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明細書 :間葉系幹細胞の賦活化剤、賦活化された間葉系幹細胞およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月6日(2017.4.6)
発明の名称または考案の名称 間葉系幹細胞の賦活化剤、賦活化された間葉系幹細胞およびその製造方法
国際特許分類 C12N   5/073       (2010.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
A61K  35/28        (2015.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61P  19/02        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61P  19/10        (2006.01)
A61K  35/50        (2015.01)
A61K  35/51        (2015.01)
A61K  35/54        (2015.01)
FI C12N 5/073 ZNA
C12N 5/0775
A61K 35/28
A61P 3/10
A61P 29/00 101
A61P 29/00
A61P 19/02
A61P 37/08
A61P 37/02
A61P 19/10
A61K 35/50
A61K 35/51
A61K 35/54
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 46
出願番号 特願2016-507805 (P2016-507805)
国際出願番号 PCT/JP2015/057217
国際公開番号 WO2015/137419
国際出願日 平成27年3月11日(2015.3.11)
国際公開日 平成27年9月17日(2015.9.17)
優先権出願番号 2014048202
優先日 平成26年3月11日(2014.3.11)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】藤宮 峯子
【氏名】永石 歓和
【氏名】水江 由佳
【氏名】千見寺 貴子
出願人 【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
【識別番号】100160037、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 真紀
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C087
Fターム 4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB23
4B065BB34
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4C087AA01
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4C087BB58
4C087BB59
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4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZA97
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB13
4C087ZB15
4C087ZC35
要約 【課題】
本発明は、治療効果が喪失もしくは低減した、またはむしろ疾患増悪効果を持つ異常な間葉系幹細胞を、細胞移植療法に適した状態へと賦活化させることを目的とする。
【解決手段】
本発明は、間葉系幹細胞の賦活化剤、該賦活化剤により賦活化された間葉系幹細胞およびその製造方法、ならびに賦活化された間葉系幹細胞を含む医薬に関する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する、異常な間葉系幹細胞の賦活化剤。
【請求項2】
胎児付属物が臍帯組織、胎盤組織または卵膜である、請求項1に記載の賦活化剤。
【請求項3】
前記抽出物が、前記哺乳動物由来の増殖能を有する細胞を含まない、請求項1または2に記載の賦活化剤。
【請求項4】
前記異常な間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の賦活化剤。
【請求項5】
前記異常な間葉系幹細胞が、疾患を有する対象から分離されたものである、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の賦活化剤。
【請求項6】
前記疾患が、糖尿病、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、請求項5に記載の賦活化剤。
【請求項7】
前記疾患が糖尿病または関節リウマチである、請求項5に記載の賦活化剤。
【請求項8】
対象から分離された異常な間葉系幹細胞を、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤で処理する工程を含む、賦活化された間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項9】
前記異常な間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、請求項8に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項10】
前記対象が疾患を有する対象である、請求項8または請求項9に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項11】
前記疾患が、糖尿病、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、請求項10に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項12】
前記疾患が糖尿病または関節リウマチである、請求項10に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項13】
請求項8から請求項12のいずれか一項に記載の方法により製造された、疾患治療および/または予防用の間葉系幹細胞。
【請求項14】
前記疾患が糖尿病もしくはその合併症、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、請求項13に記載の間葉系幹細胞。
【請求項15】
前記疾患が糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害または関節リウマチである、請求項13に記載の間葉系幹細胞。
【請求項16】
請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の間葉系幹細胞および/またはその培養物を含む、疾患治療および/または予防用の医薬。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の賦活化剤、該賦活化剤により賦活化された間葉系幹細胞およびその製造方法、ならびに賦活化された間葉系幹細胞を含む医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の患者数は世界的に増加の一途を辿っており、糖尿病がもたらす慢性的な高血糖により引き起こされる様々な合併症は、患者のQOLや生命をおびやかす、重大な問題となっている。
【0003】
糖尿病の三大合併症と呼ばれる糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害はいずれも、毛細血管を中心とした細い血管に起こる病的変化である細小血管障害により臓器が障害されて発症する。これらの合併症は、食事療法や薬物療法などで適切に血糖をコントロールすることによって、ある程度防ぐことが可能であるが、一方で合併症が重症化した場合は、根本的な治療法は存在しない。
【0004】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell、以下MSCともいう)は、間葉系細胞のみならず、胚葉を超えた多様な細胞への分化が可能な細胞であり、組織発生や修復・再生を制御する能力を持つことが知られている。
【0005】
間葉系幹細胞は、単離培養が容易かつ増殖力が旺盛で、短期間で移植可能な細胞数を確保できること、免疫拒絶のない自家移植が可能で、倫理的問題も少ないこと、低免疫原性により前処置を要せず同種移植が現実的であることから、理想的な細胞移植療法の材料として、多様な疾患に対する治療応用の検討が進められている。
【0006】
例えば、上述の糖尿病およびその合併症(非特許文献1および2)のほか、脳・心血管疾患(特許文献1)、自己免疫疾患(非特許文献3)、多発性硬化症の実験的自己免疫脳脊髄炎モデル(非特許文献4)、炎症性疾患(肺線維症モデルについて非特許文献5、炎症性腸疾患について非特許文献6)などの疾患において、間葉系幹細胞の治療効果が確認されている。
【0007】
疾患の治療に用いる場合、一定の品質を保持した間葉系幹細胞を、迅速かつ大量に用意する必要がある。ドナーから採取した間葉系幹細胞を生体外で増殖させるため、増殖促進物質や培養基材などの様々な検討が行われており、例えば特許文献2においては、臍帯抽出物が無血清培地での幹細胞培養の際に血清代替材として使用可能であることが開示されている。また、細胞の品質に関しては、例えば特許文献3において、継代培養時の間葉系幹細胞の老化を抑制するための細胞増殖培地が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示された臍帯抽出物は血清代替材に過ぎず、また特許文献3は生体外増殖において間葉系幹細胞の品質を維持または劣化の度合を抑えることを目的としたものであって、採取時点で治療用途に適さない、いわば低品質な間葉系幹細胞の品質を向上または改変するものではなかった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開WO2005/007176号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2013/009100号パンフレット
【特許文献3】特開2006-325444号公報
【0010】

【非特許文献1】Ezquer,F.E.et al.,Biol Blood Marrow Transplant,2008;14(6):631-40
【非特許文献2】Lee,R.H.et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2006;103(46):17438-43
【非特許文献3】Djouad,F.et al.,Arthritis Rheum,2005;52(5):1595-1603
【非特許文献4】Zappia E.et al.,Blood 2005;106:1755-1761
【非特許文献5】Ortiz,A.L.et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2003;100(14):8407-8411
【非特許文献6】Tanaka H.et al.,J Gastroenterol,2011;46:143-152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、糖尿病や関節リウマチを発症した対象から採取した間葉系幹細胞は、健常対象由来の間葉系幹細胞と比べて、糖尿病およびその合併症や関節リウマチに対する治療効果が劣っており、むしろそれら疾患を増悪する効果をも有することを見出した。
【0012】
このことは、糖尿病や関節リウマチを発症し、特に重症化した後に、その対象から間葉系幹細胞を採取して自家細胞移植療法を行っても、その効果は期待できないことを意味する。したがって、有効な自家細胞移植療法を行うには、発症前または間葉系幹細胞が異常化して治療効果を失う前に、自己の間葉系幹細胞を予め採取しておく必要があることになる。しかしながら、間葉系幹細胞の採取は侵襲的であり、健常人にとって身体的にも経済的にも大きな負担となる。また、糖尿病のように初期の自覚症状がほとんどなく進行する疾患の場合、診断時には既に間葉系幹細胞が異常化しているため、前述の理由から、自家細胞移植療法が適用できないおそれがある。
【0013】
したがって本発明は、このように治療効果が喪失もしくは低減した、またはむしろ疾患増悪効果を持つ異常な間葉系幹細胞を、細胞移植療法に適した状態へと賦活化させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物が、異常な間葉系幹細胞を賦活化させることを見出し、下記の各発明を完成させた。
(1)哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する、異常な間葉系幹細胞の賦活化剤。
(2)胎児付属物が臍帯組織、胎盤組織または卵膜である、(1)に記載の賦活化剤。
(3)前記抽出物が、前記哺乳動物由来の増殖能を有する細胞を含まない、(1)または(2)に記載の賦活化剤。
(4)前記異常な間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、(1)から(3)のいずれか一項に記載の賦活化剤。
(5)前記異常な間葉系幹細胞が、疾患を有する対象から分離されたものである、(1)から(4)のいずれか一項に記載の賦活化剤。
(6)前記疾患が、糖尿病、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、(5)に記載の賦活化剤。
(7)前記疾患が糖尿病または関節リウマチである、(5)に記載の賦活化剤。
(8)対象から分離された異常な間葉系幹細胞を、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤で処理する工程を含む、賦活化された間葉系幹細胞の製造方法。
(9)前記異常な間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、(8)に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
(10)前記対象が疾患を有する対象である、(8)または(9)に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
(11)前記疾患が、糖尿病、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、(10)に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
(12)前記疾患が糖尿病または関節リウマチである、(10)に記載の間葉系幹細胞の製造方法。
(13)(8)から(12)のいずれか一項に記載の方法により製造された、疾患治療および/または予防用の間葉系幹細胞。
(14)前記疾患が糖尿病もしくはその合併症、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症である、(13)に記載の間葉系幹細胞。
(15)前記疾患が糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害または関節リウマチである、(13)に記載の間葉系幹細胞。
(16)(13)から(15)のいずれか一項に記載の間葉系幹細胞および/またはその培養物を含む、疾患治療および/または予防用の医薬。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、対象から採取された異常な間葉系幹細胞を、細胞移植療法に適した状態へと賦活化させることができる。これにより、自己の間葉系幹細胞が異常化したために自家細胞移植療法が不適であった患者に対し、自家細胞移植療法を適用することが可能になる。また、本発明の賦活化剤は、胎児付属物ドナーである哺乳動物に由来する、増殖能を有する細胞を含まない。したがって、賦活化処理後のドナー由来細胞の除去は不要であり、余分な細胞加工工程を伴わないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】胎児付属物からの抽出物の一例である臍帯組織抽出物(WJ)の位相差顕微鏡観察像(A)および電子顕微鏡観察像(B)である。
【図2】臍帯組織抽出物中の増殖因子含有量(A)、ヒアルロン酸含有量(B)およびL-グルタミン酸含有量(C)を示すグラフである。
【図3】臍帯組織抽出物の粘度を示すグラフである。
【図4】臍帯組織抽出物中のエクソソームの電子顕微鏡像(A)、抗CD9抗体および抗HSP70抗体を用いたウエスタンブロット(B)、および抗CD9抗体を用いて測定したエクソソーム含有量を示すグラフ(C)である。図4Bの#1~#6は、それぞれロットの異なる6つの臍帯組織抽出物由来のエクソソーム分画に相当する。
【図5】ロットの異なる臍帯組織抽出物の培養像を示す図である。
【図6】臍帯組織抽出物で賦活化処理を行ったストレプトゾトシン(STZ)誘導I型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞(DM-MSC-WJ(+))、および賦活化処理を行っていないSTZ誘導I型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞(DM-MSC-WJ(-))のMTTアッセイ結果を示すグラフである。
【図7】正常ラットの間葉系幹細胞(Control-MSC)、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)の位相差顕微鏡観察像である。
【図8】Control-MSC、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)の電子顕微鏡観察像(弱拡大)である。
【図9】Control-MSC、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)の電子顕微鏡観察像(強拡大)である。
【図10】Control-MSC、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)のKi67染色結果を示す。上段は蛍光顕微鏡観察像であり、下段はDAPI陽性細胞およびKi67陽性細胞の数から算出される一視野あたりの全細胞数およびKi67陽性細胞の割合を示すグラフである。
【図11】DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)におけるERK1/2の活性化を示すウエスタンブロットである。レーン1はDM-MSC-WJ(-)、レーン2~8はロットの異なる7つの臍帯組織抽出物により賦活化処理を行ったDM-MSC-WJ(+)に相当する。
【図12】DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)における小胞体ストレス関連タンパク質の発現を示すウエスタンブロットである。レーン1はDM-MSC-WJ(-)、レーン2~6はロットの異なる5つの臍帯組織抽出物により賦活化処理を行ったDM-MSC-WJ(+)に相当する。
【図13】Control-MSC、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)における増殖因子、分化関連因子およびサイトカイン・ケモカインの遺伝子発現量の比を示すグラフである。斜線の棒グラフはDM-MSC-WJ(-)における遺伝子発現量/Control-MSCにおける遺伝子発現量を、黒色の棒グラフはDM-MSC-WJ(+)における遺伝子発現量/DM-MSC-WJ(-)における遺伝子発現量を表す。
【図14】DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)の脂肪細胞への分化を示す明視野顕微鏡観察像である。
【図15】DM-MSC-WJ(+)の表面抗原の発現を解析したフローサイトメトリー結果を示す図である。破線はアイソタイプコントロール、実線は標的抗体に相当する。
【図16】臍帯組織抽出物で賦活化処理を行ったSTZ誘導I型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)および位相差顕微鏡観察像(B)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物の添加濃度(mg/mL)を表す。
【図17】臍帯組織抽出物で賦活化処理を行ったOLETF II型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)および位相差顕微鏡観察像(B)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物の添加濃度(mg/mL)を表す。
【図18】ウシ胎児血清(FBS)添加の有無および臍帯組織抽出物の添加濃度を変えて賦活化処理を行ったSTZ誘導I型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)ならびにJNK1/3およびα-SMAタンパク質の発現を解析したウエスタンブロット(C)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物の添加濃度(mg/mL)を表す。
【図19】FBS添加の有無および臍帯組織抽出物の添加濃度を変えて賦活化処理を行ったOLETF II型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)ならびにJNK1/3およびα-SMAタンパク質の発現を解析したウエスタンブロット(C)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物の添加濃度(mg/mL)を表す。
【図20】FBS添加の有無および臍帯組織抽出物の添加濃度を変えて賦活化処理を行ったII型糖尿病患者由来間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)および位相差顕微鏡観察像(B)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物の添加濃度(mg/mL)を表す。
【図21】FBS存在下、臍帯組織抽出物の添加濃度1.0mg/mLでのII型糖尿病患者骨髄液の培養により得られた各継代における総細胞数を表すグラフである。
【図22】臍帯組織抽出物で賦活化処理を行ったI型糖尿病患者由来間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)および位相差顕微鏡観察像(B)である。Bの各写真の上の文字は、賦活化処理における臍帯組織抽出物添加の有無を表す。また、下列の写真は、健常人由来の間葉系幹細胞である。
【図23】胎児付属物からの抽出物の別の一例である胎盤組織抽出物(P)および卵膜抽出物(PM)から調製したエクソソーム分画の、抗HSP70抗体を用いたウエスタンブロットである。
【図24】胎盤組織抽出物および卵膜抽出物の培養像を示す図である。
【図25】胎盤組織抽出物または卵膜抽出物で賦活化処理を行ったSTZ誘導I型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)ならびにJNK1/3およびα-SMAタンパク質の発現を解析したウエスタンブロット(C)である。
【図26】L-グルタミン酸を添加した、または添加しない培地で培養したDM-MSC-WJ(-)のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)および電子顕微鏡観察像(C)である。
【図27】ヒアルロン酸を添加した、もしくは添加しない培地で培養した、またはヒアルロン酸を消化した臍帯組織抽出物もしくはヒアルロン酸未消化の臍帯組織抽出物を添加した培地で培養したDM-MSC-WJ(-)のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)および電子顕微鏡観察像(C)である。
【図28】臍帯組織抽出物またはそのエクソソーム分画を添加した培地で培養したDM-MSC-WJ(-)のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)、電子顕微鏡観察像(C)ならびにJNK1/3およびα-SMAタンパク質の発現を解析したウエスタンブロット(D)である。
【図29】胎盤組織抽出物またはそのエクソソーム分画を添加した培地で培養したDM-MSC-WJ(-)のMTTアッセイ結果(A)、位相差顕微鏡観察像(B)ならびにJNK1/3およびα-SMAタンパク質の発現を解析したウエスタンブロット(C)である。
【図30】STZ誘導I型糖尿病性腎症モデルマウス(STZマウス)に対する治療効果の評価(実施例9の9-1.)に用いるDM-MSC-WJ(+)の賦活化プロトコールを表す図(A)、および治療試験計画を表す図(B)である。
【図31】STZマウスの治療試験(実施例9の9-1.)における体重変化率のグラフである。
【図32】STZマウスの治療試験(実施例9の9-1.)における血糖値のグラフである。
【図33】STZマウスの治療試験(実施例9の9-1.)における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである。
【図34】STZマウスに対する治療効果の評価(実施例9の9-2.)に用いるDM-MSC-WJ(+)の賦活化プロトコールを表す図(A)、および治療試験計画を表す図(B)である。
【図35】STZマウスの治療試験(実施例9の9-2.)における体重変化率のグラフである。
【図36】STZマウスの治療試験(実施例9の9-2.)における血糖値のグラフである。
【図37】STZマウスの治療試験(実施例9の9-2.)における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである。
【図38】STZ誘導I型糖尿病性腎症モデルラット(STZラット)に対する治療効果の評価(実施例10の10-1.)に用いるDM-MSC-WJ(+)の賦活化プロトコールを表す図(A)、および治療試験計画を表す図(B)である。
【図39】STZラットの治療試験(実施例10の10-1.)における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである。
【図40】OLETF II型糖尿病性腎症モデルラット(OLETFラット)に対する治療効果の評価(実施例10の10-2.)に用いるOLETF II型糖尿病モデルラット間葉系幹細胞(OLETF-DM-MSC-WJ(+))の賦活化プロトコールを表す図(A)、および治療試験計画を表す図(B)である。
【図41】OLETFラットの治療試験(実施例10の10-2.)における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである。
【図42】臍帯組織抽出物で賦活化処理を行った関節リウマチモデルラット(RAラット)間葉系幹細胞(RA-MSC-WJ)、および賦活化処理を行っていないRAラット間葉系幹細胞(RA-MSC)のMTTアッセイ結果(A)および位相差顕微鏡観察像(B)である。
【図43】RAラットに対する治療効果の評価(実施例11の11-3.)に用いるRAラット間葉系幹細胞の賦活化プロトコールを表す図(A)、および治療試験計画を表す図(B)である。
【図44】RAラットの治療試験における足部体積のグラフである。
【図45】RAラットの治療試験における関節炎スコアのグラフである。
【図46】RAラットの治療試験における血清CRP値のグラフである。
【図47】Control-MSC(A)およびこのMSCの培養上清(MSC-CM)(B)のSTZマウスに対する治療試験計画を表す図である(参考例1の1-1.)。
【図48】Control-MSC(A)およびMSC-CM(B)のSTZマウスに対する治療試験における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである(参考例1の1-1.)。
【図49】Control-MSCおよびMSC-CMのSTZマウスに対する治療試験における腎臓組織切片のPAS染色像およびAzan染色像である(参考例1の1-1.)。
【図50】Control-MSC(A)およびMSC-CM(B)の高脂肪食誘導II型糖尿病性腎症モデルマウス(HFDマウス)に対する治療試験計画を表す図である(参考例1の1-2.)。
【図51】Control-MSC(A)およびMSC-CM(B)のHFDマウスに対する治療試験における尿中アルブミン/クレアチニン比のグラフである(参考例1の1-2.)。
【図52】Control-MSCおよびMSC-CMのHFDマウスに対する治療試験における腎臓組織切片のPAS染色像およびAzan染色像である(参考例1の1-2.)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一の態様は、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する、異常な間葉系幹細胞の賦活化剤に関する。また、本発明の第二の態様は、対象から分離された異常な間葉系幹細胞を、前記第一の態様の賦活化剤で処理する工程を含む、賦活化された間葉系幹細胞の製造方法に関する。

【0018】
<抽出物>
胎児付属物は、妊娠時に子宮内で形成される胎児の発育を支える役割を担う器官であり、胎盤、臍帯、卵膜(羊膜、絨毛膜、脱落膜の3層からなる)および羊水から構成される。胎盤は、胎児と母体との間の物質交換を行う場として機能する絨毛組織であって、様々な増殖因子やサイトカインを含み、ホルモン産生も行っている。臍帯は、胎児と胎盤をつなぐ器官であり、2本の臍帯動脈と1本の臍帯静脈、ワルトン膠質、臍帯間質と呼ばれる結合組織、およびその周囲を覆う羊膜鞘から構成される。

【0019】
ワルトン膠質は、少量の細胞と、コラーゲン、グルコサミノグリカン、ムチンなどの細胞外マトリクスとを包含する。ワルトン膠質中のグルコサミノグリカンは、その大半をヒアルロン酸が占め、その他にケラタン硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、ヘパラン硫酸などの硫酸化グルコサミノグリカンが含まれる。

【0020】
またワルトン膠質には、IGF-1(Insulin-like Growth Factor-1)、PDGF(Platelet-Derived Growth Factor)、EGF(Epidermal Growth Factor)、FGF(Fibroblast Growth Factor)などの増殖因子が含まれることも知られている(K.Sobolewski et al.,Placenta(2005),26,747-752)。

【0021】
本発明において使用する胎児付属物は、胎児娩出後に後産として母体から娩出されるか、または帝王切開により母体から摘出されたものである。本発明の抽出物は、母体から得た胎児付属物の全体から調製することができる。あるいは、胎児付属物の一部、すなわち胎児付属物を構成する器官または組織のうちの一または複数を抽出材料として用いてもよい。この場合、賦活化活性および抽出効率の観点から、抽出材料には、臍帯組織、胎盤組織または卵膜が含まれることが好ましい。胎児付属物は、採取後直ちに抽出物の調製に使用してもよく、または汚染物質の混入を避けるために滅菌容器内に入れ、冷蔵または冷凍で保存した後に、使用することもできる。

【0022】
胎児付属物は、哺乳動物から採取することができる。本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、胎児付属物はヒトから採取されたものであるが、ヒト以外の動物(例えば、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)から採取された胎児付属物を用いることも可能である。

【0023】
なお、胎児付属物は、その後の細胞移植療法の際の安全性を考慮した場合、間葉系幹細胞を投与する個体と同種または近縁種の個体から採取するのが好ましい。

【0024】
本発明において使用する抽出物は、前述のように採取された胎児付属物から、抽出媒体で抽出することにより、調製することができる。胎児付属物は、付着している余分な成分を生理食塩水等で洗い流した後に抽出に用いるのが好ましい。

【0025】
洗浄後の胎児付属物は、そのままの形状で抽出に用いてもよいが、抽出効率を上げるために切断または破砕して用いることが好ましい。例えば、凍結させた胎児付属物をミキサーで破砕することにより、より簡便な操作での抽出が可能となる。また、臍帯組織を用いる場合の本発明の好ましい実施形態の一つにおいては、後述するように、臍帯組織を適宜切断して得られる、3次元構造が実質的に維持された臍帯組織を抽出に用いる。

【0026】
本明細書における「3次元構造が実質的に維持された臍帯組織」とは、ホモジェナイズ等の組織を破砕または均一化する処理を伴わずに、メス、ハサミ、ピンセットその他の切断手段で、あるいは用手的に、臍帯組織を抽出に適した形状または大きさに切断して得られる臍帯組織をいう。

【0027】
ホモジェナイズ等により臍帯組織の3次元構造を破壊して抽出を行った場合、抽出物が泡立ち、その結果、器具や容器等への粘性成分の付着が増して、抽出効率が下がるおそれがある。臍帯組織を3次元構造が実質的に維持されるように切断することにより、有効成分の効率的な抽出と望ましくない発泡の回避とを同時に実現することができる。

【0028】
なお、臍帯組織の3次元構造が維持されるかぎり、切断の方向は限定されないが、臍帯組織の構造上、臍帯の長軸方向に沿って切断するのが好ましい。

【0029】
本発明において使用する抽出媒体は、胎児付属物中に含まれる有効成分の活性に負の影響を与えないかぎり、生化学の分野で一般に用いられる媒体であることができ、水性媒体が好適である。細胞の培養や調製に通常用いられる水性媒体がより好ましく、例えば、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水や、細胞培養において通常用いられる培地、例えばα-MEM培地、DMEM培地などが挙げられる。

【0030】
抽出媒体は、その後の細胞移植療法の際の安全性を考慮した場合、レシピエントである個体に不都合な影響を与える可能性のある成分を含まないことが好ましい。

【0031】
また、本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、間葉系幹細胞の賦活化は、抽出物それ自体を培地として用いて間葉系幹細胞を培養することにより行われる。この場合、当業者は、抽出媒体として、胎児付属物中の有効成分を十分に抽出することができ、かつ間葉系幹細胞の培養にも適した細胞培養用培地を適宜選択することができる。

【0032】
抽出は、胎児付属物を抽出媒体に浸漬し、24時間~144時間、好ましくは48時間~96時間、より好ましくは72時間の間、温度2℃~25℃、好ましくは2℃~8℃、より好ましくは4℃で、静置または振とうすることにより行われる。振とう速度は、抽出中の液体を過度に発泡させない程度に設定される。使用する抽出媒体の量は、胎児付属物の湿重量1gあたり0.2mL~100mL、好ましくは0.5mL~20mL、より好ましくは1mL~10mLであり、この量は、胎児付属物の切断の程度や抽出温度、振とう速度等に応じて適宜調節される。

【0033】
抽出後の胎児付属物を含む抽出液は、静置または遠心分離した後に得られる上清分画を回収することによって、またはろ過後のろ液を回収することによって、胎児付属物由来の不要な固形分を除去して用いることができる。

【0034】
抽出後の胎児付属物は、有効成分が抽出される限りにおいて再利用することができる。すなわち、有効成分を抽出した後の胎児付属物に再度抽出媒体を加えて、上述の抽出処理を行って、さらなる抽出物を得ることも可能である。このように複数回の抽出を行うことにより、有効成分の収率を高めることができる。

【0035】
このようにして得られた抽出物は、そのままの液体の状態で用いることができる。あるいは、抽出物は、その中に含まれる有効成分の活性を損なわないように濃縮または乾燥させ、濃縮液または乾燥物にした後、使用時に希釈または適当な液体に溶解させて用いることもできる。また、抽出物は、調製後すぐに使用してもよく、または冷蔵もしくは冷凍で保存した後に使用してもよい。

【0036】
本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、抽出物は、胎児付属物のドナーである哺乳動物由来の、増殖能を有する細胞を含まない。ドナー由来の増殖能を有する細胞が混入していると、賦活化処理の間に目的の間葉系幹細胞と共にドナー由来細胞も増殖する可能性があり、これを細胞移植療法に用いると、レシピエントである個体に対して、拒絶反応や移植片対宿主病などの望ましくない作用をもたらし得るためである。

【0037】
かかる増殖能を有する細胞を含まない抽出物は、例えば、胎児付属物に対して放射線照射などの細胞死滅処理を行うことによって得ることができる。また、かかる抽出物は、3次元構造が実質的に維持された臍帯組織を用いた前述のような抽出方法によって、細胞除去処理を必要とせずに得ることもできる。

【0038】
抽出物中の増殖能を有する細胞の有無は、細胞増殖能・生存率を評価する公知の方法、例えば適切な増殖培地を用いた細胞培養試験や、MTTアッセイのような生化学的試験などにより、確認することができる。

【0039】
<間葉系幹細胞>
間葉系幹細胞は、間葉系組織の間質細胞の中に微量に存在する多分化能および自己複製能を有する幹細胞であり、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞といった間葉系に属する細胞に分化するだけでなく、神経細胞や肝細胞などにも胚葉を超えて分化することができる。また、間葉系幹細胞はさらに、自身が産生する液性因子によるパラクライン効果および細胞接着相互作用も有することが知られている。

【0040】
間葉系幹細胞は、これらの作用に基づいて、標的組織や細胞の修復・再生能、および抗炎症などの免疫制御能を発揮し、その結果、様々な疾患への治療がもたらされるものと考えられている。

【0041】
本発明における「異常な間葉系幹細胞」とは、上記のような多様な能力を失った、またはこれらの能力が正常な間葉系幹細胞と比べて低減した結果として、疾患治療効果を失った、または治療効果が正常な間葉系幹細胞と比べて低減している間葉系幹細胞をいう。本発明者らはさらに、異常な間葉系幹細胞は、治療効果を持たないだけでなく、むしろ疾患を増悪する効果すら有することを確認している。このような疾患増悪効果を有する間葉系幹細胞も、本発明にいう「異常な間葉系幹細胞」に含まれる。

【0042】
本発明者らは、糖尿病または関節リウマチを有する個体から採取した間葉系幹細胞が異常化していることを明らかにした。同様の異常化は、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患などの疾患を有する個体や、老化した個体においても生じているものと推察される。さらに、間葉系幹細胞の異常化は、健常な個体であっても生じ得ると考えられるが、これら健常個体由来の異常細胞も本発明による賦活化が可能である。

【0043】
間葉系幹細胞が異常化する疾患としては、具体的には、I型糖尿病およびII型糖尿病;関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、自己免疫性副腎機能障害、真正赤血球性貧血、多発性硬化症および自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患;慢性肝炎、肝硬変、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病などの慢性炎症性疾患;アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくなどのアレルギー性疾患;骨粗鬆症を挙げることができる。

【0044】
本発明において使用される異常な間葉系幹細胞は、対象から採取される。本明細書における「対象」とは、間葉系幹細胞を有する任意の動物を意味し、好ましくは哺乳動物の個体、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなどの個体であり、さらに好ましくはヒトの個体である。

【0045】
本発明の実施形態の一つにおいて、対象は、上記の間葉系幹細胞が異常化する疾患を有する個体または老化した個体である。別の実施形態において、疾患は、糖尿病、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症であるのが好ましく、より好ましくは糖尿病または関節リウマチである。

【0046】
間葉系幹細胞は、その後の細胞移植療法における安全性を考慮した場合、細胞を投与する個体と同種または近縁種の個体から採取するのが好ましい。例えば、ヒトの個体に細胞移植を行う場合、好ましくは同種であるヒトから採取された細胞が、より好ましくは投与を受ける同一のヒト個体から採取された細胞、すなわち自己間葉系幹細胞が用いられる。

【0047】
間葉系幹細胞は、哺乳動物の骨髄液、脂肪組織、胎児付属組織、歯髄などの試料から、一般的な方法で採取することができ、例えば、試料として骨髄液を用いる場合、密度勾配遠心法、骨髄播種法などの公知の手法により、間葉系幹細胞を分離することが可能である。

【0048】
異常な間葉系幹細胞は、生体から採取された後に、インビトロで継代培養されたものであってもよい。

【0049】
本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、異常な間葉系幹細胞として、骨髄由来の細胞が用いられる。

【0050】
採取した間葉系幹細胞が正常であるか異常であるかの判定は、疾患を反映した評価系、例えば疾患モデル動物や疾患モデル動物由来細胞などを用いて、細胞の疾患治療効果を評価することにより行うことができる。

【0051】
異常性判定のための評価系として用いる疾患は、正常な間葉系幹細胞により治療することができる疾患であればよいが、採取した間葉系幹細胞を賦活化後に治療用途で用いることを予定している場合、治療予定の疾患と同じまたは関連のある疾患についての評価系を用いるのが好ましい。例えば、間葉系幹細胞を糖尿病性腎症の治療に用いることを予定しているのであれば、採取した間葉系幹細胞の異常性評価は、糖尿病性腎症を反映した評価系で行うのが好ましい。

【0052】
採取した間葉系幹細胞が、治療効果を持たない、もしくは正常な間葉系幹細胞のそれと比べて低い治療効果を持つ場合、または疾患増悪効果を持つ場合、その間葉系幹細胞は異常であると判定することができる。

【0053】
また間葉系幹細胞の異常性判定は、後述の試験例のように、細胞および細胞内小器官の形態、細胞増殖能、分化能、ならびに増殖因子、分化関連因子およびサイトカイン・ケモカインといった各種因子のタンパク質発現量、遺伝子発現量、細胞外分泌量などの評価指標を用いることによっても行うことができる。

【0054】
異常な間葉系幹細胞は、一例として、正常な間葉系幹細胞と異なる以下のような性質を持つ。
【表1】
JP2015137419A1_000003t.gif

【0055】
これらの評価は、細胞生物学および分子生物学の分野で通常用いられる方法によって行うことができる。具体的には、細胞および細胞内小器官の形態は顕微鏡観察により、細胞増殖能は適切な増殖培地を用いた細胞培養試験やMTTアッセイのような生化学的試験により、分化能は適切な分化誘導培地を用いた分化誘導試験により、タンパク質発現はELISAやウエスタンブロット法などのタンパク質定量法により、遺伝子発現は定量的PCRやノーザンブロット法などの遺伝子定量法により、評価することができる。

【0056】
採取した間葉系幹細胞が、上述のような評価指標のうちの一または複数について、正常な間葉系幹細胞と異なる挙動を示す場合、その間葉系幹細胞は異常であると判定することができる。

【0057】
<本発明の賦活化剤および賦活化された間葉系幹細胞の製造方法>
本発明の賦活化剤は、異常な間葉系幹細胞を賦活化させることができる。

【0058】
本明細書における「賦活化」とは、異常な間葉系幹細胞に多様な能力の少なくとも一部を回復させ、疾患治療効果を発揮できる状態にすることをいう。異常な間葉系幹細胞は、賦活化により、正常な間葉系幹細胞のそれと同程度に、あるいはそれを上回る治療効果を発揮するようになる。また、正常な間葉系幹細胞と同程度までには達しないものの、賦活化前よりも治療効果が向上した状態にすることも、本発明の「賦活化」に含まれる。

【0059】
本発明の賦活化剤は、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する。賦活化剤は、前述の方法で得られた抽出物をそのまま、または細胞の培養や調製に通常用いられる水性媒体で希釈して、用いることができる。希釈に用いる水性媒体としては、例えば、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水や、細胞培養において通常用いられる培地、例えばα-MEM培地、DMEM培地などが挙げられる。

【0060】
さらに、本発明は、対象から分離された異常な間葉系幹細胞を、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤で処理する工程を含む、賦活化された間葉系幹細胞の製造方法に関する。

【0061】
間葉系幹細胞を賦活化剤で処理する工程、すなわち賦活化工程は、異常な間葉系幹細胞の培地に本発明の賦活化剤を添加し、24時間~144時間、好ましくは24時間~72時間、より好ましくは48時間の間、培養することにより行われる。賦活化処理の温度およびガス濃度は、間葉系幹細胞の培養に通常用いる温度およびガス濃度の範囲内であればよく、温度は例えば25℃~37℃、好ましくは30℃~37℃、より好ましくは37℃であり、酸素濃度は例えば2%~30%、好ましくは2%~20%である。賦活化処理は、十分な賦活化が達成されるまで、複数回行うことができる。

【0062】
賦活化処理における賦活化剤の濃度は、賦活化が達成されるかぎりにおいて、適宜設定することができる。例えば、本発明の賦活化剤は、胎児付属物からの抽出物0.01mg/mL~25mg/mL、好ましくは0.05mg/mL~10mg/mL、より好ましくは0.1mg/mL~5mg/mLを含む。また、本発明の賦活化剤は、間葉系幹細胞の増殖に必要な成分、例えば血清成分や間葉系幹細胞用の培地などとの共存下で、間葉系幹細胞をより効率的に賦活化させる。したがって、本発明の賦活化剤は、これらの成分と共に用いることが好ましい。

【0063】
当業者は細胞の賦活化状況を見ながら、賦活化剤の濃度、賦活化処理の温度、時間、回数を適宜調節することができる。

【0064】
また、賦活化処理は、生体試料から分離された状態の異常な間葉系幹細胞のみならず、生体試料由来の細胞集団に含まれる状態の異常な間葉系幹細胞に対しても、行うことができる。例えば、骨髄由来間葉系幹細胞の場合、採取した骨髄液をそのまま賦活化処理に供することで、骨髄液に含まれる細胞集団中の異常な間葉系幹細胞を賦活化させることが可能である。

【0065】
異常な間葉系幹細胞が賦活化されたか否かの判定は、前述のように疾患を反映した評価系を用いて、賦活化処理後の細胞が持つ治療効果を評価することにより、行うことができる。賦活化処理後の間葉系幹細胞が、賦活化処理前と比較して、疾患増悪効果を喪失した場合および/または治療効果が増大している場合、その間葉系幹細胞は賦活化されていると判定される。

【0066】
なお賦活化された間葉系幹細胞は、治療効果が正常な間葉系幹細胞のそれと同程度にまで回復しないこともある。しかしながら、賦活化処理により治療効果が増大するかぎり、かかる間葉系幹細胞は、本発明において使用することが可能である。

【0067】
さらに、賦活化の判定は、前出の異常性判定と同様の細胞生物学的評価指標、すなわち、細胞または細胞内小器官の形態、細胞増殖能、分化能、各種因子のタンパク質や遺伝子の発現量、細胞外分泌量などの指標を用いることによっても行うことができる。賦活化処理後の間葉系幹細胞が、これらの評価指標のうちの一または複数について、正常な間葉系幹細胞と同じ、またはこれに近い性質を示した場合、その間葉系幹細胞は賦活化されたと判定することができる。

【0068】
間葉系幹細胞は、賦活化と同時に、または賦活化後にインビトロでの継代培養により増殖させてもよい。

【0069】
また、賦活化された間葉系幹細胞は、未分化な状態で維持してもよく、あるいは所望の細胞に分化させてもよい。賦活化後の細胞をどのような分化状態にするかは、治療対象疾患や治療方法などの細胞の用途に応じて、当業者により適宜選択される。

【0070】
間葉系幹細胞の未分化状態での維持は、未分化状態の維持に好適な培地、例えばHyClone AdvanceSTEM Mesenchymal Stem Cell Expansion Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、MesenCult(商標) MSC Basal Medium(STEMCELL Technology)、Stromal Cellutions(商標)Media(DV Biologics)、間葉系幹細胞専用培地キット(MSCGM BulletKit、Lonza)などを用いて、間葉系幹細胞を培養することにより行うことができる。

【0071】
間葉系幹細胞の分化は、所望の細胞への分化誘導作用を持つ因子を加えた分化誘導培地中での培養などの一般に知られる方法で行うことができる。例えば、骨芽細胞への分化においてはBone Morphogenetic Proteins(BMP)4、BMP2などが、脂肪細胞への分化においてはデキサメタゾン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、インスリンなどが分化誘導因子として用いられる。

【0072】
間葉系幹細胞の分化を確認する方法は、分化させた細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、骨芽細胞への分化の確認には、細胞のアルカリフォスファターゼを検出する方法、例としてアルカリフォスファターゼ染色などが用いられ、脂肪細胞への分化の確認には、細胞のトリグリセリドを検出する方法、例えばOil Red O染色などが用いられる。

【0073】
賦活化処理が生体試料由来の細胞集団に含まれる状態の異常な間葉系幹細胞に対して行われた場合、必要に応じて、賦活化後の細胞集団から目的の間葉系幹細胞を分離または濃縮してもよい。

【0074】
間葉系幹細胞の分離または濃縮は、間葉系幹細胞が選択的に増幅される培地中での培養や、間葉系幹細胞に特異的な1または複数の細胞表面抗原(例えば、CD29、CD73、CD90、CD105、CD166など)に基づくフローサイトメトリーおよびセルソーティングにより、行うことができる。

【0075】
間葉系幹細胞は、賦活化、増殖培養、分化誘導培養などの処理の前後において、凍結保存などの一般的な手法により保存することができる。例えば、賦活化された間葉系幹細胞を培養により増殖させた後に、一定の細胞数となるように分けて保存しておき、投与の度に必要量を解凍して用いることが可能である。

【0076】
<本発明の間葉系幹細胞の用途>
本発明の第三の態様は、前記第二の態様の製造方法により製造された、疾患治療および/または予防用の間葉系幹細胞、ならびに該間葉系幹細胞および/またはその培養物を含む、疾患治療および/または予防用の医薬に関する。

【0077】
本発明の製造方法により得られる賦活化された間葉系幹細胞は、疾患の治療および/または予防のために用いることができる。さらに本発明は、賦活化された間葉系幹細胞および/またはその培養物を含む、疾患治療および/または予防用の医薬に関する。また、本発明は、賦活化された間葉系幹細胞を用いた、もしくはこれらを含む医薬を用いた疾患の治療方法および/または予防方法も提供する。

【0078】
治療および/または予防される疾患は、間葉系幹細胞による治療および/または予防が知られている任意の疾患であることができる。

【0079】
本発明の実施形態の一つにおいて、賦活化された間葉系幹細胞は、糖尿病もしくはその合併症、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、アレルギー性疾患または骨粗鬆症の治療および/または予防のために用いることができる。これらの疾患としては、具体的に、I型糖尿病およびII型糖尿病ならびにこれらの合併症、例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症など;関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、自己免疫性副腎機能障害、真正赤血球性貧血、多発性硬化症および自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患;慢性肝炎、肝硬変、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病などの慢性炎症性疾患;アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくなどのアレルギー性疾患;骨粗鬆症を挙げることができる。

【0080】
本発明の好ましい実施形態において、治療および/または予防される疾患は、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症または糖尿病性神経障害である。賦活化された間葉系幹細胞は、細小血管障害を改善することにより、これら糖尿病合併症を治療および/または予防することができると考えられる。さらに、後述の実施例に記載されるように、関節リウマチもまた、賦活化された間葉系幹細胞により、好ましく治療および/または予防される疾患である。

【0081】
本発明の医薬は、有効量の賦活化された間葉系幹細胞を含む。

【0082】
本明細書中で用いられる「有効量」とは、疾患を治療および/または予防するのに効果的な量を意味する。かかる有効量は疾患の種類、症状の重症度、患者その他の医学的要因によって適宜調節される。

【0083】
本発明の医薬の好ましい実施形態において、間葉系幹細胞の有効量は、投与される個体の体重1kgあたり10個~10個、好ましくは10個~10個である。

【0084】
本発明の医薬はまた、有効量の賦活化された間葉系幹細胞の培養物を含むこともできる。培養物は、好適には、間葉系幹細胞の培養上清である。間葉系幹細胞の培養上清には、間葉系幹細胞が産生する様々な液性因子が含まれており、間葉系幹細胞と同様に疾患治療効果を有することが知られている(特開2013-018756号公報およびWatanabe,S.et al.,J Gastroenterol.2013;Epub ahead of print,PMID:24217964)。さらに後述の参考例においても間葉系幹細胞培養上清の治療効果が明らかになっている。

【0085】
培養物は、間葉系幹細胞の培養に通常用いられる培地、例えばα-MEM培地、DMEM培地などの中で、賦活化された間葉系幹細胞を培養することにより、得ることができる。

【0086】
本発明の医薬の好ましい態様において、間葉系幹細胞培養物の有効量は、投与される個体の体重1kgあたり0.1mg~100mg、好ましくは0.2mg~50mg、より好ましくは0.5mg~20mgであり、これを1回または複数回に分けて投与することができる。

【0087】
本発明の医薬は、通常、注射剤、点滴剤などの非経口製剤の形態で用いられる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D-ソルビトールなどを含む等張液といった水性担体が挙げられる。

【0088】
本発明の医薬はさらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の成分を含む組成物であってもよい。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第16版日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。

【0089】
本発明の医薬の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与などを挙げることができる。好ましい実施形態の一つにおいて、本発明の医薬は、静脈内投与により生体に投与される。また、本発明の医薬は、治療および/または予防される疾患に応じて、その他の医薬と併用して使用してもよい。

【0090】
本発明の第四の態様は、前記第三の態様の間葉系幹細胞および/またはその培養物の有効量を含む医薬を対象に投与することを含む、疾患を治療および/または予防する方法に関する。かかる第四の態様における各用語の意味は、前記第三の態様において説明したとおりである。

【0091】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0092】
<実施例1 臍帯組織抽出物の調製>
臍帯組織は、母体に合併症のない帝王切開手術施行ヒト症例(n=20)の胎盤娩出直後に、臍帯根部から切断することにより採取した。採取した臍帯組織を滅菌容器に回収し、氷上で保持した。
【実施例】
【0093】
臍帯組織からの抽出物の調製は、以下のように行った。全ての操作はクリーンベンチ内で実施した。
1) 生理食塩水で臍帯組織に付着した血液および血管内の血液を可能な限り洗い流した。
2) ガラス製の培養皿に、無血清および抗生剤非添加のα-MEM細胞培養用培地を10~30mL分取した。
3) 洗浄した臍帯組織を湿重量で約5g毎に分割し、培養皿1枚あたり約5gの臍帯組織を入れた。
4) 培養皿の培地の中で、ピンセットおよび先鋭のハサミを用いて羊膜鞘を長軸方向に切開した。
5) さらに長軸方向に走行する臍帯動脈、臍帯静脈をピンセットでワルトン膠質から剥離した。
6) さらにワルトン膠質および羊膜鞘を、ピンセットを用いて5mm程の幅で長軸方向に細切した。
7) 5)および6)で得られた臍帯血管、ワルトン膠質および羊膜鞘のすべてを含む培地を、50mLのサンプル管に回収した。
8) 7)を4℃の冷蔵庫内で振とう機の上に水平に置き、70~100rpmの強度で72時間、往復振とうさせた。
9) 72時間後にサンプル管を4℃、2000rpm(300×g)で5分間遠心分離した。
10) 9)の上清を回収して、臍帯組織抽出物(以下、「WJ」ともいう)を得た。抽出物は、滅菌容器内で4℃または-80℃で保存し、以降の実施例および参考例において用いた。なお、特に記載がないかぎり、上記2)で使用したα-MEM培地の量は20mLであり、抽出物は4℃で保存した。
【実施例】
【0094】
<実施例2 臍帯組織抽出物の分析>
実施例1において調製された臍帯組織抽出物について、以下の分析を行った。
【実施例】
【0095】
2-1.形態観察
抽出物について、蛍光顕微鏡(位相差観察付)BZ9000(キーエンス)またはTE200(ニコン)を用いた位相差顕微鏡観察を行った。網目状の細胞外マトリクス成分のほか、臍帯血に由来すると考えられる赤血球が見出されたが、その他の増殖能を有する細胞の存在は認められなかった(図1A)。
【実施例】
【0096】
また、以下のように電子顕微鏡観察用試料を作製して、抽出物の電子顕微鏡観察を行った。抽出物を2.5%グルタルアルデヒドで24時間固定した。その後、試料を0.1M PBSで洗浄し、1%四酸化オスミウム酸水溶液で固定した後、エタノールで脱水した。試料をプロピレンオキサイドに浸漬後、エポキシ樹脂を用いて包埋し、加熱重合した。試料の超薄切片をウルトラミクロトームMT-X(RMC)を用いて作製し、電子染色後、透過型電子顕微鏡H-7650(日立ハイテクノロジーズ)で観察した。細胞外マトリクスと考えられる線維状の物質の存在が認められた(図1B)。
【実施例】
【0097】
2-2.増殖因子、ヒアルロン酸およびグルタミン酸の含有量
抽出物に含まれる増殖因子(IGF-1、EGF、PDGF-AB、FGFb)(16ロットの抽出物を使用)、ヒアルロン酸(8ロットの抽出物を使用)、L-グルタミン酸(19ロットの抽出物を使用)の量をELISAで測定した。測定の際、IGF-1はHuman IGF-I Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)、EGFはHuman EGF Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)、PDGF-ABはHuman PDGF-AB Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)、FGFbはHuman FGF basic Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)、ヒアルロン酸はHyaluronan Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)、L-グルタミン酸はF-キット L-グルタミン酸測定キット(J.K.International)を用いた。なお、ヒアルロン酸およびL-グルタミン酸については、4℃のほか-80℃で保存した抽出物についても測定を行った。L-グルタミン酸については、10mL、20mLまたは30mLの抽出媒体(α-MEM培地)を使用して調製した抽出物について測定を行った。
結果を図2に示す。抽出媒体の量を増やすと抽出物中のL-グルタミン酸濃度は若干減少した(図2C)。また、抽出物の保存温度は、測定した成分の含有量に大きな影響を与えなかった(図2B、C)。
【実施例】
【0098】
2-3.粘度
10mL、20mLまたは30mLの抽出媒体(α-MEM培地)を使用して調製し、4℃および-80℃で保存した抽出物(それぞれ15ロット)の粘度を音叉型振動式粘度計SV-1A(A&D)で測定した。結果を図3に示す。L-グルタミン酸含有量の結果と同様に、使用した抽出媒体の量に依存して粘度は低下し、また保存温度は粘度に影響しなかった。
【実施例】
【0099】
2-4.エクソソーム含有量
臍帯組織抽出物から、Total Exosome Isolation Kit(Invitrogen)を用いてエクソソーム分画を抽出した。エクソソーム分画をペレットとして回収後、電子顕微鏡観察を行った。
【実施例】
【0100】
また、回収されたペレットを緩衝液で抽出し、抗ヒトCD9抗体(システムバイオサイエンス)および抗ヒトHSP70抗体(システムバイオサイエンス)を用いたウエスタンブロット法にて、CD9およびHSP70の発現を標識にエクソソームの存在を確認した。さらに、抗ヒトCD9抗体を用いたELISA(CD9,Exosome,ELISA Kit,ExoELISA、システムバイオサイエンス)により、エクソソームの含有量を定量した。
【実施例】
【0101】
電子顕微鏡観察像を図4Aに、6ロットの臍帯組織抽出物についてのウエスタンブロット結果を図4Bに、15ロットの臍帯組織抽出物についてのELISA定量結果を図4Cに示す。臍帯組織抽出物は、平均で約17×10個/mLのエクソソームを含んでいた。
【実施例】
【0102】
2-5.培養試験
臍帯組織抽出物(6ロット、4℃で14~90日間保存したもの)にFBSを最終濃度10%になるように添加した後、培養皿に播種し、37℃、5%CO下で96時間の培養を行った。培養後の位相差顕微鏡観察像を図5に示す。抽出物中に含まれるコラーゲン線維や赤血球等は観察されたものの、培養皿に接着して増殖してくる細胞は認められなかった。このことから、抽出物には臍帯組織由来の増殖能を有する細胞が含まれないことが示された。
【実施例】
【0103】
<実施例3 臍帯組織抽出物による糖尿病動物由来間葉系幹細胞の賦活化>
3-1.間葉系幹細胞の採取
8週齢の雄性Sprague Dawley(SD)ラット(日本SLC)に、40mg/kg体重に相当する量のSTZを含有するSTZクエン酸緩衝液溶液500μLを、尾静脈内投与した。ラットの血糖値は、STZを投与した1週間後から600mg/dL以上となり、高血糖状態となった。STZ投与8週間後にラットを屠殺し、長管骨を採取した。長管骨から全骨髄細胞を回収し、150cmの培養皿に播種し、培養を行った。培養は、15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン、100mg/dLグルコースを含有するα-MEM培地を用いて、20%O下、37℃で行った。72時間後に培地を交換し、非接着細胞を除去することにより、骨髄由来の間葉系幹細胞(DM-MSC、Passage0(P0))を接着細胞として得た。なお以降、数字を伴って用いられる「Passage」または「P」は細胞の継代回数を意味する。例えばP0の細胞とは継代回数がゼロ回である、すなわち継代を行っていない初代培養細胞を表し、P1の細胞とは継代回数が1回の細胞を表す。
【実施例】
【0104】
対照である正常ラット由来の間葉系幹細胞(Control-MSC、P0)は、STZ溶液の代わりにクエン酸緩衝液を投与したこと以外はDM-MSCと同じ方法で採取した。
【実施例】
【0105】
3-2.賦活化処理
実施例1の抽出物を1.0mg/mLになるように添加したα-MEM培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンを含有)中で、P1のDM-MSCを、20%O下、37℃で48時間~96時間培養することにより、賦活化処理を行った。培養皿に接着した細胞が85%~90%コンフルエントになった時点で継代し、抽出物添加培地を用いて同様に培養した。このように継代培養したP3の細胞をDM-MSC-WJ(+)とした。
【実施例】
【0106】
また賦活化処理を行わない対照のDM-MSC-WJ(-)は、P1のDM-MSCを、実施例1の抽出物を含まないα-MEM培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンを含有)を用いて、DM-MSC-WJ(+)と同様に調製した。
【実施例】
【0107】
さらに、対照である正常ラット由来のControl-MSCは、3-1.で採取したP1のControl-MSCを、上述のDM-MSC-WJ(-)と同様に抽出物を含まない培地で継代培養することにより、調製した。
【実施例】
【0108】
3-3.賦活化処理された間葉系幹細胞の評価
上述の3-1.および3-2.で得られた間葉系幹細胞について、以下の評価を行った。
(1)MTTアッセイ
各々の間葉系幹細胞を96ウエル マルチウエル培養皿に播種し、24時間後に実施例1の抽出物(15ロット)を0.5~1.0mg/mLになるように添加した、あるいは非添加のα-MEM培地を用いて48時間培養した。添加開始時を0時として、24時間後または48時間後にWST8(Water soluble Tetrazolium salts、DOJINDO)を各々のウエルに添加した。ホルマザン色素へ還元する酵素活性を測定し、細胞の増殖率を解析した(図6)。賦活化処理後のDM-MSC-WJ(+)は、DM-MSC-WJ(-)と比べて高い増殖能を示した。
【実施例】
【0109】
(2)細胞形態
実施例2と同様に位相差顕微鏡観察を行った。DM-MSC-WJ(-)は、突起の少ない平坦な線維芽細胞様の細胞であった。一方、DM-MSC-WJ(+)は、Control-MSC以上に突起数が多く、また細胞の厚みが増していることがわかった(図7)。
【実施例】
【0110】
(3)細胞内小器官の形態
実施例2と同様に電子顕微鏡観察を行った。DM-MSC-WJ(-)は、ミトコンドリアの数がControl-MSCと比べて減少していた(図8)。また、DM-MSC-WJ(-)では、ミトコンドリア内のクリステの膨化のほか、小胞体ストレス状態を示す小胞体の顕著な拡張が認められた(図9)。これらの形態異常はDM-MSC-WJ(+)において、改善が認められた。
【実施例】
【0111】
(4)増殖能
細胞の増殖能を、Ki67染色および細胞増殖、分化、生存促進作用などを媒介するリン酸化酵素であるシグナル伝達因子ERK(Extracellular signal-Regulated Kinase)1/2の活性化によりさらに評価した。
【実施例】
【0112】
1) Ki67染色
各々の間葉系幹細胞をチャンバースライドに播種したのち、実施例1の抽出物(1ロット)を1.0mg/mLになるように添加した、あるいは非添加のα-MEM培地を用いて48時間培養した。培養後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Cy3で標識した抗Ki67抗体(abcam)を用いたKi67染色を行った。細胞核はDAPI(DOJINDO)で染色した。共焦点レーザースキャン顕微鏡システムLSM 510 META(ZEISS)を用いて観察し、DAPI陽性細胞およびKi67陽性細胞の数をカウントした。結果を図10に示す。一定期間において増殖した全細胞数においては、賦活化処理後のDM-MSC-WJ(+)はDM-MSC-WJ(-)に比較して有意に増加した。一方、増殖活性を呈するKi67陽性細胞の割合は、DM-MSC-WJ(-)はControl-MSCと比べて有意に低く、賦活化処理後のDM-MSC-WJ(+)ではControl-MSCと同程度に回復した。すなわち、実施例1の抽出物により細胞が賦活化されたことが示された。
【実施例】
【0113】
2) ERK1/2の活性化
各々の間葉系幹細胞を播種したのち、実施例1の抽出物(7ロット)を1.0mg/mLになるように添加した、あるいは非添加のα-MEM培地を用いて48時間培養した。細胞を回収し、常法に従ってタンパク質を抽出してウエスタンブロット法にて解析した。ERK1/2は抗ERK1/2抗体(SantaCruz)、リン酸化ERK1/2は抗p-ERK1/2抗体(Cell Signaling Technology)、β-アクチンは抗β-アクチン抗体(Sigma)を用いて検出した。結果を図11に示す。賦活化処理後のDM-MSC-WJ(+)では、DM-MSC-WJ(-)と比べて、リン酸化されたERK1/2の発現が上昇していたことから、賦活化処理によりERK1/2が活性化されたことが示された。
【実施例】
【0114】
(5)小胞体ストレス
各々の間葉系幹細胞を播種したのち、実施例1の抽出物(5ロット)を1.0mg/mLになるように添加した、あるいは非添加のα-MEM培地を用いて48時間培養した。細胞を回収し、常法に従ってタンパク質を抽出し、小胞体ストレス関連タンパク質の発現をウエスタンブロット法にて解析した。BiP(Binding immunoglobulin Protein)は抗BiP抗体(Cell Signaling Technology)、CHOP(C/EBP-Homologous Protein)は抗CHOP抗体(Cell Signaling Technology)、Ero1-L(Ero1-Like protein)αは抗Ero1-Lα抗体(Cell Signaling Technology)、JNK(c-Jun N-terminal Kinase)1/3は抗JNK1/3抗体(SantaCruz)を用いて検出した。結果を図12に示す。賦活化処理後のDM-MSC-WJ(+)では、DM-MSC-WJ(-)と比べて、BiP、CHOPおよびJNK1/3の発現が減少し、Ero1-Lαの発現が増加した。この結果は、細胞の電子顕微鏡観察において認められた結果と同様、賦活化処理により小胞体ストレスが抑制されることを示している。
【実施例】
【0115】
(6)増殖因子、分化関連因子およびサイトカイン・ケモカインの遺伝子発現
各々の間葉系幹細胞からmRNAを抽出した(試薬;TRI reagent、Molecular Research Center,Inc.)。表2に示す因子の発現をリアルタイムPCR法(試薬;Power SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix、Applied Biosystems、機器;Applied Biosystems7500リアルタイムPCRシステム)で解析した。なお、各因子の発現量を正規化するための対照としてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)を用いた。
【表2】
JP2015137419A1_000004t.gif
【実施例】
【0116】
結果を図13に示す。α-SMA、TNFα、IL-1β、IFNγ、IL-2およびRANTESの発現量は、DM-MSC-WJ(-)ではControl-MSCと比べて増加し、一方、DM-MSC-WJ(+)ではDM-MSC-WJ(-)と比べて減少した。IGF-1は逆の傾向を示した。
【実施例】
【0117】
(7)脂肪細胞への分化能
各々の間葉系幹細胞を脂肪分化誘導培地(試薬;Mesenchymal Stem Cell Functional Identification Kit、R&D Systems)中で培養し、14日間分化誘導を行った。その後、細胞をOil red O(SIGMA)で染色した。明視野顕微鏡観察像を図14に示す。DM-MSC-WJ(+)ではDM-MSC-WJ(-)と比べて細胞数が増加しているものの、全細胞に占めるOil red O陽性細胞の割合は同程度であった。したがって、賦活化処理は、間葉系幹細胞が本来保持する脂肪分化能に影響を与えないことが示された。
【実施例】
【0118】
(8)細胞表面抗原
DM-MSC-WJ(+)の表面抗原の発現を、抗CD90抗体(Immunotec)、抗CD44抗体(Immunotec)、抗CD45抗体(Immunotec)、抗CD43抗体(Immunotec)、抗CD31抗体(Immunotec)、抗CD11b抗体(Immunotec)、抗HLA-DR抗体(abcam)を用いてフローサイトメトリーで解析した(機器;BD FACSCalibur flow cytometer)。図15に示すように、DM-MSC-WJ(+)は、間葉系幹細胞のマーカーであるCD90を発現し、ネガティブマーカーであるCD44、CD45、CD43、CD31、CD11b、HLA-DRを発現していなかった。このことから、賦活化処理は間葉系幹細胞の細胞表面抗原に影響を与えないことが示唆された。
【実施例】
【0119】
<実施例4 臍帯組織抽出物の濃度検討、および血清成分非存在下での賦活化能の評価>
I型糖尿病のモデルであるSTZ投与ラット、およびII型糖尿病のモデルであるOLETFラットを用いて、賦活化に必要な臍帯組織抽出物の濃度を検討し、合わせて血清成分の存在が臍帯組織抽出物の賦活化能に与える影響を評価した。
【実施例】
【0120】
4-1.抽出物添加濃度の検討
STZ投与ラットおよびOLETFラット(6月齢)から実施例3の3-1.と同様に調製した間葉系幹細胞に対し、抽出物添加濃度を0.1mg/mL~2.0mg/mLの範囲に設定して、3-2.と同様に賦活化処理を行った。MTTアッセイおよび細胞形態観察の結果から、いずれの糖尿病ラットの間葉系幹細胞においても0.5mg/mL以上の抽出物添加濃度で十分な賦活化を確認した(図16および図17)。
【実施例】
【0121】
4-2.血清成分非存在下での抽出物の賦活化能
FBSを除いたα-MEM培地を使用して4-1.と同様にSTZ投与ラットおよびOLETFラットの間葉系幹細胞を培養し、MTTアッセイおよび細胞形態観察を行った。結果を図18および図19に示す。FBS非添加かつ抽出物添加下で培養した細胞は、FBS添加かつ抽出物添加下で培養した細胞と比べて極度に増殖能が低下しており、細胞形態にもほとんど変化は認められなかった。
【実施例】
【0122】
また、賦活化の指標の一つとして、JNK1/3、α-SMAのタンパク質発現の変化を評価した。実施例3の3-3.と同様にウエスタンブロット法による解析を行い、JNK1/3は抗JNK1/3抗体(SantaCruz)を、α-SMAは抗α-SMA抗体(abcam)を用いて検出した。図18Cおよび図19Cに示すように、糖尿病ラット間葉系幹細胞内で発現が亢進していたJNK1/3およびα-SMAは、FBS添加かつ抽出物添加下でタンパク質量の減少が認められた。しかしながらFBS非添加下では、タンパク質量の変化は認められないか、認められたとしても弱いものであった。
【実施例】
【0123】
以上の結果から、臍帯組織抽出物は、FBSの存在下で、異常化した間葉系幹細胞を効率的に賦活化させることが示された。
【実施例】
【0124】
<実施例5 糖尿病患者から分離した間葉系幹細胞の賦活化>
II型糖尿病患者(69歳女性、HbA1c値6.8%)より採取した骨髄液から実施例3と同様の手法で間葉系幹細胞を調製し、これを用いて臍帯組織抽出物の添加濃度検討、および血清成分非存在下での賦活化能の評価を実施例4と同様に行った。
【実施例】
【0125】
結果を図20に示す。FBSを添加した場合、ヒト糖尿病患者の間葉系幹細胞においても糖尿病ラットの間葉系幹細胞と同様に、抽出物添加濃度0.5mg/mL以上で細胞増殖能亢進および細胞形態の変化が観察されたが、FBS非添加の場合は大きな変化は認められなかった。また、FBS存在下、抽出物添加濃度0.5mg/mLでの賦活化処理における総細胞数の推移を図21に示す。抽出物を添加した場合、2回目の継代培養時に細胞数が顕著に増加した。
【実施例】
【0126】
DVバイオロジクスから購入したI型糖尿病患者由来の間葉系幹細胞に対し、FBS存在下、抽出物添加濃度1.0mg/mLでの賦活化処理を行ったところ、細胞増殖能亢進および細胞形態はII型糖尿病患者由来の間葉系幹細胞と同様に変化した(図22)。
【実施例】
【0127】
<実施例6 胎盤組織および卵膜からの抽出物の調製ならびに抽出物による間葉系幹細胞の賦活化>
胎盤は、帝王切開手術施行ヒト症例(n=2)より摘出後、滅菌バックに入れ、4℃で搬送および保存を行った。搬送後24時間以内に組織を凍結保存(-80℃)した後、あるいは、凍結させずにそのまま、以下のように各組織を切り離し、抽出物を調製した。
1) 胎盤を滅菌バックから取り出し、生理食塩水で余分な成分を可及的に洗浄した。
2) 胎盤を平トレイにうつし、卵膜と、膜を剥離した母体側胎盤組織とに分離した。
3) 卵膜および母体側胎盤組織それぞれの湿重量を測定し、湿重量50gに対して100mLの割合で無血清培地(α-MEM)をコニカルチューブ(225mL)に入れ、重量に応じて必要な本数を準備した。
4) 卵膜および母体側胎盤組織それぞれを、ハサミを用いてすべて5mm角に細切し、3)で準備したコニカルチューブに入れた。
5) 4)のコニカルチューブを密栓して口部をパラフィルムで被覆した後、横に寝かせて振とう器に固定し、4℃で8の字振とう、80rpmで72時間振とうした。
6) 72時間後、5)のコニカルチューブを4℃で1000xg、5分間遠心し、上清を新しいコニカルチューブに回収した。
7) 6)で回収した上清を再度、4℃で1000xg、5分間遠心して上清を回収することで、赤血球成分、胎盤組織等の夾雑物を除去した。
8) 7)で回収した上清を適宜分注後、使用時まで-80℃で凍結保存した。
【実施例】
【0128】
得られた胎盤組織抽出物(P)および卵膜抽出物(PM)の平均タンパク質濃度はそれぞれ9.405mg/mL、10.511mg/mLであった。なお、同一ドナーから得た臍帯組織抽出物の平均タンパク質濃度は3.074mg/mLであった(いずれもn=2)。
【実施例】
【0129】
胎盤組織抽出物(P)および卵膜抽出物(PM)、さらに上記2)の分離操作前の一体とした胎盤組織から同様に調製した抽出物(P+PM)を用いて、実施例2の2-4.と同様にエクソソーム分画を調製し、ウエスタンブロット法にてHSP70の発現を解析し、いずれの抽出物においてもエクソソームが存在することを確認した(図23)。
【実施例】
【0130】
また、これらの抽出物について、実施例2の2-5.と同様の方法で培養試験を行った。培養後に位相差顕微鏡観察を行い、培養皿に接着して増殖してくる細胞がないこと、すなわち抽出物に胎盤組織および卵膜由来の増殖能を有する細胞が含まれないことを確認した(図24)。
【実施例】
【0131】
上記の胎盤組織および卵膜の抽出物について、STZラットの間葉系幹細胞に対する賦活化能を評価した。評価は、臍帯組織抽出物の代わりに胎盤組織抽出物または卵膜抽出物を終濃度0.5mg/mLまたは1.0mg/mLで用いた点以外、実施例3に記載された手法を用いて行った。
【実施例】
【0132】
MTTアッセイの結果を図25Aに示す。胎盤組織抽出物および卵膜抽出物は、臍帯組織抽出物と同等以上にSTZラット間葉系幹細胞を増殖させた。また位相差顕微鏡像を図25Bに示す。抽出物を加えずに培養した間葉系幹細胞は、突起の少ない平坦な多角形の線維芽細胞様の細胞であって、その内部にはストレスファイバーが観察された。胎盤組織抽出物または卵膜抽出物を加えて培養した場合、間葉系幹細胞の形状は紡錘形となり、ラメリポディア(仮足)の発達が認められた。また、ストレスファイバーは著明に減少した。
【実施例】
【0133】
賦活化の指標の一つであるJNK1/3、α-SMAのタンパク質発現の変化を評価した結果を図25Cに示す。臍帯組織抽出物(レーン2、3)、胎盤組織抽出物(レーン4、5)、卵膜抽出物(レーン6~8)のいずれを用いた場合も、STZラット間葉系幹細胞内で発現が亢進していたJNK1/3およびα-SMAタンパク質量の減少が認められた。また、抽出時の形状を短冊状にした卵膜抽出物(レーン7)は、細切して得た卵膜抽出物(レーン8)と同等の活性を示した。
【実施例】
【0134】
<実施例7 臍帯組織抽出物構成成分による賦活化の検討>
臍帯組織抽出物に含まれる構成成分であるL-グルタミン酸、ヒアルロン酸、エクソソームについて、間葉系幹細胞の賦活化能を評価した。
【実施例】
【0135】
実施例3の3-2.で得たDM-MSC-WJ(-)を、表3の成分を添加した、または非添加のα-MEM培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンを含有)中、20%O下、37℃で48時間培養した後、位相差顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。
【表3】
JP2015137419A1_000005t.gif
【実施例】
【0136】
結果を図26~図28に示す。L-グルタミン酸またはヒアルロン酸を添加した培地で培養した場合、これらを添加しない培地で培養した場合と比較して、間葉系幹細胞の増殖能および細胞形態に大きな変化は認められなかった(図26および図27)。また、ヒアルロン酸を消化した実施例1の抽出物を添加した培地で培養した場合、ヒアルロン酸未消化の実施例1の抽出物を添加した培地で培養した場合と同様に、間葉系幹細胞は、高い増殖能および賦活化された細胞形態を示した(図27)。したがって、L-グルタミン酸あるいはヒアルロン酸単独では、実施例1の抽出物と同等の間葉系幹細胞の賦活化効果を示さないこと、および実施例1の抽出物からヒアルロン酸を消化しても間葉系幹細胞の賦活化効果に影響しないことが明らかとなった。
【実施例】
【0137】
一方、エクソソーム分画を添加した培地で培養したDM-MSC-WJ(-)では増殖能の亢進が認められ(図28A)、また細胞の突起数および厚みが増加して、実施例1の抽出物を添加した場合と同様の細胞形態を示した(図28B)。さらに、エクソソーム分画の添加は、小胞体の拡張を抑制した(図28C)。JNK1/3およびα-SMAタンパク質については、実施例1の抽出物を添加した場合よりは弱いものの、発現量の減少が観察された(図28D)。
【実施例】
【0138】
<実施例8 胎盤組織抽出物および卵膜抽出物のエクソソーム分画による賦活化>
胎盤組織抽出物および卵膜抽出物のエクソソーム分画による間葉系幹細胞の賦活化について、実施例7と同様に評価した。結果を図29に示す。胎盤組織抽出物または卵膜抽出物のエクソソーム分画で賦活化された間葉系幹細胞は、増殖能、細胞形態、JNK1/3およびα-SMA発現量のいずれも臍帯組織抽出物のエクソソーム分画の場合と同様の傾向を示した。実施例7および実施例8の結果から、胎児付属物からの抽出物中のエクソソーム分画は、間葉系幹細胞の賦活化に寄与する成分の少なくとも一つであることが示された。
【実施例】
【0139】
<実施例9 賦活化された間葉系幹細胞の糖尿病性腎症に対する治療効果(マウスモデル)>
実施例1の抽出物によって賦活化された間葉系幹細胞(MSC)について、糖尿病性腎症モデルマウスを用いて治療効果を評価した。
【実施例】
【0140】
9-1.P1の細胞にのみ賦活化処理を行ったMSCの治療効果
使用したMSCを、以下に示す。
Control-MSCおよびDM-MSC-WJ(-):実施例3の3-2.で得たP3の細胞を用いた。
DM-MSC-WJ(+):P1のDM-MSCのみを抽出物添加培地で培養し、その後は抽出物を含まない培地を用いたこと以外は、実施例3の3-2.と同様に継代培養したP3の細胞を用いた(図30A)。
【実施例】
【0141】
試験は、図30Bに示す試験計画にしたがって行った。8週齢の雄性C57BL/6マウスに、150mg/kg体重に相当する量のSTZを含有するSTZクエン酸緩衝液溶液200μLを腹腔内投与し、STZ誘導I型糖尿病モデルマウス(STZマウス)を作製した。正常群のマウスには、STZ溶液の代わりにクエン酸緩衝液を投与した。投与4週間後にSTZマウスを4群に分け、STZ-Control-MSC群にはControl-MSCを1x10個/g(体重)含むリン酸緩衝液を250μL、STZ-DM-MSC群にはDM-MSC-WJ(-)を1x10個/g(体重)含むリン酸緩衝液を250μL、STZ-DM-MSC-WJ群にはDM-MSC-WJ(+)を1x10個/g(体重)含むリン酸緩衝液を250μL、STZ-Vehicle群にはビークルとしてリン酸緩衝液を250μL、尾静脈から単回投与した。MSCまたはビークルの投与後4週おきに体重測定、採血、採尿を行った。8週間目にマウスを解剖し、腎臓を採取した。血糖値は血糖測定機器アントセンスIII(HORIBA Medical)を用いて、腎機能の指標である尿中のアルブミンおよびクレアチニンをそれぞれ免疫比濁法、酵素法により測定した。採取した腎臓は、細小血管障害などの臓器障害の評価に用いた。
【実施例】
【0142】
MSCまたはビークル投与開始時の体重を1とした場合の体重変化率を図31に示す。STZ-Vehicle群では、正常群と比べて若干の体重減少が認められた。一方、糖尿病マウスにControl-MSCを投与したSTZ-Control-MSC群では、体重変化は正常群と同程度にまで回復した。また、STZ-DM-MSC群では、STZ-Vehicle群と比べて体重が減少した一方、STZ-DM-MSC-WJ群では、正常群やSTZ-Control-MSC群と同程度まで体重減少が抑制された。
【実施例】
【0143】
血糖値の結果を図32に示す。STZ-Vehicle群は正常群と比べて血糖値が上昇したが、STZ-Control-MSC群では血糖値上昇が抑制された。また、STZ-DM-MSC群はSTZ-Vehicle群よりも血糖値が高くなったが、STZ-DM-MSC-WJ群はSTZ-DM-MSC群よりも血糖値の上昇がゆるやかであった。
【実施例】
【0144】
尿中アルブミン/クレアチニン比(図33)はSTZ-Vehicle群で最も高く、STZ-Control-MSC群では経時的な減少が認められた。また、STZ-DM-MSC-WJ群ではSTZ-DM-MSC群よりも値が減少した。
【実施例】
【0145】
9-2.P1~P3の細胞に賦活化処理を行ったMSCの治療効果
実施例3の3-2.で得たP3のControl-MSC、DM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+)(賦活化プロトコールを図34Aに示す)を用いて、上記9-1.と同様に治療効果の評価を行った(図34B)。結果を図35~図37に示す。
【実施例】
【0146】
体重変化、血糖値、尿中アルブミン/クレアチニン比とも、9-1.と同様の、またはより明確な傾向を示した。なお、STZ-Vehicle群およびSTZ-DM-MSC群において、投与後8週時に尿中アルブミン/クレアチニン比の大幅な減少が観察されたが、これは、両群のマウスが悪液質の結果として低蛋白血症を発症し、その結果尿中にタンパク質が排泄されなくなったためと考えられる。
【実施例】
【0147】
<実施例10 賦活化された間葉系幹細胞の糖尿病性腎症に対する治療効果(ラットモデル)>
実施例1の抽出物によって賦活化されたMSCについて、糖尿病性腎症モデルラットを用いて治療効果を評価した。以下に特に記述がないかぎり、実施例3の3-1.および3-2.、ならびに実施例9に記載された手法を用いた。
【実施例】
【0148】
10-1.I型糖尿病による糖尿病性腎症に対する治療効果
雄性STZ誘導I型糖尿病ラットの骨髄細胞を、抽出物を含まない培地で2回、抽出物を含まない培地または抽出物0.5mg/mL添加培地で1回継代培養し、得られたP3のMSC(それぞれDM-MSC-WJ(-)およびDM-MSC-WJ(+))を以下の試験に用いた(図38A)。
【実施例】
【0149】
試験は、図38Bに示す試験計画にしたがって行った。8週齢の雄性SDラットに、55mg/kg体重に相当する量のSTZを含有するSTZクエン酸緩衝液溶液500μLを尾静脈から静脈内投与し、STZ誘導I型糖尿病性腎症モデルラットを作製した。投与4週間後にラットを3群に分け、STZ-DM-MSC群にはDM-MSC-WJ(-)を1x10個/g(体重)含むα-MEM培地(血清成分、抗生剤を含まない)を1000μL、STZ-DM-MSC-WJ群にはDM-MSC-WJ(+)を1x10個/g(体重)含むα-MEM培地を1000μL、STZ-Vehicle群にはビークルとしてα-MEM培地を1000μL、尾静脈から単回投与した。MSCまたはビークルの投与後0、1、4、7週目に採尿を行い、尿中アルブミンおよびクレアチニンを測定した。
【実施例】
【0150】
尿中アルブミン/クレアチニン比の変化を図39に示す。尿中アルブミン/クレアチニン比は、STZ-DM-MSC群ではSTZ-Vehicle群と同様に推移したが、STZ-DM-MSC-WJ群では低下が認められ、腎機能の改善が示唆された。
【実施例】
【0151】
10-2.II型糖尿病による糖尿病性腎症に対する治療効果
6月齢の雄性OLETF II型糖尿病モデルラットの骨髄細胞を、抽出物を含まない培地で2回、抽出物を含まない培地または抽出物0.5mg/mL添加培地で1回継代培養し、P3のMSC(それぞれOLETF-DM-MSC-WJ(-)およびOLETF-DM-MSC-WJ(+))を得た。また、コントロールとして正常野生株ラットの骨髄細胞を、抽出物を含まない培地で3回継代培養して、P3のMSC(Control-MSC)を得た(図40A)。これらのMSCを以下の試験に用いた。
【実施例】
【0152】
試験は、図40Bに示す試験計画にしたがって行った。6.5月齢の雄性OLETFラットを4群に分け、OLETF-Control-MSC群にはControl-MSCを1x10個/g(体重)含むα-MEM培地を1000μL、OLETF-DM-MSC群にはOLETF-DM-MSC-WJ(-)を1x10個/g(体重)含むα-MEM培地を1000μL、OLETF-DM-MSC-WJ群にはOLETF-DM-MSC-WJ(+)を1x10個/g(体重)含むα-MEM培地を1000μL、OLETF-Vehicle群にはビークルとしてα-MEM培地を1000μL、尾静脈から単回投与した。MSCまたはビークルの投与後1、3、6週目に体重測定、採血、採尿を行い、血糖値ならびに尿中アルブミンおよびクレアチニンを測定した。
【実施例】
【0153】
尿中アルブミン/クレアチニン比の変化を図41に示す。上記の試験と同じく、OLETF-Control-MSC群およびOLETF-DM-MSC-WJ群において、尿中アルブミン/クレアチニン比の低下、すなわち腎機能の改善が認められた。
【実施例】
【0154】
実施例9および10の結果から、正常動物由来のControl-MSCには糖尿病および糖尿病性腎症の治療効果がある一方、糖尿病動物由来のDM-MSCは治療効果が弱いか、むしろこれら疾患を増悪する効果を持つこと、DM-MSCは臍帯組織抽出物を用いた賦活化処理により治療効果を回復することが示された。
【実施例】
【0155】
<実施例11 臍帯組織抽出物による関節リウマチモデル動物由来間葉系幹細胞の賦活化、および賦活化された間葉系幹細胞の関節リウマチに対する治療効果>
11-1.間葉系幹細胞の採取および賦活化処理
7~9週齢の雌性Lewisラット(日本SLC)を用いて関節リウマチ(RA)ラットを作製した。関節炎の感作には、完全フロイントアジュバント(結核死菌20mg/mL、Chondrex)およびウシII型コラーゲン溶液(II型コラーゲン2mg/mL、Chondrex)をそれぞれ等量混合してエマルジョンを作製し、1匹あたり結核死菌2mgおよびII型コラーゲン0.2mgを含むエマルジョンを尾根部に投与した。さらに、同濃度のエマルジョンを7~10日おきに4~5回継続投与し、関節炎を発症させた。
【実施例】
【0156】
関節炎の発症は、左右足部の腫脹、すなわち足部容積の変化により判定した。精密電子ばかり(精度0.01g、A&D)に水を入れた透明なプラスチック容器を設置し、ラットの足関節上部に引いたマーカーの位置まで後肢足部を水に挿入し静止させ、重さmg(質量m、重力加速度g)(N)を計測した。重さmgと足部にかかる浮力F(N)は等しいことから、F=mg=ρVgであるため水の密度ρ=0.9999(g/cm)として足部体積(cm)を算出した。左右足部体積の合計4.5cm以上を関節炎発症とした。
【実施例】
【0157】
実施例3の3-1.および3-2.に記載された手法を用いて、エマルジョン初回投与から6週~9週後の関節炎発症RAラットまたは正常ラットから骨髄細胞を調製し、抽出物を含まない培地で2回、その後に抽出物を含まない培地または実施例1の抽出物1.0mg/mLを含む培地で1回、継代培養を行った(図43A)。得られたP3のMSC(RA-MSCおよびRA-MSC-WJ)を以下の試験に用いた。また、7週齢の正常野生株ラットの骨髄細胞を、抽出物を含まない培地で3回継代培養して得られたP3のMSC(Control-MSC)も合わせて用いた。
【実施例】
【0158】
11-2.間葉系幹細胞の評価
RAラット間葉系幹細胞の異常化を確認するため、11-1.でRAラットまたは正常ラットから採取した骨髄細胞を別途、10cm培養皿に1x10個播種し、P0として培養した。10日後にそれぞれの培養皿をメタノール固定してWright-Giemsa染色を行い、直径2mm以上のコロニー数を計測した。コロニー形成数はControl-MSC(7週齢)が26個、Control-MSC(12週齢)が20個、RA-MSC(14週齢)が3個であり、RA-MSCでコロニー形成能の低下を認めた。
【実施例】
【0159】
次に、本発明の抽出物による間葉系幹細胞の賦活化を確認するため、播種後48時間および72時間(抽出物添加後24時間および48時間)のP3のRA-MSC、RA-MSC-WJの増殖能を、実施例3の3-3.に記載された手法を用いて、MTTアッセイにより評価した。抽出物添加後24時間および48時間のいずれにおいても、RA-MSC-WJはRA-MSCよりも増殖能が高かった(図42A)。
【実施例】
【0160】
また、同様に調製したP3のMSCについて、抽出物添加後48時間で位相差顕微鏡による形態観察を行った。RA-MSCはControl-MSCよりも胞体が広く平坦で、細胞数が少なかった。RA-MSC-WJでは、Control-MSC様に胞体が狭く紡錘形のMSCを多く認めた(図42B)。
【実施例】
【0161】
さらにP2の細胞を150cm培養皿に2.7~3x10個で播種した点以外は同様に調製したP3のMSCについて、抽出物添加後48時間でトリプシン処理を行って細胞を剥離し、それぞれの総細胞数を計測した。総細胞数は、Control-MSCが4.1×10個、RA-MSCが2.6×10個、RA-MSC-WJが6.4×10個であり、RA-MSCはControl-MSCよりも少なく、RA-MSC-WJはRA-MSCよりも多かった。
【実施例】
【0162】
11-3.関節リウマチに対する治療効果
11-1.と同様に作製したエマルジョン初回投与から30日後の関節炎発症RAラット12匹を4群(n=3)に分け、RA-Vehicle群、Control-MSC群、RA-MSC群、RA-MSC-WJ群として処置した(図43B)。P3として培養したControl-MSC、RA-MSC、RA-MSC-WJは1x10個/g(体重)を1mLのα-MEM培地で懸濁し尾静脈から投与した。Vehicle群には、α-MEM培地のみ1mL尾静脈投与した。処置後6日にはエマルジョンを初回感作の半量投与した。処置後0日をベースラインとし、処置後3日、5日、11日の足部腫脹を計測した。さらに、足関節部(上部、後部、足根部)、中足部、足趾部(Metatarsophalangeal:MTP関節、Proximal Inter-phalangeal;PIP関節)の目視観察を行い、腫脹および変形が認められた場合にそれぞれ0.1を加算することで、その合計点として関節スコアを算出した。さらに、Rat C-Reactive Protein ELISA Kit(eBioscience)により血清CRP値を測定した。
【実施例】
【0163】
図44に足部体積の変化を示す。足部腫脹は、処置後3日においてControl-MSC群およびRA-MSC-WJ群で減少し、処置後5日、11日においても低値を維持した。一方、RA-MSC群およびRA-Vehicle群では足部腫脹は変化を認めなかった。RA-MSC-WJ群においては、処置後0日と比較して3日、5日、11日で有意に腫脹が減少した。関節炎スコアにおいても、処置後11日でControl-MSC群およびRA-MSC-WJ群でRA-MSC群と比較して有意に関節炎は軽減した(図45)。CRP値は処置後11日において、Control-MSC群およびRA-MSC-WJ群で減少していた(図46)。
【実施例】
【0164】
以上の結果から、正常動物由来のControl-MSCには関節リウマチの治療効果がある一方、関節リウマチ動物由来のRA-MSCは治療効果がないこと、RA-MSCは臍帯組織抽出物を用いた賦活化処理により治療効果を回復することが示された。
【実施例】
【0165】
<参考例1 間葉系幹細胞培養上清の糖尿病性腎症に対する治療効果>
実施例3の3-2.で得たP3のControl-MSCおよびこのMSCの培養上清(MSC-CM)について、糖尿病性腎症に対する治療効果を評価した。MSC-CMは、P3の培養液を遠心分離して得た上清を用いた。
【実施例】
【0166】
参考例1-1.STZ誘導I型糖尿病モデルマウスにおける評価
試験は、図47に示す試験計画にしたがって行った。実施例9の9-1.と同様に作製したSTZ投与マウスを3群に分け、STZ-Control-MSC群にはControl-MSCを1x10個/g(体重)含むリン酸緩衝液250μLを4週おきに2回投与し、STZ-MSC-CM群には2mg/kg(体重)のMSC-CMを1日1回、週5日間投与した。また、STZ-Vehicle群にはビークルとしてリン酸緩衝液250μLを4週おきに2回、または1日1回、週5日間、投与した。実施例9の9-1.と同様に8週間の治療試験を行い、各種測定を行った。さらに、採取した腎臓の組織切片を作製し、PAS染色およびAzan染色を行った。
【実施例】
【0167】
尿中アルブミン/クレアチニン比の結果を図48に示す。STZ-MSC-CM群では正常群と同レベルにまで、尿中アルブミン/クレアチニン比が減少した。また、腎臓組織切片染色の顕微鏡観察像を図49に示す。STZ-Vehicle群は正常群と比べて糸球体メサンギウム領域の拡大、細胞浸潤および尿細管間質の炎症細胞浸潤と尿細管のPAS染色陽性の変性した尿細管を認めた。また、糸球体周囲および尿細管間質にAzan染色陽性となる線維化を認めた。これらの変化は、STZ-Control-MSC群およびSTZ-MSC—CM群で抑制された。
【実施例】
【0168】
参考例1-2.高脂肪食誘導II型糖尿病モデルマウスにおける評価
試験は、図50に示す試験計画にしたがって行った。8週齢の雄性C57BL/6マウスに60%ラードを含有する高脂肪食(High-Fat Diet 32、日本クレア)を給餌し、糖尿病を誘導した。給餌開始から28週間後、作製した高脂肪食誘導II型糖尿病モデルマウスを3群に分け、HFD-Control-MSC群にはControl-MSCを1x10個/g(体重)含むリン酸緩衝液250μLを2週おきに4回投与し、HFD-MSC-CM群には2mg/kg(体重)のMSC-CMを1日1回、週5日間投与した。また、HFD-Vehicle群にはビークルとしてリン酸緩衝液250μLを2週おきに4回、または1日1回、週5日間、投与した。8週間の治療試験を行い、実施例9の9-1.と同様に各種測定を行った。
【実施例】
【0169】
尿中アルブミン/クレアチニン比の結果を図51に示す。MSC-CMは、Control-MSCと同様に、尿中アルブミン/クレアチニン比を減少させた。また、腎臓組織切片染色の顕微鏡観察像を図52に示す。HFD-Vehicle群は正常群と比べて糸球体メサンギウム基質の増生とPAS染色陽性びまん性物質の沈着、糸球体毛細血管壁と基底膜の肥厚、輸出入動脈や細動脈壁の硝子様変化を認めた。さらに、近位尿細管上皮の冊子縁の変性(不均一化)を認めた。これらの変化は、HFD-Control-MSC群およびHFD-MSC—CM群で抑制された。
【実施例】
【0170】
上述の参考例1-1.および1-2.から、MSC-CMは、Control-MSCと同様の糖尿病性腎症治療効果を有することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明によれば、疾患治療効果が喪失もしくは低減した、またはむしろ疾患増悪効果を持つ異常な間葉系幹細胞を賦活化させることができる。賦活化された間葉系幹細胞は、様々な疾患の治療および/または予防に用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31
【図33】
32
【図34】
33
【図35】
34
【図36】
35
【図37】
36
【図38】
37
【図39】
38
【図40】
39
【図41】
40
【図42】
41
【図43】
42
【図44】
43
【図45】
44
【図46】
45
【図47】
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【図48】
47
【図49】
48
【図50】
49
【図51】
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【図52】
51