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明細書 :イネ変異体、米粉、難消化性澱粉、食品、及びイネ変異体の作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-038588 (P2017-038588A)
公開日 平成29年2月23日(2017.2.23)
発明の名称または考案の名称 イネ変異体、米粉、難消化性澱粉、食品、及びイネ変異体の作出方法
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/01        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A23L   7/10        (2016.01)
A23L  33/21        (2016.01)
FI A01H 5/00 ZNAZ
C12N 15/00 X
A01H 1/00 Z
A23L 1/10 Z
A23L 1/308
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2016-045670 (P2016-045670)
出願日 平成28年3月9日(2016.3.9)
優先権出願番号 2015161305
優先日 平成27年8月18日(2015.8.18)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】藤田 直子
【氏名】伊藤 優季
【氏名】クロフツ 尚子
出願人 【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100097113、【弁理士】、【氏名又は名称】堀 城之
【識別番号】100162363、【弁理士】、【氏名又は名称】前島 幸彦
【識別番号】100194146、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 明
【識別番号】100194283、【弁理士】、【氏名又は名称】村上 大勇
【識別番号】100141324、【弁理士】、【氏名又は名称】小河 卓
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B018
4B023
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030AD09
2B030CA01
2B030CB02
2B030HA01
4B018MD34
4B018MD50
4B018ME01
4B018MF14
4B023LC09
4B023LE07
要約 【課題】遺伝子組み換え手法を用いず、難消化性澱粉含量が高い新規イネ変異体を提供する。
【解決手段】イネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の遺伝子座が劣性ホモであり、インディカ米由来のSSIIa遺伝子及びGBSSI遺伝子を交配により導入した非遺伝子組み換え体のイネ変異体を得る。当該イネ変異体は、野生型と比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質が維持されている。さらに、このイネ変異体のイネ種子は、イネでは類い希な難消化性澱粉含量を含んでおり、炊飯米の難消化性澱粉の含有量が10%~30%となり、アミロースの割合が35%以上となる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の遺伝子座が劣性ホモであり、
インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子が遺伝的に固定されており、
非遺伝子組み換え体である
ことを特徴とするイネ変異体。
【請求項2】
精米後のイネ種子を炊飯した炊飯米の難消化性澱粉の含有量が10%~30%である
ことを特徴とする請求項1に記載のイネ変異体。
【請求項3】
野生型に比べて、前記BEIIbの活性が低下し、前記SSIIa及び前記GBSSIの遺伝子発現が増加し両酵素の活性が高い
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のイネ変異体。
【請求項4】
前記イネ種子は、難消化性澱粉の含有量が、親系統である前記インディカ米又はBEIIb変異体よりも多い
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のイネ変異体。
【請求項5】
前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、
前記インディカ米の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP12以下が減少され、DP13~24が増加される
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のイネ変異体。
【請求項6】
前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、
前記インディカ米の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉よりも1℃以上高い糊化温度である
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のイネ変異体。
【請求項7】
前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、
アミロースの割合が35%以上である
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載のイネ変異体。
【請求項8】
前記イネ種子は、粉末化することで米粉としても利用可能である
ことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載のイネ変異体。
【請求項9】
請求項2乃至7のいずれか1項に記載のイネ変異体の前記イネ種子の胚乳を粉末化することで製造された
ことを特徴とする米粉。
【請求項10】
請求項9に記載の米粉より抽出される
ことを特徴とする難消化性澱粉。
【請求項11】
請求項2乃至8のいずれか1項に記載のイネ変異体の前記イネ種子、請求項9に記載の米粉、及び/又は請求項10に記載の難消化性澱粉を含んで製造された
ことを特徴とする食品。
【請求項12】
非遺伝子組み換えの方式により、
ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の二重劣性ホモ変異体を作出させ、
インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子を遺伝的に固定させる
ことを特徴とするイネ変異体の作出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ変異体、米粉、難消化性澱粉、食品、及びイネ変異体の作出方法に係り、特にイネスターチシンターゼに変異を備えるイネ変異体、米粉、難消化性澱粉、食品、及びイネ変異体の作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は不溶性であり、植物に特有の貯蔵多糖である。また、地球上のほとんどの生物が炭水化物源として、澱粉を利用している。
化学物質としての澱粉は、グルコースのα1,4による直鎖及びα1,6グルコシド結合による枝分かれ構造を含むグルコースポリマーである。
また、澱粉は、主として直鎖からなるアミロースと枝分かれ構造をもつアミロペクチンの高分子の集合体でもある。
【0003】
澱粉の生合成には、少なくとも4種類の酵素が関与していることが分かっている。この4種類の酵素は、基質供給酵素であるADPグルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)、α1,4グルコシド結合を伸長するスターチシンターゼ(SS)、α1,6グルコシド結合からなる枝分かれ構造を形成する枝作り酵素(BE)、アミロペクチンの特徴であるクラスター構造を維持するためにBEが付加した余分な枝分かれ構造をトリミングする枝切り酵素(DBE)である。なお、澱粉生合成に関与する酵素は、他にもあると考えられている(非特許文献1参照)。
【0004】
このように、植物の澱粉生合成には少なくとも4種類の酵素が関与している。
加えて、高等植物の場合、これらの酵素には多数のアイソザイムが存在し、澱粉生合成に関与している。アイソザイムは、同様の酵素反応を触媒するアミノ酸配列の異なる酵素群のことである。たとえば、イネ(Oryza sativa)には、11種類ものSS、3種類ものBE、4種類ものDBEが存在する。
近年、これらのアイソザイムは、組織特異性や、微妙な基質特異性によって、役割分担をしていることが分かってきた。
このようなアイソザイムの働きや役割を解明することは、アイソザイムの機能解明につながる。そして、アイソザイムの機能解明は、植物の澱粉生合成メカニズムの全体像の解明には欠かせない。
このため、従来から各アイソザイムの変異体が開発されてきた。特定のアイソザイムが欠失した変異体の表現型を調べることで、そのアイソザイムの働きや役割を知ることができる。
【0005】
たとえば、各アイソザイムの機能を明確にするために、イネにおいて既に単離され、分析されている変異体には、SSI(非特許文献2、特許文献1)、SSIIa(非特許文献3、特許文献2)、SSIIIa(非特許文献4、特許文献3)、GBSSI(非特許文献5)、BEI(非特許文献6)、BEIIb(非特許文献7)、ISA1(非特許文献8)、PUL(非特許文献9、特許文献4)、PHO1(非特許文献10)等の変異体がある。
これらの変異体は、胚乳に蓄積する澱粉の構造が野生型とは異なることがある。その構造の違いに伴い、澱粉粒の大きさや熱糊化温度、熱糊化粘度が異なる等の物性を示すことがある。
【0006】
ここで、イネ品種は大きく、インディカ米(Oryza sativa subsp. indica)品種と、ジャポニカ米(Oryza sativa subsp. japonica)品種とに分類される。インディカ米とジャポニカ米の澱粉は、その性質が明らかに異なっている。タイ米に代表されるインディカ米は、食感がパサパサしており、糊化温度がジャポニカ米と比べて高い。この原因は、主として2種類のスターチシンターゼの配列の塩基置換によるものである。そのスターチシンターゼの一つは、SSIIa遺伝子であり、もう一つはGBSSI遺伝子である。インディカ米は両遺伝子の野生型であり、ジャポニカ米は、塩基置換により変異型である。
ジャポニカ米のSSIIa遺伝子は、野生型(インディカ米)の配列と比べて4か所の塩基置換が生じており、そのうちの2か所の塩基置換が原因で、その活性が野生型の10%にまで低下している(非特許文献3)。SSIIaの活性の大幅な低下により、ジャポニカ米の澱粉は、インディカ米の澱粉と比べて糊化温度が低い(非特許文献3)。
また、ジャポニカ米のGBSSI遺伝子は、野生型(インディカ米)の配列と比べて1か所の塩基置換が生じており、それが原因で正常なGBSSI遺伝子の発現量が野生型の10%にまで低下している(非特許文献5及び非特許文献11)。GBSSI遺伝子の発現量の低下により、ジャポニカ米の澱粉は、インディカ米の澱粉と比べてアミロース含量が低い(非特許文献5)。
なお、上述の非特許文献のイネの澱粉生合成を分析するための各アイソザイムに関する変異体は、全て、ジャポニカ米に分類される「日本晴」、「台中65号」、「金南風」のいずれかの品種に由来する。
【0007】
一方、澱粉には、αアミラーゼ等で容易に消化される成分の澱粉と、消化されにくい難消化性澱粉が存在する。難消化性澱粉は、消化液では分解されにくく、高分子のまま小腸を通過して大腸に到達する澱粉のことである。難消化性澱粉は、小腸でグルコースにまで分解されないため、カロリーオフ効果がある。難消化性澱粉は、アミロース含量が高い澱粉に多く含まれることがある。このため、高アミローストウモロコシが、ダイエット素材として、利用されている。
また、難消化性澱粉は、高分子で大腸に到達し、大腸菌による発酵を通して短鎖脂肪酸を分泌し、大腸環境を整え、大腸癌予防、便秘予防効果があることが大麦(非特許文献12)や小麦(非特許文献13)で知られている。このため、難消化性澱粉を多く含む大麦グリッツ等は、オーストラリアで既に商品化されている。
一方で、イネにおいては、通常の炊飯米にも難消化性澱粉は含まれるものの、その割合は、わずか1%以下であることが多い。これに対して、難消化性澱粉を増加させるため、枝作り酵素の発現量を減らした遺伝子組換えイネが開示されている(非特許文献14及び非特許文献15)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2003-079260号公報
【特許文献2】特開2005-269928号公報
【特許文献3】特開2006-051023号公報
【特許文献4】特開2007-020475号公報
【特許文献5】特開2011-055764号公報
【0009】

【非特許文献1】Y. Nakamura、Towards a better understanding of the metabolic system for amylopectin biosynthesis in plants: rice endosperm as a model tissue.、Plant Cell Physiol.、日本、Japanese Society of Plant Physiology、2002年、43、p.718-725
【非特許文献2】N. Fujita他、Function and characterization of starch synthase I using mutants in rice.、Plant Physiol.、アメリカ合衆国、American Society of Plant Biologist、2006年、140、p.1070-1084
【非特許文献3】Y. Nakamura他、Essential amino acids of starch synthase IIa differentiate amylopectin structure and starch quality between japonica and indica rice cultivars. 、Plant Mol Biol.、2005年、58、p.213-227
【非特許文献4】N. Fujita他、Characterization of SSIIIa-deficient mutants of rice (Oryza sativa L.); the fucntion of SSIIIa and pleiotropic effects by SSIIIa deficiency in the rice endosperm.、Plant Physiol.、アメリカ合衆国、American Society of Plant Biologist、2007年4月、144、4、p.2009-2023
【非特許文献5】Y. Sano、Differential regulation of waxy gene expression in rice endosperm.、Theor Appl Genet、1984年、68、p.467-473
【非特許文献6】H. Satoh他、Starch-branching enzyme I-deficient mutation specifically affects the structure and properties of starch in rice endosperm.、Plant Physiol.、アメリカ合衆国、American Society of Plant Biologist、2003年、133、p.1111-1121
【非特許文献7】A. Nishi他、Biochemical and genetic analysis of the effects of amylose-extender mutation in rice endosperm.、Plant Physiol.、アメリカ合衆国、American Society of Plant Biologist、2001年、127、p.459-472
【非特許文献8】Y. Nakamura他、Correlation between activities of starch debranching enzyme and α-polyglucan structure in endosperms of sugary-1 mutants of rice.、Plant J.、イギリス、Blackwell、1997年、12、p.143-153
【非特許文献9】N. Fujita他、Characterization of PUL-deficient mutants of rice (Oryza sativa L.) and the function of PUL on the starch biosynthesis in the rice endosperm.、J Exp Bot.、イギリス、Oxford University Press、2009年3月、60、3、p.1009-1023
【非特許文献10】H. Satoh他、Plastidic α-glucan phosphorylase mutation dramatically affects the synthesis and structure of starch in rice endosperm.、Plant Cell、アメリカ合衆国、American Society of Plant Biologist、2003年、20、p.1833-1849
【非特許文献11】M.Isshiki 他、A naturally occurring functional allele of the rice waxy locus has a GT to TT mutation at the 5' splice site of the first intron、Plant J、1998年、15、p.133-138
【非特許文献12】Bird AR他、A novel barley cultivar (Himalaya 292) with a specific gene mutation in starch synthase IIa raises large bowel starch and short-chain fatty acids in rats、Journal of Nutrition、2004年、134、p.831-835
【非特許文献13】Regina A他、High-amylose wheat generated by RNA interference improves indices of large-bowel health in rats、Proccedings of National Academy of Science、2006年、103、p.3546-3551
【非特許文献14】Butardo VM他、Impact of down-regulation of starch branching enzyme IIb in rice by artificial microRNA- and hairpin RNA-mediated RNA silencing、Journal of Experimental Botany、62、p.4927-4941
【非特許文献15】Zhu L他、High-amylose rice improves indices of animal health in normal and diabetic rats、Plant Biotechnology Journal、2012年、10、p.353-362
【非特許文献16】Wang ZY他、The amylose content in rice endosperm is related to the post-transcriptional regulation of the waxy gene、The Plant Journal、1995年、7(4)、p.316-622
【非特許文献17】Hiratsuka M他、Development of SNP markers of starch synthase IIa(alk) and haplotype distribution in Rice Core Collections、Rice Genetics Newsletter、2010年、25、p.80-82
【非特許文献18】Cheng A他、Simple and Rapid Molecular Techniques for Identification of Amylose Levels in Rice Varieties、Molecular Science、2012年、13、p.6156-6166
【非特許文献19】Asai H他、Deficiencies in both starch synthase (SS) IIIa and branching enzyme IIb lead to a significant increase in amylose in SSIIa inactive japonica rice seeds、Journal of Experimental Botany、2014年、65、p.5497-5507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来の通常の栽培用のイネの種子は、そもそも難消化性澱粉の含有率が低かった。しかしながら、非特許文献14及び15に記載された米の難消化性澱粉の含有率を高める方式では、遺伝子組み換えの手法を用いているため、実用化が困難であった。一方、従来の難消化性澱粉の含有率が高い非遺伝子組み換え体の米は、種子が小さかったり、調理性が良くないという問題があり、実用性が低かった。実際に、難消化性澱粉を含むイネの具体的な実用化、商品化は皆無であった。
このため、難消化性澱粉の含有率(難消化性澱粉含率)が高く、実用性を高めた非遺伝子組み換え体のイネ変異体が求められていた。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のイネ変異体は、ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の遺伝子座が劣性ホモであり、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子が遺伝的に固定されており、非遺伝子組み換え体であることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、精米後のイネ種子を炊飯した炊飯米の難消化性澱粉の含有量が10%~30%であることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、野生型に比べて、前記BEIIbの活性が低下し、前記SSIIa及び前記GBSSIの遺伝子発現が増加し両酵素の活性が高いことを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、難消化性澱粉の含有量が、親系統である前記インディカ米又はBEIIb変異体よりも多いことを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、前記インディカ米の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP12以下が減少され、DP13~24が増加されることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、前記インディカ米の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉よりも1℃以上高い糊化温度であることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、アミロースの割合が35%以上であることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、前記イネ種子は、粉末化することで米粉としても利用可能であることを特徴とする。
本発明の米粉は、前記イネ変異体の前記イネ種子の胚乳を粉末化することで製造されたことを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉は、前記米粉より抽出されることを特徴とする。
本発明の食品は、前記イネ変異体の前記イネ種子、前記米粉、及び/又は前記難消化性澱粉を含んで製造されたことを特徴とする。
本発明のイネ変異体の作出方法は、非遺伝子組み換えの方式により、イネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の二重劣性ホモ変異体を作出させ、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子を遺伝的に固定させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりもイネ種子の難消化性澱粉含率が高く、実用性が高いイネ変異体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、それらの親変異体(EM10)、及び野生型(日本晴、カサラス)の完熟玄米の形態を示す写真である。
【図2】本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、それらの親変異体(EM10)、及び野生型(日本晴、カサラス)の完熟胚乳から抽出したタンパク質のウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【図3】本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、それらの親変異体(EM10)、及び野生型(日本晴、カサラス)の完熟胚乳の(a)アミロペクチンの鎖長分布(Molar%)と、(b)それぞれから野生型(日本晴)のパターンを引いた差分(ΔMolar%)を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、それらの親変異体(EM10)、及び野生型(日本晴、カサラス)の澱粉のゲル濾過パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態>
以下で図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
上述したように、従来から、いくつかの澱粉生合成に係るアイソザイムの変異体については、研究が進んでいた。たとえば、澱粉生合成に関与する酵素に変異を持つイネ変異体において、ΔBEIIbにおいては、澱粉の構造、物性が明らかになっており、各酵素の機能もある程度明確になっている。さらに、インディカ米とジャポニカ米の澱粉構造や物性の違いも明らかになってきている。
しかしながら、インディカ米を基にしたBEIIb欠損変異体の報告はなかった。この理由として、澱粉変異体技術は、ジャポニカ米で目覚ましい発展があったが、インディカ米では本格的には行われてこなかったからである。すなわち、従来、インディカ米とΔBEIIbを組み合わせた変異体は存在しなかった。
これに着目した本発明の発明者らは、鋭意実験を行い、イネの澱粉の代謝系を網羅的に研究して有益な表現型をもつ新規変異体を探索した。具体的には、インディカ米のSSIIa遺伝子とGBSSI遺伝子を導入した新規変異体を導出し、澱粉性質に対する影響を調べた。結果として、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子を導入したBEIIbの新規変異体ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C;上付きのIは、インディカ米由来を示す)に、予想できない効果が得られることを見いだした。具体的には、本発明の発明者が作出したΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)は、両親変異体及び野生型と比べると、アミロース含量及び難消化性澱粉含量が著しく高くなった。
具体的には、本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)は、両親変異体及び野生型と比べて、以下のような性質、効果を得ることができる。

【0016】
上述のように、従来、インディカ米において、BEIIbが欠損した変異体は見つかっていないため、SSIIa及びGBSSI遺伝子が優性であり、且つBEIIbが欠損したイネがどのような澱粉を蓄積するかは、不明であった。また、インディカ米とΔBEIIbを組み合わせた変異体は存在せず、インディカ米のSSIIa遺伝子とGBSSI遺伝子を導入した変異体への影響については、不明であった。実際、従来の親系統のBEIIb欠損変異体はジャポニカ米由来であった。
ここで、通常の場合、新規変異体を作成しても、各変異体の形質に導入した遺伝子の表現型が、そのまま現われるだけである。一方で、別品種からの特定の遺伝子の交配による導入については、かなりの手間を要する。また、遺伝子型をホモに固定させるために、交配後代の多数の種子の中から、抗体や分子マーカー等を用いて選抜し、澱粉構造決定するため、大変な時間、手間が必要であった。このような理由から、通常、当業者は、このような変異体を交配により作成することは、ほとんど不可能であった。
一方、従来の澱粉生合成に関与する酵素に変異を持つイネ変異体において、上述のように、それぞれの単一の変異体の効果については、明らかになりつつあった。しかし、どのような遺伝子の変異を組み合わせのイネ変異体に難消化性澱粉含量が高いのかは不明であった。

【0017】
これに対して、本発明の実施の形態に係るイネ変異体の作出方法は、非遺伝子組み換えの方式により、イネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の劣性ホモ変異体を作出し、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子を遺伝的に固定させたことを特徴とする。つまり、本発明者らは、本実施形態のイネ変異体として、イネ種子の難消化性澱粉含量が通常の野生型よりは高いBEIIbが欠損したジャポニカ米由来のBEIIb欠損変異体(EM10)に、インディカ米由来のSSIIaとGBSSIの二つのスターチシンターゼ遺伝子を交配によって導入して系統化した。
具体的に説明すると、本実施形態のイネ変異体は、従来の難消化性澱粉含量が高い変異体米(EM10)を親に用いて、インディカ米の遺伝子を交配により導入した。本実施形態のイネ変異体は、この際、特定の酵素に対する抗体、分子マーカー、澱粉形質の特定等の技術を用いて、非組み換え(非遺伝子組み換え)の手法で、BEIIb欠損変異体にインディカ米を交配し、インディカ米由来の2種類のスターチシンターゼ遺伝子の導入を確認した。
これにより作成された本発明の実施の形態に係るイネ変異体は、イネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の遺伝子座が劣性ホモであり、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子が遺伝的に固定されている。結果として、本発明の実施の形態に係るイネ変異体は、BEIIb活性が野生型に比べて低下し、SSIIaとGBSSIの遺伝子発現が増加し、両酵素の活性が高くなり、親系統のイネ変異体の種子よりアミロース含量及び難消化性澱粉含量を高めることができる。

【0018】
また、本発明の実施の形態に係るイネ変異体の精米後のイネ種子を加水量1.8倍で炊飯した炊飯米の難消化性澱粉の含有量(難消化性澱粉含量)が10%~30%であることを特徴とする。
本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの変異体からは、特に通常のイネの澱粉とは異なった性質と形状をもつ特性の澱粉を得られる。これらの特性の中で、特にユニークであるのは、難消化性澱粉含量であり、これまで報告されたイネの中では類をみないほどである。具体的には、本実施形態の変異体米(イネ種子)は、炊飯した場合、従来のイネ変異体より遙かに多い難消化性澱粉が含まれる。より具体的には、EM10が十分に糊化する加水量である加水量1.8倍で炊飯した場合、EM10のさらに約1.1倍程度高い値を示し、平均で約25%前後、少なくとも10%~30%の難消化性澱粉含量となる。
すなわち、本発明の実施の形態に係るイネ変異体は、ジャポニカ米とは異なる性質があるインディカ米の遺伝子を変異体に導入することで、両親変異体及び野生型と比べると、難消化性澱粉含量を著しく高めることができる。

【0019】
本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのイネ変異体の変異体米は、このように難消化性澱粉含量が高いため、食品に少量でも用いるだけで低カロリー化が可能であり、ダイエット食品を製造する際、低コスト化につながる。具体的に、難消化性澱粉は、通常の炭水化物が4kcal/1gに対して、2kcal/gであるため、本実施形態の変異体米を食品に含有させることで、確実に摂取カロリー少なくすることができる。
なお、炊飯米の難消化性澱粉含量は、調理方法によって大きく異なる。たとえば、従来のBEIIb変異体(EM10)の場合、加水量1.5倍で炊飯した炊飯米の難消化性澱粉含量は、炊飯が完全ではなく少し生米が混じるため、22~27%程度となる。これに対して、本実施形態の変異体米においては、例えば、加水量1.5倍で炊飯した炊飯米の難消化性澱粉含量は、30~50%となる。また、本実施形態の変異体米を米粉又は精製澱粉として添加して食品を製造した場合、その食品中の難消化性澱粉含量も調理方法により変化するものの、従来のイネよりも添加量を抑えることができる。

【0020】
また、従来のBEIIb変異体(EM10)は、種子が小さいため、精米上の困難があり、又、相対的に収量が低いため、実用的に使用できなかった。
これに対して、本発明の実施の形態に係るイネ変異体のイネ種子は、親系統であるカサラス等のインディカ米又はBEIIb変異体(EM10)よりも難消化性澱粉含量が多くなり、更に、種子が大きいことを特徴とする。
このように、本実施形態のイネ変異体は、従来の難消化性澱粉含量が高いイネ変異体よりも難消化性澱粉含量が多くなることに加え、種子が大きいため、精米する上で大きなメリットとなる。また、本発明の実施の形態に係るイネ変異体は、種子が大きくなることから収量が高くなり、この生産性の高さが経済性にも貢献する。すなわち、難消化性澱粉を取得したり食品を製造したりする際に低コスト化につながる。このため、実際に食品等を製造する際、又は、炊飯米として提供する際の実用性を高めることができる。

【0021】
さらに、本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのイネ変異体は、既に遺伝的に固定された系統であり、この種子を植えて自殖によって稔った種子は、全て同型質になる。このため、安定して生産が可能である。
また、片親であるΔBEIIbの種子が野生型に比べて6割程度であるのに対し、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのイネ変異体は、種子重量は8割程度を維持しており、稔性、生育も激しくは低下しない。将来的に優良品種と戻し交配することで農業的形質を向上させることも可能である。
さらに、本実施形態のイネ変異体は、非遺伝子組み換え体(非組換え体)であるため、一般の水田での栽培も可能となり、大規模栽培も可能である。
結果として、栽培用作物として実用性が高い難消化性澱粉含量を含むイネ変異体を提供することができる。

【0022】
一方、従来、EM10を親系統として、アミロース含量が0%のモチ米の変異体と交配により作成した二重変異体も存在し(例えば、特開2009-254265を参照)、このモチ米と交配した二重変異体は、アミロースが無いにもかかわらず、EM10のアミロペクチンの平均鎖長が極端に長いという性質に由来する難消化性澱粉を備えていた。
この従来のEM10を親系統としてモチ米の変異体との交配により作成した二重変異体は、アミロースが含まれていないため、難消化性澱粉含量が比較的少なかった。このため、従来の難消化性澱粉を含むイネ変異体は、実用性が低かった。

【0023】
また、従来から、アミロース含量が高い澱粉には、難消化性澱粉が多いと推測されていた。しかしながら、どのような構造、あるいは澱粉が難消化性を示すのかは、詳細については、不明であった。
これに対して、本発明の実施の形態に係るイネ種子の胚乳から製造される澱粉は、アミロースの割合が35%以上であることを特徴とする。
また、本発明の実施の形態に係るイネ種子の胚乳から製造される澱粉は、インディカ米品種の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP12以下が減少され、DP13~24が増加されることを特徴とする。
また、本発明の実施の形態に係るイネ種子の胚乳から製造される澱粉は、インディカ米品種の野生型イネ、又は前記BEIIbの活性低下に起因する親系統イネ(EM10)を用いて製造される澱粉よりも1℃以上高い糊化温度であることを特徴とする。

【0024】
つまり、本発明の実施の形態に係るイネ種子、イネ種子から製造される米粉、及び澱粉は、親系統のEM10よりアミロース含量が増加していることで、EM10とは違った物性を示す。ここで、本実施形態のイネ種子、イネ種子から製造される米粉、及び澱粉は、高アミロース含量及びアミロペクチンの長鎖が多いことに起因する老化性の高さから、老化性が有利に働く調理法において、調理性を高めることができる。
具体的には、本実施形態のイネ種子、イネ種子から製造される米粉、及び澱粉は、老化性が有利に働く調理法である、麺や米菓に適している。さらに具体的には、本実施形態のイネ種子、米粉、及び澱粉は、ピラフ若しくはリゾット、米菓、グラノーラ等の食品に好適に用いることができ、従来とは、味わい、口触り、食感、風味等が異なる特徴ある食品を製造することができる。また、これらを用いた各種健康食品やダイエット食品等に利用可能である。

【0025】
また、本発明の実施の形態に係るイネ変異体のイネ種子は、粉末化することで米粉としても利用可能であることを特徴とする。
すなわち、本実施形態の変異体米は、粉砕機等で粉砕して、米粉として使用することができる。また、本実施形態の変異体米から抽出した澱粉自体を、難消化性澱粉が多く含まれる澱粉として使用することも可能である。
本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの変異体米を粉砕した粉砕物である米粉は、パンや麺等に混合させて利用することができる。また、本実施形態の変異体米自体も、玄米のまま又は精米してダイエット米として提供することが可能である。
また、このような本実施形態の変異体米及びこの粉末等を用いた食品は、麺、パン、ピラフ、かゆ、米菓等の米由来のダイエット素材として用いることが可能である。また、これらの食品は、習慣的に摂取することにより、低カロリー性を備え、大腸環境を整えるため糖尿病、大腸癌、便秘の予防等の効果が期待される。

【0026】
また、本実施形態のΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの変異体の米粉や澱粉は、アミロースの含量が高いことにより、工業的な用途にて使用可能である。これは、生分解性プラスチックなど、成形が必要な場合は、老化性が高い方が有利であるためである。たとえば、アミロースは温水に溶けるため、フィルム状に成形して、生分解性フィルム、医療用材料、縫合糸のような用途に用いることができる。また、体内で吸収分解される性質を用いて、再生医療の「足場」用の部材として用いることが可能である。
さらに、グラスファイバー作成時の資材、工業用糊、建築材料の配合剤、植物栽培用の資材等、様々な工業用途に利用可能である。
このように、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIである変異体は産業上利用することができる。

【0027】
以上のように、本発明の実施の形態に係るイネ変異体の作出方法においては、類い希な難消化性澱粉含量をもつイネ変異体及びその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉及びその製造方法を得ることができる。さらに、本発明は、当該澱粉を利用する飲食品及び工業製品に用いることができる。
【実施例1】
【0028】
以下で、図を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0029】
〔実験方法と材料〕
(ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII変異体の単離)
インディカ米であるカサラスとBEIIb変異体を交配することで、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIを作出し、その性質を調べた。
【実施例1】
【0030】
以下で、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII変異体の作出法について説明する。本発明の発明者らは、ジャポニカ米のBEIIb変異体であるEM10(白濁種子)に、インディカ米であるカサラスを交配し、交配当代のF1種子を次年度に播種し、F2種子を得た。この中には、白濁種子が約25%含まれていた。白濁種子の胚と反対側の胚乳1/4を使って、タンパク質を抽出し、BEIIb抗体でウエスタンブロッティングを行い、BEIIbが欠損している種子の胚側の残りの3/4を滅菌し、寒天培地に移植した。これらの幼植物の葉身からPCR法によって、SSIIa遺伝子及びGBSSI遺伝子がインディカ米由来のパターンを示す個体を選抜し、栽培を続け、F3種子を取得した(図2)。このように、BEIIbが欠失し、SSIIaがインディカ型、GBSSIがインディカ型の個体を「#1203C」クローンと名付けた。なお、BEIIbタンパク質の欠損は、即ちBEIIb活性の欠損を意味する。
【実施例1】
【0031】
ウエスタンブロッティングのためのSDS-PAGE手法について述べる。電気泳動槽にアクリルアミドゲルをセットして泳動バッファ(25mM Tris、192mM glycine、0.1% SDS)を注ぎ、ゲルのウェルに分子量マーカー(Cat#161-0373、Bio Rad社製)を5μL、調製したサンプルを10μLずつアプライして、室温で電気泳動を行った。ブロモフェノールブルー(BPB)フロントダイが濃縮ゲルを通過するまではゲル1枚あたり10mAの定常電流を流し、分離ゲルに到達した後ゲル1枚あたり20mAの電流を流して電気泳動を行い、BPBフロントダイがゲルの下から1cm程度になるまで電流を流し停止した。
【実施例1】
【0032】
SDS-PAGEによってゲル上に分離されたタンパク質を転写するためのメンブレン(PVDF膜、MILLIPORE社製、IPVH0010)1枚と、ろ紙6枚をゲルと同じ程度の大きさに切り、メンブレンは100% methanolに20秒浸してから、transfer buffer(25mM Tris、192mM glycine、20% methanol、0.1% SDS)に浸した。ろ紙はそのまま、transfer bufferが湿るぐらい浸した。SDS-PAGEを行ったゲルをtransfer bufferの入ったプラスチックケースに移して15分間浸とうした。ブロッティング用電極の陽極側にtransfer bufferに浸したろ紙3枚を泡が入らないように重ね、その上にメンブレンを泡が入らないように重ね、次にゲルを泡が入らないように重ね、更にろ紙3枚を泡が入らないように重ねた。上部電極板(陰極)をセットし、メンブレン1枚当たり80mAの電流で1時間流した。1時間後、通電を止めてメンブレンをプラスチック容器に移し、ブロッキング液(4%スキムミルク/TBS(10mM Tris-HCl(pH 7.5)、500mM NaCl))15mLを入れ、30分間浸とうした(ブロッキング)。30分後、1次抗体(本実験では4%スキムミルク/TBSで抗BEIIb血清(非特許文献7)を1500倍希釈したもの、抗SSIIa血清(非特許文献3)を250倍希釈したもの、抗GBSSI血清(非特許文献2)を2500倍希釈したものを添加して4℃で一晩ゆっくり浸とうさせた。
翌日、メンブレンを約50mLの蒸留水で3回すすぎ、約50mLのTBST2(50mM NaCl、1mM Tris-HCl(pH 7.5)、1%Tween20)で1回、洗浄した。その後、4%スキムミルク/TBS10mLと共に、抗ウサギヤギ血清パーオキシダーゼ(Bio Rad社製)を5000倍希釈した2次抗体を添加して約2時間ゆっくり浸とうさせた。その後、メンブレンを約50mLの蒸留水で3回すすぎ、約50mLのTBST2で1回洗い、TBSで1回洗った後、新しいTBSに浸し、検出に用いた。
ウエスタンブロッティングを行ったメンブレンにECL溶液(Pierece West Pico Chrmiluminescnt substrate)を1mLかけることで発色させ、Fuji LAS4000(富士フイルム株式会社製)で発色したバンドを写真に撮り、その画像データをソフトウェア:MultiGaugeを用いて、検出したバンドの明るさやコントラストを編集した。写真撮影後、メンブレンを蒸留水で十分に洗浄した後乾燥させ保存した。
【実施例1】
【0033】
次にPCR選抜のための幼植物からのDNA抽出方法について述べる。培地からセルトレイに移植した幼植物の葉身2cm程度をマルチビーズショッカー用のチューブに移し、液体窒素に入れ凍らせてマルチビーズショッカーで粉砕した(SPEED METER:2000rpm、ON TIME:5秒、OFF TIME:0秒、CYCLE:1回)。400μLのDNA抽出buffer(200mM Tris-HCl(pH7.5)、250mM NaCl、25mM EDTA、0.5%SDS)を加えてボルテックスし、15,000rpm、20℃で5分間、遠心分離した。上清300μLを新しい1.5mLチューブに移し、300μLのイソプロピルアルコールを加えよく混合し、15分間静置した。その後、上述のものと同じ条件で遠心分離し、チューブの底に半透明な沈殿があるか確認した後、70%エタノール1mLを加えて攪拌し、遠心分離後、上清を除去した。残った沈殿を減圧乾燥し、氷上で25μLのTE buffer(10mM Tris-HCl(pH 7.5)、1mM EDTA-2Na)を加え懸濁した。その後、実験に用いるまで-30℃で冷凍保存した。
【実施例1】
【0034】
ここで、SSIIaの遺伝子中には、4カ所の塩基が置換された部分(SNP、Single Nucleotide polymorphism、1塩基置換)があり、これらがインディカ型SSIIa(活性型)又はジャポニカ型SSIIa(不活性型)を決めている(非特許文献3)。一方、GBSSI遺伝子中には、1カ所の塩基が置換された部分があり、これらがインディカ型GBSSI(活性型)とジャポニカ型GBSSI(リーキー)を決めている(非特許文献16)。
SSIIa、GBSSI遺伝子中の塩基置換された部分を3'末端に含むプライマーを作成することでインディカ型かジャポニカ型かを判別することができる。SSIIa選抜プライマーは非特許文献17を参考にし、GBSSI選抜プライマー非特許文献18を参考にして作成したものを使用した。
以上のようにして、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの系統を確立できた。
【実施例1】
【0035】
(澱粉の精製方法)
澱粉の精製は、冷アルカリ浸せき法(Yamamoto他、Denpun Kagaku 28:241-244(1981))を用いた。10gの玄米を80%まで精米し、0.1%のNaOHを200mL加えて一晩4℃で放置した。
翌日、上清を捨て、乳鉢ですりつぶし、150μmのメッシュに通して、3,000g、4℃で10分間遠心分離した。
沈殿に0.1%のNaOHを600mL加えて氷中で3時間振とうし、一晩4℃で放置した。翌日、上清を捨て、蒸留水でけん濁し、1Nの酢酸で中和した。さらに、蒸留水で5回洗浄し、乾燥させ、乳鉢で粉体にした。
【実施例1】
【0036】
(澱粉の枝切り及びゲル濾過)
精製した澱粉及びアミロペクチン22.5mgに蒸留水0.25mLを加えて混合し、2NのNaOHを0.25mL加えて、37℃で2時間糊化させた。
これに蒸留水3.26mLを加え、5NのHClを90μL加えて中和させた。次に、100mMの酢酸緩衝液(pH3.5)を5mL加え、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所製)を12.5μL(約875unit)加え、40℃で24時間揺らしながら反応させた。
そして、エタノールを5mL加え、ロータリーエバポレーターで乾固させた。これに蒸留水を0.4mL及び2NのNaOHを0.4mL加えて、5℃で30分間糊化させ、5μmのフィルターで濾過した後、ろ液をゲル濾過カラムにアプライした。
【実施例1】
【0037】
使用したカラムは、TSKgel toyopearl HW55S(300×20mm)1本にTSKgel toyopearl HW50S(300×20mm)3本(両カラムとも、TOSOH社製)を直列に接続したものであり、溶離液は0.2%のNaCl/0.05NのNaOHを用いた。試験管1本あたり3mLずつ分取し、68本に分画し、各フラクションの澱粉ヨウ素複合体のλmaxを求めた。糖量は、カラムに接続したRIディテクター(RI8020、TOSOH社製)で検出した。
【実施例1】
【0038】
(鎖長分布解析)
鎖長分布解析について、図2を参照して説明する。
試料は、完熟種子1粒から外内穎及び胚を取り除き、ペンチで胚乳を粉砕した後、エッペンドルフチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてさらに磨砕した粉末を用いた。
各々に5mLのメタノールを加え、10分間煮沸した。次に、2、500xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%のメタノールを5mL加え2度洗浄した。
さらに、沈殿に5Nの水酸化ナトリウムを15μL加え、5分間煮沸して澱粉を糊化させた。
その糊化液を氷酢酸9.6μLで中和した後、蒸留水を1089μL、0.6Mの酢酸緩衝液(pH4.4)を100μL、2%のアジ化ナトリウムを15μL、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所製)を2μL(約210unit)加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃で8時間以上反応した。
次に、イソアミラーゼを2μL追加して8時間以上反応した後、常温で10,000xgで遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501-X8(D)、Bio-Rad社製)で濾過した。
次に、α-グルカン鎖の非還元末端を蛍光標識するため、Hizukuriら(Carbohydrate Research、94、205-213(1981)参照)の方法により、試料中の糖含量を定量し5~10nmol相当の還元末端をもつα-グルカン鎖を遠心濃縮機で乾燥させ、1-アミノピレン-3,6,8-三硫酸塩(APTS)溶液(2.5%のAPTS、15%の酢酸)を2μL、シアン化ホウ素ナトリウム溶液(1Mのシアン化ホウ素ナトリウム、100%のテトラヒドロフラン)を2μL添加し、55℃で90分間反応させた。
分析時には12.5倍に蒸留水で希釈して用いた。鎖長分布解析は、キャピラリー電気泳動装置(P/ACE MDQ、AB Sciex社製)を用いて行った。
グルコース重合度(DP)3以上の各ピーク面積を数値化し、DP60までのピーク面積の合計を100%としたときの各DPの割合(Mole%)を算出した。また、各変異体イネから野生型イネのパターンを引いた差分(ΔMole%)のグラフを作成した。
【実施例1】
【0039】
(示差走査熱量測定器DSC(Differential Scanning Calorimetry)による糊化温度の測定)
105℃で2時間乾燥させた澱粉、約3mgに蒸留水9μLを加えて混合し、昇温速度3℃/分で5℃から200℃までの温度変化させたときの示差走査熱量をDSC6100(セイコーインスツル株式会社製)で測定した。
その後、同機種のアプリケーションソフトを用いて、糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、及び糊化熱量を算出した。
【実施例1】
【0040】
(難消化性澱粉含量の測定)
まず、炊飯方法について述べる。15mLフタ付き遠沈管に約100mgの精米(5~8粒)を秤量し、パスツールピペットを用いて遠沈管内でサンプルを2回水洗した。遠沈管内の水分が精米重量の1.8倍±0.3mgの水量になるように蒸留水を加えた(即ち、遠沈管内の全重量が精米の2.8倍になるようにした)。遠沈管側面に付いた水を遠心分離機にかけて落とした。5合炊き炊飯器の炊飯釜に約250mLの水道水を入れ、マイクロチューブスタンドとガラスシャーレ(直径12cm)を置き、その上にサンプルの入った15mL遠沈管をななめに置いて5合炊き炊飯器で炊飯した。
次に、難消化性澱粉含量は、メガザイム社が販売しているRS assay Kit(以下、「RS測定キット」という。)により測定した。
【実施例1】
【0041】
RS測定キットの測定用のパンクレアチンα-アミラーゼ(10mg/mL)+アミログルコシターゼ(3U/mL)の作成方法は以下の通りである。
50mL遠沈管に0.1Mマレート・ナトリウム・バッファー(pH 6.0)50mLとRS測定キットに付属のブタ膵臓α-アミラーゼ0.5gを溶かし、氷上で5分間振とう機で撹拌した。300U/mLに希釈したアミログルコシターゼ(AMG)溶液0.5mLを加え撹拌し3,000rpm、25℃、10分遠心分離し、上清を新しい50mL遠沈管に移した。この試薬は必要分等倍に変化させ、その都度作成した。
【実施例1】
【0042】
このように準備したパンクレアチンα-アミラーゼ(10mg/mL)+AMG(3U/mL)4mLを各炊飯米に加え、恒温振とう機(MH-10,TAITEC社製)を用いて164rpm、37℃で16時間、激しく振とうさせた。100%エタノール4mLを加えて撹拌し、3,000rpm、25℃、10分間で遠心分離し、50mL遠沈管に、すばやく上清を回収した。沈殿物に50%エタノールを2mL入れて撹拌した後、再度50%エタノールを8mL加え、全体量を10mLにし、撹拌した。3,000rpm、25℃、10分間で遠心分離して、上記の50mL遠沈管にすばやく上清を移した。この作業をもう一度行い、沈殿(この中に含まれる難消化性澱粉をrsとする)と上清(この中に含まれる可溶化した澱粉量をnon-rsとする)を分離した。なお、この一連の操作の際に用いた遠心分離機は(Allegra X-30R、BECKMAN社製)であり、スイングローター(SX4400)のバケットを用いた。
【実施例1】
【0043】
沈殿に残っている上清をピペットでできるだけ取り除き、15mL遠沈管に入っているrsをプラスチックペッスルで潰しながら、2mLの2M KOH加えた。スターラーバーを入れ、氷中で20分撹拌した。1.2M酢酸バッファー(pH3.8)を8mL、AMG(3300U/mL)を0.1mL加えて、rsをグルコースまで分解させた。5分に1回ボルテックスで撹拌しながら、50℃で30分加熱し、4,500rpm、25℃、10分間で遠心分離した。
グルコースまで分解されたrsは遠沈管の目盛11mL、non-rsは目盛30mLまで、蒸留水でメスアップした。rsは難消化性澱粉が高いサンプル(難消化性澱粉が15%を超えるもの)及び、non-rsは0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)で10倍希釈した。各溶解液及び希釈液10μLとグルコース測定試薬(GOPOD溶液)150μLとをそれぞれ2ホールずつ96穴のマイクロプレートの各穴にアプライした。また、別の穴に、検量線作成のためのグルコース溶液標準液(mg/mL)、その上から、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)、グルコース測定試薬(GOPOD溶液)をアプライした。マイクロプレートシートでふたをし、ハイブリオーブン(TAITEC HB-80)で50℃、20分間反応させた。反応後、マイクロプレートリーダーを用いて、510nmの吸光度を測定した。
グルコース溶液の測定値から検量線を引き、各サンプルのグルコース濃度(μg/μL)を求め、100mg精米中のrs及びnon-rs量を算出した。難消化性澱粉含量を示すRS値(%)は以下の式(1)により算出した。

RS値(%)=rs(mg)/[rs(mg)+non-rs(mg)]……式(1)
【実施例1】
【0044】
〔結果〕
まず、図1を参照して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)及び、それらの親変異体(EM10)と野生型(日本晴とカサラス)の各クローンの完熟玄米の形態について説明する。
各クローンにおいて、上図は完熟玄米の上から光を当てて撮影した写真、下図は完熟玄米の下から光を当てて撮影した写真である。
なお、EM10は、胚の突然変異源であるMNU(N-methyl-N-nitrosourea、メタンニトロソウレア)処理を用いて選抜した。MNU処理は、文献(Yano,M., Okuno, K., Kawakami, J., Satoh, H. and Omura, T. (1985) High amylose mutants of rice, Oryza sativa L. Theor Appl Genet 69: 253-257.)に記載された方法に従って行った。
また、EM10の親系統は金南風であるが、ここでは、同じジャポニカ米品種で金南風とすべての表現型がほぼ同一の日本晴を野生型として用いた。また、インディカ米品種の親系統としては、交配親に用いたカサラスを用いた。
【実施例1】
【0045】
図1において、BEIIb単一変異体(ΔBEIIb)のクローンであるEM10の種子は白濁し、野生型(日本晴)より小さかった。
これに対して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのクローンである#1203Cの種子は、BEIIb単一変異体のEM10と同様、玄米全体が白く濁る「白濁」の形態を示したが、種子の大きさはEM10と比べて大きかった。
【実施例1】
【0046】
次に、本発明の実施の形態に係るΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、それらの親変異体(EM10)。及び野生型(日本晴、カサラス)の玄米1粒重(mg)を測定した。
この結果を下記の表1に示す。
【実施例1】
【0047】
【表1】
JP2017038588A_000003t.gif
【実施例1】
【0048】
表1は、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのクローンである#1203C、それらの親変異体のクローンであるEM10(ΔBEIIb)、野生型(Wild type)のカサラスと日本晴の玄米重量(mg)について測定したデータを示している。表1において、測定のn=20であり、玄米重量(mg)は平均±標準誤差、相対値は日本晴を100としたときの値を、それぞれ示す。
このように、BEIIb単一変異体のクローンであるEM10は、野生型の6割程度の種子重量であった。
また、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのクローンである#1203Cの玄米重量は野生型(日本晴)の79%と、やや小さかったものの、親系統のEM10やカサラスよりは大きく、玄米重量のさらなる減少は見られなかった。
【実施例1】
【0049】
次に、図2を参照して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)及びそれらの親変異体(EM10)と野生型(日本晴、カサラス)の完熟胚乳から抽出したタンパク質のウエスタンブロッティングの結果について説明する。
具体的には、本実施例のイネ変異体は、BEIIb欠損変異体であるEM10とインディカ米であるカサラスの交配後代から選抜されたものである。選抜により得られたF3種子が、望みの遺伝子型をホモに持つかを確認するため、ウエスタンブロッティングでBEIIb、SSIIa及びGBSSIのタンパク質バンドを検出した。
【実施例1】
【0050】
図2(a)は、F3種子を4粒の可溶性及び澱粉にゆるく結合したタンパク質を抽出した画分(フラクション)であるSP+LBP画分を用いてBEIIbの抗体で検出を行ったウエスタンブロッティングの検出結果を示す。図2(a)の各レーンは、左から、Mはマーカー、カサラスはインディカ米の野生型、日本晴はジャポニカ米の野生型、EM10は親変異体(親系統)、#1203Cの(1)~(4)は各種子を示す。
#1203Cのタンパク質を抽出したウエスタンブロッティングにおいては、いずれの種子でもEM10と同様、BEIIbバンドが欠損していた。
【実施例1】
【0051】
次に、図2(b)は、澱粉に強固に結合したタンパク質を抽出した画分であるTBP画分を用いてSSIIaとGBSSIの抗体で検出を行ったウエスタンブロッティングの検出結果を示す。
インディカ米由来のSSIIaは、澱粉結合タンパク質画分でバンドが検出される特徴がある(非特許文献3)。ここで、本実施例のウエスタンブロッティングの結果においては、ジャポニカ米である日本晴では、ほとんどバンドが検出されないにもかかわらず、#1203Cでは検出された。ただし、ジャポニカ米由来のEM10でも検出されており、これは、BEIIbが欠損することによるSSIIaの澱粉結合性の変化による。従って、#1203CでSSIIaバンドが検出された原因がBEIIb欠損か、インディカ米由来のSSIIaの導入かは、この結果からは、限定できない。しかしながら、下記で示すアミロペクチンの鎖長分布解析の結果から、インディカ米のSSIIaが導入されたことが明らかであった。
また、インディカ米のGBSSIバンドは、ジャポニカ米のGBSSIバンドと比べて濃く太くなることが知られている。#1203Cの4粒の種子のバンドは、いずれも濃く太かったために、インディカ米由来のGBSSIが確かに導入されていることが確認された。
【実施例1】
【0052】
次に、図3を参照して、アミロペクチンの鎖長分布について説明する。
図3(a)は、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)の各種子(1)~(4)、それらの親変異体であるΔBEIIb(EM10)、コントロールの日本晴(野生型)及びカサラスの完熟胚乳のアミロペクチンの鎖長分布を示すグラフである。図3(a)において、横軸は、DP(degree of polymerization)は、グルコースの重合度を示す値である。縦軸は、Molar(%)を示す。
図3(b)は、それぞれから野生型である日本晴のMolar%を引いた差分をモル比(ΔMolar%)にて示すグラフである。
BEIIbの単一変異体のクローンであるEM10は、DP≦14の短鎖が野生型と比べて激減し、その代わりDP≧15の長鎖が増加していた。
また、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのクローン#1203Cは、EM10のパターンに類似してDP6~14の短鎖の減少が大きいのが特徴であった。しかしながら、DP6~12の減少の程度はEM10より増加しており、DP13~24の中鎖は、EM10より増加していた。一方、DP25~45の長鎖の量は、EM10よりは減少しており、DP46以上の長鎖はEM10と同様に増加していた。
図3(c)は、#1203Cの鎖長分布からEM10の鎖長分布を引いた差分グラフを示す。この差分グラフでは、#1203C種子の4粒すべてでDP12以下が減少し、DP13~24が増加するという、インディカ米由来のSSIIaの特徴が表れていた。このため、#1203Cにはインディカ米のSSIIaがホモで導入されていることが確認できた。
以上のように、#1203Cのアミロペクチンの鎖長分布パターンは、EM10の特徴を示すものの、これとは同一ではなく、独特のアミロペクチン構造をしていることが分かった。
【実施例1】
【0053】
次に、図4を参照して、ゲル濾過パターンについて説明する。
図4は、それぞれΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、親変異体であるΔBEIIb(EM10)、野生型である日本晴及びカサラスの各クローンのゲル濾過パターンである。横軸はカラムの通過時間(Retention Time、分)、縦軸は相対炭素量(Relative Carbohydrate(%))を示す。
澱粉を枝切りしたもののゲル濾過パターンは、3つのピークにわかれ、最も速く検出されるピーク(Fraction I)が見かけのアミロース、2番目に検出されるピーク(Fraction II)がクラスターを連結するB2鎖より長いアミロペクチンの長鎖、3番目に検出されるピーク(Fraction III)がアミロペクチンのクラスター内の短鎖である。
これらを数値化したものを、以下の表2に示す。この表2では、各フラクションの割合と、アミロペクチンの長鎖に対する短鎖の割合(III/II)を示す。表2において、測定のn=3、エラーバーは標準誤差を示す。
【実施例1】
【0054】
【表2】
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【実施例1】
【0055】
BEIIb単一変異体(ΔBEIIb)は、枝切りした澱粉のゲル濾過の結果、見かけのアミロース含量が日本晴に比べて約1.3倍高い(非特許文献19)。本実施例の実験結果においても、日本晴の見かけのアミロース含量は19.7%であるのに対し、ΔBEIIbのクローンEM10は28.9%と約1.5倍の値を示した。
これに対して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのアミロース含量は37.5%と、ΔBEIIbのクローンEM10よりも更に約1.3倍高かった。また、ΔBEIIbでは、短鎖の割合であるIII/II値が1.0と非常に小さいことから、アミロペクチンの長鎖の割合が非常に大きかった。ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIはΔBEIIbと同等にアミロペクチンの長鎖の割合が大きかった。
以上のことから、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIは、ΔBEIIbと同等にアミロペクチンの長鎖の割合が非常に高いうえ、アミロース含量がΔBEIIbより高い値を示す、ということが明らかとなった。他の予備実験により、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIのアミロース含量は、少なくとも35%以上となっていた。
これにより、アミロース含量が高い澱粉においては難消化性澱粉の割合が多い傾向があり、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIにおいても、澱粉の難消化性澱粉は非常に高くなることが分かる。このため、ダイエット素材を中心とした食品加工分野や添加剤及び工業資材として特徴的な製品を製造できると考えられる。
【実施例1】
【0056】
次に、下記の表3を参照して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの澱粉の糊化温度について説明する。
【実施例1】
【0057】
【表3】
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【実施例1】
【0058】
表3は、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)及びそれらの親変異体(EM10)と野生型(日本晴、カサラス)の糊化温度及び糊化熱量を示す表である。
具体的には、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、これらの親変異体ΔBEIIb(EM10)、野生型である日本晴、カサラスの各澱粉糊試料の糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、糊化熱量を示差走査熱量分析器(DSC)で測定した結果を示す。
インディカ米であるカサラスやEM10の糊化ピーク温度はジャポニカ米の日本晴より約12℃高かった。#1203Cは、EM10よりさらに1.5℃高く、測定した澱粉の中では最も高い糊化温度を示した。
【実施例1】
【0059】
次に、表4を参照して、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSIIの澱粉の難消化性澱粉含量について説明する。
【実施例1】
【0060】
【表4】
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【実施例1】
【0061】
表4は、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)及びそれらの親変異体(EM10)と野生型(日本晴、カサラス)の精米の炊飯米の難消化性澱粉量を示す表である。表4において、測定のn=6、エラーバーは標準偏差を示す。
具体的には、ΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)、これらの親変異体ΔBEIIb(EM10)、野生型である日本晴、カサラスの精米を1.8倍の加水量で炊飯した炊飯米の難消化性澱粉含量をRS測定キットで測定した結果を示す。
このキットで測定される難消化性澱粉含量は、誤差が大きい。
EM10の難消化性澱粉含量は、日本晴の約12.2倍、カサラスの約4.2倍高い値を示した。これに対して、#1203Cの難消化性澱粉含量は、EM10のさらに約1.2倍高い値を示した。
【実施例2】
【0062】
次に、本発明の実施例2では、上述の実施例1と同様の方法で、異なる年に収穫したΔBEIIb/SSIIaI/GBSSII(#1203C)及びそれらの親変異体(EM10)と野生型(日本晴、カサラス)の精米の炊飯米の難消化性澱粉量を更に測定した。これは、上述のようにRS測定キットは、誤差が大きく、ハンドリングに不慣れであると、測定結果が実際の値よりも低い値となり、結果が安定しないためである。また、収穫年によっても異なる値を示すことがある。この本発明者らによる、上述の実施例1と同様のRS測定キットによる試行の結果を、下記の表5に示す。
【実施例2】
【0063】
【表5】
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【実施例2】
【0064】
表5では、測定のn=4、エラーバーは標準誤差を示す。表5に示す結果では、EM10の難消化性澱粉含量は、日本晴の約17.9倍、カサラスの約8.0倍高い値を示した。
これに対して、#1203Cの難消化性澱粉含量は、EM10のさらに約1.1倍高い値を示した。具体的に、1.5倍加水量で炊飯した炊飯米を使用した場合に、#1203Cの難消化性澱粉の含有量が40%前後、より具体的には35%~55%となると予想される。
【実施例2】
【0065】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素IIb型(BEIIb)の活性が低下し、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子を備えるイネ変異体を提供でき、当該イネ変異体のイネ種子は、イネでは類い希な難消化性澱粉含量となるため、産業上利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3