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明細書 :磁気力顕微鏡用探針の評価装置および評価方法、ならびに磁気力顕微鏡および磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月20日(2017.4.20)
発明の名称または考案の名称 磁気力顕微鏡用探針の評価装置および評価方法、ならびに磁気力顕微鏡および磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法
国際特許分類 G01Q  60/54        (2010.01)
G01N  27/72        (2006.01)
FI G01Q 60/54
G01N 27/72
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 48
出願番号 特願2016-523490 (P2016-523490)
国際出願番号 PCT/JP2015/064975
国際公開番号 WO2015/182564
国際出願日 平成27年5月25日(2015.5.25)
国際公開日 平成27年12月3日(2015.12.3)
優先権出願番号 2014107632
2014129187
優先日 平成26年5月24日(2014.5.24)
平成26年6月24日(2014.6.24)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】齊藤 準
【氏名】木下 幸則
【氏名】吉村 哲
出願人 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100129838、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 典輝
審査請求 未請求
テーマコード 2G053
Fターム 2G053AA16
2G053AA30
2G053AB15
2G053BA03
2G053BA13
2G053BA21
2G053BB11
2G053BC02
2G053BC03
2G053BC14
2G053CA13
2G053CA19
2G053CB21
2G053DB19
要約 磁気力顕微鏡用探針の評価装置11は、探針励振部111と、探針に交流磁場を印加する交流磁場発生部112と、交流磁場発生部を制御する交流磁場制御部113と、探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出部114と、交流磁場の強度に対応する振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定部115と、スペクトルに現われたサイドバンドの強度を抽出するSBI抽出部116と、SBI変化測定部117と、評価結果出力部119とを備える。
特許請求の範囲 【請求項1】
試料から発生する直流磁場または交流磁場を測定する磁気力顕微鏡用の探針の特性評価に使用される装置であって、
前記探針を励振させる探針励振部と、
交流磁場を発生し前記探針に当該交流磁場を印加する交流磁場発生部と、
前記交流磁場の強度が変化するように前記交流磁場発生部を制御する交流磁場制御部と、
前記探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出部と、
前記探針振動検出部により生成された振動検出信号を取得し、前記交流磁場の強度に対応する前記振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定部と、
前記スペクトル測定部により測定されたスペクトルに現われた2次のサイドバンドの強度を抽出する、または前記スペクトル測定部により測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度を抽出する、SBI抽出部と、
前記SBI抽出部によって抽出されたサイドバンドの強度の、前記交流磁場の強度に対する変化を測定するSBI変化測定部と、
前記SBI変化測定部により測定された前記変化に基づいて前記探針の特性を評価する評価結果出力部と
を備える、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記探針の探針チップが強磁性体、常磁性体、超常磁性を示す材料または反磁性体を有してなる、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【請求項3】
前記探針の探針チップが強磁性体のうちハード磁性材料を有してなる、請求項1に記載の評価装置であって、
前記SBI抽出部は、前記1次および2次のサイドバンドの強度を抽出し、
前記評価結果出力部は、
前記交流磁場の強度を増加させたときに前記1次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力し、かつ、
前記交流磁場の強度を増加させたときに前記2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より低い評価結果を出力する、
磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【請求項4】
前記探針の探針チップが強磁性体のうちソフト磁性材料を有してなる、請求項1に記載の評価装置であって、
前記評価結果出力部は、
前記SBI変化測定部により測定された前記2次のサイドバンドの強度の前記交流磁場の強度に対する変化が二次関数変化から一次関数変化へ遷移する交流磁場強度を遷移点として検出する、SBI変化遷移点検出部と、
前記遷移点における前記2次のサイドバンドの強度を取得し、前記探針の飽和磁化、および、前記探針の磁化が飽和したときの前記交流磁場の強度を検出する、探針飽和磁化特性検出部と
をさらに備える、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【請求項5】
前記探針の探針チップが常磁性体もしくは反磁性体、または超常磁性を示す材料を有してなる、請求項1に記載の評価装置であって、
前記評価結果出力部は、前記交流磁場の強度を増加させたときに前記2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力する、
磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【請求項6】
試料から発生する直流磁場または交流磁場を測定する磁気力顕微鏡用探針の特性評価に適用される方法であって、
前記探針を励振させる探針励振ステップと、
交流磁場を発生させ前記探針に当該交流磁場を印加する交流磁場発生ステップと、
前記交流磁場発生ステップにおいて発生された前記交流磁場の強度が変化するように前記交流磁場を制御する交流磁場制御ステップと、
前記探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出ステップと、
前記探針振動検出ステップにおいて生成された振動検出信号を取得し、前記交流磁場の強度に対応する前記振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
前記スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルに現われた2次のサイドバンドの強度を抽出する、または前記スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度を抽出する、SBI抽出ステップと、
前記SBI抽出ステップにおいて抽出されたサイドバンドの強度の、前記交流磁場の強度に対する変化を測定するSBI変化測定ステップと、
前記SBI変化測定ステップにおいて測定された前記変化に基づいて前記探針の特性を評価する、評価結果出力ステップと
を備える、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載の評価方法であって、
前記探針の探針チップが強磁性体、常磁性体、超常磁性を示す材料または反磁性体を有してなる、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【請求項8】
前記探針の探針チップが強磁性体のうちハード磁性材料を有してなる、請求項6に記載の評価方法であって、
前記SBI抽出ステップにおいて、前記1次および2次のサイドバンドの強度を抽出し、
前記評価結果出力ステップにおいて、
前記交流磁場の強度を増加させたときに前記1次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力し、かつ、
前記交流磁場の強度を増加させたときに前記2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より低い評価結果を出力する、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【請求項9】
前記探針の探針チップが強磁性体のうちソフト磁性材料を有してなる、請求項6に記載の評価方法であって、
前記評価結果出力ステップは、
前記SBI変化測定ステップにおいて測定された前記2次のサイドバンドの強度の前記交流磁場の強度に対する変化が二次関数変化から一次関数変化へ遷移する交流磁場強度を遷移点として検出する、SBI変化遷移点検出ステップと、
前記SBI変化遷移点検出ステップにおいて検出された遷移点、および当該遷移点における前記2次のサイドバンドの強度を取得し、前記探針の飽和磁化、および、前記探針の磁化が飽和したときの前記交流磁場の強度を検出する、探針飽和磁化特性検出ステップと
を備える、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【請求項10】
前記探針の探針チップが、常磁性体もしくは反磁性体、または超常磁性を示す材料を有してなる、請求項6に記載の評価方法であって、
前記評価結果出力ステップにおいて、前記交流磁場の強度を増加させたときに前記2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力する、
磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【請求項11】
励振している探針に交流磁場と制御用直流磁場とを印加し、前記探針により試料の表面を走査し、前記探針の振動を検出することで、前記試料の表面の直流磁場を測定する磁気力顕微鏡であって、
先端に磁性体薄膜が形成された探針チップを備えた前記探針と、
前記探針を励振させる探針励振部と、
前記交流磁場と前記制御用直流磁場との合成磁場を発生する合成磁場発生部と、
前記制御用直流磁場の強度を変化させる制御、および、前記制御用直流磁場の強度を固定して前記交流磁場の強度を順次変化させる制御を行う磁場制御部と、
前記探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出部と、
前記探針を空間駆動する走査部と、
前記探針振動検出部により検出された振動検出信号を取得し、前記探針の振動に生じた変調を解析することで前記試料の表面の直流磁場を測定する直流磁場特性測定部と、
前記探針振動検出部により検出された振動検出信号を取得し、前記交流磁場の強度に対応する前記振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定部と、
前記スペクトル測定部により測定されたスペクトルのサイドバンドの強度変化に基づき、前記探針チップに形成された前記磁性体薄膜の磁化が飽和したときの前記交流磁場の強度を検出する磁化飽和検出部と、
を備えたことを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気力顕微鏡であって、
前記磁化飽和検出部は、
前記スペクトル測定部により測定されたスペクトルの2次のサイドバンドの強度を抽出するSBI抽出部と、
強度がゼロを含む所定範囲内のある値に設定された前記制御用直流磁場の下で、前記交流磁場の強度をある値から所定値まで変化させ、前記SBI抽出部により抽出された前記2次のサイドバンドの強度の前記交流磁場の強度に対する変化の、二次関数変化から一次関数変化への遷移の有無を検出し、前記遷移を検出した場合には、前記遷移が生じたときの前記交流磁場の強度を測定するSBI変化測定部と、
前記SBI変化測定部による測定結果に基づき、前記制御用直流磁場の強度の適性および/または前記交流磁場の強度の適性を判定する磁場強度適性判定部と、
を備えたことを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【請求項13】
請求項11に記載の磁気力顕微鏡であって、
前記探針チップに形成された前記磁性体薄膜がソフト磁性材料からなることを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【請求項14】
請求項11に記載の磁気力顕微鏡であって、
前記合成磁場発生部が、交流電流と直流電流との合成電流により駆動されるコイルを有してなる、磁気力顕微鏡。
【請求項15】
請求項11に記載の磁気力顕微鏡であって、
前記合成磁場発生部が、交流電流により駆動される第1のコイルおよび直流電流により駆動される第2のコイルを有してなる、磁気力顕微鏡。
【請求項16】
励振している探針に交流磁場と制御用直流磁場とを印加し、前記探針により試料の表面を走査し、前記探針の振動を検出することで、前記試料の表面の直流磁場を測定する磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法であって、
前記探針を励振させる探針励振ステップと、
前記交流磁場と前記制御用直流磁場との合成磁場を発生させ、前記探針に前記合成磁場を印加する制御用磁場発生ステップと、
前記制御用直流磁場の強度を変化させる制御、および、前記制御用直流磁場の強度を固定して前記交流磁場の強度を変化させる制御を行う磁場制御ステップと、
前記探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出ステップと、
前記探針振動検出ステップにおいて検出された振動検出信号を取得し、前記交流磁場の強度に対応する前記振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
前記試料の直流磁場の測定に際して、前記探針の先端に備えた探針チップに形成された磁性体薄膜の磁化が飽和するか否かを、前記スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルのサイドバンドの強度変化に基づき検出する磁化飽和検出ステップと、
を有することを特徴とする、磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
【請求項17】
請求項16に記載の制御用磁場調整方法であって、
前記磁化飽和検出ステップは、
前記スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルの2次のサイドバンドの強度を抽出するSBI抽出ステップと、
前記制御用直流磁場の強度をゼロを含む範囲のある値に設定し、前記交流磁場の強度をある値から所定値まで変化させ、前記SBI抽出ステップにおいて抽出された前記2次のサイドバンドの強度の前記交流磁場の強度に対する変化の、二次関数変化から一次関数変化への遷移の有無を検出し、前記遷移を検出した場合には、前記遷移が生じたときの前記交流磁場の強度を測定するSBI変化測定ステップと、
前記SBI変化測定ステップにおける測定結果に基づき、前記制御用直流磁場の強度の適性および/または前記交流磁場の強度の適性を判定する制御用磁場適性判定ステップと、
を含むことを特徴とする磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
【請求項18】
請求項16に記載の磁気力顕微鏡であって、
前記探針チップに形成された前記磁性体薄膜がソフト磁性材料からなることを特徴とする、磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から発生する磁場を測定する磁気力顕微鏡用探針の特性評価に使用される装置および当該特性評価に適用される方法に関する。
具体的には、本発明は、強磁性体(ハード磁性材料、ソフト磁性材料)、常磁性体、超常磁性を示す材料、または反磁性体からなる磁気力顕微鏡用探針の評価に際して、励振させた探針に強度を変化させた交流磁場を印加し、前記探針の振動から得られるスペクトルに基づき当該探針の特性を評価する技術に関する。
また、具体的には、本発明は、ソフト磁性探針、常磁性体探針、または超常磁性探針の評価に際して、励振させた探針に直流磁場と交流磁場とを重畳して印加し、それぞれの強度を変化させる際に、探針の振動から得られるスペクトルに基づき当該探針の特性を評価する技術に関する。
【0002】
また本発明は、探針振動のスペクトルのサイドバンドの強度変化を観察することで、探針チップに形成されたソフト磁性材料の薄膜の磁化の飽和を検出し、探針磁化の飽和の検出結果に基づき、探針に与える制御用磁場を調整できる、磁気力顕微鏡および磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法に関する。
【背景技術】
【0003】
磁性体サンプルの交流磁気特性(交流磁気プロファイル)を測定する技術として、図1に示す磁気力顕微鏡(MFM)7が知られている(特許文献1:WO2013/047538参照)。
このMFM7では、励振した探針71(カンチレバー)の先端に設けた探針チップ711により、試料72の表面を走査する。図1では試料72は、交流磁場を生成する、ハードディスクの磁気記録ヘッドである。探針チップ711には、試料72が生成する交流磁場H_ACが印加される。探針チップには、主に強磁性体でハード磁気特性を有するものが用いられる。
レーザ(LASER)731とフォトダイオード(PD)732とからなる振動検出器により、探針71の振動(振動変調)が検出され、図示しないプロファイル測定装置により試料72の表面の交流磁場勾配を反映した交流磁気プロファイルが測定される。
【0004】
磁性体サンプルの直流磁気特性(直流磁気プロファイル)を測定する技術として、図2に示す磁気力顕微鏡(MFM8)が知られている(特許文献2:WO2013/047537参照)。
このMFM8では、励振した探針81(カンチレバー)の先端に設けた探針チップ811により、試料82の表面を走査する。試料82の下側にはコイル84が設けられており、探針チップ811には、試料82が生成する直流磁場H_DCと、コイル84が生成する交流磁場H_ACとの重畳磁場が印加される。探針チップには、主に強磁性体でソフト磁気特性を有するものが用いられる。
レーザ(LASER)831とフォトダイオード(PD)832とからなる振動検出器により、探針81の振動(振動変調)が検出され、図示しないプロファイル測定装置により試料82の表面の直流磁場勾配を反映した直流磁気プロファイルが測定される。
【0005】
磁性体サンプルの直流磁気特性(直流磁気プロファイル)を測定する技術として、図3に示す磁気力顕微鏡(MFM9)が提案されている。
このMFM9では、励振した探針91(カンチレバー)の先端に設けた、保磁力がゼロで、磁化がヒステリシスを持たない常磁性体、超常磁性を示す材料、または反磁性体を有してなる探針チップ911により、試料92の表面を走査する。試料92の下側には交流磁場発生コイル941,942および直流磁場発生コイル943が設けられており、交流磁場発生コイル941,942からは交流磁場H_AC1,H_AC2が生成され、直流磁場発生コイル943からは交流磁場H_DCCOILが生成される。
探針チップ911には、試料92が生成する直流磁場H_DCSMPLと、交流磁場発生コイル941,942が生成するH_AC1,H_AC2と、直流磁場発生コイル943が生成するH_DCCOILが印加される。
図3では、探針チップの先端で、H_AC1,H_AC2の振動方向成分の磁場の和がゼロになり、磁場勾配が最大になるように、またH_DCCOILは、探針91の周波数変調が小さくなるように制御される。
レーザ(LASER)931とフォトダイオード(PD)932とからなる振動検出器により、探針91の振動が検出され、図示しないプロファイル測定装置により試料92の表面の直流磁場を反映した直流磁気プロファイルが測定される。
【0006】
図4は、図1に示した探針71、図2に示した探針81および図3に示した探針91の先端拡大図である。
図4に示すように、探針チップ711(811,911)は錐形をなし、錐形部はSiに磁性体薄膜MMが成膜されて構成される。磁性体薄膜MMは、強磁性体(ハード磁性体またはソフト磁性体)や、常磁性体、超常磁性を示す材料、反磁性体からなる。
なお、ハード磁性材料としては、PtとFeあるいはCoとの合金、FeNdB系金属間化合物、SmCo系金属間化合物等が知られている。ソフト磁性材料としては、パーマロイ(Ni-Fe)、Co-Zr-Nb、Fe-Co-B、Fe-Co等が知られている。超常磁性を示す材料としては、粒径が数10nm程度のFeやCo等の微粒子がお互いに接触しないように非磁性体で取り囲まれた構造をもつグラニューラー合金等が知られている。
【0007】
本明細書では、探針チップの錐形部に形成される磁性体としてハード磁性材料(保磁力や残留磁化が大きい強磁性体)が使用された探針はハード磁性探針と称され、当該錐形部に形成される磁性体としてソフト磁性材料(保磁力や残留磁化が小さく、磁化率が大きな磁性体)が使用された探針はソフト磁性探針と称され、錐形部に形成される磁性体として常磁性体または超常磁性を示す材料(保磁力や残留磁化がゼロで、磁化がヒステリシスを持たない)が使用された探針は常磁性探針または超常磁性探針と称され、錐形部に形成される磁性体として反磁性体(磁化が磁場の逆方向に発生し、保磁力や残留磁化がゼロであり、磁化がヒステリシスを持たない)が使用された探針は反磁性探針と称される。
図1のMFM7ではハード磁性探針が主に使用される。
図2のMFM8ではソフト磁性探針が主に使用される。
図3のMFM9では、常磁性探針や超常磁性探針が主に使用される。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】WO2013/047538
【特許文献2】WO2013/047537
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図5に保磁力がゼロではなく、磁化がヒステリシスを示し、残留磁化が大きなハード磁性材料のM-H曲線(磁化-磁場特性)の典型例を示す。
図5では、交流磁場Hと、交流変化する磁化Mとが併記されている。
ハード磁性探針は、交流磁場Hが与えられたときに、探針の磁化が着磁後の残留磁化の値から変化しない特性を持つことが好ましい。なお、図5では、交流磁場Hの強度と比較してハード探針の保磁力が大きな場合の、交流磁場Hと、磁化Mとの関係を示している。
図1のMFM7では、交流磁場Hは、試料72が発生する磁場である。
図1のMFM7において、交流磁場Hがハード磁性探針の磁化を変化させないように、探針71はできるだけ大きな保磁力と高い角形比を持つことが好ましい。
図2のMFM8において探針81がソフト磁性探針である場合には、交流磁場Hが直流磁場を発生する試料82を磁気擾乱しないように、ソフト磁性探針81は、小さな磁場Hの領域で、飽和することなく磁化Mの変化分を大きくとれる特性を持つことが好ましい。
【0010】
図6(A),(B)にソフト磁性材料のM-H曲線(磁化-磁場特性)の典型例を示す。
図6(A),(B)では、交流磁場Hと、交流変化する磁化Mとが併記されている。図2において、交流磁場H_ACに、試料が発生する直流磁場H_DCSMPLが重畳されている。
ソフト磁性探針は、試料からの直流磁場H_DCSMPLが加わっても、たとえば図6(A)に参照されるように、探針の磁化Mが飽和せずに、交流磁場H_ACの印加により大きく変化する特性を持つ必要がある。
図6(B)に示すように、試料からの直流磁場H_DCSMPLが加わることで探針の磁化Mが飽和すると、交流磁場H_ACを印加しても探針の磁化Mが変化しなくなり、測定ができなくなる。
ソフト磁性探針の特性は、測定対象である、試料から発生する直流磁場H_DCSMPLの強度変化の範囲で、探針の磁化Mが飽和せず、かつ計測感度が高いこと(弱い交流磁場強度で、大きな磁化の変化が得られること)が好ましい。
図2のMFM8において、探針81がソフト磁性探針である場合には、交流磁場Hが直流磁場を発生する試料82を磁気擾乱しないように、ソフト磁性探針は磁場強度が小さくても高い磁化を得ることができ、かつ、磁場Hが磁化飽和しない領域で動作できる必要がある。
【0011】
図7に常磁性体または超常磁性を示す材料のM-H曲線の典型例を示す。
図7では、交流磁場Hと、交流変化する磁化Mとが併記されている。常磁性探針では磁化率(磁場Hに対する磁化Mの傾き)が大きいことが好ましい。
図3のMFM9において、探針91が常磁性探針や超常磁性探針である場合には、磁化率が大きいと、同じ磁場強度でも大きな磁化変化が得られる。
【0012】
MFMに使用される探針(ソフト磁性探針、ハード磁性探針、常磁性探針、超常磁性探針)は、消耗品であり、探針の出荷時に、特性がその用途に適合するように(それが使用されるMFMで正しく動作できるように)、特性評価を行い、品質を一定に保つ必要がある。
しかし、従来、磁性探針の性能を定量的に評価する技術は提供されておらず、磁性探針の性能の標準化に役立つ技術は提供されていない。
本発明の第1の課題は、MFMに使用される探針の特性を評価できる評価技術を提供することにあり、さらに、該評価技術の標準を提供することにある。
【0013】
図21(A),(B)にソフト磁性材料のM-H曲線(磁化-磁場特性)の典型例を示す。
図21(A),(B)では、説明の便宜上、横軸のレンジを大きくとってある(磁化曲線の勾配を小さくして示してある)。
また、図21(A),(B)には、直流磁場H_DCと交流磁場H_ACの合成磁場と、磁化Mとを併せて示してある。
たとえば、図21(A)に示すように、試料82が発生する直流磁場H_DCSMPLの強度が小さいとき(図21(A)ではH_DCSMPLがゼロであるとき)は、重畳磁場H_DCSMPL/ACは、特性曲線の線形領域で変化するため、磁化Mは飽和領域による影響を受けない。
しかし、図21(B)に示すように、試料82が発生する直流磁場H_DCSMPLの強度が無視できなくなると、重畳磁場H_DCSMPL/ACは、特性曲線の非線形領域で変化するため、磁化Mは飽和領域による影響を受け、磁化Mの変化幅が減少する。
この結果、MFM8は、計測感度が低下する問題を生じる。
【0014】
本発明の第2の課題は、試料が発生する直流磁場が大きくてもその測定ができる、直流磁場測定用の磁気力顕微鏡、および、磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の(1)~(18)の形態を包含する。
(1)
試料から発生する直流磁場または交流磁場を測定する磁気力顕微鏡用の探針の特性評価に使用される装置であって、
評価対象である探針を励振させる探針励振部と、
交流磁場を発生し探針に当該交流磁場を印加する交流磁場発生部と、
交流磁場の強度が変化するように交流磁場発生部を制御する交流磁場制御部と、
探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出部と、
探針振動検出部により生成された振動検出信号を取得し、交流磁場の強度に対応する振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定部と、
スペクトル測定部により測定されたスペクトルに現われた2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)を抽出する、またはスペクトル測定部により測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)を抽出する、SBI(Side Band Intensity)抽出部と、
SBI抽出部により抽出されたサイドバンドの強度の、交流磁場の強度に対する変化を測定するSBI変化測定部と、
SBI変化測定部により測定された上記変化に基づき探針の特性を評価する、評価結果出力部とを備える、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【0016】
(2)
(1)に記載の評価装置であって、
探針の探針チップが強磁性体、常磁性体、超常磁性を示す材料または反磁性体を有してなる、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【0017】
(3)
探針の探針チップが強磁性体のうちハード磁性材料を有してなる、(1)に記載の評価装置であって、
SBI抽出部は、1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)を抽出し、
評価結果出力部は、
交流磁場の強度を増加させたときに1次のサイドバンドの強度(SBI1st)が高くなるほど、より高い評価結果を出力し、かつ、
交流磁場の強度を増加させたときに2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)が高くなるほど、より低い評価結果を出力する、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【0018】
(4)
探針の探針チップが強磁性体のうちソフト磁性材料を有してなる、(1)に記載の評価装置であって、
評価結果出力部は、
SBI変化測定部により測定された2次のサイドバンドの強度の交流磁場の強度に対する変化が二次関数変化から一次関数変化へ遷移する交流磁場強度を遷移点として検出する、SBI変化遷移点検出部と、
遷移点における2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)を取得し、探針の飽和磁化、および、探針の磁化が飽和したときの交流磁場の強度を検出する、探針飽和磁化特性検出部とを備える、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【0019】
(5)
探針の探針チップが常磁性体もしくは反磁性体、または超常磁性を示す材料を有してなる、(1)に記載の評価装置であって、
評価結果出力部は、交流磁場の強度を増加させたときに2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力する、磁気力顕微鏡用探針の評価装置。
【0020】
(6)
試料から発生する直流磁場または交流磁場を測定する磁気力顕微鏡用探針の特性評価に適用される方法であって、
探針を励振させる探針励振ステップと、
交流磁場を発生させ探針に当該交流磁場を印加する交流磁場発生ステップと、
交流磁場発生ステップにおいて発生された交流磁場の強度が変化するように交流磁場を制御する交流磁場制御ステップと、
探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出ステップと、
探針振動検出ステップにおいて生成された振動検出信号を取得し、交流磁場の強度に対応する振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルに現われた2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)を抽出する、またはスペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)を抽出する、SBI抽出ステップと、
SBI抽出ステップにおいて抽出されたサイドバンドの強度の、交流磁場の強度に対する変化を測定するSBI変化測定ステップと、
SBI変化測定ステップにおいて測定された上記変化に基づき探針の特性を評価する、評価結果出力ステップとを備える、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【0021】
(7)
(6)に記載の評価方法であって、
探針の探針チップが強磁性体、常磁性体、超常磁性を示す材料、または反磁性体を有してなる、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【0022】
(8)
探針の探針チップが強磁性体のうちハード磁性材料を有してなる、(6)に記載の評価方法であって、
SBI抽出ステップにおいて、1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)を抽出し、
評価結果出力ステップにおいて、
交流磁場の強度を増加させたときに1次のサイドバンドの強度(SBI1st)が高くなるほど、より高い評価結果を出力し、かつ、
交流磁場の強度を増加させたときに2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)が高くなるほど、より低い評価結果を出力する、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【0023】
(9)
探針の探針チップが強磁性体のうちソフト磁性材料を有してなる、(6)に記載の評価方法であって、
評価結果出力ステップは、
SBI変化測定ステップにおいて測定された2次のサイドバンドの強度の交流磁場の強度に対する変化が二次関数変化から一次関数変化へ遷移する交流磁場強度を遷移点として検出する、SBI変化遷移点検出ステップと、
SBI変化遷移点検出ステップにおいて検出された遷移点、および当該遷移点における2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)を取得し、探針の飽和磁化、および、探針の磁化が飽和したときの交流磁場の強度を検出する、探針飽和磁化特性検出ステップと
を備える、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【0024】
(10)
探針の探針チップが、常磁性体もしくは反磁性体、または超常磁性を示す材料を有してなる、(6)に記載の評価方法であって、
評価結果出力ステップにおいて、交流磁場の強度を増加させたときに2次のサイドバンドの強度が高くなるほど、より高い評価結果を出力する、磁気力顕微鏡用探針の評価方法。
【0025】
(11)
励振している探針に交流磁場と制御用直流磁場とを印加し、探針により試料の表面を走査し、探針の振動を検出することで、試料の表面の直流磁場を測定する磁気力顕微鏡であって、
先端に磁性体薄膜が形成された探針チップを備えた探針と、
探針を励振させる探針励振部と、
交流磁場と制御用直流磁場との合成磁場を発生する合成磁場発生部と、
制御用直流磁場の強度を変化させる制御、および、制御用直流磁場の強度を固定して交流磁場の強度を順次変化させる制御を行う磁場制御部と、
探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出部と、
探針を空間駆動する走査部と、
探針振動検出部により検出された振動検出信号を取得し、探針の振動に生じた変調を解析することで試料の表面の直流磁場を測定する直流磁場特性測定部と、
探針振動検出部により検出された振動検出信号を取得し、交流磁場の強度に対応する振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定部と、
スペクトル測定部により測定されたスペクトルのサイドバンドの強度変化に基づき、探針チップに形成された磁性体薄膜の磁化が飽和したときの交流磁場の強度を検出する磁化飽和検出部と、
を備えたことを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【0026】
(12)
(11)に記載の磁気力顕微鏡であって、
磁化飽和検出部は、
スペクトル測定部により測定されたスペクトルの2次のサイドバンドの強度を抽出するSBI抽出部と、
強度がゼロを含む所定範囲内のある値に設定された制御用直流磁場の下で、交流磁場の強度をある値から所定値まで変化させ、SBI抽出部により抽出された2次のサイドバンドの強度の交流磁場の強度に対する変化の、二次関数変化から一次関数変化への遷移の有無を検出し、該遷移を検出した場合には、該遷移が生じたときの交流磁場の強度を測定するSBI変化測定部と、
SBI変化測定部による測定結果に基づき、制御用直流磁場の強度の適性および/または交流磁場の強度の適性を判定する磁場強度適性判定部と、
を備えたことを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【0027】
(13)
(11)に記載の磁気力顕微鏡であって、
探針チップに形成された磁性体薄膜がソフト磁性材料からなることを特徴とする、磁気力顕微鏡。
【0028】
(14)
(11)に記載の磁気力顕微鏡であって、
合成磁場発生部が、交流電流と直流電流との合成電流により駆動されるコイルを有してなる、磁気力顕微鏡。
【0029】
(15)
(11)に記載の磁気力顕微鏡であって、
合成磁場発生部が、交流電流により駆動される第1のコイルおよび直流電流により駆動される第2のコイルを有してなる、磁気力顕微鏡。
【0030】
(16)
励振している探針に交流磁場と制御用直流磁場とを印加し、探針により試料の表面を走査し、探針の振動を検出することで、試料の表面の直流磁場を測定する磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法であって、
探針を励振させる探針励振ステップと、
交流磁場と制御用直流磁場との合成磁場を発生させ、探針に合成磁場を印加する制御用磁場発生ステップと、
制御用直流磁場の強度を変化させる制御、および、制御用直流磁場の強度を固定して交流磁場の強度を変化させる制御を行う磁場制御ステップと、
探針の振動を検出し振動検出信号を生成する探針振動検出ステップと、
探針振動検出ステップにおいて検出された振動検出信号を取得し、交流磁場の強度に対応する振動検出信号のスペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
試料の直流磁場の測定に際して、探針の先端に備えた探針チップに形成された磁性体薄膜の磁化が飽和するか否かを、スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルのサイドバンドの強度変化に基づき検出する磁化飽和検出ステップと、
有することを特徴とする、磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
【0031】
(17)
(16)に記載の制御用磁場調整方法であって、
磁化飽和検出ステップは、
スペクトル測定ステップにおいて測定されたスペクトルの2次のサイドバンドの強度を抽出するSBI抽出ステップと、
制御用直流磁場の強度をゼロを含む範囲のある値に設定し、交流磁場の強度をある値から所定値まで変化させ、SBI抽出ステップにおいて抽出された2次のサイドバンドの強度の交流磁場の強度に対する変化の、二次関数変化から一次関数変化への遷移の有無を検出し、該遷移を検出した場合には、該遷移が生じたときの交流磁場の強度を測定するSBI変化測定ステップと、
SBI変化測定ステップにおける測定結果に基づき、制御用直流磁場の強度の適性および/または交流磁場の強度の適性を判定する制御用磁場適性判定ステップと、
を含むことを特徴とする磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
【0032】
(18)
(16)に記載の磁気力顕微鏡であって、
探針チップに形成された磁性体薄膜がソフト磁性材料からなることを特徴とする、磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法。
【発明の効果】
【0033】
上記(1)~(10)の形態によれば、交流が印加されるMFM用の探針(具体的には、ハード磁性探針、ソフト磁性探針、常磁性探針、超常磁性探針、反磁性探針)の評価に際して、励振させた前記探針に強度が変化した(通常、段階的に変化した)交流磁場を印加し、探針の振動から得られるスペクトルに基づき当該探針の特性を評価することができる。
上記(11)~(18)の形態によれば、試料の直流磁場(試料直流磁場)を検出する磁気力顕微鏡において、制御用直流磁場および/または交流磁場の強度をソフト磁性探針が飽和しない適正な値に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、試料からの交流磁場勾配を測定するための、ハード磁性探針を用いたMFMを示す図である。
【図2】図2は、試料からの直流磁場勾配を測定するソフト磁性探針、常磁性探針、または超常磁性探針を用いたMFMを示す図である。
【図3】図3は、試料からの直流磁場の絶対値を測定する常磁性探針または超常磁性探針を用いたMFMを示す図である。
【図4】図4は、探針の先端の拡大説明図である。
【図5】図5は、強磁性体(ハード磁性材料)のM-H曲線(磁化-磁場特性)を示す図である。
【図6】図6は、強磁性体の中のソフト磁性材料のM-H曲線(磁化-磁場特性)の例を示す図である。
【図7】図7は、常磁性体または超常磁性を示す材料のM-H曲線の典型例を示す図である。
【図8】本発明において、探針に印加する交流磁場の大きさを、段階的に変化させることで、得られるスペクトルを示す図である。
【図9】図9は、本発明の第1実施形態を説明するための、磁気力顕微鏡用探針の評価装置の説明図である。
【図10】図10は、図9に示した評価装置を用いて探針の評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
【図11】図11は、探針チップがNi-Feからなるソフト磁性探針について交流磁場の振幅を徐々に増加させながら測定した、探針磁化が飽和する前後の交流磁場の強さと、磁化の強度との関係を示す図である。
【図12】図12は、本発明の第2実施形態を説明するための、磁気力顕微鏡用探針の評価装置の説明図である。
【図13】図13は、第2実施形態において、スペクトル測定部により測定された探針振動のスペクトルを示す図(スペクトル図の1)である。
【図14】図14は、第2実施形態において、スペクトル測定部により測定された探針振動のスペクトルを示す図(スペクトル図の2)である。
【図15】図15は、第2実施形態において、スペクトル測定部により測定された探針振動のスペクトルを示す図(スペクトル図の3)である。
【図16】図16は、図12に示した評価装置を用いて探針の評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
【図17】図17は、ソフト磁性探針について測定した磁化が飽和したときの交流磁場の強さと、スペクトル測定部により測定された探針振動のスペクトルの強度との関係を示すグラフである。
【図18】図18(A)は、種々のソフト磁性探針について測定した磁化が飽和したときの交流磁場の強さと、スペクトル測定部により測定された探針振動のスペクトルの強度との関係を示す図である。 図18(B)は、種々のソフト磁性探針について測定した磁化が飽和したときの交流磁場の強さと、磁化の強度との関係を示す表および相関図である。
【図19】図19は、本発明の第3実施形態を説明するための、磁気力顕微鏡用探針の評価装置の説明図である。
【図20】図20は、図19に示した評価装置を用いて探針の評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
【図21】図21は、ソフト磁性材料薄膜のM-H曲線を示す図である。
【図22】図22は、本発明の磁気力顕微鏡の実施形態を説明するための、磁気力顕微鏡の説明図である。
【図23】図23(A)は、交流磁場と、制御用直流磁場と、試料直流磁場の関係を示す図である。 図23(B)は、一つのコイルから構成した合成磁場発生部およびその制御に用いる磁場制御部を示す図である。
【図24】図24は、SBI抽出部、SBI変化測定部および磁場強度適性判定部から構成した磁化飽和検出部を示す図である。
【図25】図25(A)は、制御用直流磁場の強度を変化させたときに、交流磁場H_ACの強度の変化に対する2次のサイドバンドSBI_2ndの強度特性が変化する様子を示す図である。 図25(B)は、当該強度特性の遷移点における交流磁場強度の、制御用直流磁場強度に対する変化を示すグラフである。 図25(C)は、遷移点における交流磁場強度と制御用直流磁場強度との和を、制御用直流磁場強度に対してプロットしたグラフである。
【図26】図26は、図22に示した磁気力顕微鏡を用いて本発明の制御用磁場調整方法を実施する場合のフローチャートである。
【図27】図27は、磁化飽和検出ステップにおいて、磁化飽和検出ステップを、SBI抽出ステップ、SBI変化測定ステップおよび制御用磁場適性判定ステップから構成した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<1.磁気力顕微鏡用探針の評価装置および評価方法>
<1.1 原理>
磁気力顕微鏡(MFM)は、励振した探針(カンチレバー)を観察試料に近づけることにより発生する探針試料間の力勾配を検出する、非接触原子間力顕微鏡の一形態である。
磁気力顕微鏡では、探針(カンチレバー)の先端の探針チップに磁性体を用いることで、磁場を発生する観察試料と探針チップの間に働く磁気力勾配を検出し、磁場勾配を画像化する顕微鏡である。
ここで探針の振動方向を試料面に垂直な方向にとりz方向とする。探針チップと試料との間に力Fztip-sampleが働くと、探針(カンチレバー)のバネ定数は、探針試料間の力勾配∂Fztip-sample/∂zの分だけ、見掛け上変化する。このときの探針振動の運動方程式は以下となる。ここでは、Fztip-sampleの符号を引力の向きに正にとっている。

【0036】
【数1】
JP2015182564A1_000003t.gif
ω0:加振角周波数
m:探針の等価質量
γ:減衰係数
0:カンチレバー固有のバネ定数
その結果、探針の共振周波数は、探針試料間に、Fztip-sampleが働いていない場合のω0=(k0/m)1/2から変化し、式(2)で表される。

【0037】
【数2】
JP2015182564A1_000004t.gif
ztip-sample:探針-試料間に働く力
0:探針のバネ定数
ω0:試料からの力が探針に働く前の探針の励振角周波数
m:探針の等価質量
磁気力顕微鏡では、バネ定数kの実効的な変化Δkは、探針が双磁極探針および単磁極探針として振る舞う場合、式(3)で表される。

【0038】
【数3】
JP2015182564A1_000005t.gif
磁気力顕微鏡の高分解能化には、探針-試料間距離の低減が効果的である。探針-探針間距離を低減した場合には、探針の磁気モーメント長と比較して、探針-試料間距離が小さくなることにより、探針先端の磁極の寄与が主となるので、探針は単磁極探針として振る舞うことになる。
単磁極探針において、探針に直流磁場Hzdcおよび交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加した場合の、Δkの一般式は、探針磁化の磁場に対する非線形性を考慮すると、式(4)で表される。

【0039】
【数4】
JP2015182564A1_000006t.gif
dc:探針先端の時間変化しない直流磁極
Nωmac:探針先端の角周波数Nωmで時間変化する交流磁極
zdc:探針先端での試料面に垂直方向(z方向)の直流磁場
z0ac:探針先端での試料面に垂直方向(z方向)の交流磁場の振幅
ここで、交流磁場の角周波数ωmが探針の共振周波数と異なる、非共振周波数である場合には、バネ定数の見掛け上の周期的変化項は、探針振動に周波数変調現象を引き起こすことが知られている。バネ定数の見掛け上の周期的変化項の非共振角周波数をωとおくと、探針振動の運動方程式は以下となる。

【0040】
【数5】
JP2015182564A1_000007t.gif
ω0:加振角周波数
ω:交流磁場の角周波数
m:ソフト磁性探針(探針チップ811)の等価質量
γ:減衰係数
0:カンチレバー(探針部材81)固有のバネ定数
Δk0:カンチレバー(探針部材81)のバネ定数のみかけ上の周期的変化の振幅
この解は、次式で表される。

【0041】
【数6】
JP2015182564A1_000008t.gif
バネ定数が実効的に種々の非共振周波数で周期的に変化する場合には、探針振動にこれらの非共振周波数による周波数変調成分が加わることになる。
以下では、種々の典型的な磁性探針について、直流磁場Hzdcおよび交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加した場合の実効的バネ定数の変化を説明する。

【0042】
最初にハード磁性探針の場合を説明する。ハード磁性探針が理想的なハード磁気特性を有する場合、交流磁場を印加しても探針磁化は変化しないので、先端に交流磁極qacは生じない。この結果、Δkは、次式で表される。

【0043】
【数7】
JP2015182564A1_000009t.gif
したがって、Δkは、交流磁場の角周波数ωmと等しい周波数成分のみとなり、探針振動にωm成分のみの周波数変調が発生する。
ハード磁性探針のハード磁気特性が十分でない場合には、交流磁場の印加により探針先端に時間変化する交流磁極qacが発生するので、Δkは、次式で表される。

【0044】
【数8】
JP2015182564A1_000010t.gif
したがって、Δkには、交流磁場の角周波数ωmと等しい周波数成分の他に、新たに2ωmを主とする高次の周波数成分が発生する。すなわち、2ωm成分による探針振動の周波数変調の有無により、ハード磁性探針の性能を判断することが可能になる。

【0045】
次に、常磁性探針の場合を説明する。常磁性探針は、電磁石で発生できる程度の磁場強度では、磁化は磁場に比例し飽和を示さない。また常磁性探針は、残留磁化を持たず、保磁力がゼロである。直流磁場Hzdcおよび交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加した場合、探針先端の時間変化する交流磁極は交流磁場に対してほぼ線形に変化するので、Δkの一般式は、次式で表される。

【0046】
【数9】
JP2015182564A1_000011t.gif
Δkは、交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)のみを印加した場合、次式で表される。

【0047】
【数10】
JP2015182564A1_000012t.gif
2ωmで変化する探針振動の周波数変調成分の大きさから、測定感度の程度を評価することが可能となる。
常磁性探針に関する上記の議論は、反磁性探針および超常磁性探針についてもあてはまる。

【0048】
次に、ソフト磁性探針の場合を説明する。ソフト磁性探針の磁化は、磁場に対して非線形に変化し、磁場が増加すると飽和する。Δkは、直流磁場Hdcならびに交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加した場合、次式で表される。

【0049】
【数11】
JP2015182564A1_000013t.gif
Δkは、交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)のみを印加した場合、次式で表される。

【0050】
【数12】
JP2015182564A1_000014t.gif
ここで、交流磁場の強度Hz0acが小さな場合には、探針磁化はほぼ交流磁場に比例して変化するので、Δkは、次式で表される。

【0051】
【数13】
JP2015182564A1_000015t.gif
したがって、Δkの2ωm成分は以下となる。

【0052】
【数14】
JP2015182564A1_000016t.gif
ここでqωmacはHz0acにほぼ比例して変化する(qωmac=αHz0ac)ので、Δk(2ωmt)はHz0acの2乗に比例して変化することになる。

【0053】
【数15】
JP2015182564A1_000017t.gif
交流磁場の強度Hz0acが大きくなると、qacは飽和する。磁化曲線が角形で磁場方向が正の場合には、探針磁化がMs、負の場合には、探針磁化が-Msとなる、Hz0acが探針の保磁力に比較して非常に大きな場合には、探針磁化mztipは矩形状に時間変化し以下で表される。

【0054】
【数16】
JP2015182564A1_000018t.gif
したがって、qωmacの時間変化は以下で表される。

【0055】
【数17】
JP2015182564A1_000019t.gif
s:探針先端の磁極の飽和値
このとき、Δkは、次式で表される。

【0056】
【数18】
JP2015182564A1_000020t.gif
このとき、Δk(2ωmt)は、次式で表され、Hz0acの1乗に比例して変化する。

【0057】
【数19】
JP2015182564A1_000021t.gif
したがって、Δk(2ωmt)は、Hz0acの増加に伴い、最初はHz0acの2乗に比例して変化し、さらにHz0acが増加して探針磁化が飽和に達すると、Hz0acの1乗に比例して変化するようになる。ここで、Δk(2ωmt)のHz0ac依存性が2次から1次に変化するHz0acが、探針磁化を飽和させる交流磁場強度になる。
一方、観察試料から探針に直流磁場Hzdcが加わった際のΔkは、次式で表される。

【0058】
【数20】
JP2015182564A1_000022t.gif
したがって、Δk(ωmt)は以下のように与えられる。

【0059】
【数21】
JP2015182564A1_000023t.gif
したがって、観察試料からの直流磁場勾配∂Hzdc/∂zの最大計測感度を、探針磁化が飽和に達した際の、探針先端の磁極の大きさに比例するΔk(2ωmt)の大きさから、評価することが可能なことがわかる。
したがって、種々の磁性探針を加振し、同時に探針の共振周波数と異なる周波数(非共振周波数)の交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を磁性探針に印加し、その際に発生する、周波数変調による振動スペクトルの次数およびこれら振動スペクトルのHz0acの強度に対する依存性を解析することで、磁性探針の性能を評価することができる。

【0060】
本発明では、磁性探針の性能を評価するために、探針の振動のスペクトルを観察する。
交流磁場振幅Hz0acの大きさを、段階的に変化させることで、図8に示すようなスペクトルが得られる。
図8に示すように、定性的には2次のサイドバンドの強度の増加が緩やかになり、3次以上のサイドバンドの強度が急激に増加するときが探針の磁化が飽和に達したときである。
上記の、磁化の飽和を検出する手法は、探針がハード磁性探針、あるいは常磁性探針や超常磁性探針、反磁性探針であるときにも応用できる。

【0061】
<1.2 磁気力顕微鏡用探針の評価装置(1)>
図9は、本発明の磁気力顕微鏡用探針の評価装置の第1実施形態を示す説明図である。
図9では、探針としてハード磁性探針PRBを使用している。
図9において、評価装置11は、探針励振部111、交流磁場発生部112、交流磁場制御部113、探針振動検出部114、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)115、SBI抽出部116、SBI変化測定部117、および評価結果出力部119を備えている。

【0062】
ハード磁性探針PRBは、シリコンにより構成されたカンチレバーであり、図9ではハード磁性探針PRBの先端の下面に、表面がハード磁性薄膜により形成された探針チップTIPが形成されている。
探針励振部111は、評価対象であるハード磁性探針PRBを励振させることができる。図9では探針励振部111は、交流電源1111と圧電素子1112とからなる。
図9では、交流磁場発生部112は、交流コイルである。

【0063】
交流磁場制御部113は、交流磁場H_ACの強度Hiが段階的に変化するように(ステップ変化するように)、交流磁場発生部112を制御する。
探針振動検出部114は、ハード磁性探針PRBの振動を検出し振動検出信号VIBを生成する。探針振動検出部114は、レーザ(LSR)1141とフォトディテクタ(PD)1142とからなる。ハード磁性探針PRBの先端上面には反射ミラーが形成されている。LSR1141から出射されたレーザビームLBはハード磁性探針PRBの先端上面で反射されてPD1142に入射される。

【0064】
スペクトル測定部115は、探針振動検出部114により検出された振動検出信号OSCを取得し、交流磁場H_ACの強度Hiに対応する振動検出信号OSCのスペクトルを測定する。
SBI抽出部116は、スペクトル測定部115により測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndを抽出する(図8を参照)。

【0065】
SBI変化測定部117は、SBI抽出部116により抽出されたサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の、交流磁場H_ACの強度Hiに対する変化を測定する。

【0066】
評価結果出力部119は、SBI変化測定部117によって測定された、交流磁場H_ACの強度Hiに対するサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の変化に基づいて、ハード磁性探針PRBの特性の評価結果ESを出力する。
評価結果出力部119は、交流磁場制御部113が交流磁場H_ACの強度を増加させたときに1次のサイドバンドSB_1stの強度SBI1stが高くなるほど、より高い評価結果ESを出力する。
また、評価結果出力部119は、交流磁場制御部113が交流磁場H_ACの強度を増加させたときに2次のサイドバンドSB_2ndの強度SBI2ndが高くなるほど、より低い評価結果ESを出力する。
評価結果出力部119が交流磁場H_ACの強度Hiに対する1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の変化に基づいて評価結果ESを決定する方法は特に限定されるものではないが、例えば、1次のサイドバンドの強度SBI1stの増大に伴って単調に増加する第1の関数f(SBI1st)と、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの増大に伴って単調に減少する第2の関数f(SBI2nd)との和からなる評価関数F(SBI1st,SBI2nd)=f(SBI1st)+f(SBI2nd)により行うことができる。評価結果出力部119が評価結果ESの決定に用いるサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の値としては、例えば、交流磁場H_ACの強度Hiが交流磁場発生部112から発生可能な交流磁場の最大強度であるときのサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の値を好ましく採用できる。
<1.3 磁気力顕微鏡用探針の評価方法(1)>

【0067】
図10は、図9の評価装置11を用いてハード磁性探針PRBの評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
探針着磁ステップS100: ハード磁性探針PRBを着磁する。ハード磁性探針PRBを着磁するにあたっては、例えば電磁石、パルスマグネット、超電導マグネット等の装置を用いることができる。
探針装着ステップS101: ハード磁性探針PRBを図9では図示されていない探針ホルダに装着する。
探針励振ステップS102: 評価対象であるハード磁性探針PRBを励振させる。

【0068】
交流磁場発生ステップS103: 交流磁場H_ACを発生させ、ハード磁性探針PRBに交流磁場H_ACを印加する。
交流磁場制御ステップS104: 交流磁場発生ステップS103において発生された交流磁場H_ACの強度Hiが変化するように交流磁場H_ACを制御する。

【0069】
探針振動検出ステップS105: ハード磁性探針PRBの振動を検出し振動検出信号VIBを生成する。
スペクトル測定ステップS106: 探針振動検出ステップS105において生成された振動検出信号VIBを取得し、交流磁場H_ACの強度Hiに対応する振動検出信号のスペクトルを測定する。

【0070】
SBI抽出ステップS107: スペクトル測定ステップS106において測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndを抽出する。
SBI変化測定ステップS108: SBI抽出ステップS107において抽出されたサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の、交流磁場H_ACの強度Hiに対する変化を測定する。

【0071】
評価結果出力ステップS110: SBI変化測定ステップS108において測定された、交流磁場H_ACの強度Hiに対するサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の変化に基づいて、ハード磁性探針PRBの特性を評価する。ここで、交流磁場制御ステップS104において交流磁場H_ACの強度Hiを増加させたときに1次のサイドバンドバンドSB_1stの強度SBI1stが高くなるほど、より高い評価結果ESを出力する(ステップS110A)。また、交流磁場制御ステップS104において交流磁場H_ACの強度Hiを増加させたときに2次のサイドバンドSB_2ndの強度(SBI2nd)が高くなるほど、より低い評価結果ESを出力する(ステップS110B)。
評価結果出力ステップS110において交流磁場H_ACの強度Hiに対する1次および2次のサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の変化に基づいて評価結果ESを決定する方法は特に限定されるものではないが、例えば、1次のサイドバンドの強度SBI1stの増大に伴って単調に増加する第1の関数f(SBI1st)と、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの増大に伴って単調に減少する第2の関数f(SBI2nd)との和からなる評価関数F(SBI1st,SBI2nd)=f(SBI1st)+f(SBI2nd)により行うことができる。評価結果出力ステップS110が評価結果ESの決定に用いるサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の値としては、例えば、交流磁場H_ACの強度Hiが交流磁場発生ステップS103において発生可能な交流磁場の最大強度であるときのサイドバンドの強度(SBI1st、SBI2nd)の値を好ましく採用できる。

【0072】
<1.4 磁気力顕微鏡用探針の評価装置(2)>
図12は、本発明の磁気力顕微鏡用探針の評価装置の第2実施形態を示す説明図である。
図12では、探針としてソフト磁性探針PRBを使用している。
図12において、評価装置21は、探針励振部211、交流磁場発生部212、交流磁場制御部213、探針振動検出部214、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)215、SBI抽出部216、SBI変化測定部217、SBI変化遷移点検出部218および探針飽和磁化特性検出部219を備えている。

【0073】
探針PRBは、シリコンにより構成されたカンチレバーであり、図12では探針PRBの先端の下面に、表面がソフト磁性薄膜により形成された探針チップTIPが形成されている。

【0074】
探針励振部211、交流磁場発生部212、交流磁場制御部213、探針振動検出部214、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)215、SBI抽出部216、およびSBI変化測定部217の構成は、図9(第1実施形態)の評価装置11における、探針励振部111、交流磁場発生部112、交流磁場制御部113、探針振動検出部114、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)115、SBI抽出部116、およびSBI変化測定部117の構成と同じである。

【0075】
スペクトル測定部215は、探針振動検出部214により検出された振動検出信号OSCを取得し、交流磁場H_ACの強度Hiに対応する振動検出信号OSCのスペクトルを測定する。測定されたスペクトルの一例を、図13、図14、および図15に示す。

【0076】
SBI抽出部216は、スペクトル測定部215により測定されたスペクトルに現われた1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndを抽出する(1次のサイドバンドSB_1st、および2次のサイドバンドSB_2ndについては、図13、図14、および図15を参照)。

【0077】
SBI変化遷移点検出部218は、SBI変化測定部217により測定された、2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の交流磁場強度Hiに対する変化に係る情報を取得し、2次のサイドバンドの強度SBI2ndと交流磁場H_ACの強度Hiとの関係に変化が生じた交流磁場強度Hi、すなわち、2次のサイドバンドの強度SBI2ndが交流磁場の強度Hiに対して2乗に比例する関係が、2次のサイドバンドの強度SBI2ndが交流磁場の強度Hiの1乗に比例する関係に変化する交流磁場強度Hiを、遷移点T_PNTとして検出する。
一例として、探針チップがNi-Feからなる磁性体膜を表面に有するソフト磁性探針について測定した、交流磁場の強度と、2次のサイドバンドの強度との関係を両対数プロットしたグラフを図11に示す。

【0078】
遷移点T_PNTを検出する方法は特に限定されるものではないが、例えば、2次のサイドバンドの強度SBI2ndを交流磁場強度Hiに対して両対数プロットしたグラフにおいて、交流磁場強度Hiが相対的に低いデータ点群に対する第1の回帰直線と、交流磁場強度Hiが相対的に高い(すなわち、第1の回帰直線によって回帰されるデータ点群よりも交流磁場強度Hiが高い)データ点群に対する、第1の回帰直線と異なる傾き(通常は第1の回帰直線よりも小さな傾き)を有する第2の回帰直線とを算出するステップと、第1の回帰直線と第2の回帰直線との交点を算出するステップとを経ることにより、該交点を遷移点T_PNTとして検出することができる。第1の回帰直線および第2の回帰直線の算出には、例えば最小二乗法等の公知の最適化法を採用できる。第1の回帰直線によって回帰されるべきデータ点群および第2の回帰直線によって回帰されるべきデータ点群を特定する方法は特に限定されるものではなく、例えば人間にグラフを目視させてデータ点群を分別させてもよいし、また例えば、交流磁場強度Hiの対数をx座標とし、2次サイドバンド強度SBI2ndの対数をy座標とするN個のデータ点(x,y)(i=1,…,N;Nは4以上の整数;x<x<…<x)を、第1の回帰直線によって回帰されるべきデータ点(x,y)(i=1,…,k-1;kは3以上N-1以下の整数)と、第2の回帰直線によって回帰されるべきデータ点(x,y)(i=k,…,N)とを分ける整数kについて、第1の回帰直線および第2の回帰直線の全ての残差の2乗和を最小にするkの値を(例えば総当たり法で)求めることにより行ってもよい。

【0079】
探針飽和磁化特性検出部219は、SBI変化遷移点検出部218により検出された遷移点T_PNTにおける交流磁場H_ACの強度Hiおよび2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)を取得し、これらに基づいて、ソフト磁性探針PRBの飽和磁化、および、ソフト磁性探針PRBの磁化が飽和したときの交流磁場H_ACの強度Hiを検出する。具体的には遷移点T_PNTが、ソフト磁性探針PRBの磁化が飽和したときの交流磁場強度Hiに対応する。遷移点T_PNTにおける交流磁場強度Hiから、遷移点T_PNTにおける交流磁場の勾配∂Hz0ac/∂zを知ることができるので、遷移点T_PNTにおける2次のサイドバンドの強度SBI2ndに基づいて、上記式(6)及び式(19)からソフト磁性探針PRBの飽和磁化qsの大小を評価することができる。

【0080】
本発明に関する上記説明では、1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndを抽出するSBI抽出部216を備える形態の評価装置21を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、SBI抽出部が2次のサイドバンドの強度SBI2ndのみを抽出する形態の評価装置とすることも可能である。また、SBI抽出部は、2次のサイドバンドの強度SBI2ndまたは1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndとともに、より高次のサイドバンドの強度を抽出してもよい。

【0081】
<1.5 磁気力顕微鏡用探針の評価方法(2)>
図16は、図12の評価装置21を用いてソフト磁性探針PRBの評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
図16に示される評価方法は、探針装着ステップS200、探針消磁ステップS201、探針励振ステップS202、交流磁場発生ステップS203、交流磁場制御ステップS204、探針振動検出ステップS205、スペクトル測定ステップS206、SBI抽出ステップS207、SBI変化測定ステップS208、SBI変化遷移点検出ステップS209、および探針磁化飽和特性検出ステップS210を備える。

【0082】
探針装着ステップS200: ソフト磁性探針PRBを図12では図示されていない探針ホルダに装着する。
探針消磁ステップS201: 探針磁化を交流消磁する(たとえば、AC100Hzで5kOeから0kOeまでゆっくり減少させる)。本ステップは、探針に交流磁場を印加するのに際して、探針が直流磁極を持たない消磁状態にするために行うものである。

【0083】
探針励振ステップS202、交流磁場発生ステップS203、交流磁場制御ステップS204、探針振動検出ステップS205、スペクトル測定ステップS206、SBI抽出ステップS207、およびSBI変化測定ステップS208の処理は、図10(第1実施形態)のフローチャートで示された、探針励振ステップS102、交流磁場発生ステップS103、交流磁場制御ステップS104、探針振動検出ステップS105、スペクトル測定ステップS106、SBI抽出ステップS107、およびSBI変化測定ステップS108の処理と同じである。

【0084】
なお、交流磁場制御ステップS204において、交流磁場H_ACの強度を不連続的に(段階的に)変化させる場合には、一の測定点(交流磁場強度)から次の測定点(交流磁場強度)に移る前に、一旦探針磁化を交流消磁することが好ましい。

【0085】
SBI変化遷移点検出ステップS209では、SBI変化測定ステップS208において測定された2次サイドバンド強度SBI2ndの交流磁場強度Hiに対する変化が、二次関数変化から一次関数変化へ遷移する交流磁場強度を、遷移点T_PNTとして検出する。

【0086】
探針飽和磁化特性検出ステップS210では、SBI変化遷移点検出ステップS209において検出された遷移点T_PNT、および該遷移点T_PNTにおける2次のサイドバンドの強度SBI2ndを取得し、これらに基づいて、ソフト磁性探針PRBの飽和磁化、および、ソフト磁性探針PRBの磁化が飽和したときの交流磁場H_ACの強度Hiを検出する。

【0087】
図17は、ソフト磁性探針の探針チップとしてFe-Co-B磁性体膜を有する探針チップを用いたときの、交流磁場H_ACの強度Hiに対する探針振動のスペクトルの強度の特性をプロットしたグラフである。
図17において、特性曲線の傾きが、遷移点T_PNT(変曲点)を過ぎると大きく変化していることがわかる。遷移点T_PNTを検出することにより、探針の磁化が飽和に達する磁場の値がわかる。
図17では、Fe-Co-Bからなる磁性体膜を表面に有する探針チップを有するソフト磁性探針2個(L1およびL2)について、印加した交流磁場の周波数と等しい周波数をもつ1次のサイドバンドのスペクトル強度SBI1st、および印加した交流磁場の周波数の2倍の周波数をもつ2次のサイドバンドのスペクトル強度SBI2ndの交流磁場振幅依存性を示したグラフ(両対数プロット)である。
図17のグラフにおいて、2次のサイドバンドの強度SBI2ndは、L1およびL2のいずれにおいても、遷移点T_PNTの前後で傾きが変化している。遷移点T_PNTを過ぎる前は、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの変化は交流磁場振幅Hiに対して2次関数的(交流磁場振幅Hiの2乗に比例)であるが、遷移点T_PNTを過ぎると2次のサイドバンドの強度SBI2ndの変化は交流磁場振幅Hiに対して1次関数的な変化(交流磁場振幅Hiの1乗に比例)に遷移している。
1次のサイドバンドの強度SBI1stは、L1およびL2のいずれにおいても、2次のサイドバンドの強度SBI2ndと比較して小さい。この事実は探針がソフト磁性を有することを示している。これらの1次のサイドバンドの強度SBI1stは、交流磁場振幅Hiの増加に伴い、遷移点T_PNTを過ぎる前までは増加しているが、遷移点T_PNTを過ぎると減少している。このことは、遷移点T_PNTまでは、探針の磁化曲線がマイナーループであるので、交流磁場振幅を増加させながら測定を行う際に、前測定終了時に残留磁化が残る場合があるが、遷移点T_PNTを過ぎた後は、探針の磁化曲線が飽和するメジャーループとなり、前測定終了時に残留磁化がゼロに近づくためであると推察される。

【0088】
図18(A)に、種々のソフト磁性探針(Ni-Fe,Co-Zr-Nb,Fe-Co-B,Fe-Coからなる探針チップ)について、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの交流磁場振幅依存性を示す。図に白抜き矢印で示す領域で飽和する磁性Fe-Co-B探針は、低い交流磁場H_ACで、高い磁化(2次のサイドバンド強度)が得られるので、ソフト磁性探針としての性能に優れていることがわかる。
図18(B)は上記の図18(A)の結果から、各々のソフト磁性探針に対して、探針の磁化が飽和に達する交流磁場振幅とそのときの2次のサイドバンドの強度を表と相関図にまとめたものである。Fe-Co-Bソフト磁性探針が、探針の磁化が飽和に達する交流磁場が低く、かつ2次のサイドバンドの強度が大きいことから、良好なソフト磁性探針の性能を有していることがわかる。

【0089】
以上、第1実施形態では探針がハード磁性探針の場合を説明したが、第1実施形態の装置および方法は常磁性探針、超常磁性探針および反磁性探針にも適用できる。
また、第2実施形態では探針がソフト磁性探針の場合を説明したが、第1実施形態の装置および方法は常磁性探針、超常磁性探針および反磁性探針にも適用できる。

【0090】
本発明に関する上記説明では、SBI抽出ステップS207において1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndを抽出する形態の評価方法を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、SBI抽出ステップにおいて2次のサイドバンドの強度SBI2ndのみを抽出する形態の評価装置とすることも可能である。また、SBIステップにおいて、2次のサイドバンドの強度SBI2ndまたは1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndとともに、より高次のサイドバンドの強度を抽出してもよい。

【0091】
<1.6 磁気力顕微鏡用探針の評価装置(3)>
図19は、本発明の磁気力顕微鏡用探針の評価装置の第3実施形態を示す説明図である。
図19では、探針として常磁性探針PRBを使用している。
図19において、評価装置31は、探針励振部311、交流磁場発生部312、交流磁場制御部313、探針振動検出部314、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)315、SBI抽出部316、SBI変化測定部317、および評価結果出力部319を備えている。

【0092】
常磁性探針PRBは、シリコンにより構成されたカンチレバーであり、図19では常磁性探針PRBの先端の下面に、表面が常磁性薄膜により形成された探針チップTIPが形成されている。

【0093】
探針励振部311、交流磁場発生部312、交流磁場制御部313、探針振動検出部314、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)315、およびSBI変化測定部317の構成は、図9(第1実施形態)の評価装置11における、探針励振部111、交流磁場発生部112、交流磁場制御部113、探針振動検出部114、スペクトル測定部(スペクトラムアナライザ)115、およびSBI変化測定部117の構成と同じである。
また、SBI抽出部316の構成は、2次のサイドバンドの強度SBI2ndのみを抽出する点以外は、図9(第1実施形態)の評価装置11におけるSBI抽出部116の構成と同様である。

【0094】
評価結果出力部319は、SBI変化測定部317によって測定された、交流磁場H_ACの強度Hiに対する2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の変化に基づいて、常磁性探針PRBの特性の評価結果ESを出力する。
評価結果出力部319は、交流磁場制御部313が交流磁場H_ACの強度を増加させたときに2次のサイドバンドSB_2ndの強度SBI2ndが高くなるほど、より高い評価結果ESを出力する。
評価結果出力部319が交流磁場H_ACの強度Hiに対する2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の変化に基づいて評価結果ESを決定する方法は特に限定されるものではないが、例えば、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの増大に伴って単調に増加する関数G(SBI2nd)により行うことができる。評価結果出力部319が評価結果ESの決定に用いる2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の値としては、例えば、交流磁場H_ACの強度Hiが交流磁場発生部312から発生可能な交流磁場の最大強度であるときの2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の値を好ましく採用できる。

【0095】
本発明に関する上記説明では、2次のサイドバンドの強度SBI2ndを抽出するSBI抽出部316を備える形態の評価装置31を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、SBI抽出部は、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの他に1次のサイドバンドの強度SBI1stや、より高次のサイドバンドの強度を抽出してもよい。例えば2次のサイドバンドの強度SBI2ndに加えて1次のサイドバンドの強度SBI1stを抽出する形態によれば、磁性探針の製品検査や生産管理に用いる際に、常磁性探針の磁性薄膜の中に強磁性成分が混在する等の不具合を検出することが可能になる。

【0096】
上記説明では、常磁性探針PRBを評価する形態の評価装置31を例示したが、評価装置31が評価できる探針は常磁性探針に限定されない。上記説明した評価装置31は、探針チップが常磁性体を有してなる探針だけでなく、探針チップが反磁性体を有してなる探針や、探針チップが超常磁性を示す材料を有してなる探針の評価にも用いることが可能である。

【0097】
<1.7 磁気力顕微鏡用探針の評価方法(3)>
図20は、図19の評価装置31を用いて常磁性探針PRBの評価を行う際の、評価手順を示すフローチャートである。
図20に示される評価方法は、探針装着ステップS300、探針消磁ステップS301、探針励振ステップS302、交流磁場発生ステップS303、交流磁場制御ステップS304、探針振動検出ステップS305、スペクトル測定ステップS306、SBI抽出ステップS307、SBI変化測定ステップS308、および評価結果出力ステップS310を備える。

【0098】
探針装着ステップS300、探針消磁ステップS301、探針励振ステップS302、交流磁場発生ステップS303、交流磁場制御ステップS304、探針振動検出ステップS305、スペクトル測定ステップS306、およびSBI変化測定ステップS308の処理は、図10(第1実施形態)のフローチャートで示された、探針装着ステップS100、探針消磁ステップS101、探針励振ステップS102、交流磁場発生ステップS103、交流磁場制御ステップS104、探針振動検出ステップS105、スペクトル測定ステップS106、およびSBI変化測定ステップS108の処理と同じである。
また、SBI抽出ステップS307の処理は、2次のサイドバンドの強度SBI2ndのみを抽出する点以外は、図10(第1実施形態)のフローチャートで示されたSBI抽出ステップS107の処理と同様である。

【0099】
なお、交流磁場制御ステップS304において、交流磁場H_ACの強度を不連続的に(段階的に)変化させる場合には、一の測定点(交流磁場強度)から次の測定点(交流磁場強度)に移る前に、一旦探針磁化を交流消磁することが好ましい。

【0100】
評価結果出力ステップS310: SBI変化測定ステップS308において測定された、交流磁場H_ACの強度Hiに対する2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の変化に基づいて、常磁性探針PRBの特性を評価する。ここで、交流磁場制御ステップS304において交流磁場H_ACの強度Hiを増加させたときに2次のサイドバンドSB_2ndの強度(SBI2nd)が高くなるほど、より高い評価結果ESを出力する(ステップS310A)。
評価結果出力ステップS310において交流磁場H_ACの強度Hiに対する2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の変化に基づいて評価結果ESを決定する方法は特に限定されるものではないが、例えば、例えば、2次のサイドバンドの強度SBI2ndの増大に伴って単調に増加する関数G(SBI2nd)により行うことができる。評価結果出力ステップS310において評価結果ESの決定に用いる2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の値としては、例えば、交流磁場H_ACの強度Hiが交流磁場発生ステップS303において発生可能な交流磁場の最大強度であるときの2次のサイドバンドの強度(SBI2nd)の値を好ましく採用できる。

【0101】
本発明に関する上記説明では、SBI抽出ステップS307において2次のサイドバンドの強度SBI2ndを抽出する形態の評価方法を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、SBI抽出ステップにおいて、1次および2次のサイドバンドの強度SBI1st、SBI2ndとともに、より高次のサイドバンドの強度を抽出してもよい。2次のサイドバンドの強度SBI2ndに加えてさらに1次のサイドバンドの強度SBI1stを抽出する形態によれば、磁性探針の製品検査や生産管理に用いる際に、常磁性探針の磁性薄膜の中に強磁性成分が混在する等の不具合を検出することが可能になる。

【0102】
上記説明では、評価装置31を用いて常磁性探針PRBを評価する形態の評価方法を例示したが、図20に示した評価方法で評価できる探針は常磁性探針に限定されない。図20に示した評価方法によれば、探針チップが常磁性体を有してなる探針だけでなく、探針チップが反磁性体を有してなる探針や、探針チップが超常磁性を示す材料を有してなる探針も評価することが可能である。

【0103】
本発明に関する上記説明では、探針装着ステップS300の後、探針励振ステップS302の前に、探針消磁ステップS301を行う形態の常磁性探針の評価方法を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、常磁性探針(または反磁性探針もしくは超常磁性探針)を意図して作製した探針PRBが自発磁化を有しないこと(すなわち強磁性体の性質を有しないこと)が予め判っている場合には、探針消磁ステップS301を省略することも可能である。また例えば、常磁性探針(または反磁性探針もしくは超常磁性探針)を意図して作製した探針PRBが自発磁化を有しないことが予め判っている場合には、交流磁場制御ステップS304において交流磁場強度を不連続的に変化させる場合であっても、一の測定点(交流磁場強度)から次の測定点(交流磁場強度)に移る前に探針磁化を交流消磁する処理を省略することも可能である。

【0104】
<2.磁気力顕微鏡および磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法>
試料からの直流磁場を、ソフト磁性探針に交流磁場を印加することにより高感度で計測するのには、小さい磁場で磁気モーメントが大きく変化する磁化率の高いソフト磁性探針を使用すればよい。
しかし、このようなソフト磁性探針を使用した場合には、試料からの直流磁場が測定場所によって大きく変化すると、図21(B)で説明したように、探針の磁化Mが交流磁場の印加より飽和してしまう問題が発生する。
本発明者らは、試料の直流磁場が探針に与える影響は、Z方向(試料面に垂直な方向)の勾配が小さいかZ方向に勾配を持たない制御用直流磁場により低減でき、感度が高いソフト磁性探針を使用してもソフト磁性探針の磁化飽和を回避することができることを着想した。
そして、ある直流磁場を与えているときに、ソフト磁性探針の磁化が飽和するときの交流磁場の値は、探針の振動スペクトルを解析することで検出できるとの知見のもと本発明をなすに至った。

【0105】
本発明の磁気力顕微鏡では、磁場強度適性判定部の判定結果に応じて、制御用直流磁場の強度の調整および/または交流磁場の強度の調整をすることができる。また、SBI変化測定部により測定された遷移が生じたときの制御用直流磁場の強度および交流磁場の強度に基づき、制御用直流磁場の強度範囲および/または探針に印加可能な交流磁場の強度範囲を決定することができる。

【0106】
本発明の磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法では、制御用磁場適性判定ステップの判定結果に応じて、制御用直流磁場の強度の調整および/または交流磁場の強度の調整をすることができる。
また、SBI変化測定ステップにおいて測定された遷移が生じたときの制御用直流磁場の強度および交流磁場の強度に基づき、制御用直流磁場の強度範囲および/または探針に印加可能な交流磁場の強度範囲を決定することができる。

【0107】
<2.1 原理>
本発明の磁気力顕微鏡および磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法の適用対象である、観察試料からの直流磁場勾配を計測する、ソフト磁性探針を用いる磁気力顕微鏡の原理を説明する。
最初に観察試料からソフト磁性探針に加わる直流磁場Hzdcが小さく、かつ外部磁場源からソフト磁性探針に加える交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)の振幅Hz0acも小さく、磁場印加により探針磁化が飽和しない場合を考える。このとき、探針磁化の交流変化分はほぼ交流磁場に比例して変化するので、探針磁極の交流変化分もほぼ交流磁場に比例して変化し、Δkは、次式で表される。

【0108】
【数22】
JP2015182564A1_000024t.gif
ここで、外部からソフト磁性探針に加える交流磁場が、空間的に一様である場合、

【0109】
【数23】
JP2015182564A1_000025t.gif
となり、Δkは、次式で表される。

【0110】
【数24】
JP2015182564A1_000026t.gif
したがって、角速度ωmで周期的に変化する項

【0111】
【数25】
JP2015182564A1_000027t.gif
に起因する周波数変調信号を、周波数復調することで、試料からの直流磁場勾配∂Hzdc/∂zの計測が可能になる。ここでqωmacはHz0acにほぼ比例して変化する(qωmac=αHz0ac)ので、Δk(ωmt)はHz0acの1乗に比例して変化することになる。

【0112】
【数26】
JP2015182564A1_000028t.gif
また、角速度2ωmで周期的に変化する項

【0113】
【数27】
JP2015182564A1_000029t.gif
に着目すると、同様にqωmacはHz0acにほぼ比例して変化する(qωmac=αHz0ac)ので、Δk(2ωmt)はHz0acの2乗に比例して変化することになる。

【0114】
【数28】
JP2015182564A1_000030t.gif

【0115】
次に、観察試料からソフト磁性探針に加わる直流磁場Hzdcのみでは、探針磁化は飽和しないが、外部磁場源からソフト磁性探針に加える交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)の強度Hz0acが大きく、交流磁場印加により探針磁化が飽和し、その結果として探針先端の磁極が飽和する場合を考える。磁化曲線が角形のとき、磁場方向が正の場合には、探針磁化がMs、磁場方向が負の場合には、探針磁化が-Msとなる。ここで探針先端の磁極の飽和値をqsとおくと、Hz0acが大きな場合には、探針先端の磁極は矩形状に時間変化し以下で表される。

【0116】
【数29】
JP2015182564A1_000031t.gif
このとき、Δkは、次式で表される。

【0117】
【数30】
JP2015182564A1_000032t.gif
したがって、角速度ωmで周期的に変化する項

【0118】
【数31】
JP2015182564A1_000033t.gif
に起因する周波数変調信号を周波数復調することで、試料からの直流磁場勾配∂Hzdc/∂zの計測が可能になる。このとき、Hz0acが増加してもqsは変化しないので、Δk(ωmt)はHz0acに対して一定となる。したがって、探針磁化が飽和した後は、Hz0acを増加させても、試料からの直流磁場勾配∂Hzdc/∂zの計測感度は変化しないので、Hz0acの増加は無意味であり、ソフト磁性探針は飽和直前で使用するのがよいことがわかる。
一方、角速度2ωmで周期的に変化する項

【0119】
【数32】
JP2015182564A1_000034t.gif
に着目すると、Hz0acに比例してΔk(2ωmt)は増加する。

【0120】
【数33】
JP2015182564A1_000035t.gif
以上のことから、測定前にソフト磁性探針の感度を最大にできる交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)の振幅Hz0acを知ることは重要である。これには、Δk(2ωmt)に起因する周波数変調強度のHz0ac依存性が利用できる。すなわち、観察試料なしでソフト磁性探針に交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加し、周波数変調信号の角速度2ωmで周期的に変化する項のHz0acに対する依存性の次数が2次から1次に変化するHz0acの値を測定することで、ソフト磁性探針の磁化が飽和する交流磁場の振幅を知ることができる。

【0121】
さらに、観察試料からソフト磁性探針に加わる直流磁場Hzdcが大きく探針磁化がほぼ飽和した状態で、外部磁場源からソフト磁性探針に交流磁場を加える場合を考える。この場合、探針磁極の交流変化分qωmacはほぼゼロとなるので、Δkは、次式で表される。

【0122】
【数34】
JP2015182564A1_000036t.gif
したがって、探針振動の周波数変調が発生しなくなり、試料からの直流磁場の勾配∂Hzdc/∂zの計測が困難になる。
ソフト磁性探針の測定感度を保ったままで、観察試料から発生する直流磁場の勾配∂Hzdc/∂zを計測するには、交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)の印加でソフト磁性探針の磁化を飽和させないことに加えて、観察試料から発生する直流磁場Hzdcと逆方向の直流磁場(Hzdcexを外部から印加することによりソフト磁性探針の磁化の飽和を防止することが必要である。ここで、外部から印加する直流磁場(Hzdcexは、∂Hzdc/∂zの測定結果に影響を与えないように、空間的に一様:

【0123】
【数35】
JP2015182564A1_000037t.gif
である必要がある。
(Hzdcexの大きさは、観察試料の磁気力顕微鏡による走査範囲の中での、観察試料から発生する直流磁場Hzdcの最大値以上である必要がある。

【0124】
本発明の磁気力顕微鏡における測定手順、および、本発明の磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法を用いた測定手順は、次の(1)~(4)を含む。
(1)観察試料なしで、ソフト磁性探針に交流磁場を印加して、Δk(2ωmt)による周波数変調スペクトルの交流磁場振幅依存性から、ソフト磁性探針が飽和する交流磁場振幅(最大計測感度)を見積もる。
(2)ソフト磁性探針に交流磁場を印加して、観察試料の直流磁場勾配を検出し、直流磁場勾配の絶対値が最大となる観察試料位置を見つける。直流磁場勾配の絶対値が最大となる観察試料位置には、直流磁場が試料面に対して上向きの場所と、直流磁場が試料面に対して下向きの場所とがある。
(3)これらの直流磁場勾配の絶対値が最大となる観察試料位置である2箇所に対して、探針を移動して、外部から直流磁場を印加して、Δk(ωmt)あるいはΔk(2ωmt)が引き起こす周波数変調スペクトルの外部直流磁場依存性から、探針磁化の飽和が生じない直流磁場値をあらかじめ決定する。
(4)観察試料において、試料からの直流磁場が試料面に対して上向きの場所と下向きの場所について、(3)で決定した直流磁場値の外部直流磁場を観察試料からの直流磁場とは逆向きに印加して測定を行う。
なお、観察画像の全ての観測点で、探針が飽和しない外部直流磁場値を個別に決定してもよい。

【0125】
本発明では、ソフト磁性探針の振動の周波数変調の大きさの変化(探針の見掛け上のバネ定数の変化)を検出するために、ソフト磁性探針の振動の周波数変調のスペクトルを観察する。
ソフト磁性探針に交流磁場Hzac=Hz0accos(ωmt)を印加して、誘起されるωmの周波数変調の交流磁場振幅Hz0acに対する依存性を調べることで、ソフト磁性探針の磁化が飽和に達したか否かを知ることができる。
具体的には、制御用直流磁場H_DCの強度を最初にゼロに設定し、この状態で、交流磁場H_ACの大きさを、段階的に変化させる。
制御用直流磁場H_DCについては、ソフト磁性探針に磁場勾配を与えるとソフト磁性探針の実効的なバネ定数が変化してしまう。よって、制御用直流磁場H_DCのZ方向の勾配はゼロまたは小さいこと(できるだけゼロに近いこと)が必要である。

【0126】
<2.2 磁気力顕微鏡>
図22は本発明の磁気力顕微鏡の一実施形態を示す説明図である。
図22において、磁気力顕微鏡4は、ソフト磁性探針(本発明における探針)40、探針励振部41、合成磁場発生部42、磁場制御部43、探針振動検出部44、走査部45、直流磁場特性測定部46、スペクトル測定部47、および磁化飽和検出部48を備えている。

【0127】
ソフト磁性探針40は、シリコンにより構成されたカンチレバーである。アーム401の先端に、表面にソフト磁性薄膜403が形成された円錐形の探針チップ402が備えられている。ソフト磁性薄膜403を構成するソフト磁性材料として、たとえば、パーマロイ(Ni-Fe),Co-Zr-Nb,Fe-Co-B,Fe-Coが採用される。
探針励振部41は、ソフト磁性探針40を励振させることができる。探針励振部41は、交流電源411と、ソフト磁性探針40に振動を与える圧電素子412とからなる。

【0128】
合成磁場発生部42は、交流磁場H_ACと制御用直流磁場H_DCとの合成磁場H_AC/DCを発生することができる。
図22では合成磁場発生部42は、交流電流ACにより駆動される交流コイル421および直流電流DCにより駆動されるコア4221付きの直流コイル422を有している。
磁場制御部43は、交流コイル421を駆動する電流ACにより、交流コイル421から発生する交流磁場H_ACの強度を変化させる制御を行う。
また、磁場制御部43は、直流コイル422を駆動する電流DCにより、直流コイル422から発生する制御用直流磁場H_DCの強度を変化させる制御を行う。磁場制御部43による、制御用直流磁場の強度を変化させる制御と、交流磁場の強度を変化させる制御は、独立に行うことができる。すなわち、制御用直流磁場H_DCをある値に固定しておき、交流磁場H_ACを不連続に(段階的に)変化させることができる。

【0129】
図23(A)に、交流磁場H_ACと、制御用直流磁場H_DCと、ステージSTGにセットされた試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLの関係を示す。
交流磁場H_ACのz方向(試料面に対して垂直な方向)成分は、試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLのz方向成分に対して、十分に空間的に一様である。具体的には、交流磁場H_ACのz方向成分の強度Hz0acと、ステージSTGにセットされた試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLのz方向成分の強度Hzdcとは、次の式(36)の関係を満たすことが好ましい。

【0130】
【数36】
JP2015182564A1_000038t.gif
また、制御用直流磁場H_DCのz方向成分も、ステージSTGにセットされた試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLのz方向成分に対して、十分に空間的に一様である。具体的には、制御用直流磁場H_DCのz方向成分(Hzdcexと、ステージSTGにセットされた試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLのz方向成分Hzdcとは、次の式(43)の関係を満たすことが好ましい。

【0131】
【数37】
JP2015182564A1_000039t.gif
図23(B)に示すように、合成磁場発生部42は、交流電流ACと直流電流DCとの合成電流SCにより駆動される一つのコイル420から構成することもできる。合成磁場発生部42を一つのコイル420から構成した場合には、磁場制御部43からは交流電流ACと直流電流DCとの合成電流SCが出力される。

【0132】
探針振動検出部44は、ソフト磁性探針40の振動を検出し振動検出信号VIBを生成する。探針振動検出部44は、レーザ(LSR)441とフォトディテクタ(PD)442とからなる。ソフト磁性探針40の先端上面には反射ミラーが形成されている。LSR441から出射されたレーザビームLBはソフト磁性探針40の先端上面で反射されてPD442に入射される。
走査部45は、ソフト磁性探針40が、試料SMPLの表面を走査できるように、ソフト磁性探針40を空間駆動(XY駆動)することができる。図23では、試料SMPLがセットされたステージSTGを移動させることで、ソフト磁性探針40による試料SMPLの表面を走査する例を示しているが、ソフト磁性探針40を移動させることで、ソフト磁性探針40による試料SMPLの上面を走査することもできる。

【0133】
直流磁場特性測定部46は、探針振動検出部44により検出された振動検出信号VIBを取得し、ソフト磁性探針40に生じた振動変調を解析することで試料SMPLの表面の直流磁場特性を測定することができる。
スペクトル測定部47は、探針振動検出部44により検出された振動検出信号VIBを取得し、振動検出信号VIBのスペクトルを測定する。
スペクトル測定部47は、合成磁場発生部42が制御用直流磁場H_DCをある値に固定し、交流磁場H_ACを不連続に(段階的に)変化させたときのスペクトルを、交流磁場H_ACの強度HACiごとに測定する。

【0134】
磁化飽和検出部48は、試料SMPLの直流磁場H_DCSMPLの測定に際して、探針チップ402に形成されたソフト磁性材料薄膜403の磁化が飽和するか否かを、交流磁場H_ACを不連続に(段階的に)変化させたときのスペクトルの遷移に基づき(2次のサイドバンドの変化に基づき)検出することができる。

【0135】
2次のサイドバンドの変化は、スペクトル図に基づき目視により検出することができる。
また、図24に示すように、磁化飽和検出部48を、SBI抽出部481、SBI変化測定部482および磁場強度適性判定部483から構成することで、装置検出(Instruments detecting)することもできる。

【0136】
図24において、SBI抽出部481は、スペクトル測定部47により測定されたスペクトルの2次のサイドバンドの強度SBI_2ndを抽出する。
SBI変化測定部482は、強度がゼロを含む所定範囲内のある値に設定された制御用直流磁場H_DCの下で、交流磁場H_ACの強度HACiをある値から所定値まで変化させ、SBI抽出部481により抽出された2次のサイドバンドの強度(SBI_2nd)の交流磁場強度HACiに対する依存性の変化の有無を検出する。そして、2次のサイドバンドの強度の交流磁場強度HACiに対する依存性に変化が生じた場合には、2次のサイドバンドの強度(SBI_2nd)の交流磁場強度HACiに対する依存性に変化が生じたときの交流磁場H_ACの強度HACiを測定する。

【0137】
図25(A)に、制御用直流磁場の強度を変化させたときに、SBI抽出部481により作成された、交流磁場H_ACの強度の変化に対する2次のサイドバンドSBI_2ndの強度特性を両対数プロットしたグラフが変化する様子を示している。図25(B)は、当該強度特性の傾きの変化点(遷移点)T_PNTにおける交流磁場強度(探針飽和磁場)の、制御用直流磁場強度に対する変化を示すグラフである。遷移点T_PNTにおいて、2次のサイドバンドの強度の交流磁場強度に対する依存性の次数が2次から1次に変化している。図25(C)は、遷移点T_PNTにおける交流磁場強度と制御用直流磁場強度との和を、制御用直流磁場強度に対してプロットしたグラフである。図25(A)及び図25(B)から、交流磁場強度を一定にして外部から制御用直流磁場を印加すると、制御用直流磁場を印加した分だけ探針が飽和に達する遷移点が変化することがわかる。図25(C)から、探針に加わる磁場の最大値が、交流磁場の振幅値と外部からの直流磁場値との和であることが確認できる。
なお、図25(A)~(C)は、図2に示した構成を有する磁気力顕微鏡4において、ソフト磁性探針PRBとしてSi探針の探針チップ表面に(Fe70Co308515磁性体薄膜(膜厚30nm)を形成した探針を用い、電磁石を磁場源とし、観察試料なしで測定した結果に基づく。

【0138】
磁場強度適性判定部483は、SBI変化測定部482による測定結果(2次のサイドバンドの強度SBI_2ndの交流磁場強度HACi依存性の変化の有無、および(2次のサイドバンドの強度の交流磁場強度依存性に変化があった場合には)2次のサイドバンドの強度SBI_2ndの交流磁場強度依存性に変化が生じたときの交流磁場H_ACの強度HACi)に基づき、制御用直流磁場H_DCの強度の適性および/または交流磁場H_ACの強度の適性を判定することができる。

【0139】
たとえば、制御用直流磁場H_DCの強度をある値に固定しておき、交流磁場H_ACの強度を変化させて、スペクトル測定部47によりスペクトルを測定したとする。
磁場強度適性判定部483が、強度特性の傾きの変化点T_PNTを検出したとき、そのときの交流磁場H_ACの強度が、試料SMPLの表面の直流磁場特性の測定に適用される交流磁場の強度よりも大きければ、制御用直流磁場H_DCの強度も、交流磁場H_ACの強度も適正であると判断できる。

【0140】
一方、磁場強度適性判定部483が、強度特性の傾きの変化点T_PNTを検出したとき、そのときの交流磁場H_ACの強度が、試料SMPLの表面の直流磁場特性の測定に適用される交流磁場の強度以下であれば、制御用直流磁場H_DCの強度または交流磁場H_ACの強度が不適正であると判定できる。
この場合には、制御用直流磁場H_DCの強度を小さくするか、または交流磁場H_ACの強度を小さくする必要があるので、制御用直流磁場H_DCの強度または交流磁場H_ACの強度を変更して、再度、スペクトルを測定しなおして、磁場強度の適性を判断する。

【0141】
以上述べたように、図22の磁気力顕微鏡4では、励振しているソフト磁性探針40に交流磁場H_ACと制御用直流磁場H_DCとを印加し、ソフト磁性探針40により、直流磁場H_DCSMPLを発生する試料SMPLの表面を走査する。
この走査において、ソフト磁性探針40の振動を検出することで、試料SMPLの表面の直流磁場特性(直流磁場H_DCSMPL)を測定することができる。

【0142】
<2.3 磁気力顕微鏡の制御用磁場調整方法>
図26は、図22に示した評価装置を用いて本発明の制御用磁場調整方法を実施する場合の処理を示すフローチャートである。
試料セットステップS400:測定したい試料SMPLを試料テーブルにセットする。
消磁ステップS410: ソフト磁性探針40の磁化を交流消磁する。たとえば、周波数100Hzの交流磁場を、強度が5kOeから0kOeまでゆっくり減少するよう探針チップ402に印加する。

【0143】
探針励振ステップS420:ソフト磁性探針40を所定の角周波数ω0で励振させる。
磁場発生ステップS430: 交流磁場H_ACと制御用直流磁場H_DCとの合成磁場H_AC/DCを発生させ、探針410に合成磁場H_AC/DCを印加する。上記したように、交流磁場H_ACと、制御用直流磁場H_DCと、ステージSTGにセットされた試料SMPLが発生する直流磁場H_DCSMPLとは、式(42)及び(43)の関係を満たすことが好ましい。
このとき、制御用直流磁場H_DCの強度を初期値HDCi(r1)に設定する(S4301)。ここでは、HDCi(r1)=0としてある。
また、交流磁場H_ACの強度を初期値HACi(s1)に設定する(S4302)。

【0144】
磁場制御ステップS440は、直流磁場制御ステップS4401と交流磁場制御ステップS4402からなる。
直流磁場制御ステップS4401: ゼロ回目のループ(m=1)では、制御用直流磁場H_DCの強度をHDCi(r1)に設定し、(j-1)回目のループ(m=j)では、制御用直流磁場H_DCの強度をHDCi(rj)に設定する。なおここではHDCi(r1)<HDCi(r2)<…<HDCi(rM)である。
交流磁場制御ステップS4402:ゼロ回目のループ(n=1)では、交流磁場H_ACの強度をHACi(s1)に設定する。
k回目のループ(n=k+1)では、交流磁場H_ACの強度をHACi(sm)に設定する。なおここではHACi(s1)<HACi(s2)<…<HACi(sN)である。
探針振動検出ステップS450:ソフト磁性探針10の振動を検出し振動検出信号VIBを生成する。

【0145】
スペクトル測定ステップS460:探針振動検出ステップS450において検出された振動検出信号VIBを取得し、交流磁場H_ACの強度HACi(sn)に対応する、振動検出信号VIBのスペクトルを測定する。
磁場制御ステップS440、探針振動検出ステップS450、スペクトル測定ステップS460の処理を、nを順次増加させてn=Nまで繰り返す。
磁化飽和検出ステップS470:試料SMPLの直流磁場H_DCSMPLの測定に際して、ソフト磁性探針40の先端に形成されている磁性体薄膜の磁化が飽和したとき(2次のサイドバンドSB_2ndの強度SBI2ndの交流磁場強度HACiに対する依存性が変化したとき)の交流磁場H_ACの強度HACi(sn)を複数のスペクトル(n=1,2,・・・N)にわたる変化に基づき検出する。
そして、探針チップ402に形成されているソフト磁性材料薄膜の磁化が飽和したときの交流磁場H_ACの強度HACi(sn)が、所定の値以下であるか否かを検出する。
制御用直流磁場の強度HDCi(rm)が不適正であるとき(探針チップ402に形成されたソフト磁性材料薄膜の磁化が飽和したときの交流磁場H_ACの強度が所定の値を超えるとき)は、制御用直流磁場の強度HDCi(rm)を上げて(mの値を1増やして)、ステップS430からS470までを繰り返す。
制御用直流磁場の強度HDCi(rm)が適正であるときは、処理を終了する。

【0146】
磁化飽和検出ステップS470は、図27に示すように、SBI抽出ステップS4701と、SBI変化測定ステップS4702と、制御用磁場適性判定ステップS4703とを含むことができる。
SBI抽出ステップS4701では、スペクトル測定ステップS460において測定された複数のスペクトルの2次のサイドバンドSB_2ndの強度SBI2ndを抽出する。

【0147】
SBI変化測定ステップS4702では、2次のサイドバンドの強度SBI2nd(rm)の交流磁場強度HACiに対する依存特性に変化が生じたときの交流磁場H_ACの強度を測定する。
すなわち、強度がHDCi(rm)である制御用直流磁場H_DCの下で、交流磁場H_ACの強度HACiをある値HACi(s1)から所定値HACi(sN)まで変化させ、SBI抽出ステップS4701において抽出された2次のサイドバンドの強度SBI2nd(rm,sn)の交流磁場強度HACi依存性に変化が生じたときの交流磁場H_ACの強度HACi(sn)を測定する。
制御用磁場適性判定ステップS4703では、SBI変化測定ステップS4701における測定結果(2次のサイドバンドSB_2ndの強度SBI2ndの交流磁場強度HACi依存特性に変化が生じたときの交流磁場H_ACの強度)に基づき、制御用直流磁場の強度HDCi(rm)の適性を判定する。

【0148】
制御用磁場適性判定ステップS4703において、制御用直流磁場の強度HDCi(rm)が不適正であるときは、制御用直流磁場の強度HDCi(rm)を一段階上げて(mの値を1増やして)、ステップS430からS470までを繰り返す。制御用直流磁場の強度HDCi(rm)が適正であるときは、処理を終了する。
【符号の説明】
【0149】
11 評価装置
111 探針励振部
112 交流磁場発生部
113 交流磁場制御部
114 探針振動検出部
115 スペクトル測定部
116 SBI抽出部
117 SBI変化測定部
118 変化遷移点検出部
119 評価結果出力部
1111 交流電源
1112 圧電素子
1141 レーザ(LSR)
1142 フォトディテクタ(PD)
21 評価装置
211 探針励振部
212 交流磁場発生部
213 交流磁場制御部
214 探針振動検出部
215 スペクトル測定部
216 SBI抽出部
217 SBI変化測定部
218 変化遷移点検出部
219 探針飽和磁化特性検出部
2111 交流電源
2112 圧電素子
2141 レーザ(LSR)
2142 フォトディテクタ(PD)
31 評価装置
311 探針励振部
312 直流磁場・交流磁場発生部
313 直流磁場・交流磁場制御部
314 探針振動検出部
315 スペクトル測定部
316 SBI抽出部
317 SBI変化測定部
318 探針品質検出部
3111 交流電源
3112 圧電素子
3141 レーザ(LSR)
3142 フォトディテクタ(PD)
4 磁気力顕微鏡
40 ソフト磁性探針
41 探針励振部
42 合成磁場発生部
43 磁場制御部
44 探針振動検出部
45 走査部
46 直流磁場特性測定部
47 スペクトル測定部
48 磁化飽和検出部
401 カンチレバーのアーム
402 探針チップ
403 ソフト磁性材料薄膜
411 交流電源
412 圧電素子
421 交流コイル
422 直流コイル
420 コイル
441 レーザ(LSR)
442 フォトディテクタ(PD)
481 SBI抽出部
482 SBI変化測定部
483 磁場強度適性判定部
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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