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明細書 :カルジオリピンの定量方法及び定量用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 カルジオリピンの定量方法及び定量用キット
国際特許分類 C12Q   1/34        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
C12Q   1/28        (2006.01)
FI C12Q 1/34
C12Q 1/48 Z
C12Q 1/28
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 16
出願番号 特願2016-511518 (P2016-511518)
国際出願番号 PCT/JP2015/057870
国際公開番号 WO2015/151801
国際出願日 平成27年3月17日(2015.3.17)
国際公開日 平成27年10月8日(2015.10.8)
優先権出願番号 2014077076
優先日 平成26年4月3日(2014.4.3)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】森田 真也
出願人 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ09
4B063QQ15
4B063QQ16
4B063QQ70
4B063QR02
4B063QR07
4B063QR12
4B063QX02
要約 開示されているのは、以下の工程を有する試料中のカルジオリピンの定量方法:(1)試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる工程、並びに(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からカルジオリピンを定量する工程、並びにホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含むカルジオリピンの定量用キットである。
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を有する試料中のカルジオリピンの定量方法:
(1)試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる工程、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からカルジオリピンを定量する工程。
【請求項2】
前記工程(1)において、(a)ホスホリパーゼDを作用させる段階、並びに(b)グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる段階、の二段階に分けて酵素を作用させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス・クロモフスカスに属する微生物由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含むカルジオリピンの定量用キット。
【請求項6】
前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス・クロモフスカスに属する微生物由来のものである、請求項5に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カルジオリピンの定量方法、及びカルジオリピンの定量用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
カルジオリピン(cardiolipin) (以下、CLと称することもある)は、リン脂質の一種であって、動物、植物、細菌界に広く分布し、動、植物では全リン脂質の1~15%、細菌によっては全リン脂質の50%を占める場合もある。また、カルジオリピンは、以下の構造を有している。
【0003】
【化1】
JP2015151801A1_000002t.gif

【0004】
CLは、哺乳類細胞において主にミトコンドリアに存在しているリン脂質である。このため、CLは、電子伝達系を含むミトコンドリアに存在する様々な酵素活性を調節し、アポトーシスにも関与している。特に、心筋細胞には多量のCLが含まれる。
【0005】
従来、CLの定量は、薄層クロマトグラフィー/リン定量法により行われてきた。しかしながら、これらの定量法は、検出感度及び定量精度が低く、時間及び手間を必要とした。また、CLに対する質量分析法は確立していない。
【0006】
このように、CLは生体において重要で欠かすことのできない成分であるにもかかわらず、その分析法は現在においても極めて乏しい。
【0007】
本発明者は、これまでに一連のリン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、及びスフィンゴミエリン)に対する酵素蛍光定量法を開発している(特許文献1、2等)。
【0008】
特許文献1では、ホスホリパーゼD、L-アミノ酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを試料に作用させて、生成する化合物の蛍光強度を測定することによるホスファチジルセリンの酵素定量法が報告されている。
【0009】
また、特許文献2では、スフィンゴミエリナーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを試料に作用させて、生成する化合物の蛍光強度を測定することによるスフィンゴミエリンの酵素定量法が報告されている。
【0010】
しかしながら、CLについての酵素蛍光定量法については開発されていないため、CLが抜け落ちることにより、リン脂質全体のプロファイルが分からないことが問題となっている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】国際公開第2012/070617号
【特許文献2】特開2013-255436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来、CLの定量は、薄層クロマトグラフィー/リン定量法により行われている。しかしながら、これらの方法には、検出感度及び定量精度が低いこと、時間及び手間がかかることなどの欠点がある。
【0013】
本発明は、CLを高感度で簡便に定量できるカルジオリピンの定量方法、及びカルジオリピンの定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、図1に示す一連の酵素反応を用いることによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。図1に示すカルジオリピンの定量方法について以下説明する。
(i) ホスホリパーゼDによりCLを加水分解することで、グリセロール及びホスファチジン酸を生成させる。
(ii) グリセロールキナーゼによりグリセロールをリン酸化し、グリセロール-3-リン酸を生成させる。
(iii) グリセロール-3-リン酸オキシダーゼによりグリセロール-3-リン酸を酸化し、H2O2を生成させる。
(iv) 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex(商標) Red)及びH2O2をペルオキシダーゼにより反応させることでレゾルフィンを生成させる。レゾルフィンから生じる蛍光強度を測定することにより、CL量を測定することができる。
【0015】
このように、ホスホリパーゼDがCLを分解してグリセロールを遊離させることができることは知られていなかった。
【0016】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のカルジオリピンの定量方法、及びカルジオリピンの定量用キットを提供するものである。
【0017】
(I) カルジオリピンの定量方法
(I-1) 以下の工程を有する試料中のカルジオリピンの定量方法:
(1)試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる工程、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からカルジオリピンを定量する工程。
(I-2) 前記工程(1)において、(a)ホスホリパーゼDを作用させる段階、並びに(b)グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる段階、の二段階に分けて酵素を作用させる、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである、(I-1)又は(I-2)に記載の方法。
(I-4) 前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス・クロモフスカスに属する微生物由来のものである、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
(II) カルジオリピンの定量用キット
(II-1) ホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含むカルジオリピンの定量用キット。
(II-2) 前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス属に属する微生物由来のものである、(II-1)に記載のキット。
(II-3) 前記ホスホリパーゼDが、ストレプトマイセス・クロモフスカスに属する微生物由来のものである、(II-1)又は(II-2)に記載のキット。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカルジオリピンの定量方法及び定量用キットは、高感度、且つ高精度なカルジオリピンの定量が可能である。
【0020】
また、本発明の検出限界は10 pmolであり、従来のCLの定量方法と比べて、極めて高感度であり、高精度の定量を行うことが可能である。
【0021】
さらに、本発明における必要な操作は、ピペットによる試料及び反応液のマイクロプレートへの分注が主で、極めて簡便であり、そのため、ハイスループット定量が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のCLの定量方法における反応を示す図である。
【図2】試験例1のCL測定における標準曲線を示すグラフである。各点は3回の測定の平均±S.D.を表す。線は、線形回帰分析によって得た。相関係数は、r=0.9996 (A)とr=0.9998 (B)であった。
【図3】試験例1のCL測定におけるウシ心臓由来CL、及び4つのオレオイル鎖を持つCL (TOCL)(ともに100μM)に反応した蛍光変化を示すグラフであり、ウシ心臓由来CLによる蛍光変化を100%として表している。各バーは3回の測定の平均±S.D.を表す。多重比較は、ANOVAに従いBonferroni検定を使用して行った。ウシ心臓由来CLとTOCLとの間で統計学的に有意な相違はなかった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のカルジオリピンの定量方法、及びカルジオリピンの定量用キットについて詳細に説明する。

【0024】
カルジオリピンの定量方法
本発明の試料中のカルジオリピンの定量方法は、以下の工程を有することを特徴とする。
(1)試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる工程、並びに
(2)工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からカルジオリピンを定量する工程。

【0025】
以下、各工程について説明する。

【0026】
<工程(1)>
工程(1)では、試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させる。

【0027】
試料にホスホリパーゼDを作用させることにより、CL及びH2Oからグリセロール及びホスファチジン酸が生成する。次に、当該生成物にグリセロールキナーゼを作用させることにより、グリセロール及びATP (アデノシン5'-三リン酸)からグリセロール-3-リン酸及びADP (アデノシン5'-二リン酸)が生成する。次に、当該生成物にグリセロール-3-リン酸オキシダーゼを作用させることにより、グリセロール-3-リン酸とO2からH2O2とジヒドロキシアセトンリン酸が生成する。

【0028】
ホスホリパーゼD (EC 3.1.4.4)は、グリセロリン脂質のホスホジエステル結合の塩基側を加水分解するリン脂質加水分解酵素である。本発明で使用するホスホリパーゼDは、カルジオリピンを加水分解して、グリセロールとホスファチジン酸を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物いずれの由来のホスホリパーゼDでも使用できるが、微生物由来のホスホリパーゼDが好ましく、ストレプトマイセス属由来のホスホリパーゼDがより好ましく、ストレプトミセス・クロモフスカス(Streptomyces chromofuscus)由来のものが特に好ましい。

【0029】
本発明で使用するグリセロールキナーゼ (EC 2.7.1.30)は、グリセロールをリン酸化し、グリセロール-3-リン酸を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物由来のグリセロールキナーゼを広く使用できる。これらの中でも、微生物由来のグリセロールキナーゼが好ましく、セルロモナス・エスピー(Cellulomonas sp.)由来のグリセロールキナーゼが特に好ましい。

【0030】
本発明で使用するグリセロール-3-リン酸オキシダーゼ(EC 1.1.3.21)は、グリセロール-3-リン酸を酸化し、過酸化水素を生成させることができるものであれば、微生物、動物及び植物由来のグリセロール-3-リン酸オキシダーゼを広く使用できる。これらの中でも、微生物由来のグリセロール-3-リン酸オキシダーゼが好ましく、ペディオコッカス・エスピー(Pediococcus sp.)由来のグリセロール-3-リン酸オキシダーゼが特に好ましい。

【0031】
本発明で使用するペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)は、微生物、動物及び植物由来のペルオキシダーゼを広く使用できる。これらの中でも、植物由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ(horseradish)由来のペルオキシダーゼが特に好ましい。

【0032】
本発明のCLの定量方法では、試料に上記4種類の酵素を作用させる場合は、4種の酵素を一緒に添加して一度に反応させてもよいし又は逐次的に添加して反応させてもよい。しかしながら、(a) ホスホリパーゼD、並びに(b) グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ、の二段階に分けて酵素を作用させることが好ましい。このように、4種類の酵素を段階的に反応させることにより精度を高めることができる。

【0033】
試料にホスホリパーゼDを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にホスホリパーゼDを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常1分以上である。

【0034】
試料にグリセロールキナーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にグリセロールキナーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常1分以上である。

【0035】
試料にグリセロール-3-リン酸オキシダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にグリセロール-3-リン酸オキシダーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常1分以上である。

【0036】
試料にペルオキシダーゼを作用させる条件としては使用する酵素の特性に応じて適宜設定することができるが、pHは通常6~9、温度は通常15~40℃である。試料にペルオキシダーゼを作用させる時間は、分析する試料の特性に応じて適宜設定することができるが、通常1分以上である。

【0037】
4種類の酵素の作用温度及びpHが共通する場合は全ての酵素の反応を同時に行うことができ、作用温度及びpHが酵素により異なる場合は逐次段階的に必要とされる温度及びpHに設定し反応を行うことができる。

【0038】
本発明のCLの定量方法において、試料に4種類の酵素を作用させる反応液中の4種類の酵素の量は、含まれるCL量等を考慮して分析に適切な酵素量に適宜調整することができる。これら4種類の酵素は、反応時間内にほぼ完全に反応を終えることで高い精度が得られるため、十分な量の酵素を用いることが望ましい。

【0039】
本発明において、試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、ペルオキシダーゼの存在下でH2O2と反応することで蛍光強度、吸光度又は発光量が増加する化合物が含まれる。なお、4種の酵素を逐次的に反応させる場合は、当該化合物は、少なくともペルオキシダーゼを反応させる際の反応液に含まれていればよい。そのような化合物としては、例えば、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red)が挙げられる。反応液中の10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンの濃度は適宜調整することができるが、通常10~500μMである。

【0040】
試料にホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを作用させるための反応液には、試料と酵素の他に、緩衝液、金属塩、ATP等が含まれていてもよい。緩衝液としては、例えばトリス-塩酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、グリシン-塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。なお、グリセロールキナーゼを作用させる反応液には、ATPとマグネシウム塩が含まれていることが望ましい。

【0041】
本発明における試料としては、CLの定量が求められているものであれば特に限定されず、例えば、培養細胞、培養液、ヒト又は動物の組織及び血液を含む体液、植物の組織及び植物体液、菌類、真菌類、細菌及び細菌の培養液、医薬、食品、サプリメント等が挙げられる。試料は希釈液により希釈されていてもよく、そのような希釈液としては緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、例えば前述するものが挙げられる。試料は酵素反応の前に前処理されていてもよく、そのような処理としては加熱処理等が挙げられる。

【0042】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)で生成する化合物の蛍光強度、吸光度又は発光量を測定し、予め求めた検量線からカルジオリピンを定量する。

【0043】
一連の反応の結果、1分子のCLから1分子のH2O2が生成するため、H2O2量を測定することでCLを定量することが可能となる。

【0044】
工程(2)における測定方法としては、具体的には、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たな吸収波長を得る化合物(例えば、N,N'-ビス(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)トリジン等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して複数の化合物が酸化縮合し新たな吸収波長を得る化合物(例えば、フェノールと4-アミノアンチピリンとの酸化縮合等)を用いて吸光度測定を行う方法、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物(例えば、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン等)を用いて蛍光強度を測定する方法、及びペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに発光を生じる化合物(例えば、ルミノール等)を用いて発光量を測定する方法が挙げられる。

【0045】
上記の中でも好ましいのは、ペルオキシダーゼによってH2O2と反応して新たに蛍光を生じる化合物を用いて蛍光強度を測定する方法であり、特に好ましいのはH2O2に10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red)とペルオキシダーゼを作用させることにより生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定する方法である。レゾルフィンは、蛍光性化合物であり、最大励起波長は571 nm、最大蛍光波長は585 nmである。それに対して、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジンは、非蛍光性化合物であり、波長571 nm付近の光を照射しても蛍光は生じない。一連の反応の結果、1分子のCLから1分子のレゾルフィンが生成するため、レゾルフィン量を測定することでCLを定量することが可能である。レゾルフィン量の測定は、例えば蛍光マイクロプレートリーダーを使用し、励起波長544 nm、蛍光波長590 nmを選択して蛍光強度を測定することにより行うことができる。

【0046】
本発明において、微生物、動物又は植物由来の酵素とは、微生物、動物又は植物が産生する酵素、及び該酵素のアミノ酸配列において、1又は2個以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入させることで得られ、且つ本来有する酵素活性を有している改変体を広く包含する。

【0047】
上記「1個若しくは2個以上」の範囲は特に限定されないが、例えば1~50個、好ましくは1~25個、より好ましくは1~12個、更に好ましくは1~9個、特に好ましくは1~5個を意味する。特定のアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸を置換、欠失、又は付加させる技術は公知である。

【0048】
上記の各酵素は市販品として入手可能であるか、又は公知の遺伝子配列の情報を利用して遺伝子を取得し形質転換体を作製することにより生産することができる。生産した酵素の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩折法等により行うことができる。

【0049】
本発明のCLの定量方法の一例として次の方法が挙げられる。まずCLの濃度が既知の溶液を適宜希釈した標準試料について本発明の方法により蛍光強度を測定し、CL濃度に対する蛍光強度の検量線を作成する。そして、CLの含量が未知の試料を用いて本発明により蛍光強度を測定し、上記検量線からCL量を求めることができる。

【0050】
本発明のカルジオリピンの定量方法は、高感度、且つ高精度なカルジオリピンの定量が可能である。

【0051】
カルジオリピンの定量用キット
本発明のカルジオリピンの定量用キットは、ホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含むことを特徴とする。

【0052】
本発明のCLの定量用キットを用いて前記CLの定量方法を実施することで、高感度、且つ高精度なカルジオリピンの定量が可能である。

【0053】
本発明のCLの定量用キットを使用する方法は、前述するCLの定量方法を適用できる。

【0054】
ホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼは前述したものと同様である。

【0055】
本発明のCLの定量用キットは、ホスホリパーゼD、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを酵素液として含んでいてもよいし、また乾燥粉末の形態で含んでいてもよい。本発明のCLの定量用キットは、H2O2の存在下でペルオキシダーゼを作用させることで蛍光強度、吸光度又は発光量を測定可能な化合物を生成する化合物を含んでいてもよい。本発明のCLの定量用キットはまた、更に緩衝剤、金属塩、ATP等を含んでいてもよく、マグネシウム塩とATPとを少なくとも含んでいることが望ましい。緩衝剤及び金属塩としては前述するものが挙げられる。緩衝剤及び金属塩は水溶液又は粉末の形態でキットに含まれていることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
材料
ストレプトマイセス・クロモフスカス由来のホスホリパーゼDは、旭化成株式会社から購入した。セルロモナス・エスピー由来のグリセロールキナーゼ及びペディオコッカス・エスピー由来のグリセロール-3-リン酸オキシダーゼは、東洋紡株式会社から購入した。西洋ワサビ根由来のペルオキシダーゼは、オリエンタル酵母工業株式会社から購入した。Amplex Red試薬は、Invitrogen社から購入した。ウシ心臓由来CL、及びTOCLは、Avanti Polar Lipids社から購入した。その他の化学薬品は特級のものを使用した。
【実施例】
【0058】
CLの酵素測定
測定は、4反応試液システムを使用して行った。反応試液L1は、5 U/ml ホスホリパーゼD、1.5 mM CaCl2、50 mM NaCl、及び50 mM Tris-HCl (pH 7.4)を含有する。反応試液L2は、5 U/ml グリセロールキナーゼ、4.5 mM ATP、5 U/ml グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、5 U/ml ペルオキシダーゼ、300μM Amplex Red、0.2容量% Triton X-100、1.5 mM MgCl2、50 mM NaCl、及び50 mM Tris-HCl (pH 7.4)を含有する。Amplex Red Stop試薬は、Invitrogen社から購入した。CL標準溶液は、1容量% Triton X-100水溶液にウシ心臓由来CLを溶解した。
【実施例】
【0059】
サンプル(10μl)又はCL標準溶液を反応試液L1 (40μl)に添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応試液L2 (50μl)を添加した。室温で30分間インキュベート後、Amplex Red Stop試薬(20μl)を添加した。蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダー(Infinite M200, Tecan社)を使用して測定し、励起波長及び蛍光波長は、それぞれ544 nmと590 nmに設定した。
【実施例】
【0060】
細胞中のCL含量の測定
HEK293細胞は、10%熱不活性化FBSを含むDMEMを用いて、加湿インキュベーター(5% CO2)内37℃で培養した。100 mmディッシュに細胞を播種し、37℃で数日間インキュベートした。インキュベート後、細胞を氷上で冷却し、冷却したPBSで洗浄し、掻き取り、細胞を超音波処理により破砕した。細胞の脂質をBligh and Dyerの方法(Bligh, E.G., Dyer, W.J., 1959. A rapid method of total lipid extraction and purification. Can J Biochem Physiol 37, 911-917.)によって抽出し、使用直前に調製した1容量% Triton X-100に溶解した。細胞からの脂質抽出物中のCLは、本発明の酵素定量法によって測定した。
【実施例】
【0061】
<結果>
試験例1:CL測定
上記のCLの酵素定量法により、CL標準溶液を用いて検量線を作成した。結果を図2に示す。
【実施例】
【0062】
CL測定のための検量線は、0~150μMの間で直線となった(r=0.9996:図2A、R=0.9998:図2B)。検出限界は1μM (反応溶液中に10 pmol)であった。
【実施例】
【0063】
二種類のCLについて同濃度(100μM)で上記のCLの酵素定量法により蛍光強度を調べた。ウシ心臓由来CLで生じた蛍光強度を100%として表した結果を、図3に示す。ウシ心臓由来CLと4つのオレオイル鎖を有するTOCLとを比較したところ、同濃度で蛍光強度に差はなかった。
【実施例】
【0064】
試験例2:培養細胞中のCLの測定
CL測定の正確性を確認するために、既知量のCLを細胞脂質抽出物に加えて回収試験を行った(表1)。その結果、添加したCLは、各添加量において、ほぼ100%回収できた。この結果から、添加したCLの定量は、他の細胞抽出物の阻害を受けておらず、本発明の定量方法は正確であることが分かった。
【実施例】
【0065】
【表1】
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2