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明細書 :他属魚種代理親魚への適用が可能な、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 他属魚種代理親魚への適用が可能な、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法
国際特許分類 A01K  67/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI A01K 67/02
C12N 15/00 ZNAA
A01K 67/027
C12N 5/071
国際予備審査の請求
全頁数 29
出願番号 特願2016-510049 (P2016-510049)
国際出願番号 PCT/JP2015/001747
国際公開番号 WO2015/146184
国際出願日 平成27年3月26日(2015.3.26)
国際公開日 平成27年10月1日(2015.10.1)
優先権出願番号 2014064639
優先日 平成26年3月26日(2014.3.26)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】吉崎 悟朗
【氏名】李 承起
【氏名】嶋田 幸典
【氏名】矢澤 良輔
【氏名】竹内 裕
【氏名】森田 哲朗
【氏名】森島 輝
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC50
4B065CA60
要約 代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法の技術において、他属魚種等の代理親魚への適用を可能とし、代理親になり得る魚種の範囲を拡大する方法を提供することを課題とする。ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種と、ドナー魚種に対して代理親になり得ない第二の魚種とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出し、作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことにより、代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法を提供可能とし、該課題を解決する。
特許請求の範囲 【請求項1】
レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うこと、
を含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項2】
魚類の配偶子が、ドナー魚種の精子又は卵であることを特徴とする請求項1に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項3】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚であり、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚であることを特徴とする請求項1又は2に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項4】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、ドナー魚種と同属であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項5】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、ドナー魚種と異属であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項6】
ドナー魚種が、イワナ属、ブリ属又はマグロ属であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項7】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項8】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することを特徴とする請求項7に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項9】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項10】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体であることを特徴とする請求項9に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項11】
レシピエントとしてのハイブリッド魚類の作出方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
を含むハイブリッド魚類の作出方法。
【請求項12】
レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類のドナー魚種の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行う、代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法において、請求項11で作出されたハイブリッド魚種をレシピエント魚類として用いて、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植、分化誘導することを特徴とする代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法により作出されるハイブリッド魚類。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法によって生産されるドナー魚種の卵又は精子。
【請求項15】
請求項14に記載のドナー魚種の卵又は精子から生産されるドナー魚種の養殖用種苗。
【請求項16】
請求項15に記載のドナー魚種の養殖用種苗を養殖して得られるドナー魚種の成魚。
【請求項17】
レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の移植魚の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植すること、を含む代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項18】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚であり、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚であることを特徴とする請求項17に記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項19】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、ドナー魚種と同属であることを特徴とする、請求項17又は18に記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項20】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、ドナー魚種と異属であることを特徴とする、請求項17~19のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項21】
ドナー魚種が、イワナ属、ブリ属又はマグロ属であることを特徴とする請求項17~20のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項22】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することを特徴とする請求項17~21のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項23】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することを特徴とする請求項22に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
【請求項24】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種であることを特徴とする請求項17~23のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
【請求項25】
ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体であることを特徴とする請求項24に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、他属魚種の代理親魚への適用が可能な、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法に関し、特に、該養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法において、目的とする魚類配偶子の生産のための分離生殖細胞を供給するドナー魚種に対して、該ドナー魚種の代理親になり得ない魚種をドナー魚種の代理親になり得る魚種とのハイブリッドとすることにより、本来ドナー魚種の代理親になり得ない他属魚種に対しても代理親魚として適用することを可能とし、代理親魚として用いる魚種の適用範囲を拡大することによって、飼育等に適合した実用上有利な特性を有する代理親魚の選択を可能として、養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法として実用化を可能とする魚類配偶子の生産方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然漁業資源の漁獲量が漸減傾向を続け、これに伴い総漁獲量に占める養殖生産量の割合が大きく増加してきている。一方、海産魚類の養殖においては、いまだに天然の種苗を商品サイズまで養成する場合も多い。このため、資源管理の重要性の高まりとともに、完全養殖の導入がより強く求められている。
【0003】
完全養殖とは、対象魚種の受精卵から人工的に種苗を生産し、得られた人工種苗を、商品として流通させ、また、得られた人工種苗の一部の個体を親魚まで養成し、配偶子(精子及び卵)を生産し、得られた配偶子を養殖に利用するという、天然資源に依存せずに完結される養殖スタイルを指す。完全養殖を実現するためにはまず、目的の魚類の親魚から、質及び量ともに種苗生産に十分な配偶子を得なくてはならない。種苗生産に十分な配偶子を得るには、親魚の維持に十分な飼育施設と、適切な飼料による育成及び産卵誘導とが不可欠であり、多くのスペース及び労力を必要とする。そのため、少なくとも多くの養殖業者が容易に導入しうるほど、種苗生産への利用が確立している魚種は少ないと言える。
【0004】
この問題点を解決しうる技術として、代理親魚を用いた種苗生産に必要な魚類配偶子の生産技法、すなわち、代理親魚技法が注目されている。本技法は、配偶子を得ようとする目的の魚種をドナーとし、配偶子を生産させようとする魚種をレシピエントとし、ドナーの始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞に例示される未分化な生殖細胞をレシピエントに移植して、レシピエントを代理親魚として利用する方法である。本代理親魚技法は、言い換えれば、ドナーの生殖細胞をレシピエントの生殖腺内で増殖又は分化させることによって、ドナーの配偶子を生産し、ドナーの次世代個体集団を作出する技法である。魚類の場合、雄の配偶子には運動性があり、精子と呼ばれるのに対し、雌の配偶子には運動性がなく、卵と呼ばれる。代理親魚技法において、精子を得ようとする場合には、雄のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植し、一方、卵を得ようとする場合には、雌のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植する。
【0005】
代理親魚技法は、先に、本発明者らによって、宿主(レシピエント)魚類とは異系統又は異種の魚類由来の生殖細胞である、ドナー分離生殖細胞を、孵化前後の宿主魚類の腹腔内への移植によって、宿主魚類個体に移植することにより、生殖細胞を、生殖細胞系列へ分化誘導することができること、即ち、魚類のような脊椎動物由来の分離生殖細胞を、宿主脊椎動物の孵化前後の魚類個体へ移植することにより、該生殖細胞を生殖細胞系列へ分化誘導することが可能であることが見出され、異系統又は異種の宿主魚類による分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法として構築され、開示されている(特許第4300287号公報)。また、非特許文献Fisheries for Global Welfare and Environment, 5th World Fisheries Congress 2008 (2008) p209-219、には、ドナーであるヤマメ(masu
salmon, Oncorhynchus masaou)の精原細胞を、レシピエントである雌雄のニジマス(rainbouw traut, Oncorhynchus mykiss)に移植することでヤマメの卵と精子を得て、ニジマスを代理親魚とするヤマメの次世代個体の作出を行う方法が報告されている。
【0006】
上記開示の方法では、宿主(レシピエント)魚類は、ドナー由来の配偶子(精子及び/又は卵)を作るとともに、宿主(レシピエント)由来の自らの配偶子(精子及び/又は卵)も作ることから、ドナー由来の配偶子(精子及び/又は卵)を特異的に形成、分離するには、両者を選別する操作が必要になり、実用上問題であった。例えば、ドナー魚種として、ヤマメの精原細胞或いは卵原細胞を,ニジマスをレシピエントとして、生殖細胞系列へ分化誘導を行う場合に、数多くのニジマスの精子の中からヤマメの精子を選び取ること、及び数多くのニジマスの卵の中からヤマメの卵を選び取ることが困難であり、ドナー魚種のみを大量生産する必要がある産業上の利用技術としては、課題を残していた。
【0007】
そこで、この課題を解決するために、本発明者らは、宿主となる魚種の3倍体の魚種を作製し、該魚種を不妊化し、該3倍体魚種を代理親魚技法の宿主(レシピエント)とすることにより、宿主(レシピエント)自体の生殖細胞の形成を抑える方法を構築し、開示した(特許第4581083号公報)。非特許文献Science Vol.317 (2007) p1517には、3倍体のニジマスを作出してニジマス由来の精子及び卵が生産されない不妊の代理親魚を得て、この不妊の代理親魚にヤマメの生殖細胞を移植することで効率的にヤマメの精子と卵を得て、ヤマメの次世代個体を生産する方法が報告されている。
【0008】
しかし、これまでの代理親魚技術では、代理親魚として利用可能な魚種は、ドナーに近縁な魚種に限られており、代理親魚技術を適用可能な魚種が制限されていた。例えば、非特許文献Fishories Science Vol.317(2011)p.60-77には、ブリの精原細胞をニベに移植した場合、ニベ生殖腺には取り込まれるものの、配偶子の生産には至らなかったことが記載されている。また、非特許文献Biology of Reproduction Vol. 82(2010)p.896-904には、ニベの精原細胞をマサバに移植した場合に、マサバ生殖腺にニベ生殖細胞を取り込まれ、増殖していることも確認されたが、配偶子の生産には至らなかったことが記載されている。
【0009】
代理親魚技術によるドナー由来の配偶子(精子及び/又は卵)の形成においては、例えば、実用的観点からは、大型魚類の配偶子(精子及び/又は卵)を、飼育の容易な小型魚類等を代理親魚として形成させるような必要性が生じ、そのような場合の多くは、魚種の属する属を超えての代理親魚の選択が要求される。しかしながら、多くの場合に、ドナー魚種に対して、属を超えての代理親魚は、ドナー魚種の分離生殖細胞が、代理親魚の生殖線に生着しない等の理由で、代理親魚になりえないという問題がある。したがって、代理親魚技術の利用の実用上の要請に答えるためには、ドナー魚種に対して、属等の範囲を超えての代理親魚の利用を可能とする代理親魚技術の開発が課題となる。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特許第4300287号公報
【特許文献2】特許第4581083号公報
【0011】

【非特許文献1】Fisheries for Global Welfare and Environment, 5th World Fisheries Congress 2008 (2008) p209-219
【非特許文献2】Science Vol.317 (2007) p1517
【非特許文献3】Fishories Science Vol.317(2011)p.60-77
【非特許文献4】Biology of Reproduction Vol. 82(2010)p.896-904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法の技術において、他属魚種等の代理親魚への適用を可能とし、本来ドナー魚種の代理親になり得ない魚種をドナー魚種の代理親として用いることを可能として、代理親になり得る魚種の範囲を拡大し、この技術の実用化のために、飼育等の観点から、適用性の良い代理親を選択し、適用できる、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明らは、上記課題を解決すべく、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法において、該代理親魚として用いる魚種について、分離生殖細胞のドナー魚種に対して、代理親になり得る能力(未分化生殖細胞の生着が可能な魚種)と、代理親魚として、飼育等の容易な魚種であることの両方の性質を兼ね備えた代理親の選択について鋭意検討する中で、他属魚種等のドナー魚種に対して、該ドナー魚種の代理親になり得ない魚種をドナー魚種の代理親になり得る魚種とのハイブリッドとすることにより、ドナー魚種の代理親になり得ない他属魚種に対しても代理親魚としてなり得る能力を付与することができることを見出した。該ハイブリッドの形成により、代理親魚の選択の範囲を、本来ドナー魚種の代理親魚になり得ない他属の魚種にも広げることができ、飼育のし易い他属の魚種の代理親魚の利用を可能とすることができることを見出し、本発明をなすに至った。本発明の方法により、例えば、マグロのような大型魚類のドナー魚種の代理親として、飼育のし易い他属小型魚種を選択することが可能となり、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法としての実用化方法を提供するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うこと、
を含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法を包含する。
【0015】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、他属魚種等の、本来ドナー魚種の代理親になり得ない魚種をドナー魚種の代理親として用いることを可能とし、魚種の適用範囲を拡大することによって、代理親魚として飼育等の容易な代理親魚の選択範囲を拡大することができ、養殖魚生産のための魚類配偶子の生産方法として、実用に適合した魚類配偶子の生産方法を提供することが可能となる。
【0016】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、魚類の配偶子としては、ドナー魚種の精子又は卵を挙げることができる。本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚としては、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚を挙げることができ、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚としては、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚を挙げることができる。
【0017】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚としては、ドナー魚種と同属である魚種の魚を挙げることができ、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚としては、ドナー魚種と異属である魚種の魚を挙げることができる。本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、ドナー魚種の属としては、イワナ属、ブリ属又はマグロ属を挙げることができる。
【0018】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することが好ましく、より好ましくは、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することが好ましい。ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり上記範囲とすることにより、第二の魚種の魚の飼育特性を保存したまま、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の代理親魚になり得る能力を導入して、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力を付与することができる。
【0019】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種は、異質倍数体として、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種として作出することができる。該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種の異質倍数体としては、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体のハイブリッド魚種を挙げることができる。
【0020】
本発明は、レシピエントとしてのハイブリッド魚類の作出方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
を含むハイブリッド魚類の作出方法を包含する。
【0021】
また、本発明は、レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類のドナー魚種の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行う、代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法において、上記作出されたハイブリッド魚種をレシピエント魚類として用いて、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植、分化誘導することを特徴とする代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法の発明を包含する。
【0022】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うこと、
を含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[2]魚類の配偶子がドナー魚種の精子又は卵であることを特徴とする上記[1]に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[3]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚であり、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[4]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、ドナー魚種と同属であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[5]ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、ドナー魚種と異属であることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[6]ドナー魚種が、イワナ属、ブリ属又はマグロ属であることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[7]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することを特徴とする上記[1]~[6]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[8]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することを特徴とする上記[1]~[7]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[9]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種であることを特徴とする上記[1]~[8]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[10]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体であることを特徴とする上記[1]~[9]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法。
[11]レシピエントとしてのハイブリッド魚類の作出方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
を含むハイブリッド魚類の作出方法。
[12]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚であり、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚であることを特徴とする上記[11]に記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[13]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、ドナー魚種と同属であることを特徴とする、上記[11]又は[12]に記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[14]ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、ドナー魚種と異属であることを特徴とする、上記[11]~[13]のいずれかに記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[15]ドナー魚種が、イワナ属、ブリ属又はマグロ属であることを特徴とする上記[11]~[14]のいずれかに記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[16]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することを特徴とする上記[11]~[15]のいずれかに記載のハイブリッド魚類の作出方法。[17]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することを特徴とする上記[11]~[16]のいずれかに記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[18]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種であることを特徴とする上記[11]~[17]のいずれかに記載の代理親魚を用いたハイブリッド魚類の作出方法。
[19]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体であることを特徴とする上記[11]~[18]のいずれかに記載のハイブリッド魚類の作出方法。
[20]レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類のドナー魚種の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行う、代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法において、上記[11]~[19]のいずれかで作出されたハイブリッド魚種をレシピエント魚類として用いて、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植、分化誘導することを特徴とする代理親魚を用いた魚類の分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法。
[21]上記[11]~[19]のいずれかに記載の方法により作出されるハイブリッド魚類。
[22]上記[1]~[10]のいずれかに記載の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法によって生産されるドナー魚種の卵又は精子。
[23]上記[22]に記載のドナー魚種の卵又は精子から生産されるドナー魚種の養殖用種苗。
[24]上記[23]に記載のドナー魚種の養殖用種苗を養殖して得られるドナー魚種の成魚。
[25]レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の移植魚の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植すること、
を含む代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[26]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有する魚種の魚であり、ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、移植したドナー魚種の分離生殖細胞の生殖腺への生着能を有さない魚種の魚であることを特徴とする上記[25]に記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[27]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚が、ドナー魚種と同属であることを特徴とする、上記[25]又は[26]に記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[28]ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚が、ドナー魚種と異属であることを特徴とする、上記[25]~[27]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[29]ドナー魚種が、イワナ属、ブリ属又はマグロ属であることを特徴とする上記[25]~[28]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[30]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり半分以下で有することを特徴とする上記[25]~[29]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[31]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することを特徴とする上記[25]~[30]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[32]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の配偶子が生産されない不妊のハイブリッド魚種であることを特徴とする上記[25]~[31]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[33]ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種が、異質倍数体であり、ハイブリッド魚種由来の精子及び卵が生産されない不妊のハイブリッド魚種が、3倍体であることを特徴とする上記[25]~[32]のいずれかに記載の代理親魚を用いた移植魚の生産方法。
[34]上記[25]~[33]のいずれかに記載の方法により得られる、移植魚。
[35]上記[25]~[33]のいずれかに記載の方法により得られる移植魚から得られる、配偶子。
[36]上記[35]に記載の配偶子から生産される、養殖用種苗。
[37]上記[36]に記載の養殖用種苗を養殖して得られる、ドナー魚種の成魚。
【発明の効果】
【0023】
これまでの代理親魚技術では、代理親魚として利用可能な魚種は、ドナーに近縁な魚種に限られており、代理親魚技術を適用可能な魚種が制限されていたため、実用的には飼育等の容易な他属魚種等の代理親魚の利用が必要とされるものの他属魚種等の代理親魚への利用が困難であった。本発明は、他属魚種等の代理親魚への利用を可能とし、他属の飼育等の容易な魚種を代理親魚技術におけるレシピエントとして用いることを可能としたことから、広い範囲からレシピエントとして適合する魚種を選択することが可能となり、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法として、実用化に向けての技術の提供を可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、レシピエント魚類を用い、レシピエント魚類とは異系統又は異種の魚類の分離生殖細胞をレシピエント魚類に移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うことを含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、
(A)分離生殖細胞を供給するドナー魚種を選択すること、
(B)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得る第一の魚種の魚を選択すること、
(C)該ドナー魚種に対して代理親魚になり得ない第二の魚種の魚を選択すること、
(D)(B)で選択された第一の魚種の魚と、(C)で選択された第二の魚種の魚とをハイブリダイズして、ドナー魚種に対して代理親魚になり得る能力をもつハイブリッド魚種を作出すること、
(E)(D)で作出されたハイブリッド魚種をレシピエントとして、ドナー魚種の分離生殖細胞を移植して生殖細胞系列への分化誘導を行うこと、を含む代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法を包含する。

【0025】
本発明における代理親魚技法は、配偶子(精子及び卵)を得ようとする目的の魚種をドナーとし、配偶子を生産させようとする魚種をレシピエントとし、ドナーの始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞に例示される未分化な生殖細胞をレシピエントに移植して、該未分化な生殖細胞が移植された移植魚を作出し、該移植魚(レシピエント)の生殖腺内で、ドナーの未分化生殖細胞を生着、増殖及び分化させることにより、移植魚(レシピエント)の体内でドナーに由来する配偶子を得て、ドナーの子孫となる種苗を得ることを含む。

【0026】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法においては、配偶子として、精子或いは卵を生産する。精子を得ようとする場合には、雄のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植し、卵を得ようとする場合には、雌のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植する。生殖腺として、精子を得たいときには精巣を用いることができ、卵を得たいときには卵巣を用いることができる。雄のレシピエントに移植されたドナーの生殖細胞は、レシピエントの精巣内で増殖及び分化することで、ドナーの精子を産み出すことができる。雌のレシピエントに移植されたドナーの生殖細胞は、レシピエントの卵巣内で増殖及び分化することで、ドナーの卵を産み出すことができる。このようにして得られた精子又は卵は、互いに掛け合わせることによって、又は別途得られた卵と精子とを掛け合わせることによって、受精卵を得ることができる。得られた受精卵を発生させることで、目的の魚種の種苗を得ることができる。

【0027】
ドナーとしては、養殖を目的とする魚を適宜選択することができる。養殖する目的であれば、ドナーには、食用魚種、材料採取用魚種、観賞用の魚種等、種々の養殖目的の魚種を選択することができる。養殖目的の食用魚種としては、イワナ属等のサケ科、ブリ属等のアジ科、マグロ属等のサバ科などを挙げることができ、なかでも、ドナー魚種としては、イワナ属、ブリ属又はマグロ属の食用魚を挙げることができる。

【0028】
本発明の代理親魚を用いた魚類の配偶子の生産方法において、代理親魚技術に用いられるドナーの未分化な生殖細胞には、性分化前の生殖腺から得られる始原生殖細胞、精巣から得られる精原細胞、卵巣から得られる卵原細胞等が含まれる。これらの未分化な生殖細胞は、異なる分化段階の細胞と組み合わせて、又は同一の分化段階の細胞を単独で使用することができる。

【0029】
ドナーから未分化な生殖細胞を得るには、目的とする未分化な生殖細胞の分化段階に応じたドナーの組織から、通常の方法で採取することができる。例えば、ドナーから性分化前の生殖腺、又は性分化後の組織、例えば精巣若しくは卵巣を摘出し、物理的な剥離又はタンパク質分解酵素での処理等により、組織から個々の細胞へ分散させることによって、未分化な生殖細胞を得ることができる。分散された個々の細胞は、例えば、マーカーとなる抗体を用いて、又はセルソーターを用いて単離することができる。

【0030】
未分化な生殖細胞は、冷凍体又は生きた個体から得ることができる。代理親魚技術の成功率を高めるには、未分化な生殖細胞は生きた個体から得る方が好ましい。冷凍体としては、個体、臓器、及び細胞のいずれの単位を冷凍して得られたものも使用し得る。細胞を冷凍する場合は、適切な凍結保護剤を用いて行うことが好ましい。適切な凍結保護剤としては、0.1重量%から10重量%のグルコース若しくはトレハロース、又は0.1モル/リットルから20モル/リットルのジメチルスルフォキシド(DMSO)、エチレングリコール若しくはプロピレングリコールが挙げられ、これらの凍結保護剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。

【0031】
始原生殖細胞の採取工程は、好ましくは、始原生殖細胞のマーカーを用いて、得られた細胞が始原生殖細胞であることを確認することを含む。始原生殖細胞であることを確認することに適用可能なマーカーには、Vasa遺伝子、CD205遺伝子等が含まれる。確認は、遺伝子又は遺伝子産物の発現、修飾、局在又はこれらの2つ以上の組み合わせを確認することで行うことができる。

【0032】
遺伝子の発現を確認するには、特定の遺伝子から転写されたmRNAをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)にて確認するのが簡便である。遺伝子の発現及び局在は、特定の遺伝子から転写されたRNAを In situ hybridization を用いて確認するのが簡便である。遺伝子産物の発現、修飾及び発現は、特定の遺伝子から発現され、翻訳されて得られた遺伝子産物を、その遺伝子産物に特異的な抗体を用いることで確認するのが簡便である。

【0033】
ドナーの細胞をレシピエントに導入する場合は、レシピエントの免疫系が十分に働く前の胚又は仔魚期の個体に導入することが好ましい。導入は、マイクロマニュピュレータ、電気メス、レーザーメス等のマニュピュレータを用いて行うことができる。導入は、レシピエントのいずれの組織又は部位に行ってもよく、導入対象となる組織又は部位としては、例えば、表皮又は腹腔が挙げられる。胚又は仔魚期の個体に導入する際の細胞数としては、特に制限はなく、例えば、1細胞から100,000細胞を導入することができる。

【0034】
ドナー生殖細胞のレシピエント生殖腺における生着の確認は、ドナーの細胞とレシピエントの細胞を区別し得る指標を用いて行うことができる。使用可能な指標としては、遺伝子、抗体、蛍光色素等を挙げることができ、これらの指標は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。指標となる遺伝子としては、未分化な生殖細胞で発現している遺伝子を挙げることができ、例えば、vasa遺伝子、dead-end遺伝子等を挙げることができる。指標となる蛍光色素としては、PKH26、CFSE等を挙げることができる。

【0035】
遺伝子を用いる場合は、指標となる遺伝子の配列のうち、ドナーとレシピエントとで配列が異なる部位を用いてプライマーを設計してPCRを行う、又は、ドナーとレシピエントで配列が異なる部位を用いて In situ hybridization を用いて確認するのが簡便である。導入前にドナーの生殖細胞を蛍光色素で標識することによって、蛍光顕微鏡下で生着を確認することができる。生着の確認は、導入の直後から行うことができ、好ましくは、レシピエントに生着し、細胞として機能しているかどうかを確認するためには、導入から7日以上経ってから行うことができる。導入から7日後にレシピエントの生殖腺に生着が観察された個体からは、ドナーの精子又は卵が得られることが期待される。

【0036】
本発明においてハイブリッドとは、細胞内に異なる品種、系統又は生物種に由来するゲノムを併せ持つ個体を意味し、該ハイブリッドは、交雑、細胞融合若しくは遺伝子導入、又はこれらの2つ以上の組み合わせにより作製された個体を含む。魚類では、生息地等により生物学的に隔離された異なる生殖集団が異なる品種、系統、又は生物種として認識されるが、異なる生殖集団の分布の近接地域では生殖集団間の交雑が生じ、ハイブリッドが生じる場合がある。しかし、自然環境で、どのような場合に交雑が生じ、ハイブリッドが得られるかは、よく分かっておらず、ハイブリッドはもっぱら人工的に作製される。人為的に品種、系統を作出し、維持している場合も、同様に、人工的にハイブリッドを作製することができる。

【0037】
交雑によってハイブリッドとしての個体を作製する場合は、異なる品種、系統又は生物種の個体を掛け合わせて雑種を得ることができる。

【0038】
特に、異種間雑種を異種間の交雑によってハイブリッドを作製する場合、人工飼育下又は天然採取で得られた一方の種の卵に、他方の種の精子を接触させることで受精卵を作製し、得られた受精卵を孵化させることで、異種間雑種を作製することができる。このとき、受精する卵を人工的に倍数化しておき、他方の種の精子と接触させると、得られた異種間雑種は異質倍数体となる。異質倍数体の個体は、自らの卵又は精子を作りにくく、レシピエントとして用いるのに特に好ましい。倍数体としては、2倍体、3倍体、4倍体等を挙げることができ、これらの倍数体は、いずれも使用することができる。

【0039】
受精する卵を人工的に倍数化する方法としては、受精時に細胞分裂阻害剤、電気刺激、光刺激若しくは温度刺激、圧力刺激、又はこれらの2つ以上の組み合わせを用いて、極体放出を抑える方法を用いることができる。細胞分裂阻害剤には、例えば、コルヒチンを用いることができる。また、倍数体として4倍体を作出し、これを2倍体の個体と掛け合わせることで3倍体の作出をすることもできる。

【0040】
細胞融合によってハイブリッドを作製する場合は、異なる種の卵又は分離胚細胞を融合する方法を用いることができる。細胞融合には、細胞膜融合剤、電気刺激、光刺激若しくは熱刺激、又はこれらの組み合わせを用いて細胞同士を直接融合する方法を用いることができる。細胞膜融合剤には、例えばポリエチレングリコールを用いることができる。細胞融合によって得られたハイブリッドの細胞は、全ての染色体を保持する場合もあれば、一部の染色体のみを保持する場合もある。本発明に用いるにあたっては、ドナーの未分化な生殖細胞を移植した際に、移植後の生殖細胞が卵又は精子として機能するために必要なゲノムが揃っていればよい。

【0041】
遺伝子導入によってハイブリッドとしての個体を作製する場合は、一方の種の卵に、他方の種の染色体又は遺伝子を導入することによって作製することができる。導入する染色体は、レシピエントとなるハイブリッドにドナーの未分化な生殖細胞を移植した際に、移植後の生殖細胞が卵又は精子として機能するために必要な量であればどのような量を入れてもよい。例えば、導入する染色体として、1本若しくは複数本、又は、これらの一部の断片を用いてもよい。また、異なる染色体の組み合わせを導入して、移植後に機能する適切な染色体を見出すことができる。

【0042】
導入する遺伝子は、レシピエントとなるハイブリッドにドナーの始原生殖細胞を移植した際に、移植後の生殖細胞が卵又は精子として機能するために必要な遺伝子であればどのような遺伝子を入れても構わず、1又は2以上の遺伝子を導入してもよい。このような遺伝子として、gsdf遺伝子を例示できる。

【0043】
本発明において、レシピエントに用いるハイブリッドは、レシピエントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種を用いることが好ましい。レシピエントとして適した性質とは、人工飼育環境下における生残率の高さ、必要とされる飼育設備の小ささ、必要とされる温度調節のための設備のコスト、餌のコスト、卵又は精子の採取の容易さ、などに例示される。本発明において、用いるレシピエントは、作製されたハイブリッドが、レシピエントとして適した性質を受け継いでいることが好ましい。作製されたハイブリッドが、レシピエントとして適した性質を受け継ぐためには、ハイブリッドのゲノムの中に、レシピエントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種のゲノムをより多く含ませることで得ることができる。レシピエントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種のゲノムをより多く含ませるためには、レシピテントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種から得られた卵を人工的に倍数化することで、より多くのゲノムを持たせることができる。

【0044】
ハイブリッドは、代理親魚として不利な性質をより少なくする点で、ドナーに対して代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムを、細胞あたり半分以下で有することが好ましい。より好ましくは、ドナーに対して代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムを細胞あたり1/3以下で有することが好ましい。ハイブリッドにおけるゲノムの量は、細胞として体細胞又は血球を選択し、定法により採取された細胞を用いて、DNAフローサイトメトリーにより算出した量とすることができる。例えば、代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムと、代理親魚になり得る(第一)魚種以外の魚種のゲノムを1セットずつ持ったハイブリッド細胞の場合には、ハイブリッドの細胞における代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムの量は、半分となる。このとき代理親魚になり得る(第一)魚種の染色体が欠落する又は該DNAが欠損していた場合又は代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムの一部の染色体又はDNAを、代理親魚になり得る(第一)魚種以外の魚種のゲノムに導入して作製したハイブリッド細胞の場合には、ドナーのゲノムの量の半分以下となる。代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムと、代理親魚になり得る(第一)魚種以外の魚種の倍数化したゲノムを1セットずつ持ったハイブリッドの細胞の場合には、ハイブリッドの細胞における代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムの量は1/3となる。このときドナー由来の染色体が欠落する又はドナー由来のDNAが欠損していた場合又は代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムの一部の染色体又はDNAを、代理親魚になり得る(第一)魚種以外の魚種のゲノムに導入して作製したハイブリッド細胞の場合には、代理親魚になり得る(第一)魚種のゲノムの量の1/3以下であると確認できる。

【0045】
本発明において、ハイブリッドを得るために選択される第一の魚類は、ドナーに対して代理親魚となり得る魚種である。ドナーに対して代理親魚となり得る魚種とは、該魚種に属する魚をレシピエントとしてドナーの生殖細胞を移植した場合に、該ドナーの生殖細胞を生着させ、ドナーの配偶子を得ることができる魚種のことをいう。第一のドナーに対して代理親魚となり得る魚種は、ドナー又はドナーと近縁な魚種であることが好ましい。ドナー又はドナーと近縁な魚種は、ドナーの生殖細胞を移植された場合に、ドナーの生殖細胞を定着しやすく、ドナーの配偶子が得られやすい。ハイブリッドの中で、ドナー又はドナーと近縁な魚種が持つ1つ又は複数の遺伝子が、レシピエントに移植されたドナーの生殖細胞の働きを補助することで、ドナー由来の卵又は精子を得ることができると考えられている。レシピエントに移植されたドナーの生殖細胞の働きを補助する1つ又は複数の遺伝子は、ドナー又はドナーと近縁な魚種のゲノムの中の1本又は複数本の染色体上にあると考えられている。

【0046】
ドナーと近縁な魚種とは、ドナーの同属から選ばれるものであれば好ましく、ドナーと同属同種から選ばれるものであればより好ましい。具体的には、ドナーがイワナ属である場合、第一の魚種としては、ドナーと同種又は異種の魚種が挙げられ、例えば、イワナ属のアメマス、オショロコマ、ミヤベイワナ、ブルックトラウト、イワナ等が挙げられる。ドナーがブリ属である場合、第一の魚種としては、ドナーと同種又は異種の魚種が挙げられ、例えば、ブリ属のブリ、ヒラマサ、カンパチ等が挙げられる。ドナーがマグロ属である場合には、第一の魚種としては、ドナーと同種又は異種の魚種が挙げられ、マグロ属のキハダ、ビンナガ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、コシナガ等が挙げられる。

【0047】
本発明において、ドナーに対して代理親魚となり得ない(第二の)魚種とは、該魚種に属する魚をレシピエントとしてドナーの生殖細胞を移植した場合に、該ドナーの生殖細胞を生着させ、ドナーの配偶子を得ることが困難な魚種をいう。ドナーに対して代理親魚となり得ない第二の魚種は、ドナーと異属の魚種を挙げることができる。代理親魚技術におけるレシピエントとしては、一般的には、近縁な魚種が適した性質を持つ魚種として選択されるが、しかし、例えば、大型魚類のようなドナーの場合に、飼育のし易さ等から、レシピエントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種を、ドナー又はドナーと同属の魚種から選ぶことができない場合がある。すなわち、人工飼育環境下における生残率の低さ、必要とされる飼育設備の大きさ、必要とされる温度調節のための設備のコスト、餌のコスト、卵又は精子の採取の難しさ、などの理由から、レシピエントとして適した性質を持つ品種、系統又は生物種を選ぶことができない場合がある。そのような場合に、ドナーと異属の魚種をレシピエントとして選択する必要性が生じる。しかし、ドナーと異属の魚種は、一般に、ドナーの生殖細胞を移植された場合に、ドナーの生殖細胞を定着しにくく、ドナーの配偶子が得られにくい。

【0048】
本発明においては、このような第二の魚種を選択して、レシピエントとして利用する場合に際し、該第二の魚種と第一の魚種とのハイブリッドを作製することにより、第二の魚種にドナーに対して代理親魚となり得る能力を付与して、レシピエントとして用いることを可能とし、第二の魚種の飼育特性等を利用して、ドナーの配偶子を効率よく得ることができる。本発明の代理親魚を用いたドナーの配偶子の生産方法は、天然においてハイブリッドの形成があまり見られない海産魚において、人工的にハイブリッドを作出可能とするための方法として特に効果的であり、特に養殖魚の分野において、必要な魚類の種苗の供給を確保する上で、経済的な利用価値を有する。

【0049】
属の範囲を越えての場合を、例示すれば、ドナーがイワナ属である場合、第二の魚種としては、サケ科サケ属のサクラマス(ヤマメ)、ニジマス、マスノスケ等を挙げることができ、ドナーがブリ属である場合には、第二の魚種としては、アジ科メアジ属のメアジ等、アジ科マアジ属のマアジ等、アジ科シマアジ属のシマアジ等、アジ科ムロアジ属のムロアジ、アオアジ等の、アジ科又はアジ亜科のドナーと同科異属の魚種、ドナーと異科の魚種などを挙げることができる。ドナーがマグロ属である場合には、第二の魚種としては、サバ科スマ属のスマ、タイセイヨウヤイト等、サバ科サバ属のマサバ、ゴマサバ等、サバ科ソウダガツオ属のヒラソウダ、マルソウダ等の、ドナーと同科異属の魚種、及び、ドナーと異科の魚種などが挙げられる。

【0050】
更に、具体的に例示すれば、サケ科イワナ属イワナの場合は、人工飼育下で飼料の摂餌が悪いので生残率が低く、卵又は精子を採取するための方法も十分に確立されていないので、代理親魚としては適していない。イワナと同属のオショロコマも飼育方法が確立されていない。イワナと同属のカワマスは、飼育方法は見出されているものの、外来種であり、急な入手が難しい。しかし、イワナと同じサケ科には、ニジマス、ヤマメのように飼育が簡単で、卵及び精子を採取しやすく、代理親魚技術をよく研究されている魚種が存在し、代理親魚として適した性質を有するものが知られている。従って、イワナの卵又は精子を、代理親魚技術を用いて生産するには、イワナ又はイワナと近縁なカワマス、オショロコマのいずれかのゲノム又は遺伝子と、ニジマス、ヤマメのゲノム又は遺伝子を併せ持つハイブリッドを作製して、当該ハイブリッドをレシピエントとして用いることが好ましい。

【0051】
また、例えば、アジ科ブリ属ブリの場合は、飼育に広大な設備が必要で、卵又は精子を採取するための温度調節には多大なコストが発生することが多いので、代理親魚としては適していない。ブリと同属のカンパチ及びヒラマサも同様の理由により代理親魚としては適していない。しかし、ブリと同じアジ科には、マアジ、アオアジ、メアジ等のブリと比較すれば飼育施設が著しく小さく済み、かつ配偶子が採取しやすい魚種が存在し、代理親魚として適した性質を有する。従って、ブリの配偶子を、代理親魚を用いて得るためには、ブリ、又は、ブリと近縁なカンパチ及びヒラマサのいずれかのゲノム又は遺伝子と、マアジ、アオアジ、メアジに例示される小型のアジ科魚類のいずれかのゲノム又は遺伝子を併せ持つハイブリッドを作製して、当該ハイブリッドをレシピエントとして用いることが好ましい。このようにして得られるハイブリッドは、ブリ属の他の魚種、例えばカンパチ及びヒラマサの代理親魚としても利用できる。

【0052】
例えば、サバ科マグロ属クロマグロの場合は、飼育に広大な設備が必要で、卵又は精子を採取するためには少なくとも3年以上の飼育が必要なことから、代理親魚としては適していない。また、クロマグロと近縁な魚種であるマグロ属の魚種である、ミナミマグロ、メバチ、ビンナガ、コシナガ、キハダも飼育に広大な設備が必要で、卵又は精子を採取する方法は確立されていない。しかし、クロマグロと同じサバ科には、マサバ、ゴマサバ、スマ、ヒラソウダ、マルソウダに例示される、飼育施設が小さく、卵及び精子を採取しやすい魚種が存在し、代理親魚として適した性質を有する。従って、クロマグロの卵又は精子を、代理親魚技術を用いて得るためには、クロマグロ又はクロマグロと近縁なミナミマグロ、メバチ、ビンナガ、コシナガ、及びキハダのいずれかのゲノム又は遺伝子と、マサバ、ゴマサバ、及びスマのいずれかのゲノム又は遺伝子を併せ持つハイブリッドを作製して、当該ハイブリッドをレシピエントとして用いることが好ましい。このようにして得られるハイブリッドはマグロ属の他の魚種、例えばミナミマグロ、メバチ、ビンナガ、コシナガ及びキハダのレシピエントとして利用できる。

【0053】
本発明の代理親魚技術を用いて、卵又は精子を生産するには、ハイブリッドを作出し、作出されたハイブリッドをレシピエントとして、ドナーの始原生殖細胞を移植し、移植魚を作出することで得ることができる。移植されたドナーの始原生殖細胞は、レシピエントの生殖腺に入り、ドナー由来の卵又は精子を産み出す。したがって、本発明において、ドナーの始原生殖細胞を移植した移植魚の作出は、該移植魚によって、ドナー由来の卵又は精子を得ることを包含するものである。

【0054】
移植魚から、ドナーの由来の卵又は精子を得るには、魚種に応じた従来の方法(特許第4300287号公報)により、成熟を誘導し、採取することで得ることができる。特に、ハイブリッドを異質倍数体として調製することにより(特許第4581083号公報)、異質倍数体であるハイブリッドのレシピエントを用いることができ、かかる場合には、レシピエント由来の卵又は精子が生成されていないため、移植魚におけるドナー由来の卵又は精子を容易に得ることができる。

【0055】
本発明において、養殖に用いられる魚類の種苗は、作出されたハイブリッドを育成し、当該ハイブリッドをレシピエントとしてドナーの始原生殖細胞を移植することで得た移植魚からの卵又は精子を、他の個体から得た精子又は卵と掛け合わせて受精卵を得て、該受精卵を育成することにより得ることができる。養殖に用いられる魚類の種苗は、作出されたハイブリッドを育成し、当該ハイブリッドをレシピエントとしてドナーの始原生殖細胞を移植することで得た卵又は精子を、ドナーの卵又は精子と掛け合わせることでも得ることができる。また、作出されたハイブリッドを育成し、当該ハイブリッドをレシピエントとしてドナーの始原生殖細胞を移植することで得た卵又は精子どうしとを掛け合わせることでも得ることもできる。当該種苗を養殖により更に育成して成魚を得ることができる。

【0056】
本発明の代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法により、種苗生産がこれまで難しかったドナー魚種の養殖のための種苗の確保が可能となり、この結果、目的とするドナー魚種の養殖等が容易となる。得られた成魚は、養殖魚として広く利用することが可能である。このように、上述した本発明における移植魚及び代理親魚技法用ハイブリッド、移植魚から得られた精子又は卵、移植魚から得られる種苗、移植魚から得られる種苗を成育して得られる成魚は、各種魚類の人工養殖に適用することができ、該魚類の人工養殖の実用化技術の構築に寄与することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお下記実施例において、特記しない場合、「%」は「重量%」を意味する。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
<(1)イワナ精原細胞の異質3倍体宿主への移植と次世代の作出>
ドナーとしては13か月齢の未熟なオスのイワナ(体重約43g、体長約15cm)を用いた。ドナーとなるイワナより精巣を摘出し、凍結保護液(塩化ナトリウム132mM、塩化カリウム2.56mM、リン酸二水素カリウム8.13mM、リン酸水素二ナトリウム1.34mM、塩化カルシウム0.9mM、塩化マグネシウム0.5mM、ピルビン酸ナトリウム1.28mM、Hepes 19.5mM、ジメチルスルフォキシド1.3M、鶏卵卵黄10%、トレハロース0.1M)に浸漬し、液体窒素中で凍結した。凍結は、-1℃/分の速度で-80℃まで緩慢に凍結した。凍結保存から1週間後、解凍を行った。解凍したイワナの精巣をトリプシン(0.9U/ml)、ウシ胎児血清(5%)、DNase(100U/ml)を含むPBS中で反応させることによって分散し、細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液を、5000細胞ずつ宿主の腹腔内にインジェクターを用いて移植した。
【実施例】
【0059】
レシピエントとしては、受精後43日が経過した3倍体カワマス胚、受精後38日の異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド胚、受精後30日の3倍体ニジマス胚を用いた。移植は、3倍体カワマス胚58個、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド胚60個、3倍体ニジマス胚61個に対し実施した。なお、ニジマス-カワマスハイブリッド胚は、排卵したメスのニジマスより搾出した未授精卵とカワマスの精子を人工授精することで得た。またカワマス、ニジマス-カワマスハイブリッド、ニジマスの各卵は、それぞれの卵を受精5分後に38℃で3分間処理することによって倍加処理を行った。
【実施例】
【0060】
移植1年後には、ドナーイワナの精巣細胞を移植された3倍体カワマス、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド、3倍体ニジマスの各宿主はそれぞれ、52尾(移植尾数中89.7%)、53尾(同80.0%)、55尾(同90.2%)が生残し、それぞれ5尾(生残尾数中19.2%)、4尾(同16.0%)、2尾(同6.5%)が成熟し、配偶子を生産した。成熟個体はいずれもオスであり、得られた精子を野生型イワナ卵と受精した結果、ドナー由来のイワナ次世代個体が得られた。得られた次世代は、鰭の模様、体の模様、脊椎骨数、及び制限酵素断片長多型を検出するPCR法によって、イワナであることが確認された。結果を表1に示す。
【実施例】
【0061】
移植2年後には、3倍体カワマス、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド、3倍体ニジマスの各宿主はそれぞれ、48尾(移植尾数中82.7%)、45尾(同75.0%)、48尾(同78.7%)が生残し、それぞれ14尾(生残尾数中29.2%)、9尾(同20.0%)、3尾(同6.3%)が成熟した。成熟した雌雄の内訳(メス個体数:オス個体数)は、3倍体カワマス宿主が5:9、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド宿主が3:6であった。3倍体ニジマスの成熟個体はいずれオスであった。各宿主より得られた精子及び卵を用いた人工授精を行った結果、ドナーイワナに由来するイワナ次世代個体が得られた。結果を表1に示す。
【実施例】
【0062】
移植3年後には、3倍体カワマス、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド、3倍体ニジマスの各宿主はそれぞれ、45尾(移植尾数中77.6%)、39尾(同65.0%)、41尾(同67.2%)が生残し、それぞれ19尾(生残尾数中42.2%)、9尾(同23.1%)、4尾(同9.8%)が成熟した。成熟した雌雄の内訳(メス個体数:オス個体数)は、3倍体カワマス宿主が7:12、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッド宿主が3:6であった。3倍体ニジマスの成熟個体はいずれオスであった。各宿主より得られた精子及び卵を用いた人工授精を行った結果、移植魚は3年以上生残することができ、ドナーイワナに由来するイワナ次世代個体が得られることがわかった。結果を表1に示す。
【実施例】
【0063】
【表1】
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【実施例】
【0064】
以上の結果から、イワナをドナーとした場合、3倍体カワマスを宿主に用いた場合に、最も効率よくドナー由来の配偶子が生産された。また、宿主が遠縁のニジマスの場合はイワナの精子は生産するものの、イワナの卵は生産されず、ドナー由来の卵を生産するためには、より近縁の宿主を利用することが有利であることが示された。一方で、遠縁のニジマスに近縁のカワマスをかけたハイブリッドを宿主とすることで、ドナー由来の卵が生産されるようになった。このことから、一部でも近縁の遺伝子を有するレシピエントを用いることで、ドナー由来配偶子の生産効率を著しく高めることができると考えられた。
【実施例】
【0065】
<(2)3倍体レシピエントの配偶子の性状>
上記で得られた3倍体カワマス、3倍体ニジマス、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッドのうち、それぞれのメス(2年齢及び3年齢)での卵を、搾出法により採取して、個数を数えた。結果を表2に示す。
【実施例】
【0066】
【表2】
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【実施例】
【0067】
上記で得られた3倍体カワマス、3倍体ニジマス、異質3倍体ニジマス-カワマスハイブリッドのうち、それぞれのオス(2年齢及び3年齢)での精子を、搾出法により採取して、血球算定盤を用いて個数を確認した。結果を表3に示す。比較対象として、3倍体化処理を行っていない2倍体ニジマス、2倍体カワマス、2倍体イワナの2年齢及び3年齢のメスにおける卵の個数と、オスにおける精子の個数を、同様に確認し、それぞれ表3に示す。
【実施例】
【0068】
【表3】
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【実施例】
【0069】
各レシピエントから得られた配偶子の機能を確認した。上記で得られた卵と精子を乾導法により受精した配偶子の機能は、発眼率と孵化率で確認した。発眼率は、受精後3週間で網膜に黒色素が沈着している卵数を数えることで評価した。孵化率は、受精後35日に孵化を完了している個体を数えることで評価した。結果を表4に示す。なお、*は、3倍体メス個体のすべてが不妊であったことを示す。
【実施例】
【0070】
【表4】
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【実施例】
【0071】
表3に示されるように、凍結精巣細胞を移植した3倍体宿主の配偶子はいずれも、ドナー由来の機能的な配偶子を作出できることがわかった。また、ドナーイワシと、カワマスとは同属の関係にある。3倍体カワマス及び3倍体ニジ-カワマスハイブリッドでは、卵と精子の双方を生産できることから、ドナーと近縁種のゲノムを1セット宿主に導入することは、不妊宿主の配偶子生産効率が高くなることが示された。
【実施例】
【0072】
[実施例2]
<ブリ精原細胞の異質3倍体宿主への移植>
ドナーとしては10か月齢の未熟なオスのブリ(体重約1kg、体長約40cm)を用いた。ドナーブリより精巣を摘出し、酵素処理によって分散して得られた細胞懸濁液を、20,000細胞ずつ宿主の腹腔内に移植した。宿主としては、孵化後10日が経過した異質3倍体ブリ-マアジハイブリッド仔魚92尾を用いた。なお、異質3倍体ブリ-マアジハイブリッド仔魚は、マアジの未授精卵とブリの精子を人工授精し、受精5分後に1分間、フレンチプレスで650kg/cmまで加圧することで得た。移植1か月後には、18尾(移植尾数中19.5%)が生残した。得られた異質3倍体ブリ-マアジハイブリッドは、ブリ属ドナーの生殖細胞のレシピエントとして好適である。
【実施例】
【0073】
[実施例3]
<マグロ生殖細胞移植用宿主用の異質3倍体魚作出>
サバ科の比較的小型な魚類であるスマ卵とクロマグロ精子を人工交配(人口交雑)させ、スマ-マグロハイブリッドの作出を行った。スマの卵にクロマグロの精子を掛けることで、スマ-クロマグロハイブリッドの受精卵を得た。スマ-クロマグロハイブリッドの受精卵は、孵化をしたが、仔魚は餌を摂餌せずに斃死した。そこで、スマ-クロマグロハイブリッドの受精卵に3倍体化の処理を施した。3倍体化処理は、スマ-クロマグロハイブリッドの受精卵を、受精3分後に5分間、4℃に冷却した海水に浸漬することで行った。こうして得られたハイブリッド3倍体の受精卵は、スマの染色体を2セット、クロマグロの染色体を1セット保有する。
【実施例】
【0074】
孵化したスマ-クロマグロハイブリッド仔魚は、スマ及びクロマグロ、それぞれの種で増幅サイズの異なるプライマーセット(TGC AGA ACG AAC AGG ATG AG及びCCC ATT GAG GAG ATT GGA GA)及びクロマグロのみで増幅が確認されるプライマーセット(ACA TGG TCC ATC CAT CCA TT及びTGG CTT AGC TCT ACC CCA AA)を用いたPCR法により、それぞれの遺伝情報を保有することが示された。また、体細胞を用いたDNAフローサイトメトリーにより、染色体を3セット保持する3倍体であることが確認された。これにより、スマ-クロマグロハイブリッド異質3倍体が作出できたことが示された。この異質3倍体は孵化後5日まで生残し、摂餌も観察された。得られたスマ-クロマグロハイブリッド異質3倍体は、マグロ属ドナーの生殖細胞のレシピエントとして好適である。
【実施例】
【0075】
2014年3月26日に出願された日本国特許出願第2014-064639号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、他属魚種等の代理親魚への利用を可能とし、他属の飼育等の容易な魚種を代理親魚技術におけるレシピエントとして用いることを可能としたことから、広い範囲からレシピエントとして適合する魚種を選択することが可能となり、代理親魚を用いた養殖魚生産のための魚類配偶子(精子及び卵)の生産方法として、実用化に向けての技術の提供を可能とした。