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明細書 :物質内包ベシクル及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6049854号 (P6049854)
登録日 平成28年12月2日(2016.12.2)
発行日 平成28年12月27日(2016.12.27)
発明の名称または考案の名称 物質内包ベシクル及びその製造方法
国際特許分類 B01J  13/20        (2006.01)
A61K   9/10        (2006.01)
A61K  47/30        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  47/02        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/409       (2006.01)
A61K  31/505       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  31/7068      (2006.01)
C08G  81/00        (2006.01)
C08L  77/00        (2006.01)
C08G  69/00        (2006.01)
C12N  11/04        (2006.01)
FI B01J 13/20
A61K 9/10
A61K 47/30
A61K 47/42
A61K 47/02
A61K 45/00
A61P 43/00 123
A61K 31/409
A61K 31/505
A61P 35/00
A61K 31/7068
C08G 81/00
C08L 77/00
C08G 69/00
C12N 11/04
請求項の数または発明の数 37
全頁数 89
出願番号 特願2015-503072 (P2015-503072)
出願日 平成26年2月28日(2014.2.28)
国際出願番号 PCT/JP2014/055186
国際公開番号 WO2014/133172
国際公開日 平成26年9月4日(2014.9.4)
優先権出願番号 2013041186
2013176068
優先日 平成25年3月1日(2013.3.1)
平成25年8月27日(2013.8.27)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月17日(2015.7.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】片岡 一則
【氏名】岸村 顕広
【氏名】安楽 泰孝
【氏名】後藤 晃範
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100141977、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 勝
審査官 【審査官】松本 直子
参考文献・文献 国際公開第2011/145745(WO,A1)
国際公開第2006/118260(WO,A1)
国際公開第2014/058079(WO,A1)
特開2001-146556(JP,A)
国際公開第2012/014942(WO,A1)
調査した分野 B01J 13/02- 13/22
A61K 9/10- 9/133
A61K 9/48- 9/66
A61K 47/00- 47/48
C08G 69/00
C08G 81/00
C08L 77/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体であって、
前記内水相に含有される前記目的物質の濃度が5mg/mLを上回る、かつ
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点及び前記目的物質が内包されていない点で前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、前記物質内包架橋ベシクルの内水相と同一濃度の前記目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合した場合に、
前記目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
【請求項2】
0.2以下の多分散指数を有する、請求項1に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
【請求項3】
前記目的物質の重量平均分子量が10000~40000である、請求項1又は2に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
【請求項4】
前記第1及び/又は前記第2の重合体が、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されており、前記架橋結合が形成された割合が、前記架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数の35%以上である、請求項3に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
【請求項5】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、前記架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、前記内水相に第1の目的物質及び前記第1の目的物質よりも分子量の小さい親水性高分子である第2の目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルであって、
第2の目的物質が、第1の目的物質分子に対しクラウディング環境をもたらすような量で封入されており、
前記第1の目的物質の立体構造が、前記第2の目的物質の不存在下で前記内水相に含有されている場合よりも安定化されている、前記物質内包架橋ベシクル。
【請求項6】
前記第2の目的物質がクラウディング剤である、請求項5に記載の物質内包架橋ベシクル。
【請求項7】
物質内包ベシクルを製造する方法であって、
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に目的物質が内包されていない空の架橋ベシクルの単分散集合体を、
前記目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、
前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を形成させる工程を含んでなる、前記方法。
【請求項8】
前記空の架橋ベシクルの単分散集合体、前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体、前記空の非架橋ベシクルの単分散集合体、及び前記物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体が、0.2以下の多分散指数を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記目的物質の重量平均分子量が10000~40000であり、前記混合液に含有される前記目的物質の濃度が5mg/mLを上回る、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記空の架橋ベシクル及び前記物質内包架橋ベシクルにおいて、前記第1及び/又は前記第2の重合体が、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されており、前記架橋結合が形成された割合が、前記架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数の35%以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を、前記第1及び/又は前記第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させる工程をさらに含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
物質内包ベシクルを製造する方法であって、
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に第1の目的物質が内包された第1の物質内包架橋ベシクルを、
前記第1の目的物質よりも分子量の小さい第2の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、
前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記第1及び前記第2の目的物質が内包された第2の物質内包架橋ベシクルを形成させる工程を含んでなる、前記方法。
【請求項13】
前記第1の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体であり、前記第2の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合液に含有される前記第2の目的物質の濃度が、
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点で前記第1の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる第1の物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体を前記混合液中で混合した場合に、
前記第1及び前記第2の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記第1及び前記第2の目的物質のいずれも内包されていない空の架橋ベシクルを、
前記第1の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、必要に応じて、前記第1及び/又は前記第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させ、
前記第1の物質内包架橋ベシクルを形成させる工程をさらに含んでなる、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記空の架橋ベシクルが、その単分散集合体であり、前記第1の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記混合液に含有される前記第1の目的物質の濃度が、
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点で前記空の架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を前記混合液中で混合した場合に、
前記第1の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の目的物質がクラウディング剤である、請求項12~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルと、当該ベシクルに内包された吸着材粒子とを含み、前記第1及び第2の重合体の少なくとも一方が前記吸着材粒子に吸着されてなり、吸着剤粒子の粒径が40nm以上であ吸着材内包ベシクル。
【請求項20】
前記第1及び/又は第2の重合体が架橋されてなる、請求項19に記載の吸着材内包ベシクル。
【請求項21】
前記吸着材粒子がシリカ粒子である、請求項19又は20に記載の吸着材内包ベシクル。
【請求項22】
前記吸着材粒子の平均粒径が40nm~10μmである、請求項19~21のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
【請求項23】
前記吸着材粒子が表面処理されてなる、請求項19~22のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
【請求項24】
前記吸着材粒子に低分子化合物が吸着されてなる、請求項19~23のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
【請求項25】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、吸着材粒子が内包されてなる吸着材内包ベシクルを製造する方法であって、
(a)前記第1及び第2の重合体のうち一方を前記吸着材粒子と混合し、前記吸着材粒子に吸着させる工程、並びに、
(b)前記工程(a)の混合物を前記第1及び第2の重合体のうち他方と更に混合し、前記吸着材粒子の周囲に前記第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルを形成させ、吸着材内包ベシクルとする工程
を含む方法。
【請求項26】
(c)前記工程(b)のベシクル中の前記第1及び/又は前記第2の重合体を架橋する工程を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記吸着材粒子がシリカ粒子である、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記吸着材粒子の平均粒径が40nm~10μmである、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記吸着材粒子を表面処理する工程を更に含む、請求項25~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記吸着材粒子に低分子化合物が吸着されてなる、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含んでなり、前記第一及び/又は前記第二の重合体が架橋された架橋膜からなるベシクルに、低水溶性の目的物質が内包されてなる物質内包ベシクルを製造する方法であって、
(a)前記目的物質よりも水溶性の高い前駆体を前記目的物質に転換し得る酵素が、前記第1及び第2の重合体を含む架橋膜からなるベシクルに内包されてなる酵素内包ベシクルを用意する工程、及び、
(b)前記前駆体よりも前記目的物質に対して低い溶解性を示す条件下で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させ、前記酵素によって前記前駆体を前記目的物質に転換することにより、前記目的物質を析出させて前記酵素内包ベシクルに内包させ、物質内包ベシクルとする工程
を含む方法であって、
ここで前記工程(b)の前に、前記酵素内包ベシクルの前記第1及び/又は前記第2の重合体を架橋する工程を更に含み、
前記低水溶性の目的物質が、内水相に対する前記低水溶性の目的物質の溶解度を超える濃度で内包されてなる、方法。
【請求項32】
前記工程(b)において、前記酵素内包ベシクルを前記前駆体の水溶液と混合することにより、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させる請求項31に記載の方法。
【請求項33】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含んで成り、前記第一及び/又は前記第二の重合体が架橋された架橋膜からなるベシクルに、前記目的物質よりも水溶性の高い前駆体から転換され得る低水溶性物質が、前記前駆体を前記低水溶性物質に転換し得る酵素と共に内包されてなり、前記低水溶性物質が、内水相に対する前記低水溶性物質の溶解度を超える濃度で内包されてなる、低水溶性物質内包ベシクル。
【請求項34】
請求項1~4のいずれか1項に記載のベシクルの単分散集合体、及び/又は、請求項5、6、及び19~22いずれか1項に記載のベシクルを含む薬物送達系。
【請求項35】
対象の所定の部位に薬物の前駆体を送達すると共に、前記前駆体を前記薬物に転換し得る酵素により、前記前駆体を前記薬物に転換することを含む薬物送達方法に使用される医薬組成物であって、
当該医薬組成物は、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜からなるベシクルに、前記酵素が内包されてなる酵素内包ベシクルを含み、且つ、
前記薬物送達方法は、当該医薬組成物を前記対象の所定の部位に送達すると共に、該部位に別途送達した前記前駆体を前記酵素内包ベシクル内に浸透させることを更に含む、医薬組成物。
【請求項36】
前記前駆体の水溶性が前記薬物よりも高いとともに、前記薬物送達方法において、当該医薬組成物を対象の所定の部位に送達した際に、前記前駆体よりも前記薬物に対して低い溶解性を示す条件下で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させる、請求項35に記載の医薬組成物
【請求項37】
前記薬物送達方法において、当該医薬組成物を対象の所定の部位に送達した際に、前記薬物を析出させて前記酵素内包ベシクルに内包させることにより、薬物内包ベシクルを形成することを含む、請求項35又は36に記載の医薬組成物
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な物質内包ベシクル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一次構造が精密に制御された高分子を自己組織化させることにより、ベシクルを形成し得ることが知られている。斯かるベシクルは多様な分子設計が可能であるとともに、高分子が本来有する性質に加えて新たな機能を呈する可能性があることから、薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)の担体や、バイオマテリアル・機能性材料等としての利用が検討されている。
【0003】
特許文献1(特開平8-188541号公報)には、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体を自己組織化させてなる静電結合型高分子ミセル薬物担体が、本発明者らの一部によって開示されている。
【0004】
非特許文献1(Schlaad H. et al., Macromolecules, 2003, 36 (5), 1417-1420)には、ポリ(1,2-ブタジエン)ブロック及びポリ(セシウムメタクリレート)ブロックからなるブロック共重合体と、ポリスチレンブロック及びポリ(1-メチル-4-ビニルピリジウムアイオダイド)ブロックからなるブロック共重合体とを自己組織化させてなる、ポリマーソームと称されるベシクルが開示されている。
【0005】
特許文献2(国際公開第2006/118260号パンフレット)には、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有する第1のブロック共重合体(例えばPEG-ポリカチオン等)と、非荷電親水性セグメントとアニオン性セグメントとを有する第2のブロック共重合体(例えばPEG-ポリアニオン等)とを自己組織化させてなるベシクルが、本発明者等の一部によって開示されている。
【0006】
非特許文献2(Anraku Y. et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132 (5), 1631-1636)には、非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体(例えばPEG-ポリカチオン等)と、前記荷電性セグメントとは逆の電荷に荷電した共重合体(例えばポリアニオン等)とを自己組織化させてなるベシクルが、本発明者等の一部によって開示されている。
【0007】
高分子の自己組織化により得られる前記の各種ベシクルは、その空隙部に各種の物質を包含・担持させて利用することが考えられる(概説につき非特許文献3(H. Nyin et al. Soft Matter, 2006, 2, 940-949)及び非特許文献4(「リポソーム応用の新展開」、秋吉一成等監修、エヌ・ティー・エス、2005年)参照)。
【0008】
空隙部に物質が内包されたベシクル(以降「物質内包ベシクル」と表示する場合がある)を製造する方法としては、内包させるべき物質(以降「被内包物質」と表示する場合がある)を、膜の構成要素となる高分子、或いは予め形成された高分子膜とともに混合し、自己組織化によるベシクルの形成と空隙部への物質の封入とを同時に行う方法が代表的である(以降「同時混合法」と表示する場合がある)。具体例としては、エマルション法(非特許文献5(F. Szoka, Jr et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1978 75 (9) 4194-4198)参照)や、脂質有機溶液滴下法(非特許文献6(Batzri, S. et al., Biochim. Biophys Acta 1973, 298, 1015-1019)参照)等が挙げられる。
【0009】
しかし、同時混合法では、被内包物質の存在が自己組織化によるベシクルの形成に影響を与え、ベシクルの形成が阻害される場合や、ベシクルが形成されても物質が空隙部へ内包されない場合がある。また、成膜に有害な有機溶剤を用いる場合が多く、プロセスが煩雑になるとともに、有機溶剤により被内包物質が損傷を受け易いという課題もある。更に、均一な粒径・構造を持つベシクルの形成が困難であり、斯かる均一な粒径・構造を確保するためには別の工程を追加せざるを得ず、プロセスが煩雑になり易いという課題もある。よって本方法は汎用性に乏しく、種々の物質内包ベシクルを製造する手法としては実用的ではない。
【0010】
一方、主に中空粒子への物質封入に用いられる手法として、既存中空粒子の空隙部に後から被内包物質を導入し、包含・担持させる方法(以降「後担持法」と表示する場合がある)があり(例えば非特許文献7(W. Tong et al. J. Phys. Chem. B, 2005, 109, 13159-13165)等参照)、斯かる手法をベシクルに応用することも考えられる。
【0011】
しかし、後担持法をベシクルに応用する場合、空ベシクルの膜を越えて被内包物質を空隙部に導入するための工夫が必要となる。例えば、空ベシクルを膨潤させて膜を弛緩させ、生じた膜の間隙から被内包物質を浸透させて空隙部に導入した後、膜を収縮させて被内包物質の脱落を防止する手法や、空ベシクルの膜に孔を形成し、当該孔を通じて被内包物質を空隙部に導入した後、当該孔を封鎖して被内包物質の脱落を防止する手法等が考えられるが、何れも極めて煩雑であり、実用化には大きな不利益となる。また、被内包物質の封入・担持時に、既存の空ベシクルの粒径・構造が乱されてしまう可能性が高く、とても実用的ではないと考えられてきた。
【0012】
また、リポソーム等の脂質二重膜ベシクルについては、脂質二重膜にチャネルタンパク質を埋め込む等の手法(非特許文献8(Ranquin A, Versees W, Miere W, Steyaert J, Gelder PV. Therapeutic Nanoreactors: Combining Chemistry and Biology in a Novel Triblock Copolymer Drug Delivery System. Nano Lett. 2005;5:2220-4)参照)も報告されているが、やはりプロセスが極めて煩雑である上に、汎用性が極めて低く、やはり実用的ではない。
【0013】
以上の背景技術に対して、本発明者等は、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなる膜を有するとともに、膜によって包囲された空隙部を有する空ベシクルを、空ベシクルに内包すべき目的物質の存在下、水性媒体中で混合する方法(上記「後担持法」に相当)によっても、第1及び第2の重合体の自己組織化により、空隙部(内水相)に目的物質が内包された物質内包ベシクルを簡便かつ効率的に製造することができるという、極めて意外な知見を見出し、特許出願を行っている(特許文献3:国際公開第2011/145745号パンフレット)。
【先行技術文献】
【0014】

【特許文献1】特開平8-188541号公報
【特許文献2】国際公開第2006/118260号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/145745号パンフレット
【0015】

【非特許文献1】Schlaad H. et al., Macromolecules, 2003, 36 (5), 1417-1420
【非特許文献2】Anraku Y. et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132 (5), 1631-1636
【非特許文献3】H. Nyin et al. Soft Matter, 2006, 2, 940-949
【非特許文献4】「リポソーム応用の新展開」、秋吉一成・辻井薫監修、エヌ・ティー・エス、2005年
【非特許文献5】F. Szoka, Jr. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1978 75 (9) 4194-4198
【非特許文献6】Batzri, S. et al., Biochim. Biophys Acta 1973, 298, 1015-1019
【非特許文献7】W. Tong et al., J. Phys. Chem. B, 2005, 109, 13159-13165
【非特許文献8】Ranquin A et al., Nano Lett. 2005, 5:2220-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、後担持法等の従来法では、水性媒体中に存在する目的物質の濃度が一定濃度を超えると、空ベシクルの単分散集合体に、その単分散性を維持しつつ、目的物質を封入することができないため、形成される物質内包ベシクルは多分散集合体となる。
【0017】
また、空ベシクルへの目的物質の封入は、水性媒体中に存在する目的物質の濃度に依存した確率的な事象として生じるため、後担持法等の従来法では、空ベシクルに2種以上の目的物質を、その封入量を制御して封入することが困難である。
【0018】
また、従来の手法により製造される静電相互作用型ベシクルは、内包可能な物質のサイズに制限があった。具体的に被内包物質の径の上限は、最大でも2~30nm程度に限定されており、より大きなサイズ(例えば30nm超)の粒子を内包するベシクルは得られていなかった。また、通常の静電相互作用型ベシクルは半透膜の性質をもつため、被内包物質の径の下限についても分子量数千程度までに限定されており、より小さな分子量を有する低分子化合物を内包させることは極めて困難であった。
【0019】
また、従来の静電相互作用型ベシクルへの物質の内包率は、被内包物質の物理化学的特性にもよるが、ベシクルと被内包物質を混合する際の溶液中の濃度に応じた確率論的なレベルに限定されており、より高い効率でベシクルに物質を内包させることは極めて困難であった。特に、ベシクルに対する被内包物質のサイズの比が大きい場合(例えば径100nm程度のベシクルに対して10nm(十分の一)以上の径の粒子を内包させる場合)、内包効率が極めて低く、通常は多量の被内包物質が内包されずに余ってしまう上に、空のベシクルが多量に残ってしまうという課題があった。
【0020】
また、従来の手法により製造される静電相互作用型ベシクルでは、ベシクル(又はその構成要素となる重合体)と被内包物質とを水性媒体中で混合することにより被内包物質をベシクルに内包させるので、水溶性媒体に対する溶解性の低い物質(低水溶性物質)をベシクルに効率よく内包させることは極めて困難であった。
【0021】
そこで、本発明は、第一に、従来法よりも高濃度(例えば、後担持法において物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度)の目的物質が封入された物質内包ベシクルの単分散集合体、及び、水性媒体中に存在する目的物質の濃度が高濃度(例えば、後担持法において物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度)であっても、物質内包ベシクルの単分散集合体を形成することができる物質内包ベシクルの製造方法を提供することを目的とする。
【0022】
また、本発明は、第二に、2種以上の目的物質が、その封入量を制御して封入された物質内包ベシクル、及び、2種以上の目的物質を、その封入量を制御して封入することができる物質内包ベシクルの製造方法を提供することを目的とする。
【0023】
また、本発明は、第三に、高分子の自己組織化による静電相互作用型ベシクルにおいて、従来と比べてより大きな径の粒子やより小型の低分子化合物を効率的に内包させることや、従来よりも物質の内包効率を向上させることが可能な、物質内包ベシクルの製造方法を提供することを目的とする。
【0024】
また、本発明は、第四に、高分子の自己組織化による静電相互作用型ベシクルにおいて、水溶性媒体に不溶性又は低水溶性の物質をベシクルに効率よく内包させることが可能な、物質内包ベシクルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の主旨は、以下に存する。
[1]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体であって、
前記内水相に含有される前記目的物質の濃度が、
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点及び前記目的物質が内包されていない点で前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、前記物質内包架橋ベシクルの内水相と同一濃度の前記目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合した場合に、
前記目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
[2]0.2以下の多分散指数を有する、上記[1]に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
[3]前記目的物質の重量平均分子量が10000~40000であり、前記内水相に含有された前記目的物質の濃度が5mg/mLを上回る、上記[1]又は[2]に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
[4]前記第1及び/又は前記第2の重合体が、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されており、前記架橋結合が形成された割合が、前記架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数の35%以上である、上記[3]に記載の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体。
[5]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、前記架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、前記内水相に第1の目的物質及び前記第1の目的物質よりも分子量の小さい第2の目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルであって、
前記第1の目的物質が、前記第2の目的物質の不存在下で前記内水相に含有されている場合よりも安定化されている、前記物質内包架橋ベシクル。
[6]前記第2の目的物質がクラウディング剤である、上記[5]に記載の物質内包架橋ベシクル。
[7]物質内包ベシクルを製造する方法であって、
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に目的物質が内包されていない空の架橋ベシクルの単分散集合体を、
前記目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、
前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を形成させる工程を含んでなる、前記方法。
[8]前記空の架橋ベシクルの単分散集合体、前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体、前記空の非架橋ベシクルの単分散集合体、及び前記物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体が、0.2以下の多分散指数を有する、上記[7]に記載の方法。
[9]前記目的物質の重量平均分子量が10000~40000であり、前記混合液に含有される前記目的物質の濃度が5mg/mLを上回る、上記[7]又は[8]に記載の方法。
[10]前記空の架橋ベシクル及び前記物質内包架橋ベシクルにおいて、前記第1及び/又は前記第2の重合体が、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されており、前記架橋結合が形成された割合が、前記架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数の35%以上である、上記[9]に記載の方法。
[11]前記物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を、前記第1及び/又は前記第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させる工程をさらに含む、上記[7]~[10]のいずれか1項に記載の方法。
[12]物質内包ベシクルを製造する方法であって、
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に第1の目的物質が内包された第1の物質内包架橋ベシクルを、
前記第1の目的物質よりも分子量の小さい第2の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、
前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記第1及び前記第2の目的物質が内包された第2の物質内包架橋ベシクルを形成させる工程を含んでなる、前記方法。
[13]前記第1の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体であり、前記第2の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体である、上記[12]に記載の方法。
[14]前記混合液に含有される前記第2の目的物質の濃度が、
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点で前記第1の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる第1の物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体を前記混合液中で混合した場合に、
前記第1及び前記第2の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、上記[13]に記載の方法。
[15]前記第1及び前記第2の重合体を含んでなり、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋された架橋膜と、
前記架橋膜によって包囲された内水相と
を含んでなり、前記内水相に前記第1及び前記第2の目的物質のいずれも内包されていない空の架橋ベシクルを、
前記第1の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、必要に応じて、前記第1及び/又は前記第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させ、
前記第1の物質内包架橋ベシクルを形成させる工程をさらに含んでなる、上記[12]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16]前記空の架橋ベシクルが、その単分散集合体であり、前記第1の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体である、上記[15]に記載の方法。
[17]前記混合液に含有される前記第1の目的物質の濃度が、
前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されていない点で前記空の架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を前記混合液中で混合した場合に、
前記第1の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である、上記[16]に記載の方法。
[18]前記第2の目的物質がクラウディング剤である、上記[12]~[17]のいずれか1項に記載の方法。
[19]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルと、当該ベシクルに内包された吸着材粒子とを含み、前記第1及び第2の重合体の少なくとも一方が前記吸着材粒子に吸着されてなる吸着材内包ベシクル。
[20]前記第1及び/又は第2の重合体が架橋されてなる、上記[19]に記載の吸着材内包ベシクル。
[21]前記吸着材粒子がシリカ粒子である、上記[19]又は[20]に記載の吸着材内包ベシクル。
[22]前記吸着材粒子の平均粒径が40nm~10μmである、上記[19]~[21]のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
[23]前記吸着材粒子が表面処理されてなる、上記[19]~[22]のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
[24]前記吸着材粒子に低分子化合物が吸着されてなる、上記[19]~[23]のいずれか1項に記載の吸着材内包ベシクル。
[25]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、吸着材粒子が内包されてなる吸着材内包ベシクルを製造する方法であって、
(a)前記第1及び第2の重合体のうち一方を前記吸着材粒子と混合し、前記吸着材粒子に吸着させる工程、並びに、
(b)前記工程(a)の混合物を前記第1及び第2の重合体のうち他方と更に混合し、前記吸着材粒子の周囲に前記第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルを形成させ、吸着材内包ベシクルとする工程
を含む方法。
[26](c)前記工程(b)のベシクル中の前記第1及び/又は前記第2の重合体を架橋する工程を更に含む、上記[25]に記載の方法。
[27]前記吸着材粒子がシリカ粒子である、上記[25]又は[26]に記載の方法。
[28]前記吸着材粒子の平均粒径が40nm~10μmである、上記[25]~[27]のいずれか1項に記載の方法。
[29]前記吸着材粒子を表面処理する工程を更に含む、上記[25]~[28]のいずれか1項に記載の方法。
[30]前記吸着材粒子に低分子化合物が吸着されてなる、上記[25]~[29]のいずれか1項に記載の方法。
[31]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、目的物質が内包されてなる物質内包ベシクルを製造する方法であって、
(a)前記目的物質よりも水溶性の高い前駆体を前記目的物質に転換し得る酵素が、前記第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルに内包されてなる酵素内包ベシクルを用意する工程、及び、
(b)前記前駆体よりも前記目的物質に対して低い溶解性を示す条件下で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させ、前記酵素によって前記前駆体を前記目的物質に転換することにより、前記目的物質を析出させて前記酵素内包ベシクルに内包させ、物質内包ベシクルとする工程
を含む方法。
[32]前記工程(b)において、前記酵素内包ベシクルを前記前駆体の水溶液と混合することにより、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させる上記[31]に記載の方法。
[33]前記工程(b)の前に、前記酵素内包ベシクルの前記第1及び/又は前記第2の重合体を架橋する工程を更に含む、上記[32]に記載の方法。
[34]上記[31]~[33]のいずれか1項に記載の方法により製造される物質内包ベシクル。
[35]非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、前記目的物質よりも水溶性の高い前駆体から転換され得る低水溶性物質が、前記前駆体を前記低水溶性物質に転換し得る酵素と共に内包されてなる、低水溶性物質内包ベシクル。
[36]前記低水溶性物質が、内水相に対する前記低水溶性物質の溶解度を超える濃度で内包されてなる、上記[34]又は[35]に記載の低水溶性物質内包ベシクル。
[37]前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されてなる、上記[34]~[36]のいずれか1項に記載の低水溶性物質内包ベシクル。
[38]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のベシクルの単分散集合体、及び/又は、上記[5]、[6]、[19]~[22]及び[34]~[37]のいずれか1項に記載のベシクルを含む薬物送達系。
[39]対象に薬物を送達するための方法であって、
(a)非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、前記薬物の前駆体を前記薬物に転換し得る酵素が内包されてなる酵素内包ベシクルを用意する工程、及び、
(b)対象の所定の部位で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させ、前記酵素によって前記前駆体を前記薬物に転換することにより、前記薬物を形成する工程
を含む方法。
[40]前記前駆体の水溶性がが前記薬物よりも低いとともに、前記工程(b)において、前記前駆体よりも前記薬物に対して低い溶解性を示す条件下で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させる、上記[39]に記載の方法。
[41]前記工程(b)において、前記薬物を析出させて前記酵素内包ベシクルに内包させ、薬物内包ベシクルを形成することを更に含む、上記[39]又は[40]に記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第一に、従来法よりも高濃度(例えば、後担持法において物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度)の目的物質が封入された物質内包ベシクルの単分散集合体、及び、水性媒体中に存在する目的物質の濃度が高濃度(例えば、後担持法において物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度)であっても、物質内包ベシクルの単分散集合体を形成することができる物質内包ベシクルの製造方法が提供される。
【0027】
本発明によれば、第二に、2種以上の目的物質が、その封入量を制御して封入された物質内包ベシクル、及び、2種以上の目的物質を、その封入量を制御して封入することができる物質内包ベシクルの製造方法が提供される。
【0028】
本発明によれば、第三に、ベシクルの大きさに対して比較的大きな吸着材粒子を内包する、従来にはない新たな構造を有する物質内包ベシクル(吸着材内包ベシクル)が提供されるとともに、斯かる吸着材内包ベシクルを極めて効率的に製造することが可能な方法が提供される。
【0029】
本発明によれば、第四に、従来法では困難であった水溶性の低い目的物質を内包するベシクルを、効率的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)及び(b)は、本発明の方法を説明するための図である。
【図2】図2は、空ベシクルの構造を説明するための図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、空ベシクルの膜構造の一態様を説明するための図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、空ベシクルの膜構造の別の態様を説明するための図である。
【図5A】図5Aは、実施例I-1で得られたFITC-Dex40k内包架橋ベシクルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図5B】図5Bは、比較例I-1(同時混合法)で得られたFITC-Dex40k内包非架橋ベシクルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図5C】図5Cは、比較例I-2(後担持法)で得られたFITC-Dex40k内包非架橋ベシクルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図6】図6は、ベシクル内部に封入されたFITC-Dex40kの放出挙動を確認するために実施したGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の測定結果を示す図である。
【図7】図7(a)は、空ベシクルのGPC測定結果を示す図であり、図7(b)は、実施例I-2で得られた精製後のシトクロムc内包架橋ベシクルのGPC測定結果を示す図である。
【図8】図8(a)は、実施例I-2で得られたシトクロムc内包架橋ベシクルの吸収スペクトルを示す図であり、図8(b)は、実施例I-2で得られたシトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルの吸収スペクトルを示す図である。
【図9】図9は、円偏光二色性スペクトルの測定結果を示す図である。
【図10(A)】図10(A)は、実施例I-3及び比較例I-3で得られたベシクルのAlPcS2aの吸収色に基づく比色試験の結果を示す図である。
【図10(B)】図10(B)は、実施例I-3及び比較例I-3で得られたベシクルの吸光スペクトルを示す図である。
【図11】図11は、5mM、10mM又は20mM NaCl添加後のベシクルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図12】図12は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図13】図13は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルによる5-FCから5-FUへの変換速度を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルによる5-FCから5-FUへの変換酵素活性の安定性を示すグラフである。
【図15】図15(a)~(d)は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルを用いた治療による腫瘍成長抑制効果を示すグラフである。
【図16】図16(a)~(d)は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルを用いた治療による副作用(体重減少)を示すグラフである。
【図17】図17(a)~(d)は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルを用いた治療による生存数を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例I-4で得られたCD封入架橋ベシクルの血中滞留性を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図20】図20は、実施例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクルのTEM写真である。
【図21】図21は、実施例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクルのキャピラリー電気泳動によるクロマトグラムである。
【図22】図22は、実施例II-2で得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図23】図23は、実施例II-2で得られた架橋MSN内包ベシクルのTEM写真である。
【図24】図24は、実施例II-2で得られた架橋MSN内包ベシクルのキャピラリー電気泳動によるクロマトグラムである。
【図25】図25は、参考例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図26】図26は、参考例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクルのTEM写真である。
【図27】図27は、参考例II-1で得られた架橋MSN内包ベシクルのキャピラリー電気泳動によるクロマトグラムである。
【図28】図28(a)は、実施例II-3Aで使用した未処理MSN内包ベシクルのTEM写真であり、図28(b)は、実施例II-3Aで得られたアミノ化MSN内包ベシクルのTEM写真である。
【図29】図29(a)は、実施例II-3Bで使用した未処理MSN内包ベシクルのTEM写真であり、図29(b)は、実施例II-3Bで得られたスルホン化MSN内包ベシクルのTEM写真である。
【図30】図30は、実施例II-3Bで使用した未処理MSN内包ベシクル及び得られたスルホン化MSN内包ベシクルのX線分析スペクトルである
【図31】図31は、実施例II-4Aで得られたローズベンガル吸着アミノ化MSN内包ベシクルによるローズベンガルの放出特性を示すグラフである。
【図32】図32は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルによるゲムシタビンの放出特性を示すグラフである。
【図33】図33(a)及び(b)は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルによるA549細胞に対する細胞取り込み特性を示すグラフである。図33(a)はトリパンブルー不在下における全細胞内のCy3蛍光量の測定結果を表し、図33(b)はトリパンブルー染色下における生細胞内のCy3蛍光量の測定結果を表す。
【図34】図34(a)及び(b)は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルによるA549細胞に対する殺細胞効果を示すグラフである。図34(a)は48時間培養後の結果を表し、図34(b)は72時間培養後の結果を表す。
【図35】図35(a)及び(b)は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルによるC26細胞に対する細胞取り込み特性を示すグラフである。図35(a)はトリパンブルー不在下における全細胞内のCy3蛍光量の測定結果を表し、図35(b)はトリパンブルー染色下における生細胞内のCy3蛍光量の測定結果を表す。
【図36】図36(a)及び(b)は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルによるC26細胞に対する殺細胞効果を示すグラフである。図36(a)は48時間培養後の結果を表し、図36(b)は72時間培養後の結果を表す。
【図37】図37(a)及び(b)は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルを用いた腫瘍治療効果を示すグラフである。(a)は腫瘍増大抑制効果を、(b)は副作用(体重減少)低減効果を示す。
【図38】図38は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの血中滞留性を示すグラフである。
【図39】図39は、実施例II-4Bで得られたゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの腫瘍集積性を示すグラフである。
【図40】図40は、実施例III-1で得られたβ-ガラクトシダーゼ内包架橋ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図41】図41は、実施例III-1で得られたインディゴ系染料内包ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図42】図42は、実施例III-1で得られたインディゴ系染料内包ベシクルのTEM写真である。
【図43】図43は、実施例III-1で得られたインディゴ系染料内包ベシクルの高解像度のTEM写真である。
【図44】図44は、比較例III-1で得られた架橋空ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図45】図45は、比較例III-1で得られたインディゴ系染料生成後の空ベシクル含有溶液の粒度分布を示すグラフである。
【図46】図46は、比較例III-1で得られたインディゴ系染料生成後の空ベシクルのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体的な実施態様に即して、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は決して以下の実施態様に束縛されるものではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。

【0032】
[A]定義
本明細書において「ベシクル」とは、単ラメラ構造の膜と、前記膜により包囲された空隙部(内水相)とを有する基本構造体を意味する。

【0033】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アルキル」とは、一価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。特に断らない限り、アルキルは鎖状でも環状でもよく、鎖状と環状とが結合したものでもよい。鎖状アルキルは直鎖状でも分枝鎖状でもよい。環状アルキルは単環式でも複環式でもよく、複環式の場合は連結環でも縮合環でもスピロ環でもよい。

【0034】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アルコキシ」とは、二価の酸素原子の一方の結合手に前記のアルキルが結合してなる基を表す。

【0035】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アリール」とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。特に断らない限り、アリールは単環式でも複環式でもよく、複環式の場合は連結環でも縮合環でもスピロ環でもよい。

【0036】
本明細書において、基の炭素数は、例えば「C1-12アルキル」のように表す。ここで「C1-12」とは、当該アルキルの炭素数が1~12個であることを意味する。

【0037】
本明細書において「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。

【0038】
本明細書において、ある基が「置換されていてもよい」とは、当該基が有する1又は2以上の水素原子が1又は2以上の置換基(2以上の場合は同一でも異なっていてもよい)により置換され得ることを意味する。置換基の最大数は、当該基が有する構造及び置換可能な水素原子数に応じて、当業者であれば容易に決定し得る。

【0039】
本明細書において「置換基」とは、特に断らない限り、ハロゲン原子、アリール基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ホルミル基、ジメチルアセタール化ホルミル基、ジエチルアセタール化ホルミル基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、シロキシ基、トリ(C1-6アルキル)シロキシ基(ここでC1-6アルキルは同一でも異なっていてもよい)及びシリルアミノ基からなる群から選択される。

【0040】
本明細書において各種ベシクルに関して使用される用語「単分散集合体」は、粒子径分布が狭いベシクル集合体を意味する。粒子径分布の広狭は、好ましくは、多分散指数(polydispersity index:PDI)を基づいて判断され、単分散集合体は、好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下、さらに一層好ましくは0.1以下の多分散指数を有する。

【0041】
本明細書において各種ベシクルに関して使用される用語「多分散指数」は、粒子径分布の広がりを示す無次元指標を意味し、用語「平均粒子径」は、散乱光強度基準による調和平均粒子径(直径)を意味する。多分散指数及び平均粒子径はともに、動的光散乱法(dynamic light scattering)によって測定される。動的光散乱法は、JIS Z 8826:2005(粒子径解析-光子相関法(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy))に準拠して実施することができる。JIS Z 8826:2005は、希薄な粒子濃度の分散液に対応する規格であるため、高濃度のサンプルにおいても、その多分散指数及び平均粒子径の測定が可能となるように、JIS Z 8826:2005に適宜変更を加えることができる。例えば、側方散乱検出に代えて、後方散乱検出を採用することができる。後方散乱検出を採用することにより、多重散乱の影響を排除又は低減することができ、これにより、高濃度のサンプルにおいても、その多分散指数及び平均粒子径の測定が可能となる。動的光散乱法によって多分散指数及び平均粒子径を測定するための市販の機器としては、例えば、Malvern社製Zetasizer Nano-ZSが挙げられる。この機器は、後方散乱検出を採用しており、低濃度~高濃度の幅広い濃度範囲のサンプルにおいて、その多分散指数及び平均粒子径の測定が可能である。

【0042】
[B]物質内包ベシクル及びその製法
まず、本発明の基礎となる物質内包ベシクル及びその製法について説明する。本発明の各ベシクル及びその製法の特徴については、章を改めて[C]~[E]において説明するが、これらの章に別途記載なき事項については、本章の記載が適用されることとする。

【0043】
[B1:物質内包ベシクルの製造方法]
上述の通り、物質内包ベシクルの主な製法としては、(i)被内包物質を、膜の構成要素となる高分子、或いは予め形成された高分子膜とともに混合し、自己組織化によるベシクルの形成と空隙部への物質の封入とを同時に行う方法(同時混合法)と、(ii)予め形成された空ベシクルを被内包物質と混合し、空ベシクルの空隙部に被内包物質を導入し、包含・担持させる方法(後担持法)とが挙げられる。

【0044】
本願発明では、各ベシクルの製法条件について別途記載なき限り、同時混合法や後担持法を含む任意の手法を用いることが可能である。但し、本願発明者らが開発した手法である後担持法(詳細は上記特許文献3(国際公開第2011/145745号パンフレット)参照)は、簡便な手法で内包物質を効率的にベシクル内に導入することができ、導入前後でベシクルの構造も殆ど損なわれず、更には同時混合法では内包困難であった荷電性物質も内包可能である等、種々の利点を有するので好ましい。

【0045】
以下、物質内包ベシクルの製法について、後担持法を前提として説明するが、本発明では、物質内包ベシクルの製法は後担持法に限定されるものではなく、後述の各物質内包ベシクルの特徴に反しない限りにおいて、同時混合法を含む他の任意の手法を用いることが可能である。また、後担持法以外の手法を用いてベシクルに物質を内包させる場合、その具体的な条件としては、後述の後担持法の条件を準用することができる。例えば、同時混合法の場合、後担持法のように空ベシクルを予め調製するのではなく、空ベシクルの材料となる重合体等を被内包物質と共に混合する他は、基本的に後担持法と同一の条件が使用できる。

【0046】
(B1-1:後担持法の概要)
後担持法の概要について、以下、図1を用いて説明する。なお、図1は模式図であり、本発明は図1に限定されるものではない。
図1(a)に示すように、膜1aで包囲された空隙部1bを有する所定の構造の空ベシクル1を用意し、これを被内包物質9とともに、水性媒体中で混合する。これにより、図1(b)に示すように、被内包物質9が空ベシクル1の膜1aを越えて空隙部1bに導入され、被内包物質9が空隙部1bに内包された物質内包ベシクル1’が得られる。
以下、後担持法について詳述するが、空ベシクル及び被内包物質の詳細については章を改めて後述し、ここではその他の条件及び手順について説明する。

【0047】
(B1-2:空ベシクル及び被内包物質の混合)
後担持法は、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中で混合する工程を含む(なお、ここで混合の対象となる、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中に含有する液を、以降「混合対象液」という場合がある。)。
混合を行う手法は特に制限されないが、水性媒体に外力を加える手法で行う。すなわち、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体に加えて静置し、自然に拡散させて混合する手法(以降「静置・拡散混合」という場合がある。)は除外される。水性媒体に外力を加える混合法の例としては、撹拌、振盪、衝撃等が挙げられる。

【0048】
撹拌による手法の例としては、混合対象液を含む容器をボルテックスミキサー等により旋回させて撹拌する手法や、溶液を撹拌翼等により直接攪拌する手法等が挙げられる。
振盪による手法の例としては、混合対象液を含む容器を振盪機等により振盪する手法が挙げられる。
衝撃による手法の例としては、混合対象液に対して超音波照射等により振動を含む各種の衝撃を与える手法等が挙げられる。

【0049】
斯かる混合によって、ベシクル空隙部に物質が内包され、物質内包ベシクルが製造される。
混合により物質内包ベシクルが形成される理由は定かではないが、水性媒体に外力を加えることによって、空ベシクルに剪断応力が作用する(よって、水性媒体に外力を加える混合を、剪断応力下での混合と言い換えることができる。)。斯かる剪断応力によって、空ベシクルの構造が撹乱されて概ね均一な小会合体に分解し、それが再度自己組織化してベシクルが均一に再生するとともに、水性媒体中に存在する被内包物質がベシクル再生時にベシクル内に封入されるものと考えられる(斯かるメカニズムは、後述する参考実験において、混合によるベシクルの小会合体への分解が確認されたことからも推測される。)。これは通常の状態のベシクルでは起こり難い現象であり、斯かる現象を利用した後担持法は、極めて斬新なものであるといえる。

【0050】
混合の条件は制限されないが、上述のメカニズムを考慮すると、水性媒体中の空ベシクルの構造が十分に撹乱されるとともに、撹乱後にベシクルの構造が再生し得る程度の条件を選択することが好ましい。通常は混合対象液全体に力が作用する程度に混合すればよいが、好ましくは混合対象液全体が概ね均一になる程度に混合することが好ましい。

【0051】
具体的な混合の条件は混合法によって異なるが、例えば攪拌の場合、通常500rpm以上、好ましくは1000rpm以上、また、通常10000rpm以下、好ましくは5000rpm以下の回転数で行うことが望ましい。回転数が低過ぎると、均質な物質内包ベシクルが形成され難くなる場合がある。回転数が高過ぎると、ベシクルや被内包物質が損傷・破壊されてしまう場合がある。
また、ボルテックスミキサーによる撹拌時間は、回転数によっても異なるが、通常60秒以上、好ましくは120秒以上、また、通常10分以内、好ましくは5分以内である。攪拌時間が短過ぎると、均質な物質内包ベシクルが形成され難くなる場合がある。攪拌時間が長過ぎると、ベシクルや被内包物質が損傷・破壊されてしまう場合がある。
その他の混合法(撹拌翼による撹拌、振盪機による振盪、超音波照射による衝撃等)を用いる場合の具体的な条件としては、ボルテックスミキサーによる撹拌を上述した回転数及び攪拌時間のもとで行って得られるのと同程度の力が混合対象液に作用するように、適宜条件を調整すればよい。

【0052】
また、やはり上述のメカニズムを考慮すると、混合対象液の混合後、ある程度の時間に亘って混合対象液を静置し、ベシクルが均一に再生する時間を確保することが好ましい。斯かる静置時間は限定されるものではないが、例えば1分以上、好ましくは3分以上とする。

【0053】
なお、ベシクルの空隙部に物質が内包されたことは、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)による拡散係数(diffusion coefficient)変化の検出、サイズ排除クロマトグラフィーによる分離、透過型電子顕微鏡による直接観察等の手法により確認することができる。蛍光相関分光法による拡散係数の測定の場合、被内包物質として蛍光材料を用い、蛍光材料の拡散係数の変化を測定することにより、被内包物質がベシクル内に偏在すること(即ち物質内包ベシクルが得られたこと)を確認できる。

【0054】
(B1-3:混合に関する他の条件)
通常は、水性媒体中に空ベシクル及び被内包物質を含有する液(混合対象液)を調製し、前述の混合に供する。
水性媒体(水性溶媒)の種類は限定されない。好ましくは水であるが、空ベシクルの構造に好ましからぬ影響を及ぼしたり、被内包物質の内部への導入を妨げたりしない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒(例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等)も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、クロロホルム等の塩素系有機溶媒、ジメチルエーテル等のエーテル系有機溶媒、酢酸エチル等のエステル系有機溶媒等が挙げられる。

【0055】
被混合液の調製手順も任意であるが、後述のように通常、空ベシクルは水性媒体中に調製されるので、調製された空ベシクル含有液に対して被内包物質を加え、混合に供するのが好適である。被内包物質はそのまま空ベシクル含有液に加えてもよいが、水性媒体中の溶液や懸濁液等の形態で加えてもよい。

【0056】
被混合液中の空ベシクル及び被内包物質の各濃度も特に制限されず、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、空ベシクルに対する被内包物質の所望の内包比率等の条件を勘案して決定すればよい。
但し、空ベシクルへの被内包物質の内包効率を高める観点からは、水性媒体に対する空ベシクルの濃度を、通常0.1mg/mL以上、中でも1mg/mL以上、また、通常100mg/mL以下、中でも10mg/mL以下とすることが好ましい。特に空ベシクルの濃度が低過ぎると、物質内包ベシクルが形成されない場合がある。なお、得られる物質内包ベシクルの粒経は空ベシクルの濃度に依存すると考えられるため、空ベシクルの濃度は所望の物質内包ベシクルの粒経に応じて決定すべきである。
また、水性媒体に対する被内包物質の濃度は、被内包物質の性質によっても異なるが、通常0.1mg/mL以上、中でも1mg/mL以上、また、通常100mg/mL以下、中でも50mg/mL以下とすることが好ましい。特に被内包物質の濃度が低過ぎると、物質内包ベシクルが形成されない場合がある。

【0057】
被混合液のpHも特に制限されず、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、被混合液中の空ベシクル及び被内包物質の各濃度等の条件を勘案して適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。被混合液のpHを調整して用いることは、空ベシクルの構造を保持し、効率的に被内包物質を空ベシクルに内包させる上で有利である。

【0058】
被混合液のイオン強度は、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは0mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは200mM以下、より好ましくは50mM以下である。
被混合液の混合時の温度は、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲であれば限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0059】
混合後、形成された物質内包ベシクルをすぐに所望の用途に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。混合液を静置する時間は、物質内包ベシクルの形成効率等の条件によって異なるが、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。但し、後述のように架橋剤を用いない場合、形成された物質内包ベシクルの径が経時的に増大する傾向があるので、ベシクルの均一再生に要する時間以上の静置時間を設けないことが好ましい場合もある。

【0060】
架橋剤を用いる場合、形成された物質内包ベシクルを含有する被混合液に、架橋剤を加えて混合すればよい。架橋剤はそのまま加えてもよいが、架橋剤を含有する水性溶液を調製し、これを加えてもよい。架橋剤の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、被混合液について前述した条件と同様である。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0061】
[B2:空ベシクル]
(B2-1:空ベシクルの構造)
後担持法では、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とから形成される膜を有するとともに、前記膜によって包囲された空隙部を有するベシクルを、空ベシクルとして用いる。

【0062】
空ベシクルの構造の例について、図2~4を参照しながら説明する。なお、図2~4は何れも模式図であり、本発明はこれらの図に限定されるものではない。
図2は、ベシクル1の部分破断図である。図2に示すように、ベシクル1は膜1aと、膜1aにより包囲される空隙部1bとを有する。

【0063】
図3(a)は、本発明の一態様に係るベシクル1の膜1aの部分断面拡大図である。図3(a)に示す膜1aは、外層1ao、中間層1am及び内層1aiからなる三層構造を有し、主に第1の重合体2と、第2の重合体3とから形成される。
図3(b)は、図3(a)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3の拡大図である。図3(b)に示すように、第1の重合体2は、非荷電親水性セグメント2aと第1の荷電性セグメント2bとを有するブロック共重合体であり、第2の重合体3は、第1の荷電性セグメント2bとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメント3からなる重合体である。そして好ましくは、図3(a)に示すように、非荷電親水性セグメント2aが膜1aの外層1aoを形成し、第1の荷電性セグメント2bと第2の荷電性セグメント3とが静電結合して中間層1amを形成する。そして好ましくは、主に非荷電親水性セグメント2aが膜1aの内層1aiを形成する。

【0064】
図4(a)は、本発明の別の態様に係るベシクル1の膜1aの部分断面拡大図である。図4(a)に示す膜1aも、外層1ao、中間層1am及び内層1aiからなる三層構造を有し、主第1の重合体2と、第2の重合体3’とから形成される。
図4(b)は、図4(a)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3’の拡大図である。図4(b)に示すように、第1の重合体2は、非荷電親水性セグメント2aと第1の荷電性セグメント2bとを有するブロック共重合体であり、第2の重合体3’は、非荷電親水性セグメント3aと、第1の荷電性セグメント2bとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメント3bからなる重合体である。そして好ましくは、図4(a)に示すように、非荷電親水性セグメント2a、3aの一方又は両方が膜1aの外層1aoを形成し、第1の荷電性セグメント2bと第2の荷電性セグメント3bとが静電結合して中間層1amを形成する。そして好ましくは、主に非荷電親水性セグメント2a、3aの一方又は両方が、膜1aの内層1aiを形成する。

【0065】
理論に束縛されるものではないが、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’からベシクル1が形成される機構は、以下のように考えられる。すなわち、図3(b)、図4(b)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3、3’が、電荷の相互作用が生じ得る系(例えば水性媒体中)に置かれると、自己集合し、図3(a)、図4(a)に示すように、互いに反対に帯電する第1の荷電性セグメント2b及び第2の荷電性セグメント3、3bとが静電結合して中間層1amを形成するとともに、その外側に非荷電親水性セグメント2a、3aが配置されて外層1aoを形成する。また、好ましくは、中間層1amの内側にも、主に非荷電親水性セグメント2a、3aが配置されて内層1aiを形成する。こうして図3(a)、図4(a)に示す三層構造の膜1aが形成され、結果として、図2に示すベシクル1が形成されるものと考えられる。

【0066】
なお、ベシクル1の膜1aは、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’のみからなっていてもよいが、以上の構造が概略保持される限りにおいて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は限定されないが、例としては架橋剤、荷電性ポリマー、荷電性分子等が挙げられる。架橋剤については後に詳述する。

【0067】
また、後述するようにベシクル1は通常は水性媒質中で調製され、また、膜1aの内層1aiは主に非荷電親水性セグメント2a、3aから構成されるため、ベシクル1の空隙部1bには通常は水性媒体が存在する(よって本明細書では空隙部1bを「内水相」と表示する場合がある)。但し、空隙部1bに別の物質が存在していてもよい。

【0068】
ベシクル1の形状は、限定されないが、通常は球状又は略球状である。
ベシクル1の粒径は、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’の種類及び量比、架橋剤の有無、ベシクル1の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
ベシクル1の膜1aの膜厚は、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’の種類及び量比、架橋剤の有無、ベシクル1の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。

【0069】
(B2-2:第1及び第2の重合体)
後担持法に用いられる空ベシクルは、第1の重合体及び第2の重合体から構成される膜を有する。
第1の重合体は、非荷電親水性セグメントと第1の荷電性セグメントとを有するブロック共重合体である。第1の重合体は1種類のみでもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
第2の重合体は、第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する重合体である。第2の荷電性セグメントのみからなる重合体でもよいが、第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有するブロック共重合体であってもよい。第2の重合体は1種類のみでもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。2種類以上の場合には、第2の荷電性セグメントのみからなる第2の重合体と、第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有する第2の重合体とを併用してもよい。
第1の重合体及び第2の重合体は、それぞれ前述したセグメントに加えて、更に別のセグメントを有していてもよい。

【0070】
(B2-2a:非荷電親水性セグメント)
第1の重合体は、非荷電親水性セグメントを有する。また、第2の重合体も、非荷電親水性セグメントを有していてもよい。
非荷電親水性セグメントは、非荷電且つ親水性の性質を有するポリマーセグメントである。ここで「非荷電」とは、セグメントが全体として中性であることをいう。例としてはセグメントが正・負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正・負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、自己組織化によるベシクルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されていれば、やはり「非荷電」に該当する。また、「親水性」とは水性媒体に対して溶解性を示すことをいう。

【0071】
非荷電親水性セグメントの種類は限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。非荷電親水性セグメントの具体例としては、ポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2-メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、等電点が7付近のペプチド、タンパク質及びそれらの誘導体等が挙げられる。中でもポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)等が好ましく、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、ポリエチレングリコールが好ましい。

【0072】
非荷電親水性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。具体的な分子量の範囲は、非荷電親水性セグメントの種類や荷電性セグメントとの組み合わせ等によっても異なるが、非荷電親水性セグメントとしてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量(Mw)は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは15000以下、より好ましくは5000以下の範囲である。非荷電親水性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常は非荷電親水性セグメントの分子量が前記の分子量範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。
前記条件を満たす非荷電親水性セグメントを用いることにより、第1の重合体及び第2の重合体の水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0073】
(B2-2b:荷電性セグメント)
第1の重合体が有する第1の荷電性セグメントと、第2の重合体が有する第2の荷電性セグメントとは、互いに反対の電荷に帯電した荷電性セグメントである。即ち、第1の荷電性セグメントがカチオン性セグメントであれば、第2の荷電性セグメントはアニオン性セグメントとなり、第1の荷電性セグメントがアニオン性セグメントであれば、第2の荷電性セグメントはカチオン性セグメントとなる。

【0074】
(B2-2b-1:カチオン性セグメント)
カチオン性セグメントは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、カチオン性セグメントは、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクルの形成を妨げない範囲で、多少のアニオン基を有していてもよい。
カチオン性セグメントの種類も限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性セグメントとしては、ポリアミン等が好ましく、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体が特に好ましい。側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパルタミド誘導体及びポリグルタミド誘導体が好ましい。

【0075】
カチオン性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。カチオン性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常はカチオン性セグメントの分子量が所定の範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性セグメントとしてポリアスパラギン酸誘導体を用いる場合、その繰り返し単位数は好ましくは10以上、より好ましくは50以上、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下の範囲である。
前記条件を満たすカチオン性セグメントを用いることにより、第1の重合体と第2の重合体との水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0076】
(B2-2b-2:アニオン性セグメント)
アニオン性セグメントは、アニオン基を有し、アニオン性(陰イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、アニオン性セグメントは、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクルの形成を妨げない範囲で、多少のカチオン基を有していてもよい。
アニオン性セグメントの種類も限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。アニオン性セグメントとしては、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリリン酸(核酸等)等が好ましく、側鎖にカルボキシル基を有するポリアミノ酸又はその誘導体、核酸が特に好ましい。

【0077】
側鎖にカルボキシル基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、前述のポリカチオンで側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体のアミノ基にアコニチン酸無水物やシトラコン酸無水物を適当量作用させて得られるポリカルボン酸、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸が好ましい。

【0078】
核酸としては、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAが挙げられる。核酸は、ベシクルの用途に応じた機能性核酸であってもよい。機能性核酸としては、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、リボザイム、DNA酵素等が挙げられる。これらはベシクルの用途に応じて選択される。例えば、ベシクルをRNAi用のDDSに用いる場合、核酸としてはsiRNAが用いられる。また、核酸は修飾されたものでもよい。修飾された核酸の例としては、ベシクル安定化等の用途に向けて、コレステロールやビタミンE等の疎水性官能基が結合された核酸が挙げられる。

【0079】
アニオン性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。アニオン性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常はアニオン性セグメントの分子量が所定の範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。具体的には、アニオン性セグメントとしてポリカルボン酸、ポリスルホン酸、又は核酸を用いる場合、その繰り返し単位数は好ましくは10以上、より好ましくは50以上、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下の範囲である。
前記条件を満たすアニオン性セグメントを用いることにより、第1の重合体と第2の重合体との水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0080】
(B2-2c:非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの組み合わせ)
第1の重合体が有する非荷電親水性セグメントと第1の荷電性セグメントとの組み合わせ、また、第2の重合体が第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有する場合における、非荷電親水性セグメントと第2の荷電性セグメントとの組み合わせはいずれも制限されず、任意の非荷電親水性セグメントと任意の荷電性セグメントとを組み合わせることが可能である(なお、以降の記載では、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントを纏めて「荷電性セグメント」と表示する場合がある)。

【0081】
非荷電親水性セグメント及び荷電性セグメントの個数も任意であり、各々1つでも2つ以上でもよく、2つ以上の場合には互いに同一でも異なっていてもよい。
非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの結合形態も制限されず、直接結合していてもよいが、連結基を介して結合していてもよい。

【0082】
連結基の例としては、非荷電親水性セグメント及び荷電性セグメントの総個数に対応する価数を有する炭化水素基が挙げられる。連結基としての炭化水素基は脂肪族でも芳香族でもそれらが連結したものでもよく、脂肪族の場合には飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖でも分岐でも環状でもよい。連結基としての炭化水素基の分子量は、制限されるものではないが、通常5000以下、好ましくは1000以下である。連結基としての炭化水素基の例としては、没食子酸誘導体、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体、グリセリン誘導体、シクロヘキサン誘導体、L-リシン等が挙げられるが、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体等が好ましい。

【0083】
連結基の別の例としては、ジスルフィド基が挙げられる。ジスルフィド基は、非荷電親水性セグメント1つと荷電性セグメント1つを連結するのに用いられる。ジスルフィド基を介して非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとを連結することにより、ベシクルの置かれた環境や外部からの作用によってジスルフィド基を開裂させ、ベシクルの形態や性質を変化させることが可能になる。これを利用すれば、例えばベシクルに薬物を内包させ、得られた物質内包ベシクルを薬物送達用のDDSに用いる場合、生体内でジスルフィド基を開裂させることによって、ベシクル内に内包された物質の放出を促すことも可能になると考えられる。

【0084】
また、第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとの比率(カチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの比率)、及び、非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの比率も任意であるが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、以下の基準で選択することが好ましい。

【0085】
まず、カチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの比率については、下記式(i)に規定するC/A比が、通常0.3、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、また、通常3.0未満、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.7以下となるように調整することが望ましい。

【0086】
【数1】
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ここで、第1及び第2の重合体中におけるカチオン基及びアニオン基のモル数は、カチオン性セグメント及びアニオン性セグメントの構造に依存する値であるが、一般的な電位差(酸・塩基)滴定により求めることが可能である。

【0087】
また、第1及び第2の重合体中における非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの比率は、前記C/A比の範囲を満たすカチオン性セグメント及びアニオン性セグメントの比率を勘案して決定することが好ましい。具体的には、以下の式(ii)で規定される非荷電親水性セグメントの分子量比率Xを、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、また、通常0.35以下、好ましくは0.1以下の範囲に収めることが望ましい。

【0088】
カチオン性セグメント(モノマー1つ当たり1つの正電荷を有するとする)及びアニオン性セグメント(モノマー1つ当たり1つの負電荷を有するとする)を各々一種類ずつ用い、少なくとも一方に非荷電親水性セグメントを導入して用いた場合(即ち、第1の重合体がカチオン性若しくはアニオン性セグメントと非荷電親水性セグメントとからなるブロック共重合体であり、第2の重合体がアニオン性若しくはカチオン性セグメントの単独重合体、又はそれと非荷電親水性セグメントとからなるブロック共重合体である場合)、そのXは次式で規定される。
【数2】
JP0006049854B2_000003t.gif

【0089】
(B2-2d:第1及び第2の重合体の具体例)
第1及び第2の重合体の具体例としては、以下の[例1]、[例2]が挙げられる。

【0090】
[例1]
第1の重合体として下記(A1)を用い、第2の重合体として下記(B1)を用いる。
(A1)非荷電性親水性のセグメントとアニオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(B1)下記(i)のブロックコポリマー及び/又は下記(ii)のポリマー。
(i) 非荷電性親水性のセグメントとカチオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(ii) カチオン性のセグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のセグメントを含まない)。

【0091】
[例2]
第1の重合体として下記(A2)を用い、第2の重合体として下記(B2)を用いる。
(A2)非荷電性親水性のセグメントとカチオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(B2)下記(iii)のブロックコポリマー及び/又は下記(iv)のポリマー。
(iii) 非荷電性親水性のセグメントとアニオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(iv) アニオン性のセグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のセグメントを含まない)。

【0092】
なお、本発明においては、前記(B1)(ii)及び(B2)(iv)のポリマーのように、非荷電性親水性のセグメントを含まないポリマーを、便宜上、ホモポリマーということがある。
前記(B1)(i)、(ii)及び(A2)の各ポリマーにおけるカチオン性のセグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドに由来するものが好ましく挙げられる。
同様に、前記(A1)及び(B2)(iii)、(iv)の各ポリマーにおいて、アニオン性のセグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドや核酸に由来するものが好ましく挙げられる。

【0093】
より具体的には、前記(A1)及び(B2)(iii)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化1】
JP0006049854B2_000004t.gif
ここで、一般式(I)及び(II)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(以降「PEGセグメント」と表示する場合がある)であり、繰り返し単位数が「n-y」の部分と「y」の部分とを合わせたセグメントがポリアニオン由来のアニオン性セグメント(以降「ポリアニオンセグメント」と表示する場合がある)である。

【0094】
一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ-C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1~6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2~6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して、他の置換基であるホルミル基(-CHO)(又はアルデヒド基)に転化できる。

【0095】
一般式(I)及び(II)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は-(CH2b-NH-(ここでbは1~5の整数である)であることが好ましく、L2は-(CH2c-CO-(ここでcは1~5の整数である)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。

【0096】
一般式(I)及び(II)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が-NH-R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、mは5~2,000の整数であり、5~270の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。また、nは2~5,000の整数であり、yは0~5,000の整数であり、n及びyは、5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。但し、yはnより大きくないものとする。

【0097】
一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリアニオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、3,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは5,000~20,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500~15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~5,000であり、ポリアニオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500~50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~20,000である。

【0098】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO-又はR1bO-とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO-又はR1bO-と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をアニオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、アニオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。

【0099】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したアニオン性基を有する側鎖となるように置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。

【0100】
本発明において、一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(以降「P(Asp)」と表示する場合がある)とからなる下記式のアニオン性ブロックコポリマー(以降「PEG-P(Asp)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる(なお、以降の式では対カチオンの例としてNa+を示す場合があるが、対カチオンはこれに限定されるものではない)。

【0101】
【化2】
JP0006049854B2_000005t.gif
上記式中、
mはPEGの重合度を表す整数である。
nはP(Asp)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
PEG-P(Asp)としては、PEGセグメントの分子量(Mw):2,000、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数(上記式中n):70又は75であるものが特に好ましい。

【0102】
前記(A2)及び(B1)(i)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(III)及び/又は(IV)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化3】
JP0006049854B2_000006t.gif

【0103】
ここで、一般式(III)及び(IV)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n-y-z」の部分と「y」の部分と「z」の部分とを合わせたセグメントがポリカチオン由来のカチオン性セグメント(以下、ポリカチオンセグメント)である。

【0104】
一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ-C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1~6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2~6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(-CHO:又はアルデヒド基)に転化できる。

【0105】
一般式(III)及び(IV)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は-(CH2b-NH-(ここで、bは1~5の整数である)であることが好ましく、L2は-(CH2c-CO-(ここで、cは1~5の整数である)であることが好ましい。

【0106】
一般式(III)及び(IV)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。

【0107】
一般式(III)及び(IV)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。

【0108】
一般式(III)及び(IV)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が-NH-R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。

【0109】
一般式(III)及び(IV)中、R5a、R5b、R5c及びR5dは、それぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。

【0110】
5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、-NH-(CH2a-X基(ここで、Xは(NH(CH22e-NH2(但しeは0~5の整数)である)であるものが、少なくとも2つ以上存在することが好ましく、上記総数の50%以上存在することがより好ましく、上記総数の85%以上存在することがさらに好ましい。
また、R5a、R5b、R5c及びR5dのすべて又は一部が、-NH-(CH2a-X基(ここで、aは2であり、Xは(NH(CH22e-NH2(但しeは1)である)ことが好ましい。

【0111】
さらに、R4並びにR5a、R5b、R5c及びR5dの例示として上記した-NH-(CH2a-X基において、Xが下記の各式で表される基から選ばれるものである場合が特に好ましい。
【化4】
JP0006049854B2_000007t.gif

【0112】
ここで、上記の各式中、X2は、水素原子又はC1-6アルキル基もしくはアミノC1-6アルキル基を表し、R7a、R7b及びR7cは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、d1、d2及びd3は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、e1、e2及びe3は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、fは、0~15の整数を表し、gは0~15の整数を表し、R8a及びR8bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基を表す。ここで、当該保護基は、通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。

【0113】
一般式(III)及び(IV)中、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子、-C(=NH)NH2、又は保護基であり、ここで保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。また、一般式(III)及び(IV)中、tは2~6の整数であることが好ましく、より好ましくは3又は4である。

【0114】
一般式(III)及び(IV)中、mは5~2,000の整数であり、5~270の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。また、nは2~5,000の整数であり、yは0~5,000の整数であり、zは0~5,000の整数である。nは、5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10~100の整数である。y及びzは、0又は5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10~100の整数である。但し、yとzとの合計(y+z)は、nより大きくないものとする。

【0115】
一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリカチオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。

【0116】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、23,000~45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000~34,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500~15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~5,000であり、ポリカチオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500~50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~30,000である。

【0117】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO-又はR1bO-とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO-又はR1bO-と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。

【0118】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。

【0119】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(以降「PEG」と表示する場合がある)と、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなる下記式のカチオン性ブロックコポリマー(以降「PEG-P(Asp-AP)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる(なお、以降の式では対アニオンの例として、Cl-を示す場合があるが、対アニオンはこれに限定されるものではない)。
【化5】
JP0006049854B2_000008t.gif
上記式中、
mはPEGの重合度を表す整数である。
nはP(Asp-AP)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
PEG-P(Asp-AP)としては、PEGセグメントの分子量(Mw):2,000,ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数(上記式中n):70又は75であるものが特に好ましい。

【0120】
前記(B2)(iv)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(V)及び(VI)に関する説明については、前述した一般式(I)及び(II)に関する説明(但しPEGセグメントに関する説明は除く)が、適宜同様に適用できる。
【化6】
JP0006049854B2_000009t.gif

【0121】
本発明において、一般式(V)及び(VI)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(P(Asp))からなる下記式のアニオン性ホモポリマー(以降「Homo-P(Asp)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる。
【化7】
JP0006049854B2_000010t.gif
上記式中、
nはP(Asp)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
Homo-P(Asp)としては、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数(上記式中n):70又は82であるものが特に好ましい。

【0122】
前記(B1)(ii)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(VII)及び(VIII)に関する説明については、前述した一般式(III)及び(IV)に関する説明が、適宜同様に適用できる。
【化8】
JP0006049854B2_000011t.gif

【0123】
本発明において、一般式(VII)及び(VIII)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(P(Asp-AP))からなる下記式のカチオン性ホモポリマー(以降「Homo-P(Asp-AP)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる。
【化9】
JP0006049854B2_000012t.gif
上記式中、
nはP(Asp-AP)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
Homo-P(Asp-AP)としては、ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数(上記式中n):70又は82であるものが特に好ましい。

【0124】
(B2-3:その他の膜成分)
空ベシクルの形成時には、第1の重合体及び第2の重合体に加えて、ベシクルの形成を妨げない、或いは安定性を下げない範囲で、その他の膜成分を添加することができる。その他の膜成分に特に制限はないが、具体例としては荷電性重合体、荷電性ナノ粒子等が挙げられる。
荷電性重合体としては、前述した荷電性セグメント(カチオン性セグメント又はアニオン性セグメント)を1又は2以上有する重合体であって、前記の第1の重合体及び第2の重合体に該当しない任意の荷電性重合体が挙げられる。
荷電性ナノ粒子としては、表面に荷電を有する金属系ナノ粒子等が挙げられる。

【0125】
前記その他の膜成分は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記その他の膜成分の使用量も制限されないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクル形成を妨げない程度に抑えることが好ましい。具体的には、ベシクルの総重量に対して通常30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。

【0126】
(B2-4:空ベシクルの製造方法)
物質を内包させる空ベシクルは、第1の重合体と第2の重合体との静電相互作用を利用して形成されることから、第1の重合体と第2の重合体とを水性溶液中で混合することにより簡便に製造される。斯かる製造方法によれば、有機溶媒を用いなくともベシクルを製造し得るから、DDSやバイオマテリアル等の分野において有利である。

【0127】
具体的には、第1の重合体を含んでなる第1の水性溶液と、第2の重合体を含んでなる第2の水性溶液とを用意する。第1及び第2の水性溶液は、所望により濾過して精製してもよい。
第1の水性溶液における第1の重合体の濃度、及び、第2の水性溶液における第2の重合体の濃度は限定されず、第1の重合体と第2の重合体との総電荷数の比率、第1の重合体及び第2の重合体の水性溶液への溶解度、ベシクルの形成効率等の条件を勘案して、適宜決定される。

【0128】
第1及び第2の水性溶液の溶媒は、水性溶媒であれば、その種類は限定されない。好ましくは水であるが、ベシクルの形成を妨げない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒、例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。
第1及び第2の水性溶液のpHは、ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。第1及び第2の水性溶液のpHを調整して用いることは、第1の重合体及び第2の重合体の荷電状態を保持し、効率的にベシクルを形成する上で有利である。

【0129】
第1及び第2の水性溶液の温度は、第1の重合体及び第2の重合体の溶媒に対する溶解度に応じて適宜決定されるが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。
第1及び第2の水性溶液のイオン強度は、ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは0mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは200mM以下、より好ましくは50mM以下である。

【0130】
以上の第1及び第2の水性溶液を混合することにより、ベシクルを作成する。混合方法は限定されず、第1の水性溶液に第2の水性溶液を加えてもよく、第2の水性溶液に第1の水性溶液を加えてもよい。また、容器に第1及び第2の水性溶液を同時に入れて混合してもよい。得られた第1及び第2の水性溶液の混合液を、適宜攪拌してもよい。
第1及び第2の水性溶液の混合時の温度は、ベシクルの形成を妨げない範囲であれば限定されないが、第1の重合体及び第2の重合体の温度に応じた溶解度を勘案して設定することが好ましい。具体的には、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0131】
混合後、形成された空ベシクルをすぐに後担持法に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。但し、形成されたベシクルの径は経時的に増大する傾向があるので、通常は静置時間を設けないで、形成された空ベシクルをすぐに後担持法に供することが好ましい。

【0132】
その他の膜成分を用いる場合、上記の第1及び第2の水性溶液と、当該膜成分とを混合すればよい。このとき、混合前の第1又は第2の水性溶液に当該膜成分を加えて混合してもよいが、当該膜成分と第1又は第2の水性溶液との間にベシクル形成を妨げる会合や相互作用がないことが望ましい。また、第1及び第2の水性溶液の混合時に当該膜成分を一緒に加えて混合してもよく、第1及び第2の水性溶液の混合後に当該膜成分を加えて更に混合してもよい。また、他の膜成分をそのまま混合に用いてもよいが、当該膜成分を含有する水性溶液を調製し、これを混合に用いてもよい。膜成分の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0133】
[B3:被内包物質]
ベシクルに内包させる被内包物質は制限されず、物質内包ベシクルの用途や性質等に応じて適宜、任意に選択することができる。
特に、従来の製造方法の一つである同時混合法によれば、被内包物質として荷電性の物質を用いた場合、膜構成成分である重合体の自己組織化によるベシクルの形成が被内包物質の荷電によって阻害され、適切な物質内包ベシクルが得られないという問題があった。しかし、後担持法によれば、被内包物質の電気的性質に斯かる制限はなく、被内包物質として荷電性の物質を用いた場合でも非荷電性の物質を用いた場合でも、物質内包ベシクルを効率的に形成することが可能である。

【0134】
具体的に、被内包物質の種類としては、生体分子、有機化合物、無機物質等が挙げられる。
生体分子としては、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、核酸(DNA、RNA)、脂質(脂肪酸、グリセリド、ステロイド等)、炭水化物(単糖類、多糖類)、及びこれらの誘導体、並びにこれらの二種以上が結合したもの(糖タンパク質、糖脂質等)等が挙げられる。中でもタンパク質、炭水化物等が好ましい。
有機化合物としては、発光(蛍光、燐光等)分子、水溶性薬剤、水溶性高分子、平均粒径100nm以下の水溶性分子集合体(ミセル、ベシクル、ナノゲルなど)、平均粒径100nm以下のエマルション等が挙げられる。中でも平均粒径50nm以下の高分子ミセル、分子量10万以下の水溶性高分子が好ましい。
無機物質としては、水に分散可能な金属ナノ粒子、酸化物ナノ粒子(シリカナノ粒子、チタニアナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子等)、半導体ナノ粒子(量子ドット等)、水溶性炭素クラスター、ホウ素クラスター、金属錯体等が挙げられる。中でも平均粒径20nm以下の量子ドットが好ましい。

【0135】
また、用途別に分類すると、被内包物質としては、抗がん剤(例えば、ドキソルビシンやパクリタキセル等の疎水性抗がん剤、シスプラチン等の金属錯体抗がん剤等及びそれらの高分子ミセル化体)、MRI等の診断に用いられるガドリニウムや鉄化合物、有機発光(蛍光、燐光等)色素や量子ドット等が挙げられる。

【0136】
被内包物質の分子量及び粒径も制限されないが、空ベシクル内に被内包物質を効率的に導入する観点からは、被内包物質の分子量は通常20万以下、中でも10万以下とすることが好ましく、被内包物質の粒径は通常100nm以下、中でも50nm以下とすることが好ましい。
空ベシクルに対する被内包物質の使用比率も、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲で、所望の被内包物質の内包量に応じて調整すればよい。
被内包物質は1種を単独で使用しても、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。

【0137】
[B4:その他の工程]
後担持法は、少なくとも、所定の構造を有する空ベシクルを用意する工程と、前記空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中で混合する工程とを有していればよいが、更にその他の工程を有していてもよい。例としては、架橋剤処理、ろ過操作、透析操作、凍結乾燥操作等が挙げられる。
中でも、物質内包ベシクルを生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下で使用する場合(例えばDDSとして使用する場合等)には、粒径の経時的な増大を防止する観点から、形成された物質内包ベシクルに対して、後処理として架橋剤処理を施すことが好ましい。すなわち、生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下では、架橋剤を含有しないベシクルの粒径は経時的に増大する傾向があるが、架橋剤処理を施すことにより粒径の増大を防止することができる。

【0138】
架橋剤の種類は制限されず、ベシクルの用途や第1の重合体及び第2の重合体の種類、他の膜成分の種類等に応じて適宜選択することができるが、効率的に架橋を行うとともに、物質内包ベシクルの安定性を高める観点からは、第1の重合体及び第2の重合体の荷電性セグメントが有する荷電性基(例えばアミノ基等のカチオン基やカルボキシル基等のアニオン基)と反応し、被内包物質とは反応しない架橋剤が好ましい。架橋剤の具体例としては、アミノ基を架橋する架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド、スベリンイミド酸ジメチルニ塩酸塩(dimethyl suberimidate dihydrochloride:DMS)、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル(dimethyl 3,3'-dithiobispropionimidate:DTBP))、アミノ基とカルボキシル基を縮合することで架橋する架橋剤(例えば、1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropy)carbodiimide:EDC)等)、リン酸基を架橋する架橋剤(例えばカルシウムイオン等の金属イオン)等が挙げられるが、グルタルアルデヒド、EDC等が好ましく、EDCが特に好ましい。また、1種の架橋剤を単独で使用してもよいが、2種以上の架橋剤を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。

【0139】
架橋剤の使用量も制限されず、架橋剤の種類及び架橋点の数、架橋対象成分の量等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、アミノ基とカルボキシル基とを架橋する架橋剤の場合、下記式(iii)に規定するCL比が次に説明する条件を満たすように使用量を選択することが望ましい。
【数3】
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【0140】
効率的に架橋を行うとともに、物質内包ベシクルの安定性を高める観点からは、CL比が通常0.1以上、好ましくは0.5以上となるように、架橋剤と第1及び第2の重合体との量比を調整することが望ましい。一方、物質内包ベシクルをDDSとして薬物の送達に用いる場合(例えば用いる場合)、薬物を標的部位において効率よく放出させる観点からは、架橋剤の使用量はあまり多過ぎないことが好ましく、具体的には、CL比が通常10以下、好ましくは5以下となるように、架橋剤と第1及び第2の重合体との量比を調整することが望ましい。但し、上記記載のCL比の範囲はあくまでも目安であり、実際にはベシクルの用途や第1の重合体及び第2の重合体の種類、他の膜成分の種類等に応じて、CL比を適宜調整することが好ましい。

【0141】
[B5:物質内包ベシクル]
後担持法を含む各種の任意の手法で空ベシクルに物質を内包させることにより、前述の空ベシクルの空隙部内に前述の被内包物質が内包された、物質内包ベシクルが得られる。
斯かる物質内包ベシクルは、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とから形成される膜と、前記膜によって包囲された空隙部と、前記空隙部内に内包された物質とを含んでなる。
物質内包ベシクルの膜の構造は、上述した空ベシクルの膜の構造と基本的に同等である。即ち、物質内包ベシクルは、図2~4を用いて説明した空ベシクルの構造膜と同様の三層構造膜を有することが好ましく、その形状は通常は球状又は略球状である。

【0142】
後担持法で得られる物質内包ベシクルの粒径は、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、ベシクルの周辺環境(水性媒体の種類)、混合の条件等に応じて異なるが、通常は空ベシクルの粒径とほぼ同等である。また、後担持法かその他の製法かによらず、得られる物質内包ベシクルの粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは400nm以下、より好ましくは200nm以下である。後述する本発明の各物質内包ベシクルの粒径も、別途記載なき限り同程度となる。

【0143】
後担持法で得られる物質内包ベシクルの膜厚も、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、ベシクルの周辺環境(水性媒体の種類)、混合の条件等に応じて異なるが、通常は空ベシクルの粒径及び膜厚とほぼ同等である。また、後担持法かその他の製法かによらず、得られる物質内包ベシクルの膜厚は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。後述する本発明の各物質内包ベシクルの膜厚も、別途記載なき限り同程度となる。

【0144】
従来の手法では、静電相互作用型ベシクル(PICsome)に物質を内包させることは一部可能であるものの、適用範囲に制限があった。また、空のベシクルに後から物質を内包させることは困難、又は不可能であった。後担持法によれば、静電相互作用型ベシクル(PICsome)に広汎な物質を内包させた物質内包静電相互作用型ベシクル(物質内包PICsome)の製造が可能となる。

【0145】
物質内包ベシクルは、高分子の自己組織化により形成されたベシクルの空隙部内に、各種の物質が安定に保持されているため、薬物を送達するDDSや、有効成分を担持する機能性材料等の各種用途に有効に用いることができる。例えば、被内包物質やベシクル膜の構成成分としてsiRNA(small interfering RNA)を用いることにより、得られる物質内包ベシクルをRNAi(RNA干渉)用のDDS等に用いることができる。また、複数の薬剤を被内包物質として内包させたり、被内包物質及び膜材料として併用したりすることにより、薬剤の併用療法にも使用可能である。

【0146】
[C]物質内包架橋ベシクル及びその製法

【0147】
<C-1:第1の態様/物質内包架橋ベシクルの単分散集合体及びその製法>
[概要]
第1の態様に係る方法は、空の架橋ベシクルの単分散集合体を、目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、内水相に目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を形成させる工程を含んでなる、物質内包架橋ベシクルの製造方法である。

【0148】
第1の態様に係る方法において、混合液に含有される目的物質の濃度は、非架橋である点で空の架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を同混合液中で混合した場合に、内水相に目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である。

【0149】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、目的物質の存在下、水性媒体中で混合する場合、目的物質の濃度が一定濃度を超えると、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される(すなわち、多分散集合体が形成される)場合がある。これに対して、空の架橋ベシクルの単分散集合体を、目的物質の存在下、水性媒体中で混合する場合には、この一定濃度を超えても、物質内包架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害されない。したがって、第1の態様に係る方法によれば、水性媒体中に存在する目的物質の濃度が、従来法よりも高濃度(例えば、後担持法において物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度)であっても、空の架橋ベシクルに、その単分散性を維持しつつ、目的物質を封入することができ、これにより、従来法よりも高濃度の目的物質が内包された物質内包ベシクルの単分散集合体を製造することができる。

【0150】
[空の架橋ベシクルの単分散集合体]
空の架橋ベシクルの単分散集合体の平均粒子径は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上であり、通常10000nm以下、好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。

【0151】
空の架橋ベシクルの単分散集合体を構成する各ベシクルは、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体が架橋された架橋膜と、架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に目的物質が内包されていないベシクルである。

【0152】
空の架橋ベシクルにおける第1及び第2の重合体は、上記[B2-2:第1及び第2の重合体]に記載した通りである。

【0153】
空の架橋ベシクルにおけるその他の膜成分は、上記[B2-3:その他の膜成分]に記載した通りである。

【0154】
空の架橋ベシクルの架橋膜に含まれる第1及び/又は第2の重合体は架橋されている。すなわち、空の架橋ベシクルの架橋膜は、第1の重合体間の架橋結合、第2の重合体間の架橋結合、及び第1の重合体と第2の重合体との間の架橋結合からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋結合を含む。空の架橋ベシクルの架橋膜は、形成される物質内包架橋ベシクルの単分散性を向上させる点から、第1の重合体と第2の重合体との間に形成された架橋結合を含むことが好ましい。

【0155】
空の架橋ベシクルの架橋膜に含まれる第1及び/又は第2の重合体は、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されていることが好ましく、カチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合によって架橋されていることがさらに好ましい。カチオン基及びアニオン基は、第1の重合体(第1の荷電性セグメント)及び第2の重合体(第2の荷電性セグメント)が有する荷電性基である。

【0156】
架橋率は、目的物質の封入時に空の架橋ベシクルの単分散性が維持される範囲内において、目的物質の種類、目的物質の封入時に使用される混合方法の種類等に応じて適宜調節することができる。ここで、「架橋率」は、架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数のうち、架橋結合が形成された割合、すなわち、カチオン基間が架橋される場合には、架橋膜に含まれるカチオン基の総モル数のうち、カチオン基間の架橋結合が形成された割合であり、アニオン基間が架橋される場合には、架橋膜に含まれるアニオン基の総モル数のうち、アニオン基間の架橋結合が形成された割合であり、カチオン基とアニオン基との間が架橋される場合には、架橋膜に含まれるカチオン基及びアニオン基の総モル数のうち、カチオン基-アニオン基間の架橋結合が形成された割合である。

【0157】
空の架橋ベシクルの架橋率が高いほど、空の架橋ベシクルに封入可能な目的物質の最大分子サイズ(最大分子量)は小さくなる一方、空の架橋ベシクルの架橋率が低いほど、空の架橋ベシクルに封入可能な目的物質の最大分子サイズ(最大分子量)は大きくなる。したがって、目的物質の分子サイズ(分子量)が小さいほど、架橋率の上限は高くなる一方、目的物質の分子サイズ(分子量)が大きいほど、架橋率の上限は低くなる。封入可能な目的物質の分子サイズ(分子量)の範囲を広げ、第1の態様に係る方法の汎用性を向上させる点からは、空の架橋ベシクルの架橋率を低くすることが好ましい。

【0158】
空の架橋ベシクルの架橋率が高いほど、空の架橋ベシクルの単分散性を維持可能な最大印加外力が大きくなる一方、空の架橋ベシクルの架橋率が低いほど、空の架橋ベシクルの単分散性を維持可能な最大印加外力が小さくなる。したがって、空の架橋ベシクルに印加される外力が大きいほど、架橋率の下限は高くなる一方、空の架橋ベシクルに印加される外力が小さいほど、架橋率の下限は低くなる。例えば、撹拌による混合よりも超音波照射による混合の方が、空の架橋ベシクルに印加される外力が大きいので、架橋率の下限は高くなる。空の架橋ベシクルへの目的物質の封入時に使用可能な混合方法の範囲が広げ、第1の態様に係る方法の汎用性を向上させる点からは、空の架橋ベシクルの架橋率を高くすることが好ましい。

【0159】
重量平均分子量10000~40000の目的物質を空の架橋ベシクルへ封入する際、混合方法として撹拌を使用する場合には、架橋率の下限は、好ましくは35%、さらに好ましくは37%、さらに一層好ましくは38%であり、混合方法として超音波照射を使用する場合には、架橋率の下限は、好ましくは50%、さらに好ましくは55%である。いずれの場合も、架橋率の上限は、好ましくは80%、さらに好ましくは75%である。

【0160】
架橋率の測定方法は、架橋剤の種類に応じて適宜選択することができる。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のアミド縮合タイプの架橋剤の場合、架橋率の算出方法の一例として、赤外吸収スペクトルから求められるカルボキシル基(-COO-)の消費量に基づいて、架橋率を測定する方法が挙げられる。また、別法として、アミド結合(-CONH-)の増加量に基づいて、架橋率を測定する方法が挙げられる。但し、第1及び第2の荷電性セグメントがポリアミノ酸又はその誘導体である場合、第1及び第2の荷電性セグメントがアミド結合を大量に含むため、架橋率の測定精度が低下するおそれがある。したがって、この場合には、他の測定方法(例えば、カルボキシル基の消費量に基づく測定方法)と組み合わせて使用することが好ましい。さらに、別法として、アミノ基発色試薬によって定量されたアミノ基の残存量に基づいて、架橋率を算出する方法が挙げられる。アミノ基発色試薬としては、例えば、トリニトロベンゼンスルホン酸、フルオレスカミン等が挙げられる。

【0161】
架橋膜によって包囲された空間(空隙部)には、通常、空の架橋ベシクルの単分散集合体の製造時に使用される水性媒体が内水相として含まれる。

【0162】
[空の架橋ベシクルの単分散集合体の製造方法]
空の架橋ベシクルの単分散集合体の製造方法としては、例えば、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、第1及び/又は第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させる方法が挙げられる。

【0163】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体を構成する各ベシクルは、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び第2の重合体のいずれも架橋されていない非架橋膜と、非架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に目的物質が内包されていないベシクルである。

【0164】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体を構成する各ベシクルの構造は、上記[B2-1:空ベシクルの構造]に記載した通りである。

【0165】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体の平均粒子径は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上であり、通常10000nm以下、好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。

【0166】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体の製造方法は、上記[B2-4:空ベシクルの製造方法]に記載した通りである。

【0167】
架橋剤は、第1及び/又は第2の重合体と反応し得る限り特に限定されない。架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、使用される架橋剤の種類に応じて、第1の重合体間の架橋結合、第2の重合体間の架橋結合、及び第1の重合体と第2の重合体との間の架橋結合からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋結合が形成される。なお、架橋結合中には、架橋反応に関与した架橋剤が残存してもよいし、残存しなくてもよい。例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、後述するように、架橋結合中に残存しない。

【0168】
第1及び/又は第2の重合体と反応し得る架橋剤には、第1の重合体が有する官能基と反応し得る2以上の官能基を有し、第1の重合体間を架橋し得る架橋剤(以下「第1の架橋剤」という。)、第2の重合体が有する官能基と反応し得る2以上の官能基を有し、第2の重合体間を架橋し得る架橋剤(以下「第2の架橋剤」という。)、及び、第1の重合体が有する官能基と反応し得る1以上の官能基と、第2の重合体が有する官能基と反応し得る1以上の官能基とを有し、第1の重合体と第2の重合体との間を架橋し得る架橋剤(以下「第3の架橋剤」という。)が含まれるが、形成される物質内包架橋ベシクルの単分散性を向上させる点から、第3の架橋剤を単独で又はその他の架橋剤と組み合わせて使用することが好ましい。

【0169】
第1~第3の架橋剤は、第1及び/又は第2の重合体が有する官能基のうち、荷電性セグメントの荷電性基と反応し得ることが好ましい。すなわち、第1の架橋剤は、第1の荷電性セグメントが有する荷電性基間を架橋し得ることが好ましく、第2の架橋剤は、第2の荷電性セグメントが有する荷電性基間を架橋し得ることが好ましく、第3の架橋剤は、第1の荷電性セグメントが有する荷電性基と、第2の荷電性セグメントが有する荷電性基との間を架橋し得ることが好ましい。

【0170】
第1~第3の架橋剤と反応し得るカチオン基は、好ましくはアミノ基である。第1~第3の架橋剤と反応し得るアニオン基は、例えば、カルボキシル基、リン酸基等、好ましくはカルボキシル基である。

【0171】
第1~第3の架橋剤と反応し得る官能基は、中性条件下では荷電を有しないが、所定の条件下では荷電を有する官能基であってもよく、このような官能基としては、例えば、フェノール誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、チオール誘導体等が挙げられる。これらの官能基は、中性条件下で荷電を有するように分子設計することも可能である。

【0172】
アミノ基を架橋する架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド、スベリンイミド酸ジメチル二塩酸塩(DMS)、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル(DTBP)、ジスクシンイミジルグルタレート(DSG)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)等のジスクシンイミド誘導体、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DFDNB)等のジフルオロベンゼン誘導体、3-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスホニオ]プロピオネート(THPP)、ビスマレイミド誘導体等が挙げられる。

【0173】
アミノ基及びカルボキシル基を縮合して架橋する(したがって架橋剤は架橋結合に残存しない)架橋剤としては、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N‘-ジシクロヘキサンカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)等のカルボジイミド系縮合剤、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMT-MM)等が挙げられる。

【0174】
アミノ基及びリン酸を架橋する架橋剤としては、EDCとイミダゾール複合系架橋剤等が挙げられる。

【0175】
リン酸基を架橋する架橋剤としては、例えば、カルシウムイオン等の金属イオン等が挙げられる。

【0176】
好ましい架橋剤は、EDCである。EDCは、架橋結合中に残存しない。したがって、ベシクルを生体内に投与する場合(例えば、薬物送達用ベシクルとして生体内に投与する場合)、ベシクルが生体内で分解されても、架橋剤が遊離して細胞毒性を示すことがない。

【0177】
架橋剤の使用量は、所望の架橋率が達成されるように、架橋剤の種類、架橋対象成分の量、目的物質の種類、空の架橋ベシクルへの目的物質の封入時に使用される混合方法の種類等に応じて適宜調節することができる。

【0178】
重量平均分子量10000~40000の目的物質を空の架橋ベシクルへ封入する際、架橋剤としてアミノ基とカルボキシル基とを架橋する架橋剤(EDC等)を使用する場合を想定すると、架橋剤の使用量は、好ましくは次の範囲である。すなわち、封入時に撹拌による混合を使用する場合には、上記式(iii)で規定されるCL比が、好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上でなるように、そして、好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.0以下となるように、架橋剤の使用量を調節する。封入時に超音波による混合を使用する場合には、上記式(iii)で規定されるCL比が、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上となるように、そして、好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下となるように、架橋剤の使用量を調節する。

【0179】
[混合液]
混合液は、目的物質を水性媒体とともに含有する。
目的物質は、ベシクルに内包すべき物質であり、ベシクルの用途等に応じて適宜選択することができる。
目的物質は、上記[B3:被内包物質]に記載した通りであり、水性媒体は、上記[B1-3:混合に関する他の条件]に記載した通りである。

【0180】
混合液に含有される目的物質の濃度は、第1及び/又は第2の重合体が架橋されていない点で空の架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を同混合液中で混合した場合に、内水相に目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である。

【0181】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体を構成する各ベシクルは、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び第2の重合体のいずれも架橋されていない非架橋膜と、非架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に目的物質が内包されていないベシクルである。

【0182】
物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体を構成する各ベシクルは、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び第2の重合体のいずれも架橋されていない非架橋膜と、非架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に目的物質が内包されたベシクルである。

【0183】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体は、第1及び/又は第2の重合体が架橋されていない点で空の架橋ベシクルと異なる。物質内包ベシクルの単分散集合体の形成の可否が、架橋の有無のみに依存するように、空の非架橋ベシクルの単分散集合体は、架橋以外の点において、空の架橋ベシクルの単分散集合体と実質的に同一であることが好ましい。また、物質内包ベシクルの単分散集合体の形成の可否が、架橋の有無のみに依存するように、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する際の条件(混合液の組成、混合方法等)は、空の架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する際の条件と実質的に同一であることが好ましい。

【0184】
空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、目的物質の存在下、水性媒体中で混合する場合には、混合液に含有される目的物質の濃度が一定濃度を超えると、物質内包ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される(すなわち、多分散集合体が形成される)場合がある。この一定濃度は、目的物質の種類に応じて異なる。例えば、目的物質の分子量が10000~40000である場合には、通常5mg/mL、好ましくは15mg/mL、さらに好ましくは40mg/mLを上回る濃度である。

【0185】
目的物質が難水溶性物質である場合、混合液に含有される難水溶性物質の濃度が増加するほど、第1の態様に係る方法の効果は顕著となる。すなわち、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、混合液に含有される難水溶性物質の濃度が一定濃度を超えると、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される(すなわち、多分散集合体が形成される)場合がある。これに対して、空の架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、この一定濃度を超えても、物質内包架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害されない。したがって、混合液に含有される難水溶性物質の濃度は、空の非架橋ベシクルを同混合液中で混合した場合に、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度であることが好ましい。そのような濃度は、通常、難水溶性物質の溶解度よりも高い(この場合、難水溶性物質は、混合液中に分散・懸濁する)。なお、「難水溶性」とは、水性媒体に対して難溶又は不溶であることを意味し、例えば、水性媒体が水である場合には、25℃の水に対する溶解度が通常1.0mg/mL以下、好ましくは0.1mg/mL以下、さらに好ましくは0.02mg/mL以下であることを意味する。

【0186】
混合液中で混合される空の架橋ベシクルの濃度は、ベシクルが凝集しない範囲内において適宜調節することができる。空の架橋ベシクルの濃度が低過ぎると、混合後に物質内包ベシクルが形成されない場合があるので、空の架橋ベシクルの濃度は、ベシクルが凝集しない範囲内において高濃度であるほど好ましい。空の架橋ベシクルの濃度は、通常0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、さらに好ましくは10mg/mL以上であり、通常100mg/mL以下、好ましくは70mg/mL以下、さらに好ましくは50mg/mL以下である。なお、得られる物質内包ベシクルの粒子径は、空の架橋ベシクルの濃度に依存すると考えられるため、空の架橋ベシクルの濃度は、製造すべき物質内包ベシクルの粒子径に応じて決定すべきである。

【0187】
混合液のpHは、特に制限されず、空の架橋ベシクルの構造、目的物質の種類、混合液中の空の架橋ベシクル及び目的物質の濃度等に応じて適宜調整することができるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を使用しることにより、容易に行うことができる。混合液のpHを調整して使用しることは、空の架橋ベシクルの構造を保持し、効率的に目的物質を空の架橋ベシクルに内包させる上でも有利である。

【0188】
混合液の塩濃度(イオン強度)は、空の架橋ベシクルの構造を破壊したり、空の架橋ベシクルへの目的物質の内包を阻害したりしない範囲で適宜調整することができる。但し、第1の態様に係る方法は、混合液の塩濃度(イオン強度)が増加するほど、その効果が顕著となる。すなわち、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、混合液の塩濃度が一定値を超えると、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される(すなわち、多分散集合体が形成される)場合がある。これに対して、空の架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、この一定値を超えても、物質内包架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害されない。したがって、混合液の塩濃度は、空の非架橋ベシクルを同混合液中で混合した場合に、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される濃度であることが好ましい。混合液の塩濃度は、塩化ナトリウム濃度換算で、好ましくは20mM以上、さらに好ましくは75mM以上、さらに一層好ましくは150mM以上である。なお、混合液の塩濃度の上限は、通常1.0M、好ましくは0.5Mである。

【0189】
混合液の粘度は、空の架橋ベシクルの構造を破壊したり、空の架橋ベシクルへの目的物質の内包を阻害したりしない範囲で適宜調整することができる。但し、第1の態様に係る方法は、混合液の粘度が増加するほど、その効果が顕著となる。すなわち、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、混合液の粘度が一定値を超えると、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される(すなわち、多分散集合体が形成される)場合がある。これに対して、空の架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合する場合には、この一定値を超えても、物質内包架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害されない。したがって、混合液の粘度は、空の非架橋ベシクルを同混合液中で混合した場合に、物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成が阻害される粘度であることが好ましい。混合液の粘度は、好ましくは0.05Pa・s以上、さらに好ましくは0.1Pa・s以上、さらに一層好ましくは0.5Pa・s以上である。なお、混合液の粘度の上限は、通常1.0Pa・s、好ましくは0.7Pa・sである。

【0190】
混合液の温度は、空の架橋ベシクルの構造を破壊したり、目的物質の空の架橋ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲であれば限定されないが、好ましくは4℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0191】
[混合方法]
混合方法は、上記[B1-2:空ベシクル及び被内包物質の混合]に記載した通りである。
目的物質が難水溶性物質である場合、混合方法として超音波処理を使用することが好ましい。

【0192】
[その他の工程]
第1の態様に係る方法は、空の架橋ベシクルの単分散集合体を、目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、内水相に目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体を形成させる工程以外に、その他の工程を含むことができる。例えば、後工程として、空の架橋ベシクルを混合液中で混合して得られる物質内包架橋ベシクルに対する架橋工程を含むことができる。架橋工程で使用される架橋剤は、第1及び/又は第2の重合体と反応し得る架橋剤であり、その詳細は上記と同様である。

【0193】
[物質内包架橋ベシクルの単分散集合体]
第1の態様に係る方法によって、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体が架橋された架橋膜と、架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの単分散集合体が製造される。

【0194】
物質内包架橋ベシクルの単分散集合体において、内水相に含有される目的物質の濃度は、第1及び/又は第2の重合体が架橋されていない点及び目的物質が内包されていない点で物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、物質内包架橋ベシクルの内水相と同一濃度の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合した場合に、内水相に目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度である。

【0195】
言い換えれば、第1の態様に係る方法によって製造される物質内包架橋ベシクルは、空の非架橋ベシクルの単分散集合体を、物質内包架橋ベシクルの内水相と同一濃度の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合して得られる物質内包非架橋ベシクルよりも高い単分散性を有する。

【0196】
物質内包架橋ベシクルの内水相は、第1の態様に係る方法で使用する混合液に応じて変化する。例えば、混合液の塩濃度が塩化ナトリウム濃度換算で20mM以上である場合、内水相の塩濃度も同様となる。また、混合液の粘度が0.05Pa・s以上である場合、内水相の粘度も同様となる。また、混合液が、重量平均分子量10000~40000の目的物質を5mg/mLを上回る濃度で含有する場合、内水相も同様となる。また、混合液が、難水溶性物質をその溶解度よりも高い濃度で含有する場合、内水相も同様となる。

【0197】
物質内包架橋ベシクルの架橋率は、第1の態様に係る方法で使用する空の架橋ベシクルの架橋率、及び、後工程として実施される架橋工程の有無に応じて変化する。例えば、空の架橋ベシクルにおいて、第1及び/又は第2の重合体が、カチオン基間に形成された架橋結合、アニオン基間に形成された架橋結合、及びカチオン基とアニオン基との間に形成された架橋結合からなる群より選択された1種又は2種以上の架橋結合によって架橋されており、架橋結合が形成された割合が、架橋膜に含まれるカチオン基及び/又はアニオン基の総モル数の35%以上である場合、空の架橋ベシクルを混合液中で混合して得られる物質内包架橋ベシクルの架橋率は、空の架橋ベシクルと同様となり、後工程として架橋工程が実施される場合には、空の架橋ベシクルよりも架橋率が増加する。

【0198】
<C-2:第2の態様/複数物質内包架橋ベシクル及びその製法>
[概要]
第2の態様に係る方法は、第1の目的物質が内包された第1の物質内包架橋ベシクルを、第1の目的物質よりも分子量の小さい第2の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、第1及び第2の目的物質が内包された第2の物質内包架橋ベシクルを形成させる工程を含んでなる、複数物質内包架橋ベシクルを製造する方法である。

【0199】
第1の目的物質が内包された第1の物質内包架橋ベシクルを、第2の目的物質の存在下、水性媒体中で混合すると、第1の目的物質の封入が維持されつつ、第1の物質内包架橋ベシクルに第2の目的物質を封入される。したがって、第2の態様に係る方法によれば、第1及び第2の目的物質を、その封入量を制御して封入することができ、これにより、第1及び第2の目的物質の封入量が制御された物質内包ベシクルを製造することができる。

【0200】
[第1の物質内包架橋ベシクル]
第1の物質内包架橋ベシクルは、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体が架橋された架橋膜と、架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に第1の目的物質が内包されたベシクルである。

【0201】
第1の物質内包架橋ベシクルの構成は、目的物質が第1の目的物質である点を除き、第1の態様に係る方法における物質内包架橋ベシクルの構成と同様である。

【0202】
第1の物質内包架橋ベシクルは、その単分散集合体であることが好ましい。第1の物質内包架橋ベシクルとしてその単分散集合体を使用することにより、第2の物質封入架橋ベシクルをその単分散集合体として製造することができる。

【0203】
第1の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体の平均粒子径は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上であり、通常10000nm以下、好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。

【0204】
[第1の物質内包架橋ベシクルの製造方法]
第1の物質内包架橋ベシクルの製造方法としては、例えば、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体が架橋された架橋膜と、架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に第1及び第2の目的物質のいずれも内包されていない空の架橋ベシクルを、第1の目的物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合し、必要に応じて、混合後、第1及び/又は第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させる方法(以下「方法1」という。)、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体のいずれも架橋されていない非架橋膜と、非架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に第1の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルを、第1及び/又は第2の重合体と反応し得る架橋剤と反応させる方法(以下「方法2」という。)等が挙げられる。

【0205】
方法1は、目的物質として第1の目的物質を使用する点を除き、第1の態様に係る方法と同様に実施することができる。

【0206】
方法2で使用される物質内包非架橋ベシクルは、例えば、同時混合法、後担持法等により製造することができる。同時混合法は、第1の重合体、第2の重合体及び目的物質を水性媒体中で混合する方法であり、後担持法は、空ベシクルを、第1の物質を水性媒体とともに含有する混合液中で混合する方法である。

【0207】
方法2で使用される架橋剤は、第1の態様に係る方法で使用される架橋剤と同様である。

【0208】
方法1及び方法2のいずれによっても、第1の物質内包架橋ベシクルを、その単分散集合体として製造することができる。

【0209】
第1の物質内包架橋ベシクルの製造方法として、方法1を使用する場合、空の架橋ベシクルが、その単分散集合体であり、第1の物質内包架橋ベシクルが、その単分散集合体であることが好ましい。空の架橋ベシクルとしてその単分散集合体を使用する場合、混合液に含有される第1の目的物質の濃度が、第1及び/又は第2の重合体が架橋されていない点で空の架橋ベシクルの単分散集合体と異なる空の非架橋ベシクルの単分散集合体を同混合液中で混合した場合に、内水相に第1の目的物質が内包された物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度であると、第1の態様に係る方法と同様の効果が得られる。

【0210】
[混合液]
混合液は、第1の目的物質よりも分子量が小さい第2の目的物質を水性媒体とともに含有する。

【0211】
第2の目的物質は、第1の目的物質よりも分子量が小さい限り特に限定されず、ベシクルの用途等に応じて適宜選択することができる。第1及び第2の目的物質の具体例としては、第1の態様に係る方法で使用される目的物質と同様の具体例が挙げられる。

【0212】
第2の目的物質の好ましい例としては、クラウディング剤が挙げられる。クラウディング剤は、分子クラウディング環境(分子が混み合った環境)をもたらす。クラウディング剤は、第1の目的物質と相互作用せず、分子クラウンディング環境をもたらすのに十分な溶解度を有する水溶性の分子であり、その具体例としては、ポリエチレングリコール、糖の重合体(デキストラン、Ficoll(登録商標))、アルブミンタンパク質等の親水性高分子、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の親水性低分子等が挙げられる。

【0213】
水性溶媒は、第1の態様に係る方法で使用される水性媒体と同様である。
混合液の組成、pH、塩濃度(イオン強度)、粘度等は、第1の態様に係る方法で使用される混合液と同様である。

【0214】
空の架橋ベシクルとしてその単分散集合体を使用する場合、混合液に含有される第2の目的物質の濃度が、第1及び/又は第2の重合体が架橋されていない点で第1の物質内包架橋ベシクルの単分散集合体と異なる第1の物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体を混合液中で混合した場合に、内水相に第1及び第2の目的物質が内包された第2の物質内包非架橋ベシクルの単分散集合体の形成を阻害する濃度であると、第1の態様に係る方法と同様の効果が得られる。

【0215】
[混合方法]
混合方法は、第1の態様に係る方法と同様である。

【0216】
[物質内包架橋ベシクル]
第2の態様に係る方法によって、第1及び第2の重合体を含んでなり、第1及び/又は第2の重合体が架橋された架橋膜と、架橋膜によって包囲された内水相とを含んでなり、内水相に第1及び第2の目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルが製造される。

【0217】
第1及び第2の目的物質が内包された物質内包架橋ベシクルの応用として、第2の目的物質を使用して分子クラウディング環境等を達成することにより、第1の目的物質を安定化することが挙げられる。すなわち、物質内包架橋ベシクルの一態様では、第1の目的物質が、第2の目的物質の不存在下で内水相に含有されている場合よりも安定化されている。このような第1の目的物質の安定化は、第2の目的物質の封入量を制御することにより実現することができる。その際、第2の目的物質としてクラウディング剤を使用することが好ましい。第2の目的物質としてクラウディング剤を使用することにより、例えば、第1の目的物質のpH安定性を向上させることができる。

【0218】
[D]吸着材内包ベシクル及びその製法
本発明の別の態様は、吸着材粒子を内包するベシクル(適宜「吸着材内包ベシクル」という。)及びその製法に関する。

【0219】
本発明者等は鋭意検討の結果、反対の荷電を有する2種の重合体の自己組織化による静電相互作用型ベシクルに、物質吸着能を有する粒子(吸着材粒子)を内包させることにより、ベシクルの大きさに対して比較的大きな粒子を内包する新たな物質内包ベシクル(吸着材内包ベシクル)が得られることを見出した。更に、2種の重合体の一方を吸着材粒子と混合し、その後に他方の重合体と混合することにより、斯かる吸着材内包ベシクルを極めて効率的に得ることができることを見出した。本態様は斯かる知見に基づくものである。

【0220】
本発明の吸着材内包ベシクルは、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルと、当該ベシクルに内包された吸着材粒子とを含み、前記第1及び第2の重合体の少なくとも一方が前記吸着材粒子に吸着されてなる。
ここで、第1及び第2の重合体については、上記[B]欄で説明した通りである。

【0221】
本明細書において吸着材粒子とは、物質を吸着する作用を有する粒子をいう。ここで吸着とは、二相(ここでは固体粒子とその周囲の液相)の界面において、物質の濃度が周囲よりも高くなる現象をいう。吸着材粒子が有する吸着作用の種類は制限されず、物理吸着(物理的相互作用による吸着)でも化学吸着(化学結合を伴う吸着)でもよく、これらの組み合わせであってもよい。物理吸着の場合、その基となる物理的相互作用としては、イオン間相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス(Van der Waals)等、更にはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、何れであってもよい。化学吸着の場合、その基となる化学結合としては、水素結合、共有結合、配位結合、イオン結合等、更にはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、何れであってもよい。

【0222】
但し、吸着材粒子としては、表面に荷電を有し、水性媒体に対して分散性を示す粒子であることが好ましい。吸着材粒子がこれらの性質を有することにより、ベシクルの構成要素となる第1及び/又は第2の重合体が、静電相互作用によって吸着材粒子に吸着され易くなり、吸着材粒子表面付近でのベシクルの形成が促進されると考えられる。具体的には、粒子表面のゼータ電位の絶対値が、通常10mV以上、中でも20mV以上、更には30mV以上であることが好ましい。なお、粒子表面のゼータ電位は、例えば光散乱電気泳動法等の電気泳動法を用いて測定することができる。

【0223】
また、吸着能を向上させる観点からは、吸着材粒子は、比表面積が大きい粒子であることが好ましい。比表面積が大きい粒子としては、各種の多孔性粒子が挙げられる。また、多孔性粒子の場合、粒子の細孔容積が0.1cm/g以上、中でも0.5cm/g以上であることが好ましい。なお、粒子表面の比表面積や多孔性粒子の細孔容積等の細孔特性は、例えばBET法等を用いて測定することができる。

【0224】
吸着材粒子の種類は制限されないが、例としては、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、ゼオライト、酸化鉄等の各種の金属酸化物;金、白金、パラジウム等の単体金属;ポリスチレン樹脂、スチレン-ジビニルベンゼン樹脂、イオン交換樹脂、ポリアクリル酸微粒子、ポリ乳酸微粒子、乳酸-グリコール酸共重合体微粒子等の合成又は天然樹脂等の材料からなる粒子が挙げられる。中でもシリカ、リン酸カルシウム、金、ポリアクリル酸微粒子等が好ましい。

【0225】
また、吸着材粒子の性状も制限されず、固体粒子でもよいが、水性媒体中でコロイドやゲル等を形成していてもよい。更には、当初は吸着材や粒子状物質でなくとも、ベシクルに内包させた後に吸着材粒子となり得る物質であってもよい。斯かる態様の例については後述する。

【0226】
吸着材粒子のサイズにも制限はないが、本願発明では、従来の静電相互作用型ベシクルでは内包困難であった大粒径(例えば30nm超)の粒子も内包可能であることから、斯かる大粒径の吸着材粒子を用いることが好ましい。中でも、通常40nm以上、中でも50nm以上、更には60nm以上の径を有する吸着材粒子が好ましい。平均粒径の上限にも制限はないが、通常は10μm以下程度である。なお、吸着材粒子の平均粒径は、吸着材の種類にもよるが、通常は動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)、レーザー回折法、コールターカウンター法等の手法によって測定することができる。

【0227】
本発明の吸着材内包ベシクルによれば、ベシクルの大きさに対して比較的大きい吸着材粒子を内包することが可能である。例えば、後述の実施例1によれば、内包対象となる吸着材粒子(メソポーラスシリカナノ粒子:MSN)の平均粒径は約80nmであるのに対し、得られる吸着材内包ベシクルの平均粒径は約100nmと、ベシクル粒径に対する吸着材粒子の粒径が極めて大きいにもかかわらず、高い内包率でこれを内包する吸着材内包ベシクルが得られている。その理由は明らかではないが、第1及び/又は第2の重合体が吸着材粒子に吸着された状態で自己組織化し、吸着材粒子の周囲に効率的にベシクルを形成するためではないかと考えられる。

【0228】
本発明の吸着材内包ベシクルは、第1及び第2の重合体を、吸着材粒子と共に、通常は水性媒体中で、任意の順序で混合することにより製造することが可能である。

【0229】
但し、吸着材粒子のベシクルへの内包率を向上させる観点からは、(a)水性媒体中で第1及び第2の重合体の何れか一方を先に吸着材粒子と混合し、吸着材粒子に吸着させる工程、及び、(b)水性媒体を含む当該混合物に更に他方の重合体を加えて混合し、吸着材粒子の周囲に第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルを形成させる工程を少なくとも含む方法(本発明の吸着材内包ベシクルの製造方法)によって製造することが好ましい。斯かる製造方法により、吸着材粒子の内包率を大幅に向上させ、所望の吸着材内包ベシクルを効率よく作製することが可能である。

【0230】
ここで、工程(a)において吸着材粒子に先に吸着させる重合体(第1又は第2の重合体)は、何れであってもよい。しかし、吸着材内包ベシクルの製造効率等の観点からは、吸着材粒子の表面電荷と逆の電荷を有する重合体を、先に吸着材粒子に接触させることが好ましい。例えば、吸着材粒子の表面電荷が正である場合には、負の電荷を有する重合体(即ち、アニオン性セグメントを有する重合体)であることが好ましく、吸着材粒子の表面電荷が負である場合には、正の電荷を有する重合体(即ち、カチオン性セグメントを有する重合体)であることが好ましい。なお、吸着剤粒子の表面に正負の電荷が混在している場合には、吸着剤粒子全体の表面電荷を総合的に勘案して正負を判断すればよい。但し繰り返すが、いずれの重合体を先に吸着材粒子と接触させても、本発明の吸着材内包ベシクルを得ることは可能である。

【0231】
水性媒体の種類や、第1及び第2の重合体並びに吸着材粒子の各濃度、混合の手法、その他の製法上の各種条件については、上記[B]欄で説明した条件をそのまま、或いは適宜変更を加えて用いることが可能である。

【0232】
以上の製法によって、吸着材粒子の周囲に前記第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルが形成され、吸着材内包ベシクルが得られる。ここで、吸着材粒子として荷電性粒子を用いる場合には、吸着材内包ベシクルと、ベシクルに内包されない吸着材粒子とを、例えば表面ゼータ電位等によって識別することが可能である。即ち、荷電性の吸着材粒子は表面ゼータ電位の絶対値が大きいのに対し、吸着材粒子がベシクルによって内包された吸着材内包ベシクルでは、第1及び第2の重合体の静電相互作用によって荷電が打ち消され、表面ゼータ電位の絶対値が小さくなる。よって、表面ゼータ電位の絶対値が低下したことを確認し、更にはDLS測定による粒子物性やTEM観察等の結果を勘案して、吸着材内包ベシクルの形成を確認することができる。

【0233】
上記製法によって吸着材粒子の内包率が向上する理由は定かではないが、以下のように推測される。即ち、本製法では、吸着材粒子を自己組織化後のベシクルに内包させるのではなく、内包対象となる吸着材粒子に第1及び第2の重合体の一方を吸着させてから他方を加えることによって、吸着材粒子の表面近傍でベシクルの膜が形成される。言い換えれば、ベシクルの形成時に吸着材粒子をテンプレートとして用いることで、吸着材粒子近傍の微小環境中における荷電ポリマー(第1及び第2の重合体のうち一方)の濃度を選択的に高めることにより(吸着の一種と思われる)、反対の荷電を有するポリマー(第1及び第2の重合体のうち他方)を加えた際に、吸着材粒子の表面近傍で選択的に自己組織化が生じるものと考えられる。その結果、通常では溶液中の数密度に対応した確率でしか封入できない物質を、極めて高い内包効率で内包することができる。また、比較的サイズの大きい吸着材粒子を内包させる場合でも、同様の理由によって、各重合体が吸着材粒子の表面に吸着された状態で自己組織化し、吸着材粒子の周囲に効率的にベシクルを形成するため、内包が可能になるものと考えられる。

【0234】
なお、本発明の吸着材内包ベシクルの製法では、上記以外の他の工程を加えて実施してもよい。例としては、吸着材内包ベシクルの形成後に、ベシクル中の第1及び/又は第2の重合体を架橋することが好ましい。架橋によって、ベシクルの安定性を高めることが可能となる。重合体を架橋することにより、例えば、吸着材内包ベシクルをDDS等に使用する場合に、生理的条件下でもベシクルを安定に維持することが可能となる。なお、第1及び/又は第2の重合体を架橋する手法については別途説明する。

【0235】
また、吸着材内包ベシクルの形成前、形成時、又は形成後に、吸着剤を表面処理する工程を実施してもよい。表面処理を行うことにより、吸着剤表面に各種の官能基を付与したり、吸着剤表面の各種特性を改変したりすることが可能となる。表面処理の種類は特に制限されないが、例えば吸着材としてシリカ粒子を用いる場合、各種のシランカップリング剤による処理等が挙げられる。シランカップリング剤の種類も特に制限されないが、例として、表面にカチオン性基を付与する場合には、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ化シランカップリング剤による処理を行えばよい。また、例えば表面にアニオン性基を付与する場合には、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト化シランカップリング剤による処理の後、メルカプト基を酸化してスルホニル基に変換すればよい。その他、芳香環の疎水性やπ電子相互作用などが期待できるp-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等による表面処理が挙げられる。もちろん、表面処理はこれらの処理に限定されるものではなく、所望の特性や用途、使用する吸着材の種類、吸着材に吸着させる物質(後述)の種類等に応じて、任意の表面処理を適宜選択することができる。

【0236】
また、本発明では、ベシクルに内包された吸着材粒子に、別の物質を吸着させることも可能である。特に、従来の静電相互作用型ベシクルでは安定した内包が困難であった、低分子量(例えば5000Da以下等)の化合物についても、本発明によれば、吸着材粒子に吸着・担持させた状態で、安定にベシクルに内包させることが可能である。これにより、本発明の吸着材内包ベシクルは、各種薬剤等の低分子化合物を担持させて徐放させる等の用途に好適に用いることが可能である。特に、上述のように吸着材粒子として表面に荷電を有し、水性媒体に対して分散性を示す粒子を用いることにより、生理条件下で安定に存在し得るとともに、吸着材粒子に担持させた各種薬剤等の低分子化合物を生理条件下で徐放し得る、優れたDDSを実現することが可能となる。また、担持させる薬剤等の低分子化合物の種類に応じて、上述のように吸着材に表面処理を施すことにより、その吸着・担持特性を向上させることも可能である。

【0237】
低分子化合物の吸着材粒子への吸着・担持は、吸着材粒子をベシクルに内包させる前でも後でも可能であるが、吸着させる低分子化合物の物理化学的性質により吸着材粒子の物理化学的性質も影響を受けるため、吸着材粒子をベシクルに内包させた後の方が望ましいと考えられる。
なお、本態様の変形例として、吸着材を形成し得る物質(吸着材前駆体)を導入した物質内包ベシクルを調製し、その後に吸着材前駆体を吸着材に変換することにより、吸着材内包ベシクルを形成することも可能である。吸着材前駆体の例としては、ゲル等のマトリックスや沈殿・ミセル等を形成し得る荷電性ポリマー等が挙げられる。この場合、荷電性ポリマーを導入した物質内包ベシクルを調製し、その後に反対荷電の薬剤等を当該ベシクル内に導入する。これにより、静電相互作用が適度にキャンセルされて荷電性ポリマーが疎水化し、ベシクル内部でゲル等のマトリックスや沈殿、ミセル等の吸着材が生じるとともに、当該マトリックス、沈殿、ミセル等の吸着材に薬剤がトラップされた薬物担持吸着材内包ベシクルが形成される。斯かる薬物担持吸着材内包ベシクルも、当該薬剤を徐放し得る徐放剤として有用である。

【0238】
[E]低水溶性物質内包ベシクル及びその製法
本発明の更に別の態様は、低水溶性物質を内包するベシクル(適宜「低水溶性物質内包ベシクル」という。)を製造することが可能な物質内包ベシクルの製造方法と、それにより製造される新規な低水溶性物質内包ベシクルに関する。

【0239】
本発明者等は鋭意検討の結果、目的物質よりも水溶性の高い前駆体を目的物質に転換し得る酵素をベシクルに内包させた酵素内包ベシクルを用意した上で、前駆体を酵素内包ベシクル内に浸透させ、ベシクル内の酵素によって目的物質に転換し、目的物質を析出させてベシクルに内包させることにより、効率的な内包が可能となるのを見出した。本態様は斯かる知見に基づくものである。

【0240】
本態様の物質内包ベシクルの製造方法は、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、目的物質が内包されてなる物質内包ベシクルを製造する方法であって、以下の工程を含む。

【0241】
(a)前記目的物質よりも水溶性の高い前駆体を前記目的物質に転換し得る酵素が、前記第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルに内包されてなる酵素内包ベシクルを用意する工程。
(b)前記前駆体よりも前記目的物質に対して低い溶解性を示す条件下で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させ、前記酵素によって前記前駆体を前記目的物質に転換することにより、前記目的物質を析出させて前記酵素内包ベシクルに内包させ、低水溶性物質内包ベシクルとする工程。

【0242】
本態様においてベシクルに内包させる目的物質は、水溶性の高い前駆体から酵素によって転換され得るような物質である。目的物質よりも水溶性の高い前駆体が存在し、且つ、前駆体から目的物質への転換を可能とする酵素が存在する限りにおいて、任意の種類の物質を目的物質として利用することができる。

【0243】
言い換えれば、本態様においてベシクルに内包させる目的物質は、酵素作用によって水に対する溶解度が低下するような物質である。この場合、酵素作用を受ける前の水に対する溶解度が相対的に高い状態の物質が前駆体となり、酵素作用を受けた後の水に対する溶解度が相対的に低い状態の物質が目的物質となる。よって、前駆体と目的物質との組み合わせとしては、化学式や化学組成が異なる物質の組み合わせのみならず、化学式や化学組成が同一であっても、立体構造等の変化によって水に対する溶解度が変化する物質も対象となり得る。

【0244】
本態様では、前駆体の溶解度に対する目的物質の溶解度の比率が小さいことが好ましい。具体的には、限定されるものではないが、25℃での水に対する溶解度を比較した場合に、前駆体の溶解度に対する目的物質の溶解度の比率が、通常90%以下、中でも80%以下、更には70%以下であることが好ましい。

【0245】
また、前駆体及び目的物質それぞれの水溶性や用途にもよるが、前駆体と目的物質との水溶性の差が大きいことも好ましい。具体的には、25℃での水に対する溶解度を比較した場合に、目的物質と比べて前駆体の方が、例えば通常10mg/mL以上、中でも20mg/mL以上、更には30mg/mL以上高い溶解度を有していることが好ましい場合もある。

【0246】
また、目的物質は低水溶性であることが好ましい。具体的には、25℃での水に対する溶解度が、通常1.0mg/mL以下、好ましくは0.3mg/mL以下、更に好ましくは0.1mg/mL以下であることが好ましい。

【0247】
上記定義による目的物質及び前駆体、並びにその転換を媒介する酵素の組み合わせとしては、種々の組み合わせが知られており、本発明ではその何れを用いてもよい。一例として、製造されたベシクルをDDS等に使用することを考慮すると、例えば種々の酵素によって活性薬物に転換される各種の酵素プロドラッグ系等が挙げられる。

【0248】
本態様では、まず、第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルに酵素が内包された酵素内包ベシクルを用意する。斯かる酵素内包ベシクルは、上記[B]欄で説明した各種の物質内包ベシクルの製造方法(後担持法、同時混合法等)や、上記[C]欄で説明した物質内包ベシクルの製造方法等、任意の手法を用いて、ベシクル内に酵素を内包させることにより調製される。

【0249】
次に、前駆体よりも目的物質に対して低い溶解性を示す条件下で、酵素内包ベシクル内に前駆体を浸透させる。酵素内包ベシクル内に前駆体を浸透させる方法は任意であるが、通常は、酵素内包ベシクルと前駆体とを溶媒中で混合することにより実施される。この場合、酵素内包ベシクル及び前駆体を各々溶媒中に含有する液を個別に調製した上でこれらを混合してもよく、酵素内包ベシクル及び前駆体の一方を溶媒中に含有する液に他方を直接加えてもよい。更には、液体等の連続相中で酵素内包ベシクルと前駆体とを接触させてもよい(例えば後述のインビボ(in vivo)での使用がこの態様に該当する。)。

【0250】
ここで、前駆体よりも目的物質に対して低い溶解性を示す条件とは、好ましくは、前駆体は概ね溶媒中に溶解した状態で存在し得るが、目的物質はその一部又は全部が溶媒から析出してしまうような条件である。前駆体及び目的物質の各々の水溶性を考慮して適切な溶媒を選択することにより、達成することができる。例えば、目的物質が上記定義の低水溶性の物質であり、前駆体が上記定義の水溶性の物質である場合には、一般的な水性媒体によって斯かる条件を達成することができる。また、溶媒に各種の有機又は無機の電解質を溶解させて溶解度を調節したり、温度等の各種環境要因を調節したりすることによって、溶媒の溶解度を制御し、当該条件を達成してもよい。

【0251】
上記条件下で酵素内包ベシクル内に前駆体を浸透させることにより、酵素によって前駆体が目的物質に転換される。ここで、酵素による前駆体から目的物質への転換反応が適切に進行するよう、目的物質/前駆体/酵素の組み合わせに応じた適切な条件を選択することが好ましい。こうして酵素によって前駆体が目的物質に転換されることにより、目的物質が溶媒から析出して酵素内包ベシクルに内包され、物質内包ベシクルが形成される。

【0252】
その他の製法上の各種条件については、上記[B]欄で説明した条件をそのまま、或いは適宜変更を加えて用いることが可能である。

【0253】
なお、本態様の物質内包ベシクルの製法では、上記以外の他の工程を加えて実施してもよい。例としては、酵素内包ベシクル内に前駆体を浸透させる前及び/又は後に、第1及び/又は第2の重合体を架橋する工程を加えることが挙げられる。特に、酵素内包ベシクルからの酵素の脱落を防ぎ、ベシクルを安定化させる観点からは、酵素内包ベシクル内に水溶性前駆体を浸透させる前に、酵素内包ベシクル内の第1及び/又は第2の重合体を架橋することが好ましい。重合体を架橋することにより、例えば、本態様をDDS等に使用する場合に、生理的条件下でもベシクルを安定に維持することが可能となる。なお、第1及び/又は第2の重合体を架橋する手法については、上記[C]欄で説明した条件をそのまま、或いは適宜変更を加えて用いることが可能である。

【0254】
本態様の物質内包ベシクルの製法によれば、予め酵素をベシクル内に封入した酵素内包ベシクルを用いることで、目的物質の生成の場をベシクルの内部のみに限定することができ、これによって効率的に目的物質をベシクルに内包させることが可能となると考えられる。その結果、通常では溶液中の数密度に対応した確率でしか封入できない物質を、極めて高い内包効率で内包することができる。更には、酵素内包ベシクルに添加する前駆体の量を変化させることで、目的物質のベシクルへの内包量もコントロールすることができる。加えて、ベシクルは半透膜の性質を有しているため、ベシクルに内包させた目的物質をベシクルから徐放させることが可能であると考えられる。

【0255】
また、本態様の物質内包ベシクルの製法によれば、従来はベシクルへの内包がきわめて困難又は不可能であった低水溶性の物質についても、これを内包するベシクルを形成することが可能となる。即ち、本態様によれば、前記の第1及び第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、低水溶性物質が(酵素と共に)内包された、低水溶性物質内包ベシクルが得られる。斯かる低水溶性物質内包ベシクルも、本発明の要旨となる。斯かるベシクルでは、低水溶性物質が、内水相に対する低水溶性物質の溶解度を超える濃度で内包されていることが好ましい。また、斯かるベシクルでは、前記第1及び/又は前記第2の重合体が架橋されてなることが好ましい。

【0256】
また、本態様の製法による物質内包ベシクルの形成を、インビトロ(in vitro)で人為的に達成してもよいが、目的物質/前駆体/酵素の組み合わせ等を適切に選択することにより、インビボ(in vivo)で達成されるように設計することも可能である。この態様については後述する。

【0257】
[F]その他
以上、本発明を各種の態様に即して説明したが、本発明は以上の態様に限定されるものではなく、任意の種々の変形を加えて実施することが可能である。例えば、上記<C-1>で説明した物質内包架橋ベシクルの単分散集合体、上記<C-2>で説明した複数物質内包架橋ベシクル、上記[D]で説明した吸着材内包架橋ベシクル、上記[E]で説明した低水溶性物質内包ベシクルは、薬剤を担持させることによって、医薬組成物や薬物送達系として用いることが可能である。斯かる本発明の各種の物質内包ベシクルを含む医薬組成物や薬物送達系も、本発明の対象となる。斯かる医薬組成物や薬物送達系を適用する対象(生物であれば任意であるが、好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物、更に好ましくはヒト)、疾患、薬物等は、適宜選択することができる。また、斯かる医薬組成物や薬物送達系の投与経路、用法、用量等の各種条件は、対象、疾患、薬物等に応じて適宜選択することが可能である。

【0258】
また、上記[E]で説明した製法による物質内包ベシクルの形成を、インビトロ(in vitro)で人為的に達成してもよいが、目的物質/前駆体/酵素の組み合わせ等を適切に選択することにより、インビボ(in vivo)で達成されるように設計することも可能である。即ち、血液や体液等の生理溶液に対して溶解性(水溶性)を示す前駆体を体内に導入するとともに、酵素内包ベシクルを別途体内に導入して、体内の所望の部位で酵素内包ベシクルを前駆体と接触させ、酵素内包ベシクルに前駆体を浸透させる。こうして前駆体を、生理溶液に対して低溶解性(低水溶性)を示す目的物質に転換することにより、体内で当該目的物質を含有する物質内包ベシクルを形成することができる。ここで、目的物質及び前駆体の組み合わせとして、上述したような薬物とその酵素プロドラッグの組み合わせを採用すれば、体内の所望の器官や組織等の部位でプロドラッグが薬物に転換されてベシクルに内包され、形成された薬物内包ベシクルから薬物が徐放される、優れたDDSを達成することが可能となる。

【0259】
更には、薬物の前駆体(プロドラッグ)を薬剤に変換する作用を有する酵素を、上記[C]の物質内包架橋ベシクルの被内包物質として内包させた物質内包ベシクル(酵素内包架橋ベシクル)や、当該酵素を上記[D]の吸着材内包ベシクルの吸着材に吸着・担持させた物質内包ベシクル(酵素担持吸着材内包ベシクル)を調製し、これを用いてもよい。この場合、プロドラッグを体内に導入するとともに、これらの酵素内包架橋ベシクルや酵素担持吸着材内包ベシクルを別途体内に導入して、体内の所望の部位で酵素内包架橋ベシクルや酵素担持吸着材内包ベシクルをプロドラッグと接触させ、ベシクルにプロドラッグを浸透させる。こうしてプロドラッグに酵素を作用させ、薬物に転換することにより、体内でプロドラッグから薬物を生成することができる。
なお、斯かる態様は、本発明の各種の物質内包ベシクルのみならず、任意の物質内包ベシクルを用いて達成することが可能である。即ち、酵素を内包・担持させた任意の物質内包ベシクル(酵素担持ベシクル)を調製して用いる。この場合、プロドラッグを体内に導入するとともに、前記酵素担持ベシクルを別途体内に導入して、体内の所望の部位で酵素担持ベシクルをプロドラッグと接触させ、ベシクルにプロドラッグを浸透させる。こうしてプロドラッグに酵素を作用させ、薬物に転換することにより、体内でプロドラッグから薬物を生成することができる。
これらの態様では、薬物とそのプロドラッグとの溶解度の関係は制限されず、任意の薬物/プロドラッグ/酵素の組み合わせを用いることが可能である。
斯かる薬物/プロドラッグ/酵素の具体例としては、以下の表に示す組み合わせが挙げられるが、これらはあくまでも例示であり、本発明の対象となる薬物/プロドラッグ/酵素の組み合わせは、これらの組み合わせに限定されるものではない。

【0260】
【表1】
JP0006049854B2_000014t.gif

【0261】
即ち、本発明によれば更に、対象に薬物を送達するための方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
(a)非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体、及び、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体を含む膜からなるベシクルに、前記薬物の前駆体(プロドラッグ)を前記薬物に転換し得る酵素が内包されてなる酵素内包ベシクルを用意する工程。
(b)対象の所定の部位で、前記酵素内包ベシクル内に前記前駆体を浸透させ、前記酵素によって前記前駆体を前記薬物に転換することにより、前記薬物を形成する工程。

【0262】
上記方法の工程(b)は、対象の所定の部位において、酵素内包ベシクルと前駆体とを共存させることにより達成される。対象の所定の部位は任意であり、薬物を送達する対象、薬物の種類、治療対象となる疾患等に応じて決定すればよいが、通常は対象の所定の器官、組織又は細胞である。対象の所定の部位に酵素内包ベシクルを存在させる手法は任意であるが、通常は従来公知の各種の投与法で酵素内包ベシクルを対象に投与し、対象の所定の部位に到達させればよい。投与法は経口でも非経口でもよく、非経口投与の場合には、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、経鼻、経肺等の何れの経路で投与してもよい。

【0263】
上記方法の工程(b)では、酵素内包ベシクルに内包される酵素によって前駆体を薬物に転換すればよい。これにより転換された薬物がベシクルから放出され、対象の所定の部位に送達されることになる。しかし、薬物を長期に安定に送達する観点からは、薬物を析出させて酵素内包ベシクルに内包させ、薬物内包ベシクルを形成することも好ましい。
その他の用量や用法等の各種条件は、薬物を送達する対象、薬物の種類、治療対象となる疾患等に応じて、適宜決定することができる。
また、以上の方法に用いられる(酵素内包ベシクル等を含む)薬物送達系や医薬組成物も本発明の対象となる。
【実施例】
【0264】
次に、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0265】
なお、以下の記載において「溶液」又は「分散液」とは、特に別途記載しない限り、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を溶媒又は分散媒とする溶液又は「分散液」を指すものとする。
また、以下の記載において「ボルテックスミキサー」としては、別途記載しない限り、Eppendorf社製MixMateを使用した。
【実施例】
【0266】
また、以下の記載において「平均粒径」、「多分散指数(polydispersity index:PDI)」及び「ゼータ電位」は、別途記載しない限り、Malvern社製Zetasizer Nano-ZSにより測定した。
また、以下の記載において「透過型電子顕微鏡画像」は、別途記載しない限り、日本電子製JEM-1400を用いて取得した。
【実施例】
【0267】
[実施例群I]物質内包ベシクル及びその製法
[実施例I-1]空の架橋ベシクルへのFITC-Dex40k封入
(1)空ベシクルの調製
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(重量平均分子量約2000)(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(重合度約75)とからなるアニオン性ブロックコポリマーPEG-P(Asp)を使用した。一部のポリアスパラギン酸のN末端をCy3により蛍光標識した。
【実施例】
【0268】
第2の重合体として、ポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(重合度約82)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなるカチオン性ホモポリマーHomo-P(Asp-AP)を使用した。
【実施例】
【0269】
第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液及び第2の重合体の溶液を、電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたベシクル(空ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0270】
得られた空ベシクル含有溶液について、動的光散乱法(dynamic light scattering)による測定を行い、粒度分布、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。その結果、平均粒径が101.4nmであり、PDIが0.070である単分散性ベシクル粒子の形成が認められた。
【実施例】
【0271】
(2)空ベシクルの架橋
上記で得られた空ベシクル含有溶液0.5mLを、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して0.5等量のEDC(同仁化学研究所製)を含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)に加え、室温で12時間静置し、空ベシクルを架橋して空の架橋ベシクル含有溶液を得た。
【実施例】
【0272】
(3)空の架橋ベシクルへのFITC-Dex40k封入
被内包物質として、フルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(Sigma-Aldrich製,以下「FITC-Dex40k」と表記する場合がある)(重量平均分子量40,000)を使用した。
【実施例】
【0273】
上記で得られた空の架橋ベシクル含有溶液0.5mLに、FITC-Dex40k溶液(混合後のFITC-Dex40k濃度5~50mg/mL、荷電ポリマー(第1及び第2の重合体)濃度1.0mg/mLとなる量)を加え、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、空の架橋ベシクルにFITC-Dex40kを封入し、FITC-Dex40k内包架橋ベシクル含有溶液を得た。得られた溶液は、透明であった。
【実施例】
【0274】
十分な外力印加条件(2000rpmで2分間の撹拌)で混合して得られた溶液1.0mLに、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、室温で12時間静置し、FITC-Dex40k内包架橋ベシクルを十分に架橋した。
【実施例】
【0275】
ベシクルに内包されずに溶液中に遊離状態で残存するFITC-Dex40kを遠心限外濾過(VIVASPIN20, Sartorius Stedium Biotech社製,分画分子量30万を使用)(遠心限外濾過条件:300rpm,4℃)により除去して精製を行った後、動的光散乱(dynamic light scattering)法による測定を行い、粒度分布、平均粒径、多分散指数(PDI)を求めた。その結果、FITC-Dex40k内包架橋ベシクルの粒度分布、平均粒径及び多分散指数(PDI)は、空ベシクルのそれとほとんど変わっておらず、空ベシクルに、その単分散性が維持されつつ、FITC-Dex40kが封入されたことが確認された。例えば、50mg/mLのFITC-Dex40k溶液と撹拌混合して得られたFITC-Dex40k内包架橋ベシクルの平均粒径は97.2nm,PDIは0.087であり(空ベシクルの平均粒径は101.4nm,PDIは0.070)、透過型電子顕微鏡(TEM)像は図5Aに示す通りであった。
【実施例】
【0276】
続いて、室温下にてカールツァイス社製の共焦点蛍光顕微鏡(LSM510)により蛍光相関分光(FCS)測定を行った。蛍光デキストランの励起はアルゴンレーザー(488nm)、対物レンズは40倍の水浸レンズを使用し、解析はConfocor3ソフトウェアにより自己相関関数G(τ)を求めた。G(τ)の値から、FITC-Dex40k内包ベシクル1個あたりのFITC-Dex40kの個数を見積もった。なお、自己相関関数G(τ)は時間τ後の蛍光強度のゆらぎを評価する関数であり、経時的に減衰して十分な時間の経過後に集束する。集束までの経過時間が長い(減衰が遅い)ほど、ゆらぎが緩やかであること、すなわち、測定対照の蛍光物体の動きが鈍いことを示す。また、観察視野内に含まれる分子数が増えるほどゆらぎが小さくなることから、相関関数の値から分子数を見積もることができる。
【実施例】
【0277】
FITC-Dex40k内包ベシクル1個あたりのFITC-Dex40kの個数を表2に示す。
表2に示す通り、FITC-Dex40k内包ベシクル1個あたりのFITC-Dex40kの個数は、空の架橋ベシクルと混合するFITC-Dex40k溶液の濃度の上昇ととともに増加した。
【実施例】
【0278】
【表2】
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【実施例】
【0279】
以上の結果から、空ベシクルの単分散集合体を架橋した後、FITC-Dex40k溶液中、十分な外力印加条件で混合することにより、空ベシクルに、その単分散性が維持されつつ、FITC-Dex40kが封入され、FITC-Dex40k内包ベシクルの単分散集合体が製造されることが判明した。
【実施例】
【0280】
また、実施例I-1と比較例I-1,I-2(後述)との比較から、水性媒体中に存在するFITC-Dex40kの濃度が5mg/mLを超えても、FITC-Dex40k内包ベシクルの単分散集合体を形成されるのは、実施例I-1だけであることが判明した。
【実施例】
【0281】
[比較例I-1]同時混合法によるFITC-Dex40k封入
実施例I-1と同様に、第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。この際、第1の重合体の溶液には、第2の重合体の溶液と混合後のFITC-Dex40k最終濃度が5~50mg/mL、荷電ポリマー(第1及び第2の重合体)最終濃度が1.0mg/mLとなるように、所定のFITC-Dex40kを加えた。
【実施例】
【0282】
得られた第1の重合体/FITC-Dex40k混合溶液と第2の重合体の溶液とを、第1の重合体と第2の重合体の電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化集合体を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0283】
得られた溶液0.5mLに、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、室温で12時間静置した。溶液中に遊離状態で残存するFITC-Dex40kを実施例I-1と同様に遠心限外濾過により除去し、DLS法とTEMにより、得られた自己組織化集合体を評価した。
【実施例】
【0284】
図5Bに示す通り、FITC-Dex40k最終濃度が50mg/mLの場合に得られた自己組織化集合体はユニラメラベシクルであったが、粒径は著しく増大する傾向が見られた。DLSの結果からも、サイズの増大、単峰性の消失、及びPDIの著しい増大が認められた(平均粒径:約630nm,PDI:約0.62)。これは、ベシクル形成プロセス(特に撹拌混合状況)が溶液粘度の影響を受けたため、広い粒度分布を与えたものと考えられる。一方、FITC-Dex40k最終濃度が5mg/mLの場合に得られた自己組織化集合体では、粒径100nm程度の単分散ベシクル粒子が形成されており、FCSによりFITC-Dex40k封入量を見積もることができた(表2)。
【実施例】
【0285】
[比較例I-2]後担持法によるFITC-Dex40k封入
実施例I-1と同様に、第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液と第2の重合体の溶液とを、第1の重合体と第2の重合体の電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化集合体を含有する溶液を得た。DLSの結果から、平均粒径は101.8nm、PDI0.081であった。
【実施例】
【0286】
得られた溶液0.5mLに、混合後のFITC-Dex40k最終濃度が5~50mg/mL、荷電ポリマー(第1及び第2の重合体)濃度が1.0mg/mLとなるように所定のFITC-Dex40k溶液を加え、再びボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌した。続いて、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、室温で12時間静置した。溶液中に遊離状態で残存するデキストランを実施例I-1と同様に遠心限外濾過により除去し、DLS法とTEMにより、得られた自己組織化集合体を評価した。
【実施例】
【0287】
図5Cに示す通り、FITC-Dex40k最終濃度が50mg/mLの場合に得られた自己組織化集合体はユニラメラベシクルであったが、粒径は著しく増大する傾向が見られた。DLSの結果からも、サイズの増大、単峰性の消失、及びPDIの著しい増大が認められた(平均粒径:約560nm、PDI:約0.57)。一方、FITC-Dex40k最終濃度が5mg/mLの場合に得られた自己組織化集合体では、粒径100nm程度の単分散ベシクル粒子が形成されており、FCSにより封入量を見積もることができた(表2)。
【実施例】
【0288】
[参考例I-1]FITC-Dex40k内包ベシクルからのFITC-Dex40k放出
実施例I-1と同様に、第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液と第2の重合体の溶液とを、第1の重合体と第2の重合体の電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化集合体を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0289】
得られた溶液0.5mLに、混合後のFITC-Dex40k最終濃度が4mg/mL、荷電ポリマー(第1及び第2の重合体)濃度が1.0mg/mLとなるように所定のFITC-Dex40kを加え、再びボルテックスミキサーで2000rpm、2分間攪拌した。続いて、10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、12時間室温で静置した。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するデキストランを実施例I-1と同様に遠心限外濾過により除去した。精製したFITC-Dex40k内包ベシクルは、37℃,150mM NaCl条件で静置した。
【実施例】
【0290】
ベシクル内部に封入されたFITC-Dex40kの放出挙動を、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー,日本分光製)を使用して確認した。図6に示す通り、精製直後と3日後ではクロマトグラムに有意な差は見られず、FITC-Dex40kの放出は確認されなかった。この結果から、混合などで外力を与えない場合には、ベシクルに対するFITC-Dex40kの出入りが起こらないものと推測される。
【実施例】
【0291】
[参考例I-2]FITC-Dex濃度と粘度との関係
比較例I-1において、ベシクル形成プロセス(特に撹拌混合状況)が溶液粘度の影響を受けることが示唆されたので、FITC-Dex(重量平均分子量4000,10000,40000)の濃度と粘度との関係を調べた。
【実施例】
【0292】
粘度の測定には、回転式レオメータ(Anton Paar社製Physica MCR302)を使用した。
粘度(Pa・s)の測定結果を表3に示す。
【実施例】
【0293】
【表3】
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【実施例】
【0294】
[実施例I-2]シトクロムc内包架橋ベシクルへのFITC-Dex4kの封入
(1)シトクロムc内包架橋ベシクルの調製
比較例I-2と同様にして、空ベシクルへのシトクロムc(Sigma-Aldrich社製,分子量12,327Da)の封入を行った。その具体的な方法は、以下の通りである。
【実施例】
【0295】
第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液と第2の重合体の溶液とを、第1の重合体と第2の重合体の電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたベシクル(空ベシクル)を含有する溶液を得た。DLSの結果から、平均粒径は102nm、PDIは0.045であった。
【実施例】
【0296】
得られた空ベシクル含有溶液0.96mLに、1mg/mLシトクロムc溶液0.5mLを加え、再びボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、シトクロムc内包ベシクル含有溶液を得た。
【実施例】
【0297】
得られたシトクロムc内包ベシクル含有溶液0.5mLに、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して0.5等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)を加え、室温で12時間静置し、シトクロムc内包ベシクルを架橋し、シトクロムc内包架橋ベシクル含有溶液を得た。
【実施例】
【0298】
ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するシトクロムcを実施例I-1と同様に遠心限外濾過(分画分子量30万)により除去し、ベシクルを精製した。この時、平均粒径は99.5nm,PDIは0.032であった。GPC測定から、ベシクル内にシトクロムc(吸収極大波長409nm)が封入されていることを確認した(図7)。なお、図7中、(a)は空ベシクルのGPC測定結果を示し、(b)は、精製後のシトクロムc内包架橋ベシクルのGPC測定結果を示す。
【実施例】
【0299】
(2)シトクロムc内包架橋ベシクルへのFITC-Dex4kの封入
得られたシトクロムc内包架橋ベシクル含有溶液0.5mLに、FITC-Dex4k溶液(重量平均分子量:4000,濃度:50mg/mL,容量:0.5mL)を加え、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、シトクロムc内包架橋ベシクルにFITC-Dex4kを封入し、シトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクル含有溶液を調製した。
【実施例】
【0300】
シトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクル含有溶液に、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、12時間室温で静置し、シトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルを十分に架橋した。
【実施例】
【0301】
ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するFITC-Dex4kを実施例I-1と同様に遠心限外濾過により除去した。DLS測定の結果から、平均粒径は101nm,PDIは0.078であった。得られたベシクルの吸収スペクトルから、ベシクルにシトクロムc及びFITC-Dex4kが封入された、すなわち、シトクロムc内包架橋ベシクルにFITC-Dex4kが封入される際、シトクロムcが放出されることなくFITC-Dex4kが封入されたことを確認した(図8)。なお、図8中、(a)は、シトクロムc内包架橋ベシクルの吸収スペクトルを示し、(b)は、シトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルの吸収スペクトルを示す。
【実施例】
【0302】
FITC-Dex4k溶液の濃度を1~100mg/mLに変化させて、上記と同様に、シトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルを調製し、実施例I-1と同様にFCS測定を行って、ベシクル1個あたりのFITC-Dex4kの個数を見積もった。その結果を表4に示す。表4に示す通り、ベシクル1個あたりのFITC-Dex4kの個数は、FITC-Dex4k溶液の濃度の上昇ととともに増加した。
【実施例】
【0303】
【表4】
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【実施例】
【0304】
次に、参考文献[K. Sasahara, et al. J. Mol. Biol. (2003) 326, 1227-1237]に基づいて、シトクロムcの酸性環境における立体構造の安定性を円偏光二色性スペクトルにより評価した。参考文献によれば、シトクロムcの立体構造はpH2.0により失われ、特徴的なα-ヘリックス構造が失われる。一方、高濃度デキストラン存在下では、その構造の消失を防ぐことができる。円偏光二色性スペクトル(図9)から、Dexをベシクル内に共存させない場合は、pHを2.0まで下げた際に222nm付近の吸収が失われたのに対し、Dexをベシクル内に共存させた場合には、顕著な変化が認められなかった。この結果は、Dexを高濃度で共存させる分子クラウディング環境をベシクル内に創出したことにより得られたものと考えられる。なお、図9中、「(A)CytC@PICsome(pH7.4)」は、pH7.4におけるシトクロムc内包架橋ベシクルの円偏光二色性スペクトルを示し、「(B)CytC@PICsome(pH2.0)」は、pH2.0におけるシトクロムc内包架橋ベシクルの円偏光二色性スペクトルを示し、「(C)(CytC+FITC-Dex)@PICsome(pH7.4)」は、pH7.4におけるシトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルの円偏光二色性スペクトルを示し、「(D)(CytC+FITC-Dex)@PICsome(pH7.4)」は、pH7.4におけるシトクロムc及びFITC-Dex4k内包架橋ベシクルの円偏光二色性スペクトルを示す。
【実施例】
【0305】
[実施例I-3]空の架橋ベシクルへのAlPcS2a封入
実施例I-1と同様に調製した空ベシクルに、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して1.0等量のEDCを加えて空の架橋ベシクルを作製した。この時、平均粒径は101nm、PDIは0.084であった。スルホン化フタロシアニン(AlPcS2a)(Frontier Scientific社製)の分散液を種々の濃度(0、1、2、10、20、50mg/mL)で調製し、空の架橋ベシクルに、ベシクル濃度が1mg/mLになるように混合し、2分間の超音波照射を行った。なお、ベシクル濃度は、蛍光標識Cy3により定量した。
【実施例】
【0306】
AlPcS2aは、光線力学療法で利用される薬剤(光増感剤)であり、次の構造を有する。
【実施例】
【0307】
【化10】
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【実施例】
【0308】
超音波処理後、溶液中に遊離状態で残存するAlPcS2aを除去するために、PD-10カラム(GEヘルスケア社製)及び遠心限外濾過(VIVASPIN20, Sartorius Stedium Biotech社製、分画分子量30万を使用)による精製を行った。精製後のベシクルは、DLS測定から、AlPcS2a濃度によらず、その平均粒径は110nm程度、PDIは0.05~0.08程度と粒径、単分散性ともに維持していた。また、精製後のベシクルについてAlPcS2aの吸収色に基づく比色試験を行った。図10(A)に示す通り、接触させるAlPcS2a濃度が高まるにつれて、AlPcS2a由来の青色が強くなることが判った。
【実施例】
【0309】
[比較例I-3]
比較例I-2と同様に、第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液と第2の重合体の溶液とを、第1の重合体と第2の重合体の電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化集合体を含有する溶液を得た。得られた溶液0.5mLに、混合後のAlPcS2a濃度が2.0mg/mL、荷電ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように、所定のAlPcS2a溶液を加え、再びボルテックスミキサーで2000rpm、2分間攪拌した。続いて、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mM NaCl)中)を加え、室温で12時間静置した。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するAlPcS2aを実施例I-1と同様に遠心限外濾過により除去した。DLS測定から、平均粒径は104nm、PDIは0.062であった。封入されたAlPcS2aの量を図10(A)に示す比色試験により、実施例I-3の結果と比べると、実施例I-3の方が、同一濃度のAlPcS2aを接触した場合においてもより多くの量が封入されていることが判った。また、混合後のAlPcS2a濃度が2.0mg/mLより大きい場合、粒径とPDIの維持が困難であった。
また、実施例I-3及び比較例I-3のベシクル溶液(何れもAlPcS2a濃度20mg/mL)を、荷電ポリマー濃度0.5mg/mLまで希釈し、分光光度計で吸光スペクトルを測定した。その結果を図10(B)に示す。やはり実施例I-3の方が、比較例I-3と比べて、同一濃度のAlPcS2aを接触した場合においても、より多くの量が封入されていることが判った。
【実施例】
【0310】
[参考例I-3]空ベシクルに対するNaCl濃度の影響
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(重量平均分子量約2300)(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(重合度約79)とからなるアニオン性ブロックコポリマーPEG-P(Asp)を使用した。第2の重合体として、ポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(重合度約71)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなるカチオン性ホモポリマーHomo-P(Asp-AP)を使用した。第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4;水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液35.5μLと第2の重合体の溶液50μLを、電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたベシクル(空ベシクル)を含有する溶液を得た。ここに、最終濃度が5,10,20,150mMとなるように所定量のNaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を加え、一晩静置した。
【実施例】
【0311】
得られた空ベシクル含有溶液について、動的光散乱法(dynamic light scattering)による測定を行い、粒度分布、平均粒径、多分散指数(PDI)及びゼータ電位を求めた。NaCl添加前には平均粒径が126nmであり、PDIが0.049であった空ベシクルが、それぞれNaCl添加後には、表5の値を示した。特に、20mM NaCl存在下ではPDIが約0.2と大きな値を示し、TEM像でも直径200nmを越える粒径を示す成分を多数含む、多分散性ベシクルの形成が認められた(図11)。また、150mM NaCl添加した場合、空ベシクル溶液は直ちに白濁し、サイズ、及び、多分散性の増大が示唆された。
【実施例】
【0312】
【表5】
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【実施例】
【0313】
次に、第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(重量平均分子量 約2300)(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(重合度約79)とからなるアニオン性ブロックコポリマーPEG-P(Asp)を使用した。第2の重合体として、ポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(重合度約71)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなるカチオン性ホモポリマーHomo-P(Asp-AP)を使用した。第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が1.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4;NaClなし,10,20mM NaClを含む場合の3種類を作製;水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液及び第2の重合体の溶液を、前項と同様に電荷比が等しくなる(すなわちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌し、第1及び第2の重合体の自己組織化により粒子を得た。粒径とその分布を動的光散乱により評価したところ、前項と同様の傾向の結果が得られ(表6)、20mM NaCl存在下では、PDIが0.2を与え、多分散性が高まったことが示唆された。
【実施例】
【0314】
【表6】
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【実施例】
【0315】
[参考例I-4]架橋率の決定
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(重量平均分子量約2000)(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(重合度約75)とからなるアニオン性ブロックコポリマーPEG-P(Asp)を使用した。アニオン性ポリマーの末端をCy3で標識した(アニオン性ポリマー数の10%を標識)。第2の重合体として、ポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(重合度約82)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなるカチオン性ホモポリマーHomo-P(Asp-AP)を使用した。それぞれを1mg/mLとなるようにpD=7.4のD2Oに溶解した。
【実施例】
【0316】
両溶液を電荷比が等しくなるように混合し、Vortex混合(2000rpm,2分間)し、空ベシクル含有溶液を調製した。
系中に含まれるCy3-PEG-P(Asp)のカルボキシル基に対して10,5,1,0.5,0.1等量分のEDC溶液(D2O,pD=7.4)を添加し、空の架橋ベシクル含有溶液を調製した。
【実施例】
【0317】
分画分子量30万の遠心限外ろ過膜(Vivaspin,GEヘルスケア製)を使用して精製を行った。遠心条件は2000rpm,25℃×10回で、新たにD2Oを添加して精製した。
【実施例】
【0318】
10mg/mLの空の架橋ベシクル含有溶液(溶媒D2O)100μLを使用して、全反射赤外分光法(日本分光製,FTIR-6300)を実施した。
全反射赤外分光法によって得られた1550-1600cm-1のピークを、解析ソフトウェア(IGOR Pro)を使用して分離し、COOに対応する面積の減少を定量することで架橋率を算出した(表7)。
【実施例】
【0319】
【表7】
JP0006049854B2_000021t.gif
【実施例】
【0320】
[参考例I-5]空の非架橋ベシクルへのFITC-Dex4k封入
実施例I-1と同様にして調製した空ベシクルに、実施例I-1と同様にしてフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(重量平均分子量4000)(Sigma-Aldrich製,以下「FITC-Dex4k」と表記する場合がある)を封入し、得られたFITC-Dex4k内包非架橋ベシクルについて、動的光散乱法により粒度分布、平均粒径、多分散指数(PDI)を測定した。その結果、FITC-Dex4kの濃度が10mg/mLのときの平均粒径は107.4nm、PDIは0.067、FITC-Dex4kの濃度が15mg/mLのときの平均粒径は109.2nm、PDIは0.078であり(空ベシクルの平均粒径は101.4nm,PDIは0.070)、空ベシクルに、その単分散性が維持されつつ、FITC-Dex4kが封入されたことが確認された。
【実施例】
【0321】
[参考例I-6]空の非架橋ベシクルに対する超音波処理
実施例I-1と同様にして調製した空ベシクルを超音波処理(2分)し、超音波処理後のベシクルについて、動的光散乱法により粒度分布、平均粒径、多分散指数(PDI)を測定した。その結果、超音波処理を氷浴中で実施した場合、平均粒径は112.8nm、PDIは0.098であり、ベシクル溶液に異変は見られなかったが、超音波処理を氷浴中で実施しなかった場合、平均粒径は3606nm、PDIは0.301であり、ベシクル溶液は白濁した。この結果から、ベシクルに対する超音波処理は、ベシクルが過度に加熱されないように実施すること(例えば、超音波処理を非連続的に実施すること、超音波処理を連続的に実施する場合にはベシクルを冷却すること)が望ましいと考えられる。
【実施例】
【0322】
[実施例I-4]シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルの製造
・シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルの調製及び評価:
シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase:CD)(シトシンデアミナーゼ硫酸アンモニウム懸濁物(Cytosine deaminase ammonium sulfate suspension)、CALZYME製)を封入した架橋ベシクルを、以下の手順で作成した。なお、CDは5-フルオロシトシン(以下適宜「5-FC」と略す。)を5-フルオロウラシル(以下適宜「5-FU」と略す。)に変換する酵素である。
【実施例】
【0323】
実施例I-1と同様に調製した空ベシクルに、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して1.0等量のEDCを加えて架橋し、空の架橋ベシクルを作製した。空の架橋ベシクルの約3mg/mL(PEG-P(Asp)換算)分散液500μLと、シトシンデアミナーゼ(CD)1mgの分散液500μLとを混合し、ボルテックスミキサー(2000rpm)で2分間撹拌することにより、CDを架橋ベシクル内に担持させた。その後、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して9.0等量のEDCを加え、4℃で一晩かけて更に架橋し、4℃、2000rpmの遠心下で限外濾過(分画分子量30万、PBS中)により精製し、CD封入架橋ベシクルの分散液1mLを得た。
【実施例】
【0324】
空架橋ベシクル及びCD封入架橋ベシクルについて、動的光散乱(DLS)法による測定を行い、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。その結果を以下の表8に示す。また、CD封入架橋ベシクルの透過型電子顕微鏡写真を図12に示す。
【表8】
JP0006049854B2_000022t.gif
【実施例】
【0325】
・シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルによる5-FCから5-FUへの変換:
CD封入架橋ベシクルによる5-FCから5-FUへの変換効率を以下の手順で評価した。上記手順で調製したCD封入架橋ベシクルの分散液0.15mLを、0.01mg/mLの5-FC溶液0.15mlと混合し、混合液中の5-FU濃度を液体クロマトグラフィー法により継時的に測定した。結果を図13のグラフに示す。架橋ベシクルに封入されたCDにより5-FCが5-FUに変換された。その変換速度(酵素活性)は0.03U/mLであった。
【実施例】
【0326】
・シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルによる酵素活性の安定性:
CD封入架橋ベシクルによる酵素活性の安定性を以下の手順で評価した。上記手順で調製したCD封入架橋ベシクルを、10mM PBS(pH7.4、150mM NaCl)中、4℃で保存した。調製から0日、5日、7日及び14日の時点で、上記と同様の条件で5-FC溶液と混合し、40分間後の混合液中の5-FU濃度を上記手法で測定した。結果を図14のグラフに示す。調製後少なくとも7日間は酵素活性が維持された。
【実施例】
【0327】
・シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルによる腫瘍治療効果:
マウス大腸がん細胞株C26を移植したBALB/cマウス(6週齢)を5匹ずつ8群(グループ1~8)用意し、各グループに対し、上記手順で調製したCD封入架橋ベシクル(0.5U/mL)、5-FC、5-FU、又はPBS各200μLを、以下の表9に示すタイミングで静脈内投与した。5-FC及び5-FUは、マウス体重に対し10mg/kg(体重)又は80mg/kg(体重)となるように調整した。投与後、各マウスの生存期間中、最長28日間に亘って、腫瘍体積を測定すると共に、各マウスの体重を測定した。腫瘍体積は、ノギスを用いて腫瘍の長径及び短径を測定し、以下の計算式により算出した。
V=(a×b)/2
V:腫瘍体積、a:長径、b:短径
【実施例】
【0328】
【表9】
JP0006049854B2_000023t.gif
【実施例】
【0329】
腫瘍体積の測定結果を図15に示す。CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ1:10mg/kg;グループ2:80mg/kg)は、無処置群(グループ8)と比較して、5-FC用量によらず、何れも有意な抗腫瘍効果が認められた(図15(a))。CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ1:10mg/kg;グループ2:80mg/kg)と5-FU投与群(グループ3:10mg/kg;グループ4:80mg/kg)とを用量毎に比較すると、用量10mg/kgでは、5-FU投与群(グループ3)が非常に弱い抗腫瘍効果しか示さなかったのに対し、CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ1)では有意に優れた抗腫瘍効果が認められた(図15(b))。用量80mg/kgでは、5-FU投与群(グループ4)は腫瘍を縮小させるほどの抗腫瘍効果がみられたものの、その副作用により初回投与後17日で全数が死亡したのに対し、CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ2)では抗腫瘍効果を発揮しつつも副作用を生じることなく、投与28日後でも1匹を除いて全匹が生存していた(図15(c))。CD封入架橋ベシクル単体投与群(グループ5)及び5-FC単体投与群(グループ6:10mg/kg投与群;グループ7:80mg/kg投与群)では、無処置群(グループ8)と比較して有意な抗腫瘍効果及び毒性は見られなかった(図15(d))。
【実施例】
【0330】
体重変化の測定結果を図16に示す。CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ1:10mg/kg;グループ2:80mg/kg)では、投与28日後でも相対体重が0.8を下回ることはなかったが(図16(a))、その他の群は何れも0.8を下回るか死亡した(図16(b)~(d))。
【実施例】
【0331】
生存数の集計結果を図17に示す。CD封入架橋ベシクル及び5-FC投与群(グループ1:10mg/kg;グループ2:80mg/kg)では、投与28日後でもグループ2(80mg/kg)の1匹を除いて全匹が生存していたのに対し(図17(a))、5-FU10mg/kg投与群(グループ3)では3匹が、その他の群では全匹が投与28日後までに死亡した(図17(b)~(d))。
【実施例】
【0332】
・シトシンデアミナーゼ封入架橋ベシクルの血中滞留性評価:
マウス大腸がん細胞株C26を移植したBALB/cマウス(7週齢)3匹を用意し、Cy5で標識した上記のCD封入架橋ベシクル(0.5U/mL)200μLを静脈内投与した。投与後24時間及び72時間の時点で、Cy5標識に基づき、血中CD量を測定した。
血中CD量の測定結果を図18のグラフに示す。CD封入架橋ベシクルによれば、投与から24時間後及び72時間後の何れにおいても、血中に高い濃度のCD量が残存していた。よってCD封入架橋ベシクルは血中滞留性に優れていることが分かる。
【実施例】
【0333】
[比較例I-4]後担持法による非架橋ベシクルへのCDの導入
実施例I-1と同様に調製した架橋前の空ベシクル分散液に、CD分散液を加え、ボルテックスミキサーを使用して2000rpmで2分間攪拌混合することにより、荷電ポリマー(第1及び第2の重合体)濃度が約0.9mg/mL、混合後のCD最終濃度が1mg/mLのベシクル分散液を調製した。この分散液について動的光散乱(DLS)法による測定を行い、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めたが、均一な粒子形成は確認できず、白濁した状態であった。
【実施例】
【0334】
[実施例群II]吸着材内包ベシクル及びその製法
[実施例II-1]MSN内包ベシクル1
・材料:
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(PEG;分子量約2000)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(P(Asp);重合度約75)とからなるアニオン性ブロックコポリマー(PEG-P(Asp);ゼータ電位-30.6mV)を用いた。
【実施例】
【0335】
第2の重合体として、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(P(Asp-AP);重合度約82)からなるカチオン性ホモポリマー(Homo-P(Asp-AP);ゼータ電位+16.3mV)を用いた。
【実施例】
【0336】
被内包物質たる吸着材粒子として、Kim et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 8438-8441に記載の方法に従って製造したメソポーラスシリカナノ粒子(Mesoporous Silica Nanoparticles:MSN)を用いた。本文献によれば、得られたメソポーラスシリカナノ粒子の総細孔容積は1.07cm/gである。また、平均粒径は約50nm、ゼータ電位は-37mVであった。
【実施例】
【0337】
・MSN内包ベシクルの調製及び評価:
上記の第1及び第2の重合体を各々10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させ、各重合体濃度1.0mg/mLの溶液を調製した。また、上記のMSNを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に超音波照射により分散させ、MSN濃度1.0mg/mLの分散液を調製した。エッペンドルフチューブ中で、上記の第2の重合体の溶液に、上記のMSNの分散液を、MSN濃度が総ポリマー濃度(第1及び第2の重合体の総濃度)の20w/w%となるように添加し、ボルテックスミキサーで約2000rpm、2分間撹拌し、その後8分間静置した。得られたエッペンドルフチューブ中の分散液に、上記の第1の重合体の溶液を、第2の重合体と電荷比が等しくなる(即ちC/A比=1.0となる)ように入れて混合し、ボルテックスミキサーで約2000rpm、2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたMSN内包ベシクル(吸着材内包ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0338】
得られたMSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。平均粒径111nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.092であった。
【実施例】
【0339】
・架橋MSN内包ベシクルの調製及び評価:
上記のMSN内包ベシクル含有溶液を、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDC(同仁化学研究所製、WSC)を含む溶液に加え、一晩静置してEDC反応による架橋を行った。反応の副生成物を遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万;2000rpm、25℃)により除去して精製することにより、架橋されたMSN内包ベシクルを含有する溶液を得た。
【実施例】
【0340】
得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図19に示す。平均粒径102nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.077、ゼータ電位は-17mVであった。
【実施例】
【0341】
また、上記の架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子製JEM-1400、以下同様)による形態観察も併せて行い、DLS測定結果の妥当性を確認した。得られたTEM写真を図20に示す。MSN内包ベシクル(図中のコントラストの高い粒子)の粒径は60~70nmであり、同時に形成される空ベシクル(MSNを内包しないベシクル)の粒径は約100nmであった。ベシクルに封入されていないMSNは観察されなかった。
【実施例】
【0342】
・MSN内包率の測定:
また、MSN内包ベシクルのMSN内包率を調べるため、以下の実験を行った。MSNにフルオレセインイソチオシアネート(Fluorescein isothiocyanate:FITC)を吸着させたFITC標識MSNを用い、上述と同様の手法にて、架橋MSN内包ベシクルを含有する溶液を調製した。得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、キャピラリー電気泳動(Beckman coulter Inc.製P/ACE MDQ)による測定を行った。検出器としては蛍光検出器を用い、キャピラリーとしては内径75μmのもの(polymicro Technology製TSP075375)を使用し、泳動液としては200mMグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.0)を用いた。MSN内包ベシクルと、ベシクルに内包されていないMSNとは、表面電荷の違いに応じて、キャピラリー電気泳動により分離される。得られたクロマトグラムを図21に示す。本結果によればベシクルに内包されているMSNは85%であった。
【実施例】
【0343】
・血中滞留性の評価:
MSN内包ベシクルの血中滞留性を、以下の手順により評価した。
まず、以下のサンプル(i)~(iv)を調製した。
【実施例】
【0344】
(i)Cy5標識MSNのサンプル:蛍光色素Cy5を吸着させたMSN(MSNに対するCy5の比率0.4%)を含有する溶液。
(ii)Cy5標識MSN内包ベシクルのサンプル:MSNの代わりに、上記(i)で使用したCy5標識MSNを用いた他は、上述と同様の手順により調製されたMSN内包ベシクル含有溶液。
(iii)MSN内包Cy5標識ベシクルのサンプル:PEG-P(Asp)の代わりに、Cy5で標識したPEG-P(Asp)(PEG-P(Asp)に対するCy5の比率10mol%)を用いた他は、上述と同様の手順により調製された、MSN内包ベシクル含有溶液。
【実施例】
【0345】
上記(i)~(iv)のサンプルを各々、BALB/cマウス(雌、6週齢、各サンプルにつき3匹)に尾静脈注射した(PEG-P(Asp)換算濃度0.2mg/体重g)。1時間後に採血を行い、得られた血中の蛍光色素濃度を蛍光分光器(日本分光製FP-7700)を用いて測定した。得られた結果(各サンプルを投与した個体3匹の平均値)を以下の表10に示す。
【表10】
JP0006049854B2_000024t.gif
【実施例】
【0346】
[実施例II-2]MSN内包ベシクル2
上述の実施例II-1の手順において、上記の第1及び第2の重合体の各溶液並びにMSNの分散液の混合順を変更し、先に第1の重合体の溶液をMSNの分散液と混合し、得られた混合液に第2の重合体の溶液を混合した他は、実施例II-1と同様の手順に従うことにより、MSNを内包するベシクル(MSN内包ベシクル:吸着材内包ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0347】
得られたMSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。平均粒径103nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.059であった。
得られたMSN内包ベシクル含有溶液を用い、実施例II-1と同様の手順に従って架橋を行うことにより、架橋されたMSN内包ベシクルを含有する溶液を得た。
【実施例】
【0348】
得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図22に示す。平均粒径101nmの粒子の形成が認められた。PDIは0.152であった。
【実施例】
【0349】
また、上記の架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、TEMによる形態観察も併せて行い、DLS測定結果の妥当性を確認した。得られたTEM写真を図23に示す。MSN内包ベシクル(図中のコントラストの高い粒子)の粒径は60~70nmであり、同時に形成される空ベシクル(MSNを内包しないベシクル)の粒径は約100nmであった。また、ベシクルに封入されていないMSNがわずかに観察された。
【実施例】
【0350】
また、MSN内包率を調べるため、実施例II-1と同様の手順にて、キャピラリー電気泳動による測定を行った。得られたクロマトグラムを図24に示す。本結果によれば、ベシクルに内包されているMSNは72%であった。
【実施例】
【0351】
[参考例II-1]MSN内包ベシクル3
上述の実施例II-1の手順において、上記の第1及び第2の重合体の各溶液並びにMSNの分散液の混合順を変更し、先に第1の重合体の溶液と第2の重合体の溶液とを混合し、得られた混合液にMSNの分散液を混合した他は、実施例II-1と同様の手順に従うことにより、MSNを内包するベシクル(MSN内包ベシクル:吸着材内包ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0352】
得られたMSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。平均粒径104nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.049であった。
【実施例】
【0353】
得られたMSN内包ベシクル含有溶液を用い、実施例II-1と同様の手順に従って架橋を行うことにより、架橋されたMSN内包ベシクルを含有する溶液を得た。
【実施例】
【0354】
得られた架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図25に示す。平均粒径100nmの粒子の形成が認められた。PDIは0.057であった。
【実施例】
【0355】
また、上記の架橋MSN内包ベシクル含有溶液について、TEMによる形態観察も併せて行い、DLS測定結果の妥当性を確認した。得られたTEM写真を図26に示す。MSN内包ベシクル(図中のコントラストの高い粒子)の粒径は60~70nmであり、同時に形成される空ベシクル(MSNを内包しないベシクル)の粒径は約100nmであった。また、ベシクルに封入されていないMSNが一部に観察された。
【実施例】
【0356】
また、MSN内包率を調べるため、実施例1と同様の手順にて、キャピラリー電気泳動による測定を行った。得られたクロマトグラムを図27に示す。本結果によれば、ベシクルに内包されているMSNは21%であった。
【実施例】
【0357】
[実施例II-3A]アミノ化MSN内包ベシクル
・アミノ化MSN内包ベシクルの調製:
(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン((3-Aminopropyl)trimethoxysilane:APTS)50μLを、蒸留水4mLと共に常温で1時間撹拌して溶解させた。続いて、上述の実施例II-1と同様の手順で得られたMSN内包ベシクル(吸着材内包ベシクル)の10mg/mL分散液1mLを加えて更に24時間撹拌し、内封されているMSNにAPTSによる表面処理を施した。その後、限外濾過(分画分子量30万、20%エタノールで3回、その後10mM PBS(pH7.4)で5回)で精製し、アミノ化MSN内包ベシクルを得た。
【実施例】
【0358】
・アミノ化MSN内包ベシクルの評価~平均粒径及びPDI:
表面処理前の未処理MSN内包ベシクル及びアミノ化MSN内包ベシクルについて、動的光散乱(DLS)法による測定を行い、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。その結果を以下の表11に示す。また、未処理MSN内包ベシクル及びアミノ化MSN内包ベシクルの透過型電子顕微鏡写真をそれぞれ図28(a)及び(b)に示す。
【表11】
JP0006049854B2_000025t.gif
【実施例】
【0359】
・アミノ化MSN内包ベシクルの評価~表面アミノ基:
また、未処理MSN内包ベシクル及びアミノ化MSN内包ベシクルについて、TNBSアッセイによりアミノ基の量を測定した。具体的には、0.15Mホウ酸ナトリウム及び0.01M亜硫酸ナトリウム水溶液からなるバッファー200μLと、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(2,4,6-trinitrobenzene sulfonic acid:TNBS)の0.1%水溶液50μLと、未処理MSN内包ベシクル又はアミノ化MSN内包ベシクルの2mg/mL分散液50μLとを混合し、37℃で一晩放置した後、波長420nmの紫外線(UV)吸光度を測定した。得られた吸光度から、各MSN内包ベシクル中に存在するアミノ基数を求めた。その結果、アミノ化MSN内包ベシクルでは未処理MSN内包ベシクルよりもMSN1mgあたり8.14×1019個多くのアミノ基が検出された。

【実施例】
【0360】
[実施例II-3B]メルカプト化及びスルホン化MSN内包ベシクル・メルカプト化及びスルホン化MSN内包ベシクルの調製:
(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン((3-Mercaptopropyl)trimethoxysilane:MPTS)50μLを、1%酢酸水溶液4mLと共に常温で1時間撹拌して溶解させた。続いて、上述の実施例II-1と同様の手順で得られたMSN内包ベシクル(吸着材内包ベシクル)の10mg/mL分散液1mLを加えて更に24時間撹拌することにより、内封されているMSNにMPTSによる表面処理を施した。その後、限外濾過(分画分子量30万、1%酢酸水溶液で3回、その後水で5回)で精製し、メルカプト化MSN内包ベシクルを得た。続いて、このメルカプト化MSN内包ベシクルの分散液に30%過酸化水素水溶液1mL及び濃硫酸10μLを加え、12時間撹拌することによりメルカプト基を酸化してスルホニル基へと変換した。5M水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水で希釈した後、限外濾過(分画分子量30万、10mM PBS(pH7.4)で5回)で精製し、スルホン化MSN内包ベシクルを得た。
【実施例】
【0361】
・メルカプト化及びスルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ 平均粒径及びPDI:
表面処理前の未処理MSN内包ベシクル、メルカプト化MSN内包ベシクル、及びスルホン化MSN内包ベシクルについて、動的光散乱(DLS)法による測定を行い、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。結果を以下の表12に示す。また、未処理MSN内包ベシクル及びスルホン化MSN内包ベシクルの透過型電子顕微鏡写真をそれぞれ図29(a)及び(b)に示す。
【表12】
JP0006049854B2_000026t.gif
【実施例】
【0362】
・スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ MSNの表面硫酸基:
また、未処理MSN内包ベシクル及びスルホン化MSN内包ベシクルについて、X線分析顕微鏡(XGT-5200WR、(株)堀場製作所)により硫酸基の有無を確認した。得られたX線分析スペクトルを図30に示す。スルホン化MSN内包ベシクルでは硫酸基に対応するSのピークが確認されたのに対して、未処理MSN内包ベシクルではSのピークは確認されなかった。
【実施例】
【0363】
[実施例II-4A]ローズベンガル吸着アミノ化MSN内包ベシクル
・ローズベンガル吸着アミノ化MSN内包ベシクルの調製:
実施例II-3Aで得られたアミノ化MSN内包ベシクルの分散液にローズベンガル(rose bengal:以下適宜「RB」と略す。)を加えて混合し、アミノ化MSN内包ベシクルにローズベンガルを吸着させた。未吸着ローズベンガルは限外濾過(分画分子量30万)で除去した。得られたRB吸着アミノ化MSN内包ベシクルのRB含有率は3.2w/w%であった。ローズベンガルの化学式を以下に示す。
【化11】
JP0006049854B2_000027t.gif
【実施例】
【0364】
・ローズベンガル吸着アミノ化MSN内包ベシクルの評価 ~ 放出特性:
このRB吸着アミノ化MSN内包ベシクルについて、10mM PBS(pH7.4、150mM NaCl)中37℃でのローズベンガルの放出特性を測定した。得られた結果を図31のグラフに示す。24時間で約95%のローズベンガルが放出された。
【実施例】
【0365】
[実施例II-4B]ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクル
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの調製:
実施例II-3Bで得られたスルホン化MSN内包ベシクルの分散液にゲムシタビン(gemcitabine:以下適宜「GEM」と略す。)を加えて混合し、スルホン化MSN内包ベシクルにゲムシタビンを吸着させた。未吸着のゲムシタビンは限外濾過(分画分子量30万)で除去した。得られたGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクルのGEM含有率は7.9w/w%(10mM PBS用サンプル)及び8.1w/w%(疑似体液用サンプル)であった。
【実施例】
【0366】
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ 放出特性:
得られたGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクルについて、10mM PBS(pH7.4、150mM NaCl)又は疑似体液(Simulated Body Fluid:SBF)中での37℃でのゲムシタビンの放出特性を測定した。なお、疑似体液は、T.Kokubo,H.Kushitani,S.Sakka,T.Kitsugi and T.Yamamuro,″Solutions able to reproduce in vivo surface-structure changes in bioactive glass-ceramic A-W″,J.Biomed.Mater.Res.,24,721-734(1990)の記載に従って作成した。得られた結果を図32のグラフに示す。10mM PBS中と疑似体液中とでは大きく異なるゲムシタビン放出特性が得られた。これはイオン強度やイオン種の違いによる影響と考えられる。
【実施例】
【0367】
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ A549細胞に対する細胞取り込み特性及び殺細胞効果:
また、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクルのA549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)に対する細胞取り込み特性及び殺細胞効果を、次のサンプルを使用し、以下の手順で評価した。
サンプル番号1:GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル
サンプル番号2:スルホン化MSN内包ベシクル
サンプル番号3:GEM吸着スルホン化MSN
サンプル番号4:スルホン化MSN
サンプル番号5:空ベシクル
サンプル番号6:GEM単独
【実施例】
【0368】
即ち、上記手順で得られたGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)、その材料として用いたスルホン化MSN内包ベシクル(実施例II-3A)(サンプル番号2)及び、及びその材料として用いた空ベシクル(実施例II-1)(サンプル番号5)を、それぞれCy3で標識(アニオン性ポリマー数の25%を標識)した上で、A549細胞をRPMI-1640培地中2.2×10細胞/ウェルの密度で有するプレートの各ウェルにそれぞれ添加し、37℃で培養した。GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)の添加量は、ゲムシタビンが培地中0.5μg/mLの濃度となる量とし、スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)及び空ベシクル(サンプル番号5)の添加量は、MSN内包ベシクル換算量でGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)と同量となるように調整した。
【実施例】
【0369】
また、比較用として、各MSN内包ベシクルの材料として用いたMSNを実施例II-3Aと同様の手順でスルホン化(MPTS表面処理によるメルカプト化後に酸化)したスルホン化MSN(サンプル番号4)、及びこのMSNにゲムシタビンを吸着させたGEM吸着スルホン化MSN(GEM含有量8.1w/w%)(サンプル番号3)、並びにゲムシタビン単独(サンプル番号6)を、各々細胞に添加して培養した。GEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)及びゲムシタビン単独(サンプル番号6)は、ゲムシタビンが培地中0.5μg/mLの濃度となるように添加し、スルホン化MSN(サンプル番号4)の添加量は、MSN換算量でGEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)と同量となるように調整した。
【実施例】
【0370】
培養開始から48時間及び72時間経過した時点における各MSN内包ベシクルサンプル(サンプル番号1、2、5)の細胞取り込み量を以下の手順で評価した。即ち、培養細胞の細胞質をカルセイン(INVITROGEN社製Calcein,AM)で、細胞核をヘキスト(INVITROGEN社製Hoechst33342)でそれぞれ染色し、細胞内に存在する各MSN内包ベシクル由来のCy3蛍光量を、InCell Analyzer 1000(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、励起波長550nmで観察した。得られた結果を図33(a)に示す。また、トリパンブルー(INVITROGEN社製Trypan blue stain、0.4%)を用いて細胞に取り込まれていない蛍光物質を識別し、細胞内に取り込まれた各MSN内包ベシクル由来のCy3蛍光量を同様に観察した。得られた結果を図33(b)に示す。空ベシクル(サンプル番号5)は殆ど細胞に取り込まれなかったのに対し、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)及びスルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)は何れも細胞に取り込まれたことが分かる。
【実施例】
【0371】
また、培養開始から48時間及び72時間経過した時点における各サンプル(サンプル番号1~6)による殺細胞効果を、以下の手順で評価した。即ち、Cell Counting Kit-8(同仁化学社製)を用い、製造者の指示に従って、各ウェルに試薬を加え、更に1時間培養した上で、生細胞数を計測した。48時間培養後の結果を図34(a)に、72時間培養後の結果を図34(b)に示す。GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)には、GEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)及びゲムシタビン単独(サンプル番号6)と同程度の強い殺細胞効果が認められた。また、スルホン化MSN(サンプル番号4)には弱い殺細胞効果が認められたが、スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)及び空ベシクル(サンプル番号5)には殺細胞効果は認められなかった。
【実施例】
【0372】
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ C26細胞に対する細胞取り込み特性及び殺細胞効果:
また、A549細胞の代わりにC26細胞(ラット骨芽細胞様細胞)を用いて、以下に説明する点以外は、上記と同様の手順で細胞取り込み特性及び殺細胞効果を評価した。GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)、GEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)及びゲムシタビン単独(サンプル番号6)の添加量は、ゲムシタビンが培地中0.1μg/mLの濃度となる量とし、スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)及び空ベシクル(サンプル番号5)の添加量は、MSN内包ベシクル換算量でGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)と同量となるように調整し、スルホン化MSN(サンプル番号4)の添加量は、MSN換算量でGEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)と同量となるように調整した。
【実施例】
【0373】
細胞取り込みの評価結果として、トリパンブルー不在下における全細胞内のCy3蛍光量の測定結果を図35(a)に、トリパンブルー染色下における生細胞内のCy3蛍光量の測定結果を図35(b)に示す。何れのMSN内包ベシクルサンプルについても、A549細胞の場合と比較して、C26細胞では細胞取り込み量が少なかった。よって、細胞取り込み量については、細胞種により差があるものと考えられる。
また、殺細胞作用の評価結果として、48時間培養後の結果を図36(a)に、72時間培養後の結果を図36(b)に示す。A549細胞の場合と同様、C26細胞についても、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)には、GEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)及びゲムシタビン単独(サンプル番号6)と同程度の強い殺細胞効果が認められた。また、スルホン化MSN(サンプル番号4)には弱い殺細胞効果が認められたが、スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)及び空ベシクル(サンプル番号5)には殺細胞効果は認められなかった。
【実施例】
【0374】
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ マウスを用いた腫瘍治療効果:
ヒト肺がん細胞株A549を移植したBALB/cヌードマウス(7週齢、各サンプル)を5匹ずつ7群用意し、うち6群にはそれぞれ上記サンプル1~6を静脈内投与した(グループ1~6)。各サンプルの投与量は200μLとし、各サンプルの濃度は、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)、GEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)及びゲムシタビン単独(サンプル番号6)については、マウス体重に対してゲムシタビンが5mg/kg(体重)となるように調整し、スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号2)及び空ベシクル(サンプル番号5)の添加量は、MSN内包ベシクル換算量でGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)と同量となるように調整し、スルホン化MSN(サンプル番号4)の添加量は、MSN換算量でGEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)と同量となるように調整した。また、残る1群にはPBS200μLを投与した(グループ7)。投与後28日間にわたって、腫瘍体積を測定した。腫瘍体積は、ノギスを用いて腫瘍の長径及び短径を測定し、以下の計算式により算出した。
V=(a×b)/2
V:腫瘍体積、a:長径、b:短径
【実施例】
【0375】
腫瘍体積の測定結果を図37のグラフに示す。スルホン化MSN内包ベシクル投与群(グループ2)、GEM吸着スルホン化MSN投与群(グループ3)、スルホン化MSN投与群(グループ4)、及び空ベシクル投与群(グループ5)の何れについても、PBS投与群(グループ7)との間に有意差はなく、有意な抗腫瘍効果は見られなかった。また、GEM単独投与群(グループ6)では腫瘍成長が幾分抑制されたものの、やはりPBS投与群(グループ7)との間に有意差はなく、有意な抗腫瘍効果は見られなかった。一方、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル投与群(グループ1)では、PBS投与群(グループ7)に対してはもちろんのこと、GEM単独投与群(グループ6)と比較しても、腫瘍成長が有意に抑制されており、有意な抗腫瘍効果を認めた。このことから、本発明に係るGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル1)によれば、GEMが効果的に腫瘍部に送達され、GEM単剤と比較しても低投与量で高い抗腫瘍効果を発揮することが可能であることが分かる。
【実施例】
【0376】
・ゲムシタビン吸着スルホン化MSN内包ベシクルの評価 ~ マウスを用いた血中滞留性及び腫瘍分布評価:
ヒト肺がん細胞株A549を移植したBALB/cヌードマウス(7週齢、各サンプル)を3匹ずつ4群用意した。うち2群にはMSNをCy5で標識したGEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル(サンプル番号1)を静脈内投与し(グループA1及びA2)、残る2群にはCy5で標識したGEM吸着スルホン化MSN(サンプル番号3)を静脈内投与した(グループB1及びB2)。各サンプルの投与量は200μLとし、各サンプルの濃度は、マウス体重に対してゲムシタビンが5mg/kg(体重)となるように調整した。投与後24時間(グループA1及びB1)及び72時間(グループA2及びB2)の時点で動物を屠殺し、上記と同様の手法により、Cy5蛍光量に基づいて、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル及びGEM吸着スルホン化MSNの血中濃度及び腫瘍における濃度を測定した。
【実施例】
【0377】
GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル及びGEM吸着スルホン化MSNの血中濃度の測定結果を図38のグラフに示す。GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル投与群(グループA1及びA2)では、GEM吸着スルホン化MSN投与群(グループB1及びB2)と比較して、投与後24時間及び72時間の何れの時点でも血中濃度が遥かに高く、血中滞留性に優れていることが分かる。
また、GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル及びGEM吸着スルホン化MSNの腫瘍における濃度の測定結果を図39のグラフに示す。GEM吸着スルホン化MSN内包ベシクル投与群(グループA1及びA2)では、GEM吸着スルホン化MSN投与群(グループB1及びB2)と比較して、投与後24時間及び72時間の何れの時点でも腫瘍における濃度が遥かに高く、腫瘍集積性に優れていることが分かる。
【実施例】
【0378】
[実施例群III]低水溶性物質内包ベシクル及びその製法
[実施例III-1]β-ガラクトシダーゼ内包架橋ベシクルによるインディゴ系染料内包ベシクルの製造
・材料:
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(PEG:分子量約2000)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(P(Asp);重合度約75)とからなるアニオン性ブロックコポリマー(PEG-P(Asp);ゼータ電位-30.6mV)を用いた。
【実施例】
【0379】
第2の重合体として、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(P(Asp-AP);重合度約82)からなるカチオン性ホモポリマー(Homo-P(Asp-AP);ゼータ電位+16.3mV)を用いた。
被内包物質たる酵素として、β-ガラクトシダーゼを用いた。
【実施例】
【0380】
・酵素内包ベシクルの調製及び評価:
第1及び第2の重合体を各々、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させ、各ポリマー濃度1.0mg/mLの溶液を調製した。また、β-ガラクトシダーゼ(酵素)を濃度1mg/mLとなるように、10mMリン酸緩衝液(pH7.4、150mM塩化ナトリウム含有)に溶解させ、溶液を調製した。得られた第1の重合体の溶液及び第2の重合体の溶液を、電荷比が等しくなる(即ちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーで約2000rpm、2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたベシクル(空ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0381】
上記で得られたベシクル含有溶液に、使用した第2の重合体の溶液と同じ体積の上述のβ-ガラクトシダーゼ溶液を添加し、ボルテックスミキサーで約2000rpm、2分間攪拌することにより、β-ガラクトシダーゼをベシクルに内包させ、β-ガラクトシダーゼ内包ベシクル(酵素内包ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0382】
得られたβ-ガラクトシダーゼ内包ベシクル含有溶液を、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDC(同仁化学研究所製、WSC)を含む溶液に加え、一晩静置してEDC反応による架橋を行った。反応の副生成物を遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万;2000rpm、25℃)により除去して精製することにより、架橋されたβ-ガラクトシダーゼ内包ベシクルを含有する溶液を得た。
【実施例】
【0383】
得られたβ-ガラクトシダーゼ内包架橋ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図40に示す。平均粒径112nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.067であった。
【実施例】
【0384】
・低水溶性物質内包ベシクルの調製及び評価:
X-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド:水溶性前駆体)を、濃度5mg/mLとなるように、10mMリン酸緩衝液(pH7.4、150mM塩化ナトリウム含有)/ジメチルホルムアミド混液(4:1)に溶解させ、溶液を調製した(なお、X-galは、β-ガラクトシダーゼの酵素作用によって、インディゴ系染料(5,5’-ジブロモ-4,4’-ジクロロ-インディゴ)に転換される。)。総ポリマー濃度0.5mg/mLの上記の架橋β-ガラクトシダーゼ内包ベシクル含有溶液50μLに、上記のX-gal溶液10μLを添加し、さらに10mMリン酸緩衝液190μL加えて37℃で24時間放置し、β-ガラクトシダーゼ(酵素)によるX-gal(水溶性前駆体)からインディゴ系染料(5,5’-ジブロモ-4,4’-ジクロロ-インディゴ:低水溶性物質)への転換反応を進行させた。その後、0.45μmのPESフィルターで濾過し、更に遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万を使用;2000rpm、25℃)により精製を行い、インディゴ系染料内包ベシクル(実施例III-1の低水溶性物質内包ベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0385】
得られたインディゴ系染料内包ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図41に示す。平均粒径140nmで単分散な粒子が認められた。PDIは0.091であった。
【実施例】
【0386】
また、このインディゴ系染料内包ベシクル含有溶液について、透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察を行った。TEM(日本電子製JEM-1400)により得られたTEM写真を図42に示す。図42によれば、β-ガラクトシダーゼ(酵素)によりX-gal(水溶性前駆体)から転換されたインディゴ系染料(低水溶性物質)が、ベシクルの内部又は膜に局在していることが確認された。また、高解像度のTEM(日本電子製JEM-2100F)により得られたTEM写真を図43に示す。図43によれば、インディゴ系染料由来と考えられる回折線が認められた。よって、ベシクルに内包されたインディゴ系染料は、結晶性であることが確認された。
【実施例】
【0387】
また、このインディゴ系染料内包ベシクルを、90%ジメチルスルホキシド含有水溶液中で一晩放置し、吸光光度法により生成したインディゴ系染料の内包量を算出した。その結果、総ポリマー(第1及び第2の重合体)の重量に対して66.9%のインディゴ系染料がベシクルに内包されていることが確認できた。
【実施例】
【0388】
[比較例III-1]遊離β-ガラクトシダーゼによるインディゴ系染料内包ベシクルの製造
実施例III-1と同様の手順に従って調製された空ベシクル含有溶液に対して、β-ガラクトシダーゼ溶液を加えて混合することなく、そのまま実施例III-1と同様の手順に従ってEDC反応による架橋を行い、架橋された空ベシクル含有溶液を得た。
得られた架橋空ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図44に示す。平均粒径98nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.076であった。
【実施例】
【0389】
総ポリマー濃度0.5mg/mLの上記架橋空ベシクル含有溶液50μLに対して、実施例III-1と同様に調製した濃度1mg/mLのβ-ガラクトシダーゼ溶液12.5μL、及び、実施例III-1と同様に調製した濃度1mg/mLのX-gal溶液10μLを添加し、さらに10mMリン酸緩衝液177.5μLを加えて、37℃で24時間放置した。その後、0.45μmのPESフィルターで濾過し、遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万;2000rpm、25℃)で精製することにより、インディゴ系染料生成後の空ベシクル(比較例III-1で当初、空だったベシクル)を含有する溶液を得た。
【実施例】
【0390】
得られたインディゴ系染料生成後の空ベシクル含有溶液について、DLS測定を行い、粒度分布、平均粒径及びPDIを求めた。粒度分布のグラフを図45に示す。平均粒径104nmの粒子が認められた。PDIは0.131であった。
また、このインディゴ系染料生成後の空ベシクル含有溶液について、透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察を行った。TEM(日本電子製JEM-1400)により得られたTEM写真を図46に示す。図46によれば、β-ガラクトシダーゼとX-galの反応により低水溶性のインディゴ系染料が生成したものの、ベシクルに内包されているインディゴ系染料は殆ど認められなかった。
【実施例】
【0391】
また、このインディゴ系染料生成後の空ベシクルを、90%ジメチルスルホキシド含有水溶液中で一晩放置し、吸光光度法により生成したインディゴ系染料の内包量を算出した。その結果、総ポリマー(第1及び第2の重合体)の重量に対して31.0%のインディゴ系染料がベシクルに付着していることが確認できた。図46の結果と考え合わせると、ベシクルに付着しているインディゴ系染料は、ベシクルに内包されているのではなく、主に空ベシクルの外部に付着しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0392】
本発明により得られる物質内包ベシクルは、薬物を送達するためのDDSや、バイオマテリアル・機能性材料等の分野において、その有用性は極めて高い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10(B)】
8
【図13】
9
【図14】
10
【図15】
11
【図16】
12
【図17】
13
【図18】
14
【図19】
15
【図21】
16
【図22】
17
【図24】
18
【図25】
19
【図27】
20
【図30】
21
【図31】
22
【図32】
23
【図33】
24
【図34】
25
【図35】
26
【図36】
27
【図37】
28
【図38】
29
【図39】
30
【図40】
31
【図41】
32
【図44】
33
【図45】
34
【図5A】
35
【図5B】
36
【図5C】
37
【図10(A)】
38
【図11】
39
【図12】
40
【図20】
41
【図23】
42
【図26】
43
【図28】
44
【図29】
45
【図42】
46
【図43】
47
【図46】
48