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明細書 :細胞播種培養装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 細胞播種培養装置
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
国際予備審査の請求
全頁数 29
出願番号 特願2015-559147 (P2015-559147)
国際出願番号 PCT/JP2015/051905
国際公開番号 WO2015/111722
国際出願日 平成27年1月23日(2015.1.23)
国際公開日 平成27年7月30日(2015.7.30)
優先権出願番号 2014011640
優先日 平成26年1月24日(2014.1.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】宇理須 恒雄
【氏名】ワン,ツーホン
【氏名】宇野 秀隆
【氏名】長岡 靖崇
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100166165、【弁理士】、【氏名又は名称】津田 英直
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
Fターム 4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029CC11
4B029GB01
4B029GB05
要約 細胞を簡便且つ短時間で複数の細胞配置領域に播種する装置を提供する。複数の突起部により包囲された細胞配置領域(8)を複数有する細胞培養基板(2)と、当該細胞培養基板(2)上に配置された、複数の貫通孔(14)を有する流路基板(3)とを含む神経ネットワークを形成可能な細胞の播種培養装置(1)において、各貫通孔(14)が、基板上面側を入口(15)、基板下面側を出口とする流路を規定し、各流路の出口(16)が、いずれかの細胞配置領域上に位置するように構成することによる。
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の突起部により包囲された細胞配置領域を複数有する、神経ネットワーク形成可能な細胞の培養基板と、当該培養基板上に配置された、複数の貫通孔を有する流路基板とを含む神経ネットワーク形成可能な細胞の播種培養装置であって、各貫通孔が、基板上面側を入口、基板下面側を出口とする流路を規定し、各流路の出口が、いずれかの細胞配置領域上に位置する、前記細胞播種培養装置。
【請求項2】
前記培養基板と前記流路基板との間に、突起部の高さより厚いスペーサー部材を配置する、請求項1に記載の細胞播種培養装置。
【請求項3】
前記培養基板と前記流路基板との間に、スペーサー部材の厚さに対応する、細胞配置領域間で神経ネットワークを形成可能な空隙を有する、請求項1又は2に記載の細胞播種培養装置。
【請求項4】
前記流路の出口と、前記突起部との間に、細胞が流出する隙間が存在しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
【請求項5】
前記流路基板の上面に、貯液部を規定する貯液基板をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
【請求項6】
前記培養基板が、プレーナーパッチクランプに用いる電気絶縁性基板であり、細胞配置領域内に、細胞を通過させないが電通を達成しうるプレーナーパッチクランプ用貫通孔を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
【請求項7】
前記培養基板が、神経ネットワークのイメージング用基板である、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細胞配置領域に対して、細胞を配置することを可能にする細胞播種培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞間ネットワークについての研究が活発になされてきており、細胞間のネットワークをin vitroで構成しようとする提案がなされている。in vitroで構成された細胞ネットワークは、イメージング研究やパッチクランプ法による電気生理学的研究に有用である。細胞間ネットワークをin vitroで構成するためには、細胞を所定の位置に配置して培養を行うことが必要である。例えば、非特許文献1では、トランジスターを配置したシリコン基板上に複数の突起部で囲まれた領域を設け、ここに巻き貝(stagnalis)の末梢神経細胞集合体である大きな神経節(ganglion)を配置して、神経細胞の電位を検出する実験を行っている。また非特許文献2では、基板上に「ケージ」と称する略円盤形の囲い(高さ約9μm)を複数形成し、各ケージの中央部のスペースに神経細胞を配置すると共に、ケージに設けた幾つかのトンネルを通じて神経細胞の軸索などを隣接のケージ中の神経細胞に向かって伸張させるニューロチップを開示している。しかしながら、非特許文献1及び2は、多数の細胞定着部に効率的に神経細胞を播種するための神経細胞播種システムを開示しない。通常のピペットや計量機能付きのピペット、或いはマイクロインジェクターなどの器具を用いて、手作業により個々の細胞配置領域に細胞を播種するという方法は、極めて微小な細胞配置領域に正確に播種することが困難であり、播種効率が劣るため好ましくない。
【0003】
一方で、パッチクランプ法は、細胞間のシグナルの伝達を、膜電位や膜電流を計測する電気生理学的手法であり、通常ピペットを用いたパッチクランプ法が行われている。しかしながら、ピペットパッチクランプ法では、個々の細胞をピペットで細胞を捕捉(クランプ)して、電気的変化を測定する手法であるため、多点計測によるハイスループットスクリーニングに応用できなかった。パッチクランプ法をハイスループットスクリーニングに用いることを目的として、本発明者等は、プレーナーパッチクランプ法を開発している(特許文献1及び2)。このプレーナーパッチクランプ法では、電気絶縁性の基板上に複数の微細な貫通孔を設け、かかる貫通孔上に配置された細胞における電気的変化、例えば膜電位又は膜電流を計測する手法であり、多点計測によるハイスループットスクリーニングが可能になる。しかしながら、in vitroで細胞間のネットワークを構成するために、細胞を多数の細胞定着部に細胞を播種する方法が困難であるのと同様に、電気絶縁性の基板の複数の貫通孔上に正確に細胞を配置する方法も依然として困難であった。
【0004】
したがって、細胞ネットワークをin vitroで構成するため、さらにはプレーナーパッチクランプ法により電気的性質を研究するためには、細胞を所定の配置領域に正確かつ迅速に配置することが要求されている。
【0005】
所定の細胞配置領域に細胞を播種する技術としては、ピペットを利用した方法の他、インクジェットプリンターの原理を利用して、ピペットによる播種方法を機械的に自動化した細胞播種方法も開発されている(特許文献3)。また、別の細胞播種技術としては、マイクロ流路を用いて、所定の凹部に細胞を運び、その凹部が細胞で満たされると、次の凹部に細胞が運ばれることにより、順次細胞配置領域である凹部が細胞で埋められていくという原理で細胞を播種する技術が行われている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-204407号公報
【特許文献2】特開2013-146261号公報
【特許文献3】特開2009—131240号公報
【特許文献4】国際公開第2013/094418号
【0007】

【非特許文献1】G.Zeck, et al., PNAS 98 (2001) 10457-10462
【非特許文献2】J. Erickson, et al., J. Neurosci. Methods, 175 (2008) 1-16
【非特許文献3】WH. Tan, et al., PNAS 104 (2007) 1146-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、ハイスループットスクリーングやプレーナーパッチクランプへの応用を前提とした、複雑高度なin vitro細胞ネットワークの形成を試みたところ、従来の細胞播種方法では、以下の問題が生じることを見出した。
1.ピペットを利用した細胞播種方法では、多くの細胞配置領域に短時間で播種できないという問題があり、播種時間が長くなることにより、細胞が死滅してしまうことがある。
2.インクジェットプリンターの原理を利用した細胞播種方法では、細胞配置領域に凹部を設け、かかる凹部に細胞を定着させることが必要であるところ、凹部の深さが細胞の厚みと比較して十分に深くないと、細胞が配置領域から飛び出してしまい、正確な位置に播種ができない一方で、凹部の深さが深くなることにより細胞間のネットワークが形成しづらくなるという問題が生じる。
3.マイクロ流路を用いた播種方法でも同様に、凹部に細胞を配置することから、細胞間のネットワークが形成しにくいという問題が生じる。
【0009】
したがって、細胞を簡便且つ短時間で正確に複数の細胞配置領域に播種する装置の開発が依然として望まれている。細胞配置領域に細胞を播種後に細胞ネットワークを形成させることから、播種装置は、播種後の細胞ネットワークの形成を阻害しないように構成されることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は斯かる課題に鑑み鋭意検討した結果、複数の突起部により包囲された細胞配置領域を複数有する神経ネットワーク形成可能な細胞の培養基板と、複数の貫通孔を有する流路基板とを含む細胞播種培養装置であって、各貫通孔が細胞配置領域上に位置するように配置された、細胞播種培養装置を創案し、これによって上記課題が解決されることを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、以下の発明に関する:
[1] 複数の突起部により包囲された細胞配置領域を複数有する、神経ネットワーク形成可能な細胞の培養基板と、当該培養基板上に配置された、複数の貫通孔を有する流路基板とを含む神経ネットワーク形成可能な細胞の播種培養装置であって、各貫通孔が、基板上面側を入口、基板下面側を出口とする流路を規定し、各流路の出口が、いずれかの細胞配置領域上に位置する、前記細胞播種培養装置。
[2] 前記培養基板と前記流路基板との間に、突起部の高さより厚いスペーサー部材を配置する、項目1に記載の細胞播種培養装置。
[3] 前記培養基板と前記流路基板との間に、スペーサー部材の厚さに対応する、細胞配置領域間で神経ネットワークを形成可能な空隙を有する、項目1又は2に記載の細胞播種培養装置。
[4] 前記流路の出口と、前記突起部との間に、細胞が流出する隙間が存在しない、項目1~3のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
[5] 前記流路基板の上面に、貯液部を規定する貯液基板をさらに含む、項目1~4のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
[6] 前記培養基板が、プレーナーパッチクランプに用いる電気絶縁性基板であり、細胞配置領域内に、細胞を通過させないが電通を達成しうるプレーナーパッチクランプ用貫通孔を有する、項目1~5のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
[7] 前記培養基板が、神経ネットワークのイメージング用基板である、項目1~5のいずれか一項に記載の細胞播種培養装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞播種培養装置によれば、複数の細胞配置領域に対して、簡便な操作により、短時間で正確に細胞を播種することが可能になる。さらに、本発明の細胞播種培養装置では播種された細胞の細胞ネットワークの形成能が妨げられることはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、細胞播種培養装置(1)の一例を示す分解模式図である。
【図2】図2は、細胞播種培養装置(1)の一例を示す断面模式図である。
【図3】図3は、細胞培養基板(2)の上面図を示す。
【図4】図4は、流路基板(3)に形成された貫通孔(14)により規定される流路を示す。
【図5】図5は、細胞播種培養装置(1)の一例を示す分解図である。
【図6】図6は、単チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、細胞播種培養装置(1)の写真である。
【図9】図9は、本発明の細胞播種培養装置(1)により播種され細胞(A)、並びにその後に形成された神経ネットワーク(B)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[細胞播種培養装置]
本発明の細胞播種培養装置(1)は、複数の細胞配置領域(8)を有する細胞培養基板(2)と、複数の貫通孔(14)を有する流路基板(3)とを含んでおり、各貫通孔(14)が、いずれかの細胞配置領域(8)上に位置するように、流路基板(3)を配置する構成をとる(図1)。流路基板(3)に開けられた各貫通孔(14)は、流路基板(3)の上面側を入口(15)、流路基板(3)の下面側を出口(16)とする流路を規定しており、各流路の出口(16)が、いずれかの細胞配置領域(8)の上に位置するように構成される(図4)。細胞播種培養装置(1)は、細胞培養基板(2)と流路基板(3)以外に、貯液部を規定する貯液基板(4)や基板を固定する基板固定基板を含んでもよい。基板固定基板は、これらの基板を動かないように固定できれば任意の形状であってよく、例えばこれらの基板を挟み込んで固定する基板固定基板(下)(5)と基板固定基板(上)(6)、さらにはねじやクリップなどの固定具(7)で固定されてもよい。

【0015】
細胞播種培養装置(1)に対して細胞を播種した後、当該装置はそのまま培養培地を含む培養容器、例えばシャーレー、ボトル、ディッシュ内に入れられ、細胞が細胞配置領域(8)に定着するまで細胞培養を行うことができる。または、培養培地を含む培養容器内に最初から細胞培養装置(1)を入れた状態で、細胞を播種し、細胞が細胞配置領域(8)に定着するまで、細胞培養を行ってもよい。細胞の定着が生じる十分な時間の経過後、細胞播種培養装置(1)から流路基板(3)が取り外されて、細胞培養基板(2)を次の実験、例えば分化誘導、細胞ネットワークの形成促進、さらには細胞ネットワーク形成後の各種実験に供することができる。細胞分化誘導やネットワークの形成促進は、流路基板(3)が取り外される前に行われてもよい。

【0016】
細胞培養基板(2)は、細胞を配置するための細胞配置領域(8)を含んでいる。細胞培養基板(2)に含まれる複数の細胞配置領域(8)は、1の区画のみからなってもよいし、スペーサー部材(9)により複数の区画に分けられてもよい。ここでスペーサー部材(9)は、区画を分けるために使用されると同時に、細胞培養基板上に他の基板を載せる際に、細胞培養基板上に存在する突起部などを保護するものである。スペーサー部材(9)は、細胞培養基板と同材質であってもよいし、異なる材質であってよく、任意の厚さが選択されるが、突起部の高さより厚いことが好ましい。より好ましくは、スペーサー部材(9)として弾力性を有する材料、例えばPDMS、シリコーンゴムなどを用いることができ、この場合、ネジ(7)の締め具合を調節することにより、スペーサーの厚みを調節して、流路の出口(16)と細胞保持部(10)、例えば突起部(12)の上部との隙間(30)の大きさを変えることができる。これにより、細胞播種時に細胞配置領域(8)に播種される細胞数と、細胞配置領域(8)の外部にもれて播種される細胞数との比率を変えることができる。この隙間をゼロ、すなわち、流路の出口(16)と細胞保持部(10)、例えば突起部(12)の上部が密着した状態とすれば、細胞が細胞配置領域(8)の外部に播種されることがないか、又は外部に播種されることを極力避けることができる。細胞培養基板(2)と、流路基板(3)との間に突起部の高さよりも厚いスペーサー部材を配置することにより、細胞培養基板(2)と、流路基板(3)との間には、スペーサー部材の厚さに対応する空隙が生じ、それにより播種された細胞は、細胞配置領域間で神経ネットワークを形成することができる。スペーサー部材の厚さに対応する空隙は、突起部の高さ及び隙間(30)の合計に対応する。隙間(30)をゼロ、すなわち、流路の出口(16)と突起部(12)の上部が密着した状態とすると、細胞培養基板(2)と流路基板(3)との間には突起部の高さに対応する空隙が生じる。突起部の高さ及び隙間に対応する高さを、単に突起部の高さ又はそれを超える高さと表すこともできる。同一区画内に存在する細胞配置領域(8)間では、細胞ネットワークの形成が生じうる一方で、別区画に存在する細胞配置領域(8)間では、細胞ネットワークの形成が生じることはない。別区画間で液体の移動が生じていてもよいし、液体の移動が生じなくてもよい。例えば、細胞が播種された細胞培養基板(2)を用いてイメージング研究を行う場合、区画毎に試薬を変更してイメージングを行うことが望ましく、その場合液体の移動が生じないように構成されることが望ましい。その一方で、細胞が播種された細胞培養基板(2)をプレーナーパッチクランプ法に供する場合、上面側の電極の数を減らす観点から、区画間で電気的導通を許容するように流路で連結されていてもよい。

【0017】
細胞培養基板(2)の材質はその使用目的に応じて、任意に選択することができる。下面からのレーザーの照射や顕微鏡による観察を行う観点からは、透明基板であることが好ましく、ガラス製、セラミックス製、プラスチック製等の基板を任意に選択することができる。また、プレーナ—パッチクランプに用いる場合、細胞培養基板(2)の材料は、電気絶縁性でありプレーナーパッチクランプ用貫通孔(後述の図6及び7の符号21に相当)を設けていることが必要とされる。プレーナーパッチクランプ用貫通孔の大きさは、細胞が通過できない一方で、電気的導通を許容する大きさであれば任意の大きさであってよく、例えば1μm~4μmである。電気絶縁性の細胞培養基板(2)は、単一材料から形成されてもよいし、複数の材料を混合又は積層することにより形成されてもよい。細胞培養基板(2)の厚さについては、材料に応じて任意の厚さであってよいが、強度や絶縁性を確保する観点から、例えば0.1mm以上であり、好ましく0.2mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。両面を同時にエンボス加工し、厚み10~20μmの薄膜領域を形成する観点から、例えば、1.5mm以下であり、好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.5mm以下である。

【0018】
また、細胞培養基板(2)には、細胞の接着を生じさせるため、親水処理、例えばプラズマ処理などが施されて親水性官能基の導入がされていてもよいし、任意の細胞外マトリックスと呼ばれる接着物質、例えばポリリジン、ヒアルロン酸、マトリゲル、プロテオグリカン(バーシカン、デコリン、アグリカン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸など)等や、接着性タンパク質、例えばコラーゲン(I型、II型、IV型など)、フィブロネクチン、ラミニン、リンクタンパク質、エンタクチン、テネイシン、カドヘリン、エラスチン、フィブリン、ゼラチンなどやそれらの部分ペプチドでコーティングされていてもよい。これらの処理は、細胞配置領域(8)のみに行われてもよいし、細胞培養基板(2)全体にわたり行われてもよい。

【0019】
細胞培養基板(2)に規定された細胞配置領域(8)は、細胞の移動や流失を妨げるための細胞保持部(10)を有していてもよい。これにより、細胞の移動を制約しつつ細胞ネットワークを構成させることが可能となる。細胞ネットワークを形成させるために、細胞配置領域(8)は細胞培養基板(2)上に複数設定される。細胞配置領域(8)間の相互間隔は、細胞ネットワークの種類に応じて任意に規定することができ、例えば神経細胞ネットワークを形成する場合には、50~500μm程度の間隔で配置することができる。

【0020】
細胞を保持するための細胞保持部(10)としては、例えば1又は複数の細胞を保持することができる複数の突起部(12)であってもよい。好ましい態様では細胞保持部(10)に保持される細胞の数は1又は数個、例えば1~9個、好ましくは1~5個である。突起部(12)により規定される細胞配置領域(8)は、1~数個の細胞を収容できるサイズであり、細胞の大きさや、所望される保持される細胞数に応じて適宜設定することができる。例えば、哺乳動物神経細胞を1つ配置する場合、細胞保持部(10)の内径は10~25μm程度であることが好ましい。

【0021】
突起部(12)は、1又は複数の細胞を保持することから、その数は、例えば3、4、5、6、又はそれ以上である。各突起部(12)の形状は、1又は複数の細胞を保持できれば任意の形状であってもよく、例えば、柱状又は錐状である。各突起部(12)の断面は、任意の形状であってよく、例えば円形、多角形、例えば三角形、四角形、五角形、六角形などである。突起部(12)の頂部又は途中に橋渡しがされて柵状になっていてもよい。保持すべき細胞の種類や個数に応じて、突起部(12)間の間隔や、突起部(12)の高さや個数を適宜選択することができる。一例として、突起部(12)間の間隔は細胞体の大きさに対して決定することができ、例えば細胞体の平均の大きさ15μmとしたとき、細胞の流失を妨げる観点から、間隔の上限値は10μm以下、特に5μm以下であることが好ましく、細胞ネットワークの形成を妨害しない観点から、間隔の下限値は1μm以上、特に1.5μm以上であることが好ましい。突起部(12)の高さは、細胞のランダムな移動を有効に制約する観点から、5μm以上が好ましく、特に10μm以上が好ましい。一方で、細胞の積層を防いだり、細胞配置領域(8)内表面に細胞外マトリックスを塗布したり、マトリックス細胞ネットワークの形成に適した数の細胞を細胞保持部(10)に保持する観点から、15μm以下、特に10μm以下が好ましい。

【0022】
細胞播種培養装置(1)を構成する流路基板(3)は、複数の貫通孔(14)を含む。流路基板(3)は、細胞培養基板(2)上に重ねられており、流路基板(3)の面のうち、細胞培養基板(2)側の面を下面、もう一方の面を上面と定義する。流路基板(3)に形成された各貫通孔(14)は、流路基板(3)の上面側を入口(15)とし、流路基板(3)の下面側を出口(16)とする流路を規定する。流路基板(3)が細胞培養基板(2)上に重ねられた場合に、各流路の出口(16)が、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)又は細胞保持部(10)上に位置するように構成されている。これにより、流路を通過した細胞を細胞配置領域(8)又は細胞保持部(10)に配置することが可能になる。全ての貫通孔(14)の出口(16)が、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)又は細胞保持部(10)上に位置するように構成することが好ましいが、一部の貫通孔(14)が、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)外に細胞を配置するように構成することもできる。これにより、細胞配置領域(8)内に細胞を配置しつつ、細胞配置領域(8)外にも細胞を配置することができる。より好ましい態様では、流路は、入口(15)から出口(16)にかけて縮小する構成、例えば漏斗状又はすり鉢状であり、それにより流路基板(3)の上面に提供された細胞の利用率を高めることができ、ES細胞やiPS細胞から分化した神経細胞など数の少ない貴重な細胞の播種に適している。流路基板(3)の厚さは任意の厚さであってよいが、流路が入口(15)から出口(16)にかけて縮小する構成をとった場合に、細胞が流路の斜面に留まることをさけるため十分な斜度を形成できる厚さであることが好ましい。流路基板(3)の厚さの上限は、例えば取り扱いを容易にする観点から、例えば5mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。一方で、流路基板(3)の厚さの下限は、例えば加工を容易にし、さらに強度を持たせる観点から、例えば0.2mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。

【0023】
流路基板(3)の上面には、一群又は全部の貫通孔(14)を取り囲んで液体を保持するガイド(17)が備えられて、貯液部(18)を規定してもよい。さらに別の態様では、流路基板(3)の上面に貯液基板(4)を配置して、貯液部(18)を規定してもよい。貯液基板(4)は、流路基板(3)に重ねられた場合に、流路基板(3)の上面の一群又は全部の貫通孔(14)を取り囲むように、くり抜かれており、流路基板(3)と貯液基板(4)とが重ねられた場合に、流路基板(3)の一群又は全部の貫通孔(14)の上面側に貯液部(18)を構成することができる(図1)。貯液基板(4)は、複数枚により構成されてよく、そのくり抜き部が異なるように形成されていてもよい。例えば、第一の貯液基板(4)は、流路基板(3)の一群の貫通孔(14)を取り囲むように複数のくり抜き部を複数有しており、第二の貯液基板(4’)は、第一の貯液基板の複数のくり抜き部を取り囲むようにくり抜き部が形成されていてもよい(図5)。流路基板(3)の貫通孔(14)や、貯液基板(4)のくり抜き部を含めて流路ということもできる。

【0024】
流路基板(3)と貯液基板(4)とは、操作を容易にする観点から、細胞培養基板(2)上へ配置する際に、前もって接着しておくことが好ましい。接着には、基板同士をプラズマ処理により接着させてもよいし、任意の接着剤、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等を用いて接着してもよい。接着した流路基板(3)と貯液基板(4)は、細胞培養基板(2)上に配置され、さらに基板固定基板(下)(5)及び基板固定基板(上)(6)により挟まれて、固定具(7)により固定される。この固定は、貯液基板(4)に接着した流路基板(3)と、基板固定基板との相対的位置を手技により移動させることができる一方で、細胞播種培養装置(1)を単に移動させたり、傾けたりしてもその相対的位置がずれたりしない程度に固定具(7)により締め付けることにより行われている。これにより、固定後に、この流路部品と基板固定基板との相対的位置を手技により移動させることにより、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)に流路基板(3)の貫通孔(14)の出口(16)が重なるように位置を調節することができる。一方で、細胞播種培養装置(1)は、さらに位置調節機構を備えていてもよい。位置調節機構の一例として、位置調節ねじ(19)を設けることができる。例えば、流路基板(3)と、貯液基板(4)と、基板固定基板(上)(6)とを接着し、基板固定基板(上)(6)に位置調節ねじ(19)をX-Y-Z方向、さらには基板固定基板(下)(5)に対して回転する方向に設けることにより、固定具(7)による固定後に、位置の微調整を行うことができる(図2)。位置調節ねじ(19)を設ける代わりに、貯液基板(4)に接着された流路基板(3)が、基板固定基板(下)(5)及び基板固定基板(上)(6)からはみ出す様に構成し、基板固定基板(下)(5)を抑えつつ、顕微鏡用マイクロメーターにて流路基板(3)を操作することにより、位置の微調整を、より容易かつ精密に行うこともできる。

【0025】
流路基板に形成された各流路の出口(16)の大きさは、細胞配置領域(8)又は細胞保持部(10)よりも小さいことが好ましく、例えば50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。一方で、出口(16)が小さいと、細胞が詰まってしまうことから、出口(16)の大きさは細胞の大きさに応じて適宜設定することができ、例えば細胞の平均の大きさを15μmとした場合に、出口(16)の大きさの下限値は20μm以上、より好ましくは26μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。各流路の入口(15)の大きさは、均一な細胞密度で播種する観点からは、同一の大きさが好ましいが、細胞密度を変化させる目的で入口(15)の大きさをそれぞれ適宜変更してもよい。各流路の入口(15)は、他の流路の入口(15)と干渉しない大きさで任意に設定することができ、細胞の利用率を高める観点から、例えば100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上である。一方で、貫通孔の内壁の勾配が緩やか過ぎると孔の側壁に細胞が付着してしまい、細胞が流路を通過しなくなってしまうとする観点から、入口(15)の大きさは、例えば500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。

【0026】
本発明において、播種される細胞は、任意の生物、例えばヒト、マウス、サルなどの哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などの脊椎動物や、例えばウニ、ホヤなどの非脊椎動物由来の細胞であってもよい。細胞ネットワーク、特に神経ネットワークの研究に用いる観点から、細胞は、神経細胞、例えば生体から取得・培養された神経細胞、前駆細胞から分化誘導された神経細胞、又は神経細胞の前駆細胞が好ましいがこれに限定されることはなく、神経細胞の生存を助けるグリア細胞や神経細胞と繋がる各種の筋肉細胞や網膜細胞、嗅覚細胞、なども含まれてもよい。神経細胞の前駆細胞として、神経細胞に分化できる細胞であれば、任意の細胞であってよく、例えば神経幹細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、特にiPS(誘導多能性幹)細胞、ES(胚性幹)細胞、EG(胚性生殖)細胞などの他、神経細胞に分化しうる骨髄間質細胞も含まれてもよい。神経細胞は、非増殖性の細胞であるため、神経系疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、進行性各条非麻痺、脊髄小脳変性症などにおける研究は、動物疾患モデルを用いるか、患者の死亡後にしか病巣である神経細胞を研究することができないため、治療研究が遅れている実態がある。したがって、患者由来のin vitro疾患モデルを作成する観点から、播種する細胞として、これらの患者由来のヒトiPS細胞、又は当該細胞から分化させた神経細胞若しくは前駆細胞を利用することがより好ましい。

【0027】
本発明の細胞播種培養装置に導入される細胞懸濁液は、上述の細胞を、細胞の培地で懸濁した懸濁液であってもよいし、細胞が生存可能な液体、例えば生理食塩水、例えばPBSやTBSや水などで置換された懸濁液であってもよい。また、細胞播種後に細胞を培養する培地としては、所望の細胞の培養培地であってもよい。例えば、細胞培養培地の例として、イーグル培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF10、F12培地などの基礎培地に、塩類、血清、抗生物質、成長因子、微量栄養素等の添加剤を加えた培地を用いることができる。播種する細胞として幹細胞、例えばiPS細胞、ES細胞や神経幹細胞、さらには分化途上の細胞を播種し、培養して、所望の細胞、例えば神経細胞へと分化させる場合、既知の幹細胞培養液、分化誘導培養液、神経細胞培養液はそれぞれ異なる培養液であってよく、順次置換して用いることができる。運動ニューロンやグリア細胞の培養液としては、上記の細胞培養液に、微量栄養素としてレチノイン酸、ソニックヘッジホック、cAMPなどが添加されてもよいし、成長因子として、インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子(IGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、培養グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)が添加されてもよい。

【0028】
神経細胞又はその前駆細胞を播種し、培養することで、細胞配置領域(8)間で神経ネットワークを形成することが可能になる。細胞配置領域(8)には、1又は複数の細胞が固定されており、1の細胞配置領域(8)に存在する細胞から、他の細胞配置領域(8)に存在する細胞へと軸索又は樹状突起を伸張させることにより、細胞間においてシナプスを介して神経ネットワークの形成が可能になる。

【0029】
本発明にかかる細胞播種培養装置(1)により播種された細胞を含む細胞培養基板(2)上で形成された細胞ネットワークは、イメージング研究、例えば下記に説明するカルシウムイメージング、前シナプス部位のマーカーであるsynaptophysin又はsynapsinの標識によるイメージング解析、樹状突起のマーカーであるMAP2の標識によるイメージング解析、及びエンドソームやエキソソームを標識するFM1-43又はFM4-64によるイメージング解析などの各種のイメージング解析を行うことができる。

【0030】
(カルシウムイメージング解析)
カルシウムイメージングとは、神経細胞に予めカルシウムプローブ(カルシウムイオンと結合して蛍光を発する色素)を導入しておき、神経細胞に活動電位が発生した時に細胞体にカルシウムイオンが流入する現象を蛍光として捉える方法であり、その細胞のイオンチャンネル電流を活動電位の発生時あるいは活動電位の伝搬時に生じる蛍光の観察により行う解析することができる。

【0031】
従って、カルシウムプローブが導入された神経細胞を用いて神経細胞ネットワークを構成し、例えば、それらの内の単一の神経細胞に電流注入あるいは電圧印加することにより、複数ないし多数の神経細胞における前記カルシウムイメージングによる測定を行うことができる。

【0032】
この方法によれば、神経細胞ネットワークを構成する単一の神経細胞(第1の神経細胞)を選択して、電流注入あるいは電圧印加により刺激して活動電位を発生させ、同時にその活動電位が神経細胞ネットワークを通じて隣接する周囲の神経細胞(第2の神経細胞)に伝搬し、更には第2の神経細胞からこれに隣接する第3の神経細胞に伝搬する様子をカルシウムイメージングにより計測することができる。また、神経ネットワークにおいては、神経細胞の自然発火によるシナプス電流やシナプス前段からの神経伝達物質の自然放出による微小シナプス電流などがあり、これにより細胞にカルシウムが流入するため、これをカルシウムイメージングにより検出し、ネットワークの状況を解析することも可能である。

【0033】
従来の技術として例えば電極刺激法があるが、この方法の場合、単一の神経細胞を選択的に刺激することが困難であり、解析が複雑となる。又、他の従来技術であるマイクロピペット電極による刺激では、単一の神経細胞を選択的に刺激できるが、ハイスループットスクリーニングに必要な多チャンネル化が困難である。本発明の手法によれば、計測部を非常に小型化できるので、多チャンネル化が容易である。

【0034】
(synaptophysin、synapsinによるイメージング解析)
Synaptophysinやsynapsinはシナプスベシクルの膜タンパク質であり、前シナプス部位のマーカーであるが、これらの抗体に色素を結合させ、抗原抗体反応を利用してこれらのタンパク質に色素を結合させることができる。これにより、シナプス部位を標識することができる。

【0035】
(MAP2によるイメージング解析)
MAP2は樹状突起のマーカーであるが、この抗体に色素を付加し、反応させることにより、樹状突起部位を標識することができる。

【0036】
(FM1-43、FM4-64によるイメージング解析)
FM1-43やFM4-64は細胞膜に可逆的に入り、細胞膜を透過せず、細胞膜に結合したときにのみ蛍光を発するという特徴を有し、エンドソームやエキソソームを標識することができる。細胞の生命機能を維持して標識できるという特徴を有する。

【0037】
(イメージング解析の光学系)
本発明に係る細胞播種培養装置を用いて播種された細胞を含む細胞培養基板に対して、イメージング解析を行うには、以下の光学系要素を備える装置を用いることが好ましい。

【0038】
まず、細胞培養基板の第一表面(2S)側の上部に、神経細胞が発する光の受光装置を設置する。又、細胞培養基板の第一表面(2S)側の上部に、神経細胞あるいは基板表面にレーザー光等を照射するための照射装置を設置する。この照射装置は更に、所定の単一の細胞にのみ光を照射するための集光系を装備していることが特に好ましい。

【0039】
以上の光学系要素を備えることで、非接触、非破壊での光計測が可能となり、神経細胞ネットワーク機能を阻害せずに解析できると共に、高速で解析でき、更に、集光系により正確に単一の神経細胞を励起して精密に解析できる。

【0040】
[プレーナーパッチクランプ装置]
プレーナーパッチクランプ法は、ピペットパッチクランプ法では難しかった多点計測によるハイスループットスクリーニングを可能にする方法であり、電気絶縁性の基板上に複数の微細なプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)を設け、かかるプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)上に配置された細胞における電気的変化、例えば膜電位又は膜電流を、電気絶縁性基板の各面に配置された電極を用いて計測、又は細胞に電気的刺激を付与する手法である。プレーナーパッチクランプ装置(20)として、まず、単一チャンネル型のプレーナーパッチクランプ装置(これを適宜「単一チャンネル装置」と略称する。)について説明する(図6)。単一チャンネル装置は、プレーナーパッチクランプ法による測定が可能な単一の構造単位(これを「チャンネル」と呼ぶ)を有する装置であり、このチャンネルを複数設けて、同時又は順次に電気的特性の計測を可能にする多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置や、さらに多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を複数集めた複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置とすることができる。

【0041】
図6に、単一チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(単一チャンネル装置)(20)の模式断面図を示すが、但し、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、図6の装置に限定されるものではない。図6の単一チャンネル装置(20)は、第一表面(2S)及び第二表面(2S’)を有する電気絶縁性の細胞培養基板(2)を有しており、この細胞培養基板(2)が、本発明の細胞播種培養装置(1)を構成していた細胞培養基板(2)であり、細胞播種培養装置(1)を用いることにより、細胞配置領域に細胞が配置されている。細胞培養基板(2)の細胞が配置されている面を、第一表面(2S)とし、その反対面を第二表面(2S’)とする。細胞培養基板(2)をプレーナーパッチクランプ装置に供する場合、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)内には、予め、第一表面(2S)と第二表面(2S’)とを連通するプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)が設けられる。当該プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)の大きさは、細胞配置領域(8)に配置される細胞(22)を通過させないが、液体は通過させ得る大きさに設定される。従って、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)の内径は、使用する細胞(22)の大きさに応じて適宜選択すればよい。例えば、神経細胞を用いる観点からは、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)の内径は1~3μm程度が好ましいが、これに限定されない。

【0042】
プレーナ—パッチクランプに用いる電気絶縁性の細胞培養基板基板(2)は、単一材料から形成されてもよいし、複数の材料を混合又は積層することにより形成されてもよい。一例として、シリコン基板を用いる場合、第一表面(2S)側のシリコン層と、中間の酸化シリコン層と、第二表面(2S’)側のシリコン層とが順次に積層された構造を有するシリコン基板(SOI(Silicon on Insulator)基板)が好ましい。このような積層構造のシリコン基板においては、極めて絶縁性の高い中間層が二つのシリコン層間に存在するので、測定対象細胞(22)のイオンチャンネル閉鎖時に高抵抗状態を確立でき、バックグラウンドのノイズを低減できる。

【0043】
SOI基板を用いる場合、中間層の厚さは、寄生容量低減と絶縁抵抗増大の観点からは厚い方が好ましい。また、中間層の厚さが十分でないと、容量が大きくなり、抵抗が低くなってノイズが増大する場合がある。よって、中間層の厚さは、例えば5nm以上、なかでも10nm以上、さらには100nm以上であることが好ましい。一方で、中間層が厚すぎると、孔開け加工が簡単でなくなる場合がある。これらの観点から、中間層の厚さは、10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。

【0044】
電気絶縁性の細胞培養基板(2)の第一表面(2S)側には、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)と連通可能に第一液溜部(23)が設けられる。第一液溜部(23)には、細胞配置領域(8)に配置される細胞(22)の周囲に充填された第一導電性液体(例えばバス溶液と呼ばれる緩衝液や培養液等)が保持される。第一液溜部(23)は、例えば、主液溜部(23a)と副液溜部(23b)とが導入用通液路(23c)を介して電気的に連通された構成を有する。第一液溜部(23)には、導電性液体を導入したり排出したりするための通液路を備えてもよいし、または、蓋部材(29)により開閉可能な開口部を備えてもよい。

【0045】
第一導電性液体は、細胞配置領域(8)に配置した細胞(22)の培養や、パッチクランプ法による電気信号の検出を可能にする液体である。例えば、第一導電性液体として、細胞培養液を用いて、細胞を培養後、パッチクランプによる電気信号の検出を行うためのバス溶液に置換して用いることもできる。また、バス溶液に置換せずに、細胞培養液のまま、パッチクランプを行ってもよい。細胞培養液は、細胞種や分化段階に応じて、任意の細胞培養液や分化誘導培養液を適宜選択することができる。細胞培養液の例として、イーグル培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF10、F12培地などの基礎培地に、塩類、血清、抗生物質、成長因子、微量栄養素等の添加剤を加えた培地を用いることができる。バス溶液は、パッチクランプ法において用いられるバス溶液であれば任意の溶液であってよい。第一導電性液体には、細胞に刺激を与えるため、又は細胞のイメージングを可能にするため、各種試薬が添加されることもある。

【0046】
また、第一導電性液体を介して第一液溜部(23)と電気的に導通されるように、第一の電極部(24)が配置される。この第一の電極部(24)は、第一液溜部(23)(例えばその副液溜部(23b))内の第一導電性液体に挿入された状態で配置される。また、第一の電極部(24)にはアース電位が印加され、これにより第一液溜部(23)内の第一導電性液体は、基準電位となるように維持される。

【0047】
一方、電気絶縁性の細胞培養基板(2)の第二表面(2S’)側には、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)と連通可能に第二液溜部(23’)が設けられる。第二液溜部(23’)には、第二導電性液体が保持される。第二導電性液体は、細胞(22)の培養や、パッチクランプ法による電気信号の検出を可能にする液体である。例えば、第二導電性液体として、細胞培養液を用いて、細胞(22)を培養後、パッチクランプによる電気信号の検出を行うためのピペット溶液などの緩衝液に置換して用いることもできる。また、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)は非常に微小な孔であることから、細胞培養液を用いずに、最初からピペット溶液を用いて細胞(22)を培養してもよい。細胞培養液は、第一導電性液体に用いられる細胞培養液と同じであってもよいし、異なる組成の培養液であってもよい。ピペット溶液は、パッチクランプ法において用いられるピペット溶液であれば任意の溶液であってよい。第二導電性溶液には、イオンチャンネルの開閉に係わる化学物質や、その他実験に用いる試薬を溶解させて用いてもよい。別の態様では、細胞膜に微小な孔を穿孔する目的で、細胞膜穿孔性の抗生物質を添加した第二導電性液体を第二液溜部(23’)に導入することができる。細胞膜穿孔性の抗生物質としては、ポリエン系の抗生物質、例えばアムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシンなどが挙げられる。

【0048】
第一液溜部(23)及び第二液溜部(23’)(これらを纏めて単に「液溜部」という場合がある。)は、導電性液体を保持し、かつ導電性液体に対して電極部(24,24’)を通電可能に配置するという要求を満たす限りにおいて、任意の構成を取ることができる。また、細胞培養基板(2)の第一表面(2S)側及び/又は第二表面(2S’)側に絶縁性のスペーサー部材(9,9’)を重ね、スペーサー部材(9,9’)には液溜部(23,23’)に対応する位置にくり抜き部を設けることで、液溜部(23,23’)を形成してもよい。第一表面に存在するスペーサー部材を第一スペーサー部材(9)とし、第二表面に存在するスペーサー部材を第二スペーサー部材(9’)とする。さらに第一スペーサー部材(9)の基板反対側の最外周に第一プレート部材(28)を配置し、プレート部材に蓋部材(29)を配置することで、第一液溜部(23)を閉空間又は液密に構成してもよい。第二スペーサー部材(9’)の基板反対側にさらに第二プレート部材(28’)を配置して第二液溜部(23’)を液密に構成してもよい。第二プレート部材(28’)には、第二液溜部(23’)に連結する送液流路(25)及び排液流路(26)が貫通している。

【0049】
必ずしも限定はされないが、スペーサー部材(9,9’)は、絶縁性の部材であれば任意の部材であってよく、電気絶縁性の細胞培養基板(2)と同じ材料であってもよいし、異なってもよい。レーザー励起による散乱光を抑制する観点から、第一表面(2S)側の第一スペーサー部材(9)は光不透過性の材料からなることが好ましい一方で、顕微鏡観察を行う観点から、第二表面(2S’)側の第二スペーサー部材(9’)は光透過性の材料からなることが好ましい。

【0050】
また、第二液溜部(23’)には、第二液溜部(23’)に第二導電性液体を送液する送液流路(25)と、第二液溜部(23’)から第二導電性液体を排液する排液流路(26)とが連結される。送液流路(25)及び排液流路(26)の素材は任意であり、テフロン(登録商標)や塩化ビニル等のチューブで構成することも可能であるが、後述のバルブ(27)を設ける観点からは、シリコン基板の表面にホトリソグラフィによりレジストパターンを形成したモールド等を用い、PDMS(ポリジメチルシロキサン)やRTV(room temperature vulcanizing:室温硬化型)ゴム等のシリコーンゴムに転写して形成されるマイクロ流路等を用いることが好ましい。斯かるマイクロ流路を用いることにより、プレーナーパッチクランプ装置の組み立てが極めて容易になり、流路が外れる等の不具合を避けることが可能となる。送液流路(25)及び排液流路(26)のサイズも任意であるが、例えば幅100μm、高さ約50μmである。送液流路(25)は、第二導電性液体を貯蔵する貯液槽と連結しており、流路の任意の箇所に配置されたポンプにより送液流路(25)内に送液される。送液された第二導電性液体は、排液流路(26)を通り排液される。ポンプは圧力印加駆動式であってもよいし、吸引駆動式であってもよい。好ましくは、ポンプは排液流路(26)に配置された液体吸引デバイスであり、第二液溜部(23’)に陰圧を付加することができる。陰圧の付加により、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)に存在する細胞(22)によるプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)の密封をより強固なものにすることができる。これにより、細胞(22)と電気絶縁性基板(2)とのあいだのシール抵抗を高めることができる。一方で、別の態様では、細胞膜を穿孔する目的でより強い陰圧を付加することもでき、ホールセルモードを達成することもできる。

【0051】
また、第二導電性液体を介して第二液溜部(23’)と電気的に導通されるように、第二の電極部(24’)が配置される。この第二の電極部(24’)は、通常は送液流路(25)又は排液流路(26)に設けられ、当該流路内に第二導電性液体を導入した場合に第二導電性液体に接触するように配置される。これにより、第二液溜部(23’)及び各流路内の第二導電性液体の電位を、第二の電極部(24’)を介して測定することができるように構成される。また、第二の電極部(24’)を介して、第二液溜部(23’)及び各流路内の第二導電性液体に、任意の電圧を印加することもできるように構成される。

【0052】
なお、第一の電極部(24)及び第二の電極部(24’)(これらを纏めて単に「電極部」という場合がある。)としては、従来のプレーナーパッチクランプ装置に用いられる周知の各種の電極部を使用することが可能である。但し、上述した培養型のプレーナーパッチクランプ装置では、ピペットパッチクランプ装置や非培養型のプレーナーパッチクランプ装置と比較して、格段にシール抵抗が低く、電極の界面電位変動による雑音電流が生じ易いことが知られている。よって、電極の界面電位変動を極力防止し、雑音電流を低減する観点から、本発明では電極部として、本発明者等が国際特許公開第2013/094418号パンフレット(特許文献4)等で報告した塩橋型電極部を用いることが好ましい。

【0053】
更に、図6の単一チャンネル装置(20)においては、送液流路(25)及び/又は排液流路(26)にバルブ(27)が設けられる。このバルブ(27)は、第二導電性液体の流通を許容又は停止し得ると共に、第二液溜部(23’)と第二の電極部(24’)との電気的導通を許容又は停止し得るように構成される。すなわち、バルブ(27)が開の場合、第二導電性液体の流通が許容されると共に、第二導電性液体を通して電気的導通が許容される一方で、バルブ(27)が閉の場合、バルブ(27)により第二導電性液体が分離されるとともに、バルブ(27)前後の抵抗値により電気的導通が遮断される。ここで、送液流路(25)及び排液流路(26)の両方にバルブ(27)を配置してもよい。この場合、これらのバルブ(27)は一括して開閉を制御してもよく、個別に開閉を制御してもよい。一方で、送液流路(25)又は排液流路(26)の何れか一方のみにバルブ(27)を配置してもよい。この場合、バルブ(27)が配置された流路に対して第二電極部(24’)を設ければよい。

【0054】
従って、バルブ(27)は非電導性又は絶縁性バルブである。具体的には、閉時の電気抵抗値が、例えば1メガΩ以上であることが好ましく、より好ましくは3メガΩ以上、更に好ましくは5メガΩ以上、より一層好ましくは10メガΩ以上である。電気抵抗値の上限値については特に制限はない。

【0055】
斯かる構成を有する図6の単一チャンネル装置(20)を用いた細胞のイオンチャンネル電流の測定は、以下の手順で行われる。

【0056】
まず、電気絶縁性の細胞培養基板(2)の第一表面(2S)の細胞配置領域(8)に、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)を覆うように測定対象の細胞(22)を配置する。また、第一液溜部(23)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(23’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0057】
続いて、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)と接する細胞膜の表面に微細な穴をあけて、細胞(22)内部と第二液溜部(23’)の第二導電性液体(ピペット溶液等)とを電気的に導通した状態(通常「ホールセル」状態と呼ばれる)にする。細胞(22)をホールセル状態とする手法は制限されないが、例としては、特定の抗生物質(例えばナイスタチン又はアンフォテリシン等)を第二導電性液体に溶解した溶液を調製し、斯かる抗生物質溶液を電流測定直前に第二液溜部(23’)に導入して細胞膜に接触させ、細胞膜に微細な穴を形成する手法が挙げられる(この場合、ホールセル状態の達成後、電流測定前に、第二液溜部(23’)内の溶液を再度、抗生物質を含まない第二導電性液体に置き換える。)。

【0058】
その後、第一の電極部と第二の電極部との間に、所定の電圧(膜電位と呼ばれる)を印加する。これにより、細胞膜のイオンチャンネルを通過する電流をチャンネル電流として記録することができる。

【0059】
なお、以上説明した単一チャンネル装置(20)において、第一液溜部(23)は通常は電気絶縁性の細胞培養基板(2)の上側に配置されるが、その上壁を開閉可能に構成してもよい。ここから細胞配置領域(8)への細胞の配置、細胞配置領域(8)からの細胞の採取、第一導電性液体の充填や交換、その他の各種の処理(例えば、イオンチャンネルのブロッカーや細胞の薬剤応答を調べるための薬剤溶液の添加等)を行うことができる。但し、第二液溜部(23’)と同様に、第一液溜部(23)にも送液流路(25)及び排液流路(26)を設け、これらを用いて第一導電性液体の充填や交換等を行ってもよい。

【0060】
一方、第二液溜部(23’)内の第二導電性液体の充填や交換は、送液流路(25)及び排液流路(26)を介して行われる。即ち、外部の供給源(図示せず)から、送液流路(25)を通じて第二導電性液体を送液し、第二液溜部(23’)内に充填する。液体の駆動は、通常は送液流路(25)又は排液流路(26)にポンプ等の駆動部(図示せず)を設けて行う。また、第二液溜部(23’)内に液体が予め存在する場合は、排液流路(26)を介して外部に排出され、これにより第二液溜部(23’)内の液体が交換される。

【0061】
ここで、図7の単一チャンネル装置(20)では、送液流路(25)及び/又は排液流路(26)に設けられたバルブ(27)を操作することにより、第二導電性液体の流通・停止を制御すると共に、第二液溜部(23’)と第二の電極部との電気的導通の形成・絶縁を制御することが可能である。これにより、送液流路(25)及び/又は排液流路(26)を介した漏液や漏電を確実に防止することが可能となる。惹いては、非測定時の漏電による電極の劣化を防ぐことができる。また、第二液溜部(23’)における第二導電性液体の交換もより容易となる。

【0062】
培養型パッチクランプ装置の場合には、細胞(22)の配置後に装置をインキュベーター等に入れて、細胞を培養してもよい。この場合、装置をインキュベーター等に入れる際の取り扱い性やサイズ制限等を考慮すると、基板を含む装置の一部(例えば電源や液体源等を含まない部分)を切り離し可能な構成としてもよい。これにより、装置の一部のみを切り離して、インキュベーターに入れることが可能となる。特に、切り離し部分の末端にバルブ(27)を配置することにより、切り離し時にバルブ(27)を閉として、流路からの液体の流出を防ぐことが可能となる。電流の測定に際しては、第一液溜部(23)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(23’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0063】
[多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置]
次に、単一チャンネル装置を複数組み合わせた多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(これを適宜「多チャンネル装置」と略称する。)について説明する。多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置は、プレーナーパッチクランプ法による測定が可能な構造単位(チャンネル)を複数有する装置である。上で説明した単一チャンネル装置を構成する要素を複数設けることにより、多チャンネル装置を構成してもよいし、図7に示すとおり、プレーナーパッチクランプ用流路の電気的導通を妨げるバルブを用いることにより、電極の数を増やさないで多チャンネル装置を構成することもできる。但し、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、図7の多チャンネル装置(20a)に限定されるものではない。

【0064】
図7の多チャンネル型装置(20a)は、電気絶縁性の細胞培養基板(2)が、細胞配置領域(8)及びそれに対応するプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)を、それぞれ複数有する。また、複数の細胞配置領域(8)に対応して、第二液溜部(23’)も複数設けられる。

【0065】
また、送液流路(25)は、送液主流路(25a)と、送液主流路(25a)から分岐される複数の送液支流路(25b)とから構成され、複数の送液支流路(25b)は、複数の第二液溜部(23’)にそれぞれ連結される。

【0066】
また、排液流路(26)も、排液主流路(26a)と、排液主流路(26a)から分岐される複数の排液支流路(26b)とから構成され、複数の排液支流路(26b)は、複数の第二液溜部(23’)にそれぞれ連結される。

【0067】
また、第二電極部(24’)は、送液主流路(25a)及び/又は排液主流路(26a)に設けられる。
また、複数の第二液溜部(23’)の各々に連結される送液支流路(25b)及び/又は排液支流路(26b)に、バルブ(27)が設けられる。
その他の構成等は、図6の単チャンネル型装置(20)と同様である。

【0068】
斯かる構成を有する図7の多チャンネル型装置(20a)を用いた細胞(22)のイオンチャンネル電流の測定は、以下の手順で行われる。

【0069】
まず、電気絶縁性基板(2)の第一表面(2S)の複数の細胞配置領域(8)の各々に、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)を覆うように測定対象の細胞(22)を配置する。また、第一液溜部(23)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(23’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0070】
続いて、プレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)と接する細胞膜の表面に微細な穴をあけて、細胞内部と第二液溜部(23’)の第二導電性液体(ピペット溶液等)とを電気的に導通した状態(ホールセル状態)にする。

【0071】
次に、計測したいチャンネルの送液流路(25)及び/又は排液流路(26)のバルブ(27)を開とし、他のバルブ(27)を全て閉とすることにより、計測したいチャンネルの細胞(22)のみを、第二導電性液体を介して第二の電極部(24’)と導通させる。

【0072】
その後、第一の電極部(24)と第二の電極部(24’)との間に、所定の電圧(膜電位と呼ばれる)を印加する。これにより、所望のチャンネルに存在する細胞(22)のイオンチャンネル電流を記録することができる。

【0073】
なお、図7の多チャンネル型装置では、第一液溜部(23)に複数の細胞配置領域(8)が存在し、細胞配置領域(8)に対応した数のプレーナーパッチクランプ用貫通孔(21)が存在してもよい。基板(2)の第一表面(2S)側に、第一スペーサー部材(9)を重ね合わせることにより、液溜区画に区分することができる。複数の液溜区画が存在する場合、第一電極部(24)をそれぞれの液溜区画の中に設置してもよい。但し、これら複数の液溜区画間で電気的導通を許容することにより、1つの第一電極部(24)で全ての液溜区画の細胞配置領域(8)の細胞(22)について電気信号を測定すること、又は電気刺激が可能になる。従って、この場合、スペーサー部材(9)として電気伝導性の部材、例えば金属や多孔質材料を用いてもよいし、絶縁性の部材を用い、さらに液体の行き来はほとんどないような十分狭い通路で連結することにより、液溜区画間で電気的導通を達成することができる。第一液溜部(23)を複数の液溜区画に区分することにより、各液溜区画に添加された薬剤の細胞に対する効果や、イオンチャンネルの応答などについて、バルブ(31)の開閉により計測するチャンネルを選択して計測できるので、複数の薬剤の効果を短時間で測定することが可能になり、ハイスループットスクリーニングに用いることができる。

【0074】
以下に実施例を記載するが、本発明の細胞播種培養装置は、実施例で用いた基板の材質、形状、大きさ等に限定されるものではない。例えば、本実施例においては、貫通孔(14)の入口(15)および出口(16)の形状は正方形のものを用いたが、この形状については、細胞配置領域(8)に細胞を配置できれば、図4に示したように円形であってもよいし、長方形であってもよい。例えば、貫通孔の出口(16)の大きさが、細胞配置領域(8)又は細胞保持部(10)または、凹部(11)の領域よりも小さい寸法であれば、目的の細胞播種培養が可能である。
【実施例】
【0075】
実施例1:細胞播種培養装置(1)を用いた細胞の播種
本実施例においては、図1に示す細胞播種培養装置(1)を用いた。細胞播種培養装置(1)に用いた細胞培養基板(2)として、ポリカーボネート製基板(厚さ0.2mm、大きさ11mm×11mm)を用いた。当該細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)には、円柱状突起部(12)(直径30μm、高さ8μm、本数6本または、4本、または5本)が設けられている。流路基板(3)として、入口(15)の大きさ150μm×150μm、出口(16)の大きさ40~50μm×40~50μmの貫通孔(14)を設けたポリカーボネート製基板(厚さ200μm)を用いた。
【実施例】
【0076】
細胞播種に供するために、細胞培養基板(2)、流路基板(3)、貯液基板(4)、基板固定基板(下)(5)及び基板固定基板(上)(6)を以下の通り洗浄や滅菌処理を行った。これらの基板を、ハイター(花王株式会社)に2時間浸漬し、その後、滅菌水に30分浸漬することにより4~5回洗浄した。その後、これらの基板を消毒液デイスオーパー(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)に一晩浸漬し、次に滅菌水に30分浸漬することにより4~5回洗浄した。その後N2ガスブローで乾燥した。次に、細胞培養基板(2)の表面に細胞外マトリックスのコーテイングを以下の通り行った。乾燥した細胞培養基板(2)に、プラズマ照射(HARRICK Plasma, 250-400mtorr,5分)を行い、ポリエルリジン0.01%を約120μl、細胞培養基板(2)に滴下し、2日間クリーンベンチにて放置した。その後滅菌水に30分浸漬することにより、4~5回洗浄を行い、洗浄後、細胞培養基板(2)をクリーンベンチにて乾燥した。
【実施例】
【0077】
流路基板(3)および貯液基板(4)を固化する前のジメチルポリシロキサン(PDMS)を接着剤として用い、お互いに図示の配置で接着して一体の流路部品とし、細胞培養基板(2)と、流路基板(3)及び貯液基板(4)からなる流路部品と、さらに基板固定基板(下)(5)と基板固定基板(上)(6)とを重ね合わせて固定具(7)により固定を行った。この固定は、流路部品と基板固定基板との相対的位置を手技により移動させることができる一方で、細胞播種培養装置を単に移動させたり、傾けたりしてもその相対的位置がずれたりしない程度に固定具(7)により締め付けることにより行われた。固定後に、この流路部品と基板固定基板との相対的位置を手技により移動させることにより、細胞培養基板(2)の細胞配置領域(8)に流路基板(3)の貫通孔(14)の出口(16)が重なるように位置を調節した。本実施例においては、手技により流路部品と基板固定基板との相対的位置を調節したが、マイクロメーターを用いて流路部品をずらして行うことにより、位置調節をより容易かつ精密に行えることも確認した。
【実施例】
【0078】
位置調節後の細胞播種培養装置(1)に対し、神経細胞用培養液(MB-X9501;住友ベークライト社)に懸濁したラット由来神経細胞懸濁液(1×106個/ml)100~200μlを導入し、細胞が細胞配置領域(8)に定着するまで、約12時間、37℃5%CO2雰囲気下でインキュベートした。インキュベート後、流路基板(3)を外し、顕微鏡にて細胞配置領域(8)に神経細胞が定着していることを確認し(図9A)、さらに11日間培養を行い、神経ネットワークを形成させた。形成した神経ネットワークを顕微鏡下で撮影した(図9B)。
【実施例】
【0079】
なお、本実施例においては、細胞配置領域(8)の外部には細胞がほとんど存在しない(図9A及びB)。その一方で、細胞配置領域(8)に神経細胞を配置後、固定具(7)を緩め、流路部品の位置をずらすことにより、細胞配置領域(8)の外部にも細胞を配置することができる。この場合、外部でのネットワークは形状を制限されていないため、細胞自体の性質に沿って、すなわち自己組織的にネットワークが形成されることを確認した。また、細胞配置領域(8)の外部と内部とで、細胞種をわけることもできる。例えば、内部に運動ニューロン、外部にグリア細胞、筋肉細胞などを播種し培養することも、疾患のモデルを製作する上でより効果的である場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の細胞播種培養装置(1)により、細胞を正確に所望の位置に配置してin vitroで神経ネットワークを形成することができる。形成された神経ネットワークに対しては、プレーナーパッチクランプ法やイメージング法により、ハイスループットスクリーニングに供することができ、神経細胞に対する薬剤スクリーニングやニューラルネットワークにおける信号解析の分野において用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 細胞播種培養装置
2 細胞培養基板
3 流路基板
4 貯液基板
5 基板固定部(下)
6 基板固定部(上)
7 固定具
8 細胞配置領域
9 スペーサー部材
10 細胞保持部
12 突起部
13 溝部
14 貫通孔
15 入口
16 出口
17 ガイド
18 貯液部
19 位置調節ねじ
20 単チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置
20a 多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置
21 プレーナーパッチクランプ用貫通孔
22 細胞
23 第一液溜部
23a 主液溜部
23b 副液溜部
23c 導入用通液路
23’ 第二液溜部
24 第一電極部
24’ 第二電極部
25 送液流路
26 排液流路
25a 送液主流路
26a 排液主流路
25b 送液支流路
26b 排液支流路
27 バルブ
28 第一プレート部材
28’ 第二プレート部材
29 蓋部材
30 隙間
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図1】
5
【図5】
6
【図8】
7
【図9】
8