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明細書 :偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-230297 (P2015-230297A)
公開日 平成27年12月21日(2015.12.21)
発明の名称または考案の名称 偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラム
国際特許分類 G01N  21/21        (2006.01)
G01N  21/17        (2006.01)
FI G01N 21/21 Z
G01N 21/17 630
請求項の数または発明の数 18
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2014-118159 (P2014-118159)
出願日 平成26年6月6日(2014.6.6)
発明者または考案者 【氏名】安野 嘉晃
【氏名】カサラゴッド ディーパ カマス
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100110179、【弁理士】、【氏名又は名称】光田 敦
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
Fターム 2G059AA05
2G059EE02
2G059EE05
2G059EE09
2G059EE12
2G059GG01
2G059GG08
2G059JJ05
2G059JJ11
2G059JJ13
2G059JJ17
2G059JJ18
2G059JJ19
2G059JJ22
2G059KK03
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM03
要約 【課題】偏光感受型光画像計測では、SN比(signal-to- noise ratio)が低く信号強度の低い周辺の領域において無視できないバイアスを含み複屈折がずれてしますが、この複屈折のずれを除去し、高精度の定量計測を可能とする。
【解決手段】偏光OCTで取得したノイズを含んだOCT信号を、複屈折を求めるアルゴリズムで処理することで、計測複屈折を求め、ノイズを統計的に変化させて、計測複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値のノイズ特性を決定し、モンテカルロ法の計算を、ノイズ量及び真の複屈折値をそれぞれ異なる値に仮定して繰り返すことによって、真の複屈折値、SN比及び計測複屈折値の組み合わせの三次元のヒストグラムを形成し、三次元のヒストグラムから、所定の計測複屈折値とSN比を仮定することで、真の複屈折の確率密度分布を得て、真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値を推定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
偏光感受型光画像計測装置と、偏光感受型光画像計測装置で得られた画像データの処理を行うためのプログラムを搭載したコンピュータと、を備えた偏光感受型光画像計測システムであって、
前記コンピュータは、入力装置、出力装置、CPU及び記憶装置を備えており、前記プログラムに従って、
試料の計測で得られたノイズを含んだOCT信号を、複屈折を求めるアルゴリズムで処理することで、ノイズの存在下で計測される複屈折値である計測複屈折値を得る手段と、
モンテカルロ法の計算によって、ノイズを統計的に変化させて、前記アルゴリズムで処理するプロセスを繰り返すことで計測複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値のノイズ特性を決定する手段と、
前記モンテカルロ法の計算を、ノイズ量及び真の複屈折値をそれぞれ異なる値に仮定して繰り返すことによって、真の複屈折値、SN比及び計測複屈折値の組み合わせがどのような頻度で出現するかを表す三次元のヒストグラム情報を形成する手段と、
三次元のヒストグラム情報から、所定の計測複屈折値とSN比を仮定することで、真の複屈折の確率密度分布を取り出す手段と、
真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値を推定する手段と、
して機能することを特徴とする偏光感受型光画像計測システム。
【請求項2】
コンピュータは、前記計測を複数回行い、それぞれの計測値に対して前記真の複屈折の確率密度分布を得て、全ての複屈折の確率密度分布をすべて掛け合わせることで、最終的な真の複屈折の確率密度分布を得る手段として機能することを特徴とする請求項1に記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項3】
真の複屈折値は、真の確率密度分布から得られる真の複屈折値の期待値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項4】
真の複屈折値は、真の複屈折の確率密度分布が最大になる真の複屈折の値である最尤値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項5】
コンピュータは、真の複屈折の確率密度分布に基づき、最尤値の信頼度を求める手段として機能することを特徴とする請求項4に記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項6】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点のみを複数回スキャンすることで、試料の1つのピクセルの点について多数の複屈折値を計測することを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項7】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点をスキャンすることで、試料の所定の箇所のうちの複数のピクセルの点についてそれぞれの複屈折値を計測することを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項8】
試料を計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点を1回スキャンすることで、所定の箇所における複数のピクセルの点に対する複数の複屈折値を計測することを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項9】
コンピュータは、真の複屈折値に基づく画像を、擬似カラー表示し、この擬似カラー表示において、輝度はOCT信号の強度によって決定し、色は複屈折の最尤値によって決定し、濃度は最尤値の信頼度によって決定する手段として機能することを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の偏光感受型光画像計測システム。
【請求項10】
偏光感受型光画像計測装置と、入力装置、出力装置、CPU及び記憶装置を備え光感受光画像計測装置で得られた画像データを処理するコンピュータと、を備えた偏光感受型光画像計測システムのコンピュータに搭載されるプログラムであって、
前記コンピュータを、
試料の計測で得られたノイズを含んだOCT信号を、複屈折を求めるアルゴリズムで処理することで、ノイズの存在下で計測される複屈折値である計測複屈折値を得る手段と、
モンテカルロ法の計算によって、ノイズを統計的に変化させて、前記アルゴリズムで処理するプロセスを繰り返すことで計測複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値のノイズ特性を決定する手段と、
前記モンテカルロ法の計算を、ノイズ量及び真の複屈折値をそれぞれ異なる値に仮定して繰り返すことによって、真の複屈折値、SN比及び計測複屈折値の組み合わせがどのような頻度で出現するかを表す三次元のヒストグラム情報を形成する手段と、
三次元のヒストグラム情報から、所定の計測複屈折値とSN比を仮定することで、真の複屈折の確率密度分布を取り出す手段と、
真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値を推定する手段と、
して機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
コンピュータを、前記計測を複数回行い、それぞれの計測値に対して前記真の複屈折の確率密度分布を得て、全ての複屈折の確率密度分布をすべて掛け合わせることで、最終的な真の複屈折の確率密度分布を得る手段として機能させることを特徴とする請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
真の複屈折値は、真の確率密度分布から得られる真の複屈折値の期待値であることを特徴とする請求項10又は11に記載のプログラム。
【請求項13】
真の複屈折値は、真の複屈折の確率密度分布が最大になる真の複屈折の値である最尤値であることを特徴とする請求項10又は11に記載のプログラム。
【請求項14】
コンピュータを、真の複屈折の確率密度分布に基づき、最尤値の信頼度を求める手段として機能させることを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点のみを複数回スキャンすることで、試料の1つのピクセルの点について多数の複屈折値を計測することを特徴とする請求項11~14のいずれかに記載のプログラム。
【請求項16】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点をスキャンすることで、試料の所定の箇所のうちの複数のピクセルの点についてそれぞれの複屈折値を計測することを特徴とする請求項11~14のいずれかに記載のプログラム。
【請求項17】
試料を計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点を1回スキャンすることで、所定の箇所における複数のピクセルの点に対する複数の複屈折値を計測することを特徴とする請求項11~14のいずれかに記載のプログラム。
【請求項18】
コンピュータを、真の複屈折値に基づく画像を、擬似カラー表示し、この擬似カラー表示において、輝度はOCT信号の強度によって決定し、色は複屈折の最尤値によって決定し、濃度は最尤値の信頼度によって決定する手段として機能させることを特徴とする請求項14~17のいずれかに記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT:Optical coherence tomography)の技術分野の発明であり、特に、局所的な複屈折(偏光)情報を抽出可能な偏光感受型光画像計測装置(PS-OCT。「偏光感受型光コヒーレンストモグラフィー装置」、あるいは「偏光感受型光干渉断層計」ともいう。)を備えた偏光感受型光画像計測システムに関する。
【0002】
即ち、偏光を入射光として用い、試料(被検物体)のもつ複屈折による偏光依存性を試料の偏光情報として捉え、試料のより微細な構造を高精度定量計測可能とする偏光感受型光画像計測システムに関する。
【0003】
また、本発明は、ベイズ統計を用いた組織複屈折の高精度定量計測を特徴とする偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラムに関する発明である。
【背景技術】
【0004】
従来、物体(試料)の内部情報、つまり後方散乱、反射率分布及び屈折率分布の微分構造を非破壊、高分解能で捉えるために、OCTを用いることが行われている。
【0005】
医療分野等で用いられる非破壊断層計測技術の1つとして、光断層画像化法「光コヒーレンストモグラフィー」(OCT)がある(特許文献1参照)。OCTは、光を計測プローブとして用いるため、被計測物体(試料)の反射率分布、屈折率分布、分光情報、偏光情報(複屈折率分布)等が計測できるという利点がある。
【0006】
基本的なOCT43は、マイケルソン干渉計を基本としており、その原理を図5で説明する。光源44から射出された光は、コリメートレンズ45で平行化された後に、ビームスプリッター46により参照光と物体光に分割される。物体光は、物体アーム(試料アーム)内の対物レンズ47によって被計測物体48に集光され、そこで散乱・反射された後に再び対物レンズ47、ビームスプリッター46に戻る。
【0007】
一方、参照光は参照アーム内の対物レンズ49を通過した後に参照鏡50によって反射され、再び対物レンズ49を通してビームスプリッター46に戻る。このようにビームスプリッター46に戻った物体光と参照光は、物体光とともに集光レンズ51に入射し光検出器52(フォトダイオード等)に集光される。
【0008】
OCTの光源44は、時間的に低コヒーレンスな光(異なった時刻に光源から出た光同士は極めて干渉しにくい光)の光源を利用する。時間的低コヒーレンス光を光源としたマイケルソン型の干渉計では、参照アームと物体アームの距離がほぼ等しいときにのみ干渉信号が現れる。この結果、参照アームと物体アームの光路長差(τ)を変化させながら、光検出器52で干渉信号の強度を計測すると、光路長差に対する干渉信号(インターフェログラム)が得られる。
【0009】
そのインターフェログラムの形状が、被計測物体48の奥行き方向の反射率分布を示しており、1次元の軸方向走査により被計測物体48の奥行き方向の構造を得ることができる。このように、OCT43では、光路長走査により、被計測物体48の奥行き方向の構造を計測できる。
【0010】
このような軸方向(A方向)の走査のほかに、横方向(B方向)の機械的走査(Bスキャン)を加え、2次元の走査を行うことで被計測物体の2次元断面画像が得られる。この横方向の走査を行う走査装置としては、被計測物体を直接移動させる構成、物体は固定したままで対物レンズをシフトさせる構成、被計測物体も対物レンズも固定したままで、対物レンズの瞳面付近においたガルバノミラーの角度を回転させる構成等が用いられている。
【0011】
以上の基本的なOCTが発展したものとして、光源の波長を走査してスペクトル干渉信号を得る波長走査型OCT(Swept Source OCT、略して「SS-OCT」という。)と、分光器を用いてスペクトル信号を得るスペクトルドメインOCTがある。後者としてフーリエドメインOCT(Fourier Domain OCT、略して「FD-OCT」という。特許文献2参照)、及びPS-OCT(特許文献3参照)がある。
【0012】
波長走査型OCTは、高速波長スキャニングレーザーにより光源の波長を変え、スペクトル信号と同期取得された光源走査信号を用いて干渉信号を最配列し、信号処理を加えることで三次元光断層画像を得るものである。なお、光源の波長を変える手段として、モノクロメーターを利用したものでも、波長走査型OCTとして利用可能である。
【0013】
フーリエドメインOCTは、被計測物体からの反射光の波長スペクトルを、スペクトロメーター(スペクトル分光器)で取得し、このスペクトル強度分布に対してフーリエ変換することで、実空間(OCT信号空間)上での信号を取り出すことを特徴とするものであり、このフーリエドメインOCTは、奥行き方向の走査を行う必要がなく、x軸方向の走査を行うことで被計測物体の断面構造を計測可能である。
【0014】
PS-OCTは、B-スキャンと同時に直線偏光したビームの偏光状態を連続変調し、試料(被検物体)のもつ偏光情報を捉え、試料のより微細な構造および屈折率の異方性を計測可能とする光コヒーレンストモグラフィー装置である。
【0015】
さらに詳しくは、PS-OCTは、フーリエドメインOCTと同様に、被計測物体からの反射光の波長スペクトルをスペクトル分光器で取得するものであるが、入射光及び参照光をそれぞれ1/2波長板、1/4波長板等を通して水平直線偏光、垂直直線偏光、45°直線偏光、円偏光として、被計測物体からの反射光と参照光を重ねて1/2波長板、1/4波長板等を通して、例えば水平偏光成分だけをスペクトル分光器に入射させて干渉させ、物体光の特定偏光状態をもつ成分だけを取り出してフーリエ変換するものである。このPS-OCTも、奥行き方向の走査を行う必要がない。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特開2002-310897号公報
【特許文献2】特開平11-325849号公報
【特許文献3】特開2004-028970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記偏光感受型光画像計測装置は、複屈折をコントラスト源とした「観察」技術としては 成功をおさめたものの、その定量性の確立にはいまだ多くの問題が残る。
【0018】
本発明者等のグループが鋭意研究開発を進めてきた結果、偏光感受型光画像計測装置による複屈折計測は、信号強度の低い領域では無視できないバイアスを含むことがわかってきた。このバイアスが存在する領域では、偏光感受型光画像計測装置によって複屈折の高精度定量計測を可能とすることはできない。
【0019】
本発明は、偏光感受型光画像計測装置における複屈折計測における信号強度の低い領域でのバイアスを除去することを目的とし、高精度定量計測可能とする偏光感受型光画像計測装置を備えた偏光感受型光画像計測システムを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記課題を解決するために、偏光感受型光画像計測装置と、偏光感受型光画像計測装置で得られた画像データ(計測データ)の処理を行うためのプログラムを搭載したコンピュータと、を備えた偏光感受型光画像計測システムであって、前記コンピュータは、入力装置、出力装置、CPU及び記憶装置を備えており、前記プログラムに従って、試料の計測で得られたノイズを含んだOCT信号を、複屈折を求めるアルゴリズムで処理することで、ノイズの存在下で計測される複屈折値である計測複屈折値を得る手段と、モンテカルロ法の計算によって、ノイズを統計的に変化させて、前記アルゴリズムで処理するプロセスを繰り返すことで計測複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値のノイズ特性を決定する手段と、前記モンテカルロ法の計算を、ノイズ量及び真の複屈折値をそれぞれ異なる値に仮定して繰り返すことによって、真の複屈折値、SN比及び計測複屈折値の組み合わせがどのような頻度で出現するかを表す三次元のヒストグラム情報を形成する手段と、三次元のヒストグラム情報から、所定の計測複屈折値とSN比を仮定することで、真の複屈折の確率密度分布を取り出す手段と、真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値を推定する手段として機能することを特徴とする偏光感受型光画像計測システムを提供する。
【0021】
本発明は上記課題を解決するために、偏光感受型光画像計測装置と、入力装置、出力装置、CPU及び記憶装置を備え光感受光画像計測装置で得られた画像データを処理するコンピュータと、を備えた偏光感受型光画像計測システムのコンピュータに搭載されるプログラムであって、前記コンピュータを、試料の計測で得られたノイズを含んだOCT信号を、複屈折を求めるアルゴリズムで処理することで、ノイズの存在下で計測される複屈折値である計測複屈折値を得る手段と、モンテカルロ法の計算によって、ノイズを統計的に変化させて、前記アルゴリズムで処理するプロセスを繰り返すことで計測複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値のノイズ特性を決定する手段と、前記モンテカルロ法の計算を、ノイズ量及び真の複屈折値をそれぞれ異なる値に仮定して繰り返すことによって、真の複屈折値、SN比及び計測複屈折値の組み合わせがどのような頻度で出現するかを表す三次元のヒストグラム情報を形成する手段と、三次元のヒストグラム情報から、所定の計測複屈折値とSN比を仮定することで、真の複屈折の確率密度分布を取り出す手段と、真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値を推定する手段と、して機能させることを特徴とするプログラムを提供する。
【0022】
コンピュータは、前記計測を複数回行い、それぞれの計測値に対して前記真の複屈折の確率密度分布を得て、全ての複屈折の確率密度分布をすべて掛け合わせることで、最終的な真の複屈折の確率密度分布を得る手段として機能することが好ましい。
【0023】
真の複屈折値は、真の確率密度分布から得られる真の複屈折値の期待値であることが好ましい。
【0024】
真の複屈折値は、真の複屈折の確率密度分布が最大になる真の複屈折の値である最尤値であることが好ましい。
【0025】
コンピュータは、真の複屈折の確率密度分布に基づき、最尤値の信頼度を求める手段として機能することが好ましい。
【0026】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点のみを複数回スキャンすることで、試料の1つのピクセルの点について多数の複屈折値を計測することが好ましい。
【0027】
試料を複数回計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点をスキャンすることで、試料の所定の箇所のうちの複数のピクセルの点についてそれぞれの複屈折値を計測することが好ましい。
【0028】
試料を計測するに際して、試料の所定の箇所のうち、1つのピクセルの点を含め複数のピクセルの点を1回スキャンすることで、所定の箇所における複数のピクセルの点に対する複数の複屈折値を計測することが好ましい。
【0029】
コンピュータは、真の複屈折値に基づく画像を、擬似カラー表示し、この擬似カラー表示において、輝度はOCT信号の強度によって決定し、色は複屈折の最尤値によって決定し、濃度は最尤値の信頼度によって決定する手段として機能することが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従来不可能であった理論的に決定される複屈折計測範囲の周縁(位相遅延に換算した0πrad近傍)に真の複屈折がある場合でもその推定が可能であり、偏光感受型光画像計測装置における複屈折計測における信号強度の低い領域でのバイアスを除去することができ、従来の偏光OCT装置に比べてより高い精度を持つ。
【0031】
本発明に係るプログラムは、最低限のハードウェア改造によってほほすべての偏光OCT装置に実装が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るPS-OCTシステムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明に係るPS-OCTシステムの画像処理を行うコンピュータを示す図である。
【図3】本発明における試験例の試験結果を示す図である。
【図4】本発明における試験例の試験結果を示す図である。
【図5】従来のOCTを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラムを実施するための形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下説明する。

【0034】
本発明に係る偏光感受型光画像計測システムは、偏光感受型光画像計測装置と、偏光感受型光画像計測装置で得られた画像データ(計測データ)の処理を行う画像処理装置とを備えている。

【0035】
画像処理装置は、通常のコンピュータが使用され、本発明に係るプログラムは、コンピュータに搭載され、偏光感受型光画像計測装置で得られた画像データを処理する手段として機能させるものである。

【0036】
以下、まず、本発明の前提となる偏光感受型光画像計測装置及び画像処理装置(コンピュータ)の構成を説明し、その後、コンピュータが、それに搭載された本発明のプログラムによって機能する手段等の本発明の特徴的構成について説明する。

【0037】
(偏光感受型光画像計測装置)
偏光感受型光画像計測装置としてPS-OCTを念頭において説明するが、PS-OCT自体は、すでに特許第4344829号公報等で知られているが、本発明の前提となる技術であるから、その概要を説明する。

【0038】
本発明に係る偏光感受型光画像計測装置は、Bスキャン(試料の奥行方向に垂直な平面上の一方向のスキャン)と同時に(同期して)光源からの偏光ビーム(偏光子により直線的に偏光されたビーム)をEO変調器(偏光変調器、電気光学変調器)によって連続的に変調し、この連続的に偏光を変調した偏光ビームを分けて、一方を入射ビームとして走査して試料に照射し、その反射光(物体光)を得ると共に、他方を参照光として、両者のスペクトル干渉によりOCT計測を行うものである。

【0039】
そして、このスペクトル干渉成分のうち、垂直偏光成分(H)と水平偏光成分(V)を同時に2つの光検出器で測定することにより、試料の偏光特性を表すジョーンズベクトルを得る(H画像とV画像)構成を特徴とするものである。

【0040】
図1は、本発明に係る偏光感受型光画像計測装置の光学系の全体構成を示す図である。図1に示す偏光感受型光画像計測装置1は、光源2、偏光子3、EO変調器4、ファイバーカプラー(光カプラー)5、参照アーム6、試料アーム7、分光器8等の光学要素を備えている。この偏光感受型光画像計測装置1の光学系は、光学要素が互いにファイバー9で結合されているが、ファイバーで結合されていないタイプの構造(フリースペース型)であってもよい。

【0041】
光源2は、広帯域スペクトルを有するスーパールミネッセントダイオード(SLD:Super Luminessent Diode)を使用する。なお、光源2は、パルスレーザでもよい。光源2には、コリメートレンズ11、光源2からの光を直線偏光にする偏光子3、進相軸を45°の方向にセットされたEO変調器(偏光変調器、電気光学変調器)4、集光レンズ13及びファイバーカプラー5が、順次、接続されている。

【0042】
EO変調器4は、進相軸を45°の方向に固定して、該EO変調器4にかける電圧を正弦的に変調することで、進相軸とそれに直交する遅相軸との間の位相差(リターデーション)を連続的に変えるもので、これにより、光源2から出て偏光子3で(縦)直線偏光となった光がEO変調器4に入射すると、上記変調の周期で、直線偏光→楕円偏光→直線偏光………などのように変調される。EO変調器4は、市販されているEO変調器を使用すればよい。

【0043】
ファイバーカプラー5には分岐するファイバー9を介して、参照アーム6と試料アーム7が接続されている。参照アーム6には、偏波コントローラ(polarization controller)10、コリメートレンズ11、偏光子12、集光レンズ13及び参照鏡(固定鏡)14が、順次、設けられている。参照アーム6の偏光子12は、上記のとおり偏光状態を変調しても参照アーム6から戻ってくる光の強度が変化しないような方向を選択するために用いている。この偏光子12の方向(直線偏光の偏光方向)の調整は偏波コントローラ10とセットで行う。

【0044】
試料アーム7では、偏波コントローラ15、コリメートレンズ11、固定鏡24、ガルバノ鏡16、集光レンズ13が、順次、設けられ、ファイバーカプラー5からの入射ビームが2軸のガルバノ鏡16により走査されて試料17に照射される。試料17からの反射光は物体光として再びファイバーカプラー5に戻り、参照光と重畳されて干渉ビームとして分光器8に送られる。

【0045】
分光器8は、順次接続される偏波コントローラ18、コリメートレンズ11、(偏光感受型体積位相ホログラフィック)回折格子19、フーリエ変換レンズ20、偏光ビームスプリッター21及び2つの光検出器22、23を備えている。この実施の形態では、光検出器22、23として、ラインCCDカメラ(1次元CCDカメラ)を利用する。ファイバーカプラー5から送られてくる干渉ビームは、コリメートレンズ11でコリメートされ、回折格子19によって干渉スペクトルに分光される。

【0046】
回折格子19で分光された干渉スペクトルビームは、フーリエ変換レンズ20でフーリエ変換され偏光ビームスプリッター21で水平及び垂直成分に分けられ、それぞれ2つラインCCDカメラ(光検出器)22、23で検出される。この2つラインCCDカメラ22、23は、水平および垂直偏光信号両方の位相情報を検知するために使われるので、2つのラインCCDカメラ22、23は同一の分光器の形成に寄与するものでなくてはならない。

【0047】
なお、光源2、参照アーム6、試料アーム7及び分光器8には、それぞれ偏波コントローラ10、15、18が設けられているが、これらは、光源2から参照アーム6、試料アーム7、分光器8に送られるそれぞれのビームの初期偏光状態を調整して、EO変調器4で連続的に変調された偏光状態が、参照光と物体光においても互いに一定の振幅と一定の相対偏光状態の関係が維持され、さらにファイバーカプラー5に接続された分光器8において一定の振幅と一定の相対偏光状態を保たれるようにコントロールする。

【0048】
また、2つラインCCDカメラ22、23を含む分光器8を校正するときはEO変調器4は止める。参照光をブロックし、スライドガラスと反射鏡を試料アーム7におく。この配置は水平および垂直偏光成分のピークの位置が同じであることを保証する。そして、スライドガラスの後ろの面と反射鏡からのOCT信号は2つの分光器8で検知される。OCT信号のピークの位相差はモニターされる。

【0049】
この位相差はすべての光軸方向の深さでゼロであるべきである。次に、信号は2つラインCCDカメラ22、23を含む分光器8で複素スペクトルを得るために、ウィンドウされ逆フーリエ変換される。この位相差はすべての周波数でゼロであるべきなので、これらの値をモニターすることによって2つラインCCDカメラ22、23の物理的な位置は位相差が最小になるようにアライメントされる。

【0050】
光源2からの光を直線偏光し、この直線偏光されたビームをEO変調器4により連続的に偏光状態の変調を行う。即ち、EO変調器4は、進相軸を45°の方向に固定して、該EO変調器4にかける電圧を正弦的に変調することで、進相軸とそれに直交する遅相軸との間の位相差(偏光角:リターデーション)を連続的に変えるもので、これにより、光源2から出て直線偏光子で(縦)直線偏光となった光がEO変調器4に入射すると、上記変調の周期で、直線偏光→楕円偏光→直線偏光………などのように変調される。

【0051】
そして、直線偏光された偏光ビームをEO変調器4により連続的に偏光状態の変調を行うと同時に、Bスキャンを同期して行う。即ち、1回のBスキャンの間に、EO変調器4による偏光の連続的な変調を複数周期行う。ここで、1周期とは、偏光角(リターデーション)φが0~2πと変化する期間である。要するに、この1周期の間に、偏光子からの光の偏光が、直線偏光(垂直偏光)→楕円偏光→直線偏光(水平偏光)………などのように連続的に変調する。

【0052】
このように偏光ビームの偏光を連続的に変調しながら、試料アーム7では、入射ビームをガルバノ鏡16により試料17に走査してBスキャンを行い、分光器8において、その反射光である物体光と参照光の干渉スペクトルについて、その水平偏光成分および垂直偏光成分を2つのラインCCDカメラ22、23で検出する。これにより、1回のBスキャンによって、それぞれ水平偏光成分及び垂直偏光成分に対応する2枚のA-Bスキャン画像が得られる。

【0053】
上記のとおり、1回のBスキャンの間に、偏光ビームの偏光の連続的な変調を複数周期行うが、各周期(1周期)の連続的な変調の間に2つのラインCCDカメラ22、23で検出した水平偏光成分および垂直偏光成分それぞれの偏光情報が1画素分の偏光情報となる。1周期の連続的な変調の間に2つのラインCCDカメラ22、23で偏光情報を検出タイミング信号に同期して行い、1周期に検出回数(取込回数)を、4回、8回等、適宜決めればよい。

【0054】
このようにして1回のBスキャンの間に得た2枚のA-Bスキャン画像のデータを、Bスキャン方向に1次元フーリエ変換を行う。すると、0次、1次、-1次のピークが出る。ここで、0次のピークをそれぞれ抽出し、そのデータのみを用いて逆フーリエ変換すると、H0、V0画像が得られる。同様に、1次のピークをそれぞれ抽出し、そのデータのみを用いて逆フーリエ変換すると、H1、V1画像が得られる。

【0055】
H0、H1画像から、試料17の偏光特性を示すジョーンズマトリックスの成分J(1,1)、J(1,2)、J(2,1)、J(2,2)のうち、J(1,1)およびJ(1,2)を求める事ができる。そして、V0、V1画像から、試料17の偏光特性を示すジョーンズマトリックスの成分J(1,1)、J(1,2)、J(2,1)、J(2,2)成分のうち、J(2,1)およびJ(2,2)を求める事ができる。

【0056】
このようにして、1回のBスキャンにおいて4つの偏光特性を含む情報が得られる。そして、この4つの情報をそれぞれ、通常のFD-OCTと同様にAスキャン方向にフーリエ変換すると、1次のピークが試料17の深さ方向の情報を有し、しかもそれぞれ偏光特性に応じた4枚のA-B画像の画像データ(計測データ)が得られる。

【0057】
上記構成の偏光感受型光画像計測装置1で得られた画像データは、画像処理装置として使用するコンピュータ30に入力される。このコンピュータ30は通常のコンピュータであり、図2に示すように、入力部31、出力部32、CPU33、記憶装置34及びデータバス35を備えている。

【0058】
本発明に係る偏光感受型光画像計測システムに搭載される画像データの処理を行うためのプログラムは、コンピュータ30の記憶装置34に記憶されるプログラムであって、入力部31に入力されたPS-OCTで得られた画像の画像データに基づき、複屈折計測における信号強度の低い領域でのバイアスを除去し、偏光感受型光画像計測システムによって複屈折の高精度定量計測を可能とする手段として、コンピュータ30を機能させるプログラムである。

【0059】
以上は偏光感受型光画像計測システムの実施例の一つであるが、本発明の使用範囲はこの実施例に限定されず、試料の偏光位相差とそれに定数を乗することで得られる複屈折、および散乱強度分布とそれをシステムノイズ量で除することによって得られる信号雑音比を計測することのできるすべての偏光感受型光画像計測システムに適用可能である。

【0060】
(本発明の特徴的な構成)
本発明に係る偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラム(画像データの処理を行うためのプログラム)について、その特徴的な構成である該プログラムでコンピュータが機能する手段、動作等について、以下説明する。

【0061】
概要:
まずその概要は、次のとおりである。偏光感受型光画像計測装置(偏光OCTという)は、複屈折の計測を行い、その複屈折をコントラスト源とした観察技術であるが、複屈折の計測は、特にSN比(signal-to- noise ratio)が低く信号強度の低い周辺の領域では、無視できないバイアスを含み複屈折がずれ、高精度の定量計測を可能とすることはできない。

【0062】
本発明は、この複屈折のずれを除去し、高精度の定量計測を可能とする。そのために、本発明では、計測される複屈折と真の複屈折の間の関係をべイズの法則(ベイズの定理ともいう)を用いて表し、これを用いて、複屈折の計測値からベイズ推定手段を用いて、バイアスの影響を受けていない真の複屈折値(後記するベイズ最尤推定値)を推定するOCTデータの処理技術を特徴とするものである。

【0063】
このべイズ推定手段を構成するためには、「尤度関数」と呼ばれる関数(本発明においては偏光OCTの装置特性を表した関数)が必要である。従来、偏光OCTの装置特性は非線形性が高く複雑であり、従来この尤度関数を求めることができなかった。

【0064】
そこで、本発明に係る偏光感受型光画像計測システム及び該システムに搭載されたプログラムでは、偏光OCTによる画像データに基づき、モンテカルロ法と呼ばれる数値計算手段を用いることでこの尤度関数を数値的に求め、これにより、上記ベイズ推定手段を用いて、真の複屈折値を推定するOCTデータの処理技術の構成を特徴とするものである。なお、複屈折に定数を乗じた値は偏光位相遅延値であるので、本発明は、換言すると、真の偏光位相遅延値を求めることをも特徴とする。

【0065】
また、本発明は、偏光OCTによる多数回の計測値を用いることで、真値から計測値の間のシステム誤差(つまり、計測バイアス)を除去する手段を特徴とする。この手段は、ノイズの存在する条件下で計測される複屈折値(本明細書及び発明では「計測複屈折値」ともいう)の分布を統計処理することで実現される。

【0066】
全体のフローと手段:
本発明に係る偏光感受型光画像計測システムのコンピュータが、搭載された本発明に係るプログラムによって機能する手段について、まず、その骨子となる手段について、その動作の全体的な流れ(フロー)に沿って説明する。

【0067】
(1)本発明におけるOCTデータの処理技術では、モンテカルロ法を用いて、計測複屈折の分布特性を得る手段を備えている。
具体的な手段は、偏光感受型光画像計測システムのコンピュータに搭載されたプログラムによって、次の順で機能(動作)する各手段である。

【0068】
(1)-1
まず、本発明における偏光感受型光画像計測システムのコンピュータに搭載されたプログラムによって、コンピュータは、ノイズを、複素OCT信号(複屈折を計算するために計測される生信号である)に対する加算的な複素ガウスノイズとしてモデル化し、そのノイズを任意に設定されたノイズを含まない複素OCT信号に加算することでノイズを含んだOCT信号をモデル化し、そのノイズを含んだOCT信号を、偏光OCTで用いられるOCT信号から複屈折を求めるアルゴリズム(非線形なアルゴリズム)で処理することで、ノイズの存在下で計測される複屈折値(計測複屈折値)を得る手段として機能する。

【0069】
(1)-2
次に、コンピュータは、モンテカルロ法の計算によって、ノイズを統計的に(ノイズがガウスノイズになるようにランダムに)変化させて、(1)-1のプロセスを繰り返すことで計測される複屈折の分布をシミュレートし、これによって、計測複屈折値の(非線形な)ノイズ特性を決定する手段として機能する。

【0070】
(1)-3
次に、コンピュータは、このモンテカルロ法の計算を、様々なノイズ量(=SN比)、様々な真の複屈折値を仮定して繰り返し、これによって、真の複屈折値、SN比、計測される複屈折の値の組み合わせがどのような頻度で出現するかを表す三次元のヒストグラム情報を得る手段として機能する。この三次元のヒストグラムは、後記する三次元の関数f(b,β,γ)で表現される。

【0071】
ここで、ある計測複屈折の値と実効SN比を仮定する(ある計測複屈折の値b1とある実効SN比1を代入する)と、この三次元のヒストグラムから真の複屈折の一次元のヒストグラムを取り出すことができる。これを、本明細書では、「三次元のヒストグラムを、計測複屈折値とSN比でインデックスする」と表現する。

【0072】
このようにして取り出された真の複屈折のヒストグラムは、ある計測によって上記で仮定した計測複屈折値とSN比が計測されたと仮定した場合に、未知数である真の複屈折が取りうる値の確率密度分布を表している。

【0073】
(2)コンピュータは、最終的に真の複屈折値を、次の(3)-1又は(3)-2のとおり推定する手段として機能する。
(2)-1
真の複屈折値は、前記得られた真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値の期待値を求めることで推定する。(期待値の場合)
(2)-2
真の複屈折値は、真の複屈折の確率密度分布の最尤値(つまり、真の複屈折の確率密度分布が最大になる真の複屈折の値)を選択することで、真の複屈折の最尤推定が可能になる。

【0074】
(3)計測が複数回行われた場合には、コンピュータは、それぞれの計測に対して(1)の処理をおこない、それぞれの計測値に対してそれぞれの真の複屈折の確率密度分布を得る。そのようにして得られた真の複屈折の確率密度分布を、すべて掛け合わせることで、最終的な真の複屈折の確率密度分布(=結合された真の複屈折の確率密度分布)を得る手段として機能する。

【0075】
(4)コンピュータは、計測が複数回行われた場合、真の複屈折値は、次の(5)-1又は(5)-2のとおり推定する手段として機能する。

【0076】
(4)-1
上記結合された真の複屈折の確率密度分布から、真の複屈折値の期待値を求めることで推定する。(期待値の場合)

【0077】
(4)-2
結合された真の複屈折の確率密度分布の最尤値(つまり、結合された真の複屈折の確率密度分布が最大になる真の複屈折の値)を選択することで、真の複屈折の最尤推定が可能になる。

【0078】
以上の(1)~(4)において、(1)の全て、(2)-2及び(4)-2に示す手段を備えた手段を、特に本明細書ではヘイズ最尤推定手段(ヘイズ最尤推定器)という。

【0079】
各手段の詳細:
以下、さらに本発明に係る偏光感受型光画像計測システムのコンピュータが、搭載された本発明に係るプログラムによって機能する各手段について、上記全体の動作フローに沿って、それぞれ詳細に説明する。

【0080】
その説明の前提となる事項として、偏光OCTで計測される複屈折の分布は、実効SN比(本明細書ではγとして示す)、真の複屈折値(本明細書ではβとして示す)及びベクトル間角度(本明細書ではζで示す)の3つのパラメータで決まる。

【0081】
ベクトル間角度ζは、偏光OCTで計測する際に、2種類の入射偏光を使用するが、それらはポアンカレー球面上の2つのベクトルで表される、これらのベクトル間の角度を言う。ただ、ベクトル間角度ζは、偏光OCTのシステムで決まる値であって、固定値である。このことを考慮すると、偏光OCTで計測される複屈折の分布は、実効SN比γと真の複屈折値βで決まる。

【0082】
実効SN比γは、複屈折を算出するために用いられる複数のOCT信号のそれぞれで、異なった入射偏光に対応するSN比を求め、そのようにして得られた全てのSN比(つまり、それぞれのOCT信号のそれぞれの入射偏光に対して得られたSN比の全て)の調和平均として定義される量である。なお、本明細書では計測複屈折値をbとして示す。

【0083】
上記全体の流れの(1)で行ったモンテカルロ法では、ノイズを統計的に変化させて計測される複屈折の分布をシミュレートし、計測複屈折値の非線形なノイズ特性を決定する((1)-2)。さらに様々な真の複屈折値βとSN比γの設定に対して同様のモンテカルロ法の計算を組み合わせることで、三次元の関数f(b,β,γ)で表現される三次元のヒストグラムを構築した((1)-3)。

【0084】
そして、その後、モンテカルロ法の計算で得られた結果である計測複屈折値の値を固定(仮定)する、つまり、計測複屈折値bでヒストグラムをインデックスすることで、もともとは設定されたパラメータであった真の複屈折の確率密度分布(一次元の関数f(β;b,γ)で表される)を得ている。

【0085】
このような手段は、数学的には、「ある真の複屈折値と実効SN比の下で得られる計測複屈折の分布にベイズの法則を適応することで、ある計測複屈折値と実効SN比が計測された場合の真の複屈折の値を得る」ことと等価である。

【0086】
つまり、(1)にベイズの法則を適用しているわけではなく、(1)の処理が、発明者等が意図した様に、真の複屈折の確立密度分布を与えている、と考えると理論的根拠がベイズの法則である、ということである。

【0087】
三次元のヒストグラムは、前記のとおり三次元の関数f(b,β,γ)で表現される。f(b;β,γ)は、特定の真の複屈折βと特定の実効SN比γにおけるbに対する確率密度分布である。そのため、f(b;β,γ)をbに対して積分すると、β、γの値に関わらず1になる。また、この分布は、β、γの2つのパラメータのみで特徴づけられている。

【0088】
ここで、ある計測複屈折値b1とSN比γ1を仮定するとは、bとγに定数であるb1とγ1を代入するということである。

【0089】
このように定数が代入されてしまえば、bとγは変数ではなくなり、関数fは1次元の関数f(β)になる。この状態を一次元の関数f(β;b1,γ1)と表記する。添え字がついているb、γは定数、ついていない場合は変数ということである。これが、三次元のヒストグラムをインデックスして一次元のヒストグラムを取り出す、ということである。

【0090】
被計測物の1点を多数回計測して得られる計測複屈折値のヒストグラムはf(b;β,γ)とほぼ相似形である。このため、実際的には、計測複屈折値のヒストグラムを、bに対する積分が1になるように規格化することでf(b;β,γ)の代替とすることができる。

【0091】
真の複屈折の確率密度分布は、特定の計測複屈折値bと実効SN比γが計測された時の、真の複屈折βの確率密度分布であり、これをp(β;b,γ)と表記する。ベイズの法則を使用すれば、計測複屈折の確率密度分布f(b;β,γ)から真の複屈折βの確率密度分布p(β;b,γ)を、数式1のように得ることができる。

【0092】
【数1】
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【0093】
π(β)は事前的に予想される真の複屈折の確率密度分布であり、その意義は、後記する。数式1において、f(b;β,γ)のβとγは、f(b;β,γ)をbの関数として考えた場合にその形状を決定する値、つまり、パラメータとして扱われている。

【0094】
次の数式2では、f(β;b1,γ1)が示されているが、これは、関数f(β;b,γ)に(b,γ)の計測値として(b1,γ1)を代入した関数である。この数式2を参照すると、f(b;β,γ)がf(β;b,γ)と書き直される。この書き直された後のfは、βの関数であり、bとγはその関数の形を決定するパラメータであると言える。

【0095】
【数2】
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【0096】
しかし、これらの違いは、式の意味をどのように解釈(理解)するかの違いでしかなく、f(b;β,γ)とf(β;b,γ)は数式上完全に同じものである。より一般化された表現をするならば、fはbとβとγの三次元の関数f(β,b,γ)であると言える。f(β;b,γ)を尤度関数という。

【0097】
なお、数式2において、「垂直の線(b,γ)=(b1,γ1)」という表記は、「計測により、(b,γ)の計測値として(b1,γ1)が得られ、ゆえに、垂直線の左側の式において、bにb1を代入し、γにγ1を代入する」という意味である。

【0098】
真の複屈折の確率密度分布が取得できれば、それを使用して真の複屈折値βを推定できる。例えば、実効SN比γ、計測複屈折値bが計測により得られた際の真の複屈折値βの平均推定値(期待値)は、次の数式3によって求められる。なお、数式3中、複屈折値βの平均推定値(期待値)はβの上に-を付記した符号で示す。

【0099】
【数3】
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【0100】
また、真の複屈折βの最尤推定値(最ももっともらしい推定)は、数式2のように得られたf(β;b,γ)を次の数式4に適用(代入)することによって得られる。なお、真の複屈折βの最尤推定値は、βの上に∧を付記した符号で示す。また、arg max(argument of the maximum)は、関数値が最大となるような定義域の元の集合を意味する。arg max の下に付けられた記号は、関数を最大化させるために変化させる元を表している。つまり、数式4の右辺は、関数を最大化する真の複屈折βの値を与える。

【0101】
【数4】
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【0102】
なお、数式2を数式4に適用した結果は次の数式5にまとめられている。π(β)は、前記したとおり事前的に予想される真の複屈折の確率密度分布であり、詳しくは後記する。

【0103】
【数5】
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【0104】
以上整理すると、本発明では、まず、ある計測複屈折値と、それに対応する計測された実効SN比が計測された際の真の複屈折の確率密度分布を推定する。この推定に際しては、予め数値的にモンテカルロ法で計算した(決定した)計測複屈折の確率密度分布f(b;β,γ)と数式1を使用する。そして、これから得られた真の複屈折の確率密度分布から最尤値を得る。

【0105】
ところで、本発明では、一回の複屈折の計測の(つまり、1組の計測複屈折値の値とそれに対応する実効SN比)によって真の複屈折の推定値を得ることができる。しかし、多数回の計測を行うことで、推定精度を向上させることが可能である。

【0106】
以下、まず一回の複屈折の計測から真の複屈折を推定する手段を説明する。その後、それを拡張することで、多数回の複屈折の計測によって得られた計測値を利用して真の複屈折を推定する手段を説明する。

【0107】
1回の計測で計測複屈折値b1と実効SN比γ1が得られたとする(計測複屈折値と実効SN比は対になって同時に取得される。)。ここで、数式1を利用すると、真の複屈折の確率密度分布は、数式2のように表記されることになる。

【0108】
数式1で、π(β)は事前的に予想される真の複屈折の確率密度分布である。これは、つまり、真の複屈折に対する事前知識と考えることができる。一般に、最初の計測が行われる前には、真の複屈折に関する事前知識を持ち合わせていない。ゆえに、最初の計測を用いて真の複屈折を推定する際には、π(β)は一様分布であることを仮定する。つまり、π(β)=定数を仮定する。

【0109】
複数回の複屈折の計測から真の複屈折の推定を行う場合、n回目の計測ではn-1回目(まで)の計測によって得られるp(β;b,γ)をπ(β)として利用する。

【0110】
例えば、複屈折と実行SN比を2回計測し、(b1、γ1)と(b2、γ2)を得たとする。最初の計測値(b1、γ1)から、数式2のように、真の複屈折βの確率密度分布p1(β;b1,y1)が得られる。

【0111】
次に、2回目の計測によって得られた計測値(b2、γ2)を数式1に代入することで、2回目の計測を行った後の真の複屈折の確率密度分を求める。この際、π(β)として、先程求めたp1(β;b1,y1)を使用する。

【0112】
すると、2回目の計測後による真の複屈折βの確率密度分布は、次の数式6で示される。

【0113】
【数6】
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【0114】
それを繰り返すことで、N回目の計測による真の複屈折βの確率密度分布は、次の数式7で示されることがわかる。数式7中、Πは、関数f(β;bi,γi)について、iがi=1からi=Nまでの全ての積を示す。例えば、i=1、N=3の場合は、Πは、f(β;b1,γ1)×f(β;b2,γ2)×f(β;b3,γ3)である。

【0115】
【数7】
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【0116】
このように、多数回の計測による複屈折の最尤値は、1回の計測の推定プロセスと同様の方法を拡張することで導くことができる。N回目の計測による真の複屈折の最尤値は、数式7で示されるP(β)を数式4のp(β;b,γ)に代入することで得られ、数式8で示される。

【0117】
【数8】
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【0118】
ベイズの最尤値の推定手段の有益性で挙げられるのは、真の複屈折の推定値(ベイズ最尤推定値)が得られるだけでなく、真の複屈折の確率密度分布が得られることである。この確率密度分布を使って真の複屈折の推定値の信頼度を求めることができる。

【0119】
この真の複屈折の確率密度分布を用いて、ある真の複屈折の最尤推定値(βの上に∧を付記して示す)の信頼度を求める式を数式9で表した。ここで、上記信頼度は、数式9の左辺で示す。Δβは予め設定した真の複屈折の信頼区間の幅であり、その信頼区間の中心が真の複屈折の最尤推定値である。

【0120】
【数9】
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【0121】
ここでP(β)は、βに関するS区間内の積分が1になるように規格化された確率密度関数である。Sは、真の複屈折の領域である。この信頼度は、計測試料の複屈折分布トモグラフィーを擬似カラー画像化する際に使用される。

【0122】
ところで、数式8に基づいてヘイズ最尤値の推定を実施するために、尤度関数f(β;b,γ)を事前に得ておく必要がある。尤度関数は、OCTのノイズモデルに基づいて予め数値的にモンテカルロ法で計算した(決定した)計測複屈折の分布f(b;β,γ)と数式1を使用して真の複屈折の確率密度分布を求め、真の複屈折の確率密度分布か得られる。そして、尤度関数からさらに最尤値を得ることができる。

【0123】
上記全体の流れの(1)で行った本発明におけるモンテカルロ計算について、以下、具体例で説明する。

【0124】
1回のモンテカルロ計算は、65,536回の擬似的な計測(数値シミュレーションされる計測、以下擬似計測という)から成る。各擬似計測では、まず、2つのジョーンズマトリクスを生成する。これは、一回の複屈折計測に必要な試料上2点におけるジョーンズマトリクスを、一回の擬似計測において生成することを意味している。このジョーンズマトリクスは、それらの間の偏光位相差の差によって決まる複屈折が、ある真値βを持つように決定されている。

【0125】
上記のOCTノイズモデルでは、複素ガウシアンノイズがジョーンズマトリクスのそれぞれの要素に加算的に加えられる。ノイズの標準偏差は、このモンテカルロ法でシミュレーションを行いたい実効SN比γを実現するように設定される。上記各擬似計測において、本発明の実施に使用される偏光感受型画像化装置と同等の計算を用いて計測複屈折値bを求める。

【0126】
以上の1回のモンテカルロ計算で、ある特定の真の複屈折のβと実効SN比γを仮定した場合の計測複屈折値bの分布を得ることができる。ここで、(得られた65,536個の)bの値からシフト平均ヒストグラムを求める。なお、このシフト平均ヒストグラム自体は1次元のヒストグラムであり、それを、β、γの2つを変化させながら複数得ることで、三次元ヒストグラムになる。

【0127】
ヒストグラムのビン(bin)の数は1024であり、各ビンの大きさはフリードマン-ダイアコニス法(Freedman-Diaconis法)によって設定される。このシフト平均ヒストグラムは、ヒストグラム内の全カウント数の合計が1になるように定数を乗した後に(つまり、規格化した後に)、最尤度関数f(β;b,γ)として使用される。なお、ヒストグラムを作成する際には、任意にビン(bin)のサイズを「設定」する必要があるが、フリードマン-ダイアコニス(Freedman-Diaconis法)は、ビンのサイズを一意に決める方法として、一般的に用いられている計算式である。

【0128】
上記全体の流れの(1)-3で行ったモンテカルロ計算は、分解度0.000044で0~0.0088の領域の201の真の複屈折値、及び1dBの分解度の0~40dBの実効SN比に対して、繰り返し行う。

【0129】
得られる真の複屈折の値の範囲は、上記2つのジョーンズマトリクスが計測されると仮定しているシミュレーション上の計測点の深さ方向の距離(Zd)と偏光位相遅延の計測可能範囲である0~πラジアンを、偏光位相遅延/(2kZd)なる式に代入することによって求められる。ここで、kは実施に用いる偏光感受型画像化装置のプローブ光の波数である。以上より、得られる真の複屈折の範囲は0~π/2kZdとなる。Zdは、本実施例では37μm(6ピクセル)である。

【0130】
上記全体の流れの(1)-3においては、上記のようにβとγの値を変えながらモンテカルロ計算を繰り返す。これにより、最尤度関数f(β;b,γ)は三次元の数値的な関数として得られる。

【0131】
さらに追加的に、この最尤度関数の分解能をランクゾス(Ranczos)補間法によって向上させることができる。本実施例では、1024の真の複屈折値を得られるように分解能を向上させる。この時、を複屈折推定の分解能は0.0000086となる。

【0132】
モンテカルロ計算が一度行われると、その結果得られる三次元ヒストグラムは、三次元配列データの形式で記憶装置に保存される。真の複屈折の推定プロセスでは、保存された三次元が読み出され、計測値(bi,γi)を用いてインデックスされる。

【0133】
ここで、三次元配列の次元はb,γ,βであるため、bi,γiでインデックスすることにより、bi,γiに対応するβの確率密度分布、つまり、尤度関数が得られる。この尤度関数f(β;bi,γi)は 一次元配列であり、各計測毎に得られる。

【0134】
多数回計測をした場合、それぞれの計測の後に事後に分布pi(数式7)が得られる。そして、最後の計測の後に得られた事後分布と数式8を用いて最尤推定値が得られる。

【0135】
ところで、本発明の最尤推定手段では、試料の各点を多数回計測する必要がある。この場合、計測プロトコル(スキャンのパターン、仕方)として、2つの異なるプロトコルがある。

【0136】
プロトコル1は、試料の1点(1つのピクセル)について繰り返しBスキャンを行う仕方であり、試料上の同じ点を多数回スキャンする。これにより、サンプルの同じ点について多数の複屈折値を計測する。

【0137】
プロトコル2は、試料の1点について1回のBスキャンによる仕方である。ここでは、試料上の一点に対して一つの計測値しか得られないかわりに、その点近傍のカーネルと呼ばれる小さな領域内の複数の点(複数のピクセル)から推定値を得る。

【0138】
このプロトコル2では、最尤値は互いに僅かに離れた場所で計測された複数のピクセルから得られる複屈折値を利用して推定値を求めることになるため、近似的な手段であるとも言える。このプロトコル2は、カーネル内で真の複屈折に有意な相違がないという前提に基づくものである。

【0139】
このような前提にかかわらず、このプロトコル2は、試料の1点について多数回のB-スキャンはしにくいような場合、例えば、生体などの動きのある試料等を計測し、複屈折値を推定するような場合に有効である。

【0140】
上記のように得られた複屈折値の画像は擬似カラー表示することによって、観察者がより容易に組織の複屈折特性を観察できるようになる。このような擬似カラー画像では、各ピクセルの輝度は、散乱強度、つまり、OCTの信号強度によって決定し、色(色相)は複屈折の推定値によって決定している。また、濃度(サチュレーション、色の飽和度)は推定値の信頼度によって決定している。

【0141】
つまり、試料の構造は輝度によって表示され、複屈折は各ピクセルの色によって表示される。また、仮に、ピクセルがきわめて信頼度の高い複屈折の推定値の場合は着色されており、信頼度の高い複屈折の推定値の場合は白黒で表示されることになる。

【0142】
ここで、散乱強度は、JMOCT(前記した試料の偏光特性を示すジョーンズマトリックスの成分を得ることのできる偏光OCT)を構成する2つの光検出器(フォトディテクター。図1の2つのラインCCDカメラ22、23参照)から得た4つのOCT像のうち、OCTの基準深さ位置に近い二つのOCT像の強度の平均として定義される。これは、一般に「複屈折に依存しない散乱強度画像」とされている画像である。

【0143】
(試験例)
本発明者等は、モンテカルロ法に基づいた数値シミュレーションによって、本発明における最尤推定手段(器)の性能検証を行った。以下、この性能検証についての試験例について説明する。この検証は以下のように二種類を行った。

【0144】
まず、第一の検証では、7つの真の複屈折値βを仮定し、それぞれに対して5dBから40dBまで1dB刻みの36の実効SN比γを仮定したモンテカルロ法に基づいたシミュレーションを行った。

【0145】
ここで、複屈折を計算するために使用する2つの計測点の深さ方向の距離Zdは、37μmを仮定した。実効SN比γと真の複屈折βのすべての組み合わせについて、それぞれで1024回の計測をモンテカルロ法でシミュレートし、それらの数値的にシミュレートした計測値を用いて、複屈折のベイズ最尤推定値と平均推定値(期待値)を求めた。

【0146】
ここで得られた複屈折のベイズ最尤推定値と平均推定値は、それぞれその解釈を容易にするために偏光位相差値に変換した上で図3に示した。図3中、横軸が実効SN比(ESNR)[dB]であり、横軸が偏光位相差値(Phase Retardation )[dB]である。青は青色の曲線を示し、赤は赤い曲線を示す。

【0147】
図3では、青色の曲線でベイズ最尤推定値が、赤い曲線で平均推定値が、実効SN比の関数として示されている。それぞれの曲線に対応した真の複屈折値(シミュレーションの設定値)は水平な点線で示されている。

【0148】
この結果より、6dB以上の実効SN比がある場合には、ベイズの最尤推定手段から適切な推定値が得られていることがわかる。一方、平均推定値は、15~20dBという比較的高い実効SN比においても、真値から大きく外れた値を示していることがわかる。この平均推定値のずれは、特に真値が0ラジアン、およびπラジアンの場合に顕著である。

【0149】
これらの結果から明確なように、ベイズの最尤推定手段は、特に低い実効SN比の場合に、平均推定手段よりも適切な推定値を示すことがわかる。

【0150】
第二の検証では、実効SN比10dB および20dBを仮定して、25回の計測をモンテカルロ法でシミュレーションした。真の複屈折値β=0.002を仮定し、計測点の深さ方向距離Zdは37μmを仮定した。

【0151】
図4(a)および図4(b)に、それぞれ10dBの場合と20dBの場合の結果を示す。この図の中で、シミュレートされた計測値が”x”で示されている。真の複屈折値(シミュレーションの設定値)は水平な点線で示されている。

【0152】
図4(a)、(b)において、青は青い線を示し、赤は赤い線を示し、横軸は推定に使用された計測の回数を示す。また、縦軸は、複屈折値とベイズ最尤推定値に対する信頼度を示し、ベイズ最尤推定値が円のついた青の線で、平均推定値が赤の線で示されている。図4(a)、(b)において、それぞれの円は正確な推定値を示している。また、円環の付された黒線は、得られたベイズ最尤推定値に対応する信頼度(段落0119、段落0120によって定義された量)を示す。

【0153】
図4(a)、(b)から明らかなように、10dB,20dBの場合共に、計測値の使用数が増えるに従い、青の線で示すベイズ最尤推定値は、漸近的に真値に近づいていくことがわかる。それと同時に信頼度も増している。一方で、図4(a)から明らかなように、10dBの場合、使用する計測値を増やしても赤の線で示す平均推定値は真値からずれた値、つまり、バイアスされた値に漸近的に収束していくことがわかる。

【0154】
1回目、11回目、21回目のシミュレーションされた計測に対応する尤度関数f(β;b,γ)を図4(c)と図4(e)に示す。ここで、図4(c)は10dBの場合、図4(e)は20dBの場合である。また、横軸は真の複屈折値(True birefringence)を示し、縦軸は確率密度(Probability density)を示す。

【0155】
ここで、図4(c)、(e)において、赤、緑、青は、それぞれ赤、緑、青の曲線を示し、赤、緑、青の曲線は、それぞれ、1回目、11回目、21回目の尤度関数を示している。また、横軸は真の複屈折値(True birefringence)を示し、縦軸は確率密度(Probability density)を示す。

【0156】
同様に、図4(d)、(f)において、赤、緑、青は、それぞれ赤、緑、青の曲線を示し、横軸は真の複屈折値を示し、縦軸は確率密度を示す。

【0157】
図4(d)(10dBの場合)、図4(f)(20dBの場合)には、1回の計測(赤い曲線)、11回の計測(緑の曲線)、21回(青い曲線)の計測を用いて得られた真の複屈折の確率密度分布(事後分布)(p1(β),p11(β),p21(β))が示されている。

【0158】
明らかに、使用する計測数が増えるほど事後分布はシャープになっている。このように、計測数の増加に伴い事後分布がシャープになることは、図4(a)(10dBの場合)、図4(b)(20dBの場合)に示されたように、尤度(つまり、推定の信頼度)が増加していくことに対応する。

【0159】
ところで、10dBの場合を見ると、事後分布のシャープさが比較的低い場合でも最尤推定値は真値に近づいている。このことは注目に値する。

【0160】
上記の検証(シミュレーション)を50回繰り返し、推定値のバイアス(真値からのずれ)の量と、推定値の再現性を検証した。

【0161】
10dBの場合、50回の繰り返しで得た推定値の平均と標準偏差は、最尤推定値では0.00197±0.00039(平均±標準偏差)であり、平均推定値では0.00235±0.00029であった。(前述のように、真の複屈折値は0.00200に設定されている。)

【0162】
20dBの場合、50回の繰り返しで得た推定値の平均と標準偏差は、最尤推定値では0.00200±0.00009であり、平均推定値では0.00201±0.00009であった。これらの結果から、ベイズ最尤推定手段は、平均推定法(現在一般的に用いられている)よりも小さな計測バイアス(=真値からのずれ)をもっていることがわかる。

【0163】
以上、本発明に係る偏光感受型光画像計測システム及び該システムのコンピュータに搭載されたプログラムを実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は偏光OCT装置に広く適用できる技術であり、かつ、偏光OCTの応用が期待されるすべての分野においてその性能を底上げすることが期待される。特に、医療技術分野における偏光OCT装置として、具体的に次のような利用可能性がある。
【0165】
(1)眼球強膜の複屈折測定による緑内障、近視のリスク診断。
(2)緑内障手術(トラベクレクトミ一)後の術後経過観察と治療効果の維持。
(3)冠動脈内の動脈硬化物質のリスク判定。
【符号の説明】
【0166】
1 PS-OCT(偏光感受型光画像計測装置)
2 光源
3、12 偏光子
4 EO変調器(偏光変調器、電気光学変調器)
5 ファイバーカプラー(光カプラー)
6 参照アーム
7 試料アーム
8 分光器
9 ファイバー
10、15、18 偏波コントローラ(polarization controller)
11 コリメートレンズ
13 集光レンズ
14 参照鏡(固定鏡)
16 ガルバノ鏡
17 試料
19 回折格子
20 フーリエ変換レンズ
21 偏光ビームスプリッター
22、23 光検出器(ラインCCDカメラ)
24 固定鏡
30 コンピュータ(画像処理装置)
31 入力部
32 出力部
33 CPU
34 記憶装置
35 データバス
43 OCT
44 光源
45 コリメートレンズ
46 ビームスプリッター
47 物体アーム(試料アーム)内の対物レンズ
48 被計測物体(試料)
49 参照アーム内の対物レンズ
50 参照鏡
51 集光レンズ
52 光検出器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4