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明細書 :トリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月6日(2017.4.6)
発明の名称または考案の名称 トリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法
国際特許分類 C12N   1/13        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
C12R   1/89        (2006.01)
FI C12N 1/13
C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNA
C12P 7/64
C12N 1/13
C12R 1:89
C12P 7/64
C12R 1:89
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 26
出願番号 特願2016-507824 (P2016-507824)
国際出願番号 PCT/JP2015/057302
国際公開番号 WO2015/137449
国際出願日 平成27年3月12日(2015.3.12)
国際公開日 平成27年9月17日(2015.9.17)
優先権出願番号 2014049651
優先日 平成26年3月13日(2014.3.13)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】岩井 雅子
【氏名】太田 啓之
【氏名】下嶋 美恵
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AD85
4B064CA02
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC09
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA03
4B065BB31
4B065CA13
4B065CA41
4B065CA60
要約 藻類の細胞中にトリアシルグリセロールを効率的に蓄積させることを目的として、トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子とリン欠乏応答プロモーターと3'非翻訳領域を藻類に導入する方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
藻類に以下の(1)~(3)を含むコンストラクトを導入することを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター、
(3)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の下流に配置され、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域。
【請求項2】
リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項3】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項4】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項5】
藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項6】
藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項7】
以下の(1)~(3)を含むコンストラクトが導入されていることを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター、
(3)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の下流に配置され、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域。
【請求項8】
リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする請求項7に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【請求項9】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする請求項7又は8に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【請求項10】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする請求項7又は8に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【請求項11】
藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【請求項12】
藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類をリン欠乏条件下で培養し、藻類細胞中にトリアシルグリセロールを蓄積させ、蓄積したトリアシルグリセロールを採取することを特徴とするトリアシルグリセロールの製造方法。
【請求項14】
藻類に以下の(1)及び(2)を含むコンストラクトを導入することを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター。
【請求項15】
リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする請求項14に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項16】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする請求項14又は15に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項17】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする請求項14又は15に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項18】
藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする請求項14乃至17のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【請求項19】
藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする請求項14乃至17のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアシルグリセロール(以下、「TAG」という)高生産性藻類の作製法、及びTAG高生産性藻類、並びに前記藻類を用いたTAGの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii、以下「C. reinhardtii」という場合がある。)などの藻類にTAG合成酵素遺伝子を導入し、それにより細胞中にTAG蓄積させることは従来行われてきた(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
例えば、非特許文献1には、C. reinhardtiiに、強発現プロモーターであるpsaDを付加したDGAT2遺伝子を導入し、これを窒素又は硫黄欠乏条件下で培養し、TAGを細胞中に蓄積させる方法が記載されている。特許文献1にも、非特許文献1と同様に、psaDを付加したDGAT2遺伝子を導入したC. reinhardtiiが記載されている。
【0004】
TAGの生産に関しては、C. reinhardtii以外にも、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類も注目されている。この藻類は、C. reinhardtiiの100倍程の高密度で培養することが可能であることから、C. reinhardtiiよりもTAGの生産に適していると考えられる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開WO 2011/156520
【0006】

【非特許文献1】M. La Russa et al., J. Biotechnol. 2012 Nov 30; 162(1):13-20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにTAG合成酵素遺伝子を藻類に導入することにより、細胞中にTAGを蓄積させる方法は既に知られているが、それらの方法では十分な量のTAGを蓄積させることができなかった。例えば、非特許文献1には、窒素欠乏、硫黄欠乏のいずれの条件においても、DGAT2遺伝子導入株と野生株との間にTAGの蓄積量に統計的に意味のある差異はなかったと記載されている(Fig. 5など)。
【0008】
本発明は、このような背景の下、藻類の細胞中にTAGを効率的に蓄積させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、まず、従来の方法において十分な量のTAGが蓄積しないのはプロモーターに原因があるのではないかと考えた。即ち、TAGは栄養欠乏時に蓄積されるが、栄養欠乏時には、psaDのような強発現プロモーターは十分機能していないのではないかと考えた。そこで、強発現プロモーターに代えて、栄養欠乏応答プロモーターを使用するという発想を得た。また、本発明者は、窒素欠乏条件とリン欠乏条件におけるTAGの蓄積量とTAGの脂肪酸組成を調べた。その結果、1)増殖の盛んな細胞を植え継いだ場合、窒素欠乏条件よりリン欠乏条件の方がTAGの蓄積量が多いこと、2)窒素欠乏条件では、葉緑体の膜脂質由来の脂肪酸を含むTAGが多く、新しく合成された脂肪酸は少ないこと、3)窒素欠乏、リン欠乏のいずれの条件でも細胞の増殖は阻害されるが、リン欠乏条件では、窒素欠乏条件ほど、細胞の増殖は阻害されないことなどがわかった。これらの知見から、TAG高生産性藻類としては、窒素欠乏応答性のものよりも、リン欠乏応答性のものの方が好ましいという発想を得た。更に、本発明者は、リン欠乏応答プロモーターとしては、C. reinhardtiiのSQD2a遺伝子のプロモーターが好適であり、TAG合成酵素遺伝子としては、C. reinhardtiiのDGTT4遺伝子が好適であるという知見も得た。
【0010】
以上の知見に基づき、本発明者は、SQD2a遺伝子のプロモーターを付加したDGTT4遺伝子をC. reinhardtiiに導入することにより、高いTAG生産能を持つC. reinhardtii株の作製に成功し、このTAG高生産性C. reinhardtii株に関する特許出願を行った(特開2014-68638、この出願は、本願の優先権の基礎である特願2014‐049651の出願時点においては出願公開されていなかった。)。
【0011】
本発明者は、この研究を更に進め、C. reinhardtiiよりもTAGの生産に適した藻類であるナンノクロロプシス属の藻類についても、高いTAG生産能を持つ藻類株を得ることに成功した。また、DGTT4遺伝子をSQD2a遺伝子のプロモーターとナンノクロロプシス属の藻類由来の遺伝子の3'非翻訳領域で挟み込むような構造のコンストラクトを作製し、これをナンノクロロプシス属の藻類の細胞に導入することにより、効率的にTAG高生産性株を作製できるという知見を得た。
【0012】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔19〕を提供するものである。
〔1〕 藻類に以下の(1)~(3)を含むコンストラクトを導入することを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター、
(3)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の下流に配置され、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域。
【0014】
〔2〕リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする〔1〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0015】
〔3〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0016】
〔4〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0017】
〔5〕藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0018】
〔6〕藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0019】
〔7〕以下の(1)~(3)を含むコンストラクトが導入されていることを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター、
(3)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の下流に配置され、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域。
【0020】
〔8〕リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする〔7〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【0021】
〔9〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする〔7〕又は〔8〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【0022】
〔10〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする〔7〕又は〔8〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【0023】
〔11〕藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする〔7〕乃至〔10〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【0024】
〔12〕藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする〔7〕乃至〔10〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類。
【0025】
〔13〕〔7〕乃至〔12〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類をリン欠乏条件下で培養し、藻類細胞中にトリアシルグリセロールを蓄積させ、蓄積したトリアシルグリセロールを採取することを特徴とするトリアシルグリセロールの製造方法。
【0026】
〔14〕藻類に以下の(1)及び(2)を含むコンストラクトを導入することを特徴とするトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法、
(1)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子、
(2)トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター。
【0027】
〔15〕リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする〔14〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0028】
〔16〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする〔14〕又は〔15〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0029】
〔17〕トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする〔14〕又は〔15〕に記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0030】
〔18〕藻類が、ナンノクロロプシス属、クラミドモナス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、クロレラ属、又はフィスチュリフェラ属に属する藻類であることを特徴とする〔14〕乃至〔17〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0031】
〔19〕藻類が、ナンノクロロプシス属に属する藻類であることを特徴とする〔14〕乃至〔17〕のいずれかに記載のトリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法。
【0032】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2014‐049651の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の高生産性藻類は、例えば、以下のような効果を有する。
(1)従来知られている藻類よりも、多くのTAGを蓄積する。
(2)TAG合成酵素遺伝子はリン欠乏応答プロモーターの制御下にあるので、通常培養時にこの遺伝子は強発現しない。このため、TAG蓄積のタイミングをコントロールすることができる。
(3)通常条件に比べて増殖効率は低下するものの、リン欠乏条件下でもある程度の細胞増殖は可能なので、細胞を増殖させながら、TAGを蓄積させることも可能である。
(4)蓄積されるTAG中の脂肪酸は、既に合成されている脂質(葉緑体の脂質など)に由来するものではなく、新たに合成されたものなので、有用な特殊脂肪酸の生産にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】栄養欠乏条件下での増殖曲線を示す図。図中のf/2はf/2培地、Nは窒素欠乏f/2培地、Pはリン欠乏f/2培地で培養した場合をそれぞれ示す。
【図2】培養開始から0日、5日、8日、及び13日後の培養液の状態を示す写真。図中のf/2はf/2培地、Nは窒素欠乏f/2培地、Pはリン欠乏f/2培地で培養した場合をそれぞれ示す。
【図3】栄養欠乏時の細胞の蛍光顕微鏡写真。図中のf/2はf/2培地、-Nは窒素欠乏f/2培地、-Pはリン欠乏f/2培地、TAPはTAP培地、TAP-Nは窒素欠乏TAP培地、TAP-Pはリン欠乏TAP培地で培養した場合をそれぞれ示す。
【図4】培養液1L当たりのTAG量を示す図。
【図5】TAG生産系強化のためのコンストラクトの構造を模式的に表した図。
【図6】定量PCRによるCrDGTT4遺伝子の発現確認実験の結果を示す図。
【図7】細胞当たりのTAG量を示す図。図中のP4d及びP7dはそれぞれ培養4日目及び7日目のTAG量を示す。各棒グラフは、左から野生株、コントロール株、#18、#3、#8、#9、#19、#21のTAG量を示す。なお、#19の7日目のTAG量は測定していない。
【図8】培養液1L当たりのTAG量を示す図。図中のP4d及びP7dはそれぞれ培養4日目及び7日目のTAG量を示す。各棒グラフは、左から野生株、コントロール株、#18、#3、#8、#9、#19、#21のTAG量を示す。なお、#19の7日目のTAG量は測定していない。
【図9】培養4日目のTAG脂肪酸組成を示す図。各棒グラフは、左から野生株、コントロール株、#18、#3、#8、#9、#19、#21のTAG量を示す。
【図10】培養7日目のTAG脂肪酸組成を示す図。各棒グラフは、左から野生株、コントロール株、#18、#3、#8、#9、#19、#21のTAG量を示す。
【図11】N. 2145を栄養欠乏下で育てたときの遺伝子発現の変化を示す図(栄養欠乏4日目)。図中のF2NはF2N50%SW培地、Pはリン欠乏F2N50%SW培地、Nは窒素欠乏F2N50%SW培地で培養した場合をそれぞれ示す。グラフの縦軸は、アクチンの発現量に対する相対値を示す。
【図12】N. 2145を栄養欠乏下で育てたときの遺伝子発現の変化を示す図(栄養欠乏6日目)。図中のF2NはF2N50%SW培地、Pはリン欠乏F2N50%SW培地、Nは窒素欠乏F2N50%SW培地で培養した場合をそれぞれ示す。グラフの縦軸は、アクチンの発現量に対する相対値を示す。
【図13】N. 2145由来のプロモーターを用いたコンストラクトの構造を模式的に表した図。
【図14】定量PCRによるCrDGTT4遺伝子の発現確認実験の結果を示す図。左図は栄養欠乏4日目の結果を示し、右図は栄養欠乏6日目の結果を示す。
【図15】細胞当たりのTAG量[pg](上図)と培養液当たりのTAG量[mg](下図)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0036】
本発明のTAG高生産性藻類の作製法は、藻類に(1)TAG合成酵素遺伝子、(2)TAG合成酵素遺伝子の上流に配置されるリン欠乏応答プロモーター、及び(3)TAG合成酵素遺伝子の下流に配置され、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域を含むコンストラクトを導入することを特徴とするものである。

【0037】
TAG合成酵素遺伝子としては、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)遺伝子を使用することができる。DGATには、DGAT1とDGAT2という2種類のアイソザイムが存在する。本発明においてはいずれも使用できるが、DGAT2を使用するのが好ましい。DGAT2やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されているので(例えば、Jay M. Shockey et al., The Plant Cell, Vol. 18 September 2006, 2294-2313、Miller et al., Plant Physiology, vol.154 2010, 1737-1752)、当業者はDGAT2遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。DGAT2遺伝子の具体例としては、後述するC. reinhardtiiのDGTT4遺伝子のほか、Nannochloropsis sp.のDGAT2A遺伝子(その塩基配列を配列番号28に示す。)、DGAT2B遺伝子(その塩基配列を配列番号29に示す。)、DGAT2C遺伝子(その塩基配列を配列番号30に示す。)、DGAT2D遺伝子(その塩基配列を配列番号31に示す。)、DGAT2E遺伝子(その塩基配列を配列番号32に示す。)、DGAT2F遺伝子(その塩基配列を配列番号33に示す。)、DGAT2G遺伝子(その塩基配列を配列番号34に示す。)、DGAT2H遺伝子(その塩基配列を配列番号35に示す。)、DGAT2I遺伝子(その塩基配列を配列番号36に示す。)、DGAT2J遺伝子(その塩基配列を配列番号37に示す。)、DGAT2K遺伝子(その塩基配列を配列番号38に示す。)などを挙げることができる。

【0038】
DGAT2遺伝子としては、例えば、DGTT4遺伝子を使用することができる。DGTT4は、C. reinhardtiiに含まれるDGAT2ファミリーに属するタンパク質であり、このタンパク質やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されているので(例えば、Boyle et al. The Journal of biological chemistry, 287 (2012), pp. 15811-15825、 Chen JE and Smith AG, J Biotechnol. 2012 Jun 29)、当業者はDGTT4遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。DGTT4のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号2に示すとおりである。本発明におけるDGTT4遺伝子には、C. reinhardtiiのDGTT4遺伝子(Cre03.g205050)だけでなく、他の生物におけるこの遺伝子に相当する遺伝子(ホモログなど)も含まれる。このようなC. reinhardtii以外の生物におけるDGTT4遺伝子の具体例としては、Volvox carteri f. nagariensisのDGAT2 (JGI protein ID77655)遺伝子、Ostreococcus tauriのDGAT2 (JGI protein ID 21937)遺伝子などを挙げることができる。

【0039】
DGTT4遺伝子の塩基配列としては、配列番号2に示す塩基配列を例示できる。また、DGTT4遺伝子の塩基配列は、配列番号2示す塩基配列と高い同一性を示す塩基配列であって、活性(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性など)のあるタンパク質をコードしている塩基配列であってもよい。ここでいう「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。なお、本明細書における「同一性」の値は、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出することができる。例えば、NCBIの相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。

【0040】
また、DGTT4遺伝子の塩基配列は、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、活性(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性など)のあるタンパク質をコードするものであってもよい。ここでいう「1若しくは数個」とは、通常は、1~10個であり、好ましくは、1~5個であり、より好ましくは1~3個であり、更に好ましくは1個である。また、「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。

【0041】
TAG合成酵素遺伝子としては、DGTT4遺伝子以外の酵素遺伝子を使ってもよい。例えば、多価不飽和脂肪酸を多く含むTAGを藻類に生産させたい場合は、多価不飽和脂肪酸を優先的にTAG内に取り込むTAG合成酵素遺伝子を使えばよい。このような遺伝子としては、例えば、タラシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)の持つDGAT2遺伝子(特表2011-507513号公報)など挙げることができる。

【0042】
リン欠乏応答プロモーターとしては、例えば、SQD2遺伝子のプロモーターを使用することができる。SQD2はスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の合成に関与する酵素であり、この酵素やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されており(例えば、 Yu B, Xu C, Benning C., Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Apr;99(8):5732-7.)、また、この酵素のアミノ酸配列もデータベース上で公表されているので(例えば、C. reinhardtiiのSQD2(SQD2a)のアミノ酸配列はGenBank Accession No. XP_001689662に記載されている。)、当業者はSQD2遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。SQD2遺伝子のプロモーターとしては、C. reinhardtiiのSQD2a遺伝子のプロモーター(その塩基配列を配列番号1に示す。)、Nannochloropsis sp.のSQD2A遺伝子のプロモーター(その塩基配列を配列番号45に示す。)、Nannochloropsis sp.のSQD2B遺伝子のプロモーター(その塩基配列を配列番号15に示す。)などを使用することができる。

【0043】
SQD2遺伝子のプロモーターの塩基配列としては、配列番号1、配列番号15若しくは配列番号45に示す塩基配列、又は配列番号1、配列番号15若しくは配列番号45に示す塩基配列と高い同一性を示す塩基配列であって、プロモーター活性を維持している塩基配列などを例示できる。ここでいう「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。

【0044】
また、SQD2遺伝子のプロモーターの塩基配列は、配列番号1、配列番号15若しくは配列番号45に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、プロモーター活性を維持している塩基配列であってもよい。ここでいう「1若しくは数個」とは、通常は、1~10個であり、好ましくは、1~5個であり、より好ましくは1~3個であり、更に好ましくは1個である。また、「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。

【0045】
リン欠乏応答プロモーターとしては、SQD2遺伝子のプロモーター以外のプロモーターを使ってもよい。例えば、LDSP遺伝子のプロモーター(その塩基配列を配列番号46に示す。)、LPAT-Y遺伝子のプロモーター(その塩基配列を配列番号44に示す。)なども使うことができる。

【0046】
リン欠乏応答プロモーターは、藻類に導入するコンストラクトにおいて、TAG合成酵素遺伝子の上流に配置される。リン欠乏応答プロモーターは、TAG合成酵素遺伝子に直接接続していてもよいし、リンカーなどを介して接続していてもよい。

【0047】
3'非翻訳領域は、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域を使用する。実施例では、VCP(violaxanthin/chlorophyll a-binding protein)1の3'非翻訳領域を使用しているが、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来する遺伝子の3'非翻訳領域であればどのようなものでもよい。VCP1遺伝子以外の遺伝子の3'非翻訳領域としては、カリフラワーモザイクウィルスのT35Sの3'非翻訳領域、ナンノクロロプシス属の藻類のRubisco小サブユニットRBCS2の3'非翻訳領域などを例示できる(Genome, Functional Gene Annotation, and Nuclear Transformation of the Heterokont Oleaginous Alga Nannochloropsis oceanica CCMP1779, PLoS Genet. 2012 Nov;8(11). Epub 2012 Nov 15.)。3'非翻訳領域の長さは特に限定されないが、500~1500塩基とするのが好ましく、500~700塩基とするのが更に好ましい。コンストラクト中にTAG合成酵素遺伝子とプロモーターのほかに、この3'非翻訳領域を含めることにより、効率的にTAG高生産性藻類を作製できるようになる。

【0048】
3'非翻訳領域は、藻類に導入するコンストラクトにおいて、TAG合成酵素遺伝子の下流に配置される。3'非翻訳領域は、TAG合成酵素遺伝子に直接接続していてもよいし、リンカーなどを介して接続していてもよい。

【0049】
コンストラクトは、上述したTAG合成酵素遺伝子、プロモーター、及び3'非翻訳領域のほかに、他の遺伝子等、例えば、抗生物質耐性遺伝子やそれを発現させるためのプロモーターなどを含んでいてもよい。

【0050】
コンストラクトの導入対象とする藻類としては、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類が好ましいが、これ以外の藻類、例えば、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、オステレオコックス(Ostreococcus)属、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、クレブソルミディウム(Klebsormidium)属、クロロキブス(Chlorokybus)属、スピロギラ(Spirogyra)属、カラ(Chara)属、コレオケーテ(Coleochaete)属、クロレラ(Chlorella)属、又はフィスチュリフェラ(Fistulifera)属に属する藻類などであってもよい。ナンノクロロプシス属の藻類としては、ナンノクロロプシス・オクラタ (Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・ ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)などを例示でき、クラミドモナス属の藻類としては、クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)などを例示でき、シュードコリシスチス属の藻類としては、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)などを例示でき、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属の藻類としてはフェオダクチラム・トリコルヌーツム(Phaeodactylum tricornutum)を例示でき、オステレオコックス属の藻類としてはオステレオコックス・タウリ(Ostreococcus tauri)を例示でき、シアニディオシゾン属の藻類としてはシアニディオシゾン・メロラ(Cyanidioschyzon merolae)を例示でき、クレブソルミディウム属の藻類としてはクレブソルミディウム・フラチダム(Klebsormidium flaccidum)を例示でき、カラ属の藻類としては、カラ・フラギリス(Chara fragilis)を例示でき、コレオケーテ属の藻類としては、コレオケーテ・スクタータ(Coleochaete scutata)を例示でき、クロレラ属の藻類としては、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)などを例示でき、フィスチュリフェラ属の藻類としては、フィスチュリフェラ・ソラリス(Fistulifera solaris)などを例示できる。

【0051】
上述したように、3'非翻訳領域は、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種の藻類に由来するものである必要があるが、TAG合成酵素遺伝子とリン欠乏応答プロモーターは、コンストラクトを導入しようとする藻類と同種、異種のいずれの藻類由来のものであってもよい。

【0052】
コンストラクトの構築やこれを藻類に導入する操作などは常法に従って行うことができる。

【0053】
上述した方法によって作製されたTAG高生産性藻類の培養は、TAG蓄積時にリン欠乏条件下で培養すること以外、通常の藻類の培養と同様に行うことができる。例えば、藻類として、ナンノクロロプシス属の藻類を培養する場合は、培地としては、f/2培地などを用いることができ、培養温度は20~25℃程度とすることができ、培養時の光強度は10~40μE/m2/secとすることができ、クラミドモナス属の藻類を培養する場合は、培地としては、TAP培地などを用いることができ、培養温度は23~25℃程度とすることができ、培養時の光強度は10~40μE/m2/secとすることができる。

【0054】
TAG高生産性藻類にTAGを蓄積させる場合は、リン欠乏条件下で培養する。リン欠乏条件下での培養は、例えば、対数増殖期の細胞を、増殖時に用いていた培地からリン成分(例えば、K2HPO4、KH2PO4など)を除いた培地、あるいはリン成分の濃度を33μM以下にした培地に移して培養することにより、行うことができる。通常、8~13日程度の培養で細胞中に十分な量のTAGが蓄積される。また、ナンノクロロプシス属の藻類など高密度培養が可能な藻類では、リン成分を除いた培地等に移すことなく、増殖時に用いていた培地で、高密度条件下で一定期間以上培養することによっても、TAGを蓄積させることができる。これは、長期間培養することにより、自然にリン欠乏条件になるためであると考えられる。この高密度培養法では、通常、7~20日程度の培養で細胞中に十分な量のTAGが蓄積される。なお、ここでいう「高密度培養」とは、通常、細胞密度が1x108cells/ml以上の培養をいう。

【0055】
TAGを蓄積した細胞からTAGの採取は常法に従って行うことができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
〔実験材料〕
(1)藻類株
真正眼点藻 Nannochloropsis NIES-2145 (以後N. 2145)を使用した。この藻類株は独立行政法人国立環境研究所(http://www.nies.go.jp/)から入手可能である。
【実施例】
【0057】
緑藻Chlamydomonas reinhardtii C9株(CC-408 mt-)を使用した。この藻類株はChlamydomonas Center (http://chlamycollection.org/)から入手可能である。
(2)遺伝子名とprotein ID
遺伝子名とprotein ID(JGI Chlamydomonas reinhardtii 4.0)は以下の通りである。
DGTT4: PID190539
SQD2a: PID116277
CBLP: PID164254
(3)遺伝子配列
C. reinhardtii由来のSQD2aプロモーター(pCrSQD2a)の配列は、配列番号1に示す通りである。
【実施例】
【0058】
C. reinhardtii由来のDGTT4遺伝子(CrDGTT4)の配列は、配列番号2に示す通りである。
【実施例】
【0059】
sh ble遺伝子の配列は、配列番号4に示す通りである。
【実施例】
【0060】
ナンノクロロプシス由来のVCP2遺伝子のプロモーター(NannoVCP2gene promoter)の配列は、配列番号5に示す通りである。
【実施例】
【0061】
ナンノクロロプシス由来のVCP1遺伝子の3'非翻訳領域(NannoVCP1(VCP1) 3'UTR)の配列は、配列番号6に示す通りである。
【実施例】
【0062】
〔実験操作〕
(1)培養条件
C. reinhardtiiの培養にはTAP培地を通常培養の培地として使用した。
【実施例】
【0063】
Na2EDTA ・ 2H2O 5 g, ZnSO4 ・ 7H2O 2.2 g, H3BO3 1.14 g, MnCl2 ・ 4H2O 506 mg, FeSO4 ・ 7H2O 499 mg, CoCl2 ・ 6H2O 161 mg, CuSO4・ 5H2O 157 mg, ( NH4 )6Mo7O24 ・ 4H2O 110 mg, KOH 1.6gをイオン交換水 1Lへ溶解し、 Hutner’s trace elementsとして4℃に保存しておいた。
【実施例】
【0064】
NH4Cl 400 mg , CaCl2 ・ 2H2O 51 mg, MgSO4 ・ 7H2O 100 mg, K2HPO4 119 mg, KH2PO4 60.3 mg, Hutner’s trace elements 10 mL, 酢酸 1 mL, Tris ( hydroxymethyl ) aminomethane 2.42 gをイオン交換水 998 mLへ溶解し、オートクレーブ滅菌してから液体TAP培地として使用した。プレート培地として使用する場合はINA Agar 12 gをオートクレーブ前に添加した。
【実施例】
【0065】
TAP培地を通常培養の培地として使用し、20~30 μE/m2/sec, 23℃で旋回培養した。リン欠乏培地ではTAP培地から K2HPO4, KH2PO4をのぞき、窒素欠乏培地では NH4Clをのぞいた。
【実施例】
【0066】
N. 2145の培養にはf/2培地又はF2N50%SW培地を通常培養の培地として使用した。
【実施例】
【0067】
f/2培地は、以下のように調製した。
Na2EDTA ・ 2H2O 440 mg, FeCl3 ・ 6H2O 316 mg, CoSO4 ・ 7H2O 1.2 mg, ZnSO4 ・ 7H2O 2.1 mg, MnCl2 ・ 4H2O 18 mg, CuSO4 ・ 5H2O 0.7 mg, Na2MoO4 ・ 2H2O 0.7 mgをイオン交換水 100 mLへ溶解し、f/2 metalとして4℃に保存しておいた。NaNO3 7.5 mg, NaH2PO4 ・ 2H2O 0.6 mg, Vitamin B12 0.05 μg, Biotin 0.05 μg, Thiamine HCl 10 μg, Na2SiO3 ・ 9H2O 1 mg, f/2 metal 0.1 mLを人工海水 99.9 mLへ溶解し、フィルター滅菌してから液体f/2培地として使用した。プレート培地として使用する場合は NaNO3 7.5 mg, NaH2PO4 ・ 2H2O 0.6 mg, Vitamin B12 0.05 μg, Biotin 0.05 μg, Thiamine HCl 10 μg, Na2SiO3 ・ 9H2O 1 mg, f/2 metal 0.1 mlを2倍濃度の人工海水 50 mLに溶解し、フィルター滅菌しておき、別のフラスコでINA Agar 8 gをイオン交換水 50 mLに加えてオートクレーブしてから、培地に加えた。
【実施例】
【0068】
野生型N. 2145を用いた実験(図1~4)では、f/2培地を通常培養の培地として使用し、20~30 μE/m2/sec, 23℃で旋回培養した。リン欠乏培地ではf/2培地からNaH2PO4をのぞき、窒素欠乏培地ではNaNO3をのぞいた。
【実施例】
【0069】
F2N50%SW培地は、F2N培地(PNAS, 2011, vol. 108 (no. 52) 21265-21269)に含まれる人工海水を50%濃度にしたものであり、以下のように調製した。
Tris(hydroxymethyl)aminomethane 12.11gをイオン交換水 100 mLへ溶解し、HClでpH7.6にあわせたものを1 M Tris(pH7.6)とした。1 M Tris(pH7.6) 10 mL, NH4Cl 26.745 mg, NaNO3 7.5 mg, NaH2PO4・2H2O 3.0 mg, Vitamin B12 0.25 μg, Biotin 0.25 μg, Thiamine HCl 50 μg, Na2SiO3 ・ 9H2O 1 mg, f/2 metal 0.5 mLを50%濃度の人工海水へ溶解して全量100 mLとし、フィルター滅菌してから液体F2N50%SW培地として使用した。脂質合成遺伝子発現のコンストラクトを導入したN. 2145を用いた実験(図6~15)では、F2N50%SW培地をコントロール培地、コントロール培地からNaH2PO4をのぞいたものをリン欠培地、コントロール培地からNaNO3、NH4Clをのぞいたものを窒素欠乏培地とした。
【実施例】
【0070】
(2)脂質抽出
培養液100~450 mLを800×g, 5分間遠心して、培養細胞を沈殿させ、イオン交換水1 mLに懸濁した後、-80℃に保存した。
【実施例】
【0071】
凍結細胞を解凍し、クロロホルム 1 mL, メタノール 2 mLを添加し、10分おきに懸濁しながら1時間室温に置いた。800 g, 5分間スイングローターで遠心し、上清 4 mLを回収した。沈殿に1%(W/V)KCl 0.8 mL, クロロホルム 1 mL, メタノール 2 mLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上清 3.8 mLを先ほどの上清とあわせて回収した。上清 7.8 mLにクロロホルム 2 mL, 1%(W/V)KCl 1.2 mLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、下層の脂質抽出液を回収した。脂質抽出液を乾燥させ、60 mg/mLになるようにクロロホルム:メタノール=2:1に溶解した後、-20℃に保存した。
【実施例】
【0072】
(3)脂質分析
脂質抽出液50 μLを薄層シリカプレートにスポットし、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=160:40:4の展開液で45分間展開した。0.001%プリムリンを用いて、UV照射下でTAGを確認した。TAGがのっている部分のシリカを削り取り、1mM ペンタデカン酸 100 μL, 5% 塩酸/メタノールを500 μLを添加し、懸濁した後、85℃, 1時間静置した。ヘキサン 500 μLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上層のメチルエステル化した脂肪酸を回収した。下層に再びヘキサン500 μLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上層を回収した。メチルエステル化した脂肪酸を乾燥させた後、ヘキサン60 μLに溶解し、ガスクロマトグラフィサンプルとした。ガスクロマトグラフィはSHIMADZU GC-2014にHR-SS-10 25m (length) × 0.25mm (i.d.) (Shinwa Chemical Industries, Ltd., Japan)を取り付けて行った。
【実施例】
【0073】
(4)RNA抽出
凍結細胞に3倍量以上のRNA抽出液と3倍量以上の酸性フェノールを加え、凍ったまま超音波破砕(超音波15秒、氷冷30秒)を4回行った。20000×g, 5分間, 4℃で遠心し、上清400~500 μLを回収した。上清に酸性フェノール 300 μL, クロロホルム 300 μLを添加し、懸濁した後、14k rpm, 5分間, 4℃で遠心し、上清400~500 μLを回収し、この操作を5回繰り返した。上清の1/10倍量の3 M 酢酸ナトリウム、1倍量のイソプロパノールを添加し、懸濁した後、20000×g, 5分間, 4℃で遠心した。沈殿物に70% エタノールを1 mL加え、20000×g,5分間, 4℃で遠心し、この操作を2回繰り返した後、沈殿物を乾燥させた。乾燥した沈殿を滅菌イオン交換水 400 μLに溶解した後、1 μg/μL以上の濃度の核酸であることを確認した。核酸 40 μLに10×DNase I Buffer 5 μL, DNase I 0.5 μL, 滅菌イオン交換水 4.5 μLを加え、37℃, 30分間静置した。酸性フェノール 50 μL, クロロホルム 50 μLを添加し、懸濁した後、20000×g,10分間, 4℃で遠心し、上清 35 μLを回収した。上清の1/10倍量の3 M 酢酸ナトリウム、1倍量のイソプロパノールを添加し、懸濁した後、20000×g,10分間, 4℃で遠心した。沈殿物に70% エタノール 150 μL加え、20000×g,10分間, 4℃で遠心し、この操作を2回繰り返した後、沈殿物を乾燥させた。乾燥した沈殿を滅菌イオン交換水 50 μLに溶解した後、1 μg/μL以上の濃度のRNAであることを確認した。
【実施例】
【0074】
(5)cDNAの調製
RNA 1 μgに10 mM dNTP 0.5 μL, 100 mM oligo dT18 0.25 μL, 100 mM random 6mer 0.25 μL, RNase free waterを適量(0 ~ 5 μL)加えて全量を6 μLとし、65℃, 5分間処理した後、氷上に静置した。さらに5xcDNA Synthesis Buffer 2 μL, 0.1 M DTT 0.5 μL, RNase OUT 0.5μL, Thermo Script RT 0.5 μL, RNase free water 0.5 μLを添加し、50℃, 40分間, 60℃, 20分間, 85℃, 5分間 処理した。得られたcDNAは-20℃ に保管した。
【実施例】
【0075】
(6)定量RT-PCR法
2×SYBR Green (TAKARA) 12.5 μL, 10 μM primer_F 1 μL, 10 μM primer_R 1 μL, 5倍希釈したcDNA 2 μL, 滅菌イオン交換水 8.5 μLを懸濁し、反応に用いた。
【実施例】
【0076】
プライマーは以下のものを使用した。
Nanno_realRT_TUBf AGCATGGCATTGACTCCACC(配列番号7)
Nanno_realRT_TUBr AACGGCCTCGTTGTAGTACACG(配列番号8)
CrDGTT4_realRT_F GTTCGTGCAGTTCAGTGTGG(配列番号9)
CrDGTT4_realRT_R CGGGCAGAATCCGAACA(配列番号10)
【実施例】
【0077】
(7)プロモーター配列の獲得
C. reinhardtii C9株のゲノムを鋳型にPCR反応を行い、プロモーター領域pCrSQD2aを得た。得られた約1kbの配列をpMD20-T vector(TAKARA)またはpZErO-2(Invitrogen)へ導入した。
【実施例】
【0078】
2x GC Buffer II 5 μL, 2.5 mM dNTP 1.6 μL, C9株のゲノム 1 μL, LA Taq 0.05 μL, 10 μM primer_F 1 μL, 10 μM primer_R 1 μL, 滅菌イオン交換水 1.35 μLを懸濁し、PCR反応に用いた。
【実施例】
【0079】
PCR反応条件は以下の3stepで行った。
step1 94℃ 2分間
step2 94℃ 45秒間, 55℃ 30秒間, 71℃ 1分30秒間を40サイクル
step3 71℃ 5分間
プライマーは以下のものを使用した。
SQD2a_F2 CGGGATAGTTGTAGCTGTAG(配列番号11)
SQD2a_R2 CGAAGAGTTGAGGTGTGTGTTC(配列番号12)
【実施例】
【0080】
(8)CrDGTT4遺伝子の配列の獲得
リン欠乏時のC. reinhardtiiのcDNAを鋳型にPCR反応を行い、DGTT4遺伝子の全長を得た。得られた約1kbの配列をpMD20-T vector(TAKARA)またはpZErO-2(Invitrogen)へ導入した。
【実施例】
【0081】
LA PCR x10 buffer 1.5 μL, 2.5 mM dNTP 1.2 μL, MgCl2 1.05 μL, LA Taq 0.075 μL, 5 M ベタイン 1.5 μL, DMSO 0.45 μL, 10 μM primer_F 1.5 μL, 10 μM primer_R 1.5 μL, cDNA 0.2 μL, 滅菌イオン交換水 6.1 μLを懸濁し、PCR反応に用いた。
【実施例】
【0082】
PCR反応条件は以下の3stepで行った。
step1 94℃ 3分間
step2 94℃ 30秒間, 54℃ 30秒間, 72℃ 1分間を41サイクル
step3 72℃ 3分間
プライマーは以下のものを使用した。
DGTT4_F2 ATGCCGCTCGCAAAGCTGCG(配列番号13)
DGTT4_R2 CTACATTATGACCAGCTCCTC(配列番号14)
【実施例】
【0083】
(9)N. 2145形質転換法
通常培地で2~3×106 cells/mLになるまで培養したN. 2145株 500mLを4℃, 980×g, 10分間遠心し、細胞を沈殿させた。上清をのぞいた後、氷冷した375 mM Sorbitolで3回洗浄した。洗浄後の沈殿細胞を終濃度5×108 cells/mLになるように375 mM Sorbitolに懸濁した。濃縮細胞 200 μlに2~10 μgのコンストラクトDNA, 10 mg/mL キャリアssDNA(Salmon Sperm)2 μLを添加した。細胞懸濁液をエレクトロポレーション用キュベット(2 mm幅)に入れ、11kV/cm, 時定数 12 msecで1回電圧をかけた。通常培地 1 mLをキュベットへ添加し、細胞を懸濁した後、15 mLチューブへ移した。さらに通常培地を4 mL添加し、全量を5 mLとした。10 μE/m2/sec, 23℃, 48 時間旋回培養し、0.4% INA Agar/f/2 5 mLを添加し、2 μg/μLゼオシンを添加したプレートに蒔いた。20~30 μE/m2/sec, 23℃で静置し、14~20日後に生えて来たコロニーを形質転換株として新しいゼオシン入りプレートへ植えついだ。
【実施例】
【0084】
〔実験結果〕
(1)TAG/膜脂質合成系の制御検討
モデル藻類C. reinhardtiiでの脂質蓄積に関する知見として、窒素欠乏条件下で脂質が蓄積すること、脂質の中では貯蔵脂質であるTAGが蓄積すること、飽和脂肪酸の割合が増えることが報告されている(BMC Biotechnol. 2011; 11: 7.)。本発明者は対数増殖期の細胞をリン欠乏条件下におくと脂質蓄積がおこることを見出した(特開2014-049651)。超微細藻類であり、オイル高生産能がある真正眼点藻N. 2145でも同様にリン欠条件下での脂質蓄積を調べた。
【実施例】
【0085】
(2)栄養欠乏条件下でのTAG蓄積量の比較
C. reinhardtiiでの脂質蓄積の結果をふまえ、増殖が盛んな対数増殖期 (1×107 cells/mL) のN. 2145を用いて窒素欠乏条件、リン欠乏条件の比較を行った。
【実施例】
【0086】
窒素欠乏条件へ植え継いだ場合、C. reinhardtiiと同様に細胞増殖が大きく阻害されることがわかった(図1~3)。リン欠乏条件へ植え継いだ場合、C. reinhardtiiと同様に窒素欠乏条件下ほど阻害されず、TAG蓄積が見られた(図1~4)。リン欠乏条件へ植え継いだ場合、増殖が窒素欠乏条件下ほど阻害されないこと、TAG蓄積量が多いことから、C. reinhardtiiと同様にTAGの脂肪酸組成を膜脂質に含まれる脂肪酸から大きく改変するのに向いていることを見出した。
【実施例】
【0087】
また、本発明者はN. 2145のリン欠乏条件でのTAG蓄積量はC. reinhardtiiを上回っていることを見いだした。リン欠乏条件で培養1週間目の培養液1 L当たりのTAG蓄積量は12 mg/Lであり、同期間培養したC. reinhardtiiの2倍であった。さらに、N. 2145は通常培地で1×109 cells/mL、リン欠乏培地で2×108 cells/mLまで高密度培養が可能である。これは C. reinhardtiiの100倍の細胞密度である。高密度培養でリン欠乏培地に植え継げば、培養液1Lあたり1g以上のTAGが得られると期待される。
【実施例】
【0088】
(3)C. reinhardtii由来脂質合成遺伝子発現のコンストラクト
Diacylglycerol acyltransferase (DGAT)はTAG生合成の最終ステップを触媒する酵素である。DGATは動物、植物に広く存在する酵素であり、DGAT1, DGAT2の2種類が報告されている。
【実施例】
【0089】
C. reinhardtiiには、DGAT1が1種類、DGAT2が5種類(DGTT1-5)存在することがわかっており、これらのうちDGTT1については窒素欠乏条件下でmRNA量の変化がみられること、DGTT2およびDGTT3については窒素欠乏条件下でmRNA量の変化が少ないこと、DGTT5は発現していないことが報告されている(Plant Physiol. 2010, Vol.154, 1737-1752)。本発明者はリン欠条件下で強発現を誘導するプロモーターpSQD2aを見いだし、DGTT4遺伝子に連結することで、TAG蓄積を促進する方法を開発した(特開2014-049651)。
【実施例】
【0090】
今回、本発明者はC. reinhardtiiのゲノムを鋳型として、SQD2aのプロモーター領域pCrSQD2aをPCRにより増幅した。またC. reinhardtiiのリン欠乏時のcDNAからCrDGTT4遺伝子の配列を得た。pCrSQD2aをCrDGTT4遺伝子上流に接続し、pCrSQD2aCrDGTT4とした。変異株選抜用にゼオシン遺伝子耐性遺伝子(S. hindustanus由来 ble)を上流に接続し、shblepCrSQD2aCrDGTT4を得た。 Kilian et al. PNAS 2011を参考に、この配列の5’末端側と3’末端側にそれぞれ N.2145のVCP2のプロモーターと N.2145のVCP1 3'UTRを挿入したものをTAG生産系強化のためのコンストラクト(F)とした。コントロールにはN.2145のVCP2のプロモーターとN.2145のVCP1 3'UTRの間にshbleのみを挿入したコンストラクト(control)を用いた。さらにN.2145のVCP1 3'UTRをpCrSQD2aCrDGTT4の3’末端側につけることの有効性を確認するために、pCrSQD2aCrDGTT4を逆向きに挿入したコンストラクト(R)も作成した(図5)。
【実施例】
【0091】
(4)N. 2145でのTAG増産
図5のコンストラクトをN. 2145へ形質転換し、ゼオシンで選抜後、control株とF株については形質転換株を20~30株得た。R株は4株得られた。リン欠乏条件5日目の形質転換株から回収したRNAを用いて、定量RT-PCRを行い、CrDGTT4遺伝子の発現上昇が確認された株をさらに選抜した。野生株、control株、R株ではCrDGTT4遺伝子発現上昇は確認されなかった(図6)。このことから、プロモーターpCrSQD2aとN.2145由来の3'UTRの組み合わせは間に挟んだ遺伝子の発現上昇に有効であると考えられる。
【実施例】
【0092】
野生株、コントロール株と、F株のうち、CrDGTT4遺伝子発現上昇の見られた5株(#3, #8, #9, #19, #21)と上昇の見られなかった1株(#18)についてリン欠乏培地300 mLで培養し、リン欠乏4日目と7日目で細胞を回収し、TAG蓄積量を調べた(図7、図8)。
【実施例】
【0093】
図7、図8より、リン欠乏4日目ではCrDGTT4遺伝子発現上昇の見られなかった#18はコントロール株と同程度のTAG蓄積しかみられなかった。CrDGTT4遺伝子発現上昇の見られた5株(#3, #8, #9, #19, #21)ではリン欠乏条件下で野生株、コントロール株よりも2~3倍のTAGが蓄積していることを発見した。7日目ではCrDGTT4遺伝子発現上昇の見られた株と野生株との差は小さくなった。これはN. 2145細胞由来の11種類のDGAT2遺伝子発現によると考えられる。本手法は、短期間で効率よく脂質を蓄積できる方法であり、植物よりもバイオマスの大きい、藻類におけるバイオディーゼル生産や有用脂質生産を効実現するために、極めて有用性の高い手法である。
【実施例】
【0094】
さらに、4日目のリン欠乏条件下でのTAGの脂肪酸組成は図9に示したように、 CrDGTT4遺伝子発現上昇の見られた株では野生株やコントロール株に比べてC18:1の割合が増加していた。7日目にはこの差は顕著ではなくなっていた。CrDGTT4はC18:1を基質として好むことが報告されている(Plant Cell 2013 Feb;25(2):677-93)。このことからプロモーターpCrSQD2aとN.2145由来の3'UTRの組み合わせはTAGの脂肪酸組成を膜脂質に含まれる脂肪酸から大きく改変するのに向いていると考えられる。
【実施例】
【0095】
今回の発明で使用したリン欠乏応答プロモーターpCrSQD2aとN.2145由来の3'UTRの組み合わせは通常培養時には発現を誘導しないので、油脂蓄積のタイミングをコントロールすることができる。リン欠乏条件下で細胞増殖させながら、油脂蓄積を行わせることができるので、新規脂肪酸合成に適している。これは有用な特殊脂肪酸を蓄積させるにも有効な方法である。
【実施例】
【0096】
〔実施例2〕
リン欠乏に応答するN. 2145由来のプロモーター候補を探すために、栄養欠乏条件4日目、6日目の細胞からRNAを回収し、定量RT-PCR法を行った。C. reinhardtiiではリン欠乏条件下でSQD2aの発現上昇が見られたので、N. 2145の相同遺伝子であるSQD2A,SQD2B,SQD2Cの遺伝子発現を調べた。また、先行論文(Plant Physiology, April 2012, Vol. 158, pp. 1562-1569)から、LDSP(lipid droplet surface protein)の高発現が予想され、LPATについても本発明者の所属する研究室の先行研究より高発現が予想されたので、遺伝子発現を調べた。このとき、アクチンの発現をコントロールとした。
使用したプライマー配列は以下の通りである。
【実施例】
【0097】
NannoACTf: 5-ACCTTCTACAACGAGCTGC-3(配列番号16)
NannoACTr: 5-GAACGTCTCAAACATAATCTGG-3(配列番号17)
NannoSQD2A_realRT_F:5-TCCCTTGCTTACTGCTCTGG-3(配列番号18)
NannoSQD2A_realRT_R:5-GATTCGCGTAGCCGCTTA-3(配列番号19)
NannoSQD2B_realRT_F:5-CTTAATACGACCACACACGTCCTC-3(配列番号20)
NannoSQD2B_realRT_R:5-TGATACGCCTCCGCACTTT-3(配列番号21)
NannoSQD2C_realRT_F:5-CCACGACTGCCGAATGA-3(配列番号22)
NannoSQD2C_realRT_R:5-TGCTAGTGGACCCTTGTTGG-3(配列番号23)
qRT_LPATY_L:5-gcttgtcgagtacccattcat-3(配列番号24)
qRT_LPATY_:5-cagcagcccaaagaggttc-3(配列番号25)
qRT_LDSP_L:5-gtgcctttcgacctctcg-3(配列番号26)
qRT_LDSP_R:5-ggcacaaaaagatcctagcaa-3(配列番号27)
【実施例】
【0098】
LPAT-Y, SQD2-A, SQD2-Bがリン欠乏条件で発現上昇し、LDSPがリン欠乏および窒素欠乏条件で発現上昇した(図11及び図12)。N. 2145の11種類のDGAT2(DGAT2AからDGAT2K)と2種類のDGAT1についても発現を調べたが、上記4遺伝子ほどの発現上昇は見られなかった。そこで上記4遺伝子のプロモーター領域約1kbをリン欠条件下で強発現を誘導するN. 2145由来のプロモーターpNLPATY, pNSQD2A, pNSQD2B, pNLDSPとした。
【実施例】
【0099】
本発明者はリン欠乏条件で発現上昇の見られたLPAT-Y、SQD2-Bのプロモーター領域pNLPATY、pNSQD2BをN. 2145のゲノムを鋳型としてPCRにより増幅した。pNLPATY、pNSQD2BをpCrSQD2aのかわりにCrDGTT4遺伝子上流に接続し、pNLPATYCrDGTT4、pNSQD2BCrDGTT4とした(図13)。図13のコンストラクトをN. 2145へ形質転換し、pCrSQD2aCrDGTT4の場合と同様に、ゼオシンで選抜後、リン欠乏条件4日目、6日目の形質転換株から回収したRNAを用いて、定量RT-PCRを行った。定量RT-PCRには以下のプライマーを使用した。
NannoACTf: 5-ACCTTCTACAACGAGCTGC-3(配列番号47)
NannoACTr: 5-GAACGTCTCAAACATAATCTGG-3(配列番号48)
CrDGTT4_realRT_F:5-GTTCGTGCAGTTCAGTGTGG-3(配列番号49)
CrDGTT4_realRT_R:5-CGGGCAGAATCCGAACA-3(配列番号50)
【実施例】
【0100】
野生株、control株ではCrDGTT4遺伝子発現は確認されず、形質転換体pLPATY-1、pLPATY-2、pLPATY-3、pSQD2B-1、pSQD2B-2、pSQD2B-3ではCrDGTT4の発現が確認された(図14)。リン欠乏培地200 mlで培養し、リン欠乏4日目で細胞を回収し、TAG蓄積量を調べた(図15)。図15より、CrDGTT4遺伝子発現上昇の見られた形質転換体pLPATY-3、pSQD2B-1ではリン欠乏条件下で野生株よりもTAGが蓄積していることを発見した。このことからリン欠乏条件に応答する遺伝子のプロモーター領域をTAG増産のための遺伝子発現に用いる本手法は短期間で効率よく脂質を蓄積できる方法であるといえる。
【実施例】
【0101】
なお、本実施例で使用した遺伝子等の配列は以下の通りである。
N. 2145由来のDGAT2A遺伝子の配列は、配列番号28に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2B遺伝子の配列は、配列番号29に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2C遺伝子の配列は、配列番号30に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2D遺伝子の配列は、配列番号31に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2E遺伝子の配列は、配列番号32に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2F遺伝子の配列は、配列番号33に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2G遺伝子の配列は、配列番号34に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2H遺伝子の配列は、配列番号35に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2I遺伝子の配列は、配列番号36に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2J遺伝子の配列は、配列番号37に示す通りである。
N. 2145由来のDGAT2K遺伝子の配列は、配列番号38に示す通りである。
N. 2145由来のSQD2A遺伝子の配列は、配列番号39に示す通りである。
N. 2145由来のSQD2B遺伝子の配列は、配列番号40に示す通りである。
N. 2145由来のSQD2C遺伝子の配列は、配列番号41に示す通りである。
N. 2145由来のLPAT-Y遺伝子の配列は、配列番号42に示す通りである。
N. 2145由来のLDSP遺伝子の配列は、配列番号43に示す通りである。
N. 2145由来のLPAT-Y遺伝子のプロモーターの配列は、配列番号44に示す通りである。
N. 2145由来のSQD2A遺伝子のプロモーターの配列は、配列番号45に示す通りである。
N. 2145由来のSQD2B遺伝子のプロモーターの配列は、配列番号15に示す通りである。
N. 2145由来のLDSP遺伝子のプロモーターの配列は、配列番号46に示す通りである。
【実施例】
【0102】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、TAG生産に関連する各種産業分野において利用可能である。
図面
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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