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明細書 :神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年5月25日(2017.5.25)
発明の名称または考案の名称 神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61K  35/761       (2015.01)
A61P  25/28        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI A61K 48/00 ZNA
A61K 37/02
A61P 25/00
A61K 35/761
A61P 25/28
C12Q 1/68 A
A61P 43/00 107
C12N 15/00 G
A01K 67/027
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 38
出願番号 特願2016-531427 (P2016-531427)
国際出願番号 PCT/JP2015/069032
国際公開番号 WO2016/002854
国際出願日 平成27年7月1日(2015.7.1)
国際公開日 平成28年1月7日(2016.1.7)
優先権出願番号 2014136979
優先日 平成26年7月2日(2014.7.2)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】岡澤 均
出願人 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4C084
4C087
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
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4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA021
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4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZC411
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4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZC41
要約 PQBP-1をコードする所定のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法を提供する。
神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする配列番号1記載の塩基配列を有するDNA等、又はこれらDNA等がコードするポリペプチドを有効成分として含有する。また、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする配列番号1記載の塩基配列を有するDNA等、又はこれらDNA等がコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
特許請求の範囲 【請求項1】
polyglutamine-tract binding protein1(PQBP-1)をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進することができるDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ神経幹細胞の増殖を促進することができるDNA
【請求項2】
前記神経幹細胞の増殖の促進は、細胞周期の延長の抑制によるものである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
PQBP-1をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列からなるDNA
【請求項4】
PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA
【請求項5】
PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA
【請求項6】
前記DNAがベクターに組み込まれている請求項1から5いずれか記載の製剤。
【請求項7】
神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、
前記被験物質が投与された前記動物細胞又はヒトを除く動物の、内在性PQBP-1の発現量又はPQBP-1による神経幹細胞増殖促進の程度を測定する工程と、
前記測定結果に基づいて、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
【請求項8】
シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、
前記被験物質が投与された前記動物細胞又はヒトを除く動物の、内在性PQBP-1の発現量又はPQBP-1によるシナプス後部形成の促進の程度を測定する工程と、
前記測定結果に基づいて、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
polyglutamine-tract binding protein1(以下、本明細書において、PQBP-1と称する)は、変性疾患ポリグルタミン病において中間病態を担うタンパク質であることが、従来知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このPQBP-1遺伝子の変異が、X染色体連鎖知的障害/精神遅滞家系(XLID/XLMR)で高頻度に見つかり、PQBP-1が知的障害の主要な原因遺伝子であり得ることが報告されている(例えば、非特許文献2を参照)。また、PQBP-1がRNAのスプライシングに関わり得ることが報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Waragai et al.,“PQBP-1, a novel polyglutamine tract-binding protein, inhibits transcription activation by Brn-2 and affects cell survival”,Hum Mol Genet,1999;8(6):p.977-987
【非特許文献2】Kalscheuer et al.,“Mutations in the polyglutamine binding protein 1 gene cause X-linked mental retardation”,Nature Genetics 2003;35(4):p.313-315
【非特許文献3】Okazawa et al.,“Interaction between Mutant Ataxin-1 and PQBP-1 Affects Transcription and Cell Death”,Neuron,2002;34:p.701-713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、PQBP-1が知的障害の原因遺伝子である可能性や、RNAのスプライシングに関わることが報告されているが、PQBP-1がいかなる知的障害と実際に関連していることは未だに不明である。
【0006】
本発明は、PQBP-1をコードする所定のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、神経幹細胞の細胞周期が長くなること、及び、シナプス後部形成が減少することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)polyglutamine-tract binding protein1(PQBP-1)をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進することができるDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ神経幹細胞の増殖を促進することができるDNA
【0009】
(2)前記神経幹細胞の増殖の促進は、細胞周期の延長の抑制によるものである、(1)記載の製剤。
【0010】
(3)PQBP-1をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列からなるDNA
【0011】
(4)PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA
【0012】
(5)PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA
【0013】
(6)前記DNAがベクターに組み込まれている(1)から(5)いずれか記載の製剤。
【0014】
(7)神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、
前記被験物質が投与された前記動物細胞又はヒトを除く動物の、内在性PQBP-1の発現量又はPQBP-1による神経幹細胞増殖促進の程度を測定する工程と、
前記測定結果に基づいて、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
【0015】
(8)シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、
前記被験物質が投与された前記動物細胞又はヒトを除く動物の、内在性PQBP-1の発現量又はPQBP-1によるシナプス後部形成の促進の程度を測定する工程と、
前記測定結果に基づいて、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PQBP-1をコードする所定のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する、神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、シナプス後部形成の促進に用いられる製剤、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤、及びスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】PQBP-1遺伝子が変異した患者の脳形状を磁気共鳴画像により解析した画像を示す図である。図1中、(a)は水平面の画像であり、(b)は冠状面の画像であり、(c)は矢状面の画像を示す。
【図2】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)のそれぞれの脳の写真である。
【図3】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)の脳の質量を示すグラフであり、(a)は雄のマウスについてのグラフであり、(b)は雌のマウスについてのグラフである。
【図4】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)の脳の写真である。
【図5】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウスの脳の質量を示すグラフであり、(a)は雄のマウスについてのグラフであり、(b)は雌のマウスについてのグラフである。
【図6】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウス(2ヶ月)のそれぞれの冠状面の写真であり、(a)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄成体マウスについての写真であり、(b)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄成体マウスについての写真であり、(c)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雌成体マウスについての写真であり、(d)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雌成体マウスについての写真である。
【図7】BrdUを妊娠マウスに腹腔内注射してから24時間後の、神経新生の細胞数、幹細胞プール中に残っている細胞数、ラベルされてない神経幹細胞の数の相対的な割合のグラフである。
【図8】TUNEL染色による、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていないNestin-Creマウスの、大脳皮質の細胞死のレベルのグラフである。
【図9】(a)は、野生型マウスと、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、APC4が形質転換された野生型マウスと、APC4が形質転換された、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスの、それぞれのE14の胚から準備した神経幹細胞の増殖を示すグラフである。(b)は、それぞれのマウスの胚における、APC4、PQBP-1、Cyclin B、GAPDHの発現量をウエスタンブロッティングにより分析した結果の写真である。
【図10】FACS分析による、(a)野生型マウスと、(b)PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、(c)APC4が形質転換された、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、(d)APC4が形質転換された野生型マウスの、それぞれのマウスのE14の胚から抽出した神経幹細胞における、それぞれの細胞数の数を表すグラフである。
【図11】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていないNestin-CreマウスのそれぞれのE13の胚にAPC4—GFP又はGFPを導入した後の、E18の脳組織の写真である。
【図12】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスと、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていないNestin-CreマウスのそれぞれのE13の胚にAPC4—GFP又はGFPを導入した後の、E18の脳組織における、頂端表面に対する軟膜表面の割合のグラフである。
【図13】野生型マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月)の脳におけるタンパクを、ウエスタンブロッティングにより分析した結果の写真である。
【図14】野生型マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月)の脳におけるタンパクの量の比を、ウエスタンブロッティングにより分析したグラフである。
【図15】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄及び雌マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていないコントロールの雄及び雌マウス(2ヶ月)と、それぞれにAAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したマウス(2ヶ月)における、脳の重量のグラフである。(a)は雄マウスのグラフを、(b)は雌マウスのグラフをそれぞれ示す。
【図16】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入した雄の成体マウス(2ヶ月)の脳の形態の写真である。
【図17】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄の成体マウス(2ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入した雄の成体マウス(2ヶ月)の脳の冠状面の写真である。(a)は、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入していないマウスの冠状面の写真を示し、(b)は、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したマウスの冠状面の写真を示す。
【図18】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄の成体マウス(2.5ヶ月)と、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入した雄の成体マウス(2.5ヶ月)の、皮質の全体の厚さに対する各層の相対厚さの割合のグラフである。
【図19】PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKO成体マウス(3ヶ月)、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKO成体マウス(3ヶ月)についての、回転ロッドの試験における、それぞれのマウスが、ロッドから落ちる平均時間のグラフである。
【図20】野生型成体マウス(3ヶ月)、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKO成体マウス(3ヶ月)、PQBP-1遺伝子をノックアウトし、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKO成体マウス(3ヶ月)についての、フィアコンディショニングの試験における、マウスの止まった時間のグラフである。
【図21】野生型成体マウス(3ヶ月)、Flox成体マウス(3ヶ月)、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKO成体マウス(3ヶ月)についての、回転ロッドの試験における、それぞれのマウスが、ロッドから落ちる平均時間のグラフである。
【図22】野生型マウス(3ヶ月)、Floxマウス(3ヶ月)、Synapsin1-Cre成体マウス(3ヶ月)、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKOマウス野生型成体マウス(3ヶ月)についての、フィアコンディショニングの試験における、マウスの止まった時間のグラフである。
【図23】Synapsin1-Creマウス、Floxマウス、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKOマウスのシナプス後部形成の程度を示す図である。
【図24】Synapsin1-Creマウス、Floxマウス、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKOマウスのシナプス後部における、樹上の直径、突起ヘッドの直径、樹上突起の数のグラフである。
【図25】Synapsin1-Creマウス、FloxマウスPQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKOマウスのシナプス後部形成の程度の経時変化を示す図である。
【図26】Synapsin1-Creマウス、Floxマウス、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたSynapsin1-Cre-cKOマウスのシナプス後部形成の樹上突起の動態形態変化のグラフである。
【図27】高脂肪食を与えたマウスにおけるPQBP-1の発現を、ウエスタンブロッティングにより分析した結果の写真である。
【図28】高脂肪食を与えたマウスにおけるPQBP-1の発現を、ウエスタンブロッティングにより分析した結果のグラフである。
【図29】高脂肪食を与えたマウスにおける、シナプス後部の数のグラフを示す図である。PQBP-1の発現を、ウエスタンブロッティングにより分析した結果のグラフである。
【図30】高脂肪食を与えたマウスのシナプス後部形成の樹上突起の動態形態変化のグラフである。
【図31】(a)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された野生型のマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像を示し、(b)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された5xFADマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像を示し、(c)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクター及びAAV-CMV-PQBP-1ウイルスベクターが投与された5xFADマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像を示す。
【図32】AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された野生型のマウス(n=8)、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された5xFADマウス(n=5)、及びAAV-CMV-EGFPウイルスベクターとAAV-CMV-PQBP-1ウイルスベクターが投与された5xFADマウス(n=8)についてのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。

【0019】
<製剤>
本発明の製剤は、polyglutamine-tract binding protein1(PQBP-1)をコードする所定のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。以下、本発明の製剤について説明する。

【0020】
(神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤)
本発明の神経幹細胞の増殖の促進に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列からなるDNA

【0021】
本発明者らは、PQBP-1異常となることで、細胞周期が延長されることを見いだした。この細胞周期の延長により、神経幹細胞の分裂回数が減少し、神経幹細胞が減少する。しかし、本発明の製剤によると、細胞周期の延長を抑制することができるのでこれにより、神経幹細胞の減少を抑制することができる。

【0022】
(神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤)
本発明の神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、神経幹細胞の増殖を促進する塩基配列からなるDNA

【0023】
なお、本明細書における「神経幹細胞の減少に関連する疾患」は、神経幹細胞の減少により生じる疾患のことを指し、例えば、小頭症(例えば、脳の形状に異常を伴わない小頭症)、精神遅滞等の先天性知的障害や、自閉症、学習障害等の発達障害が挙げられる。ここで「神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療効果」は、小頭症、精神遅滞等の先天性知的障害、自閉症、学習障害等の発達障害のうちの少なくとも1種の症状が改善され又は症状悪化が抑制される効果であって、改善又は抑制が統計的に有意である効果を指す。これらのうち、特に予防又は治療効果が高い点で、小頭症に用いるのが好ましい。また、神経幹細胞の減少によって関連する疾患の予防又は治療効果は、X連鎖性疾患の場合は、特に、ヒトの男性に対して有効である。

【0024】
(シナプス後部形成の促進に用いられる製剤)
本発明のシナプス後部形成の促進に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA

【0025】
(シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤)
本発明のシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤は、PQBP-1をコードする以下の(a)、(b)、(e)又は(f)に記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードし、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列を有するDNA
(f)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、シナプス後部形成を促進する塩基配列からなるDNA

【0026】
なお、本明細書における「シナプス後部形成の減少に関連する疾患」は、シナプス後部形成の減少により生じる疾患のことを指し、例えば、アルツハイマー病等の認知症、筋萎縮性側索硬化症、精神発達遅滞、前頭側頭葉型認知症、ハンチントン病、パーキンソン病、汎発性レヴィー小体病、脊髄小脳失調症等の疾患が挙げられる。ここで「シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療効果」は、アルツハイマー病等の認知症、筋萎縮性側索硬化症、精神遅滞の少なくとも1種の症状が改善され又は症状悪化が抑制される効果であって、改善又は抑制が統計的に有意である効果を指す。これらのうち、特に予防又は治療効果が高い点で、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、精神遅滞に用いるのが好ましい。

【0027】
(DNA)
本発明のDNAは、上記(a)~(f)のいずれかのDNAである。

【0028】
配列番号1は、ヒトPQBP-1をコードする塩基配列である。この配列番号1記載の塩基配列は、神経幹細胞の増殖及びシナプス形成を促進する。ここで、本明細書において、「塩基配列が神経幹細胞の増殖又はシナプス形成を直接促進する」とは、塩基配列がコードするポリペプチドが神経幹細胞の増殖又はシナプス形成を促進することを意味する。配列番号1記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、例えば、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40~70℃(好ましくは、50~67℃、より好ましくは、60~65℃)で反応を行い、塩濃度15~300mM(好ましくは、15~150mM、より好ましくは15~60mM、更に好ましくは、30~50mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。

【0029】
配列番号2は、ヒトPQBP-1タンパク質を構成することが知られている。本発明のDNAには、かかる配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。神経幹細胞の増殖又はシナプス形成を促進する作用を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。

【0030】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662-5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487-6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431-1433、Dalbadie-McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409-6413)。配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列は、配列番号2記載のアミノ酸配列と相同性が高い方が好ましい。ここで、配列番号2記載のアミノ酸配列(ヒトPQBP-1のアミノ酸配列)とマウスPQBP-1のアミノ酸配列との相同性は86.8%であるが(Hitoshi Okazawa et al.,“PQBP-1 (Np/PQ): A polyglutamine tract-binding and nuclear inclusion-forming protein”,Brain Research Bulletin,2001,Vol.56,Nos.3/4,pp.273-280)、ヒトPQBP-1タンパク質は、マウスにおいても、高い効果(神経幹細胞の増殖の促進効果、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果、シナプス後部形成の促進効果、又はシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果)を奏する。この観点から、配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列と、配列番号2記載のアミノ酸配列との相同性は、85%以上が好ましくは、90%以上がより好ましく、95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)が更に好ましい。

【0031】
上記DNAの最も好ましい態様は、配列番号1記載の塩基配列からなるDNAであるが、本発明のDNAには、更に、神経幹細胞の増殖の促進効果又は神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果を有する種々の変異体やホモログや、シナプス後部形成の促進効果又はシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果を有する種々の変異体やホモログが含まれる。ここで、PQBP-1のN末端側のWWドメイン(配列番号3)、C末端側のCターミナルドメイン(配列番号4)が知られている。WWドメインは、RNAポリメラーゼとの作用において重要な役割を担う配列であり、プロリンリッチな配列特異的に結合することが知られている。また、Cターミナルドメインは、スプライシングにおいて重要な役割を担う天然変性タンパクとして知られている。そのため、本発明のDNAは、PQBP-1の機能を発揮するためには、配列番号3、4のいずれか一方、又は両方の配列を含むのが好ましい。

【0032】
更に、配列番号1記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号1記載の塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列番号1記載の塩基配列と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403-410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。

【0033】
なお、上記配列番号1~4は、NCBI CCDS DatabaseのReport for CCDS14309.1(current version)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/CcdsBrowse.cgi?REQUEST=CCDS&DATA=CCDS14309.1&ORGANISM=0&BUILDS=CURRENTBUILDS)に由来する。

【0034】
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖と二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであっても、合成されたDNAであってもよい。

【0035】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT-PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。

【0036】
(ポリペプチド)
本発明の予防又は治療剤で使用されるポリペプチドは、前述のDNAによりコードされ、例えば、配列番号2記載のアミノ酸配列を有し、又は配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する。

【0037】
本発明のDNAがコードするポリペプチドは、例えば、前述のDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで、作製できる。すなわち、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNAがコードするタンパク質(ポリペプチド)を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、本発明のポリペプチドを得ることができる。

【0038】
形質転換体の培養は、ポリペプチドが大量にかつ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11-29599号公報参照)。

【0039】
ポリペプチドの単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。なお、本発明で使用できるベクター及び形質転換体を以下に説明する。

【0040】
(ベクター)
発現ベクターは、適当なベクターに上述のDNAを挿入することにより、作製できる。「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチドを取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11-29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。

【0041】
また、ベクターは、ポリペプチドを合成するのみならず、本発明の製剤にも利用することができる。すなわち、上述のDNAが組み込まれたベクターを含む本発明の製剤は、ヒトに直接導入することで、神経幹細胞の増殖の促進、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療、シナプス後部形成の促進、又はシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いることができる。この場合におけるベクターは、ヒトの細胞内に導入可能なベクターを用いる。かかるベクターとしては、例えば、AAVベクターが挙げられる。

【0042】
(形質転換体)
形質転換体は、前述のDNAを含むベクターを宿主に導入することにより、作製できる。このような宿主は、本発明のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11-29599号公報参照)、あるいは、ヒト、マウス等の動物が挙げられる。

【0043】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できるものである。その具体例としては、特に限定されないが、例えば、細菌を宿主とした場合、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。

【0044】
また、ヒトを宿主とした場合、例えば、上述のAAVベクターを用いて妊娠したヒトに形質転換する場合、腹部に注射することで形質転換することができる。

【0045】
本明細書における「有効成分」は、神経幹細胞の増殖の促進効果、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果、シナプス後部形成の促進効果、又はシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療効果を得るために必要な量で含有される成分を指し、効果が所望のレベル未満にまで損なわれない限りにおいて、他の成分も含有されてよい。また、製剤の投与経路は、経口又は非経口のいずれであってもよく、適宜設定される。

【0046】
経口投与の場合、製剤は、一般に使用される結合剤、包含剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加剤を含有してよく、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等の種々の形状に製剤化される。また、製剤は、内用水剤、懸濁剤、乳剤シロップ剤等の液体状態であってもよく、使用時に再溶解される乾燥状態であってもよい。

【0047】
非経口投与の場合、製剤は、安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤も含有してよく、通常、単位投与量アンプルもしくは多投与量容器又はチューブ内に収容された状態で流通される。また、製剤は、使用時に、適当な担体(滅菌水等)で再溶解可能な粉体に製剤化されてもよい。

【0048】
以上で述べた本発明の製剤は、上記で述べたような方法で、ヒトに投与することにより、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療、又は、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いることができる。

【0049】
<スクリーニング方法>
本発明に係るスクリーニング方法は、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法、又は、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法である。

【0050】
(神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法)
本発明の神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法は、被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、被験物質が投与された動物細胞又はヒトを除く動物の、PQBP-1による神経幹細胞増殖促進の程度を測定する工程と、測定結果に基づいて、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有する。

【0051】
(シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法)
本発明のシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質のスクリーニング方法は、被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程と、被験物質が投与された動物細胞又はヒトを除く動物の、PQBP-1によるシナプス後部形成の促進の程度を測定する工程と、測定結果に基づいて、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防又は治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有する。

【0052】
上記の各スクリーニング方法によれば、症状改善が検出された被検物質により、PQBP-1の機能を補完又は代替できるため、神経幹細胞の減少に関連する疾患又はシナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いられる製剤の候補物質として特定できる。以下に上記の両スクリーニング方法の各工程について説明する。

【0053】
(投与工程)
投与工程は、被験物質を、動物細胞又はヒトを除く動物に投与する工程である。

【0054】
被験物質は、特に限定されず、天然又は合成の有機又は無機の低分子又は高分子物質等の任意の物質であってよい。

【0055】
動物細胞は、PQBP-1を発現する細胞(神経細胞、神経幹細胞等)であれば、特に限定されず、ヒト、マウス等の従来の公知の動物の細胞を使用することができる。また、動物細胞は、野生型でもよく、あらかじめPQBP-1の発現が抑制されたものでもよい。

【0056】
ヒトを除く動物は、特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ等の哺乳等物等を使用することができる。

【0057】
投与方法は、特に限定されず、例えば、動物細胞に投与する場合、動物細胞を含む組織検体等と、被験物質を混合してもよく、被験物質の存在下で動物細胞を培養してもよい。あるいは、ヒトを除く動物に投与する場合、例えば、非経口投与であってもよい。非経口投与は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等であってもよい。また、経口投与であってもよい。

【0058】
(測定工程)
測定工程は、被験物質が投与された動物細胞又はヒトを除く動物の、内在性PQBP-1の発現量又はPQBP-1による神経幹細胞増殖促進の程度、もしくは、PQBP-1によるシナプス後部形成の促進の程度を測定する工程である。

【0059】
測定方法は、特に限定されず、従来の公知の方法を使用することができ、例えば、被験物質の投与後の動物細胞又はヒトを除く動物中から抽出したPQBP-1を発現する細胞の、被験物質の投与前のPQBP-1の発現量、又は神経幹細胞の数もしくはシナプス後部形成と、被験物質の投与後のPQBP-1の発現量、又は神経幹細胞の数もしくはシナプス後部形成を比較することで、神経幹細胞増殖促進の程度又はシナプス後部形成の促進の程度を測定することができる。この測定結果に基づいて、後述の選択工程において、候補物質を選択することができる。

【0060】
(選択工程)
選択工程は、上記測定結果に基づいて、神経幹細胞の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いられる製剤、又は、シナプス後部形成の減少に関連する疾患の予防もしくは治療に用いられる製剤の候補物質として被験物質を選択する工程である。

【0061】
選択方法は、特に限定されず、従来公知の選択方法により候補物質を選択すればよい。例えば、PQBP-1の発現量、神経幹細胞増殖の程度又はシナプス後部形成の促進の程度に基づいて、候補物質を選択してもよい。これらは、他のPQBP-1の発現量、神経幹細胞増殖の程度又はシナプス後部形成の促進の程度と比較することで、選択してもよい。比較対象の具体例としては、PQBP-1の発現量が減少している動物細胞又はヒトを除く動物や、神経幹細胞増殖の程度、シナプス後部形成の促進の程度が減少しているものであってもよく、あるいは被験物質が投与されていないネガティブコントロールであってもよい。また、選択は、PQBP-1の発現量、神経幹細胞増殖の程度又はシナプス後部形成の促進の程度が回復することを確認することで、被験物質を候補物質として選択してもよく、これらがネガティブコントロールより上昇していることを確認することで選択してもよい。
【実施例】
【0062】
(PQBP-1遺伝子ノックアウトマウスの作製)
個体の発生に必須な遺伝子は単純な方法ではノックアウト個体を得ることができないが、Cre-loxP系等を用いることで特定の条件下でのみ遺伝子ノックアウトすることが可能である。本実施例では、Nestinが神経幹細胞で選択的に発現すること、及び、Synapsin1が成熟神経細胞で選択的に発現することを利用して、神経幹細胞を標的とするノックアウトマウス(Nestin-Cre-cKOマウス)、及び、成熟神経細胞を標的とするノックアウトマウス(Synapsin1-Cre-cKOマウス)を作成した。以下、Nestin-Cre-cKOマウスは、神経幹細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたマウス、Synapsin1-Cre-cKOマウスは、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたマウスをいう。
【実施例】
【0063】
ターゲティングベクターを作製するために、まず、マウスのBAC(bacterial artificial chromosome)ライブラリー(ID:RP23-404N15)から、PCRによって3種類のPQBP-1ゲノムフラグメントを合成した。そのうち、エキソン1及びエキソン2を含む約3.6kbの5’側フラグメントを、FLP認識標的配列に挟まれたネオマイシン耐性遺伝子の配列の上流に組み込み、エキソン3から7を含む約3.9kbのフラグメントを2つのLoxP配列の間に組み込み、約4.1kbのイントロンのフラグメントを3’側に付加し、3’側の配列の外側に、組み替え時のランダム挿入を防ぐためにジフテリア毒素遺伝子(DTA)を付加した。この操作により、ターゲティングベクターを作製した。
【実施例】
【0064】
作成したターゲティングベクターをES細胞(C57BL/6)にエレクトロポレーションにより導入し、G418(株式会社シグマ社製、200mg/ml)により相同組換えが行われたES細胞を選択後、PCRにより目的遺伝子が導入されたことを確認した。選択されたES細胞について、制限酵素処理し、その後のゲノムをサザンブロッティングにより分析することで、目的遺伝子が導入されたことを更に確認した。
【実施例】
【0065】
選別されたES細胞をC57BL/6マウス胚盤胞へインジェクションすることで、キメラマウスを作製した。このキメラマウスをC57BL/6マウスと交配して、目的の対立遺伝子を有するマウスを作製した。ネオマイシン耐性遺伝子は、CAG-FLPe組換えトランスジェニックマウスと交配することで取り除いた。これにより得られた、PQBP-1-floxヘテロ接合型雌マウスを、更にNestin-Cre雄マウス(B6.Cg-Tg (Nes-Cre)1Kln/J; The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)と交配させ、Nestin-Cre-ノックアウト(cKO)マウスを作製した。また、PQBP-1-floxヘテロ接合型雌マウスを、Synapsin1-Cre雄マウス(B6.Cg-Tg (Syn1-Cre)671Jxm/J; The Jackson Laboratory, Bar Harbor,ME)と交配させ、Synapsin1-Cre-ノックアウト(cKO)マウスを作製した。なお、Nestin-Cre-cKOマウスと、Synapsin1-Cre-cKOマウスは、それぞれ雄と雌両方のマウスについて作製した。
PQBP-1遺伝子は、X染色体上の遺伝子であるから、これらcKOマウスは、X染色体が1本の雄ではPQBP-1遺伝子はノックアウトされているが、X染色体が2本の雌ではPQBP-1遺伝子は正常とノックアウトのヘテロ接合となる。
【実施例】
【0066】
(脳の解析)
PQBP-1遺伝子が変異した患者の脳の構造を磁気共鳴画像により解析した。その結果を図1に示す。図1中、(a)は、水平面、(b)は冠状面、(c)は矢状面を示す。その結果、PQBP-1が変異した患者において、通常の皮質構造であることが確認された。
【実施例】
【0067】
次に、2ヶ月の成体マウスから脳を取り出した。脳からの取り出しは、常法に従って行った。成体マウスは、(神経幹細胞で)PQBP-1遺伝子がノックアウトされたNestin-Cre雄及び雌マウス、(成熟神経細胞で)PQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre雄及び雌マウス、PQBP-1遺伝子がノックアウトされていないコントロールの雄及び雌マウスを用いた。図2は、PQBP-1遺伝子がノックアウトされたNestin-Cre雄及び雌マウスと、PQBP-1遺伝子がノックアウトされていないコントロールの雄及び雌マウスの脳の写真であり、図4はPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre雄及び雌マウスと、PQBP-1遺伝子がノックアウトされていないコントロールの雄及び雌マウスの脳の写真である。また、各のマウスのそれぞれの脳の質量を測定した。その結果を図3、図5に示す。図3、図5中、(a)は雄マウスについての結果を示し、(b)は雌マウスについての結果を示す。なお、図中の「XY」は、野生型のC57BL/6雄マウスを意味し、「XX」は、野生型のC57BL/6雌マウスを意味し、「XFloxY」及び「XY」は、PQBP-1-floxヘテロ接合型雄マウスを意味し、「XFloxX」及び「XX」は、PQBP-1-floxヘテロ接合型雌マウスを意味する。また、図中の「+」の記号は、該記号が付されたマウスと、Nestin-Creマウス又はSynapsin1-Creマウスとを交配して作製したマウスを意味し、「-」の記号は、該記号が付されたマウスと、Nestin-Creマウス又はSynapsin1-Creマウスとを交配せずに、野生型のC57BL/6と交配して作製されたマウスを意味する。図3、5の各棒グラフの上の数値は、各マウスのn数を示す。
【実施例】
【0068】
図2、3から、胎生期の神経幹細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたNestin-Cre-cKO雄マウスにおいて、脳が小さくなり、脳の質量が有意に減少することが確認された。これにより、PQBP-1の減少による小頭症は、ヒトの男性で特に発症しやすいことが示された。また、図4,5から、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre-cKOにおいては、小頭症は発症しないことが示された。これにより、PQBP-1の減少によって発症する小頭症は、先天性であることが示された。
【実施例】
【0069】
また、2ヶ月の成体マウスの冠状面の写真を撮影した。成体マウスとしては、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄及び雌の成体マウスと、PQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄及び雌の成体マウスを用いた。図6中、(a)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雄成体マウスについての写真であり、(b)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄成体マウスについての写真であり、(c)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしていない雌成体マウスについての写真であり、(d)はPQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雌成体マウスについての写真である。
【実施例】
【0070】
図6から、PQBP-1遺伝子が変異したヒトと同様に(図1を参照)、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Creマウスの雄においては、脳の構造に特に異常は観察されないことが示された。これにより、PQBP-1の減少が原因となる小頭症は、脳の構造の異常を伴わないタイプの小頭症であることが示された。
【実施例】
【0071】
(Nestin-Cre-cKOマウスの細胞周期の分析)
Nestin-Cre-cKOマウスの神経幹細胞(NSPC)の細胞周期の分析を行った。まず、BrdU(シグマ社製、100mg/kg体重)を、E14(胎生14日)の各妊娠マウスの腹腔内に注入した(妊娠マウスの種類は後述の表1に示す)。妊娠マウスにBruUを繰り返し注入し(3時間間隔)、累積してラベリングを行った。各マウスは、最初のBrdUの注入後、1、1.5、2、3.5、6.5、15.5又は24.5時間にそれぞれの胚脳を取り出した。取り出した胚脳を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに組み込んだ。胚脳の断片は、3mmの間隔で作製し、パラフィンを除き、再水和し、それから、15分間、pHが6.0の10mMクエン酸緩衝液中にいれた状態で電子レンジで加熱した。その後、抗体のインキュベーションを、マウス抗BrdU抗体(1:200、BD Biosciences社製)、ウサギ抗ホスホ-ヒストンH3(pH3)抗体、M期の細胞のマーカー(1:500、ミリポア社製)を用い、4℃、オーバーナイトで行った。二次抗体のインキュベーションは、Alexa Fluor488又はCy3複合体(1:500、Invitrogen社製)を用いて行った。脳室帯における、BrdU/pH3ダブル陽性細胞のpH3陽性細胞に対する割合を、G2/M期の長さを決定するためにBrdUの単一の注射した後、1、1.5、2時間で計算した。1、1.5、2、3.5及び6.5時間における標識化指数値(LIs)の直線グラフによって、Y軸切片(0時間でのLI)を推定し、傾きを計算した。野生型マウスの脳室帯での成長率(増殖する細胞の割合)が、1.0に近いため、0時間におけるLIと傾きは、全細胞周期(Ts/Tc)に対するS期の割合と、全細胞周期(1/Tc)の逆数をそれぞれ表す。TsとTcは、S期、全細胞周期の長さを表す。これらの値(Ts/Tcと1/Tc)から、TsとTcを算出した。それぞれの細胞周期の長さを、表1に示す。
【実施例】
【0072】
【表1】
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【実施例】
【0073】
表1から、細胞周期の長さが、コントロールと比較して、Nestin-Cre-cKOマウスにおいて、細胞周期が長くなっていることが確認された。特に、G2/M期は、コントロールと比較して67パーセントと大幅に延び、G1期は6%と僅かに延長したことが観察された。このように、PQBP-1をノックアウトすることで、特にM期の細胞周期が長くなったことが示された。
【実施例】
【0074】
(Nestin-Cre-cKOマウスの細胞数の割合の分析)
幹細胞プールからの神経新生をBrdU及びKi67の共染色によって分析した。BrdUを妊娠マウスに腹腔内注射して24又は72時間後に、神経新生の細胞数(BrdU+/Ki67-)、幹細胞プール中に残っている細胞数(BrdU+/Ki67+)、ラベルされてない神経幹細胞(BrdU-/Ki67+)の数を計算するためにE15のそれぞれの胚脳を分析した。その結果、24時間後、72時間後において、各グループの細胞の割合に差は検出されなかった。図7は、注入して24時間後の、神経新生の細胞数、幹細胞プール中に残っている細胞数、ラベルされてない神経幹細胞(BrdU-/Ki67+)の数の相対的な割合を示すグラフである。
【実施例】
【0075】
(Nestin-Cre-cKOマウスの細胞死の分析)
Nestin-Cre-cKOマウスと、Nestin-Creマウスにおける、大脳皮質の細胞死のレベルを、E10、E15、E18、P0、及びP60において、TUNEL染色によって評価した。その結果を図8に示す。図8より、Nestin-Cre-cKOマウスと、Nestin-Creマウスとの間で、細胞死した細胞の数に差がないことが確認された。
【実施例】
【0076】
従来、小頭症は、神経幹細胞の分化効率が上昇する(このために幹細胞が枯渇する)、神経幹細胞の細胞死が亢進する、分化ニューロンの細胞移動が障害される等のメカニズムによるものであると考えられていた。しかしながら、上記の結果より、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre-cKOマウスは、小頭症を発症するが、上記のメカニズムが生じおらず、そのかわりに細胞周期時間が延長していることが示された。この細胞周期の延長により、神経幹細胞の分裂回数を減らし、結果としてニューロン産生が減少していると考えられる。
【実施例】
【0077】
(PQBP-1によるスプライシングと関連性の強い遺伝子の分析)
PQBP-1によるスプライシングと関連性の強い遺伝子の分析を行うために、野生型のマウスとPQBP-1遺伝子をノックアウトしたマウスとのそれぞれのエキソンのシグナルを比較して、エキソンのレベルが著しく変化した遺伝子を見つける「エキソンエキソン分析」を行った。その差は、2つの試料の手段が同じであるという帰無仮説に基づいて、ストゥーデントのt検定により調べた。また、エキソン間の相対的な発現レベルの変化を検出する「バリアンス分析」を行った。これは、野生型及びPQBP-1をノックアウトしたマウスの各遺伝子におけるエキソンレベルのプローブセットを用いて実施した。その差は、これら2つのサンプルが同じパターン及び分散を有するという帰無仮説に基づくF-testによって調べた。なお、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたマウスのエキソンは、E15のNestin-Cre-cKOマウスの神経幹細胞(Neural Stem Cell)、生後4週齢のNestin-Cre-cKOマウスの皮質、又は、生後4週齢のSynapsin1-Cre-cKOマウスの皮質を用いて、それぞれを野生型マウスと比較した。その結果を表2~4に示す。なお、遺伝子が複数のエキソンプローブを保有する場合、最も低いp-値を用いた。表2は、E15のNestin-Cre-cKOマウスと野生型マウスの神経幹細胞を比較した結果を示す。表3は、生後4週齢のNestin-Cre-cKOマウスと野生型マウスの皮質を比較した結果を示す。表4は、生後4週齢のSynapsin1-Cre-cKOマウスと野生型マウスの皮質とを比較した結果を示す。
【実施例】
【0078】
【表2】
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【実施例】
【0079】
【表3】
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【実施例】
【0080】
【表4】
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【実施例】
【0081】
その結果(表2、表3、表4)、APC1とPQBP-1は、両方の分析で、E15のNestin-Cre-cKOマウス、生後4週齢のNestin-Cre-cKOマウス」、及び、生後4週齢のSynapsin1-Cre-cKOマウスのすべての遺伝子型において、それぞれの発現レベルが著しく影響を受けたことが確認された。一方、APC4は、Nestin-Cre-cKOマウスの皮質では発現レベルの変化は有意であるとはいえないが、神経幹細胞では有意であることが示された。一方、エキソンアレイデータの2つの分析(エキソンエキソン分析とバリアンス分析)と、スプライシング/転写の寄与は、結果が相関していると推測される。この推測から、転写とスプライシングの両方がAPC1とPQBP-1に影響を与えているのに対し、APC4では転写の影響が比較的大きいことが示唆された。
【実施例】
【0082】
PQBP-1によるスプライシングと関連性の強い遺伝子の分析を更に行うために、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)を行った。分析には、Nestin-Cre-cKOマウスと、野生型のマウスとをそれぞれ3種用いた。GSEAにより選択された、M期に関係のある遺伝子について、PPI分析を行った。その結果、M期においてPQBP-1と強い関連性のある遺伝子が、U-515kd、APC2、APC4であることが確認された。
【実施例】
【0083】
(Nestin-Cre-cKOマウスに対するAPC4遺伝子の導入試験)
APC4遺伝子を、PQBP-1がノックアウトされたマウスに導入する試験を行った。まず、マウスのAPC4のcDNA(Genbank accession number NM_024213)を、RT-PCRにより準備し、これを、XhoI/BamHIで制限酵素処理したpIRES2-hrEGFPII(Stratagene社製)に組み込み、pApc4-IRES2-hrEGFPIIを作製した。この遺伝子を用い、野生型マウスと、Nestin-Cre-cKOマウスの胚の脳室にエレクトロポレーションにより導入した。
【実施例】
【0084】
図9(a)は、野生型のマウスと、Nestin-Cre-cKOマウスと、Apc4が形質転換された野生型マウスと、Apc4が形質転換されたNestin-Cre-cKOマウスの、それぞれのE14の胚から準備した神経幹細胞の増殖を示す。これにより、APC4をPQBP-1をノックアウトしたマウスに導入することで,神経幹細胞の増殖が、有意に回復することが確認された。また、図9(b)は、ウエスタンブロッティングによる、APC4、PQBP-1、Cyclin B、GAPDHのそれぞれの発現量を示す。これにより、APC4が形質転換されたNestin-Cre-cKOマウスにおいて、PQBP-1が発現していないこと、APC4の発現量が、APC4を導入していないマウスより増えていることが確認された。また、Cyclin Bの発現量が、Nestin-Cre-cKOマウスにおいて増えているのに対し、APC4を導入したNestin-Cre-cKOマウスにおいては、発現が抑えられていることが確認された。
【実施例】
【0085】
また、FACS分析により、それぞれのマウスのE14の胚から抽出した神経幹細胞において、それぞれの細胞数の数を確認した。その結果を図10に示す。(a)は、野生型マウス、(b)は、Nestin-Cre-cKOマウス、(c)は、APC4が形質転換されたNestin-Cre-cKOマウス、(d)はAPC4が形質転換された野生型マウスにおける、それぞれの細胞数の数を示す。これにより、Nestin-Cre-cKOマウスにおいて、G2/M期の割合が野生型マウスより上昇していたが、APC4を導入することで、G2/M期の割合の上昇が抑えられることが確認された。
【実施例】
【0086】
また、頂端表面に対する軟膜表面の割合が、子宮内電気穿孔法により形質転換されたEGFP陽性細胞の増殖に対して影響を与えるかを試験した。具体的には、まず、マウスのAPC4のcDNA(Genbank accession number NM_024213)を、RT-PCRにより準備し、これを、XhoI/BamHIで制限酵素処理したpIRES2-EGFP(Clontech社製)に組み込み、pApc4-IRES2-EGFPを作製した。野生型マウスと、Nestin-Cre-cKOマウスのE13の胚の脳室に、pApc4-IRES2-EGFP又はpIRES2-EGを導入し、E18の胚の脳組織を分析した。その結果を図11、12に示す。この結果から、頂端表面に対する軟膜表面の割合が、PQBP-1遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて減少していたが、APC4を外部から加えることにより、回復した。これにより、細胞周期の延長が、APC4を加えることで、回復することが示された。
【実施例】
【0087】
(Nestin-Cre-cKOマウスに対する、PQBP-1遺伝子の導入試験)
まず、PQBP-1遺伝子がノックアウトされたマウス(Nestin-Cre-cKOマウス)にヒトPQBP-1遺伝子を導入した。具体的には、ベクターとしてAAVベクタープラスミドを用いた。AAVベクタープラスミドは、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMVプロモーター)からなる発現カセットを含有し、その後ろ側に、ヒトPQBP1又はヒトPQBP1-EGFPをコードするcDNA、AAV3ゲノムの逆方向末端反復の間のシミアンウイルス40ポリアデニル化シグナル配列(SV40ポリ(A))が続くように設計した。組換えAAVベクター(AAV-PQBP-1ベクター)は、ベクタープラスミド、AAV2 rep及びAAV1 vp発現プラスミド、及びアデノウイルスヘルパープラスミド、pHelper(Agilent Technologies社製)を用いて、HEK293細胞への一過的な導入により作製した。組換えウイルスは、2つの経時的な塩化セシウム勾配の分離形成によって精製し、ウイルス価を定量RT-PCRによって決定した。AAVベクター(AAV-PQBP-1ベクター)のインビボでの投与は、C57BL/6J妊娠マウス(E10のNestin-Cre-cKO胎児マウスを妊娠)に腹腔内投与することにより、AAV-PQBP-1ベクター(2.0×1011ゲノムコピー)をNestin-Cre-cKO胎児マウスに導入した。このAAV-PQBP-1ベクターが導入されたNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月(10週齢))を用いて、以下の試験を行った。
【実施例】
【0088】
野生型マウス(2ヶ月(10週齢))と、Nestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月(10週齢))と、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウス(2ヶ月(10週齢))の脳におけるタンパクを、ウエスタンブロッティングにより分析した。ウエスタンブロッティングの写真を図13に、PQBP-1のタンパク量の割合を示すグラフを図14にそれぞれ示す。ヒトPQBP-1タンパク質のアミノ酸配列と、マウスPQBP-1タンパク質のアミノ酸配列は、上記のとおり、高い相同性を有するため、ウエスタンブロッティングにおいても、タンパク質のサイズが略同じものとして検出される。これにより、PQBP-1遺伝子を導入することにより、PQBP-1のタンパク量が約2.5倍増えることが確認された。
【実施例】
【0089】
また、2ヶ月(10週齢)の成体マウスから脳を取り出した。成体マウスとしては、PQBP-1遺伝子がノックアウトされたNestin-Cre雄及び雌マウス、PQBP-1遺伝子がノックアウトされていないコントロールの雄及び雌マウスと、それぞれにAAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したマウスとを用いた。それぞれのマウスの脳の重量を図15に示す。(a)は雄マウス、(b)は雌マウスの結果を示す。これにより、特に、PQBP-1がノックアウトされた雄のマウス(白の棒グラフ)において減少した脳の重量が、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入すること(黒の棒グラフ)で有意に回復したことが示された。
【実施例】
【0090】
また、2ヶ月(10週齢)の成体マウスの脳の形態の写真(図16)と冠状面の写真(図17)を撮影した。成体マウスとしては、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄の成体マウスと、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入した、PQBP-1遺伝子をノックアウトした雄の成体マウス(Nestin-Cre-cKOマウス)を用いた。図17中、(a)はAAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入していないマウスの冠状面の写真を示し、(b)は、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したマウスの冠状面の写真を示す。これにより、PQBP-1がノックアウトされた雄のマウスにおいて、脳の形態、冠状面においても、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入することで脳の重量が回復することが確認された。
【実施例】
【0091】
また、2.5か月の成体マウスの皮質の全体の厚さに対する各層の相対厚さの定量分析を行った。成体マウスとしては、PQBP-1遺伝子をノックアウトしたNestin-Cre雄の成体マウス(Nestin-Cre-cKOマウス)(白の棒グラフ)と、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入した、PQBP-1遺伝子をノックアウトした雄の成体マウス(Nestin-Cre-cKOマウス)(黒の棒グラフ)を用いた。また、各層の特異的なマーカーとして、Cux、Tbr1、GAD67、Foxp1を用いた。その結果を図18に示す。この結果より、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入しても、特に層の厚さに変化はみられなかったことから、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入しても脳の厚さに影響を与える等の副作用はないことが確認された。
【実施例】
【0092】
以上の結果より、神経幹細胞が減少し、それによって発症する小頭症等の知的障害を、PQBP-1によって予防又は治療できることが示された。
【実施例】
【0093】
(行動解析)
3か月の成体マウス(Nestin-Cre-cKOマウス、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウス)について、回転ロッドの試験を行った。まず、マウスを回転ロッド(直径3cm)に置き、回転速度を3.5回転から300秒で35rpmに直線的に増加させ、600秒経過するまで35rpmの回転数で続けた。各試験の間に10分の休憩間隔をおき、9回の試験(3日間連続して行い、1日3試験)を行った。ロッドから落下する時間を記録し、ロッドから落ちる平均時間を記録した。その結果を図19に示す。
【実施例】
【0094】
図19より、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウスは、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入していないNestin-Cre-cKOマウスより、回転ロッドに滞在する時間が長かったことが示された。
【実施例】
【0095】
次に、3か月の成体マウス(野生型マウス、Nestin-Cre-cKOマウス、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したNestin-Cre-cKOマウス)について、フィア(恐怖)コンディショニングの試験を行った。この試験は、コンディショニングトライアルとテストトライアルの2つのパートにより構成した。フィアコンディショニングは、ステンレス製の格子床(34cm×26cm×30cm〔H〕)を搭載した透明なプラスチック容器で実施した。CCDカメラを、容器の天井に備え付け、ビデオモニターとコンピュータに接続した。格子床は、ショック発生器に接続した。ホワイトノイズ(65db)は、聴覚信号としての(条件刺激、CS)拡声器から供給した。2秒間連続での0.4ミリアンペアのフットショック(無条件刺激、US)を30秒間、CSの期間の終了時に行った。コンディショニングトライアルは、30秒ごとに区切られた3つのCS-USの組み合わせによって、2分間の探査期間で構成した。テストは、コンディショニングトライアルの24時間後にフットショックを行わずに、5分間、同じコンディショニングチャンバー中で行った。マウスの止まった反応の速度を、フィアメモリーの指標として測定した。その結果を図20に示す。これにより、PQBP-1遺伝子がノックアウトされたNestin-Cre-cKOマウスでは、野生型マウスより止まった時間が少なかったが、AAV(AAV-PQBP-1ベクター)を導入したことで、止まった時間が有意に上昇した。
【実施例】
【0096】
(Synapsin-1-Cre-cKOマウスに関する行動解析)
野生型マウス、Floxマウス、Synapsin-1-Cre-cKOマウスについて、上記Nestin-Cre-cKOマウスでの行動解析と同様の方法で回転ロッドによる回転速度の試験を行ったところ、Synapsin-1-Cre-cKOマウスが、他のコントロールのマウスより、Nestin-Cre-cKOマウス同様、有意に回転ロッドに滞在した時間が短かったことが確認された(図21)。
【実施例】
【0097】
更に、野生型マウス、Floxマウス、Synapsin-1-Creマウス、Synapsin-1-Cre-cKOマウスについて、上記と同様の方法でフィアコンディショニングの試験を行ったところ、Synapsin-1-Cre-cKOマウスが、他のコントロールのマウスより、Nestin-Cre-cKOマウス同様、有意に止まった時間が少なかったが確認された(図22)。
【実施例】
【0098】
(Synapsin-1-Cre-cKOのシナプス形成の分析)
Synapsin1-Creマウス(n=3、4週齢)、Floxマウス(n=3、4週齢)、Synapsin1-Cre-cKOマウス(n=3、4週齢)の成熟神経細胞のシナプス後部形成の程度を測定した。測定は、それぞれのマウスの成熟神経細胞を、2光子顕微鏡を用いて観察することによって行った。より具体的には、あらかじめAAV-GFP(5x1011viral genome/ml)をretrosplenial dysgranular (RSD) cortex(bregmaより前後方向-2.0mm、内外方向0.6mm)内に注入しておいたそれぞれのマウスに、イソフルランによる吸入麻酔し(0.1ml/min)、観察部皮膚を切開し、ドリルを用いて頭蓋骨を薄く削り観察用のウインドウを作成した(thinned-skull法)。マルチフォトンレーザーMaiTai HP DeepSee-OL(Spectra Physics社製)、水浸型対物レンズXLPlanN25xW(オリンパス社製)を搭載した2光子レーザー顕微鏡システムFV1000MPE(オリンパス社製)を用いてスパインと樹状突起のイメージングデータを取得した。GFPはレーザー波長890nmで励起し、thinned-skull法によるウインドウよりRSD cortexを観察し、1μm間隔で1024×1024ピクセルを持つ解像度のイメージングデータを取得した。その観察結果を図23に示す。これにより、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre-cKOマウスにおいて、シナプス後部の形成が減少していることが確認された。
【実施例】
【0099】
また、上記のSynapsin1-Creマウス(n=3、4週齢)、Floxマウス(n=3、4週齢)、Synapsin1-Cre-cKOマウス(n=3、4週齢)、の成熟神経細胞のシナプス後部における、樹上の直径、突起ヘッドの直径、樹上突起の数(number/10μm)を測定した。測定は、上記のそれぞれのマウスから得られたイメージングデータをIMARIS(Bitplane社)に読み込ませ、フィラメントツール(樹状突起直径:0.297-4.950μm、スパインヘッド直径:0.2-3.0μm)を用いて樹状突起とスパインを認識させ3次元モデルを構築し解析することによって行った。その結果を図24に示す。これにより、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre-cKOマウスにおいて、樹上の直径、突起ヘッドの直径、樹上突起の数が有意に減少していることが確認された。
【実施例】
【0100】
また、上記のSynapsin1-Creマウス(n=3、4週齢)、Floxマウス(n=3、4週齢)、Synapsin1-Cre-cKOマウス(n=3、4週齢)の成熟神経細胞のシナプス後部形成の程度の経時変化を確認した。測定は、上記のそれぞれのマウスのイメージングデータの観察を0、8、24時間で行った。その結果を図25に示す。これにより、経時変化とともに、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre-cKOマウスのシナプス後部形成が減少することが確認された。
【実施例】
【0101】
また、上記のSynapsin1-Creマウス(n=3、4週齢)、Floxマウス(n=3、4週齢)、Synapsin1-Cre-cKOマウス(n=3、4週齢)の成熟神経細胞のシナプス後部形成の樹上突起の動的形態の変化を測定した。測定は、上記のそれぞれのマウスから得られたイメージングデータをIMARIS(Bitplane社)に読み込ませ、フィラメントツール(樹状突起直径:0.297-4.950μm、スパインヘッド直径:0.2-3.0μm)を用いて樹状突起とスパインを認識させ3次元モデルを構築し解析することによって行った。その結果を図26に示す。図26中「Formation」は、新たに形成されたシナプス後部の割合を示し、「Elimination」は、形成されていたシナプス後部のうち、なくなったものの割合を示し、「Stable」は、変化がなかったシナプス後部の割合を示す。この結果から、成熟神経細胞でPQBP-1遺伝子がノックアウトされたSynapsin1-Cre-cKOマウスにおいて、新たに形成されたシナプス後部の割合が減少することが確認された。
【実施例】
【0102】
以上のことから、Synapsin1-Cre-cKOマウスの行動異常(学習障害、認知障害)は、シナプス後部形成異常との相関性が強く示唆された。
【実施例】
【0103】
(Synapsin1-Cre-cKOを用いたPQBP-1と関連性の遺伝子の解析)
4週齢のSynapsin1-Cre-cKO(n=3)及び野生型のマウス(n=3)の脳をサンプルとし、GeneChip Mouse Exon 1.0 ST Array(Affymetrix社)を用いてエキソンアレイデータを取得し、以下の手順によりエキソンアレイデータ分析を行った。
【実施例】
【0104】
まず、Affymetrix社のプロトコールに従い、各エキソンに対応するプローブセットのシグナル値を推定した。得られた各プローブセットのシグナル値を転写物単位でグルーピングし、各転写物に対応するプローブセット群のシグナル値の合計が一定となるように正規化を行った。次に、各転写物ごとに、Synapsin1-Cre-cKO及び野生型の各群におけるプローブセット群のシグナル値の分散に関する等分散の検定を行い、二群間で分散が有意に変化した転写物のリストを作成した。更に、各プローブセットについて、Synapsin1-Cre-cKOと野生型の二群間におけるシグナル値の平均値の差の検定を行うことにより、発現量が有意に変化したエキソンのリストを作成した。
【実施例】
【0105】
以上の操作により得られた転写物のリストとエキソンのリストの共通集合を求めることにより、PQBP-1に関連性の遺伝子を解析した。その結果を表5に示す。
【実施例】
【0106】
【表5】
JP2016002854A1_000007t.gif
【実施例】
【0107】
表5より、PQBP-1遺伝子は、精神発達遅滞(Mental Retardation(MR))、アルツハイマー病(ADD)、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS))、シナプスに関連する遺伝子群と、密接な関連性があることが示唆された。
【実施例】
【0108】
以上の結果から、シナプス後部形成が減少することによって発症するアルツハイマー病等の疾患は、PQBP-1によって予防又は治療可能であることが示唆された。
【実施例】
【0109】
(高脂肪食摂取マウスにおけるPQBP1-1の発現の解析)
高脂肪食を与えたマウスの脳におけるPQBP-1の発現を、ウエスタンブロッティングにより分析した。マウス(C57BL/6)は、6週齢から6週間の高脂肪食群(n=3、図27-30の「HFD6W」に相当)と、11週齢から1週間の高脂肪食群(n=3、図27-30の「HFD1W」に相当)を用いた。また、比較として高脂肪食を与えない通常食群(n=3、図27-30の「HFD0W」に相当)のマウスを用いた。分析は、それぞれのマウスの12週齢目に分析を行った。なお、高脂肪食としては、日本クレア社のHigh Fat Diet 32を用い、これをマウスに自由摂取させた。高脂肪食を摂取する以外の期間の高脂肪食群と、通常食群には、通常食(日本クレア社のCE-2)を自由摂取させた。水分も自由摂取とし、飼育室の明暗コントロールは12時間ごとに行い、室温25±2℃、湿度50±10%で飼育した。分析結果の写真を図27に示し、タンパク量の割合を示すグラフを図28に示す。従来より、肥満はアルツハイマー病の危険因子であると考えられていたが、この結果より、肥満によるPQBP-1の減少が、アルツハイマー病の原因となることが示唆された。
【実施例】
【0110】
(高脂肪食摂取マウスにおけるシナプス形成の程度の測定)
上記の高脂肪食を与えた高脂肪食群のマウスと、通常食を与えた通常食群のマウスにおける、シナプス後部の数を測定した。測定は、まず、10週齢でマウスにAAV-GFP(5x1011viral genome/ml)がretrosplenial dysgranular (RSD) cortex(bregmaより前後方向-2.0mm、内外方向0.6mm)内に注入し、12週齢でイソフルランによる吸入麻酔し(0.1ml/min)、観察部皮膚を切開し、ドリルを用いて頭蓋骨を薄く削り観察用のウインドウを作成した(thinned-skull法)。マルチフォトンレーザーMaiTai HP DeepSee-OL(Spectra Physics社製)、水浸型対物レンズXLPlanN25xW(オリンパス社製)を搭載した2光子レーザー顕微鏡システムFV1000MPE(オリンパス社製)を用いてスパインと樹状突起のイメージングデータを取得した。GFPはレーザー波長890nmで励起し、thinned-skull法によるウインドウよりRSD cortexを観察し、1μm間隔で1024x1024ピクセルを持つ解像度のイメージングデータを取得した。得られたイメージングデータをIMARISに読み込ませ、フィラメントツール(樹状突起直径:0.297-4.950μm、スパインヘッド直径:0.2-3.0μm)を用いて樹状突起とスパインを認識させ3次元モデルを構築し解析することによって、測定を行った。その結果を図29に示す。これにより、シナプス後部の数が、高脂肪食を与えることにより減少することが確認された。この結果は、肥満によるPQBP-1の減少は、シナプス後部の形成の減少を引き起こし、それがアルツハイマー病の原因となることが示唆する。
【実施例】
【0111】
上記の高脂肪食を与えた高脂肪食群のマウスと、通常食を与えた通常食群のシナプス後部形成の樹上突起の動態形態変化を測定した。測定は、得られたイメージングデータをIMARISに読み込ませ、フィラメントツール(樹状突起直径:0.297-4.950μm、スパインヘッド直径:0.2-3.0μm)を用いて樹状突起とスパインを認識させ3次元モデルを構築し解析することによって行った。その結果を図30に示す。これにより、高脂肪食をマウスに与えることにより、形成されていたシナプス後部のうち、なくなるものの割合が増えることが確認された。
【実施例】
【0112】
以上の結果から、肥満によりPQBP-1が減少して、その結果、シナプス後部形成が減少することにより発症するアルツハイマー病等の疾患は、PQBP-1によって予防又は治療可能であることが示唆された。
【実施例】
【0113】
(AAV-PQBP-1ベクター投与によるマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの形態観察)
5.5か月齢の5xFADマウス(アルツハイマー病モデルマウス)又は野生型マウスに、AAV-CMV-EGFP-PQBP-1ウイルスベクター(1x10vg/ml)又はAAV-CMV-EGFPウイルスベクター(1x10vg/ml)100μlを、osmotic pumpに充填後、マウス背部に皮下移植し、連結したガラスマイクロピペットでクモ膜下腔に72時間持続投与した。ウイルス投与開始日より14日後、thin-skull法(脳表の頭蓋骨を厚さ20-50μm程度まで薄く剥離する方法)にて、retrosplenial dysgranular(RSD) cortexの第1-2層の神経細胞のスパインを二光子顕微鏡により観察した。撮影した画像から画像解析ソフトimaris7.6.1を用いて、単位樹状長当たりのスパイン数の定量評価を行った。マウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像を図31に示す。図32に、マウスの大脳皮質神経細胞の樹上突起の数(number/10μm)示す。
【実施例】
【0114】
なお、5xFADマウスは、The Jackson Laboratoryより入手した。また、AAV-CMV-EGFP-PQBP-1ウイルスベクターは、上述の「Nestin-Cre-cKOマウスに対する、PQBP-1遺伝子の導入試験」におけるCMVプロモーターからなる発現カセットを含有するAAVベクタープラスミドにおいて、EGFP-ヒトPQBP-1をコードするcDNAが発現するように構成されたベクターである。AAV-CMV-EGFPウイルスベクターは、CMVプロモーターからなる発現カセットを含有するAAVベクタープラスミドにおいて、EGFPをコードするcDNAが発現するように構成されたベクターである。
【実施例】
【0115】
図31中、(a)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された野生型のマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像であり、(b)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された5xFADマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像であり、(c)は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターとAAV-CMV-PQBP-1ウイルスベクターが投与された5xFADマウスの大脳皮質神経細胞のスパインの画像である。図32中、「WT+AAV-CMV-EGFP」は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された野生型のマウス(n=8)についてのグラフであり、「5xFAD+AAV-CMV-EGFP」は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターが投与された5xFADマウス(n=5)についてのグラフであり、「5xFAD+AAV-CMV-PQBP-1+AAV-CMV-EGFP」は、AAV-CMV-EGFPウイルスベクターとAAV-CMV-PQBP-1ウイルスベクターが投与された5xFADマウス(n=8)についてのグラフである。
【実施例】
【0116】
図31に示すように、5xFADマウスにおいては、野生型マウスよりスパインの数が減少しているのに対し、PQBP-1が投与された5xFADマウスにおいては、スパインの数が増えていることが確認された。また、図32に示すように、5xFADマウスにおいては、野生型マウスより樹状突起の数が有意に減少しているのに対し、PQBP-1が投与された5xFADマウスにおいては、樹状突起の数が、野生型マウスと同程度まで有意に改善されたことが確認された。この結果により、PQBP-1は、シナプス後部形成を促進することで、アルツハイマー病を治療又は予防できることがわかった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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