糖化による還元糖の蓄積はミカン果皮(サンプルA)を用いた場合に最も高かったが、酵母によって十分に発酵されなかったのは、クロストリジウムセルロボランスによるバイオマス糖化の生成物として特徴的に見られるセロビオース(酵母資化不可能糖)などの蓄積があったためと考えられた。そこで、このようなセロビオース(酵母資化不可能糖)も発酵可能な微生物により、直接糖化発酵(CBP(Consolidated Bioprocessing))を行うことでエタノールおよびブタノールの収量を高めることが期待される。なお、表2にGCによる測定により得られた発酵液中のエタノール濃度と発酵率(エタノール変換率)を示した。
【実施例】
【0043】
【表2】
JP2015122538A1_000004t.gif
【実施例】
【0044】
[実施例3]
アルコールの生産
クロストリジウムセルロボランスにより糖化された糖化液からクロストリジウムアセトブチリカムによるアルコール(エタノール・ブタノール)の生産を試みた。
<試料の調製>
クロストリジウムアセトブチリカム発酵用チオグリコレート培地(pH5.0)
次の組成からなるクロストリジウムアセトブチリカム発酵用チオグリコレート培地(pH5.0)を調製した。実施例2、<試料の調製>1.糖化液と同様に調製した糖化液をcarbon source(s)(炭素源)として用い、DNS法により測定した還元糖量を基にしてグルコース換算で0.5%[w/v]となるように加えた。培地は調製後に嫌気チャンバー内に移して12時間以上放置して嫌気状態にして使用した。以下、このクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地をクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ポジティブ)と示す。
【実施例】
【0045】
また、比較として各サンプルを用い、基質濃度が2.5%[w/v]となるように含ませた嫌気性培地にクロストリジウムセルロボランスを植菌せず、そのまま1ヶ月インキュベートしたものをcarbon source(s)(炭素源)として用い、DNS法により測定した還元糖量を基にしてグルコース換算で0.5%[w/v]となるように加えて嫌気状態にしたものを使用した。以下、この培地をクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ネガティブ)と示す。さらに比較として、グルコースをcarbon source(s)(炭素源)として用い、0.5%[w/v]となるように加えて同様に微好気状態にしたものを使用した。以下、この培地をクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(グルコース)と示す。
【実施例】
【0046】
[クロストリジウムアセトブチリカム発酵用チオグリコレート培地組成]
1.5% Polypeptone
0.5% Yeast extract
0.5% Carbon source
0.25% NaCl
0.05% L-cysteine
0.05% Sodium thioglycolate
0.0001% Resazurin
【実施例】
【0047】
<アルコールの生産>
チオグリコレート培地でクロストリジウムアセトブチリカムを24時間培養し、4℃、3,000×gで10分間遠心分離して集菌した後、10倍に濃縮したクロストリジウムアセトブチリカム懸濁液を上記にて調製したロストリジウムアセトブチリカム発酵用チオグリコレート培地(以下、単に発酵培地と示す場合がある)に全体の1/10量を植菌した。37℃で60時間、嫌気チャンバー内で静置培養を行い、培養終了後に遠心分離して回収した上清を濾過し、生産されたアルコール(ブタノール、エタノール)の濃度をガスクロマトグラフィー(GC)((株)島津社製)により測定した。また、比較としてクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ネガティブ)またはクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(グルコース)にそれぞれ酵母を植菌して静置培養を行い、上清を回収して、同様に生産されたエタノールの濃度を測定した。
【実施例】
【0048】
<結果>
得られたアルコールのうち、図6および表3にクロストリジウムアセトブチリカムを加えて嫌気チャンバー内で静置培養したことにより得られた培養液(発酵液)中のブタノール濃度と発酵率(ブタノール変換率)を示した。図6および表3に示される各記号はそれぞれ次のものを示す。
AN:サンプルAを柑橘類由来原料とするクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培
地(ネガティブ)使用
A:サンプルAを柑橘類由来原料とするクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ポジティブ)使用
BN:サンプルBを柑橘類由来原料とするクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ネガティブ)使用
B:サンプルBを柑橘類由来原料とするクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(ポジティブ)使用
P:グルコースを炭素源とするクロストリジウムアセトブチリカム発酵用培地(グルコース)使用
【実施例】
【0049】
【表3】
JP2015122538A1_000005t.gif
【実施例】
【0050】
図6および表3に示されるように、酵母によって生産されるエタノールとは異なり、クロストリジウムアセトブチリカムによって生産されるブタノールは、培地に使用するサンプルの種類や糖化方法の違いによって大きな差が見られなかった。これは、クロストリジウムアセトブチリカムが酵母に比べて多種多様な糖源をアルコール変換できる能力を有するためと考えられた。
【実施例】
【0051】
B.クロストリジウムセルロボランスとクロストリジウムベイジェリンキーによるアルコールの製造
[実施例4]あずき粕からのアルコールの製造
あずき粕(三重県松阪市産、含水率80%)からアルコールの製造を試みた。まず、あずき粕0.25gを10mlのクロストリジウムセルロボランス嫌気性培地に懸濁し10ml容キャップ付き試験管に投入した。続いて、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を200μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、48時間、静置培養した。培養終了後、サンプリングし(一次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。
【実施例】
【0052】
一方、同様の培地を別の10mlキャップ付き試験管に投入した。クロストリジウムセルロボランス(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を100μl(菌数:OD 600 nm=約0.6)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、1週間、静置培養した。この時点でサンプリングした後(糖化サンプル)、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を200μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌し、同条件下で48時間、培養を継続した。培養終了後、サンプリングし(二次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。また、糖化サンプル中の還元糖量を測定した。
【実施例】
【0053】
測定結果を図7に示す。図7中の左欄は、上から順に、原料名、原産地、含水量、原料に含まれる糖質(湿重量1kgあたりに含まれている可溶糖・不溶糖の量)、及び糖化時の様子である。図7中の右欄は、上から順に、原料から溶出した可溶糖の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの溶出量、原料から溶出した可溶糖を発酵(一次発酵)して得られた各生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖濃度と原料1kg(湿重量)あたりの糖化糖量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖を発酵(二次発酵)して得られた生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量である。
【実施例】
【0054】
クロストリジウムセルロボランスによる糖化の結果、原料1kgあたり65.44gの還元糖(グルコース換算)が得られた。クロストリジウムベイジェリンキーとの並行複発酵により、原料1kgあたり10.592gのエタノール、12.960gのn-ブタノールを発酵生産することに成功した。クロストリジウムベイジェリンキーの直接接種(一次次発酵)による発酵生産も確認できたが、その生産量は共培養(並行複発酵)の場合よりもやや少なかった。なお、クロストリジウムセルロボランスの植菌直後から菌体の増殖とガスの発生が見られ、培養開始から168時間(1週間)後には、固形物の大幅な減少(分解)が確認された(図7中の左欄、下段)。
【実施例】
【0055】
[実施例5]みかん搾汁粕からのアルコールの製造
みかん搾汁粕(三重県御浜町産、含水率84%)からアルコールの製造を試みた。まず、みかん搾汁粕113.4gを100mlの水に懸濁し、ろ過処理によって可溶性画分と不溶性画分を分離した。可溶性画分(全量)を用いてチオグリコレート培地を作製し、50ml容バイアル瓶に投入した。続いて、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を1000μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、48時間、静置培養した。培養終了後、サンプリングし(一次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。
【実施例】
【0056】
一方、不溶性画分(0.3125g)をクロストリジウムセルロボランス培地とともに別の50ml容バイアル瓶に投入した。クロストリジウムセルロボランス(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を500μl(菌数:OD 600 nm=約0.6)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、384時間、静置培養した。この時点でサンプリングした後(糖化サンプル)、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を1000μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌し、同条件下で48時間、培養を継続した。培養終了後、サンプリングし(二次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。また、糖化サンプル中の還元糖量を測定した。
【実施例】
【0057】
測定結果を図8に示す。図8中の左欄は、上から順に、原料名、原産地、含水量、原料に含まれる糖質(湿重量1kgあたりに含まれている可溶糖・不溶糖の量)、及び糖化時の様子である。図8中の右欄は、上から順に、原料から溶出した可溶糖の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの溶出量、原料から溶出した可溶糖を発酵(一次発酵)して得られた各生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖濃度と原料1kg(湿重量)あたりの糖化糖量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖を発酵(二次発酵)して得られた生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量である。
【実施例】
【0058】
アルコール発酵可能な可溶糖が予め多く含まれており、洗浄溶出液からの一次発酵によって各種アルコールの生産が可能であった。また、洗浄後の残渣にはセルロースが含まれており、クロストリジウムセルロボランスで糖化可能であることから、二次発酵においても各種アルコールの生産が可能であった。なお、基質濃度0.5%、糖化時間384時間で固形分がほぼ全て消失した(図8中の左欄、下段)。
【実施例】
【0059】
[実施例6]脱脂米糠からのアルコールの製造
脱脂米糠(ベトナム、含水率12.42%)からアルコールの製造を試みた。まず、脱脂米糠0.057gを10mlのクロストリジウムセルロボランス嫌気性培地に懸濁し10ml容キャップ付き試験管に投入した。続いて、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を200μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、48時間、静置培養した。培養終了後、サンプリングし(一次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。
【実施例】
【0060】
一方、同様の培地を別の10ml容キャップ付き試験管に投入した。クロストリジウムセルロボランス(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を100μl(菌数:OD 600 nm=約0.6)植菌した後、37℃のインキュベーター内に移し、1週間、静置培養した。この時点でサンプリングした後(糖化サンプル)、クロストリジウムベイジェリンキー(フリーズストックより24時間プレ培養を行ったもの)を200μl(菌数:OD 600 nm=約1.4)植菌し、同条件下で48時間、培養を継続した。培養終了後、サンプリングし(二次発酵サンプル)、生産されたアルコールの組成及び量を測定した。また、糖化サンプル中の還元糖量を測定した。
【実施例】
【0061】
測定結果を図9に示す。図9中の左欄は、上から順に、原料名、原産地、含水量、原料に含まれる糖質(湿重量1kgあたりに含まれている可溶糖・不溶糖の量)、及び糖化時の様子である。図9中の右欄は、上から順に、原料から溶出した可溶糖の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの溶出量、原料から溶出した可溶糖を発酵(一次発酵)して得られた各生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖濃度と原料1kg(湿重量)あたりの糖化糖量、原料中の不溶糖を糖化して得られた糖を発酵(二次発酵)して得られた生産物質の濃度と原料1kg(湿重量)あたりの生産量である。
【実施例】
【0062】
クロストリジウムセルロボランスによる糖化後、クロストリジウムベイジェリンキー接種による共培養で発酵液1Lあたり0.0643gのエタノール、0.0860gのn-ブタノールを発酵生産することに成功した。また、クロストリジウムベイジェリンキーの直接接種(一次次発酵)によっても発酵生産が可能であったが、その生産量は共培養(並行複発酵)の場合にやや劣った。なお、糖化時には全体的な米糠の減少が見られ、菌体の活動を示す発酵ガスの発生も見られたことから、原料の一部を糖化利用可能と考えられた(図9中の左欄、下段)。
【実施例】
【0063】
[実施例7]還元糖濃度のモニタリングに基づくアルコール発酵(みかん搾汁残渣)
クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)による可溶糖抽出済みのみかん搾汁残渣(乾燥重量あたり1%[w/v])の分解を図10に示す。縦軸は培養液中の還元糖濃度(g/L)であり、横軸は培養時間である。
【実施例】
【0064】
クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)およびクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)の共培養による可溶糖抽出済みのみかん搾汁残渣からのアルコール生産の結果を図11に示す。培地中の基質としてセルロースおよびヘミセルロースがそれぞれ0.73g/L、0.23g/L含まれている。
n:未植菌区、
b:クロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)のみ、
c+b0:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌0時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
c+b48:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌48時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
c+b96:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌96時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
c+b192:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌192時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
であり、植菌時間は図11の分解時間における1回目の減少(48時間目)、1回目のピーク(96時間目)、2回目のピーク(192時間目)にそれぞれ対応している。3本ずつのバーは左からエタノール濃度、ブタノール濃度、トータルのアルコール濃度(g/L)を示している。図11より、セルロースとヘミセルロースとを含む基質の場合は、セルロソーム生産菌を植菌してセルロースの分解を開始させた後にアルコール発酵菌を植菌してアルコール発酵を進行させることによって、発酵効率が向上することがわかった。さらに、図10のように、還元糖濃度を、サンプリング・クロマトグラフィー等や、紫外・可視・赤外等の領域における糖の吸収帯を用いた計測等によってモニタリングし、アルコール発酵菌の植菌の最適なタイミングを決定することによって、発酵効率がより向上することがわかった。
【実施例】
【0065】
[実施例8]還元糖濃度のモニタリングに基づくアルコール発酵(シュレッダー古紙)
クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)およびクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)の共培養によるシュレッダー古紙からのアルコール生産の結果を図12に示す。培地中の基質として実質的にセルロースのみが含まれている。
n:未植菌区、
b:クロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)のみ、
c+b0:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌0時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
c+b120:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌120時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
c+b216:クロストリジムセルロボランス(C.cellulovorans)植菌216時間後にクロストリジウムベイジェリンキー(C.beijerinckii)植菌、
であり、3本ずつのバーは左からエタノール濃度、ブタノール濃度、トータルのアルコール濃度(g/L)を示している。図12より、実質的にセルロースのみ含む基質の場合は、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同時に植菌してアルコール発酵を進行させることによって、発酵効率が向上することがわかった。
【実施例】
【0066】
さらに、つぎの通り、サンプリング・クロマトグラフィー等や、紫外・可視・赤外等の領域における糖の吸収帯を用いた計測等によってヘミセルロースの有無を検出または判別する工程を最初に設けることにより、基質に最適な培養を行うことができ、発酵効率がより向上する。すなわち、基質におけるヘミセルロースの有無を検出または判別した結果、ヘミセルロースが含まれる基質の場合は、セルロソーム生産菌のみを植菌して培養を開始、還元糖濃度をモニタリングすることで、アルコール発酵菌の植菌の最適なタイミングを決定し、発酵菌の植菌を行う。ヘミセルロースが実質的に含まれない、実質的にセルロースのみが含まれる基質の場合は、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を同時に植菌して培養を開始する。
【実施例】
【0067】
[実施例9]アルコール製造システム
上記実施例1から8の態様としての製造システムについて、一例を図13に示す。この製造システムは、バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養するための第1培養槽(一次発酵槽)と、糖を回収した後の残渣を基質としてセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養するための第2培養槽(共培養槽)とを備えている。この第2培養槽で、セルロソーム生産菌によるセルロース又はヘミセルロースの分解とアルコール発酵菌によるアルコール発酵が並行する期間を実現している。第1培養槽及び第2培養槽には、それぞれガスストリッピング(Gas Stripping)用冷却設備を介してアルコール貯留槽が連結されており、第1培養槽及び第2培養槽それぞれから回収したアルコールをアルコール貯留槽で収容できる。また、培養温度を維持するために、第1培養槽及び/又は第2培養槽には、ヒーター等の温度調節手段を設けることもできる。また内容物を攪拌するために、第1培養槽及び/又は第2培養槽には、攪拌機等の攪拌手段を設けることもできる。さらに、培養の途中で連続的又は間欠的に生産物(アルコール)を回収するために、第1培養槽とアルコール貯留槽の間、及び第2培養槽とアルコール貯留槽の間に、ガスストリッピング用冷却設備を備えてもよい。
【実施例】
【0068】
前記したように、本発明の製造方法の特徴の一つは、セルロースとヘミセルロースの含有比に応じて、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の投入時期を決定する点である。セルロソーム生産菌を植菌してセルロースの分解を開始させた後にアルコール発酵菌を植菌してアルコール発酵を進行させることにより発酵効率が向上する。そのため、アルコール発酵菌を植菌するタイミングは、使用する基質、使用する菌株、その他の条件等によって変動し得る。経験値によって投入時期を決定しても良いが、還元糖濃度をモニタリングし、その結果に基づき投入時期を決定することが好ましい。サンプリング・クロマトグラフィー、紫外・可視・赤外等の領域における糖の吸収帯を用いて計測する還元糖濃度測定手段を備えることで、タイミング決定を効率的に決定できる。
【実施例】
【0069】
また、設置面積を削減するため、第1培養槽及び第2培養槽を1つの培養槽とすることも可能である。例えば、バイオマスから回収した糖を基質としてアルコール発酵菌を培養するための第1培養期間(一次発酵期間)と、糖を回収した後の残渣を基質としてセルロソーム生産菌とアルコール発酵菌を培養するための第2培養期間(共培養期間)として1つの培養槽を時系列で使い分けることで当該態様を実現することができる。この場合、第1培養期間と第2培養期間の間に、洗浄期間及び/又は一時培養休止期間を設けることができる。この場合は培養、発酵、回収に時間がかかるが、第一培養槽から第二培養槽へ残渣を移動する必要がなく、回収効率が下がる可能性はあるものの、作業効率は向上できる。
【実施例】
【0070】
さらに、発酵速度調整用に嫌気性の雰囲気を調整するように制御された吸排気口や、セルロソーム生産菌とアルコール発酵菌の密度を制御するための菌種植菌口を設けること、それらを、時間、温度、還元糖濃度測定手段の出力、アルコール等の回収量をパラメータとして、プログラムによってコンピュータなどを用いて自動制御することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、セルロース含有原料(例えば柑橘類由来原料、イネ科由来原料及びマメ科由来原料)から効率的にエタノールやブタノール等のアルコールを製造することが可能となる。柑橘類由来原料を用いる場合には、基質濃度を最適な範囲内に調整することにより、柑橘類の大量な残渣から有用なアルコールを安価かつ大量に得ることも可能となる。
【0072】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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