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明細書 :タンパク質膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-218245 (P2015-218245A)
公開日 平成27年12月7日(2015.12.7)
発明の名称または考案の名称 タンパク質膜の製造方法
国際特許分類 C08J   5/18        (2006.01)
H05H   1/24        (2006.01)
C08J   7/00        (2006.01)
A61L  15/58        (2006.01)
FI C08J 5/18
H05H 1/24
C08J 7/00 306
C08J 7/00 CFJ
A61L 15/06
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2014-102455 (P2014-102455)
出願日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発明者または考案者 【氏名】堀 勝
【氏名】石川 健治
【氏名】池原 譲
【氏名】池原 早苗
【氏名】榊田 創
【氏名】秋元 義弘
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
個別代理人の代理人 【識別番号】100087723、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 修
【識別番号】100165962、【弁理士】、【氏名又は名称】一色 昭則
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4F071
4F073
Fターム 4C081AA03
4C081AA12
4C081CD112
4C081DA02
4C081EA15
4F071AG16
4F071AH04
4F071BA04
4F071BB13
4F071BC01
4F073AA32
4F073BA02
4F073BB01
4F073CA01
要約 【課題】 タンパク質の変性を抑制しつつタンパク質の膜を成膜することのできるタンパク質膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】 タンパク質膜の製造方法は、水系溶媒にタンパク質を混合してタンパク質水溶液PAS1を作製するタンパク質水溶液作製工程と、プラズマ発生装置100により発生させたプラズマをタンパク質水溶液PAS1に照射するプラズマ照射工程と、を有する。プラズマ発生装置100により発生されるプラズマのプラズマ密度は、1×1013cm-3以上1×1015cm-3以下の範囲内である。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
水系溶媒にタンパク質を混合してタンパク質水溶液を作製するタンパク質水溶液作製工程と、
プラズマ発生装置により発生させたプラズマを前記タンパク質水溶液に照射するプラズマ照射工程と、
を有すること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質膜の製造方法において、
前記プラズマ発生装置が発生させるプラズマのプラズマ密度が、
1×1013cm-3以上1×1015cm-3以下の範囲内であること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のタンパク質膜の製造方法において、
前記プラズマ発生装置は、
筒状の第1の電極と、
第2の電極と、
絶縁管と、
を有し、
前記第1の電極の第1の先端部は、
前記絶縁管の内部に配置されており、
前記第2の電極は、
前記絶縁管の外部に配置されており、
前記第1の電極の前記第1の先端部は、
突出部を有し、
前記突出部は、
マイクロホローを有すること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のタンパク質膜の製造方法において、
前記プラズマ発生装置は、
前記絶縁管の外側に配置された第3の電極を有し、
前記第3の電極は、
前記絶縁管からみて前記第2の電極よりも遠い位置に配置されていること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のタンパク質膜の製造方法において、
前記プラズマ発生装置では、
前記第2の電極および前記第3の電極は、
いずれも筒状の電極であり、
前記第2の電極は、
前記第3の電極の筒の内側に配置されていること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載のタンパク質膜の製造方法において、
前記プラズマ発生装置では、
前記第1の電極の第2の先端部の側には、
放電ガスを供給するガス供給部が配置されており、
前記ガス供給部は、
前記第1の電極の筒状の内部と連通していること
を特徴とするタンパク質膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質膜の製造方法に関する。さらに詳細には、タンパク質水溶液からタンパク質膜を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を合成することにより得られる膜は、工業用材料や食品用材料として応用されてきている。食品用材料として、湯葉用食品等が挙げられる。例えば、特許文献1には、膜状に形成した豆乳などの大豆蛋白質含有物に過熱水蒸気を当てることにより、湯葉様食品を製造する技術が開示されている。
【0003】
また、工業用材料として、フィルムや繊維等が挙げられる。例えば、特許文献2には、ケラチン含有物質を水性媒体中、蛋白質変成剤の存在下で、還元剤により還元し、不溶物を除去した後、塩析することにより還元ケラチンを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-104372号公報
【特許文献2】特開平6-100600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タンパク質を合成して得られる膜を医療用材料として用いるためには、タンパク質自体が変性していないことが好ましい。しかし、特許文献1では、加熱処理のためにタンパク質は変性してしまう。また、特許文献2では、化学処理を施すためにタンパク質が変性してしまう。
【0006】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、タンパク質の変性を抑制しつつタンパク質の膜を成膜することのできるタンパク質膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるタンパク質膜の製造方法は、水系溶媒にタンパク質を混合してタンパク質水溶液を作製するタンパク質水溶液作製工程と、プラズマ発生装置により発生させたプラズマをタンパク質水溶液に照射するプラズマ照射工程と、を有する。
【0008】
このタンパク質膜の製造方法は、ほぼ室温に近い非平衡大気圧プラズマをタンパク質水溶液に照射する。ここで、放電ガスは、室温である。また、プラズマ発生装置の照射口から照射されるプラズマは、大気と混じり合うとともに大気と反応する。そのため、タンパク質水溶液の液面では、プラズマの温度は室温とほぼ等しい。そのため、加熱によるタンパク質の変性は生じない。
【0009】
第2の態様におけるタンパク質膜の製造方法は、次に示すプラズマ条件を用いる。つまり、プラズマ発生装置が発生させるプラズマのプラズマ密度が、1×1013cm-3以上1×1015cm-3以下の範囲内である。このように、プラズマ密度が高いため、タンパク質膜を好適に生成することができる。
【0010】
第3の態様におけるタンパク質膜の製造方法では、次に示すプラズマ発生装置を用いる。つまり、プラズマ発生装置は、筒状の第1の電極と、第2の電極と、絶縁管と、を有する。第1の電極の第1の先端部は、絶縁管の内部に配置されている。第2の電極は、絶縁管の外部に配置されている。第1の電極の第1の先端部は、突出部を有する。突出部は、マイクロホローを有する。
【0011】
第4の態様におけるタンパク質膜の製造方法では、プラズマ発生装置は、絶縁管の外側に配置された第3の電極を有する。そして、第3の電極は、絶縁管からみて第2の電極よりも遠い位置に配置されている。
【0012】
第5の態様におけるタンパク質膜の製造方法では、プラズマ発生装置の第2の電極および第3の電極は、いずれも筒状の電極である。そして、第2の電極は、第3の電極の筒の内側に配置されている。
【0013】
第6の態様におけるタンパク質膜の製造方法では、プラズマ発生装置の第1の電極の第2の先端部の側には、放電ガスを供給するガス供給部が配置されている。ガス供給部は、第1の電極の筒状の内部と連通している。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、タンパク質の変性を抑制しつつタンパク質の膜を成膜することのできるタンパク質膜の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るプラズマ発生装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施形態に係るプラズマ発生装置の第1の電極を示す斜視図である。
【図3】実施形態に係るプラズマ発生装置の第1の電極を示す断面図である。
【図4】実施形態に係るプラズマ発生装置の内部電極の変形例を示す断面図である。
【図5】実施形態に係るタンパク質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【図6】タンパク質水溶液を示す顕微鏡写真である。
【図7】タンパク質水溶液にヘリウムガスを照射したものを示す顕微鏡写真である。
【図8】タンパク質水溶液にプラズマを3分間照射したものを示す顕微鏡写真である。
【図9】タンパク質水溶液にプラズマを1分間照射したものを示す顕微鏡写真である。
【図10】卵白アルブミンの濃度が0.5mg/mlのタンパク質水溶液にプラズマを30秒間照射したものを示す写真である。
【図11】卵白アルブミンの濃度が1.0mg/mlのタンパク質水溶液にプラズマを30秒間照射したものを示す写真である。
【図12】卵白アルブミンの濃度が5.0mg/mlのタンパク質水溶液にプラズマを30秒間照射したものを示す写真である。
【図13】プラズマを照射したタンパク質水溶液におけるタンパク質膜を示す写真である。
【図14】タンパク質水溶液から取り出したタンパク質膜を示す写真である。
【図15】タンパク質膜を4000倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
【図16】タンパク質膜を20000倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
【図17】卵白アルブミン(Egg White Albumin)の水溶液にプラズマを照射した場合を示す写真である。
【図18】ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液にプラズマを照射した場合を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、具体的な実施形態について、タンパク質膜の製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。本実施形態のタンパク質膜の製造方法は、タンパク質を含有する水溶液にプラズマを照射することによりタンパク質の膜状凝固物を製造する方法である。本実施形態のプラズマ発生装置の各構成の大きさは、あくまで目安である。必ずしも、記載の数値範囲に限らない。

【0017】
1.プラズマ発生装置
1-1.プラズマ発生装置の概略構成
図1は、本実施形態のプラズマ発生装置100の概略構成を示す図である。プラズマ発生装置100は、第1の電極10と、第2の電極20と、第3の電極30と、絶縁管40と、第1の絶縁部材50と、第2の絶縁部材60と、第3の絶縁部材70と、封止部材80と、第1の電位付与部110と、第2の電位付与部120と、を有している。

【0018】
第1の電極10は、放電電極である。また、第1の電極10は、放電ガスを供給するためのガス供給管を兼ねている。そのため、第1の電極10は、円筒形状の円筒電極である。第1の電極10は、筒状であれば、多角形等その他の形状であってもよい。第1の電極10の先端部分には、後述するようにマイクロホローH1が形成されている。第1の電極10の一方の先端部分は、絶縁管40の内部に配置されている。第1の電極10の他方の先端部分は、絶縁管40の外部に露出している。第1の電極10の材質は、例えば、ステンレス(SUS)である。もちろん、その他の金属もしくは合金を用いてもよい。第1の電極10の外径は、例えば、1mm以上5mm以下の範囲内である。第1の電極10の肉厚は、例えば、0.1mm以上0.5mm以下の範囲内である。あくまで例示であり、これら以外の大きさのものを用いてもよい。

【0019】
第2の電極20は、円筒形状の電極である。第2の電極20は、筒状であれば、多角形等その他の形状であってもよい。第2の電極20は、第1の絶縁部材50を覆うように形成されている。そのため、第2の電極20の円筒内部には、絶縁管40および第1の絶縁部材50が配置されている。つまり、第2の電極20は、絶縁管40の外部に配置されている。しかし、第2の電極20の円筒内部には、第1の電極10は、配置されていない。第2の電極20の円筒を円筒の中心軸方向に延長した場合に、その延長した円筒内部に第1の電極10が位置することとなる。また、第2の電極20は、第1の絶縁部材50と第2の絶縁部材60との間に挟まれている。そのため、第2の電極20は、その周囲をすべて絶縁体で覆われている。第2の電極20の材質は、例えば、アルミニウムである。もちろん、その他の金属(合金を含む)を用いてもよい。第2の電極20の肉厚は、1mm程度である。

【0020】
第3の電極30は、円筒形状の電極である。第3の電極30は、筒状であれば、多角形等その他の形状であってもよい。第3の電極30は、第2の絶縁部材60を覆うように形成されている。そのため、第3の電極30の円筒内部には、円筒の中心から絶縁管40と、第1の絶縁部材50と、第2の電極20と、第2の絶縁部材60と、がこの順序で配置されている。つまり、第3の電極30は、絶縁管40の外側に配置されている。そして、第3の電極30は、絶縁管40からみて第2の電極20よりも遠い位置に配置されている。また、第3の電極30は、第2の絶縁部材60と第3の絶縁部材70との間に挟まれている。そのため、第3の電極30は、その周囲をすべて絶縁体で覆われている。第3の電極30の材質は、例えば、アルミニウムである。もちろん、その他の金属(合金を含む)を用いてもよい。第3の電極30の肉厚は、1mm程度である。

【0021】
絶縁管40は、プラズマ発生装置100の筐体である。絶縁管40は、第1の電極10と第2の電極20との間に配置されている。絶縁管40の内部には、第1の電極10が配置されており、絶縁管40の外部には、第2の電極20と第3の電極30とが配置されている。絶縁管40の材質は、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ムライト、ガラス、その他の材質を用いることができる。絶縁管40の内径は、10mm以上30mm以下の範囲内の程度である。絶縁管40の肉厚は、0.2mm以上2mm以下の範囲内の程度である。絶縁管40の長さは、10cm以上15cm以下の範囲内の程度である。

【0022】
絶縁管40の一方の端部は、開口している開口部41である。そして、図1に示すように、開口部41は、プラズマを照射するプラズマ照射口である。絶縁管40における開口部41の反対側の端部42には、第1の電極10が突出している。そして、端部42では、絶縁管40と第1の電極10との間の隙間は、封止部材80により封止されている。第1の電極10におけるマイクロホローH1の反対側には、ガス供給部(図示せず)が設けられている。ガス供給部は、チューブ等を介して第1の電極10の円筒の内部と連通している。そのため、プラズマ発生装置100は、図1の矢印D1の向きに放電ガスを供給することができる。

【0023】
第1の絶縁部材50は、絶縁管40の絶縁耐性を向上させるためのものである。第1の絶縁部材50は、絶縁管40の外周部に沿って形成されている。第1の絶縁部材50として、ポリイミド、テフロン(登録商標)等を用いることができる。その他の材料も用いることができる。ここで、テープ状のものを用いると、絶縁管40の外周部に巻きつけることが容易である。

【0024】
第2の絶縁部材60は、第2の電極20と第3の電極30との間の位置に配置されている。そして、第2の絶縁部材60の材質は、第1の絶縁部材50と同様のものを用いてよい。

【0025】
第3の絶縁部材70は、第3の電極30より外側の位置に配置されている。そして、第3の絶縁部材70の材質は、第1の絶縁部材50と同様のものを用いてよい。

【0026】
図1に示すように、第3の電極30における絶縁管40の軸方向(図1の上下方向)の長さは、第2の電極20における絶縁管40の軸方向の長さより短い。そして、絶縁管40の軸方向(図1の上下方向)でみると、第3の電極30の両方の端部は、第2の電極20の両方の端部よりも内側に位置している。そのため、第1の電極10からみて最も近い電極は、第3の電極30ではなく、第2の電極20である。

【0027】
1-2.電位付与部
第1の電位付与部110は、第1の電極10に電位を付与するためのものである。そのため、第1の電位付与部110は、第1の電極10と導通している。第1の電位付与部110は、商用交流(50Hz、60Hz)電源100Vを昇圧した高電圧を印加することができる。ここで、インバーター構成により、10kHz以上100kHz以下程度の高い周波数の成分を重畳してもよい。このように、第1の電位付与部110が第1の電極10に電位を付与するため、第1の電極10と第2の電極20との間に電圧が印加されることとなる。

【0028】
第2の電位付与部120は、第3の電極30に電位を付与するためのものである。そのため、第2の電位付与部120は、第3の電極30と導通している。第2の電位付与部120は、例えば、接地されている。このとき、第3の電極30には、ゼロ電位が付与される。または、第2の電位付与部120は、第3の電極30にゼロ電位以外の一定の電位を付与してもよいし、周期的に変化する電位を付与してもよい。このように、第2の電位付与部120が第3の電極30に電位を付与するため、絶縁部材60を介して第2の電極20に電圧が印加されることとなる。

【0029】
1-3.第2の電極および第3の電極の構成
絶縁管40の外部には、第2の電極20と第3の電極30とを有する二重電極構造となっている。そして、第2の電極20と第3の電極30との間には、第2の絶縁部材60がある。このように二重電極構造になっているため、第1の電極10と第2の電極20との間に配置されている絶縁管40の厚み方向に加わるパルス的衝撃電界がある程度緩和される。すなわち、絶縁管40の円筒内部と円筒外部との間に、局所的に大きな電界が形成されることが抑制される。そのため、絶縁管40は、絶縁破壊しにくい。したがって、小型化されたプラズマ発生装置100は、安定したプラズマ発生源である。

【0030】
1-4.第1の電極の形状
図2は、第1の電極10の先端部11の周辺を示す斜視図である。図3は、第1の電極10の円筒の中心およびマイクロホローH1を含む断面を示す断面図である。第1の電極10の先端部11は、端面S1と面S2とを有している。端面S1は、面S2より第1の電極10の軸方向の外側に突出している突出部である。つまり、第1の電極10の先端部11は、軸対称ではない。

【0031】
端面S1には、マイクロホローH1が形成されている。マイクロホローH1は、スリット状の溝である。マイクロホローH1の深さは、0.3mm以上0.5mm以下の範囲内である。マイクロホローH1の幅は、0.1mm以上0.3mm以下の範囲内である。これらの数値範囲はあくまで例示であり、その他の数値範囲を用いることもできる。

【0032】
このような構造になっているため、突出した端面S1のマイクロホローH1の周辺で放電が生じやすい。そのため、プラズマ密度の高いプラズマを安定して生成することが容易である。

【0033】
第1の電極10と第2の電極20との間に形成される電界の電界強度は、これらの間に印加される電圧に比例し、これらの間の距離に反比例する。そのため、第1の電位付与部110が付与する電位と、第1の電極10と第2の電極20との間の距離とが、重要である。

【0034】
小型のプラズマ発生装置100を製造するために、絶縁管40の外径を小さいものとして設計するとともに、第1の電極10と第2の電極20との間の距離を大きいものとして設計する。つまり、第1の電極10の端面S1の位置を、第2の電極20の位置から比較的遠い位置に配置することができる。第1の電極10の端面S1の位置と、第2の電極20における端部42側の位置との間の距離は、およそ8mm以上35mm以下の範囲内であるとよい。

【0035】
1-5.プラズマ発生装置の変形例
1-5-1.内部電極の形状
本実施形態では、絶縁管40の内部に配置する内部電極として、図1から図3までに示した第1の電極10を用いることとした。しかし、内部電極の形状は、第1の電極10に限らない。例えば、図4に示す内部電極210を用いてもよい。内部電極210の先端部211は、端面S3と面S4とを有している。端面S3は、面S4より内部電極210の軸方向の外側に突出している突出部である。このように、内部電極210の先端部211は、軸対称ではない。そして、端面S3には、ホローH12が形成されている。このように、軸方向の外側に最も突出している箇所に、ホローH12が形成されている。

【0036】
1-5-2.マイクロホローの数
本実施形態では、第1の電極10の端面S1に、マイクロホローH1を1個形成した。しかし、複数のマイクロホローH1を端面S1に形成してもよい。

【0037】
1-5-3.外部電極の形状
本実施形態では、第2の電極20および第3の電極30を円筒形状の電極とした。しかし、筒形状でなくてもよい。ただし、第1の電極10と第3の電極との間に、第2の電極が位置していることが必要である。

【0038】
1-5-4.組み合わせ
上記の変形例を組み合わせてもよい。

【0039】
2.発生させるプラズマ
プラズマ発生装置100が発生させるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。放電ガスの流量は、0.5slm以上5slm以下の範囲内であるとよい。発生させるプラズマのプラズマ密度は、1×1013cm-3以上1×1015cm-3以下の程度である。また、後述する実験では、放電ガスとして希ガスを用いている。開口部41から照射されるプラズマは、大気と混じり合う。このため、酸素や窒素に由来する種々のラジカル等が発生する。

【0040】
3.タンパク質水溶液
本実施形態では、タンパク質水溶液にプラズマを照射する。そこで、タンパク質を含有するタンパク質水溶液について説明する。このタンパク質水溶液は、超純水にタンパク質を混合した水溶液である。

【0041】
タンパク質として、精製したアルブミンを用いることができる。例えば、卵白アルブミンと、ウシ血清アルブミン(BSA)と、フェチュイン(Fetuin)と、が挙げられる。これらのうち1種類以上を用いるとよい。

【0042】
4.タンパク質膜の製造方法
ここで、タンパク質膜の製造方法について説明する。本実施形態のタンパク質膜の製造方法は、水系溶媒にタンパク質を混合してタンパク質水溶液を作製するタンパク質水溶液作製工程と、プラズマ発生装置により発生させたプラズマをタンパク質水溶液に照射するプラズマ照射工程と、を有する。

【0043】
4-1.タンパク質水溶液作製工程(タンパク質水溶液準備工程)
まず、タンパク質水溶液を作製する。そのために、容器に超純水を注ぐ。そして、容器中の超純水にタンパク質を混合する。混合するタンパク質として、精製されたものを用いる。タンパク質が、精製済みでなければ精製処理を行う。これにより、タンパク質水溶液PAS1(図5参照)が作製される。

【0044】
4-2.プラズマ照射工程
次に、図5に示すように、プラズマ発生装置100を用いて、タンパク質水溶液PAS1にプラズマを照射する。ここで、放電ガス(プラズマガス)は、例えば、ヘリウムガスである。これにより、タンパク質水溶液PAS1中のタンパク質は、重合してタンパク質膜が成膜される。このようにして形成されたタンパク質膜については、容易に取り出すことができる。

【0045】
5.製造されたタンパク質膜
照射するプラズマのプラズマ密度は、前述のとおり、1×1013cm-3以上1×1015cm-3以下の程度である。また、数十秒から数十分程度の照射時間で、タンパク質は凝固する。一方、プラズマ発生装置100の開口部41の直径は、数mm程度である。放電ガスの流量は、0.5slm~5slm程度である。このため、タンパク質水溶液に照射されるイオンおよびラジカルの数は、アボガドロ定数に比べて、非常に小さい。したがって、変性剤および還元剤を用いて変性させたタンパク質に比べて、本実施形態のタンパク質膜は、ほとんど変性していないと考えられる。

【0046】
6.変形例
6-1.タンパク質水溶液の原材料
本実施形態では、アルブミン等のタンパク質を含有するタンパク質水溶液を作製した。しかし、それ以外のタンパク質を用いてもよい。例えば、グロブリン、グルテリン、プロラミン等が挙げられる。

【0047】
6-2.タンパク質の精製
本実施形態では、精製済みのタンパク質からタンパク質水溶液を作製することとした。しかし、精製していない卵白をそのまま用いてもよい。そのため、タンパク質として例えば、卵白アルブミンと、ウシ血清アルブミン(BSA)と、フェチュイン(Fetuin)と、精製していない卵白と、を用いることができる。

【0048】
7.本実施形態のまとめ
本実施形態のタンパク質膜の製造方法は、タンパク質水溶液を作製するタンパク質水溶液作製工程と、タンパク質水溶液にプラズマを照射するプラズマ照射工程と、を有する。ここで、プラズマ密度の高いプラズマを照射することにより、タンパク質膜を好適に成膜することができる。

【0049】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、プラズマを発生させる放電ガスとして、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn等の他の希ガスを用いてもよい。また、酸素や窒素、その他の気体を若干量だけ混入してもよい。
【実施例】
【0050】
1.プラズマ発生装置
本実験で用いたプラズマ発生装置の各サイズは、次のとおりであった。円筒中心軸方向でみて、開口部41から第2の電極20の開口部41側の端部までの距離は、7mmであった。第2の電極20の円筒中心軸方向の長さは、20mmであった。円筒中心軸方向でみて、第1の電極10と第2の電極20との間の距離は、10mmであった。開口部41の直径は、1mmであった。
【実施例】
【0051】
2.プラズマ条件
放電ガスとして、Heガスを用いた。放電ガスの流量は、2slmであった。その結果、プラズマの照射径が1mm程度のプラズマ流が、4cm程度の長さで観測された。
【実施例】
【0052】
3.タンパク質水溶液
超純水として、Milli-Q(登録商標)水を用いた。タンパク質として、次の3種類のタンパク質を用いて、3種類のタンパク質水溶液を作製した。用いたタンパク質は、卵白アルブミン(Ovarian albumin:OVA)と、卵白アルブミン(Egg White:EW)と、ウシ血清アルブミン(BSA)である。ここで、卵白アルブミン(OVA)と卵白アルブミン(EW)とでは、精製度が異なっている。これらの卵白アルブミンでは、精製度以外の点については同じである。タンパク質の濃度については、実験に応じて変えた。なお、プラズマを照射したタンパク質水溶液の容積は、0.3mlであった。
【実施例】
【0053】
4.実験結果
4-1.照射時間
プラズマの照射時間とタンパク質膜の成膜の度合いとの関係について調べるための実験を行った。卵白アルブミン(OVA)を5.0mg/mlの濃度としたタンパク質水溶液を用いた。また、プラズマを照射する際に、プラズマ発生装置100を振とうしなかった。
【実施例】
【0054】
図6は、照射前のタンパク質水溶液を示す顕微鏡写真である。図7は、Heガスをプラズマ化しないで照射した場合のタンパク質水溶液を示す顕微鏡写真である。図8は、プラズマを3分間照射した場合のタンパク質水溶液を示す顕微鏡写真である。図9は、プラズマを1分間照射した場合のタンパク質水溶液を示す顕微鏡写真である。図8および図9に示すように、プラズマを照射した場合に、タンパク質水溶液の内部にタンパク質の膜状凝固物が生成された。
【実施例】
【0055】
4-2.タンパク質の濃度
次に、タンパク質水溶液におけるタンパク質の濃度とタンパク質膜の成膜の度合いとの関係について調べるための実験を行った。卵白アルブミン(OVA)をそれぞれ0.5mg/ml、1.0mg/ml、5.0mg/mlの濃度とした3種類のタンパク質水溶液を用いた。プラズマの照射時間は、30秒であった。また、プラズマを照射する際に、プラズマ発生装置100を振とうした。
【実施例】
【0056】
図10は、卵白アルブミン(OVA)を0.5mg/mlの濃度としたタンパク質水溶液にプラズマを照射した場合のタンパク質水溶液を示す写真である。図11は、卵白アルブミン(OVA)を1.0mg/mlの濃度としたタンパク質水溶液にプラズマを照射した場合のタンパク質水溶液を示す写真である。図12は、卵白アルブミン(OVA)を5.0mg/mlの濃度としたタンパク質水溶液にプラズマを照射した場合のタンパク質水溶液を示す写真である。
【実施例】
【0057】
図10では、膜状凝固物が形成されていない。図11では、膜状凝固物が形成されている。図12では、比較的大きな膜状凝固物が形成されている。このように、卵白アルブミン(OVA)の濃度が1.0mg/ml以上の場合に、膜状凝固物が形成された。
【実施例】
【0058】
4-3.顕微鏡観察
図13は、プラズマを照射した後のタンパク質水溶液中のタンパク質膜を示す写真である。図14は、タンパク質水溶液から取り出したタンパク質膜を示す写真である。図15は、タンパク質膜を拡大した電子顕微鏡写真である。図15における倍率は、4000倍である。図16は、タンパク質膜を拡大した電子顕微鏡写真である。図16における倍率は、20000倍である。
【実施例】
【0059】
図15および図16に示すように、タンパク質同士は、一定の隙間をもって凝固している。そのため、タンパク質は、ほとんど変性していないと考えられる。なお、タンパク質膜は、ほぼ透明である。
【実施例】
【0060】
4-4.アルブミンの種類による比較
図17は、タンパク質として卵白アルブミン(Egg White Albumin:EW)を混合したタンパク質水溶液にプラズマを照射した場合を示す写真である。図17には、上段および下段に写真が配置されている。上段の写真とそのすぐ下段の写真とは、同じ写真である。ただし、下段の写真には、タンパク質膜を示すために円形もしくは楕円形のマークが付加されている。そして、上段の写真と下段の写真との間には、定規が配置されている。実験用の容器(チャンバースライド)とタンパク質膜の大きさを示すためである。
【実施例】
【0061】
卵白アルブミン(EW)の濃度は、20mg/mlであった。プラズマの照射距離は、18mmであった。図17中、左から1番目の写真では、プラズマの照射時間は30秒であった。左から2番目の写真では、プラズマの照射時間は3分であった。左から3番目の写真では、プラズマの照射時間は16分であった。1番右の写真では、プラズマの照射時間は21分であった。図17に示すように、プラズマの照射時間が長いほど、タンパク質膜は大きく成長した。
【実施例】
【0062】
図18は、タンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA)を混合したタンパク質水溶液にプラズマを照射した場合を示す写真である。また、図18では、図17と同様に、上段および下段に写真が配置されている。
【実施例】
【0063】
ウシ血清アルブミン(BSA)の濃度は、20mg/mlであった。プラズマの照射距離は、18mmであった。図18中、左から1番目の写真では、プラズマの照射時間は30秒であった。左から2番目の写真では、プラズマの照射時間は1分であった。左から3番目の写真では、プラズマの照射時間は2分であった。1番右の写真では、プラズマの照射時間は3分であった。図18に示すように、プラズマの照射時間が長いほど、タンパク質膜は大きく成長した。また、プラズマの照射時間が30秒程度であっても、わずかにタンパク質膜が成膜された。
【実施例】
【0064】
4-5.プラズマの照射距離
次に、プラズマの照射距離を変えてタンパク質膜を成膜した。プラズマの照射距離とは、プラズマ発生装置の照射口からタンパク質水溶液の液面までの距離である。プラズマの照射距離として、13mmと、18mmと、23mmと、を採用した。卵白アルブミンの濃度は、20mg/mlであった。プラズマの照射距離が13mmの場合に、タンパク質膜は最も大きかった。また、プラズマの照射距離が23mmの場合に、タンパク質膜は最も小さかった。このように、プラズマの照射距離が短いほど、タンパク質膜は大きく成長した。プラズマ発生装置の照射口から遠ざかるほど、プラズマ密度およびラジカル密度は低い。つまり、プラズマの照射距離が短いほど、タンパク質水溶液に照射されるイオンやラジカルの数は多い。したがって、タンパク質水溶液に照射されるイオン等の数が多いほど、タンパク質膜は大きく成長する。
【実施例】
【0065】
以上のように、3種類のタンパク質水溶液のいずれに対しても、プラズマを照射することによりタンパク質膜を成膜することができた。
【実施例】
【0066】
4-6.結合状態
こうして得られたタンパク質膜についてウエスタンブロッティングをしたところ、ペプチド結合はほとんど見いだせなかった。また、糖リンケージも見いだせなかった。したがって、タンパク質は変性していないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
このタンパク質膜の製造方法により製造されたタンパク質膜については、例えば、絆創膏として用いることができる。もしくは、アルブミン製剤の製造に応用することもできる。また、その他の工業系材料としても用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
100…プラズマ発生装置
10…第1の電極
20…第2の電極
30…第3の電極
40…絶縁管
50…第1の絶縁部材
60…第2の絶縁部材
70…第3の絶縁部材
80…封止部材
110…第1の電位付与部
120…第2の電位付与部
H1、H12…マイクロホロー
S1、S3…端面
S2、S4…面
PAS1…タンパク質水溶液
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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