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明細書 :物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスならびにこれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスならびにこれらの製造方法
国際特許分類 G01N  21/27        (2006.01)
FI G01N 21/27 Z
国際予備審査の請求
全頁数 29
出願番号 特願2016-513828 (P2016-513828)
国際出願番号 PCT/JP2015/061691
国際公開番号 WO2015/159945
国際出願日 平成27年4月16日(2015.4.16)
国際公開日 平成27年10月22日(2015.10.22)
優先権出願番号 2014085931
優先日 平成26年4月17日(2014.4.17)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】高橋 一浩
【氏名】小澤 遼
【氏名】澤田 和明
出願人 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100149320、【弁理士】、【氏名又は名称】井川 浩文
【識別番号】100113664、【弁理士】、【氏名又は名称】森岡 正往
【識別番号】110001324、【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
Fターム 2G059AA01
2G059AA06
2G059BB01
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC02
2G059CC04
2G059CC05
2G059CC12
2G059CC16
2G059DD12
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE09
2G059EE12
2G059FF08
2G059GG01
2G059HH02
2G059JJ22
2G059KK01
要約 【課題】 可動膜上における反応時間を短縮し得る物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスを提供するとともに、そのための製造方法をも提供する。
【解決手段】 物理・化学センサは、ファブリペロー干渉計を形成するとともに、可動膜3の表面に流路形成層4を積層し、中空部41と、これに接続する流路42を構成した。物理・化学現象センシングデバイスは、複数の物理・化学センサを備え、検出用センサ100と、参照用センサ200とに区分し、異なる流路および中空部によって検体および参照試料を可動膜に供給できるようにした。これらの製造方法は、基板上に犠牲層を積層し、レジストにより流路形成層を構成した後、最後の工程として犠牲層をエッチングする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
受光素子の受光面に、空隙部を形成しつつ該受光面に対向して設けられた可動膜を備え、該可動膜は、少なくとも外側表面に物質固定能を有し、前記受光面とともにファブリペロー干渉計を形成するように構成された物理・化学センサにおいて、
前記可動膜の外側表面に積層される流路形成層を備え、該流路形成層は、前記可動膜の外側表面に中空部を形成するとともに、該中空部に接続される流路が形成されていることを特徴とする物理・化学センサ。
【請求項2】
前記可動膜は、周辺部分の一部に貫設された貫通部を備え、前記流路形成層は、前記中空部および流路から逸れた位置において前記貫通部に連通するように該流路形成層を貫通する連通部を備えており、前記受光面と前記可動膜との間に形成される空隙部は、前記貫通部および連通部を介して外部に連通している請求項1に記載の物理・化学センサ。
【請求項3】
前記可動膜は、気体または液体に含まれる分子を固定する分子固定能を有する材料で形成されている請求項1または2に記載の物理・化学センサ。
【請求項4】
前記可動膜は、柔軟な基礎膜と、該基礎膜の表面に分子固定能を有する材料を積層した分子固定膜とを備える構成である請求項1ないし3のいずれかに記載の物理・化学センサ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の物理・化学センサを使用するセンサアレイであって、
基板上に複数の前記物理・化学センサを形成し、前記流路層に形成される流路は、それぞれの物理・化学センサの可動膜の外側表面に形成される複数の中空部を直列に接続するように形成されていることを特徴とする物理・化学センサアレイ。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の物理・化学センサを使用するセンサアレイであって、
基板上に形成される複数の前記物理・化学センサによりユニットを複数列設け、前記流路層に形成される流路は、それぞれのユニットごとに、それぞれの物理・化学センサの可動膜の外側表面に形成される複数の中空部を直列に接続するように形成されていることを特徴とする物理・化学センサアレイ。
【請求項7】
前記流路は、それぞれのユニットごとに、前記基板の端縁において開口する流入部および排出部を備えている請求項6に記載の物理・化学センサアレイ。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載の物理・化学センサを使用するセンシングデバイスであって、
基板上に複数の前記物理・化学センサを配置し、その一部を参照用とし、他方の一部または全部を検出用とすることを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
【請求項9】
請求項6または7に記載のセンサアレイを使用するセンシングデバイスであって、
複数の前記ユニットについて、個々のユニットを構成する複数の前記物理・化学センサのうち一部の物理・化学センサを参照用とし、他の物理・化学センサを検出用とすることを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
【請求項10】
請求項6または7に記載のセンサアレイを使用するセンシングデバイスであって、
複数の前記ユニットのうち、一部のユニットを参照用とし、他方の一部または全部を検出用とすることを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
【請求項11】
受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、
前記犠牲層の表面のうち、エッチング材料を通過させるためのエッチング材料流通領域を除き、可動膜構成領域に可動膜構成材料を堆積して可動膜層を生成する可動膜層生成工程と、
前記可動膜層の外側表面上に空間部と、この空間部に接続される流路とを形成するとともに、前記エッチング材料流通領域に連通する連通領域を形成させつつ、該可動膜層表面に流路形成層を積層する流路形成層生成工程と、
前記エッチング材料流通領域および前記連通領域を介してエッチング材料を前記犠牲層に到達させ、該犠牲層をエッチングにより除去して可動膜層の裏面側に空隙部を形成させる犠牲層除去工程とを含むことを特徴とする物理・化学センサの製造方法。
【請求項12】
前記流路形成層生成工程は、空間部構成領域、流路構成領域および連通領域の周囲壁面を構成する壁面構成工程と、前記空間部構成領域および流路構成領域の上部開口部を閉塞する閉塞工程とを含むものである請求項11に記載の物理・化学センサの製造方法。
【請求項13】
基板上に作製された複数の受光素子の各受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、
前記犠牲層の表面のうち、エッチング材料を通過させるためのエッチング材料流通領域を除き、可動膜構成領域に可動膜構成材料を堆積して可動膜層を生成する可動膜層生成工程と、
前記可動膜層の外側表面上に空間部と、前記複数の受光素子を複数のユニットに区分しつつ、該ユニットごとに各空間部を直列に接続する流路とを形成するとともに、前記エッチング材料流通領域に連通する連通領域を形成させながら、該可動膜層表面に流路形成層を積層する流路形成層生成工程と、
前記エッチング材料流通領域および前記連通領域を介してエッチング材料を前記犠牲層に到達させ、該犠牲層をエッチングにより除去して可動膜層の裏面側に空隙部を形成させる犠牲層除去工程とを含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記流路形成層生成工程は、空間部構成領域、流路構成領域および連通領域の周囲壁面を構成する壁面構成工程と、前記空間部構成領域および流路構成領域の上部開口部を閉塞する閉塞工程とを含むものである請求項13に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉型の物理・化学センサに関し、特に、気体や液体に含まれる分子を非標識により検知するためのセンサに関するもの、このセンサを使用した物理・化学現象センシングデバイス、およびこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池に代表されるように、水素ガスをエネルギー源とするための技術が開発され普及されつつあり、これに伴って水素ガスを検出するためのセンサが重要視されている。また、環境汚染を誘引するガス(二酸化炭素や二酸化窒素など)は環境保全のためにその排出を検知することが重要とされ、爆薬に使用される成分(トリニトロトルエン:TNTやトリメチレントリニトロアミン:RDXなど)を含むガスの検知は、地雷を発見することに有用である。さらに、医療現場においては、特定種類の抗体または特定種類の抗原を検出することにより、特定の疾患に罹患していることを判定するため、抗原抗体反応によって特定の抗原(特定のタンパク質)を検出するセンサもまた重要視されている。
【0003】
そこで、医療現場では、検出すべきタンパク質を特定する方法として、蛍光ラベルを使用する蛍光標識技術が用いられていた。この技術は、活性化した蛍光基をタンパク質に反応させて標識とするものであって、同時に複数の検出が可能となるとともに蛍光色素の取り扱いが簡単であることから、以前から広く使用されてきた。しかし、この蛍光標識技術では、蛍光基が反応することに伴ってタンパク質構造が劣化することが懸念され、また、蛍光基修飾の位置や標識数の制御が困難であるという定量評価に関して問題があった。
【0004】
上記の問題を解決する手法として、標識を用いない(非標識、いわゆるラベルフリー)センサが提案されている。そこで、MEMS(Micro Electro Mechanical System:微小電気機械システム)技術を用いたラベルフリータンパク質センサとして、分子の吸着による表面応力の変化をカンチレバーや薄膜の曲げとして検出するものが提案されている(非特許文献1および2参照)。上記技術における表面応力の変化は、吸着分子同士のもつ電荷によって静電反発力に起因するものであった。そして、静的な変位を信号出力するためのトランスデューサとしては、レーザの反射角度を検出する方式、またはピエゾ抵抗により出力電圧の信号を読み取る方式が採用されている。カンチレバーを使用する方式では、カンチレバー型センサをマイクロ流路中に実装し、シリンジポンプによって送液される液中に含まれるターゲット分子をリアルタイムに検出するものであった。
【0005】
しかしながら、ピエゾ抵抗を用いるカンチレバー型センサは、カンチレバーの機械的な撓みをピエゾ素子による抵抗値の変化として認識するものであるところ、カンチレバーの撓み量から抵抗値変化量への変換効率が小さかった。また、カンチレバーの材料がシリコン製であるため、ヤング率が高く(130~160GPa)、生体分子に起因する微小な分子間力の検出に必要かつ十分な撓み量を得ることができないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2013/047799号公報
【0007】

【非特許文献1】G.H.Wu, R.H.Datar, K.M.Hansen, T.Thundat, R.J.Cote, A.Majumdar, Bioassay of prostate-specific antigen (PSA) using microcantilevers, Nat. Biotechnol. 19 (2001) 856-860.
【非特許文献2】Y.Arntz, J.D.Seelig, H.p.Lang, J.Zhang, P.Hunziker, J.P.Ramseyer, E.Meyer, M.Hegner, C.Gerber “Label-free protein assay based on a nanomechanical cantilever array”, Nanotechnology 14, pp.86-90, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような問題点を解決すべく、本願の発明者らは、前記表面応力センサの感度を向上させるトランスデューサとして、光干渉を利用した方式を提案している(特許文献1参照)。この技術は、特定物質の固定能を有する材料による可動膜と受光素子表面とでファブリペロー干渉計を形成し、特定波長の透過光の強度変化によって特定物質の固定状態を検出するものである。すなわち、物質固定能を有する可動膜が特定物質を固定することにより、当該物質の分子間力によって膜部が撓み、ファブリペロー干渉計を構成している空隙部(エアギャップ)の間隙幅が変化するものである。そして、この変化に伴って干渉波長が変化することから、単波長のレーザ光を入射すると、入射波長に対する透過率が変化し、この透過光強度の変化を受光素子によって光電流の変化として読み出すのである。可動膜に抗体分子を固定させておけば、この抗体分子と特定のタンパク質が抗原抗体反応により結合し、検知すべきタンパク質の結合による分子間力の変化を可動膜の撓み量から検出することができるものである。このように、タンパク質の有無のみならず、付着量についても電気信号から定量評価することができ、さらに、ファブリペロー干渉計の透過特性を制御すれば、可動膜の変位に対する信号変換効率を向上させることができるものである。
【0009】
ところで、前記ファブリペロー干渉型センサは、受光素子と可動膜との間に空隙部を形成させるため、予めエッチング可能材料(犠牲層)を受光素子の受光面に積層し、その表面に可動膜層を積層した後に当該犠牲層をエッチングによって除去することによって作製されていた。そこで、可動膜層には、エッチングガスまたはエッチング液を犠牲層に到達させるための連通孔が形成され、エッチング終了後には、空隙部への液体の流入を防止するために当該連通孔を封止していた。その際、フォトリソグラフィによって封止膜をパターニングする場合には、塗布方法や現像・ベーク条件などに厳しい制約を受けることとなり、決して歩留まりが良いとは言えないものであった。
【0010】
また、上述のように、検知すべきタンパク質等の特定物質は、可動膜に固定(特異吸着)されるものであることから、可動膜の表面側を開放しておき、その表面に当該特定物質を含む可能性のある液体(検査対象液)を滴下し、その反応を観察するものであった。そのため、可動膜の表面において特定物質が特異吸着するまでに、数十分程度の反応時間を要することがあった。しかしながら、迅速な診断をすべき場合、または分子スクリーニングを目的とする場合などにおいては、反応時間の短縮化が要求されるところ、従来のセンサでは前記要求に応えるところまでに達していなかった。また、可動膜表面に液体を滴下する場合、液体の全体量によって干渉特性が変化することから、滴下前(使用前)には洗浄液等の液体を除去するために、可動膜表面を乾燥させる工程が必要となり、全体的な処理時間が長期化させるという問題点が内在されていた。
【0011】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、可動膜上における反応時間を短縮し得る物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスを提供するとともに、そのための製造方法をも提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、物理・化学センサにかかる本発明は、受光素子の受光面に、空隙部を形成しつつ該受光面に対向して設けられた可動膜を備え、該可動膜は、少なくとも外側表面に物質固定能を有し、前記受光面とともにファブリペロー干渉計を形成するように構成された物理・化学センサにおいて、前記可動膜の外側表面に積層される流路形成層を備え、該流路形成層は、前記可動膜の外側表面に中空部を形成するとともに、該中空部に接続される流路が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成によれば、検査対象液または検査対象ガス(以下、検体と総称する)を流路内に流入させることにより、可動膜へ供給できることとなり、検体を狭い範囲に集中させることによって反応時間の短縮が可能となる。ここで、流路は微細な径を有するマイクロ流路であり、中空部は、可動膜が変化できる程度の微細な空間である。このような微細な領域に検体を供給することによって、いわゆるサイズ効果により反応時間を短縮し得る。また、検体は、流路を介して可動膜に供給されるものであるが、検体の供給を継続することにより、当該可動膜に固定(特異吸着)されるべき特定物質は、継続的して可動膜の表面に供給されることとなり、可動膜の物質固定能による特定物質の固定(特異吸着)の効率を向上させることができる。すなわち、従来のように、可動膜の表面を開放し、当該表面に滴下した場合には、可動膜から離れた位置(液中の上位)に特定物質が存在しても、これを可動膜表面が固定(特異吸着)することができないが、狭い領域内を通過させる場合には、可動膜表面に近接した位置に特定物質を供給させることができることとなり、可動膜表面による固定(特異吸着)が容易となるため、反応時間の短縮化を可能にするものである。
【0014】
上記構成の発明において、前記可動膜は、周辺部分の一部に貫設された貫通部を備え、前記流路形成層は、前記中空部および流路から逸れた位置において前記貫通部に連通するように該流路形成層を貫通する連通部を備えており、前記受光面と前記可動膜との間に形成される空隙部は、前記貫通部および連通部を介して外部に連通しているものである。
【0015】
このような構成の場合には、受光素子の受光面と可動膜との間に形成される空隙部は、結果的に開放された状態となり、当該空隙部を大気圧下において形成されることとなる。これにより、可動膜の変形に自由度を与えることとなることから、可動膜表面に固定(特異吸着)した物質の分子間力による可動膜の変形が容易となり、吸着物質の測定精度を向上させ得るものである。
【0016】
上記各構成の発明においては、可動膜が、気体または液体に含まれる分子を固定する分子固定能を有する材料で形成されているものとすることができる。
【0017】
上記構成によれば、特定のガス(例えは、可燃性ガスや環境に影響を与えるようなガス)および生体高分子などを測定することができる。ここで、可燃性ガスとしては、水素ガスやTNTまたはRDXなどの爆薬に含まれるガスなどを例示することができ、環境に影響を与えるガスとしては、二酸化炭素や二酸化窒素などを例示することができる。また、生体高分子としては、アミノ酸、核酸、多糖類などを含む高分子(例えば、抗体、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)など)を例示することができる。さらに、分子固定能が抗体を固定する抗体固定能を有する場合には、可動膜の表面に予め抗体を固定し、この抗体に結合する特定のタンパク質(抗原)が前記抗体に結合する状態を検出・測定することも可能となる。
【0018】
他方、上記構成の発明における可動膜として、柔軟な基礎膜と、該基礎膜の表面に分子固定能を有する材料を積層された分子固定膜とで構成したものを使用することができる。
【0019】
上記構成の場合には、異なる種類の分子固定膜を積層すれば、検出・測定すべき対象物質に応じて、多種のセンサを構成することができる。分子固定膜としては、抗体を固定するためのものとして、日本パリレン合同会社製のパリレン(登録商標)Aまたはパリレン(登録商標)AMを例示することができ、同様に第三化成株式会社製diX(登録商標)AまたはAMなどがある。これらは、パラキシレン系ポリマーであり、ベンゼン環がCHを介して繋がっている構造体であり、末尾が「A」と表記されるものは、側鎖にアミノ基を有するものであり、末尾が「AM」と表記されるものは、側鎖にメチル基-アミノ基が直列に結合している構造体であるため、当該アミノ基に抗体を結合させることができるものである。
【0020】
なお、可動膜を前述のように複数の膜を積層する場合、同時に金属膜を積層することにより、ハーフミラーとして機能させることも可能である。ハーフミラーを構成することによりファブリペロー干渉計の内部で干渉する波長の選択性を向上させることができるからである。この場合には、さらに、受光素子の受光面にも金属膜を積層する構成としてもよい。前記干渉波長の半値幅を狭くすることができるからである。
【0021】
物理・化学センサアレイにかかる本発明は、前記に示した物理・化学センサを使用するものであって、基板上に複数の前記物理・化学センサを形成し、前記流路層に形成される流路は、それぞれの物理・化学センサの可動膜の外側表面に形成される複数の中空部を直列に接続するように形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
上記構成によれば、物理・化学センサを構成する可動膜上の中空部に対し、直列に接続された流路から同一の検体を供給することができ、複数の物理・化学センサによって、同一検体について異なる物質のセンシングを可能にする。すなわち、個々のセンサを構成する可動膜の物質固定条件を異ならせることにより、同一検体に含有される物質について、複数の異なる種類についてセンシングすることができるのである。可動膜の物質固定条件を異ならせるとは、可動膜により固定(特異吸着)できる特定物質が異なる場合のほか、特定の抗原と特異吸着する特定の抗体を選定し、予め異なる抗体を可動膜に固定させる場合がある。
【0023】
また、物理・化学センサアレイにかかる発明は、前記に示した物理・化学センサを使用するものであって、基板上に形成される複数の前記物理・化学センサによりユニットを複数列設け、前記流路層に形成される流路は、それぞれのユニットごとに、それぞれの物理・化学センサの可動膜の外側表面に形成される複数の中空部を直列に接続するように形成されていることを特徴とするものがある。
【0024】
上記構成によれば、ユニットごとに異なる検体を流入させることができ、同時に複数の検体について特定物質を検知することができる。この場合、各ユニットを構成する複数のセンサのうち、その一部を参照用として使用することができる。例えば、予め可動膜表面に抗体を固定し、この抗体に抗原を特異吸着させることにより特定物質(抗原)を検出する場合において、参照用のセンサを構成する可動膜の表面には抗体を固定させず、この可動膜に抗原を特異吸着させないようにすることによって、特異物質(抗原)が固定しない条件下における透過光強度を測定することが可能となるのである。つまり、同一の流路を経由して供給される同じ検体が、特定物質を検出し得るセンサと、検出し得ない(参照のための)センサとの双方を経由することになり、両者のセンサにおける透過光の強度(光電流の強度)を比較によって、可動膜の変化を明確に測定することが可能となる。他方において、複数ユニットの一部に対しては特定物質を含まない検体を供給し、特定のユニットを参照用として使用してもよい。このような場合においても、ユニットを単位として透過光の強度(光電流の強度)を比較することも可能となる。
【0025】
ここで、前記物理・化学センサアレイにおける流路は、それぞれのユニットごとに、前記基板の端縁において開口する流入部および排出部を備える構成とすることができる。
【0026】
このような構成においては、センサアレイが形成される基板の外部から検体を供給し、流路通過後の検体を基板の外部において排出させることができる。このときの供給系は、センサアレイが形成される基板とは異なるチップ上に流路およびインレットを形成することによって構成することができ、他方、排出系についても、センサアレイが形成される基板とは異なるチップ上に流路およびアウトレットを形成することによって構成することができる。
【0027】
物理・化学現象センシングデバイスにかかる本発明は、前記の物理・化学センサを使用するセンシングデバイスであって、基板上に複数の前記物理・化学センサを配置し、その一部を参照用とし、他方の一部または全部を検出用とすることを特徴とするものである。
【0028】
上記構成によれば、参照用のセンサを特定物質の検出用のセンサと同じ構造とすることができる。この場合、検出用のセンサには、例えば、特定の抗原と抗原抗体反応を生じさせる抗体を固定しておき、参照用のセンサには当該抗体を固定しないものとすることにより、同一の検体を供給することによって、検出用センサにおいてのみ可動膜が変化することとなる。これにより、両センサの受光素子によって検出される光の強度の変化を比較することが可能となる。特に、色素を有する検体のように、検体そのものが光の透過率を減少させるような性質を有する場合の検査には、検出用センサと参照用センサを同じ条件とすることができ、検出用センサの受光素子によって検出される光の強度変化と、参照用センサの受光素子によって検出される光の強度変化との対比により、特定物質の固定による光透過率の変化として検出することが可能となる。
【0029】
また、物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明としては、前述のセンサアレイを使用するものであって複数の前記ユニットについて、個々のユニットを構成する複数の前記物理・化学センサのうち一部の物理・化学センサを参照用とし、他の物理・化学センサを検出用とすることを特徴とするものがある。
【0030】
上記構成の場合には、ユニットごとに一部のセンサを参照用センサとして機能させることができることから、ユニットごとに、検出用センサと参照用センサとを比較することができることとなり、ユニットごとに異なる検体を同時に検査対象とすることができる。なお、ユニットを構成する複数のセンサについて物質固定条件を異ならせることにより、同時に数種類の特定物質の検知を可能にし、参照用のセンサは、これら特定物質が固定(特異吸着)しない条件とすることにより参照値を得ることができる。
【0031】
なお、物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明としては、前述のセンサアレイを使用するセンシングデバイスであって、複数の前記ユニットのうち、一部のユニットを参照用とし、他方の一部または全部を検出用とするものであってもよい。
【0032】
上記構成の場合には、複数の物理・化学センサによって構成されるユニットを単位として、検出用ユニットと、参照用ユニットとに区分することができ、同じ検体を両ユニットに供給することによって、ユニットを単位として受光素子が検出する透過光の強度変化を対比させることも可能となる。
【0033】
他方、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング材料を通過させるためのエッチング材料流通領域を除き、可動膜構成領域に可動膜構成材料を堆積して可動膜層を生成する可動膜層生成工程と、前記可動膜層の外側表面上に空間部と、この空間部に接続される流路とを形成するとともに、前記エッチング材料流通領域に連通する連通領域を形成させつつ、該可動膜層表面に流路形成層を積層する流路形成層生成工程と、前記エッチング材料流通領域および前記連通領域を介してエッチング材料を前記犠牲層に到達させ、該犠牲層をエッチングにより除去して可動膜層の裏面側に空隙部を形成させる犠牲層除去工程とを含むことを特徴とするものである。
【0034】
上記構成によれば、犠牲層の表面を利用して可動膜を積層し、さらに可動膜の上部に中空部および流路を形成した後、犠牲層を除去することによって、受光素子の受光面と可動膜との間に空隙部を形成させ、これらによってファブリペロー干渉計を構成させることができる。ここで、犠牲層は、エッチングによって除去されるものであるが、流路形成層を構築した後において、エッチング材料流通領域および連通領域を介して、エッチング材料を犠牲層に到達させることから、犠牲層を除去した後にウエットプロセスによる構造形成が不要となる。これは、従来構造において、ファブリペロー干渉計を構成した後に流路を構造形成させる場合には、犠牲層を除去した状態でウエットプロセスを行うこととなっていたため、空隙部内への液体流入の可能性があったが、上記構成の製造方法であれば、そのような液体流入を防ぐことができる。また、従来構造では、犠牲層を除去した後に、エッチング材料流通領域を封止するための工程を要していたが、その工程を省略することができる。そして、封止工程によりエッチング材料流通領域を封止したとしても、当該封止状態が不十分である場合には、可動膜上に滴下した液体(検体)が流入する可能性もあったが、流路形成層によって液体(検体)が供給される領域は、エッチング材料流通領域および連通領域から区分されているため、流路形成層内に供給される液体(検体)が空隙部に流入することを防ぐことができる。
【0035】
上記の物理化学センサの製造方法においては、流路形成層生成工程が、空間部構成領域、流路構成領域および連通領域の周囲壁面を構成する壁面構成工程と、前記空間部構成領域および流路構成領域の上部開口部を閉塞する閉塞工程とに区分して、流路形成層を生成するように構成することができる。
【0036】
上記構成の場合には、流路形成層が二層で構成されることとなり、少なくとも空間部構成領域および流路構成領域を密閉した構造物として構築することができる。これらは、フォトリソグラフィ技術によってフォトレジストを成膜することにより形成させることができる。フォトリソグラフィによる場合であっても、犠牲層が除去される前であることから、現像液等が空隙部に影響を与えることがないのである。それよりも、流路形成層をレジストによって生成した後、ポストベークによって、基板と流路形成層との密着性が向上することとなる。
【0037】
物理化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる発明は、基板上に作製された複数の受光素子の各受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング材料を通過させるためのエッチング材料流通領域を除き、可動膜構成領域に可動膜構成材料を堆積して可動膜層を生成する可動膜層生成工程と、前記可動膜層の外側表面上に空間部と、前記複数の受光素子を複数のユニットに区分しつつ、該ユニットごとに各空間部を直列に接続する流路とを形成するとともに、前記エッチング材料流通領域に連通する連通領域を形成させながら、該可動膜層表面に流路形成層を積層する流路形成層生成工程と、前記エッチング材料流通領域および前記連通領域を介してエッチング材料を前記犠牲層に到達させ、該犠牲層をエッチングにより除去して可動膜層の裏面側に空隙部を形成させる犠牲層除去工程とを含むことを特徴とするものである。
【0038】
上記構成によれば、基板上に複数のユニットに区分された複数の物理・化学センサと、各ユニットを単位とする複数の空間部を直列に接続する流路を形成することができる。そして、前記ユニットが複数形成されることにより、同時に異なる検体について検査し得るデバイスを製造することができる。この製造方法においても、犠牲層は、流路形成層を構築した後に、エッチング材料流通領域および連通領域を介して、エッチング材料を犠牲層に到達させるものであり、犠牲層を除去した後にウエットプロセスによる構造形成が不要となる。
【0039】
上記のような物理・化学現象センシングデバイスの製造方法においても、前記流路形成層生成工程が、空間部構成領域、流路構成領域および連通領域の周囲壁面を構成する壁面構成工程と、前記空間部構成領域および流路構成領域の上部開口部を閉塞する閉塞工程とに区別して、流路形成層を生成するように構成することができるものである。
【発明の効果】
【0040】
物理・化学センサにかかる本発明によれば、ファブリペロー干渉計を構成する可動膜の表面に微細な中空部が形成され、この中空部に接続されるマイクロ流路に検体(検査対象の気体または液体)を流入させることにより、検体を狭い範囲に集中させつつ可動膜表面に供給することができる。このとき、可動膜の表面側には中空部が存在し、裏面側には空隙部が形成されていることから、表面に特定物質が固定(特異吸着)した際に、当該固定物質の分子間力に応じて可動膜が変形可能となり、この可動膜を介して受光素子に光を照射することにより、可動膜の変形状態に応じた透過光の強度を検出することができる。そして、前記のように、狭い範囲に集中して検体を供給することにより、上記可動膜表面に特定物質の固定(特異吸着)が速くなり、その結果、検出すべき反応時間の短縮を可能にすることとなる。特に、マイクロ流路を経由して微細な空間に検体を供給することから、いわゆるサイズ効果により可動膜表面における吸着速度を促進させ、反応時間を大きく短縮することができるのである。
【0041】
また、上記のように、検体は、流路を経由して、可動膜表面の中空部に供給されることから、外部との接触を避けながら検知されるべき部分へ到達させることができる。他方、可動膜の表面には検体が供給されるものの、可動膜の裏面側に形成される空隙部は、可動膜および同種の薄膜が流路および中空部との間に介在されることから、当該空隙部に検体が流入することがない。そのため、使用の際に、空隙部を乾燥させるなどの工程を不要とすることができる。なお、検体を流入させた流路および中空部は、使用後には洗浄液(生理食塩水等)を供給することにより、容易に内部を洗浄することができ、その後、乾燥させることなく使用に供することができる。仮に、乾燥すべき必要がある場合には、流路内に乾き空気を流入させることにより容易に乾燥させることも可能となる。
【0042】
そして、上記物理・化学センサを使用するセンサアレイは、前述の複数の物理・化学センサを構成する可動膜上の中空部を流路が直列に接続するものであることから、単一の流路から供給される検体を複数のセンサによってセンシングさせることが可能となる。従って、同一の検体を異なる流路に供給する必要がなく、同一検体について、異なる条件における物質の検出を同時に行うことができる。このときの異なる条件とは、一部のセンサを構成する可動膜は特定物質を固定(特異吸着)できない条件である場合を含み、これを参照のセンサとすることが可能となる。また、このように直列に接続される複数のセンサをユニットとし、複数のユニットを形成することにより、ユニットごとに異なる検体を供給し、同時に複数検体の検査を行うこともできる。こられの構成により、測定時間を短縮させることができ、また、参照のための条件を設けることにより、比較結果を同時に得ることができることから、特定物質の検知を瞬時に判断することが可能となる。
【0043】
さらに、物理・化学現象センシングデバイスにかかる本発明によれば、基板上に前記物理・化学センサを複数形成し、また、複数のセンサによってユニットを形成するものであり、前記複数のセンサの一部、または複数のユニットの一部を、参照用として使用することにより、検体を検知するためのセンサまたはユニットにおける可動膜の変形の状態と、参照用のセンサまたはユニットにおける可動膜の変形の状態とを比較することができる。この参照用のセンサまたはユニットとの比較によって、検出すべき特定物質の存在を明確に把握することが可能となる。比較については、受光素子によって得られる光電流の値を電気的に検知すればよく、極めて容易かつ迅速に検出結果を得ることができる。そして、これらの各センサおよびユニットにおいても微細な空間部およびマイクロ流路の内部に検体を供給することにより、反応時間の短縮化を図ることができるものである。
【0044】
他方、前記物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる本発明によれば、ファブリペロー干渉計を構成する可動膜の表面側に微細な中空部を形成させることができ、さらに、この中空部に接続するマイクロ流路を形成することができる。これらの中空部および流路は、例えば、リソグラフィ技術によって形成することが可能であるが、これら中空部および流路の形成の際には、可動膜の裏面側に犠牲層が積層された状態で実施できるものであり、ウエットプロセスは、犠牲層を除去するよりも前に実施されることとなる。そして、犠牲層は、最終工程において、可動膜に設けられるエッチング材料流通領域および流路形成層に設けられる連通領域を介して、エッチング材料を犠牲層に到達させることによって除去するものであるから、この最終工程において空隙部が形成され、ファブリペロー干渉計が構成された後には、ウエットプロセスによる処理工程が不要となり、当該空隙内に現像液等の不要な液体の流入を防止することができる。この種の効果は、単一の物理・化学センサを形成する場合のほか、センサアレイおよびセンシングデバイスを製造する場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】物理・化学センサの実施形態を示す説明図である。
【図2】物理・化学センサを構成する流路形成層を分離した状態を示す説明図である。
【図3】(a)は図1のIIIA-IIIAにおける断面図であり、(b)は図1のIIIB-IIIBにおける断面図である。
【図4】図1のIV-IVにおける断面図である。
【図5】物理・化学現象センシングデバイスの実施形態を示す説明図である。
【図6】物理・化学現象センシングデバイスの第二の実施形態を示す説明図である。
【図7】物理・化学センサの製造方法を示す説明図である。
【図8】物理・化学センサの製造方法を示す説明図である。
【図9】物理・化学現象センシングデバイスの製造方法を示す説明図である。
【図10】物理・化学現象センシングデバイスの製造方法を示す説明図である。
【図11】現実に作製した物理・化学センサアレイの写真である。
【図12】空隙部の作製状態を実験した際の写真である。
【図13】可動膜に対する反射スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図14】フォトダイオードの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、物理・化学センサ、物理・化学センサアレイ、物理・化学現象センシングデバイスおよびこれらの製造方法にかかる発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。

【0047】
<物理・化学センサ>
図1は、物理・化学センサにかかる発明の実施形態の概略を示す図であり、図2は単一の物理・化学センサについて積層される一部を分離した状態を示す図である。図3(a)は、図1中のIIIA-IIIAによる断面図であり、図3(b)は、IIIB-IIIBによる断面図である。これらの図に基づいて、物理・化学センサの実施形態を説明する。まず、図1に示すように、本実施形態は、基板1に形成されたフォトダイオード等の受光素子(以下、受光素子の例示としてフォトダイオードと表記する)10の受光面11に、空隙部2を介して可動膜3が形成され、これらによってファブリペロー干渉計FPが形成されるとともに、可動膜3の表面側に流路形成層4が積層されている。

【0048】
空隙部2は、フォトダイオード10の受光面11と可動膜3との間に予め犠牲層を積層し、これをエッチングによって除去することにより構成されるものである。従って、犠牲層が積層され、その表面に可動膜3が成膜される範囲においてのみ空隙部2が形成されるものである。

【0049】
可動膜3には、柔軟な薄膜によって形成され、この可動膜3が機械的に撓むことにより、空隙部2が形成される範囲において、受光面11と当該可動膜3との距離が変化し、ファブリペロー干渉計FPによる光の干渉波長が異なるものである。従って、特定波長の光の強度を検出することにより、可動膜の撓みの状態を検知することができるのである。

【0050】
このように、可動膜3を柔軟な薄膜を形成するため、可動膜構成材料としては、日本パリレン合同会社製のパリレン(登録商標)Cまたはパリレン(登録商標)Nを例示することができ、KISCO株式会社製diX(登録商標)CまたはdiX(登録商標)Nなどを使用することができる。これらの材料を蒸着することにより、光透過性および可撓性を有する可動膜3を構成することができる。そして、可動膜3の表面側に物質固定能を発揮させるためには、前記パリレン(登録商標)CまたはNや、diX(登録商標)CまたはNなどの表面に物質固定能を有する材料(物質固定可能材料)を積層させればよい。また、単一材料により可動膜を形成する際には、パリレン(登録商標)AまたはAMや、diX(登録商標)AまたはAMなどを使用することができる。これらの材料も光透過性および可撓性を有するものであり、可動膜3に使用し得るものである。また、側鎖にアミノ基を有することから、アミノ基と電気的に結合できるプローブ分子(特定の抗体)を固定できる(物質固定能を有する)ものである。この場合、可動膜3の表面に予め前記プローブ分子(抗体)を固定することにより、これに特殊吸着する特定のタンパク質(抗原)を検出することが可能となる。

【0051】
なお、可動膜3は、空隙部2が形成される領域よりも広い範囲に積層されており、空隙部2が形成される範囲は可動膜3が現実に可動(撓み変形)し得る可動領域となり、その周辺部は、可動領域を固定する固定領域となるものである。また、空隙部2を形成する際、犠牲層をエッチングできるように、可動膜3の適宜位置にはエッチングホール31が形成されている。なお、このエッチングホール31は、後述の製造工程ではエッチング材料流通領域として機能する(その意味からエッチングホールと称する)が、製造後においては、外部と空隙部2とを連通するための貫通孔として機能するものである。

【0052】
ところで、流路形成層4は、可動膜3(可動領域および固定領域を含む)の上部に積層されるものであり、可動膜3に可動領域が形成される広さと同程度の広さを有し、かつ適宜な高さ寸法(数十μm~100μm程度)を有する中空部41が形成され、可動膜3の変形を許容しつつ可動膜3が周辺部に張り付くことがない程度の空間が構成されている。また、可動膜3の固定領域が形成される部分に流路42が形成されている。流路42は中空部41に接続され、検査対象となるべき気体または液体(検体)が流路42を経由して中空部41に供給され得るように構成されている。

【0053】
ここで、流路形成層4は、図2に示すように(図2中の可動膜3は透明として図示している)、片面(下面)40bにおいてのみ開放される中空部構成領域41Aおよび流路構成領域42Aが形成されるものであり、この片面(下面)40bが可動膜3の表面側に密着するような状態で積層されることにより、中空部41および流路42(図1)が形成されるものである。すなわち、前記中空部構成領域41Aおよび流路構成領域42Aのそれぞれの開放部分が可動膜3の表面によって閉塞される状態とすることにより、密閉された中空部41および流路42が形成されるのである。

【0054】
なお、基板1の表面には、空隙部2およびその周辺部分を含む広い範囲に、可動膜3が積層されていることから、可動膜3の可動領域および固定領域の両方によって、前記中空部構成領域41Aおよび流路構成領域42Aが密閉され、流路42を長尺に形成し得るのである。

【0055】
また、流路形成層4には、表面40aから裏面40bに貫通する連通部43が設けられている。この連通部43は、前述の犠牲層をエッチングによって除去する際のエッチング材料を通過させるためのものである。従って、可動膜3に形成される前記エッチングホール31と連通できる位置に当該連通部43が設けられているのである。そして、基板1に形成される空隙部2の周辺には、当該空隙部2と一体的に構成される空間部分21が形成され、この空間部分21の表面に積層される可動膜3にエッチングホール31が形成されるのである。図2には、空間部分21を中空状態で図示しているが、この空間部分21も当初は犠牲層が積層され、エッチング材料によって除去されることにより中空状態となるものである。なお、エッチングホール31は、図2中に示されるように、比較的微細な貫通孔によって構成されている。

【0056】
上記のように、流路形成層4に連通部43が設けられることにより、フォトダイオード10の受光面11と可動膜3との間に形成される空隙部2は、エッチングホール31および当該連通部43を介して外気と連通するように構成されている。この状態を図3(a)に示している。この図に示すように、可動膜3の可動領域3aは、表面側には検体が流入し得る中空部41が、裏面側には空隙部2が存在することとなる。空隙部2は、エッチングホール31および当該連通部43を介して外気と連通していることから、大気圧下となっている。中空部41に接続される流路42の両端は開口していることから、中空部41には検体が供給された後(通過した後)は、中空部41を大気圧下にすることができる。中空部41に供給される検体は、可動膜3の表面を通過するため、検体に含まれる特定物質が可動膜3の表面に固定(特異吸着)する場合には、その分子間力によって変形し得るものである。

【0057】
なお、基板1のうち、流路41が形成されない領域を利用して、図3(b)に示すように、フォトダイオード10のp型領域およびn+型領域には電極12,13が設けられ、バイアス電極を印加させるように構成している。また、流路形成層4の表面側に光源Lを配置することにより、光源Lの照射光が各層を透過することから、その強度を光電流としてフォトダイオード10によって検出し、可動膜3の撓みの程度を検出することができるのである。

【0058】
本実施形態の物理・化学センサは、図2および図3に示されるように、単一のセンサとして構成することができるほか、図1および図4に示すように、複数のセンサを併設しつつ、複数の中空部41を連続的に接続する流路42を設けて、同一検体について複数のセンサによる検知を可能とする構成でもよい。

【0059】
すなわち、図4は、図1中のIV-IVによる断面であり、この図に示すように、基板1には複数のフォトダイオード10が形成され、それぞれのフォトダイオード10によって、個々に独立したファブリペロー干渉計FPが形成されている。そして、当該ファブリペロー干渉計FPを構成する可動膜3の上方には中空部41が形成され、前述と同じ構成の複数の物理・化学センサが並設されている。

【0060】
この場合、流路42a~42dは、それぞれの中空部41を直列的に接続するように形成され、一端に形成される流路42aを流入側とする場合は、他端に形成される流路42bは排出側となり、中間の流路42c,42dは、隣接する中空部41の間を連結するための連結用として機能する。

【0061】
上記構成の場合には、流入側の流路42aから検体を流入させることにより、当該検体は、複数の中空部41に順次供給されることとなり、それぞれの中空部41において、可動膜3の表面を通過することから、複数の可動膜3による特定物質の検出が可能となる。すなわち、複数の可動膜3が同じ固定能を有する場合、特定物質が複数の可動膜3に固定され得ることとなる。例えば、可動膜3を物質固定可能材料(前掲のパリレン(登録商標)AまたはAMや、diX(登録商標)AまたはAMなど)によって構成する場合には、その表面にプローブ分子となる抗体Aを固定することができ、血液や体液などを流入させることにより、この抗体Aとの間で抗原抗体反応を起こす抗原Pを特異吸着することができるのである。

【0062】
また、複数の可動膜3に固定する抗体Aの種類を可動膜3ごとで異なるものとすることにより、異なる種類の抗体Aと個別に抗原抗体反応を生じさせ得る個別の抗原Pを特異吸着させることも可能となる。すなわち、血液や体液などの検体に含まれる種々の疾病由来のタンパク質を個別に吸着させることによって、当該タンパク質の検出を可能とし、同一検体を一つの流路に供給することで複数の特異物質についてセンシングを行うことができるものとなる。

【0063】
本実施形態は、単一または複数のセンサを配置する場合のいずれにおいても、可動膜3の裏面側に形成される空隙部2は、中空部41とは隔絶されていることから、検体が空隙部2に流入することも防止できる。さらに、中空部41が形成される範囲は、可動膜3の可動領域の広さと同程度であり、所定の高さ寸法を有していることから、可動膜3の表面に特定物質が固定(特異吸着)して変形することを阻害しないものである。

【0064】
従って、特定物質を検出する際には、流路42を経由して検体を中空部41に供給することにより、検体を可動膜3の表面に接触させ、特定物質を固定(特異吸着)させればよいこととなる。このとき、限られた狭い空間に検体を供給することとなるため、特定物質を効率よく固定(特異吸着)させることができる。

【0065】
なお、使用後の中空部41および流路42を洗浄する必要がある場合には、当該流路42を経由して洗浄液を流入させればよく、仮に、乾燥すべき必要がある場合には、洗浄後に乾き空気を流入させればよい。いずれにおいても、比較的短時間に異なる検体の検査に供することが可能となるものである。

【0066】
<物理・化学センサアレイ>
ところで、図1および図4に示す実施形態では、上記のような構成とした物理・化学センサが基板1に複数形成されている。つまり、図示の状態が物理・化学センサアレイの実施形態の一例である。図示の場合には、複数(図は三つ)の物理・化学センサが形成されており、それぞれの可動膜3の上方に配置される中空部41を流路42が直列に接続しており、両端の流路42a,42bの端部は基板1の端縁において開口させたものである。この場合、一方の流路42aの開口端にはシリンジ等の注入手段が接続されることとなり、また、他方の流路42bの開口端には、検体収容手段が接続されることとなる。

【0067】
これとは異なる構成として、複数の物理・化学センサの中空部41に対して個別の流路42を接続させる場合があり得る。この場合には、各流路42に異なる検体を流入させ、または検体と参照用試料とを区別して流入させることにより、個々のセンサが異なるものを検出することとなる。これは、異なる検体について同時に同じ物質の検出を行うことを可能にするものであり、参照用試料を同時に流入することにより、検体と参照用試料との光電流の差違を検出することも可能となる。

【0068】
さらには、上述の複数の物理・化学センサの中空部41を流路42によって直列に接続したものと一つのユニットとし、このユニットを複数形成する場合もあり得る。このようなセンサアレイの場合には、同一の検体について複数のセンサによる検出を可能としつつ、異なる検体または参照用試料を同時に検知対象とすることも可能となる。

【0069】
<物理・化学現象センシングデバイス>
物理・化学現象センシングデバイスの実施形態としては、前記センシングアレイを使用するものがある。例えば、図5に示すように、複数のセンサ(図は3つのセンサ)の中空部141a,141b,241を直列に接続する流路142が形成される場合、その上流側に位置する複数のセンサを検出用センサ100a,100bとし、下流側に位置するセンサを参照センサ200とするものである。

【0070】
一部のセンサを参照用センサ200として機能させるためには、当該参照用センサ200を形成する可動膜203について、物質固定能を有しないものを使用するか、または、図示のように、特定の抗体A(またはB)を検出用センサ100a,100bの可動膜103a,103bにのみ固定させ、参照用センサ200の可動膜203には抗体A(またはB)を固定しないことによる方法がある。すなわち、参照用センサ200は検出用センサ100と同じ構成としながら、特定物質が固定(特異吸着)できないようにしているのである。

【0071】
また、検出用センサ100a,100bの可動膜103a,103bに異なる種類の抗体A,Bを固定するような構成の場合には、同一の検体に含まれる異なる種類の抗原を検出し得ることとなる。すなわち、一方の検出センサ100aでは、抗体Aに特異吸着する抗原を検出し、他方の検出センサ100bでは、抗体Bに特異吸着する抗原を検出するのである。

【0072】
このように、参照センサ200を検出用センサ100a,100bと同様の構成とすることにより、両者の比較条件は、当該センサ100a,100b,200の構造上の差違を除くことができる。また、検出用センサ100a,100bと参照用センサ200とは同じ構成であるから、使用の際に、任意のものを参照用センサ200として選択することも可能となる。すなわち、基板上に複数のセンサを配置し、そのうちの特定のセンサを参照用200とし、残るセンサを検出用100a,100bとすることにより、同時に複数の検体を検査対象とすることができる。他方、複数のセンサを参照用200として使用することにより、条件を変化させた複数の参考値を得ることも可能となる。なお、前記のような複数のセンサ100a,100b,200を一つのユニットとし、このユニットを複数構成すれば、ユニットごとに異なる検体を検査対象とすることができる。

【0073】
次に、物理・化学現象センシングデバイスの第二の実施形態を図6に示す。本実施形態では、両センサ100,200には、異なる流路形成層104,204が設けられており、中空部141,241には、個別の流路(図示せず)が接続されるように構成されたものである。この図に示されるように、本実施形態は、検出用センサ100と参照用センサ200とを区別しつつ同一基板上に形成したものであり、参照用センサ200は、実質的に検出用センサ100と同じ構成とするものである。

【0074】
従来は、可動膜表面が開放した状態であったことから、検体が参照用センサにも供給されることが想定され、参照用センサを構成する可動膜が変形しないように、検出用センサと異なる構成としていた(特許文献1参照)。すなわち、可動膜の裏面側に空隙部を形成せず、受光素子の受光面に可動膜を積層させるようにしていたのである。ところが、このように、検出用センサと参照用センサとが異なる構成の場合には、参照用センサの作製が煩雑となり、また、比較の条件(参照用センサに供給する試料)を任意に選択することもできなかった。

【0075】
そこで、本実施形態では、個々のセンサ(検出用100および参照用200)の可動膜103,203の表面に密閉された中空部141,241を個別に設けたのである。そして、これらの中空部141,241に検体および参考用試料を区別しつつ、個別に供給し得る流路を形成することにより、両中空部141,241が相互に隔離された状態とすることができるのである。これにより、検出用センサ100には検体のみが供給され、参照用センサ200には参照用試料のみが供給され得るものとしたのである。その結果、検出用センサ100では、検査対象となる検体について、透過する光強度が検出されることとなる一方、参照用センサ200では、任意の(比較すべき)試料について、透過する光強度が検出されることとなる。これらの検出値を比較することにより、検体における特定物質の存否および濃度等を検知することが可能となるのである。

【0076】
例えば、検出対象が水素ガスである場合には、検出用センサ100には検体(気体)を供給し、参照用センサ200には可動膜203によって固定されない分子を有する気体を供給することにより、両者の検出値の比較により水素ガスの存在等を検知することができる。また、検出対象が血液または体液などに含まれる特定タンパク質である場合には、検出用センサ100には当該血液または体液等を供給し、参照センサ200には生理食塩水等の特定タンパク質を含有しない液体を流入させ、両者を比較するのである。なお、比較のための試料は、検体によって適宜変更され得るものであり、例えば、検体が血液である場合には、着色による光強度の変化を考慮し、試料には赤色の液体を使用することが想定される。また、場合によっては、敢えて何も供給しない場合も考えられる。

【0077】
また、検出用センサ100として、複数の物理・化学センサを直列に配置した構成としてもよい。この場合、個々の中空部141には同一の検体を供給するため、直列に接続される流路を構成するのである。そして、参照用センサ200についても同様に、複数の物理・化学センサを直列に配置するように構成し、中空部241には検出用センサ100とは異なる経路とする流路によって連続するように構成するのである。同一の検体について複数のセンサにより特定物質を検出する場合、複数の検出用センサごとに比較すべき参照用センサの検出値を得ることができるのである。

【0078】
このように、参照センサ200を検出用センサ100と同様の構成とすることにより、両者の比較条件は、当該センサ100,200の構造上の差違を除くことができる。なお、直列に接続される複数のセンサをユニットとして、このユニットを複数構成すれば、ユニットごとに検出用と参照用とを区別して使用することができるのである。

【0079】
<物理・化学センサの製造方法>
次に、物理・化学センサの製造方法について説明する。受光素子(フォトダイオード)を半導体プロセスによって形成し、その表面にファブリペロー干渉計を形成した後、流路形成層を積層するものである。その過程を図6および図7に示す。

【0080】
まず、図7(a)に示すように、基板1には、半導体プロセスによってフォトダイオード10を形成し、その表面には保護層としてのシリコン酸化膜5が成膜されている。この表面に犠牲層6を成膜する(犠牲層生成工程、図7(b)参照)。犠牲層6に使用する材料は、後のエッチングによって除去可能な材料(エッチング可能材料)であり、例えば、ポリシリコンを使用することができる。エッチング可能材料としてポリシリコンを使用する場合には、例えば、CVD法により、シリコン酸化膜の全面にポリシリコンを堆積し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングすることで、必要な範囲に犠牲層6を生成することができる。なお、ポリシリコンは、犠牲層6として使用するほかに、周辺の積層部7にも使用されるため、当該積層部7に堆積したポリシリコンを残すようにパターニングするものである。

【0081】
続いて、犠牲層6の表面に可動膜層30を積層する(可動膜層生成工程、図7(c)参照)のであるが、かかる工程の前には、積層部7の表面等の保護や電極等が構成される。すなわち、積層部7の表面および側面には、後のエッチングにおけるエッチング材料(エッチングガス等)から保護するためシリコン酸化膜8が積層される。また、犠牲層6の側面にもシリコン酸化膜8が積層され、エッチング後に形成される空隙部の周辺を構成させている。さらに、これらの過程において、フォトダイオードの一部表面は、シリコン酸化膜5をバッファードフッ酸液等でエッチングし、当該部分にアルミニウムを配線し、p型領域およびn+型領域に電極を設けておくことができる。

【0082】
上記必要な工程が終了した後、犠牲層6の表面に可動膜層30を積層するのである。可動膜層30は、犠牲層6がエッチングによって除去された後に可動膜として機能するものである。そこで、エッチング材料が犠牲層6に到達できるように、当該可動膜層30にはエッチングホール31が設けられる。すなわち、犠牲層6の全面に可動膜構成材料を成膜した後、エッチング材料流通領域(エッチングホール31となる部分)を除去するのである。可動膜構成材料としては、パリレン(登録商標)CもしくはNまたはdiX(登録商標)CもしくはNのほか、パリレン(登録商標)AもしくはAMまたはdiX(登録商標)AもしくはAMを使用することができる。これらの材料は、光透過性および可撓性を有するため、可動膜として機能し得るからである。従って、光透過性および可撓性を有するものであれば、これ以外の材料を使用することができるものである。また、前掲材料の末尾がAまたはAMのものは、側鎖にアミノ基を有することから、アミノ基と電気的に結合できる分子(特定の抗体)を固定し得る可動膜層30(後の可動膜)を生成し得る。なお、可動膜層30(後の可動膜)は、少なくとも表面側に分子固定能を有する構成であればよいため、光透過性および可撓性を有する薄膜を形成し、その表面に分子固定能を有する薄膜を積層してもよい。

【0083】
ところで、可動膜構成材料として前掲の可動膜構成材料を使用する場合には、蒸着法により犠牲層の表面に蒸着し、その後、一部(エッチング材料流通領域)をエッチングによって除去することにより、所望の可動膜層30を生成することができる。この場合にもフォトリソグラフィ技術により、酸素プラズマによるパターニングの後に所定領域を除去するものである。

【0084】
その後、流路形成層4を可動膜層30およびその周辺に積層するのである(流路形成層生成工程、図8(a)および(b)参照)。本実施形態における流路形成層生成工程は、壁面構成工程(図8(a)参照)および閉塞工程(図8(b)参照)の二工程で生成されるものである。すなわち、まず、中空部を形成すべき範囲(中空部構成領域41a)および流路を形成すべき範囲(流路構成領域)、ならびに、前記エッチング材料流通領域(エッチングホール31)に連通することができる範囲(連通領域43a)について、その周囲壁面を形成するために下層4aのみを積層するのである。これが壁面構成工程である。そして、中空部41(および流路)の上部開口部を閉塞するために上層4bを積層するのである。これが閉塞工程である。なお、図では、流路および流路構成領域を示していないが、紙面鉛直方向に、中空部41または中空部構成領域41aに連続している。

【0085】
前記の下層4aおよび上層4bは、いずれもレジストなどで構成されるものであり、壁面構成工程では、フォトリソグラフィ技術により、壁面を構成すべき部分を残し、中空部構成領域41a、流路構成領域および連通領域43aを除去するものである。他方、閉塞工程では、同種のレジストなどをラミネートすることにより、中空部構成領域41aおよび流路構成領域を中空に維持しつつ閉塞するとともに、周囲壁面の表面に上層4bを積層するのである。このとき、連通領域43aにはレジストによって閉塞せず、上層4bにおいても連通領域43bを形成するものである。上層4bにおける連通領域43bの形成についても、フォトリソグラフィ技術によることができる。このように、フォトリソグラフィ技術によって、流路形成層4がレジストで形成される場合には、露光、現像などの後にポストベークがなされることから、結果的に、流路形成層4と基板1との密着性が確保されるものである。

【0086】
上記により流路形成層4が積層された状態において、下層4aおよび上層4bに形成された両連通領域43a,43bによって、当該流路形成層4を貫通する連通部43が設けられ、これが、可動膜層30に形成したエッチング材料流通領域(エッチングホール31)に連通する状態となっている。そこで、これら連通部43およびエッチング材料流通領域31を利用して、犠牲層6をエッチングするのである(犠牲層除去工程、図8(c)参照)。犠牲層6の除去は、ドライエッチングにより、エッチングガスを犠牲層6に到達させることによって行うものである。上述のように、流路形成層4の外部からエッチングガスを供給することにより、当該エッチングガスは、連通部43を経由して可動膜層30の表面へ、さらに、可動膜層30のエッチング材料流通領域31を経由して犠牲層6へ到達することとなるのである。

【0087】
上記の一連の工程により、可動膜層30の裏面側の犠牲層3が除去され、可動膜層30の一部が膜状となって可動膜3を形成する。これと同時に、可動膜3の裏面側には空隙部2が形成されることとなり、フォトダイオード10の表面11および可動膜3とともにファブリペロー干渉計が構築されることとなるのである。さらに、流路形成層4に形成された中空部42および流路は、下層4aおよび上層4bによって周辺から隔離された空間となるため、この内部に供給される気体または液体が周辺に漏れ出ることがない。従って、可動膜3の裏面側に形成した空隙部2は、連通部43およびエッチング材料流通領域31を介して開口している状態のまま使用することができるのである。すなわち、エッチングの際に使用した開口部を閉塞しなくてもよいのである。

【0088】
本実施形態は、上記のような構成であるから、犠牲層6の除去工程を最後に行うことができ、ファブリペロー干渉計を作製した後のウエットプロセスを行う必要がない。また、可動膜3の表面には、密閉された中空部41を形成でき、流路を経由した検体を可動膜3に供給し得る構成の物理・化学センサを作製することができる。

【0089】
<物理・化学現象センシングデバイスの製造方法>
次に、物理・化学現象センシングデバイスの製造方法について説明する。物理・化学現象センシングデバイスは、図9および10に示すように、基板上に複数の物理・化学センサを構築することによって製造されるものである。そこで、基本的には、前述の物理・化学センサの製造方法と同様の工程によるものであるが、複数の物理・化学センサに対して流路を区分して接続するため、流路形成層生成工程において少し異なるものである。

【0090】
すなわち、基板1に複数(図は2個)のフォトダイオード110,210を形成する(図9(a)参照)。これらのフォトダイオード110,210の受光面111,211に、それぞれ犠牲層106,206を積層する(犠牲層生成工程、図9(b)参照)。このとき、積層部107,207も同時に構成される。そして、犠牲層106,206の側面ならびに、積層部107,207の表面および側面を、シリコン酸化膜108,208で保護した後、可動膜層130,230を成膜する(可動膜層生成工程、図9(c)参照)。その後、流路形成層104,204を生成する(流路形成層生成工程)のである。

【0091】
本実施形態においても、流路形成層生成工程は、壁面構成工程と、閉塞工程とによるものである。すなわち、可動膜層130,230の表面に下層104a,204aを積層し、中空部構成領域141a,241aおよび連通領域143a,243aの周囲壁面が構成される(壁面構成工程、図10(a)参照)される。さらに、その上方に上層104b,204bが積層されて、中空部141,241および連通部143,243を構成する流路形成層104,204が構築されるのである(閉塞工程、図10(b)参照)。なお、図示されていないが、中空部141,241が形成される際には、これに接続する流路が、紙面に垂直な方向に形成されるものである。

【0092】
そして、最後に犠牲層106,206をエッチングにより除去して(犠牲層除去工程、図10(c)参照)、可動膜103,203を形成し、その裏面側に空隙部102,202を形成することによって、ファブリペロー干渉計を構成させるのである。

【0093】
本実施形態によれば、図示のように、隣接するフォトダイオード110,210に二つの物理・化学センサ100,200が形成されることとなるが、それぞれに個別の中空部141,241を備える同じ構造の検出用センサ100および参照用センサ200を作製することができる。なお、説明の便宜上、隣接する中空部141,241は流路で接続されないものを例示したが、両中空部141,241を流路で接続するように構成してもよい。この場合、参照用センサ200の可動膜203は、物質固定能を有しない材料で構成してもよい。また、このように複数の中空部141,241を流路で連続させたものをユニットとし、このユニットを同時に複数構成するようにしてもよい。

【0094】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、これらの実施形態は、一例を示すものであって、本発明が上記実施形態に限定される趣旨ではない。従って、これらを適宜変形することは可能である。

【0095】
例えば、物理・化学センサまたは物理・化学現象センシングデバイスの実施形態においては、可動膜3,103,203の表面または裏面に金属膜を成膜し、ハーフミラーを形成してもよい。この場合、フォトダイオード10,110,210の受光面側にも金属膜を成膜して反射率を向上させてもよい。そして、このようなハーフミラーを形成する場合の製造方法においては、可動膜3,103,203等を成膜する前後に、金、銀または銅などの金属材料をスパッタ法または蒸着法により堆積されることとなる。
【実施例】
【0096】
以下、前記製造方法により、ファブリペロー干渉計を有する物理・化学センサが作製した。作製した物理・化学センサは、シリコン基板上に、4×4のフォトダイオードを形成し、それぞれ4個を直列に接続したユニットを4列形成するセンサアレイである。なお、犠牲層にはポリシリコンを使用し、最後に二フッ化キセノンガスによってエッチングした。流路形成層には、二フッ化キセノンに耐性を有するレジストとして、東京応化社製のTMMF2000を使用した。ここで使用したレジストは光透過性が高く、流路形成層として使用することができるものと判断された。作製したセンサの表面の顕微鏡写真を図11(a)に、基板全体の写真を図11(b)に、基板を検査装置(インレットおよびアウトレットを有する)に実装した状態の写真を図11(c)にそれぞれ示す。
【実施例】
【0097】
<実験結果>
最終段階である犠牲層の除去工程において、二フッ化キセノンガス(エッチングガス)が、連通部(連通領域)およびエッチング材料流通領域(エッチングホール)を介して犠牲層に到達し、当該犠牲層が除去されるか否かを実験した。実験は、エッチングの前後について光干渉による色彩の変化を確認した。その結果を、図12に示す。この図の写真は明確ではないが、実際には、可動膜の中心付近(可動領域)が緑色から、赤色に変化したことを確認した。これは、犠牲層が存在している場合と、空隙部が形成された場合とでは、光波長が変化することによるものと判断される。
【実施例】
【0098】
また、作製された空隙部が機能しているか否かを実験した。実験は、反射スペクトルを測定し、可動膜の状態を評価することとした。実験に使用するセンサは、前記と同様であり、流路に液体を流入した後に乾燥させ、その後、同じ液体を流入させたときの反射スペクトルを測定した。使用した液体としては表面張力を考慮してエタノールとした。その結果を図13(a)に示す。なお、液漏れが疑われるセンサも存在したため、比較のために図13(b)に示すこととする。また、図中の「initial」および「stiction」と記載しているものは、比較のために示しており、「initial」は、正常な空隙部が形成されているもので、液体を流入させない状態における反射スペクトルであり、「stiction」は、スティクション(可動膜がフォトダイオードの受光面に付着する不良状態)が生じた場合の反射スペクトルを示す。
【実施例】
【0099】
この結果から明らかなとおり、実験により作製されたセンサは、正常な場合と同様に、450nm~750nmの波長の帯域に4つの干渉ピークが確認された。これに対し、液漏れが疑われるセンサについては、スティクションが生じた場合と同様に、干渉ピークは3つに減少している。従って、実験に供したセンサの空隙部は、液体の流入によっても液漏れせず、正常に機能することが判明した。なお、実験に供したセンサについて、干渉ピークが長波長側に20nm程度シフトしているが、これは、液中の分子が非特異吸着したことにより、可動膜が僅かに変形したものと推測される。この意味からも参照用センサによる比較対象を用いることによれば、特定物質の特異吸着の状態を明確に検知させることが可能となる。
【実施例】
【0100】
最後に、光源から照射される照射光の強度変化に対するフォトダイオードの光電流値を測定し、その出力特性を図14(a)に示し、フォトダイオードに逆バイアス電圧を印加したときの光電流値の変化を測定し、その特性を図14(b)に示す。上記結果から明らかなとおり、出力電流は、照射光の強度に対して線形的な応答を示しており、流路形成層を積層した状態でも透過率測定が可能であることが判明した。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2,101,202 空隙部
3,103,103a,103b,203 可動膜
3a 可動膜の可動領域
4,104,204 流路形成層
4a,104a,204a 流路形成層の下層
4b,104b,2014a 流路形成層の上層
5,105,205 シリコン酸化膜
6,106,206 犠牲層
7,107,207 積層部
8,108,208 シリコン酸化膜
10,110,210 フォトダイオード(受光素子)
11,111,211 受光面
12,13 電極
21 空間部分
30,130,230 可動膜層
31 エッチングホール(エッチング材料流通領域)
40a 流路形成層表面
40b 流路形成層裏面
41,141,141a,141b,241 中空部
41A 中空部構成領域
42,42a,42b,42c,42d,142 流路
42A 流路構成領域
43,143,243 連通部(連通領域)
43a,43b,143a,143b,243a,243b 連通領域
100,100a,100b 検出用センサ
200 参照用センサ
A,B 抗体
L 光源
FP ファブリペロー干渉計
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
12
【図14】
13