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明細書 :骨髄細胞凝集体の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月27日(2017.4.27)
発明の名称または考案の名称 骨髄細胞凝集体の作製方法
国際特許分類 C12N   5/078       (2010.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   5/0781      (2010.01)
FI C12N 5/078
C12N 1/00 B
C12N 5/0781
国際予備審査の請求
全頁数 14
出願番号 特願2016-571924 (P2016-571924)
国際出願番号 PCT/JP2016/051009
国際公開番号 WO2016/121512
国際出願日 平成28年1月14日(2016.1.14)
国際公開日 平成28年8月4日(2016.8.4)
優先権出願番号 2015014194
優先日 平成27年1月28日(2015.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】小島 伸彦
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA92X
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BA18
4B065BA23
4B065BD50
4B065CA60
要約 簡便な方法で、短時間に、骨髄細胞の組織化を可能とする技術を提供する。
膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄細胞凝集体の作製方法。膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄組織を再構築する方法。
骨髄組織をバラバラにした後に、細胞組成をそのままの状態で、つまり「つなぎ」となるような接着細胞や細胞外マトリクスを追加することなく細胞集団を再組織化することは、これまで常識的には困難だと考えられてきた。また、実際に一般的な手法では凝集させることができなかった。本発明の成果はこのような従来の考え方や結果を改めるものであり、骨髄細胞の3次元培養に関する大きなブレイクスルーとなる技術である。また、本発明の方法で再構築した骨髄様組織はメチルセルロース含有培地内で14日目までは培養を続けることができことを確認している。
特許請求の範囲 【請求項1】
膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄細胞凝集体の作製方法。
【請求項2】
膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄組織を再構築する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄細胞凝集体の作製方法に関し、より詳細には、骨髄細胞を3次元培養により組織化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトやマウスなどの骨髄組織は、造血組織として重要な役割を果たしている。造血やそれに関わる疾患に関するメカニズムの解明には、骨髄組織を再構築する技術が重要な役割を果たす。しかしながら、骨髄はほとんどが血球で成り立っているため、一旦バラバラにすると再度組織化することは困難であった。
【0003】
骨髄に関する培養技術としては、デクスター培養が知られている(非特許文献1: Dexter TM, Allen TD, Lajtha LG. Conditions controlling the proliferation of haemopoietic stem cells in vitro. J Cell Physiol. 1977 Jun;91(3):335-44.)。これはストローマ細胞をフィーダーとして、その上で造血幹細胞の維持や、種々の細胞へと分化させることを可能とする培養法である。平面的な環境で行われる培養である。
【0004】
上記の培養を3次元的なスキャフォールドを用いて行う手法も存在する(非特許文献2: Nichols JE, Cortiella J, Lee J, Niles JA, Cuddihy M, Wang S, Bielitzki J, Cantu A, Mlcak R, Valdivia E, Yancy R, McClure ML, Kotov NA. In vitro analog of human bone marrow from 3D scaffolds with biomimetic inverted colloidal crystal geometry. Biomaterials. 2009 Feb;30(6):1071-9、非特許文献3: Leisten I, Kramann R, Ventura Ferreira MS, Bovi M, Neuss S, Ziegler P, Wagner W, Knuchel R, Schneider RK. 3D co-culture of hematopoietic stem and progenitor cells and mesenchymal stem cells in collagen scaffolds as a model of the hematopoietic niche. Biomaterials. 2012 Feb;33(6):1736-47.)。
【0005】
Harvard大学Wyss研究所の鳥澤勇介らは骨髄の3次元再構築についてマイクロ流体デバイスを活用した手法による研究を報告している(非特許文献4: Yu-suke Torisawa, Catherine S Spina, Tadanori Mammoto, Akiko Mammoto, James C Weaver, Tracy Tat, James J Collins, Donald E Ingber、Bone marrow-on-a-chip replicates hematopoietic niche physiology in vitro, Nature Methods, Vol11, JUNE, 663-669 2014)。彼らは様々な造血現象がin vitroで確認できるとしている。実際の再構築の手順としては、円柱状のpoly(dimethylsiloxane)(PDMS)の中空部分に骨を再構築するマテリアルを詰め、これをマウス体内に埋め込むことで、骨とともに骨髄を再構築する。体内にデバイスを埋め込む際には、生きた細胞は一切使っておらず、骨髄の細胞は血液を介して移動してくる。移植期間は8週間必要である。8週間後に体内で組織化した骨髄組織を取り出して、in vitroでマイクロ流体デバイスを用いた灌流を行うことで造血現象を検討している。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Dexter TM, Allen TD, Lajtha LG. Conditions controlling the proliferation of haemopoietic stem cells in vitro. J Cell Physiol. 1977 Jun;91(3):335-44.
【非特許文献2】Nichols JE, Cortiella J, Lee J, Niles JA, Cuddihy M, Wang S, Bielitzki J, Cantu A, Mlcak R, Valdivia E, Yancy R, McClure ML, Kotov NA. In vitro analog of human bone marrow from 3D scaffolds with biomimetic inverted colloidal crystal geometry. Biomaterials. 2009 Feb;30(6):1071-9
【非特許文献3】Leisten I, Kramann R, Ventura Ferreira MS, Bovi M, Neuss S, Ziegler P, Wagner W, Knuchel R, Schneider RK. 3D co-culture of hematopoietic stem and progenitor cells and mesenchymal stem cells in collagen scaffolds as a model of the hematopoietic niche. Biomaterials. 2012 Feb;33(6):1736-47
【非特許文献4】Yu-suke Torisawa, Catherine S Spina, Tadanori Mammoto, Akiko Mammoto, James C Weaver, Tracy Tat, James J Collins, Donald E Ingber、Bone marrow-on-a-chip replicates hematopoietic niche physiology in vitro, Nature Methods, Vol11, JUNE, 663-669 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来法の問題点は、システムがストローマ細胞と造血幹細胞からなっている点である。実際の骨髄での造血には、ストローマ細胞以外にも関与している細胞があるとされ、また、3次元的な位置関係も重要と考えられている。このようなことから、デクスター培養やその3次元培養は、骨髄の機能のすべてを反映しているとはいえない。
【0008】
また、鳥澤博士らのアプローチは、3次元的な環境下における種々の造血をアッセイできるが、骨髄の組織化のために、マウスの体内に8週間埋め込む必要がある。このため、例えば病院で患者の骨髄の特性を調べる、という用途には向かないと考えられる。また、マウスの体内において予期せぬ要素が関与して、骨髄組織に影響を与える可能性もある。
【0009】
本発明は、簡便な方法で、短時間に、骨髄細胞の組織化を可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、膨潤性材料を含有する培養液を用いた細胞凝集法を利用することで、バラバラの状態の骨髄細胞を短時間(24時間程度)で組織化することに成功し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄細胞凝集体の作製方法を提供する。また、本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄組織を再構築する方法も提供する。
【0011】
本発明により、血球細胞だけでなく、血管内皮細胞や間葉系細胞も含む組織を作製可能であり、本発明は、造血ニッチを再構築できる可能性を秘めている。また、各種疾患モデルの構築や、骨髄を構築する各種細胞の機能や特性の評価にも応用できると予想される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡便な方法で、短期間で、骨髄細胞を含む骨髄細胞凝集体を作製することができるようになった。本発明の方法により、骨髄組織の再構築も可能となる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2015‐14194の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一般的な細胞凝集法であるU字ボトム96穴プレートの利用やハンギングドロップ法では、3日経ってもバラバラの状態の骨髄細胞を凝集させることはできなかった。一方、膨潤性材料の一つであるメチルセルロースを分散した培地を用いると、10分程度で凝集状態を作り出すことができ、その後24時間の培養によって、メチルセルロース培地から取り出してもバラバラにならない組織が得られた。
【図2】24時間の培養によって再構築された骨髄組織の内部(右)は、正常な骨髄組織(左)と比べて多少細胞密度が低いものの、類似した組織となった。
【図3】CXCL12やPDGFRαを発現する間葉系の細胞が、再構築骨髄組織にも存在することが確認できた。
【図4】ペクチン培地への吐出した30分後の骨髄細胞の様子。スケールバーは200 μm。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0015】
本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄細胞凝集体の作製方法を提供する。

【0016】
膨潤性材料は、水分などの液体を含んで,膨れる性質を持つ材料であればよく、例えば、メチルセルロース、ペクチン、カルボキシメチルセルロースなどの高分子を例示することができる。

【0017】
培地としては、DMEM培地、αMEM、その他一般的などんな種類の培地も使うことができる。

【0018】
骨髄細胞とは、骨髄を構成する細胞をいい、分化した白血球や赤血球、それらの細胞の前駆細胞、並びに造血幹細胞などのいわゆる血球細胞(実質細胞)の他、造血微小環境を構成する細胞である血管内皮細胞や脂肪細胞、細網細胞、外膜細網細胞、骨内膜細胞、骨芽細胞などの細胞が含まれる。

【0019】
骨髄細胞集団とは、少なくとも1個の骨髄細胞を含む、2個以上の細胞からなる集団をいい、生体から採取した骨髄組織をシリンジングすることで得られる骨髄細胞の混合物、前記骨髄細胞混合物に特定の細胞(例えば、骨髄の構成細胞中の希少細胞など)を足したり、引いたりしたもの、前記骨髄細胞混合物に遺伝子操作した細胞を足したもの、ES細胞やiPS細胞そのものや、それらから分化誘導した各種前駆・成熟細胞、さらには髄外造血モデルを想定した場合には、脾臓や肝臓を構築する細胞などを例示することができる。また、その他の細胞も混ぜ込む価値があるかもしれないし、細菌などを加えることで疾患(化膿性骨髄炎)のモデルを作るようなことができるかもしれない。

【0020】
骨髄細胞集団を含有させる液は、DMEM培地などを例示することができるが、これらに限定されることはない。

【0021】
骨髄細胞集団の培養は、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を強制的に凝集状態にして保持するような条件で行うとよい。

【0022】
骨髄細胞の凝集の程度に影響する因子としては、膨潤性材料の種類、物性(分子量など)、濃度、骨髄細胞集団の細胞数などを挙げることができる。また、膨潤性材料を含有する培地中へ骨髄細胞集団含有液を注入して、培養する場合には、骨髄細胞集団注入液の容量、注入液の注入法と注入後の液滴の形状なども、凝集の程度に影響する因子となりうる。

【0023】
膨潤性材料として、メチルセルロースを用いる場合、培地中のメチルセルロース濃度は、1~3質量%であるとよい。メチルセルロース濃度が高いほど、凝集速度が早く、また凝集させる力も強くなる。しかし、3質量%よりも高濃度になると、今度はメチルセルロースを培地に分散させるのが困難になり、粘性も高く非常に取り扱いにくくなる。骨髄細胞集団の細胞数は、1~3質量%メチルセルロース含有培地1μl当たり下限は100個程度、上限は100000個であるとよい。1×106~1×108 cells/ml、好ましくは、2×107 cells/mlの細胞密度に調製した骨髄細胞懸濁液(注入液)を、マイクロピペットを用いて0.1~10μlずつ、好ましくは、1 μlずつ、適当な間隔をあけて、メチルセルロース含有DMEM培地中に吐出するとよい。メチルセルロース含有DMEM培地は、容器に対して適切な量が決まる。通常の培養を行うときに添加する培地量とほぼ等しい量であれば適切といえる。メチルセルロース含有培地は、多い分には問題ないが、酵素で分解するときに時間がかかる。少ない場合は、水分が蒸発して粘性がさらに高くなってしまったり、凝集体が培養機材の底に触れるなどのトラブルが生じる。吐出した注入液の形状が球状であると、凝集体の形状も球状となる可能性が高い。吐出した骨髄細胞は、10分程度で凝集状態となる。そのままメチルセルロース含有DMEM培地中で、CO2インキュベーターで、33~37℃の温度で、24時間~7日間培養すると、骨髄細胞凝集体が得られる。これらの培養条件は、適宜変更しうる。骨髄細胞凝集体を回収するには、そのままだとメチルセルロース含有培地の粘性が高いために回収操作が困難であるため、セルラーゼを用いてメチルセルロースを分解することでメチルセルロース含有培地の粘性を低下させるとよい。メチルセルロース以外の膨潤性材料を用いる場合にも、膨潤性材料含有培地の粘性を低下させるための処理(例えば、分解酵素処理、低温側への変化、多少のpHの変化など)を行うとよい。分解酵素は、細胞の構成成分を分解するものは、細胞に毒性があるので、好ましくない。メチルセルロースは骨格であるセルロースをセルラーゼで分解する。セルロースは植物細胞がもっているもので、我々の細胞にはないので、毒性がほとんどないと考えている。

【0024】
本発明の方法により、骨髄細胞を含む骨髄細胞凝集体が得られる。本明細書において、細胞凝集体とは、細胞同士が結合した状態をいい、三次元組織(複数の細胞が立体的に集まり、互いに接着したもの)、スフェロイド(spheroid)、オルガノイド(organoid)を包含する概念である。

【0025】
また、本発明の方法により、骨髄組織を一旦バラバラにした後、再度構築することが可能となる。よって、本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ骨髄細胞集団含有液を添加し、膨潤性材料の存在下で骨髄細胞集団を培養することを含む、骨髄組織を再構築する方法も提供する。

【0026】
本発明では、接着力のない細胞であっても、10分程度で細胞がお互いに接触した凝集状態にすることができる。本発明の一実施態様において、凝集は膨潤性材料を含有する培地(例えば、高分子(メチルセルロース)を分散した培地)中で行われ、凝集体は周囲を膨潤性材料に取り囲まれた浮遊状態で培養される。凝集状態になった直後は、取り出せば再びバラバラの状態になるが、培養をさらに(例えば、24時間)続けることで、細胞同士が結合した組織状態になる。希少な細胞についても組織化に寄与させることで、微小環境の再現を行うことができる。

【0027】
本発明では、ストローマ細胞以外の細胞も3次元的な骨髄組織に寄与させることができる。

【0028】
さらに、細胞分離技術と組み合わせると、骨髄の構成細胞(特に希少細胞)を自由に足したり引いたりすることができ、造血に与える影響を調べることができる。遺伝子操作した細胞を足して、その効果を調べるようなこともできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
方法と材料
【実施例】
【0030】
骨髄細胞の単離
C57BL/6NcrSlc 8週齢雄マウスを麻酔し頚椎脱臼により安楽死させた後、脚を70%エタノールで消毒した。鼠径部にハサミで切り込みを入れて皮膚を剥離し、筋肉を除去して大腿骨・頸骨を取り出した。大腿骨と頸骨の両骨端を切り落とし、一方から23 Gの針とシリンジを用いて37℃にあたためたDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM、10%ウシ胎仔血清と抗生剤を含む)培地を注入することで、骨内部から骨髄組織を押し出すように取り出した。取り出した骨髄組織をシリンジングすることで得られる骨髄細胞懸濁液を15 ml遠沈管に移し、1000 rpm、4℃で3分間遠心した。上清を取り除き、細胞をタッピングでほぐして低張液を6ml加え軽くピペッティングし氷上で10分処理することで赤血球を溶血させた。遠沈管にDMEM培地を6 ml入れ、細胞懸濁液を軽くピペッティングした後に、デブリを40 μmのストレーナーで取り除いて骨髄細胞を得た。以上は常法による骨髄細胞の採取法であるが、我々は溶血させずに赤血球も含めて単離した骨髄細胞も実験の条件によって用いた。
【実施例】
【0031】
メチルセルロース培地を用いた3次元組織(凝集体)の作製
我々がこれまでに報告した方法に基づいて実施した[1]。メチルセルロース(MC)(SIGMA-ALDRICH、カタログNo.:M0512、由来:セルロースの水酸基を27.5~31.5%(重量%)メトキシ基に置換したもの、粘性:3,500-5,600 cP, 2 % in water (20 °C)、分子量:88,000(推定値))を3%の濃度でDMEMに分散させたMC培地を35 mm ペトリディッシュに2 ml注ぎ、気泡を除くためや液面を平らにするためにしばらく静置した。次に2×107 cells/mlの細胞密度に調製した骨髄細胞懸濁液を、マイクロピペットを用いて1 μlずつ、適当な間隔をあけてMC培地中に吐出した。吐出した細胞は10分程度で凝集状態となり、そのままMC培地の中で1~7日間培養を行った。再構築された骨髄組織を回収する際、そのままだとMC培地の粘性が高いために回収操作が困難であるため、セルラーゼを用いてMCを分解することでMC培地の粘性を低下させた。
【実施例】
【0032】
従来法を用いた3次元組織の作製
3次元組織構築のための従来法として、U字ボトムで表面に低接着処理を施した96穴プレートを用いる方法とハンギングドロップ法を実施した。96穴プレートを用いる方法について、DMEM培地100μlに2×107 cells/mlの密度に調製した骨髄懸濁液を5 μl加えて37℃、5%のCO2環境下で培養を行った。ハンギングドロップ法ではペトリディッシュの蓋の裏側に骨髄細胞を20000個含むように調製した細胞懸濁液を20 μlずつ分注し、この蓋を15 mlの滅菌水を注いだペトリディッシュにかぶせて、37℃、5%のCO2 の条件下で培養を行った。
【実施例】
【0033】
ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色及び免疫染色
Phosphate-Buffered Saline(PBS)で凝集体を洗浄した後、4%のパラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間固定作業を行った。10個程度の凝集体を含んだ少量の1%アルギン酸溶液を10%塩化カルシウム溶液を添加することでゲル化し、ゲルごとパラフィンに包埋して切片を作製した。薄切したサンプルを親水化した後、HE染色を行った。また、CXCL12やPDGFRαに対する一次抗体と蛍光標識された二次抗体とを用いて免疫染色を行った。
【実施例】
【0034】
結果
MC培地を用いた凝集体作製と培養による骨髄細胞の再組織化
骨髄組織の構成細胞は98%以上が血球であり、互いに接着する能力を持たない。従って、一般的な接着細胞を用いて3次元的に組織化するための方法、すなわちU字ボトム形状をもち、表面が細胞非接着処理を施した96ウェルプレートを利用する方法やハンギングドロップ法では、3日間経っても骨髄細胞の3次元凝集体は得られない(図1左・中)。一方、MC培地の中に1 μlの細胞懸濁液(1 μl中に20000個程度の骨髄細胞を含む)を吐出する方法では、短時間(10分間)のうちに強制的に凝集状態を形成できる。凝集直後の段階で細胞集団をMC培地から取り出すと、当然のことながら細胞はバラバラの状態に戻るが、MC培地の中で凝集状態を保ったまま少なくとも24時間培養を続けることで、MC培地から取り出した後も骨髄細胞が互いに接着した再構成骨髄組織を作製することができた(図1右)。骨髄組織をバラバラにした後に、細胞組成をそのままの状態で、つまり「つなぎ」となるような接着細胞や細胞外マトリクスを追加することなく細胞集団を再組織化することは、これまで常識的には困難だと考えられてきた。また、実際に一般的な手法では凝集させることができなかった。本研究の成果はこのような従来の考え方や結果を改めるものであり、骨髄細胞の3次元培養に関する大きなブレイクスルーとなる技術である。また、骨髄様組織はMC培地内で14日目までは培養を続けることができたことを確認している。
【実施例】
【0035】
実際の骨髄組織と再構築した骨髄組織との組織構造の比較
大腿骨から取り出した実際の骨髄組織とMC培地の中で再構築した骨髄様組織との組織構造を、組織切片を作製することにより比較した。再構築した組織では、一部死細胞がみられることによる細胞密度の多少の低下や、血管の構造が消失していることなどが差異として認められたが、比較的実際の骨髄と類似した像が得られることが分かった(図2)。
【実施例】
【0036】
間葉系細胞の生着
造血ニッチの構成に重要であるとされる間葉系細胞であるCXCL12陽性細胞や、間葉系の細胞のマーカーとなるPDGFRα陽性細胞が再構築した骨髄様組織の内部に存在かどうかを検討した。培養1日目の骨髄様組織のパラフィン切片を各抗原に対する抗体を用いて免疫染色を行ったところ、それぞれの陽性細胞が生着していることが確認できた(図3)。今後培養方法を工夫することで3次元的な造血ニッチ構造の検討などに寄与できる可能性があると考えられた。
【実施例】
【0037】
考察
骨髄細胞を手軽な方法で3次元的に組織化させて培養できるようになったことから、これまで一般的であった2次元環境下における造血アッセイでは得られないような、3次元環境下特異的なイベントを試験管内で再現できるようになることが期待できる。また骨髄組織をバラバラにした時点で特定の細胞だけを欠失させたり、遺伝子操作した細胞に入れ替えたりして、その後の3次元骨髄様組織における挙動を観測するなど、これまでヒトの骨髄や動物実験では実施が困難であったような実験も効率よく行うことができると予想される。よって、医療や創薬において有用な技術となっていくことが期待される。
【実施例】
【0038】
参考文献
1. Kojima, N., Takeuchi, S. and Sakai, Y. Rapid aggregation of heterogeneous cells and multiple-sized microspheres in methylcellulose medium. Biomaterials, 33, 4508-4514 (2012).
【実施例】
【0039】
〔実施例2〕
ペクチン培地を用いた3次元組織(凝集体)の作製
メチルセルロース以外の高分子を用いた細胞凝集が可能であることを示すために、ペクチン(SIGMA-ALDRICH、カタログNo.:P9135-100G、由来:citrus peel)を6%の濃度でDMEMに分散させたペクチン培地を35 mm ペトリディッシュに2 ml注ぎ、しばらく静置して気泡を除いた。2×107 cells/mlの細胞密度に調製した骨髄細胞懸濁液を1 μlずつ、マイクロピペットを用いてペクチン培地中に吐出した。メチルセルロースよりも時間はかかったが、吐出した細胞は30分程度で凝集状態となった(図4)。これは分子量や濃度の違いによるものと考えられる。ペクチンを溶かすと溶液が酸性となるため、メチルセルロースと同様の培養とはならないことが想像されるが、メチルセルロース以外の高分子によっても骨髄細胞を凝集できることが示された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、骨髄に関連する疾病モデルの作製に利用可能であり、これにより、疾病のメカニズムの解明や創薬スクリーニングを行うことができる。
【0041】
また、本発明は、骨髄に関連する再生医療に利用可能であり、例えば、異所的な骨髄組織の再構築に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3