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明細書 :ゲルマニウム層を熱処理する半導体基板の製造方法および半導体装置の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6169182号 (P6169182)
登録日 平成29年7月7日(2017.7.7)
発行日 平成29年7月26日(2017.7.26)
発明の名称または考案の名称 ゲルマニウム層を熱処理する半導体基板の製造方法および半導体装置の製造方法
国際特許分類 H01L  21/324       (2006.01)
H01L  21/336       (2006.01)
H01L  29/78        (2006.01)
C30B  29/08        (2006.01)
C30B  33/02        (2006.01)
FI H01L 21/324 X
H01L 29/78 301B
H01L 29/78 301Q
H01L 29/78 301G
C30B 29/08
C30B 33/02
請求項の数または発明の数 14
全頁数 16
出願番号 特願2015-544904 (P2015-544904)
出願日 平成26年10月10日(2014.10.10)
国際出願番号 PCT/JP2014/077135
国際公開番号 WO2015/064338
国際公開日 平成27年5月7日(2015.5.7)
優先権出願番号 2013227559
優先日 平成25年10月31日(2013.10.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年5月9日(2016.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】鳥海 明
【氏名】李 忠賢
【氏名】西村 知紀
個別代理人の代理人 【識別番号】100087480、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 修平
審査官 【審査官】柴山 将隆
参考文献・文献 特開2009-177167(JP,A)
国際公開第2004/086475(WO,A1)
S.Kobayashi, et al.,Effect of isochronal hydrogen annealing on surface roughness and threading dislocation density of epitaxial Ge filmes grownon Si,Thin Solid Films,2010年,Vol. 518, No. 6 SUPPL. 1,pp.S136-S139
調査した分野 H01L 21/324
C30B 29/08
C30B 33/02
H01L 21/336
H01L 29/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
表面から1μmにおける酸素濃度が1×1016cm-3以上のシリコン組成比が10%以下の単結晶ゲルマニウム層を還元性ガス雰囲気中において、700℃以上において熱処理する工程を含み、
前記熱処理により、表面から1μmにおける前記ゲルマニウム層の酸素濃度は1×1016cm-3より低くなることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
表面から1μmにおける酸素濃度が1×1016cm-3以上のシリコン組成比が10%以下の単結晶ゲルマニウム層を還元性ガス雰囲気中において、前記酸素濃度が減少するように熱処理する工程を含み、
前記熱処理により、表面から1μmにおける前記ゲルマニウム層の酸素濃度は1×1016cm-3より低くなることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理する工程は、800℃以上において熱処理する工程であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記ゲルマニウム層は(111)面が主面であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記還元性ガス雰囲気は水素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記ゲルマニウム層は単結晶ゲルマニウム基板であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項記載の半導体基板の製造方法により製造された半導体基板に半導体装置を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体装置を形成する工程は、
前記熱処理された前記ゲルマニウム層の表面に、ゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
表面から1μmにおける酸素濃度1×1016cm-3より低く、かつ前記表面から5μmにおける酸素濃度は1×1016cm-3以上でありシリコン組成比が10%以下の単結晶ゲルマニウム層を具備することを特徴とする半導体基板。
【請求項10】
前記表面から1μmにおける酸素濃度は4×1015cm-3以下であることを特徴とする請求項記載の半導体基板。
【請求項11】
前記ゲルマニウム層は(111)面が主面であることを特徴とする請求項9または10記載の半導体基板。
【請求項12】
前記ゲルマニウム層は単結晶ゲルマニウム基板であることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項記載の半導体基板。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項記載の半導体基板を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項14】
前記ゲルマニウム層の表面に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を具備することを特徴とする請求項13記載の半導体装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法および半導体装置の製造方法に関し、ゲルマニウム層を熱処理する半導体基板の製造方法および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウム(Ge)は、シリコン(Si)に比べ優れた電子物性を有する半導体である。例えば、ゲルマニウムを用いたMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が開発されている。例えば、MOSFETにおいては、ゲルマニウム層におけるキャリアの移動度を向上させることが重要である。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Extended Abstract of the 2011 International Conference on Solid State Devices and Materials, Nagoya, 2011, pp925-926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単結晶ゲルマニウム基板において、基板の種類によって移動度が大きく異なる。ゲルマニウム基板の移動度が低いと、MOSFET等の半導体装置において高い性能を得ることができない。ゲルマニウム層の移動度を向上させ、半導体装置の性能を高めることが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高性能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1×1016cm-3以上の酸素濃度を有するゲルマニウム層を還元性ガス雰囲気中において、700℃以上において熱処理する工程を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法である。
【0007】
本発明は、1×1016cm-3以上の酸素濃度を有するゲルマニウム層を還元性ガス雰囲気中において、前記酸素濃度が減少するように熱処理する工程を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法である。
【0008】
上記構成において、前記熱処理する工程は、800℃以上において熱処理する工程である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記熱処理により、前記ゲルマニウム層が有する酸素濃度は1×1016cm-3より低くなる構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記ゲルマニウム層は(111)面が主面である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記還元性ガス雰囲気は水素ガス雰囲気である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記ゲルマニウム層は単結晶ゲルマニウム基板である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、上記半導体基板の製造方法により製造された半導体基板に半導体装置を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0014】
上記構成において、前記半導体装置を形成する工程は、前記熱処理された前記ゲルマニウム層の表面に、ゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高性能な半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)から図1(d)は、実験に用いたMOS構造の作製方法を示す断面図である。
【図2】図2は、(111)基板Aにおける面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。
【図3】図3(a)から図3(c)は、(111)基板Aにおける水素熱処理後の基板表面のAFM画像である。
【図4】図4(a)から図4(f)は、(111)基板Aにおける水素熱処理後のAFM観察結果を示す図である。
【図5】図5は、結晶方位が異なる基板Aの水素熱処理における熱処理温度に対する1μm□のRMSを示す図である。
【図6】図6(a)から図6(e)は、(111)基板Aにおける熱処理後の基板A表面のAFM観察結果を示す図である。
【図7】図7は、(111)基板Bにおける深さに対する酸素濃度を示す図である。
【図8】図8は、(111)基板Bにおける面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。
【図9】図9は、(111)基板Aに酸素イオンをイオン注入したサンプルの面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。
【図10】図10は、(111)基板Aに酸素イオンをイオン注入したサンプルの表面からの深さに対する酸素濃度を示す図である。
【図11】図11は、基板Bにおける面電子密度Nに対する移動度μeffを示す模式図である。
【図12】図12(a)から図12(e)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【図13】図13は、(111)基板Bにおける深さに対する酸素濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
単結晶ゲルマニウム基板を用いMOS構造を作製し、移動度を測定すると、基板の種類によって移動度が異なる。一例として、基板を成長する成長装置、成長条件および材料等によって移動度が異なる。しかし、成長方法自体の問題か、その他の問題か不明である。また、基板上に形成されたゲルマニウム層においても移動度が異なる。このように基板または層の種類により移動度が異なる原因は不明である。このため、移動度を向上させることが難しい。

【0018】
基板または層の種類により移動度が異なる理由を調べるため、移動度の異なる単結晶ゲルマニウム基板として、成長方法が異なる基板Aおよび基板Bを準備した。基板Bは基板Aより移動度が低い。基板Aおよび基板Bを用いMOS構造を作製し、以下の実験を行った。

【0019】
図1(a)から図1(d)は、実験に用いたMOS構造の作製方法を示す断面図である。図1(a)に示すように、P型単結晶ゲルマニウム基板10を準備する。単結晶ゲルマニウム基板として基板Aまたは基板Bを用いる。以下では、(111)面を主面とする基板Aを(111)基板A、(111)面を主面とする基板Bを(111)基板Bという。ゲルマニウム基板10のアクセプタ濃度Nは2×1015cm-3である。

【0020】
図1(b)に示すように、水素(H)ガス雰囲気(100%水素ガス雰囲気)、1気圧において、熱処理を行なう。以下、水素ガス雰囲気における熱処理を水素熱処理ともいう。図1(c)に示すように、ゲルマニウム基板10上に酸化ゲルマニウム膜12を形成する。酸化ゲルマニウム膜12の形成は、ゲルマニウム基板10を酸素ガス雰囲気中で熱処理することにより行なう。酸化ゲルマニウム膜12の形成条件は、酸素圧力が70気圧、基板温度が500℃である。酸化ゲルマニウム膜12の膜厚は5nmから6nm程度である。図1(d)に示すように、酸化ゲルマニウム膜12の表面に金属膜14として金(Au)膜を形成する。金属膜14は、ゲート電極として用いられる。

【0021】
(111)基板Aを用い、ゲート長が100μm、ゲート幅が25μmのMOS構造を作製した。スプリットCV法を用い、室温におけるキャリア数と移動度μeffを求めた。スプリットCV法は、CV測定の積分からキャリア数を導出し、キャリア数とI-V測定から移動度を求める方法である。キャリア数から面電子密度Nを求めた。

【0022】
図2は、(111)基板Aにおける面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。ゲート電極にゲート電圧を印加することにより、面電子密度Nを変化させ、移動度μeffを測定した。図1(b)における水素熱処理の温度を500℃、時間を1分、5分および15分とした。基準サンプルは、図1(b)の水素熱処理を行なっていないサンプルであり、酸化ゲルマニウム膜の膜厚が15nm、酸化ゲルマニウム膜の成膜温度を高くしている。基準サンプルにおいて、面電子密度が4×1011cm-2のとき、移動度が約1200cm/Vsとなり最大となる。面電子密度が、移動度のピークより低い領域では、移動度は熱処理時間に対しほとんど変化しない。面電子密度が移動度のピークより高い領域では、移動度は熱処理時間が長いほど高くなる。面電子密度が高くなるほど、熱処理時間による移動度の差が大きくなる。

【0023】
図1(b)の後、基板Aのゲルマニウム基板10表面をAFM(Atomic Force Microcopy)法を用い観察した。図3(a)から図3(c)は、(111)基板Aにおける水素熱処理後の基板表面のAFM画像である。図3(a)から図3(c)は、それぞれ図1(b)における水素熱処理の温度が500℃、時間が1分、5分および15分のゲルマニウム基板10のAFM画像である。AFM画像は、1μm×1μm(1μm□)の範囲に相当する。図3(a)に示すように、熱処理時間が1分では、ゲルマニウム基板10表面にはステップ・アンド・テラス構造が観察されない。図3(b)に示すように、熱処理時間が5分では、ゲルマニウム基板10表面には小さいステップ・アンド・テラス構造が観察されている。図3(c)に示すように、熱処理時間が15分では、ゲルマニウム基板10表面にはステップ・アンド・テラス構造が観察されている。このように、熱処理時間が長くなると、ステップ・アンド・テラス構造が観察される。ステップ・アンド・テラス構造が観察された表面は平坦性が高いことを意味する。

【0024】
図2と図3(a)から図3(c)とを比較する。熱処理時間が500℃において、熱処理時間が長くなると、面電子密度が高い領域において移動度が高くなる。これは、熱処理時間が長くなると、ゲルマニウム基板10と酸化ゲルマニウム膜12との界面の平坦性がよくなるためと考えられる。

【0025】
そこで、(111)基板Aについて、熱処理によるゲルマニウム基板10表面の平坦化について実験を行った。

【0026】
図4(a)から図4(f)は、(111)基板Aにおける水素熱処理後の基板A表面のAFM観察結果を示す図である。図4(a)から図4(c)は、それぞれ500℃、650℃および850℃において水素熱処理した後の(111)基板Aの表面のAFM観察画像である。熱処理時間は15分である。画像の範囲は1μm□である。図4(d)から図4(f)は、それぞれ。図4(a)から図4(c)の一部領域における基板の面方向に対する基板膜厚方向の表面を示す図であり、断面に相当する図である。

【0027】
図4(a)から図4(c)に示すように、熱処理温度が500℃から850℃において、ステップ・アンド・テラス構造が観察される。図4(d)から図4(f)に示すように、ステップの高さは、約0.3nmまたは約0.3nmの2倍のステップとなっている。ゲルマニウムはダイアモンド構造をとり、その格子定数は0.567nmである。(111)面において、ダイアモンド構造を構成する正四面体結合構造を単位とした原子一層の厚みは、0.567×3-1/2nmであり、約0.33nmである。なお、この厚みは、Ge原子同士の結合の意味では結合2個分に相当する。よって、図4(d)から図4(f)のように、ステップの高さはほぼ1原子層に対応する。このように、(111)基板Aにおいては、水素熱処理の温度が500℃から850℃において、ゲルマニウム基板10の表面にステップ・アンド・テラス構造が形成されている。

【0028】
図5は、結晶方位が異なる基板Aの水素熱処理の温度に対する1μm□のRMS(Root Mean Square:二乗平均の平方根)を示す図である。熱処理時間は15分である。ドットは測定点、線は近似線である。なお、水素熱処理する前の基板のRMSは、0.3nm程度である。(111)は(111)基板Aを示す。(110)は(110)主面を有する基板Aを示し、(100)は(100)主面を有する基板Aを示す。

【0029】
図5に示すように、(111)および(110)基板は、500℃から850℃の50℃刻みの全ての温度においてステップ・アンド・テラス構造が観測された。(100)基板において、黒丸はステップ・アンド・テラス構造が観測されたことを示し、白丸はステップ・アンド・テラス構造が観測されないことを示す。(100)基板において、熱処理温度が700℃以上の場合、ステップ・アンド・テラス構造が観測される。(111)、(110)および(100)基板において、500℃から850℃の温度範囲において基板表面のRMSを約0.3nmより小さくすることができる。(110)基板においては、500℃から850℃の温度範囲でRMSは0.2nm以下である。(111)基板においては、550℃から750℃の温度範囲でRMSは0.2nm以下である。(100)基板においては、700℃以上の温度範囲でRMSは0.2nm以下である。

【0030】
このように、ゲルマニウム基板10の面方位にほとんど関係なく、水素熱処理よりゲルマニウム基板10表面が平坦化される。

【0031】
次に、熱処理の雰囲気を変え、ゲルマニウム基板10表面の平坦化について実験した。図6(a)から図6(e)は、(111)基板Aにおける熱処理後の基板表面のAFM観察結果を示す図である。図6(a)および図6(b)は、それぞれ水素ガスおよび窒素ガス雰囲気中で熱処理(窒素熱処理)した後の(111)基板A表面のAFM観察画像である。熱処理温度は750℃、時間は15分である。画像の範囲は1μm□である。図6(c)は、図6(b)の一部領域における基板面方向に対する基板膜厚方向の表面を示す図であり、断面に相当する図である。図6(d)および図6(e)は、それぞれ水素ガスおよび窒素ガス雰囲気中で熱処理した後の基板Aの表面のAFM観察画像(斜視図)である。画像の範囲は20μm□である。

【0032】
図6(b)および図6(c)を参照し、窒素熱処理した場合において、ステップ・アンド・テラス構造が観察される。水素熱処理における1μm□のRMSは約0.2nmであるのに対し、窒素熱処理における1μm□のRMSは約0.2nmから0.5nmである。

【0033】
このように、熱処理は水素ガス雰囲気でなくとも窒素ガス等の不活性ガス雰囲気でもゲルマニウム基板表面が平坦化する。これは、ゲルマニウム基板10の表面を酸化させずに熱処理することにより、ゲルマニウム基板10の表面が平坦化することを示している。すなわち、熱処理する際のガスは還元性ガスまたは不活性ガスであればよい。

【0034】
図2から図6(e)の実験結果から、還元性ガスまたは不活性ガス雰囲気中、500℃程度以上において熱処理すると、ゲルマニウム基板10の表面が平坦化する。ゲルマニウム基板10表面が平坦化されると、図2のように、面電子濃度が高い領域における移動度が向上する。図5のように、熱処理温度が500℃から850℃の間において、平坦性はほぼ同じである。図3(a)から図3(c)のように、熱処理温度が500℃付近では、熱処理時間に平坦性が依存する。基板Aの実験結果について説明したが、基板Bについても基板Aと同様の基板表面の平坦化が観測された。このように、熱処理による基板表面の平坦化は基板の種類によらない。

【0035】
次に、スプリットCV法を用い(111)面を主面とする基板B((111)基板Bという)の移動度μeffを測定した。ゲルマニウム基板10のアクセプタ濃度Nは2×1015cm-3である。(111)基板Bでは、最大の移動度は約300cm/Vsである。

【0036】
基板Aおよび基板Bについて、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析を行なった。図7は、(111)基板Bにおける深さに対する酸素濃度を示す図である。黒丸は(111)基板Bを水素熱処理する前、黒三角は700℃の水素熱処理後、白丸は850℃の水素熱処理後のSIMS分析結果を示す。熱処理温度は15分である。水素熱処理前の基板Bにおいては、表面からの深さが少なくとも2μmまで、酸素濃度は1×1016cm-3以上である。表面からの深さが1μmまで、酸素濃度は1.5×1016cm-3以上である。一方、(111)基板Aでは、酸素濃度は検出限界以下であった。このように、基板Bは基板Aより酸素濃度が高い。このことから、基板Bにおいて移動度が低いこととゲルマニウム基板10内の酸素濃度とは何らかの関係があると推定した。

【0037】
さらに、700℃で水素熱処理すると、基板B内の酸素濃度が1×1016cm-3以下に減少する。850℃で水素熱処理すると、基板B内の酸素濃度は検出限界の4×1015cm-3以下となる。このように、水素熱処理の温度を高くするとゲルマニウム基板10内の酸素濃度が減少する。

【0038】
(111)基板Bについて、熱処理温度を変え、水素熱処理したサンプルを作製し移動度を測定した。なお、基板、熱処理以外の作製工程は、図2の(111)基板Aと同じである。図8は、(111)基板Bにおける面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。図1(b)における熱処理温度は650℃、750℃および850℃、熱処理時間は15分である。基準サンプルは、図1(b)の熱処理を行なっていないサンプルであり、酸化ゲルマニウム膜の膜厚が15nm、酸化ゲルマニウム膜の成膜温度を高くしている。基準サンプルでは、最大の移動度が約300cm/Vs程度である。熱処理温度を650℃とすると、最大の移動度が約600cm/Vsと向上する。熱処理温度を750℃とすると、最大の移動度が約800cm/Vsとさらに向上する。熱処理温度を850℃とすると、最大の移動度は約1200cm/Vsと基板Aとほぼ同程度となる。

【0039】
図7と図8とを比較すると、水素熱処理の温度が高くなると基板B中の酸素濃度が減少し、移動度が向上する。水素熱処理の温度が850℃では、基板B中の酸素濃度は検出限界程度となり、移動度は基板Aと同程度となる。このように、ゲルマニウム基板10内の酸素濃度と移動度とに相関があることがわかる。移動度を向上させるためには、熱処理温度は750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上がさらに好ましい。ゲルマニウムの融点が約938℃であることから、熱処理温度は925度以下が好ましく、900℃以下がより好ましい。

【0040】
基板Bにおいて、水素熱処理の熱処理温度を高くすると酸素濃度が低くなる理由は明らかではないが、例えばゲルマニウム基板10内の酸素が還元性ガスにより除去されることが考えられる。

【0041】
水素熱処理により、ゲルマニウム基板内の酸素濃度が減少することを確認するため、(111)基板Aのゲルマニウム基板10に酸素イオンをイオン注入し、熱処理した。熱処理雰囲気を窒素ガス雰囲気としたサンプルと水素ガス雰囲気としたサンプルを作製した。イオン注入および熱処理以外の作製工程は、図2の(111)基板Aと同じである。

【0042】
図9は、(111)基板Aに酸素イオンをイオン注入したサンプルの面電子密度Nに対する移動度μeffを示す図である。図1(b)における熱処理温度は700℃、熱処理時間は15分である。基準サンプルは、酸素をイオン注入しておらず、水素熱処理を行なっていない図2の基準サンプルと同じである。図9に示すように、基準サンプルでは、最大の移動度が約1200cm/Vs程度である。酸素イオン注入後、窒素熱処理を行なったサンプルでは、最大の移動度は約500cm/Vs程度である。これに対し、酸素イオン注入後、水素熱処理を行なったサンプルでは、最大の移動度は約800cm/Vs程度である。このように、酸素イオンを注入すると移動度が低下する。酸素イオン注入後、窒素熱処理しても移動度はあまり改善しないが、水素熱処理することにより、移動度が向上する。

【0043】
水素熱処理の温度が700℃のサンプルをSIMS分析した。図10は、(111)基板Aに酸素イオンをイオン注入したサンプルの表面からの深さに対する酸素濃度を示す図である。実線、破線および点線は、それぞれ水素熱処理する前の基準サンプルのSIMS分析結果、700℃の水素熱処理後のサンプルのSIMS分析結果、およびイオン注入した酸素イオンの計算結果を示す。実線および破線のSIMS分析結果の酸素濃度は、深さが150nmより浅い領域で非常に大きくなる。これは、ゲルマニウム基板10の表面に吸着された酸素が観測されているためである。深さが150nmより浅い領域の結果は正確ではない。また、測定速度が異なるため図7とは検出限界および深さが浅い領域での振舞いが異なる。

【0044】
図10に示すように、基準サンプルにおいて、酸素イオンを注入する前の基板Aの酸素濃度は、検出限界の8×1015cm-3程度である。点線の計算結果のように、深さが約150nmにおいて酸素濃度が5×1017cm-3のピークとなるように、酸素イオンをゲルマニウム基板10にイオン注入している。

【0045】
700℃の水素熱処理により、深さが150nmから600nmでは、酸素濃度は最大で3×1016cm-3である。深さが600nm以上では、酸素濃度は検出限界である。図10のように、酸素を注入したゲルマニウム基板10を水素熱処理することにより、ゲルマニウム基板10内の酸素濃度が減少することがわかる。図9のように、窒素熱処理より水素熱処理において移動度が高くなる。このことから、水素熱処理により、ゲルマニウム基板10内の酸素が除去され、移動度が向上していると考えられる。

【0046】
図7から図10の実験結果から、基板Bを還元性ガス雰囲気中、700℃程度以上において熱処理すると、基板B中の酸素が除去され、酸素濃度が減少する。基板B内の酸素濃度が減少することにより、図9のように室温における基板Bの移動度が基板Aの移動度と同程度となる。このことから、移動度に影響する欠陥は、基板B中の酸素に関連していると考えられる。

【0047】
図2から図10の実験結果を踏まえ、面電子密度に対する移動度の振る舞いを説明する。図11は、基板における面電子密度Nに対する移動度μeffを示す模式図である。面電子密度の高い領域50と低い領域52の2つの領域に分けて考える。領域50においては、面電子密度が高くなると移動度は低くなる。領域52においては、面電子密度が低くなると移動度は低くなる。

【0048】
領域50は、主にゲルマニウム基板10の表面の平坦性により移動度が制限されている領域と考えられる。領域50においては、還元性ガスまたは不活性ガス雰囲気で熱処理の温度を500℃以上とするとゲルマニウム基板10の表面の平坦性が向上する。図5のように、ゲルマニウム基板10の表面の平坦性は、熱処理温度を500℃より高くしても同程度である。

【0049】
領域52は、主にゲルマニウム基板10内の酸素に関連した欠陥による散乱により移動度が制限されている領域と考えられる。基板Aにおいては、還元性ガス雰囲気で熱処理しなくともゲルマニウム基板10中の酸素濃度が低い。一方、基板Bにおいては、還元性ガス雰囲気での熱処理前のゲルマニウム基板10中の酸素濃度が高く、酸素に関連した欠陥が形成されている。基板Bを還元性ガス雰囲気で熱処理するとゲルマニウム基板10中の酸素濃度が低下する。酸素濃度は、熱処理温度が高くなるにしたがい減少する。

【0050】
基板Aにおいては、ゲルマニウム基板10中の欠陥が少ないため、還元性ガス雰囲気で水素熱処理する前から領域52における移動度は高い。領域50においては、熱処理前はゲルマニウム基板10の表面の平坦性が悪いため、移動度が低い。図2のように、ゲルマニウム基板10の表面の平坦性が向上すると、領域50における移動度が向上する。

【0051】
基板Bにおいては、ゲルマニウム基板10中の欠陥が多いため、還元性ガス雰囲気で熱処理する前の領域52における移動度が低い。還元性ガス雰囲気で熱処理することにより、ゲルマニウム基板10中の欠陥が減少し、領域52における移動度が向上する。領域50おいては、500℃以上で熱処理することにより、ゲルマニウム基板10表面の平坦性は向上する。しかし、熱処理温度が700℃より低い場合、ゲルマニウム基板10中の欠陥の影響で、領域50の移動度は基板Aほど向上しない。図8のように、還元性ガス雰囲気での熱処理の温度が700℃以上において、ゲルマニウム基板10中の酸素に関連した欠陥が減少し、領域50および52の移動度が向上する。

【0052】
このように、ゲルマニウム基板10表面の平坦性と、ゲルマニウム基板10中の酸素に関連した欠陥が移動度に影響する。平坦性の影響は基板Aおよび基板Bとで同程度と考えられる。酸素に関連した欠陥は基板Bで多い。この欠陥が基板Bで移動度が低い原因であると考えられる。そこで、還元性ガス雰囲気において700℃以上の熱処理を行なう。これにより、ゲルマニウム基板10内の酸素濃度が減少し、移動度が向上する。

【0053】
なお、シリコン基板を用いたMOS構造では、シリコン基板内の酸素濃度は移動度にほとんど影響しないことが知られており、移動度と酸素とが関連しているのはゲルマニウム基板特有の現象である。

【0054】
以下に、上記実験結果に基づく本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0055】
図12(a)から図12(e)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。図12(a)に示すように、1×1016cm-3以上の酸素濃度を有するゲルマニウム層30を準備する。欠陥による散乱が移動度低下の原因とすると、ゲルマニウム層30は、単結晶ゲルマニウム基板でもよいし、基板(例えばシリコン基板)上に形成されたゲルマニウム膜でもよい。また、ゲルマニウム層30は、高純度ゲルマニウムでもよいが、不純物が含まれていてもよい。例えばn型またはp型ゲルマニウムでもよい。さらに、ゲルマニウム層30には、上記実験の効果が得られる程度にシリコンが含まれていてもよい。シリコンの組成比は、全体の10%程度以下であればよい。ゲルマニウム層30の主面は、いずれの面でもよく、例えば(100)面、(111)面または(110)面とすることができる。なお、(100)面、(111)面および(110)面は、これらに等価な結晶面も含まれる。また、主面は、これらの面から数度程度オフしていてもよい。すなわち、主面の法線方向は<111>方向および<110>方向から数度以下、好ましくは1度以下の範囲で傾いていてもよい。
【実施例1】
【0056】
図12(b)に示すように、ゲルマニウム層30の表面を還元性ガス雰囲気中において、700℃以上において熱処理する。還元性ガスは、熱処理によってゲルマニウム層30とほとんど反応せず、ゲルマニウム層30内の酸素を還元(または除去)するガスである。還元性ガスとしては、例えば水素ガスを用いることができる。また、水素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)またはラドン(Rn)等の第18族元素のガスを用いることができる。上記ガスの混合ガスでもよい。また、還元性ガスには、水素ガスを含まなくてもよい。例えば、酸素をほとんど含まないガスであり、かつ熱処理によってゲルマニウム層30とほとんど反応しないガスであって、熱処理によってゲルマニウム層30内の酸素を除去するガスであればよい。例えば酸素をほとんど含まない窒素ガスでもよい。このように、熱処理するガスには酸素はほとんど含まれないことが好ましい。熱処理のガス圧力は、1気圧、1気圧より低い圧力、または、1気圧より高い圧力でもよい。
【実施例1】
【0057】
図12(c)に示すように、ゲルマニウム基板10の表面にゲート絶縁膜32を形成する。ゲート絶縁膜32として、酸化ゲルマニウム膜、高誘電率絶縁膜、または酸化ゲルマニウム膜と高誘電率絶縁膜との積層膜を用いることができる。高誘電率絶縁膜としては、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化イットリウム等の希土類金属酸化膜を用いることができる。ゲート絶縁膜32の膜厚は、2nm以下が好ましく、1.5nm以下がより好ましく、1.0nm以下がさらに好ましい。
【実施例1】
【0058】
図12(d)に示すように、ゲート絶縁膜32上にゲート電極34を形成する。ゲート電極34としては、金属または半導体等の導電層を用いることができる。
【実施例1】
【0059】
図12(e)に示すように、電極34の両側のゲルマニウム層30内にソースまたはドレイン領域38を形成する。ゲルマニウム層30をp型、ソースまたはドレイン領域38をn型とする。ゲルマニウム層30をn型、ソースまたはドレイン領域38をp型としてもよい。nチャネルFETにおいては、(111)面を主面とするゲルマニウム層30を用いることにより性能を向上させることができる。pチャネルFETにおいては、(100)面または(110)面を主面とするゲルマニウム層30を用いることにより性能を向上できる。
【実施例1】
【0060】
実施例1によれば、1×1016cm-3以上の酸素濃度を有するゲルマニウム層30の表面を還元性ガス雰囲気中において、700℃以上において熱処理する。これにより、ゲルマニウム層30の移動度を向上させ、半導体装置の性能を向上させることができる。
【実施例1】
【0061】
酸素濃度が1.2×1016cm-3以上の場合、特に、移動度が低下するため、還元性ガス雰囲気で熱処理することが好ましい。
【実施例1】
【0062】
還元性ガス雰囲気における熱処理により、ゲルマニウム層30が有する酸素濃度は1×1016cm-3より低くなる。これにより、ゲルマニウム層30の移動度を向上させることができる。酸素濃度は8×1015cm-3以下が好ましく、5×1015cm-3以下がより好ましい。
【実施例1】
【0063】
熱処理温度は、750℃以上であることが好ましく、800℃より高い温度がより好ましく、800℃以上であることがより好ましく、850℃以上であることがさらに好ましい。熱処理時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましい。
【実施例1】
【0064】
熱処理時間が長ければ、熱処理温度は低くてもよい。熱処理温度が高ければ、熱処理時間は短くてもよい。このように、熱処理は、ゲルマニウム層30の酸素濃度が減少するように行われればよい。
【実施例1】
【0065】
実施例1においては、MOSFETを例に説明したが、MOSFET以外の半導体装置に実施例1を適用することもできる。
【実施例1】
【0066】
実施例1においては、主に半導体装置について説明したが、図12(b)までの工程を行えば、半導体基板を製造することができる。半導体基板は、単結晶ゲルマニウム基板、または、シリコン基板もしくはガラス基板等の支持基板上にゲルマニウム層を形成した基板でもよい。ゲルマニウム層は、単結晶、多結晶、または非晶質のいずれでもよい。
【実施例1】
【0067】
図7の分析を行なったときより酸素濃度の検出限界の低いSIMS装置の状態のときに、図7と同じサンプルについて、SIMS分析を行なった。図13は、(111)基板Bにおける深さに対する酸素濃度を示す図である。黒四角は(111)基板Bを水素熱処理する前、黒三角は700℃の水素熱処理後、黒丸は850℃の水素熱処理後のSIMS分析結果を示す。酸素の検出限界は約1×1015cm-3である。
【実施例1】
【0068】
図13に示すように、水素熱処理前の基板Bにおいては、表面からの深さが少なくとも5μmまで、酸素濃度は1×1016cm-3以上である。基板Bを700℃で水素熱処理すると、基板B内の酸素濃度が1×1016cm-3以下に減少する。特に深さが2μm以下で酸素濃度が減少する。深さが1.5μm以下では、酸素濃度は約5×1015cm-3以下である。深さが1μm以下では、酸素濃度は約4×1015cm-3以下である。基板Bを850℃で熱処理すると、酸素濃度はさらに減少する。深さが4μm以下で、酸素濃度は約5×1015cm-3以下である。深さが1.5μm以下で酸素濃度は約2×1015cm-3である。このように、水素熱処理の温度を高くするとゲルマニウム基板10内の酸素濃度が減少する。ゲルマニウム基板の表面近くのチャネル領域における酸素濃度は検出できないが、深さが1μm程度の酸素濃度とほぼ同じと考えられる。
【実施例1】
【0069】
図13と図8とを比較すると、水素熱処理の温度が高くなると基板B中の酸素濃度が減少し、電子移動度が向上する。水素熱処理の温度が700℃では、チャネル領域の酸素濃度は4×1015cm-3程度と考えられる。このとき、ピーク電子移動度は500~700cm/Vsである。熱処理温度が850℃では、チャネル領域の酸素濃度は2×1015cm-3程度と考えられ、電子移動度は図2に示した基板Aと同程度となる。このように、熱処理温度を850℃以上とすることにより、チャネル領域の酸素濃度を2×1016cm-3程度以下とすることができる。これにより、基板Aと同程度の電子移動度が実現できる。
【実施例1】
【0070】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 ゲルマニウム基板
12 酸化ゲルマニウム膜
30 ゲルマニウム層
32 ゲート絶縁膜
34 ゲート電極
38 ソースまたはドレイン領域
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12