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明細書 :組成物、その利用、及び当該組成物を製造するためのキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-210992 (P2016-210992A)
公開日 平成28年12月15日(2016.12.15)
発明の名称または考案の名称 組成物、その利用、及び当該組成物を製造するためのキット
国際特許分類 C08L 101/14        (2006.01)
C08K   3/04        (2006.01)
C08K   3/08        (2006.01)
C08K   3/22        (2006.01)
C08J   3/075       (2006.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  47/32        (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI C08L 101/14
C08K 3/04
C08K 3/08
C08K 3/22
C08J 3/075 CEZ
A61K 9/06
A61K 47/36
A61K 47/42
A61K 47/32
A61K 47/34
A61K 45/00
請求項の数または発明の数 20
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2016-097477 (P2016-097477)
出願日 平成28年5月13日(2016.5.13)
優先権出願番号 2015098621
優先日 平成27年5月13日(2015.5.13)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】青木 弘良
【氏名】山形 豊
出願人 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
4F070
4J002
Fターム 4C076AA09
4C076AA94
4C076AA95
4C076EE06
4C076EE11
4C076EE14
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE41
4C076EE42
4C076EE43
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA28
4C084NA12
4C084NA13
4F070AA01
4F070AA26
4F070AB11
4F070AB12
4F070AB13
4F070AC20
4F070AC46
4F070BA10
4F070BB08
4F070DC16
4J002AA00W
4J002AA00X
4J002AB00X
4J002AB05W
4J002AB05X
4J002AD01W
4J002BE02X
4J002BG01X
4J002BJ00X
4J002CH02X
4J002CL02X
4J002DA016
4J002DA076
4J002DE136
4J002GA00
4J002GB01
4J002GB04
要約 【課題】対象物を内包して固定するために用いる新規な組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る組成物は、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルと、熱依存性ゲルの内部に含まれ、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマーとを含み、膨潤用ポリマーは、多孔性構造が有する細孔内に分散されている。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルと、
上記熱依存性ゲルの内部に含まれ、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマーと、を含み、上記膨潤用ポリマーは、上記多孔性構造が有する細孔内に分散されている、組成物。
【請求項2】
上記膨潤用ポリマーは、可視光下で透明なポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
熱依存性ゲルの多孔性構造と上記膨潤用ポリマーとは、架橋剤を介して架橋していない、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
上記熱依存性ゲルは、アガロースゲル、カラギナン、寒天、コラーゲン、及びゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1から3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
上記膨潤用ポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(メタ)アクリル酸、チオール化ポリマー、ポリアミノ酸、アルギン酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸、キトサン、ポリリジン及び多糖類から選択される少なくとも一種の水溶性ポリマーである、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
内部に、包埋の対象物が格納されている、または格納し得る、請求項1から5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
包埋の対象物が、微生物、細胞、ウイルス、ポリヌクレオチド、酵素、及びタンパク質からなる群より選択される生物性の材料であるか、カーボンナノチューブ、フラーレン、金コロイド、銀コロイド、マイクロビーズ、マイクロカプセル、磁性粒子、及び酸化チタンからなる群より選択される非生物性の材料である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
上記熱依存性ゲルの内部に分散されている光吸収体を含み、
上記光吸収体が光を吸収して発生する熱によって、上記熱依存性ゲルが溶解して切断されるように構成されている、請求項1~7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
上記光吸収体はレーザ光を吸収し、当該レーザ光の波長は可視光外の領域である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
上記光吸収体は水溶性である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
乾燥されている、請求項1から10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の組成物を水で膨潤してなる、含水ゲルの形態の組成物。
【請求項13】
請求項1から11の何れか一項に記載の組成物を水で膨潤させる工程を含む、含水ゲルの形態の組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1から12の何れか一項に記載の組成物の製造方法であって、
所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルを作製する工程と、
上記熱依存性ゲルの内部に、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマーを浸透させる工程とを含む、製造方法。
【請求項15】
請求項1から7の何れか一項に記載の組成物を製造するためのキットであって、
上記熱依存性ゲルの原料粉末と、
上記膨潤用ポリマーと、を備えている、キット。
【請求項16】
請求項8から10の何れか一項に記載の組成物を製造するためのキットであって、
上記熱依存性ゲルの原料粉末と、
上記膨潤用ポリマーと、
上記光吸収体と、を備えている、キット。
【請求項17】
包埋の対象物が、薬剤である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物を備えている、徐放性薬剤。
【請求項19】
請求項17に記載の組成物を備えている、ドラックデリバリ剤。
【請求項20】
請求項17に記載の組成物を乾燥させてなる乾燥ゲルの形態のドラックデリバリ剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物や細胞等の対象物を固定化するための固定化用の組成物、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素、細胞や微生物等が有する本来の特性を活かし、連続反応や再利用等に供するという目的で、酵素や微生物等の固定化法は盛んに研究されてきている。担体に固定化された酵素、細胞、及び微生物は、例えば、生物に特異的な酵素反応を利用するリアクタとして用いられ、抗生物質等の医薬品、アミノ酸、及び糖等を簡便に作製するプロセスを提供している。
【0003】
非特許文献1には、酵素や微生物等の固定化法として、例えば、アガロース等の担体に酵素等を結合させることによって固定化する方法や、ポリアクリルアミドゲル等のゲルの格子の中に酵素等を包み込むことで固定化する方法(格子型の包括法)等が記載されている。非特許文献1にはさらに、カラギナンを用いて、酵素や微生物等を固定化する方法が記載されている。
【0004】
ゲルは、そのゲル化の態様に応じて、化学架橋性ゲル、イオン架橋性ゲル、及び熱依存性ゲル等に分類される。これらのゲルのうち、アガロースやカラギナンなどの熱依存性ゲルは、比較的に温和な条件でゲル化することができ、イオン架橋性ゲルのように塩濃度やpHに影響されることなく安定である。熱依存性ゲルは、ゲル化のために架橋剤等を必須とする化学架橋性ゲルと比較しても、固定化される酵素や微生物に対して悪影響を及ぼす可能性が低いという利点を有する。
【0005】
また、他の観点では、リアクタとして用いる細胞、及び微生物等を、汚染を抑制しながら単離する技術の開発も重要であり、汚染が抑制された固定化細胞等が得られれば、より純粋な反応を生じるリアクタを提供することができる。
【0006】
例えば、非特許文献2には、微生物や細胞を物理的に操作する方法としてマイクロマニピュレータが記載されている。マイクロマニピュレータは、油圧式等のマニピュレーターが備えている微細なガラスキャピラリーを用い、顕微鏡下において細胞や微生物等を吸引して操作することができる。マイクロマニピュレータは、比較的簡易な機材で作業することができる。
【0007】
非特許文献3及び非特許文献4には、微生物や細胞を操作する方法として、光ピンセットが記載されている。光ピンセットは対象物にレーザ光を照射したときの光の放射圧により焦点位置に存在する対象物をトラップし、操作する技術である。対象物に接触することなく操作でき、かつ、密閉系において高分解能にて対象物を操作することができる。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】千畑一郎, 土佐哲也: 固定化酵素および固定化微生物について. 有機合成化学協会誌 36:917-930,1978
【非特許文献2】大石勝昭, 工藤謙一: 微小物体のマニピュレーション技術 細胞マニピュレーション. 精密工学会誌 Vol.68, No. 11:1419-1423,2002.
【非特許文献3】辰巳仁史:光ピンセットによる微小生物試料の操作. 応用物理第66巻 第9号:970-973,1997
【非特許文献4】浮田宏生:マイクロ構造デバイスの現状 マイクロ光ピンセット. 精密工学会誌 Vol. 65, No.5 :647-650,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ゲルが有する多孔質構造の孔径を制御すれば、ゲル内への物質の輸送や、ゲル外への物質の輸送を制御することができる。しかし、非特許文献1にも記載がある熱依存性ゲルは、化学架橋性ゲルやイオン架橋性ゲルと比較して孔径の制御が格段に難しいという問題がある。化学架橋性ゲルやイオン架橋性ゲルは、それぞれ架橋剤の濃度やイオン濃度を調整することによって、孔径に影響を与える架橋の程度を、容易に変更することができる。一方、熱依存性ゲルでは、架橋の程度は、もっぱらゲル化前の溶液の濃度で調整することとなるが、高濃度のゲル化前の溶液は、粘度が高くてその調製や取扱いが極めて困難である。それゆえ、熱依存性ゲルにおいて多孔質構造の孔径を所望するように制御することは容易ではない。
【0010】
また、別の観点では、非特許文献2に記載されているマイクロマニピュレータは、接触式により対象生物等を操作するため、対象である微生物や細胞等にダメージを与えやすいという問題がある。また、マイクロマニピュレータは対象外の微生物を吸い込みやすく、開放系で扱うため、外部環境から飛来する菌等により汚染されやすいという問題がある。
【0011】
また、非特許文献3及び非特許文献4に記載されている光ピンセットは、強力なレーザ光を照射するため、対象物にもたらされるダメージが大きいという問題がある。
【0012】
したがって、このような、マイクロマニピュレータや光ピンセットなどによる方法よりも、対象物に対するダメージや汚染を抑制しつつ、当該対象物の単離等が可能な技術が求められている。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、第一の課題として、孔径が制御された含水ゲルを作製することができる組成物及びその関連技術を提供することを目的としている。第二の課題として、ダメージや汚染を抑制しつつ対象物の単離等が可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の何れかのものを提供する。
1)所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルと、上記熱依存性ゲルの内部に含まれ、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマーと、を含み、上記膨潤用ポリマーは、上記多孔性構造が有する細孔内に分散されている、組成物。
2)上記膨潤用ポリマーは可視光下で透明なポリマーである、1)に記載の組成物。
3)熱依存性ゲルの多孔性構造と上記ポリマーとは、架橋剤を介して架橋していない、1)又は2)の何れかに記載の組成物。
4)上記熱依存性のゲルは、アガロースゲル、カラギナン、寒天、コラーゲン、及びゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種である、1)から3)の何れかに記載の組成物。
5)上記膨潤用ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、チオール化ポリマー、リアミノ酸、アルギン酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸、キトサン、ポリリジン及び多糖類から選択される少なくとも一種の水溶性ポリマーである、1)から4)の何れかに記載の組成物。
6)内部に、包埋の対象物が格納されている、または格納し得る、1)から5)の何れかに記載の組成物。
7)包埋の対象物が、微生物、細胞、ウイルス、ポリヌクレオチド、酵素、及びタンパク質からなる群より選択される生物性の材料であるか、カーボンナノチューブ、フラーレン、金コロイド、銀コロイド、マイクロビーズ、マイクロカプセル、磁性粒子、及び酸化チタンからなる群より選択される非生物性の材料である、6)に記載の組成物。
8)上記熱依存性ゲルの内部に分散されている光吸収体を含み、上記光吸収体が光を吸収して発生する熱によって、上記熱依存性ゲルが溶解して切断されるように構成されている、1)から7)の何れかに記載の組成物。
9)上記光吸収体はレーザ光を吸収し、当該レーザ光の波長は可視光外の領域である、8)に記載の組成物。
10)上記光吸収体は水溶性である、8)又は9)に記載の組成物。
11)乾燥されている、1)から10)の何れかに記載の組成物。
12)上記の1)から11)の何れかに記載の組成物を水で膨潤してなる、含水ゲルの形態の組成物。
13)上記の8)から10)の何れかに記載の組成物に対して、上記光吸収体に吸収される光を照射する工程を含む、組成物の切断方法。
14)上記の1)から11)の何れかに記載の組成物を水で膨潤させる工程を含む、含水ゲルの形態の組成物の製造方法。
15)上記の1)から12)の何れかに記載の組成物の製造方法であって、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルを作製する工程と、上記熱依存性ゲルに、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマーを浸透させる工程とを含む、製造方法。
16)上記の1)から12)の何れかに記載の組成物の内部で反応を行う方法であって、上記組成物の内部へ反応物を導入する工程と、上記組成物の内部で反応物を用いた反応を行う工程とを含む、方法。
17)上記の1)から7)の何れかに記載の組成物を製造するためのキットであって、上記熱依存性ゲルの原料粉末と、上記ポリマーと、を備えている、キット。
18)上記の8)から10)の何れかに記載の組成物を製造するためのキットであって、上記熱依存性ゲルの原料粉末と、上記ポリマーと、上記光吸収体と、を備えている、キット。
19)包埋の対象物が、薬剤である、1)から5)の何れかに記載の組成物。
20)19)の組成物を備えている、徐放性薬剤。
21)19)の組成物を備えている、ドラッグデリバリ剤。
22)19)の組成物を乾燥させてなる乾燥ゲル形態のドラッグデリバリ剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、孔径が制御された含水ゲルを作製することができる組成物及びその関連技術を提供することができるという効果を奏する。本発明の他の態様によれば、ダメージや汚染を抑制しつつ対象物の単離や、当該対象物を含む単離ゲル内での対象物の分析等が可能な技術を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る組成物(フィルム)の製造方法の概略を説明する図である。
【図2】一実施形態に係る組成物(フィルム)の製造方法に用いられる乾燥器の概略を説明する図である。
【図3】一実施形態に係る組成物(フィルム)の切り出し方法の概略を説明する図である。
【図4】一実施形態に係る組成物(フィルム)を製造し、当該組成物の切片を収集する方法の概略を説明する図である。
【図5】実施例、比較例、及び参考例のフィルムを撮像した結果を示す図である。
【図6】フィルムから単一菌体を単離する一連の工程及び単離された菌体を撮像した結果を示す図である。
【図7】実施例1~2並びに比較例1のフィルムそれぞれから調製された各ゲルの厚みと、孔径と示すグラフである。
【図8】フィルムから調製されたゲルを用いて行なった、酵素法による遺伝子増幅の評価結果を示す図である。
【図9】フィルムの切り出しにおける、レーザ吸収色素の効果を示す図である。
【図10】一実施形態に係る組成物の用途の例を示す図である。
【図11】一実施形態に係る組成物を歯科治療に用いる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.組成物(第一の形態)>
以下、第一の形態に係る組成物(組成物(1)と称する)について、より詳細に説明する。

【0018】
組成物(1)は、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルと、上記熱依存性ゲルの内部に含まれ、熱依存性ゲルの多孔性構造(三次元網目構造)を形成する物質とは異なるポリマー(膨潤用ポリマー)と、を含んでなる。この組成物は、一例として、細胞などの対象物を内包して固定化する(包埋する)目的で使用されるため、以下、「固定化用組成物」と称する。

【0019】
固定化用組成物の一つの好ましい態様では、乾燥されている。「乾燥されている」とは、固定化用組成物を構成する熱依存性ゲルが飽和膨潤状態よりも脱水(減水)された状態にあることを指し、好ましくは、含水量が30%(w/v)以下、25%(w/v)以下、20%(w/v)以下、15%(w/v)以下、或いは10%(w/v)以下となるように脱水されている。固定化用組成物がより乾燥されているほど、レーザによる加工性、保存性や取扱い性という観点では優れている。固定化用組成物の特に好ましい一態様は、乾燥したフィルムの形態である。

【0020】
固定化用組成物において、飽和膨潤状態である熱依存性ゲルの含水量よりも脱水(減水)された状態にあれば、熱依存性ゲルの骨格をなす繊維同士が近接して、互いに結合(水素結合等)を形成しやすくなる。一方、膨潤用ポリマーは、熱依存性ゲルの内部においてスペーサとして作用する。これにより、熱依存性ゲルの骨格をなす繊維同士が水素結合等の分子間相互作用によって強固に結合することを抑制する。

【0021】
上記構成によれば、熱依存性ゲルの骨格をなす繊維同士が結合することにより形成される多孔質構造(多孔性構造)を、膨潤用ポリマー(ポリマー)によって制御することができる。すなわち、固定化用組成物を同等に脱水した(乾燥した)場合、より大量の膨潤用ポリマーを含むほどより大きな孔径を有する多孔質構造が形成される。また、熱依存性ゲルの濃度を調整することによって多孔質構造の孔径を制御する場合よりも、調節可能な孔径の範囲が大きい。

【0022】
また、この固定化用組成物を水で再膨潤すれば、熱依存性ゲルの繊維間に結合が生じることにより形成される多孔質構造の孔径が、膨潤用ポリマーによって制御されてなる固定化用ゲル(含水ゲル)を作製することができる。従って、固定化用組成物を水で膨潤してなる、含水ゲルの形態も、本発明の範疇である。特に、固定化用組成物において、熱依存性ゲルの骨格をなす繊維と膨潤用ポリマーとが、架橋剤を介して架橋していない場合は、水で再膨潤するプロセスにおいて膨潤用ポリマーを除去することもできる。

【0023】
上記の固定化用ゲルは孔径が制御された多孔質構造を有するから、外部から拡散等により供給される反応基質等の種類を、分子量や大きさによって制御することができる。加えて、固定化用ゲルの内部で行われる反応により生じた生成物を、サイズ選択的に外部に拡散させる、あるいは保持等の制御も行うことができる。すなわち、この固定化用ゲルを用いて、反応基質等の選択的な取込みや、反応生成物の選択的な取り出し等を行う、リアクタを製造することができる。

【0024】
上記の固定化用組成物は、その内部に、後述する固定化の対象物(包埋の対象物)を格納している形態でもよく、その内部に当該対象物を格納し得る形態でもよい。なお、固定化用組成物が、固定化の対象物として、その内部に微生物や細胞を格納しているか格納し得る場合、当該固定化用組成物を膨潤させる水としては、TE緩衝液、生理的食塩水、リン酸緩衝液(PBS)等の緩衝液等を用いることが好ましい。固定化用組成物を膨潤させる水として、超純水を用いることも好ましい一態様である。

【0025】
以下に、固定化用組成物の各構成について、より詳細に説明する。

【0026】
(熱依存性ゲル)
熱依存性ゲルとしては、その骨格を構成する繊維間の結合(例えば、水素結合等)により多孔質構造を形成するゲルを用いる。

【0027】
熱依存性ゲルの原料には、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する材料であり、熱可逆性を示すゲルを形成する材料を用いる。また、熱依存性ゲルを形成するための材料には、可視光下で透明で、親水性である材料が好ましく、このような材料には、例えば、アガロース、寒天、カラギナン(カッパ型が好ましい)、ジェランガム、ザンタンガム、メチルセルロース、エラスチン、フィブリン、フィブロイン、ゼラチン、コラーゲン、及びカードラン等を挙げることができ、より好ましくは、アガロース、寒天、ゼラチン、及びカラギナン等を挙げることができ、アガロース、カラギナン、又は寒天がより好ましく用いられ、最も好ましくはアガロースを用いる。

【0028】
アガロースの特徴は、例えば、1)可視光下で透明で、親水性であり、無蛍光なゲルを形成する、2)アルカリや塩に対しても安定なゲルを形成する、3)生体毒性が低い、4)ゲル強度が高く、低い濃度でゲル化させることができるため、ゲルの多孔質構造の孔径を大きくすることができる、5)低温(例えば40℃前後以下)においても、温度依存的にゲル化させることができる、6)2-ヒドロキシエチルエステル化などの化学修飾により、ゲル化温度を修飾前の40℃前後から26-30℃に制御できる、等が挙げられる。上記4)の特徴により、膨潤用ポリマーやレーザ吸収色素(後述の第二の形態も参照)を後からゲルに浸透させやすく、また乾燥に伴いゲルが収縮するので膨潤用ポリマーで孔径制御が可能になる。また、上記5)の特徴により、架橋剤を用いずにゲル化が可能なため、包埋の対象物(細胞など)に与える影響が少なく、また上記5)~6)の特徴により低温でゲル化できることも相まって、微生物や細胞等の生物試料を生きたまま包埋することもできる。

【0029】
なお、アガロースに限らず、本発明にて用いる熱依存性ゲルの原料は、上記1)~6)から選択される少なくとも一つの特徴を備えることが好ましく、中でも少なくとも上記1)の特徴を備えていることが好ましい。

【0030】
(膨潤用ポリマー)
膨潤用ポリマーは、多孔質構造を形成する熱依存性ゲルの分子間に浸透し、含水量の低下(乾燥)に伴って熱依存性ゲルの分子が相互に結合することを制御する。なお、膨潤用ポリマーは、例えば、緩衝液等の水系溶媒に膨潤用ポリマーを溶解又は分散した液に熱依存性ゲルを浸漬し、平衡化させることにより熱依存性ゲル内に浸透させる。

【0031】
膨潤用ポリマーは、熱依存性ゲルの内部に略均一に分散していることが好ましいので、アガロース等の熱依存性ゲルとの相溶性が高いポリマーであることが好ましい。また、膨潤用ポリマーは、熱依存性ゲルに浸透しやすく、且つ、含水量を低下させた(乾燥後の)熱依存性ゲルを水で再膨潤させるときに、熱依存性ゲルの外部に溶出しやすいものであることが好ましい。このため、膨潤用ポリマーは、例えば、親水性(水溶性)ポリマーであることがより好ましい。

【0032】
また、膨潤用ポリマーは、非蛍光性の透明なポリマーであることが好ましい。乾燥されている固定化用組成物を光学的に観察するときに用いる波長光(観察光)を透過することができるからである。

【0033】
このような膨潤用ポリマーとしては、例えば、合成系の高分子や天然系の高分子等を挙げることができる。なお、ポリマーの範疇にはオリゴマーも含まれる。なお、熱依存性ゲル内への浸透の容易さの観点では膨潤用ポリマーの重合度は小さい方がよく、例えば、2000以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、800以下であることがさらに好ましい。一方、熱依存性ゲルを乾燥した際に、膨潤用ポリマーが結晶化しにくいという観点では膨潤用ポリマーの重合度は大きい方がよく、例えば、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、99以上であることがさらに好ましい。

【0034】
合成系の高分子は、水溶性モノマーの重合体又は水溶性の重合体であれば限定されない。つまり、合成系の高分子は、水溶性モノマーの単独重合体又は共重合体であってもよく、水溶性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体であっても、共重合体自身が親水性であればよく、合成系の高分子には、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、チオール化ポリマー、カルボキシビニルポリマー、水溶性ポリエステル及び変性ポリアミド等を挙げることができ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)をより好ましく用いることができる。なお、これら合成系の高分子は、可視光下において透明性を有している。

【0035】
また、天然系の高分子としては、例えば、オリゴアガロース、アミロース、澱粉等の多糖類;ゼラチン;コラーゲン;ヒアルロン酸;デキストラン;プルラン;ヒドロキシエチルセルロース;カルボキシメチルセルロース;ポリグルタミン酸、ポリリジン(ポリ-L-リジン)、ポリアスパラギン酸等のポリアミノ酸;アルギン酸;アルギン酸エステル,キチン,キトサン及びペクチン;等を挙げることができ、好ましくは多糖類、又はポリアミノ酸であり、より好ましくは澱粉である。なお、これら天然系の高分子は、可視光下において透明性を有している。

【0036】
(固定化の対象物(細胞等))
第一の形態に係る固定化用組成物には、例えば、固定化の対象物としての細胞が内部に格納されている、または格納し得る。細胞は生細胞でも死細胞でもよい。細胞は、一つ一つの細胞が互いに離間した状態で含まれていてもよく、複数の細胞が集合した状態(例えば、組織の一部や細胞塊等)で含まれていてもよい。細胞の由来は特に限定されず、例えば、大腸菌等の細菌類;動物;植物;酵母等の菌類;等を挙げることができる。細胞は天然由来のものでもよく、又は、幹細胞から分化誘導した細胞、iPS細胞、或いは、iPS細胞から分化誘導した細胞等でもよい。なお、固定化の対象物は特に限定されるものではなく、例えば、細胞に代えて、微生物、RNAおよびDNA(ポリヌクレオチドであってもよい)、酵素、タンパク質、ウイルス等の生物性の材料を固定化してもよいし、非生物性の材料を固定化してもよい。非生物性の材料として、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、金コロイド、銀コロイド、マイクロビーズ、マイクロカプセル、磁性粒子、酸化チタンなどが挙げられる。

【0037】
<2.組成物(第二の形態)>
固定化用組成物は、上記第一の形態に限定されない。例えば、一実施形態(第二の形態)に係る固定化用組成物では、第一の形態の構成に加え、レーザ吸収色素(光吸収体)を含んでいる。

【0038】
上記構成によれば、例えば、乾燥させた固定化用組成物(フィルム)に対してレーザを照射することによって、レーザが照射された位置で熱が発生し(レーザ吸収色素による光熱変換)、当該位置で熱依存性ゲルが溶解する。その結果、レーザ照射のパターンに従って、比較的低エネルギーでかつ安全に、当該フィルムを首尾よく切断することができる。例えば、当該フィルムに包埋された単一細胞、単一菌体、単一微生物等の対象物を好適に単離することができる。かかる単離法は、非接触式かつ非侵襲であるため、対象物へのダメージを最小限に抑制可能である。さらに、この単離法は、従来のマイクロマニピュレータ等を用いた方法と比較して対象物を密閉系で扱えるため、外部からの汚染や、対象物の漏出に由来する事故(例えば、対象物が病原性細菌、又はウイルスである場合の感染被害等)を防止することができる。

【0039】
また、細胞(好ましくは単一細胞)を内包する上記フィルムの切片や当該切片を再膨潤して得られるビーズは、例えば、1)マイクロ流路やカラムに充填して、化学反応リアクタとして用いること。これにより、例えば、抗生物質、サイトカイン、及び組み換えタンパク質等の医薬品を、従来よりも高純度かつ有害な副生物の発生を抑制しながら製造すること、2)シングルセル解析その他の解析に用い、外部からの汚染の影響を抑制した解析を実現すること、3)ガンやウイルス感染(例えば、ヒトパピローマウイルス感染)の細胞診用の試料として用い、試料に由来する事故を抑止すること、4)幹細胞等の細胞移植に用い、細胞に必要な酸素や栄養分等を内部に取り込みつつ、移植の定着に悪影響を及ぼす免疫系分子の侵入を抑止すること、等の応用が考えられる。

【0040】
なお、レーザ吸収色素は、熱依存性ゲルを作製するときにゲル化前の溶液に配合してもよく、熱依存性ゲルを形成した後に当該ゲル内に浸透させてもよい。熱依存性ゲルを形成した後に浸透させる場合は、例えば、水系溶媒にレーザ吸収色素を溶解又は分散した液に熱依存性ゲルを浸漬し、平衡化させることにより熱依存性ゲル内に浸透させる。この場合は、熱依存性ゲル中に膨潤用ポリマーを平衡化により浸透させるときに、併せて浸透させることが好ましい。

【0041】
レーザ吸収色素の含有量は特に限定されず、照射するレーザの波長、強度及びパルス幅、並びに、レーザ吸収色素の量子効率、及び、固定化用組成物(例えば、乾燥させたフィルム)の厚み等に応じて適宜設定すればよいが、熱依存性ゲルを形成した後にレーザ吸収色素を浸透させる場合は、0.1mM~10Mの濃度範囲内でレーザ吸収色素を含む水溶液を用いることが好ましく、1mM~1Mの濃度範囲内であることがより好ましく、5mM~100mMの濃度範囲内であることがさらに好ましい。

【0042】
(レーザ吸収色素)
レーザ吸収色素は、レーザの光を吸収し、当該光を効率よく熱に変換する。固定化用組成物内に略均一に分散させるという観点では、レーザ吸収色素には、アガロース等の熱依存性ゲルと膨潤用ポリマーとに対する相溶性又は分散性が高いものを用いる。このため、レーザ吸収色素は、主に親水性の色素であることが好ましい。また、疎水性の色素を使用する場合、ポリマービーズ内へ疎水性の色素を封入して使用してもよく、界面活性剤によりミセル化(エマルジョン化)して疎水性の色素を使用してもよい。また、疎水性の色素の濃度が低い場合は、水溶液に分散させて使用してもよい。なお、固定化用組成物が微生物や細胞等の生きた材料を包埋している場合、界面活性剤は使用しないか、生きた材料が許容しうる低濃度で使用することが好ましい。なお、「固定化用組成物内にレーザ吸収色素が分散している」とは、熱依存性ゲルとレーザ吸収色素とが予め結合している状態でも、結合していない状態であってもよいが、レーザ吸収色素が熱依存性ゲル内に散在している状態を指す。

【0043】
レーザ吸収色素は、固定化用組成物に包埋されている微生物や細胞(対象物)を観察するための観察光の波長に対して吸収を持たない色素である。これにより、フィルムに包埋されている微生物や細胞等を観察光により観察しつつ、観察光の波長とは異なる波長の光をレーザ吸収色素に吸収させることができる。従って、微生物や細胞等を観察しながら、微生物や細胞等をフィルムから切り出すことができる。微生物や細胞等を観察する場合、観察光に可視光を用いることが好ましい。この場合、レーザ吸収色素には、紫外線、近赤外線、又は赤外線等の可視光外の光線、或いは、観察光とは異なる波長の可視光線を吸収する色素を用いることが好ましい。

【0044】
紫外線を吸収する色素としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、及びトリアジン系の有機色素を挙げることができる。

【0045】
これらのうち、紫外線を吸収する親水性の色素としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-硫酸(HMBS)、ベンゾフェノン-9、及び、p-アミノ安息香酸塩等を挙げることができる。また、紫外線を吸収する疎水性の色素としては、エチルヘキシルメトキシ桂皮酸エステル、エチルヘキシルトリアゾール、オクトクリレン、ベンゾフェノン-3、ベンゾフェノン-4、及び、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル等を挙げることができる。紫外線を吸収する色素を用いれば、エネルギーの高い紫外レーザによって微細加工を好適に行なうことができる。

【0046】
近赤外線又は赤外線を吸収する色素としては、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、ジインモニウム化合物、及びアゾ化合物等を挙げることができる。近赤外線又は赤外線を吸収する親水性の色素としては、例えば、インドシアニングリーンを挙げることができる。また、近赤外線又は赤外線を吸収する疎水性の色素としては、例えば、アズレノシアニン、ヘミポルフィラジン等を挙げることができる。近赤外線、又は赤外線を吸収する色素を用いれば、フィルムに包埋された微生物や細胞に対するレーザの影響を低減することができる。

【0047】
なお、可視光線を吸収する色素としては、有機系の色素として、例えば、アゾ系、キノン系、トリアリールメタン系、シアニン系、フタロシアニン系及びインジゴ系色素を挙げることができ、無機系の顔料として、例えば、金コロイドや酸化鉄等を挙げることができる。

【0048】
<3.組成物(第三の形態)>
固定化用組成物は、上記第一の形態、第二の形態に限定されない。例えば、一実施形態(第三の形態)に係る固定化用組成物は、包埋する対象物として薬剤を用いる。また、本実施形態に係る固定化用組成物は、さらに接着剤を含んでいてもよい。

【0049】
固定化用組成物は、熱依存性ゲルの骨格構造が互いに水素結合することによって形成される、緻密な多孔質構造の内部に均一に薬剤を分散することができる。このため、多孔質構造の孔径を制御することで、固定化用組成物に含まれている薬剤の徐放散性を制御することができる。このため、例えば、界面活性剤等によってミセル化せずとも、或いは、界面活性剤の使用量を低減しても、薬剤を、固定化用組成物中から均一に徐放散することができる。これに対して、例えば、非特許文献5(Liu J, Li L: Eur J Pharm Sci 25:237-244,2005)及び非特許文献6(Jain A et. al., Biomaterials 27:497-504,2006)には、アガロースゲル内にミセル化した抗がん剤や脳由来神経栄養因子(BDNF)を導入したドラックデリバリについて記載されている。しかしながら、非特許文献5及び非特許文献6に記載されているドラックデリバリ剤では、本願の一実施形態に係るアガロースフィルムにくらべ、孔径の大きなアガロースゲル内に、多量の界面活性剤により薬剤をミセル化していることから、当該薬剤がアガロースゲルから徐放散する速度が速くなる。このため、薬剤の効果の持続性を制御することが困難である。また、多量の界面活性剤による生体への悪影響や、界面活性剤に溶けにくい親水性の薬剤には使用困難であること、さらに界面活性剤では不安定な生理活性ペプチド、成長因子、抗体医薬等のペプチド性、タンパク質性の薬剤が変性し、失活するという課題がある。つまり、本実施形態に係る組成物によれば、界面活性剤を使用しないか、又は、界面活性剤の使用量を低減することにより、薬剤の徐放散性を長期に渡り維持することができ、生体内への界面活性剤による悪影響を回避することができ、親水性薬剤や界面活性剤では不安定な薬剤を分散することができる徐放性薬剤及びドラックデリバリ剤を好適に形成することができる。

【0050】
本実施形態において、固定化用ゲルに薬剤を導入するための手順は、第一の実施形態に準じる。すなわち、熱依存性ゲルを所定の温度にて溶解させ、溶液状態からゲル化し、その後、薬剤及び膨潤用ポリマーを配合した薬剤溶液に浸漬し、薬剤及び膨潤用ポリマーを平衡化により、熱依存性ゲルによって構成される多孔質構造の内部に格納する。その後、固定化用ゲルは、薬剤を格納した状態において乾燥する。本実施形態において、固定化用組成物は、薬剤を格納した状態で乾燥した乾燥ゲルの形態であってもよい。乾燥ゲルは、薬剤を格納した状態において乾燥していることから、薬剤の保存安定性に優れる。さらには、固定化用ゲル(含水ゲル)の場合と比較して、乾燥ゲルは、機械的強度に優れ、取り扱いが容易である。なお、乾燥ゲルの形状は、用途に応じて、粒子状やフィルム状等を適宜選択すればよいが、例えば、フィルム状に形成することにより、貼付剤(パッチ)として好適に使用することができる。なお、固定化用ゲルを乾燥ゲルの形態にて、徐放性薬剤やドラッグデリバリ剤に用いる場合でも、生体内に取り込まれる、又は、生体に貼付されることにより、水分を吸収して適度に膨潤した状態となり得る。

【0051】
なお、本実施形態において、固定化用組成物は、乾燥ゲルの形態に限定されず、当該乾燥ゲルを水等によって再膨潤した含水ゲルの形態であってもよい。乾燥ゲルを再膨潤させることにより含水ゲルを形成すれば、薬剤を供給すべき部位の形状に応じて適宜充填することができる充填剤として好適に使用することができる。つまり、固定化用組成物は、薬剤を供給する部位に応じて、適宜、乾燥ゲル又は含水ゲルの形態の何れの形態を採用するかを選択すればよい。固定化用組成物を乾燥ゲルの形態にて使用する場合、膨潤用ポリマーの量を調整することにより、より好適に多孔質構造における孔径を調整することができる。これに対して、含水ゲルの形態にて使用する場合、熱依存性ゲルの濃度を調整することにより、より好適に多孔質構造における孔径を調整することができる。

【0052】
熱依存性ゲルの種類は、生体への親和性に優れ、薬剤徐放用途での使用実績のある合がロース、又は、化学修飾されたアガロースが好ましい。アガロースは化学修飾することにより、ゲル化温度を調整することができることは、第一の実施形態に係る組成物において説明した通りであるが、本実施形態に係る組成物において、熱依存性ゲルのゲル化点は65℃以上(言い換えれば、熱依存性ゲルの溶解温度は、65℃以上)、つまり、ヒトや他の動物等の体温以上の温度であることがより好ましい。これにより、体内に導入した乾燥ゲルが体内に導入されたときに、熱により溶解又は拡散することを防止することができる。

【0053】
(薬剤(対象物))
第三の形態に係る固定化用組成物には、包埋する対象物として薬剤が内部に分散されている、または分散し得る。薬剤としては、例えば、低分子化合物等の非生物性の薬剤であっても、ペプチド製剤、酵素、抗体、又は核酸製剤等の生物性の薬剤であってもよい。薬剤は、より具体的には例えば、抗生物質、鎮痛剤、抗炎症剤等であってもよく、動物、植物、又は微生物由来の酵素であってもよい。また、薬剤は、薬効を有する成分に限定されず、例えば、ビタミン、ミネラル等の栄養成分であってもよい。また、薬剤は、例えば、殺菌剤、殺虫剤、防腐剤等であってもよい。これら薬剤は、水溶性であることが好ましいが、疎水性の薬剤を用いる場合、界面活性剤等を併用することによって水系への分散性を調整してもよい。

【0054】
(接着剤)
本実施形態に係る固定化用組成物は、接着剤を含んでいてもよい。固定化用組成物が接着剤を含んでいることにより、例えば、フィルム状に形成した乾燥ゲルを皮膚組織等に貼着することができる。これにより、薬剤を徐放散する治療用パッチを形成することができる。

【0055】
接着剤は、水溶性を有し、かつ、膨潤した状態において、粘着性を有しているポリマーであり、例えば、上述の膨潤用ポリマーに用いられる合成系の高分子や天然系の高分子等を挙げることができる。ここで、接着性を維持するという観点からは、膨潤用ポリマーの重合度は、2000以下の範囲内において、より高いことが好ましい。また、接着剤として用いるという観点からは、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、アルギン酸、ポリリジン(ポリ-L-リジン)、キチン、アルギン酸エステル等を使用することが好ましい。なお、接着剤としてアルギン酸を用いれば、生体内におけるカルシウム等に対して好適に接着することができる乾燥ゲルを形成することができる。

【0056】
また、本形態に係る固定化用組成物は、その他、可塑剤としてグリセロール、グリセロールエステル、クエン酸エステル等を含んでいてもよい。

【0057】
<4.組成物のその他の形態等>
いずれの形態に係る固定化用組成物においても、レーザ吸収色素(光吸収体)と、包埋される対象物とは異なる物質を指す。また、レーザ吸収色素、及び固定化の対象物は、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とも、膨潤用ポリマーとも異なる物質を指す。

【0058】
また、いずれの形態に係る固定化用組成物も、食品以外の用途に用いられるものであることが好ましい。

【0059】
また、何れの形態に係る固定化用組成物も、観察光(特に可視光)下において、固定化の対象物は視認でき、かつ、膨潤用ポリマー、レーザ吸収色素は実質的に視認できないものであることが好ましい。このとき、熱依存性ゲルは、観察光(特に可視光)下において、無色透明であることが好ましい。

【0060】
<5.製造方法>
本発明に係る組成物の製造方法の一実施形態について、図1を用いてより詳細に説明する。

【0061】
図1の(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る固定化用組成物の製造方法は、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲル10を作製する工程と、上記熱依存性ゲル10の内部に、熱依存性ゲルの骨格構造1を形成する物質とは異なる膨潤用ポリマー(ポリマー)2を浸透させる工程とを含んでいる。膨潤用ポリマー2を浸透させる工程は、例えば、熱依存性ゲル10を、膨潤用ポリマー2を含む液体(例えば、水溶液や水分散液)に浸漬することによって行われる。なお、骨格構造とは、熱依存性ゲルの骨格をなす繊維同士が結合することにより形成される多孔質構造(多孔性構造)と同義である。

【0062】
また、図1の(c)に示すように、本実施形態に係る固定化用組成物の製造方法は、膨潤用ポリマー2を含んだ熱依存性ゲル10を乾燥させる(含水量を低下させる)ことにより、含水量が低下した固定化用組成物(例えば、フィルム11)を作製する工程をさらに含んでいる。

【0063】
さらに、図1の(d)に示すように、(c)で得られたフィルム11を水に浸漬させることにより、含水量が低下した固定化用組成物を再膨潤させてもよい。

【0064】
なお、本実施形態に係る製造方法では、熱依存性ゲル10の骨格構造1を形成する物質として、例えばアガロースを使用する。また、図1の(a)~(d)に示すように、熱依存性ゲル10の骨格構造の内部には、固定化の対象物として、例えば、細胞3が格納されている。なお、熱依存性ゲル10は、細胞3を格納していなくてもよく、例えば、細胞3を格納し得る形態であってもよい。

【0065】
図1の(a)に示すように、熱依存性ゲル10を作製する工程では、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルを作製する。ここで、細胞3(例えば、細胞3を含んでいる培養液)を、ゲル化前の溶液(熱依存性ゲルの原料の水溶液)に配合することにより、熱依存性ゲル10の内部に細胞3を格納する。熱依存性ゲル10の原料としてアガロースを用いる場合、アガロース溶液の濃度は0.1%(w/v)以上で10%(w/v)以下の範囲内であることが好ましく、0.5%(w/v)以上で2%(w/v)以下の範囲内であることがより好ましい。

【0066】
次に、図1の(b)に示すように、熱依存性ゲル10を、膨潤用ポリマー2が溶解又は分散された緩衝液に浸漬し、平衡化を行なう。これにより、熱依存性ゲル10の骨格構造1が持つ細孔に膨潤用ポリマー2を浸透させる。

【0067】
膨潤用ポリマー2を含んだ緩衝液には、膨潤用ポリマー2が、1%(w/v)以上、50%(w/v)以下の範囲内の量にて含まれていることが好ましく、1%(w/v)以上、20%(w/v)以下の範囲内の量、あるいは5%(w/v)以上、20%(w/v)以下の範囲内の量にて含まれていることがより好ましい。熱依存性ゲル10を膨潤用ポリマー2が分散された緩衝液に浸漬するときの条件は、熱依存性ゲル10のゲル濃度(ゲル化前の溶液濃度)、厚み、および大きさ等により適宜調整することができるため、限定されないが、例えば、ゲル濃度が2%(w/v)アガロースで0.5mm厚程度の大きさの熱依存性ゲルであれば、4℃あるいは室温にて終夜浸漬することにより、膨潤用ポリマー2を熱依存性ゲル10の内部に浸透させることができる。

【0068】
その後、図1の(c)に示すように、熱依存性ゲル10を乾燥させることによりフィルム11を作製する。熱依存性ゲル10は、乾燥されることにより、膨潤用ポリマー2と細胞3とをその内部に格納した状態にて、濃縮される。このとき、ゲルの骨格をなす繊維同士の間に水素結合aが形成される。

【0069】
熱依存性ゲル10を乾燥するための条件は、例えば、ゲルが溶解しない程度の加熱による乾燥、又は、減圧条件下に置くことによる乾燥、或いは、それらの併用のいずれの条件であってもよい。

【0070】
その後、図1の(d)に示すように、フィルム11を緩衝液20によって再膨潤させることにより、固定化用ゲル(含水ゲル)12を作製する。緩衝液20に浸漬されることにより、固定化用ゲル12から膨潤用ポリマー2が溶出される。また、緩衝液20に浸漬されることにより、固定化用ゲル12は、水素結合aを部分的に維持しつつ、膨潤する。これにより、固定化用ゲル12は、ゲルの骨格をなす繊維同士が水素結合aすることにより形成される多孔質構造の孔径を調節し、固定化用ゲル12中に格納されている細胞3に供給される酵素や反応基質などの種類を選択することができる。

【0071】
フィルム11を緩衝液に浸漬するときの条件は、元のゲル濃度(熱依存性ゲル10のゲル濃度)、フィルム11の厚み、及び大きさ等により適宜調整することができるため、限定されないが、例えば、元のゲル濃度が2%(w/v)アガロースで0.5mm厚程度の大きさのフィルムであれば、4℃にて10分から1時間浸漬することにより、再膨潤させることができる。

【0072】
(乾燥器50)
なお、本実施形態に係る組成物の製造方法では、熱依存性ゲル10を乾燥させるために、図2に示す、乾燥器50を用いることがより好ましい。

【0073】
乾燥器50は、減圧室51、ロータリポンプ52、フィルタ53、ヒータ54及び減圧ゲージ55を備えている。ロータリポンプ52は、バルブ55aを介して減圧室51に連通している。また、フィルタ53はバルブ55bを介して減圧室51に連通している。

【0074】
乾燥器50では、熱依存性ゲル10を支持フィルム31上に配置し、シャーレ30に格納した状態で、減圧室51に静置する。熱依存性ゲルがアガロースの場合は、支持フィルム31は,表面に水酸基を持つと、乾燥後アガロースが固着し剥離できないため、シリコーンやPETフィルム等、側鎖に水酸基を持たないものが望ましい。その後、バルブ55bを閉鎖し、バルブ55aを開放してロータリポンプ52を稼働させることにより、減圧室51の内部を減圧する。このとき、ヒータ54により、シャーレ30内に載置されている熱依存性ゲル10を加熱する。これにより、熱依存性ゲル10に含まれる水分が蒸発するときに、熱が奪われ、熱依存性ゲル10が凍結することを防止することができる。

【0075】
また、減圧室51における減圧状態を大気圧に戻すときには、バルブ55aを閉鎖し、バルブ55bを開放すれば、フィルタ53を介して空気が、減圧室51に供給される。このため、空気中に含まれる細菌などにより、熱依存性ゲル10が汚染されることを防止することができる。従って、好適に熱依存性ゲル10を乾燥し、フィルムを作製することができる。

【0076】
なお、図1に概略工程を示す、本発明に係る組成物の製造方法の一実施形態において、レーザ吸収色素(図示せず)を用いる場合は、例えば、以下のように行うことができる。図1の(c)及び(d)に示す工程は、レーザ吸収色素を用いるか否かに関わらず同じプロセスとなるので説明は省略する。
1)図1の(a)に示す、熱依存性ゲル10を作製する工程において、熱依存性ゲルを作製するためのゲル化前の溶液に、レーザ吸収色素を配合する。そして、ゲル化前の溶液がゲル化する際に、熱依存性ゲルの内部に、レーザ吸収色素が分散して取り込まれる。
2)図1の(b)に示す、熱依存性ゲル10の内部に膨潤用ポリマー2を浸透させる工程を行うに際して、熱依存性ゲル10の内部にレーザ吸収色素を浸透させる。例えば、水系溶媒(水)にレーザ吸収色素を溶解又は分散した液に熱依存性ゲル10を浸漬し、平衡化させることにより熱依存性ゲル10内にレーザ吸収色素を浸透させる。熱依存性ゲル10中に膨潤用ポリマーを平衡化により浸透させるときに、レーザ吸収色素を併せて浸透させることが好ましいが、膨潤用ポリマーとレーザ吸収色素とを別々に熱依存性ゲル10内に浸透させてもよい。

【0077】
図1に示した以外の、固定化用組成物の製造方法としては、例えば、以下のものが挙げられる。
1)熱依存性ゲルを作製するためのゲル化前の溶液に、膨潤用ポリマーとレーザ吸収色素とを配合する。そして、ゲル化前の溶液がゲル化する際に、熱依存性ゲルの内部に、膨潤用ポリマーとレーザ吸収色素とが分散して取り込まれる。
2)熱依存性ゲルを作製するためのゲル化前の溶液に、膨潤用ポリマーを配合する。そして、ゲル化前の溶液がゲル化する際に、熱依存性ゲルの内部に、膨潤用ポリマーが分散して取り込まれる。レーザ吸収色素をさらに用いる場合は、膨潤用ポリマーが取り込まれた熱依存性ゲルに対して、レーザ吸収色素を浸透させる。例えば、水系溶媒(水)にレーザ吸収色素を溶解又は分散した液に熱依存性ゲルを浸漬し、平衡化させることにより熱依存性ゲル内にレーザ吸収色素を浸透させる。

【0078】
<6.切り出し方法>
次に、本発明の一実施形態に係る切り出し方法について、より詳細に説明する。本実施形態に係る切り出し方法は、<2.組成物(第二の形態)>に係る固定化用組成物を用いて行なう。また、図1の(a)~(d)に示す、<4.製造方法(第一の実施形態)>に係る組成物の製造方法と同じ工程を行い、これらの工程のうち、図1の(c)に示す工程の後で、(d)に示す工程の前に、フィルム11(乾燥された固定化用組成物)から切片を切り出す。

【0079】
図3の(a)に示すように、本実施形態に係る切り出し方法では、支持部32に設けられている接着層32aを介して支持部32に固定された状態で、フィルム11にレーザ光を照射する。なお、支持部32に固定されたフィルム11は、例えば、石英ガラス等のふた42が付いた容器43の内側に配置され、レーザ照射装置60を用いて、当該容器43の外部から石英ガラス等のふた42を介してレーザ光が照射される。切断後、不必要なフィルム11を剥がすことにより、目的のフィルム片(切片11a)のみが接着層32a上に残る。これにより、密閉系にて、フィルム11から切片11aを切り出すことができる。なお、不必要なフィルム11を剥がす操作は、例えば、クリーンベンチやバイオセーフティキャビネット中で作業者が剥離することにより、環境中の微生物の混入を防ぎつつ、簡便に除去することができる。

【0080】
フィルム11はレーザ吸収色素(図示せず)を含んでいる。仮に熱依存性ゲル10にレーザを照射した場合、レーザ吸収色素の光熱変換によって生じる熱は、ゲルの融解と、水分の蒸発に伴う気化熱とに消費される。融解したゲルは、レーザ照射終了とともに固化し、再接着する虞もある。しかし、フィルム状に乾燥させた熱依存性ゲル10(フィルム11)において、レーザ照射を受けたレーザ吸収色素の光熱変換によって生じる熱は、水の気化熱に消費されることは実質的にない。そのため、レーザ光照射によって、衝撃波を与えつつ、効率よくフィルム11を局所的かつ瞬時に加熱爆散させ、表面をエッチングし、切断できる(アブレーション)。また、爆散したフィルム微粒子は、乾燥しているために互いの融着が起こり難い。このため、フィルム状に乾燥させておけば、含水ゲルを切断する場合よりも、効率的に、ゲルを切断することができる。

【0081】
また、フィルム11に含まれているレーザ吸収色素が吸収する光の波長と、フィルム11を観察するための観察光の波長とは異なるため、フィルム11に含まれている細胞等を観察しながら、切り出し操作を行なうことができる。

【0082】
支持部32は、例えば、石英,ガラス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、又はシクロオレフィン等のレーザ非吸収性で低蛍光の板材を用いることができ、また、支持部32に形成された接着層32aは、例えば、シリコーンや,ポリアクリル酸等のレーザ非吸収性で透明な、低蛍光の粘着剤により形成されている。これにより、フィルム11の切片11aを切り出すときに、レーザ光の衝撃波によって当該切片11aが任意の方向に飛ばされ、消失されることを防止することができる。

【0083】
レーザ照射装置60は、フィルム11に含まれているレーザ吸収色素の種類に応じて、レーザ光の波長を選択すればよく、例えば、YAGレーザ、色素レーザ、He-Neレーザ、Arレーザ、COレーザ、Nガスレーザ、ルビーレーザ及び半導体レーザなどを用いることができる。また、QスイッチNd:YAGレーザ、エキシマレーザなど微細加工用のレーザを用いてもよい。

【0084】
その後、図3の(b)に示すように、フィルム11の切片11aが固定化された接着層32aを支持部32より剥がし、透明なレーザ吸収フィルム34上に貼り付ける。これをフィルム11の切片11aが下を向くようにして、載置台33上に載置し、切片11aの固定箇所に背向するレーザ吸収フィルム34上の領域に、レーザ光を照射する。レーザによってレーザ吸収フィルム34に生じる衝撃波を利用し、密閉系においてマイクロチューブ40内に切片11aを落下させることができる。従って、切り出された切片11aを非接触的、かつ特異的に回収することができ、接触に伴う汚染を防止することができる。

【0085】
レーザ吸収フィルム34としては、例えば、レーザ光の波長に応じ、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)などの紫外線吸収性ポリマー;レーザ吸収色素が添加されたポリマーフィルム;等が挙げられる。

【0086】
<7.キット>
本実施形態に係るキットは、上述の<1.組成物(第一の形態)>、<2.組成物(第二の形態)>、<3.組成物(第三の形態)>、又は、<4.組成物のその他の形態等>に記載の組成物を製造するためのキットである。

【0087】
このキットは、必須の構成要素として、上記熱依存性ゲルの原料粉末(例えば、低融点アガロース等)と、上記膨潤用ポリマーとを備えている。このキットはさらに、必要に応じて、ゲル成型用の型(ゲルキャスト型等)を備えている。このキットはさらに、必要に応じて、上記レーザ吸収色素を備え、さらにレーザ照射装置等を備えていてもよい。

【0088】
このキットはさらに、上述の何れかの組成物を製造するためのマニュアルを備えていてもよい。マニュアルには、例えば、上述の<5.製造方法>、または<6.切り出し方法>の欄に記載された手順が記録されている。マニュアルの形態は特に限定されず、例えば紙などの媒体に印刷されたものでもよいし、記録媒体に電子的に記録されたものでもよい。

【0089】
本実施形態に係るキットを用いれば、細胞や微生物等の対象物を内包し、例えばナノメートルオーダーで孔径が制御された固定化用ゲルを提供することができる。さらに、これら対象物を、環境中の汚染から防ぎつつ、非接触で単離することが可能な固定化用ゲルを提供することができる。その結果、例えば、周囲との物質交換が制御された、対象物(細胞など)のみを内包するマイクロビーズを簡便に作製できるようになる。

【0090】
<8.反応方法>
次に、本発明の一実施形態に係る反応方法について、より詳細に説明する。本実施形態に係る反応方法は、上述の<1.組成物(第一の形態)>、<2.組成物(第二の形態)>、又は、<4.組成物のその他の形態等>に記載の固定化用組成物の内部で反応を行う方法であって、上記組成物の内部へ反応物を導入する工程と、上記組成物の内部で反応物を用いた反応を行う工程とを含んでいる。より具体的な一例では、固定化用組成物の内部で反応基質を反応させる方法であって、当該固定化用組成物の内部へ反応基質を導入する工程と、当該固定化用組成物の内部で反応基質を用いた反応を行う工程とを含んでいる。なお、固定化用組成物は、水で再膨潤してなる含水ゲルの形態であることが好ましい。

【0091】
反応方法は、例えば、図10の(a)に示すように、細胞(対象物)3aを導入した固定化用ゲル13をカラム21に充填し、当該カラム21に反応物を通過させることにより生成物を得る、いわゆるバイオリアクターであり得る。

【0092】
また、反応物の種類は、固定化用組成物の内部に固定化されている対象物(細胞、微生物等の生物性の材料、或いは非生物性の材料)の種類に応じて適宜選択すればよい。また、反応物を用いた反応により得られた生成物は、そのサイズ(分子量や大きさ)に応じて、固定化用組成物の外側に拡散するか、固定化用組成物の内側に蓄積される。

【0093】
固定化用組成物の内側に蓄積された生成物は、例えば、加熱することによって固定化用組成物を溶解させることで容易に取り出すことができる。なお、反応物とは、例えば、反応基質、触媒、助触媒、溶媒、DNAプローブ、RNAプローブ、抗体、蛍光色素、アビジン、ビオチン、等、反応に関係する物質を意図している。反応方法の一形態は、例えば、図10の(b)に示すように、固定化用ゲル14に細胞3cを格納して、固定化用ゲル14内において、遺伝子増幅を行う形態であり得る。得られた遺伝子増幅産物を抽出してDNAシーケンサにアプライすることによって、一細胞単位での遺伝子解析を行うことができる。DNAシーケンサは、例えば、HiSeq2000(Illumina社)、Genome Analyzer IIx(Illumina社)、及び、Genome Sequencer-FLX(Roche社)等の、次世代DNAシーケンサでありうる。

【0094】
また、図10の(b)に示すように、反応方法の一形態は、例えば、固定化用ゲル15は、単離した細胞3cが感染しているウイルスが、固定化用ゲル15の外部に拡散することを防止するように多孔質構造の孔径を制御することもできる。これにより、ウイルスによる二次感染を防止しつつ、単離した細胞の診断を行なうことができる。また、図10の(d)に示すように、固定化用ゲル15は、多孔質構造の孔径を制御することにより、格納された細胞3cに酵素や栄養分等を供給しつつ、抗体や免疫系分子等が固定化用ゲル15内に侵入することを防止することもできる。よって、固定化用組成物は、細胞移植においても好適に使用することができる。

【0095】
また、図10の(e)に示すように、一形態において固定化用ゲル16は、薬剤3dを徐放散するドラッグデリバリとして使用することができる。より具体的には、図11の(a)に示すように、口腔内において、フィルム状に成形した固定化用ゲルを乾燥した乾燥ゲル16aを、パッチとして歯茎周辺に貼着することにより、薬剤3dを歯周組織に向かって放散させつつ、口腔内細菌が歯周組織に侵入することを好適に防止することができる。また、このパッチは、酸素や栄養分の歯周組織への供給を遮断することもない。ここで、固定化用組成物により形成された乾燥ゲルは、口腔内の水分を吸収して適度に膨潤して、飽和膨潤状態の含水ゲルを用いる場合よりも、長期に渡る徐放散性を維持することができるのみならず、高い機械的な強度を得ることができる。よって、歯磨きや食事等を行なったときに、乾燥ゲルが一度に除去されることなく適度に崩壊しながら、薬剤3dを歯周組織に向かって放散することができる。また、図11の(b)に示すように、水で再膨潤した固定化用ゲル(含水ゲル)16bを充填剤として虫歯における治療部位に充填し、歯科用セメント22によって治療箇所を封止すれば、歯根管に対して薬剤3dを長期に渡って徐放散することができる。このため、殺菌効果を高めることができ、虫歯の治療回数を削減することができる。このように、固定化用組成物から形成される乾燥ゲル(フィルム)及び含水ゲル(固定化用ゲル)は、歯周病治療や歯根管治療のような、歯科治療に好適に使用することができる。

【0096】
なお、本明細書には、上記の課題を解決するために、以下の発明も記載されている。
1)所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルと、上記熱依存性ゲルの内部に含まれ、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なるポリマーと、を含む、組成物。
2)さらに、上記熱依存性ゲルの内部に分散されている光吸収体を含み、上記光吸収体が光を吸収して発生する熱によって、上記熱依存性ゲルが溶解して切断されるように構成されている、1)に記載の組成物。
3)上記光吸収体はレーザ光を吸収し、当該レーザ光の波長は可視光外の領域である、1)または2)に記載の組成物。
4)上記光吸収体、及び上記ポリマーの少なくとも一方は水溶性である、1)から3)の何れかに記載の組成物。
5)熱依存性ゲルの多孔性構造と上記ポリマーとは、架橋剤を介して架橋していない、1)から4)の何れかに記載の組成物。
6)上記熱依存性のゲルは、アガロースゲル、カラギナン、寒天、コラーゲン、及びゼラチンからなる群より選択される少なくとも一種である、1)から5)の何れかに記載の組成物。
7)上記ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミノ酸、及び多糖類から選択される少なくとも一種の水溶性ポリマーである、1)から6)の何れかに記載の組成物。
8)内部に、包埋の対象物が格納されている、または格納し得る、1)から7)の何れかに記載の組成物。
9)包埋の対象物が、微生物、細胞、ウイルス、ポリヌクレオチド、酵素、及びタンパク質からなる群より選択される生物性の材料であるか、カーボンナノチューブ、フラーレン、金コロイド、銀コロイド、マイクロビーズ、マイクロカプセル、磁性粒子、及び酸化チタンからなる群より選択される非生物性の材料である、8)に記載の組成物。
10)乾燥されている、1)から9)の何れかに記載の組成物。
11)上記の1)~10)の何れかに記載の組成物を水で膨潤してなる、含水ゲルの形態の組成物。
12)上記の1)~10)の何れかに記載の組成物に対して、上記光吸収体に吸収される光を照射する工程を含む、組成物の切断方法。
13)上記の1)~10)の何れかに記載の組成物を水で膨潤させる工程を含む、含水ゲルの形態の組成物の製造方法。
14)上記の1)から11)の何れかに記載の組成物の製造方法であって、所定の温度を境として溶液状態からゲル化する熱依存性ゲルを作製する工程と、上記熱依存性ゲルに、熱依存性ゲルの多孔性構造を形成する物質とは異なるポリマーを浸透させる工程とを含む、製造方法。
15)上記の1)から11)の何れかに記載の組成物の内部で反応を行う方法であって、上記組成物の内部へ反応物を導入する工程と、上記組成物の内部で反応物を用いた反応を行う工程とを含む、方法。
16)上記の1)から11)の何れかに記載の組成物を製造するためのキットであって、上記熱依存性ゲルの原料粉末と、上記ポリマーと、上記光吸収体と、を備えている、キット。

【0097】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0098】
〔参考例1:アガロースフィルムの作製〕
参考例1として、大腸菌を包埋したアガロースゲルを作製し、乾燥させることによりアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0099】
(アガロースゲル成型用の型の作製)
アガロースゲル成型用の型は、カバーガラス(18mm×18mm:松浪ガラス製, No.1)の一面における対向する2辺上に2つのシリコーン製スペーサ(2mm×20mm,厚さ0.5mm)を平行に置き、これをスペーサを下側としてPETフィルム(25mm×25mm, 東レ, ルミラー, 厚さ50μm)上に設置することで作製した(図4の(a)も参照)。作製した型は、約45℃に保温した。
【実施例】
【0100】
(アガロースゲルの調製)
Milli-Q精製水(ミリポア)に低融点アガロース(SeaPlaque GTG, ロンザ社)を加熱溶解し、2%(w/v)濃度のアガロース溶液を調製した。このアガロース溶液に、終濃度8mM NaOHと10mM HMBS(東京化成:光吸収体)とを添加し、よく混和した。これに、生細胞染色試薬カルセイン-AM(ライフテクノロジー社)で染色した、終夜培養した大腸菌DH5α溶液を約1/10,000(v/v)量添加し、45℃で保温して、ゲル作製用溶液とした。
【実施例】
【0101】
アガロースゲル成型用の型に、上記のゲル作製用溶液を50μL流し入れ、遮光条件下、室温にて1時間静置し、ゲル化した。これにより、大腸菌を包埋したアガロースゲルを作製した(図4の(a)及び(b)も参照)。
【実施例】
【0102】
(アガロースゲルの乾燥)
次いでシリコーン製スペーサ及びカバーガラスを外した後、60℃に加熱しつつ、約10分間真空乾燥して、アガロースゲルを乾燥させ、フィルム化した。(図4の(d))。これにより、アガロースゲルから、参考例1のアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0103】
〔参考例2:単一菌体の切り出し〕
次に、参考例1のアガロースフィルムを、HMBSに吸収されるレーザ光を照射することによって切り出すことで、フィルムに包埋された大腸菌DH5αの単一菌体を切り出した(図4の(e))。
【実施例】
【0104】
単一菌体を切り出すための手順は以下に示す通りである。
【実施例】
【0105】
中央部に5mm×5mmの孔を設けたシリコーンシート(20mm×20mm,厚さ0.5mm)をスライドガラス上に設置した(図4の(e),図6の(a))。
【実施例】
【0106】
次いで、シリコーンシートに設けた孔を覆うように、アガロースフィルムをシリコーンシート上に貼り付けた。これにより、アガロースフィルムを固定した(図4の(e),図6の(a))。
【実施例】
【0107】
これをレーザーマイクロダイセクション装置(ライカ社,ASLMD)にセットし、可視光による透過観察、及び蛍光観察(励起465-495nm,蛍光500-530nm)により、カルセイン-AMによって染色された大腸菌DHαの単一菌体を特定した。図6の(b)は、アガロースフィルム内に包埋された大腸菌DH5αの単一菌体を撮影した結果を示す図である(紙面向かって左側:蛍光像、右側:透過像)。アガロースフィルムに包埋された単一菌体の切り出しは、図6の(b)に示す点線部(約100μm×100μm)において、レーザ照射によってアガロースフィルムを切り取ることで行なった。レーザ照射は、上述のレーザーマイクロダイセクション装置の窒素ガスパルスレーザ(波長337nm,周波数30Hz,パルス幅4ns,300mJ,出力6mW)にて行なった。なお、図6の(c)は、窒素ガスレーザにて、所定の切片を切り出した後の状態のアガロースフィルムの透過像である。
【実施例】
【0108】
レーザ照射後、切り取ったアガロースフイルムの切片をスライドガラス上に回収し、蛍光像、及び透過像を撮影した。図6の(d)に示すように、矢印の先端部において、アガロースフイルムの切片に包埋された大腸菌DH5αの単一菌体を確認した(紙面向かって左側:切り出した切片の平面部の蛍光像,中央:切り出した切片の平面部の透過像,右側:切片の側面における蛍光像)。
【実施例】
【0109】
〔実施例1~4、比較例、及び参考例:アガロースフィルムの膨潤によるゲルの孔径の制御〕
(実施例1)
参考例1と同様にして、アガロースゲル成型用の型を作製した。このアガロースゲル成型用の型に、2%(w/v)アガロース-0.1×TE緩衝液(1mM トリス緩衝液(pH7.6)/0.1mM EDTA/Milli-Q)120μLを注入し、ゲル化させた。ゲルを型から外した後、10%(w/v) PVA500(Wako:ポリビニルアルコール、膨潤用ポリマーとして使用)-37mM HMBS-50mM NaOH-0.1×TE 2mLに浸漬し、遮光下、4℃で、終夜PVA及びHMBSをゲル内に浸透させた。次いで、ゲルをMilli-Qで3回洗浄した後、シリコーンシート上で、遮光下、37℃、8時間乾燥させて、PVA及びHMBSを含むアガロースフィルムを作製した。なお、以下、全ての実施例、比較例、参考例において使用したアガロースは、参考例1で用いたものと同じである。
【実施例】
【0110】
(実施例2)
また、10%(w/v) PVA500の代わりに、20%(w/v) PVP K-25(Wako:ポリビニルピロリドン(膨潤用ポリマー))を用いた以外は、実施例1と同様にして、PVP及びHMBSを含むアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0111】
(比較例1)
比較例1として、10%(w/v) PVA500を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PVAは含まずHMBSを含むアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0112】
(参考例3)
参考例3として、10%(w/v) PVA500の代わりに、40重量% トレハロース(Wako)を用いた以外は、実施例1と同様にして、トレハロース及びHMBSを含むアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0113】
(実施例3)
実施例3として、10%(w/v) PVA500の代わりに、5%(w/v) アルギン酸ナトリウム(Sigma)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アルギン酸ナトリウム及びHMBSをアガロースゲル内に浸透させた。次いで、アガロースゲルをMilli-Qで洗浄した後、0.5MのCaCl水溶液に浸漬して、アガロースゲル内に浸透しているアルギン酸ナトリウムをゲル化した。次いで、このアガロースゲルをMilli-Qで3回洗浄した後、シリコーンシート上で、遮光下、37℃、8時間乾燥させて、アガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0114】
(実施例4)
実施例4として、10%(w/v) PVA500の代わりに、40%(w/v) PEG 6000(Wako)を用いた以外は、実施例1と同様にして、PEG及びHMBSを含むアガロースフィルムを作製した。
【実施例】
【0115】
図5は、実施例1~4、参考例3、並びに比較例1のアガロースフィルムを撮像した結果を示す図である。図5に示されるように、PVAを含んでいる実施例1のアガロースフィルム(PVA500)、及び、PVP(K-25)を含んでいる実施例2のアガロースフィルムは、これら水溶性ポリマーを含んでいない比較例1のアガロースフィルム(Control)及び、トレハロース等を用いた参考例3、実施例3~4のアガロースフィルムと比較して、可視光下における透明性が高い結果となった。また、参考例3、実施例3~4のアガロースフィルムにくらべ,実施例1及び実施例2のアガロースフィルムは適度な柔軟性が付与され、破損せずに取り扱うことができ,取り扱い性が向上した。また、実施例1及び実施例2のアガロースフィルムは、特に比較例1にくらべ、フィルム全体が均一に乾燥しており、フィルムの形状に歪が少ないことが目視にて確認できた。なお、実施例3及び実施例4のアガロースフィルムも、比較例1や参考例3との比較では、明らかに、フィルム全体の均一な乾燥性の観点では優れていた。
【実施例】
【0116】
次に、参考例2に記載した方法によって切り出した、実施例1、実施例2、及び比較例1のアガロースフィルムの切片を、4℃にて1時間、1×TE緩衝液に浸漬することによって再膨潤し、得られたアガロースゲルにおける厚みを側面の透過像から評価した。なお、比較例1のアガロースフィルムは、その透明部分から切片の切出しを行ったが、ほぼ再膨潤が見られなかった。
【実施例】
【0117】
また、再膨潤の実験とは別に、PVAを含んでいない比較例1のアガロースフィルム(膜厚18±2μm)と、比較例1の方法によるアガロースゲル(厚み約500μm:HMBS等を浸透させる前のもの)とを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。アガロースフィルムとアガロースゲルは、順次30,50,70,90(v/v)% エタノール-Milli-Qに1時間、1回ずつ、及び99.5% エタノールに1時間、3回ずつ浸漬して脱水した。さらに順次30,50,70,90(v/v)% t-ブチルアルコール-Milli-Qに1時間、1回ずつ、および100% t-ブチルアルコールに1時間、3回ずつ浸漬して置換した。これらをt-ブチルアルコールに浸し、-20℃、1時間凍結後、2時間真空乾燥した。これら試料上にオスミウムを2.5nmコートした後、走査電子顕微鏡(SEM,JEOL,JSM-6330F)にてアガロース孔径を観察した。得られたSEM画像よりアガロース孔径を、Image J(NIH)にて計測した。
【実施例】
【0118】
その結果、比較例1の方法によるアガロースゲルは、95.3±39.5nmの孔径を有する多孔性を示したが、比較例1のアガロースフィルムは、ほぼ隙間なくアガロース繊維が密着し、約6.2±2.5nmの微細な孔径を示した。すなわち、比較例1のアガロースフィルムは、アガロース繊維間の水素結合に起因すると推定されるアガロース繊維同士の高い密着性によって、高い透明性を示す反面、低い再膨潤性を示すと考えられる。
【実施例】
【0119】
一方、実施例1や実施例2のアガロースフィルムは、所定の時間、TE緩衝液に浸漬するとフィルム中に含まれたPVAやPVP等の水溶性ポリマーが溶解し、フィルム外に溶出される。この状態において、アガロースフィルム(再膨潤してゲル化している)は水溶性ポリマーが実質的に取り除かれており、且つ、TE緩衝液が浸透することによりゲルへと再膨潤している。
【実施例】
【0120】
今、乾燥前後における、アガロースゲルの厚み(x:単位μm)と孔径(y:単位nm)の関係は、以下のように求められる。
【実施例】
【0121】
【数1】
JP2016210992A_000002t.gif
【実施例】
【0122】
ここで、x、y、及びx、yはそれぞれ、乾燥して得たアガロースフィルムおよび乾燥前のアガロースゲルの、厚みと孔径である。SEMの結果より(1)式は、以下のように導かれる。
【実施例】
【0123】
【数2】
JP2016210992A_000003t.gif
【実施例】
【0124】
そして、実施例1~2と比較例1とで用いたアガロースの量は同じであるから、PVA等の水溶性ポリマーが溶出して再膨潤したアガロースゲルの孔径を、例えば、(2)式によって算出することができる。
【実施例】
【0125】
実施例1及び実施例2並びに比較例1のアガロースゲルの厚みと、各ゲルの孔径とを図7に示す。図7に示すように、実施例1のアガロースゲル(PVA)及び実施例2のアガロースゲル(PVP)の再膨潤前後における厚みは、比較例1のアガロースゲル(Control)の再膨潤前後における厚みよりも著しく大きい。これに基づき算出された実施例1のアガロースゲル(再膨潤後)の孔径は約43.4nm、実施例2のアガロースゲルの孔径は約40.0nmであり、比較例1のアガロースゲル(再膨潤後)の孔径は、約7.2nmであった。
【実施例】
【0126】
なお、上記(1)式の傾き(a)と切片(b)とは、作製する熱依存性ゲルごとに相違する。但し、作製する熱依存性ゲルごとに同様の作業を行えば、膨潤用ポリマーを用いて調整した後のゲルの孔径を算出することができる。また、同じ熱依存性ゲルを用いる場合は、上記(1)式や(2)式を用いて孔径の評価ができるものの、必ずしも一次式で近似する必要はなく、他の正の相関式で近似してもよい。
【実施例】
【0127】
〔実施例5:アガロースゲル内における反応の制御〕
アガロースフィルムを再膨潤させて得たアガロースゲルを用いて、酵素増幅の制御を行なった。
【実施例】
【0128】
参考例1に記載の方法に従い大腸菌DH5αを包埋したアガロースゲルを作製し、次いで実施例1に記載の方法に従い、このアガロースゲルを、10%(w/v) PVA500(Wako:ポリビニルアルコール)-37mM HMBS-50mM NaOH-0.1×TE 2mLに浸漬し、Milli-Q洗浄後、乾燥することで、PVA及びHMBSを含む大腸菌包埋アガロースフィルム(実施例5のアガロースフィルム)を作製した。
【実施例】
【0129】
得られた大腸菌包埋アガロースフィルムから、参考例2に記載の方法に従って、約100μm角のフィルム片をレーザーマイクロダイセクション装置で切り出した。使用した器具はすべて火炎、UV処理(約5cmの距離から,90W,15分照射)、あるいはオートクレーブにより、DNAを除去した。使用した酵素増幅キット以外の試薬は、オートクレーブ、あるいは0.2μm滅菌フィルターを通して濾過滅菌した。
【実施例】
【0130】
切り出したフィルム片は、1,000倍希釈サイバーグリーンI(ライフテクノロジーズ社)-Milli-Q溶液20μLに、遮光下、4℃で、1時間浸漬し、ゲルへの再膨潤、脱塩、およびDNA染色を行った。一度、蛍光顕微鏡で大腸菌DNAを確認した後、得られたアガロースゲルをREPLI-gウルトラファストミニキット(キアゲン社)を用いてアルカリ変性し、中和した後、このアガロースゲルをφ29DNAポリメラーゼを含む反応液に浸漬することで、大腸菌のゲノムDNAを酵素増幅した。アガロースゲルのアルカリ変性及び中和は、4℃にて1時間ずつ行ない、酵素増幅は30℃にて終夜行なった。反応後のゲルは滅菌したMilli-Qで洗浄して反応を停止させ、サイバーグリーンI溶液で染色し、蛍光顕微鏡IX71(オリンパス社製)で蛍光観察した(図8)。
【実施例】
【0131】
なお、参考例1のアガロースフィルム(比較用のアガロースフィルム:PVA非添加)についても、上述した実施例5のアガロースフィルムと同じ条件にて、切片の切り出し、ゲルへの再膨潤、大腸菌のゲノムDNAの酵素増幅を行なった。
【実施例】
【0132】
図8に示すように、PVAを添加している、実施例5のアガロースフィルム(PVA)から得たゲルでは、特異的な大腸菌DNAの増幅が見られた。
【実施例】
【0133】
これに対して、PVAを添加していない、比較用のアガロースフィルム(Control)から得たゲルでは、ゲル内に包埋された大腸菌の染色体DNAが酵素反応しなかった。
【実施例】
【0134】
これらの結果は、実施例5のアガロースフィルムを膨潤して得たゲルは、数10nmの孔径を有しており、酵素や反応基質をゲル内部に浸透させることができたためであると判断される。これに対して、参考例1のアガロースフィルム(比較用のアガロースフィルム)を膨潤して得たゲルは、孔径が数nmと小さいため,酵素や反応基質をゲル内に浸透させることができず、酵素増幅させることができなかった。
【実施例】
【0135】
以上の一連の評価結果から、アガロースゲル内部に単一の菌体を包埋し、膨潤用ポリマーを含ませ、乾燥した後、再膨潤させることにより,孔径を制御した、固定化微生物ビーズを作製できることを確認した。
【実施例】
【0136】
〔参考例4〕
参考例1に従い、終濃度0、1mM、または10mM HMBSを5%(w/v)アガロースに添加し、同様にフィルム化した後、参考例2に従って、約100μm径のアガロースフィルムをレーザーで切り出した。その結果、図9に示すように、HMBSの添加量に応じ、アガロースフィルムが切断された。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、例えば、微生物や細胞等を固定化する固定化用ゲルに利用することができ、ライフサイエンス研究や医療用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 骨格構造(多孔性構造)
2 膨潤用ポリマー(ポリマー)
3 細胞(対象物)
3a 細胞(対象物)
3c 細胞(対象物)
3d 薬剤(対象物)
10 熱依存性ゲル
11 フィルム(乾燥されている組成物)
12 固定化用ゲル(含水ゲル)
13 固定化用ゲル(含水ゲル)
14 固定化用ゲル(含水ゲル)
15 固定化用ゲル(含水ゲル)
16 固定化用ゲル(含水ゲル)
16a 乾燥ゲル
16b 固定化用ゲル(含水ゲル)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図10】
4
【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
9
【図9】
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