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明細書 :摺動方法、摺動構造の製造方法、摺動構造およびデバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6095090号 (P6095090)
登録日 平成29年2月24日(2017.2.24)
発行日 平成29年3月15日(2017.3.15)
発明の名称または考案の名称 摺動方法、摺動構造の製造方法、摺動構造およびデバイス
国際特許分類 F16C  17/14        (2006.01)
F16C  33/14        (2006.01)
F16C  33/24        (2006.01)
FI F16C 17/14
F16C 33/14 Z
F16C 33/24 Z
請求項の数または発明の数 15
全頁数 16
出願番号 特願2016-515192 (P2016-515192)
出願日 平成27年4月23日(2015.4.23)
国際出願番号 PCT/JP2015/062325
国際公開番号 WO2015/163389
国際公開日 平成27年10月29日(2015.10.29)
優先権出願番号 2014090332
優先日 平成26年4月24日(2014.4.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年7月26日(2016.7.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
発明者または考案者 【氏名】新山 泰徳
【氏名】足立 幸志
【氏名】岡田 弘
【氏名】小田 修三
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査官 【審査官】日下部 由泰
参考文献・文献 特開昭61-099718(JP,A)
特開平08-092744(JP,A)
特表2008-529216(JP,A)
特開2009-222207(JP,A)
特開2012-219866(JP,A)
調査した分野 F16C 17/14,33/14,33/24
特許請求の範囲 【請求項1】
第1の摺動部材と第2の摺動部材とを液体中で摺動させる方法であって、
前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材はそれぞれ、硬質炭素膜からなる摺動面を有しており、摺動時にお互いの摩擦される面積が異なることによって、前記第1の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が、前記第2の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量よりも小さくなる構成を有しており、
前記第1の摺動部材における前記摺動面には、前記硬質炭素膜の成膜により発生するドロップレットが存在し、
前記第1の摺動部材における前記ドロップレットの平均高さが、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときに前記第2の摺動部材からの荷重によって前記第1の摺動部材に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とのなじみ処理を前記液体が存在しない環境下で行った後、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを前記液体中で摺動させることを
特徴とする摺動方法。
【請求項2】
前記なじみ処理における速度及び荷重は、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときの速度及び荷重と同じであることを特徴とする、請求項1に記載の摺動方法。
【請求項3】
前記液体が存在しない環境は酸化雰囲気であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動方法。
【請求項4】
前記液体が存在しない環境は大気であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の摺動方法。
【請求項5】
前記硬質炭素膜はダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の摺動方法。
【請求項6】
前記液体は水またはアルコールであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の摺動方法。
【請求項7】
液体中で摺動する第1の摺動部材と第2の摺動部材とを有する摺動構造の製造方法であって、
硬質炭素膜からなる摺動面を有し、その摺動面に前記硬質炭素膜の成膜により発生するドロップレットが存在する前記第1の摺動部材と、硬質炭素膜からなる摺動面を有し、摺動時にお互いの摩擦される面積が異なることによって、その摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が、前記第1の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量以上となるよう構成された前記第2の摺動部材とのなじみ処理を、前記第1の摺動部材における前記ドロップレットの平均高さが、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときに前記第2の摺動部材からの荷重によって前記第1の摺動部材に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで、前記液体が存在しない環境下で行うことを
特徴とする摺動構造の製造方法。
【請求項8】
前記なじみ処理の後、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを前記液体中で摺動させることを特徴とする請求項7に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項9】
前記なじみ処理における速度及び荷重は、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときの速度及び荷重と同じであることを特徴とする請求項7または8に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項10】
前記液体が存在しない環境は酸化雰囲気であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項11】
前記液体が存在しない環境は大気であることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項12】
前記硬質炭素膜はダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする、請求項7乃至11のいずれか1項に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項13】
前記液体は水またはアルコールであることを特徴とする、請求項7乃至12のいずれか1項に記載の摺動構造の製造方法。
【請求項14】
請求項7乃至13のいずれか1項に記載の摺動構造の製造方法によって製造されることを特徴とする摺動構造。
【請求項15】
請求項14記載の摺動構造を含むことを特徴とする、デバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動方法、摺動構造の製造方法、摺動構造およびデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬質炭素膜は、金型や工具用の部材、耐摩耗性機械用の部材、研磨用の部材、摺動部材、磁気や光学部品の部材などの多岐多様な部材のコーティング材料として利用されている。中でも、機械関連製品や自動車部品などの摺動部材への利用は、研究が拡大しつつある分野の一つである。
【0003】
また、硬質炭素膜として、ダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」とも称する。)膜は、その代表例としてよく知られている。
【0004】
しかしながら、硬質炭素膜をコーティングした部材は、一般にコーティングした硬質炭素膜の剥離が生じ易いことが知られており、硬質炭素膜をコーティングした摺動部材においてもこの剥離を抑制する方法が色々と検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、少なくとも金属成分の中間層と炭素層とを備えるDLC膜を、転がり摺動部材の軸受鋼やステンレス鋼の表面に形成させた場合に、その中間層と炭素層との界面が剥離しやすいことが開示されている。そして、特許文献1では、その剥離防止を目的として、少なくとも金属成分の中間層と、炭素層と、両組成の比率を変化させた傾斜層(複合層)とを形成させたDLC膜を摺動部材として用いることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、エンジンに用いられる従来のロッカーアームアッシーの支持軸(基材)にDLC膜を施した場合、DLC膜が支持軸から剥離することが開示されている。そして、特許文献2では、ロッカーアームアッシーの支持軸とそのDLC膜との密着強度の向上を目的として、軸基材に施すDLC膜が、sp2‐及びsp3‐交雑炭素を含むアモルファス炭化水素を有する最外層の表面層と、この表面層よりも内側で且つ軸基材に臨み、少なくともクロムを含有する下地層と、これら表面層と下地層との間に介在されていて、クロムと炭化タングステンとを含むクロム-炭化タングステン層とを有し、二次粒子径の平均分散粒子径が0.1μm以上0.7μm以下であるC粒子を含有する潤滑油で潤滑されることを特徴とするロッカーアームアッシーが開示されている。
【0007】
特許文献3には、転がり軸受の保持器の摺接面(基材)に形成されたDLC膜と摺接面との剥離が開示されている。そして、特許文献3には、その耐剥離性の向上(密着強度の向上)を目的として、摺接面の上に直接成膜される硬質膜が、Crを主体とする下地層と、下地層の上に成膜されるタングステンカーバイト(WC)とDLCとを主体とする混合層と、混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であって、混合層は、下地層側から表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、混合層中のDLCの含有率が高くなる層であることを特徴とするものが開示されている。
【0008】
このように、硬質炭素膜をコーティングした摺動部材の摺動面での硬質炭素膜の剥離を抑制する方法として、硬質炭素膜を構成する中間層と炭素層との界面の剥離を抑制させるものや、硬質炭素膜と基材との間の密着強度を向上させるものが知られている。
【0009】
また、硬質炭素膜をコーティングした摺動部材では、摺動面での摩擦を軽減させるため、オイルのような潤滑油を用いる液体環境下で摺動させるのが一般的である。例えば、特許文献2も上述の通り、潤滑油の存在下で摺動させるものである。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2002-349577号公報
【特許文献2】特開2010-112527号公報
【特許文献3】特開2011-208781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、経済性、作業性、安全性等を踏まえると、硬質炭素膜でコーティングされている摺動面を有する摺動部材同士を、液体潤滑剤が存在するような液体環境下で摺動させた場合に、コーティングされた硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる方法として確立されたものは未だ存在しない。このような理由から、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体環境下で摺動させる方法として、硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる有望な方法が今もなお模索され続けているという課題がある。
【0012】
そこで、本発明においては、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体中で摺動させる方法として、硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる摺動方法を提供することを目的とする。また、その方法を利用した摺動構造の製造方法、その方法により製造される摺動構造やその摺動構造を含むデバイスを提供することも目的とする。
【0013】
また、最近では、エネルギーの高効率利用が強く求められており、機械の摩擦損失低減とともに、エネルギーの回生も重要な技術となっている。中でも、排熱回生技術では、水を潤滑剤とした水環境下での利用が極めて重要になる。また、例えば、食品や医療等の製造現場では、液体としてオイルを用いた潤滑は、汚染等の問題を引き起こす可能性もあるので、環境負荷の低減というような観点からも、環境に優しく、自然界に安定に存在し、また廃棄時にCOを排出しない、取扱い容易な水を潤滑剤とした水環境下での潤滑システムの構築が望まれている。他方、硬質炭素膜のDLC膜は、水中での摩擦係数が0.08~0.01以下で比摩耗量(mm/Nm)が10-10~10-8であり、セラミックス材料(例えば、Alでは水中での摩擦係数が0.18~0.33で比摩耗量(mm/Nm)が10-7~10-6、SiCでは水中での摩擦係数が0.18~0.33で比摩耗量(mm/Nm)が10-7~10-5、Siでは水中での摩擦係数が0.3~0.01以下で比摩耗量(mm/Nm)が10-7~10-5)や樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂では水中での摩擦係数が0.15~0.35で比摩耗量(mm/Nm)が10-6~10-4)に比べて低摩擦で、10~1000倍程度の寿命を確保することができることから、水環境下で用いる摺動部材の成膜としての期待が非常に高い。
【0014】
しかしながら、油中や無潤滑下で優れたトライポロジー特性を有すると考えられているDLC膜のような硬質炭素膜は、水環境下では剥離し易いという課題がある。その剥離が進行すると、摩擦係数の増大による機器の損傷や焼き付きという問題、更には硬質異物等の混入(コンタミネーション)等の問題も懸念される。
【0015】
そこで、本発明においては、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を水環境下で摺動させる方法として、硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる摺動方法を提供することも目的とする。また、その方法を利用した摺動構造の製造方法、その方法により製造される摺動構造やその摺動構造を含むデバイスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体中で摺動させた場合の硬質炭素膜の剥離挙動を鋭意研究した結果、その剥離が、摺動面での摩擦部分の単位面積当たりの摩擦仕事量が小さい側の摺動部材の摺動面の表面に、微小な大きさで存在するドロップレット(以後、「凸部」とも称する)を起点にして生じていて、この凸部に対して、両摺動部材を液体中で硬質炭素膜の剥離を生じる条件下で摺動させる前に、所定の条件になるまでなじみ処理を与えてやれば、このなじみ処理を与えなければ硬質炭素膜の剥離が生じる条件下でも、剥離を好適に抑制しつつ硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体中で摺動させることができることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
したがって、本発明は、従来知られているような硬質炭素膜を構成する中間層と炭素層との界面の剥離を防止させて摺動させる方法や、硬質炭素膜と基材との間の密着強度を向上させて摺動させる方法とは全く異なる。
【0018】
すなわち、本発明に係る摺動方法は、第1の摺動部材と第2の摺動部材とを液体中で摺動させる方法であって、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材はそれぞれ、硬質炭素膜からなる摺動面を有しており、摺動時にお互いの摩擦される面積が異なることによって、前記第1の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が、前記第2の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量よりも小さくなる構成を有しており、前記第1の摺動部材における前記摺動面には、前記硬質炭素膜の成膜により発生するドロップレットが存在し、前記第1の摺動部材における前記ドロップレットの平均高さが、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときに前記第2の摺動部材からの荷重によって前記第1の摺動部材に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とのなじみ処理を前記液体が存在しない環境下で行った後、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを前記液体中で摺動させることを特徴とする。

【0019】
また、本発明に係る摺動構造の製造方法は、液体中で摺動する第1の摺動部材と第2の摺動部材とを有する摺動構造の製造方法であって、硬質炭素膜からなる摺動面を有し、その摺動面に前記硬質炭素膜の成膜により発生するドロップレットが存在する前記第1の摺動部材と、硬質炭素膜からなる摺動面を有し、摺動時にお互いの摩擦される面積が異なることによって、その摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が、前記第1の摺動部材における前記摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量以上となるよう構成された前記第2の摺動部材とのなじみ処理を、前記第1の摺動部材における前記ドロップレットの平均高さが、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを摺動させるときに前記第2の摺動部材からの荷重によって前記第1の摺動部材に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで、前記液体が存在しない環境下で行うことを特徴とする。また、本発明に係る摺動構造の製造方法は、前記なじみ処理の後、前記第1の摺動部材と前記第2の摺動部材とを前記液体中で摺動させてもよい。

【0020】
本発明に係る摺動構造は、本発明に係る摺動方法を利用した本発明に係る摺動構造の製造方法により好適に製造される。本発明に係る摺動方法によれば、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体中で摺動させる場合に、所定のなじみ処理を与えてから両摺動部材を液体中で摺動させるだけで、従来では剥離を生じていた条件下でも硬質炭素膜の剥離を防止できるという優れた効果が得られる。そのため、作業的にも簡単で、安全で、経済性にも優れる等の効果も得られる。
【0021】
しかも、本発明に係る摺動方法によれば、セラミックスや樹脂を膜として使用する場合よりも低摩擦と耐摩耗性を維持したまま剥離を防止できるという優れた効果も得られる。
【0022】
本発明に係る摺動方法によれば、硬質炭素膜の成膜において発生を防ぐことがほとんど不可能で剥離の原因となる硬質炭素膜上の凸部(ドロップレット)を、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を摺動させる工程の中で与えるなじみ処理で、自然に均一化しながら除去していくことができる。そのため、このような凸部を除去するために、成膜後の磨き等の前処理工程を摺動工程と切り離して別途設ける必要がない。よって、このような観点からも、作業的にも簡単で、安全で、経済性にも優れる等の効果が得られる。

【0023】
また、本発明に係る摺動方法によれば、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を水環境下で摺動させた場合でも、硬質炭素膜の剥離を効果的に抑制できる。そのため、水環境下での硬質炭素膜同士の摩擦による硬質炭素膜の剥離抑制が望まれている排熱回生技術やオイルの使用ができなかったり、望ましくなかったりする潤滑システム等での利用も可能であるという優れた効果も得られる。
【0024】
なお、なじみ処理とは、あらかじめ第1の摺動部材と第2の摺動部材とを摩擦しておくことにより、硬質炭素膜を成膜することによって発生する摺動面の凸部の高さを小さくして、均一化させていく処理のことである。より具体的にいえば、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さい摺動部材における凸部の平均高さを、相手側の摺動部材(摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が大きい方の摺動部材)からの荷重によってその摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくさせる処理を意味する。
【0025】
また、本発明に係る摺動方法では、なじみ処理をそのなじみ処理後の液体中での摺動とあわせて一つの摺動工程として行うものである。しかしながら、必要であれば、このなじみ処理だけを切り離して別の工程として使用することも可能である。
【0026】
また、このなじみ処理は、液体が存在する環境下、いわゆる液体中で行うこともできるが、本発明に係る摺動方法では、液体が存在しない環境下で行っている。ここで、以下では、便宜上、液体が存在しない環境下でのなじみ処理と液体中でのなじみ処理とを区別するため、必要に応じて前者を「予すべり」、後者を「なじみ行程」と称する。
【0027】
予すべりとは、上述の通り、液体が存在しない環境下で行うなじみ処理のことであるが、ここで「液体が存在しない環境」とは、その名の通り、液体が存在しない環境条件であれば特に制限はない。例えば、大気、酸化雰囲気、高温雰囲気等があげられる。特に、なじみ処理の時間を短縮させるという点では、酸化雰囲気や高温雰囲気が好ましい。
【0028】
なじみ行程とは、上述の通り、液体中で行うなじみ処理のことであるが、ここで「液体」とは、その名の通り、その処理のときに液体として存在できれば特に制限はない。そのため、潤滑剤として知られているあらゆる液体を含み得るので、中にはオイルを用いない、いわゆるオイルレスの液体も含まれる。オイルを用いない液体の代表例としては水があげられ、その他にもアルコール等があげられる。なお、なじみ処理後に第1の摺動部材と第2の摺動部材とを摺動させる液体も、この「液体」であることが好ましい。
【0029】
液体が存在しない環境下で行うなじみ処理(予すべり)を、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材をその処理がなければ膜が剥離していた条件を与えて液体中で摺動させる前に与えてやると、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さい摺動部材における凸部の平均高さを、相手側の摺動部材からの荷重によってその摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくさせることができる。これにより、そうしなければその凸部に起因して剥離を起こす原因となっていた亀裂(クラック)の伸展が防止できるので、成膜した硬質炭素膜の剥離は発生しない。
【0030】
予すべりを、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さい摺動部材における凸部の平均高さが相手側の摺動部材からの荷重によってその摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで与える場合、その目的を達成できる限り、その予すべりでの荷重やすべり速度に特に制限はなく、例えば、その予すべり後の液体中での摺動条件と同じ荷重とすべり速度、或いはそれよりも重い荷重と同じすべり速度でも可能である。
【0031】
液体が存在する環境下で行うなじみ処理(なじみ行程)を、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さい摺動部材における凸部の平均高さが相手側の摺動部材からの荷重によってその摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくなるまで与える場合、そのなじみ行程後の液体中での摺動条件よりも重い荷重と低いすべり速度で行うことが好ましい。このような条件下でなじみ行程を与えると、液体中であっても剥離が進展する速度よりも摩耗速度の方が大きくなるため、成膜した硬質炭素膜の剥離を発生させずに凸部の摩耗が進行することになるからである。そうすることによって、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さい摺動部材における凸部の平均高さを、相手側の摺動部材からの荷重によってその摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくさせることができる。
【0032】
本発明に係る摺動方法および摺動構造の製造方法で、第1および第2の摺動部材は、滑らせて動かす部材であれば特に制限はなく、軸と軸受け部のような相対的に滑り合って動く関係を有するものも含む。第1および第2の摺動部材の一例としては、ピストンリングとシリンダー等の容積型流体機器のシール部、滑り軸受け、回転軸のメカニカルシール、スラスト軸受け、スプライン等がある。
【0033】
本発明に係る摺動方法および摺動構造の製造方法では、硬質炭素膜は、炭素を主成分とするアモルファス状の構造を有する硬質の膜であればよい。そのため、一般に水素を含む硬質炭素膜として知られているDLC膜はもちろんのこと、水素フリーの硬質炭素膜であるDLC膜も含む。よって、ビッカース硬度(Hv)の観点からみれば、1000以上7000以下のような硬質炭素膜も含む。
【0034】
本発明に係る摺動方法および摺動構造の製造方法では、第1および第2の摺動部材は、このような硬質炭素膜を少なくとも摺動面に成膜していればよい。成膜法は問わないが、例えば、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法、気相合成法、イオンビーム法、スパッタリング法等がある。なお、硬質炭素膜を成膜すると、その表面には避けることがほとんど不可能な微小な大きさ(一般的には、サブミクロンから数ミクロンの大きさ)のドロップレット(凸部)が発生する。
【0035】
本発明に係る摺動方法および摺動構造の製造方法では、摩擦仕事量とは、摩擦力と摩擦距離との積を意味する。したがって、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量が小さいとは、例えば、後述する実施例のように、ボール(球体)に垂直荷重を与えてディスク(平円盤)と接触させ、このディスクを回転させることによって摺動させる場合には、ボール側の摺動面よりもディスク側の摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量(=摩擦力×摩擦距離)の方が小さくなるので、ディスク側の摺動面を意味することになる。
【0036】
摺動面に存在する凸部の平均高さは、例えば、共焦点顕微鏡を用いて、その摺動面を観察し、その領域内に存在する凸部を任意に幾つか選択し、各高さを計測し、それらの平均値を求めることによって算出することができる。但し、凸部の平均高さの算出法は、特にこの方法に制限されるものではなく、この目的を達成できるものであればよい。また、荷重によって摺動面に生じる弾性変形量は、例えば、計算で求めることができる。但し、荷重によって摺動面に生じる弾性変形量は、その材質や形状等により左右される。
【0037】
本発明に係るデバイスは、本発明に係る摺動構造を含むことを特徴とする。本発明に係るデバイスは、本発明に係る摺動構造を含む物品であればよく、例えば、装置、工具、機械、機器などの形態の如何は問わない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を液体中で摺動させる方法として、硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる摺動方法を提供することができる。また、その方法を利用した摺動構造の製造方法、その方法により製造される摺動構造やその摺動構造を含むデバイスを提供することができる。
【0039】
また、本発明によれば、硬質炭素膜からなる摺動面を有する摺動部材同士を水環境下で摺動させる方法として、硬質炭素膜の剥離を好適に抑制できる摺動方法を提供することもできる。また、その方法を利用した摺動構造の製造方法、その方法により製造される摺動構造やその摺動構造を含むデバイスを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例で使用した摩擦試験機を示す概略側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例1の、(a)成膜後、(b)大気中での予すべり後のディスクの摺動面の顕微鏡写真、(c)それらの摺動面の領域内(150μm×150μm)に存在する凸部の平均高さを示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例で使用した、ボールとディスクを用いて計算した、荷重とそれによって摺動面に生じる弾性変形量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例1の、(a)予すべり前のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真、(b)大気中での予すべり後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(c)大気中での予すべり後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真、(d)水中の摺動後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(e)水中の摺動後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例での、ボールの摩耗変化を示す概念図である。
【図6】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例1の、大気中での予すべりが有る場合および無い場合の、垂直荷重およびすべり速度の変化に対する摩擦係数ならびに比摩耗量を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の摺動方法に係る実施例2の、(a)大気中での予すべり後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(b)大気中での予すべり後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真、(c)水中の摺動後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(d)水中の摺動後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真である。
【図8】本発明に関する実施の形態の摺動方法に係る実施例3の、(a)成膜後、(b)水中でのなじみ行程後のディスクの摺動面の顕微鏡写真、(c)それらの摺動面の領域内(150μm×150μm)に存在する凸部の平均高さを示すグラフである。
【図9】本発明に関する実施の形態の摺動方法に係る実施例3の、(a)水中でのなじみ工程後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(b)水中でのなじみ工程後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真、(c)水中の摺動後のすべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(d)水中の摺動後のディスクの摺動面のボール摩耗痕の顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施の形態の摺動方法に対し、なじみ処理が無く水中で摺動させた比較例の(a)各すべり距離に対するボール摩耗痕を示す顕微鏡写真、(b)すべり距離に対する摩擦係数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明の実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(1) 実験装置及び試料
図1に、本実施例で使用した摩擦試験機の概略図を示す。この摩擦試験機では、回転軸3に設置されたディスク4に対して、垂直荷重でボール6を押し付け、測定を開始すると、ディスク4が回転し、ディスク4とボール6との間に作用する摩擦力をロードセル5で計測し、摩擦係数として出力させる仕組みとなっている。更に、この摩擦試験機では、水等の液体7中にも第1および第2の摺動部材を任意に埋没させ、水浴のような加熱装置8を用いて温度を制御しながら摩擦摩耗量の測定することが可能な構成となっている。また、符号1は死荷重を示し、符号2はピボットを示し、符号7は液体又は液体の存在しない環境である。
【実施例1】
【0043】
第1の摺動部材であるディスクおよび第2の摺動部材であるボールには、硬質炭素膜として、ビッカース硬度が2250のDLC(a‐C:H)膜であって、平均0.07μmの表面粗さを有する膜を、プラズマCVD法で成膜させた軸受鋼(SUJ2)を使用した。ボールには直径が8mmのものを、そしてディスクには直径が30mmで厚さが4mmの円柱形状のものを使用した。以下、特に断りがないかぎり、「ボール」と「ディスク」という用語は、ここに記載されたものを指す。

【実施例1】
【0044】
成膜後のディスクの摺動面に存在する凸部(ドロップレット)は、共焦点顕微鏡(Lasertec Optelics H1200)を用いて観測した。

【実施例1】
【0045】
(2) 摺動方法
本実施例の摺動方法は、ボールとディスクとを液体中で摺動させるにあたり、まず液体が存在しない環境下でのなじみ処理としての予すべりと、その後にこの予すべりが無ければ膜の剥離が発生してしまう条件下における液体中での摺動とを含む。
【実施例1】
【0046】
・予すべり
予すべりは大気中で与えた。予すべりは、ボールからの垂直荷重を1N、すべり速度を1m/sとする条件下で、480mのすべり距離になるまで行った。この予すべりにより、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量がボールよりも小さなディスクに対して、そのディスクの摺動面に存在する凸部の高さが、ボールからの1Nの垂直荷重によってディスクの摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくした。
【実施例1】
【0047】
このときのディスクの摺動面に存在する凸部の高さは、上述の共焦点顕微鏡を用いて観察し、その摺動面部分の中から任意に150μm×150μmの領域内に存在する10個の凸部を選択し、各高さを計測し、それらの平均値を求めることによって算出した。この結果を図2に示す。なお、ボールとディスクを用いて計算した、荷重とそれによって摺動面に生じる弾性変形量との関係を、図3に示す。
【実施例1】
【0048】
・予すべり後の液体中での摺動
予すべり後の液体中での摺動では、液体として水(より具体的には、イオン交換水)を使用した。また、水中の温度は、水浴を用いて20℃(一定)に維持した。この水中での摺動におけるボールからの垂直荷重及びすべり速度はそれぞれ、予すべりと同様、1N及び1m/sとした。この水中での摺動におけるすべり距離は、予すべりでのすべり距離とは別に、すべり距離が2000mになるように行った。
【実施例1】
【0049】
(3) 剥離の評価
剥離の有無は、剥離の生じ易い摺動面、即ち摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量の大きいボールの摺動面における摩耗痕(以下、「ボール摩耗痕」と称する。)のすべり距離に伴う変化を、上述の共焦点顕微鏡で観察することによって確認した。ボール摩耗痕の観察は、予すべりを与える前のすべり距離が0mの地点、予すべりでのすべり距離が480mの地点、予すべり後の液体中での摺動における、予すべり後のすべり距離が2000mの地点の計三箇所で行った。その際、すべり距離に対する摩擦係数の変化も計測した。これらの結果を図4に示す。この図に示されている通り、予すべり後の液体中での摺動において、予すべり後のすべり距離が2000mになった地点でも剥離が生じず、しかも低摩擦を維持したままであった。
【実施例1】
【0050】
(4) 摩擦係数と比摩耗量の評価
更に、垂直荷重およびすべり速度の変化に対する摩擦係数ならびに比摩耗量の評価に関する試験も行った。具体的には以下の通りである。
【実施例1】
【0051】
予すべりでのボールからの垂直荷重は、1Nと10Nとした。予すべりでのすべり速度は、0.1m/s、1m/sとした。予すべりは大気中で行った。予すべりでのすべり距離は100mとした。予すべり後の液体中での摺動では、液体として水(より具体的には、イオン交換水)を使用し、水中の温度は、水浴を用いて20℃(一定)に維持した。また、ボールからの垂直荷重とすべり速度はいずれも、予すべりのときの条件と同じにした。予すべりにおけるすべり距離と水中での摺動におけるすべり距離とを合計した総すべり距離は、1000mとした。
【実施例1】
【0052】
すべり距離に伴うボールの摩耗量の変化として、上記共焦点顕微鏡を用いて観察したボール摩耗痕から摩耗痕直径を計測した。この摩耗痕直径からボールの摩耗体積を幾何学的に求めた。具体的には、図5に示すようにボールが摩耗していると仮定して、下記式を用いて摩耗痕直径からボールの摩耗体積を求めた。なお、ボールの摩耗体積を求めるにあたり、DLC膜が剥離した箇所は摩耗体積に含めなかった。
【実施例1】
【0053】
【数1】
JP0006095090B2_000002t.gif
(ここで、ΔV:摩耗体積、R:ボールの半径、r:摩耗痕の半径)
【実施例1】
【0054】
このようにして求めたボールの摩耗体積を、単位荷重・単位距離あたりの値、即ち比摩耗量として評価した。比較のために、予すべりの無い、いきなり水中でボールとディスクとを摺動させた場合の比摩耗量も評価した。その際の水中での摺動条件は、本実施例の予すべりを行う場合の比摩耗量を評価するために行った水中での摺動条件と同じにした。
【実施例1】
【0055】
結果を図6に示す。この図では、左縦軸に摩擦係数を、右縦軸に比摩耗量を示す。図6に示されている通り、大気中で予すべりを与えることによって、この予すべりを与えなかった場合よりも、摩擦係数と比摩耗量が減少しており、低摩擦と耐摩耗性が得られた。
【実施例2】
【0056】
実施例1の予すべりを、ボールからの垂直荷重が5.6Nで、すべり速度が1m/sの条件下で、すべり距離が240mになるまで行った。それ以外は、すべて実施例1と同じように行った。
【実施例2】
【0057】
剥離の有無は、実施例1と同様な方法で確認し、ボール摩耗痕の観察は、予すべりでのすべり距離が240mの地点、予すべり後の液体中での摺動における、予すべり後のすべり距離が2000mの地点の計二箇所で行った。その際、すべり距離に対する摩擦係数の変化も計測した。これらの結果を図7に示す。その結果、予すべり後の液体中での摺動において、予すべり後のすべり距離が2000mになった地点でも剥離は生じず、しかも低摩擦を維持したままであった。
【実施例3】
【0058】
本発明に関し、液体中でなじみ処理(なじみ行程)を行う実施例を実施した。
(1) 実験装置及び試料
使用した実験装置及び試料は、実施例1と全く同じとした。
【実施例3】
【0059】
(2) 摺動方法
本実施例の摺動方法は、ボールとディスクとを液体中で摺動させるにあたり、まず液体中でのなじみ処理としてのなじみ行程と、その後にこのなじみ行程が無ければ膜の剥離が発生してしまう条件下における液体中での摺動とを含む。
【実施例3】
【0060】
・なじみ行程
なじみ行程は液体中で行い、この液体として水(より具体的には、イオン交換水)を使用した。水中の温度は、水浴を用いて20℃(一定)に維持した。なじみ行程は、ボールからの垂直荷重を20N、すべり速度を0.01m/sとする条件下で、100mのすべり距離になるまで与えた。このなじみ行程により、摺動面での単位面積あたりの摩擦仕事量がボールよりも小さなディスクに対して、そのディスクの摺動面に存在する凸部の高さがボールからの1Nの垂直荷重によってディスクの摺動面に生じる弾性変形量よりも小さくした。
【実施例3】
【0061】
このときのディスクの摺動面に存在する凸部の高さは、実施例1と同様な方法で算出した。この結果を図8に示す。
【実施例3】
【0062】
・なじみ行程後の摺動
なじみ行程後も、なじみ行程と同じ液体環境下で摺動させた。但し、このなじみ行程後の摺動における垂直荷重及びすべり速度はそれぞれ、なじみ行程の垂直荷重よりも低い1N、及びなじみ行程のすべり速度よりも高い1m/sとした。この水中での摺動におけるすべり距離は、なじみ行程でのすべり距離とは別に、すべり距離が2000mになるように行った。
【実施例3】
【0063】
(3) 剥離の評価
剥離の有無は、実施例1と同様な方法で確認した。但し、ボール摩耗痕の観察は、なじみ行程でのすべり距離が54mの地点、なじみ行程後の液体中での摺動における、なじみ行程後のすべり距離が2000mの地点の計二箇所で行った。その際、すべり距離に対する摩擦係数の変化も計測した。これらの結果を図9に示す。この図に示されている通り、なじみ行程後の液体中での摺動において、なじみ行程後のすべり距離が2000mになった地点でも剥離が生じず、しかも低摩擦を維持したままであった。
【実施例3】
【0064】
[比較例1]
実施例1~3との比較のため、予すべりやなじみ行程の無い、いきなり液体中でボールとディスクとを摺動させる比較試験も行った。比較試験のため、実験装置、試料、液体は実施例1に記載されているものを使用した。
【実施例3】
【0065】
また、ボールからの垂直荷重とすべり速度も、実施例1~3のなじみ処理後(大気中での予すべり又は液体中でのなじみ行程後)の液体中での摺動条件と同様、それぞれ1Nと1m/sとした。剥離の有無の確認も、実施例1と同様な方法で確認した。その結果を図10に示す。この図に示される通り、すべり距離が1000mの時点では剥離が生じた。また、実施例1~3に比べて摩擦係数も遥かに大きかった。
【実施例3】
【0066】
このときの摺動開始前のディスク(即ち、成膜後のディスク)の摺動面に存在する凸部の高さも実施例1と同じようにして求めており、この結果は図2(c)に示す通りである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
硬質炭素膜からなる摺動面を有する部材同士を液体中で摺動させることが必要なあらゆる摺動構造や、それを含むデバイスに利用することが可能である。例えば、ピストンリングとシリンダー等の容積型流体機器のシール部、すべり軸受け、回転軸のメカニカルシール等のような摺動構造、それらを用いる自動車やOA機器などの様々な分野で利用することが可能である。
【0068】
また、オイルを使用しない水環境下でも利用できるので、硬質炭素膜からなる摺動面を有する部材同士を液体中で摺動させることが必要な摺動構造や、それを含むデバイスのうち、例えば、オイルフリーが要求される機械、水潤滑の機械や排熱回生技術、油が使用できない潤滑システム等への利用や応用も可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 死荷重
2 ピボット
3 回転軸
4 ディスク
5 ロードセル
6 ボール
7 液体又は液体の存在しない環境
8 加熱装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9