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明細書 :ノロウィルス不活化剤及びその製造方法、ノロウィルス不活化方法、ノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬、並びにノロウィルス不活化用皮膚外用剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5806434号 (P5806434)
登録日 平成27年9月11日(2015.9.11)
発行日 平成27年11月10日(2015.11.10)
発明の名称または考案の名称 ノロウィルス不活化剤及びその製造方法、ノロウィルス不活化方法、ノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬、並びにノロウィルス不活化用皮膚外用剤
国際特許分類 A61K  38/46        (2006.01)
A61P  31/14        (2006.01)
C12N   9/36        (2006.01)
FI A61K 37/54
A61P 31/14
C12N 9/36
請求項の数または発明の数 12
全頁数 22
出願番号 特願2015-524537 (P2015-524537)
出願日 平成27年2月23日(2015.2.23)
国際出願番号 PCT/JP2015/055070
優先権出願番号 2014032313
2014157145
2014189487
優先日 平成26年2月21日(2014.2.21)
平成26年7月31日(2014.7.31)
平成26年9月17日(2014.9.17)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月12日(2015.5.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
発明者または考案者 【氏名】高橋 肇
【氏名】佐藤 美紀
【氏名】宮下 隆
【氏名】笹原 亮
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000154、【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
審査官 【審査官】加藤 文彦
参考文献・文献 特開2007-312740(JP,A)
国際公開第2008/153077(WO,A1)
特表2004-505616(JP,A)
特開2008-187954(JP,A)
特開平08-027027(JP,A)
調査した分野 A61K 38/46
A61P 31/14
C12N 9/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
要約 ノロウィルス不活化剤が、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含有する。
特許請求の範囲 【請求項1】
リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含むノロウィルス不活化剤であって、
前記リゾチーム類は、下記定義によって規定される蛍光強度が4,000以上である、ノロウィルス不活化剤。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度
【請求項2】
リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含むノロウィルス不活化剤であって、
前記リゾチーム類は、下記に規定される抗ノロウィルス活性が2.0以上である、ノロウィルス不活化剤。
抗ノロウィルス活性:ノロウィルス液と前記リゾチーム類の2質量%水溶液を等量混合して得られたノロウィルス混合液を室温で1分間放置した時の、放置前の感染価の対数から放置後の感染価の対数を引いた値
【請求項3】
請求項1又は2に記載のノロウィルス不活化剤であって、
前記リゾチーム類の含有量が0.05質量%以上である、ノロウィルス不活化剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のノロウィルス不活化剤であって液剤である、ノロウィルス不活化剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のノロウィルス不活性剤に含まれるノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法であって、リゾチーム及び/又はその塩を加熱変性する工程を含む、ノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法。
【請求項6】
リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含有させる工程を含むノロウィルス不活化剤の製造方法であって、リゾチーム及び/又はその塩を加熱変性して加熱変性物を得る工程、並びに、該加熱変性物を含むノロウィルス不活化剤を得る工程を含む、ノロウィルス不活化剤の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のノロウィルス不活化剤の製造方法であって、
前記加熱変性物を得る工程は、
波長660nmの光の透過率が70%超であり、pHが5.0以上7.0以下であり、かつ、リゾチーム及び/又はその塩の濃度が固形分換算で0.5質量%以上7質量%以下であるリゾチーム及び/又はその塩の水溶液を、該水溶液の波長660nmの光の透過率が70%になるまで加熱する第1の加熱工程と、
前記第1の加熱工程の後に、前記水溶液の波長660nmの光の透過率が70%未満の極小値まで加熱した後、70%になるまで該水溶液を加熱する第2の加熱工程と、
前記第2の加熱工程の後に、前記水溶液の波長660nmの光の透過率が70%を超える状態で該水溶液をさらに加熱する第3の加熱工程と、を含む、ノロウィルス不活化剤の製造方法。
【請求項8】
請求項において、
前記第3の加熱工程の加熱条件が、該第3の加熱工程で得られた水溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものとエタノールとを質量比で1:1の割合で混合したときに波長660nmの光の透過率が85%以上になるまで加熱する条件である、ノロウィルス不活化剤の製造方法。
【請求項9】
請求項又はにおいて、
前記第3の加熱工程の後に、前記水溶液を噴霧乾燥又は凍結乾燥させて、粉末状の前記変性物を得る工程をさらに含む、ノロウィルス不活化剤の製造方法。
【請求項10】
リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含む、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬であって、
前記リゾチーム類は、下記定義によって規定される蛍光強度が4,000以上である、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度
【請求項11】
リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含む、ノロウィルス不活化用皮膚外用剤であって、
前記リゾチーム類は、下記定義によって規定される蛍光強度が4,000以上である、ノロウィルス不活化用皮膚外用剤。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度
【請求項12】
ノロウィルスの不活化に使用される、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類であって、
前記リゾチーム類は、下記定義によって規定される蛍光強度が4,000以上である、リゾチーム類。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物のうち少なくとも1種を含むノロウィルス不活化剤及びその製造方法、ノロウィルス不活化方法、ノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬、並びにノロウィルス不活化用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウィルスはヒトに対する感染が高く、食中毒やウィルス性急性胃腸炎(感染症)を引き起こす。現在、ノロウィルスにはワクチンがなく、有効な抗ウィルス剤もないため、一旦発症すると治療は輸液などの対症療法に限られてしまい、高齢者等では重症化する場合もある。
【0003】
ノロウィルスの感染経路は主に経口感染である。そのため、食中毒や感染症の発生の予防及び発生後の拡大防止のためには、環境に存在するノロウィルスを不活化することが極めて重要である。
【0004】
従来、アルコール製剤をはじめとすると多くの消毒薬は、ノロウィルスの不活化には無効とされ、不活化のためには、85℃1分以上の加熱や次亜塩素酸ナトリウムによる処理が推奨されている。しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムは、金属に対する腐食作用、皮膚に対する刺激作用、衣類等に対する漂白作用があるので実際上の使用は制限される。そのため、次亜塩素酸ナトリウムに代わる不活化剤の開発が望まれている。
【0005】
これに対し、ノロウィルス不活化剤の有効成分として、渋シブ抽出物(カキタンニン)(特許文献1)、ブドウの種子等に含まれるプロアントシアニジン(特許文献2)等が提案されている。
【0006】
即ち、特許文献1には、柿シブ抽出物の2分間の適用によるウィルスゲノムRNA数の抑制率が86~99%となり、また、特許文献2には、プロアントシアニジンの50%培養細胞感染濃度法による対照に対する感染価(logTCID50/mL)が、作用時間1分の場合に3であったことが記載されている。しかしながら、いずれも、ノロウィルスを十分に不活化するには至っておらず、ノロウィルスの強い感染力を踏まえると、より強い不活化効果を有する新たな不活化剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許5092145号
【特許文献2】特開2013-47196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ノロウィルスを効果的に不活化する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、意外にもリゾチーム及び/又はその塩、ならびにこれらの変性物のうち少なくとも1種がノロウィルスに対して優れた不活化作用を有することを見出し、本発明を想到した。
【0010】
1.本発明の一態様に係るノロウィルス不活化剤は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含む。
2.上記1記載のノロウィルス不活化剤は、前記リゾチーム類の含有量が0.05質量%以上であることができる。
3.上記1又は2に記載のノロウィルス不活化剤は、前記リゾチーム類は、下記定義によって規定される蛍光強度が4,000以上であることができる。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度
4.上記1~3のいずれかに記載のノロウィルス不活化剤は、前記リゾチーム類は、下記に規定される抗ノロウィルス活性が2.0以上であることができる。
抗ノロウィルス活性:ノロウィルス液と前記リゾチーム類の2質量%水溶液を等量混合して得られたノロウィルス混合液を室温で1分間放置した時の、放置前の感染価の対数から放置後の感染価の対数を引いた値
5.上記1~4のいずれかに記載のノロウィルス不活化剤であって液剤であることができる。
6.本発明の一態様に係るノロウィルスの不活化方法は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を使用してノロウィルスを不活化する工程を含むことができる。
7.本発明の一態様に係るノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法は、上記1~5のいずれかに記載のノロウィルス不活性剤に含まれるノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法であって、リゾチーム及び/又はその塩を加熱変性する工程を含む。
8.本発明の一態様に係るノロウィルス不活化剤の製造方法は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含有させる工程を含む。
9.本発明の一態様に係るノロウィルス不活化剤の製造方法は、上記8記載のノロウィルス不活化剤の製造方法であって、リゾチーム及び/又はその塩を加熱変性して加熱変性物を得る工程、並びに、該加熱変性物を含むノロウィルス不活化剤を得る工程を含む。
10.上記9に記載のノロウィルス不活化剤の製造方法であって、前記加熱変性物を得る工程は、波長660nmの光の透過率が70%超であり、pHが5.0以上7.0以下であり、かつ、リゾチーム及び/又はその塩の濃度が固形分換算で0.5質量%以上7質量%以下であるリゾチーム及び/又はその塩の水溶液を、該水溶液の波長660nmの光の透過率が70%になるまで加熱する第1の加熱工程と、前記第1の加熱工程の後に、前記水溶液の波長660nmの光の透過率が70%未満の極小値まで加熱した後、70%になるまで該水溶液を加熱する第2の加熱工程と、前記第2の加熱工程の後に、前記水溶液の波長660nmの光の透過率が70%を超える状態で該水溶液をさらに加熱する第3の加熱工程と、を含むことができる。
11.上記10に記載のノロウィルス不活化剤の製造方法であって、前記第3の加熱工程の加熱条件が、該第3の加熱工程で得られた水溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものとエタノールとを質量比で1:1の割合で混合したときに波長660nmの光の透過率が85%以上になるまで加熱する条件であることができる。
12.上記10又は11に記載のノロウィルス不活化剤の製造方法であって、前記第3の加熱工程の後に、前記水溶液を噴霧乾燥又は凍結乾燥させて、粉末状の前記加熱変性物を得る工程をさらに含むことができる。
13.本発明の一態様に係るノロウィルス感染の予防薬又は治療薬は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含む。
14.本発明の一態様に係るノロウィルス不活化用皮膚外用剤は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類を含む。
15.本発明の一態様に係るリゾチーム類は、ノロウィルスの不活化に使用される、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノロウィルス不活化剤に含まれるリゾチーム及び/又はその塩、ならびにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種であるリゾチーム類は、ノロウィルスに対して優れた不活化作用を有し、特に、加熱変性物は1分以内という極めて短い作用時間でノロウィルスを不活化させることができる。また、リゾチームは、従前より、食品の日持ちを向上させる食品添加物として使用され、塩化リゾチームは消炎剤として使用されていることから、本発明のノロウィルス不活化剤は安全に使用することができる。したがって、本発明のノロウィルス不活化剤、本発明のノロウィルスの不活化方法、本発明のノロウィルス感染の予防剤又は治療薬、本発明のノロウィルス不活化用皮膚外用剤は、ノロウィルスの増殖阻害、死滅化、ノロウィルス感染の予防、感染の拡大防止、及び感染の治療に有用となる。
【0012】
特に、リゾチーム若しくはその塩、又はこれらの変性物を低級アルコールや多価アルコール等のアルコール含有液体と混合して得られるノロウィルス不活化剤によれば、アルコールによる除菌効果と、前記リゾチーム類によるノロウィルス不活化効果の双方を発揮するので、日常的に住居環境の殺菌とノロウィルスの不活化を行うことができる。
【0013】
また、本発明のノロウィルス不活化剤の製造方法によれば、ノロウィルス不活化剤を簡便に製造することができ、ノロウィルス不活化用リゾチーム類の製造方法によれば、ノロウィルス不活化効果の極めて高いリゾチーム類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のノロウィルス不活化剤の製造方法において、リゾチームの加熱変性物を得る工程にて、第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程での加熱時間と透過率との関係を模式的に表す図である。
【図2】本発明の一実施例で得られたリゾチーム類(リゾチーム及び/又はその塩の変性物)の電気泳動(SDS-PAGE)結果を示す写真である。
【図3】図3(a)は、ノロウィルスの電子顕微鏡写真であり、図3(b)は、リゾチーム類(80℃で180分間の加熱により得られたリゾチーム変性物)の電子顕微鏡写真であり、図3(c)は、接触開始から1分時点における、ノロウィルス及びリゾチーム類(リゾチーム変性物)の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4(a)は、接触開始から1時間時点における、ノロウィルス及びリゾチーム類(80℃×180分間の加熱により得られたリゾチーム変性物)の電子顕微鏡写真であり、図4(b)は、接触開始から1分時点における、ノロウィルス及びリゾチーム類(非加熱リゾチーム)の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、ヒトノロウィルスと本発明のリゾチーム類(100℃×40分間)を1時間接触後、ヒトノロウィルス遺伝子量をリアルタイムPCR法で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。

【0016】
<発明の概要>
本発明のノロウィルス不活化剤は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種(以下、「リゾチーム類」と略して表記することもある。)を含む。リゾチーム類は、ノロウィルスの不活化に使用される。すなわち、本発明のノロウィルス不活化剤は、リゾチーム及び/又はその塩、並びにこれらの変性物(以下、リゾチーム及び/又はその塩の変性物を「リゾチーム変性物」と略して表記することもある。)のうち1種又は2種以上を含むことができる。

【0017】
例えば、本発明のノロウィルス不活化剤は、リゾチーム類(例えば、リゾチーム若しくはその塩、又はこれらの変性物)を有効成分とすることができる。このノロウィルス不活化剤は、ノロウィルスの消毒剤、ノロウィルス感染の予防薬又は治療薬等として使用することができる。また、使用形態によって外用剤としても経口剤としても使用することができる。

【0018】
本発明において、「ノロウィルスの不活化(deactivate)」とは、小腸の上皮細胞に感染し、増殖することで、嘔吐や下痢等の症状を引き起こすノロウィルスの活性を低下させることをいい、ノロウィルスを死滅させて活性を低下するだけでなく、ノロウィルスが生存した状態で活性のみ低下させることを含む。

【0019】
<リゾチーム及び/又はその塩>
本発明において、「リゾチーム」とは、N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸とのβ-1,4結合を加水分解する性質を有するタンパク質をいう。

【0020】
本発明のノロウィルス不活化剤に含有させることができるリゾチームは、卵、動物の組織、体液、植物など生物界に広く存在し、基質特異性と構造から大きく以下の5種のファミリーに分類される。また、リゾチーム及び/又はその塩を、リゾチーム変性物の原料として用いることができる。
1.リゾチーム(細菌型)
2.リゾチーム(ニワトリ型)
3.リゾチーム(グース型)
4.リゾチーム(ファージ型;Vタイプ)
5.リゾチーム(CH型)

【0021】
本発明では、5種のファミリーのいずれも使用することができる。これらのリゾチームのなかでも、本発明で使用するリゾチーム類として、並びに、リゾチーム変性物の原料としては、食品添加物等として広く使用されている観点から、卵白リゾチーム、ヒトリゾチーム等のリゾチーム(ニワトリ型)が好ましく、さらに低コストでありかつ入手容易である点で、卵白リゾチーム及び/又はその変性物であることが特に好ましい。

【0022】
また、リゾチームの塩としては、食品添加物として許容可能又は薬学的に許容可能である塩が挙げられ、例えば、塩酸、炭酸、リン酸、ホウ酸、へキサメタリン酸、硝酸、硫酸などの無機酸の塩、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、グルタミン酸、グリセロリン酸、グルコン酸などの有機酸の塩があげられる。リゾチームの塩のなかでも、無機酸の塩が好ましく、消炎剤として広く使用され、安全性が確立している点から、塩化リゾチーム等の塩酸塩がより好ましい。

【0023】
リゾチーム及び/又はその塩の変性方法としては、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理、有機溶剤処理、界面活性剤処理、酸化処理、還元処理、高圧力処理等をあげることができる。これらの変性処理は、単独あるいは併用して行うことができる。なお、リゾチーム変性物には、リゾチーム及び/又はその塩を分解処理したリゾチーム由来ペプチドも含まれる。

【0024】
リゾチーム類の中でも、ノロウィルスの不活化効果の点から、リゾチーム及び/又はその塩を加熱変性したもの(以下、単に「加熱変性物」ともいう。)が好ましい。加熱変性物は、非加熱のリゾチーム及び/又はその塩に比して短時間でノロウィルスを不活化させることができる。そこで、本発明は、ノロウィルス不活化用リゾチームの製造方法としてリゾチーム及び/又はその塩を加熱変性する方法も包含する。

【0025】
加熱変性は、リゾチーム及び/又はその塩の変性が適度に行われていれば加熱条件を特に限定するものではないが、リゾチーム及び/又はその塩を50℃以上130℃以下、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上で加熱することが好ましい。

【0026】
加熱変性の方法としては、リゾチーム及び/又はその塩を溶媒に溶解させて加熱しても、粉末のままで加熱してもよく、リゾチーム及び/又はその塩を溶解させて加熱した場合、加熱時間は、リゾチーム加熱温度に応じて決定することができ、1分以上720分以下であってもよい。粉末のまま加熱する場合、加熱時間は1日以上30日未満であることが好ましい。なお、前記溶媒は、リゾチーム及び/又はその塩を溶解することができる溶媒であれば限定されないが、例えば、水や、水を含む有機溶媒であってもよい。

【0027】
<加熱変性物を得る工程>
前記加熱変性物を得る工程は、波長660nmの光の透過率が70%超(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、通常100%以下)であり、pHが5.0以上7.0以下であり、かつ、リゾチーム及び/又はその塩の濃度が固形分換算で0.5質量%以上7質量%以下であるリゾチームの水溶液を、該水溶液の波長660nmの光の透過率が70%になるまで加熱する第1の加熱工程(以下、単に「第1の加熱工程」ともいう。)と、前記第1の加熱工程の後に、該水溶液の波長660nmの光の透過率が70%未満の極小値まで加熱した後、70%になるまで該水溶液を加熱する第2の加熱工程(以下、単に「第2の加熱工程」ともいう。)と、前記第2の加熱工程の後に、前記水溶液の波長660nmの光の透過率が70%を超える状態で該水溶液をさらに加熱する第3の加熱工程(以下、単に「第3の加熱工程」ともいう。)と、を含む。上記第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程により、リゾチーム変性物を得ることができる。

【0028】
前記第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程によって、上記定義で規定される蛍光強度が4,000以上であるリゾチーム変性物を得ることができる。

【0029】
[加熱のメカニズム]
図1は、本実施形態に係るリゾチーム変性物の製造方法において、第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程での加熱時間と透過率との関係を模式的に表す図である。本発明者らは、リゾチームを含む水溶液を加熱する際に、波長660nmの光の透過率が加熱時間に応じて図1に示すように変化することを見出した。当該透過率の変化は、得られるリゾチーム変性物の表面疎水性の変化(主に、表面疎水性の増加)及び水溶性の変化(水溶性の低下及びこれに続く水溶性の増加)に起因すると推測される。

【0030】
[第1の加熱工程]
図1に示されるように、第1の加熱工程によって、波長660nmの光の透過率が70%超である水溶液における該光の透過率が低下して70%になることは、該水溶液の透過率が低下することを意味し、例えば、目視にて該水溶液の白濁を確認することができる。

【0031】
すなわち、第1の加熱工程では、前記水溶液中のリゾチームの立体構造及び/又はリゾチームの表面の表面疎水性が上昇し、疎水性部分が引き合い凝集して、前記水溶液中のリゾチームの溶解性が低下する結果、該水溶液の波長660nmの光の透過率が70%超から70%に低下すると推測される。

【0032】
(原料)
第1の加熱工程において水溶液中で使用する、原料であるリゾチーム及び/又はその塩は、上述した<リゾチーム及び/又はその塩>の欄で例示したリゾチーム及び/又はその塩を使用することができる。低コストで入手容易である点から、原料であるリゾチーム及び/又はその塩は卵白リゾチームであるのが好ましい。

【0033】
(原料の濃度)
リゾチームの立体構造を確実に変化させることができ、かつ、リゾチームの凝集を防止して、ノロウィルスの不活化作用を高めることができる点で、第1の加熱工程において、水溶液中のリゾチームの濃度は1質量%以上であることが好ましく、一方、5質量%以下であることが好ましい。

【0034】
(リゾチーム及び/又はその塩の水溶液)
リゾチーム及び/又はその塩の水溶液を構成する溶媒は水であるが、リゾチーム及び/又はその塩の水への溶解性に影響しない範囲で水と混和する有機溶媒を使用してもよい。リゾチーム及び/又はその塩の水溶液を構成する溶媒における水の割合は通常80質量%以上100質量%以下である。また、リゾチーム及び/又はその塩の水溶液を構成する溶媒が、水と混和する有機溶媒を含む場合、リゾチーム及び/又はその塩の水溶液を構成する溶媒における該有機溶媒の割合は通常1質量%以上20質量%以下である。

【0035】
前記有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。

【0036】
(pH)
リゾチームの凝集を防止でき、かつ、得られるリゾチーム変性物の表面疎水性を高めることができる点で、第1の加熱工程、第2の加熱工程および第3の加熱工程において、前記水溶液のpHは5.5以上であることがより好ましく、一方、6.5以下であることがより好ましい。

【0037】
また、必要に応じて、酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸、リン酸等の有機酸)、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基)又は緩衝液(例えば、酢酸緩衝液)を使用して、前記水溶液を上記範囲のpHに調整してもよい。

【0038】
例えば、リゾチームがリゾチームの塩(例えば塩化リゾチーム)である場合、酸、アルカリ又は緩衝液を使用して、水溶液のpHを上記範囲のpHに調整したうえで、第1の加熱工程を行うことが好ましい。

【0039】
[第2の加熱工程]
第2の加熱工程において、第1の加熱工程で得られた水溶液の波長660nmの光の透過率が70%から70%未満(好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、通常0%以上)の極小値まで加熱した後、70%になるまで加熱することにより、第1の加熱工程で得られた水溶液の光の透過率がさらに低下し(その結果、目視にて水溶液の白濁及び/又は沈殿を確認することができる。)、その後、該透過率が増加に転じて、該白濁及び/又は沈殿が次第に消失すること(その結果、目視で次第に透明になっていくことを確認することができる。)を確認することができる。

【0040】
すなわち、第2の加熱工程では、前記水溶液中のリゾチームの立体構造がさらに変化し、リゾチームの表面疎水性がさらに高まるにつれて、リゾチームの水溶性が一旦低下した後に高まる結果、水溶液の波長660nmの光の透過率が70%になると推測される。

【0041】
第2の加熱工程においてリゾチームの表面疎水性がさらに高まるにつれて、リゾチームの水溶性が一旦低下した後で高まるメカニズムは明らかでないが、第2の加熱工程によって、第1の加熱工程において凝集したリゾチーム同士が結合して線状の凝集体に変化し、この凝集体が前記水溶液に溶解するため、前記水溶液中のリゾチームの溶解性が上昇するためであると推測される。

【0042】
第2の加熱工程は第1の加熱工程の後に引き続いて行うことができる。すなわち、第2の加熱工程は第1の加熱工程と連続的に行うことができる。

【0043】
[第3の加熱工程]
第3の加熱工程では、前記水溶液中のリゾチームの立体構造がさらに変化し、リゾチームの水溶性を維持した状態で、リゾチームの表面疎水性がさらに高められる結果、水溶液の波長660nmの光の透過率が70%を超える値を維持することができると推測される。

【0044】
より具体的には、第3の加熱工程においては、該水溶液中に白濁及び/又は沈殿が生じない(該水溶液の透過率(透明性)が維持されている)ことが好ましい。

【0045】
前記水溶液中のリゾチームの立体構造をより確実に変化させることができる点で、第3の加熱工程は、該水溶液の波長660nmの光の透過率が75%以上になるまで加熱することがより好ましく、80%以上になるまで加熱することがより好ましい(通常100%以下である)。

【0046】
さらに、第3の加熱工程は、第3の加熱工程で得られた水溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものとエタノールとを質量比で1:1の割合で混合したときに波長660nmの光の透過率が85%以上になるまで加熱することが好ましく、90%以上になるまで加熱することがより好ましい(通常100%以下である)。

【0047】
第3の加熱工程で得られた水溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものとエタノールとを質量比で1:1の割合で混合したときに波長660nmの光の透過率が85%以上になることは、上記定義で規定される蛍光強度が4、000以上であるリゾチーム変性物が得られた指標とすることができる。

【0048】
第3の加熱工程は第2の加熱工程の後に引き続いて行うことができる。すなわち、第3の加熱工程は第1の加熱工程及び第2の加熱工程と連続的に行うことができる。

【0049】
第3の加熱工程において、前記透過率が70%を超える状態で加熱された(透明化した)水溶液は、室温(例えば25℃)に戻しても該透過率を維持することができる(透明性を維持することができる)。その原因としては、該水溶液中に含まれるリゾチーム等の形態(立体構造)が室温でも維持されているためであると推測される。

【0050】
(加熱温度及び加熱時間)
本実施形態に係るノロウィルス不活化剤の製造方法(リゾチーム変性物の製造)において、高い収率を達成することができ、かつ、該水溶液を第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程でそれぞれ規定される透過率に調整できる点で、第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程における該水溶液の中心品温を70℃以上となるように加熱することが好ましく、加熱時間が短いため製造時間を短縮できる点で、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい(130℃以下であってもよく、約100℃以下であってもよい)。なお、第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程における加熱時間は、加熱温度及び処理量に応じて各工程で規定する透過率を満たすように適宜決定することができる。

【0051】
第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程を同じ加熱温度で連続して行う場合、第1の加熱工程における加熱時間及び第2の加熱工程における及び第3の加熱工程における加熱時間は、合計で中心品温が70℃以上75℃以下の場合は125分間以上720分間以下、中心品温が75℃超80℃以下の場合は80分間以上435分間以下、中心品温が80℃超85℃以下の場合は70分間以上305分間以下、中心品温が85℃超90℃以下の場合は50分間以上240分間以下、中心品温が90℃超95℃以下の場合は40分間以上185分間以下、中心品温が95℃超100℃以下の場合は25分間以上120分間以下、中心品温が100℃超の場合は10分間以上120分間以下であることが好ましい。

【0052】
(噴霧乾燥/凍結乾燥)
なお、本発明のリゾチーム変性物の製造方法において、前記第3の加熱工程の後に、前記水溶液を噴霧乾燥又は凍結乾燥させて、粉末状のリゾチーム変性物を得る工程をさらに含むことができる。

【0053】
噴霧乾燥及び凍結乾燥は、常法に則り行うとよい。

【0054】
<ノロウィルス不活化作用>
本発明において、ノロウィルス不活化作用は、後述する実施例に記載された方法(すなわち、ノロウィルスを感染させたマウス細胞)を使用した系によって評価することができる。

【0055】
(蛍光強度)
本発明のリゾチーム類は、表面疎水性がより高く、ノロウィルスの不活化作用により優れている点で、下記定義によって規定されるリゾチーム類(リゾチーム及び/又はその塩の変性物(以下、「リゾチーム変性物」と表記することもある。)、より具体的には、リゾチーム変性物の蛍光強度が4,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、通常、10,000以下である。なお、本発明において「室温」とは、20℃以上25℃以下のことをいう。
蛍光強度:前記リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%になり、且つリン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈して得られる希釈液5mLに8mMの1,8-アニリノナフタレンスルホン酸のメタノール溶液25μLを添加して得られる液を30分間室温で反応させた後の該液について、励起波長390nm(励起バンド幅10nm)及び蛍光波長470nm(蛍光バンド幅10nm)の条件にて測定された蛍光強度

【0056】
本発明で規定されるリゾチーム類の蛍光強度は、リゾチーム類の表面疎水性の指標である。すなわち、本発明で規定されるリゾチーム類の蛍光強度が高いほど、リゾチーム類の表面疎水性が高いと言える。また、リゾチーム類の表面疎水性が高いほど、ノロウィルスの不活化効果(抗ノロウィルス活性)に優れている傾向がある。

【0057】
本発明者らは、リゾチーム類の表面疎水性が高いほど、ノロウィルスの不活化作用が高い傾向があることを見出した。なかでも、リゾチーム加工品及び/又はその塩である本発明のリゾチーム変性物は、ノロウィルスの不活化作用がより優れているという特徴を有する。なお、本発明において、「リゾチーム加工品」とは、リゾチーム変性物であり、リゾチーム及び/又はその塩とは異なる立体構造を有するものをいう。

【0058】
本発明のリゾチーム加工品及び/又はその塩が、優れたノロウィルスの不活化作用を有する原因は明らかではないが、第1に、表面疎水性を有するリゾチーム加工品及び/又はその塩が、ノロウィルスの疎水性部位に結合しやすいこと、第2に、リゾチーム加工品及び/又はその塩は、リゾチーム変性物であり、変性によって、リゾチームが有するS-S結合の少なくとも一部が開裂して得られるチオール基(-SH)をリゾチーム加工品が含有しており、このチオール基がノロウィルスの表面に存在するS-S結合と結合していること、第3に、リゾチーム加工品及び/又はその塩が、ノロウィルスに結合しやすい立体構造を有することが推測される。

【0059】
なお、リゾチーム類の濃度が固形分換算で0.05質量%であり、リン酸塩の濃度が0.2Mとなるようにリン酸緩衝液で希釈するとは、具体的には、例えば、リゾチーム類を固形分換算で1質量%含有する水溶液の蛍光強度を測定する場合、前記水溶液5gと0.25Mのリン酸緩衝液80mLを100mLのメスフラスコに入れた後、精製水で100mLにメスアップすることで調整されることをいう。

【0060】
本発明において、リゾチーム類の蛍光強度は、Canadian Institute of Food Science and Technology 1985 Vol.18 No.4 p.290-295に記載された方法にて測定された値である。なお、本発明におけるリゾチーム類の蛍光強度の測定に用いるリン酸緩衝液は、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムで調製されたものである。また、本発明におけるリゾチーム類の蛍光強度は、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0、リン酸塩としてリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムを含有する)の蛍光強度をブランク値として別途測定し、該ブランク値を差し引いた値である。

【0061】
より具体的には、リゾチーム類の蛍光強度は、日本分光株式会社製、型名FP-8500蛍光分光光度計を用いて、励起波長390nm、励起バンド幅10nm、蛍光波長470nm、蛍光バンド幅10nm、レスポンス0.5sec、感度Low(約270±10V)(電源周波数(50/60Hz))、ペリスタシッパSHP-820型使用の条件で測定したときの値である。なお、他の蛍光分光光度計(例えば、株式会社日立製作所製、型名F-2000蛍光分光光度計)を用いて測定することもできるが、その際は感度等の測定条件を本願で規定する条件に合わせる必要がある。

【0062】
(抗ノロウィルス活性)
前記リゾチーム類は、下記に規定される抗ノロウィルス活性が2.0以上であることが好ましい。
抗ノロウィルス活性:ノロウィルス液と前記リゾチーム類の2質量%水溶液を等量混合して得られたノロウィルス混合液を室温で1分間放置した時の、放置前の感染価の対数から放置後の感染価の対数を引いた値

【0063】
(二量体及び三量体)
前記リゾチーム類(リゾチーム変性物、より具体的には、リゾチーム加工品及び/又はその塩)は、約29KDa(KDa=10Da)の蛋白質及び/又は約36.5KDaの蛋白質を含むことができる。すなわち、本発明のノロウィルス不活化剤は、約29KDaの蛋白質及び/又は約36.5KDaの蛋白質を含むことができる。本発明のノロウィルス不活化剤ならびに前記リゾチーム類の中に約29KDaの蛋白質及び/又は約36.5KDaの蛋白質が含まれていることは、後述する実施例に示す電気泳動によって確認することができる。なお、電気泳動は、市販の電気泳動キッドを用いて行うことができる。

【0064】
約29KDaの蛋白質は、リゾチーム変性物の二量体であると推測され、約36.5KDaの蛋白質は、リゾチーム変性物の三量体であると推測される。

【0065】
本発明のノロウィルス不活化剤において、約29KDaの蛋白質及び/又は約36.5KDaの蛋白質が含まれていることにより、抗ノロウィルス活性が高められている。

【0066】
<リゾチーム及び/又はその塩の含有量>
本発明のノロウィルス不活化剤においてリゾチーム類の好ましい含有量(固形分換算)は、当該ノロウィルス不活化剤において使用するリゾチームの種類、ノロウィルス不活化剤の剤型、使用態様等によるが、ノロウィルス不活化剤の0.05質量%以上、さらに0.1質量%以上、特に0.25質量%以上(例えば、0.05質量%以上100質量%以下)とすることができる。ここで、本発明のノロウィルス不活化剤が、リゾチーム類のうち2種以上含む場合、リゾチーム類の含有量(固形分換算)は、リゾチーム類の合計の含有量をいう。

【0067】
<配合素材>
本発明のノロウィルス不活化剤において、リゾチーム類と共に配合する配合素材は、ノロウィルス不活化剤の剤型等に応じて適宜選択することができ、例えば、水;エタノール、イソプロパノール等の炭素数5以下の低級アルコール;グリセリン、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール;グリシン、有機酸、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、デヒドロ酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸ナトリウム、EDTA、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化アルキルジアミノエチルグリシン、ヨードチンキ、ポピドンヨード、セチル酸化ベンザルコニウム、トリクロサン、クロルキシレノール、イソプロピルメチルフェノール、ε-ポリリシン、ラクトフェリン、ナイシン、バクテリオシン、ウド抽出物、エゴノキ抽出物、カワラヨモギ抽出物、酵素分解ハトムギ抽出物、しらこタンパク抽出物、ツヤプリシン、ペクチン分解物等の静菌剤を適宜組み合わせて使用することができる。

【0068】
中でも、水、低級アルコール及び多価アルコールの少なくなくとも1種を使用すること、特に低級アルコール及び多価アルコールの少なくなくとも1種を含有するアルコール製剤を使用することにより、アルコールによる殺菌効果と、リゾチーム類によるノロウィルス不活化効果を併せ持つことができるので、消毒剤として利便性が高まる。

【0069】
この他、本発明のノロウィルス不活化剤には、必要に応じてクエン酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤、トコフェロール酢酸エステル等の酸化防止剤、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤などの添加剤を配合してもよい。

【0070】
<剤型>
本発明のノロウィルス不活化剤は、必用に応じて種々の剤型をとることができ、例えば、液剤としてもよく、粉末、錠剤、カプセル等の固形剤としてもよい。
液剤とする場合、その粘度は使用方法に応じて適宜定めることができる。例えば、噴霧可能な粘度の液剤とし、トリガースプレーヤー、スクイズ容器、エアゾル容器等のスプレー容器に充填することにより、手指、食品、調理器具、住居環境、嘔吐物、排泄物等へ該ノロウィルス不活化剤を含む液滴を噴霧することにより、ノロウィルスの不活化を手軽に行うことができ、ノロウィルス不活化剤を含む液剤に、不活化の対象物(例えば、手指、食品、医療機器、医療器具、調理器具、住居環境)を浸すことにより、ノロウィルスの不活化を手軽に行うこともできる。また、ノロウィルス不活化剤を含む液剤を湿潤させたシートとして使用することができる。さらに、ローション、クリーム等とすることにより皮膚外用剤として使用することができ、これにより、ノロウィルスが手指に付着してもその場で不活化し、ノロウィルスが経口感染することを防止する感染予防薬として使用することができる。

【0071】
一方、固形剤とする場合、例えば、予め経口摂取しておくことにより、ノロウィルスが口に入ったとしても、それを不活化して感染を予防する感染予防薬として使用することができ、また、ノロウィルスによる感染症が発症した場合にも体内のノロウィルスを不活化する治療薬として使用することができる。本発明のノロウィルス不活化剤の摂取方法としては、例えば、経口摂取、坐薬、点滴、静脈注射等が挙げられる。

【0072】
<ノロウィルスの不活化方法>
本発明は、リゾチーム類を使用し、住居、食品工場、公共施設、病院等の種々の環境や状況においてノロウィルスを不活化する方法を包含する。但し、医療行為としてノロウィルスを不活化する場合は除いてもよい。
リゾチームは、従来より食品添加物として使用されており、そのリゾチームの塩も抗菌剤として使用されている。特に、塩化リゾチームは消炎剤として広く使用され、安全性が確立している。したがって、リゾチーム若しくはその塩、又はこれらの変性物は、ノロウィルスを不活化するという本発明の有効成分の特異性が損なわれない限り、使用方法に特に制限はない。
即ち、上述のノロウィルス不活化剤の剤型に応じてノロウィルス不活化剤を、ノロウィルスを不活化する対象領域へ噴霧又は塗布したり、ノロウィルスを不活化する対象物と混合したり、摂取させる等の方法をとることができる。

【0073】
<ノロウィルス不活化剤の製造方法>
本発明は、ノロウィルスを不活化する有効成分としてリゾチーム類を種々の固体又は液体の担体に含有させてノロウィルス不活化剤を製造する方法を含む。特に、リゾチーム類を、低級アルコール及び多価アルコールの少なくとも1種を含有する液体と混合してノロウィルス不活化剤を製造する方法、なかでも、アルコール製剤と混合してノロウィルス不活化剤を製造する方法を含む。この場合、リゾチーム類を含有させる対象は、ノロウィルスを不活化するという本発明の有効成分の特異性が損なわれない限り特に制限はなく、例えば、リゾチーム類と上述の配合素材とを混合し、所望の剤型に調製すればよい。

【0074】
<作用効果について>
本発明のノロウィルス不活化剤が有効成分とするリゾチーム類は、従来ノロウィルス不活化剤の有効成分として知られている渋シブ抽出物(カキタンニン)、及びブドウの種子等に含まれるプロアントシアニジンと比較して、ノロウィルスに対して優れた不活化作用を有し、特に、加熱変性物は1分以内という極めて短い作用時間でノロウィルスを不活化させることができる。また、リゾチームは、従前より、食品の日持ちを向上させる食品添加物として使用され、塩化リゾチームは消炎剤として使用されていることから、本発明のノロウィルス不活化剤は安全に使用することができる。さらに、渋シブ抽出物(カキタンニン)、及びブドウの種子等に含まれるプロアントシアニジンはいずれも、ポリフェノール系・色素系の物質であり、噴霧した際に食器や器具が着色する等の問題があったが、本発明のノロウィルス不活化剤は、白色であり、食器や器具を着色しないため、幅広く使用できる。
【実施例】
【0075】
以下、試験例により本発明を具体的に説明する。
[試験例1]
[1]リゾチーム溶液の調製
ノロウィルス不活化剤として、卵白(鶏卵卵白)リゾチーム(キユーピー株式会社製)を蒸留水に溶解し、所定濃度とした後、表1に示す条件で加熱処理し、空冷したものを調製した(試験番号2~14)。また、同様の卵白リゾチーム(非加熱リゾリーム)を水に溶解し、濾過減菌を行うことにより濃度10質量%のリゾチーム溶液を調製した(試験番号1)。各溶液のノロウィルス活性を測定した結果を表1に示す。
【実施例】
【0076】
なお、各試験番号における反応液(水溶液)の波長660nmの光の透過率は、吸光光度計(型名「UV-2450」、株式会社島津製作所製)によって測定された。
【実施例】
【0077】
試験番号8、9、11、13及び14では、上述した第1の加熱工程、第2の加熱工程及び第3の加熱工程として記載された、反応液の透過率の変化が確認された。なお、本試験例では、第1の加熱工程、第2の加熱工程および第3の加熱工程を連続して行っており、表1の加熱時間は第1、第2および第3の加熱工程における加熱時間の合計である。
【実施例】
【0078】
より具体的には、試験番号8、9、11、13及び14のリゾチーム変性物を調製する際の加熱工程において、第1の加熱工程前の反応液の波長660nmの光の透過率が70%超(99%~100%)であるのが、第1の加熱工程によって、該透過率が低下して70%となり、次いで、第2の加熱工程によって、該透過率がさらに低下し、該第2の加熱工程における反応液の透過率の極小値が70%未満(20%~30%)となった後、該透過率が再び上昇し、70%になった後、続く、第3の加熱工程によって、該透過率がさらに上昇し、最終的に、該第3の加熱工程終了後の反応液の透過率が70%を超えていたことが確認された。
【実施例】
【0079】
【表1】
JP0005806434B1_000002t.gif
【実施例】
【0080】
[2]感染価の評価
プラークアッセイ法により、各試験番号の感染価を次のように評価した。
(1)6ウェルプレートに、マウスマクロファージ株化細胞(RAW264.7細胞)をコンフルエントの60~80%まで培養した。
【実施例】
【0081】
(2)一方、ノロウィルスの感染価(PFU/mL)が10~10PFU/mL程度のウィルス液を次のようにして調製した。
まず、マウスマクロファージ株化細胞(RAW264.7細胞)をコンフルエントまで培養し、コンフルエントになった細胞にノロウィルス液1mLを接種し、2日間、37℃、5%CO条件下で培養した。この場合、ノロウィルス液として、Murine norovirus strain 1(MNV-1)(Effect of Food Residues on Norovirus Survival on Stainless Steel Surfaces)を使用した。
【実施例】
【0082】
培養後、細胞が剥がれているのを目視で確認し、凍結融解を4回繰り返して細胞を破壊し、細胞中のウィルスを放出させた。その後、50mL遠沈管に分注し、遠心分離(8,000g、20分)を行い、感染価(PFU/mL)が10~10PFU/mL程度のノロウィルス液を得た。このノロウィルス液は、-80℃で保存し、解凍して使用した。
【実施例】
【0083】
(3)試験番号1~14のリゾチーム溶液に(2)で得たノロウィルス液を等量加え、これを試験番号1~14の評価用サンプルとした。
【実施例】
【0084】
各評価用サンプルを、室温で所定の反応時間(0分,1分又は60分)で放置することにより各評価用サンプル中のリゾチームとノロウィルスを反応させた。
反応後、各評価用サンプルを10倍希釈し、希釈サンプルとした。ここで、xは整数であり、後述する(8)において目視でプラーク数をカウントできる数とする。即ち、(8)で、プラーク数が10~100程度となるように希釈倍率を調整した。
【実施例】
【0085】
(4)(1)のプレートにおいて培養液を全量撤去し、所定時間放置後希釈した希釈サンプルを500μL/wellで2ウェルずつ接種した。
【実施例】
【0086】
(5)マウスマクロファージ株化細胞(RAW264.7細胞)が乾かないように振とうしながら、室温で1時間インキュベートし、ノロウィルスをマウスマクロファージ株化細胞に感染させた。
【実施例】
【0087】
(6)プレート上の500μL/wellの接種液を全量除去し、1.5% Sea Plaque Agarose-DMEM(37℃)を2ml/wellで重層し、それが固まった後、37℃、5%CO条件下で2日間培養した。
【実施例】
【0088】
(7)2日間培養後のプレートに染色液である0.03%ニュートラルレッド溶液を2mL/wellで重層し、37℃、5%CO条件下で1時間インキュベートした。
【実施例】
【0089】
(8)(7)のインキュベート後に0.03%ニュートラルレッド溶液の全量を撤去し、目視でプラーク数をカウントした。得られたプラーク数と希釈倍率から感染価(PFU/mL)を算出した。
【実施例】
【0090】
(9)また、表1に示される結果を元に、以下の式から、試験番号3~14の抗ノロウィルス活性を算出した。その結果、蛍光強度が4,000以上の試験番号8、9、11、13及び14のいずれの場合においても、以下の式で規定される抗ノロウィルス活性は2以上であることが確認された。
抗ノロウィルス活性=Log10(1分間放置前のノロウィルス混合液の感染価)-Log10(1分間放置後のノロウィルス混合液の感染価)
【実施例】
【0091】
その結果、試験番号8、9、11、13及び14のリゾチーム変性物はいずれも、ノロウィルスとの接触により、ノロウィルスの感染価を10分の1以下に低下させることができ、ノロウィルス不活化効果を有することが確認された。
【実施例】
【0092】
また、リゾチーム変性物(試験番号6)及び非加熱のリゾチーム(試験番号1)は、試験番号2のリゾチーム変性物と同等のノロウィルスの不活化効果を示し、リゾチーム変性物(試験番号5)は、試験番号2のリゾチーム変性物より若干強いノロウィルスの不活化効果を示した。
【実施例】
【0093】
[試験例2]
試験例1において、リゾチームの加熱時間及びリゾチーム水溶液の濃度を変更して、表2に示す蛍光強度を有するリゾチーム変性物を得た。
【実施例】
【0094】
【表2】
JP0005806434B1_000003t.gif
【実施例】
【0095】
[試験例3]
本試験例では、リゾチーム変性物について電気泳動を行った。本試験例では、試験例1における加熱条件(加熱温度、加熱時間及び卵白リゾチームの濃度)を変えてリゾチーム変性物を調製した。
【実施例】
【0096】
より具体的には、卵白リゾチームの2質量%水溶液を加熱温度80℃にて加熱時間0分、15分、30分、60分、90分、及び120分時点にて採取した該水溶液50μLにサンプルバッファー950μLを加え、100℃で10分間加熱した後、氷冷し、10μL(リゾチーム変性物として10μg)を電気泳動ゲルにチャージした。なお、サンプルバッファーとして2-メルカプトエタノールを加えていないもの(非還元)を使用した。電気泳動のゲルは、SDS-PAGEmini(テフコ株式会社製、ゲル濃度4-10%、ゲル厚1mm)を使用し、20mAの定電流で泳動した。染色液にはクマシーブルーR250を用いた。
【実施例】
【0097】
図2は、電気泳動の結果を示す写真である。図2に示すように、加熱時間60分、90分、及び120分時点にて、約29KDaの蛋白質(二量体と推測)及び/又は約36.5KDaの蛋白質(三量体と推測)を示すバンドが明らかに検出された。また、加熱時間が長いほど、これらの蛋白質を示すバンドが濃くなる(生成する前記蛋白質の量が増加する)ことが確認された。また、同一の加熱温度においては、加熱時間が長いほど、該蛋白質の表面疎水性が増加し、ノロウィルス不活化作用が高い蛋白質が得られると推測される。
【実施例】
【0098】
[試験例4]
本試験例では、ノロウィルスとリゾチーム類との接触を、電子顕微鏡を用いて撮影した。
ノロウィルス:ノロウィルスとして、MNV-1(ワシントン大学(Washington University)のハーバート.W.ヴァージン博士(Dr.Herbert W. Virgin)より供与)を使用した。また、培地成分を除去したノロウィルス液を作製した。ノロウィルス液の作製方法は下記の通りである。
【実施例】
【0099】
試験サンプル:卵白リゾチーム2質量%水溶液をそれぞれ、80℃で180分間(試験番号9)加熱して得られたリゾチーム変性物を用いた。加熱には恒温水槽を用いた。
【実施例】
【0100】
ノロウィルスとリゾチーム変性物の接触時間はそれぞれ、1分間および1時間とした。
【実施例】
【0101】
試験方法(ネイティブ染色法):
1)試験サンプルをパラフィルム上に滴下し、カーボン支持膜上に2分間接触させた。
2)1)で得られた試験サンプルを、2質量%酢酸ウラン上に2分間接触させた。
3)2)で得られた試験サンプルから余分な液体をろ紙で吸い取らせて、該試験サンプルを乾燥させた。
4)電子顕微鏡(JEOL JEM1200EX)にて80kVで電子顕微鏡写真を撮影した。
【実施例】
【0102】
考察:
文献では、ノロウィルスの大きさ(直径)は30~40nmとされている。図3(a)及び図4(a)および図4(b)において、「NV」はノロウィルスを意味し、丸で囲んだ個所がノロウィルスである。
【実施例】
【0103】
図3(a)に示されるように、本試験例では、直径が30~40nmと、文献に記載されたノロウィルスの大きさとほぼ同じ大きさの球形の物体が観察できた。大きさから判断して、この球形の物体はノロウィルスであると推定される。
【実施例】
【0104】
また、図3(b)に示されるように、非球形のいびつな物体が観察できた。リゾチーム(非加熱)は、大きさ(直径)が3~4nmの粒子であることが知られている。このことから、これらの物体は、リゾチームが加熱によって変性し、形状が変化したものだと推定される。
【実施例】
【0105】
図3(c)に示されるように、ノロウィルスとの接触開始から1分時点では、ノロウィルスが膨化したものと推定される球体が観察された。
【実施例】
【0106】
また、図4(a)に示されるように、ノロウィルスとの接触開始から1時間時点においても、ノロウィルスとの接触開始から1分時点(図3(c))で観察された、ノロウィルスが膨化したものと推測される球体が観察された。また、この時点では、ノロウィルスとの接触開始から1分時点と比較して、ノロウィルスの数が全体的に減少したことが観察された。このことは、上述したように、80℃で180分間の加熱によって得られるリゾチーム変性物によって、ノロウィルスの生存数が1,000分の1以下に減少したことと合致する。
【実施例】
【0107】
一方、図4(b)に示されるように、ノロウィルスとリゾチーム(非加熱)の接触開始から1分時点では、ノロウィルスの変化は観察されなかった。
【実施例】
【0108】
また、リゾチーム(またはリゾチーム変性物)の溶液と接触した場合のノロウィルスの直径は以下の通りだった。
ノロウィルス:35.5±1.70nm
非加熱リゾチーム:37.3±1.77nm
リゾチーム変性物(80℃×180分加熱:49.1±2.12nm)
【実施例】
【0109】
本試験例によれば、リゾチーム変性物との接触により、ノロウィルスが膨化することが確認された。このことから、リゾチーム変性物との接触により、ノロウィルスが膨化する結果、ノロウィルスが不活化されることが推測される。
【実施例】
【0110】
[試験例5]
本試験例では、ヒトノロウィルスに対するリゾチーム変性物の効果をリアルタイムPCR法を用いて検討した。なお、本試験で用いたヒトノロウィルス液は、患者の便から採取され-80℃で凍結保存されていたヒトノロウィルス原液を氷上で解凍し、それをリン緩衝生理食塩水で10倍に希釈した後、10,000rpmで20分間遠心分離し、沈殿物を除去して調製した。
【実施例】
【0111】
試験方法(リアルタイムPCR法):
ヒトノロウィルス液を試験番号13のリゾチーム溶液または蒸留水と等量混合し、1時間放置した。次いで、Takara qPCR Norovirus(GI/GII) Typing kitを用いたリアルタイムPCR法により、ヒトノロウィルス遺伝子量を測定した。
【実施例】
【0112】
その結果、試験番号13のリゾチーム溶液との混合液に残存するヒトノロウィルス遺伝子量(図5右側)は、蒸留水との混合液に残存するヒトノロウィルス遺伝子量(図5左側)よりも1.5log10particles/mL少ないことが確認された。このことから、リゾチーム変性物はヒトノロウィルスを死滅させることが示唆された(図5)。
【実施例】
【0113】
[配合例1]
試験例1のリゾチーム変性物(試験番号9)を使用して、内容物が下記の配合であるソフトカプセルを製した。
【実施例】
【0114】
<配合割合>
リゾチーム変性物(試験番号9) 20%
オリーブ油 50%
ミツロウ 10%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 10%
乳化剤 10%
————————————————————
計 100%
【実施例】
【0115】
[配合例2]
試験例1のリゾチーム変性物(試験番号11)を使用して、内容物が下記の配合である、下記の配合の散剤(顆粒剤)を製した。
【実施例】
【0116】
<配合割合>
リゾチーム変性物(試験番号11) 10%
乳糖 60%
トウモロコシデンプン 25%
ヒプロメロース 5%
————————————————————
計 100%
【実施例】
【0117】
[配合例3]
試験例1のリゾチーム変性物(試験番号13)を使用して、内容物が下記の配合である、下記の配合の錠剤を製した。
【実施例】
【0118】
<配合割合>
リゾチーム変性物(試験番号13) 25%
乳糖 24%
結晶セルロース 20%
トウモロコシデンプン 15%
デキストリン 10%
乳化剤 5%
二酸化ケイ素 1%
————————————————————
計 100%
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、ノロウィルスを不活化する種々の場面で有効であり、例えば、手指、体躯、医療器具、学校,病院,福祉施設等の施設、工場、住居等の消毒を行う消毒剤、食品添加物、ノロウィルスの除去剤、感染予防又は治療薬として有用である。
【0120】
本発明に係る実施の形態の説明は以上である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4