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明細書 :サンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月20日(2017.4.20)
発明の名称または考案の名称 サンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプル
国際特許分類 G01N  27/64        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/92        (2006.01)
FI G01N 27/64 B
G01N 27/62 V
G01N 1/28 J
G01N 33/48 B
G01N 33/68
G01N 33/92
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 20
出願番号 特願2016-521047 (P2016-521047)
国際出願番号 PCT/JP2015/063621
国際公開番号 WO2015/178249
国際出願日 平成27年5月12日(2015.5.12)
国際公開日 平成27年11月26日(2015.11.26)
優先権出願番号 2014103194
優先日 平成26年5月19日(2014.5.19)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】澤田 誠
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
審査請求 未請求
テーマコード 2G041
2G045
2G052
Fターム 2G041CA01
2G041DA04
2G041EA01
2G041FA10
2G041FA12
2G041JA06
2G041JA13
2G045AA13
2G045BA13
2G045BB23
2G045CA25
2G045DA36
2G045DA60
2G052AA30
2G052AA33
2G052AB16
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD32
2G052AD52
2G052DA07
2G052EB11
2G052FA02
2G052GA24
2G052JA16
要約 サンプル中の微量成分を、濃縮等の前処理をすることなく、少ないサンプル量で、短時間で、且つ精度よく分析する。
サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する工程、を含むサンプル中の成分の分析方法により、サンプル中の微量成分を、濃縮等の前処理をすることなく、少ないサンプル量で、短時間で、且つ精度よく分析することができる。
特許請求の範囲 【請求項1】
サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する工程、
を含むサンプル中の成分の分析方法。
【請求項2】
前記サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムが、
熱可塑性樹脂を加熱・溶融する工程、
溶融した熱可塑性樹脂をサンプルと当接させながら冷却する工程、
により形成されたものである請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記サンプルが、生体サンプルである請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記生体サンプルが、血液である請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、乾燥したものである請求項1~4の何れか一項に記載の分析方法。
【請求項6】
溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、薄膜状である請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記分析方法により分析されるサンプル中の成分が、ペプチドホルモン又は脂質である請求項1~6の何れか一項に記載の分析方法。
【請求項8】
サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する工程、
を含むサンプル中の成分の特異的分離方法。
【請求項9】
前記サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムが、
熱可塑性樹脂を加熱・溶融する工程、
溶融した熱可塑性樹脂をサンプルと当接させながら冷却する工程、
により形成されたものである請求項8に記載の特異的分離方法。
【請求項10】
前記サンプルが、生体サンプルである請求項8又は9に記載の特異的分離方法。
【請求項11】
前記生体サンプルが、血液である請求項10に記載の特異的分離方法。
【請求項12】
溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、乾燥したものである請求項8~11の何れか一項に記載の特異的分離方法。
【請求項13】
溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、薄膜状である請求項12に記載の特異的分離方法。
【請求項14】
熱可塑性樹脂フィルム、及び
該熱可塑性樹脂フィルム上に積層されたサンプル、
を含む質量分析用サンプル。
【請求項15】
サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムを含む質量分析用サンプル。
【請求項16】
前記サンプルが、生体サンプルである請求項14又は15に記載の質量分析用サンプル。
【請求項17】
前記生体サンプルが、血液である請求項16に記載の質量分析用サンプル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプルに関するものである。より具体的には、溶融した熱可塑性樹脂をサンプルと当接させながら冷却することでサンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムを形成し、当該熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を直接照射することで、サンプル中の微量成分を濃縮等の前処理を行うことなく特異的に分離する方法に関するものである。また、サンプル、特に血液等の生体サンプルを用いたサンプル中の成分の分析方法に関するものであり、前記分析方法及び特異的分離方法に用いるための質量分析用サンプルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の現場では、血液や生体組織等に含まれる微量成分を、少ないサンプル量で、短時間で、且つ精度よく分析することが求められている。
【0003】
血液や生体組織等に含まれる生体成分としては、蛋白質、核酸、多糖類等が知られており、医療目的に応じて様々な方法で分析が行われている。例えば、血液中のペプチドホルモンは、様々な疾患に関与していることが知られており、血液中の微量のペプチドホルモンを分析することで、疾患の有無を診断することができる。
【0004】
血液中に含まれるペプチドホルモンの分析方法としては、標的とするペプチドホルモンに特異的に反応する抗体を用いる方法が一般的である。例えば、アルツハイマー病の原因物質として考えられているアミロイドベータ蛋白質(以下、「Aβ」と記載することがある。)を血液中から分析する方法として、Aβを特異的に認識する抗体を用いてELISAにより検出する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0005】
また、質量分析装置を用いてAβを分析する方法も知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2013-505438号公報
【特許文献2】特表2013-511734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されている発明は、血液中には様々な生体成分が含まれており、ELISAによりAβを検出する際に、それら生体成分が夾雑物となるため、検出感度が低いという問題がある。また、質量分析装置により血液中のAβを分析する際にも、一般的には、免疫沈降等により夾雑物を除去してAβを濃縮する必要があり、操作が煩雑で時間がかかるという問題がある。
【0008】
更に、微量検体を多項目同時かつ安価に測定する方法として、抗体チップが知られている。しかしながら、同じ反応条件で特異性が高く、親和性も高い抗体を揃えることは困難であることから、抗体チップを用いた生体成分分析の実用化は困難な状況である。上記のとおり、血液中の微量成分を、少ないサンプル量で、短時間で、且つ精度よく分析する方法は知られていない。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、
(1)レーザーマイクロダイセクション装置のダイセクションレーザー光をサンプルに照射してサンプルの切り出しを行う際に、サンプルが溶融した熱可塑性樹脂と当接しながら冷却することで、サンプルを内部に取り込んだ熱可塑性樹脂フィルムを形成していること、
(2)サンプルを内部に取り込んだ熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射すると、熱可塑性樹脂フィルム由来のノイズがないのみでなく、サンプル中の成分を特異的に分離できること、
(3)サンプルの特異的分離により、例えば、血液中のペプチドホルモン等の微量成分を濃縮等の前処理を行うことなく、質量分析装置により分析できること、
を新たに見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、サンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す、サンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプルに関する。
【0012】
(1)サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する工程、
を含むサンプル中の成分の分析方法。
(2)前記サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムが、
熱可塑性樹脂を加熱・溶融する工程、
溶融した熱可塑性樹脂をサンプルと当接させながら冷却する工程、
により形成されたものである上記(1)に記載の分析方法。
(3)前記サンプルが、生体サンプルである上記(1)又は(2)に記載の分析方法。
(4)前記生体サンプルが、血液である上記(3)に記載の分析方法。
(5)溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、乾燥したものである上記(1)~(4)の何れか一に記載の分析方法。
(6)溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、薄膜状である上記(5)に記載の分析方法。
(7)前記分析方法により分析されるサンプル中の成分が、ペプチドホルモン又は脂質である上記(1)~(6)の何れか一に記載の分析方法。
(8)サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する工程、
を含むサンプル中の成分の特異的分離方法。
(9)前記サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムが、
熱可塑性樹脂を加熱・溶融する工程、
溶融した熱可塑性樹脂をサンプルと当接させながら冷却する工程、
により形成されたものである上記(8)に記載の特異的分離方法。
(10)前記サンプルが、生体サンプルである上記(8)又は(9)に記載の特異的分離方法。
(11)前記生体サンプルが、血液である上記(10)に記載の特異的分離方法。
(12)溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、乾燥したものである上記(8)~(11)の何れか一に記載の特異的分離方法。
(13)溶融した熱可塑性樹脂と当接する前のサンプルが、薄膜状である上記(12)に記載の特異的分離方法。
(14)熱可塑性樹脂フィルム、及び
該熱可塑性樹脂フィルム上に積層されたサンプル、
を含む質量分析用サンプル。
(15)サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムを含む質量分析用サンプル。
(16)前記サンプルが、生体サンプルである上記(14)又は(15)に記載の質量分析用サンプル。
(17)前記生体サンプルが、血液である上記(16)に記載の質量分析用サンプル。
【発明の効果】
【0013】
本発明のサンプル中の成分の分析方法は、サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射することで、熱可塑性樹脂フィルムによりサンプル中の夾雑物を分離し、サンプル中の分析対象成分を分析することができる。特に、サンプルとして血液等を用い、血液中のペプチドホルモン等の微量成分を分析する場合、抗体を用いた濃縮等の前処理をすることなく、簡単且つ短時間で血液中のペプチドホルモンを分析することができる。したがって、アルツハイマー病の発症診断等、血液中のペプチドホルモンの量を検出することで疾患発症の初期段階で診断することが可能である。
また、本発明のサンプル中の成分の特異的分離方法は、サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムに質量分析装置のイオン化レーザー光を照射することで、熱可塑性樹脂フィルムによりサンプル中の成分を特異的に分離することができる。したがって、多様なサンプルを前処理することなく、簡単且つ短時間でサンプル中の成分を分離することができる。
更に、本発明の質量分析用サンプルは、サンプルを、熱可塑性樹脂フィルムに積層又は内部に含んだ状態で保管・移動することができる。したがって、サンプルを熱可塑性樹脂フィルムと一体的に取り扱うことができるので、例えば、質量分析装置を有しない病院等で採取された血液等の生体サンプルを、質量分析装置を有する病院・分析センター等に送付して簡単に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、レーザーマイクロダイセクション装置1の概略を示す図である。
【図2】図2(1)~(3)は、レーザーマイクロダイセクション装置を用いた、サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムの作製原理の一例を示す図である。
【図3】図3(1)及び(2)は、ダイセクションレーザー光を照射する箇所のサンプルの位置座標と切り出したサンプルを取り込む熱可塑性樹脂フィルムの位置座標の関係を表す図である。
【図4】図4は、図面代用写真で、血液サンプルの薄膜の写真である。
【図5】図5は、実施例2で得られた質量スペクトルを示す。
【図6】図6は、比較例2で得られた質量スペクトルを示す。
【図7】図7(1)~(4)は、実施例3~6で得られた質量スペクトルを示す。
【図8】図8(1)~(4)は、実施例7~10で得られた質量スペクトルを示す。
【図9】図9は、実施例11で得られた質量スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のサンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法及び質量分析用サンプルについて詳しく説明する。

【0016】
先ず、本発明において、「サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルム」とは、熱可塑性樹脂フィルムにサンプルを単に載せたのではなく、熱可塑性樹脂を溶融し、次いで、冷却して固化する過程で、サンプルと熱可塑性樹脂が混ざり合い、フィルム化した熱可塑性樹脂の内部にサンプルが取り込まれた熱可塑性樹脂フィルムを意味する。

【0017】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、溶融することでフィルム状になり、サンプルを内部に取り込むことができれば、形態及び原料に制限はない。例えば、フィルム状の熱可塑性樹脂の上にサンプルを載せて加熱・溶融し、次いで冷却することでサンプルを熱可塑性樹脂フィルム内に取り込んでもよい。また、粒子状の熱可塑性樹脂とサンプルを混合して加熱・溶融し、次いで冷却する過程でサンプルが内部に取り込まれた熱可塑性樹脂フィルムにしてもよい。

【0018】
熱可塑性樹脂は、融点が低い方がサンプルの熱変性を防止できることから、融点が約50~70℃程度までの熱可塑性樹脂を原料に用いることが好ましく、例えば、エチルビニルアセテート(EVA)、ポリオレフィン、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン等が挙げられる。なお、分離又は分析するサンプルが、熱安定性に優れている場合は、前記温度以上であってもよい。また、後述するように、ダイセクションレーザーを用いてサンプルを切り出し、熱可塑性樹脂フィルムに含ませる場合は、熱可塑性樹脂にダイセクションレーザー光源の波長域のスペクトルを選択的に吸収するため、ナフタレンシアニン染料等の有機染料を添加してもよく、用いるダイセクションレーザー光源の波長域に応じて好適な有機染料を選択すればよい。熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂及び有機染料を適宜配合して作製してもよいし、市販の熱可塑性樹脂フィルムを用いてもよい。市販されている熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、熱可塑性トランスファフィルム(エレクトロシール社製)、熱可塑性EVAフィルム(シグマ-アルドリッチジャパン社製)等が挙げられる。

【0019】
サンプルは、溶融した熱可塑性樹脂フィルムに取り込まれることができ、質量分析装置でサンプル中の成分を分析できるものであれば特に制限は無い。サンプルとしては、例えば、生体から採取した血液、唾液、尿等の液状サンプル、筋肉、骨、脳、臓器等の生体組織(以下、生体から採取した液状サンプル及び生体組織を「生体サンプル」と記載することがある。)、食品、土壌、細菌・ウィルス等が挙げられる。

【0020】
また、サンプル中の成分としては、質量分析装置により分析できるものであれば特に制限は無い。例えば、サンプルが生体サンプルの場合は、Aβ、インシュリン等のペプチドホルモン;蛋白質;中性脂質、リン脂質等の脂質;ガラクトース、グルコサミン等の糖類;RNA,DNA等の核酸が挙げられる。また、食中毒患者や薬物常用者等の血液や尿等の液状サンプルから、病原体、毒素、薬剤等の成分の分析をすることもできる。サンプルが食品の場合は、上記成分の他、食品添加物やビタミンなど栄養成分等の分析をすることができる。サンプルが土壌の場合は、残留農薬等の汚染物質の分析をすることができる。サンプルが細菌やウィルスの場合は、例えば、O-157等の細菌に含まれる毒素、インフルエンザウィルスに含まれる毒性物質等の分析をすることで、抗原抗体反応等を用いなくても簡単に分析することができる。

【0021】
これらサンプルは、熱可塑性樹脂に取り込まれることができれば、水分を含んでいてもよいが、取り込まれ易くするために、乾燥して用いてもよい。乾燥方法としては、サンプルから水分を飛ばすことができればよく、例えば、乾燥剤を封入した容器内での乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、アルコール乾燥等、公知の乾燥方法を用いればよい。なお、本発明における「乾燥」とは、サンプル中の水分を完全になくすことを意味するのではなく、サンプルが熱可塑性樹脂に取り込まれ易くするためにサンプルの水分を少なくすることを意味し、熱可塑性樹脂に取り込まれる範囲内であれば、サンプルは水分を含んでいてもよい。

【0022】
質量分析用サンプルは、分析する前に、熱可塑性樹脂フィルムにサンプルが取り込まれていれば、作製方法に特に制限はない。例えば、サンプルを粒子状の熱可塑性樹脂と混合する場合は、サンプルを減圧乾燥、凍結乾燥等により粉末化し、粒子状の熱可塑性樹脂と混合すればよい。また、フィルム状の熱可塑性樹脂を用いる場合は、サンプルも薄膜状のものを用いればよい。薄膜状のサンプルは公知の方法で作製すればよい。例えば、血液や味噌等の粘性のある食品の場合は、スライドガラス上にサンプルを載せ、別のスライドガラスを押圧しながら引くことで、スライドガラス上にサンプルの薄膜を形成することができ、形成した薄膜を減圧乾燥、アルコール乾燥を行えばよい。また、生体組織の場合は包埋剤に入れて凍結ブロックを作製し、凍結ブロックから凍結切片を作製し、得られた切片を減圧乾燥、アルコール乾燥等を行えばよい。

【0023】
熱可塑性樹脂の加熱は、熱可塑性樹脂を溶融することができれば特に制限は無い。例えば、熱可塑性樹脂フィルム上にサンプルを載せ、ホットプレートで加熱することで熱可塑性樹脂を溶融してもよいし、粉末又は薄膜状のサンプルと熱可塑性樹脂粉末を混合してガラスプレート等の上に載せ、ホットプレートで加熱して熱可塑性樹脂を溶融してもよい。なお、ホットプレートで熱可塑性樹脂(フィルム)を加熱・溶融する場合は、加熱の際にサンプルの水分が減少するので、例えば、血液等の液体サンプルと熱可塑性樹脂とを混合、又は、熱可塑性樹脂フィルムの上に液体サンプルを薄く延ばして加熱してもよい。また、熱可塑性樹脂フィルム上にサンプルを載せ、レーザーマイクロダイセクション装置を用いてサンプルにダイセクションレーザー光を照射し、サンプルの切り出しと熱可塑性樹脂の溶融を同時に行い、熱可塑性樹脂内へ切り出したサンプルの取り込みを行ってもよい。

【0024】
図1は、レーザーマイクロダイセクション装置1の概略を示す図で、サンプル移動手段2、熱可塑性樹脂フィルム移動手段3、レーザー照射部4、図示しない記憶手段及び移動手段駆動制御部を含んでいる。

【0025】
図1に示すサンプル移動手段2は、サンプルを載せたスライドガラス21等を載置することができるサンプル載置台22と、該サンプル載置台22を水平方向(X,Y軸方向)に移動するための図示しない駆動原及び該駆動原の駆動力をサンプル載置台22に伝達する駆動力伝達機構を含んでいる。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、倒立顕微鏡等に使われているサンプル載置台を水平方向に駆動するための駆動力伝達機構等、公知のものを用いればよい。

【0026】
図1に示す熱可塑性樹脂フィルム移動手段3は、熱可塑性樹脂フィルム31を一端に載置することができ他端はアーム支柱33に取り付けることができるアーム32、該アーム32を水平方向(X,Y軸方向)に回転及び垂直方向(Z軸方向)に移動することができるアーム支柱33、アーム32を水平方向に回転及び垂直方向に移動するための図示しない駆動原及び該駆動原の駆動力を伝達してアーム32を回転及び移動するための駆動力伝達機構を含んでいる。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、自動分析装置のサンプル移動用のアーム機構等、水平方向に回転及び垂直方向に移動することができる公知のアーム機構を用いればよい。なお、熱可塑性樹脂フィルム移動手段3は、図1に例示した実施形態に限定されず、熱可塑性樹脂フィルム31を水平方向及び垂直方向に移動することができれば特に制限は無い。

【0027】
ダイセクションレーザー光源としては、照射スポットを最小にするためにシングルモードファイバー出力のレーザー光を用いることが好ましく、また、集光の為の近赤外用高NA長焦点対物レンズを用いることが好ましい。また、パルス幅は0.1ミリ秒~100ミリ秒、好ましくは5ミリ秒、波長は785ナノメートル~900ナノメートル、好ましくは808ナノメートル、出力は0.2ワット~0.3ワット、照射レーザーパワーは0.1%~100%、好ましくは80%~100%のパルスレーザー光を発生できるものが好ましく、具体的には、Z-808-200-SM(ルシール社製)等が挙げられる。

【0028】
図2は、レーザーマイクロダイセクション装置を用いた、サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムの作製原理の一例を示す図である。図2(1)に示すようにスライドガラス21に固定したサンプル23、及び熱可塑性樹脂フィルム31を装着した光透過性のアクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂等の樹脂製の支持体を準備する。次に、図2(2)に示すように熱可塑性樹脂フィルム31をサンプル23に当接し、支持体及び熱可塑性樹脂フィルム31を通してダイセクションレーザー光43をサンプル23に照射する。次いで、図2(3)に示すように、熱可塑性樹脂フィルム31をサンプル23から引き離すと、ダイセクションレーザー光43を照射して切り出したサンプル23が、ダイセクションレーザー光43の照射により溶融した熱可塑性樹脂フィルム31に包まれるように剥離し、溶融した熱可塑性樹脂フィルムが固化することで、サンプルを内部に含む熱可塑性樹脂フィルムを作製することができる。

【0029】
なお、本発明は、質量分析の際に、熱可塑性樹脂フィルムを用いてサンプル中の成分を特異的に分離し、そして分離した成分を分析することを特徴としている。そのため、例えば、血液中の微量成分を分析する場合、血液から作製した薄膜サンプルのどの部分に分析対象成分が含まれるのか特定する必要は無いので、図2に示すように、薄膜サンプルの任意の箇所にダイセクションレーザー光を照射すればよい。

【0030】
一方、脳や臓器等の生体組織の凍結切片の特定領域の生体成分を特異的に分離し、分析する場合は、空間分解能を向上するため、切り出したサンプルの間隔と当該サンプルを取り込む熱可塑性樹脂フィルムの間隔を変えてもよい。図3は、ダイセクションレーザー光を照射する箇所のサンプルの位置座標と切り出したサンプルを取り込む熱可塑性樹脂フィルム31の位置座標の関係を表す図で、サンプルを連続的に切り出す場合の例を示している。例えば、図3(1)のサンプル23をa、b、c・・・のように連続的に切り出す場合、(i)サンプル移動手段2により、サンプル23のaの部分をダイセクションレーザー光が照射される位置に移動する。(ii)次に、熱可塑性樹脂フィルム移動手段3により、図3(2)に示す熱可塑性樹脂フィルム31の切り出したサンプルaが取り込まれる箇所a′を、サンプル23aと重なる位置に移動し、アーム32を垂直方向に下げることで熱可塑性樹脂フィルム31とサンプル23を当接する。(iii)ダイセクションレーザー光を照射することで、サンプル23aの箇所から切り出したサンプルを熱可塑性樹脂フィルム31のa′の位置に接着し、次いで、アーム32を垂直方向に上げることで熱可塑性樹脂フィルム31をサンプル23から離し、熱可塑性樹脂フィルム31の予め決められた箇所に、サンプル23aを取り込ませる。サンプル23b、c・・・についても、上記(i)~(iii)の手順を繰り返すことで、サンプル23b、c・・・を、熱可塑性樹脂フィルム31のb′、c′・・・に取り込ませることができる。

【0031】
サンプル23から採取するサンプルの大きさAは、対象とするサンプルや目的に応じて切り出すサンプルの大きさを変えればよい。例えば、細胞下構造体の分析や高空間分解能を得たい場合には1μm~5μm、単一細胞を採取する場合には15μm~30μm、癌や変性部位などを採取する場合は50μm~100μmの大きさのサンプルを、ダイセクションレーザー光を照射してサンプル23から切り出し採取すればよい。切り出すサンプルの大きさは、照射するダイセクションレーザー光の直径および強度を調整することで、ダイセクションレーザー光の直径と同じ大きさのサンプルを切り出すこともできるし、ダイセクションレーザー光の強度を強くしたり照射時間を長くすることで、ダイセクションレーザー光の直径より大きなサンプルを切り出すこともできる。採取するサンプルに応じて、ダイセクションレーザー光の直径や強度を適宜調整すればよい。ダイセクションレーザー光の直径は、光学絞りや集光レンズ等を用いて焦点を絞ればよい。ダイセクションレーザー光の強度は、可変抵抗などを用いてレーザーの発振体の電圧を変化させれば良い。

【0032】
更に、サンプルの分析結果に基づき、2次元及び3次元の質量イメージングを行う場合は、切り出したサンプルの位置座標、該切り出したサンプルを取り込む熱可塑性樹脂フィルムの位置座標、及び分析したサンプルの位置座標と分析結果とを関連付け、イメージング処理すればよい。位置座標と分析結果を関連付けることで、従来から使用されている質量分析装置を用いて、安価に質量イメージングを行うことができる。

【0033】
本発明のサンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法は、質量分析装置のイオン化レーザー光を照射した際に、サンプル中の成分と熱可塑性樹脂フィルムとが何らかの相互作用し、その結果、イオン化した成分の飛び出しに差が出るものと考えられる。したがって、熱可塑性樹脂の種類と分析するサンプル(又は分析対象成分)の組み合わせを適宜設定することで、精度よく分析対象成分の分析を行うことができる。なお、上記のとおり、本発明はサンプル中の成分と熱可塑性樹脂フィルムとの相互作用によりイオン化した成分の飛び出しに差が出ると考えられる。そのため、サンプルと熱可塑性樹脂フィルムの接着面では、予め熱可塑性樹脂フィルムを加熱・溶融しなくても、サンプルと熱可塑性樹脂フィルムが何らかの相互作用をすると考えられるので、例えば、サンプルが非常に薄い場合や、サンプル中に含まれる分析対象成分が多い等の場合は、熱可塑性樹脂フィルムにサンプルを積層して質量分析を行っても、サンプル中の成分の分析を行うことができると考えられる。なお、分析によって得られる質量データは熱可塑性樹脂フィルムの厚みによって初速が変化するため、純品物質での分析値と異なることがある。

【0034】
本発明に用いられる質量分析装置は、イオン化レーザー光を照射することで生体サンプルをイオン化し、当該イオンを分析するものであれば特に制限は無く、例えば、MALDI—TOF-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計)、LC—MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)等が挙げられる。

【0035】
本発明の質量分析用サンプルは、質量分析装置のイオン化レーザー光を照射する際に、熱可塑性樹脂フィルムにサンプルが取り込まれていればよいので、熱可塑性樹脂にサンプルを積層した状態で保管・移送し、質量分析を行う前に熱可塑性樹脂を加熱・溶融してサンプルを内部に取り込んでもよい。また、熱可塑性樹脂フィルムにサンプルを取り込んだ状態で保管・移送してもよい。したがって、採取したサンプルを熱可塑性樹脂フィルムと一体的に取り扱うことができるので、質量分析装置を有しない病院等で採取されたサンプルを、質量分析装置を有する病院・分析センター等に送付して簡単に分析することができる。また、本発明の質量分析用サンプルは、少なくとも熱可塑性樹脂及びサンプルを含んでいればよいが、必要に応じて、スライドガラス等を含んでいてもよい。

【0036】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0037】
[質量分析用サンプルの作製]
<実施例1>
〔血液サンプルの作製〕
マウス(B57BL6、チャールズリバー社)から採取した血液100μlに、Aβ1-40ペプチド(ペプチド研究所社)の濃度が10nMとなるように加えることで、血液サンプルを作製した。
【実施例】
【0038】
〔レーザーマイクロダイセクション装置の作製〕
倒立顕微鏡(オリンパス社製IXシリーズ)をベースに、駆動原としてステッピングモータ(Bio Precision;ルードル社製)、移動手段駆動制御部として3D-A-LCSソフトウエア(ルシール社製)、ダイセクションレーザー光源としてZ-808-200-SM(ルシール社製)を取り付けることで、レーザーマイクロダイセクション装置を作製した。
【実施例】
【0039】
〔血液サンプルの熱可塑性樹脂への取り込み〕
上記血液サンプル5μlを26mm×76mmのスライドガラス上に滴下し、同サイズのスライドガラスを押圧しながら移動させることで、スライドガラス上に血液が均一に広がったスメアを作製した。次に、血液が広がったスライドガラスを、70%エタノールに1分→100%エタノールに1分→100%エタノールに1分→100%キシレンに1分→100%キシレンに1分浸漬して乾燥し、血液サンプルの薄膜を作製した。図4は、血液サンプルの薄膜の写真である。次に血液サンプルの薄膜を、以下の手順で、熱可塑性樹脂フィルムに取り込んだ。
(1)レーザーマイクロダイセクション装置の電源を入れ、サンプル載置台の初期化を行った後、得られた血液サンプルの薄膜をレーザーマイクロダイセクション装置のサンプル載置台にセットした。また、先端にEVAフィルム(シグマ-アルドリッチジャパン社製)を装着した中空リングを熱可塑性樹脂フィルム移動手段のアームの先端の孔に挿入した。
(2)Live Cell Imaging System V7(ルシール社製)のプログラムに従い、スライドガラスに固定した血液サンプルの薄膜にダイセクションレーザー光(出力:300mA、照射時間:5msec、照射径:30μm)を照射し、切り出した血液サンプルをEVAフィルム内に取り込むことで、質量分析用サンプルを作製した。
【実施例】
【0040】
<比較例1>
導電性スライドガラス(シグマ-アルドリッチ社、Cat No,578274, Indium tin oxide coated glass slide)の上に、実施例1と同様の手順で血液サンプルの薄膜を作製することで、EVAフィルムを含まない質量分析用サンプルを作製した。
【実施例】
【0041】
〔作製したサンプルの質量分析〕
<実施例2>
実施例1で作製した質量分析用サンプルを、以下の手順で質量分析を行った。
(1)血液サンプルを含む面が上になるようにして、質量分析用サンプルを導電性両面テープに貼り付けた。
(2)ケミカルプリンタを用いて、MALDI-TOF-MSに供するためのマトリックスを質量分析用サンプルの表面に塗布した。マトリクスにはCHCA(50%アセトニトリル、0.1%TFA)を用い、10000pl(100pl×5滴/1spot×20回)の量を塗布した。
(3)キャリアブラントには、Angiotensin 2(M.W.1046.3)、Insulin(M.W. 5804.6)を用いて、キャリアブラントの位置情報を設定した。
(4)EVAフィルムをデシケーターに移し、真空ポンプで20分乾燥させた後、AXIMA Performance(株式会社 島津製作所)にて質量分析を行った。質量分析の測定条件は、Laser Power 65、Profile 1、Shots 200で、ChIP Imaging Experimentに各パラメーターを設定した。図5は、AXIMA Performanceによる分析結果の質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0042】
<比較例2>
比較例1で作製した質量分析用サンプルを用いた以外は、実施例2と同様の手順で作製したサンプルの質量分析を行った。図6は、比較例2で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0043】
図5及び図6から明らかなように、実施例2のEVAフィルムに血液サンプルを取り込んでイオン化レーザーを照射した場合と、比較例2の血液サンプルに直接イオン化レーザーを照射した場合では、実施例2の方が、800~1400m/zのピークが少なくなっており、1600~4000m/z付近のピークが比較的平滑化している。このことは、血液サンプルを直接イオン化した場合と比較して、EVAフィルムに血液サンプルを取り込ませることで、EVAフィルムにより、血液サンプル中のイオン化し難い成分とイオン化され易い成分が特異的に分離したためと推測できる。また、Aβのピークである4329.8m/z付近(図5及び図6中の実線矢印)のピークを拡大すると、比較例2では、Aβのピークは確認されなかったが(点線矢印)、実施例2では、Aβのピーク(点線矢印)が確認された。血液サンプル中のイオン化し難い成分(夾雑物)がEVAフィルムにより分離されることで分析の感度が向上し、微量のAβでも分析できることが明らかとなった。なお、この感度は図5及び図6からみて、少なくとも20倍以上であり、本発明により、微小量の血液サンプルから、短時間でAβの分析をすることが可能となる。
【実施例】
【0044】
〔熱可塑性樹脂の種類を変えた実験〕
<実施例3>
〔血液サンプルの調整〕
Aβ1-40ペプチドの濃度が、1μMとなるように加えた以外は、実施例1と同様の手順で血液サンプルを作製した。
【実施例】
【0045】
〔血液サンプルの熱可塑性樹脂への取り込み〕
導電性スライドガラス(シグマ-アルドリッチ社、Cat No,578274, Indium tin oxide coated glass slide)の上に、ポリアクリル樹脂フィルム(合資会社 森部商店、FA-1150)を載せた。次いで、ポリアクリル樹脂フィルムの上に、上記血液サンプル5μlを滴下し、ホットプレート(アズワン社製PC—420D)を用い、100℃で5分加熱し、次いで室温で冷却した。十分冷却した後、シリカゲルを充填したデシケーター内で一晩乾燥させることで、血液サンプルを取り込んだポリアクリル樹脂フィルムを作製し、実施例2と同様の手順で質量分析を行った。図7(1)は、実施例3で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0046】
<実施例4>
ポリオレフィン樹脂フィルム(合資会社 森部商店、FA-3050)を用いた以外は、実施例3と同様の手順で質量分析を行った。図7(2)は、実施例4で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0047】
<実施例5>
ポリエステル樹脂フィルム(合資会社 森部商店、FA-4100)を用いた以外は、実施例3と同様の手順で質量分析を行った。図7(3)は、実施例5で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0048】
<実施例6>
ポリウレタン樹脂フィルム(合資会社 森部商店、FA-7300)を用いた以外は、実施例3と同様の手順で質量分析を行った。図7(4)は、実施例6で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0049】
図7(1)~(4)から明らかなように、ポリアクリル樹脂及びポリエステル樹脂を用いた場合はAβが高感度で検出されたが、ポリオレフィン樹脂を用いた場合は感度が低く、ポリウレタン樹脂を用いた場合はAβが検出されなかった。以上の結果より、分析対象成分に応じて熱可塑性樹脂フィルムの種類を適宜調整することが望ましいことが明らかとなった。
【実施例】
【0050】
質量分析スペクトルは、最大ピークを100とした相対値で表される。そのため、上記実施例3~6の質量分析スペクトルの結果では、Aβの検出感度により血液自体に含まれる成分のスペクトルの高さが大きく異なることから、熱可塑性樹脂の種類の違いによる血液成分自体の特異的分離が分かりにくい。そのため、Aβを含まない血液のみをサンプルにして次の実験を行った。
【実施例】
【0051】
<実施例7~10>
Aβを含まない血液のみをサンプルとした以外は、実施例3~6と同様の手順で質量分析を行ったものを、それぞれ、実施例7~10とした。図8(1)は実施例7の質量スペクトル、図8(2)は実施例8の質量スペクトル、図8(3)は実施例9の質量スペクトル、図8(4)は実施例10の質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0052】
図8(1)~(4)から明らかなように、熱可塑性樹脂フィルムの種類を変えることで、サンプル自体の成分の分離特性が異なっていた。したがって、サンプル中の分析対象成分のみでなく、当該分析対象成分を含むサンプルに応じても、熱可塑性樹脂フィルムの種類を適宜調整することが望ましいことが明らかとなった。
【実施例】
【0053】
〔ペプチド以外の成分の分析〕
<実施例11>
〔分析組織の取得〕
分析組織には、以下の手順で取得したAPP/PS1マウス(10ヶ月齢、約25g)の脳を用いた。
1.マウスをジエチルエーテルで麻酔後、仰臥位にし、四肢を固定した。
2.開腹後、横隔膜を切開し、左右の肋骨を頭部方向へ切開した。
3.剣状突起をつまんで頭部方向へ反転し、鉗子で固定し、心臓を露出させた。
4.左心室に翼状針を刺し、1×PBS溶液(生理食塩水)を注入した。
5.剪刀で右心耳を切開し、約70mlの生理食塩水で脱血・灌流した。
6.灌流後、頭部を切断し、開頭後脳を摘出した。
7.摘出した脳は矢状断で半切し切断面を下面(切削面)に配置後、包埋剤(OCTコンパウンド)に入れ凍結し、凍結ブロックを作製した。
【実施例】
【0054】
〔試料切片の作製〕
上記の手順で得られた凍結ブロックから、以下の手順で試料切片を作製した。
1.凍結ブロックから10μmの厚さで切片を作製した。なお、スライドガラスはコートなしのものを使用した。
2.凍結切片を以下の手順で乾燥させた。
(1)100%アセトン 10分
(2)PBS 1分
(3)70%エタノール 1分
(4)100%エタノール 1分
(5)100%エタノール 1分
(6)100%キシレン 2分
(7)100%キシレン 2分
【実施例】
【0055】
〔切片から試料の切出し及び熱可塑性フィルムへの取り込み〕
レーザーマイクロダイセクション装置を用いて、実施例1と同様の手順で、得られた凍結切片を切り出し、EVAフィルムに取り込んで、質量分析用サンプルを作製した。
【実施例】
【0056】
〔作製したサンプルの質量分析〕
マトリクスにDHB-αcyano-4-hydroxycyinnamica acid(シグマアルドリッチ社)を用いた以外は、実施例2と同様に質量分析を行った。図9は、実施例11で得られた質量スペクトルを示す。
【実施例】
【0057】
図9から明らかなように、生体組織である脳をサンプルとして用いると、アデノシン3リン酸(図中のm/z506.29の矢印)、フォスファチジルセリン(図中のm/z701.52の矢印は、フォスファチジルセリンからC36NO2が離脱したもの。m/z788.53の矢印は、フォスファチジルセリンからHが離脱したもの。)、フォスファチジルイノシトール(図中のm/z885.64の矢印)、サルファタイド(図中のm/z904.64の矢印)等が検出された。本発明により、ペプチドホルモン以外の生体成分も分析できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るサンプル中の成分の分析方法、サンプル中の成分の特異的分離方法を用いることで、濃縮等の事前処理をすることなく、様々なサンプル中の微量成分を短時間で特異的分離・分析することができる。また、血液等のサンプルを熱可塑性樹脂とともに扱うことで、取り扱いが簡便になり、また、分析センター等への移送も簡単になる。したがって、医療機関や大学医学部などの研究機関、一般病院等において、ベッドサイドでの診断が可能となる。また、質量分析装置を有しない遠隔地の病院、様々な検査機関におけるサンプルを分析センターで分析することができるので、遠隔地の患者の診断やサンプルの分析も行うことができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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